ランダムマスク方式による紙葉類のニューロ識別/正損分離装置
【目的】 本発明の目的は、センサで計測されたパターン画像データを複数のカラムマスクを用いて縮小化し、小規模なニューラルネットワークで紙葉類のパターン認識を行なうランダムマスク方式による紙葉類のニューロ識別/正損分離装置を提供することにある。
【構成】 カラムマスクで縮小化されたスラブ値(画像代表値)は、紙葉類のある程度の斜行による搬送パターン画像の位置ずれに不変であり分離演算部(ニューラルネットワーク)に入力され、予め判定パターン分類に最適に調整されたニューロ重みにより、パターン画像の判定パターン毎に分離演算値が算出される。分離演算値の最大値に従って、パターン画像を判定するようになっている。これにより、ニューラルネットワークの構成が小規模になると共に、制御装置が小規模となる。
【構成】 カラムマスクで縮小化されたスラブ値(画像代表値)は、紙葉類のある程度の斜行による搬送パターン画像の位置ずれに不変であり分離演算部(ニューラルネットワーク)に入力され、予め判定パターン分類に最適に調整されたニューロ重みにより、パターン画像の判定パターン毎に分離演算値が算出される。分離演算値の最大値に従って、パターン画像を判定するようになっている。これにより、ニューラルネットワークの構成が小規模になると共に、制御装置が小規模となる。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ニューラルネットワークによって紙幣、ギフト券等の紙葉類のパターンを認識すると共に、紙葉類の汚れ、破れなどによる正損レベルを認識し得る装置に関し、特に紙葉類搬送方向に対して縦長状のカラムマスクを用いて紙葉類のマスクをランダムに被覆することにより、識別に使用するパターン画像を縮小して小規模で効率良く分離演算すると共に、正損レベルを判定演算するようにしたランダムマスク方式による紙葉類のニューロ識別/正損分離装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、貨幣,文字等のパターンを認識するのにニューラルネットワークを用いたものとしては、図27に示すようなものがある。図27の認識装置は、被識別対象1の文字等をイメージセンサ2で読取って入力画像3を得る。図27の入力画像3の場合、縦,横各8分割なので、D(i.j)(但しi=1〜8、j=1〜8)の64画素の入力情報として取得する。そして、この64個の各画素データを分離演算部5に直接入力する。このとき、分離演算部5の入力層のニューロ素子は、各画素に対応した64個が必要となる。そして、この入力情報に基づきニューラルネットワークを用いてパターンの認識を行なうようになっている。
【0003】一方、従来の紙葉類の正損分離は、破れ、穴明き、汚れ等を別々にランク付けして分離する技術で、最終的にはこれらの結果を統合して紙葉類の損傷レベルを判定していた。特に、その分離技術の基本は、各センサから得られる情報をもとに閾値を設定し、損傷レベルの低い情報と損傷レベルの高い情報との間での分離が主であり、そのレベルの選択はユーザに委ねられていた。又、ニューラルネットワークでは、簡易的な折れ線グラフによるシグモイド関数の近似を行なっていた。これは誤差が大きく、入力如何では正確なニューロ出力値が得られないなどの問題点があった。そして、シグモイド関数の値を離散的にとってテーブルとして認識時に参照し、詳細なシグモイド出力値を必要とする場合には線形補間計算を行なって使用していた。また、ニューラルネットワークの重みの学習は、製品と分離されていなかったのでセキュリティ面での問題点があった。すなわち、学習方式や学習データが第三者に漏洩する危惧があった。このため、製品が使用される国の紙幣等を現地から調達し実際に紙幣を流して学習させ、学習結果を製品に格納していたが、これには多くの手間と経費を要していた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし、上述のような従来の認識装置では、分離演算部5に入力する情報数が入力画像3の画素数だけ必要であるため、入力層のニューロ素子も画素数と同じ数だけ必要となってくる。従って、多数のニューロ素子を有する入力層を設けなければならず、それに対応して隠れ層も多数のニューロ素子を設ける必要があり、結局、非常に大がかりな分離演算部5を用いなければパターン認識を行ない得なかった。
【0005】画像処理としてエッジ抽出、2値化が考えられるが、紙幣の特徴を抽出する処理技術を行なうには画素数を多くし、細かく紙幣画像を計測することが必要であり、また処理速度の点からも難しいものであった。また、近年生物の神経回路網の情報伝達をモデル化したニューラルネットワークは、情報の内挿、学習によるアルゴリズムの自己組織化、及び並列処理などの優れた特徴を有し種々のパターン認識に適し、特に学習によるアルゴリズムの自己組織化は、従来の経験による紙幣の特徴パラメータ探索業務を軽減することが可能であるとされ、ニューラルネットワークを使った紙幣識別機も近年開発されつつある。特に米国ドル紙幣の様に札幅、札長及び色相が同じ複数金種を識別するに適切な規模のニューラルネットワークの構成が望まれていた。
【0006】ところで、紙葉類の正損分離には人の感性が介在するものであり、その分離レベルは装置のユーザによって異なるので、紙葉類の損傷レベルを数段階設ける必要がある。また、損傷レベルを上述の各項目に分離して検出するので、これらを統合した最終判定が必ずしも現物の見た目の損傷レベルと一致しない場合がある。このような理由により、損傷レベルの設定をユーザ毎に、しかも細かい要求に応えるように随時設定できる装置が要望されていた。又、ニューロ演算装置では、シグモイド関数自体の計算を計算機にさせることは処理時間の制約により無理があるので、上述のような近似値を使用していたが、これには誤差が大ききい箇所があり、場合によっては誤判定を起こす危惧があった。更にユーザの近くで、例えばユーザのメンテナンスを担当する営業店等で、顧客の要望を満たす紙葉類の損傷レベルを簡易に設定し直すことができる装置の出現が望まれていた。
【0007】本発明は上述の如き事情よりなされたものであり、本発明の目的は、分離演算部の入力層に入力する入力情報数(以下、スラブ数という)の数を減少させても確実にパターンの認識を行ない得るようにして、分離演算部の縮小化を実現すると共に、米ドル紙幣のような金種間で同一サイズ、同一色相、酷似図柄の識別を生物の神経回路網を模倣したニューラルネットワークと画像の一部を被覆するランダムマスクで実現するランダムマスク方式による紙葉類のニューロ識別装置を提供することにある。更に本発明の目的は、紙葉類の損傷レベルの設定をユーザ毎に細かい要求に応え得るようにし、セキュリティ面でも問題がなく、しかもメンテナンス担当の営業店等で顧客の要望を満たす紙葉類の損傷レベルを容易に設定し直すことができる紙葉類の正損分離装置を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明はランダムマスク方式による紙葉類のニューロ識別装置に関するもので、本発明の上記目的は、識別すべき紙葉類の光学パターン画像を入力する画像入力手段と、前記画像入力手段で読取られた画像データを記憶する記憶手段と、前記記憶手段に記憶されている画像データから前記紙葉類の光学パターン画像を抽出する画像抽出手段と、前記画像抽出手段により抽出された前記光学パターン画像に対して前記紙葉類の搬送方向と平行にランダムに複数種のカラムマスクを施し、前記各光学パターン画像における非マスク画素の総和(スラブ値)に変換する前処理部と、前記スラブ値を入力し、予め判定パターン分類に最適に調整されたニューロ重みにより前記光学パターン画像の判定パターン毎に分離演算値を算出するニューラルネットワークの分離演算部と、前記分離演算値の中で最大値を有する判定パターンを前記紙葉類の光学パターン画像の判定値として出力するニューラルネットワークの判定部とを具備することによって達成される。
【0009】本発明はランダムマスク方式による紙葉類のニューロ正損分離装置に関するもので、本発明の上記目的は、識別すべき紙葉類の光学パターン画像を入力する画像入力手段と、前記画像入力手段で読取られた画像データを記憶する画像データ記憶手段と、前記画像データ記憶手段に記憶されている画像データから前記紙葉類の光学パターン画像を抽出する画像抽出手段と、前記画像抽出手段により抽出された前記光学パターン画像に対して前記紙葉類の搬送方向と平行にランダムに且つ左右対称に複数種のカラムマスクを施し、前記各光学パターン画像における非マスク画素のスラブ値に変換する前処理部と、前記スラブ値を入力し、正損分離に最適に予め調整されたニューロ重みにより前記光学パターン画像の正損レベル毎に分離演算値を算出するニューラルネットワークの分離演算部と、前記分離演算値の中で最大値又は最小値を有する正損レベルを前記紙葉類の判定正損レベルとして出力するニューラルネットワークの判定部とを具備することによって達成させる。
【0010】
【作用】本発明では、学習機能を有するニューラルネットワークによって紙葉類(特に米ドル紙幣7金種)のパターン認識及び正損分離を効率良く行なう為に、センサで光学的に入力されたパターン画像データを複数のカラムマスクを用いて縮小し、複数の画像代表値(スラブ値)を得る。画像データは多数の帯状小区画に分割し、カラム領域の複数個がマスクされる。このようなカラムマスクで縮小化された画像代表値は、パターン画像の僅かな斜行に不変でありニューロ演算部(ニューラルネットワーク)に入力され、予め判定パターン分類に最適に調整されたニューロ重みにより、パターン画像の判定パターン毎に分離演算値が算出される。分離演算値の最大値に従って、パターン画像を判定するようになっている。これにより、ニューラルネットワークの構成が小規模になると共に、制御装置が小規模となる。また、ニューラルネットワーク回路の規模を大きくしないで、小さなものをカスケードに接統することにより、または、同一回路で重み関数を交換し同一スラブ値を入力し複数回ニューラルネットワーク(カスケード処理)にて分離演算することにより紙葉類の鑑別が行える。これにより、ニューラルネットワークの構成が小規模になると共に、制御装置自体も小規模となる。
【0011】本発明では、対象の紙葉類のイメージ画像を入力し、記憶手段に格納された画像データからイメージ画像を切出し、更にこの切出された光学パターン画像に対して紙葉類の搬送方向と平行な方向にランダムに且つ左右対称となるようにマスクを施し、マスクを介してスラブ値を得、このスラブ値を基にニューラルネットワークの分離演算を行なって正損度の分離判別を行なう。このように左右対称のマスクパターンを使用することによって判別するパターンの種類を減らすことができ、正損分離の処理を高速化できる。又、シグモイド関数のexp(−x)の部分を1次関数にて近似するようにするので、誤差を小さくでき、誤判定の危惧がなくなった。又、外部のパソコン(ニューロエンジン)によるニューロ学習演算部にて学習ができ、本体装置と外部パソコンをインタフェース手段により接続し、画像データ又はスラブ値を外部パソコンに送り、結果として得られるニューロ重みを外部パソコンからダウンロードすることができ、その結果を本体装置に付随するニューロ演算部の書換可能なROMに書込むようにしているので、容易にニューロ重みを外部から更新することできると共に、両者を分離することにより装置の安全性も確保できる。そして、装置から外部パソコンへ渡すデータが画像データである場合は、マスクパターン自体のシミュレーションも可能で応用範囲が広いニューロ演算をさせることができる。更に、装置から外部パソコンへ渡すデータがスラブ値の場合には、実機が計算したスラブ値を用いるのでより実機に近いデータで重み係数を算出することが可能である。
【0012】
【実施例】ニューラルネットワークで紙幣(特に米ドル)のパターン認識及び正損分離を行なう場合、従来は識別/分離装置のセンサから得られる情報を直接ニューラルネットワークに入力していた。このため、ニューラルネットワークでは、得られる入力情報の全てに対して情報伝達の重みを持たなければならず、その規模も大きくなっていた。このため、本発明では入力情報を縮小化するための複数のカラムマスクを前処理部に設け、それぞれのカラムマスクで被覆後の画像から画像代表値(スラブ値)を得るようにする。カラムマスクは多数の矩形状小区画を有し、紙幣の搬送方向に対して同方向の長方形状の領域が複数個被覆された構造を有している。
【0013】以下、本発明の実施例を図面を参照して説明する。図1は本発明の外観構成を示しており、紙幣識別/正損分離装置100の傾斜した前面右部にはパネル部120が設けられており、上部には識別すべき紙幣(米ドル紙幣)10を整列して収納するためのホッパ101が設けられている。ホッパ101に収納された紙幣10は、羽根車102ないし103から1枚ずつ集積され、選択希望金種の紙幣は第1スタッカ104に保留され、金種の判定された紙幣は第2スタッカ105に保留され、リジェクト紙幣はリジェクトスタッカ106に保留される。また、第1スタッカ104の上方には開閉可能なガイド板107が配置されており、第2スタッカ105の上方には開閉可能なガイド板108が配置されている。この機構に関しては後述する。
【0014】パネル部120には電源スイッチ121が設けられていると共に、識別/分離動作のスタートとストップをトグル式に指示するスタート/ストップボタン122が設けられ、表示のクリアを指示するクリアボタン123が設けられている。その下方には、計数した枚数(金額)等を表示する表示部130が設けられており、更に紙幣識別/分離装置100の故障部位及び内容を表示するガイダンス表示部124が設けられている。そして、識別モード、学習モード、テストモードを順次選択して切換えるモードスイッチ125と、指定枚数になれば計数を停止するためのバッチモードを設定するバッチスイッチ126と、押すたびに停止枚数を増加(例えば10枚毎)して指定枚数を設定するための枚数指定スイッチ127と、スタート/ストップボタン122が押され、最初に識別した紙幣以外の金種が識別されたときに異金種としてリジェクトする異金種リジェクト設定ボタン128とが縦列に設けられている。さらに、最下部には、紙幣の汚れを検知して損券としてリジェクトするレベルを設定するための損券レベル設定スイッチ129Aと、テープが貼られた紙幣を検出する場合のテープ長を設定するテープ長設定スイッチ129Bとが設けられている。
【0015】図2は紙幣識別/正損分離装置100の内部機構を示しており、ホッパ101に収納された紙幣10は1枚ずつ繰り出しローラ110で繰り出され、搬送路P1を経てローラ111で方向変換されて後に搬送路P2を経てローラ112に搬送される。ローラ112の搬送出口部には、搬送路P3又はP8への切換えを行なう通路切換部材113が設けられており、搬送路P8へ送られた紙幣は搬送路P9を経てリジェクトスタッカ106に保留される。また、通路切換部材113で搬送路P3へ送られた紙幣は更にローラ114へ送られ、ローラ114の搬送出口部に設けられた通路切換部材115によって、搬送路P4又はP6へ切換えられて搬送される。搬送路P4へ送られた紙幣はローラ116を介して搬送路P5に送られ、その後に羽根車102に周設されている羽根部材を介して第1スタッカ104に保留され、搬送路P6へ送られた紙幣はローラ117を介して搬送路P7に送られ、その後に羽根車103に周設されている羽根部材を介して第2スタッカ105に保留される。第1スタッカ104に保留された紙幣は、ガイド板107を開けることによって外部に取り出され、第2スタッカ105に保留された紙幣も同様に、ガイド板108を開けることによって外部に取り出される。そして、搬送路P1には、搬送される紙幣の光学パターン画像を読取るためのラインセンサ11が、発光部12と一体的に配設されている。又、ローラ111等の搬送繰り出し手段には、ラインセンサ11の出力データを取込むタイミングを定めるサンプルパルスSPを出力するロータリエンコーダ13が接続されている。更に、図示はしていないが、各搬送路P1〜P9には紙幣通過を検知するためのセンサが設けられており、第1スタッカ104、第2スタッカ105及びリジェクトスタッカにも紙幣の保留及び取出しを検知するためのセンサが設けられている。
【0016】表示部130の詳細は図3に示すようであり、最上段は計数した枚数又は金額を表示する数量表示欄131であり、中段にはバッチ処理の停止枚数を表示するバッチ表示欄132が設けられており、最下段にはモードスイッチ125が選択しているモードを点灯表示するためのモード表示灯133が設けられている。本発明では、ホッパ101に収納する紙幣10の表裏や向きには限定のないようにしているが、その搬送方向と表裏に対応して図4の(A),(B)に示す如きA〜D方向を定義している。即ち、本発明では米ドル紙幣の各金種について、A〜D方向のいずれについても識別/分離できるようになっている。
【0017】図5は紙幣識別/正損分離装置100の内部構成を示すブロック図であり、発光部12からの光は搬送路P1上の紙幣10の表面で反射されてラインセンサ11に入力され、ラインセンサ11の読取信号はセンサ制御部14を経て画像フレームメモリ141に入力され、図6の141Aで示すようにフレーム画像として記憶される。センサ制御部14はラインセンサ11からのデータを読出すためのクロック信号及び制御信号を発生し、読出したアナログ信号をAD変換器により8ビットないし12ビットのディジタルデータに変換し、紙幣画像とその周辺部のイメージデータを格納する画像フレームメモリ141に書込む。ニューロ演算部150はDSP(Digital Signal Processor)154,RAM155,ROM156,書換可能ROM157で成り、装置100に別ユニットとして内蔵されている。画像フレームメモリ141のデータは図6の141Bで示すように紙幣部分のみが切出されその切出し画像データが処理の対象となる。ニューロ演算部150の識別結果DRは、CPU,ROM,RAM等で成る識別装置制御部160に入力される。ニューロ演算部150は識別判定/正損判定演算処理ユニットとして機能し、RAM155はDSP154が処理を実行するときの作業領域を提供しており、ROM156にはDSP154が実行するニューロプログラムが格納されている。書換可能ROM157には、外部パソコン(ニューロ学習エンジン)170からダウンロードされたニューロ重み係数及びマスク形状を規定するパラメータ等が格納されており、通常の運用時にはこの書換可能ROM157の内容は更新されない。又、実際のDSP154の動作時には、ROM156の内容と書換可能ROM157の内容は全てRAM155にコピーされて処理を実行し、DSP154の処理速度を速めるためにアクセスタイムの遅いROM156からRAM155にデータを移すようにしている。本紙幣識別/正損分離装置100には更に外部パソコン170がインタフェース(I/F)を介して接続されており、シリアル通信I/F171は、外部パソコン170と紙幣識別/正損分離装置100との間でコマンド及びそのレスポンスの交換を行ない、パラレル通信I/F172は、紙幣識別/正損分離装置100から外部パソコン170へ画像データ又は計算したスラブ値を送るのに用い、大量のデータを転送するためにパラレル通信としている。識別装置制御部160は発光部12の照度を制御すると共に、通路切換部材113及び115を制御し、表示部130及びガイダンス表示部124の表示を制御する。又、識別装置制御部160にはスタート/ストップボタン122等の設定入力手段が接続され、繰り出しローラ110等の搬送繰り出し手段の駆動を制御するようになっており、更に各種センサからの検知信号が入力されるようになっている。
【0018】図7は本発明のニューロ演算部150の詳細構成例を示すブロック図であり、認識対象の紙幣10はCCD等で成るイメージセンサ11で計測され、適宜画像処理されて画像フレームメモリ141内にフレーム画像141Aが得られる。フレーム画像141Aはニューロ演算部150で紙幣部分のみが切出されて141Bのように紙幣イメージが特定される。次に、前処理部151にてカラムマスク41〜4nを紙幣イメージデータ141Bに適用してマスクの掛かっていない部分の画素データの総和値(スラブ値)SB1〜SBnを得る。このスラブ値SB1〜SBnはニューラルネットワークの分離演算部152に入力され、予め判定用紙幣のパターン分類に最適に調整されたニューロ重みにより分離演算値SPが算出される。分離演算値SPは判定部153に入力され、分離演算値SPの中で最大値を有するパターンが対象物の紙幣10のパターン画像として出力される。前処理部151内のカラムマスク41〜4nは一様乱数を用いてランダムに被覆された搬送方向と平行に細長い帯状のカラムマスクであり、それぞれが異なる小区画を被覆するものである。
【0019】ここで、カラムマスクを用いた前処理部151について説明する。本発明でカラムマスク41〜4nを用いる理由は、次のことによる。図8に示すように8×8のマトリクス上の“0”と“1”の2値画像において、画像の特徴量として画素値の総和であるスラブ値(2値画像の“1”の数)を用いた場合、図8(A)では文字“E”を特徴づける値として“14”が得られ、同図(B)では文字“H”を特徴づける値として“12”が得られる。従って、スラブ値を用いることによって“E”と“H”が分離可能となる。しかしながら、異なるパターンを有する画像でもスラブ値が等しくなる場合が存在する。例えば、図9(A)では文字“F”のスラブ値は“10”であるが、同図(B)の文字“K”のスラブ値も“10”であり、分離不可能となる。このような問題に対しては、図10(C)に示すような入力画像の画素に対応する特定の棒状領域が被覆されたカラムマスクを導入することにより解決できる。図10(C)のマスクで図9(A)の画像を覆うと図10(A)に示す画像となり、この場合のスラブ値は“8”となる。一方、図10(C)のマスクで図9(B)の画像を覆うと図10(B)に示す画像となり、スラブ値は“9”となる。このようにカラムマスクを導入することにより、“F”と“K”も分離可能となる。そこで、このように種々の画像を分離するために、図10(C)に示すような予めマスク内の複数の長方形状の被覆される部分の位置を選定しておく。この場合、ただ1つのこのようなマスクによって、種々の画像を分離できるスラブ値を生成する確率は極めて小さい。しかしながら、前述のように異なる種々のカラムマスクを使用することによって、同じ画像でも異なるスラブ値列を得ることができる。このスラブ値列のいずれかが画像間で異なることが多く、種々のカラムマスクを利用することによって、画像間の分離能力を確率的に高めることが可能である。なお、上述の複数の異なるカラムマスクを使用することは、次のような物理的な意味を有している。つまり、3次元物体を他方向から視点を変えて観測する場合、同一の対象でも異なる情報を得ることができる。これと同様に、種々のカラムマスクを用いることは2次元平面内で視点を変えて画像を観測することになり、前述のように同一の画像でも異なる情報を生成することが可能となる。この場合、前処理で入力画像が種々の異なるカラムマスクで覆われ、被覆されない画素の総和がスラブ値SB1〜SBnとなり、入力層のニューロ素子と一対一に対応している。さらに、出力層のユニット値は判定パターン(又は正損レベル)に対応している。
【0020】図11は、マスク41〜4nの如き垂直方向のカラムマスクの効果を示しており、同図(A)の下移動入力画像と同図(B)の上移動入力画像に対して同一なスラブ値“5”を得ることができ、入力画像が上下の垂直方向ずれを生じても不変なスラブ値を得ることができる。なお、紙幣は短手方向に搬送され、搬送時には、紙幣が搬送通路に対して直角に保持されて搬送される場合は極めて稀で、普通は左乃至右側に少なからず先行して搬送されるという、いわゆる斜行搬送が起きる。斜行に対してもカラムマスクはロウマスク(横手方向棒状マスク)と比べその長辺長さが短いので、変化する画素領域が少なくその影響を受けにくい。実施例の場合には、斜行角±8°までを許容するようにしている。
【0021】次に、認識の際には予め選定してある上記カラムマスクの種類数、内容についての適性及びその選定上の留意点を説明する。外部パソコン170のニューロ演算部における前処理部151ではカラムマスクの種類41〜4nとそのマスク41〜4n内の被覆領域がパラメータとして考えられる。ただし、外部パソコン170のニューロ演算部が使用する学習アルゴリズムは、次の数1で与えられるバックプロパゲーション法を用いる。
【数1】
また、重みの修正は、各パターンの提示毎に行なう。収束判定は、各パターン毎に得られる出力層の値と教師値との差の2乗の総和が収束判定誤差以下になった場合、または提示回数が最大提示回数に達した場合としている。ここで、提示回数とは、米ドル1$から100$までの7金種分(正損レベルに関してはレベル1からレベル3までの3レベル分)の全てのパターンに教師を提示した場合を1回として定義する。学習データは、米ドル1$から100$までの7金種分までをニューラルネットワークに逐次的に提示する。さらに、認識能力の評価規範として次式で与えられる鑑別率ESを用いる。
【数2】ES=正しく認識された事象の個数/全事象の評価個数×100
【0022】マスクの種類、つまりスラブ数により学習状況と認識能力を検討する。まず、本発明で使用するカラムマスクを次のように作成する。つまり、入力画像のマトリクスの列数と同じ8の一様乱数を[−1,1]の区間で発生し、その中で負の乱数値に対応する番号の列領域を被覆する。このような方法で一様乱数の初期値を変えることにより、種々のカラムマスクを作成する。ここで検討するスラブ数は、2,3,4,5,6,7の6通りとする。図12は、これら6通りのスラブ数に対する提示回数が30,000回に到るまでのニューラルネットワークの学習状況を示している。横軸は教師データの提示回数を示し、縦軸は2乗誤差を示している。図12R>2より、スラブ数が“2”の場合は明らかに学習が収束せず、パターン分離が不可能である。スラブ数が“3”の場合は、ニューラルネットワークの学習がある程度収束傾向を示しているが、誤差曲線は振動的となっている。この場合、学習をさらに継続し、60,000回まで行なったが、2乗誤差は1.0以下にはならなかった。スラブ数が“4”以上の場合は、図12より学習が収束することが示された。従って、分離演算部152の入力層にはスラブ数として4以上とすれば足りる。従来の入力画素64(=8×8)を入力層に入力するのと比較すれば、極端にニューロ素子数を減少させることができ、それに伴い、結果として分離演算部152を簡略化できる。
【0023】次に、カラムマスクの被覆領域に基づいて学習状況と認識能力を説明する。まず、被覆領域の変更は乱数の変動幅により行なう。つまり、乱数の幅[−1,1]を基準にし、被覆領域の増加方向にそれぞれ、乱数の幅を[−2,1],[−3,1],[−4,1]とし、被覆領域の減少方向に乱数の幅を[−1,1],[−1,3],[−1,4]として乱数を発生させる。ただし、スラブ数は“4”とする。図13は乱数の幅を変化させた場合、提示回数が30,000回に到るまでの学習状況を示している。横軸及び縦軸は図12と同様である。図13から学習はマスクの被覆領域にあまり依存しないことが明らかとなった。また、認識能力もマスクの被覆領域にあまり依存しないことが明らかとなった。従って、各カラムマスクの被覆領域についてはあまり注意を払わずにある程度無作為に被覆領域を選定し、マスクの種類を考慮すれば良い。
【0024】上述のようなカラムマスクを用いてのスラブ数の削減は、紙幣のような濃淡模様のパターンについても可能である。従って、紙幣の識別においてはマスクの種類が16あれば確実に識別が可能であり、分離演算部152の入力層には、スラブ数として16以上を入力すれば足りる。具体的なカラムマスクについて種々のシミュレーション実験を行った。即ち、1画素は横方向が1mm、縦方向が4mmで構成で構成されているので、カラムマスクの幅を1mmから1mmずつ10mmまで増加させ、そのようなカラムマスクをランダムに取って効率の最も良いカラム幅とその位置を実験により求めた。実施例ではこれらの最適値として横6mm×縦66mmのカラムマスクを16個用意するように決定した。図14はカラムマスクのマスク情報の一例であり、マスクパターンの1、2、…9、0、…5、6は紙幣を横手方向に16分割したときのマスク位置を示すものであり、0はマスクが掛かっていないことを示し、1はマスクが掛かっていることを示す。ユニット番号NO.1ではマスクが全く掛かっていないスラブ値が入力され、ユニット番号NO.2−NO.16ではマスクがランダムに掛かっているスラブ値が入力される。
【0025】従来の場合では図27の構成で、入力画素6480(=216×30)を入力層に入力していたのと比較すれば、極端にニューロ素子数を減少させることができ、それに伴って分離演算部を簡略化できる。なお、上述のスラブ数16の場合に限らずに、スラブ数を多少減らしても学習速度が低下するが識別は可能であり、スラブ数を増やせばより確実な識別が可能である。
【0026】次に、上述の外部パソコン170のニューロ演算部の前処理部で前処理された情報を入力して分離演算を行なう分離演算部について説明する。階層構造の分離演算部152は、大別すると入力層,隠れ層,出力層の3層から成っている。図15に示すように入力層は、前処理部からの各マスクの種類に一対一に対応するようにニューロ素子が設けられており、各マスク種類により前処理されたスラブ値(マスク処理された後の画素数の総和)を対応するニューロ素子に入力する。隠れ層は少なくとも1つのニューロ素子の層から成り、入力層の情報を分離演算して出力層に伝達する役割を果たしている。この隠れ層が多くなればそれだけ、入力層の各ニューロ素子の情報の変動に対しても不変に各パターンの各々に分離して演算することが可能となる。出力層には、識別すべきカテゴリーに一対一に対応するようにニューロ素子が設けられている。そして、学習により完成したニューロ素子間の重み係数による出力ユニット値を出力ユニット数個分算出する。この複数個の出力ユニット値(0〜1の間の値を採る)の最大値(通常検査紙幣の金種の出力ユニットで0.99ぐらい)と、準最大値(2番目の金種の候補で0.2以下)とを抽出する。次に、最大値が閾値1(通常0.6)よりも大きいかどうかを判断し、小さいときには、学習データから除く。そして、(最大値−準最大値)が閾値2(通常0.4)より大きいかどうかを判断し、(最大値−準最大値)が小さい場合には排除し、大きい場合には最大値を有するユニットのパターンを評価紙幣の判定パターンであると決定する。ここで、最大値と準最大値をチェックするのは、金種間の誤鑑を防ぐためである。
【0027】ニューラルネットワークを用いたパターン認識において、これまではその性能評価が統計的確率である鑑別率ESよって行なわれて来ていて、ニューラルネットワークの出力ユニットの出力値に対してその最大値のみが評価の対象となっている。しかし、このような評価指標では最大値以外の出力値で最大値にかなり近い値であっても、評価結果には直接的な影響が反映されていない。例えば2種のデータが識別した場合、ニューラルネットワークの鑑別率の結果は100%であるが、この場合にはニューラルネットワークにおけるある出力層の出力値の最大値とその他出力層の出力値の差が非常に大きい場合と、あまり差がない場合とが存在する。分離度の検知からみれば上記差が大きい方が、より識別判定においては優れていることは容易に理解できる。一般にニューラルネットワークを応用した市場の製品においては、出力ユニットの最大値のみならず、最大値以外の出力値が最大値から十分離れていることが要求されている。というのは、市場においては外部の影響で入力データに雑音が混入した場合でも、その出力結果が正常なデータによる出力結果に可能な限り近いことが要請されているからである。つまり、出力ユニットの最大出力値とそれ以外の出力値が互いに近い状態の製品よりも、十分に離れた距離の出力を与える製品の方が望まれているからである。従って、ニューロ判定の十分、不十分をチェックするために出力ユニットの出力値の最大値と、最大値及び他のユニットの出力値の差とに閾値を設定している。
【0028】例えば1$〜100$の米ドル紙幣を識別する時には、出力層のニューロ素子が上から順に1$〜100$の金種に対応し、識別する時には、該当するニューロ素子が1に最も近い値、即ち最大値を出力し、他のニューロ素子は0に近い値を出力する。1$紙幣を識別する時には、出力層の最上位のニューロ素子が最大値を出力し、判定パターンと決定する。
【0029】同様に、上述の紙幣識別の際には出力層のニューロ素子が上から順に1$、2$、5$、10$、20$…100$と言うように7金種×4方向の28個のニューロ素子が一対一に対応している。そして、この入力層から出力層までのニューロ素子同士を接続し、信号を受け渡す機構をシナプスという。シナプスは、ニューロ素子同士の結合の強さを重み付け関数で記憶している。1つのニューロ素子は、シナプスを通じ前段の層の複数のニューロ素子から信号を受取り、経由してきたシナプスが持つ重みを乗算して入力値とする。ニューロ素子は、それが結合している全てのニューロ素子からの信号を受取ると、入力値の総和をとる。総和の値が予めニューロ素子に設定した閾値を越えるとニューロ素子が“発火”し、次の後段の層のニューロ素子に出力信号を送り、この処理を繰返して出力層から情報を出力する。これら各シナプスの重みは識別対象に対応して、予めバックプロバゲーション法による学習により決定されている。その方法は既に述べた数1によって行なわれる。
【0030】次に、判定部について説明する。判定部は、分離演算部の出力層から出力される情報を入力し、その中から最大値を判別し、その最大値のニューロ素子に対応するカデゴリーと判別する。例えば、出力層のニューロ素子が上から1$紙幣のA方向、1$紙幣B方向、1$紙幣C方向のカデゴリーに対応している場合に、最上位のニューロ素子から最大値の出力が出ていれば“1$A方向”であると判別する。外部パソコン170のニューロ演算部の構成は、学習する機能を除くと紙幣識別/正損分離装置100のニューロ演算部150の構成に等しく、前者の学習にはシグモイド関数の微分値が必要なために近似式は使用できないが、後者では演算速度を確保するためにexp(−x)の関数を1次関数y=ax+bで近似した値を用いるようにしている点が異なる。つまり、内蔵ニューロ演算部150は学習機能を有していない。
【0031】このような構成において、紙幣識別の動作例を図16のフローチャートにより説明する。ホッパ101に紙幣10を載置して後にスタート/ストップボタン122を押すと、識別装置制御部160は搬送繰り出し手段を駆動し、繰り出しローラ110によって紙幣10を1枚ずつ搬送路P1に繰り出す。繰り出された紙幣10は発光部12からの光で照射され、その反射光がCCD等で成るラインセンサ11に入力され、その読取信号がセンサ制御部14に入力される。センサ制御部14にはロータリエンコーダ13からのサンプルパルスSPが入力され、メカクロックの所定クロック毎に掃引を開始し、搬送方向に4mm間隔で、横方向に1mmピッチにある1ライン分の画素出力をAD変換し、変換されたデジタル数値を画像フレームメモリ141に書込むことにより、紙幣10の光学イメージを記憶手段に入力することができる(ステップS1−S5)。本例の画像フレームメモリ141は、紙幣1枚に付き横方向256mm×縦方向128mmの大きさ分用意している。紙幣の大きさは、米ドル紙幣の場合には156mm×66mmであるので、次ステップでマスクをする場合に、非紙幣部分にマスクを設定することを避けるために、紙幣切出部は画像フレームメモリ141に展開された画像フレーム内の紙幣エッジを抽出し(ステップS6)、紙幣部分のデータを特定して切出し(ステップS7)、紙幣の部分が画像処理されて入力画像を得る。光学系は反射型センサなので、媒体の無い部分の最暗部のAD値の所定倍した閾値を用い、紙幣媒体の有り無しを判断して、明るい部分を取出す。透過型センサを用いる場合には、逆に設定した閾値よりも暗い場所が紙幣の部分である。
【0032】紙幣切出部で切出された画像データはニューロ演算部150で処理され、前処理部151はマスク情報を読み込み(ステップS8)、そのマスク情報に基づくスラブ値を作成する(ステップS9)。スラブ値の数が入力ユニット数に到達するまでステップS8,S9の処理を繰り返し(ステップS10)、到達したら分離演算部152は学習により完成したニューロ素子間の重み係数による出力ユニット値を算出する(ステップS11)。そして、出力ユニット値(0〜1の間の値をとる)の最大値(通常検査紙幣の金種の出力ユニットで0.99ぐらい)と、準最大値(2番目の金種の候補で0.2以下)とを抽出する(ステップS12)。次に、最大値が閾値1(通常0.6)よりも大きいかどうかを判断し(ステップS13)、小さいときには学習データから除く(ステップS15)。そして、(最大値−準最大値)が閾値2(通常0.4)より大きいかどうかを判断し(ステップS14)、(最大値−準最大値)が小さい場合には排除し(ステップS15)、大きい場合には最大値を有するユニットのパターンを評価紙幣の判定パターンと決定する(ステップS16)。判定部153は、分離演算部152の出力層から出力される情報を入力し、その中から最大値(最小値とするようにしても良い)を判別し、その最大値のニューロ素子に対応するカテゴリーと判別する。そして、その識別結果DRが識別装置制御部160に入力される。上記識別動作中に紙幣は搬送路P1,P2を搬送され、ローラ112に達するまでには、識別装置制御部160が入力した識別結果DRに基づいて通路切換部材113,115を駆動する。すなわち、希望金種の紙幣と識別した場合は通路切換部材113をローラ112側に回転させて搬送路P3から退避させ、、通路切換部材115を搬送路P6上に突き出させるので、紙幣は搬送路P3,P4,P5を搬送され、羽根車102により繰り出されて第1スタッカ104に保留される。また、希望しない金種の紙幣と識別した場合は通路切換部材113をローラ112側に回転させ搬送路P3から退避させ、通路切換部材115をローラ114側に回転させ搬送路P6から退避させるので、紙幣は搬送路P3,P6,P7を搬送され紙幣繰り出し部103により繰り出されて第2スタッカ105に保留される。そして、金種の識別ができない場合には通路切換部材113を搬送通路P3に突き出させ、紙幣は搬送路P8,P9を搬送されてリジェクトスタッカ106に保留される。識別装置制御部160は、センサから紙幣の保留検知信号を受けると、その枚数や金額等を表示部130に表示する。そして、金種の決定が全て終了していなければステップS11に戻って上述した処理を繰り返す(ステップS17)。
【0033】次に、ニューラルネットワークをカスケードに結合する場合の実施例について説明する。図17は、ニューラルネットワークをカスケードに結合する場合の概念を示す図である。先ず第1段階として、入力層16ユニット、隠れ層16ユニット、出力層8ユニットを設定する。出力層の8個のユニットには、各々1$〜100$紙幣のA方向(表裏前後を含めABCDの4方向を定義する。)に7個を割り当て、残り1ユニットである8番目の出力ユニットにその他を割り当てる。これにより、28パターン(7金種×4方向)の内7金種のA方向を分離し、残りは21パターンとなる。次に第1段階のニューラルネットワークの8番目の出力が有った場合には、第1段階のニューラルネットワークの入力部に入力したのと同一のスラブ値を第2段階のニューラルネットワークに入力する。この第2段階の出力の8個の出力層には、各々1$〜100$紙幣のB方向が1〜7番目の出力が割り当てられている。ここでは、21パターンの内、7金種のB方向が分離される。この段階で残りは14パターンである。
【0034】次に第2段階のニューラルネットワークの8番目の出力が有った場合には、第1段階のニューラルネットワークの入力部に入力したのと同一のスラブ値を第3段階のニューラルネットワークに入力する。この第3段階の出力の8個の出力層には、各々1$〜100$紙幣のC方向が1〜7番目の出力が割り当てられている。ここでは、14パターンの内、7金種のC方向が分離される。この段階で残りは7パターンである。次に第3段階のニューラルネットワークの8番目の出力が有った場合には、第1段階のニューラルネットワークの入力部に入力したのと同一のスラブ値を第4段階のニューラルネットワークに入力する。この第4段階の出力の8個の出力層には、各々1$〜100$紙幣のD方向が1〜7番目の出力が割り当てられている。ここでは、21パターンの内、7金種のD方向が分離される。この段階で8番目の出力が有った場合には、ドル紙幣でないということになる。
【0035】以上は、ニューラルネットワークを物理的にカスケード接統したが、図18に示すように同一のニューラルネットワークを用いて、重み係数が記憶されているROMをハード的にスイッチングして入れ替え、識別装置制御部160から上記の各段階毎に順次ロードし直して処理をカスケードに行うこともできる。即ち、ニューラルネットワークの重み係数値は、その部分を分離演算させる直前に目的とする分離演算用の重み係数値に外部から強制的に書換えてしまうのである。これにより物理的なハードウエアの個数を増やすことなく、カスケードに同一スラブ値を用いて分離演算を行なうことができる。
【0036】ニューロ演算部150の判定部153からの出力は識別装置制御部160のCPUによって読み込まれて判定され、設定入力手段で設定された金種であればスタッカ104へ、その他であれば通路切換え部材113を制御して紙幣をリジェクトスタッカ105へ搬送させる。そして、表示部130の更新を行なう。また、識別装置制御部160は、繰出し部110の直後に設けた紙幣通過センサ(図示せず)によって繰り出しローラ110からの紙幣の繰出し枚数を計数し、設定入力手段で計数枚数の指定があった場合には、指定枚数の指定金種の紙幣の計数を終えたとき搬送手段を停止させる。なお、上述の実施例では、米ドル紙幣のパターン認識について説明したが、他の国の紙幣識別やOCRを使って読込む伝票文字読込機や、小切手等の有価証券読取機も同様にパターン認識可能であり、その他のパターン読取装置についても可能なことは勿論である。又、上述ではラインセンサを用いて光学パターン画像を取得しているが、エリアセンサを用いることも可能である。
【0037】ところで、紙葉類の正損分離では紙葉類の搬送方向を限定しない。そのため、紙葉類の金種識別においては金種、その表裏及び正立倒立を識別パターンとしてニューロ演算部150の出力層のニューロ素子もこれに対応させる必要がある。しかしながら、正損分離は正立倒立に無関係に行なわれる必要があり、更に出力層のニューロ素子数を少なくする必要があることから、正立倒立に無関係なマスク処理を実現している。
【0038】即ち、本発明における紙葉類の正損分離では図19に示すように、紙葉類1の中心軸を対称軸として左右対称にマスクM1,M2を設定し、マスクされない画素数を加算する。これにより、加算値は画像パターンに無関係に且つ正立倒立に不変な量となる。図20及び図21は正立倒立に無関係なスラブ値の作成方法を説明するための図であり、正立搬送と倒立搬送で、中心軸を対称としたスラブ値は一致していることが分る。ニューラルネットワークの出力ニューロ素子数を少なくするため、判定パターン数と出力ニューロ素子数を一致させる必要があり、従って画像データ中の紙葉類のイメージの中心軸を算出し、この中心軸に左右対称にマスクしない部分が現れるようにマスクを設定する。これにより、図20及び図21に示すように、紙葉類の正立倒立に無関係なスラブ値が得られる。従って、例えば正立搬送方向の画像のみをデータとして学習することにより、正立倒立に無関係な情報を外部よりダウンロードによりニューロ演算部150に与えることができる。又、ニューロ演算部150の出力層におけるニューロ素子数は正損レベルに対応している。つまり、出力層には、判定すべき正損レベルに一対一に対応するようにニューロ素子が設けられている。そして、外部パソコン170による学習により完成したニューロ素子間の重み係数はダウンロードにより書換可能ROM157に格納され、その重み係数によって出力ユニット値を出力ユニット数個分算出する。
【0039】正損分離においては、ニューロ金種識別を前提として金種判定後に特定された金種内で、紙葉類の正損度を判定する。図22は、金種識別ニューロの後で正損分離ニューロで正損分離する様子を示しており、図2323は画像イメージデータを入力してマスク処理部158でマスクを設定して後、入力層、隠れ層及び出力層で成るニューロ判定部159で正券と損券(損券1〜損券3)とを分離する様子を示している。即ち、種々のマスクにより正損分離に有効な画素を紙葉類から抽出し、抽出した画素群の平滑化情報(総和)をニューロ判定部159の入力層に入力する。ニューロ判定部159は階層型の構造を有し、例えば1つの入力層と複数の隠れ層、更に1つの出力層を有している。上記出力層の各ニューロ素子は紙葉類の損傷レベルに対応し、例えば最も単純な場合においては、ニューロ素子は2個であり、1つは正券を示すニューロ素子であり、もう1つは損券を示すニューロ素子である。この他に、損券をその損傷度に応じてレベル分けし、例えば正券、損券レベル小、損券レベル中、損券レベル大の様にレベルを設定し、4個のニューロ素子を出力層に設定することもできる。損券レベルとは汚れ、穴、破れの程度を総合して表している。損券分離を可能にするニューロ学習については、教師データとして正券として判定したい紙葉類データを数種類、また、損券として、判定したい紙葉類データを数種類準備し、バックプロパゲーション法を用いて学習を行なう。マスクのかけ方は、切出した紙幣画像イメージの対称中心線の座標を検索し、その座標を基に図23に示すマスクを何種類か施し、マスクがかかっていない画像の画素値の合計、即ちスラブ値を求める。左右対称にマスクを構成しているので、正立と倒立画像のスラブ値は図2020及び図21に示す様に同一となり、表裏の画像においても、別々のスラブ値が得られる。
【0040】また、図24の(A)はシグモイド関数y=1/{1+exp(−x)}を示しており、同図(A)の一部の区間内における関数exp(−x)を、(B)に示す1次関数y=ax+bで近似することにより、処理のスピードアップを図ることができる。図に示すxの値、1次関数のa及びbの値がROM156にテーブル化されて記憶されている。DSP154は前述のようにRAM155に複写されたこのテーブルを使い、exp(−X)をy=ax+bで近似計算する。次の表1は、a,bとxの関数を示している。
【表1】
ニューロ演算部150においてはシグモイド関数の微分値を学習に用いるため、近似式を用いることが出来ない。センサからのデータを画像フレームメモリ141に展開した状態でニューロ演算部150にメモリの記憶データを転送し、センサからのデータを画像フレームメモリ141に展開した後、DSP154を動作させてスラグ値を得るまでを識別/正損分離装置100で処理し、スラブ値をニューロ演算部150に送る。
【0041】次に、図25及び図26のフローチャートを参照して、正損分離の動作を説明する。先ずニューラルネットワーク構成を決定するパラメータをRAM155上にダウンロードし(ステップS20)、次にニューラルネットワーク構成に合ったニューロ重みをRAM155上にダウンロードする(ステップS21)。そして、紙幣データをセンサ制御部14から読込み(ステップS22)、紙葉類識別の場合と同様に紙幣のエッジを検出し(ステップS23)、画像フレームから紙幣イメージを抽出する(ステップS24)。その後、紙幣イメージ上に種々のマスクを設定し(ステップS25)、種々のマスクによるスラブ値を作成し(ステップS26)、入力層の各ユニットにスラブ値を入力する(ステップS27)。
【0042】隠れ層の各ユニットに入力層の出力値と重みを乗算して総和を求め(ステップS30)、ユニットの総和を図24で説明した近似シグモイド関数(1次関数)で入力し、隠れ層のユニットの出力値を求める(ステップS31)。そして、出力層の各ユニット毎に隠れ層の出力値と重みを乗算して総和Xiを求め(ステップS32)、ユニットの総和を近似シグモイド関数(1次関数)に入力し、ユニットの出力層の出力値Oiとする。その後、出力値の最大値をチェックし(ステップS34)、NGの場合はリジェクトし(ステップS37)、OKの場合は更に出力値の最大値と準最大値のチェックを行ない(ステップS35)、NGの場合はリジェクトし、OKの場合は、最大値を有するユニットのパターンを判定パターンとする(ステップS36)。かかる判定パターンを用いて紙葉類の正損度を正損レベルで判定するが、判定結果DRはニューロ演算部150より識別装置制御部160に入力され、ここでは分離装置制御部として動作する。上述では紙幣について説明したが、ビール券、ギフト券などの仕分装置に使用する分離部に左右対称のランダムマスク方式は使用可能で、この際には、裏面には絵柄がないので表面のみの画像データに対してのみ処理を行なう。
【0043】
【発明の効果】以上のように本発明のランダムマスク方式によるニューロ紙幣識別/正損分離装置によれば、紙葉類の短手方向に平行なカラムマスクを用いて画像代表値(スラブ値)を求めているので、ニューラルネットワークの構成が小規模となり、制御装置も小規模となる。また、紙葉類の位置ずれが生じた場合でも画素値に影響が出ないので、紙葉類の識別を確実に行なうことができる。また、ニューラルネットワークをカスケードに接続することにより、多数のカテゴリー分類の場合においても効率良くカテゴリー(7金種ドル紙幣の金種、表裏、搬送方向)を判定することができる。
【0044】左右対称なランダムマスク方式による正損分離装置によれば、紙葉類の短手方向に平行なカラムマスクを左右対称に施して画像代表値(スラブ値)を求めているので、紙葉類の位置ずれにも影響を受けにくく、また正立・倒立の区別をすることも無くニューラルネットワークの構成が小規模となり制御装置も小規模となる。表面と裏面のマスクは独立したものを用意するが、A方向搬送紙幣及びB方向搬送紙幣とは共通の左右対称マスクパターンが使え、同様にC方向とD方向の共通のマスクパターンを使うことができる。複雑な演算を要するシグモイド関数の自然対数の部分の計算を、y=ax+bの1次直線にてシグモイド関数のうちの自然対数の近似演算を行なっているので認識演算処理が早くなる。このことにより正確な近似値が得ることができ、ニューロによる判定結果の信頼性を上げることができる。また、処理する紙葉類の時間当たりの枚数を増加させることができ、大量の処理が可能となる。
【0045】外部のニューロ演算部と接続するインタフェースを持つことにより、識別媒体の変更や正損レベルの変更をさせたい場合に容易に、ニューラルネットワークの学習をさせることができ、結果のニューロ重みをダウンロードさせて識別装置の書換可能記憶手段の内容を更新させることができ、追加学習が容易にできる。従って、ユーザの所在する営業所等において、現物を用いて損傷レベルの細かい調整を行なうこと、或いは新規登録が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明によるランダムマスク方式による紙葉類のニューロ識別/正損分離装置の外観構成例を示す斜視図である。
【図2】本発明によるランダムマスク方式による紙葉類のニューロ識別/正損分離装置の内部機構を示す図である。
【図3】本発明によるランダムマスク方式による紙葉類のニューロ識別/正損分離装置装置の表示部の詳細を示す図である。
【図4】紙幣データと採取方向を説明するための図である。
【図5】本発明によるランダムマスク方式による紙葉類のニューロ識別/正損分離装置の内部構成を示すブロック図である。
【図6】紙幣データとスラブ値作成方法を説明するための図である。
【図7】本発明によるランダムマスク方式によるニューロ紙幣識別装置の主要部構成を示すブロック図である。
【図8】本発明に用いる異なるパターンに対する異なるスラブ値を説明するための図である。
【図9】本発明に用いる異なるパターンに対する異なるスラブ値生成を説明するための図である。
【図10】本発明に用いるカラムマスクを説明するための図である。
【図11】垂直方向の画像の移動に対するカラムマスク効果を説明するための図である。
【図12】種々のスラブ数に対する学習状況を示す図である。
【図13】マスクの種々の被覆領域に対する学習状況を示す図である。
【図14】本発明に用いる符号化されたマスク情報の一例を示す図である。
【図15】本発明によるランダムマスク方式による紙葉類のニューロ識別/正損分離装置の主要部構成の詳細を示すブロック図である。
【図16】本発明によるランダムマスク方式による紙葉類のニューロ識別/正損分離装置の動作例を示すフローチャートである。
【図17】本発明によるランダムマスク方式による紙葉類のニューロ識別/正損分離装置のニューラルネットワークをカスケードに結合する場合の説明図である。
【図18】本発明によるランダムマスク方式による紙葉類のニューロ識別/正損分離装置のニューラルネットワークの重み係数を書き換える場合の説明図である。
【図19】対称マスクの様子を示す図である。
【図20】正立搬送時のスラブ値の例を示す図である。
【図21】倒立搬送時のスラブ値の例を示す図である。
【図22】金種識別ニューロと正損分離ニューロの関係を示す図である。
【図23】正損分離におけるニューロ演算部を示す図である。
【図24】シグモイド関数の近似を説明するための図である。
【図25】正損分離の動作例を示すフローチャートの一部である。
【図26】正損分離の動作例を示すフローチャートの一部である。
【図27】従来のパターン認識装置の構成例を示すブロック図である。
【符号の説明】
1 紙幣(被識別対象)
2 イメージセンサ
3 入力画像
4 前処理部
5 分離演算部
10 紙幣(米ドル紙幣)
11 ラインセンサ
12 発光部
14 センサ制御部
141 画像フレームメモリ
150 ニューロ演算部
151 前処理部
152 分離演算部
153 判定部
158 マスク処理部
159 ニューロ判定部
160 識別装置制御部
170 外部パソコン(ニューロ学習エンジン)
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ニューラルネットワークによって紙幣、ギフト券等の紙葉類のパターンを認識すると共に、紙葉類の汚れ、破れなどによる正損レベルを認識し得る装置に関し、特に紙葉類搬送方向に対して縦長状のカラムマスクを用いて紙葉類のマスクをランダムに被覆することにより、識別に使用するパターン画像を縮小して小規模で効率良く分離演算すると共に、正損レベルを判定演算するようにしたランダムマスク方式による紙葉類のニューロ識別/正損分離装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、貨幣,文字等のパターンを認識するのにニューラルネットワークを用いたものとしては、図27に示すようなものがある。図27の認識装置は、被識別対象1の文字等をイメージセンサ2で読取って入力画像3を得る。図27の入力画像3の場合、縦,横各8分割なので、D(i.j)(但しi=1〜8、j=1〜8)の64画素の入力情報として取得する。そして、この64個の各画素データを分離演算部5に直接入力する。このとき、分離演算部5の入力層のニューロ素子は、各画素に対応した64個が必要となる。そして、この入力情報に基づきニューラルネットワークを用いてパターンの認識を行なうようになっている。
【0003】一方、従来の紙葉類の正損分離は、破れ、穴明き、汚れ等を別々にランク付けして分離する技術で、最終的にはこれらの結果を統合して紙葉類の損傷レベルを判定していた。特に、その分離技術の基本は、各センサから得られる情報をもとに閾値を設定し、損傷レベルの低い情報と損傷レベルの高い情報との間での分離が主であり、そのレベルの選択はユーザに委ねられていた。又、ニューラルネットワークでは、簡易的な折れ線グラフによるシグモイド関数の近似を行なっていた。これは誤差が大きく、入力如何では正確なニューロ出力値が得られないなどの問題点があった。そして、シグモイド関数の値を離散的にとってテーブルとして認識時に参照し、詳細なシグモイド出力値を必要とする場合には線形補間計算を行なって使用していた。また、ニューラルネットワークの重みの学習は、製品と分離されていなかったのでセキュリティ面での問題点があった。すなわち、学習方式や学習データが第三者に漏洩する危惧があった。このため、製品が使用される国の紙幣等を現地から調達し実際に紙幣を流して学習させ、学習結果を製品に格納していたが、これには多くの手間と経費を要していた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし、上述のような従来の認識装置では、分離演算部5に入力する情報数が入力画像3の画素数だけ必要であるため、入力層のニューロ素子も画素数と同じ数だけ必要となってくる。従って、多数のニューロ素子を有する入力層を設けなければならず、それに対応して隠れ層も多数のニューロ素子を設ける必要があり、結局、非常に大がかりな分離演算部5を用いなければパターン認識を行ない得なかった。
【0005】画像処理としてエッジ抽出、2値化が考えられるが、紙幣の特徴を抽出する処理技術を行なうには画素数を多くし、細かく紙幣画像を計測することが必要であり、また処理速度の点からも難しいものであった。また、近年生物の神経回路網の情報伝達をモデル化したニューラルネットワークは、情報の内挿、学習によるアルゴリズムの自己組織化、及び並列処理などの優れた特徴を有し種々のパターン認識に適し、特に学習によるアルゴリズムの自己組織化は、従来の経験による紙幣の特徴パラメータ探索業務を軽減することが可能であるとされ、ニューラルネットワークを使った紙幣識別機も近年開発されつつある。特に米国ドル紙幣の様に札幅、札長及び色相が同じ複数金種を識別するに適切な規模のニューラルネットワークの構成が望まれていた。
【0006】ところで、紙葉類の正損分離には人の感性が介在するものであり、その分離レベルは装置のユーザによって異なるので、紙葉類の損傷レベルを数段階設ける必要がある。また、損傷レベルを上述の各項目に分離して検出するので、これらを統合した最終判定が必ずしも現物の見た目の損傷レベルと一致しない場合がある。このような理由により、損傷レベルの設定をユーザ毎に、しかも細かい要求に応えるように随時設定できる装置が要望されていた。又、ニューロ演算装置では、シグモイド関数自体の計算を計算機にさせることは処理時間の制約により無理があるので、上述のような近似値を使用していたが、これには誤差が大ききい箇所があり、場合によっては誤判定を起こす危惧があった。更にユーザの近くで、例えばユーザのメンテナンスを担当する営業店等で、顧客の要望を満たす紙葉類の損傷レベルを簡易に設定し直すことができる装置の出現が望まれていた。
【0007】本発明は上述の如き事情よりなされたものであり、本発明の目的は、分離演算部の入力層に入力する入力情報数(以下、スラブ数という)の数を減少させても確実にパターンの認識を行ない得るようにして、分離演算部の縮小化を実現すると共に、米ドル紙幣のような金種間で同一サイズ、同一色相、酷似図柄の識別を生物の神経回路網を模倣したニューラルネットワークと画像の一部を被覆するランダムマスクで実現するランダムマスク方式による紙葉類のニューロ識別装置を提供することにある。更に本発明の目的は、紙葉類の損傷レベルの設定をユーザ毎に細かい要求に応え得るようにし、セキュリティ面でも問題がなく、しかもメンテナンス担当の営業店等で顧客の要望を満たす紙葉類の損傷レベルを容易に設定し直すことができる紙葉類の正損分離装置を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明はランダムマスク方式による紙葉類のニューロ識別装置に関するもので、本発明の上記目的は、識別すべき紙葉類の光学パターン画像を入力する画像入力手段と、前記画像入力手段で読取られた画像データを記憶する記憶手段と、前記記憶手段に記憶されている画像データから前記紙葉類の光学パターン画像を抽出する画像抽出手段と、前記画像抽出手段により抽出された前記光学パターン画像に対して前記紙葉類の搬送方向と平行にランダムに複数種のカラムマスクを施し、前記各光学パターン画像における非マスク画素の総和(スラブ値)に変換する前処理部と、前記スラブ値を入力し、予め判定パターン分類に最適に調整されたニューロ重みにより前記光学パターン画像の判定パターン毎に分離演算値を算出するニューラルネットワークの分離演算部と、前記分離演算値の中で最大値を有する判定パターンを前記紙葉類の光学パターン画像の判定値として出力するニューラルネットワークの判定部とを具備することによって達成される。
【0009】本発明はランダムマスク方式による紙葉類のニューロ正損分離装置に関するもので、本発明の上記目的は、識別すべき紙葉類の光学パターン画像を入力する画像入力手段と、前記画像入力手段で読取られた画像データを記憶する画像データ記憶手段と、前記画像データ記憶手段に記憶されている画像データから前記紙葉類の光学パターン画像を抽出する画像抽出手段と、前記画像抽出手段により抽出された前記光学パターン画像に対して前記紙葉類の搬送方向と平行にランダムに且つ左右対称に複数種のカラムマスクを施し、前記各光学パターン画像における非マスク画素のスラブ値に変換する前処理部と、前記スラブ値を入力し、正損分離に最適に予め調整されたニューロ重みにより前記光学パターン画像の正損レベル毎に分離演算値を算出するニューラルネットワークの分離演算部と、前記分離演算値の中で最大値又は最小値を有する正損レベルを前記紙葉類の判定正損レベルとして出力するニューラルネットワークの判定部とを具備することによって達成させる。
【0010】
【作用】本発明では、学習機能を有するニューラルネットワークによって紙葉類(特に米ドル紙幣7金種)のパターン認識及び正損分離を効率良く行なう為に、センサで光学的に入力されたパターン画像データを複数のカラムマスクを用いて縮小し、複数の画像代表値(スラブ値)を得る。画像データは多数の帯状小区画に分割し、カラム領域の複数個がマスクされる。このようなカラムマスクで縮小化された画像代表値は、パターン画像の僅かな斜行に不変でありニューロ演算部(ニューラルネットワーク)に入力され、予め判定パターン分類に最適に調整されたニューロ重みにより、パターン画像の判定パターン毎に分離演算値が算出される。分離演算値の最大値に従って、パターン画像を判定するようになっている。これにより、ニューラルネットワークの構成が小規模になると共に、制御装置が小規模となる。また、ニューラルネットワーク回路の規模を大きくしないで、小さなものをカスケードに接統することにより、または、同一回路で重み関数を交換し同一スラブ値を入力し複数回ニューラルネットワーク(カスケード処理)にて分離演算することにより紙葉類の鑑別が行える。これにより、ニューラルネットワークの構成が小規模になると共に、制御装置自体も小規模となる。
【0011】本発明では、対象の紙葉類のイメージ画像を入力し、記憶手段に格納された画像データからイメージ画像を切出し、更にこの切出された光学パターン画像に対して紙葉類の搬送方向と平行な方向にランダムに且つ左右対称となるようにマスクを施し、マスクを介してスラブ値を得、このスラブ値を基にニューラルネットワークの分離演算を行なって正損度の分離判別を行なう。このように左右対称のマスクパターンを使用することによって判別するパターンの種類を減らすことができ、正損分離の処理を高速化できる。又、シグモイド関数のexp(−x)の部分を1次関数にて近似するようにするので、誤差を小さくでき、誤判定の危惧がなくなった。又、外部のパソコン(ニューロエンジン)によるニューロ学習演算部にて学習ができ、本体装置と外部パソコンをインタフェース手段により接続し、画像データ又はスラブ値を外部パソコンに送り、結果として得られるニューロ重みを外部パソコンからダウンロードすることができ、その結果を本体装置に付随するニューロ演算部の書換可能なROMに書込むようにしているので、容易にニューロ重みを外部から更新することできると共に、両者を分離することにより装置の安全性も確保できる。そして、装置から外部パソコンへ渡すデータが画像データである場合は、マスクパターン自体のシミュレーションも可能で応用範囲が広いニューロ演算をさせることができる。更に、装置から外部パソコンへ渡すデータがスラブ値の場合には、実機が計算したスラブ値を用いるのでより実機に近いデータで重み係数を算出することが可能である。
【0012】
【実施例】ニューラルネットワークで紙幣(特に米ドル)のパターン認識及び正損分離を行なう場合、従来は識別/分離装置のセンサから得られる情報を直接ニューラルネットワークに入力していた。このため、ニューラルネットワークでは、得られる入力情報の全てに対して情報伝達の重みを持たなければならず、その規模も大きくなっていた。このため、本発明では入力情報を縮小化するための複数のカラムマスクを前処理部に設け、それぞれのカラムマスクで被覆後の画像から画像代表値(スラブ値)を得るようにする。カラムマスクは多数の矩形状小区画を有し、紙幣の搬送方向に対して同方向の長方形状の領域が複数個被覆された構造を有している。
【0013】以下、本発明の実施例を図面を参照して説明する。図1は本発明の外観構成を示しており、紙幣識別/正損分離装置100の傾斜した前面右部にはパネル部120が設けられており、上部には識別すべき紙幣(米ドル紙幣)10を整列して収納するためのホッパ101が設けられている。ホッパ101に収納された紙幣10は、羽根車102ないし103から1枚ずつ集積され、選択希望金種の紙幣は第1スタッカ104に保留され、金種の判定された紙幣は第2スタッカ105に保留され、リジェクト紙幣はリジェクトスタッカ106に保留される。また、第1スタッカ104の上方には開閉可能なガイド板107が配置されており、第2スタッカ105の上方には開閉可能なガイド板108が配置されている。この機構に関しては後述する。
【0014】パネル部120には電源スイッチ121が設けられていると共に、識別/分離動作のスタートとストップをトグル式に指示するスタート/ストップボタン122が設けられ、表示のクリアを指示するクリアボタン123が設けられている。その下方には、計数した枚数(金額)等を表示する表示部130が設けられており、更に紙幣識別/分離装置100の故障部位及び内容を表示するガイダンス表示部124が設けられている。そして、識別モード、学習モード、テストモードを順次選択して切換えるモードスイッチ125と、指定枚数になれば計数を停止するためのバッチモードを設定するバッチスイッチ126と、押すたびに停止枚数を増加(例えば10枚毎)して指定枚数を設定するための枚数指定スイッチ127と、スタート/ストップボタン122が押され、最初に識別した紙幣以外の金種が識別されたときに異金種としてリジェクトする異金種リジェクト設定ボタン128とが縦列に設けられている。さらに、最下部には、紙幣の汚れを検知して損券としてリジェクトするレベルを設定するための損券レベル設定スイッチ129Aと、テープが貼られた紙幣を検出する場合のテープ長を設定するテープ長設定スイッチ129Bとが設けられている。
【0015】図2は紙幣識別/正損分離装置100の内部機構を示しており、ホッパ101に収納された紙幣10は1枚ずつ繰り出しローラ110で繰り出され、搬送路P1を経てローラ111で方向変換されて後に搬送路P2を経てローラ112に搬送される。ローラ112の搬送出口部には、搬送路P3又はP8への切換えを行なう通路切換部材113が設けられており、搬送路P8へ送られた紙幣は搬送路P9を経てリジェクトスタッカ106に保留される。また、通路切換部材113で搬送路P3へ送られた紙幣は更にローラ114へ送られ、ローラ114の搬送出口部に設けられた通路切換部材115によって、搬送路P4又はP6へ切換えられて搬送される。搬送路P4へ送られた紙幣はローラ116を介して搬送路P5に送られ、その後に羽根車102に周設されている羽根部材を介して第1スタッカ104に保留され、搬送路P6へ送られた紙幣はローラ117を介して搬送路P7に送られ、その後に羽根車103に周設されている羽根部材を介して第2スタッカ105に保留される。第1スタッカ104に保留された紙幣は、ガイド板107を開けることによって外部に取り出され、第2スタッカ105に保留された紙幣も同様に、ガイド板108を開けることによって外部に取り出される。そして、搬送路P1には、搬送される紙幣の光学パターン画像を読取るためのラインセンサ11が、発光部12と一体的に配設されている。又、ローラ111等の搬送繰り出し手段には、ラインセンサ11の出力データを取込むタイミングを定めるサンプルパルスSPを出力するロータリエンコーダ13が接続されている。更に、図示はしていないが、各搬送路P1〜P9には紙幣通過を検知するためのセンサが設けられており、第1スタッカ104、第2スタッカ105及びリジェクトスタッカにも紙幣の保留及び取出しを検知するためのセンサが設けられている。
【0016】表示部130の詳細は図3に示すようであり、最上段は計数した枚数又は金額を表示する数量表示欄131であり、中段にはバッチ処理の停止枚数を表示するバッチ表示欄132が設けられており、最下段にはモードスイッチ125が選択しているモードを点灯表示するためのモード表示灯133が設けられている。本発明では、ホッパ101に収納する紙幣10の表裏や向きには限定のないようにしているが、その搬送方向と表裏に対応して図4の(A),(B)に示す如きA〜D方向を定義している。即ち、本発明では米ドル紙幣の各金種について、A〜D方向のいずれについても識別/分離できるようになっている。
【0017】図5は紙幣識別/正損分離装置100の内部構成を示すブロック図であり、発光部12からの光は搬送路P1上の紙幣10の表面で反射されてラインセンサ11に入力され、ラインセンサ11の読取信号はセンサ制御部14を経て画像フレームメモリ141に入力され、図6の141Aで示すようにフレーム画像として記憶される。センサ制御部14はラインセンサ11からのデータを読出すためのクロック信号及び制御信号を発生し、読出したアナログ信号をAD変換器により8ビットないし12ビットのディジタルデータに変換し、紙幣画像とその周辺部のイメージデータを格納する画像フレームメモリ141に書込む。ニューロ演算部150はDSP(Digital Signal Processor)154,RAM155,ROM156,書換可能ROM157で成り、装置100に別ユニットとして内蔵されている。画像フレームメモリ141のデータは図6の141Bで示すように紙幣部分のみが切出されその切出し画像データが処理の対象となる。ニューロ演算部150の識別結果DRは、CPU,ROM,RAM等で成る識別装置制御部160に入力される。ニューロ演算部150は識別判定/正損判定演算処理ユニットとして機能し、RAM155はDSP154が処理を実行するときの作業領域を提供しており、ROM156にはDSP154が実行するニューロプログラムが格納されている。書換可能ROM157には、外部パソコン(ニューロ学習エンジン)170からダウンロードされたニューロ重み係数及びマスク形状を規定するパラメータ等が格納されており、通常の運用時にはこの書換可能ROM157の内容は更新されない。又、実際のDSP154の動作時には、ROM156の内容と書換可能ROM157の内容は全てRAM155にコピーされて処理を実行し、DSP154の処理速度を速めるためにアクセスタイムの遅いROM156からRAM155にデータを移すようにしている。本紙幣識別/正損分離装置100には更に外部パソコン170がインタフェース(I/F)を介して接続されており、シリアル通信I/F171は、外部パソコン170と紙幣識別/正損分離装置100との間でコマンド及びそのレスポンスの交換を行ない、パラレル通信I/F172は、紙幣識別/正損分離装置100から外部パソコン170へ画像データ又は計算したスラブ値を送るのに用い、大量のデータを転送するためにパラレル通信としている。識別装置制御部160は発光部12の照度を制御すると共に、通路切換部材113及び115を制御し、表示部130及びガイダンス表示部124の表示を制御する。又、識別装置制御部160にはスタート/ストップボタン122等の設定入力手段が接続され、繰り出しローラ110等の搬送繰り出し手段の駆動を制御するようになっており、更に各種センサからの検知信号が入力されるようになっている。
【0018】図7は本発明のニューロ演算部150の詳細構成例を示すブロック図であり、認識対象の紙幣10はCCD等で成るイメージセンサ11で計測され、適宜画像処理されて画像フレームメモリ141内にフレーム画像141Aが得られる。フレーム画像141Aはニューロ演算部150で紙幣部分のみが切出されて141Bのように紙幣イメージが特定される。次に、前処理部151にてカラムマスク41〜4nを紙幣イメージデータ141Bに適用してマスクの掛かっていない部分の画素データの総和値(スラブ値)SB1〜SBnを得る。このスラブ値SB1〜SBnはニューラルネットワークの分離演算部152に入力され、予め判定用紙幣のパターン分類に最適に調整されたニューロ重みにより分離演算値SPが算出される。分離演算値SPは判定部153に入力され、分離演算値SPの中で最大値を有するパターンが対象物の紙幣10のパターン画像として出力される。前処理部151内のカラムマスク41〜4nは一様乱数を用いてランダムに被覆された搬送方向と平行に細長い帯状のカラムマスクであり、それぞれが異なる小区画を被覆するものである。
【0019】ここで、カラムマスクを用いた前処理部151について説明する。本発明でカラムマスク41〜4nを用いる理由は、次のことによる。図8に示すように8×8のマトリクス上の“0”と“1”の2値画像において、画像の特徴量として画素値の総和であるスラブ値(2値画像の“1”の数)を用いた場合、図8(A)では文字“E”を特徴づける値として“14”が得られ、同図(B)では文字“H”を特徴づける値として“12”が得られる。従って、スラブ値を用いることによって“E”と“H”が分離可能となる。しかしながら、異なるパターンを有する画像でもスラブ値が等しくなる場合が存在する。例えば、図9(A)では文字“F”のスラブ値は“10”であるが、同図(B)の文字“K”のスラブ値も“10”であり、分離不可能となる。このような問題に対しては、図10(C)に示すような入力画像の画素に対応する特定の棒状領域が被覆されたカラムマスクを導入することにより解決できる。図10(C)のマスクで図9(A)の画像を覆うと図10(A)に示す画像となり、この場合のスラブ値は“8”となる。一方、図10(C)のマスクで図9(B)の画像を覆うと図10(B)に示す画像となり、スラブ値は“9”となる。このようにカラムマスクを導入することにより、“F”と“K”も分離可能となる。そこで、このように種々の画像を分離するために、図10(C)に示すような予めマスク内の複数の長方形状の被覆される部分の位置を選定しておく。この場合、ただ1つのこのようなマスクによって、種々の画像を分離できるスラブ値を生成する確率は極めて小さい。しかしながら、前述のように異なる種々のカラムマスクを使用することによって、同じ画像でも異なるスラブ値列を得ることができる。このスラブ値列のいずれかが画像間で異なることが多く、種々のカラムマスクを利用することによって、画像間の分離能力を確率的に高めることが可能である。なお、上述の複数の異なるカラムマスクを使用することは、次のような物理的な意味を有している。つまり、3次元物体を他方向から視点を変えて観測する場合、同一の対象でも異なる情報を得ることができる。これと同様に、種々のカラムマスクを用いることは2次元平面内で視点を変えて画像を観測することになり、前述のように同一の画像でも異なる情報を生成することが可能となる。この場合、前処理で入力画像が種々の異なるカラムマスクで覆われ、被覆されない画素の総和がスラブ値SB1〜SBnとなり、入力層のニューロ素子と一対一に対応している。さらに、出力層のユニット値は判定パターン(又は正損レベル)に対応している。
【0020】図11は、マスク41〜4nの如き垂直方向のカラムマスクの効果を示しており、同図(A)の下移動入力画像と同図(B)の上移動入力画像に対して同一なスラブ値“5”を得ることができ、入力画像が上下の垂直方向ずれを生じても不変なスラブ値を得ることができる。なお、紙幣は短手方向に搬送され、搬送時には、紙幣が搬送通路に対して直角に保持されて搬送される場合は極めて稀で、普通は左乃至右側に少なからず先行して搬送されるという、いわゆる斜行搬送が起きる。斜行に対してもカラムマスクはロウマスク(横手方向棒状マスク)と比べその長辺長さが短いので、変化する画素領域が少なくその影響を受けにくい。実施例の場合には、斜行角±8°までを許容するようにしている。
【0021】次に、認識の際には予め選定してある上記カラムマスクの種類数、内容についての適性及びその選定上の留意点を説明する。外部パソコン170のニューロ演算部における前処理部151ではカラムマスクの種類41〜4nとそのマスク41〜4n内の被覆領域がパラメータとして考えられる。ただし、外部パソコン170のニューロ演算部が使用する学習アルゴリズムは、次の数1で与えられるバックプロパゲーション法を用いる。
【数1】
また、重みの修正は、各パターンの提示毎に行なう。収束判定は、各パターン毎に得られる出力層の値と教師値との差の2乗の総和が収束判定誤差以下になった場合、または提示回数が最大提示回数に達した場合としている。ここで、提示回数とは、米ドル1$から100$までの7金種分(正損レベルに関してはレベル1からレベル3までの3レベル分)の全てのパターンに教師を提示した場合を1回として定義する。学習データは、米ドル1$から100$までの7金種分までをニューラルネットワークに逐次的に提示する。さらに、認識能力の評価規範として次式で与えられる鑑別率ESを用いる。
【数2】ES=正しく認識された事象の個数/全事象の評価個数×100
【0022】マスクの種類、つまりスラブ数により学習状況と認識能力を検討する。まず、本発明で使用するカラムマスクを次のように作成する。つまり、入力画像のマトリクスの列数と同じ8の一様乱数を[−1,1]の区間で発生し、その中で負の乱数値に対応する番号の列領域を被覆する。このような方法で一様乱数の初期値を変えることにより、種々のカラムマスクを作成する。ここで検討するスラブ数は、2,3,4,5,6,7の6通りとする。図12は、これら6通りのスラブ数に対する提示回数が30,000回に到るまでのニューラルネットワークの学習状況を示している。横軸は教師データの提示回数を示し、縦軸は2乗誤差を示している。図12R>2より、スラブ数が“2”の場合は明らかに学習が収束せず、パターン分離が不可能である。スラブ数が“3”の場合は、ニューラルネットワークの学習がある程度収束傾向を示しているが、誤差曲線は振動的となっている。この場合、学習をさらに継続し、60,000回まで行なったが、2乗誤差は1.0以下にはならなかった。スラブ数が“4”以上の場合は、図12より学習が収束することが示された。従って、分離演算部152の入力層にはスラブ数として4以上とすれば足りる。従来の入力画素64(=8×8)を入力層に入力するのと比較すれば、極端にニューロ素子数を減少させることができ、それに伴い、結果として分離演算部152を簡略化できる。
【0023】次に、カラムマスクの被覆領域に基づいて学習状況と認識能力を説明する。まず、被覆領域の変更は乱数の変動幅により行なう。つまり、乱数の幅[−1,1]を基準にし、被覆領域の増加方向にそれぞれ、乱数の幅を[−2,1],[−3,1],[−4,1]とし、被覆領域の減少方向に乱数の幅を[−1,1],[−1,3],[−1,4]として乱数を発生させる。ただし、スラブ数は“4”とする。図13は乱数の幅を変化させた場合、提示回数が30,000回に到るまでの学習状況を示している。横軸及び縦軸は図12と同様である。図13から学習はマスクの被覆領域にあまり依存しないことが明らかとなった。また、認識能力もマスクの被覆領域にあまり依存しないことが明らかとなった。従って、各カラムマスクの被覆領域についてはあまり注意を払わずにある程度無作為に被覆領域を選定し、マスクの種類を考慮すれば良い。
【0024】上述のようなカラムマスクを用いてのスラブ数の削減は、紙幣のような濃淡模様のパターンについても可能である。従って、紙幣の識別においてはマスクの種類が16あれば確実に識別が可能であり、分離演算部152の入力層には、スラブ数として16以上を入力すれば足りる。具体的なカラムマスクについて種々のシミュレーション実験を行った。即ち、1画素は横方向が1mm、縦方向が4mmで構成で構成されているので、カラムマスクの幅を1mmから1mmずつ10mmまで増加させ、そのようなカラムマスクをランダムに取って効率の最も良いカラム幅とその位置を実験により求めた。実施例ではこれらの最適値として横6mm×縦66mmのカラムマスクを16個用意するように決定した。図14はカラムマスクのマスク情報の一例であり、マスクパターンの1、2、…9、0、…5、6は紙幣を横手方向に16分割したときのマスク位置を示すものであり、0はマスクが掛かっていないことを示し、1はマスクが掛かっていることを示す。ユニット番号NO.1ではマスクが全く掛かっていないスラブ値が入力され、ユニット番号NO.2−NO.16ではマスクがランダムに掛かっているスラブ値が入力される。
【0025】従来の場合では図27の構成で、入力画素6480(=216×30)を入力層に入力していたのと比較すれば、極端にニューロ素子数を減少させることができ、それに伴って分離演算部を簡略化できる。なお、上述のスラブ数16の場合に限らずに、スラブ数を多少減らしても学習速度が低下するが識別は可能であり、スラブ数を増やせばより確実な識別が可能である。
【0026】次に、上述の外部パソコン170のニューロ演算部の前処理部で前処理された情報を入力して分離演算を行なう分離演算部について説明する。階層構造の分離演算部152は、大別すると入力層,隠れ層,出力層の3層から成っている。図15に示すように入力層は、前処理部からの各マスクの種類に一対一に対応するようにニューロ素子が設けられており、各マスク種類により前処理されたスラブ値(マスク処理された後の画素数の総和)を対応するニューロ素子に入力する。隠れ層は少なくとも1つのニューロ素子の層から成り、入力層の情報を分離演算して出力層に伝達する役割を果たしている。この隠れ層が多くなればそれだけ、入力層の各ニューロ素子の情報の変動に対しても不変に各パターンの各々に分離して演算することが可能となる。出力層には、識別すべきカテゴリーに一対一に対応するようにニューロ素子が設けられている。そして、学習により完成したニューロ素子間の重み係数による出力ユニット値を出力ユニット数個分算出する。この複数個の出力ユニット値(0〜1の間の値を採る)の最大値(通常検査紙幣の金種の出力ユニットで0.99ぐらい)と、準最大値(2番目の金種の候補で0.2以下)とを抽出する。次に、最大値が閾値1(通常0.6)よりも大きいかどうかを判断し、小さいときには、学習データから除く。そして、(最大値−準最大値)が閾値2(通常0.4)より大きいかどうかを判断し、(最大値−準最大値)が小さい場合には排除し、大きい場合には最大値を有するユニットのパターンを評価紙幣の判定パターンであると決定する。ここで、最大値と準最大値をチェックするのは、金種間の誤鑑を防ぐためである。
【0027】ニューラルネットワークを用いたパターン認識において、これまではその性能評価が統計的確率である鑑別率ESよって行なわれて来ていて、ニューラルネットワークの出力ユニットの出力値に対してその最大値のみが評価の対象となっている。しかし、このような評価指標では最大値以外の出力値で最大値にかなり近い値であっても、評価結果には直接的な影響が反映されていない。例えば2種のデータが識別した場合、ニューラルネットワークの鑑別率の結果は100%であるが、この場合にはニューラルネットワークにおけるある出力層の出力値の最大値とその他出力層の出力値の差が非常に大きい場合と、あまり差がない場合とが存在する。分離度の検知からみれば上記差が大きい方が、より識別判定においては優れていることは容易に理解できる。一般にニューラルネットワークを応用した市場の製品においては、出力ユニットの最大値のみならず、最大値以外の出力値が最大値から十分離れていることが要求されている。というのは、市場においては外部の影響で入力データに雑音が混入した場合でも、その出力結果が正常なデータによる出力結果に可能な限り近いことが要請されているからである。つまり、出力ユニットの最大出力値とそれ以外の出力値が互いに近い状態の製品よりも、十分に離れた距離の出力を与える製品の方が望まれているからである。従って、ニューロ判定の十分、不十分をチェックするために出力ユニットの出力値の最大値と、最大値及び他のユニットの出力値の差とに閾値を設定している。
【0028】例えば1$〜100$の米ドル紙幣を識別する時には、出力層のニューロ素子が上から順に1$〜100$の金種に対応し、識別する時には、該当するニューロ素子が1に最も近い値、即ち最大値を出力し、他のニューロ素子は0に近い値を出力する。1$紙幣を識別する時には、出力層の最上位のニューロ素子が最大値を出力し、判定パターンと決定する。
【0029】同様に、上述の紙幣識別の際には出力層のニューロ素子が上から順に1$、2$、5$、10$、20$…100$と言うように7金種×4方向の28個のニューロ素子が一対一に対応している。そして、この入力層から出力層までのニューロ素子同士を接続し、信号を受け渡す機構をシナプスという。シナプスは、ニューロ素子同士の結合の強さを重み付け関数で記憶している。1つのニューロ素子は、シナプスを通じ前段の層の複数のニューロ素子から信号を受取り、経由してきたシナプスが持つ重みを乗算して入力値とする。ニューロ素子は、それが結合している全てのニューロ素子からの信号を受取ると、入力値の総和をとる。総和の値が予めニューロ素子に設定した閾値を越えるとニューロ素子が“発火”し、次の後段の層のニューロ素子に出力信号を送り、この処理を繰返して出力層から情報を出力する。これら各シナプスの重みは識別対象に対応して、予めバックプロバゲーション法による学習により決定されている。その方法は既に述べた数1によって行なわれる。
【0030】次に、判定部について説明する。判定部は、分離演算部の出力層から出力される情報を入力し、その中から最大値を判別し、その最大値のニューロ素子に対応するカデゴリーと判別する。例えば、出力層のニューロ素子が上から1$紙幣のA方向、1$紙幣B方向、1$紙幣C方向のカデゴリーに対応している場合に、最上位のニューロ素子から最大値の出力が出ていれば“1$A方向”であると判別する。外部パソコン170のニューロ演算部の構成は、学習する機能を除くと紙幣識別/正損分離装置100のニューロ演算部150の構成に等しく、前者の学習にはシグモイド関数の微分値が必要なために近似式は使用できないが、後者では演算速度を確保するためにexp(−x)の関数を1次関数y=ax+bで近似した値を用いるようにしている点が異なる。つまり、内蔵ニューロ演算部150は学習機能を有していない。
【0031】このような構成において、紙幣識別の動作例を図16のフローチャートにより説明する。ホッパ101に紙幣10を載置して後にスタート/ストップボタン122を押すと、識別装置制御部160は搬送繰り出し手段を駆動し、繰り出しローラ110によって紙幣10を1枚ずつ搬送路P1に繰り出す。繰り出された紙幣10は発光部12からの光で照射され、その反射光がCCD等で成るラインセンサ11に入力され、その読取信号がセンサ制御部14に入力される。センサ制御部14にはロータリエンコーダ13からのサンプルパルスSPが入力され、メカクロックの所定クロック毎に掃引を開始し、搬送方向に4mm間隔で、横方向に1mmピッチにある1ライン分の画素出力をAD変換し、変換されたデジタル数値を画像フレームメモリ141に書込むことにより、紙幣10の光学イメージを記憶手段に入力することができる(ステップS1−S5)。本例の画像フレームメモリ141は、紙幣1枚に付き横方向256mm×縦方向128mmの大きさ分用意している。紙幣の大きさは、米ドル紙幣の場合には156mm×66mmであるので、次ステップでマスクをする場合に、非紙幣部分にマスクを設定することを避けるために、紙幣切出部は画像フレームメモリ141に展開された画像フレーム内の紙幣エッジを抽出し(ステップS6)、紙幣部分のデータを特定して切出し(ステップS7)、紙幣の部分が画像処理されて入力画像を得る。光学系は反射型センサなので、媒体の無い部分の最暗部のAD値の所定倍した閾値を用い、紙幣媒体の有り無しを判断して、明るい部分を取出す。透過型センサを用いる場合には、逆に設定した閾値よりも暗い場所が紙幣の部分である。
【0032】紙幣切出部で切出された画像データはニューロ演算部150で処理され、前処理部151はマスク情報を読み込み(ステップS8)、そのマスク情報に基づくスラブ値を作成する(ステップS9)。スラブ値の数が入力ユニット数に到達するまでステップS8,S9の処理を繰り返し(ステップS10)、到達したら分離演算部152は学習により完成したニューロ素子間の重み係数による出力ユニット値を算出する(ステップS11)。そして、出力ユニット値(0〜1の間の値をとる)の最大値(通常検査紙幣の金種の出力ユニットで0.99ぐらい)と、準最大値(2番目の金種の候補で0.2以下)とを抽出する(ステップS12)。次に、最大値が閾値1(通常0.6)よりも大きいかどうかを判断し(ステップS13)、小さいときには学習データから除く(ステップS15)。そして、(最大値−準最大値)が閾値2(通常0.4)より大きいかどうかを判断し(ステップS14)、(最大値−準最大値)が小さい場合には排除し(ステップS15)、大きい場合には最大値を有するユニットのパターンを評価紙幣の判定パターンと決定する(ステップS16)。判定部153は、分離演算部152の出力層から出力される情報を入力し、その中から最大値(最小値とするようにしても良い)を判別し、その最大値のニューロ素子に対応するカテゴリーと判別する。そして、その識別結果DRが識別装置制御部160に入力される。上記識別動作中に紙幣は搬送路P1,P2を搬送され、ローラ112に達するまでには、識別装置制御部160が入力した識別結果DRに基づいて通路切換部材113,115を駆動する。すなわち、希望金種の紙幣と識別した場合は通路切換部材113をローラ112側に回転させて搬送路P3から退避させ、、通路切換部材115を搬送路P6上に突き出させるので、紙幣は搬送路P3,P4,P5を搬送され、羽根車102により繰り出されて第1スタッカ104に保留される。また、希望しない金種の紙幣と識別した場合は通路切換部材113をローラ112側に回転させ搬送路P3から退避させ、通路切換部材115をローラ114側に回転させ搬送路P6から退避させるので、紙幣は搬送路P3,P6,P7を搬送され紙幣繰り出し部103により繰り出されて第2スタッカ105に保留される。そして、金種の識別ができない場合には通路切換部材113を搬送通路P3に突き出させ、紙幣は搬送路P8,P9を搬送されてリジェクトスタッカ106に保留される。識別装置制御部160は、センサから紙幣の保留検知信号を受けると、その枚数や金額等を表示部130に表示する。そして、金種の決定が全て終了していなければステップS11に戻って上述した処理を繰り返す(ステップS17)。
【0033】次に、ニューラルネットワークをカスケードに結合する場合の実施例について説明する。図17は、ニューラルネットワークをカスケードに結合する場合の概念を示す図である。先ず第1段階として、入力層16ユニット、隠れ層16ユニット、出力層8ユニットを設定する。出力層の8個のユニットには、各々1$〜100$紙幣のA方向(表裏前後を含めABCDの4方向を定義する。)に7個を割り当て、残り1ユニットである8番目の出力ユニットにその他を割り当てる。これにより、28パターン(7金種×4方向)の内7金種のA方向を分離し、残りは21パターンとなる。次に第1段階のニューラルネットワークの8番目の出力が有った場合には、第1段階のニューラルネットワークの入力部に入力したのと同一のスラブ値を第2段階のニューラルネットワークに入力する。この第2段階の出力の8個の出力層には、各々1$〜100$紙幣のB方向が1〜7番目の出力が割り当てられている。ここでは、21パターンの内、7金種のB方向が分離される。この段階で残りは14パターンである。
【0034】次に第2段階のニューラルネットワークの8番目の出力が有った場合には、第1段階のニューラルネットワークの入力部に入力したのと同一のスラブ値を第3段階のニューラルネットワークに入力する。この第3段階の出力の8個の出力層には、各々1$〜100$紙幣のC方向が1〜7番目の出力が割り当てられている。ここでは、14パターンの内、7金種のC方向が分離される。この段階で残りは7パターンである。次に第3段階のニューラルネットワークの8番目の出力が有った場合には、第1段階のニューラルネットワークの入力部に入力したのと同一のスラブ値を第4段階のニューラルネットワークに入力する。この第4段階の出力の8個の出力層には、各々1$〜100$紙幣のD方向が1〜7番目の出力が割り当てられている。ここでは、21パターンの内、7金種のD方向が分離される。この段階で8番目の出力が有った場合には、ドル紙幣でないということになる。
【0035】以上は、ニューラルネットワークを物理的にカスケード接統したが、図18に示すように同一のニューラルネットワークを用いて、重み係数が記憶されているROMをハード的にスイッチングして入れ替え、識別装置制御部160から上記の各段階毎に順次ロードし直して処理をカスケードに行うこともできる。即ち、ニューラルネットワークの重み係数値は、その部分を分離演算させる直前に目的とする分離演算用の重み係数値に外部から強制的に書換えてしまうのである。これにより物理的なハードウエアの個数を増やすことなく、カスケードに同一スラブ値を用いて分離演算を行なうことができる。
【0036】ニューロ演算部150の判定部153からの出力は識別装置制御部160のCPUによって読み込まれて判定され、設定入力手段で設定された金種であればスタッカ104へ、その他であれば通路切換え部材113を制御して紙幣をリジェクトスタッカ105へ搬送させる。そして、表示部130の更新を行なう。また、識別装置制御部160は、繰出し部110の直後に設けた紙幣通過センサ(図示せず)によって繰り出しローラ110からの紙幣の繰出し枚数を計数し、設定入力手段で計数枚数の指定があった場合には、指定枚数の指定金種の紙幣の計数を終えたとき搬送手段を停止させる。なお、上述の実施例では、米ドル紙幣のパターン認識について説明したが、他の国の紙幣識別やOCRを使って読込む伝票文字読込機や、小切手等の有価証券読取機も同様にパターン認識可能であり、その他のパターン読取装置についても可能なことは勿論である。又、上述ではラインセンサを用いて光学パターン画像を取得しているが、エリアセンサを用いることも可能である。
【0037】ところで、紙葉類の正損分離では紙葉類の搬送方向を限定しない。そのため、紙葉類の金種識別においては金種、その表裏及び正立倒立を識別パターンとしてニューロ演算部150の出力層のニューロ素子もこれに対応させる必要がある。しかしながら、正損分離は正立倒立に無関係に行なわれる必要があり、更に出力層のニューロ素子数を少なくする必要があることから、正立倒立に無関係なマスク処理を実現している。
【0038】即ち、本発明における紙葉類の正損分離では図19に示すように、紙葉類1の中心軸を対称軸として左右対称にマスクM1,M2を設定し、マスクされない画素数を加算する。これにより、加算値は画像パターンに無関係に且つ正立倒立に不変な量となる。図20及び図21は正立倒立に無関係なスラブ値の作成方法を説明するための図であり、正立搬送と倒立搬送で、中心軸を対称としたスラブ値は一致していることが分る。ニューラルネットワークの出力ニューロ素子数を少なくするため、判定パターン数と出力ニューロ素子数を一致させる必要があり、従って画像データ中の紙葉類のイメージの中心軸を算出し、この中心軸に左右対称にマスクしない部分が現れるようにマスクを設定する。これにより、図20及び図21に示すように、紙葉類の正立倒立に無関係なスラブ値が得られる。従って、例えば正立搬送方向の画像のみをデータとして学習することにより、正立倒立に無関係な情報を外部よりダウンロードによりニューロ演算部150に与えることができる。又、ニューロ演算部150の出力層におけるニューロ素子数は正損レベルに対応している。つまり、出力層には、判定すべき正損レベルに一対一に対応するようにニューロ素子が設けられている。そして、外部パソコン170による学習により完成したニューロ素子間の重み係数はダウンロードにより書換可能ROM157に格納され、その重み係数によって出力ユニット値を出力ユニット数個分算出する。
【0039】正損分離においては、ニューロ金種識別を前提として金種判定後に特定された金種内で、紙葉類の正損度を判定する。図22は、金種識別ニューロの後で正損分離ニューロで正損分離する様子を示しており、図2323は画像イメージデータを入力してマスク処理部158でマスクを設定して後、入力層、隠れ層及び出力層で成るニューロ判定部159で正券と損券(損券1〜損券3)とを分離する様子を示している。即ち、種々のマスクにより正損分離に有効な画素を紙葉類から抽出し、抽出した画素群の平滑化情報(総和)をニューロ判定部159の入力層に入力する。ニューロ判定部159は階層型の構造を有し、例えば1つの入力層と複数の隠れ層、更に1つの出力層を有している。上記出力層の各ニューロ素子は紙葉類の損傷レベルに対応し、例えば最も単純な場合においては、ニューロ素子は2個であり、1つは正券を示すニューロ素子であり、もう1つは損券を示すニューロ素子である。この他に、損券をその損傷度に応じてレベル分けし、例えば正券、損券レベル小、損券レベル中、損券レベル大の様にレベルを設定し、4個のニューロ素子を出力層に設定することもできる。損券レベルとは汚れ、穴、破れの程度を総合して表している。損券分離を可能にするニューロ学習については、教師データとして正券として判定したい紙葉類データを数種類、また、損券として、判定したい紙葉類データを数種類準備し、バックプロパゲーション法を用いて学習を行なう。マスクのかけ方は、切出した紙幣画像イメージの対称中心線の座標を検索し、その座標を基に図23に示すマスクを何種類か施し、マスクがかかっていない画像の画素値の合計、即ちスラブ値を求める。左右対称にマスクを構成しているので、正立と倒立画像のスラブ値は図2020及び図21に示す様に同一となり、表裏の画像においても、別々のスラブ値が得られる。
【0040】また、図24の(A)はシグモイド関数y=1/{1+exp(−x)}を示しており、同図(A)の一部の区間内における関数exp(−x)を、(B)に示す1次関数y=ax+bで近似することにより、処理のスピードアップを図ることができる。図に示すxの値、1次関数のa及びbの値がROM156にテーブル化されて記憶されている。DSP154は前述のようにRAM155に複写されたこのテーブルを使い、exp(−X)をy=ax+bで近似計算する。次の表1は、a,bとxの関数を示している。
【表1】
ニューロ演算部150においてはシグモイド関数の微分値を学習に用いるため、近似式を用いることが出来ない。センサからのデータを画像フレームメモリ141に展開した状態でニューロ演算部150にメモリの記憶データを転送し、センサからのデータを画像フレームメモリ141に展開した後、DSP154を動作させてスラグ値を得るまでを識別/正損分離装置100で処理し、スラブ値をニューロ演算部150に送る。
【0041】次に、図25及び図26のフローチャートを参照して、正損分離の動作を説明する。先ずニューラルネットワーク構成を決定するパラメータをRAM155上にダウンロードし(ステップS20)、次にニューラルネットワーク構成に合ったニューロ重みをRAM155上にダウンロードする(ステップS21)。そして、紙幣データをセンサ制御部14から読込み(ステップS22)、紙葉類識別の場合と同様に紙幣のエッジを検出し(ステップS23)、画像フレームから紙幣イメージを抽出する(ステップS24)。その後、紙幣イメージ上に種々のマスクを設定し(ステップS25)、種々のマスクによるスラブ値を作成し(ステップS26)、入力層の各ユニットにスラブ値を入力する(ステップS27)。
【0042】隠れ層の各ユニットに入力層の出力値と重みを乗算して総和を求め(ステップS30)、ユニットの総和を図24で説明した近似シグモイド関数(1次関数)で入力し、隠れ層のユニットの出力値を求める(ステップS31)。そして、出力層の各ユニット毎に隠れ層の出力値と重みを乗算して総和Xiを求め(ステップS32)、ユニットの総和を近似シグモイド関数(1次関数)に入力し、ユニットの出力層の出力値Oiとする。その後、出力値の最大値をチェックし(ステップS34)、NGの場合はリジェクトし(ステップS37)、OKの場合は更に出力値の最大値と準最大値のチェックを行ない(ステップS35)、NGの場合はリジェクトし、OKの場合は、最大値を有するユニットのパターンを判定パターンとする(ステップS36)。かかる判定パターンを用いて紙葉類の正損度を正損レベルで判定するが、判定結果DRはニューロ演算部150より識別装置制御部160に入力され、ここでは分離装置制御部として動作する。上述では紙幣について説明したが、ビール券、ギフト券などの仕分装置に使用する分離部に左右対称のランダムマスク方式は使用可能で、この際には、裏面には絵柄がないので表面のみの画像データに対してのみ処理を行なう。
【0043】
【発明の効果】以上のように本発明のランダムマスク方式によるニューロ紙幣識別/正損分離装置によれば、紙葉類の短手方向に平行なカラムマスクを用いて画像代表値(スラブ値)を求めているので、ニューラルネットワークの構成が小規模となり、制御装置も小規模となる。また、紙葉類の位置ずれが生じた場合でも画素値に影響が出ないので、紙葉類の識別を確実に行なうことができる。また、ニューラルネットワークをカスケードに接続することにより、多数のカテゴリー分類の場合においても効率良くカテゴリー(7金種ドル紙幣の金種、表裏、搬送方向)を判定することができる。
【0044】左右対称なランダムマスク方式による正損分離装置によれば、紙葉類の短手方向に平行なカラムマスクを左右対称に施して画像代表値(スラブ値)を求めているので、紙葉類の位置ずれにも影響を受けにくく、また正立・倒立の区別をすることも無くニューラルネットワークの構成が小規模となり制御装置も小規模となる。表面と裏面のマスクは独立したものを用意するが、A方向搬送紙幣及びB方向搬送紙幣とは共通の左右対称マスクパターンが使え、同様にC方向とD方向の共通のマスクパターンを使うことができる。複雑な演算を要するシグモイド関数の自然対数の部分の計算を、y=ax+bの1次直線にてシグモイド関数のうちの自然対数の近似演算を行なっているので認識演算処理が早くなる。このことにより正確な近似値が得ることができ、ニューロによる判定結果の信頼性を上げることができる。また、処理する紙葉類の時間当たりの枚数を増加させることができ、大量の処理が可能となる。
【0045】外部のニューロ演算部と接続するインタフェースを持つことにより、識別媒体の変更や正損レベルの変更をさせたい場合に容易に、ニューラルネットワークの学習をさせることができ、結果のニューロ重みをダウンロードさせて識別装置の書換可能記憶手段の内容を更新させることができ、追加学習が容易にできる。従って、ユーザの所在する営業所等において、現物を用いて損傷レベルの細かい調整を行なうこと、或いは新規登録が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明によるランダムマスク方式による紙葉類のニューロ識別/正損分離装置の外観構成例を示す斜視図である。
【図2】本発明によるランダムマスク方式による紙葉類のニューロ識別/正損分離装置の内部機構を示す図である。
【図3】本発明によるランダムマスク方式による紙葉類のニューロ識別/正損分離装置装置の表示部の詳細を示す図である。
【図4】紙幣データと採取方向を説明するための図である。
【図5】本発明によるランダムマスク方式による紙葉類のニューロ識別/正損分離装置の内部構成を示すブロック図である。
【図6】紙幣データとスラブ値作成方法を説明するための図である。
【図7】本発明によるランダムマスク方式によるニューロ紙幣識別装置の主要部構成を示すブロック図である。
【図8】本発明に用いる異なるパターンに対する異なるスラブ値を説明するための図である。
【図9】本発明に用いる異なるパターンに対する異なるスラブ値生成を説明するための図である。
【図10】本発明に用いるカラムマスクを説明するための図である。
【図11】垂直方向の画像の移動に対するカラムマスク効果を説明するための図である。
【図12】種々のスラブ数に対する学習状況を示す図である。
【図13】マスクの種々の被覆領域に対する学習状況を示す図である。
【図14】本発明に用いる符号化されたマスク情報の一例を示す図である。
【図15】本発明によるランダムマスク方式による紙葉類のニューロ識別/正損分離装置の主要部構成の詳細を示すブロック図である。
【図16】本発明によるランダムマスク方式による紙葉類のニューロ識別/正損分離装置の動作例を示すフローチャートである。
【図17】本発明によるランダムマスク方式による紙葉類のニューロ識別/正損分離装置のニューラルネットワークをカスケードに結合する場合の説明図である。
【図18】本発明によるランダムマスク方式による紙葉類のニューロ識別/正損分離装置のニューラルネットワークの重み係数を書き換える場合の説明図である。
【図19】対称マスクの様子を示す図である。
【図20】正立搬送時のスラブ値の例を示す図である。
【図21】倒立搬送時のスラブ値の例を示す図である。
【図22】金種識別ニューロと正損分離ニューロの関係を示す図である。
【図23】正損分離におけるニューロ演算部を示す図である。
【図24】シグモイド関数の近似を説明するための図である。
【図25】正損分離の動作例を示すフローチャートの一部である。
【図26】正損分離の動作例を示すフローチャートの一部である。
【図27】従来のパターン認識装置の構成例を示すブロック図である。
【符号の説明】
1 紙幣(被識別対象)
2 イメージセンサ
3 入力画像
4 前処理部
5 分離演算部
10 紙幣(米ドル紙幣)
11 ラインセンサ
12 発光部
14 センサ制御部
141 画像フレームメモリ
150 ニューロ演算部
151 前処理部
152 分離演算部
153 判定部
158 マスク処理部
159 ニューロ判定部
160 識別装置制御部
170 外部パソコン(ニューロ学習エンジン)
【特許請求の範囲】
【請求項1】 識別すべき紙葉類の光学パターン画像を入力する画像入力手段と、前記画像入力手段で読取られた画像データを記憶する記憶手段と、前記記憶手段に記憶されている画像データから前記紙葉類の光学パターン画像を抽出する画像抽出手段と、前記画像抽出手段により抽出された前記光学パターン画像に対して前記紙葉類の搬送方向と平行にランダムに複数種のカラムマスクを施し、前記各光学パターン画像における非マスク画素の総和(スラブ値)に変換する前処理部と、前記スラブ値を入力し、予め判定パターン分類に最適に調整されたニューロ重みにより前記光学パターン画像の判定パターン毎に分離演算値を算出するニューラルネットワークの分離演算部と、前記分離演算値の中で最大値又は最小値を有する判定パターンを前記紙葉類の光学パターン画像として判定出力するニューラルネットワークの判定部とを具備したことを特徴とするランダムマスク方式による紙葉類のニューロ識別装置。
【請求項2】 前記紙葉類の分類すべきカテゴリーに応じて前記ニューラルネットワークをカスケード接続して成る請求項1に記載のランダムマスク方式による紙葉類のニューロ識別装置。
【請求項3】 前記紙葉類の分類すべきカテゴリーに応じて前記分離演算部におけるニューロ重みを順次書き換えるようにした請求項1に記載のランダムマスク方式による紙葉類のニューロ識別装置。
【請求項4】 識別すべき紙葉類の光学パターン画像を入力する画像入力手段と、前記画像入力手段で読取られた画像データを記憶する画像データ記憶手段と、前記画像データ記憶手段に記憶されている画像データから前記紙葉類の光学パターン画像を抽出する画像抽出手段と、前記画像抽出手段により抽出された前記光学パターン画像に対して前記紙葉類の搬送方向と平行にランダムに且つ左右対称に複数種のカラムマスクを施し、前記各光学パターン画像における非マスク画素のスラブ値に変換する前処理部と、前記スラブ値を入力し、正損分離に最適に予め調整されたニューロ重みにより前記光学パターン画像の正損レベル毎に分離演算値を算出するニューラルネットワークの分離演算部と、前記分離演算値の中で最大値又は最小値を有する正損レベルを前記紙葉類の判定正損レベルとして出力するニューラルネットワークの判定部とを具備したことを特徴とするランダムマスク方式による紙葉類のニューロ正損分離装置。
【請求項5】 前記ニューラルネットワークの非線形特性のシグモイド関数f(x)=1/{1+exp(−x)}のexp(−x)項を、1次関数y=ax+bで線形近似するようにした請求項4に記載のランダムマスク方式による紙葉類のニューロ正損分離装置。
【請求項6】 装置内部に位置して前記前処理部、分離演算部及び判定部で形成される内蔵ニューロ演算部と、前記ニューロ重みを記憶する電気的に書込制御が可能な不揮発性記憶手段と、前記マスクパターンの変更設定が可能な前処理部と、分離演算部及び判定部で成るニューラルネットワークの学習により前記ニューロ重みを算出する外部に設けられた装置外ニューロ演算部との間でデータの交換を行うインタフェース手段と、前記インタフェース手段によって前記画像データ記憶手段に記憶された前記紙葉類の光学パターン画像のデータ又は前記内蔵ニューロ演算部で演算された前記スラブ値を前記ニューロ演算部にアップロードすると共に、前記装置外ニューロ演算部からの前記ニューロ重みを前記インタフェース手段によってダウンロードして前記不揮発性記憶手段を更新する制御手段とを備えた請求項4に記載のランダムマスク方式による紙葉類のニューロ正損分離装置。
【請求項7】 前記インタフェース手段を通じて前記装置外ニューロ演算部に送るデータが画像データである請求項6に記載のランダムマスク方式による紙葉類のニューロ正損分離装置。
【請求項8】 前記インタフェース手段を通じて前記装置外ニューロ演算部に送るデータがスラブ値である請求項6に記載のランダムマスク方式による紙葉類のニューロ正損分離装置。
【請求項1】 識別すべき紙葉類の光学パターン画像を入力する画像入力手段と、前記画像入力手段で読取られた画像データを記憶する記憶手段と、前記記憶手段に記憶されている画像データから前記紙葉類の光学パターン画像を抽出する画像抽出手段と、前記画像抽出手段により抽出された前記光学パターン画像に対して前記紙葉類の搬送方向と平行にランダムに複数種のカラムマスクを施し、前記各光学パターン画像における非マスク画素の総和(スラブ値)に変換する前処理部と、前記スラブ値を入力し、予め判定パターン分類に最適に調整されたニューロ重みにより前記光学パターン画像の判定パターン毎に分離演算値を算出するニューラルネットワークの分離演算部と、前記分離演算値の中で最大値又は最小値を有する判定パターンを前記紙葉類の光学パターン画像として判定出力するニューラルネットワークの判定部とを具備したことを特徴とするランダムマスク方式による紙葉類のニューロ識別装置。
【請求項2】 前記紙葉類の分類すべきカテゴリーに応じて前記ニューラルネットワークをカスケード接続して成る請求項1に記載のランダムマスク方式による紙葉類のニューロ識別装置。
【請求項3】 前記紙葉類の分類すべきカテゴリーに応じて前記分離演算部におけるニューロ重みを順次書き換えるようにした請求項1に記載のランダムマスク方式による紙葉類のニューロ識別装置。
【請求項4】 識別すべき紙葉類の光学パターン画像を入力する画像入力手段と、前記画像入力手段で読取られた画像データを記憶する画像データ記憶手段と、前記画像データ記憶手段に記憶されている画像データから前記紙葉類の光学パターン画像を抽出する画像抽出手段と、前記画像抽出手段により抽出された前記光学パターン画像に対して前記紙葉類の搬送方向と平行にランダムに且つ左右対称に複数種のカラムマスクを施し、前記各光学パターン画像における非マスク画素のスラブ値に変換する前処理部と、前記スラブ値を入力し、正損分離に最適に予め調整されたニューロ重みにより前記光学パターン画像の正損レベル毎に分離演算値を算出するニューラルネットワークの分離演算部と、前記分離演算値の中で最大値又は最小値を有する正損レベルを前記紙葉類の判定正損レベルとして出力するニューラルネットワークの判定部とを具備したことを特徴とするランダムマスク方式による紙葉類のニューロ正損分離装置。
【請求項5】 前記ニューラルネットワークの非線形特性のシグモイド関数f(x)=1/{1+exp(−x)}のexp(−x)項を、1次関数y=ax+bで線形近似するようにした請求項4に記載のランダムマスク方式による紙葉類のニューロ正損分離装置。
【請求項6】 装置内部に位置して前記前処理部、分離演算部及び判定部で形成される内蔵ニューロ演算部と、前記ニューロ重みを記憶する電気的に書込制御が可能な不揮発性記憶手段と、前記マスクパターンの変更設定が可能な前処理部と、分離演算部及び判定部で成るニューラルネットワークの学習により前記ニューロ重みを算出する外部に設けられた装置外ニューロ演算部との間でデータの交換を行うインタフェース手段と、前記インタフェース手段によって前記画像データ記憶手段に記憶された前記紙葉類の光学パターン画像のデータ又は前記内蔵ニューロ演算部で演算された前記スラブ値を前記ニューロ演算部にアップロードすると共に、前記装置外ニューロ演算部からの前記ニューロ重みを前記インタフェース手段によってダウンロードして前記不揮発性記憶手段を更新する制御手段とを備えた請求項4に記載のランダムマスク方式による紙葉類のニューロ正損分離装置。
【請求項7】 前記インタフェース手段を通じて前記装置外ニューロ演算部に送るデータが画像データである請求項6に記載のランダムマスク方式による紙葉類のニューロ正損分離装置。
【請求項8】 前記インタフェース手段を通じて前記装置外ニューロ演算部に送るデータがスラブ値である請求項6に記載のランダムマスク方式による紙葉類のニューロ正損分離装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図8】
【図9】
【図10】
【図5】
【図6】
【図11】
【図12】
【図13】
【図18】
【図22】
【図7】
【図14】
【図15】
【図17】
【図19】
【図16】
【図20】
【図21】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
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【図25】
【図26】
【図27】
【公開番号】特開平7−220087
【公開日】平成7年(1995)8月18日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平6−277170
【出願日】平成6年(1994)10月18日
【出願人】(000001432)グローリー工業株式会社 (1,344)
【公開日】平成7年(1995)8月18日
【国際特許分類】
【出願日】平成6年(1994)10月18日
【出願人】(000001432)グローリー工業株式会社 (1,344)
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