説明

ラーメン架構を有する構造物

【課題】杭基礎で支持されたラーメン架構を有する構造物において、ラーメン架構のスパ
ン中央部に位置する土間コンクリートに基礎梁機能を代替させることにより、スパン中央
部の基礎梁を省略して、柱脚部の固定度を確保するための基礎梁用の掘削量を低減すると
共に、基礎梁用の鉄筋やコンクリート等の材料費を減少して、工費の軽減と工期の短縮を
可能にする。
【解決手段】杭基礎3で支持されたラーメン架構1と土間コンクリート2を有する構造物
であって、ラーメン架構両端の柱脚部においては、土間コンクリートの端部に基礎梁状の
端部補強部4を設け、ラーメン架構のスパン中央部においては、土間コンクリートに基礎
梁機能を代替させることにより、柱脚部の固定度を確保すると共に、スパン中央部の基礎
梁を省略する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、杭基礎で支持されたラーメン架構を有する構造物に関し、詳しくは、ラーメ
ン架構両端の柱脚部が、各々、スパン方向において1本の基礎杭で支持された大スパン、
高階高のラーメン架構と土間コンクリートを有する大規模な構造物等の低コスト化技術に
関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、スパンが30m以上、階高が20m以上といった大スパン、高階高のラーメン
架構においては、柱脚がピン支持の場合、曲げモーメント・変形量ともに大きくなり、架
構上部の構造材数量の増大を招くので、層の剛性を確保するためには、ラーメン柱脚の固
定度確保が特に重要である。
【0003】
ラーメン柱脚の固定度を確保する手法としては、通常、次の三つが採用される。
第一の手法は、図7の(A)に示すように、ラーメン架構両端の柱脚部間に基礎梁9を設
けて、ラーメン架構に作用する水平力Qによる柱脚の曲げモーメントおよびせん断力を基
礎梁9に負担させることである。
第二の手法は、図7の(B)に示すように、スパン方向に間隔をあけて複数本の基礎杭3
,3を設置して、これらの基礎杭3,3の押し引きによる回転抵抗で柱脚の固定度を確保
することである。
第三の手法は、図7の(C)に示すように、柱脚を支持する大きな基礎10を設けて、基
礎10の回転抵抗で柱脚の固定度を確保することである。
【0004】
しかしながら、第一の手法においては、梁成の高い基礎梁9を造成するため、地盤の掘
削量が増加するうえ、基礎梁9の材料費や施工手間が多くかかり、工費、工期の両面で不
経済である。殊に、リフト、クレーン、コンベア等の搬送機器をコンピュータと連動させ
て、入出庫作業を自動化した多段高層の棚が設備された自動倉庫のように、スパンが30
m以上、階高が20m以上といった大スパン、高階高のラーメン架構を有し、しかも、こ
のラーメン架構が桁行き方向に所定間隔おきに多数配置された大規模な構造物である場合
、必要な積載荷重を支持することができる頑丈な土間コンクリート(自重を地盤に預けて
いるので、自らを空中で支持する必要がない鉄筋コンクリート造の床スラブ)が建屋全面
に構築されているにもかかわらず、その下面に長く且つ梁成の高い鉄筋コンクリート造の
基礎梁9を桁行き方向に所定ピッチで多数本築造することは、土工事の著しい増大を招く
のみならず、鉄筋やコンクリートなどの使用量が増え、極めて不経済である。
【0005】
第二の手法においては、本来の鉛直支持力だけなら柱1本につき1本の基礎杭3で済む
ところを、わざわざ基礎杭3を2本打ちしなければならず、工費、工期の両面で不経済で
あることは、第一の手法と大同小異である。しかも、2本の基礎杭3,3の押し引きによ
る回転抵抗で柱脚の固定度を確保するためには、2本の基礎杭3,3をスパン方向に広い
間隔を隔てて設置する必要があり、杭頭接合部のコンクリート量が増える点でも不経済で
ある。
【0006】
第三の手法では、本来ならば鉛直支持力だけで決まる経済的な基礎で済むところを、わ
ざわざ回転抵抗を得るために大きい基礎10にしなければならない点で、同様に、不経済
である。
【0007】
尚、カーポートのような小規模の構造物を対象とする技術ではあるが、土間コンクリー
トを構造体として活用することで、土の掘削や掘削土の搬出作業に要する手間や費用を低
減する技術が、特許文献1によって提案されている。しかし、この公知技術は、柱の地中
埋め込み部周囲から一体的に土間コンクリートを打設して、土間コンクリートを基礎とし
て利用するものであり、杭基礎で支持されたラーメン架構や、大スパン、高階高のラーメ
ン架構における層の剛性を確保する基礎梁については、特許文献1に開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−116754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の問題点を踏まえてなされたものであって、その目的とするところは、
杭基礎で支持されたラーメン架構を有する構造物において、ラーメン架構のスパン中央部
に位置する土間コンクリートに基礎梁機能を代替させることにより(例えば、基礎梁とし
て必要な曲げ剛性を確保させることにより)、スパン中央部の基礎梁を省略して、柱脚部
の固定度を確保するための基礎梁用の掘削量を低減すると共に、基礎梁用の鉄筋やコンク
リート等の材料費を減少して、工費の軽減と工期の短縮を可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明が講じた技術的手段は、次の通りである。即ち、
請求項1に記載の発明は、杭基礎で支持されたラーメン架構と土間コンクリートを有する
構造物であって、ラーメン架構両端の柱脚部においては、土間コンクリートの端部に基礎
梁状の端部補強部を設け、ラーメン架構のスパン中央部においては、土間コンクリートに
基礎梁機能を代替させることにより、柱脚部の固定度を確保すると共に、スパン中央部の
基礎梁を省略したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、冒頭で説明した第一の手法と同様に、基礎梁によって
ラーメン柱脚の固定度を確保する考え方に立脚するものであるにもかかわらず、土間コン
クリートの端部だけに基礎梁状の端部補強部を設けることにより、換言すれば、あたかも
土間コンクリートの端部にのみ基礎梁があるかのように配筋、コンクリート打設を行って
、土間コンクリートより厚みのある端部補強部を造成することにより、柱脚の固定度を高
めることができ、スパン中央部では、土間コンクリートは基礎梁よりも薄いが、桁行き方
向での支配幅が基礎梁の梁幅より十分に広いので、土間コンクリートであるにもかかわら
ず基礎梁として必要な曲げ剛性を確保できる。
【0012】
従って、ラーメン架構のスパン中央部に基礎梁を設けることなしにラーメン柱脚の固定
度確保が可能となり、柱脚部の固定度を確保するための基礎梁用の掘削量や基礎梁用の鉄
筋やコンクリート等の材料費を減少し、工費の軽減と工期の短縮が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るラーメン架構を有する構造物の1階床伏せ図である。
【図2】図1のA−A線断面拡大図である。
【図3】図1の要部拡大図である。
【図4】図3のB−B線断面拡大図である。
【図5】本発明の他の実施形態を示す縦断正面図である。
【図6】本発明の他の実施形態を示す1階床伏せ図の要部拡大図である。
【図7】従来技術の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1、図2は、杭基礎で支持され
たスパンSが30m以上、階高Hが20m以上といった大スパン、高階高のラーメン架構
1と屋内全面にわたる土間コンクリート2とを有する構造物を示す。ラーメン架構両端の
柱脚部は、各々、スパン方向において1本の基礎杭3で支持されている。ラーメン架構1
は、桁行き方向に所定間隔(例えば、7m間隔)で多数配置されている。桁行き方向両端
の構面にはブレース(図示せず)が設けられており、桁行き方向に隣り合うラーメン架構
1同士の間にも必要箇所にブレース(図示せず)が設けられている。
【0015】
ラーメン架構1の両端の柱脚部においては、図1〜図4に示すように、土間コンクリー
ト2の端部に基礎梁状の端部補強部4を設け、ラーメン架構1のスパン中央部においては
、土間コンクリート2に基礎梁機能を代替させることにより、柱脚部の固定度を確保する
と共に、スパン中央部の基礎梁を省略してある。基礎梁状を呈する端部補強部4の断面の
寸法は、縦横1m程度に設定されており、長さLは4m程度に設定されている。土間コン
クリート2の厚さは、構造物の用途(積載荷重)に応じて、適宜設定されるが、180m
m以上であることが望ましい。因みに、図示の実施形態では、構造物が自動ラック機械を
設置する自動倉庫であるため、積載荷重を考慮して、土間コンクリート2の厚さを500
mm程度に設定してある。
【0016】
尚、特別な検討がない限り、スパンSの端部範囲(端部補強部4の長さL)はスパンS
の1/4、スパン中央部の範囲はスパンSの2/4とするが、解析的な検討を施すことに
より、端部範囲(端部補強部4の長さL)は変更可能であり、端部範囲をスパンSの1/
4より狭く設定することができる。端部範囲を広く設定するほど、基礎梁の剛性が増大す
るが、その代わり、施工手間が増大して、不経済になる。従って、不経済にならないよう
に、基礎梁の剛性をある程度確保できる端部範囲を設計者が適宜設定する必要がある。因
みに、図示の例では端部範囲(端部補強部4の長さL)が4m程度であり、スパンSの1
/4よりかなり短いが、解析的にこの端部比率で十分な剛性が確保されることを確認して
いる。
【0017】
5は柱脚固定用のアンカーボルト、6は端部補強部4に埋設された補強鉄筋であり、梁
配筋と同じように、所要本数の主筋6aとあばら筋6bとでかご状に形成されている。端
部補強部4の外端は、アンカーボルト5や桁行き方向の鉄筋との干渉を防いで、主筋6a
の定着を容易にするため、杭頭接合部より適当距離(例えば、400mm程度)外側へ張
出してある。7は割栗石、8は捨てコンクリートである。
【0018】
上記の構成によれば、土間コンクリート2の端部だけに基礎梁状の端部補強部4を設け
ることにより、換言すれば、あたかも土間コンクリート2の端部にのみ基礎梁があるかの
ように配筋、コンクリート打設を行って、土間コンクリート2より厚みのある端部補強部
4を造成することにより、柱脚の固定度を高めることができ、スパン中央部では、土間コ
ンクリート2は基礎梁よりも薄いが、桁行き方向での支配幅が基礎梁の梁幅より十分に広
いので、土間コンクリート2であるにもかかわらず基礎梁として必要な曲げ剛性を確保で
きる。
【0019】
従って、ラーメン架構1のスパン中央部に基礎梁を設けることなしにラーメン柱脚の固
定度確保が可能となり、柱脚部の固定度を確保するための基礎梁用の掘削量や基礎梁用の
鉄筋やコンクリート等の材料費を減少し、工費の軽減と工期の短縮が可能である。
【0020】
また、上記の実施形態においては、ラーメン架構両端の柱脚部を支持する基礎杭3が、
夫々、スパン方向において1本であるから、冒頭で説明した第二の手法のように、2本の
基礎杭3,3の押し引きによる回転抵抗で柱脚の固定度を確保する場合に比して、スパン
方向における杭頭接合部のコンクリート量が少なくて済み、経済的である。
【0021】
図5は、本発明の他の実施形態を示す。この実施形態は、端部補強部4を垂直ハンチと
した点に特徴がある。その他の構成や作用は先の実施形態と同じであるため、説明を省略
する。
【0022】
図6は、本発明の他の実施形態を示す。この実施形態は、ラーメン架構両端の柱脚部を
支持する基礎杭3が、夫々、桁行き方向において複数本(図示の例では2本)であること
を特徴としている。
【0023】
この構成によれば、ラーメン架構両端の柱脚部を支持する基礎杭3が、夫々、桁行き方
向において複数本であるから、基礎杭が1本だけでは支持力が不足するような条件下にお
いて、複数本の基礎杭3で十分な支持力を確保しながらも、スパン方向における杭頭接合
部のコンクリート量が少なくて済み、経済的である。その他の構成や作用は先の実施形態
と同じであるため、説明を省略する。
【符号の説明】
【0024】
1 ラーメン架構
2 土間コンクリート
3 基礎杭
4 端部補強部
5 アンカーボルト
6 補強鉄筋
6a 主筋
6b あばら筋
7 割栗石
8 捨てコンクリート
9 基礎梁
10 基礎
S スパン
L 端部補強部の長さ
H 階高
Q 水平力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
杭基礎で支持されたラーメン架構と土間コンクリートを有する構造物であって、ラーメ
ン架構両端の柱脚部においては、土間コンクリートの端部に基礎梁状の端部補強部を設け
、ラーメン架構のスパン中央部においては、土間コンクリートに基礎梁機能を代替させる
ことにより、柱脚部の固定度を確保すると共に、スパン中央部の基礎梁を省略したことを
特徴とするラーメン架構を有する構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−112936(P2013−112936A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257089(P2011−257089)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】