説明

ランセット穿刺機構

【課題】穿刺部材の穿刺軌道が向上したランセット穿刺機構、特に、穿刺時の穿刺針の軌道ができる限り直線的となった穿刺機構を提供すること。
【解決手段】発射により穿刺方向に移動することができる穿刺部材、穿刺部材に設けられる弾性部、および、穿刺に際して穿刺部材が移動する空隙を規定する周囲部材を有して成り、穿刺部材が発射されて穿刺方向へと移動する際、穿刺部材の移動に伴って弾性部が周囲部材を擦動することを特徴とする、ランセット穿刺機構。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はランセット穿刺機構に関する。より詳細には、本発明は「血液採取に供されるランセット」における穿刺機構に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病患者の血糖値の測定には、その患者の血液を採取する必要がある。採取される血液は微少量でよい。従って、微少量の血液を採取する穿刺デバイスが使用されることになる。かかる穿刺デバイスは、身体の所定箇所を穿刺するための穿刺針が設けられたランセット(例えば特許文献1)およびインジェクターから一般に構成されている。インジェクターは、ランセットを所定箇所に向かって発射させる機能を有している。使用に際しては、ランセットをインジェクターに装填した後、インジェクター内のプランジャーを用いてランセットを発射させ、所定箇所を穿刺している。
【0003】
糖尿病患者の血液採取に用いる穿刺デバイスには、衛生面や安全性の点で望ましいものが求められると共に、使用時の穿刺特性の点でも望ましいものが求められている。特に、穿刺針が大きくぶれることなく穿刺できると、確実に所定箇所を穿刺することができる。従って、穿刺針の穿刺軌道が向上した穿刺デバイスが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許明細書第5385571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本出願人は、これまでに以下で説明する穿刺デバイスについて発明を為しており、その発明に関する出願を行っている(国際特許公開第2007/018215号公報、出願日:2006年8月8日、発明の名称:「穿刺デバイスならびにそれを構成するランセットアッセンブリおよびインジェクターアッセンブリ」)。図面を参照しながら、この発明に係るランセットアッセンブリおよびインジェクターアッセンブリを簡潔に説明する(以後では、「インジェクターアッセンブリ」を「インジェクター」とも称して説明する)。図34にランセットアッセンブリ100’の外観を示すと共に、図35にインジェクター200’の外観を示す。図34に示すように、ランセットアッセンブリ100’は、ランセット101’および保護カバー102’から構成されている。図36および図37に示すように、ランセット101’は、ランセットボディ104’、ランセットキャップ106’および穿刺針105’を有して成る。金属製の穿刺針105’は、樹脂製のランセットボディ104’およびランセットキャップ106’にまたがって存在している。穿刺針105’の先端部は、ランセットキャップ106’によってカバーされていると共に、ランセットキャップ106’とランセットボディ104’とが弱化部材108’を介して一体に結合している。図34および図37に示すように、保護カバー102’は、ランセットボディ104’の一部を包囲するように設けられている。このようなランセットアッセンブリ100’は、インジェクター200’に装填された後でランセットキャップ106’が取り外される。これにより、穿刺針105’の先端部が露出するので、ランセットを穿刺に供すことができる。
【0006】
図35に示すインジェクター200’は、ランセットアッセンブリ100’と組み合わせて用いて、穿刺針105’の先端が露出した状態のランセットボディを発射することができるデバイスである。インジェクター200’は、「ランセットボディの後端部と係合でき、ランセットボディを穿刺方向に発射させるプランジャー204’」を有して成る(図38参照)。インジェクター200’に装填するに際しては、図38に示すように、ランセットアッセンブリ100’をインジェクター200’の前端開口部214’から挿入する。ある程度挿入すると、図39に示すように、ランセットアッセンブリ100’の後方部分116’が、プランジャー204’の先端部264’, 266’によって把持される。引き続いて挿入を継続すると、プランジャー204’が後退して発射エネルギーが蓄積される。つまり、プランジャー204’の後退により、プランジャー204’に設けられたバネ(図示せず)が圧縮する(従って、その圧縮状態を解放すると、プランジャーが前方へと瞬時に移動し、ランセットが発射されることになる)。プランジャーが後退して発射エネルギーが蓄積された状態のインジェクター200’を図40に示す。
【0007】
ランセットアッセンブリ100’のインジェクター200’への装填が完了すると、ランセットキャップ106’を取り外して穿刺針105’の先端を露出させる。ランセットキャップ106’の取外しについて説明すると次のようになる。図36および図37に示すように、ランセットボディ104’とランセットキャップ106’とは、その間に位置する弱化部分108’によって一体に結合されている。かかる弱化部材108’は、ランセットボディ104’とランセットキャップ106’とを穿刺針の周囲で相対的に反対方向に回すことによって破壊させることができ(図40にはG方向に回す態様が示されている)、それによって、ランセットキャップ106’を取り外すことができる。
【0008】
穿刺に際しては、例えば指先などの穿刺すべき所定の部位に対してインジェクター200’の前端開口部214’をあてがった後、トリガー部材514’のプレス部分542’を押す(図41参照)。かかるプレス部分542’の押し込みによって、プランジャー204’が前方へと発射され(つまり、圧縮されていたバネが解放され)、穿刺針によって穿刺が行われることになる。
【0009】
ここで、穿刺針の発射に際しては、上述したように穿刺針が所定の軌道を有することが望まれる。特に、穿刺針の直進性が著しく損なわれると、穿刺時に被採血者が感じる痛みが増すことになるので、穿刺針の穿刺軌道はできるだけ直線的であることが望まれる。しかしながら、実際には、発射された穿刺針(特に針先)は波打つ傾向があり、直線的な穿刺軌道を確保することが難しい現状がある。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みて為されたものである。つまり、本発明の課題は、穿刺針の穿刺軌道が向上したランセット穿刺機構を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明では、
発射により穿刺方向に移動することができる穿刺部材、
穿刺部材に設けられる弾性部、および
穿刺に際して穿刺部材が移動する空隙を規定する周囲部材
を有して成り、
穿刺部材が発射されて穿刺方向へと移動する際、穿刺部材の移動に伴って弾性部が周囲部材を擦動することを特徴とする、ランセット穿刺機構が提供される。
【0012】
本発明に係るランセット穿刺機構は、穿刺に際して穿刺部材の弾性部が周囲部材に当接して擦動することを特徴の1つとしている。これにより、穿刺針の穿刺軌道ができる限り直線的な軌道となる。特に、擦動に際して弾性部が撓むことによって、直線的な軌道へと矯正する作用が効果的に働き、穿刺針の軌道が向上する。本発明では、弾性部の撓みが助力されるように、好ましくは弾性部が中空構造を有している。
【0013】
本明細書において「弾性部」という用語は、外力を作用させると変形するが、その外力を除くと“元の状態”または“元の状態に近い状態”に戻るような特性を有する部分または部材を意味している。
【0014】
本発明で用いられる穿刺部材は、ランセット以外に別個の要素(特に、穿刺部材の発射に用いるインジェクター要素)を有して成るものであってもよいし、あるいは、実質的にランセットのみから成るものであってもよい。換言すれば、本発明の穿刺機構としては以下の態様(A)および(B)が考えられる:

(A)インジェクター使用態様:穿刺部材が「ランセット」と「ランセットとは別個のインジェクター(特にインジェクターに設けられるプランジャー)」とから構成されている態様。

(B)ランセットアッセンブリ態様:穿刺部材が別個のインジェクター(≒プランジャー)を備えておらず、ランセットないしはランセットアッセンブリ自体にプランジャー機能が予め内蔵された態様。
【0015】
インジェクター使用態様(A)では、穿刺部材は、ランセットと、使用に際して該ランセットを保持して発射させることができるプランジャーとを有して成る。かかる(A)の場合、プランジャーに対して弾性部が設けられることが好ましい。一方、ランセットアッセンブリ態様(B)では、穿刺部材がランセットの形態を成している。かかる(B)の場合、ランセットのランセットボディに対して弾性部が設けられることが好ましい。(A)または(B)のいずれの態様であっても、穿刺部材の移動に伴って弾性部が周囲部材を擦動し、それによって穿刺部材の穿刺軌道が矯正される。
【0016】
「穿刺に際して穿刺部材が移動する空隙を規定する周囲部材」は、穿刺部材の発射に際して弾性部が接することができる当接部分または当接部を有して成る部材である。インジェクター使用態様(A)では、周囲部材は「穿刺部材の発射に用いるインジェクターのハウジング」であることが好ましい。更に好ましくは、周囲部材はインジェクター・ハウジング内壁に設けられた突起部である。つまり、穿刺に際しては、穿刺部材の移動に伴ってインジェクター・ハウジング(特にそれに設けられた突起部)に擦るように弾性部が移動することになる。一方、ランセットアッセンブリ態様(B)では周囲部材は「穿刺部材を収納するホルダー」であることが好ましい。更に好ましくは、周囲部材は、かかる収納ホルダーの内壁面に設けられたテーパー部である。つまり、穿刺に際しては、穿刺部材の移動に伴って収納ホルダー(特にその内壁面に設けられたテーパー部)に擦るように弾性部が移動することになる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のランセット穿刺機構によれば、穿刺時の穿刺針の軌道ができる限り直線的となるように矯正される。その結果、被穿刺者(即ち被採血者)が穿刺時に感じる痛みを低減できる効果が奏される。特定の理論に拘束されるわけではないが、これは、穿刺針によって被採血者の穿刺箇所が“えぐられる”といった現象が減じられることに起因するものと考えられる。
【0018】
本発明のランセット穿刺機構を備えた穿刺デバイスでは、穿刺針の“ぶれ”ができるだけ抑制され、安定した穿刺軌道を達成することができる。従って、使用者が異なる場合であっても穿刺針の穿刺軌道が実質的に一定となり、使用者ごとのばらつきも低減される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明の穿刺機構の概念を示した模式図である。
【図2】図2は、インジェクター使用態様(A)の穿刺機構を模式的に示した斜視図である。
【図3】図3は、インジェクター使用態様(A)におけるランセットの外観を示した斜視図である。
【図4】図4は、ランセットキャップを外した状態の図3のランセットの斜視図である。
【図5】図5は、ランセットの内部が分かるように、図3のランセットを半分割した斜視図である。
【図6】図6は、インジェクター使用態様(A)におけるランセットの外観を示した斜視図である。
【図7】図7は、ランセットキャップを外した状態の図6のランセットの斜視図である。
【図8】図8(a)は、インジェクター使用態様(A)におけるプランジャーの斜視図である。図8(b)は、インジェクターに設けられたプランジャーの態様を示した斜視図である。
【図9】図9は、ランセットアッセンブリ態様(B)におけるランセットアッセンブリを模式的に示した斜視図である。
【図10】図10は、ランセットアッセンブリ態様(B)におけるランセットを模式的に示した斜視図である。
【図11】図11は、インジェクター使用態様(A)の穿刺機構であって、穿刺前の状態を模式的に示している。
【図12】図12は、インジェクター使用態様(A)の穿刺機構であって、トリガー板バネ部が押圧された時点を模式的に示している。
【図13】図13は、インジェクター使用態様(A)の穿刺機構であって、トリガー板バネ部と突起部との係止が解除された頃の状態を模式的に示している。
【図14】図14は、インジェクター使用態様(A)の穿刺機構であって、プランジャーおよび穿刺針が前方へと移動している状態を模式的に示している。
【図15】図15は、インジェクター使用態様(A)の穿刺機構であって、弾性部が突起部に擦るように移動し始めた頃の状態を模式的に示している。
【図16】図16は、インジェクター使用態様(A)の穿刺機構であって、弾性部が突起部を擦動している状態を模式的に示している。
【図17】図17(a)〜(d)は、ランセットアッセンブリ態様(B)における穿刺機構の経時変化を模式的に示している。図17の下部には、弾性部がテーパー部を擦動する態様を模式的に示していると共に、“テーパー部によるホルダー内径の低減”を模式的に示している。
【図18】図18は、インジェクター使用態様(A)における穿刺デバイスの外観を模式的に示した斜視図である。
【図19】図19は、インジェクター使用態様(A)における使用前のインジェクターの斜視図であって、その内部構造を模式的に示している。
【図20】図20は、インジェクター使用態様(A)におけるインジェクターの斜視図であって、そのキャップ202を外した状態を模式的に示している。
【図21】図21は、インジェクター使用態様(A)におけるインジェクターの斜視図であって、ランセットの装填を開始する頃の状態を模式的に示している。
【図22】図22は、インジェクター使用態様(A)におけるインジェクターの斜視図であって、ランセット保持部にランセットが取り付けられた状態を模式的に示している。
【図23】図23は、インジェクター使用態様(A)におけるインジェクターの斜視図であって、プランジャーが後退して発射エネルギーが蓄積された時点の状態を模式的に示している。
【図24】図24は、インジェクター使用態様(A)におけるインジェクターの斜視図であって、ランセットキャップを取り外して穿刺針を露出させた時点の状態を模式的に示している。尚、付加的には、インジェクターの保持部材203の斜視図を示している。
【図25】図25は、インジェクター使用態様(A)におけるインジェクターの斜視図であって、穿刺深さ制限部材をインジェクターの先端部に取り付けた状態を模式的に示している。
【図26】図26は、インジェクター使用態様(A)におけるインジェクターの斜視図であって、穿刺針が露出した時点の状態を模式的に示している。
【図27】図27は、インジェクター使用態様(A)におけるインジェクターの斜視図であって、穿刺後の状態を模式的に示している。
【図28】図28は、インジェクター使用態様(A)における穿刺前の状態を模式的に示している。
【図29】図29は、インジェクター使用態様(A)において、穿刺に際してトリガー板バネ部が内側へと押圧される態様を模式的に示している。
【図30】図30は、インジェクター使用態様(A)において、穿刺針が前方へと発射された頃の態様を模式的に示している。
【図31】図31は、インジェクター使用態様(A)において、弾性部が突起部に擦るように移動し始めた頃の態様を模式的に示している。
【図32】図32は、インジェクター使用態様(A)において、突起部に擦るように弾性部が移動している態様を模式的に示している。
【図33】図33は、インジェクター使用態様(A)において、穿刺後の態様を模式的に示している。
【図34】図34は、ランセットアッセンブリの外観を表した斜視図である。
【図35】図35は、インジェクターの外観を表した斜視図である。
【図36】図36は、ランセットの外観を表した斜視図である。
【図37】図37は、ランセットの内部が分かるように、図36のランセットを半分割した場合の斜視図である。
【図38】図38は、ランセットアッセンブリがインジェクターに装填される前の態様を示した斜視図である。
【図39】図39は、ランセットアッセンブリの装填によりランセットがプランジャー先端部に把持された態様を示した斜視図である。
【図40】図40は、ランセットアッセンブリの装填が完了し、プランジャーが後退できない状態となった態様を示した斜視図である。
【図41】図41は、ランセットキャップが外されて穿刺可能状態となった態様を示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
添付図面を参照して本発明のランセット穿刺機構について詳細に説明する。
【0021】
本明細書で用いる“方向”については次の通り規定する。穿刺に際して穿刺部材が発射される方向が「前」方向であり、その反対の方向が「後」方向である。これらの方向ならびに本明細書で用いる「横断方向」などは図面に示している。尚、「穿刺方向」は、採血されるべき穿刺部位に向かって穿刺針が移動する方向を実質的に意味しており、“前方向”に相当する。
【0022】
《ランセット穿刺機構の構成・態様》
図1(a)または(b)は、本発明に係るランセット穿刺機構300を示している。図示するように、本発明に係るランセット穿刺機構300は、「穿刺部材100」、「穿刺部材に設けられる弾性部150」および「穿刺部材の周囲に存在する周囲部材250」を主に有して成る。
【0023】
『本発明の穿刺機構に用いられる穿刺部材100』は、採血時に穿刺作用に供する部材であって、穿刺方向へと発射して使用される。
【0024】
穿刺部材100は、少なくとも穿刺針を有して成り、発射により穿刺方向へと移動できるものであればいずれの形態を有していてもよい。例えばインジェクター使用態様(A)では、穿刺部材100は、図2に示すように“ランセット101”と“使用に際して該ランセットを保持して発射させることができるプランジャー120”とを有して成る。インジェクター使用態様(A)では、ランセット101は図3〜5に示すような形態を有していてもよいし、あるいは、図6および7に示すような形態を有していてもよい。更には、図34に示すようなランセットアッセンブリ100’の形態を有していてもよい。図3〜5または図6・7に示すランセット101を例にとって説明すると、ランセット101は、ランセットボディ104、ランセットキャップ106および穿刺針105を有して成る。金属製の穿刺針105は、樹脂製のランセットボディ104およびランセットキャップ106にまたがってこれらの中に存在している。一方、ランセットと共に用いられるプランジャー120は、穿刺方向に発射できる部材であって(図8(a)参照)、インジェクター200の内部に一般に設けられているものである(図8(b)参照)。使用に際しては、プランジャー120の先端部にランセットを取り付けるが、その操作に際して、プランジャー120が後退して発射エネルギーが蓄積される。つまり、ランセットの取付けに際してランセットに押される形でプランジャー120が後退し、プランジャーに設けられたスプリング(図8(b)の参照番号205a)が圧縮される。従って、その圧縮状態を解放すると、プランジャーが前方へと瞬時に移動することになるので、穿刺針を備えたランセットが穿刺方向へと発射される。
【0025】
別の形態として、穿刺部材は、ランセット・ランセットアッセンブリ自体にプランジャー機能が内蔵されたものであってもよい。即ち、穿刺機構の態様は、上述のランセットアッセンブリ態様(B)であってよく、穿刺デバイスとしては例えば図9ないしは図17に示すようなランセットアセンブリ110の形態を有している。かかる場合、穿刺部材100はランセットの形態を成している(図10参照)。ランセットアッセンブリ態様(B)では、ランセットホルダー102内にてランセットボディ104が発射エネルギーを予め蓄積した状態で係止されているため、その係止を解除すると、ランセットボディを穿刺方向へと発射できる。つまり、ランセットキャップをランセットから取り外した後でランセットボディの係止状態を解除すると、露出した穿刺針を備えたランセットボディを穿刺方向へと発射させることができる(図17(a)〜(d)参照)。
【0026】
『本発明の穿刺機構に用いられる弾性部150』は、図1(a)および(b)に示すように、穿刺部材100に設けられている。好ましくは、穿刺部材の側方部分に対して弾性部が設けられる。つまり、弾性部は、図示するように穿刺部材100の横断方向へと出っ張るように設けられることが好ましい。
【0027】
インジェクター使用態様(A)では、弾性部150は好ましくはプランジャー120に設けられている(図2参照)。一方、ランセットアッセンブリ態様(B)では、弾性部150は好ましくはランセットボディ104に設けられている(図10参照)。
【0028】
本発明で用いられる弾性部は、外力を作用させると変形するが、その外力を除くと“元の状態”または“元の状態に近い状態”に戻るような特性を有している限りいずれの形態を有していてもよい。例えば、弾性部150は、図1(a)または(b)に示すように、その内部が空洞150aとなっている。つまり、弾性部が中空構造を有しているものであってよい。弾性部は、樹脂製であることが好ましく、一般的なランセットに用いられる樹脂材料であれば、いずれの種類の樹脂材料から形成されていてもよい(例えばポリエチレンやポリプロピレン等の樹脂材料から弾性部が形成されていてよい)。中空構造を有する弾性部は、図1に示すようなa方向から外力が加えられると、その方向に寸法を縮小するように撓むことができ、外力を取り除くと元の形状に戻ることができる。尚、中空構造を有する弾性部の空洞部150aは、図1(a)に示すような穿刺方向に細長く延びたスリット形状を有していてもよいし、あるいは、図1(b)のような扁平形状(別の表現を用いれば矩形状もしくは略平行四辺形状)を有していてもよい。
【0029】
穿刺部材の穿刺方向への移動に際して弾性部は周囲部材を擦動する。好ましくは周囲部材を擦動する際に弾性部は横断方向内側(即ち図1の“a方向”)へと撓むことができる。このような弾性部の作用により、穿刺部材の軌道がより直線的となる。これは、発射時または穿刺時の穿刺部材(特に針先)の波打つ運動を弾性部が吸収することに起因しているものと考えられ、弾性部が穿刺に伴う衝撃を和らげているといえる。従って、「弾性部」は、その有する作用・機能に鑑みると、“緩衝部材”、“クッション部材”あるいは“応力吸収部材”と称すこともできるものである。
【0030】
『本発明の穿刺機構に用いられる周囲部材250』は、穿刺に際して穿刺部材が移動する空隙を規定しており、穿刺部材の周囲に存在する部材である。特に本発明について言えば、周囲部材250は、穿刺部材の発射に伴って穿刺方向に移動する弾性部が接することができる部材または部分でもある。従って、穿刺方向に移動する弾性部に対して外側から接触できるような位置に周囲部材250が設けられていることが好ましい。換言すれば、穿刺方向に移動する弾性部に対して外側から内側に向かって外力が加えられることにように(より具体的には、横断方向の外側から内側に向かって弾性部に外力が加えられることになるように)、剛性の周囲部材250が設けられている。
【0031】
インジェクター使用態様(A)では、周囲部材は「穿刺部材の発射に用いるインジェクターのハウジング」であってよい。かかる場合、例えば、図2に示すようにインジェクターのハウジングの内壁には突起部250aが設けられており、かかる突起部250aに対して弾性部150が擦動することが好ましい。図示するように、突起部250aは、穿刺部材の外側に設けられている弾性部の出っ張り方向(p方向)に対して直交する向き(q方向)に突出するように設けられることが好ましい。一方、ランセットアッセンブリ態様(B)では、周囲部材が「穿刺部材(即ちランセット)を収納するホルダー」であることが好ましく、図9に示すようなランセットホルダー102の内壁であってよい(“内壁”については図17(a)〜(d)も参照のこと)。図17の下部に示すようにランセットホルダーの内壁面102’にはテーパー部102aが設けられており、かかるテーパー部102aに対して弾性部150が擦動することが好ましい。
【0032】
《直進性向上機能》
次に、本発明の特徴的部分である「直進性向上機能」について詳述する。本発明では、穿刺部材が発射されて穿刺方向へと移動する際、穿刺部材の移動に伴って弾性部が周囲部材を擦動する。つまり、穿刺部材が穿刺方向へと移動すると、その穿刺部材に設けられている弾性部も同様に穿刺方向に移動することになるが、その際に、弾性部が周囲部材に接触した状態となる。特に、周囲部材に起因して外側から力を受けるように弾性部が周囲部材に接触する。これにより、発射された穿刺部材が受ける衝撃を弾性部が吸収することができ、穿刺方向に移動する穿刺部材がより安定した状態となる。換言すれば、弾性部が周囲部材を擦るように移動するので、穿刺部材が所定の横断方向の力を受けつつも、弾性部のクッション作用によって穿刺部材に発生し得る応力を緩和でき、その結果、より直線的な穿刺針軌道が確保され得る。
【0033】
図11〜図16を参照して「直進性向上機能」について更に詳細に説明する。図11〜16では、インジェクター使用態様バージョン(A)の穿刺機構300が示され、その番号順に経時変化が示されている。
【0034】
図11は穿刺前の状態を示している。つまり、図11に示される穿刺機構300においては穿刺部材が発射可能状態となっている。かかる状態では、プランジャー120に設けられたスプリング205aが圧縮された状態となっており、その状態が維持されるようにトリガー板バネ部230の先端部230aが突起部250aに係止している。従って、プランジャー自体はスプリング力に起因して前方へと移動する力が加えられているものの、プランジャーに連結されたトリガー板バネ部が突起部に当接しており、プランジャーの移動が阻止された状態となっている。換言すれば、図11では発射エネルギーがプランジャー120に蓄積された状態となっている。尚、図示するように、穿刺針105はプランジャー120の先端部に取り付けられている。
【0035】
図12は、トリガー板バネ部230が内側に向かって押圧された時点の態様を示している。図示する態様では、トリガー板バネ部の先端部230aと突起部250aとの係止状態は未だ解除されていない。
【0036】
図13は、トリガー板バネ部の先端部230aと突起部250aとの係止が解除された状態を示している。かかる係止が解除されると、圧縮されていたスプリング205a(図11参照)が元の形状に向かって伸びる力が作用するので、プランジャー120およびそれに取り付けられている穿刺針105が前方へと発射されることになる。尚、インジェクター・ハウジングには、その向かい合う内壁に、プランジャー120を穿刺方向に沿って案内するガイド(好ましくはガイドチャンネル)270が設けられていると共に、プランジャー120には、そのガイド内に嵌り込む被ガイド部120bが設けられているので、発射されたプランジャー120は穿刺方向へと移動できる。
【0037】
図14は、プランジャー120および穿刺針105が前方へと移動している態様を示している。係止解除するために押し込まれたトリガー板バネ部230はその押圧状態が解除されたことに起因して元の状態・位置へと戻ろうとする。つまり、押し込められたトリガー板バネ部230は係止解除後に外側へと移動しようとする。しかしながら、トリガー板バネ部230は既に前方へと移動しているためにトリガー板バネ部の外側には突起部250aが存在することになる。従って、図示するように、トリガー板バネ部230の上面230bは突起部250aに接触した状態となる。換言すれば、プランジャー120に連結されたトリガー板バネ部230は突起部250aに接触しながら前方へと移動することになる。
【0038】
図15は、弾性部150が突起部250aに擦るように移動し始めた頃の態様を示している。図示するように、弾性部150はトリガー板バネ部230に連結する形態またはトリガーレバー部230’の一部として設けられた形態を有しているので、トリガー板バネ部230と突起部250aとの接触状態に引き続いて、弾性部150が突起部250aに接触して前方へと移動する。つまり、プランジャー230の前方への移動に伴って弾性部150が突起部250aを擦動することになる(図示する態様では、突起部250aの胴部に対して弾性部150が擦動する)。
【0039】
図16は、弾性部150が突起部250aを擦動するに際して、弾性部150が撓む状態を示している。このように撓むのは、弾性部150に対して外側から内側へと力が掛かっているからである。尚、図示するように(特に図12などを参照すると分かるように)、弾性部の上面150bはより前方に位置するトリガー板バネ部の上面230bよりも僅かに外側に設けられており、即ち、前方へと移動する弾性部の上面150bが突起部250aに次第に近づくように構成されている。また、そもそもプランジャー自体はインジェクター・ハウジングのガイドチャンネルに嵌り込んで移動するために横断方向に対しては実質的に固定された状態となっている。その結果、穿刺方向に移動する弾性部は外側から内側へと効果的に力を受けることになる。図16に示すように、弾性部150が外部から力を受けて撓むことによって、即ち、弾性部の空洞部分150aが“ひしゃげる”ように弾性部が変形することによって、発射時または穿刺時の穿刺部材が受ける衝撃を弾性部により吸収することができ、結果的に、穿刺部材がより安定した状態で移動できる。
【0040】
ちなみに、弾性部150の過度な変形が防止されるように、空洞部分150aを形造る内面に隆起部150cが設けられることが好ましい(図15および図16参照)。これにより、弾性部の過度な変形を防止できるだけでなく、隆起部150cのサイズにより弾性部150の変形量を制御することができるので、弾性部の衝撃吸収量を好適に調整することが可能となる。一例を挙げるとすると、以下の式で示される弾性部の撓み率F(%)は、好ましくは0.1〜40%程度、より好ましくは0.1%〜30%程度である。

F=(H1−H2)/H1×100
F(%):弾性部の撓み率
H1(mm):撓む前の弾性部の横断方向寸法(図16参照)
H2(mm):撓んだ状態の弾性部の横断方向寸法(図16参照)
【0041】
次に、図17(a)〜(d)に示すような別の態様における「直進性向上機能」について詳細に説明する。図17(a)〜(d)は、ランセットアッセンブリ態様バージョン(B)を示しており、その番号順に経時変化を示している。
【0042】
図17(a)は穿刺前の状態を示している。図17(a)に示される穿刺機構を用いた穿刺デバイスでは穿刺部材が予め発射可能な状態となっている。具体的には、図示するランセットアッセンブリ110では、ランセットホルダー102内にてランセット100が収納されており、ランセット100のランセットボディ104に設けられたスプリング103が既に圧縮された状態となっている。スプリング103が圧縮されているので、ランセットボディ自体は前方へと移動する力が加えられているものの、ランセットボディ104がランセットホルダー壁の一部102bに係止しており(図17(a)参照)、ランセット100の移動が全体として阻止された状態となっている。換言すれば、ランセットアッセンブリ態様バージョン(B)においては、発射エネルギーがランセットボディ104に予め既に蓄積された状態で供されている。
【0043】
穿刺操作に先立っては、ランセットキャップ106を取り外して穿刺針105を露出させる(図10参照)。図17(b)は、穿刺針を露出させた後、ランセットボディ104の係止状態を解除した時点の態様を示している。係止状態が解除されると、圧縮されていたスプリング103が元の形状に向かって伸びようとするので、ランセットボディ104およびそれに固定化されている穿刺針105が前方へと発射される。特に、発射されたランセットボディ104は、その一部がランセットホルダー内壁に接した状態となっているので、ホルダー内壁に沿って移動することができる。特に図示する態様では、ランセットボディ104のK点とL点とがランセットホルダー内壁に接しており(図17(b)参照)、それによって、ランセットホルダー内壁にガイドされるようにランセットボディ104が穿刺方向へと移動することになる。
【0044】
図17(c)は、ランセットボディ104および穿刺針105が前方へと移動している態様を示している。また、図17(d)は、穿刺時の状態を示している。図示するように、ランセットボディ104に設けられた弾性部150はランセットホルダー内壁面102’に接触して前方へと移動する。つまり、ランセットボディ104の移動に伴って弾性部150がホルダーの内壁面102’を擦動することになる。擦動に際しては、弾性部150はホルダーの内壁面102’から力を受けることになるので、“弾性部150の撓み現象”が生じ得る。特に、図17の下部に示すように、ホルダーの内壁面102’にはテーパー部102aが設けられていることが好ましく、これにより、弾性部150はテーパー部102aの擦動時にて効果的に力を受けることになる。つまり、テーパー部により弾性部がより撓みやすくなり、穿刺に際してランセットボディが受ける衝撃を効果的に弾性部に吸収させることができるので、穿刺針がより安定した軌道となる。
【0045】
ランセットアッセンブリ態様(B)における弾性部150の機能について更に詳述しておく。発射されて穿刺方向へと移動するランセットボディ104は、上述したように、K点およびL点において剛性のランセットホルダーの内壁に接した状態となっている。つまり、発射されたランセットボディ104はランセットホルダー内壁に接した状態で移動する。従って、ランセットボディがテーパー部のような狭窄部を通過する場合では、ランセットホルダーの内壁から受ける力が大きくなる。つまり、テーパー部102aによりホルダー内径が小さくなっていると、その狭窄効果に起因して外側から内側に向かってランセットボディに働く力が大きくなる。その結果、テーパー部分aにおいては弾性部150が効果的に撓むことができる。これに関して一例を挙げると、テーパー部102aによってホルダー内径は0.1〜20%程度減じられていることが好ましい。より好ましくは、テーパー部102aによってホルダー内径が0.1〜15%程度減じられている。即ち、以下の式で示されるホルダー内径低減率Rは、好ましくは0.1〜20%程度、より好ましくは0.1%〜15%程度である。

R=(D1−D2)/D1×100
R(%):テーパー部に起因したホルダー内径低減率
D1(mm):テーパー部の設置箇所よりも後方側のホルダー内径(図17参照)
D2(mm):テーパー部によって狭まったホルダー内径(図17参照)
【0046】
《穿刺デバイスの使用態様》
以下では、インジェクター使用態様バージョン(A)の穿刺機構を例にとって、穿刺デバイスの使用態様について説明しておく。図18には、インジェクター使用態様(A)における穿刺デバイス400の外観を示している。図示するように、かかる穿刺デバイス400は、ランセット101とインジェクター200とから構成されている。インジェクター200の内部には、図19に示すように、プランジャー120が設けられている。また、インジェクター・ハウジング201の内壁には突起部250aが設けられている。尚、図19(または図20)に示すように、プランジャー120の先端部にはランセット保持部120aが設けられており、穿刺に際してランセットを保持できるようになっている。付加的に説明しておくと、ランセット保持部120aは、筒状になっており、挿入されたランセットのランセットボディ部を外側から把持できる構造を有している。
【0047】
穿刺に際しては、まず、図19および20に示すようにインジェクター200のキャップ部材202を外す。これにより、プランジャー先端に設けられているランセット保持部120aが露出することになる(尚、“キャップ部材202”は、後述する“穿刺深さ制限部材”にも相当する)。次いで、図21に示すように、インジェクター200に対してランセット101の装填を開始する。具体的には、一方の手の指でつまんだランセット101を、他方の手で保持したインジェクター200へと挿入する(より具体的にはランセット101をランセット保持部120aへと取り付ける)。図22には、ランセット保持部120aに対してランセット101が取り付けられた状態を示している。引き続いてランセットの挿入を継続すると、ランセット101に押される形でプランジャー120が後退して発射エネルギーが蓄積される。つまり、プランジャー120の後退により、プランジャー120に設けられたスプリング205aが圧縮する(従って、その圧縮状態を解放すると、プランジャーが前方へと瞬時に移動し、ランセットが発射されることになる)。プランジャー120が後退して発射エネルギーが蓄積された時点の態様を図23に示す。尚、通常の人が加えることができる力で、それ以上挿入できない状態となった時点をもって装填完了の状態となるが、その時点においてはトリガー板バネ部の先端部230aが突起部250aに対して係止することになる。
【0048】
ランセットのインジェクターへの装填が完了すると、ランセットキャップ106を取り外して穿刺針105を露出させる(図24参照)。ランセットキャップ106の取外しについて詳述すると次のようになる。図36および図37に示すように、ランセットボディ104’とランセットキャップ106’とは、その間に位置する弱化部分108’によって一体に結合されている。かかる弱化部材108’は、ランセットボディ104’とランセットキャップ106’とを穿刺針の周囲で相対的に反対方向に回すことによって破壊させることができ(図40にはG方向に回す態様が示されている)、それによって、ランセットキャップ106’を取り外すことができる。特に図24に示す態様では、一方の手でインジェクターの保持部材203を外側からつまみ、ランセット保持部120aとランセットボディ104とを一体的に固定した状態で、他方の指でランセットキャップ106をつまんで取り外す。尚、図24にて部分的に示すようにインジェクターの保持部材203は、スリット状に一部切り欠かれた筒状形態を有している。従って、外側から内側へと力が加えられると半径方向内側へと撓むことができる。その結果、外側からインジェクターの保持部材203を把持することによって、その内部に設置されたランセット保持部120aとランセットボディ104とを一体的に固定化することができる。
【0049】
穿刺に際しては、まず、図25(a)および(b)に示すように、穿刺深さ制限部材202をインジェクター200の先端部に取り付ける。そして、穿刺すべき所定の部位(例えば指先)に穿刺深さ制限部材202の開口部202aをあてがった後、トリガー部材のプレス部分242を押す(図25(a)参照)。プレス部分242をインジェクター内部に向かって押し込むことによって、トリガー板バネ部230が内側に向かって押圧され、トリガー板バネ部230と突起部250aとの係止状態が解除される。その結果、プランジャー120が前方へと発射され(つまり、バネ205aの圧縮状態が解除され)、穿刺針105による穿刺が行われることになる(図26(a)および(b))。穿刺後は、圧縮されたリターン・スプリング205b(図26(b))が元の形状に戻ろうとしてプランジャー120を後方へと動かすので、穿刺針105が素速く後退することになる。穿刺後の状態は、図27(a)および(b)に示される。
【0050】
次に、穿刺部材の発射に伴う経過を図28〜図33を参照して説明する。図28は、プランジャー120に設けられたスプリング205aが圧縮された状態となっており、その状態が維持されるようにトリガー板バネ部の先端部230aと突起部250aとが相互に当接している。図29は、トリガー部材のプレス部分242が押されることによって、トリガー板バネ部230が内側へと押圧される態様を示している。図示するように、トリガー板バネ部230が内側へと押圧されると、突起部250aとトリガー板バネ部の先端部230aとの係止状態が解除されることが理解できるであろう。図30は、突起部250aとトリガー板バネ部の先端部230aとの係止状態が解除され、プランジャー120およびその先端部120aに取り付けられた穿刺針105が前方へと発射された頃の態様を示している。図31は、弾性部150が突起部250aに擦るように移動し始めた頃の態様を示している。尚、図示する態様では、弾性部150はトリガー板バネ部230と連結して一体化したものであり、トリガー板バネ部が外側へと元の位置へ戻ろうとするのに対して、突起部250aの位置は変わらないままである。また、弾性部150は前方へと移動するプランジャー120と連結されている。その結果、弾性部150が突起部250aに擦るように前方へと移動することになる。図32は、弾性部150が突起部250aから力を受けることによって、弾性部150が撓む様子が示されている。図示するように、弾性部150の中空部の形状が小さくなるように変形している。このように弾性部が撓むことによって、穿刺に際してプランジャー120や穿刺針105が受ける衝撃を弾性部150が吸収することができ、結果的に、穿刺針105がより安定した状態で移動できる。特に図32に示す態様から理解できることであるが、発射された穿刺針105は、最終的には、その土台部105aが穿刺深さ制限部材202の内壁部202bへと衝突することになる。つまり、土台部105aと内壁部202bとの衝突によって穿刺針の動きが制限され、それによって、穿刺深さ(即ち、開口部202aから露出する穿刺針の長さ)が調節されることになる。ここで、穿刺針の土台部105aが穿刺深さ制限部材202の内壁部に衝突すると、その衝突に起因して穿刺針が波打つように振動することになり得るが(つまり、穿刺針の軌道がぶれることになり得るが)、本発明では、穿刺針に間接的または直接的に連結した弾性部がその波打つエネルギーを吸収できるようになっている。また、本発明では、穿刺部材に設けられた弾性部150が周囲部材(図示する態様では突起部250a)に擦って移動するので、その摩擦抵抗に起因して穿刺部材の移動速度が幾分減じられ得る。これは、穿刺針およびその土台部105aの移動速度が減じられることを意味する。従って、穿刺針の土台部105aと穿刺深さ制限部材202の内壁部との衝突エネルギーが減じられ(即ち、速度がより低下した状態で土台部105aが内壁部202bに衝突するので)、衝突に起因した穿刺針の“波打ち現象”を低減させることができる。以上のような理由により、本発明に係る穿刺機構では、穿刺時においても穿刺軌道の直線性が向上することになる。特に、「穿刺針の土台部105aと穿刺深さ制限部材202の内壁部との衝突」は針105が被採血者を穿刺した時点において生じ得るので、その時点での針の“ぶれ”が抑えられるということは、穿刺時の痛みを効果的に低減できることを意味している。図33は、穿刺後の状態を示しており、穿刺後は、圧縮されたリターン・スプリング205bが元の形状に戻ろうとしてプランジャー120を後方へと動かすので、穿刺針105が素速く後退する。
【0051】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、あくまでも典型例を例示したに過ぎない。従って、本発明はこれに限定されず、種々の態様が考えられることを当業者は容易に理解されよう。例えば以下の態様が考えられる。
【0052】
上述した態様では、中空構造を有する弾性部を例示したものの、必ずしもそれに限定されるわけではなく、弾性部全体が弾性材料から成るものであってもよい。つまり、中空構造を有することなく弾性変形を可能とする材質から弾性部を形成してよい。例えば、ゴム材料またはエラストマー材料から形成した弾性部が考えられる。更に言えば、中空構造を有する弾性部の一部分(特に後方部分)が欠けて全体的な形状がウイング状となった弾性部であってもかまわない。
【0053】
また、上述した態様では、主として穿刺方向に移動する穿刺針の直進性について説明してきたが、必ずしもそれに限定されるわけではない。本発明では、穿刺後に後方へと移動する穿刺針の直進性についても同様に向上することになる。つまり、穿刺後においても後方へと移動する弾性部が周囲部材を擦動するので、穿刺部材が受ける衝撃を弾性部により効果的に吸収でき、後方へと移動する穿刺部材がより安定化する。これは、後方へと移動する穿刺針の軌道についても同様に直線的なものとなることを意味している。特に、穿刺直後に後方へと移動しようとする穿刺針がより直線的な動きをすることになるので、『穿刺針によって穿刺箇所がえぐられる現象』が効果的に減じられ、被穿刺者が感じる痛みを更に低減できる。
【0054】
更に、上述した態様では、穿刺部材に設けられた弾性部が周囲部材を擦動することについて説明してきたが、必ずしもそれに限定されるわけではない。本発明では、弾性部が、穿刺部材ではなく周囲部材の方に設けられていてもよい。つまり、穿刺部材が周囲部材に設けられた弾性部を擦動する態様であってもよい。この場合、本発明に係るランセット穿刺機構は、
発射により穿刺方向に移動することができる穿刺部材、
穿刺に際して穿刺部材が移動する空隙を規定する周囲部材、および
周囲部材に設けられる弾性部
を有して成り、
穿刺部材が発射されて穿刺方向へと移動する際、穿刺部材の移動に伴って穿刺部材が「周囲部材に設けられた弾性部」を擦動する。このような態様であっても、発射された穿刺部材が受ける衝撃を「周囲部材に設けられた弾性部」が吸収することができ、穿刺針の穿刺軌道が向上し得る。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の穿刺機構を用いると、穿刺針の穿刺軌道が向上するので穿刺時の痛みを低減できる。従って、かかる穿刺機構を用いたランセット・デバイスは、糖尿病患者の採血に使用できることは当然のこと、その他の採血を必要とする各種用途においても好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0056】
100 穿刺部材またはランセットアッセンブリ態様(B)のランセット
101 インジェクター使用態様(A)のランセット
102 ランセットホルダー
102’ ランセットホルダー内壁面
102a ランセットホルダー内壁面のテーパー部
102b ランセットホルダー壁部のランセットボディ係止部
103 ランセットボディに設けられたスプリング
104 ランセットボディ
105 穿刺針
105a 穿刺針の土台部
106 ランセットキャップ
110 ランセットアッセンブリ
120 プランジャー
120a プランジャーに設けられたランセット保持部
120b インジェクターのガイド内に嵌り込むプランジャーの被ガイド部
131 ランセットボディ
132 ランセットキャップ
150 弾性部
150a 弾性部に設けられた空洞部分または中空部
150b 弾性部の上面
150c 弾性部の空洞部分を形造る内面に設けられた隆起部
200 インジェクター
201 インジェクター・ハウジング
202 キャップ部材または穿刺深さ制限部材
202a 穿刺開口部
202b 穿刺深さ制限部材の内壁
203 インジェクターの保持部材
205a 発射用スプリング
205b リターン・スプリング
230 トリガー板バネ部
230’ トリガーレバー部
230a トリガー板バネ部の先端部
230b トリガー板バネ部の上面
242 トリガー部材のプレス部
250 周囲部材
250a インジェクター・ハウジング内壁に設けられた突起部
270 プランジャーを穿刺方向に沿って案内するガイド
300 穿刺機構
400 穿刺デバイス
100’ ランセットアッセンブリ
101’ ランセット
102’ 保護カバー
104’ ランセットボディ
105’ 穿刺針
106’ ランセットキャップ
108’ 弱化部材
114’ ランセットボディの前方部分
116’ ランセットボディの後方部分
200’ インジェクター
204’ プランジャー
214’ インジェクターの前端開口部
264’,266’ プランジャーの先端部
514’ トリガー部材
524’ プランジャーに設けられた突起
526’ トリガー部材の後方部分端部
542’ トリガー部材のプレス部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発射により穿刺方向に移動することができる穿刺部材、
穿刺部材に設けられる弾性部、および
穿刺に際して穿刺部材が移動する空隙を規定する周囲部材
を有して成り、
穿刺部材が発射されて穿刺方向へと移動する際、穿刺部材の移動に伴って弾性部が周囲部材を擦動することを特徴とする、ランセット穿刺機構。
【請求項2】
前記擦動に際して弾性部が撓むことを特徴とする、請求項1に記載のランセット穿刺機構。
【請求項3】
弾性部が中空構造を有していることを特徴とする、請求項1または2に記載のランセット穿刺機構。
【請求項4】
周囲部材が、穿刺部材の発射に用いるインジェクターのハウジング、または、穿刺部材を収納するホルダーであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のランセット穿刺機構。
【請求項5】
インジェクターのハウジング内壁に突起部が設けられており、
弾性部が前記突起部を擦動することを特徴とする、請求項4に記載のランセット穿刺機構。
【請求項6】
穿刺部材を収納するホルダーの内壁面にテーパー部が設けられており、
弾性部が前記テーパー部を擦動することを特徴とする、請求項4に記載のランセット穿刺機構。
【請求項7】
穿刺部材が、ランセットと、使用に際して該ランセットを保持して発射させることができるプランジャーとを有して成り、
弾性部がプランジャーに設けられていることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のランセット穿刺機構。
【請求項8】
穿刺部材がランセットであり、穿刺針を固定化して成るランセットボディに対して弾性部が設けられていることを特徴とする、請求項1〜4または6のいずれかに記載のランセット穿刺機構。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate

【図28】
image rotate

【図29】
image rotate

【図30】
image rotate

【図31】
image rotate

【図32】
image rotate

【図33】
image rotate

【図34】
image rotate

【図35】
image rotate

【図36】
image rotate

【図37】
image rotate

【図38】
image rotate

【図39】
image rotate

【図40】
image rotate

【図41】
image rotate


【公開番号】特開2011−322(P2011−322A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−146616(P2009−146616)
【出願日】平成21年6月19日(2009.6.19)
【出願人】(000200666)泉株式会社 (24)
【出願人】(591185076)株式会社旭ポリスライダー (3)
【Fターム(参考)】