説明

ランセット穿刺デバイス

【課題】使用済みランセットの再使用防止が図られ、かつ、発射操作性が向上した穿刺デバイスを提供すること。
【解決手段】穿刺針を備えたランセット、および、穿刺針の発射を引き起こすトリガー部材を有して成るランセット穿刺デバイスであって、トリガー部材が、第1トリガー部、および、該第1トリガー部を被うように設けられた第2トリガー部を有して成り、穿刺針の発射前の状態ではランセットが第1トリガー部に係止しており、穿刺針の発射に際して、第2トリガー部を外側から押圧すると、該第2トリガー部によって第1トリガー部の変位が引き起こされ、それによって、第1トリガー部に対するランセットの係止が解除されて穿刺針が発射されることを特徴とするランセット穿刺デバイス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は穿刺デバイスに関する。より詳細には、本発明は、血液採取に供されるランセット穿刺デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病患者の血糖値の測定には、その患者の血液を採取する必要がある。採取される血液は微少量であってよい。従って、血糖値の測定には、血液を少量採取することができる穿刺デバイスが使用される。かかる穿刺デバイスは、身体の所定箇所を穿刺するための穿刺針が設けられたランセット(例えば特許文献1)およびインジェクターから一般に構成されている。インジェクターは、ランセットを所定箇所に向かって発射させる機能を有している。使用に際しては、ランセットをインジェクターに装填した後、インジェクター内のプランジャーを用いてランセットを発射させ、所定箇所を穿刺する。
【0003】
糖尿病患者の血液採取に用いる穿刺デバイスには、衛生面や安全性の点で望ましいものが求められる。特に、使用済みランセットの取り扱いには注意が必要とされる。穿刺後のランセットにおいては、通常、被採血者の血液が付着した穿刺針がランセット本体から露出しているからである。従って、このような穿刺針に、被採血者以外の人、例えば採血作業を実施する看護師および医師等の医療従事者の身体が誤って触れてしまった場合、穿刺針が身体を傷付けてしまう可能性があり、その結果、傷口から被採血者の血液が医療従事者の体内に入り込み、感染症に罹ってしまうという危険がある。
【0004】
また、穿刺デバイスは、使用時の操作特性の点でも望ましいものが求められる。特に、ユーザーフレンドリーの観点から、穿刺針の発射操作が確実かつ容易であるものが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許明細書第5385571号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本出願人は、これまでに以下で説明する穿刺デバイスについて発明を為しており、その発明に関する出願を行っている(国際特許公開第2007/018215号公報、出願日:2006年8月8日、発明の名称:「穿刺デバイスならびにそれを構成するランセットアッセンブリおよびインジェクターアッセンブリ」)。図面を参照しながら、この発明に係るランセットアッセンブリおよびインジェクターアッセンブリを簡潔に説明する(以後では、「インジェクターアッセンブリ」を「インジェクター」とも称して説明する)。図23にランセットアッセンブリ100’の外観を示すと共に、図24にインジェクター200’の外観を示す。図23に示すように、ランセットアッセンブリ100’は、ランセット101’および保護カバー102’から構成されている。図25および図26に示すように、ランセット101’は、ランセットボディ104’、ランセットキャップ106’および穿刺針105’を有して成る。金属製の穿刺針105’は、樹脂製のランセットボディ104’およびランセットキャップ106’にまたがって存在している。穿刺針105’の先端部は、ランセットキャップ106’によってカバーされていると共に、ランセットキャップ106’とランセットボディ104’とが弱化部材108’を介して一体に結合している。図23および図26に示すように、保護カバー102’は、ランセットボディ104’の一部を包囲するように設けられている。このようなランセットアッセンブリ100’は、インジェクター200’に装填された後でランセットキャップ106’が取り外される。これにより、穿刺針105’の先端部が露出するので、ランセットを穿刺に供すことができる。
【0007】
図24に示すインジェクター200’は、ランセットアッセンブリ100’と組み合わせて用いて、穿刺針105’の先端が露出した状態のランセットボディを発射することができるデバイスである。インジェクター200’は、「ランセットボディの後端部と係合でき、ランセットボディを穿刺方向に発射させるプランジャー204’」を有して成る(図27参照)。ランセットアッセンブリ100’をインジェクター200’に装填するに際しては、図27に示すように、ランセットアッセンブリ100’をインジェクター200’の前端開口部214’から挿入する。ある程度挿入すると、図28に示すように、ランセットアッセンブリ100’の後方部分116’が、プランジャー204’の先端部264’, 266’によって把持される。引き続いて挿入を継続すると、プランジャー204’が後退して発射エネルギーが蓄積される。つまり、プランジャー204’の後退により、プランジャー204’に設けられたバネ(図示せず)が圧縮する(従って、その圧縮状態を解放すると、プランジャーが前方へと瞬時に移動し、ランセットが発射されることになる)。プランジャーが後退して発射エネルギーが蓄積された状態のインジェクター200’を図29に示す。
【0008】
ランセットアッセンブリ100’のインジェクター200’への装填が完了すると、ランセットキャップ106’を取り外して穿刺針105’の先端を露出させる。ランセットキャップ106’の取外しについて説明すると次のようになる。図25および図26に示すように、ランセットボディ104’とランセットキャップ106’とは、その間に位置する弱化部分108’によって一体に結合されている。かかる弱化部材108’は、ランセットボディ104’とランセットキャップ106’とを穿刺針の周囲で相対的に反対方向に回すことによって破壊させることができ(図29にはG方向に回す態様が示されている)、それによって、ランセットキャップ106’を取り外すことができる。
【0009】
穿刺に際しては、例えば指先などの穿刺すべき所定の部位に対してインジェクター200’の前端開口部214’をあてがった後、トリガー部材514’のプレス部分542’を押す(図30参照)。かかるプレス部分542’の押し込みによって、プランジャー204’が前方へと発射され(つまり、圧縮されていたバネが解放され)、穿刺針によって穿刺が行われることになる。
【0010】
ここで、上述したような穿刺デバイスについては、一旦穿刺に供した穿刺針が再度使用される虞がある。つまり、穿刺後にて何らかの手段によってプランジャー204’の後退が可能であると、図30に示すような“穿刺可能状態”を再度得ることが可能となり、使用済みランセットが穿刺に供されてしまう。
【0011】
また、上述したような穿刺デバイスではトリガー部材514’の板バネ機能を利用してトリガー部材とランセットボディとの係合を解除しているところ、穿刺針の発射に際してはプレス部分542’を確実に押し込む必要があり、プレス部分542’の押圧ポイントによってはトリガー部材の板バネ機能が効果的に発揮されにくいことが懸念される。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みて為されたものである。つまり、本発明の課題は、使用済みランセットの再使用防止が図られた穿刺デバイスを提供することである。また、本発明の別の課題は、発射操作性が向上した穿刺デバイスを提供することでもある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明では、穿刺針を備えたランセット、および、穿刺針の発射を引き起こすトリガー部材を有して成るランセット穿刺デバイスであって、
トリガー部材が、第1トリガー部、および、該第1トリガー部を被うように設けられた第2トリガー部を有して成り、
穿刺針を発射する前の状態ではランセットが第1トリガー部に係止しており、
穿刺針の発射に際して、第2トリガー部を外側から押圧すると、該第2トリガー部によって第1トリガー部の変位が引き起こされ、それによって、第1トリガー部に対するランセットの係止が解除されて穿刺針が発射されることを特徴とするランセット穿刺デバイス。
【0014】
本発明に係るランセット穿刺デバイスの特徴の1つは、そのトリガー機構が「変位可能な第1トリガー部」と「第1トリガー部の変位を引き起こす第2トリガー部」と実質的に2つの要素から構成されていることである。かかるトリガー機構では、第2トリガー部を内側へと押し込むと、その第2トリガー部が第1トリガー部の変位を引き起こし、第1トリガー部に対するランセットボディの係止が解除される。
【0015】
本明細書において「変位」という用語は、外力に起因して物体・部材の少なくとも一部の位置、配置または形状などの形態が変化することを実質的に意味している。例示すると、「変位」には、動く、傾く、撓むなどの態様変化が含まれ得る。
【0016】
ある好適な態様では、第1トリガー部の変位として第1トリガー部の前方端および後方端が互いに逆方向に動く。つまり、第1トリガー部の一方の端部と他方の端部とが相互に逆方向に移動する。例えば、第2トリガー部との接触に起因して第1トリガー部の前方側が内側へと押し込まれる場合、第1トリガー部の前方端が内側に向かって動く一方、第1トリガー部の後方端が外側に向かって動く。
【0017】
ある好適な態様では、ランセット穿刺デバイスが“ランセットを収納する収納部材”を更に有して成る。かかる場合、トリガー機構の第1トリガー部および第2トリガー部の双方がランセット収納部材と一体的に形成されて成ることが好ましい。
【0018】
第1トリガー部および第2トリガー部はそれぞれ長尺形状を有していることが好ましく、それらが相互に重なるように整列して設けられていることが好ましい。かかる場合、第1トリガー部は、その内側面に支点を有し、第1トリガー部の前方端および後方端の双方が自由端を成していることが好ましい。それに対して、第2トリガー部は、その後方端が固定端を成す一方、その前方端が自由端を成していることが好ましい。
【0019】
ある好適な態様では、第1トリガー部がその後方端にトリガー固定用係合部aを有して成る一方、第2トリガー部がその内側面にトリガー固定用被係合部aを有して成る。かかる場合、第1トリガー部の変位が引き起こされた際、第1トリガー部のトリガー固定用係合部aと第2トリガー部のトリガー固定用被係合部aとが相互に係合することになり、その結果、第1トリガー部が以後にて変位前の状態へと戻ることができなくなる。また、そのような態様に代えて又はそのような態様に加えて、第1トリガー部が連結されて成るトリガー支持台を更に有して成り、第1トリガー部がその前方端にトリガー固定用係合部bを有して成る一方、トリガー支持台がトリガー固定用被係合部bを有して成るものであってもよい。かかる場合、第1トリガー部の変位が引き起こされた際、第1トリガー部のトリガー固定用係合部bとトリガー支持台のトリガー固定用被係合部bとが相互に係合することになり、それによって、第1トリガー部が以後にて変位前の状態へと戻ることができなくなる。本発明のランセット穿刺デバイスでは、第1トリガー部が変位前の状態に戻れないことに起因して、再び穿刺可能な状態を得ることができないようになっている。つまり、穿刺針が発射された後においては、第1トリガー部が変位前の状態に戻れないので、ランセットを第1トリガー部に係止させることができず発射前の状態へと戻せない。
【0020】
尚、第1トリガー部が連結されて成るトリガー支持台は、ランセット収納部材と一体的に形成されていてもよい。つまり、第1トリガー部がトリガー支持台を介してランセット収納部材と一体的に形成されて成るものであってよい。
【0021】
ある好適な態様では、穿刺針をカバーするランセットキャップに突起部が設けられている。穿刺針がランセットキャップによりカバーされている状態では、ランセットキャップの突起部が、第2トリガー部と当接できるように第2トリガー部の直ぐ下方に位置しており、それによって、第2トリガー部の外側からの押圧に対して第1トリガー部の変位が防止されていることが好ましい。特に好ましくは、ランセットキャップの突起部が第2トリガー部の前方端とトリガー支持台との間に位置するように第2トリガー部の直ぐ下方に設けられている。このような態様では、ランセットキャップが穿刺針から取り外されると、外側からの押圧によって第2トリガー部を内側へと押し込むことができ、第1トリガー部の変位を引き起こすことができる。
【0022】
本発明では、上述のトリガー機構を好適に備えたランセット穿刺デバイスが提供される。かかる本発明のランセット穿刺デバイスは、ランセット、射出バネおよびそれらを収容するランセット収納部材から成り、
ランセットが、ランセットボディ、ランセットキャップおよび穿刺針を有して成り、穿刺針がランセットボディおよびランセットキャップにまたがってこれらの中に存在しており、
ランセット収納部材と一体的に設けられたトリガー部材が、第1トリガー部と該第1トリガー部を被うように位置する第2トリガー部とを有して成り、
射出バネがランセットボディに取り付けられ、穿刺前では射出バネの圧縮状態が維持されるようにランセットボディが第1トリガー部に係止しており、
ランセットキャップが取り外されると、外側からの押圧によって第2トリガー部を内側へと押し込むことができ、それによって、第1トリガー部の変位が引き起こされ、第1トリガー部に対するランセットボディの係止が解除されることを特徴とする。好ましくは、ランセット穿刺デバイスは、ランセット収納部材の外側に装着される外装部材(つまり、ランセット収納部材を少なくとも部分的に包囲する部材)を更に有して成る。
【0023】
かかるランセット穿刺デバイスでは、第1トリガー部と第2トリガー部とから構成されたトリガー機構によってランセットボディの係止を解除し、それによって、圧縮されていた射出バネが伸びることに起因して「露出した穿刺針を備えたランセットボディ」が穿刺方向へと発射されることになる。このようなランセット穿刺デバイスにおいては、ランセットボディに対して“弾性部”を設けることが好ましい。弾性部が設けられている場合、ランセットボディが発射されて穿刺方向に移動する際、ランセットボディの移動に伴って弾性部がランセット収納部材および/または外装部材の内壁面を擦動する。
【0024】
更に、本発明では、好適な射出バネ取付け部を備えたランセット穿刺デバイスも提供される。かかるランセット穿刺デバイスは、
ランセット収納部材の後方側内壁に設けられたバネ取付け部に対して射出バネが取り付けられており、
バネ取付け部が、自由端と固定端とを有する長尺部材(特に“全体が矩形状の略板状部材”)が湾曲して成る形態を有していることを特徴とする。例えば、バネ取付け部においては、自由端と固定端とを有する長尺部材が釣針形態やU字状形態などのフック形態を有している。このような射出バネ取付け部は、ランセット穿刺デバイスの組立てを容易にし得る(特に、かかる射出バネ取付け部が設けられていることによって、射出バネをランセット収納部材の開口部を介して取り付ける際に容易な取り付けが実現される)。
【発明の効果】
【0025】
本発明のランセット穿刺デバイスでは、穿刺針を一旦発射させると、第1トリガー部が変位前の状態に戻れないことに起因して、ランセットを第1トリガー部に係止させることができない。それゆえ、穿刺針を一旦発射させると発射前の状態へと戻すことができない。つまり、本発明のランセット穿刺デバイスは、一旦穿刺に供した穿刺針を使用できない構造となっている。従って、使用済みの穿刺針が再使用される虞がなく、衛生面や安全性の点で望ましい。使用者にとってみれば、本発明のランセット穿刺デバイスを“使い捨てタイプ”/“ディスポーザブル・タイプ”として用いるしかなく、被採血者の衛生が必然的に確保されることになる。
【0026】
また、本発明のランセット穿刺デバイスでは、第1トリガー部を被うように設けられた第2トリガー部を押圧すると、第2トリガー部の押し込みによって第1トリガー部の変位が効果的に引き起こされる。特に、第1トリガー部を全体的に被うように設けられた第2トリガー部のどの部分を押圧しても、第1トリガー部の変位が引き起こされるようになっている。従って、第2トリガー部の押圧ポイントに依存することなく、穿刺針を発射させることができ、使用時の操作特性の点で望ましい。つまり、穿刺針の発射操作が確実かつ容易であり、ユーザーフレンドリーに資する穿刺デバイスが供される。尚、本発明のランセット穿刺デバイスは、指で摘める程度の細いサイズであることからその点でも実際の使用操作性は向上している。
【0027】
更にいえば、本発明のランセット穿刺デバイスは、「ランセット」と「射出バネ」と「ランセット収納部材」といった3つのパーツ、ないしは、それに「外装部材」を加えた4つパーツから実質的に構成されているので、デバイ構成が非常にシンプルとなっており、かつ全体的なサイズも小さい。特に、本発明のランセット穿刺デバイスでは、ランセット収納部材内に“ランセット”および“射出バネ”が収容されることを主とした比較的簡易な構成となっている共に、デバイスの全体サイズを決定付けるランセット収納部材のサイズが、ランセットの小さいサイズに実質的に相当している。その結果、本発明のランセット穿刺デバイスは、製造が容易であるだけでなく、運搬効率・保管スペースの点でも優れている。更には、自由端と固定端とを有する湾曲形態の長尺部材から成るバネ取付け部(射出バネの取付け部)が設けられている場合においては、ランセット穿刺デバイスの組立てが容易となるので、本発明のランセット穿刺デバイスは組立効率・製造効率の点でも優れているといえる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、本発明のランセット穿刺デバイスを模式的に示した図である。
【図2】図2は、第1トリガー部の“変位”の態様を示した模式的断面図である。
【図3】図3は、ランセット収納部材と一体成形されて成るトリガー部材の態様を示した斜視図である。
【図4】図4は、ランセット収納部材(ランセットが収納された状態)と一体成形されて成るトリガー部材の態様を示した斜視図である。
【図5】図5は、第1トリガー部および第2トリガー部の構造的特徴を示した模式的断面図である。
【図6】図6は、押込み操作時のトリガー機構の経時変化を示した模式的断面図である。
【図7】図7は、ランセットキャップに突起部が設けられている態様を示した斜視図および断面図である。
【図8】図8は、穿刺針がランセットキャップでカバーされている時点におけるランセット穿刺デバイスの態様を表した斜視図である。
【図9】図9は、ランセットキャップが穿刺針から取り外された時点におけるランセット穿刺デバイスの態様を表した斜視図である。
【図10】図10は、本発明のランセット穿刺デバイスの外観図である。
【図11】図11は、本発明のランセット穿刺デバイスの外観図および分解斜視図である。
【図12】図12(a)および(b)は、本発明のランセット穿刺デバイスの内部構造を示した斜視図および断面図である。
【図13】図13(a)〜(c)は、ランセット穿刺デバイスに用いられるランセット収納部材の斜視図および側面図である。
【図14】図14(a)〜(c)は、ランセット穿刺デバイスに用いられるランセットの斜視図、側面図および断面図である。
【図15】図15は、ランセット穿刺デバイスに用いられる射出バネの斜視図である。
【図16】図16は、ランセット穿刺デバイスに用いられ得る外装部材の斜視図である。
【図17】図17(a)〜(c)は、本発明のランセット穿刺デバイスの内部構造を示した断面図である。
【図18】図18は、発射された後のランセット穿刺デバイスの態様を模式的に示すと共に、“テーパー部によるランセット収納部材の内径低減”を模式的に示している
【図19】図19(a)〜(d)は、穿刺時における穿刺深さ調整機構を主として説明するための断面図である。
【図20】図20(a)〜(e)は、ランセット穿刺デバイスの使用時の態様を模式的に示した斜視図である。
【図21】図21(a)〜(c)は、ランセット穿刺デバイスの組立て時におけるバネ取付け部の経時態様を示した模式図である。
【図22】図22は、本発明に係るランセット穿刺デバイスの外観の変更例を模式的に示した斜視図である。
【図23】図23は、ランセットアッセンブリの外観を表した斜視図である。
【図24】図24は、インジェクターの外観を表した斜視図である。
【図25】図25は、ランセットの外観を表した斜視図である。
【図26】図26は、ランセットの内部が分かるように、図25のランセットを半分割した場合の斜視図である。
【図27】図27は、ランセットアッセンブリがインジェクターに装填される前の態様を示した斜視図である。
【図28】図28は、ランセットアッセンブリの装填によりランセットがプランジャー先端部に把持された態様を示した斜視図である。
【図29】図29は、ランセットアッセンブリの装填が完了し、プランジャーが後退できない状態となった態様を示した斜視図である。
【図30】図30は、ランセットキャップが外されて穿刺可能状態となった態様を示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
添付図面を参照して本発明のランセット穿刺デバイスについて詳細に説明する。
【0030】
本明細書で用いる“方向”については次の通り規定する。穿刺に際して穿刺針が発射される方向が「前」方向であり、その反対の方向が「後」方向である。「前方向」は、採血されるべき穿刺部位に向かって穿刺針が移動する方向を実質的に意味しており、“穿刺方向”に相当する。また、ランセット穿刺デバイス(特にランセット収納部材)の内部・中央部に向かう方向が「内方向」ないしは「内側」であり、その逆の方向でランセット穿刺デバイス(特にランセット収納部材)の内部・中央部から外側へと向かう方向が「外方向」ないしは「外側」である。このような「前方」、「後方」、「内側」および「外側」は、図面に示している。
【0031】
《ランセット穿刺デバイスのトリガー機構》
図1は、本発明に係るランセット穿刺デバイス600を示している。図示するように、ランセット穿刺デバイス600は、穿刺針150を備えたランセット100、および、穿刺針の発射を引き起こすトリガー部材200を有して成る。
【0032】
トリガー部材200は、第1トリガー部200Aと第2トリガー部200Bと実質的に2つの要素から構成されている。第2トリガー部200Bがより外側に位置し、第1トリガー部200Aがより内側に位置している。図示するように、より外側に位置する第2トリガー部200Bが、より内側に位置する第1トリガー部200Aを被うように設けられている。つまり、第1トリガー部200Aと第2トリガー部200Bとが相互に重なるように整列する形態において第2トリガー部200Bが第1トリガー部200Aのより外側に位置しているといえる。
【0033】
第1トリガー部200Aおよび第2トリガー部200Bは、図1に示すように、長尺形状を有していることが好ましい。特に『第2トリガー部200Bが第1トリガー部200Aに被さる』といった点でいえば、第2トリガー部200Bの全体サイズは第1トリガー部200Aの全体サイズよりも大きいことが好ましい。例えば、第2トリガー部200Bは、その内側面によって第1トリガー部が収まる空間を規定して成る形状(例えば全体として湾曲した形状)を有するものであってよい。
【0034】
図1(a)は、穿刺針が発射される前の状態を示している。図示するように、発射前のランセット穿刺デバイス600においては、ランセット100が第1トリガー部200Aに係止している。具体的には、ランセット100に対して発射エネルギーが蓄積された状態(例えばバネなどによって付勢された状態)でランセット100が第1トリガー部200Aに係止している。
【0035】
穿刺針の発射に際しては、第2トリガー部200Bが外側から押圧される。これによって、第1トリガー部200Aの変位が引き起こされ、第1トリガー部200Aとランセット100との係止状態が解除される(図1(b)参照)。係止状態が解除されると、蓄積されていたエネルギーが解放され、穿刺針を備えたランセット100が穿刺方向へと発射されることになる。
【0036】
このようなトリガー機構では、第1トリガー部200Aを全体的に被うように設けられた第2トリガー部200Bのどの部分を押圧しても、第1トリガー部の変位が引き起こされる。従って、第2トリガー部の押圧ポイントに依存することなく、穿刺針を確実に発射させることができる。
【0037】
第1トリガー部の変位についていえば、図2(a)および(b)に示すように、第1トリガー部200Aの前方端210Aおよび後方端220Aが互いに逆方向に動くことが好ましい。例えば、第1トリガー部200Aの前方端210Aが内側に向かって動く一方、第1トリガー部200Aの後方端220Aが外側に向かって動くことが好ましい(図2(b)参照)。換言すれば、第1トリガー部200Aのボディ部分を支点にして、いわゆる“シーソー”のように第1トリガー部200Aが動くことが好ましい。ちなみに、図2(a)に示すように第2トリガー部200Bの内側面と第1トリガー部200Aの前方側215Aとが相互に接触または近接した状態となっているので、第2トリガー部220Bが内部へと押し込まれると、第1トリガー部200Aの前方端210Aが内側に向かって動くと共に、第1トリガー部200Aの後方端220Aが外側に向かって動くことが好適に助力されることになる。
【0038】
本発明のランセット穿刺デバイスは、ランセットを収納する“ランセット収納部材”を有して成ることが好ましい。例えば、ランセット穿刺デバイスは、図3および図4に示すようなランセット収納部材300を有して成る。図示する態様から分かるように、第1トリガー部200Aおよび第2トリガー部200Bの双方はランセット収納部材(特に収納本体部)と一体的に形成されていることが好ましい。ランセット収納部材が樹脂製である場合、第1トリガー部200Aと第2トリガー部200Bとランセット収納部材300とが一体成形されて成るものであることが好ましい。尚、好適にはトリガー支持体350が設けられるので(“トリガー支持体”については後述する)、そのような場合では、第1トリガー部200A、第2トリガー部200B、トリガー支持体350およびランセット収納部材300の全てが一体成形されて成るものであることが好ましい。
【0039】
図5に示す態様から分かるように、第1トリガー部200Aは、その内側面に支点250Aを有しており、その前方端210Aおよび後方端220Aが自由端を成していることが好ましい。一方、第2トリガー部200Bは、その後方端220Bが固定端を成す一方、その前方端210Bが自由端を成していることが好ましい。かかる態様では、第2トリガー部200Bの押し込みによって、第1トリガー部200Aの変位が効果的に助力される。具体的には、第1トリガー部200Aの前方端210Aが内側に向かって動く一方、第1トリガー部200Aの後方端220Aが外側に向かって動くことが効果的に助力されることになる。尚、第1トリガー部200Aの支点250Aの位置などに依存し得ることではあるが、前方端210Aの内側への移動距離と後方端220Aの外側への移動距離とが異なっていてもよい。例えば、図5に示すように支点250Aを第1トリガー部200Aのより後方側に設け、それによって、「前方端210Aの内側への移動距離」を「後方端220Aの外側への移動距離」よりも大きくしてもよい。
【0040】
本発明に係るランセット穿刺デバイスは、トリガー係合固定機能を好ましくは備えている。具体的には、穿刺操作により第1トリガー部の変位が引き起こされた際、その第1トリガー部の変位状態が維持されるような固定機能を備えていることが好ましい(特に、“係合”を介して第1トリガー部の変位状態が固定されることが好ましい)。
【0041】
例えば、図6(a)に示すように、第1トリガー部200Aがその後方端220Aにトリガー固定用係合部a(225A)を有して成る一方、第2トリガー部200Bがその内側面201Bにトリガー固定用被係合部a(240B)を有して成る。かかる場合、第1トリガー部200Aの変位が引き起こされた際、第1トリガー部200Aのトリガー固定用係合部a(225A)と第2トリガー部200Bのトリガー固定用被係合部a(240B)とが相互に係合することになる。具体的には、第2トリガー部200Bが内部へと押し込まれると、第1トリガー部200Aの前方端210Aが内側に向かって動く一方、第1トリガー部200Aの後方端220Aが外側に向かって動くことになり(図6(b)参照)、その結果、第1トリガー部200Aのトリガー固定用係合部a(225A)と第2トリガー部200Bのトリガー固定用被係合部a(240B)とが相互に係合する。このように係合すると、変位が引き起こされた第1トリガー部200Aが固定された状態となり、第1トリガー部200Aが元の変位前の状態には戻ることができないようになる(図6(c)参照)。このような係合が効果的に助力されるように、第1トリガー部200Aのトリガー固定用係合部a(225A)と第2トリガー部200Bのトリガー固定用被係合部a(240B)とが互いに相補的な形状を有していることが好ましい(例えば、図6に示すように、トリガー固定用係合部a(225A)およびトリガー固定用被係合部a(240B)の双方がフック形状を有するものであってよい)。
【0042】
また、同じく図6(a)に示すように、ランセット穿刺デバイスが「第1トリガー部200Aが連結されて成るトリガー支持台350」を有して成る場合では、第1トリガー部200Aがその前方端210Aにトリガー固定用係合部b(255A)を有して成る一方、トリガー支持台350がトリガー固定用被係合部b(355)を有して成るものであってもよい。かかる場合、第1トリガー部200Aの変位が引き起こされた際、第1トリガー部200Aのトリガー固定用係合部b(255A)とトリガー支持台350のトリガー固定用被係合部b(355)とが相互に係合することになる。具体的には、第2トリガー部200Bが内部へと押し込まれると、第1トリガー部200Aの前方端210Aが内側に向かって動くことになり(図6(b)参照)、その結果、第1トリガー部200Aのトリガー固定用係合部b(255A)とトリガー支持台350のトリガー固定用被係合部b(355)とが相互に係合する。このように係合すると、変位が引き起こされた第1トリガー部200Aが固定された状態となり、第1トリガー部200Aが元の変位前の状態には戻ることができないようになる(図6(c)参照)。このような係合が効果的に助力されるように、トリガー固定用被係合部b(355)がフック形状を有する一方、トリガー固定用係合部b(255A)が第1トリガー部200Aの先端にて突出形状を成していることが好ましい(図6(a)参照)。ちなみに、トリガー支持台350は、図3および図6に示すように、第1トリガー部200Aが連結されて成るものであって、第1トリガー部200Aをランセット収納部材300に支持ないしは固定するものである。特に、第1トリガー部200Aとトリガー支持台350との連結部分・接合部分が上述の“支点250A”に相当することになる。このようなトリガー支持台350は第1トリガー部200Aの支持・固定に供すると共に“支点250A”を供するものであればいずれの形態を有していてもよい。
【0043】
上述のトリガー係合固定機能を備えているランセット穿刺デバイスでは、第1トリガー部を変位させて穿刺針を発射させた後においては第1トリガー部が変位前の状態へと戻ることができない。これは、発射後においてはランセットを第1トリガー部に係止させることができないことを意味している。つまり、本願発明では使用済み穿刺デバイスを穿刺前の状態へと戻すことはできない。これによって、使用済み穿刺針が再使用される虞がなく、衛生面や安全性の点でも望ましいものとなる。このような再使用防止機構を有するデバイスの態様から、本発明のランセット穿刺デバイスを「シングル・ユース・デバイス」と称すこともできる。
【0044】
尚、図6(b)の拡大図に示すように、トリガー押込み操作時の第1トリガー部200Aの変位に際しては、最終的には第1トリガー部200Aがトリガー支持台350に当接することになる。より具体的には第1トリガー部200Aの前方端210Aが内側に向かって動いた後、その前方端210Aの内側面(下側面)212Aがトリガー支持台350の外側面(上側面)に押し当たることになる。これにより、穿刺操作時におけるトリガー部の押し込み量が制限され、好適なトリガー押込み操作を実現できる。換言すれば、トリガー押込み操作に際して第1トリガー部200Aがトリガー支持台350に当接することによって、第1トリガー部の過度な変位、即ち、第2トリガー部の過度な押し込みを防止できる。
【0045】
本発明に係るランセット穿刺デバイスでは、図7(a)〜(c)に示すように、穿刺針150(特にその先端150a)をカバーするランセットキャップ170に突起部175が設けられていることが好ましい。かかる場合、図8に示されるように、ランセットキャップ170の突起部175が第2トリガー部200Bと当接できるように、突起部175は第2トリガー部200Bの直ぐ下方(直ぐ内側)に位置していることが好ましい(例えば突起部の最上面が第2トリガー部の内側面よりも好ましくは0.1mm〜2mm下方、より好ましくは0.1〜1mm下方、更に好ましくは0.1〜0.5mm下方に位置している)。特に、ランセットキャップ170の突起部175は第2トリガー部200Bの前方端210Bとトリガー支持台350との間に位置していることが好ましい(図17(a)も併せて参照のこと)。図8および図17(a)に示す態様から分かるように、ランセットキャップ170の突起部175が、相互に密着するように「第2トリガー部200Bの前方端210B」と「トリガー支持台350」との間で挟み込まれているので、外側からの外力に対して突起部175が実質的に変形・変位しないようになっている。つまり、第2トリガー部が押圧されて突起部175に当接したとしても突起部自体が実質的に変形・変位などすることなく、第2トリガー部200Bの押込みが効果的に防止される。つまり、第1トリガー部200Aの実質的な変位が引き起こされない。換言すれば、ランセットキャップ170の突起部175が「第2トリガー部200Bの前方端210B」と「トリガー支持台350」との間に位置している状態では、第1トリガー部200Aとランセット100との係止関係を解除することができず、穿刺針を発射させることができないといえる。その一方で、図9および図17(b)に示すように、ランセットキャップ170が取り除かれると、その突起部175も取り除かれることになるので、第2トリガー部200Bの“移動阻止部材”がなくなることになる。具体的には、第2トリガー部200B(特に前方側端部の自由端210B)の下方の位置に空間が生まれることになる(“空間”については特に図17(b)の参照番号390を参照のこと)。それゆえ、第2トリガー部200B(特にその前方端210B)をデバイス内部へと押し込むことができ、第1トリガー部200Aの実質的な変位を引き起こすことができる。つまり、ランセットキャップ170が穿刺針150から取り外された場合では、第1トリガー部200Aとランセット100との係止関係を解除することができ、穿刺針を発射させることができるようになる。
【0046】
《ランセット穿刺デバイスの態様》
次に、本発明におけるトリガー機構が好適に実現されたランセット穿刺デバイスについて説明する。
【0047】
(基本構成)
図10および図11は、本発明に係るランセット穿刺デバイス600を示している。図10はランセット穿刺デバイス600の外観図を示しており、図11はランセット穿刺デバイス600の分解図・展開図も併せて示している。図11に示すように、本発明に係るランセット穿刺デバイス600は、「ランセット100」、「射出バネ400」、「トリガー部材200を備えたランセット収納部材300」および「外装部材500」から主に構成されている。
【0048】
図12に示すように、本発明のランセット穿刺デバイス600は、ランセット収納部材300内にランセット100および射出バネ400が収容された構造を有している。具体的には、図12に示すように、ランセット100とランセット収納部材300の内壁面との間において射出バネ400が挟み込まれるようにして、ランセット100(把持部172を除く)および射出バネ400がランセット収納部材300内に収容されている。より具体的には、図12(b)に示すように、ランセット収納部材300内においては、射出バネ400の一方の端部が、ランセット100の後端部133に取り付けられていると共に、射出バネ400の他方の端部が、ランセット収納部材300の後端側内壁面320aの嵌合部321(即ち、後述する“バネ取付け部”)に取り付けられている。図11と図12とを比較すると分かるように、ランセット収納部材300内の射出バネ400は、「ランセット収納部材300の後端側の内壁」と「ランセット100」との間で圧縮された状態となっている。換言すれば、本発明のランセット穿刺デバイス600では、ランセットボディ130に取り付けられた射出バネ400が圧縮された状態となるようにランセット収納部材300に対してランセットボディ130が係止している。
【0049】
以下ではランセット穿刺デバイス600の構成要素について説明していく。
【0050】
(ランセット収納部材)
ランセット収納部材300は、図13に示すように、例えば全体として角筒の形態を有している。かかるランセット収納部材300は比較的小さく、例えば図13(a)に示される長さ(L、H、W、D)は、L=35〜50mm(例えば約37mm)、H=4〜10mm(例えば約5mm)、W=4〜10mm(例えば約5mm)、D=4〜11mm(例えば約6mm)とすることができる。ランセット収納部材300の形状については必ずしも角筒の形態に限定されるものではなく、例えば全体が円筒の形態であってもよい。ランセット収納部材300は、一般的なランセットに用いられる樹脂材料であれば、いずれの種類の樹脂材料から形成してもよい。図示するように、ランセット収納部材300には開口端303が設けられている。かかる開口端303は、穿刺デバイスの組立て時においてランセット100および射出バネ400の挿入設置を可能とする部分であると共に、穿刺時において穿刺すべき部位(例えば指先)にあてがわれる部分でもある。
【0051】
ランセット収納部材300には、第1トリガー部200A(内側トリガー部材)と第2トリガー部200B(外側トリガー部材)とから構成されたトリガー部材200が設けられている(図13参照)。上述したように、トリガー部材200は穿刺操作に供するものであり、外側から押圧されると穿刺針(より具体的には「穿刺針を備えたランセットボディ」)の発射を引き起こすものである。即ち、穿刺針の発射に際して第2トリガー部200Bが外側から押圧されると、第1トリガー部200Aの変位が引き起こされ、その結果、第1トリガー部200Aとランセット100との係止状態が解除されることになる。トリガー部材自体の基本構成および機能などは、上述してあるので、重複を避けるためにここでの説明は省略する。
【0052】
(ランセット)
ランセット穿刺デバイス600に用いるランセット100は、図14にて斜視図、側面図および断面図で示される。かかるランセット100のサイズも、ランセット収納部材300と同様に小さく、ランセット収納部材300内に収容される大きさを有している。例えば図14に示される長さ(L、L、H、H、W)は、L=40〜55mm(例えば約43mm)、L=16〜21mm(例えば約18mm)、H=2〜10mm(例えば約3.5mm)、H=2〜12mm(例えば6.5mm)、W=2〜12mm(例えば約3.5mm)とすることができる。ランセット100は、図示するように、ランセットボディ130、ランセットキャップ170および穿刺針150を有して成る(穿刺針150については特に図14(c)を参照のこと)。穿刺針150は、例えば金属製の針である。穿刺針150は、図14(c)の断面図にて示すように、樹脂製のランセットボディ130、ランセットキャップ170にまたがってこれらの中に存在しており、穿刺針150の先端150aがランセットキャップ170によってカバーされている。ランセットボディ130とランセットキャップ170とは、僅かな接点を介して一体的に結合されていることが好ましい。このようなランセット100は、穿刺針150を金型にインサートして樹脂(例示すると、ポリエチレン(例えばLDPE)、ポリプロピレン等)を成型するいわゆるインサート成形によって製造することができ、接点部分は、このインサート成形の際に併せて製造することができる。従って、接点部分は、ランセットキャップ170およびランセットボディ130と同じ樹脂材料から形成され得る。かかる接点部分は、キャップ取り外し操作時にて破壊されることが求められ、それゆえ、接点部分を「弱化部分」または「易破壊部分」と呼ぶこともできる。尚、接点部分がより容易に破壊されるように、接点部分にノッチを設けてもよい。場合によっては、接点部分が予め切断されている形態、更には接点部分が存在しない形態であってもよく、ランセットキャップの“もぎり操作”によって、「穿刺針150の先端150aが露出したランセットボディ130」を得ることができるのであれば特に問題はない。
【0053】
ランセットキャップ170は、後方に向かって延在する突起部175を有して成る。突起部175は、図14に示すように、板形状を有していることが好ましい。このような形態のランセット100をランセット収納部材300内に設けると(即ち、穿刺前の状態のランセット穿刺デバイスにおいては)、第2トリガー部200Bと当接できるように突起部175が第2トリガー部200Bの直ぐ下方に位置付けられることになる。特に好ましくは、ランセットキャップ170の突起部175が第2トリガー部200Bの前方端210Bとトリガー支持台350との間に位置付けられる(図8および図17(a)参照)。
【0054】
ランセットボディ130においては穿刺針150の胴部が固定化されている。従って、穿刺に際しては、ランセットボディ130は穿刺針150と一体となって前方へと発射される。図14(a)に示すように、ランセットボディ130の後端部には、射出バネを取り付けるためのバネ取付け部133が設けられている。また、ランセットボディ130には、その上側部に「ランセットをランセット収納部材内にて固定するための係止部135」が設けられていると共に、「穿刺時の穿刺深さを調整するための爪部137」が設けられている。
【0055】
更に、本発明で用いられるランセットボディ130には、弾性部138が設けられていることが好ましく、この弾性部138に起因して穿刺時における穿刺針150の直進性が向上し得る。弾性部138は、外力を作用させると変形するが、その外力を除くと“元の状態”または“元の状態に近い状態”に戻るような特性を有している限りいずれの形態を有していてもよい。例えば、弾性部138は、図14(a)〜(c)(特に図14(b))に示すように、その内部が空洞138aとなっている。つまり、弾性部が中空構造を有しているものであってよい。弾性部は、樹脂製であることが好ましく、一般的なランセットに用いられる樹脂材料であれば、いずれの種類の樹脂材料から形成されていてもよい(例えばポリエチレンやポリプロピレン等の樹脂材料から弾性部が形成されていてよい)。中空構造を有する弾性部は、外側から外力が加えられると、その方向に寸法を縮小するように撓むことができ、外力を取り除くと元の形状に戻ることができる。尚、中空構造を有する弾性部の空洞部138aにつき、その形状は図示するような形状に限定されるものではなく、例えば穿刺方向に細長く延びたスリット形状を有していてもよいし、あるいは、扁平形状(別の表現を用いれば矩形状)などを有していてもよい。
【0056】
(射出バネ)
『射出バネ400』は、図15にて斜視図で示されている。射出バネ400は、その名の通り“射出”ないしは“発射”に供するものである。換言すれば、射出バネ400は、穿刺針、即ち、「露出した穿刺針を備えたランセットボディ」に対して発射または穿刺のための推進力を与えるバネである。かかる射出バネ400は、上述したように、「ランセット収納部材300の後端側内壁面320a」と「ランセット100の後端取付け部133」との間にて圧縮された状態で設けられる(図12(b)参照)。かかる射出バネ400は金属製であることが好ましく、例えば金属製のコイルバネである。射出バネ400のサイズは、ランセット収納部材内に収容されるものではあれば、特に制限なく、例えば図15に示される非圧縮時における長さ(L、D)は、L=12〜20mm(例えば約18mm)、D=2〜10mm(例えば約2mm)であってよい。
【0057】
(外装部材)
『外装部材500』は、図16にて斜視図で示されている。外装部材500は、その名の通り、外側の装着部材である。かかる部材は、本願発明の点でいえば必ずしも必要であるといえない。しかしながら、デバイス全体として一体性が供されたり、ランセット収納部材にランセットを効果的に保持できるので、図示するような外装部材を設けることが好ましい。図16に示す態様から分かるように、外装部材500は収納部材300を少なくとも部分的に包囲する形態を有しており、例えばトリガー部に相当する部分550が切り欠かれた形態を有していてよい。
【0058】
《ランセット穿刺デバイスの全体構成・機能》
(穿刺デバイスの組立ておよびランセットボディの係止)
本発明のランセット穿刺デバイス600は、図17(a)に示すように、射出バネ400の圧縮状態が維持されるようにランセットボディ130がランセット収納部材300(具体的にはランセット収納部材と一体成形されて成る第1トリガー部200A)に係止している。このようなランセット穿刺デバイス600は、ランセット100および射出バネ400を開口端303からランセット収納部材300内に挿入し、射出バネ400を押し込んだ状態でランセット100を収納部材内で固定することによって得られる(図11参照)。かかるランセットの収納部材300への挿入に際しては、ランセット100の中空部分145(図14(b)参照)が撓むことによって、当該挿入が助力される。
【0059】
尚、バネ取付け部321が自由端と固定端とを有する湾曲形態の長尺部材から成る場合では、ランセット穿刺デバイスの組立て(特に射出バネ400の取り付け)が効果的に助力される。つまり、バネ取付け部321が図17(a)および図21で示すように例えば釣針形態やU字状形態などのフック形態を有していると、バネ取付け部321が内側へと容易に撓むことができ(図21(a)および(b)参照)、射出バネのコイルへの係合が効果的に助力され得る。かかるバネ取付け部321は、外向きに突出する突起321aを有していることが好ましい(特に図21(a)に示すように自由端側に第1突起321aと固定端側に第2突起321aとが設けられていることが好ましい)。かかる場合、射出バネ400のコイル径が一旦大きくなって突起321aを乗り越えた後に元の径に戻ると、射出バネ400とバネ取付け部321との嵌合は容易に解除できないようになる(図21(a)〜(c)参照)。
【0060】
ランセット収納部材に対するランセットボディの係止は、図17(a)に示すように、「ランセットボディ130の係止部135」と「第1トリガー部200Aの被係止部230A」との当接を介して行われる。つまり、射出バネ400が圧縮されるようにランセット100をランセット収納部材300の内部後方へと押し込んだ状態でランセットボディ130の係止部135を第1トリガー部200Aの被係止部230Aへと当接させる。ランセット収納部材300内では圧縮された射出バネ400に起因してランセット100に前方向の力が働いており、ランセット100が前方向に移動しようとするものの、ランセットボディ130の係止部135が「ランセット収納部材300と一体化した第1トリガー部200Aの被係止部230A」に引っ掛っているので、そのようなランセット100の前方向の移動は阻止されている。尚、ランセットボディ130はランセット収納部材300に係止ないしは固定化されているのに対して、ランセットキャップ170はランセット収納部材300に係止・固定化されておらず、それゆえ、ランセットキャップ170は穿刺に際して取り外すことができる。
【0061】
図17(a)に示すように、穿刺針の先端150aがランセットキャップ170によりカバーされている状態では、キャップの突起部175は、第2トリガー部200Bと当接できるように第2トリガー部200Bの直ぐ下方に位置している。より具体的には、図17(a)に示すように、キャップの突起部175の少なくとも一部が「第2トリガー部200Bの前方端210B」と「トリガー支持台350」との間の空間に位置している。図示する態様から分かるように、ランセットキャップ170の突起部175が、相互に密着するように「第2トリガー部200Bの前方端210B」と「トリガー支持台350」との間で挟み込まれているので、外側からの外力に対して突起部175が実質的に変形・変位しないようになっている。これにより、第2トリガー部200Bを収納部材内部へと押し込んだとしても、突起部175が阻止部材として好適に機能し、第1トリガー部200Aを変位させることができず、その結果、「ランセットボディ130の係止部135」と「第1トリガー部200Aの被係止部230A」との係止を解除できないようになっている。その一方で、図17(b)に示すように、ランセットキャップ170が取り外されると、その突起部175も取り除かれることになるので、第2トリガー部200Bの“移動阻止部材”がなくなることになる。つまり、図17(b)に示すように、第2トリガー部200B(特に先端の自由端210B)の下方に空間390が生まれることになる。それゆえ、第2トリガー部200Bを収納部材の内部方向に向かって押し込むと、第1トリガー部200Aを変位させることができ、その結果、「ランセットボディ130の係止部135」と「第1トリガー部200Aの被係止部230A」との係止を解除することができる。係止部135と被係止部230Aとの係止状態が解除されると、圧縮されていた射出バネ400が伸びることになり、その結果「露出した穿刺針を備えたランセットボディ」が穿刺方向へと発射される。
【0062】
「露出した穿刺針を備えたランセットボディ」は、発射された後、穿刺針が収納部材の中央軸線に実質的に沿うようになる。ここで、発射された「露出した穿刺針を備えたランセットボディ」は、ランセット収納部材の内壁に沿うように穿刺方向に移動する。つまり、ランセットボディはランセット収納部材の内壁面にガイドされるような形態で前方へと移動することになる。この点、図17(c)に示すように、穿刺方向へと移動するランセットボディ130は周囲をランセット収納部材300および/または外装部材500の内壁面に包囲された状態となっている。
【0063】
(直進性向上機能)
ランセット穿刺デバイス600の「直進性向上機能」を説明する。本発明のランセット穿刺デバイス600では、上述したように、ランセットボディ130に弾性部138が設けられていることが好ましい(例えば図17(a)〜17(c)参照)。この弾性部138によって、穿刺時における穿刺針150の直進性が向上することになる。ここでいう「弾性部」とは、外力を作用させると変形するが、その外力を除くと“元の状態”または“元の状態に近い状態”に戻るような特性を有する部分または部材を意味している
【0064】
弾性部138が設けられている場合、ランセットボディ130が発射されて穿刺方向へと移動する際、ランセットボディ130の移動に伴って弾性部138がランセット収納部材300の内壁面320bを擦動することになる(図17(c)参照)。つまり、穿刺針を備えたランセットボディが穿刺方向へと移動すると、そのランセットボディに設けられている弾性部も同様に穿刺方向に移動することになるが、その際に、弾性部がランセット収納部材の内壁面に接触した状態となる(図18に示すように、弾性部138がランセット収納部材の内壁面320bに接触することによって、弾性部138の中空構造の形、即ち、弾性部の空洞部138aが好ましくは変形し得る)。特に、ランセット収納部材の内壁面に起因して外側から力を受けるように弾性部がランセット収納部材の内壁面に接触する。これにより、発射された穿刺針が受ける衝撃を弾性部が吸収することができ、穿刺方向に移動する穿刺針がより安定した状態となる。換言すれば、弾性部がランセット収納部材の内壁面を擦るように移動するので、穿刺針が所定の横断方向の力を受けつつも、弾性部のクッション作用によって穿刺針に発生し得る応力を緩和でき、その結果、より直線的な穿刺針軌道が確保され得る。ちなみに、ランセット収納部材300の内壁面320bにはテーパー部分(即ち“スロープ部分”)が設けられていてもよく、これにより、弾性部138はテーパー部分の擦動時にて効果的に力を受けることになる。つまり、テーパー部分により弾性部がより撓みやすくなり、穿刺に際してランセットボディが受ける衝撃を効果的に弾性部に吸収させることができるので、穿刺針がより安定した軌道となり得る。テーパー部分を設ける場合、以下の式で示されるランセット収納部材の内径低減率Rは、好ましくは0.1〜20%程度、より好ましくは0.1%〜15%程度、更に好ましくは0.1%〜10%程度である。

R=(D1−D2)/D1×100
R(%):テーパー部分に起因した収納部材の内径低減率
D1(mm):テーパー部分の設置箇所よりも後方側の収納部材の内径(図18参照)
D2(mm):テーパー部分によって狭まった収納部材の内径(図18参照)

ちなみに、“直進性が向上する”ということは、使用者が異なる場合であっても穿刺針の穿刺軌道が実質的に一定となることを意味しており、使用者ごとのばらつきも低減されるといった効果が奏される。
【0065】
(穿刺深さ調整機構)
本発明のランセット穿刺デバイス600には好ましくは穿刺深さ調整機構が備わっている。具体的には、図19に示すように、ランセットボディ130に穿刺深さ調整用爪部137が設けられている一方、ランセット収納部材300に穿刺深さ調整用段差部357が設けられている。図19(a)〜(d)に示すように、穿刺に際してはランセットボディの爪部137がランセット収納部材300の内壁段差部357に当接することになり、それによって、穿刺時にてランセット収納部材の開口端から露出する穿刺針長さが制限される。つまり、爪部137と段差部357との衝突によって穿刺針の前方向の動きが制限され、その結果、穿刺深さ(即ち、ランセット収納部材の開口端303から露出する穿刺針の長さ)が規定されることになる。それゆえ、「ランセットボディ130における爪部137の設置位置」および/または「ランセット収納部材300における段差部357の設置位置」を適宜変更することによって“穿刺深さ”を調整することができる。図19に示す態様から分かるように、ランセットボディに設けられている穿刺深さ調整用爪部137は、ある程度の可撓性を有していることが好ましく、それによって、爪部137と段差部357との衝突に際して発生し得る“穿刺針の波打ち現象”を低減させることが好ましい。つまり、ランセットボディの爪部137がランセット収納部材の段差部357に衝突すると、その衝突に起因して穿刺針が波打つように振動することになり得るが(つまり、穿刺針の軌道がぶれることになり得るが)、穿刺針に間接的または直接的に連結した爪部137が可撓性を有していると、波打つエネルギーが効果的に爪部137により吸収され得る。このような爪部137および段差部357などは、一般的なランセットに用いられる樹脂材料であれば、いずれの種類の樹脂材料から形成されてもよい。
【0066】
尚、ランセットボディの爪部137がランセット収納部材の段差部357に衝突することに起因して、ランセット先端側が斜め上側(図19(c)のP方向)へと反り上がる場合があり得る。従って、かかる“反り上がり”ないしは“傾き”を効果に防止すべく、上述の弾性部138は、ランセットボディの上側、即ち、図19(c)に示すように“爪部137が設けられているボディ側面”に設置することが好ましい。
【0067】
(再使用防止機構)
本発明のランセット穿刺デバイス600には好ましくは再使用防止機構が備わっている。上述したように、穿刺操作に際して第1トリガー部を変位させると、変位が引き起こされた第1トリガー部の形態が最終的にそのまま固定されることになり、その後、第1トリガー部自体が元の変位前の状態に戻ることができないようになっている。具体的には、図6に示すように、第2トリガー部200Bが内部へと押し込まれると、第1トリガー部200Aの前方端210Aが内側に向かって動く一方、第1トリガー部200Aの後方端220Aが外側に向かって動く。その結果、第1トリガー部200Aのトリガー固定用係合部a(225A)と第2トリガー部200Bのトリガー固定用被係合部a(240B)とが相互に係合する。同様に、第2トリガー部200Bが内部へと押し込まれると、第1トリガー部200Aの前方端210Aが内側に向かって動くことに起因して、第1トリガー部200Aのトリガー固定用係合部b(255A)とトリガー支持台350のトリガー固定用被係合部b(355)とが相互に係合する。
【0068】
図6に示す態様から分かるように、穿刺後に射出バネの圧縮状態を再度得るべくランセットボディ130を後退させようとしても、第1トリガー部が変位した状態で固定されているので、ランセットボディ130を第1トリガー部200Aに係止させることができず発射前の状態へと戻すことができない。つまり、使用済み穿刺デバイスを穿刺前の状態へと戻すことはできず、再使用が防止されている。
【0069】
《穿刺デバイスの使用態様》
以下では、本発明のランセット穿刺デバイスの使用態様について説明しておく。図20(a)〜(e)は、その番号順にランセット穿刺デバイス600の経時変化を示している。
【0070】
穿刺前の状態の本発明のランセット穿刺デバイス600は図20(a)に示される。穿刺に際しては、まず、図20(a)および(b)に示す態様から分かるように、ランセット100からランセットキャップ170を取り外す。ランセットキャップ170の取外しには、図示するように、ランセットキャップ170を“もぎり取る”ことが好ましい。具体的には、ランセットキャップ170(特に把持部172)を回転させて「ランセットボディ130とランセットキャップ170との接点部分」を破壊させた後、図20(b)に示すようにランセットキャップ170を前方向に向かって引き抜く。別の表現を用いると、一方の手でランセット穿刺デバイスを外側からつまんで保持した状態で、他方の指でランセットキャップ170の把持部172を捻りながら引き抜く。これによって、ランセット収納部材300内において「露出した穿刺針150を備えたランセットボディ130」を得ることができる。次いで、穿刺すべき所定の部位(例えば指先)にランセット収納部材300の開口端303をあてがった後(図20(c)参照)、第2トリガー部200Bをランセット収納部材の内部に向かって押圧する(図20(d)参照)。第2トリガー部200Bが押圧されると、第1トリガー部200Aの変位が引き起こされ、第1トリガー部200Aとランセットボディ130との係止状態が解除される。具体的には、第2トリガー部200Bが内部へと押し込まれると、第2トリガー部200Bによって第1トリガー部200Aが押圧されることになり、第1トリガー部200Aの前方端210Aが内側に向かって動く一方、第1トリガー部200Aの後方端220Aが外側に向かって動き、その結果、第1トリガー部200Aに対するランセットボディ130の係止が解除される。係止状態が解除されると、圧縮されていた射出バネ400が伸びることによって、「露出した穿刺針150を備えたランセットボディ130」が穿刺方向へと発射されることになる。
【0071】
発射された「露出した穿刺針150を備えたランセットボディ130」は、ランセット収納部材の内壁面にガイドされる形態で穿刺方向へと移動するが、その際、ランセットボディの弾性部138がランセット収納部材の内壁面320bを擦動することになる。特に擦動に際しては弾性部138がランセット収納部材の内壁面320bから力を受けることによって、弾性部138が撓むことが好ましく、弾性部138の中空部の形状が小さく・薄くなるように弾性部が変形することが好ましい。このように弾性部が撓むことによって、穿刺に際してランセットボディ130や穿刺針150が受ける衝撃を弾性部138が吸収することができ、結果的に、穿刺針150がより安定した状態で移動できる。
【0072】
穿刺方向にランセットボディ130が移動して、ランセット収納部材の開口端303から穿刺針150が露出することによって、開口端303にあてがわれた所定の部位(例えば指先)が穿刺される。穿刺に際してはランセットボディの爪部137がランセット収納部材の段差部357に当接することによって(図19参照)、穿刺時にてランセット収納部材の開口端から露出する穿刺針長さが制限されることになる。穿刺後は、伸びた射出バネ400が元の形状に戻ろうとするので、穿刺針150が素速く後退することになる(図20(e)参照)。具体的には、「露出した穿刺針150を備えたランセットボディ130」は射出バネ300に取り付けられているので、その射出バネに引っ張られる形態でランセットボディ130が後退することになり、最終的には、穿刺針150がランセット収納部材300内へと収納される。穿刺後においては、第1トリガー部200Aが変位した状態で固定されているので、ランセットボディ130を第1トリガー部200Aに係止させることができず発射前の状態へと戻すことができない。
【0073】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、あくまでも典型例を例示したに過ぎない。従って、本発明はこれに限定されず、種々の態様が考えられることを当業者は容易に理解されよう。例えば以下の態様が考えられる。
【0074】
● 上述した態様では、第1トリガー部と第2トリガー部との2つの要素から構成されたトリガー機構を中心に説明してきたが、必ずしもそれに限定されるわけではなく、3つ以上の要素から成るトリガー機構であってもよい。例えば、第2トリガー部を押圧すると、第1トリガー部の変位が引き起こされ、そして、その第1トリガー部の変位によって第3トリガー部の変位が更に引き起こされ、その結果、第3トリガー部に対するランセットの係止が解除されるような態様であってもよい。
【0075】
● 上述した態様では、中空構造を有する弾性部を例示したものの、必ずしもそれに限定されるわけではなく、弾性部全体が弾性材料から成るものであってもよい。つまり、中空構造を有することなく弾性変形を可能とする材質から弾性部を形成してよい。例えば、ゴム材料またはエラストマー材料から形成した弾性部が考えられる。また、弾性部についていえば、主として穿刺方向に移動する穿刺針の直進性について説明してきたが、必ずしもそれに限定されるわけではない。本発明では、穿刺後に後方へと移動する穿刺針の直進性についても同様に向上することになる。つまり、穿刺後においても後方へと移動する弾性部がランセット収納部材の内壁面を擦動するので、穿刺針が受ける衝撃を弾性部により効果的に吸収でき、後方へと移動する穿刺針がより安定化する。これは、後方へと移動する穿刺針の軌道についても同様に直線的なものとなることを意味している。特に、穿刺直後に後方へと移動しようとする穿刺針がより直線的な動きをすることになるので、『穿刺針によって穿刺箇所がえぐられる現象』が効果的に減じられ、被穿刺者が感じる痛みを更に低減できる。更にいえば、上述した態様では、ランセットボディに設けられた弾性部が収納部材の内壁面を擦動することについて説明してきたが、必ずしもそれに限定されるわけではない。本発明では、弾性部が、ランセットボディではなく収納部材の内壁の方に設けられていてもよい。
【0076】
● 本発明のランセット穿刺デバイスは、図10で示されたような外観に限定されるものではなく、種々の外観で実現することができる。例えば図22で示されるような外観であっても本発明のランセット穿刺デバイスを実現することできる。
【0077】
最後に「フック形態のバネ取付け部」について付言しておく。フック形態、即ち、自由端と固定端とを有する長尺部材の湾曲形態は、ランセット穿刺デバイスの容易な組立てに資するものである。組立てに際しては、射出バネをランセット収納部材の前方開口端から投入し(当該開口端から入れるだけ投入し)、次いで、ランセットを当該開口端からランセット収納部材の奥まで挿入する。この時、射出バネは内部でフック形態のバネ取付け部とランセットの後端取付け部との間で圧縮されることになる。例えば、自由長17mmの射出バネが10mmの長さになるように約7mm圧縮される。この時点でのバネ圧縮力は例えば約3N程度となるので、かかる力でバネ取付け部およびランセットに射出バネが係合(嵌る)ことが必要となる。それに加えて更に、そのような係合が穿刺に際して外れないことも必要となる(射出バネが17mmの自由長から約20mmに伸びたときの引張り力が例えば約1N程度となるので、そのような力でも係合が解除されないことが必要となる)。このような事情に鑑みると、射出バネは変形しない強さ(両端密着タイプ)であるので、係合相手が撓み易く外れにくく製造可能なものであることが必要となり、それを実用するためにランセット収納部材のバネ取付け部に「フック形態」が採用されている(ちなみに、ランセット収納部材はランセット(LDPE)よりも硬い材質(POM、PSやABSなど)から一般に成るものであるので、容易に撓むことができる釣針形状をランセット収納部材の係合部に採用したともいえる)。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明のランセット穿刺デバイスでは、再使用防止が施されており、また、穿刺針の穿刺軌道が向上したものである。従って、本発明のランセット穿刺デバイは、糖尿病患者の採血に使用できることは当然のこと、その他の採血を必要とする各種用途においても好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0079】
100 ランセット
130 ランセットボディ
133 ランセットの後端部(バネ取付け部)
135 ランセットボディの係止部
137 穿刺深さ調整用爪部
138 弾性部
138a 弾性部に設けられた空洞部分または中空部
145 ランセットの中空部分
150 穿刺針
150a 穿刺針の先端
170 ランセットキャップ
172 ランセットキャップの把持部
175 ランセットキャップの突起部
200 トリガー部材
200A 第1トリガー部
210A 第1トリガー部の前方端
212A 第1トリガー部の前方側の前方端の内側面(下側面)
215A 第1トリガー部の前方部分
220A 第1トリガー部の後方端
225A 第1トリガー部のトリガー固定用係合部a
230A 第1トリガー部の被係止部
250A 第1トリガー部の支点
255A 第1トリガー部のトリガー固定用係合部b
200B 第2トリガー部
201B 第2トリガー部の内側面(下側面)
210B 第2トリガー部の前方端
220B 第2トリガー部の後方端
240B 第2トリガー部のトリガー固定用被係合部a
300 ランセット収納部材
303 ランセット収納部材の開口端
320a ランセット収納部材の後端側の内壁面
320b ランセット収納部材の内壁面
321 ランセット収納部材の内部のバネ取付け部
321a バネ取付け部の突起
321a バネ取付け部の自由端側に設けられた第1突起
321a バネ取付け部の固定端側に設けられた第2突起
350 トリガー支持台(≒収納部材における第1トリガー部の連結部分)
355 トリガー支持台のトリガー固定用被係合部b
357 穿刺深さ調整用段差部
390 第2トリガー部の下方に生じる空間
400 射出バネ
500 外装部材
550 外装部材の切欠き部分
600 ランセット穿刺デバイス
100’ ランセットアッセンブリ
101’ ランセット
102’ 保護カバー
104’ ランセットボディ
105’ 穿刺針
106’ ランセットキャップ
108’ 弱化部材
114’ ランセットボディの前方部分
116’ ランセットボディの後方部分
200’ インジェクター
204’ プランジャー
214’ インジェクターの前端開口部
264’,266’ プランジャーの先端部
514’ トリガー部材
524’ プランジャーに設けられた突起
526’ トリガー部材の後方部分端部
542’ トリガー部材のプレス部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
穿刺針を備えたランセット、および、穿刺針の発射を引き起こすトリガー部材を有して成るランセット穿刺デバイスであって、
トリガー部材が、第1トリガー部、および、該第1トリガー部を被うように設けられた第2トリガー部を有して成り、
穿刺針の発射前の状態ではランセットが第1トリガー部に係止しており、
穿刺針の発射に際して、第2トリガー部を外側から押圧すると、該第2トリガー部によって第1トリガー部の変位が引き起こされ、それによって、第1トリガー部に対するランセットの係止が解除されて穿刺針が発射されることを特徴とするランセット穿刺デバイス。
【請求項2】
第1トリガー部の前記変位に際しては、第1トリガー部の前方端および後方端が互いに逆方向に動くことを特徴とする、請求項1に記載のランセット穿刺デバイス。
【請求項3】
ランセットを収納するランセット収納部材を有して成り、第1トリガー部および第2トリガー部の双方がランセット収納部材と一体的に形成されて成ることを特徴とする、請求項1または2に記載のランセット穿刺デバイス。
【請求項4】
第1トリガー部および第2トリガー部が長尺形状を有しており、それらが相互に重なるように整列して設けられていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のランセット穿刺デバイス。
【請求項5】
第1トリガー部は、その内側面に支点を有し、第1トリガー部の前方端および後方端の双方が自由端を成しており、
第2トリガー部は、その後方端が固定端を成す一方、その前方端が自由端を成していることを特徴とする、請求項4に記載のランセット穿刺デバイス。
【請求項6】
第1トリガー部の前記変位に際しては、第2トリガー部との接触に起因して第1トリガー部の前方側が内側へと押し込まれ、それによって、第1トリガー部の前方端が内側に向かって動く一方、第1トリガー部の後方端が外側に向かって動くことを特徴とする、請求項4または5に記載のランセット穿刺デバイス。
【請求項7】
第1トリガー部がその後方端にトリガー固定用係合部aを有して成る一方、第2トリガー部がその内側面にトリガー固定用被係合部aを有して成り、
第1トリガー部の変位が引き起こされた際、第1トリガー部のトリガー固定用係合部aと第2トリガー部のトリガー固定用被係合部aとが相互に係合することになり、それによって、第1トリガー部が変位前の状態へと戻ることができないことを特徴とする、請求項6に記載のランセット穿刺デバイス。
【請求項8】
第1トリガー部が連結されて成るトリガー支持台を更に有して成り、
第1トリガー部がその前方端にトリガー固定用係合部bを有して成る一方、トリガー支持台がトリガー固定用被係合部bを有して成り、
第1トリガー部の変位が引き起こされた際、第1トリガー部のトリガー固定用係合部bとトリガー支持台のトリガー固定用被係合部bとが相互に係合することになり、それによって、第1トリガー部が変位前の状態へと戻ることができないことを特徴とする、請求項6または7に記載のランセット穿刺デバイス。
【請求項9】
穿刺針が発射された後においては、第1トリガー部が変位前の状態に戻れないことに起因して、ランセットを第1トリガー部に係止させることができず発射前の状態へと戻せないことを特徴とする、請求項7または8に記載のランセット穿刺デバイス。
【請求項10】
トリガー支持台がランセット収納部材と一体的に形成されて成ることを特徴とする、請求項8に記載のランセット穿刺デバイス。
【請求項11】
穿刺針をカバーするランセットキャップに突起部が設けられており、
穿刺針がランセットキャップによりカバーされている状態では、ランセットキャップの突起部が、第2トリガー部と当接できるように第2トリガー部の直ぐ下方に位置しており、それによって、第2トリガー部の外側からの押圧に対して第1トリガー部の変位が防止されていることを特徴とする、請求項8〜10のいずれかに記載のランセット穿刺デバイス。
【請求項12】
ランセットキャップの突起部が第2トリガー部の前方端とトリガー支持台との間に位置していることを特徴とする、請求項8に従属する請求項11に記載のランセット穿刺デバイス。
【請求項13】
ランセットキャップが穿刺針から取り外されると、外側からの押圧によって第2トリガー部を内側へと押し込むことができ、第1トリガー部の変位が引き起こされることを特徴とする、請求項11または12に記載のランセット穿刺デバイス。
【請求項14】
ランセット、射出バネおよびそれらを収容するランセット収納部材から成るランセット穿刺デバイスであって、
ランセットが、ランセットボディ、ランセットキャップおよび穿刺針を有して成り、穿刺針がランセットボディおよびランセットキャップにまたがってこれらの中に存在しており、
ランセット収納部材と一体的に設けられたトリガー部材が、第1トリガー部と該第1トリガー部を被うように位置する第2トリガー部とを有して成り、
射出バネがランセットボディに取り付けられ、穿刺前では射出バネの圧縮状態が維持されるようにランセットボディが第1トリガー部に係止しており、
ランセットキャップが取り外されると、外側からの押圧によって第2トリガー部を内側へと押し込むことができ、それによって、第1トリガー部の変位が引き起こされ、第1トリガー部に対するランセットボディの係止が解除されることを特徴とする、ランセット穿刺デバイス。
【請求項15】
ランセット収納部材を少なくとも部分的に包囲する外装部材を更に有して成ることを特徴とする、請求項14に記載のランセット穿刺デバイス。
【請求項16】
ランセット収納部材の後方側内壁に設けられたバネ取付け部に対して射出バネが取り付けられており、
バネ取付け部が、自由端と固定端とを有する長尺部材が湾曲して成る形態を有していることを特徴とする、請求項14または15に記載のランセット穿刺デバイス。
【請求項17】
ランセットを収納するランセット収納部材を有して成るランセット穿刺デバイスであって、
ランセット収納部材の後方側内壁に設けられたバネ取付け部に対して射出バネが取り付けられており、
バネ取付け部が、自由端と固定端とを有する長尺部材が湾曲して成る形態を有していることを特徴とする、ランセット穿刺デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【公開番号】特開2012−85686(P2012−85686A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−232659(P2010−232659)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【出願人】(591185076)株式会社旭ポリスライダー (3)
【出願人】(000200666)泉株式会社 (24)
【Fターム(参考)】