説明

ランプ関数状の軸方向電位を有する二次元イオントラップ

【課題】質量分析器用イオントラップの分解能を改善する。
【解決手段】本発明は、第1端部電極と第2端部電極との間に位置する複数の細長い電極を備え、これら複数の細長い電極と前記第1および第2端部電極とは、トラッピング空間を構成する二次元のイオントラップを提供するものであり、更に前記複数の細長い電極および前記端部電極の第1の組および前記第2の組と電気通信するコントローラは、前記複数の細長い電極のうちの少なくとも1つに印加される周期的な電圧を徐々に変え、よってイオントラップからイオンの質量対電荷比の大きさで径方向に放出する。同時にコントローラは、前記複数の細長い電極に対する前記端部電極のうちの少なくとも1つのDCオフセットを徐々に変えるようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には質量スペクトルメータとして作動する二次元の四極イオントラップに関する。
【背景技術】
【0002】
二次元(リニア)の四極イオントラップは、RF電圧、直流電圧またはそれらの組み合わせを電極に印加することにより発生する実質的に四極の静電電位により、複数の電極またはロッド構造によって形成されるトラッピング空間内にイオンを導入または形成し、この容積内に保持する装置のことである。
【0003】
イオントラップ性能を損なうことなく、二次元イオントラップのための高い歩留まり率を維持するための製造上の試みが常になされている。イオントラップの性能は、例えばイオントラップ自身の構造および作動モードを含む多くの事項によって決まる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
二次元イオントラップ内で質量選択的不安定性スキャンを使用する際、(一部の研究者は四極電極のうちの2つの間にイオンを注入しているが)1つ以上の電極内の開口部を通して径方向にイオントラップからイオンは最も効率的に放出される。装置からイオンを放出できるように、二次元イオントラップ電極のうちの1つ以上に開口部(単数または複数)がカットされているとき、理論的な四極電位からの電位が低下するので、この開口部が存在することハ、性能上のいくつかの重要な要素に影響を与え得る。
【0005】
二次元イオントラップ内に開口部を設けることは、理論的な四極電位を低下させるだけでなく、ロッド自身の構造上の完全性も低下させるので、軸方向(電極の長さに実質的に平行な方向)の機械的な偏差を生じさせ、最終的には質量スペクトルメータとして使用されるときのかかるイオントラップによって得られる分解能のような性能上の特性に影響する。
【0006】
二次元イオントラップの性能は、三次元イオントラップよりも機械的な誤差の影響を受けやすい。三次元イオントラップでは、イオンのすべてがイオントラップの中心にある球形または楕円の空間、一般には直径が約1mmのイオンクラウドを占める。しかしながら、二次元イオントラップ内のイオンは数cm以上となり得る軸方向のイオントラップの全長のうちのかなりの部分に沿って拡散する。従って、ロッドの幾何学的欠陥、不整合または電極の成形ミスは、二次元イオントラップの性能に実質的に影響を与える。例えば、電極のかなりの長さに沿って四極電極が平行でない場合、イオントラップ内の異なる軸方向位置にあるイオンは、若干異なる電界強度を受けるので、q値が若干異なることになる。このようなq値の変動は、質量分析中にそれぞれの軸方向位置によって放出時間が決まる。この結果、全体のピーク幅が広がり、分解能が低下することになる。
【0007】
上記のように二次元イオントラップが製造された後に、イオントラップが不合格となる1つの理由は、作動中の分解能が不良となることである。二次元イオントラップの解像度は、一般にピークの幅(分解能=質量/ピーク幅)に換算して特定される。
【0008】
軸方向の磁界の不均一性を生じさせる器械的な誤差の他に、電極の端部だけでなく、電極内にカットされているスロットの端部によっても生じるフリンジ電界も、装置の長手方向に沿った径方向の四極電界の強度の大きな偏差を生じさせる。電界を理想的に均一に維持するには、イオン放出開口部を電極の全長に沿って延ばすことになるが、このことは構造上の課題を多数生じさせる。これらを防止するために、イオン放出スロットは、一般にイオントラップの全長の中心領域の一部(例えば60%)に沿ってしか位置していない。しかしながら、このことはロッドの端部の効果の他に、スロットの端部の近くの径方向の四極電位のずれを生じさせる。従って、これら領域にあるイオンは、装置の中心に多くあるイオンとは異なる時間に放出されることになり、このことも質量分解能を低下させる結果を生じさせる。
【0009】
かかる装置に対する分解能は、大型の軸方向トラップ電界を利用することによって改善することが知られている。このことは、図1から理解でき、図中の曲線105は、軸方向の位置(イオントラップの軸方向に沿ったイオンクラウドの位置)を関数とする軸方向の電位を示す。軸方向の大きいトラップ電界は、イオンクラウドの軸方向の拡散を低減し、イオンクラウドが、磁界の小さい不均一性しか受けないようにクラウドを圧縮する。このことは、得られるq値の変動をより小さくでき、その結果、分解能がより良好となる。不幸なことに、イオンクラウドを圧縮することは、空間電荷によって誘導される質量のシフトを同時に増加させる。このことは、この装置におけるイオン蓄積空間または空間電荷容量を脅かす。最終的に、このように軸方向の電位が変わるので、分解能と空間電荷容量とを妥協させなければならない。
【0010】
従って、空間電荷容量に与える影響を最小にしながら、分解能を高める改善された二次元イオントラップおよびかかる二次元トラップを作動させる方法が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の1つの様相によれば、上記欠点またはその他の多くを克服した装置よび方法が開示される。
【0012】
本発明は、第1端部電極と第2端部電極との間に位置する複数の細長い電極を備え、これら複数の細長い電極と前記第1および第2端部電極とは、トラッピング空間を構成する二次元のイオントラップを提供するものであり、前記複数の細長い電極および前記端部電極の第1の組および前記第2の組とコントローラが電気通信するようになっており、このコントローラは、前記複数の細長い電極のうちの少なくとも1つに印加される周期的な電圧を徐々に変え、よってイオントラップからイオンの質量対電荷比の大きさでイオンを径方向に放出する。同時にコントローラは、前記複数の細長い電極に対する前記端部電極のうちの少なくとも1つのDCオフセットを徐々に変えるようになっている。
【0013】
一般的に本発明の1つに様相によれば、前記コントローラは、前記複数の細長い電極に対する前記第1および第2端部電極のDCオフセットを同時に徐々に変えるようになっている。前記DCオフセットを一連のステップで変えてもよく、前記一連のステップを離散的にしてもよい。前記コントローラは、前記質量対電荷比の増加とともに、DCオフセットの大きさを増加できる。前記コントローラは、質量対電荷比に対し、前記DCオフセットの大きさをリニアに増加できる。
【0014】
特定の実現例は、次の特徴の1つ以上を含むことができる。前記コントローラは、特定の質量対電荷比の値の放出されたイオンに対して望まれる特定された最大ピーク幅に基づき、DCオフセットの大きさを増加できる。前記第1および第2端部電極は、前記細長い電極の対応する電極と同心状に配置された複数のロッド電極を備える。
【0015】
本発明の1つの特徴によれば、第1端部電極および第2端部電極と、複数の細長い電極とを有する二次元イオントラップから逐次イオンを放出する質量のための方法は、1つ以上のステップを含むことができる。例えば、これらステップは、前記細長い電極のうちの少なくとも1つに印加される周期的な電圧を徐々に変え、よってイオンの質量対電荷比の大きさだけ前記イオントラップから径方向にイオンを放出するステップを含むことができ、この方法は、更に周期的電圧を徐々に変えるステップと同時に、前記複数の細長い電極に対する前記端部電極のうちの少なくとも1つのDCオフセットを徐々に変えるステップも備える。
【0016】
本発明は、次の利点の1つ以上を実現するように実施できる。徐々に変化するDCオフセットを利用することにより、特定の質量対電荷比またはその値のレンジに対して、分解能を改善できる。徐々に変化するDCオフセットを利用することにより、固定されたDCオフセットと比較し、質量対電荷比のより広いレンジにわたって分解能を完全できる。更に徐々に変化するDCオフセットを利用することによって、例えば固定されたDCオフセットを使用した場合に不合格となる分解能の仕様を、二次元イオントラップが満たすことできるようになる。
【0017】
次の詳細な説明、図面並びに請求項を読めば、本発明の別の利点および特徴が明らかとなろう。
【0018】
本発明の特徴および目的を更に良好に理解するために、添付図面と共に次の詳細な説明を参照する。
【0019】
いくつかの図面にわたり、同様な参照番号は対応する部品を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図2には、二次元イオントラップ200が示されており、このイオントラップは端部レンズ、すなわち電極210および215に印加されたDC電圧だけで得られる軸方向のトラップを有する単一部分205を備える。
【0021】
二次元状の実質的な四極の構造体200は、複数の細長い電極またはロッドを備え、特殊な場合、2対の対向する細長い電極、すなわち第1ペア220、225と、第2ペア230、235とを備える。この図では、以下、約束として細長い電極ペアは、xおよびy軸に整合し、よって第1ペア220、225をXの細長い電極ペアとして表示し、第2ペア230、235をYの細長い電極ペアとして表示する。これら細長い電極は、第1端部プレート(またはレンズ)210と第2端部プレート(またはレンズ)215との間に位置している。作動時に、これら電極210、215、220、225、230および235は、トラッピング空間240を構成する。端部電極210のうちの少なくとも1つは、開口部245を有し、この開口部を通してイオンを放出できる。内部とラッピング空間240、例えば長さが40mmの大きさの空間内にイオンがトラップされた状態に維持するために、電極210および215に適当な電圧を加えることができる。イオントラップ200に進入する矢印250の方向のイオンに対してゲート操作するように、入射端部電極210を使用できる。イオンをトラップするためにトラッピング空間240内に軸方向の電位井戸が形成されるように、これら2つの端部電極210および215の電位は、トラッピング空間240の電位とは異なっている。
【0022】
Xの細長い電極ペア220および225のうちの少なくとも1つにおける細長い開口部255により、四極イオントラップ構造体200の中心軸線265に直交する方向となっている矢印260の方向に(質量選択的不安定性スキャンモードで)トラップされたイオンを、質量選択的に放出することが可能となっている。中心軸線265は、細長い電極220、225、230および235に長手方向に平行であり、これによってイオントラップ200をイオントラップ質量スペクトルメータとして使用することが可能となる。この質量スペクトルメータでは、例えば放出されたイオンを適当な検出器へ送り、質量対電荷比の情報を得るようになっている。
【0023】
図示されるように、構造体内で所望される四極RF電位の等電位プロフィルに実質的に一致する双曲面プロフィルを有する双曲面形状の細長い電極220、225、230および235により、二次元の実質的に四極の電位が発生される。しかしながら、直線形状または他のカーブした電極形状によって、細長い電極220、225、230および235を形成することも可能である。同様に、開口部255の幾何学的形状は、一部は細長い電極の形状および曲率に応じて決まる。
【0024】
二次元のイオントラップ200は、前記複数の細長い電極220、225、230および235と第1端部電極210および第2端部電極215と電気通信するコントローラ270を介して、二次元イオントラップ200が操作される。イオンを二次元イオントラップ200が捕捉し、トラップし、蓄積し、その後、質量対電荷比の大きさで、径方向に放出できるように、必要な電位を印加するようにコントローラ270は構成されている。
【0025】
イオン放出中、二次元イオントラップ構造体200内に軸方向にイオンが注入される。これらイオンは、Xの細長い電極220、225およびYの細長い電極230、235に印加されるRF四極トラッピング電位により、イオンは径方向に保持される。端部電極210および215に軸方向のトラッピング電位、一般的にはDCオフセット電位を印加することにより、イオンは軸方向にトラップされる。注入イオンの運動エネルギーを低減し、従ってリニアイオントラップのトラッピングおよび蓄積効率を高めるのを助けるのに、約1×10-3トールの圧力のダンピングガス、例えばヘリウム(He)または水素(H2)が使用される。イオンが注入された後に、このような衝突冷却が続き、この冷却はイオンクラウドのサイズおよびエネルギーの拡散を低減することを助け、このことは検出サイクル中の分解能および感度を高める。
【0026】
短い蓄積時間t1の後で、トラップされたイオンが質量対電荷比の大きさで不安定となるようにトラッピングパラメータを変える。これを行うには、例えば、従来通り、複数の細長い電極220、225、230および235のうちの少なくとも1つに印加されている周期的電圧を徐々に変え、検出方向にロッドの間に双曲AC共振注入電圧を加えながら、RF電圧の大きさが時間t2の間で、より高い大きさにリニアにランプ関数に従って変化するよう、RF電圧の大きさを変える。図3にはこの放出プロセスが示されており、これら不安定なイオンはオントラップ構造体200の境界を越える軌跡を発生し、ロッド構造体220内の開口部255または一連の開口部を通って電界から離間する。これらイオンは検出器を介して収集でき、その後、この検出器から得られた信号を利用して、最初にトラップされたイオンの質量スペクトルをユーザーに表示できる。
【0027】
関連するタンデム型質量分析器、例えばフーリエ変換質量分析器、RF四極分析器、タイムオブフライト分析器、三次元イオントラップ分析器または静電分析器に後に軸方向に注入できるよう、イオンを処理し、蓄積するのに、上記二次元イオントラップを使用することもできる。
【0028】
この構造の重要な欠点は、軸方向のトラッピング電界がイオントラップ200の内部に十分進入せず、イオンがトラップの中心から更に移動することが可能となっていることである。このことは、図1内の曲線110から理解できよう。この曲線110は端部レンズに200Vを印加すると、1eVの軸方向エネルギーを有するイオンがほぼ40mm(中心から±20mm)だけカバーするように広がることを示している。しかしながら、このことは電極の端部におけるフリンジ電界および放出開口部の有限長さに起因して、イオンが軸方向の電界のより大きい不均一性を受け、イオントラップから放出されたイオンの検出分解能が影響されることを意味する。
【0029】
本発明の1つの様相では、図4に示されるように、二次元イオントラップ200の内部トラッピング空間240から外でイオンがスキャンされる間、これと同時にDCオフセットを徐々に変更する。この特定の例では、細長い電極220、225、230、235のうちの少なくとも1つに印加される周期的電圧(RF)(当初イオンをトラップするのに使用されたのと同じ周期的電圧)および放出開口部255を含む少なくとも1つのXペアの細長い電極220および225に印加されるAC共振励起電圧を徐々に変えることにより、イオンは径方向にスキャンされている。徐々に変化する周期的DCオフセットの大きさは、デジタル−アナログコンバータによって可能となるように、大きさをランプ関数に従って変えるか、または一連の離散的ステップで変えることができる。これとは異なり、アナログ回路を使用する場合、コントローラ270は、更に図4に示されるように、徐々に変化する周期的RF電圧を連続的に変えるようにすることもできる。
【0030】
当初、二次元イオントラップ200のトラッピング容積内に最大数のイオンがトラップされると、空間電荷容量を最大にすることが望ましい。本発明の別の様相によれば、低質量対電荷比のイオンを質量分析する間は、低DCオフセットを加えることができ、イオントラップ質量スペクトルメータのための代表的な分解能の仕様を満たすことができる。しかしながら、低DCオフセットの値は、当然、イオンを故意に注入しなければトラッピング空間内にイオンをトラップした状態に維持し、イオンが逃れないようにするのに必要なDCオフセットの値以上としなければならない。高質量対電荷比のイオンを質量分析する間、高DCオフセットを印加できるので、これら値に対する分解能を最大にできる。高DCオフセットを利用することは、作動中のこの時点での空間電荷容量を低減できるが、(既に二次元イオントラップからは、より低い質量のイオンが放出されているので)実際にはトラッピング空間内には少ないイオンしかトラップされず、この結果、空間電荷容量はこの時点であまり重要とはならない。
【0031】
第1端部電極210または第2端部電極215のいずれか、またはその双方に徐々に変化するDCオフセットを印加できる。これら電極のうちのいずれかまたはそれらの任意の組み合わせに対するDCオフセットを徐々に変化させるという選択方法により、細長い電極の他端よりも一端の近く、またはイオントラップの両端で生じる製造時の不正確さを補償することが可能となる。
【0032】
本発明の更に別の特徴によれば、サンプル分析の前にイオントラップ200を較正し、高い値の質量対電荷比が、任意のタイプのスキャンに対する分解能の仕様内に入るか、または許容できる指定された最大ピーク幅よりも低くできるようにするのに必要な、軸方向の最小電位の値を提供するよう構成される。このような較正により、イオントラップから放出されるイオンの質量対電荷比のレンジにわたって、分解能を最大にするよう、DCオフセットをどのように徐々に変えるべきかを決定することが可能となる。これに関し、例えば特定の質量対電荷比の値の、放出されるイオンに対して望まれる最大指定ピーク幅に基づき、コントローラによってDCオフセットの大きさを制御することができる。一般に、測定機器ごとにユニークな較正が必要であり、この較正は、分析する質量対電荷比の値、または分析する質量対電荷比の値のレンジに応じて決まる。しかしながら、後に明らかとなる理由から、異なるスキャンモードの間で、較正を変える必要はない。かかる較正中、当業者には端部電極の一方または他方、もしくはその双方にDCオフセットを印加しなければならないかどうかは明らかであろう。
【0033】
図5および6には実験データが示されており、これら図は、空間電荷容量に対する影響を最小にするのと同時に、特定の分解能(またはピーク幅)を得るためにイオンクラウドの軸方向の分散をどのように制御できるかを示している。
【0034】
図5は、異なるスキャン条件のもとで、種々のm/z値のイオンに対して得られる分解能のグラフを示す。分解能はピーク幅に関連しているので、このグラフ表示は質量対電荷比に対するピーク幅の変化を示す。
【0035】
Aと表示されたマークであるダイヤモンド形状のマークで識別される曲線に従うと、m/z比が通常のスキャンモード中に増加すると、ピーク幅も増加することが理解できよう。m/z1822では最大ピーク幅は0.7m/zより大きく、これによって製造中にこのイオントラップが不合格となり得る。その理由は、通常のスキャン分解能の限界は、1822であり、この限界は通常、0.62amuの領域内にあるからである。約0.7amuより大きいピーク幅は、スペクトルデータの有効性を厳しく制限する。その理由は、等方性イオンを互いに区別できないからである。これら基準によれば、このイオントラップは不合格となり得る構造上の品質であると見なされ、品質管理要員によって不合格となる可能性が最も高い。その理由は、12Vの固定された軸方向のDCオフセット電位を使用する際に、m/z比1822では通常のスキャン分解条件を半分の回数しか満たすことができないからである。
【0036】
Cで表示されたマークである正方形のマークで示されるように、より低速のスキャンモード(強化スキャンと称される)を実施するとき、m/z比が増加すると、ピーク幅はこのスキャンレートに対し、0.45の最大製造仕様を再度1回超えることが理解できよう。
【0037】
通常のスキャンレートを使ったDCオフセット較正を実行すると、Bで表示されたマークであるxアイコン(x)で示されるように、約46VのDCオフセットを印加した場合、m/z比1822に対して0.65m/zよりも良好なピーク幅が得られると判断された。トラッピング空間内にマークがトラップされたままとなることを保証するのに、12Vの軸方向電位の値が知られている(12Vよりも低い電位の値でもこれを保証できる)のでm/z1822にて12から46へ徐々に変化するDCオフセット、すなわちm/zにつき(46−12)/1822=約19mVが必要である。図5は、このように徐々に変化するDCオフセット電位を使用することにより、高いm/z値における分解能を大幅に改善できることを示している。
【0038】
DCオフセット較正は、通常のスキャンレート(60μsec/amu)を使って実行されたが、DおよびFによってそれぞれ示されるように、高いスキャンレート(200μsec/amu)およびズームスキャンレート(900μsec/amu)の双方に対して改善がなされることが分かった。
【0039】
端部電極210、215のうちの少なくとも1つで、徐々に変化するDCオフセットを利用すると、ピーク幅が0.65amuより下まで低下することが分かる(分解能は既に高くなっている)。この値は標準的なイオントラップの性能の仕様に近く、このデバイスが有効な質量スペクトルを発生するのを可能にする。
【0040】
ほとんどの方法を使って分解能を改善するための妥協方法は、イオンクラウドのサイズが圧縮されることに起因し、空間電荷を増加し、デバイスの容量を小さくすることである。図6は、イオントラップの容量を関数とする端部部分または端部電極の電圧のプロットを示す。この図は、2つの異なるm/z比の値524.3および1122に対する通常のスキャンレートにおける空間電荷許容度に対する、徐々に変化するDCオフセットの作用を比較するものである。
【0041】
この特定のトラップが分解能の仕様をパスするのに必要とされる、46Vの固定された軸方向の電位を利用する場合、空間電荷許容度を約30%だけ低減する。徐々に変化するDCオフセットを使用すると、m/z比524および1122における空間電荷許容度は、約10%しか低減されないことが分かる。
【0042】
高品質の構造の二次元イオントラップに対しては、DCオフセットを徐々に減少しながら変化させることが必要であり、このような制御はより大きい空間電荷容量を有する、より高い品位のイオントラップを提供するものである。例えば12Vの軸方向の固定電位を使って1822で特定のイオントラップが0.69の平均ピーク幅を発生したことが分かっている。すべてのスキャンレートにおいて、分解能の較正を信頼できるようにパスするピーク幅を提供するのに、m/zランプ関数レート当たり2.5mVだけでよいと判断された。
【0043】
セグメント化されていない二次元のイオントラップを参照して説明したが、本発明の要旨はセグメント化された二次元のイオントラップ、すなわち本明細書で参考例として援用する「イオントラップ質量スペクトルメータシステムおよび方法」を発明の名称として、1995年5月30日にビール氏外に発行された米国特許第5,420,425号に記載されているような他の構造の二次元イオントラップにも適用できる。この場合、端部電極が端部部分の形状となり、各端部部分は細長い電極の対応する部分と同心状に配置された複数の電極を備える。
【0044】
実際には、図7はビール氏外を発明者とする米国特許第5,420,425号の図2Aに示されたイオントラップに類似する二次元のイオントラップ300の斜視図である。図7のこれら二次元イオントラップは、図2を参照して説明し、示した、イオントラップ200の場所を占める。図2の要素に類似する要素については、同じ番号を付けてある。図7のイオントラップ300は、単一セグメントの他に、図2の電極に類似する複数の細長い電極220、225、230、235を含む少なくとも1つの中心セグメント305を有する。図7のイオントラップ300は、端部電極の代わりに第1端部セグメント310および第2端部セグメント315を有し、これらセグメントは端部電極のそれぞれの組を備える。第1端部セグメント310は、第1の複数のロッド電極319、320、321および322を含む第1の組を有し、第2端部セグメント315は第2の複数のロッド電極311、312;313、および314を含む第2の組を有する。端部セグメント310、315のロッド電極は、中心セグメント304の細長い電極と同時に配置できる。中心セグメント305の細長い電極の各々および図2の実施例に類似する端部セグメント310、315の電極の各々に、コントローラを接続できる。
【0045】
以上で、特定の実施例を参照し、説明のために実施例を説明した。しかしながら、これら説明はすべてを網羅したものではなく、また本明細書に開示したものと同じ形態だけに本発明を限定するものではない。上記要旨を検討すれば、多くの変更または変形が可能である。本発明の原理およびその実際的な使用を最良に説明するよう、実施例を説明し、考えられる特定の用途に合いするように、当業者が種々の変形例と共に本発明および種々の実施例を最良に利用できるようにした。
【0046】
本願は、本発明者により2006年6月5日に出願された米国仮特許出願第60/811,263号に基づく優先権を主張するものである。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】種々のイオントラップ構造に対する軸方向トラッピング電位と軸方向位置との関係を示すグラフである。
【図2】軸方向トラップのための端部電極と共に、単一断面の二次元イオントラップを示す略図である。
【図3】イオントラップから質量対電荷比でイオンを放出するランプ関数状RF電位と共に、固定されたDCオフセットを印加することをグラフで示す。
【図4】イオントラップから質量対電荷比でイオンを放出する、徐々に変化する周期的電圧(RF)と共に、徐々に変化するDCオフセットの印加をグラフで示す。
【図5】異なるスキャン条件のもとでの種々のm/z値のイオンに対して得られる分解能を示すグラフである。
【図6】端部部分または端部電極のオフセットを変えた場合の2つのm/zに対するイオントラップ容量の変化を示すグラフである。
【図7】軸方向トラップのための端部電極を形成する端部部分を有する複数の部分を備えた、二次元イオントラップの別の実施例の、図2に類似した斜視略図である。
【符号の説明】
【0048】
200 イオントラップ
210、215 電極
220、225 第1ペア
230、235 第2ペア
240 トラッピング空間
245 開口部
255 開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1端部電極と第2端部電極との間に位置する複数の細長い電極を備え、これら複数の細長い電極と前記第1および第2端部電極とは、トラッピング空間を構成し、更に前記複数の細長い電極および前記端部電極の第1の組および前記第2の組と電気通信するコントローラとを備え、前記コントローラは前記複数の細長い電極のうちの少なくとも1つに印加される周期的な電圧を徐々に変え、よってイオントラップからイオンの質量対電荷比の大きさでイオンを径方向に放出すると共に、同時に前記複数の細長い電極に対する前記端部電極のうちの少なくとも1つのDCオフセットを徐々に変えるようになっている二次元イオントラップ。
【請求項2】
前記コントローラは、前記複数の細長い電極に対する前記第1および第2端部電極のDCオフセットを同時に徐々に変えるようになっている、請求項1に記載の二次元イオントラップ。
【請求項3】
前記コントローラは、一連のステップで前記DCオフセットを変えるようになっている、請求項1又は2に記載の二次元イオントラップ。
【請求項4】
前記ステップは、離散的である、請求項3に記載の二次元イオントラップ。
【請求項5】
前記放出されるイオンの前記質量対電荷比が増加するにつれ、前記コントローラはDCオフセットの大きさを増加するようになっている、請求項1乃至4の何れか1項に記載の二次元イオントラップ。
【請求項6】
前記コントローラは、前記質量対電荷比に対し、前記DCオフセットの値をリニアに増加する、請求項1乃至5の何れか1項に記載の二次元イオントラップ。
【請求項7】
前記コントローラは、特定の質量対電荷比の値の放出されたイオンに対して望まれる特定された最大ピーク幅に基づき、DCオフセットの大きさを増加する、請求項1乃至5の何れか1項に記載の二次元イオントラップ。
【請求項8】
前記周期的電圧は、RFトラッピング電圧である、請求項1乃至7の何れか1項に記載の二次元イオントラップ。
【請求項9】
前記第1および第2端部電極の各々は、前記細長い電極の対応する電極と同心状に配置された複数のロッド電極を備える、請求項1乃至8の何れか1項に記載の二次元イオントラップ。
【請求項10】
前記イオンは、前記細長い電極のうちの1つ以上に形成された少なくとも1つの開口部を通して放出される、請求項1乃至9の何れか1項に記載の二次元イオントラップ。
【請求項11】
第1端部電極および第2端部電極と、複数の細長い電極とを有する二次元イオントラップから逐次イオンを放出する質量のための方法であって、
(a)前記細長い電極のうちの少なくとも1つに印加される周期的な電圧を徐々に変え、よってイオンの質量対電荷比の大きさで前記イオントラップから径方向にイオンを放出するステップと、
(b)前記ステップ(a)と同時に、前記複数の細長い電極に対する前記端部電極のうちの少なくとも1つのDCオフセットを徐々に変えるステップとを備える、質量のための方法。
【請求項12】
前記複数の細長い電極に対する前記第1および第2端部電極のDCオフセットを徐々に変えるステップを更に備える、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
一連のステップで前記DCオフセットを変えるようになっている、請求項11乃至14の何れか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記ステップは、離散的である、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項15】
前記放出されるイオンの前記質量対電荷比が増加するにつれ、前記コントローラは、DCオフセットの大きさを増加させる、請求項11乃至14の何れか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記放出されるイオンの質量対電荷比の大きさが増加するにつれ、前記DCオフセットの値は、リニアに増加する、請求項11乃至15の何れか1項に記載の方法。
【請求項17】
特定の質量対電荷比の値の放出され、選択されたイオンに対して望まれる分解能により、DCオフセットの大きさを増加する、請求項11乃至16の何れか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記周期的電圧は、RFトラッピング電圧である、請求項11乃至17の何れか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記第1および第2端部電極のうちの少なくとも1つは、前記細長い電極の対応する電極と同心状に配置された複数のロッド電極を備える、請求項11乃至18の何れか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記細長い電極のうちの1つ以上に形成された少なくとも1つの開口部を通してイオンを放出するステップを更に備える、請求項11乃至19の何れか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2009−540500(P2009−540500A)
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−514275(P2009−514275)
【出願日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【国際出願番号】PCT/US2007/012001
【国際公開番号】WO2007/145776
【国際公開日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(501192059)サーモ フィニガン リミテッド ライアビリティ カンパニー (42)
【Fターム(参考)】