説明

ラミネート用ポリエステルフィルムおよびポリエステル樹脂ラミネート金属板

【課題】 低温ラミネート性、耐傷性、成形性に優れたラミネート用フィルム、ひいては耐傷性、意匠性に優れたポリエステル樹脂ラミネート金属板を提供する。
【解決手段】 ガラス転移点が−10℃以上であり、結晶融解ピークが130℃以上190℃未満であり、下記式より算出される結晶化指数CIが0.1〜0.7であるポリエステルからなることを特徴とするラミネート用ポリエステルフィルム。
CI=(Hm−Hc)/Hm
Hm:融解熱
Hc:結晶化熱

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はラミネート用ポリエステルフィルムおよびポリエステル樹脂ラミネート金属板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ラミネート金属板には、耐候性・加工性に優れ、価格が低廉なことから塩化ビニルフィルムが広範な分野で利用されてきた。しかしながら、塩化ビニルフィルムは塩素を含有し、また、通常、フタル酸エステル系の可塑剤を高濃度で含有していることから、燃焼時におけるダイオキシンの発生、可塑剤のブリードアウトによる環境ホルモンの発生の懸念といった問題があった。
【0003】
上記の問題を解消するために、塩化ビニルに代わるポリマーとして塩素を含有しないポリエステルを採用するラミネート用フィルムが開発されてきた。また、可塑剤のブリードアウトの問題を解消すべく、共重合ポリエステルを採用するラミネート用フィルムが開発されてきた。
【0004】
例えば、特許文献1には、酸成分がテレフタル酸/ダイマー酸、ジオール成分がエチレングリコール/ブタンジオールであるポリエステル組成物からなるフィルムが開示されている。
【0005】
また例えば特許文献2,3には、ポリエステルの2層構成よりなり、ラミネート面に脂肪族ジカルボン酸を含む複合フィルムが開示されている。
【0006】
また例えば特許文献4には、結晶化指数を規定し、さらに融点調整した2層で構成されるポリエステル複合フィルムが開示されている。
【0007】
また例えば特許文献5には、融点調整した3層で構成されるポリエステル複合フィルムが開示されている。
【0008】
しかしながら、これらのポリエステルフィルムでは、金属板への熱ラミネートの際に比較的高温で処理する必要があった。例えば、特許文献2では樹脂の融点自体が高いため、金属板を220℃に予熱しており、特許文献3,5では230℃で接着させている。高温での熱ラミネートでは、アバタ欠陥と呼ばれる気泡がフィルム中に発生し、ラミネート後の金属板の意匠性が悪化する場合がある。
【特許文献1】特開2001−329056号公報
【特許文献2】特開2001−260295号公報
【特許文献3】特許第3304003号公報
【特許文献4】特開2001−329055号公報
【特許文献5】特許第3304000号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明は、アバタ欠陥の発生しない低温下のラミネートでも十分な密着性が確保でき、かつ、耐傷性、成形加工性に優れたラミネート用ポリエステルフィルム、ひいては耐傷性、意匠性に優れたポリエステル樹脂ラミネート金属板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち本発明は、ガラス転移点が−10℃以上であり、結晶融解ピークが130℃以上190℃未満であり、下記式より算出される結晶化指数CIが0.1〜0.7であるポリエステルからなることを特徴とするラミネート用ポリエステルフィルムである。
CI=(Hm−Hc)/Hm
ただし、
Hm:融解熱、
Hc:結晶化熱
である。
【0011】
また本発明は、本発明のラミネート用ポリエステルフィルムが金属板を被覆してなることを特徴とするポリエステル樹脂ラミネート金属板である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、低温ラミネート性、耐傷性、成形加工性に優れるラミネート用ポリエステルフィルム、ひいては耐傷性、意匠性に優れたポリエステル樹脂ラミネート金属板を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
ポリエステルは通常、グリコール成分と酸成分とからなるが、本発明のラミネート用ポリエステルフィルムを形成するポリエステルは、グリコール成分や酸成分として、芳香族成分や、脂肪族成分および/または脂環族成分を含んで構成されていることが好ましい。これらの成分を適宜組み合わせることにより、後述するガラス転移点、結晶融解ピーク、結晶化指数等を所望の範囲内に制御することができる。
【0014】
芳香族成分としては主に芳香族ジカルボン酸残基が挙げられ、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成誘導体から形成することができる。芳香族ジカルボン酸として具体的には例えば、イソフタル酸、テレフタル酸、ジフェニル−4,4’−ジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ナフタレン2,7−ジカルボン酸、ナフタレン1,5−ジカルボン酸、ジフェノキシエタン4−4’−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸等を用いることができる。なかでも、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、およびそのエステル形成誘導体が好ましい。また、これらの芳香族ジカルボン酸成分は、1種を単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0015】
本発明において「脂肪族成分および/または脂環族成分」とは、脂肪族成分と脂環族成分とのいずれか一方のみを含んでいてもよいし、脂肪族成分と脂環族成分との両方を含んでいてもよいことを意味する。
【0016】
脂肪族成分および/または脂環族成分は、本発明のラミネート用ポリエステルフィルムが金属とのラミネート性に優れ、また本発明のポリエステル樹脂ラミネート金属板が成形加工性に優れたものであることに資する。かかる点から、脂肪族成分および/または脂環族成分としては、炭素数4以上のものであることが好ましく、より好ましくは10以上である。
脂肪族成分としては例えば、下記式で示される炭素数10〜30の不飽和脂肪酸から誘導されるものが好ましく、主としてその二量化により得られる二量化脂肪酸もしくはそのエステル形成誘導体、または、それらを還元して得られるジオールから形成されることが好ましい。
CH(CH(CH=CH−CH(CHCOOR
上記式中のRは、水素原子またはアルキル基を表し、mは1〜25の整数、kは1〜5の整数、nは0〜25の整数であり、m、kおよびnは、
8≦m+3k+n≦28
の関係を満足する。
【0017】
より具体的には、上記式において炭素数18にあたる不飽和脂肪酸であるリノール酸やリノレイン酸等を二量化して得られるダイマー酸およびそのエステル形成誘導体や、それらを還元して得られるダイマージオールおよびそのエステル形成誘導体が好ましい。
【0018】
ダイマー酸の市販品としては例えば、ユニケマ・インターナショナル社の“PRIPOL”等が挙げられる。
【0019】
脂肪族成分および/または脂環族成分の二量化反応前の単量体としては、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0020】
二量化反応においては、通常二量体とともに三量体も生成するので、二量化反応により得られるものの中には、二官能体、三官能体及び未反応の単官能体が含まれている可能性があることになる。
【0021】
ただし、本発明のラミネート用ポリエステルフィルムは、脂肪族成分および脂環族成分のうち、不飽和脂肪酸から誘導される成分について、二官能体が15〜100質量%、三官能体がおよび85〜0質量%であることが好ましく、より好ましくは二官能体が70〜100質量%、三官能体が30〜0質量%である。二量体を15質量%以上、あるいは三量体を85質量%以下とすることで、共重合ポリエステル製造時の反応性が低下して重合度が上がり難くなるのを防ぎ、機械特性を維持できる。
【0022】
二量化反応により、脂肪族成分および/または脂環族成分には、不飽和結合が生成されるが、特に耐熱性や耐候性や透明性が要求される場合には、水素添加により不飽和結合をなくしたものを用いることが好ましい。
【0023】
本発明のラミネート用ポリエステルフィルムを形成するポリエステルにおけるグリコール成分としては、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,5−ペンチルグリコール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−1,3−プロパンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、1,8−オクタンジオール、1,10−デカンジオール、1,3−シクロブタンジオール、1,3−シクロブタンジメタノール、1,3−シクロペンタンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。これらのグリコール成分は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0024】
本発明のラミネート用ポリエステルフィルムを形成するポリエステルは、上記成分の他に、本発明の目的を損なわない範囲で他の成分を共重合してもよい。共重合成分としては例えば、酸成分として、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸トリメリット酸、トリメシン酸、トリメリット酸、トリメシン酸等、またはそれらのエステル誘導体、ヒドロキシカルボン酸成分としてp−オキシ安息香酸、p−ヒドロキシメチル安息香酸、またはそれらのエステル誘導体等、またアルコール成分として、1,12−ドデカンジオール、ジエチレングリコール、ポリオキシアルキレングリコール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、スピログリコール、またはビスフェノールA、ビスフェノールSおよびそれらのエチレンオキシド付加物、トリメチロールプロパン等が挙げられる。
【0025】
また本発明のラミネート用ポリエステルフィルムを形成するポリエステルには、本発明の目的を損なわない範囲で他の成分からなる樹脂を混合してもよい。
【0026】
本発明のラミネート用ポリエステルフィルムは、ポリエステルの溶融粘度を向上させるために、あるいは、フィルムの透明性を向上させるために、相溶化剤を含有することが好ましい。相溶化剤としては、例えば、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジル、テレフタル酸ジグリシジル、フタル酸ジグリシジル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル等の各種グリシジル化合物、1,4−フェニレンビスオキサゾリン、1,3−フェニレンビスオキサゾリン等の各種オキサゾリン、p−トルエンスルホン酸等の芳香族カルボン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ラウリン酸等の各種脂肪酸とポリエーテルとの各種エステル化合物等が挙げられるが、なかでも、ビスオキサゾリンを用いるのが好ましい。相溶化剤のポリエステル樹脂組成物に対する含有量は、所望の溶融粘度となるように調整すればよいが、通常0.1〜5質量%が好ましい。
【0027】
本発明のラミネート用ポリエステルフィルムは、粒子を含有することも好ましい。含有させる粒子の種類としては、無機粒子、有機粒子、架橋高分子粒子、重合系内で生成させる内部粒子などを挙げることができる。
【0028】
無機粒子としては例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム等の各種炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の各種硫酸塩、カオリン、タルク等の各種複合酸化物、リン酸リチウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム等の各種リン酸塩、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム等の各種酸化物、フッ化リチウム等の各種塩等からなる微粒子を使用することができる。
【0029】
有機粒子としては例えば、シュウ酸カルシウムや、カルシウム、バリウム、亜鉛、マンガン、マグネシウム等のテレフタル酸塩などからなる微粒子を使用することができる。
架橋高分子粒子としては例えば、ジビニルベンゼン、スチレン、アクリル酸、メタクリル酸のビニル系モノマーの単独重合体または共重合体からなる微粒子が挙げられる。また、ポリテトラフルオロエチレン、ベンゾグアナミン樹脂、熱硬化エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、熱硬化性尿素樹脂、熱硬化性フェノール樹脂などの微粒子も好ましく使用される。
【0030】
重合系内で生成させる内部粒子としては例えば、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物等と、リン化合物とをポリエステルの反応系内に添加することにより生成される粒子が挙げられる。
【0031】
これらの粒子は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0032】
ポリエステル樹脂組成物の機械的特性の観点から、かかる粒子の添加量は、0.01〜10質量%が好ましく、さらに好ましくは0.02〜1質量%である。また、添加する粒子の平均粒子径は、好ましくは0.001〜10μmであり、さらに好ましくは0.01〜2μmである。粒子の添加量を0.01質量%以上、または、平均粒子径を0.001μm以上とすることで、フィルム表面の滑りを良好なものとし、製膜性や取り扱い性を良好なものとすることができる。また、粒子の添加量を1質量%以下、または、平均粒子径を10μm以下とすることで、フィルムの透明性の低下を防ぐことができる。
【0033】
また本発明のラミネート用ポリエステルフィルムは、本発明の効果を損なわない程度に、難燃剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、可塑剤、粘着性付与剤、脂肪酸エステルやワックス等の有機滑剤、ポリシロキサン等の消泡剤、顔料または染料等の着色剤、等の添加剤を含有していてもよい。
本発明のラミネート用ポリエステルフィルムを形成するポリエステル樹脂は、ガラス転移点が−10℃以上であることが必要であり、好ましくは−5℃以上、より好ましくは0℃以上である。ガラス転移点が−10℃未満である場合、フィルムの耐傷性が不十分となる。ガラス転移点は、主に脂肪族成分および/または脂環族成分の種類と含有量(質量%)により制御することができる。
本発明のラミネート用ポリエステルフィルムを形成するポリエステル樹脂は、結晶融解ピークが130℃以上190℃未満であることが必要であり、好ましくは140℃以上185℃未満、より好ましくは150℃以上180℃未満である。結晶融解ピークが130℃未満である場合、ラミネート工程などで耐熱性が不十分となり、結晶融解ピークが190℃以上である場合、低温ラミネート性やラミネート後の成形加工性が不十分となる。結晶融解ピーク温度は、脂肪族成分および/または脂環族成分の種類と含有量により制御することができる。ガラス転移点制御の都合で含有量(質量%)が定まっている場合は、脂肪族成分および/または脂環族成分のモノマーの炭素数を増減することで制御できる。
【0034】
また、本発明のラミネート用ポリエステルフィルムを形成するポリエステル樹脂は、下記式より算出される結晶化指数CIが0.1〜0.7であることが必要である。
CI=(Hm−Hc)/Hm
ただし、
Hm:融解熱、
Hc:結晶化熱
である。
【0035】
結晶化指数CIが0.1未満であると、熱ラミネート後の冷却過程で、フィルムの白化の原因となる粗大結晶ができやすく、金属板の意匠性が悪化する。一方、結晶化指数CIが0.7を超えると、熱ラミネート後の冷却過程でのフィルムの結晶化が速すぎて、金属との接着性が弱くなり、成形加工性も不十分となる。結晶化指数CIは、ポリエステルを構成する各種のモノマーを適宜選択することにより制御することができる。
【0036】
本発明のラミネート用ポリエステルフィルムは、未延伸フィルムであってもよいし、延伸フィルムであってもよい。延伸フィルムとする場合は、フィルムの長手方向、幅方向のいずれかの方向に延伸した一軸延伸フィルムであってもよいし、フィルムの長手方向、幅方向の両方向に延伸した二軸延伸フィルムであってもよい。
本発明のラミネート用ポリエステルフィルムは、前述のような特定範囲のガラス転移点温度、結晶融解ピーク温度、結晶化指数CIを有するポリエステルの層以外に他の層を設けた多層構成としてもよい。当該他の層としては例えば、易滑性、接着性、粘着性、耐熱性、耐候性、耐傷性等を付与するため層や、意匠性を付与するための絵柄などが入った印刷層や、フィルム表面保護のためのハードコート層等を挙げることができる。
【0037】
本発明のラミネート用ポリエステルフィルムの厚みは、使用する用途に応じて自由にとることができる。通常0.5〜1000μmの範囲が好ましく、製膜安定性の面から好ましくは1〜500μm、より好ましくは5〜200μmである。
【0038】
本発明のラミネート用ポリエステルフィルムは、コロナ放電処理などの表面処理が施されていることも好ましい。当該処理が施されていることにより、さらなる接着性の向上や印刷性の向上を図ることができる。
【0039】
次に、本発明のポリエステル樹脂ラミネート金属板は、特に、建材、家電、容器などに好適に用いることができる。
【0040】
次に、本発明のラミネート用ポリエステルフィルムおよび本発明のポリエステル樹脂ラミネート金属板を製造する方法を具体例を挙げながら説明する。
【0041】
本発明のラミネート用ポリエステルフィルムを形成するポリエステルを製造する方法としては例えば、前述のような各成分のモノマーあるいはオリゴマーを含む組成物から直接共重合してもよい。また、2種類以上の重合体を押出機内で均一に混練して共重合させる方法でもよい。例えば、脂肪族成分および/または脂環族成分を高濃度で含有する共重合ポリエステルをマスターチップとして、他の芳香族ポリエステルとを混練する方法でもよい。
【0042】
ポリエステルの重合前あるいは重合後に用途に応じて前述のような各種の粒子や添加剤を加え、当該ポリエステル樹脂組成物を、例えば、溶融押出しし、冷却固化し、所望の特性に応じて延伸や熱処理することによって本発明のラミネート用ポリエステルフィルムを製造することができる。
【0043】
得られたポリエステルあるいはその樹脂組成物を押出機に供給し、溶融粘度に応じて150〜300℃で溶融し、例えばTダイ法によりスリット状の口金から冷却キャスティングドラム上にシート状に押出し、未延伸フィルムとすることができる。シート状に押出した場合、急冷時に静電印加密着法またはタッチロールキャスト法を用いることができ、特に静電印加密着法によると厚みの均一な未延伸フィルムを得ることができる。
【0044】
延伸フィルムを得る場合は、未延伸フィルムを次いで延伸装置に送り、一軸延伸する方法、同時二軸延伸する方法、または逐次二軸延伸する方法などで延伸される。逐次二軸延伸の場合、その延伸順序は、長手方向に次いで幅方向の順でもよいし、またはこの逆の順としてもよい。さらに、逐次二軸延伸においては、長手方向または幅方向の延伸を2回以上行ってもよい。
【0045】
延伸手段としては、ロール延伸、テンター延伸等を採用することができる。
フィルムの長手方向および幅方向の延伸倍率は、柔軟性、加工性、蒸着適性などの所望の特性に応じて設定することができるが、厚み斑を防ぐ上で好ましくは1.5〜6.0倍である。延伸温度は、フィルムを構成する全てのポリエステルのガラス転移温度以上、融点マイナス20℃以下の範囲であればよく、より具体的に好ましくは20〜160℃である。
【0046】
さらに、フィルムには延伸後に熱処理を行うことができる。かかる熱処理温度は、フィルムを構成する全てのポリエステルの融点以下であればよい。かかる熱処理は、フィルムを長手方向および/または幅方向に弛緩させつつ行ってもよい。
【0047】
また製膜時のフィルム形状は、上記のようなフラット状の他、チューブ状等でもよい。
【0048】
本発明のラミネート用ポリエステルフィルムは、熱ラミネートによる張り合わせ方法においてその特徴を特に顕著に発揮する。ただし、押出ラミネート、接着剤によるラミネートなどの方式を除外するものではない。
【0049】
本発明のポリエステル樹脂ラミネート金属板は、本発明のラミネート用ポリエステルフィルムを金属板の少なくとも片面にラミネートして得られる。具体的なラミネート例としては、ポリエステルが溶融もしくは半溶融しうる温度に加熱した金属板の表面にフィルムを接触させ、かかる状態でニップロール間を通過させる。ついで必要に応じてポリエステルの融点以上で加熱することで熱処理を行い、その後、急冷するという工程でラミネートさせる。
【実施例】
【0050】
[評価・測定方法]
(1)ポリエステルの組成分析
ポリエステルをアルカリにより加水分解し、酸成分とグリコール成分をそれぞれ単離し、各成分を、高速液体クロマトグラフィー(東ソー(株)社製HLC−8220)またはガスクロマトグラフィー(島津製作所社製14A)により定量分析し、各成分のピーク面積より組成比を求めた。尚、高速液体クロマトグラフィーとガスクロマトグラフィーとの併用については、主として高速液体クロマトグラフィーを用い、比較的低分子量の成分についてはガスクロマトグラフィーも用いた。
【0051】
(2)脂肪族あるいは脂環族成分中の一官能体、二官能体、三官能体の組成比
高速液体クロマトグラフィー(東ソー(株)社製HLC−8220)により定量分析し、各成分のピーク面積より組成比を求めた。
(3)結晶融解ピーク
示差走査熱量計としてセイコーインスツルメンツ社製DSC(RDC220)、データ解析装置として同社製ディスクステーション(SSC/5200)を用いた。試料5mgをアルミニウム製受皿にセットし、25℃から昇温速度20℃/分で280℃まで昇温したときの結晶の融解による吸熱ピーク温度を結晶融解ピークとした。
(4)ガラス転移点、結晶化指数(CI)
上記(3)と同様の示差走査熱量計およびデータ解析装置を用いた。試料5mgをアルミニウム製受皿にセットし、25℃から昇温速度20℃/分で280℃まで昇温し、5分間保持した後、液体窒素で急冷し、再び25℃から昇温速度20℃/分で280℃まで昇温し、当該再昇温過程において測定される補外ガラス転移開始温度と補外ガラス転移終了温度との平均値をガラス転移点とした。また、結晶化指数は、その再昇温時の結晶化熱(Hc)と融解熱(Hm)から、下記式より算出した。
CI=(Hm−Hc)/Hm

【0052】
(5)低温ラミネート性
設定温度に加熱した金属ロールとゴムロールとの間を、試料とするフィルムと、金属ロールと同温度に加熱した厚さ0.5mmの亜鉛めっき鋼板とを重ね合わせ、圧力2.0MPaで通過させた。通過してできた評価用の樹脂ラミネート金属板のおもて面(ラミネートフィルム層側)に、かみそり刃にて5mm間隔で#型にクロスカットを入れた。このクロスカット部位をエリクセン試験機で直径30mm、深さ7mmまでラミネートの裏面(金属板側)から表面方向に押し出して、金属板とフィルム層との間の剥離の有無を調べ、以下の基準で評価した。
◎:180℃のラミネートで剥離無し。
○:180℃のラミネートで剥離有り、200℃のラミネートで剥離無し。
×:200℃のラミネートで剥離有り。
【0053】
(6)耐傷性
JIS K 5600−5−4:1999(塗料一般試験方法−塗膜の機械的性質−引っかき硬度(鉛筆法))に準じて、上記(5)と同様の評価用の樹脂ラミネート金属板のラミネートフィルム層の表面に各種硬度の鉛筆を押し付けて動かした。ただし、鉛筆を押し付ける角度はラミネートフィルム層の表面に対して角度90°とし、また押し付ける荷重は1kgとした。鉛筆での引っかきにより傷が発生したときの鉛筆の硬さで示す鉛筆硬度を用いて以下の基準で評価した。
◎:3B以上。
○:4B〜5B。
×:6B以下。
【0054】
[実施例1]
(ポリエステルの合成)
下記の原料を反応槽に入れ、常圧下、最終温度210℃でエステル交換反応を留出物(HO)が理論量だけ出るまで行った後、重合釜に移行し、1torr以下まで徐々に減圧し、最終温度240℃で重縮合反応を行い、共重合ポリエステルを合成した。
テレフタル酸
:60質量部
ダイマー酸(ユニケマ・インターナショナル社製“PRIPOL1025” (単量体2.2質量%、二量体78.6質量%、三量体19.2質量%))
:23質量部
エチレングリコール
:20質量部
1,4−ブタンジオール
:43質量部
テトラブチルチタネート
:0.1質量部
得られたポリエステルの組成は、
酸成分が、テレフタル酸残基90モル%、ダイマー酸残基10モル%、
グリコール成分が、エチレングリコール残基40モル%、1,4−ブタンジオール残基60モル%
であった。
【0055】
(製膜)
前記ポリエステルをベント式異方向二軸押出機(ベント部3ヶ所、L/D=42)に入れ、溶融させ、真空ベント部および短管を通過させた。この溶融体をスリット状のダイからシート状に押出し、静電印加方式によりキャスティングドラムに密着させ冷却固化し、厚み55μmの未延伸フィルムを得た。
【0056】
得られたフィルムは、低温ラミネート性、耐傷性ともに良好であった。
【0057】
[実施例2]
ポリエステルの合成において、下記の原料を用いた。それ以外は実施例1と同様にして、フィルムを得た。
テレフタル酸
:66質量部
ダイマージオール(単量体2.2質量%、二量体78.6質量%、三量体19.2質量%)
:32質量部
エチレングリコール
:19質量部
1,4−ブタンジオール
:40質量部
テトラブチルチタネート
:0.1質量部
得られたフィルムは、実施例1と比べて若干耐傷性に劣るものの実用レベルであり、低温ラミネート性は良好であった。
【0058】
[実施例3]
ポリエステルの合成において、下記の原料を用いた。それ以外は実施例1と同様にして、フィルムを得た。
テレフタル酸
:58質量部
ダイマー酸(単量体0.5質量%、二量体99.0質量%、三量体0.5質量%)
:28質量部
エチレングリコール
:25質量部
1,4−ブタンジオール
:36質量部
テトラブチルチタネート
:0.1質量部
得られたフィルムは、実施例1と比べて低温ラミネート性に多少劣るものの合格レベルであり、耐傷性は良好であった。
[実施例4]
ポリエステルの合成において、下記の原料を用いた。それ以外は実施例1と同様にして、フィルムを得た。
テレフタル酸
:56質量部
ダイマー酸(単量体2.2質量%、二量体78.6質量%、三量体19.2質量%)
:34質量部
1,4−ブタンジオール
:47質量部
2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール
:29質量部
テトラブチルチタネート
:0.1質量部
得られたフィルムは、実施例1と比べて若干耐傷性に劣るものの実用レベルであり、低温ラミネート性は良好であった。
【0059】
[実施例5]
ポリエステルの合成において、下記の原料を用いた。それ以外は実施例1と同様にして、フィルムを得た。
テレフタル酸
:60質量部
二量化脂肪酸(炭素数44)(単量体0.5質量%、二量体99.0質量%、三量体0.5質量%)
:27質量部
エチレングリコール
:10質量部
1,4−ブタンジオール
:58質量部
テトラブチルチタネート
:0.1質量部
得られたフィルムは、実施例1と比べて低温ラミネート性に多少劣るものの実用レベルであり、耐傷性は良好であった。
[実施例6]
ポリエステルの合成において、下記の原料を用いた。それ以外は実施例1と同様にして、フィルムを得た。
テレフタル酸
:58質量部
ダイマー酸(単量体3.8質量%、二量体22.5質量%、三量体73.7質量%)
:28質量部
エチレングリコール
:20質量部
1,4−ブタンジオール
:43質量部
テトラブチルチタネート
:0.1質量部
得られたフィルムは、低温ラミネート性、耐傷性ともに良好であった。
【0060】
[比較例1]
ポリエステルの合成において、下記の原料を用いた。それ以外は実施例1と同様にして、フィルムを得た。
テレフタル酸
:53質量部
ダイマー酸(単量体2.2質量%、二量体78.6質量%、三量体19.2質量%)
:45質量部
エチレングリコール
:12質量部
1,4−ブタンジオール
:54質量部
テトラブチルチタネート
:0.1質量部
得られたフィルムは、ガラス転移点が本発明の範囲の下限を下まわっており、耐傷性が不十分であった。
【0061】
[比較例2]
ポリエステルの合成において、下記の原料を用いた。それ以外は実施例1と同様にして、フィルムを得た。
テレフタル酸
:65質量部
ダイマー酸(単量体2.2質量%、二量体78.6質量%、三量体19.2質量%)
:6質量部
エチレングリコール
:10質量部
1,4−ブタンジオール
:58質量部
テトラブチルチタネート
:0.1質量部
得られたフィルムは、結晶融解ピークの温度が本発明の範囲の上限を上まわっており、低温ラミネート性が不十分であった。
【0062】
[比較例3]
ポリエステルの合成において、下記の原料を用いた。それ以外は実施例1と同様にして、フィルムを得た。
テレフタル酸
:55質量部
ダイマー酸(単量体2.2質量%、二量体78.6質量%、三量体19.2質量%)
:40質量部
1,4−ブタンジオール
:72質量部
テトラブチルチタネート
:0.1質量部
得られたフィルムは、ガラス転移点、結晶化指数の値が本発明の範囲を外れており、低温ラミネート性、耐傷性ともに不十分であった。
【0063】
各実施例・比較例において得たポリエステルの組成および物性を表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
表1において、記号はそれぞれ以下の基を表す。
TPA :テレフタル酸残基
DA :ダイマー酸残基(炭素数36)
C44 :二量化脂肪酸残基(炭素数44)
EG :エチレングリコール残基
BG :1,4−ブタンジオール残基
DDO :ダイマージオール残基(炭素数36)
NPG :2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール残基(炭素数5)。
【0066】
各実施例・比較例において得たフィルムの評価結果を表2に示す。
【0067】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明のラミネート用ポリエステルフィルムは、主に金属板にラミネートして用いるのに好適であるが、被ラミネート体が金属板に限られるものではない。
【0069】
また本発明のラミネート用フィルムを用いてなる、本発明のポリステル樹脂ラミネート金属板は、エンボス加工や、折り曲げ加工などに適しているため、建材、家電、容器などに好ましく用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移点が−10℃以上であり、結晶融解ピークが130℃以上190℃未満であり、下記式より算出される結晶化指数CIが0.1〜0.7であるポリエステルからなることを特徴とするラミネート用ポリエステルフィルム。
CI=(Hm−Hc)/Hm
Hm:融解熱
Hc:結晶化熱
【請求項2】
結晶融解ピークが150℃以上180℃未満である、請求項1記載のラミネート用ポリエステルフィルム。
【請求項3】
ポリエステルが重合成分として炭素数4以上の脂肪族成分および/または炭素数4以上の脂環族成分を含有する請求項1または2記載のラミネート用ポリエステルフィルム。
【請求項4】
ポリエステルが重合成分としてダイマージオールおよび/またはダイマー酸を含有する請求項3記載のラミネート用ポリエステルフィルム。
【請求項5】
前記脂肪族成分および前記脂環族成分のうち、不飽和脂肪酸から誘導される成分について、二官能体が15〜100質量%、三官能体が85〜0質量%である、請求項3または4記載のラミネート用ポリエステルフィルム。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか記載のラミネート用ポリエステルフィルムが金属板を被覆してなることを特徴とするポリエステル樹脂ラミネート金属板。

【公開番号】特開2006−265325(P2006−265325A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−83235(P2005−83235)
【出願日】平成17年3月23日(2005.3.23)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】