説明

ランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物及び成形品

【課題】耐衝撃性、耐熱性、成形外観性及び振動溶着性に優れた成形品を与え、他の樹脂成形品との優れた溶着性、及び、ダイレクト蒸着後に美麗な光輝外観が得られるランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物及び成形品を提供する。
【解決手段】本組成物は、ゲル含量70質量%以上、トルエン膨潤度5.5〜30倍、体積平均粒子径100〜200nm、体積平均粒子径と数平均粒子径との比1.1未満であるアクリル系ゴムの存在下、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を重合して得られたアクリル系ゴム強化グラフト樹脂と、オルガノシロキサン系ゴム及び(メタ)アクリル系(共)重合体ゴムを含む複合ゴムの存在下、メタクリル酸メチル、スチレン、アクリロニトリル等を重合して得られた、複合ゴム強化グラフト樹脂と、マレイミド系化合物に由来する構造単位を10〜70質量%含むマレイミド系共重合体とを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐衝撃性、耐熱性、成形外観性及び溶着性に優れた成形品を与え、他の樹脂成形品との優れた溶着性、及び、ダイレクト蒸着後に美麗な光輝外観が得られるランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘッドランプ、テールランプ、ストップランプ等の車両用灯具は、一般に、樹脂レンズ部(以下、「ランプレンズ」ともいう。)と、樹脂ハウジング部(以下、「ランプハウジング」ともいう。)とから構成されている。そして、これらの部材の構成材料としては、軽量化、生産性等の観点から、樹脂レンズ部にはポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)等の透明樹脂が、樹脂ハウジング部にはABS樹脂等に着色剤を配合した樹脂組成物が用いられている。
【0003】
ランプレンズとランプハウジングとを接合する方法としては、振動溶着法、熱板溶着法、レーザー溶着法等の方法がある。これらのうち、振動溶着法は、2つの樹脂部材の接合したい面に、圧力及び往復運動による振動を加え、その摩擦熱によって、接着用部位の樹脂成分を溶融して、両者を接合する方法であり、樹脂部材を加熱する必要がなく、樹脂部材どうしを、極めて短時間で接合することができる優れた方法である。しかしながら、この方法においては、溶融した樹脂が、接合部の外側に、糸状にはみ出す現象(以下、「糸バリ」という。)が発生する場合がある。この糸バリが顕著になると、ランプレンズを通して外から見えてしまうため、外観不良となる。また、この糸バリは、後加工によって除去することができないという問題もある。
【0004】
振動溶着法において、糸バリを目立たなくするために、接合部が隠れるような形状にする方法(特許文献1参照)、光の屈折を利用して接合部を見えなくする方法(特許文献2参照)等が知られている。しかしながら、いずれの方法も樹脂部材の形状を規定するものであり、デザイン上の制約が生じる。
一方、糸バリの発生を抑制するための振動溶着用樹脂組成物としては、ブタジエンゴムをコアとした特殊な構造のゴムを用いたゴム強化スチレン系樹脂を含む組成物(特許文献3)、ブタジエンとアクリル酸アルキルエステルからなるゴムを用いたゴム強化スチレン系樹脂を含む組成物(特許文献4)、ブタジエンゴム強化樹脂とシリコーン系ゴム強化樹脂を使用する組成物(特許文献5)等が知られている。しかしながら、これらの文献においては、ダイレクト蒸着性に関しては言及されていない。
【0005】
ランプハウジングは、通常、車両用灯具の輝度を高めるために、塗装・金属蒸着・メッキ等の二次加工に供される。二次加工後に、塗装・金属蒸着・メッキ等による美麗な外観を得るためには、二次加工前の成形品の表面を、平滑性に優れたものとする必要がある。二次加工を施す成形品の表面を平滑にするために、通常、アンダーコート処理が行われている。成形品が平滑性を有すると、アンダーコート層を形成することなく(以下、「アンダーコートレス」ともいう。)、直接、金属層等を形成することができ、製品のコストダウンを導くことができる。アンダーコート層の形成を省略した金属層の形成方法としては、いわゆる「ダイレクト(直接)蒸着法」が知られており、近年では、一般的に用いられている。従って、ランプハウジング等の形成に使用される樹脂組成物は、糸バリが抑制されるというだけでなく、平滑性に優れた成形品を与えることが求められる。
【0006】
一方、ダイレクト蒸着に適した樹脂組成物としては、特定の粒子径分布を有するゴム質重合体をグラフトしたゴム含有グラフト共重合体を含む組成物が開示されている(特許文献6参照)。しかしながら、この組成物は、近年の高い光輝性に対する要求レベルを十分に満足させることはできず、また、振動溶着接合部の糸バリ外観に関して、何も言及されていない。
【0007】
振動溶着法における糸バリによる外観性を改善した上で、ダイレクト蒸着性を改良するための組成物としては、特定のゲル量のゴムを用い、組成物中のゴム量が特定範囲であるゴム含有グラフト共重合体を含む組成物(特許文献7参照)、特定のゲル含量のブタジエンゴム強化樹脂とシリコーン系ゴム強化樹脂を含む組成物(特許文献8参照)、シリコーン系ゴム強化樹脂でシリコーンゴムの構造を詳細に制御する方法(特許文献9〜11参照)等が開示されている。更に、耐衝撃性を付与するために、通常のアクリル系ゴム強化スチレン系樹脂に、シリコーン系ゴムにメタクリル酸アルキルエステルをグラフトした共重合体を少量使用する組成物が開示されている(特許文献12参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−63307号公報
【特許文献2】特開平10−308104号公報
【特許文献3】特開平11−199727号公報
【特許文献4】特開2000−302824号公報
【特許文献5】特開2002−322340号公報
【特許文献6】特開2001−002869号公報
【特許文献7】特開2004−182835号公報
【特許文献8】特開2004−346189号公報
【特許文献9】特開2005−139331号公報
【特許文献10】特開2005−139332号公報
【特許文献11】特開2006−028393号公報
【特許文献12】特開2007−217488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ランプハウジングを形成するための樹脂組成物として、耐衝撃性、ダイレクト蒸着法による金属化処理後の光輝性、及び、振動溶着における糸バリの発生抑制のバランスに優れた組成物が強く望まれているのにもかかわらず、未だ十分なものは得られていない。
本発明の目的は、耐衝撃性、耐熱性及び成形外観性に優れた成形品を与え、他の樹脂成形品との優れた溶着性、及び、ダイレクト蒸着後に美麗な光輝外観が得られるランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物及びそれを含む成形品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下のとおりである。
1.[A]ゲル含量が70質量%以上であり、トルエンによる膨潤度が5.5〜30倍であり、体積平均粒子径が100〜200nmであり、且つ、該体積平均粒子径と数平均粒子径との比が1.1未満であるアクリル系ゴム質重合体(a1)の存在下、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を含むビニル系単量体を重合して得られた、アクリル系ゴム質重合体強化グラフト樹脂と、[B]オルガノシロキサン系ゴム、及び、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位を有する(共)重合体ゴムを含む複合ゴム(b1)の存在下、単独重合体のガラス転移温度が0℃を超える(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を含むビニル系単量体を重合して得られた、複合ゴム強化グラフト樹脂と、[C]マレイミド系化合物に由来する構造単位を、全構造単位に対して10〜70質量%含むマレイミド系共重合体と、必要に応じて、[D]芳香族ビニル化合物に由来する構造単位、並びに、シアン化ビニル化合物に由来する構造単位、及び/又は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物に由来する構造単位を含み、且つ、マレイミド系化合物に由来する構造単位を含まない重合体と、を含有するランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物であって、上記アクリル系ゴム質重合体(a1)の含有量及び上記複合ゴム(b1)の含有量の合計は、上記アクリル系ゴム質重合体強化グラフト樹脂[A]、上記複合ゴム強化グラフト樹脂[B]、上記マレイミド系共重合体[C]及び上記重合体[D]の合計を100質量%とした場合に、8〜35質量%であり、且つ、マレイミド系化合物に由来する構造単位の含有量は、上記アクリル系ゴム質重合体強化グラフト樹脂[A]を構成する構造単位、上記複合ゴム強化グラフト樹脂[B]を構成する構造単位、上記マレイミド系共重合体[C]を構成する構造単位、及び、上記重合体[D]を構成する構造単位の合計を100質量%とした場合に、5〜30質量%であることを特徴とするランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物。
2.上記アクリル系ゴム質重合体(a1)及び上記複合ゴム(b1)の含有割合が、両者の合計を100質量%とした場合に、それぞれ、10〜95質量%及び5〜90質量%である上記1に記載のランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物。
3.上記アクリル系ゴム質重合体(a1)が、アルキルスルホン酸塩及び/又はアルキル硫酸エステル塩の存在下に、(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物(m1−1)50〜100質量%と、該(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物(m1−1)と共重合可能な他の化合物(m1−2)0〜50質量%(但し、(m1−1)及び(m1−2)の合計は100質量%である。)とからなる単量体(m1)を、水性媒体中で重合し、第1重合体を形成する第1重合工程、及び、上記第1重合体の存在下、アルキルスルホン酸塩及び/又はアルキル硫酸エステル塩の存在下又は非存在下に、(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物(m2−1)50〜99.99質量%と、炭素−炭素二重結合を2個以上有する重合性不飽和化合物(m2−2)0.01〜5質量%と、該(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物(m2−1)及び該重合性不飽和化合物(m2−2)と共重合可能な他の化合物(m2−3)0〜49.99質量%(但し、(m2−1)、(m2−2)及び(m2−3)の合計は100質量%である。)とからなる単量体(m2)を、水性媒体中で重合する第2重合工程、を、順次、進めることにより得られた重合体であり、
上記単量体(m1)及び(m2)の使用量の割合が、両者の合計を100質量%とした場合に、それぞれ、1〜50質量%及び50〜99質量%である上記1又は2に記載のランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物。
4.[S]上記アクリル系ゴム質重合体(a1)の存在下、マレイミド系化合物を含まず、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を含むビニル系単量体を重合して得られたアクリル系ゴム質重合体強化グラフト樹脂を含有するゴム強化樹脂、[T]上記複合ゴム(b1)の存在下、単独重合体のガラス転移温度が0℃を超える(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物を重合し、次いで、マレイミド系化合物を含まず、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を含むビニル系単量体を重合して得られた複合ゴム強化グラフト樹脂を含有するゴム強化樹脂、及び、[U]マレイミド系化合物に由来する構造単位を、全構造単位に対して10〜70質量%含むマレイミド系共重合体、を含む原料を混合して得られた上記1乃至3のいずれか一項に記載のランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物。
5.上記ランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物をアセトン中に浸漬して得られたアセトン可溶重合体の極限粘度が、0.2〜1.0dl/gである上記1乃至4のいずれか一項に記載のランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物。
6.ダイレクト蒸着により蒸着層をその表面に形成する成形品の成形用材料である上記1乃至5のいずれか一項に記載のランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物。
7.振動溶着法が適用される成形品の成形用材料である上記1乃至6のいずれか一項に記載のランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物。
8.上記1乃至7のいずれか一項に記載のランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物を含むことを特徴とする成形品。
【発明の効果】
【0011】
本発明のランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物によれば、耐衝撃性、耐熱性、成形外観性及び溶着性(特に、振動溶着)に優れた成形品を得ることができる。そして、他の樹脂成形品との優れた溶着性、及び、ダイレクト蒸着後に美麗な光輝外観を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例における振動溶着性の評価に用いた樹脂レンズ部(ランプレンズ)を示す概略斜視図である。
【図2】実施例における振動溶着性の評価に用いた樹脂ハウジング部(ランプハウジング)を示す概略斜視図である。
【図3】実施例における振動溶着性の評価に用いた樹脂レンズ部(ランプレンズ)及び樹脂ハウジング部(ランプハウジング)の溶着部を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳しく説明する。
本明細書において、「(メタ)アクリル」は、アクリル及びメタクリルを、「(共)重合体」は、単独重合体及び共重合体を意味する。
【0014】
本発明のランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物は、[A]ゲル含量が70質量%以上であり、トルエンによる膨潤度(以下、「トルエン膨潤度」という。)が5.5〜30倍であり、体積平均粒子径が100〜200nmであり、且つ、該体積平均粒子径と数平均粒子径との比が1.1未満であるアクリル系ゴム質重合体(a1)の存在下、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を含むビニル系単量体(以下、「ビニル系単量体(a2)」ともいう。)を重合して得られた、アクリル系ゴム質重合体強化グラフト樹脂(以下、「成分[A]」ともいう。)と、[B]オルガノシロキサン系ゴム、及び、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位を有する(共)重合体ゴムを含む複合ゴム(b1)の存在下、単独重合体のガラス転移温度が0℃を超える(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を含むビニル系単量体を重合して得られた、複合ゴム強化グラフト樹脂(以下、「成分[B]」ともいう。)と、[C]マレイミド系化合物に由来する構造単位を、全構造単位に対して10〜70質量%含むマレイミド系共重合体(以下、「成分[C]」ともいう。)と、必要に応じて、[D]芳香族ビニル化合物に由来する構造単位、シアン化ビニル化合物に由来する構造単位、及び、(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物に由来する構造単位から選ばれた少なくとも1種の構造単位を含み、且つ、マレイミド系化合物に由来する構造単位を含まない重合体(以下、「成分[D]」ともいう。)と、を含有し、上記アクリル系ゴム質重合体(a1)の含有量及び上記複合ゴム(b1)の含有量の合計は、上記成分[A]、上記成分[B]、上記成分[C]及び上記成分[D]の合計を100質量%とした場合に、8〜35質量%であり、且つ、マレイミド系化合物に由来する構造単位の含有量は、上記成分[A]を構成する構造単位、上記成分[B]を構成する構造単位、上記成分[C]を構成する構造単位、及び、上記成分[D]を構成する構造単位の合計を100質量%とした場合に、5〜30質量%であることを特徴とする。
【0015】
上記成分[A]は、上記アクリル系ゴム質重合体(a1)の存在下、ビニル系単量体(a2)を重合すること(以下、「グラフト重合」という。)により得られた樹脂組成物(以下、「ゴム強化樹脂」という。)に含まれる、アクリル系ゴム質重合体強化グラフト樹脂である。このアクリル系ゴム質重合体強化グラフト樹脂は、ビニル系単量体(a2)の共重合体が、アクリル系ゴム質重合体(a1)にグラフトしている樹脂であり、アクリル系ゴム質重合体部と、ビニル系単量体(a2)に由来する構造単位を含む共重合体部とからなる。
尚、グラフト重合により得られたゴム強化樹脂は、通常、ゴム質重合体強化グラフト樹脂のほかに、ゴム質重合体にグラフトしていない(共)重合体(以下、「未グラフト重合体」という。)を含む。この未グラフト重合体の構成は、使用したビニル系単量体(a2)の種類に依存し、上記ビニル系単量体(a2)がマレイミド系化合物を含む場合、得られる未グラフト重合体は、通常、本発明の組成物において、成分[C]に含まれる。また、上記ビニル系単量体(a2)が、マレイミド系化合物を除く他の芳香族ビニル化合物、並びに、シアン化ビニル化合物及び/又は(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物を含む場合、得られる未グラフト重合体は、通常、本発明の組成物において、成分[D]に含まれる。
【0016】
上記アクリル系ゴム質重合体(a1)は、ゲル含量が70質量%以上であり、トルエン膨潤度が5.5〜30倍であり、体積平均粒子径が100〜200nmであり、且つ、体積平均粒子径と数平均粒子径との比が1.1未満である重合体(アクリル系ゴム)である。そして、このアクリル系ゴム質重合体(a1)は、通常、(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物に由来する構造単位を含む重合体部を有し、25℃においてゴム質の(共)重合体である。
上記アクリル系ゴム質重合体(a1)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物に由来する構造単位を含む単独重合体であってよいし、この構造単位を含む共重合体であってもよい。この共重合体は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物に由来する構造単位を2種以上含む共重合体であってよいし、(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物に由来する構造単位と、他のビニル系単量体に由来する構造単位とを含む共重合体であってもよい。更に、このアクリル系ゴム質重合体(a1)は、架橋重合体であってよいし、非架橋重合体であってもよい。
【0017】
上記アクリル系ゴム質重合体(a1)を構成する、(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物に由来する構造単位の形成に用いられる(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等が挙げられる。これらの化合物は、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。また、これらのうち、エステル部のアルキル基の炭素原子数が1〜14の化合物が好ましく、特に、アクリル酸n−ブチル及びアクリル酸2−エチルヘキシルが好ましい。
【0018】
また、上記アクリル系ゴム質重合体(a1)が共重合体である場合、他の構造単位の形成に用いられる化合物(ビニル系単量体)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物を除く、炭素−炭素二重結合を1つ有する化合物、及び/又は、炭素−炭素二重結合を2つ以上有する化合物とすることができる。
【0019】
炭素−炭素二重結合を1つ有する化合物としては、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、アミド基含有不飽和化合物、アルキルビニルエーテル、塩化ビニリデン等が挙げられる。尚、これらの化合物は、単独で用いてよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
上記芳香族ビニル化合物としては、スチレン、p−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、エチルスチレン、tert−ブチルスチレン、α−メチルスチレン、1,1−ジフェニルスチレン、N,N−ジエチル−p−アミノスチレン、N,N−ジエチル−p−アミノメチルスチレン、ビニルピリジン、ビニルキシレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、モノブロモスチレン、ジブロモスチレン、トリブロモスチレン、フルオロスチレン、ビニルナフタレン等が挙げられる。
上記シアン化ビニル化合物としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。
上記アミド基含有不飽和化合物としては、アクリルアミド、メタクリルアミド等が挙げられる。
上記アルキルビニルエーテルとしては、アルキル部を構成するアルキル基の炭素原子数が1〜6の化合物が挙げられる。
【0021】
また、炭素−炭素二重結合を2つ以上有する化合物としては、2官能性芳香族ビニル化合物、2官能性(メタ)アクリル酸エステル、3官能性(メタ)アクリル酸エステル、4官能性(メタ)アクリル酸エステル、5官能性(メタ)アクリル酸エステル、6官能性(メタ)アクリル酸エステル、多価アルコールの(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。尚、これらの化合物は、単独で用いてよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
上記2官能性芳香族ビニル化合物としては、ジビニルベンゼン、ジビニルトルエン等が挙げられる。
上記2官能性(メタ)アクリル酸エステルとしては、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、(メタ)アクリル酸アリル、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート等が挙げられる。
上記3官能性(メタ)アクリル酸エステルとしては、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート等が挙げられる。
上記4官能性(メタ)アクリル酸エステルとしては、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート等が挙げられる。
上記5官能性(メタ)アクリル酸エステルとしては、ペンタエリスリトールペンタアクリレート、ペンタエリスリトールペンタメタクリレート等が挙げられる。
上記6官能性(メタ)アクリル酸エステルとしては、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート等が挙げられる。
上記多価アルコールの(メタ)アクリル酸エステルとしては、(ポリ)エチレングリコールジメタクリレート等が挙げられる。
その他、ジアリルマレート、ジアリルフマレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルフタレート、ビスフェノールAのビス(アクリロイルオキシエチル)エーテル等を用いることができる。
これらのうち、メタクリル酸アリル及びトリアリルシアヌレートが好ましい。
【0023】
上記アクリル系ゴム質重合体(a1)としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物に由来する構造単位を含む共重合体が好ましい。この場合、共重合体を構成する全ての構造単位の合計量を100質量%とすると、(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物に由来する構造単位の含有量は、好ましくは50〜100質量%、より好ましくは70〜100質量%、更に好ましくは80〜100質量%である。
【0024】
上記アクリル系ゴム質重合体(a1)のゲル含量は、構造単位の種類に関わりなく、70質量%以上であり、好ましくは75質量%以上、より好ましくは80質量%以上である。ゲル含量の高いアクリル系ゴム質重合体(a1)を用いると、得られる成形品の表面に金属層等を配設した場合に優れた光輝性を得ることができる。
【0025】
また、上記アクリル系ゴム質重合体(a1)のトルエン膨潤度は、構造単位の種類に関わりなく、5.5〜30倍であり、好ましくは6〜25倍、更に好ましくは10〜23倍である。上記範囲のアクリル系ゴム質重合体(a1)を用いると、耐衝撃性に優れた成形品を得ることができ、得られる成形品の表面に金属層等を配設した場合に優れた光輝性を得ることができる。
【0026】
尚、上記ゲル含量及びトルエン膨潤度は、例えば、以下の方法により求めることができる。
まず、アクリル系ゴム質重合体(a1)の約0.2グラムを秤量(質量をWrとする。)し、トルエン25mlに投入して、軽く撹拌する。その後、25℃にて48時間放置し、予め、秤量した200メッシュの金網(質量をWmグラムとする。)を用いてろ過して不溶分と可溶分とに分離する。分離後、速やかに、不溶分を、ろ別した金網とともに秤量(質量をW1グラムとする)し、その秤量値(W1)から金網の秤量値(Wm)を差し引いて、トルエンで膨潤した不溶分の秤量値を得る(質量をWsグラムとする。)。次いで、トルエンで膨潤した不溶分には、トルエンが含まれているため、これを、25℃で12時間風乾し、引き続き、真空乾燥機を用いて、60℃で12時間乾燥することにより、不溶分に含まれるトルエンを乾燥除去する。乾燥後の不溶分を金網と共に秤量し(質量をW2グラムとする。)、その秤量値(W2)から金網の秤量値(Wm)を差し引いて、不溶分の乾燥重量を得る(質量をWdグラムとする。)。これらの秤量値から、ゲル含量及びトルエン膨潤度は、下記式により算出される。
ゲル含量(質量%)=〔Wd(g)/Wr(g)〕×100
=〔{W2(g)−Wm(g)}/Wr(g)〕×100
トルエン膨潤度(倍)=Ws(g)/Wd(g)
=〔W1(g)−Wm(g)〕/〔W2(g)−Wm(g)〕
【0027】
尚、上記ゲル含量及びトルエン膨潤度は、アクリル系ゴム質重合体(a1)を製造する際に用いる単量体の種類及びその量、連鎖移動剤(分子量調節剤)の種類及びその量、重合時間、重合温度、重合転化率等を、適宜、選択することにより調整される。
【0028】
上記アクリル系ゴム質重合体(a1)の体積平均粒子径(以下、「Mv」ともいう。)は、成形品の耐衝撃性及び光輝性の観点から、100〜200nmであり、好ましくは105〜180nm、より好ましくは110〜170nmである。
また、上記アクリル系ゴム質重合体(a1)の体積平均粒子径(Mv)と、数平均粒子径(以下、「Mn」ともいう。)との比で表される粒子径分布(Mv/Mn)は、1.1未満であり、好ましくは1.07未満である。
上記Mv及び/又は粒子径分布(Mv/Mn)が、上記範囲外にある場合には、成形品の耐衝撃性、光輝性、及び、振動溶着時の糸バリの抑制が不十分となる場合がある。
【0029】
上記アクリル系ゴム質重合体(a1)のMv及びMnは、例えば、HONEYWELL社製「マイクロトラックUPA150」(商品名)により測定することができる。
【0030】
上記アクリル系ゴム質重合体(a1)は、公知の製造方法により得られたものとすることができるが、以下の、第1重合工程及び第2重合工程を備える製造方法により得られた共重合体(以下、「共重合体(a11)」という。)であることが特に好ましい。
(1)第1重合工程
アルキルスルホン酸塩及び/又はアルキル硫酸エステル塩(以下、これらを「乳化剤(e)」ともいう。)の存在下に、(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物(m1−1)50〜100質量%と、(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物(m1−1)と共重合可能な他の化合物(m1−2)0〜50質量%(但し、(m1−1)及び(m1−2)の合計は100質量%である。)とからなる単量体(m1)を、水性媒体中で重合し、第1重合体を形成する重合工程。
(2)第2重合工程
上記第1重合体の存在下、アルキルスルホン酸塩及び/又はアルキル硫酸エステル塩(乳化剤(e))の存在下又は非存在下に、(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物(m2−1)50〜99.99質量%と、炭素−炭素二重結合を2つ以上有する重合性不飽和化合物(m2−2)0.01〜5質量%と、(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物(m2−1)及び重合性不飽和化合物(m2−2)と共重合可能な他の化合物(m2−3)0〜49.99質量%(但し、(m2−1)、(m2−2)及び(m2−3)の合計は100質量%である。)とからなる単量体(m2)を、水性媒体中で重合し、共重合体(a11)を得る工程。
そして、上記重合工程で用いる単量体(m1)及び(m2)の使用量の割合を、両者の合計を100質量%とした場合に、それぞれ、1〜50質量%及び50〜99質量%とするものである。
【0031】
上記第1重合工程は、乳化剤(e)の存在下に、(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物(m1−1)50〜100質量%と、(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物(m1−1)と共重合可能な他の化合物(m1−2)0〜50質量%(但し、(m1−1)及び(m1−2)の合計は100質量%である。)とからなる単量体(m1)を、水性媒体中で乳化重合し、第1重合体を形成する工程である。重合に際しては、必要に応じて、重合開始剤、連鎖移動剤(分子量調節剤)、電解質等を使用することができる。尚、乳化重合の具体的方法は、公知の方法が適用される。
【0032】
上記単量体(m1)を構成する(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物(m1−1)としては、好ましくは、エステル部のアルキル基の炭素原子数が1〜14の化合物が用いられ、特に、アクリル酸n−ブチル及びアクリル酸2−エチルヘキシルが好ましく用いられる。尚、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物(m1−1)は、単独で用いてよいし、2種以上を用いてもよい。
【0033】
また、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物(m1−1)と共重合可能な他の化合物(m1−2)としては、通常、炭素−炭素二重結合を1つ有する化合物が用いられ、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物等が好ましく用いられる。尚、これらの化合物は、単独で用いてよいし、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
上記第1重合工程において用いる、(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物(m1−1)、及び、他の化合物(m1−2)の割合は、両者の合計を100質量%とした場合に、それぞれ、好ましくは50〜100質量%及び0〜50質量%、より好ましくは70〜100質量%及び0〜30質量%、更に好ましくは90〜100質量%及び0〜10質量%である。上記割合とすることにより、成形品の耐衝撃性及び光輝性に優れ、振動溶着時の糸バリの発生が抑制される。
【0035】
また、上記第1重合工程においては、反応系に、乳化剤(e)を存在させて、単量体の重合を行う。上記乳化剤(e)を用いることにより、ゲル含量が70質量%以上であり、トルエンによる膨潤度が5.5〜30倍であり、体積平均粒子径が100〜200nmであり、且つ、体積平均粒子径と数平均粒子径との比が1.1未満であるアクリル系ゴム質重合体(a1)とするための第1重合体を効率よく製造することができる。
【0036】
上記アルキルスルホン酸塩としては、アルカンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩等が挙げられる。これらの化合物は、単独で用いてよいし、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
上記アルカンスルホン酸塩は、下記一般式(1)で表される化合物を用いることができる。
−SOM (1)
(式中、Rは、炭素原子数8〜20の炭化水素基であり、Mは、Na又はKである。)
【0038】
上記アルキルベンゼンスルホン酸塩は、下記一般式(2)で表される化合物を用いることができる。
【化1】

(式中、Rは、炭素原子数10〜18の炭化水素基であり、Mは、Na又はKである。)
【0039】
また、上記アルキルナフタレンスルホン酸塩は、下記一般式(3)で表される化合物を用いることができる。
【化2】

(式中、Rは、炭素原子数3〜8の炭化水素基であり、Mは、Na又はKである。)
【0040】
上記アルキルスルホン酸塩としては、アルカンスルホン酸塩及びアルキルベンゼンスルホン酸塩が好ましく、アルキルベンゼンスルホン酸塩がより好ましい。アルキルベンゼンスルホン酸塩としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが特に好ましい。
【0041】
上記アルキル硫酸エステル塩として、高級アルコール硫酸エステル塩、高級アルキルエーテル硫酸エステル塩、硫酸化油、硫酸化脂肪酸エステル、硫酸化オレフィン等が挙げられる。これらの化合物は、単独で用いてよいし、2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記アルキル硫酸エステル塩としては、オクチル硫酸ナトリウム、2−エチルヘキシル硫酸ナトリウム、デシル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸カリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ラウリル硫酸トリエタノールアミン、ミリスチル硫酸ナトリウム、ステアリル硫酸ナトリウム、セチル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム等が挙げられる。
【0042】
上記乳化剤(e)の使用量は、上記単量体(m1)を100質量部とした場合に、好ましくは、0.01〜4.0質量部、より好ましくは0.02〜3.0質量部、更に好ましくは0.04〜2.5質量部である。上記乳化剤(e)の使用量が上記範囲にあると、上記性質を有するアクリル系ゴム質重合体(a1)とするための第1重合体を効率よく製造することができ、また、得られる成形品を、耐衝撃性及び光輝性に優れたものとすることができる。
【0043】
尚、上記アルキルスルホン酸塩及びアルキル硫酸エステル塩を併用する場合、その使用量の割合は、両者の合計を100質量%とした場合に、それぞれ、好ましくは1〜99質量%及び1〜99質量%、より好ましくは5〜95質量%及び5〜95質量%、特に好ましくは10〜90質量%及び10〜90質量%である。
【0044】
上記第1重合工程における乳化剤(e)の使用方法としては、重合前に、全量を反応系に一括して仕込む方法、重合前に、一部を反応系に添加しておき、重合が始まってから、その残りを、分割して又は連続的に添加する方法、重合が始まってから、分割して又は連続的に添加する方法、等とすることができる。
【0045】
上記第1重合工程において、重合開始剤を用いる場合には、有機過酸化物、アゾ系化合物、無機過酸化物、レドックス型重合開始剤等を用いることができる。
【0046】
上記有機過酸化物としては、tert−ブチルハイドロパーオキサイド、tert−アミル−tert−ブチルパーオキサイド、tert−ブチル−tert−ヘキシルパーオキサイド、tert−アミル−tert−ヘキシルパーオキサイド、ジ(tert−ヘキシル)パーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、3,3,5−トリメチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、n−ブチル−4,4−ビス(tert−ブチルパーオキシ)バレレート、クメンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイド、1,3−ビス(tert−ブチルパーオキシ)−m−イソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジイソプロピルベンゼンパーオキサイド、tert−ブチルクミルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシラウレイト、tert−ブチルパーオキシモノカーボネート、ビス(tert−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン等が挙げられる。
【0047】
上記アゾ系化合物としては、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、1,1−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、アゾクメン、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビスジメチルバレロニトリル、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2−(tert−ブチルアゾ)−2−シアノプロパン、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロパン)、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)等が挙げられる。
【0048】
上記無機過酸化物としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等が挙げられる。
また、レドックス型重合開始剤としては、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、アスコルビン酸、硫酸第一鉄等を還元剤とし、ペルオキソ二硫酸カリウム、過酸化水素、tert−ブチルハイドロパーオキサイド等を酸化剤としたものを用いることができる。
【0049】
上記重合開始剤としては、無機過酸化物が好ましい。
【0050】
上記重合開始剤の使用量は、上記単量体(m1)を100質量部とした場合に、好ましくは0.01〜3.0質量部、より好ましくは0.03〜2.0質量部、更に好ましくは0.05〜1.0質量部、特に好ましくは0.1〜0.8質量部である。上記重合開始剤の使用量が上記範囲にあると、上記性質を有するアクリル系ゴム質重合体(a1)とするための第1重合体を効率よく製造することができ、また、得られる成形品を、耐衝撃性及び光輝性に優れたものとすることができる。
【0051】
上記第1重合工程における重合開始剤の使用方法としては、重合前に、全量を反応系に一括して仕込む方法、重合前に、一部を反応系に添加しておき、重合が始まってから、その残りを、分割して又は連続的に添加する方法、等とすることができる。
【0052】
上記第1重合工程において、連鎖移動剤(分子量調節剤)を用いる場合には、クロロホルム、四臭化炭素等のハロゲン化炭化水素類;n−ヘキシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタン、チオグリコール酸等のメルカプタン類;ジメチルキサントゲンジサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンジサルファイド等のキサントゲン類;ターピノーレン、α−メチルスチレンダイマー等、従来、公知の化合物を使用することができる。上記連鎖移動剤のうち、tert−ドデシルメルカプタンが好ましい。
【0053】
上記連鎖移動剤の使用量は、上記単量体(m1)を100質量部とした場合に、好ましくは3質量部以下、より好ましくは2質量部以下である。上記連鎖移動剤の使用量が多すぎると、成形品の耐衝撃性が不十分になる場合がある。
【0054】
上記第1重合工程における連鎖移動剤の使用方法としては、重合前に、全量を反応系に一括して仕込む方法、重合前に、一部を反応系に添加しておき、重合が始まってから、その残りを、分割して又は連続的に添加する方法、等とすることができる。
【0055】
上記第1重合工程において、電解質を用いる場合には、硫酸カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、リン酸カリウム、亜ジチオン酸ナトリウム等、従来、公知の化合物を使用することができる。これらの化合物は、単独で用いてよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記化合物のうち、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム及び亜ジチオン酸ナトリウムが好ましい。
【0056】
上記電解質の使用量は、上記単量体(m1)を100質量部とした場合に、好ましくは0.01〜1.5質量部、より好ましくは0.03〜1.3質量部、更に好ましくは0.05〜1.0質量部である。上記電解質の使用量が上記範囲にあると、上記性質を有するアクリル系ゴム質重合体(a1)である共重合体(a11)とするための第1重合体を効率よく製造することができる。
【0057】
上記第1重合工程における電解質の使用方法としては、重合前に、全量を反応系に一括して仕込む方法、重合前に、一部を反応系に添加しておき、重合が始まってから、その残りを、分割して又は連続的に添加する方法、重合が始まってから、分割して又は連続的に添加する方法、等とすることができる。
【0058】
上記第1重合工程における重合温度は、通常、65℃〜98℃、好ましくは70℃〜95℃である。また、重合時間は、通常、0.5〜2.0時間である。
上記第1重合工程における反応系のpHは、特に限定されないが、通常、2〜12の範囲である。反応系のpHを上記範囲に維持しつつ、重合を進めることにより、上記性質を有するアクリル系ゴム質重合体(a1)である共重合体(a11)とするための第1重合体を効率よく製造することができる。
【0059】
上記第1重合工程は、重合転化率が、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上となった時点で終了する。上記重合転化率が低いときに終了した場合には、得られた第1重合体を用いて、第2重合工程に供給しても、上記性質を有するアクリル系ゴム質重合体(a1)が得られない場合がある。
尚、上記第1重合工程を、重合転化率85%以上で終了した場合には、得られる第1重合体の体積平均粒子径は、通常、40〜120nmである。
【0060】
上記第2重合工程は、上記第1重合体の存在下、アルキルスルホン酸塩及び/又はアルキル硫酸エステル塩(乳化剤(e))の存在下又は非存在下に、(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物(m2−1)50〜99.99質量%と、炭素−炭素二重結合を2つ以上有する重合性不飽和化合物(m2−2)0.01〜5質量%と、(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物(m2−1)及び重合性不飽和化合物(m2−2)と共重合可能な他の化合物(m2−3)0〜49.99質量%(但し、(m2−1)、(m2−2)及び(m2−3)の合計は100質量%である。)とからなる単量体(m2)を、水性媒体中で重合し、共重合体を得る工程である。
【0061】
上記第2重合工程は、第1重合工程と同じ反応系において行ってよいし、異なる反応系において行ってもよい。異なる反応系において行う場合には、乳化剤(e)の存在下で重合を行ってよいし、乳化剤(e)の非存在下で行ってもよい。後者の場合、他の乳化剤を用いてもよい。
上記第2重合工程において、乳化剤を用いる場合には、必要に応じて、重合開始剤、連鎖移動剤(分子量調節剤)、電解質等を使用することができる。これらの成分としては、いずれも、上記例示した化合物を用いることができる。
【0062】
上記単量体(m2)を構成する(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物(m2−1)としては、好ましくは、エステル部のアルキル基の炭素原子数が1〜14の化合物が用いられ、特に、アクリル酸n−ブチル及びアクリル酸2−エチルヘキシルが好ましく用いられる。尚、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物(m2−1)は、単独で用いてよいし、2種以上を用いてもよい。
【0063】
上記炭素−炭素二重結合を2つ以上有する重合性不飽和化合物(m2−2)としては、好ましくは、2官能性芳香族ビニル化合物、2官能性(メタ)アクリル酸エステル、3官能性(メタ)アクリル酸エステル、4官能性(メタ)アクリル酸エステル、5官能性(メタ)アクリル酸エステル、6官能性(メタ)アクリル酸エステル、多価アルコールの(メタ)アクリル酸エステル等が用いられ、特に、メタクリル酸アリル及びトリアリルシアヌレートが好ましく用いられる。尚、上記重合性不飽和化合物(m2−2)は、単独で用いてよいし、2種以上を用いてもよい。
【0064】
また、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物(m2−1)及び上記重合性不飽和化合物(m2−2)と共重合可能な他の化合物(m2−3)としては、通常、炭素−炭素二重結合を1つ有する化合物が用いられ、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物等が好ましく用いられる。尚、これらの化合物は、単独で用いてよいし、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0065】
上記第2重合工程において用いる、(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物(m2−1)、重合性不飽和化合物(m2−2)、及び、他の化合物(m2−3)の割合は、これらの合計を100質量%とした場合に、それぞれ、好ましくは50〜99.99質量%、0.01〜5.0質量%及び0〜49.99質量%、より好ましくは70〜99.99質量%、0.01〜3.0質量%及び0〜29.99質量%、更に好ましくは90〜99.99質量%、0.01〜2.0質量%及び0〜9.99質量%である。上記割合とすることにより、成形品の耐衝撃性及び光輝性に優れ、振動溶着時の糸バリの発生が抑制される。
【0066】
尚、上記第1重合工程で用いる単量体(m1)、及び、上記第2重合工程で用いる単量体(m2)の使用量の割合は、両者の合計を100質量%とした場合に、それぞれ、好ましくは1〜50質量%及び50〜99質量%であり、より好ましくは3〜40質量%及び60〜97質量%、特に好ましくは5〜35質量%及び65〜95質量%である。上記割合とすることにより、成形品の耐衝撃性及び光輝性に優れ、振動溶着時の糸バリの発生が抑制される。
【0067】
上記第2重合工程は、上記第1重合工程において得られた第1重合体の存在下に、上記単量体(m2)を重合する工程であり、単量体(m2)の全量を反応系に一括して添加して重合を行ってよいし、単量体(m2)を分割して又は連続的に添加しながら重合を行ってもよい。乳化剤、重合開始剤、連鎖移動剤(分子量調節剤)等の使用方法については、上記第1重合工程における方法と同様とすることができる。
【0068】
上記第2重合工程は、前述のように、第1重合工程と同じ反応系において進めてよいし、異なる反応系において進めてもよい。
上記第2重合工程を、第1重合工程と同じ反応系において進める場合、第1重合工程で得られた、第1重合体を含むラテックスに、上記単量体(m2)を添加して、重合を進めればよく、必要により、水性媒体等を新たに添加してもよい。
また、上記第2重合工程を、新たな反応系において進める場合、上記第1重合工程で得られた、第1重合体を含むラテックスをそのまま用いてよいし、必要に応じて、このラテックスを、水性媒体に懸濁させた懸濁液を用いてもよい。
【0069】
上記第2重合工程を、上記乳化剤(e)の存在下に進める場合、乳化剤(e)の好ましい種類、アルキルスルホン酸塩及びアルキル硫酸エステル塩の好ましい組み合わせ、並びに、乳化剤(e)の使用方法は、上記第1重合工程におけるそれらと同様である。
また、上記乳化剤(e)の使用量は、上記単量体(m2)を100質量部とした場合に、好ましくは、0.01〜4.0質量部、より好ましくは0.02〜3.0質量部、更に好ましくは0.04〜2.5質量部である。上記乳化剤(e)の使用量が上記範囲にあると、上記性質を有するアクリル系ゴム質重合体(a1)である共重合体(a11)を効率よく製造することができ、また、得られる成形品を、耐衝撃性及び光輝性に優れたものとすることができる。
【0070】
更に、上記第2重合工程において、重合開始剤、連鎖移動剤(分子量調節剤)、電解質等を用いる場合には、上記第1重合工程において、これらを用いる場合と同じ化合物及び使用方法が好ましく用いられる。各成分の使用量については、単量体(m1)を単量体(m2)に置き換えたものとして、同じ量を用いることができる。
【0071】
上記第2重合工程における重合温度は、通常、65℃〜98℃、好ましくは70℃〜95℃である。また、重合時間は、通常、2.0〜8.0時間である。
上記第2重合工程における反応系のpHは、特に限定されないが、通常、2〜12の範囲である。反応系のpHを上記範囲に維持しつつ、重合を進めることにより、上記性質を有するアクリル系ゴム質重合体(a1)である共重合体(a11)を効率よく製造することができる。
【0072】
上記第2重合工程は、重合転化率が、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上となった時点で終了する。上記第2重合工程を、重合転化率85%以上で終了した場合には、上記性質を有するアクリル系ゴム質重合体(a1)である共重合体(a11)を効率よく製造することができる。尚、上記重合転化率を低くして重合を終了すると、得られるアクリル系ゴム質重合体の粒子径が小さく、耐衝撃性が不十分になる場合がある。
【0073】
上記アクリル系ゴム質重合体(a1)としては、上記のようにして得られた共重合体(a11)をはじめ、従来、公知の方法により得られたアクリル系ゴム質重合体を、肥大化させて得られたものを用いることができる。
肥大化処理の方法としては、肥大化用重合体を含むラテックスに、無水酢酸、酢酸、硝酸、リン酸等の酸を添加する方法が挙げられる。これらのうち、無水酢酸が好ましく、これにより肥大化後の粒子径にばらつきのないアクリル系ゴム質重合体(a1)とすることができる。
【0074】
上記アクリル系ゴム質重合体(a1)としては、肥大化していない重合体、及び、肥大化させた重合体のいずれを用いてもよく、これらを組み合わせて用いてもよい。
【0075】
上記アクリル系ゴム質重合体(a1)の存在下、重合に供されるビニル系単量体(a2)は、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を含む単量体であり、必要に応じて、(メタ)アクリル酸エステル化合物、マレイミド系化合物、不飽和酸無水物、カルボキシル基含有不飽和化合物、ヒドロキシル基含有不飽和化合物、アミノ基含有不飽和化合物、アミド基含有不飽和化合物、エポキシ基含有不飽和化合物、オキサゾリン基含有不飽和化合物等を含んでもよい。尚、上記ビニル系単量体(a2)における、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物の合計量の割合は、好ましくは50〜100質量%、より好ましくは70〜100質量%、更に好ましくは80〜100質量%である。
【0076】
上記芳香族ビニル化合物は、特に限定されないが、官能基等の置換基を有さないものとする。その例としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、β−メチルスチレン、エチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン等が挙げられる。これらの化合物は、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。また、これらのうち、スチレン及びα−メチルスチレンが好ましく、特にスチレンが好ましい。
【0077】
上記シアン化ビニル化合物としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリル、α−イソプロピルアクリロニトリル等が挙げられる。これらの化合物は、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。また、これらのうち、アクリロニトリルが好ましい。
【0078】
上記(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec−ブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル等が挙げられる。これらの化合物は、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0079】
上記マレイミド系化合物としては、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−ドデシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−(2−メチルフェニル)マレイミド、N−(4−メチルフェニル)マレイミド、N−(2、6−ジメチルフェニル)マレイミド、N−(2、6−ジエチルフェニル)マレイミド、N−(2−メトキシフェニル)マレイミド、N−ベンジルマレイミド、N−ナフチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等が挙げられる。これらのうち、N−フェニルマレイミドが好ましい。また、これらの化合物は、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。尚、上記成分[A]に、マレイミド系化合物に由来する構造単位を導入する他の方法としては、例えば、無水マレイン酸の不飽和ジカルボン酸無水物を共重合し、その後イミド化する方法でもよい。
【0080】
上記不飽和酸無水物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等が挙げられる。これらの化合物は、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
上記カルボキシル基含有不飽和化合物としては、(メタ)アクリル酸、エタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、桂皮酸等が挙げられる。これらの化合物は、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0081】
上記ヒドロキシル基含有不飽和化合物としては、(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルにε−カプロラクトンを付加して得られた化合物等のヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステル;o−ヒドロキシスチレン、m−ヒドロキシスチレン、p−ヒドロキシスチレン、o−ヒドロキシ−α−メチルスチレン、m−ヒドロキシ−α−メチルスチレン、p−ヒドロキシ−α−メチルスチレン、2−ヒドロキシメチル−α−メチルスチレン、3−ヒドロキシメチル−α−メチルスチレン、4−ヒドロキシメチル−α−メチルスチレン、4−ヒドロキシメチル−1−ビニルナフタレン、7−ヒドロキシメチル−1−ビニルナフタレン、8−ヒドロキシメチル−1−ビニルナフタレン、4−ヒドロキシメチル−1−イソプロペニルナフタレン、7−ヒドロキシメチル−1−イソプロペニルナフタレン、8−ヒドロキシメチル−1−イソプロペニルナフタレン、N−(4−ヒドロキシフェニル)マレイミド、p−ビニルベンジルアルコール、3−ヒドロキシ−1−プロペン、4−ヒドロキシ−1−ブテン、シス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、トランス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、3−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロペン等が挙げられる。これらの化合物は、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0082】
上記アミノ基含有不飽和化合物としては、(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸プロピルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノメチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノメチル、(メタ)アクリル酸2−ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸2−ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸2−(ジ−n−プロピルアミノ)エチル、(メタ)アクリル酸2−ジメチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸2−ジエチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ジ−n−プロピルアミノ)プロピル、(メタ)アクリル酸3−ジメチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸3−ジエチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸3−(ジ−n−プロピルアミノ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−tert−ブチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸フェニルアミノエチル、(メタ)アクリル酸アミノエーテル、4−アミノスチレン、4−ジメチルアミノスチレン、N−ビニルジエチルアミン、N−アセチルビニルアミン、(メタ)アクリルアミン、N−メチル(メタ)アクリルアミン等が挙げられる。これらの化合物は、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0083】
上記アミド基含有不飽和化合物としては、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、3−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。これらの化合物は、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0084】
上記エポキシ基含有不飽和化合物としては、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸3,4−オキシシクロヘキシル、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、メタリルグリシジルエーテル等が挙げられる。これらの化合物は、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
上記オキサゾリン基含有不飽和化合物としては、ビニルオキサゾリン等が挙げられる。
【0085】
上記成分[A]として、好ましいグラフト樹脂は、以下の通りである。
(1)アクリル系ゴム質重合体(a1)の存在下に、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物からなるビニル系単量体(a2−1)を重合して得られた樹脂
(2)アクリル系ゴム質重合体(a1)の存在下に、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物及び(メタ)アクリル酸エステル化合物からなるビニル系単量体(a2−2)を重合して得られた樹脂
【0086】
上記成分[A]は、上記のように、アクリル系ゴム質重合体部と、ビニル系単量体(a2)に由来する構造単位を含む共重合体部とからなる。この成分[A]を構成するアクリル系ゴム質重合体部の含有量は、成形品の耐衝撃性及び光輝性の観点から、アクリル系ゴム質重合体部及び共重合体部の合計100質量部に対して、好ましくは5〜80質量部、より好ましくは10〜70質量部、更に好ましくは10〜65質量部である。尚、上記アクリル系ゴム質重合体部の含有量が多すぎると、アクリル系ゴム質重合体強化グラフト樹脂の生産性、耐熱性及び光輝性が低下する場合がある。一方、アクリル系ゴム質重合体部の含有量が少なすぎると、耐衝撃性が十分でない場合がある。
【0087】
上記成分[A]を製造する方法は、特に限定されず、公知の方法を適用することができる。グラフト重合の方法としては、乳化重合、懸濁重合、溶液重合、塊状重合、又は、これらを組み合わせた重合法とすることができる。これらのうち、乳化重合が好ましい。尚、上記の重合法においては、成分[A]以外に、未グラフト重合体が副生する。
【0088】
上記成分[A]を製造する場合、アクリル系ゴム質重合体(a1)及びビニル系単量体(a2)の使用量は、耐衝撃性及び光輝性の観点から、両者の合計量を100質量%とした場合に、それぞれ、好ましくは5〜90質量%及び10〜95質量%、より好ましくは10〜80質量%及び20〜90質量%、更に好ましくは30〜70質量%及び30〜70質量%である。
【0089】
尚、上記成分[A]を製造する際には、反応系において、アクリル系ゴム質重合体(a1)全量の存在下に、ビニル系単量体(a2)を一括添加して重合を開始してよいし、分割して又は連続的に添加しながら重合を行ってもよい。また、アクリル系ゴム質重合体(a1)の一部存在下、又は、非存在下に、ビニル系単量体(a2)を一括添加して重合を開始してよいし、分割して又は連続的に添加してもよい。このとき、上記アクリル系ゴム質重合体(a1)の残部を、反応の途中で、一括して、分割して又は連続的に添加してもよい。
【0090】
乳化重合を行う場合には、重合開始剤、連鎖移動剤(分子量調節剤)、乳化剤、水等が用いられる。重合開始剤及び連鎖移動剤については、上記説明した通りである。
【0091】
上記重合開始剤としては、レドックス型重合開始剤が好ましい。また、上記重合開始剤の使用量は、上記ビニル系単量体(a2)全量に対し、通常、0.1〜1.5質量%である。
尚、上記重合開始剤は、反応系に一括して、又は、連続的に添加することができる。
【0092】
上記連鎖移動剤としては、メルカプタン類が好ましく、特に、tert−ドデシルメルカプタンが好ましい。また、上記連鎖移動剤の使用量は、上記ビニル系単量体(a2)全量に対し、通常、5質量%以下である。
尚、上記連鎖移動剤は、反応系に一括して、又は、連続的に添加することができる。
【0093】
上記乳化剤としては、アニオン系界面活性剤及びノニオン系界面活性剤が挙げられる。アニオン系界面活性剤としては、高級アルコールの硫酸エステル;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム等の脂肪族スルホン酸塩;高級脂肪族カルボン酸塩、脂肪族リン酸塩等が挙げられる。また、ノニオン系界面活性剤としては、ポリエチレングリコールのアルキルエステル型化合物、アルキルエーテル型化合物等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。上記乳化剤の使用量は、上記ビニル系単量体(a2)全量に対し、通常、0.01〜5質量%である。
【0094】
乳化重合は、ビニル系単量体(a2)、重合開始剤等の種類及び配合に応じ、公知の条件で行うことができる。
上記ビニル系単量体(a2)を重合する際の重合温度は、通常、40℃〜80℃、好ましくは50℃〜75℃である。また、重合時間は、通常、4〜8時間である。
【0095】
乳化重合における反応系のpHは、特に限定されないが、通常、8〜12の範囲であり、好ましくは9〜12である。反応系のpHを上記範囲に維持しつつ、重合を進めることにより、成分[A]の形成を効率よく進めることができる。
【0096】
乳化重合は、重合転化率が、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上となった時点で終了する。この乳化重合を、重合転化率85%以上で終了した場合には、得られる成分[A]を含有する組成物を用いて、耐衝撃性及び光輝性に優れた成形品を得ることができる。
【0097】
乳化重合の終了後、成分[A]を含むラテックスに対しては、通常、凝固剤による樹脂成分の凝固が行われ、粉体等とされる。その後、水洗等によって精製し、乾燥して回収される。凝固に際しては、従来、公知の凝固剤が用いられ、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、酢酸カルシウム等の無機塩;硫酸、塩酸等の無機酸;酢酸、乳酸等の有機酸等が用いられる。
【0098】
溶液重合、塊状重合及び塊状−懸濁重合により成分[A]を製造する場合は、公知の方法を適用することができる。
【0099】
上記のようにして得られたゴム強化樹脂は、通常、成分[A]及び未グラフト重合体を含有するので、成分[A]及び未グラフト重合体を分離する場合、例えば、1gのゴム強化樹脂を、20〜30mlのアセトンに投入し、25℃で2〜6時間の撹拌等を行い、生成した不溶分及び可溶分(アセトン可溶重合体)を分離・回収する方法が適用される。
アセトン可溶重合体は、未グラフト重合体に相当するものであり、上記のように、使用したビニル系単量体(a2)の種類により、成分[C]及び/又は成分[D]に含まれるものがある。
【0100】
上記成分[A]におけるグラフト率、即ち、アクリル系ゴム質重合体(a1)にグラフトした、ビニル系単量体(a2)に由来する構造単位を含む共重合体の割合は、成形加工性、耐衝撃性、光輝性等の観点から、好ましくは5〜200質量%であり、より好ましくは10〜150質量%、更に好ましくは20〜120質量%である。グラフト率が低すぎると、成形品の耐衝撃性が十分でない場合がある。一方、グラフト率が高すぎると、成形加工性が十分でない場合がある。
【0101】
上記グラフト率は、下記式により求めることができる。
グラフト率(%)={(S−T)/T}×100
式中、Sは、グラフト重合により得られたゴム強化樹脂を、アセトンに投入し、振とう機を用いて、振とう(温度23℃、2時間)した後、遠心分離機を用いて、遠心分離(温度0℃、回転数28,000rpm、1時間)し、不溶分と可溶分とを分離して得られる不溶分(温度60℃、12時間乾燥)の質量(g)であり、Tは、ゴム強化樹脂に含まれるアクリル系ゴム質重合体(a1)の質量(g)である。このアクリル系ゴム質重合体(a1)の質量は、重合処方及び重合転化率から算出する方法、赤外線吸収スペクトル(IR)により求める方法等により得ることができる。
【0102】
上記グラフト率は、例えば、成分[A]の製造時に用いる重合開始剤の種類及びその使用量、連鎖移動剤の種類及びその使用量、ビニル系単量体(a2)の供給方法及び供給時間、重合温度等を、適宜、選択することにより調整することができる。
【0103】
上記成分[B]は、オルガノシロキサン系ゴム、及び、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位を有する(共)重合体ゴムを含む複合ゴム(b1)の存在下、単独重合体のガラス転移温度が0℃を超える(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を含むビニル系単量体(以下、「ビニル系単量体(b2)」ともいう。)を重合(グラフト重合)して得られた、複合ゴム強化グラフト樹脂である。
【0104】
上記成分[B]は、上記成分[A]と同じように、ビニル系単量体(b2)の共重合体が、複合ゴム(b1)にグラフトしている樹脂であり、複合ゴム部と、ビニル系単量体(b2)に由来する構造単位を含む共重合体部とからなる樹脂である。
【0105】
上記成分[B]の形成に用いられる複合ゴム(b1)は、オルガノシロキサン系ゴム、及び、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位を有する(共)重合体ゴムからなるものであり、両者が絡み合う等により、互いに独立していない複合化されたゴムである。オルガノシロキサン系ゴムとしては、後述するポリオルガノシロキサン(b1−1)、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位を含む(共)重合体ゴムとしては、後述するポリ(メタ)アクリル酸エステル(b1−2)が好ましい。
【0106】
上記ポリオルガノシロキサン(b1−1)及びポリ(メタ)アクリル酸エステル(b1−2)を含む複合ゴム(b1)としては、ポリオルガノシロキサン(b1−1)の存在下、(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物を含む単量体(以下、「単量体(mm)」という。)を重合する方法により得られたゴム、又は、ポリ(メタ)アクリル酸エステル(b1−2)の存在下、オルガノシロキサンを重合する方法により得られたゴムを用いることができる。これらのうち、成形品の耐衝撃性、光輝性及び生産性の観点から、前者の方法による複合ゴムが好ましく、その方法は、以下に詳述される。
【0107】
上記ポリオルガノシロキサン(b1−1)としては、環状オルガノシロキサンがグラフト交叉剤を介して連なったものが好ましく、3員環以上の環状オルガノシロキサン、及び、ポリオルガノシロキサン用グラフト交叉剤(以下、「シロキサン交叉剤」という。)を含有するオルガノシロキサン混合物を、乳化重合して得られたものが好ましい。オルガノシロキサン混合物は、必要に応じて、ポリオルガノシロキサン用架橋剤(以下、「シロキサン架橋剤」という。)を含有してもよい。
【0108】
上記3員環以上の環状オルガノシロキサンとしては、3〜6員環の化合物が好ましい。環状オルガノシロキサンとしては、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、トリメチルトリフェニルシクロトリシロキサン、テトラメチルテトラフェニルシクロテトラシロキサン、オクタフェニルシクロテトラシロキサン等が挙げられる。これらは、単独で用いてよいし、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0109】
上記シロキサン交叉剤としては、上記環状オルガノシロキサンと、シロキサン結合を介して結合し、ポリ(メタ)アクリル酸エステル(b1−2)や、後述するビニル系単量体(b2)との結合を形成し得るものが好ましい。上記環状オルガノシロキサンとの反応性の観点から、ビニル基を有するアルコキシシラン化合物が好ましい。
上記アルコキシシラン化合物としては、β−メタクリロイルオキシエチルジメトキシメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメトキシジメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルエトキシジエチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルジエトキシメチルシラン、δ−メタクリロイルオキシブチルジエトキシメチルシラン等のメタクリロイルオキシシラン;テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサン等のビニルシロキサン;p−ビニルフェニルジメトキシメチルシラン等のビニルフェニルシラン;γ−メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプトシランが挙げられる。これらの化合物は、単独で用いてよいし、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0110】
上記シロキサン架橋剤としては、上記環状オルガノシロキサンと結合し得る官能基を3つ又は4つ有する化合物が好ましい。このような化合物としては、トリメトキシメチルシラン等のトリアルコキシアルキルシラン;トリエトキシフェニルシラン等のトリアルコキシアリールシラン;テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラn−プロポキシシラン、テトラブトキシシラン等のテトラアルコキシシラン等が挙げられる。これらは、単独で用いてよいし、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらのうち、テトラアルコキシシランが好ましく、テトラエトキシシランが特に好ましい。
【0111】
上記オルガノシロキサン混合物が、環状オルガノシロキサン、シロキサン交叉剤及びシロキサン架橋剤からなる場合、これらの成分の使用量の比率は、これらの合計を100質量%とした場合に、それぞれ、好ましくは60〜99.9質量%、0.1〜10質量%及び0〜30質量%である。尚、上記環状オルガノシロキサンの特に好ましい使用量は、70〜99.9質量%である。
【0112】
上記オルガノシロキサン混合物の乳化重合は、下記の方法が挙げられる。
(1)オルガノシロキサン混合物に乳化剤と水とを添加してラテックスを得て、ラテックスの微粒子化を行った後、これと酸触媒とを混合して反応させる方法。
(2)オルガノシロキサン混合物に乳化剤と水と共に酸触媒を添加してラテックスとし、ラテックスの微粒子化を行い反応させる方法。
【0113】
上記乳化剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキル硫酸ナトリウム等のアニオン系乳化剤等が挙げられる。これらの化合物は、単独で用いてよいし、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらのうち、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸塩系の乳化剤が好ましい。
【0114】
上記乳化剤の使用量は、ラテックスの安定した分散状態を保持するために、オルガノシロキサン混合物100質量部に対して、好ましくは0.05質量部以上である。また、乳化剤それ自体に起因する着色や、熱可塑性樹脂組成物の劣化による着色の影響を回避するため、上限値は、好ましくは15質量部である。
【0115】
上記酸触媒としては、アルキルスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸等のスルホン酸類;硫酸、塩酸、硝酸等の鉱酸類が挙げられる。これらは、単独で用いてよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらのうち、アルキルベンゼンスルホン酸は、ポリオルガノシロキサンを含むラテックスの安定化作用に優れることから、好ましく、n−ドデシルベンゼンスルホン酸がより好ましい。
上記酸触媒の使用量は、オルガノシロキサン混合物100質量部に対して、好ましくは0.1〜15質量部である。
【0116】
上記方法(1)における酸触媒の使用方法としては、水に溶かしてなる酸触媒水溶液を用いることが好ましい。酸触媒水溶液を加熱により高温とした後、微粒子化したラテックスを、この水溶液に、一定速度で滴下し、重合反応を進めることが好ましい。この方法(1)は、得られるポリオルガノシロキサンの粒子径の制御が容易であり、好ましい。
また、上記方法(2)においては、酸触媒を、そのまま用いてよいし、水に溶かしてなる酸触媒水溶液を用いてもよい。そして、酸触媒又は酸触媒水溶液を、オルガノシロキサン混合物、乳化剤及び水に添加し、混合することができる。
【0117】
上記オルガノシロキサン混合物の乳化重合に際して、ラテックスを微粒子化する装置としては、ラテックス中の疎水性物質を高速回転による剪断力で微粒子とするホモミキサー、高圧発生機による噴出力で微粒子とするホモジナイザー等が挙げられる。これらのうち、ホモジナイザー等の高圧乳化装置は、オルガノシロキサン混合物の粒子径分布幅が小さいラテックスが得られるため、好ましい。
【0118】
上記ポリオルガノシロキサン(b1−1)の形成に係る重合時間は、上記方法(1)においては、ラテックスの滴下終了後、1時間程度が好ましい。一方、上記方法(2)では、重合時間は、好ましくは2時間以上、より好ましくは5時間以上である。
また、重合温度は、いずれの場合も、好ましくは50℃以上、より好ましくは80℃以上である。
【0119】
乳化重合の停止は、反応液を冷却し、更に、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム等のアルカリ性物質で中和することにより行うことができる。
以上の操作により得られたポリオルガノシロキサン(b1−1)の体積平均粒子径は、好ましくは120nm以下、より好ましくは100nm以下である。但し、下限は、通常、60nmである。
【0120】
その後、得られたポリオルガノシロキサン(b1−1)の存在下、(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物を含む単量体(mm)を重合することにより、ポリオルガノシロキサン(b1−1)及びポリ(メタ)アクリル酸エステル(b1−2)を含む複合ゴム(b1)を得ることができる。
上記単量体(mm)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物のみであってよいし、(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物と、他の化合物とからなるものであってもよい。
【0121】
上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物は、好ましくは、エステル部のアルキル基の炭素原子数が1〜14の化合物である。その具体例は、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル等である。これらの化合物は、単独で用いてよいし、2つ以上を用いてもよい。
上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−ブチル、メタクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ドデシル及びメタクリル酸トリデシルが好ましく、アクリル酸n−ブチル及びアクリル酸2−エチルヘキシルが特に好ましい。
【0122】
他の化合物としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物と共重合可能な化合物であれば、特に限定されず、(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物を除く、炭素−炭素二重結合を1つ有する化合物、炭素−炭素二重結合を2つ以上有する化合物等が挙げられる。
【0123】
他の化合物としては、炭素−炭素二重結合を2つ以上有する化合物が好ましく、ポリ(メタ)アクリル酸エステル用グラフト交叉剤(以下、「アクリル交叉剤」という。)、及び、ポリ(メタ)アクリル酸エステル用架橋剤(以下、「アクリル架橋剤」という。)が好ましく用いられる。
【0124】
上記アクリル交叉剤は、好ましくは、分子中に含まれる、複数の炭素−炭素二重結合において(メタ)アクリル酸エステル化合物との反応性が異なる化合物である。
上記アクリル交叉剤としては、(メタ)アクリル酸アリル、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等が挙げられる。これらは、単独で用いてよいし、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0125】
上記アクリル架橋剤は、好ましくは、ポリ(メタ)アクリル酸エステル(b1−2)において架橋構造を形成する化合物である。
【0126】
上記アクリル架橋剤としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールテトラ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼンを挙げることができる。これらは、単独で用いてよいし、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0127】
上記単量体(mm)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物と、アクリル交叉剤とからなるものであってよいし、(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物と、アクリル交叉剤と、アクリル架橋剤とからなるものであってもよい。
上記の(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物、アクリル交叉剤及びアクリル架橋剤の使用比率は、これらの合計を100質量%とした場合に、それぞれ、好ましくは、80〜99.99質量%、0.01〜10質量%及び0〜10質量%である。尚、(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物の特に好ましい使用量は、90〜99.99質量%である。
【0128】
上記単量体(mm)におけるアクリル交叉剤の使用量が0.01質量%以上であれば、ポリ(メタ)アクリル酸エステル(b1−2)が、十分なグラフト重合起点を有するものとなり、10質量%以下であれば、ポリ(メタ)アクリル酸エステル(b1−2)のゴム弾性を維持することができる。
また、上記単量体(mm)におけるアクリル架橋剤の使用量が10質量%以下であれば、ポリ(メタ)アクリル酸エステル(b1−2)のゴム弾性を維持することができる。
【0129】
上記ポリオルガノシロキサン(b1−1)の存在下、重合に供せられる単量体(mm)の使用量は、上記ポリオルガノシロキサン(b1−1)を100質量部とした場合に、好ましくは400〜9,900質量部、より好ましくは900〜1,900質量部である。上記単量体(mm)の使用量が上記範囲にあると、耐衝撃性及び光輝性に優れた成形品を与える複合ゴム(b1)を効率よく得ることができる。
【0130】
上記ポリオルガノシロキサン(b1−1)と、単量体(mm)とを用いて、複合ゴム(b1)を製造する場合には、例えば、ポリオルガノシロキサン(b1−1)を含むラテックスに、必要に応じて、水、重合開始剤、乳化剤、連鎖移動剤(分子量調節剤)等を添加した後、単量体(mm)を供給しつつ、重合する方法が挙げられる。この場合、単量体(mm)の供給は、一括又は分割して行ってもよく、更には、連続的に行ってもよい。
このとき、供給される単量体(mm)は、そのままであってよいし、あるいは、予め、単量体(mm)と、乳化剤と、水とを含む混合物を用いて調製した乳化物を用いてもよい。後者の場合、単量体(mm)を微粒子化した乳化物を用いてもよい。
【0131】
上記重合開始剤としては、有機過酸化物、アゾ系化合物、無機過酸化物、レドックス型重合開始剤等が挙げられる。これらのうち、レドックス型重合開始剤が好ましく、特に、硫酸第一鉄・ピロリン酸ナトリウム・ブドウ糖・ハイドロパーオキサイドの組み合わせ、硫酸第一鉄・エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩・ロンガリット・ハイドロパーオキサイドの組み合わせ等が好ましい。
【0132】
上記重合開始剤の使用量は、上記単量体(mm)を100質量部とした場合に、好ましくは0.01〜5質量部、より好ましくは0.05〜3質量部である。上記重合開始剤の使用量が上記範囲にあると、複合ゴム(b1)を効率よく製造することができ、また、得られる成形品を、耐衝撃性及び光輝性に優れたものとすることができる。
【0133】
上記乳化剤としては、サルコシン酸ナトリウム、脂肪酸カリウム、脂肪酸ナトリウム、アルケニルコハク酸ジカリウム、ロジン酸石鹸等のカルボン酸塩;アルキル硫酸エステル;アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム;アルキルスルホン酸ナトリウム;ポリオキシエチレンアルキル硫酸ナトリウム等のアニオン系乳化剤が挙げられる。これらの化合物は、単独で用いてよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記乳化剤を用いることにより、乳化重合時のラテックスを安定に保持し、重合転化率を高めることができる。また、上記乳化剤として、上記ポリオルガノシロキサン(b1−1)の製造に用いた乳化剤と同じものを用いてもよい。
【0134】
上記単量体(mm)を重合する際の重合温度は、通常、65℃〜98℃、好ましくは70℃〜95℃である。また、重合時間は、通常、0.5〜6時間である。
【0135】
以上の工程により得られた複合ゴム(b1)の体積平均粒子径は、好ましくは50〜150nm、より好ましくは60〜120nmである。また、体積平均粒子径と数平均粒子径との比は、好ましくは2以下、より好ましくは1.5以下、特に好ましくは1.1以下である。そして、ゲル含量は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上であり、トルエン膨潤度は、好ましくは2〜30倍、更に好ましくは6〜25倍である。
【0136】
上記のようにして得られた複合ゴム(b1)は、ポリオルガノシロキサン(b1−1)に、上記単量体(mm)に由来する構造単位を含むポリ(メタ)アクリル酸エステル(b1−2)がグラフトしたグラフト化物の形態、又はポリオルガノシロキサン(b1−1)、及び、上記単量体(mm)に由来する構造単位を含むポリ(メタ)アクリル酸エステル(b1−2)が相互に絡み合った架橋網目が形成され、実質的に、相互に分離できない形態となっている。尚、この複合ゴム(b1)を含むラテックスには、上記単量体(mm)に由来する構造単位を含むポリ(メタ)アクリル酸エステル(b1−2)が、ポリオルガノシロキサン(b1−1)と独立して、遊離しつつ含まれる場合がある。
【0137】
上記複合ゴム(b1)は、必要に応じて、更に、上記アクリル系ゴム質重合体(a1)の場合と同様にして、肥大化処理に供することができる。
【0138】
上記成分[B]の形成に用いられるビニル系単量体(b2)は、単独重合体のガラス転移温度が0℃を超える(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を含む。
単独重合体のガラス転移温度が0℃を超える(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、アクリル酸メチル等が挙げられる。
芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物については、上記ビニル系単量体(a2)で使用可能な芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を適用することができる。
【0139】
上記ビニル系単量体(b2)に含まれる、単独重合体のガラス転移温度が0℃を超える(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物の割合は、成形品の耐衝撃性及び光輝性のバランスの観点から、(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物の合計を100質量%とした場合に、好ましくは40〜60質量%である。
尚、上記ビニル系単量体(b2)に含まれる、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物の使用量の割合は、両者の合計を100質量%とした場合に、それぞれ、好ましくは10〜90質量%及び10〜90質量%である。
【0140】
上記ビニル系単量体(b2)に含まれる、単独重合体のガラス転移温度が0℃を超える(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物の合計量の割合は、上記ビニル系単量体(b2)の全量に対して、好ましくは70〜100質量%、より好ましくは85〜100質量%である。
【0141】
上記ビニル系単量体(b2)は、単独重合体のガラス転移温度が0℃を超える(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物からなるものであってよいし、更に他の単量体(単独重合体のガラス転移温度が0℃以下の(メタ)アクリル酸エステル化合物、マレイミド系化合物、不飽和酸無水物、カルボキシル基含有不飽和化合物、ヒドロキシル基含有不飽和化合物、アミノ基含有不飽和化合物、アミド基含有不飽和化合物、エポキシ基含有不飽和化合物、オキサゾリン基含有不飽和化合物等)を含むものであってもよい。更に他の単量体として、マレイミド系化合物を含む場合には、アクリル系ゴム質重合体(a1)を用いて成分[A]を製造した場合と同様に、マレイミド系化合物に由来する構造単位を含む共重合体が、未グラフト重合体として形成されることがあるので、マレイミド系化合物に由来する構造単位を含む共重合体が生成した場合、この共重合体は、成分[C]に含まれる。
【0142】
上記成分[B]の製造に用いる複合ゴム(b1)及びビニル系単量体(b2)の使用量の割合は、成形品の耐衝撃性及び光輝性のバランスの観点から、両者の合計を100質量%とした場合に、それぞれ、好ましくは30〜90質量%及び10〜70質量%、より好ましくは50〜85質量%及び15〜50質量%、更に好ましくは70〜80質量%及び20〜30質量%である。
【0143】
上記成分[B]の製造方法は、特に限定されず、複合ゴム(b1)の存在下、ビニル系単量体(b2)の一部を供給して重合を行い、その後、残部を供給して重合を進める方法、複合ゴム(b1)の存在下、ビニル系単量体(b2)の全量を供給して重合を進める方法等とすることができる。本発明においては、前者の方法が好ましく、具体的には、複合ゴム(b1)の存在下、単独重合体のガラス転移温度が0℃を超える(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物をグラフト重合し、その後、マレイミド系化合物を含まず、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を含むビニル系単量体を添加して重合することができる。ビニル系単量体(b2)の使用方法をこのようにすることにより得られた成分[B]を用いると、耐衝撃性及び光輝性に特に優れた成形品を得ることができる。
【0144】
グラフト重合は、上記成分[A]の製造方法と同様とすることができる。反応系には、必要に応じて、水、乳化剤、重合開始剤、連鎖移動剤等を添加することができる。これらの乳化剤、重合開始剤、連鎖移動剤等は、上記成分[A]の製造方法にて例示した化合物を用いることができる。
【0145】
上記成分[B]におけるグラフト率、即ち、複合ゴム(b1)にグラフトした、ビニル系単量体(b2)に由来する構造単位を含む共重合体の割合は、成形加工性、耐衝撃性、光輝性等の観点から、好ましくは5〜200質量%であり、より好ましくは10〜150質量%、更に好ましくは20〜120質量%である。グラフト率が低すぎると、成形品の耐衝撃性が十分でない場合がある。一方、グラフト率が高すぎると、成形加工性が十分でない場合がある。
【0146】
上記成分[C]は、マレイミド系化合物に由来する構造単位(以下、「構造単位(c1)」という。)を、全構造単位に対して10〜70質量%、好ましくは20〜70質量%、更に好ましくは25〜65質量%含むマレイミド系共重合体である。上記構造単位(c1)の含有量が上記範囲にあると、耐熱性及び耐衝撃性に優れた成形品を得ることができる。
尚、上記成分[A]が、アクリル系ゴム質重合体部と、マレイミド系化合物に由来する構造単位(c1)を含む共重合体部とからなるグラフト樹脂である場合、及び、上記成分[B]が、複合ゴム部と、マレイミド系化合物に由来する構造単位(c1)を含む共重合体部とからなるグラフト樹脂である場合、には、これらのグラフト樹脂は、成分[C]に含まれないものとする。即ち、この成分[C]は、構造的に、上記成分[A]及び[B]と独立した成分である。
尚、上記成分[C]は、構造単位(c1)を1種のみ含む共重合体であってよいし、2種以上含む共重合体であってもよい。
【0147】
上記成分[C]は、構造単位(c1)を含む共重合体であり、他の構造単位(以下、「構造単位(c2)」という。)を更に含む。この構造単位(c2)は、マレイミド系化合物と共重合可能なビニル系単量体に由来する構造単位である。
【0148】
マレイミド系化合物と共重合可能なビニル系単量体としては、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、不飽和酸無水物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、カルボキシル基含有不飽和化合物、ヒドロキシル基含有不飽和化合物、アミノ基含有不飽和化合物、アミド基含有不飽和化合物、エポキシ基含有不飽和化合物、オキサゾリン基含有不飽和化合物等が挙げられる。これらの化合物は、上記成分[A]の形成に用いることができるビニル系単量体(a2)として例示した化合物が適用される。そして、これらの化合物は、単独で用いてよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0149】
本発明において、上記マレイミド系化合物と共重合可能なビニル系単量体としては、芳香族ビニル化合物を含むことが好ましい。
【0150】
上記成分[C]として、好ましいマレイミド系共重合体は、以下の通りである。
(C1)マレイミド系化合物、及び、芳香族ビニル化合物の共重合体。
(C2)マレイミド系化合物、芳香族ビニル化合物、及び、不飽和酸無水物の共重合体。
(C3)マレイミド系化合物、芳香族ビニル化合物、及び、シアン化ビニル化合物の共重合体。
(C4)マレイミド系化合物、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、及び、不飽和酸無水物の共重合体。
(C5)マレイミド系化合物、芳香族ビニル化合物、及び、(メタ)アクリル酸エステル化合物の共重合体。
(C6)マレイミド系化合物、芳香族ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、及び、不飽和酸無水物の共重合体。
(C7)マレイミド系化合物、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、及び、(メタ)アクリル酸エステル化合物の共重合体。
(C8)マレイミド系化合物、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、及び不飽和酸無水物の共重合体。
【0151】
上記態様において、マレイミド系化合物としては、N−フェニルマレイミドが好ましく、芳香族ビニル化合物としては、スチレンが好ましく、シアン化ビニル化合物としては、アクリロニトリルが好ましく、不飽和酸無水物としては、無水マレイン酸が好ましい。
【0152】
本発明において、ASTM D3418に準じて測定された成分[C]のガラス転移温度は、成形加工性、耐熱性及び成形外観性の観点から、好ましくは100℃〜250℃、より好ましくは120℃〜230℃である。このガラス転移温度が高すぎると、成形加工性、耐衝撃性が不十分となる場合があり、低すぎると、耐熱性の向上効果が十分に得られない場合がある。
【0153】
上記成分[C]の極限粘度(メチルエチルケトン中、30℃)は、成形加工性及び光輝性の観点から、好ましくは0.1〜1.5dl/g、より好ましくは0.15〜1.0dl/gである。
上記極限粘度は、上記成分[C]をメチルエチルケトンに溶解させ、濃度の異なるものを5点調整し、ウベローデ粘度管を用いて、30℃で各濃度の還元粘度を測定することにより求められる。
【0154】
上記極限粘度は、成分[C]を、後述の方法等により製造する際に用いる、重合開始剤、連鎖移動剤、乳化剤、溶剤等の種類や量、重合時間、重合温度等を調整することにより、制御することができる。
【0155】
本発明において、上記成分[C]は、上記成分[A]、又は、成分[B]を製造した際に形成された未グラフト重合体に由来するものであってよいし、別途、準備した共重合体が配合されてなるものであってもよい。後者の場合、マレイミド系化合物、及び、このマレイミド系化合物と共重合可能なビニル系単量体、を用いて、公知の、乳化重合、溶液重合、塊状重合等により形成されたものとすることができる。
【0156】
上記成分[C]の他の製造方法としては、マレイミド系化合物を含まず、不飽和酸無水物及び芳香族ビニル化合物を含むビニル系単量体を共重合させ、その後、得られた共重合体と、アンモニア及び/又は第1級アミンとを反応(以下、「イミド化反応」という。)させて、構造単位(c1)を含む共重合体を製造する方法が挙げられる。
【0157】
上記イミド化反応に用いる第1級アミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、シクロへキシルアミン、デシルアミン、アニリン、トルイジン、ナフチルアミン、クロロフェニルアミン、ジクロロフェニルアミン、ブロモフェニルアミン、ジブロモフェニルアミン等が挙げられる。これらのうち、アニリンが特に好ましい。
【0158】
上記イミド化反応は、オートクレーブを用いて溶液状態、塊状状態あるいは懸濁状態で行うことができる。また、スクリュー押出機等の溶融混練装置を用いて、溶融状態で反応を行うことも可能である。
【0159】
上記イミド化反応を、溶液状態で行う場合、使用する溶媒は、特に限定されず、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン等が挙げられる。
【0160】
上記イミド化の反応温度は、好ましくは50℃〜350℃、より好ましくは100℃〜300℃である。
【0161】
上記イミド化反応は、触媒の存在を必ずしも必要としない。触媒を用いる場合、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン等の第3級アミンが好適である。
【0162】
上記成分[C]は、1種単独で用いてよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0163】
次に、本発明の組成物において、任意成分である、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位(以下、「構造単位(d1)」ともいう。)、シアン化ビニル化合物に由来する構造単位(以下、「構造単位(d2)」ともいう。)、及び、(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物に由来する構造単位(以下、「構造単位(d3)」ともいう。)から選ばれた少なくとも1種の構造単位を含み、且つ、マレイミド系化合物に由来する構造単位を含まない重合体である成分[D]について説明する。
尚、この成分[D]は、不飽和酸無水物、カルボキシル基含有不飽和化合物、ヒドロキシル基含有不飽和化合物、アミノ基含有不飽和化合物、アミド基含有不飽和化合物、エポキシ基含有不飽和化合物、オキサゾリン基含有不飽和化合物等に由来する構造単位を含んでもよい。
上記の芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、不飽和酸無水物、カルボキシル基含有不飽和化合物、ヒドロキシル基含有不飽和化合物、アミノ基含有不飽和化合物、アミド基含有不飽和化合物、エポキシ基含有不飽和化合物及びオキサゾリン基含有不飽和化合物は、上記成分[A]の形成に用いることができるビニル系単量体(a2)として例示した化合物が適用される。そして、これらの化合物は、単独で用いてよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0164】
上記成分[A]が、アクリル系ゴム質重合体部と、マレイミド系化合物に由来する構造単位(c1)を含まず、上記構造単位(d1)、(d2)、(d3)等を含む(共)重合体部とからなるグラフト樹脂である場合、並びに、上記成分[B]が、複合ゴム部と、マレイミド系化合物に由来する構造単位(c1)を含まず、上記構造単位(d1)、(d2)、(d3)等を含む(共)重合体部とからなるグラフト樹脂である場合、には、これらのグラフト樹脂は、成分[D]に含まれないものとする。即ち、この成分[D]は、構造的に、上記成分[A]及び[B]と独立した成分である。
【0165】
本発明の組成物が、成分[D]を含む場合には、成形加工性に優れ、得られる成形品の表面外観性及び耐衝撃性に優れたものとすることができる。
【0166】
上記成分[D]としては、以下に例示される。
(D1)構造単位(d1)及び(d2)からなる共重合体(芳香族ビニル化合物、及び、シアン化ビニル化合物の共重合体)。
(D2)構造単位(d1)及び(d3)からなる共重合体(芳香族ビニル化合物、及び、(メタ)アクリル酸エステル化合物の共重合体)。
(D3)構造単位(d1)、(d2)及び(d3)からなる共重合体(芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、及び、(メタ)アクリル酸エステル化合物の共重合体)。
(D4)構造単位(d3)からなる(共)重合体((メタ)アクリル酸エステル化合物の(共)重合体)。
【0167】
これらのうち、成形加工性、表面外観性及び耐衝撃性の観点から、態様(D1)及び(D3)の共重合体が特に好ましい。
【0168】
尚、上記成分[D]が上記態様(D1)の共重合体である場合、構造単位(d1)及び(d2)の含有割合は、両者の合計を100質量%とした場合に、それぞれ、好ましくは50〜95質量%及び5〜50質量%、より好ましくは60〜95質量%及び5〜40質量%である。
【0169】
上記成分[D]が上記態様(D3)の共重合体である場合、構造単位(d1)、(d2)及び(d3)の含有割合は、これらの合計を100質量%とした場合に、それぞれ、好ましくは5〜45質量%、5〜45質量%及び10〜80質量%、より好ましくは10〜30質量%、10〜30質量%及び40〜80質量%である。
【0170】
上記成分[D]の極限粘度(メチルエチルケトン中、30℃)は、成形加工性、得られる成形品の耐熱性及び表面外観性の観点から、好ましくは0.1〜1.5dl/g、より好ましくは0.15〜1.0dl/gである。
上記成分[D]の極限粘度は、上記成分[C]の極限粘度と同様にして求めることができる。
【0171】
上記極限粘度は、成分[D]を、後述の方法等により製造する際に用いる、重合開始剤、連鎖移動剤、乳化剤、溶剤等の種類や量、重合時間、重合温度等を調整することにより、制御することができる。
【0172】
本発明において、上記成分[D]は、上記成分[A]、又は、成分[B]を製造した際に形成された未グラフト重合体に由来するものであってよいし、別途、準備した共重合体が配合されてなるものであってもよい。後者の場合、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、及び、(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物から選ばれた少なくとも1種を含むビニル系単量体を用いて、公知の、乳化重合、溶液重合、塊状重合等により形成されたものとすることができる。
【0173】
上記成分[D]は、1種単独で用いてよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0174】
上記のように、本発明の組成物は、成分[D]を含まない組成物とすることができるので、好ましい組成物は、成分[A]、[B]、[C]及び[D]を含む組成物、並びに、成分[A][B]及び[C]を含む組成物である。これらの組成物は、更に、後述する、他の熱可塑性樹脂、添加剤等を含有してもよい。
本発明の組成物が、他の熱可塑性樹脂を含有する場合、その含有量の上限は、上記成分[A]、[B]、[C]及び[D]の合計量を100質量部とした場合に、好ましくは30質量部、より好ましくは20質量部、更に好ましくは10質量部である。
【0175】
本発明の組成物において、上記アクリル系ゴム質重合体(a1)の含有量及び上記複合ゴム(b1)の含有量の合計は、上記成分[A]、[B]、[C]及び[D]の合計を100質量%とした場合に、8〜35質量%であり、好ましくは12〜32質量%、より好ましくは15〜28質量%である。上記合計量の割合が上記範囲にあると、耐熱性、耐衝撃性、成形外観性等に優れた成形品を得ることができる。
【0176】
また、本発明の組成物において、マレイミド系化合物に由来する構造単位の含有量は、上記成分[A]を構成する構造単位、上記成分[B]を構成する構造単位、上記成分[C]を構成する構造単位、及び、上記成分[D]を構成する構造単位の合計を100質量%とした場合に、5〜30質量%であり、好ましくは5〜25質量%、より好ましくは8〜25質量%、特に好ましくは8〜20質量%である。上記構造単位の含有量が上記範囲にあると、耐熱性、成形外観性、光輝性等に優れた成形品を得ることができる。
尚、5〜30質量%という含有量は、成分[C]のみに由来することが好ましいが、成分[C]、並びに、成分[A]及び/又は成分[B]に由来するものであってもよい。後者の例としては、成分[A]が、アクリル系ゴム質重合体(a1)の存在下、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物及びマレイミド系化合物を含むビニル系単量体(a2)を重合して得られたグラフト樹脂であって、このグラフト樹脂における共重合体部が、マレイミド系化合物に由来する構造単位を含む場合、並びに、成分[B]が、複合ゴム(b1)の存在下、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物及びマレイミド系化合物を含むビニル系単量体(b2)を重合して得られたグラフト樹脂であって、このグラフト樹脂における共重合体部が、マレイミド系化合物に由来する構造単位を含む場合、である。
【0177】
更に、本発明の組成物において、上記成分[A]を構成するアクリル系ゴム質重合体(a1)の含有量、及び、上記成分[B]を構成する複合ゴム(b1)の含有割合は、両者の合計を100質量%とした場合に、それぞれ、好ましくは10〜95質量%及び5〜90質量%、より好ましくは20〜90質量%及び10〜80質量%である。上記割合とすることにより、成形品の耐衝撃性及び光輝性に優れ、振動溶着時の糸バリの発生が抑制される。
【0178】
本発明の組成物において、上記成分[A]の含有量、及び、上記成分[B]の含有量の合計は、組成物の成形加工性、並びに、成形品の耐衝撃性、耐熱性、成形外観性及び光輝性の観点から、上記成分[A]、[B]、[C]及び[D]の合計を100質量%とした場合に、好ましくは10〜90質量%、より好ましくは15〜70質量%、特に好ましくは20〜60質量%である。
【0179】
本発明の組成物において、上記成分[C]の含有量の割合は、成形品の耐衝撃性、耐熱性、成形外観性及び光輝性の観点から、上記成分[A]、[B]、[C]及び[D]の合計を100質量%とした場合に、好ましくは10〜90質量%、より好ましくは15〜70質量%、特に好ましくは15〜60質量%である。
【0180】
本発明のランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物が、上記成分[D]を含有する場合、この成分[D]の含有量の割合は、上記成分[A]、[B]、[C]及び[D]の合計を100質量%とした場合に、好ましくは80質量%以下、より好ましくは15〜70質量%、特に好ましくは20〜65質量%である。上記成分[D]の含有量が80質量%を超えると、耐熱性及び耐衝撃性が不十分となる場合がある。
【0181】
本発明の組成物が、上記成分[D]を含有する場合、上記成分[C]及び[D]の混合物の極限粘度(メチルエチルケトン中、30℃)は、組成物の成形加工性、並びに、成形品の耐熱性、耐衝撃性及び外観性の観点から、好ましくは0.2〜1.2dl/g、より好ましくは0.25〜1.0dl/g、更に好ましくは0.3〜0.8dl/gである。
【0182】
上記成分[C]及び[D]の混合物は、本発明の組成物において、未グラフト重合体に相当する成分である。これらの成分を回収する場合には、本発明の組成物を、アセトンに投入し、振とう機を用いて、振とう(23℃、2時間)した後、遠心分離機を用いて、遠心分離(温度0℃、回転数28,000rpm、1時間)し、その後、回収したアセトン可溶成分から、アセトンを除去する方法等が適用される。アセトン除去後の回収物は、「アセトン可溶重合体」と称される。
アセトン可溶重合体の極限粘度は、上記成分[C]の極限粘度と同様にして求めることができる。
【0183】
本発明において、好ましい組成物は、[S]上記アクリル系ゴム質重合体(a1)の存在下、マレイミド系化合物を含まず、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を含むビニル系単量体を重合して得られたアクリル系ゴム質重合体強化グラフト樹脂を含有するゴム強化樹脂(以下、「原料[S]」ともいう。)と、[T]上記複合ゴム(b1)の存在下、単独重合体のガラス転移温度が0℃を超える(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物を重合し、次いで、マレイミド系化合物を含まず、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を含むビニル系単量体を重合して得られた複合ゴム強化グラフト樹脂を含有するゴム強化樹脂(以下、「原料[T]」ともいう。)と、[U]マレイミド系化合物に由来する構造単位を、全構造単位に対して10〜70質量%含むマレイミド系共重合体(以下、「原料[U]」ともいう。)とを含む原料(以下、「原料[R]」ともいう。)を混合して得られた組成物(以下、「組成物[X]」という。)である。
【0184】
上記原料[R]及び組成物[X]は、他の熱可塑性樹脂及び添加剤を含んでもよい。
【0185】
上記原料[R]において、原料[S]は、アクリル系ゴム質重合体(a1)の存在下、マレイミド系化合物を含まず、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を含むビニル系単量体((メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物を含んでもよい。)を重合して得られたアクリル系ゴム質重合体強化グラフト樹脂(以下、「グラフト樹脂(Ar)」ともいう。)、並びに、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位、及び、シアン化ビニル化合物に由来する構造単位を含む共重合体((メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物に由来する構造単位を含んでもよい。以下、「共重合体(Dr1)」ともいう。)を含有するゴム強化芳香族ビニル系樹脂である。これらのうち、グラフト樹脂(Ar)は、成分[A]に相当し、共重合体(Dr1)は、成分[D]に相当する。
【0186】
上記原料[T]は、複合ゴム(b1)の存在下、単独重合体のガラス転移温度が0℃を超える(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物を重合し、次いで、マレイミド系化合物を含まず、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を含むビニル系単量体を重合して得られた複合ゴム強化グラフト樹脂を含有するゴム強化樹脂であり、通常、上記各単量体の共重合体が、上記複合ゴム(b1)にグラフトしてなる複合ゴム強化グラフト樹脂(以下、「グラフト樹脂(Br)」ともいう。)と、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位、及び、シアン化ビニル化合物に由来する構造単位を含む共重合体((メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物に由来する構造単位を含んでもよい。以下、「共重合体(Dr2)」ともいう。)とを含有する。これらのうち、グラフト樹脂(Br)は、成分[B]に相当し、共重合体(Dr2)は、成分[D]に相当する。
また、原料[U]は、上記成分[C]に含まれるマレイミド系共重合体であり、予め、準備したマレイミド系共重合体をそのまま用いることができる。
【0187】
上記組成物[X]が、上記原料[R]に含まれる重合体又は樹脂として、上記の原料[S]、[T]及び[U]を用いて得られたものである場合、上記の原料[R]におけるこれらの含有量の割合は、3者の合計を100質量%とした場合に、それぞれ、好ましくは1〜89質量%、1〜89質量%及び10〜90質量%、より好ましくは8〜50質量%、2〜40質量%及び10〜90質量%、特に好ましくは8〜42質量%、2〜30質量%及び28〜90質量%である。各成分を上記の範囲で用いることにより、耐熱性、耐衝撃性、成形外観性、振動溶着性及び光輝性に優れた成形品を得ることができる。
【0188】
尚、上記原料[R]は、上記成分[D]に相当する(共)重合体(以下、「(共)重合体[V]」という。)が、別途、配合されてなるものとすることもできる。この(共)重合体[V]としては、上記成分[D]として例示した(共)重合体を用いることができる。これらは、単独で用いてよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0189】
上記組成物[X]が、上記原料[R]に含まれる重合体又は樹脂として、上記の原料[S]、[T]及び[U]並びに(共)重合体[V]を用いて得られたものである場合、これらの使用量の割合は、4者の合計を100質量%とした場合に、それぞれ、好ましくは1〜88質量%、1〜88質量%、10〜89質量%及び1〜80質量%、より好ましくは8〜50質量%、2〜40質量%、10〜40質量%及び5〜60質量%、特に好ましくは、8〜42質量%、2〜30質量%、10〜40質量及び20〜50質量%である。各成分を上記の範囲で用いることにより、耐熱性、耐衝撃性、成形外観性、振動溶着性及び光輝性に優れた成形品を得ることができる。
【0190】
上記組成物[X]は、原料[R]を混合して得られたものであるが、原料[S]、[T]及び[U](並びに(共)重合体[V])を同じ重合方法により得た場合には、ラテックス又は樹脂溶液において、グラフト樹脂(Ar)、グラフト樹脂(Br)、原料[U]、共重合体(Dr1)及び(Dr2)(並びに(共)重合体[V])からなる樹脂混合物とすることができ、これを回収して得られた組成物とすることができる。
【0191】
本発明の組成物の形態は、特に限定されないが、好ましくは、溶融混練物である。従って、上記組成物[X]を、溶融混練物とする場合には、上記原料[R]を、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、加圧ニーダー及び(2本)ロール等の混練機等を用いる方法等が適用される。混練に際しては、上記原料[R]を構成する各成分を、一括して混練してよいし、分割配合しながら混練してもよい。尚、バンバリーミキサー、ニーダー等で混練した後、押出機によりペレット化することもできる。混練温度は、好ましくは200℃〜300℃、より好ましくは220℃〜280℃である
【0192】
本発明の組成物において、配合可能な他の熱可塑性樹脂としては、アクリル系ゴム質重合体(a1)及び複合ゴム(b1)を除く他のゴム質重合体の存在下、ビニル系単量体を重合して得られたABS樹脂、AES樹脂等のゴム強化樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂等が挙げられる。これらは、単独で含まれてよいし、2種以上が含まれていてもよい。
【0193】
本発明の組成物において、配合可能な添加剤としては、充填剤、金属粉末、補強剤、可塑剤、相溶化剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、帯電防止剤、滑剤、難燃剤、抗菌剤等が挙げられる。
【0194】
本発明のランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物は、ダイレクト蒸着により蒸着層をその表面に形成する成形品の成形用材料であることが好ましい。ダイレクト蒸着は、アンダーコート層を設けることなく、成形品の表面に、直接、真空蒸着法やスパッタリング法等により、金属等の蒸着層を形成する方法である。
ダイレクト蒸着の具体的な方法としては、例えば、10−3〜10−4Pa程度に減圧した容器内に、成形品を設置し、この容器内で気化又は昇華させた蒸着材料を、成形品の表面に付着させ、蒸着層を形成するものである。蒸着材料を、気化又は昇華させる場合には、抵抗加熱、高周波誘導等、公知の手段が、適宜、選択される。尚、蒸着材料としては、アルミニウム、クロム、亜鉛、金、銀、プラチナ、ニッケル等の金属の他、金属酸化物等を使用することができる。また、蒸着前の成形品には、予め、RFプラズマ、イオン銃照射等により密着性を向上させる処理を行ってもよいが、本発明の組成物によれば、得られる成形品に対して、その処理を省略することができる。
【0195】
また、本発明のランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物は、振動溶着法が適用される成形品の成形用材料であることが好ましい。
振動溶着法は、本発明の組成物を用いて、一方の樹脂部材を形成し、本発明の組成物又は他の組成物を用いて、ランプレンズ等の他方の樹脂部材を形成した後、2つの樹脂部材の接合したい面に、圧力及び往復運動による振動を加え、その摩擦熱によって、接着用部位の樹脂成分を溶融して、両者を接合する方法である。
他の組成物としては、ポリカーボネート樹脂、ポリメタクリル酸メチル等を含有する熱可塑性樹脂組成物等とすることができる。
【0196】
本発明の組成物によれば、成形品同士を振動溶着させた場合に、糸バリの発生が抑制されるので、接合品の外観性を損なうことがない。
【0197】
本発明の成形品は、上記本発明の組成物を用いて得られた成形品(ランプハウジング等)である。即ち、本発明の成形品は、上記本発明の組成物を含む。
組成物が成形加工性に優れるため、射出成形法、シート押出成形法、真空成形法、異形押出成形法、圧縮成形法、中空成形法、差圧成形法、ブロー成形法、発泡成形法、ガス注入成形法等に好適である。
また、本発明の成形品には、アンダーコート層の形成等行うことなく、その表面に、真空蒸着法、スパッタリング法等のダイレクト蒸着法を利用した金属化処理を施すことができる。
金属化処理された成形品は、光輝性に優れる。そして、この表面は、そのままでもよいが、例えば、埃等による傷の発生、酸化劣化等から保護するために、塗装、プラズマ重合等により、トップコート層を形成することができる。
【実施例】
【0198】
以下に、実施例を挙げ、本発明を更に詳細に説明するが、本発明の主旨を超えない限り、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。尚、下記において、部及び%は、特に断らない限り、質量基準である。
【0199】
1.評価方法
物性及び評価に係る測定方法は、以下の通りである。
(1)アクリル系ゴム質重合体の粒子径及びその粒子径分布
ラテックス中のアクリルゴム質重合体の体積平均粒子径(Mv)及び数平均粒子径(Mn)は、HONEYWELL社製の「マイクロトラックUPA150」を用いて、25℃で測定した。単位はnmである。この測定値から、粒子径分布Mv/Mnを算出した。
(2)アクリル系ゴム質重合体のトルエン膨潤度及びゲル含量
トルエン膨潤度及びゲル含量は、以下の方法により求めた。
アクリル系ゴム質重合体の約0.2グラムを秤量(質量をWrとする。)し、トルエン25mlに投入して、軽く撹拌した。その後、25℃にて48時間放置し、予め、秤量した200メッシュの金網(質量をWmグラムとする。)を用いてろ過して不溶分と可溶分とに分離した。分離後、速やかに、不溶分を、ろ別した金網とともに秤量(質量をW1グラムとする)し、その秤量値(W1)から金網の秤量値(Wm)を差し引いて、トルエンで膨潤した不溶分の秤量値を得た(質量をWsグラムとする。)。次いで、トルエンで膨潤した不溶分には、トルエンが含まれているため、これを、25℃で12時間風乾し、引き続き、真空乾燥機を用いて、60℃で12時間乾燥することにより、不溶分に含まれるトルエンを乾燥除去した。乾燥後の不溶分を金網と共に秤量し(質量をW2グラムとする。)、その秤量値(W2)から金網の秤量値(Wm)を差し引いて、不溶分の乾燥重量を得た(質量をWdグラムとする。)。これらの秤量値から、ゲル含量及びトルエン膨潤度を、下記式により算出した。
ゲル含量(質量%)=〔Wd(g)/Wr(g)〕×100
=〔{W2(g)−Wm(g)}/Wr(g)〕×100
トルエン膨潤度(倍)=Ws(g)/Wd(g)
=〔W1(g)−Wm(g)〕/〔W2(g)−Wm(g)〕
尚、測定に用いたアクリル系ゴム質重合体は、上記重合体を含むラテックスを、15%の塩化カルシウム水溶液を攪拌しながら滴下して、重合体を凝固させ、水洗、乾燥して得られた固形ゴムである。
【0200】
(3)グラフト率
アクリル系ゴム質重合体を用いて得られたゴム強化樹脂(S)の一定量(xグラム)を、アセトンに投入し、振とう機を用いて2時間振とうし、遊離の(共)重合体(未グラフト重合体=アセトン可溶重合体)を溶解させた。その後、この液を、遠心分離器を用いて、28,000rpmで1時間遠心分離した。得られた不溶沈殿物を、真空乾燥機を用いて、120℃で2時間乾燥し、不溶分(グラフト樹脂)を秤量した(yグラム)。上記ゴム強化樹脂(S)のxグラムに含まれるアクリル系ゴム質重合体の量をxrグラムとすると、下記式によりグラフト率が算出される。アクリル系ゴム質重合体の代わりに、複合ゴムを用いて得られたゴム強化樹脂(T)の場合も同様に計算される。
グラフト率(%)=〔(y−xr)÷xr〕×100
【0201】
(4)極限粘度
合成例2−1〜2−11で得られたゴム強化樹脂(S)、及び、合成例2−12で得られたゴム強化樹脂(T)に対して、未グラフト重合体(アセトン可溶重合体)の極限粘度を測定した。また、原料成分を混練して得られた組成物から得られた、アセトン可溶重合体の極限粘度も測定した。単位は、dl/gである。
【0202】
(5)シャルピー衝撃強度
ISO 179に準拠して測定した。荷重は2J、単位はkJ/mである。
(6)荷重たわみ温度
ISO 75に準拠して測定した。単位は℃である。
【0203】
(7)表面外観性(フローマーク、色分かれ、光沢)
表面外観性を評価するに際して、着色剤として、表に記載の組成に対して、更に、堺化学社製ステアリン酸カルシウム「SC−100」(商品名)0.2部及び三菱化学社製カーボンブラック「RCF−#45」(商品名)0.5部を配合して得られた組成物を用いた。
この組成物を、日精樹脂工業社製電動射出成形機「エルジェクト NEX30」(商品名)に供給して、射出成形(樹脂温度220℃〜260℃、金型温度50℃)を行い、80mm×55mm×2.4mmの平板状の黒色成形品(55mmの一方の辺の中央に4mm×1mmのサイドゲートを備える)を得た。
この成形品の表面を目視にて観察し、下記基準にて、外観性を判定した。
◎:光沢に優れ、フローマーク及び色分かれが認められなかった。
○:光沢が良好であり、フローマーク及び色分かれがほとんど認められなかった。
△:光沢がやや劣り、フローマーク及び色分かれが多少認められた。
×:光沢が不十分であり、フローマーク及び色分かれが認められた。
【0204】
(8)振動溶着性(粉体及び糸バリ)
上記(7)における表面外観性の評価のために用いた黒色組成物を、東芝機械社製射出成形機「IS−170FA」(型式名)に供給して、射出成形(樹脂温度220℃〜260℃)を行い、曲面状の表面に開口部を有するランプハウジング12を成形した(図2参照)。図面における寸法の単位は「mm」である。
一方、被着材として、三菱レイヨン社製メタクリル樹脂「アクリペットVH−4」(商品名)を、射出成形機に供給して、射出成形(樹脂温度220℃〜270℃)を行い、所定形状のランプレンズ11を得た(図1参照)。
その後、ランプレンズ11と、ランプハウジング12とを、日本エマソン社製振動溶着機「BURANSON2407」(型式名)により、図3に従って、振動溶着した。図3は、2つの部材の溶着箇所を示す図面であり、下記条件で、図1におけるA−A’線断面を示す、ランプレンズ11aの下向き突起部と、図2におけるB−B’線断面を示す、ランプハウジング12aの開口部の周縁部とを、溶着した。この振動溶着時において、樹脂粉体の個数(ランプハウジング内に発生し、且つ、目視で確認できる数十ミクロン〜2mm程度の樹脂粉体の個数)及び糸バリの本数(ランプハウジング内に発生した2mm以上の糸状のバリの本数)を計数した。これら、樹脂粉体の個数及び糸バリの本数から、下記基準に基づいて、「振動溶着性」を判定した。
○:樹脂粉体の個数が5個以下であった。糸バリ数が5本以下であった。
△:樹脂粉体の個数が6〜10個であった。糸バリ数が6〜10本であった。
×:樹脂粉体の個数は11個以上であった。糸バリ数が11本以上であった。
【0205】
<振動溶着条件>
(i)粉量評価用の溶着条件
片振幅 0.5mm
初期圧力 2.0bar
初期振動時間 4.0秒
二段目圧力 4.0bar
二段目振動時間 2.0秒
(ii)糸バリ量評価用の溶着条件
片振幅 0.5mm
初期圧力 5.0bar
初期振動時間 0.5秒
二段目圧力 5.0bar
二段目振動時間 2.0秒。
【0206】
(9)光揮性
上記(7)における表面外観性の評価のために用いた黒色組成物を、東芝機械社製射出成形機「IS−170FA」(型式名)に供給して、射出成形(樹脂温度220℃〜260℃)を行い、所定形状のランプハウジングを得た。次いで、このランプハウジングの表面に、スパッタリングにより、膜厚120nmのアルミニウムの蒸着膜を形成した。その後、この蒸着膜の表面に、HMDS(1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザン)のプラズマ重合膜を形成し、光輝性評価用成形体を得た。スパッタリング条件及びプラズマ重合条件は、以下のとおりである。
<スパッタリング条件>
装置 新明和工業社製真空成膜装置「VRSP350MD」(型式名)
粗引き終了後の圧力 5.0Pa
本引き終了後の圧力 5.0×10−3Pa
導入ガス アルゴンを100sccm
成膜時の真空度 0.7Pa
<プラズマ重合条件>
導入ガス HMDSを30sccm
重合時の真空度 1.5Pa
【0207】
得られた光輝性評価用成形体に対して、東京電色社製デジタル反射率計「TR−1100AD」(型式名)を使用し、拡散反射率を測定した。単位は%である。
【0208】
2.製造原料
2−1.アクリル系ゴム質重合体の合成
初めに、アクリル系ゴム質重合体強化グラフト樹脂を製造するためのアクリル系ゴム質重合体の合成方法を示す。
【0209】
合成例1−1
(1)薬液の調製
アクリル酸n−ブチル(以下、「BA」と略記する。)91.3部及びメタクリル酸アリル(以下、「AMA」と略記する。)0.7部を混合して、単量体混合物(I)を調製した。
また、水99部に、過硫酸カリウム(以下、「KPS」と略記する。)1部を溶解して、重合開始剤水溶液(以下、「OXI水溶液(I)」と略記する。)を調製した。
【0210】
(2)第1重合工程
攪拌装置、原料及び助剤添加装置、温度計、加熱装置等を備えたガラス製反応器に、水150部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(以下、「SDBS」と略記する。)0.5部、及びBA8部を仕込んだ。その後、系内を攪拌しながら、窒素気流下で、反応系を加熱した。内温が65℃に達したところで、電解質である亜ジチオン酸ナトリウム(以下、「PHS」と略記する。)0.03部を反応器に添加し、その後、反応系を加熱した。
内温が75℃に達したところで、OXI水溶液(I)7部を仕込み、同温度で重合を開始した。重合開始から1時間経過したところで、第1重合工程の反応を終了した。尚、第1重合工程の反応終了時の重合転化率は96.2%、得られたラテックス中のゴム質重合体粒子の体積平均粒子径(Mv)は61nmであった。
【0211】
(3)第2重合工程
上記ラテックスを収容した反応器に、単量体混合物(I)の3分の1と、OXI水溶液(I)7部とを仕込み、75℃で重合を開始した。重合開始から1時間後、反応器の内温が75℃になったところで、更に、単量体混合物(I)の3分の1と、OXI水溶液(I)7部とを供給し、重合を継続した。その1時間後、反応器の内温が75℃になったところで、残り3分の1の単量体混合物(I)と、OXI水溶液(I)7部とを供給し、重合を継続した。その1時間後、重合反応を終了し、アクリル系ゴム質重合体(a1−1)を含むラテックスを得た。
第2重合工程の反応終了時の重合転化率は99.6%、得られたラテックス中のアクリル系ゴム質重合体(a1−1)の体積平均粒子径(Mv)は133nm、粒子径分布Mv/Mnは1.03であった。また、トルエン膨潤度は15、ゲル含量は90.0%であった。以上の結果を表1に示す。
【0212】
合成例1−2
第1重合工程において、炭酸水素ナトリウム0.5部を添加した以外は、合成例1−1と同様にして、アクリル系ゴム質重合体(a1−2)を含むラテックスを得た。
第1重合工程終了時の重合転化率は97.1%、得られたラテックス中のゴム質重合体粒子の体積平均粒子径(Mv)は75nmであり、第2重合工程終了時の体積平均粒子径(Mv)は157m、粒子径分布Mv/Mnは1.04であった。また、トルエン膨潤度は21、ゲル含量は82.0%であった。以上の結果を表1に示す。
【0213】
合成例1−3
(1)薬液の調製
BA79部及びAMA1部を混合して、単量体混合物(II)を調製した。
また、水10部に、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(以下、「EDTA」と略記する。)0.01部、硫酸第一鉄(以下、「FES」と略記する。)0.002部、及び、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(以下、「NFS」と略記する。)0.3部を溶解して、スルホキシレート系還元剤水溶液(以下、「SFS水溶液(I)」と略記する。)を調製した。
更に、水30部に、クメンハイロドパーオキサイド(以下、「CHP」と略記する。)0.025部を溶解して、重合開始剤水溶液(以下、「CAT水溶液(I)」と略記する。)を調製した。
【0214】
(2)第1重合工程
攪拌装置、原料及び助剤添加装置、温度計、加熱装置等を備えたガラス製反応器に、水300部、SDBS2.0部、及びBA20部を仕込んだ。その後、系内を攪拌しながら、窒素気流下で、反応系を加熱した。内温が60℃に達したところで、SFS水溶液(I)の85%分と、CAT水溶液(I)の30%分とを反応器に添加し、同温度で重合を開始した。重合開始から1時間経過したところで、第1重合工程の反応を終了した。尚、第1重合工程の反応終了時の重合転化率は98.5%、得られたラテックス中のゴム質重合体粒子の体積平均粒子径(Mv)は51nmであった。
【0215】
(3)第2重合工程
上記ラテックスを収容した反応器に、SFS水溶液(I)の残り15%分を仕込み、その直後、単量体混合物(II)の70%分と、CAT水溶液(I)の40%分とを、いずれも1時間30分にわたって連続添加し、重合を開始した。この間、反応器の内温は60℃に保持した。添加が終了した後、同温度で30分間熟成した。その後(重合開始から2時間後)、単量体混合物(II)の残り30%分と、CAT水溶液(I)の残り30%分とを、いずれも1時間にわたって連続添加し、重合を継続した。添加が終了した後(重合開始から3時間後)、同温度で1時間熟成させた後、重合反応を終了し、アクリル系ゴム質重合体(a1−3)を含むラテックスを得た。
第2重合工程の反応終了時の重合転化率は96.7%、得られたラテックス中のアクリル系ゴム質重合体(a1−3)の体積平均粒子径(Mv)は93nm、粒子径分布Mv/Mnは1.06であった。また、トルエン膨潤度は7、ゲル含量は98.5%であった。以上の結果を表1に示す。
【0216】
合成例1−4
(1)薬液の調製
BA99.8部及びAMA0.2部を混合して、単量体混合物(III)を調製した。
また、重合開始剤水溶液として、合成例1−1と同じOXI水溶液(I)を用いた。
更に、水99部に、不均化ロジン酸カリウム石鹸1部及びKPS1部を溶解して、重合開始剤水溶液(以下、「OXI水溶液(II)」と略記する。)を調製した。
【0217】
(2)第1重合工程
攪拌装置、原料及び助剤添加装置、温度計、加熱装置等を備えたガラス製反応器に、水170部、半硬化牛脂脂肪酸ナトリウム石鹸(以下、「SSF」と略記する。)0.03部、β−ナフタレンスルホン酸ホルマリン重縮合物のナトリウム塩(以下、「PNF塩」と略記する。)1.0部、電解質である炭酸水素ナトリウム1.0部及び単量体混合物(III)の10%分を仕込んだ。その後、系内を攪拌しながら、窒素気流下で、内温を65℃まで昇温した。65℃に達したところで、PHS0.005部を添加し、その後、反応系を加熱した。
内温が75℃に達したところで、OXI水溶液(I)7部を仕込み、同温度で重合を開始した。重合開始から1時間経過したところで、第1重合工程の反応を終了した。尚、第1重合工程の反応終了時の重合転化率は96.8%、得られたラテックス中のゴム質重合体粒子の体積平均粒子径(Mv)は112nmであった。
【0218】
(3)第2重合工程
上記ラテックスを収容した反応器に、単量体混合物(III)の残り90%分と、OXI水溶液(II)10部とを、いずれも4時間にわたって連続添加し、重合を開始した。この間、反応系の温度は75℃に保持した。添加が終了した後、反応系の温度を、30分間かけて80℃まで昇温した。そして、この温度で1時間熟成し、重合反応を終了し、アクリル系ゴム質重合体(a1−4)を含むラテックスを得た。
第2重合工程の反応終了時の重合転化率は97.7%、得られたラテックス中のアクリル系ゴム質重合体(a1−4)の体積平均粒子径(Mv)は192nm、粒子径分布Mv/Mnは1.09であった。また、トルエン膨潤度は32、ゲル含量は41%であった。以上の結果を表1に示す。
【0219】
合成例1−5
第1重合工程において、反応器に仕込むSDBSの使用量を0.1部とし、また電解質としてPHS0.03部及び炭酸ナトリウム1.5部を併用した以外は、合成例1−1と同様にして、アクリル系ゴム質重合体(a1−5)を含むラテックスを得た。第1重合工程終了時の重合転化率は96.8%、得られたラテックス中のアクリル系ゴム質重合体(a1−5)の体積平均粒子径(Mv)は146nmであり、第2重合工程終了時の体積平均粒子径(Mv)は222m、粒子径分布Mv/Mnは1.09であった。また、トルエン膨潤度は18、ゲル含量は89.6%であった。以上の結果を表1に示す。
【0220】
合成例1−6
(1)薬液の調製
BA100部及びトリアリルシアヌレート0.3部を混合して、単量体混合物(IV)を調製した。
また、重合開始剤水溶液として、合成例1−1で調製したOXI水溶液(I)を用いた。
(2)アクリル系ゴム質重合体の製造
攪拌装置、原料及び助剤添加装置、温度計、加熱装置等を備えたガラス製反応器に、水200部、SSF1.5部及びピロリン酸ナトリウム(以下、「SPP」と略記する。)0.3部を仕込んだ。その後、系内を攪拌しながら、窒素気流下で、反応系を加熱した。内温が80℃に達したところで、単量体混合物(IV)100.3部及びOXI水溶液(I)30部を、いずれも4時間にわたって連続で反応器に供給して重合を行った。この間、反応器の内温は80℃に保持した。すべての薬液の添加が終了してから、更に1時間、80℃で保持して熟成させた後、重合反応を終了した。このときの重合転化率は97.8%、得られたラテックスに含まれるアクリル系ゴム質重合体の体積平均粒子径(Mv)は87nmであった。また、トルエン膨潤度は8、ゲル含量は89%であった。
次に、上記アクリル系ゴム質重合体の粒子径肥大化処理を、特開2003−138089号公報に記載の方法により行った。
上記アクリル系ゴム質重合体100部を含むラテックスを収容した反応器に、SDSB0.15部を添加した。その後、反応器の内温を25℃〜30℃に保持しつつ、攪拌下、5%酢酸水溶液60部を30分間にわたって、連続的に添加した(粒子径肥大処理)。次いで、酢酸水溶液の添加終了後、10%水酸化ナトリウム水溶液20部を、10分間にわたって連続的に添加した。これにより、粒子径が肥大化したアクリル系ゴム質重合体(a1−6)を含むラテックスを得た。得られたラテックス中のアクリル系ゴム質重合体の体積平均粒子径(Mv)は157nm、粒子径分布Mv/Mnは1.15であった。以上の結果を表1に示す。
【0221】
合成例1−7
第1重合工程において、反応器に仕込む水及びSDBSの量を、それぞれ、200部及び2部とした以外は、合成例1−1と同様にして、アクリル系ゴム質重合体(a1−7)を得た。第1重合工程終了時のラテックス中のゴム質重合体粒子の体積平均粒子径(Mv)は51nmであった。
第2重合工程の反応終了時の重合転化率は99.4%、得られたラテックス中のアクリル系ゴム質重合体(a1−7)の体積平均粒子径(Mv)は81nm、粒子径分布Mv/Mnは1.04であった。また、トルエン膨潤度は15、ゲル含量は90.7%であった。以上の結果を表1に示す。
【0222】
合成例1−8
第1重合工程において、反応器に仕込むSDBSの量を、0.05部とし、第2重合工程において、第1工程において得られたラテックスに、単量体混合物(I)の3分の1とともに仕込むSDBSの量を、0.45部とした以外は、合成例1−1と同様にして、アクリル系ゴム質重合体(a1−8)を得た。第1重合工程終了時のラテックス中のゴム質重合体粒子の体積平均粒子径(Mv)は117nmであった。
第2重合工程の反応終了時の重合転化率は98.7%、得られたラテックス中のアクリル系ゴム質重合体(a1−8)の体積平均粒子径(Mv)は278nm、粒子径分布Mv/Mnは1.04であった。また、トルエン膨潤度は14、ゲル含量は91.4%であった。以上の結果を表1に示す。
【0223】
合成例1−9
単量体混合物(I)に代えて、90部のBA、及び、2部のAMAからなる単量体混合物を用いた以外は、合成例1−1と同様にして、アクリル系ゴム質重合体(a1−9)を得た。第1重合工程終了時のラテックス中のゴム質重合体粒子の体積平均粒子径(Mv)は54nmであった。
第2重合工程の反応終了時の重合転化率は99.3%、得られたラテックス中のアクリル系ゴム質重合体(a1−9)の体積平均粒子径(Mv)は116nm、粒子径分布Mv/Mnは1.03であった。また、トルエン膨潤度は5、ゲル含量は91%であった。以上の結果を表1に示す。
【0224】
合成例1−10
合成例1−1における第1重合工程を行って、反応器にラテックスを収容させた状態で、第2重合工程として、91.7部のBA、及び、0.3部のAMAからなる単量体混合物の全量と、合成例1−1に示したOXI水溶液(I)21部とを一括で仕込み、75℃で重合を開始した。その後、反応器の内温を75℃に保持して3時間の重合反応を行って、アクリル系ゴム質重合体(a1−10)を得た。
第2重合工程の反応終了時の重合転化率は99.2%、得られたラテックス中のアクリル系ゴム質重合体(a1−10)の体積平均粒子径(Mv)は121nm、粒子径分布Mv/Mnは1.03であった。また、トルエン膨潤度は42、ゲル含量は81.9%であった。以上の結果を表1に示す。
【0225】
合成例1−11
単量体混合物(I)に代えて、91.95部のBA、及び、0.05部のAMAからなる単量体混合物を用いた以外は、合成例1−1と同様にして、アクリル系ゴム質重合体(a1−11)を得た。
第1重合工程終了時のラテックス中のゴム質重合体粒子の体積平均粒子径(Mv)は72nm、第2重合工程の反応終了時の重合転化率は98.3%、得られたラテックス中のアクリル系ゴム質重合体(a1−11)の体積平均粒子径(Mv)は118nm、粒子径分布Mv/Mnは1.03であった。また、トルエン膨潤度は23、ゲル含量は64.7%であった。以上の結果を表1に示す。
【0226】
【表1】

【0227】
2−2.複合ゴムの合成
合成例1−12
γ−メタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン1.96部及びオルガノシロキサン98.04部を混合し、オルガノシロキサン混合物100部を得た。
このオルガノシロキサン混合物100部に、脱イオン水に、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.68部を溶解した溶液313部を添加し、ホモミキサーを用い、10,000rpmで5分間撹拌した。その後、300kg/cm2の圧力でホモジナイザーに2回通し、オルガノシロキサンラテックスを微粒子化した。
次に、温度計、冷却管及び撹拌装置を備えたセパラブルフラスコに、ドデシルベンゼンスルホン酸13部と脱イオン水92部とを投入し、12.4%のドデシルベンゼンスルホン酸水溶液を調製した。この水溶液を85℃とし、攪拌下、上記で得られた、微粒子化したオルガノシロキサンラテックスを8時間に亘って滴下した。その後、温度を85℃で2時間維持した後、冷却した。
その後、この反応物を、水酸化ナトリウム水溶液で中和して重合を完結し、ポリオルガノシロキサンを含むラテックスを得た。ポリオルガノシロキサンの体積平均粒子径は60nmであった。
得られたラテックスを170℃で30分間乾燥して固形分を求めたところ、18.7%であった。
【0228】
次に、温度計、窒素導入管、冷却管及び撹拌装置を備えたセパラブルフラスコに、上記で得られた、ポリオルガノシロキサンを含むラテックス28.1部(ポリオルガノシロキサンは5.2部)を投入した。これに、脱イオン水206部を加えた後、ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム0.4部、アクリル酸n−ブチル67.7部、メタクリル酸アリル2.1部及びtert−ブチルハイドロパーオキサイド0.28部からなる単量体混合液を仕込み、30分間撹拌して、ポリオルガノシロキサンゴムに吸収させた。
その後、セパラブルフラスコ内に、窒素気流を通じて窒素置換を行い、反応系を55℃まで昇温した。液温が55℃となったところで、硫酸第一鉄0.0001部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.0003部及びロンガリット0.3部を脱イオン水3.3部に溶解させた水溶液を添加し、ラジカル重合を開始した。上記単量体混合液の重合により液温は92℃まで上昇した。この状態を1時間維持し、単量体の重合を完了して複合ゴム(b1−1)を含むラテックスを得た。得られた複合ゴム(b1−1)の体積平均粒子径は84nmであった。
【0229】
2−3.アクリル系ゴム質重合体強化グラフト樹脂を含むゴム強化樹脂の合成
上記合成例1−1〜1−11で得られたアクリル系ゴム質重合体を用いたゴム強化樹脂[S]の製造方法を示す。
【0230】
合成例2−1
(1)薬液の調製
スチレン(以下、「ST」と略記する。)73部、アクリロニトリル(以下、「AN」と略記する。)27部、及び、連鎖移動剤であるtert−ドデシルメルカプタン(以下、「TDM」と略記する。)0.3部を混合して、単量体混合物(V)を調製した。
また、水100部に、EDTA0.05部、FES0.005部及びNFS0.25部を溶解して、スルホキシレート系還元剤水溶液(以下、「SFS水溶液(II)」と略記する。)を調製した。
更に、水50部に、tert−ブチルハイロドパーオキサイド(以下、「BHP」と略記する。)0.25部を溶解して、重合開始剤水溶液(以下、「CAT水溶液(II)」と略記する。)を調製した。
【0231】
(2)グラフト重合
攪拌装置、原料及び助剤添加装置、温度計、加熱装置等を備えたガラス製反応器に、水100部、アクリル系ゴム質重合体(a1−1)100部、水酸化カリウム(以下、「KOH」と略記する。)0.4部、SDBS3部、及び、単量体混合物(V)の25%分を仕込んだ。その後、系内を攪拌しながら、窒素気流下で、反応系を加熱した。内温が65℃に達したところで、SFS水溶液(II)の50%分と、CAT水溶液(II)の30%分とを、反応器に供給して重合を開始した。重合開始から1時間かけて75℃まで昇温しつつ重合反応を進めた。
重合開始から1時間後、内温が75℃になったところで、単量体混合物(V)の残り75%分と、SFS水溶液(II)の残り50%分と、CAT水溶液(II)の残り70%分とを、いずれも4時間にわたって連続的に供給して重合を継続した。この間、反応系の温度は75℃に保持した。すべての薬液の添加が終了してから、更に1時間、75℃で保持して熟成させた後、重合反応を終了した。これにより、アクリル系ゴム質重合体強化グラフト樹脂と、未グラフト重合体とからなるゴム強化樹脂(S−1)を含むラテックスを得た。
次に、このラテックスに、硫酸マグネシウム(凝固剤)を添加して、ゴム強化樹脂(S−1)を凝固させた。その後、水洗及び乾燥を行って、ゴム強化樹脂(S−1)を回収した。グラフト率及び未グラフト重合体の極限粘度を表2に示す。
【0232】
合成例2−2〜2−5
アクリル系ゴム質重合体の種類及びその使用量並びに単量体混合物の組成を表2に示すものとした以外は、合成例2−1と同様にして、ゴム強化樹脂(S−2)〜(S−5)を得た。グラフト率及び未グラフト重合体の極限粘度を表2に併記した。
【0233】
合成例2−6
(1)薬液の調製
ST28部及びAN12部を混合して、単量体混合物(VI)を調製した。
また、水10部に、SPP0.02部、FES0.004部及び結晶ブドウ糖(以下、「CDX」と略記する。)0.2部を溶解して、含糖ピロリン酸系還元剤水溶液(以下、「DX水溶液(I)」と略記する。)を調製した。
【0234】
(2)グラフト重合
攪拌装置、原料及び助剤添加装置、温度計、加熱装置等を備えたガラス製反応器に、水240部、アクリル系ゴム質重合体(a1−6)60部、KOH0.05部及びSSF1.5部を仕込んだ。その後、系内を攪拌しながら、窒素気流下で、反応系を加熱した。内温が60℃に達したところで、DX水溶液(I)の全量を反応器に供給した。その直後、単量体混合物(VI)及びCHP0.25部を、2時間にわたって連続添加し、重合を開始した。この間、反応系の温度を60℃に保持した。すべての薬液の添加が終了してから、内温を70℃に昇温して、更に1時間、同温度で保持して熟成させた後、重合反応を終了した。これにより、アクリル系ゴム質重合体強化グラフト樹脂と、未グラフト重合体とからなるゴム強化樹脂(S−6)を含むラテックスを得た。
次に、このラテックスに、凝固剤を添加して、ゴム強化樹脂(S−6)を凝固させた。その後、水洗及び乾燥を行って、ゴム強化樹脂(S−6)を回収した。グラフト率及び未グラフト重合体の極限粘度を表2に示す。
【0235】
合成例2−7〜2−11
アクリル系ゴム質重合体(a1−1)に代えて、表2に示すアクリル系ゴム質重合体(a1−7)〜(a1−11)を用い、単量体混合物に代えて、表2に示す組成の単量体混合物を用いた以外は、合成例2−1と同様にして、ゴム強化樹脂(S−7)〜(S−11)を得た。各樹脂のグラフト率及び未グラフト重合体の極限粘度は、表2に併記した。
【0236】
【表2】

【0237】
2−4.複合ゴム強化グラフト樹脂を含むゴム強化樹脂の合成
次に、上記合成例2−1で得られた複合ゴム(b1−1)を用いたゴム強化樹脂[T]の製造方法を示す。
【0238】
合成例2−12
合成例1−12で得られた複合ゴム(b1−1)75部を含むラテックスを75℃とした。その後、ラテックスを撹拌しながら、このラテックスに、BHP0.07部及びMMA12.5部からなる混合液を、20分間にわたって滴下しながら重合を行い、滴下終了後、この状態を30分間維持した。
次に、反応系を75℃で維持しながら、BHP0.07部、スチレン9.5部及びアクリロニトリル3.0部からなる混合液を、25分間にわたって滴下しながら重合を行った。滴下終了後、反応系を、攪拌下、75℃で1時間維持し、重合を完了した。これにより、複合ゴム強化グラフト樹脂と、未グラフト重合体とからなるゴム強化樹脂(T−1)を含むラテックスを得た。
次に、このラテックスに、凝固剤を添加して、ゴム強化樹脂(T−1)を凝固させた。その後、水洗及び乾燥を行って、ゴム強化樹脂(T−1)を回収した。グラフト率は、28%であり、未グラフト重合体の極限粘度(メチルエチルケトン中、30℃)は、0.35dl/gであった。
尚、組成物を製造する際に用いたゴム強化樹脂(T−1)の形態は、下記の通りである。即ち、上記ラテックスを、噴霧乾燥装置を用いて、圧力ノズル式で微小液滴状に噴霧しながら、熱風入り口付近から、日本アエロジル社製疎水性シリカ「R−972」(商品名)を、ゴム強化樹脂(T−1)100部に対して、0.05部の割合となるように供給しながら乾燥(熱風入口温度180℃)して、ゴム強化樹脂(T−1)とシリカとからなる粉体を得た。下記実施例にて、組成物を製造する際に、この粉体を用いた。
【0239】
2−5.共重合体
熱可塑性樹脂に配合する重合体(マレイミド系共重合体等)は、以下の通りである。
(i)スチレン・N−フェニルマレイミド・アクリロニトリル共重合体(U−1)
電気化学工業社製の「デンカIP MS−NC」(商品名)を用いた。N−フェニルマレイミドに由来する構造単位の含有量は44%、極限粘度(メチルエチルケトン中、30℃)は0.26dl/g、ガラス転移温度は170℃であった。
(ii)スチレン・N−フェニルマレイミド・アクリロニトリル共重合体(U−2)
日本触媒社製の「ポリイミレックス PAS1460」(商品名)を用いた。N−フェニルマレイミドに由来する構造単位の含有量は40%、極限粘度(メチルエチルケトン中、30℃)は0.27dl/g、ガラス転移温度は167℃であった。
(iii)スチレン・N−フェニルマレイミド・アクリロニトリル共重合体(U−3)
電気化学工業社製の「デンカIP MS−NI」(商品名)を用いた。N−フェニルマレイミドに由来する構造単位の含有量は50%、ガラス転移温度は185℃であった。
(iv)スチレン・アクリロニトリル共重合体(V−1)
下記の合成例3−1により得られた重合体である。
【0240】
合成例3−1
(1)薬液の調製
ST74部、AN26部及びTDM0.5部を混合して、単量体混合物(VIII)を調製した。
また、水10部に、EDTA0.1部、FES0.005部及びNFS0.2部を溶解して、還元剤水溶液(以下、「SFS水溶液(IV)」と略記する。)を調製した。
更に、水100部に、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド(以下、「IHP」と略記する。)0.25部を溶解して、重合開始剤水溶液(以下、「CAT水溶液(IV)」と略記する。)を調製した。
【0241】
(2)重合
攪拌装置、原料及び助剤添加装置、温度計、加熱装置等を備えたガラス製反応器に、水200部及びSDBS2部を仕込んだ。その後、系内を攪拌しながら、窒素気流下で、反応系を加熱した。内温が60℃に達したところで、単量体混合物(VIII)の全量、SFS水溶液(IV)の全量、及び、CAT水溶液(IV)の80%分を、いずれも4時間にわたって連続添加して重合を開始した。反応系の温度は、重合開始時に70℃まで昇温し、その後、同温度を保持した。
重合を開始してから4時間経過した後、CAT水溶液(IV)の残り20%分を反応器に供給した。そして、反応系を70℃で1時間保持した後に重合反応を終了した。これにより、スチレン・アクリロニトリル共重合体(V−1)を含むラテックスを得た。
その後、このラテックスに、硫酸マグネシウム(凝固剤)を添加して、スチレン・アクリロニトリル共重合体(V−1)を凝固させた。次いで、水洗及び乾燥を行って、スチレン・アクリロニトリル共重合体(V−1)からなる粉末を回収した。極限粘度(メチルエチルケトン中、30℃)は0.42dl/gであった。
【0242】
2−6.添加剤
以下の酸化防止剤を用いた。
(1)F−1
アデカ社製のオクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート「アデカスタブAO−50」(商品名)を用いた。
(2)F−2
アデカ社製のビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト「アデカスタブPEP−36」(商品名)を用いた。
【0243】
3.ランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物の製造及び評価
実施例1〜8及び比較例1〜15
表3〜表7に記載の配合割合で、原料[S]、[T]、[U]及び[V]並びに酸化防止剤を、ヘンシェルミキサーに投入し、混合した。その後、東芝機械社製二軸押出機「TEM−50A」(型式名)を用いて、温度220℃〜280℃で溶融混練し、ペレットを得た。このペレットを用いて、上記各項目の評価を行い、その結果を、表3〜表7に併記した。尚、表3〜表7においては、原料成分から算出した、本発明に係る成分[A]、[B]、[C]及び[D]の割合を記載した。
【0244】
【表3】

【0245】
【表4】

【0246】
【表5】

【0247】
【表6】

【0248】
【表7】

【0249】
表3〜表7に示す結果から、以下のことが明らかである。
比較例1は、本発明に係わる成分[B]を含有しない例であり、耐衝撃性及び振動溶着性が劣っていた。
比較例2は、本発明に係わる成分[C]を含有しない例であり、耐熱性及び振動溶着性が劣っていた。
比較例3は、二軸押出機で混練りするのが困難であり、また、射出成形品の表面に混練不良に起因すると思われるブツ(分散不良)が大量に発生したため、その後、評価を行わなかった。
比較例4は、アクリル系ゴム質重合体(a1)と複合ゴム(b1)の合計の含有量が、少ない例であり、耐衝撃性及び振動溶着性に劣っていた。
比較例5は、比較例3と同様に、二軸押出機による混練が困難であり、また、射出成形品の表面に混練不良に起因すると思われるブツ(分散不良)が大量に発生したため、その後、評価を行わなかった。
比較例6は、本発明に係わる成分[A]を含有しない例であり、表面外観性及び振動溶着性が劣っていた。
比較例7は、体積平均粒子径が小さいアクリル系ゴム質重合体を用いて得られたアクリル系ゴム質重合体強化グラフト樹脂を含む組成物の例であり、耐衝撃性及び振動溶着性が劣っていた。
比較例8は、トルエン膨潤度が高いアクリル系ゴム質重合体を用いて得られたアクリル系ゴム質重合体強化グラフト樹脂を含む組成物の例であり、表面外観性、振動溶着性及び光輝性が劣っていた。
比較例9は、体積平均粒子径が大きいアクリル系ゴム質重合体を用いて得られたアクリル系ゴム質重合体強化グラフト樹脂を含む組成物の例であり、表面外観性、振動溶着性及び光輝性が劣っていた。
比較例10は、粒子径分布(Mv/Mn)が大きいアクリル系ゴム質重合体を用いて得られたアクリル系ゴム質重合体強化グラフト樹脂を含む組成物の例であり、表面外観性、振動溶着性及び光輝性が劣っていた。
比較例11は、体積平均粒子径が小さいアクリル系ゴム質重合体を用いて得られたアクリル系ゴム質重合体強化グラフト樹脂を含む組成物の例であり、耐衝撃性及び振動溶着性が劣っていた。
比較例12は、体積平均粒子径が大きいアクリル系ゴム質重合体を用いて得られたアクリル系ゴム質重合体強化グラフト樹脂を含む組成物の例であり、表面外観性、振動溶着性及び光輝性が劣っていた。
比較例13は、トルエン膨潤度が低いアクリル系ゴム質重合体を用いて得られたアクリル系ゴム質重合体強化グラフト樹脂を含む組成物の例であり、耐衝撃性が劣っていた。
比較例14は、トルエン膨潤度が高いアクリル系ゴム質重合体を用いて得られたアクリル系ゴム質重合体強化グラフト樹脂を含む組成物の例であり、表面外観性、振動溶着性及び光輝性が劣っていた。
比較例15は、ゲル含率の低いアクリル系ゴム質重合体を用いて得られたアクリル系ゴム質重合体強化グラフト樹脂を含む組成物の例であり、表面外観性、振動溶着性及び光輝性が劣っていた。
一方、実施例1〜8は、本発明に含まれる組成物の例であり、耐衝撃性、耐熱性、表面外観性、振動溶着性及び光輝性のバランスに優れていた。
【0250】
実施例1、2及び5の組成物を用いて、熱板溶着性(糸ひき)の評価を行った。
上記(7)における表面外観性の評価のために用いた黒色組成物を、日精樹脂工業社製電動射出成形機「エルジェクト NEX30」(商品名)に供給して、射出成形(樹脂温度220℃〜260℃)を行い、60mm×30mm×3mmの板状試験片を得た。
この試験片を、温度23℃、相対湿度50%の条件下で、3時間状態調節し、その後、熱板テストピース溶着試験機(イダ製作所社製)を用いて、下記条件で熱板に試験片を押し当て、熱板から試験片が離れる際の、糸ひきを目視観察したところ、糸ひきは発生しなかった。
<試験条件>
熱板の表面処理 フッ素樹脂加工された金属板
熱板の温度 240℃
試験片の溶着面 30mm×3mm
サーボモータの移動スピード 200mm/秒
試験片が熱板に接触する時間 15秒
試験片の溶け量 0.5mm
【産業上の利用可能性】
【0251】
本発明のランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物は、ヘッドランプ、テールランプ、ストップランプ等の車両用灯具を構成するランプハウジングの形成に好適である。
【符号の説明】
【0252】
11:樹脂レンズ部(ランプレンズ)
12:樹脂ハウジング部(ランプハウジング)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
[A]ゲル含量が70質量%以上であり、トルエンによる膨潤度が5.5〜30倍であり、体積平均粒子径が100〜200nmであり、且つ、該体積平均粒子径と数平均粒子径との比が1.1未満であるアクリル系ゴム質重合体(a1)の存在下、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を含むビニル系単量体を重合して得られた、アクリル系ゴム質重合体強化グラフト樹脂と、
[B]オルガノシロキサン系ゴム、及び、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位を有する(共)重合体ゴムを含む複合ゴム(b1)の存在下、単独重合体のガラス転移温度が0℃を超える(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を含むビニル系単量体を重合して得られた、複合ゴム強化グラフト樹脂と、
[C]マレイミド系化合物に由来する構造単位を、全構造単位に対して10〜70質量%含むマレイミド系共重合体と、
必要に応じて、
[D]芳香族ビニル化合物に由来する構造単位、シアン化ビニル化合物に由来する構造単位、及び、(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物に由来する構造単位から選ばれた少なくとも1種の構造単位を含み、且つ、マレイミド系化合物に由来する構造単位を含まない重合体と、
を含有するランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物であって、
上記アクリル系ゴム質重合体(a1)の含有量及び上記複合ゴム(b1)の含有量の合計は、上記アクリル系ゴム質重合体強化グラフト樹脂[A]、上記複合ゴム強化グラフト樹脂[B]、上記マレイミド系共重合体[C]及び上記重合体[D]の合計を100質量%とした場合に、8〜35質量%であり、且つ、
マレイミド系化合物に由来する構造単位の含有量は、上記アクリル系ゴム質重合体強化グラフト樹脂[A]を構成する構造単位、上記複合ゴム強化グラフト樹脂[B]を構成する構造単位、上記マレイミド系共重合体[C]を構成する構造単位、及び、上記重合体[D]を構成する構造単位の合計を100質量%とした場合に、5〜30質量%であることを特徴とするランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
上記アクリル系ゴム質重合体(a1)及び上記複合ゴム(b1)の含有割合が、両者の合計を100質量%とした場合に、それぞれ、10〜95質量%及び5〜90質量%である請求項1に記載のランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
上記アクリル系ゴム質重合体(a1)が、アルキルスルホン酸塩及び/又はアルキル硫酸エステル塩の存在下に、(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物(m1−1)50〜100質量%と、該(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物(m1−1)と共重合可能な他の化合物(m1−2)0〜50質量%(但し、(m1−1)及び(m1−2)の合計は100質量%である。)とからなる単量体(m1)を、水性媒体中で重合し、第1重合体を形成する第1重合工程、及び、
上記第1重合体の存在下、アルキルスルホン酸塩及び/又はアルキル硫酸エステル塩の存在下又は非存在下に、(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物(m2−1)50〜99.99質量%と、炭素−炭素二重結合を2個以上有する重合性不飽和化合物(m2−2)0.01〜5質量%と、該(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物(m2−1)及び該重合性不飽和化合物(m2−2)と共重合可能な他の化合物(m2−3)0〜49.99質量%(但し、(m2−1)、(m2−2)及び(m2−3)の合計は100質量%である。)とからなる単量体(m2)を、水性媒体中で重合する第2重合工程、
を、順次、進めることにより得られた重合体であり、
上記単量体(m1)及び(m2)の使用量の割合が、両者の合計を100質量%とした場合に、それぞれ、1〜50質量%及び50〜99質量%である請求項1又は2に記載のランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
[S]上記アクリル系ゴム質重合体(a1)の存在下、マレイミド系化合物を含まず、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を含むビニル系単量体を重合して得られたアクリル系ゴム質重合体強化グラフト樹脂を含有するゴム強化樹脂、
[T]上記複合ゴム(b1)の存在下、単独重合体のガラス転移温度が0℃を超える(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物を重合し、次いで、マレイミド系化合物を含まず、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を含むビニル系単量体を重合して得られた複合ゴム強化グラフト樹脂を含有するゴム強化樹脂、及び、
[U]マレイミド系化合物に由来する構造単位を、全構造単位に対して10〜70質量%含むマレイミド系共重合体、
を含む原料を混合して得られた請求項1乃至3のいずれか一項に記載のランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
上記ランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物をアセトン中に浸漬して得られたアセトン可溶重合体の極限粘度が、0.2〜1.0dl/gである請求項1乃至4のいずれか一項に記載のランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
ダイレクト蒸着により蒸着層をその表面に形成する成形品の成形用材料である請求項1乃至5のいずれか一項に記載のランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
振動溶着法が適用される成形品の成形用材料である請求項1乃至6のいずれか一項に記載のランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載のランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物を含むことを特徴とする成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−25941(P2012−25941A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137786(P2011−137786)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(396021575)テクノポリマー株式会社 (278)
【Fターム(参考)】