ランゲルハンス細胞の免疫抑制を逆転させる方法
ヒトパピローマウイルス(HPV)に感染した患者に治療有効量の初代細胞由来の生物学的製剤を投与し、HPVに対する免疫応答を誘導することによりHPVを処置する方法。HPVに感染した患者に治療有効量の初代細胞由来の生物学的製剤を投与し、LCを活性化することによりHPV誘導によるランゲルハンス細胞(LC)の免疫抑制を克服する方法。HPVに感染した患者に治療有効量の初代細胞由来の生物学的製剤を投与し、LCを活性化し、リンパ節へのLCの遊走を誘導することにより、リンパ節へのLCの遊走を増加させる方法。HPVに感染した患者に有効量の初代細胞由来の生物学的製剤を投与し、HPVに対する免疫を生じさせ、新たな病変が発症するのを予防する、HPVに対する免疫を生じさせる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫抑制を逆転させる方法に関する。特に、本発明は、ヒトパピローマウイルス(HPV:human papillomavirus)の免疫抑制を逆転させ、HPV感染を処置することに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトパピローマウイルス(HPV)は、性行為により伝播するDNAウイルスのファミリーであり、100を超える異なる遺伝子型がある。遺伝子型は、それらが引き起こす病変のスペクトルに基づいて、低リスクカテゴリーおよび高リスクカテゴリーに分けられる。低リスク型は主に、良性性器コンジロームおよび軽度扁平上皮内病変を引き起こすのに対し、高リスク型は、肛門性器がんの発症と関連しており、子宮頸がんの>99%で検出することができ、症例の約50%でHPV16が認められる。米国では、性的活動人口の75%が生存中に少なくとも1種の性器HPV型に罹患すると推定される。
【0003】
効果的なパパニコラウ(Pap)塗抹スクリーニング、早期発見、および処置により、子宮頸がんによる罹病率および死亡率は低下し得るが、それらのうち、米国への多くの移民の出身地である発展途上国で容易に利用できるものはない。発展途上国では、子宮頸がんは依然として女性のがん関連死の原因の第2位である。重要なのは、人口統計の変化に伴い、この疾患の負担が今後数十年で劇的に増加すると予想されることである。スクリーニングプログラムにより全体的な浸潤がん率が低下している米国でさえ、非ヒスパニック系白人女性、黒人女性、ヒスパニック系女性および経済的に不利な立場の女性の間で、がんの発症率に差がある。米国において現在FDAにより承認されているHPVの予防ワクチンGARDASIL(登録商標)(Merck)の浸透度は、期待はずれなものになっている。2007年にこのワクチンが投与されたのは、13〜17歳の少女の25%、18〜26歳の女性全体の10%に過ぎず、ヒスパニック系女性のわずか1.1%にしか投与されなかった。さらに、このワクチンは、(前)がん性子宮頸部病変を発症したことがあるか否かにかかわらず、既にこのウイルスに感染したことがある女性には無効である。HPV感染の生涯リスク、およびワクチン接種率の非常に低い集団が子宮頸部疾患および他のHPV関連疾患を憂慮すべき速度で発症し続ける可能性があることを踏まえると、ウイルス感染が起きた後の発がん作用を軽減する治療アプローチが強く求められていることは明らかである。
【0004】
HPVは、非溶解性でエンベロープを持たないウイルスである。そのゲノムコード領域は、「初期(early)」および「後期(late)」タンパク質のEおよびLで表される。Eタンパク質は、ゲノム複製にとって重要な制御機能を果たし、そのうちの2つ(E6およびE7)は、発がんに強く関与しているのに対し、2つのLタンパク質(L1およびL2)は、DNAパッケージングおよびビリオンアッセンブリを担う自己アッセンブリしたカプシドタンパク質である。パピローマウイルスによる感染は、その増殖の生活環が、増殖している宿主の表皮細胞または粘膜の上皮基底細胞の細胞分化と結び付いているという点で独特である。HPVはその生活環を通して基底上にとどまるため、基底細胞およびランゲルハンス細胞(LC:Langerhans cell)などの表皮の細胞とのみ接触する。HPVの生活環が細胞分化と結び付いているため、インビトロでHPVのビリオンを産生することは困難である。HPVビリオンの代替手段として、レポータープラスミドを保有できるHPVウイルス様粒子(VLP:virus−like particle)およびHPV偽ビリオン(pseudovirion)が開発されており、本出願人らの研究室ではどちらの技術も確立されている。
【0005】
高リスクのHPV感染が持続することは、子宮頸がん発症の主要な危険因子となる。HPVに感染した大部分の女性ではウイルスクリアランスが行われるが、それに要する時間は、数カ月から数年に及ぶことがある。高リスクのHPVに感染した女性の約15%では、HPVに対して効果的な免疫応答が開始されないため、ウイルスは数十年存続することができる。クリアランス率の遅延および効果的な免疫の欠如から、HPVがどうにか免疫応答を回避することが示唆される。
【0006】
HPVでは、直ちに排除されることを妨げる様々な回避機構が発達しているため、宿主でのウイルス複製、および存続が可能になる。本出願人らは、HPVが、図4に示すようにLCを免疫回避の機構として操作していることを明らかにした。皮膚および粘膜の上皮層に存在するLCは、HPVと接触する最初の重要なAPCである。したがって、LCは、HPV感染に対して効果的な免疫応答を開始するのに関与している。LCは、外来抗原を認識すると成熟する。この成熟は、共刺激分子CD80およびCD86、MHCクラスIおよびII、CCR7などのケモカイン受容体のアップレギュレーション、サイトカインおよびケモカインの分泌、ならびに局所リンパ節への遊走など表現型の変化および機能の変化からなる。本出願人らは、HPV16 L1L2 VLPに曝露されたLCが共刺激分子およびケモカイン受容体をアップレギュレートせず、サイトカインおよびケモカインを分泌せず、さらにHPV16 VLP由来の抗原に対するエピトープ特異的免疫応答を開始しないことを確認した。これに対し、骨髄DCは、HPV16 L1L2 VLPにより活性化され、一度活性化されると、HPV特異的T細胞を刺激する。HPV16 L1L2 VLPを取り込むとDCとLCそれぞれで様々な細胞内シグナル伝達カスケードが開始される。マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK:mitogen−activated protein kinase)経路は、HPV16 L1L2 VLPにより刺激を受けると、DCでは活性化されるのに対し、LCでは不活性化される。しかし、LCではホスホイノシチド3−キナーゼ(PI3K:phosphoinositide 3−kinase)経路が活性化され、このことは、シグナル伝達カスケードを導き、Aktの不活性化が起こる。HPV16 E7特異的T細胞は、HPV16 L1L2−E7キメラVLP(cVLP)に曝露されたLCを認識し、殺すことができることから、HPVペプチドはcVLPの内在化後にLCにより提示されるものの、HPV16 L1L2 VLPは、LCが免疫応答を誘導するのを阻害することが示される。以上のデータを総合すると、LCは、共刺激の非存在下でHPV由来のペプチドを提示することにより、免疫寛容になり、免疫抑制的になることが示唆される。これが、さらにHPV感染の持続、およびがんが発症する可能性の増大につながり得る。
【0007】
HPVの予防用ワクチンは、高力価のHPV−中和抗体を誘導するものであり、最長6.5年の追跡調査で高い効能を示し、抗体のレベルを維持した。しかしながら、HPVに感染した女性の第3相試験では、コントロール群と比較してワクチン接種群でウイルスクリアランスを加速する証拠が見つからなかったことから、VLPベースの予防ワクチンに治療的効能がないことが明確に立証された。さらに、HPVは潜伏期間が長く、複数の免疫逃避機構があり、観察がわずか数年であることから、がん予防に対する予防用ワクチンの持続的効能についても、まだ明らかにされていない。子宮頸がんの約3分の1が、現在のワクチンに存在するHPV型以外のHPV型により引き起こされることが、問題の範囲を大きくしている。このため、子宮頸がん率に対する定量化可能な効果を検出できるようになるには数十年かかる。他方、高リスクHPVに現在感染しているか、または数年のうちに感染する世界中の数億人もの女性には、HPV感染および関連病変を処置する治療法が依然として必要とされている。
【0008】
子宮頸部上皮内新生物(CIN:cervical intraepithelial neoplasia)病変の患者の標準的治療法である手術は、1年間追跡調査した場合、CIN病変の除去に最大90%効果的であるとされるのが一般的である。しかしながら、女性を生涯にわたりモニターする場合、手術はあまり効果的ではない。手術によりHPV感染が除去されないか、あるいは、あるHPV型の排除がHPVの二次感染の再活性化を促す場合、外科的行為を受ける女性の80%超がその後再び関連する第2の行為を必要とすることになる。開発中の治療ワクチンは、患者自身の細胞免疫応答を活性化し、(前)がん細胞に存在する抗原を標的とすることにより悪性疾患の制御を目指している。過去15年間にわたりいくつかの候補ワクチンが開発されてきた。しかしながら、これまで食品医薬品局(Food and Drug Administration)により承認されたがんワクチンは1つもない。
【0009】
HPV感染が発がんを誘導する段階に至るのを防止する介入が求められている。HPV感染は市販されているHPV検出キット(Digene Corp.)で初期に検出できるため、こうした介入は実現可能である。
【0010】
複数の証拠により、HPVおよび関連する子宮頸部病変の病因の制御における細胞免疫系の重要性が支持されている。第1に、HPV陽性の軽度の異形成病変の25〜40%は、自然に消失するか、または局所生検後あまり時間をおかずに消失することから、局所炎症の開始は、退縮と関係している可能性がある。第2に、免疫不全は、HPV感染の発生率の増加と関連している。退縮しているHPV関連の皮膚疣贅および性器疣贅では、多くの場合、病変部位にTリンパ球が存在することから、HPVに対して活性な細胞媒介免疫応答が疾患の退縮の構成要素である可能性が示唆される。以上を総合すると、これらの研究からHPV感染およびそれに関連する疾患の治療レジメンは、感染部位に強い細胞性免疫を誘導することを目指すべきであることが示される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、女性の生涯にわたるHPVの効果的な免疫学的処置と、効果的な処置を妨げるHPV誘導によるLCの免疫抑制を克服する方法とが共に求められている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明の概要
本発明は、ヒトパピローマウイルス(HPV)を処置する方法であって、HPVに感染した患者に治療有効量の初代細胞由来の生物学的製剤(biologic)を投与するステップ、およびHPV感染に対する免疫応答を誘導するステップを含む方法を提供する。
【0013】
本発明はまた、HPV誘導によるランゲルハンス細胞(LC)の免疫抑制を克服する方法であって、HPVに感染した患者に治療有効量の初代細胞由来の生物学的製剤を投与するステップ、およびLCを活性化するステップを含む方法を提供する。
【0014】
本発明は、リンパ節へのLCの遊走を増加させる方法であって、HPVに感染した患者に治療有効量の初代細胞由来の生物学的製剤を投与するステップ、LCを活性化するステップ、およびリンパ節へのLCの遊走を誘導するステップを含む方法を提供する。
【0015】
本発明はさらに、HPVに対する免疫を生じさせる方法であって、HPVに感染した患者に有効量の初代細胞由来の生物学的製剤を投与するステップ、HPVに対する免疫を生じさせるステップ、および新たな病変が発症するのを予防するステップを含む方法も提供する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
本発明の他の利点については、以下の詳細な説明を参照し、添付図面と共に検討して理解が深まることによって、容易に理解されるであろう。
【図1】図1は、ランゲルハンス細胞(LC)に発現した表現型マーカーのヒストグラムである(先行技術)。
【図2】図2は、LCのCD86発現を示すグラフである(先行技術)。
【図3】図3は、活性化されていないLCと活性化LCとの図である。
【図4】図4は、HPV誘導性のLCの寛容化の図である。
【図5】図5は、LC活性化実験の実験デザインの図である。
【図6】図6は、HPV16およびIRX−2に曝露されたヒトLC上の表面活性化マーカーのアップレギュレーションのグラフである。
【図7】図7は、IRX−2がHPV16の非存在下および存在下でヒトLCの遊走を誘導することを示すグラフである。
【図8】図8は、IRX−2に曝露されたヒトランゲルハンス細胞が、HPVの存在下での同種異系T細胞刺激において優れていることを示すグラフである。
【図9】図9は、HPV曝露後にIRX−2で処理されたヒトランゲルハンス細胞が、高レベルのIL−8およびIP−10を分泌することを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
発明の詳細な説明
本発明は一般に、初代細胞由来の生物学的製剤(IRX−2)の投与により、HPVを処置し、HPV誘導によるLCの免疫抑制を克服する方法を提供する。本発明の処置は、HPVが存続しており、その免疫系がHPVに対して効果的な応答を引き起こすことができない患者を処置するのに効果的である。
【0018】
本明細書で使用する場合、「有効量」とは、本発明の所望の結果を実現する、すなわち、HPVに感染した患者のLCの免疫抑制の逆転を行うのに必要とされる初代細胞由来の生物学的製剤の量をいう。当業者であれば、特定の患者に投与すべき初代細胞由来の生物学的製剤の有効量を決定することができる。
【0019】
「IRX−2」は、「シトプルリキン」とも呼ばれ、cGMPの基準に基づき作製された白血球に由来する天然の初代細胞由来の生物学的製剤であり、フィトヘマグルチニン(PHA)およびシプロフロキサシン(CIPRO)で刺激された精製ヒト白血球(単核細胞)によるものである。主な活性成分は、インターロイキン1β(IL−1β、本明細書ではIL−1ともいう)、インターロイキン2(IL−2)、インターロイキン6(IL−6)、インターロイキン8(IL−8)、腫瘍壊死因子α(TNF−α)およびγ−インターフェロン(IFN−γ)である。好ましくは、本発明に使用されるIRX−2は、これらの6種の重要なサイトカインを含み、これら6種の重要なサイトカインしか含まなくてもよい。IRX−2は以前、天然サイトカイン混合物「NCM(natural cytokine mixture)」とも呼ばれていた。NCMについては、米国特許第6,977,072号および同第7,153,499号に定義され記載されている。本明細書では、IRX−2、初代細胞由来の生物学的製剤およびNCMという用語を同義で使用する。
【0020】
簡単に説明すると、IRX−2は、4−アミノキノロン抗生物質の継続的存在下、マイトジェンの継続的存在またはマイトジェンのパルス的存在(pulsed presence)により調製される。好ましい実施形態では、マイトジェンはPHAである。しかし、他のマイトジェンを使用してもよい。患者に投与するために作製されるIRX−2は、60〜6,000pcg/mL、一層好ましくは150〜1,800pcg/mLの範囲の濃度のIL−1β、600〜60,000pcg/mL、一層好ましくは3,000〜12,000pcg/mLの範囲の濃度のIL−2、ならびに200〜20,000pcg/mL、一層好ましくは1,000〜4,000pcg/mLの範囲の濃度のIFN−γおよびTNF−αを含む。
【0021】
IRX−2は、60〜6,000pcg/mL、一層好ましくは300〜2,000pcg/mLの範囲の濃度のIL−6、6000〜600,000pcg/mL、一層好ましくは20,000〜180,000pcg/mLの範囲の濃度のIL−8、200〜20,000pcg/ml、一層好ましくは1,000〜4,000pcg/mLの範囲の濃度のTNF−αをさらに含んでもよい。組換え、天然またはペグ化サイトカインを使用してもよいし、あるいは、IRX−2は、組換え、天然またはペグ化サイトカインの混合物を含んでもよい。IRX−2は、上記のサイトカインのみを含んでもよい。しかしながら、他のサイトカインを含めてもよい。本発明のIRX−2は、IL−7、IL−12、IL−15、GM−CSF(100〜10,000pcg/mL、一層好ましくは500〜2,000pcg/mLの範囲の濃度)、およびG−CSFなどの他の組換え、天然またはペグ化サイトカインをさらに含んでもよい。IRX−2を作製する方法は、上記の特許のほか、米国特許出願第12/423,601号に開示されている。
【0022】
また、本明細書に開示されたサイトカインに関連する誘導体、フラグメントおよびペプチドも本発明により包含され、こうした誘導体、フラグメントおよびペプチドは、それぞれのサイトカインの生物活性を保持している。
【0023】
IRX−2の複数の活性サイトカイン成分は、T細胞および樹状細胞を含む免疫系の複数の細胞型に作用する。H&NSCC患者の臨床試験では、IRX−2は、安全かつ許容可能であり、生物活性があることが示され、明らかな疾患を伴わない生存および生存全体の両方を導いた。生理的量のサイトカインを含むIRX−2を表面(topically)などの局所に投与することができ、このことは、LCがHPVと遭遇する微小環境を変化させる機会を与えることができる。従来は、単球馴化培地由来の天然サイトカイン混合物、またはTNFα、IL−1β、IL−6およびPGE2を含む組換え炎症性サイトカインの混合物を使用してDCを成熟させ、エキソビボでDCベースのがんワクチンを作製していた。IRX−2の生理的サイトカインのレベルは、エキソビボでのDC成熟化または高用量の全身性サイトカイン治療に使用される組換えサイトカインの濃度より非常に低い。IRX−2のサイトカインが低レベルであるため、IRX−2は、大きな毒性を伴わずに患者に直接注射することができる。
【0024】
IRX−2は、T細胞の活性化および増殖の重要なメディエーターであるいくつかのサイトカインをさらに含む。IRX−2がDC細胞およびT細胞を共に活性化できることは、IRX−2を特に魅力的なものにする。なぜならば、免疫細胞サブセットのまさにこの組み合わせが、ウイルス感染細胞に対する免疫応答を調整するからである。
【0025】
また、化学的インヒビター、非ステロイド系抗炎症剤(NSAID:non−steroidal anti−inflammatory drug)、亜鉛、およびこれらの組み合わせなど他の化合物をIRX−2と共に投与してもよい。
【0026】
化学的インヒビターは、免疫抑制的ではなく(好ましくは低用量で使用)、かつ、たとえば、体内の免疫抑制機構またはサプレッサー機構を阻害することにより免疫および/または免疫応答を増加させるような免疫調節作用を持つ、任意の化学療法剤であってよい。好ましい実施形態によれば、化学的インヒビターは、以下に限定されるものではないが、アルキル化剤、代謝拮抗薬および抗生物質などの抗腫瘍薬である。また、化学的インヒビターは、サリドマイドなどの免疫調節薬であってもよい。さらに化学的インヒビターは、塩または他の複合形態であってもよい。好ましくは、化学的インヒビターは、アルキル化剤シクロホスファミド(CY)である。
【0027】
NSAIDは、好ましくはCoxIおよびCoxII両方のインヒビターであるインドメタシン(INDO)である。また、NSAIDは、イブプロフェン、またはCoxIIインヒビター、例えば、セレコキシブおよびロフェコキシブ、またはこれらの組み合わせであってもよい。
【0028】
一緒に使用される4つの成分(すなわち化学的インヒビター、NSAID、初代細胞由来の生物学的製剤および亜鉛)は、免疫標的により作られる抑制性環境に対処し、患者の細胞免疫応答を回復させることができる。さらに詳しくは、化学的インヒビターは制御性T細胞を阻害し、NSAIDはプロスタグランジンによる局所的免疫抑制を逆転させ、初代細胞由来の生物学的製剤は樹状細胞を活性化し、T細胞を刺激し、アポトーシスからT細胞を保護し、亜鉛はT細胞の機能に重要な栄養素を供給する。この作用の組み合わせにより、内因性抗原および外因性抗原両方に対する免疫応答が促進される。
【0029】
さらに詳しくは、本発明は、HPVに感染した患者に治療有効量のIRX−2を投与し、HPVに対する免疫応答を誘導することにより、HPVを処置する方法を提供する。好ましくは、IRX−2は、上記のようなIL−1、IL−2、IL−6、IL−8、TNF−αおよびIFN−γの6つの重要なサイトカインを含む。また、上記のように別のサイトカインを含めてもよい。また、上記のように化学的インヒビター、NSAIDおよび亜鉛などの別の化合物も投与してもよい。好ましくは、IRX−2は、HPV感染が存在し、免疫応答を誘導する必要があるLCが存在する上皮に注射により投与する。また、子宮頸部への表面適用も好ましい。表面適用の方法として、リポソーム処方物BiphasixTM(Helix Biopharma Corp.,Aurora,Ontario,CA)にIRX−2を分散させ、続いて子宮頸部上皮に適用する方法、Cervical Drug Delivery SystemTM(Cytocore(登録商標),Inc.Chicago,IL)を使用して、IRX−2を生体接着(bioadhesive)ポリマーパッチに吸収させ、続いて子宮頸部上皮に付着させる方法、さらにTracyらへの米国特許第7,165,550号に開示されたような子宮頸部分離送達装置(cervical isolation and delivery apparatus)によりIRX−2溶液を子宮頸部に注入する方法があるが、これに限定されるものではない。
【0030】
一般に、IRX−2は、未成熟樹状細胞を成熟させ、ナイーブT細胞の産生を刺激し、ナイーブT細胞に抗原を効率的に提示することにより免疫系を効果的に「オンにする」働きをする。IRX−2は、HPVに対する免疫応答(これは、HPVのLCに対する免疫抑制作用のためにHPV患者において欠如している)を誘導することにより、HPVを効果的に処置することができる。
【0031】
HPVに対する免疫応答は、LCを活性化することにより誘導される。活性化LCと活性化されていないLCを図3に示す。本質的に、IRX−2は、HPVによるLCの免疫抑制を克服することができる。活性化したLCはその後、HPVに対する免疫応答を誘導するためにT細胞活性化および免疫調節性サイトカインを分泌する。このようにして、HPVを効果的に攻撃する免疫系の能力により、存在しているすべての病変を排除するだけでなく、将来的な病変の出現を防ぐことができる。たとえば、IRX−2は、LCによるIL−8およびILIP−10産生物の分泌を増加させる。LCは、HPV特異的CD8+T細胞を活性化することができる。以下の例に記載されているように、LCの活性化は、CD1a、MHCクラスI、MHCクラスII、CD40、CD80、CD83、CD86およびCCR7のアップレギュレーションにより確認される。
【0032】
本発明はまた、HPVに感染した患者に治療有効量のIRX−2を投与し、LCを活性化することにより、HPV誘導によるLCの免疫抑制を克服する方法を提供する。IRX−2については上述されている。IRX−2は、LCを活性化することにより、HPVに起因するLCの免疫抑制を克服することができる。このため、LCはこの後、T細胞の活性化を効果的に誘導して患者に存在するHPVを攻撃することができる。
【0033】
本発明は、治療有効量のIRX−2を投与し、LCを活性化し、リンパ節へのLCの遊走を誘導することにより、リンパ節へのLCの遊走を増加させる方法を提供する。IRX−2については上述されている。活性なLCは、IRX−2処置後、患者のリンパ節に効率的に遊走し、HPVに罹患している患者において免疫応答を引き起こすことができる。LCは通常、HPVによる免疫抑制によってリンパ節に遊走できない。しかしながら、IRX−2による処置はこの免疫抑制を逆転させるため、LCは、免疫系で効果的に機能することができる。
【0034】
本発明は、HPVに感染した患者に有効量のIRX−2を投与することにより、HPVに対する免疫を生じさせる方法、および新たな病変が発症するのを予防する方法を提供する。IRX−2は、HPVにより抑制されているLCを活性化することができる。活性化LCは、HPVに対する免疫応答を生じさせることができる。免疫系がHPVを活発に認識し、攻撃することができれば、任意の新たな病変の発症を予防することができる。活性化した免疫系は、HPVを効果的に処置し、将来的な疾患の発症を予防することができる。
【0035】
本発明にはいくつかの利点がある。病変は主に、HPVが存続することにより引き起こされるため、感染の免疫学的クリアランスを誘導し、HPVの伝播を予防する介入は、公衆衛生に大きな影響を及ぼす可能性がある。HPVの存続を排除することは、発症すると考えられる各HPV関連がんに対するヘルスケア支出の低下に寄与する。本アプローチは、HPV誘導による病変の発症原因、すなわちHPVの存続、およびそれに関係する免疫回避を標的とするため、繰り返しのスクリーニングまたは費用がかかる外科的介入に対する低コストの代替アプローチであり、高い成功が合理的に期待される。
【0036】
上記の実施形態のいずれにも、以下の投与詳細および/または処置プロトコルが使用される。
【0037】
好ましくは、サイトカイン組成物は、HPVに感染した上皮への注射により局所適用する。あるいは、本発明のサイトカイン組成物は、病変または処置される他のウイルス感染領域(area)の局所リンパ節に流入するリンパ管の周囲に注射してもよい。さらに詳しくは、免疫療法調製物を十分に局在化させるため、局所リンパ周囲注射または当業者に公知の他の注射を施す。
【0038】
外因性抗原を利用する実施形態では、外因的に供給された合成または抽出抗原、例えば、腫瘍抗原およびペプチド(Bellone,1998を参照)を、本発明のサイトカイン組成物と別の調製物において、あるいは本発明のサイトカイン組成物の一部として、刺激前に(pre−prime)または共刺激で(co−prime)局所または遠位リンパ節に投与してもよい。
【0039】
たとえば、がんまたは他の免疫抑制疾患により引き起こされ得るT細胞の内因性抑制は、低用量のシクロホスファミド(CY)および非ステロイド系抗炎症剤(NSAID)との共投与(すなわち、本発明のサイトカイン組成物と組み合わせる)により阻止することができる。NSAIDは、好ましくはインドメタシン(INDO)であるが、イブプロフェン、またはCoxIIインヒビター、例えば、セレコキシブ(CELEBREX(登録商標))もしくはロフェコキシブ(VIOXX(登録商標))、またはこれらの組み合わせも使用してもよい。NSAIDの副作用は、プロトンインヒビターおよびプロスタグランジンEアナログで積極的に処置することができる。また、T細胞免疫を回復しやすくする作用物質として亜鉛およびマルチビタミン(セレンの添加を含む場合もある)を加えてもよい。好ましくは、亜鉛の用量は、15〜75mgである。標準的なマルチビタミンを投与してもよい。亜鉛は、入手可能なグルコネートであってもよい。
【0040】
本発明のサイトカイン組成物は、手術、放射線治療、化学療法、またはこれらの組み合わせの前に投与しても、あるいはそれらの後に投与してもよい。本発明の組成物は、腫瘍の再発中に、すなわち、腫瘍が消えたと考えられるかまたは寛解している期間後に腫瘍増殖が再び起きている期間中に投与してもよい。
【0041】
IRX−2の作用機構
上記で定義したように、本発明の初代細胞由来の生物学的製剤は、アジュバントとして作用する(すなわち、特定の抗原に対する患者の免疫応答を刺激または増強する)。さらに、本発明のIRX−2組成物および方法は、T細胞媒介免疫応答を刺激するのに特に適している。本発明の組成物および方法により促進される免疫応答は、ナイーブT細胞の誘導または産生、T細胞への抗原の適切な提示を可能にする樹状細胞の分化および成熟(たとえば、リンパ節内)、ならびに単球およびマクロファージの活性化を含む。具体的には、本発明の組成物および方法により促進されるがん患者の免疫応答は、リンパ球の腫瘍への浸潤、腫瘍の分断および退縮のほか、洞組織球増殖症の低減(存在する場合)を含む。本質的に、初代細胞由来の生物学的製剤は免疫の発生を誘導し、免疫の破壊を阻止する。初代細胞由来の生物学的製剤の作用機構については、本出願人の米国特許出願第12/323,595号にさらに記載されている。
【0042】
さらに詳しくは、本発明の組成物および方法は、ナイーブT細胞の産生を誘導することにより患者の免疫低下/抑制の克服を支援する。本明細書で定義される「ナイーブ」T細胞という用語は、まだ抗原に曝露されていない新たに産生されたT細胞をいう。したがって、本発明の組成物および方法は、新たなT細胞を補充または産生する。
【0043】
樹状細胞はインビボでの適切な免疫応答が引き起こされる際の抗原提示において、こうした重要な役割を果たすことがわかっているため、樹状細胞の成熟に対して刺激作用を持つ作用物質は、抗原に対して良好な免疫応答を惹起するアジュバントとして作用する。本発明のサイトカイン組成物は、樹状細胞の成熟を促進する。また、本発明のサイトカイン組成物は、単球/マクロファージの強力なアクチベーターとして働くことによりさらなるアジュバント効果を与える。単球は、体内のDCおよびマクロファージの両方の前駆体であるため、単球/マクロファージの活性化を促進する作用物質は、インビボでの免疫応答に対してアジュバント効果を有する。
【0044】
また、初代細胞由来の生物学的製剤は、活性化T細胞をアポトーシスから保護することにより免疫の破壊も阻止する。臨床および実験データから、ある種のサイトカイン、特に共通受容体γ鎖を用いる生存サイトカイン(survival cytokine)は、腫瘍によって誘導される死から活性化T細胞を保護し、抗腫瘍活性を増強できることが示されている。
【0045】
さらに詳しくは、初代細胞由来の生物学的製剤がT細胞をアポトーシスから保護する方法は、いくつか存在する。抗アポトーシスシグナル伝達分子(すなわちJAK−3およびphosphor−Akt)の発現はアップレギュレートされ、アポトーシス誘導分子(すなわちSOCS−2)の発現はダウンレギュレートされる。CD8+およびCD4+Tリンパ球におけるカスパーゼの活性化は低減し、cFLIPの発現は増加する。IRX−2によりPI3K/Akt生存経路の阻害が妨げられる。外部からのアポトーシス(MV誘導性およびFasL誘導性アポトーシス)および内部からのミトコンドリアアポトーシスの両方からT細胞を保護する。
【0046】
外部からのMV誘導性アポトーシスからの保護は、さらに、JAK3、CD3−ζ、およびSTAT5のダウンレギュレーションの防止、Akt−1/2の脱リン酸化の阻害、ならびにBax/Bcl−2、Bax−Bcl−xLおよびBim/Mcl−1のバランスの取れた比率の維持により達成される。また、MV誘導性アポトーシスからの保護は、カスパーゼ−3およびカスパーゼ−7の活性誘導を防止することによっても達成される。さらに詳しくは、活性な切断型のカスパーゼ−3の誘導を、ミトコンドリア膜電位の喪失と同様に阻止する。核内DNAの断片化が阻害される。初代細胞由来の生物学的製剤による、内部からのアポトーシスからの保護は、スタウロスポリン誘導性アポトーシスからの活性化T細胞の保護により示される。
【0047】
重要なのは、初代細胞由来の生物学的製剤のサイトカインが活性化T細胞を相乗的様式でアポトーシスから保護することである。言い換えれば、初代細胞由来の生物学的製剤中のサイトカインの組み合わせにより、個々のサイトカイン単独投与で見られるものよりも、大きな効果が生じる。
【0048】
上記のように、本発明の組成物および方法は、インビボでの樹状細胞の成熟による効果的なペプチド抗原の提示、単球およびマクロファージの活性化、ならびにコミットされていない(uncommitted)ナイーブT細胞の産生など複数の作用を介して免疫系を刺激する。適切な抗原提示は、TおよびB細胞のクローン増殖を引き起こし、患者に免疫を与える。がん患者の場合では、上記の作用は、たとえばリンパ球の腫瘍への浸潤(たとえば、血行性拡散による)、ならびに腫瘍の減少および/または破壊をもたらす。その結果は、免疫記憶による生存の増進である。
【0049】
本発明のサイトカイン組成物は、個々の患者の臨床的状態、投与の部位および方法、投与のスケジュール、患者の年齢、性別および体重を考慮に入れて、外因性抗原あるいは内因性抗原に対して最適な免疫化を促進するように投与および投薬される。したがって、本明細書の目的において、薬学的な「有効量」は、当該技術分野において公知のこうした考慮すべき事項により決定される。この量は、免疫化を促進し、たとえば、腫瘍の減少、腫瘍の分断および白血球の浸潤、再発の遅延もしくは生存率の改善、またはT細胞数の増加を含む症状の改善もしくは排除につながるのに効果的な量でなければならない。
【0050】
本発明の方法では、本発明の組成物を様々な手段で投与してもよい。本発明の組成物に使用されるサイトカインまたは外因性抗原は、標準的な形態で投与しても、または薬学的に許容される誘導体として投与してもよく、単独投与しても、または薬学的に許容されるキャリア、希釈剤、アジュバントおよびビヒクルと組み合わせて活性成分として投与してもよい点に留意されたい。さらに、本発明の組成物は、皮内もしくは皮下投与、またはリンパ周囲もしくはリンパ内投与、節内投与、脾臓内投与、または筋肉内投与、腹腔内投与、および胸腔内投与してもよい。また、本発明の組成物は、たとえば患者の子宮頸部への注入によりHPVに感染した上皮に表面適用してもよい。処置される患者は、温血動物、特に、人間を含む哺乳動物である。薬学的に許容されるキャリア、希釈剤、アジュバントおよびビヒクル、ならびにインプラントキャリアとは一般に、不活性で無毒の固体もしくは液体充填剤、希釈剤、または本発明の活性成分と反応しない被包材料をいう。
【0051】
投与は、単回投与でも、または数日の期間にわたる複数回投与でもよい。本発明の組成物を投与する場合、組成物は一般に、注射可能な単位投薬形態(たとえば、溶液、懸濁物またはエマルジョン)として処方される。注射に好適な薬学的処方物として、無菌水性溶液または分散物、および無菌の注射可能溶液または分散物に再構成される無菌粉末が挙げられる。キャリアは、たとえば、水、エタノール、ポリオール(たとえば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールおよび同様のもの)、これらの好適な混合物、または植物油を含む溶媒または分散媒であってもよい。
【0052】
適切な流動性は、たとえば、レシチンなどのコーティングの使用、分散物の場合には必要とされる粒子サイズの維持、および界面活性剤の使用により維持することができる。また、非水性ビヒクル、例えば、綿実油、ゴマ油、オリーブ油、大豆油、コーン油、ヒマワリ油またはピーナッツ油、およびミリスチン酸イソプロピルなどのエステルも、本発明の組成物の溶媒系として使用してもよい。加えて、抗菌性保存剤、抗酸化剤、キレート剤および緩衝液など、組成物の安定性、無菌性および等張性を増強する様々な添加剤を加えてもよい。微生物の作用の防止については、様々な抗菌薬および抗真菌薬、たとえば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸および同様のものにより確実にすることができる。多くの場合、等張剤、たとえば、糖、塩化ナトリウムおよび同様のものを含ませることが望ましい。注射可能薬学的形態の吸収の延長は、吸収を遅延させる作用物質、たとえば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンの使用により、もたらしてもよい。しかし、本発明によれば、使用される任意のビヒクル、希釈剤または添加剤は、本発明のサイトカインまたは外因性抗原との適合性を有する必要がある。
【0053】
無菌の注射可能溶液は、本発明の実施の際に利用するサイトカインまたは外因性抗原を、必要量の適切な溶媒に、望ましいいくつかの他の成分と共に組み込むことにより調製することができる。
【0054】
本発明の薬理学的処方物を、様々なビヒクル、添加剤および希釈剤など任意の適合性のあるキャリアを含む注射可能処方物において患者に投与してもよい。あるいは、本発明に利用されるサイトカインおよび/または外因性抗原を、徐放性皮下インプラントの形態において、または標的送達系の形態において、例えば、モノクローナル抗体、ベクター送達、イオン導入、ポリマーマトリックス、リポソームおよびミクロスフェアにおいて、患者に非経口的に投与してもよい。本発明に有用な送達系の例として、米国特許第5,225,182号、同第5,169,383号、同第5,167,616号、同第4,959,217号、同第4,925,678号、同第4,487,603号、同第4,486,194号、同第4,447,233号、同第4,447,224号、同第4,439,196号、および同第4,475,196号に開示されているものがある。他の多くのこうしたインプラント、送達系、およびモジュールも当業者によく知られている。
【0055】
本発明の組成物および方法は、上記で論じたようながん、感染症または持続性病変など抗原により引き起こされる疾患の処置に有用であることが明らかであろう。本組成物および方法は、患者の疾患の症状および影響の軽減または排除の助けとなる患者の免疫応答をインビボで刺激することにより、これらの疾患によって産生される抗原に対する免疫化を促進する。
【0056】
本発明について、以下の実験の実施例を参照してさらに詳述する。これらの例は、説明のみを目的として提供するものであり、他に記載がない限り、限定的であることを意図するものではない。したがって、本発明については決して以下の例に限定されるものとして解釈してはらず、本明細書に記載される教示内容により明らかになるあらゆる変更を包含するものとして解釈すべきである。
【実施例】
【0057】
実施例1
ヒトLCの作製
HPVはヒトのみに感染するため、HPVとLCとの相互作用の研究には、ヒト免疫細胞を使用した。ヒト皮膚から単離した初代LCは、遊走プロセスを経て活性化しており、高レベルのMHC分子および共刺激分子を発現している。したがって、インビトロで長期的かつ再現性のある有意義な機能研究を行うために、ヒトドナーから皮膚由来の初代の活性化されていないLCを単離することは不可能である。本実験では、エキソビボで分化サイトカインを用いて、健康なドナーから単離された末梢血単球から初代LCを作製した。循環中の単球は、インビボでの表皮LCの直接の前駆体であった。本出願人らおよび他の人たちは、エキソビボで得られたLCが表皮LCと同じ表面マーカー(Langerin、E−カドヘリン、CD11c、CD1a、高度のMHCクラスII、および細胞内バーベック顆粒)を発現し(図1)、LCのインビトロ研究に一貫して使用できることを明らかにした。
【0058】
図1は、ヒト単球由来ランゲルハンス細胞が皮膚由来のランゲルハンス細胞と同様の表現型マーカーを発現することを示す。未成熟ランゲルハンス細胞は、7日間にわたって、1000IU/mLのGM−CSF、1000IU/mLのIL−4および10ng/mLのTGFβにおいて、接着単球から分化させた。MHCクラスII(HLA−DP、DQ、DR)、CD1a、CD11c、LangerinまたはE−カドヘリンの発現について、細胞をフローサイトメトリーで分析した(網掛けで示したグレーのヒストグラム)。アイソタイプコントロールを網掛けなし黒のヒストグラムで示す。データには、複数の健康なドナーに由来するLCの典型を示す。
【0059】
HPVの免疫回避の逆転
本出願人らは、事前に、LCを標的とすることによりHPVの免疫回避を逆転させる戦略に着手している。LCは、TLR3、7、8および9など様々なTLRを発現し、これらは、病原体関連分子パターン(PAMPs:recognize pathogen−associated molecular patterns)を認識し、リガンドに結合すると細胞を活性化する。驚いたことに、CD86の発現で測定すると、外性器疣贅用にFDAが承認したTLR7アゴニストALDARA(登録商標)(イミキモド、Graceway Pharmaceuticals,LLC)は、LCの活性化にまったく作用しないことが明らかになった(図2)。これにより、子宮頸部病変の処置にイミキモドを使用することは効果がないという、まだ発表されていない観察結果が説明付けられるかもしれない。興味深いことに、TLR8アクチベーター(3M−002)およびTLR7/8アゴニスト(レシキモド)は、HPV感染LCを十分に活性化し、インビトロでそれらはHPV特異的T細胞応答を誘導し始めた。これらのデータから、ある種の「危険シグナル」経路を活性化することにより、HPVによるLC機能の抑制が逆転され得ることが示される。
【0060】
IRX−2によるヒトランゲルハンス細胞の活性化
病原体または他の「危険シグナル」に曝露された後の、表皮から流入領域リンパ節への遊走後、LCがT細胞を十分に刺激することを可能にするには、その細胞表面に共刺激分子およびケモカイン受容体が発現する必要がある。インビトロでのヒト単球由来LCの表現型の成熟に対するIRX−2の作用を調べた。IRX−2による処理は、MHCクラスIおよびMHCクラスIIの両方、ならびに共刺激分子CD40、CD80およびCD86、成熟マーカーCD83のアップレギュレーションを誘導することが明らかになった。LCの活性化は以前記載された通り行った。簡単に説明すると、LCを収集し、洗浄し、無処理のままか、または37℃にて1時間10μg/106細胞の濃度でHPV16L1L2 VLPで処理した。インキュベーション後、細胞を完全培地で37℃にて6時間おいて置いた。次に、細胞を無処理のままか、あるいは、IRX−2(1:2希釈)または陽性コントロールとしての1μg/mLのLPSで処理した。IRX−2処理後、細胞をさらに48時間インキュベートした。細胞を収集し、洗浄し、CD1a、MHCクラスI、MHCクラスII、CD40、CD80、CD83、CD86またはアイソタイプコントロールを染色してフローサイトメトリー分析のための染色を行った。処理群間の表面マーカーの変化倍数をMFI値から算出した。MFIの増加は、マーカーのアップレギュレーションおよびLCの活性化を示す。データは、3人の個々のドナーの典型である。
【0061】
IRX−2の供給源は、フィトヘマグルチニン(PHA)により24時間刺激したヒト末梢血単核細胞から集めた上清であった。QC試験を用いて混合物中のサイトカインレベルを試験し、4つの主要なサイトカインのレベルに従い標準化する。このcGMPによる製造プロセスは、ロットごとのサイトカイン濃度が非常に類似した、高度な一貫性を有する産物を与えた。IRX−2によるLC活性化の一貫性を確実にするため、IRX−2の2つの異なるロットを用いてLCを活性化した。
【0062】
図6に示すように、LCをHPV16 L1L2 VLPに曝露したか否かにかかわらず、6つのLCマーカーの発現はどれもIRX_2処理により強く上昇した。興味深いことに、共刺激分子CD86の上昇は、コントロールよりも、HPV16 LIL2 VLPに曝露されたLCにおいて、さらに効果的であった。95%を超える細胞がCD86を発現し、80%を超えるLCが成熟マーカーCD83を発現した(図示せず)。
【0063】
これらの結果から、IRX−2は、LCの活性化および成熟の強力な誘導因子であり、その有効性は、LCのHPVへの事前の曝露により損なわれないことが示される。
【0064】
実施例2
現在臨床的用途に利用できるIRX−2が、予めHPV16に曝露されたLCを活性化できるか否かを確認する必要がある。LCの活性化マーカー発現に対するIRX−2の作用については実施例1に報告した、次の実験では、サイトカインの分泌、遊走、およびアロ抗原特異的T細胞の活性化を測定することによりIRX−2の強度を試験した。
【0065】
LCのようなAPCの活性化は、初代Tリンパ球との良好な相互作用および初代Tリンパ球の良好な活性化に必要である。炎症性サイトカインは、APCを活性化する能力を有し、抗原提示機能の成熟および増大を引き起こす。IRX−2は、HPVに感染した上皮に局所適用されたときに、LCの免疫刺激能に影響を与える可能性がある有望な免疫モジュレーターである。IRX−2がHPVに曝露されたLCを表現型的および機能的に活性化するか否かを決定するため、サイトカイン/ケモカインの分泌および遊走、ならびにアロ抗原特異的T細胞の応答を刺激する能力について行った。これらの研究により、IRX−2は、TLR8アゴニストと同様にHPVによる免疫抑制を逆転できることが明らかにされた。
【0066】
実験デザイン
LCをHPV16、次いでIRX−2に曝露したときの、LCにおけるT細胞共刺激マーカーの発現レベルを決定した。LCは、健康なドナーから単離した末梢血単球から分化させた。図5に示すようにLCをHPV16ウイルス様粒子(VLP)に6時間曝露し、次いでIRX−2をさらに48時間加えた。蛍光抗体を用いてフローサイトメトリーにより細胞表面分子を測定した。細胞培養上清について免疫刺激性サイトカインおよびケモカインの存在を試験し、LCが活性化してT細胞活性化サイトカインまたは他の免疫調節性サイトカインを分泌しているか否かを決定した。HPV VLPおよびIRX−2への曝露後のLC遊走を、トランスウェルメンブレンを通過するインビトロ遊走により測定した。T細胞の刺激能については、LCを同種異系T細胞と培養して混合リンパ球反応(MLR:mixed lymphocyte reaction)で評価した。各実験では、無処理LC、HPV VLPのみに曝露したLC、およびIRX−2のみで処理したLCをコントロールとする。個々の健康なドナーに由来するLCを用いて各実験を少なくとも3回繰り返した。HLA−A*0201陽性の被験体を選択したため、公知のHPV由来ペプチド抗原に対して、十分に定義されたT細胞免疫応答が測定された。これらのデータは、IRX−2により、HPVに曝露されたLCが、T細胞を刺激する能力、および遊走する能力(有益な抗ウイルス免疫応答にどちらの機能も必要)を取り戻すことができることを示す。
【0067】
ヒトランゲルハンス細胞の作製
初代LCは、エキソビボで分化サイトカインを用いて、匿名の健康なドナーの白血球搬出により単離された市販の末梢血単球から作製した。最初に、低温保存したPBMCの培養フラスコへのプラスチック接着を介して、単球由来LCを作製した。接着細胞を、1000U/mLの組換えヒト(rhu)−GM−CSF、1000U/mLのrhu−IL−4および10ng/mLのrhu−TGF−β1を含む培地で7日間培養し、培養期間に2回補充した。
【0068】
LCの遊走
孔サイズ5μmのポリカーボネートフィルター(Corning Costar)を有する24ウェルトランスウェルプレートを用いてケモカインに対するLCの遊走を行った。250ng/mlのrhu CCL21(R&D Systems)を含む培地を下部チャンバーに加えるか、あるいは培地のみを加えて自然遊走のコントロールとした。上述のような無処理または処理LCを上部チャンバーに加え、37℃で4時間インキュベートした。血球計算盤または自動セルカウンターを用いて、下部チャンバーに遊走した細胞をカウントし、CCL21を用いて遊走した細胞とCCL21を用いずに遊走した細胞との比率としてCCL21依存性遊走を計算し、遊走インデックスとした。遊走インデックスの増加から、組織から流入領域リンパ節に移動するLCの機能的活性化が示された(図7)。
【0069】
IRX−2処理により、コントロールおよびHPV L1L2 VLPの遊走が共に3〜4倍増加した。この結果から、LCがHPVに曝露されていても、IRX−2はLCの局所リンパ節への遊走を促進し得ることが示される。
【0070】
混合リンパ球反応アッセイ
LCを上記のようにHPV16 L1L2 VLPおよびIRX−2で処理した。MACS陰性選択ヒト汎T細胞(negative selection human pan T cell)単離キットを用いて単離した、接触していない(untouched)同種異系T細胞とLCとを共培養した。応答因子(responder)であるT細胞および刺激因子(stimulator)であるLCをR:S比率10:1および5:1で5日間培養した。単独培養のT細胞、単独培養のLC、自系PBMCと培養したT細胞、およびT細胞マイトジェンPHAと培養したT細胞をアッセイのコントロールとした。放射性3H−チミジンパルス細胞を収集し、放射能をシンチレーションプレートカウンターでカウントした。放射能cpmを決定し、処理したものの間で比較した。チミジンの取り込みの増加から、T細胞の増殖の増大が示された。HPV16 L1L2 VLPの曝露およびIRX−2の刺激後にT細胞の増殖が増大したことから、HPV16 L1L2 VLPに曝露されたLCがHPVの存在下で免疫刺激能を取り戻したことが確認された(図8)。
【0071】
サイトカインおよびケモカインの分析
IRX−2で刺激したLCから上清を集め、サイトカインおよびケモカインの分泌について試験した。LCは、上記のように処理した。IRX−2処理から36時間後にLCを洗浄し、上清を収集する前にさらに36時間培養した。こうして、IRX−2混合物中に存在するサイトカインが測定されるのを排除した。本アッセイは、いくつかの炎症分析物、T細胞刺激分析物および化学的誘引分析物を一度にアッセイできるBio−Plex Suspension Array Systemを用いて完了させた。アッセイされたサイトカインおよびケモカインは、IL−8、IFN−γ誘導タンパク質10(IP−10)、単球化学的誘引タンパク質(MCP:Monocyte Chemoattractant Protein)−1、マクロファージ炎症性タンパク質(MIP:Macrophage Inflammatory Protein)−1α、MIP−1β、およびRANTESを含んでいた。データについては、処理群の上清中のサイトカインおよびケモカインの濃度を比較して分析した。Th1関連サイトカインおよびケモカインの分泌の増加は、CD8+T細胞応答の誘導を支持すると考えられるLCの機能的活性化を示すのに対し、抑制性サイトカインの増加はLCの寛容化または抑制機能を示唆する。
【0072】
IRX−2によるLCの処理は、2つのTh1関連ケモカイン、IP−10およびIP10の分泌を著しく増加させた(図9)。どちらのケモカインもプロ炎症性(pro−inflammatory)であり、IP−10は、T細胞、NK細胞、および単球を炎症部位に誘引することが知られている。これらの結果から、IRX−2の刺激下で、L1L2 VLPに曝露されたLCがHPVの存在下で免疫刺激能を取り戻したことが示される。
【0073】
結論
IRX−2は、健康なドナー由来のヒトLCがHPV L1L2 VLPに曝露された後でも、該健康なドナー由来のヒトLCを表現型的および機能的に活性化した。HPVおよびIRX−2処理後のMHCおよび表面活性化分子のレベルの上昇、炎症性およびT細胞活性化サイトカインおよびケモカインの分泌の増加、ならびにケモカインに対する遊走を行う能力の増強(図6〜図9)といったこれらの結果はどれも、HPV誘導によるLCの寛容化の克服、およびHPV感染に対する処置の提供における本発明の有効性を支持するものである。本発明について例示的に記載してきたが、使用してきた用語は本質的に、限定的な言葉ではなく、説明的な言葉であることを意図していることが理解されよう。
【0074】
当然のことながら、上記の本教示内容に照らして本発明の多くの修正および変形が可能である。したがって、添付の特許請求の範囲内において、具体的に記載したもの以外の方法で本発明を実施してもよいことが理解されよう。
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫抑制を逆転させる方法に関する。特に、本発明は、ヒトパピローマウイルス(HPV:human papillomavirus)の免疫抑制を逆転させ、HPV感染を処置することに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトパピローマウイルス(HPV)は、性行為により伝播するDNAウイルスのファミリーであり、100を超える異なる遺伝子型がある。遺伝子型は、それらが引き起こす病変のスペクトルに基づいて、低リスクカテゴリーおよび高リスクカテゴリーに分けられる。低リスク型は主に、良性性器コンジロームおよび軽度扁平上皮内病変を引き起こすのに対し、高リスク型は、肛門性器がんの発症と関連しており、子宮頸がんの>99%で検出することができ、症例の約50%でHPV16が認められる。米国では、性的活動人口の75%が生存中に少なくとも1種の性器HPV型に罹患すると推定される。
【0003】
効果的なパパニコラウ(Pap)塗抹スクリーニング、早期発見、および処置により、子宮頸がんによる罹病率および死亡率は低下し得るが、それらのうち、米国への多くの移民の出身地である発展途上国で容易に利用できるものはない。発展途上国では、子宮頸がんは依然として女性のがん関連死の原因の第2位である。重要なのは、人口統計の変化に伴い、この疾患の負担が今後数十年で劇的に増加すると予想されることである。スクリーニングプログラムにより全体的な浸潤がん率が低下している米国でさえ、非ヒスパニック系白人女性、黒人女性、ヒスパニック系女性および経済的に不利な立場の女性の間で、がんの発症率に差がある。米国において現在FDAにより承認されているHPVの予防ワクチンGARDASIL(登録商標)(Merck)の浸透度は、期待はずれなものになっている。2007年にこのワクチンが投与されたのは、13〜17歳の少女の25%、18〜26歳の女性全体の10%に過ぎず、ヒスパニック系女性のわずか1.1%にしか投与されなかった。さらに、このワクチンは、(前)がん性子宮頸部病変を発症したことがあるか否かにかかわらず、既にこのウイルスに感染したことがある女性には無効である。HPV感染の生涯リスク、およびワクチン接種率の非常に低い集団が子宮頸部疾患および他のHPV関連疾患を憂慮すべき速度で発症し続ける可能性があることを踏まえると、ウイルス感染が起きた後の発がん作用を軽減する治療アプローチが強く求められていることは明らかである。
【0004】
HPVは、非溶解性でエンベロープを持たないウイルスである。そのゲノムコード領域は、「初期(early)」および「後期(late)」タンパク質のEおよびLで表される。Eタンパク質は、ゲノム複製にとって重要な制御機能を果たし、そのうちの2つ(E6およびE7)は、発がんに強く関与しているのに対し、2つのLタンパク質(L1およびL2)は、DNAパッケージングおよびビリオンアッセンブリを担う自己アッセンブリしたカプシドタンパク質である。パピローマウイルスによる感染は、その増殖の生活環が、増殖している宿主の表皮細胞または粘膜の上皮基底細胞の細胞分化と結び付いているという点で独特である。HPVはその生活環を通して基底上にとどまるため、基底細胞およびランゲルハンス細胞(LC:Langerhans cell)などの表皮の細胞とのみ接触する。HPVの生活環が細胞分化と結び付いているため、インビトロでHPVのビリオンを産生することは困難である。HPVビリオンの代替手段として、レポータープラスミドを保有できるHPVウイルス様粒子(VLP:virus−like particle)およびHPV偽ビリオン(pseudovirion)が開発されており、本出願人らの研究室ではどちらの技術も確立されている。
【0005】
高リスクのHPV感染が持続することは、子宮頸がん発症の主要な危険因子となる。HPVに感染した大部分の女性ではウイルスクリアランスが行われるが、それに要する時間は、数カ月から数年に及ぶことがある。高リスクのHPVに感染した女性の約15%では、HPVに対して効果的な免疫応答が開始されないため、ウイルスは数十年存続することができる。クリアランス率の遅延および効果的な免疫の欠如から、HPVがどうにか免疫応答を回避することが示唆される。
【0006】
HPVでは、直ちに排除されることを妨げる様々な回避機構が発達しているため、宿主でのウイルス複製、および存続が可能になる。本出願人らは、HPVが、図4に示すようにLCを免疫回避の機構として操作していることを明らかにした。皮膚および粘膜の上皮層に存在するLCは、HPVと接触する最初の重要なAPCである。したがって、LCは、HPV感染に対して効果的な免疫応答を開始するのに関与している。LCは、外来抗原を認識すると成熟する。この成熟は、共刺激分子CD80およびCD86、MHCクラスIおよびII、CCR7などのケモカイン受容体のアップレギュレーション、サイトカインおよびケモカインの分泌、ならびに局所リンパ節への遊走など表現型の変化および機能の変化からなる。本出願人らは、HPV16 L1L2 VLPに曝露されたLCが共刺激分子およびケモカイン受容体をアップレギュレートせず、サイトカインおよびケモカインを分泌せず、さらにHPV16 VLP由来の抗原に対するエピトープ特異的免疫応答を開始しないことを確認した。これに対し、骨髄DCは、HPV16 L1L2 VLPにより活性化され、一度活性化されると、HPV特異的T細胞を刺激する。HPV16 L1L2 VLPを取り込むとDCとLCそれぞれで様々な細胞内シグナル伝達カスケードが開始される。マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK:mitogen−activated protein kinase)経路は、HPV16 L1L2 VLPにより刺激を受けると、DCでは活性化されるのに対し、LCでは不活性化される。しかし、LCではホスホイノシチド3−キナーゼ(PI3K:phosphoinositide 3−kinase)経路が活性化され、このことは、シグナル伝達カスケードを導き、Aktの不活性化が起こる。HPV16 E7特異的T細胞は、HPV16 L1L2−E7キメラVLP(cVLP)に曝露されたLCを認識し、殺すことができることから、HPVペプチドはcVLPの内在化後にLCにより提示されるものの、HPV16 L1L2 VLPは、LCが免疫応答を誘導するのを阻害することが示される。以上のデータを総合すると、LCは、共刺激の非存在下でHPV由来のペプチドを提示することにより、免疫寛容になり、免疫抑制的になることが示唆される。これが、さらにHPV感染の持続、およびがんが発症する可能性の増大につながり得る。
【0007】
HPVの予防用ワクチンは、高力価のHPV−中和抗体を誘導するものであり、最長6.5年の追跡調査で高い効能を示し、抗体のレベルを維持した。しかしながら、HPVに感染した女性の第3相試験では、コントロール群と比較してワクチン接種群でウイルスクリアランスを加速する証拠が見つからなかったことから、VLPベースの予防ワクチンに治療的効能がないことが明確に立証された。さらに、HPVは潜伏期間が長く、複数の免疫逃避機構があり、観察がわずか数年であることから、がん予防に対する予防用ワクチンの持続的効能についても、まだ明らかにされていない。子宮頸がんの約3分の1が、現在のワクチンに存在するHPV型以外のHPV型により引き起こされることが、問題の範囲を大きくしている。このため、子宮頸がん率に対する定量化可能な効果を検出できるようになるには数十年かかる。他方、高リスクHPVに現在感染しているか、または数年のうちに感染する世界中の数億人もの女性には、HPV感染および関連病変を処置する治療法が依然として必要とされている。
【0008】
子宮頸部上皮内新生物(CIN:cervical intraepithelial neoplasia)病変の患者の標準的治療法である手術は、1年間追跡調査した場合、CIN病変の除去に最大90%効果的であるとされるのが一般的である。しかしながら、女性を生涯にわたりモニターする場合、手術はあまり効果的ではない。手術によりHPV感染が除去されないか、あるいは、あるHPV型の排除がHPVの二次感染の再活性化を促す場合、外科的行為を受ける女性の80%超がその後再び関連する第2の行為を必要とすることになる。開発中の治療ワクチンは、患者自身の細胞免疫応答を活性化し、(前)がん細胞に存在する抗原を標的とすることにより悪性疾患の制御を目指している。過去15年間にわたりいくつかの候補ワクチンが開発されてきた。しかしながら、これまで食品医薬品局(Food and Drug Administration)により承認されたがんワクチンは1つもない。
【0009】
HPV感染が発がんを誘導する段階に至るのを防止する介入が求められている。HPV感染は市販されているHPV検出キット(Digene Corp.)で初期に検出できるため、こうした介入は実現可能である。
【0010】
複数の証拠により、HPVおよび関連する子宮頸部病変の病因の制御における細胞免疫系の重要性が支持されている。第1に、HPV陽性の軽度の異形成病変の25〜40%は、自然に消失するか、または局所生検後あまり時間をおかずに消失することから、局所炎症の開始は、退縮と関係している可能性がある。第2に、免疫不全は、HPV感染の発生率の増加と関連している。退縮しているHPV関連の皮膚疣贅および性器疣贅では、多くの場合、病変部位にTリンパ球が存在することから、HPVに対して活性な細胞媒介免疫応答が疾患の退縮の構成要素である可能性が示唆される。以上を総合すると、これらの研究からHPV感染およびそれに関連する疾患の治療レジメンは、感染部位に強い細胞性免疫を誘導することを目指すべきであることが示される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、女性の生涯にわたるHPVの効果的な免疫学的処置と、効果的な処置を妨げるHPV誘導によるLCの免疫抑制を克服する方法とが共に求められている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明の概要
本発明は、ヒトパピローマウイルス(HPV)を処置する方法であって、HPVに感染した患者に治療有効量の初代細胞由来の生物学的製剤(biologic)を投与するステップ、およびHPV感染に対する免疫応答を誘導するステップを含む方法を提供する。
【0013】
本発明はまた、HPV誘導によるランゲルハンス細胞(LC)の免疫抑制を克服する方法であって、HPVに感染した患者に治療有効量の初代細胞由来の生物学的製剤を投与するステップ、およびLCを活性化するステップを含む方法を提供する。
【0014】
本発明は、リンパ節へのLCの遊走を増加させる方法であって、HPVに感染した患者に治療有効量の初代細胞由来の生物学的製剤を投与するステップ、LCを活性化するステップ、およびリンパ節へのLCの遊走を誘導するステップを含む方法を提供する。
【0015】
本発明はさらに、HPVに対する免疫を生じさせる方法であって、HPVに感染した患者に有効量の初代細胞由来の生物学的製剤を投与するステップ、HPVに対する免疫を生じさせるステップ、および新たな病変が発症するのを予防するステップを含む方法も提供する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
本発明の他の利点については、以下の詳細な説明を参照し、添付図面と共に検討して理解が深まることによって、容易に理解されるであろう。
【図1】図1は、ランゲルハンス細胞(LC)に発現した表現型マーカーのヒストグラムである(先行技術)。
【図2】図2は、LCのCD86発現を示すグラフである(先行技術)。
【図3】図3は、活性化されていないLCと活性化LCとの図である。
【図4】図4は、HPV誘導性のLCの寛容化の図である。
【図5】図5は、LC活性化実験の実験デザインの図である。
【図6】図6は、HPV16およびIRX−2に曝露されたヒトLC上の表面活性化マーカーのアップレギュレーションのグラフである。
【図7】図7は、IRX−2がHPV16の非存在下および存在下でヒトLCの遊走を誘導することを示すグラフである。
【図8】図8は、IRX−2に曝露されたヒトランゲルハンス細胞が、HPVの存在下での同種異系T細胞刺激において優れていることを示すグラフである。
【図9】図9は、HPV曝露後にIRX−2で処理されたヒトランゲルハンス細胞が、高レベルのIL−8およびIP−10を分泌することを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
発明の詳細な説明
本発明は一般に、初代細胞由来の生物学的製剤(IRX−2)の投与により、HPVを処置し、HPV誘導によるLCの免疫抑制を克服する方法を提供する。本発明の処置は、HPVが存続しており、その免疫系がHPVに対して効果的な応答を引き起こすことができない患者を処置するのに効果的である。
【0018】
本明細書で使用する場合、「有効量」とは、本発明の所望の結果を実現する、すなわち、HPVに感染した患者のLCの免疫抑制の逆転を行うのに必要とされる初代細胞由来の生物学的製剤の量をいう。当業者であれば、特定の患者に投与すべき初代細胞由来の生物学的製剤の有効量を決定することができる。
【0019】
「IRX−2」は、「シトプルリキン」とも呼ばれ、cGMPの基準に基づき作製された白血球に由来する天然の初代細胞由来の生物学的製剤であり、フィトヘマグルチニン(PHA)およびシプロフロキサシン(CIPRO)で刺激された精製ヒト白血球(単核細胞)によるものである。主な活性成分は、インターロイキン1β(IL−1β、本明細書ではIL−1ともいう)、インターロイキン2(IL−2)、インターロイキン6(IL−6)、インターロイキン8(IL−8)、腫瘍壊死因子α(TNF−α)およびγ−インターフェロン(IFN−γ)である。好ましくは、本発明に使用されるIRX−2は、これらの6種の重要なサイトカインを含み、これら6種の重要なサイトカインしか含まなくてもよい。IRX−2は以前、天然サイトカイン混合物「NCM(natural cytokine mixture)」とも呼ばれていた。NCMについては、米国特許第6,977,072号および同第7,153,499号に定義され記載されている。本明細書では、IRX−2、初代細胞由来の生物学的製剤およびNCMという用語を同義で使用する。
【0020】
簡単に説明すると、IRX−2は、4−アミノキノロン抗生物質の継続的存在下、マイトジェンの継続的存在またはマイトジェンのパルス的存在(pulsed presence)により調製される。好ましい実施形態では、マイトジェンはPHAである。しかし、他のマイトジェンを使用してもよい。患者に投与するために作製されるIRX−2は、60〜6,000pcg/mL、一層好ましくは150〜1,800pcg/mLの範囲の濃度のIL−1β、600〜60,000pcg/mL、一層好ましくは3,000〜12,000pcg/mLの範囲の濃度のIL−2、ならびに200〜20,000pcg/mL、一層好ましくは1,000〜4,000pcg/mLの範囲の濃度のIFN−γおよびTNF−αを含む。
【0021】
IRX−2は、60〜6,000pcg/mL、一層好ましくは300〜2,000pcg/mLの範囲の濃度のIL−6、6000〜600,000pcg/mL、一層好ましくは20,000〜180,000pcg/mLの範囲の濃度のIL−8、200〜20,000pcg/ml、一層好ましくは1,000〜4,000pcg/mLの範囲の濃度のTNF−αをさらに含んでもよい。組換え、天然またはペグ化サイトカインを使用してもよいし、あるいは、IRX−2は、組換え、天然またはペグ化サイトカインの混合物を含んでもよい。IRX−2は、上記のサイトカインのみを含んでもよい。しかしながら、他のサイトカインを含めてもよい。本発明のIRX−2は、IL−7、IL−12、IL−15、GM−CSF(100〜10,000pcg/mL、一層好ましくは500〜2,000pcg/mLの範囲の濃度)、およびG−CSFなどの他の組換え、天然またはペグ化サイトカインをさらに含んでもよい。IRX−2を作製する方法は、上記の特許のほか、米国特許出願第12/423,601号に開示されている。
【0022】
また、本明細書に開示されたサイトカインに関連する誘導体、フラグメントおよびペプチドも本発明により包含され、こうした誘導体、フラグメントおよびペプチドは、それぞれのサイトカインの生物活性を保持している。
【0023】
IRX−2の複数の活性サイトカイン成分は、T細胞および樹状細胞を含む免疫系の複数の細胞型に作用する。H&NSCC患者の臨床試験では、IRX−2は、安全かつ許容可能であり、生物活性があることが示され、明らかな疾患を伴わない生存および生存全体の両方を導いた。生理的量のサイトカインを含むIRX−2を表面(topically)などの局所に投与することができ、このことは、LCがHPVと遭遇する微小環境を変化させる機会を与えることができる。従来は、単球馴化培地由来の天然サイトカイン混合物、またはTNFα、IL−1β、IL−6およびPGE2を含む組換え炎症性サイトカインの混合物を使用してDCを成熟させ、エキソビボでDCベースのがんワクチンを作製していた。IRX−2の生理的サイトカインのレベルは、エキソビボでのDC成熟化または高用量の全身性サイトカイン治療に使用される組換えサイトカインの濃度より非常に低い。IRX−2のサイトカインが低レベルであるため、IRX−2は、大きな毒性を伴わずに患者に直接注射することができる。
【0024】
IRX−2は、T細胞の活性化および増殖の重要なメディエーターであるいくつかのサイトカインをさらに含む。IRX−2がDC細胞およびT細胞を共に活性化できることは、IRX−2を特に魅力的なものにする。なぜならば、免疫細胞サブセットのまさにこの組み合わせが、ウイルス感染細胞に対する免疫応答を調整するからである。
【0025】
また、化学的インヒビター、非ステロイド系抗炎症剤(NSAID:non−steroidal anti−inflammatory drug)、亜鉛、およびこれらの組み合わせなど他の化合物をIRX−2と共に投与してもよい。
【0026】
化学的インヒビターは、免疫抑制的ではなく(好ましくは低用量で使用)、かつ、たとえば、体内の免疫抑制機構またはサプレッサー機構を阻害することにより免疫および/または免疫応答を増加させるような免疫調節作用を持つ、任意の化学療法剤であってよい。好ましい実施形態によれば、化学的インヒビターは、以下に限定されるものではないが、アルキル化剤、代謝拮抗薬および抗生物質などの抗腫瘍薬である。また、化学的インヒビターは、サリドマイドなどの免疫調節薬であってもよい。さらに化学的インヒビターは、塩または他の複合形態であってもよい。好ましくは、化学的インヒビターは、アルキル化剤シクロホスファミド(CY)である。
【0027】
NSAIDは、好ましくはCoxIおよびCoxII両方のインヒビターであるインドメタシン(INDO)である。また、NSAIDは、イブプロフェン、またはCoxIIインヒビター、例えば、セレコキシブおよびロフェコキシブ、またはこれらの組み合わせであってもよい。
【0028】
一緒に使用される4つの成分(すなわち化学的インヒビター、NSAID、初代細胞由来の生物学的製剤および亜鉛)は、免疫標的により作られる抑制性環境に対処し、患者の細胞免疫応答を回復させることができる。さらに詳しくは、化学的インヒビターは制御性T細胞を阻害し、NSAIDはプロスタグランジンによる局所的免疫抑制を逆転させ、初代細胞由来の生物学的製剤は樹状細胞を活性化し、T細胞を刺激し、アポトーシスからT細胞を保護し、亜鉛はT細胞の機能に重要な栄養素を供給する。この作用の組み合わせにより、内因性抗原および外因性抗原両方に対する免疫応答が促進される。
【0029】
さらに詳しくは、本発明は、HPVに感染した患者に治療有効量のIRX−2を投与し、HPVに対する免疫応答を誘導することにより、HPVを処置する方法を提供する。好ましくは、IRX−2は、上記のようなIL−1、IL−2、IL−6、IL−8、TNF−αおよびIFN−γの6つの重要なサイトカインを含む。また、上記のように別のサイトカインを含めてもよい。また、上記のように化学的インヒビター、NSAIDおよび亜鉛などの別の化合物も投与してもよい。好ましくは、IRX−2は、HPV感染が存在し、免疫応答を誘導する必要があるLCが存在する上皮に注射により投与する。また、子宮頸部への表面適用も好ましい。表面適用の方法として、リポソーム処方物BiphasixTM(Helix Biopharma Corp.,Aurora,Ontario,CA)にIRX−2を分散させ、続いて子宮頸部上皮に適用する方法、Cervical Drug Delivery SystemTM(Cytocore(登録商標),Inc.Chicago,IL)を使用して、IRX−2を生体接着(bioadhesive)ポリマーパッチに吸収させ、続いて子宮頸部上皮に付着させる方法、さらにTracyらへの米国特許第7,165,550号に開示されたような子宮頸部分離送達装置(cervical isolation and delivery apparatus)によりIRX−2溶液を子宮頸部に注入する方法があるが、これに限定されるものではない。
【0030】
一般に、IRX−2は、未成熟樹状細胞を成熟させ、ナイーブT細胞の産生を刺激し、ナイーブT細胞に抗原を効率的に提示することにより免疫系を効果的に「オンにする」働きをする。IRX−2は、HPVに対する免疫応答(これは、HPVのLCに対する免疫抑制作用のためにHPV患者において欠如している)を誘導することにより、HPVを効果的に処置することができる。
【0031】
HPVに対する免疫応答は、LCを活性化することにより誘導される。活性化LCと活性化されていないLCを図3に示す。本質的に、IRX−2は、HPVによるLCの免疫抑制を克服することができる。活性化したLCはその後、HPVに対する免疫応答を誘導するためにT細胞活性化および免疫調節性サイトカインを分泌する。このようにして、HPVを効果的に攻撃する免疫系の能力により、存在しているすべての病変を排除するだけでなく、将来的な病変の出現を防ぐことができる。たとえば、IRX−2は、LCによるIL−8およびILIP−10産生物の分泌を増加させる。LCは、HPV特異的CD8+T細胞を活性化することができる。以下の例に記載されているように、LCの活性化は、CD1a、MHCクラスI、MHCクラスII、CD40、CD80、CD83、CD86およびCCR7のアップレギュレーションにより確認される。
【0032】
本発明はまた、HPVに感染した患者に治療有効量のIRX−2を投与し、LCを活性化することにより、HPV誘導によるLCの免疫抑制を克服する方法を提供する。IRX−2については上述されている。IRX−2は、LCを活性化することにより、HPVに起因するLCの免疫抑制を克服することができる。このため、LCはこの後、T細胞の活性化を効果的に誘導して患者に存在するHPVを攻撃することができる。
【0033】
本発明は、治療有効量のIRX−2を投与し、LCを活性化し、リンパ節へのLCの遊走を誘導することにより、リンパ節へのLCの遊走を増加させる方法を提供する。IRX−2については上述されている。活性なLCは、IRX−2処置後、患者のリンパ節に効率的に遊走し、HPVに罹患している患者において免疫応答を引き起こすことができる。LCは通常、HPVによる免疫抑制によってリンパ節に遊走できない。しかしながら、IRX−2による処置はこの免疫抑制を逆転させるため、LCは、免疫系で効果的に機能することができる。
【0034】
本発明は、HPVに感染した患者に有効量のIRX−2を投与することにより、HPVに対する免疫を生じさせる方法、および新たな病変が発症するのを予防する方法を提供する。IRX−2は、HPVにより抑制されているLCを活性化することができる。活性化LCは、HPVに対する免疫応答を生じさせることができる。免疫系がHPVを活発に認識し、攻撃することができれば、任意の新たな病変の発症を予防することができる。活性化した免疫系は、HPVを効果的に処置し、将来的な疾患の発症を予防することができる。
【0035】
本発明にはいくつかの利点がある。病変は主に、HPVが存続することにより引き起こされるため、感染の免疫学的クリアランスを誘導し、HPVの伝播を予防する介入は、公衆衛生に大きな影響を及ぼす可能性がある。HPVの存続を排除することは、発症すると考えられる各HPV関連がんに対するヘルスケア支出の低下に寄与する。本アプローチは、HPV誘導による病変の発症原因、すなわちHPVの存続、およびそれに関係する免疫回避を標的とするため、繰り返しのスクリーニングまたは費用がかかる外科的介入に対する低コストの代替アプローチであり、高い成功が合理的に期待される。
【0036】
上記の実施形態のいずれにも、以下の投与詳細および/または処置プロトコルが使用される。
【0037】
好ましくは、サイトカイン組成物は、HPVに感染した上皮への注射により局所適用する。あるいは、本発明のサイトカイン組成物は、病変または処置される他のウイルス感染領域(area)の局所リンパ節に流入するリンパ管の周囲に注射してもよい。さらに詳しくは、免疫療法調製物を十分に局在化させるため、局所リンパ周囲注射または当業者に公知の他の注射を施す。
【0038】
外因性抗原を利用する実施形態では、外因的に供給された合成または抽出抗原、例えば、腫瘍抗原およびペプチド(Bellone,1998を参照)を、本発明のサイトカイン組成物と別の調製物において、あるいは本発明のサイトカイン組成物の一部として、刺激前に(pre−prime)または共刺激で(co−prime)局所または遠位リンパ節に投与してもよい。
【0039】
たとえば、がんまたは他の免疫抑制疾患により引き起こされ得るT細胞の内因性抑制は、低用量のシクロホスファミド(CY)および非ステロイド系抗炎症剤(NSAID)との共投与(すなわち、本発明のサイトカイン組成物と組み合わせる)により阻止することができる。NSAIDは、好ましくはインドメタシン(INDO)であるが、イブプロフェン、またはCoxIIインヒビター、例えば、セレコキシブ(CELEBREX(登録商標))もしくはロフェコキシブ(VIOXX(登録商標))、またはこれらの組み合わせも使用してもよい。NSAIDの副作用は、プロトンインヒビターおよびプロスタグランジンEアナログで積極的に処置することができる。また、T細胞免疫を回復しやすくする作用物質として亜鉛およびマルチビタミン(セレンの添加を含む場合もある)を加えてもよい。好ましくは、亜鉛の用量は、15〜75mgである。標準的なマルチビタミンを投与してもよい。亜鉛は、入手可能なグルコネートであってもよい。
【0040】
本発明のサイトカイン組成物は、手術、放射線治療、化学療法、またはこれらの組み合わせの前に投与しても、あるいはそれらの後に投与してもよい。本発明の組成物は、腫瘍の再発中に、すなわち、腫瘍が消えたと考えられるかまたは寛解している期間後に腫瘍増殖が再び起きている期間中に投与してもよい。
【0041】
IRX−2の作用機構
上記で定義したように、本発明の初代細胞由来の生物学的製剤は、アジュバントとして作用する(すなわち、特定の抗原に対する患者の免疫応答を刺激または増強する)。さらに、本発明のIRX−2組成物および方法は、T細胞媒介免疫応答を刺激するのに特に適している。本発明の組成物および方法により促進される免疫応答は、ナイーブT細胞の誘導または産生、T細胞への抗原の適切な提示を可能にする樹状細胞の分化および成熟(たとえば、リンパ節内)、ならびに単球およびマクロファージの活性化を含む。具体的には、本発明の組成物および方法により促進されるがん患者の免疫応答は、リンパ球の腫瘍への浸潤、腫瘍の分断および退縮のほか、洞組織球増殖症の低減(存在する場合)を含む。本質的に、初代細胞由来の生物学的製剤は免疫の発生を誘導し、免疫の破壊を阻止する。初代細胞由来の生物学的製剤の作用機構については、本出願人の米国特許出願第12/323,595号にさらに記載されている。
【0042】
さらに詳しくは、本発明の組成物および方法は、ナイーブT細胞の産生を誘導することにより患者の免疫低下/抑制の克服を支援する。本明細書で定義される「ナイーブ」T細胞という用語は、まだ抗原に曝露されていない新たに産生されたT細胞をいう。したがって、本発明の組成物および方法は、新たなT細胞を補充または産生する。
【0043】
樹状細胞はインビボでの適切な免疫応答が引き起こされる際の抗原提示において、こうした重要な役割を果たすことがわかっているため、樹状細胞の成熟に対して刺激作用を持つ作用物質は、抗原に対して良好な免疫応答を惹起するアジュバントとして作用する。本発明のサイトカイン組成物は、樹状細胞の成熟を促進する。また、本発明のサイトカイン組成物は、単球/マクロファージの強力なアクチベーターとして働くことによりさらなるアジュバント効果を与える。単球は、体内のDCおよびマクロファージの両方の前駆体であるため、単球/マクロファージの活性化を促進する作用物質は、インビボでの免疫応答に対してアジュバント効果を有する。
【0044】
また、初代細胞由来の生物学的製剤は、活性化T細胞をアポトーシスから保護することにより免疫の破壊も阻止する。臨床および実験データから、ある種のサイトカイン、特に共通受容体γ鎖を用いる生存サイトカイン(survival cytokine)は、腫瘍によって誘導される死から活性化T細胞を保護し、抗腫瘍活性を増強できることが示されている。
【0045】
さらに詳しくは、初代細胞由来の生物学的製剤がT細胞をアポトーシスから保護する方法は、いくつか存在する。抗アポトーシスシグナル伝達分子(すなわちJAK−3およびphosphor−Akt)の発現はアップレギュレートされ、アポトーシス誘導分子(すなわちSOCS−2)の発現はダウンレギュレートされる。CD8+およびCD4+Tリンパ球におけるカスパーゼの活性化は低減し、cFLIPの発現は増加する。IRX−2によりPI3K/Akt生存経路の阻害が妨げられる。外部からのアポトーシス(MV誘導性およびFasL誘導性アポトーシス)および内部からのミトコンドリアアポトーシスの両方からT細胞を保護する。
【0046】
外部からのMV誘導性アポトーシスからの保護は、さらに、JAK3、CD3−ζ、およびSTAT5のダウンレギュレーションの防止、Akt−1/2の脱リン酸化の阻害、ならびにBax/Bcl−2、Bax−Bcl−xLおよびBim/Mcl−1のバランスの取れた比率の維持により達成される。また、MV誘導性アポトーシスからの保護は、カスパーゼ−3およびカスパーゼ−7の活性誘導を防止することによっても達成される。さらに詳しくは、活性な切断型のカスパーゼ−3の誘導を、ミトコンドリア膜電位の喪失と同様に阻止する。核内DNAの断片化が阻害される。初代細胞由来の生物学的製剤による、内部からのアポトーシスからの保護は、スタウロスポリン誘導性アポトーシスからの活性化T細胞の保護により示される。
【0047】
重要なのは、初代細胞由来の生物学的製剤のサイトカインが活性化T細胞を相乗的様式でアポトーシスから保護することである。言い換えれば、初代細胞由来の生物学的製剤中のサイトカインの組み合わせにより、個々のサイトカイン単独投与で見られるものよりも、大きな効果が生じる。
【0048】
上記のように、本発明の組成物および方法は、インビボでの樹状細胞の成熟による効果的なペプチド抗原の提示、単球およびマクロファージの活性化、ならびにコミットされていない(uncommitted)ナイーブT細胞の産生など複数の作用を介して免疫系を刺激する。適切な抗原提示は、TおよびB細胞のクローン増殖を引き起こし、患者に免疫を与える。がん患者の場合では、上記の作用は、たとえばリンパ球の腫瘍への浸潤(たとえば、血行性拡散による)、ならびに腫瘍の減少および/または破壊をもたらす。その結果は、免疫記憶による生存の増進である。
【0049】
本発明のサイトカイン組成物は、個々の患者の臨床的状態、投与の部位および方法、投与のスケジュール、患者の年齢、性別および体重を考慮に入れて、外因性抗原あるいは内因性抗原に対して最適な免疫化を促進するように投与および投薬される。したがって、本明細書の目的において、薬学的な「有効量」は、当該技術分野において公知のこうした考慮すべき事項により決定される。この量は、免疫化を促進し、たとえば、腫瘍の減少、腫瘍の分断および白血球の浸潤、再発の遅延もしくは生存率の改善、またはT細胞数の増加を含む症状の改善もしくは排除につながるのに効果的な量でなければならない。
【0050】
本発明の方法では、本発明の組成物を様々な手段で投与してもよい。本発明の組成物に使用されるサイトカインまたは外因性抗原は、標準的な形態で投与しても、または薬学的に許容される誘導体として投与してもよく、単独投与しても、または薬学的に許容されるキャリア、希釈剤、アジュバントおよびビヒクルと組み合わせて活性成分として投与してもよい点に留意されたい。さらに、本発明の組成物は、皮内もしくは皮下投与、またはリンパ周囲もしくはリンパ内投与、節内投与、脾臓内投与、または筋肉内投与、腹腔内投与、および胸腔内投与してもよい。また、本発明の組成物は、たとえば患者の子宮頸部への注入によりHPVに感染した上皮に表面適用してもよい。処置される患者は、温血動物、特に、人間を含む哺乳動物である。薬学的に許容されるキャリア、希釈剤、アジュバントおよびビヒクル、ならびにインプラントキャリアとは一般に、不活性で無毒の固体もしくは液体充填剤、希釈剤、または本発明の活性成分と反応しない被包材料をいう。
【0051】
投与は、単回投与でも、または数日の期間にわたる複数回投与でもよい。本発明の組成物を投与する場合、組成物は一般に、注射可能な単位投薬形態(たとえば、溶液、懸濁物またはエマルジョン)として処方される。注射に好適な薬学的処方物として、無菌水性溶液または分散物、および無菌の注射可能溶液または分散物に再構成される無菌粉末が挙げられる。キャリアは、たとえば、水、エタノール、ポリオール(たとえば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールおよび同様のもの)、これらの好適な混合物、または植物油を含む溶媒または分散媒であってもよい。
【0052】
適切な流動性は、たとえば、レシチンなどのコーティングの使用、分散物の場合には必要とされる粒子サイズの維持、および界面活性剤の使用により維持することができる。また、非水性ビヒクル、例えば、綿実油、ゴマ油、オリーブ油、大豆油、コーン油、ヒマワリ油またはピーナッツ油、およびミリスチン酸イソプロピルなどのエステルも、本発明の組成物の溶媒系として使用してもよい。加えて、抗菌性保存剤、抗酸化剤、キレート剤および緩衝液など、組成物の安定性、無菌性および等張性を増強する様々な添加剤を加えてもよい。微生物の作用の防止については、様々な抗菌薬および抗真菌薬、たとえば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸および同様のものにより確実にすることができる。多くの場合、等張剤、たとえば、糖、塩化ナトリウムおよび同様のものを含ませることが望ましい。注射可能薬学的形態の吸収の延長は、吸収を遅延させる作用物質、たとえば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンの使用により、もたらしてもよい。しかし、本発明によれば、使用される任意のビヒクル、希釈剤または添加剤は、本発明のサイトカインまたは外因性抗原との適合性を有する必要がある。
【0053】
無菌の注射可能溶液は、本発明の実施の際に利用するサイトカインまたは外因性抗原を、必要量の適切な溶媒に、望ましいいくつかの他の成分と共に組み込むことにより調製することができる。
【0054】
本発明の薬理学的処方物を、様々なビヒクル、添加剤および希釈剤など任意の適合性のあるキャリアを含む注射可能処方物において患者に投与してもよい。あるいは、本発明に利用されるサイトカインおよび/または外因性抗原を、徐放性皮下インプラントの形態において、または標的送達系の形態において、例えば、モノクローナル抗体、ベクター送達、イオン導入、ポリマーマトリックス、リポソームおよびミクロスフェアにおいて、患者に非経口的に投与してもよい。本発明に有用な送達系の例として、米国特許第5,225,182号、同第5,169,383号、同第5,167,616号、同第4,959,217号、同第4,925,678号、同第4,487,603号、同第4,486,194号、同第4,447,233号、同第4,447,224号、同第4,439,196号、および同第4,475,196号に開示されているものがある。他の多くのこうしたインプラント、送達系、およびモジュールも当業者によく知られている。
【0055】
本発明の組成物および方法は、上記で論じたようながん、感染症または持続性病変など抗原により引き起こされる疾患の処置に有用であることが明らかであろう。本組成物および方法は、患者の疾患の症状および影響の軽減または排除の助けとなる患者の免疫応答をインビボで刺激することにより、これらの疾患によって産生される抗原に対する免疫化を促進する。
【0056】
本発明について、以下の実験の実施例を参照してさらに詳述する。これらの例は、説明のみを目的として提供するものであり、他に記載がない限り、限定的であることを意図するものではない。したがって、本発明については決して以下の例に限定されるものとして解釈してはらず、本明細書に記載される教示内容により明らかになるあらゆる変更を包含するものとして解釈すべきである。
【実施例】
【0057】
実施例1
ヒトLCの作製
HPVはヒトのみに感染するため、HPVとLCとの相互作用の研究には、ヒト免疫細胞を使用した。ヒト皮膚から単離した初代LCは、遊走プロセスを経て活性化しており、高レベルのMHC分子および共刺激分子を発現している。したがって、インビトロで長期的かつ再現性のある有意義な機能研究を行うために、ヒトドナーから皮膚由来の初代の活性化されていないLCを単離することは不可能である。本実験では、エキソビボで分化サイトカインを用いて、健康なドナーから単離された末梢血単球から初代LCを作製した。循環中の単球は、インビボでの表皮LCの直接の前駆体であった。本出願人らおよび他の人たちは、エキソビボで得られたLCが表皮LCと同じ表面マーカー(Langerin、E−カドヘリン、CD11c、CD1a、高度のMHCクラスII、および細胞内バーベック顆粒)を発現し(図1)、LCのインビトロ研究に一貫して使用できることを明らかにした。
【0058】
図1は、ヒト単球由来ランゲルハンス細胞が皮膚由来のランゲルハンス細胞と同様の表現型マーカーを発現することを示す。未成熟ランゲルハンス細胞は、7日間にわたって、1000IU/mLのGM−CSF、1000IU/mLのIL−4および10ng/mLのTGFβにおいて、接着単球から分化させた。MHCクラスII(HLA−DP、DQ、DR)、CD1a、CD11c、LangerinまたはE−カドヘリンの発現について、細胞をフローサイトメトリーで分析した(網掛けで示したグレーのヒストグラム)。アイソタイプコントロールを網掛けなし黒のヒストグラムで示す。データには、複数の健康なドナーに由来するLCの典型を示す。
【0059】
HPVの免疫回避の逆転
本出願人らは、事前に、LCを標的とすることによりHPVの免疫回避を逆転させる戦略に着手している。LCは、TLR3、7、8および9など様々なTLRを発現し、これらは、病原体関連分子パターン(PAMPs:recognize pathogen−associated molecular patterns)を認識し、リガンドに結合すると細胞を活性化する。驚いたことに、CD86の発現で測定すると、外性器疣贅用にFDAが承認したTLR7アゴニストALDARA(登録商標)(イミキモド、Graceway Pharmaceuticals,LLC)は、LCの活性化にまったく作用しないことが明らかになった(図2)。これにより、子宮頸部病変の処置にイミキモドを使用することは効果がないという、まだ発表されていない観察結果が説明付けられるかもしれない。興味深いことに、TLR8アクチベーター(3M−002)およびTLR7/8アゴニスト(レシキモド)は、HPV感染LCを十分に活性化し、インビトロでそれらはHPV特異的T細胞応答を誘導し始めた。これらのデータから、ある種の「危険シグナル」経路を活性化することにより、HPVによるLC機能の抑制が逆転され得ることが示される。
【0060】
IRX−2によるヒトランゲルハンス細胞の活性化
病原体または他の「危険シグナル」に曝露された後の、表皮から流入領域リンパ節への遊走後、LCがT細胞を十分に刺激することを可能にするには、その細胞表面に共刺激分子およびケモカイン受容体が発現する必要がある。インビトロでのヒト単球由来LCの表現型の成熟に対するIRX−2の作用を調べた。IRX−2による処理は、MHCクラスIおよびMHCクラスIIの両方、ならびに共刺激分子CD40、CD80およびCD86、成熟マーカーCD83のアップレギュレーションを誘導することが明らかになった。LCの活性化は以前記載された通り行った。簡単に説明すると、LCを収集し、洗浄し、無処理のままか、または37℃にて1時間10μg/106細胞の濃度でHPV16L1L2 VLPで処理した。インキュベーション後、細胞を完全培地で37℃にて6時間おいて置いた。次に、細胞を無処理のままか、あるいは、IRX−2(1:2希釈)または陽性コントロールとしての1μg/mLのLPSで処理した。IRX−2処理後、細胞をさらに48時間インキュベートした。細胞を収集し、洗浄し、CD1a、MHCクラスI、MHCクラスII、CD40、CD80、CD83、CD86またはアイソタイプコントロールを染色してフローサイトメトリー分析のための染色を行った。処理群間の表面マーカーの変化倍数をMFI値から算出した。MFIの増加は、マーカーのアップレギュレーションおよびLCの活性化を示す。データは、3人の個々のドナーの典型である。
【0061】
IRX−2の供給源は、フィトヘマグルチニン(PHA)により24時間刺激したヒト末梢血単核細胞から集めた上清であった。QC試験を用いて混合物中のサイトカインレベルを試験し、4つの主要なサイトカインのレベルに従い標準化する。このcGMPによる製造プロセスは、ロットごとのサイトカイン濃度が非常に類似した、高度な一貫性を有する産物を与えた。IRX−2によるLC活性化の一貫性を確実にするため、IRX−2の2つの異なるロットを用いてLCを活性化した。
【0062】
図6に示すように、LCをHPV16 L1L2 VLPに曝露したか否かにかかわらず、6つのLCマーカーの発現はどれもIRX_2処理により強く上昇した。興味深いことに、共刺激分子CD86の上昇は、コントロールよりも、HPV16 LIL2 VLPに曝露されたLCにおいて、さらに効果的であった。95%を超える細胞がCD86を発現し、80%を超えるLCが成熟マーカーCD83を発現した(図示せず)。
【0063】
これらの結果から、IRX−2は、LCの活性化および成熟の強力な誘導因子であり、その有効性は、LCのHPVへの事前の曝露により損なわれないことが示される。
【0064】
実施例2
現在臨床的用途に利用できるIRX−2が、予めHPV16に曝露されたLCを活性化できるか否かを確認する必要がある。LCの活性化マーカー発現に対するIRX−2の作用については実施例1に報告した、次の実験では、サイトカインの分泌、遊走、およびアロ抗原特異的T細胞の活性化を測定することによりIRX−2の強度を試験した。
【0065】
LCのようなAPCの活性化は、初代Tリンパ球との良好な相互作用および初代Tリンパ球の良好な活性化に必要である。炎症性サイトカインは、APCを活性化する能力を有し、抗原提示機能の成熟および増大を引き起こす。IRX−2は、HPVに感染した上皮に局所適用されたときに、LCの免疫刺激能に影響を与える可能性がある有望な免疫モジュレーターである。IRX−2がHPVに曝露されたLCを表現型的および機能的に活性化するか否かを決定するため、サイトカイン/ケモカインの分泌および遊走、ならびにアロ抗原特異的T細胞の応答を刺激する能力について行った。これらの研究により、IRX−2は、TLR8アゴニストと同様にHPVによる免疫抑制を逆転できることが明らかにされた。
【0066】
実験デザイン
LCをHPV16、次いでIRX−2に曝露したときの、LCにおけるT細胞共刺激マーカーの発現レベルを決定した。LCは、健康なドナーから単離した末梢血単球から分化させた。図5に示すようにLCをHPV16ウイルス様粒子(VLP)に6時間曝露し、次いでIRX−2をさらに48時間加えた。蛍光抗体を用いてフローサイトメトリーにより細胞表面分子を測定した。細胞培養上清について免疫刺激性サイトカインおよびケモカインの存在を試験し、LCが活性化してT細胞活性化サイトカインまたは他の免疫調節性サイトカインを分泌しているか否かを決定した。HPV VLPおよびIRX−2への曝露後のLC遊走を、トランスウェルメンブレンを通過するインビトロ遊走により測定した。T細胞の刺激能については、LCを同種異系T細胞と培養して混合リンパ球反応(MLR:mixed lymphocyte reaction)で評価した。各実験では、無処理LC、HPV VLPのみに曝露したLC、およびIRX−2のみで処理したLCをコントロールとする。個々の健康なドナーに由来するLCを用いて各実験を少なくとも3回繰り返した。HLA−A*0201陽性の被験体を選択したため、公知のHPV由来ペプチド抗原に対して、十分に定義されたT細胞免疫応答が測定された。これらのデータは、IRX−2により、HPVに曝露されたLCが、T細胞を刺激する能力、および遊走する能力(有益な抗ウイルス免疫応答にどちらの機能も必要)を取り戻すことができることを示す。
【0067】
ヒトランゲルハンス細胞の作製
初代LCは、エキソビボで分化サイトカインを用いて、匿名の健康なドナーの白血球搬出により単離された市販の末梢血単球から作製した。最初に、低温保存したPBMCの培養フラスコへのプラスチック接着を介して、単球由来LCを作製した。接着細胞を、1000U/mLの組換えヒト(rhu)−GM−CSF、1000U/mLのrhu−IL−4および10ng/mLのrhu−TGF−β1を含む培地で7日間培養し、培養期間に2回補充した。
【0068】
LCの遊走
孔サイズ5μmのポリカーボネートフィルター(Corning Costar)を有する24ウェルトランスウェルプレートを用いてケモカインに対するLCの遊走を行った。250ng/mlのrhu CCL21(R&D Systems)を含む培地を下部チャンバーに加えるか、あるいは培地のみを加えて自然遊走のコントロールとした。上述のような無処理または処理LCを上部チャンバーに加え、37℃で4時間インキュベートした。血球計算盤または自動セルカウンターを用いて、下部チャンバーに遊走した細胞をカウントし、CCL21を用いて遊走した細胞とCCL21を用いずに遊走した細胞との比率としてCCL21依存性遊走を計算し、遊走インデックスとした。遊走インデックスの増加から、組織から流入領域リンパ節に移動するLCの機能的活性化が示された(図7)。
【0069】
IRX−2処理により、コントロールおよびHPV L1L2 VLPの遊走が共に3〜4倍増加した。この結果から、LCがHPVに曝露されていても、IRX−2はLCの局所リンパ節への遊走を促進し得ることが示される。
【0070】
混合リンパ球反応アッセイ
LCを上記のようにHPV16 L1L2 VLPおよびIRX−2で処理した。MACS陰性選択ヒト汎T細胞(negative selection human pan T cell)単離キットを用いて単離した、接触していない(untouched)同種異系T細胞とLCとを共培養した。応答因子(responder)であるT細胞および刺激因子(stimulator)であるLCをR:S比率10:1および5:1で5日間培養した。単独培養のT細胞、単独培養のLC、自系PBMCと培養したT細胞、およびT細胞マイトジェンPHAと培養したT細胞をアッセイのコントロールとした。放射性3H−チミジンパルス細胞を収集し、放射能をシンチレーションプレートカウンターでカウントした。放射能cpmを決定し、処理したものの間で比較した。チミジンの取り込みの増加から、T細胞の増殖の増大が示された。HPV16 L1L2 VLPの曝露およびIRX−2の刺激後にT細胞の増殖が増大したことから、HPV16 L1L2 VLPに曝露されたLCがHPVの存在下で免疫刺激能を取り戻したことが確認された(図8)。
【0071】
サイトカインおよびケモカインの分析
IRX−2で刺激したLCから上清を集め、サイトカインおよびケモカインの分泌について試験した。LCは、上記のように処理した。IRX−2処理から36時間後にLCを洗浄し、上清を収集する前にさらに36時間培養した。こうして、IRX−2混合物中に存在するサイトカインが測定されるのを排除した。本アッセイは、いくつかの炎症分析物、T細胞刺激分析物および化学的誘引分析物を一度にアッセイできるBio−Plex Suspension Array Systemを用いて完了させた。アッセイされたサイトカインおよびケモカインは、IL−8、IFN−γ誘導タンパク質10(IP−10)、単球化学的誘引タンパク質(MCP:Monocyte Chemoattractant Protein)−1、マクロファージ炎症性タンパク質(MIP:Macrophage Inflammatory Protein)−1α、MIP−1β、およびRANTESを含んでいた。データについては、処理群の上清中のサイトカインおよびケモカインの濃度を比較して分析した。Th1関連サイトカインおよびケモカインの分泌の増加は、CD8+T細胞応答の誘導を支持すると考えられるLCの機能的活性化を示すのに対し、抑制性サイトカインの増加はLCの寛容化または抑制機能を示唆する。
【0072】
IRX−2によるLCの処理は、2つのTh1関連ケモカイン、IP−10およびIP10の分泌を著しく増加させた(図9)。どちらのケモカインもプロ炎症性(pro−inflammatory)であり、IP−10は、T細胞、NK細胞、および単球を炎症部位に誘引することが知られている。これらの結果から、IRX−2の刺激下で、L1L2 VLPに曝露されたLCがHPVの存在下で免疫刺激能を取り戻したことが示される。
【0073】
結論
IRX−2は、健康なドナー由来のヒトLCがHPV L1L2 VLPに曝露された後でも、該健康なドナー由来のヒトLCを表現型的および機能的に活性化した。HPVおよびIRX−2処理後のMHCおよび表面活性化分子のレベルの上昇、炎症性およびT細胞活性化サイトカインおよびケモカインの分泌の増加、ならびにケモカインに対する遊走を行う能力の増強(図6〜図9)といったこれらの結果はどれも、HPV誘導によるLCの寛容化の克服、およびHPV感染に対する処置の提供における本発明の有効性を支持するものである。本発明について例示的に記載してきたが、使用してきた用語は本質的に、限定的な言葉ではなく、説明的な言葉であることを意図していることが理解されよう。
【0074】
当然のことながら、上記の本教示内容に照らして本発明の多くの修正および変形が可能である。したがって、添付の特許請求の範囲内において、具体的に記載したもの以外の方法で本発明を実施してもよいことが理解されよう。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトパピローマウイルス(HPV)感染を処置する方法であって、
HPVに感染した患者に治療有効量の初代細胞由来の生物学的製剤を投与するステップ、および
HPVに対する免疫応答を誘導するステップ
を含む、方法。
【請求項2】
前記初代細胞由来の生物学的製剤はIL−1、IL−2、IL−6、IL−8、TNF−αおよびIFN−γを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記初代細胞由来の生物学的製剤は60〜6,000pcg/mLの濃度のIL−1β、600〜60,000pcg/mLの濃度のIL−2、60〜6,000pcg/mLの濃度のIL−6、6000〜600,000pcg/mLの濃度のIL−8、200〜20,000pcg/mLの濃度のTNF−α、および200〜20,000pcg/mLの濃度のIFN−γを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記初代細胞由来の生物学的製剤はIL−7、IL−12、IL−15、GM−CSFおよびG−CSFをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記投与するステップはアルキル化剤、代謝拮抗薬、抗生物質および免疫調節薬からなる群より選択される化学的インヒビターを投与すること、ならびに制御性T細胞を阻害することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記アルキル化剤はシクロホスファミドである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記投与するステップはインドメタシン、イブプロフェン、セレコキシブ、ロフェコキシブおよびこれらの組み合わせからなる群より選択されるNSAIDを投与すること、ならびにプロスタグランジンによる局所的免疫抑制を逆転させることをさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記投与するステップは亜鉛を投与すること、およびT細胞の機能のために栄養素を提供することをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記投与するステップは前記患者の上皮に前記初代細胞由来の生物学的製剤を注射することとしてさらに定義される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記投与するステップは前記患者の上皮に前記初代細胞由来の生物学的製剤を表面適用することとしてさらに定義される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記誘導するステップはランゲルハンス細胞(LC)を活性化するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記LCがT細胞活性化サイトカインおよび免疫調節性サイトカインを分泌して、HPVに対する免疫応答を誘導するステップをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
HPV特異的CD8+T細胞を活性化するステップをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
LCによるIL−8およびILIP−10産生物の分泌を増加させるステップをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
CD1a、MHCクラスI、MHCクラスII、CD40、CD80、CD83、CD86およびCCR7のアップレギュレーションを検出するステップ、ならびにLCが活性化されたことを確認するステップをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
ヒトパピローマウイルス(HPV)誘導によるランゲルハンス細胞(LC)の免疫抑制を克服する方法であって、
HPVに感染した患者に治療有効量の初代細胞由来の生物学的製剤を投与するステップ、および
LCを活性化するステップ
を含む、方法。
【請求項17】
前記初代細胞由来の生物学的製剤はIL−1、IL−2、IL−6、IL−8、TNF−αおよびIFN−γを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
ランゲルハンス細胞(LC)のリンパ節への遊走を増加させる方法であって、
ヒトパピローマウイルス(HPV)に感染した患者に治療有効量の初代細胞由来の生物学的製剤を投与するステップ、
LCを活性化するステップ、および
LCのリンパ節への遊走を誘導するステップ
を含む、方法。
【請求項19】
前記初代細胞由来の生物学的製剤はIL−1、IL−2、IL−6、IL−8、TNF−αおよびIFN−γを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
ヒトパピローマウイルス(HPV)に対する免疫を生じさせる方法であって、
HPVに感染した患者に有効量の初代細胞由来の生物学的製剤を投与するステップ、
HPVに対する免疫を生じさせるステップ、および
新たな病変が発症するのを予防するステップ
を含む、方法。
【請求項21】
前記初代細胞由来の生物学的製剤はIL−1、IL−2、IL−6、IL−8、TNF−αおよびIFN−γを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
ヒトパピローマウイルス(HPV)誘導によるランゲルハンス細胞(LC)の免疫抑制をTLR8アゴニストと同様に逆転させる方法であって、
HPVに感染した患者に治療有効量の初代細胞由来の生物学的製剤を投与するステップ、および
LCを活性化するステップ
を含む、方法。
【請求項23】
ヒトパピローマウイルス(HPV)に曝露されたランゲルハンス細胞(LC)がT細胞を刺激する能力および遊走する能力を回復することを可能にする方法であって、
HPVに感染した患者に治療有効量の初代細胞由来の生物学的製剤を投与するステップ、および
LCを活性化するステップ
を含む、方法。
【請求項1】
ヒトパピローマウイルス(HPV)感染を処置する方法であって、
HPVに感染した患者に治療有効量の初代細胞由来の生物学的製剤を投与するステップ、および
HPVに対する免疫応答を誘導するステップ
を含む、方法。
【請求項2】
前記初代細胞由来の生物学的製剤はIL−1、IL−2、IL−6、IL−8、TNF−αおよびIFN−γを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記初代細胞由来の生物学的製剤は60〜6,000pcg/mLの濃度のIL−1β、600〜60,000pcg/mLの濃度のIL−2、60〜6,000pcg/mLの濃度のIL−6、6000〜600,000pcg/mLの濃度のIL−8、200〜20,000pcg/mLの濃度のTNF−α、および200〜20,000pcg/mLの濃度のIFN−γを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記初代細胞由来の生物学的製剤はIL−7、IL−12、IL−15、GM−CSFおよびG−CSFをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記投与するステップはアルキル化剤、代謝拮抗薬、抗生物質および免疫調節薬からなる群より選択される化学的インヒビターを投与すること、ならびに制御性T細胞を阻害することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記アルキル化剤はシクロホスファミドである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記投与するステップはインドメタシン、イブプロフェン、セレコキシブ、ロフェコキシブおよびこれらの組み合わせからなる群より選択されるNSAIDを投与すること、ならびにプロスタグランジンによる局所的免疫抑制を逆転させることをさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記投与するステップは亜鉛を投与すること、およびT細胞の機能のために栄養素を提供することをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記投与するステップは前記患者の上皮に前記初代細胞由来の生物学的製剤を注射することとしてさらに定義される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記投与するステップは前記患者の上皮に前記初代細胞由来の生物学的製剤を表面適用することとしてさらに定義される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記誘導するステップはランゲルハンス細胞(LC)を活性化するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記LCがT細胞活性化サイトカインおよび免疫調節性サイトカインを分泌して、HPVに対する免疫応答を誘導するステップをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
HPV特異的CD8+T細胞を活性化するステップをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
LCによるIL−8およびILIP−10産生物の分泌を増加させるステップをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
CD1a、MHCクラスI、MHCクラスII、CD40、CD80、CD83、CD86およびCCR7のアップレギュレーションを検出するステップ、ならびにLCが活性化されたことを確認するステップをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
ヒトパピローマウイルス(HPV)誘導によるランゲルハンス細胞(LC)の免疫抑制を克服する方法であって、
HPVに感染した患者に治療有効量の初代細胞由来の生物学的製剤を投与するステップ、および
LCを活性化するステップ
を含む、方法。
【請求項17】
前記初代細胞由来の生物学的製剤はIL−1、IL−2、IL−6、IL−8、TNF−αおよびIFN−γを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
ランゲルハンス細胞(LC)のリンパ節への遊走を増加させる方法であって、
ヒトパピローマウイルス(HPV)に感染した患者に治療有効量の初代細胞由来の生物学的製剤を投与するステップ、
LCを活性化するステップ、および
LCのリンパ節への遊走を誘導するステップ
を含む、方法。
【請求項19】
前記初代細胞由来の生物学的製剤はIL−1、IL−2、IL−6、IL−8、TNF−αおよびIFN−γを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
ヒトパピローマウイルス(HPV)に対する免疫を生じさせる方法であって、
HPVに感染した患者に有効量の初代細胞由来の生物学的製剤を投与するステップ、
HPVに対する免疫を生じさせるステップ、および
新たな病変が発症するのを予防するステップ
を含む、方法。
【請求項21】
前記初代細胞由来の生物学的製剤はIL−1、IL−2、IL−6、IL−8、TNF−αおよびIFN−γを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
ヒトパピローマウイルス(HPV)誘導によるランゲルハンス細胞(LC)の免疫抑制をTLR8アゴニストと同様に逆転させる方法であって、
HPVに感染した患者に治療有効量の初代細胞由来の生物学的製剤を投与するステップ、および
LCを活性化するステップ
を含む、方法。
【請求項23】
ヒトパピローマウイルス(HPV)に曝露されたランゲルハンス細胞(LC)がT細胞を刺激する能力および遊走する能力を回復することを可能にする方法であって、
HPVに感染した患者に治療有効量の初代細胞由来の生物学的製剤を投与するステップ、および
LCを活性化するステップ
を含む、方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公表番号】特表2013−512967(P2013−512967A)
【公表日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543241(P2012−543241)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【国際出願番号】PCT/US2010/059450
【国際公開番号】WO2011/072006
【国際公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(503156286)アイアールエックス セラピューティクス, インコーポレイテッド (5)
【出願人】(512150679)
【出願人】(512150680)
【出願人】(512150691)
【出願人】(512150705)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【国際出願番号】PCT/US2010/059450
【国際公開番号】WO2011/072006
【国際公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(503156286)アイアールエックス セラピューティクス, インコーポレイテッド (5)
【出願人】(512150679)
【出願人】(512150680)
【出願人】(512150691)
【出願人】(512150705)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]