説明

ランセット

【課題】 従来のランセットでは、指先などに押し当てる方向とトリガー手段を押し込む方向が異なり、指先などに押し当てる強さに強弱が生じることと、押し当てた状態でトリガー手段を押し込まなければならず、穿刺針による刺し込み深さが安定しない。また、トリガー手段が露出する状態にあり、誤って穿刺針を発射させてしまう。
【解決手段】 一端にスティックで覆った穿刺針、周面に複数のフック、他端にバネ装着部より成る穿刺部と、該穿刺部をバネに抗して装填するもので該フックの係合部を備えたケースとによって構成し、該フックの係合解除操作により該穿刺針を発射させる構造において、該ケースの軸方向にスライド可能に被せるカバーを設けたものであって、該カバーは該ケースの該穿刺針発射側が突出する状態に装着すると共に、軸方向にスライドさせる移動に伴って該フックの該係合部との係合を解除させる解除部を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査試料としての体液を採取することを目的として、生体に穿刺針を穿刺して体液を滲出させるランセットの改良に関するものである。

【背景技術】
【0002】
血液などの生体サンプルを分析する場合において、そのサンプルを採取するため生体に穿刺針を穿刺して生体表面から体液を滲出させるランセットが広く利用されている。このようなランセットは、ケースにバネで付勢した状態にセットした穿刺針を、トリガー手段によって発射させる構造を基本にしている。
【0003】
例えば特許文献1に示すランセットは、一端に穿刺針、周面にトリガー手段、他端にバネ装着部を備えた穿刺部と、この穿刺部をバネに抗して装填し該トリガー手段の係合部を設けたケースとによって構成している。このランセットの使用方法は、ケース開口部を指先などに押し当て、この状態でトリガー手段を摘むようにして押し込むことで、穿刺針を発射させる。穿刺針は、ケース開口部から飛び出し、生体表面を穿刺した後、バネによって引き戻されケース開口部より内部に保持される。
【特許文献1】特開平10−192262号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のランセットでは、トリガー手段が露出した状態に設けられており、これを摘むようにして操作する必要がある。このため、ケース開口部を指先などに押し当てる強さに強弱が生じることと、押し当てた状態でトリガー手段を押し込まなければならないことから、穿刺針による刺し込み深さが安定しない問題が生じる。とりわけ、トリガー手段が露出する状態にあるため、誤って穿刺針を発射させてしまうことがあり、非常に危険である。
【0005】
また、単にトリガー手段を設けた穿刺部と、該トリガー手段の係合部を備えたケースより成る構造であるため、使用済みであっても穿刺部が押し込められると容易に再セットされてしまう。これにより、使用済みの穿刺針が再度発射されてしまう可能性や、故意に再利用される可能性が残る。

【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明者は上記課題に鑑み鋭意研究した結果、本発明を成し得たものであり、その特徴とするところは、一端にスティックで覆った穿刺針、周面に複数のフック、他端にバネ装着部より成る穿刺部と、該穿刺部をバネに抗して装填するもので該フックの係合部を備えたケースとによって構成し、該フックの係合解除操作により該穿刺針を発射させる構造において、該ケースの軸方向にスライド可能に被せるカバーを設けたものであって、該カバーは該ケースの該穿刺針発射側が突出する状態に装着すると共に、軸方向にスライドさせる移動に伴って該フックの該係合部との係合を解除させる解除部を設けたことにある。
【0007】
本明細書中でいう「穿刺部」とは、一端に穿刺針、周面に複数のフック、他端にバネ装着部を備えた構造の部材をいう。穿刺針はスティックで覆い隠して露出しないようにしている。通常、穿刺針、フック、バネ装着部、スティックは一体成型され、スティックは穿刺部をケースに装填するときにバネに抗して押し込むときの部材として用いられる。ランセットとして使用するときには、このスティックをねじ切るようにして取り除き、穿刺針を露出させる。
【0008】
「ケース」とは、穿刺部をバネに抗して装填するもので、穿刺部に設けたフックを係合させる係合部を備えたものをいう。バネは、コイルバネが一般的に使用されており、この反発力で穿刺針を発射させる。バネの一端側を穿刺部のバネ装着部に、他端側をケースに、それぞれ固着させることにより、穿刺針を発射させた後これを引き戻して、ケース開口部から突出させないように保持することができる。
【0009】
「カバー」とは、ケースにその軸方向にスライド可能に被せて装着する部材であり、スライド操作によりフックと係合部との係合を解除させる解除部を設けた部材をいう。カバーはケースの開口部側(穿刺針発射側)が突出するように装着することにより、ケースの開口部側を指先等に押し当てた状態でスライド操作することで、フックの係合を解除して穿刺針を発射させる。
【0010】
カバーは、係合部に係合されたフックを覆うように設けることで、フックに触れることによる誤作動を防止できる。ただ、本発明に係るランセットではケースにカバーを被せたことにより、使用時に指先で摘む箇所がカバーであることが明瞭となるため、フックを覆わなくても誤発射を軽減させることができる。カバーには、指先で摘む位置を明示する凹部やフックに触らないようにする鍔部(フランジ状)などを設けるようにしてもよい。
【0011】
カバーに設ける解除部としては、カバーをケースの軸方向にスライドさせるだけでフックの係合部との係合を解除させる構造であればよい。解除部によるフックの係合解除操作は、必ずしもフックを直接作用させる必要はなく、フックに連結するボタンを設けこれを作動させるような構造にすれば、単なる筒状のカバーで周縁部の一部を解除部として作用させることができる。
【0012】
カバーとケースには、使用前の状態や使用後の状態を保持するための保持部を設けるのが好ましい。例えば、使用前であればカバーが容易にスライド移動しないようにすること。使用後はカバーの解除部によるフックの係合解除状態を維持させて、穿刺針を発射状態に再セットできにくくすることや、カバーの位置或いはカバーから突出するケースの状態で使用済みか否かの判断を目視しやすくする場合である。

【発明の効果】
【0013】
本発明に係るランセットは、ケースの係合部に係合させたフックの係合を解除させるためのカバーを、該ケースの軸方向にスライド可能に設けたことにより、フックに触れることによる穿刺針の誤発射を少なくすることができる。また、使用時に指先など生体表面に押し付ける方向と穿刺針を発射させる方向が同じであるため、穿刺位置や穿刺させる深さが安定する。このため、カバーとケースとの摩擦係数や、使用前の状態に保持する保持部の係合強さの調整により、穿刺部位や乳幼児など対象に応じた穿刺深さのランセットも用意することができる。このことは、カバーやケースの一方を保持部の形状を変えたりするだけで設定することも可能となる。
【0014】
カバーを設けることにより、ケースに対するカバーの位置やカバーからケースが突出する程度により、使用済みか否かの判別がつきやすくなる。さらに、カバーによるフック係合解除位置でカバーを保持する保持部を設けたり、カバーをその位置から移動させにくい構造とすることにより、穿刺針の発射位置への再セットを防止して安全性を高めることができるなど極めて有益な効果を有するものである。

【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、穿刺針をバネで付勢した状態で係合させたケースに、その係合を解除させる解除部を設けたカバーを、軸方向にスライド可能に被せたことにより、操作性、安定性、安全性の面で、上記課題を解決した。

【実施例1】
【0016】
図1は、本発明に係るランセット1の一例を示す分解図であり、穿刺部2、ケース3、バネ4、カバー5、キャップ6より構成している。穿刺部2は一端に穿刺針21、周面に2つのフック22、他端にバネ装着部23を備えた構造で、スティック24で穿刺針21を覆うように一体成型した部材である。図2は、穿刺部2をケース3に装填して組み立てた状態であり、ケース3には、穿刺部2をバネ4に抗して押し込んだ状態で、フック22を係合させるための係合部31を設けている。また、ケース3の開口部にはキャップ6を嵌め込み、スティック24のみが突出する状態に封止している。これにカバー5をスライド可能に被せて完成する(図3)。カバー5には、スライド移動させることによってフック22の係合を解除させるための解除部51を設けている。
【0017】
ランセット1の使用状態を図4及び図5に示す。先ず、図4(a)のようにスティック24を捻るようにして取り外す。そして、図5のようにカバー5を持ってケース3のキャップ6側を指先に押し当てる。この状態でカバー5を押し当てた方向と同じ矢印の方向にスライドさせれば、図4(b)のように解除部51によってフック22の係合が解除され、穿刺針21が発射して指先表面に穿刺する。穿刺針21がキャップ6開口部から飛び出すのは一瞬であり、バネ4によって同図(c)の位置に戻され、キャップ6開口部から突き出ないように保持される。
【0018】
バネ4で穿刺針21を引き戻してケース3内に保持させるため、バネ4の一端を穿刺部2のバネ装着部23に固定する。そして、穿刺部2を押し込んでセットするときにバネ4の他端が嵌り込んで固定されるように、ケース3の奥部を狭くしている。通常、使用後はこの状態で医療廃棄物として廃棄するが、カバー5を外してケース3部分だけを廃棄し、カバー5は再利用してもよい。

【実施例2】
【0019】
ケース3とこれに外嵌するカバー5の関係においては、ある程度の摩擦力で保持させてもよいが、図6のように凹部と突部より成る第一保持部7を設け、相互に係合させることで、輸送時、保管時、取扱時などにおけるカバー5の脱落を防止することができる。この第一保持部7はフック22が係合部31に係合した位置にカバー5を保持させるためのもので、カバー5のセット位置が明確になることや、穿刺針21の不用意な発射防止にも寄与する。第一保持部7を設けることで、その係合力による穿刺深さの設定や、カバー5のスライド開始から穿刺針21の発射までの間隔を一定にでき、操作しやすくなる。
【0020】
本例では、さらにフック22の係合を解除して穿刺針21を発射させた位置でカバー5を保持する第二保持部8を設けている。本例のように穿刺針21発射位置でカバー5がケース3を完全に覆い隠すようにすれば、カバー5を元の位置に戻しにくくすることができるが、第二保持部8を設けることでより確実となり、穿刺針21の再セットを不可能にして安全性を高めることができる。

【実施例3】
【0021】
図7は、フック22の他の実施例を示すもので、フック22を連動させるボタン25を設けたものである。このボタン25をカバー5の解除部51で移動させることによって、フック22と係合部31との係合を解除させる。ボタン25を設けることにより、これを僅かに押し込むだけで係合部31に係合しているフック22を外すことができる。

【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係るランセットの一実施例を示す分解側面図である。(実施例1)
【図2】穿刺部を組み込んだケースにカバーを装着する状態を示す断面図である。
【図3】本発明に係るランセットを組み立てた状態の断面図である。
【図4】(a)は使用する直前の断面図、(b)は穿刺針を発射して指先を穿刺している状態の断面図、(c)は穿刺後穿刺針がケース内に引き戻されて保持された状態の断面図である。
【図5】本発明に係るランセットの使用状態を示す斜視図である。
【図6】本発明に係るランセットの他の実施例を示す部分断面図である。(実施例2)
【図7】本発明に係るランセットのさらに他の実施例を示す部分断面図である。(実施例3)
【符号の説明】
【0023】
1 ランセット
2 穿刺部
21 穿刺針
22 フック
23 バネ装着部
24 スティック
25 ボタン
3 ケース
31 係合部
4 バネ
5 カバー
51 解除部
6 キャップ
7 第一保持部
8 第二保持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端にスティックで覆った穿刺針、周面に複数のフック、他端にバネ装着部より成る穿刺部と、該穿刺部をバネに抗して装填するもので該フックの係合部を備えたケースとによって構成し、該フックの係合解除操作により該穿刺針を発射させる構造において、該ケースの軸方向にスライド可能に被せるカバーを設けたものであって、該カバーは該ケースの該穿刺針発射側が突出する状態に装着すると共に、軸方向にスライドさせる移動に伴って該フックの該係合部との係合を解除させる解除部を設けたことを特徴とするランセット。
【請求項2】
カバーは、ケースの係合部に係合した穿刺部のフックを覆って装着する請求項1記載のランセット。
【請求項3】
カバーは、フックが係合部に係合した位置に保持するケースとの第一保持部を設けた請求項1記載のランセット。
【請求項4】
カバーは、フックの係合解除位置に保持するケースとの第二保持部を設けた請求項1記載のランセット。
【請求項5】
係合部はケースのテーパー面に設けた係合孔であり、カバーの解除部は該ケースのテーパー面とほぼ同形状のテーパー面である請求項1記載のランセット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−319197(P2007−319197A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−149487(P2006−149487)
【出願日】平成18年5月30日(2006.5.30)
【出願人】(591029518)テラメックス株式会社 (11)
【Fターム(参考)】