説明

ラー油の製造方法

【課題】
α−リノレン酸を多く含むエゴマ油等の使用する植物油及び香辛料の特性を生かした処理を行うことで、トランス脂肪酸の生成を抑え、香味良好でバランスの良いラー油の製造方法を提供する。
【解決手段】
オレイン酸を多く含む第1の植物油、例えば菜種油を130℃〜180℃程度に加熱し、高温抽出に適した第1の香辛料、例えば唐辛子を加えて成分を抽出し、次にリノール酸を多く含む第2の植物油、例えばゴマ油を加えて100℃〜130℃程度に温度を調整し、低温抽出に適した第2の香辛料、例えばニンニクを加えて成分を抽出し、次にα−リノレン酸を多く含む第3の植物油、例えばエゴマ油を加えて60℃〜100℃程度に温度調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α−リノレン酸を多く含むエゴマ油等を使用したラー油の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
独立行政法人国立健康・栄養研究所の、「国民栄養の現状」は昭和20年からの日本人の食生活の移り変わりを示している。昔の日本人の食生活は、主食である米を中心に大豆、 野菜、魚など国内で生産、捕獲された素材が中心だった。しかし、生活様式が欧米化してくる中で、食生活も肉食中心に移行してきている。また、調理法も煮る、蒸す、焼くといった方法に、炒める、揚げるといった油を多用する調理法が加わった。こうした食生活の変化と比例するように、肥満や生活習慣病、アレルギー疾患の増加が問題視され始めた。
【0003】
こうした食生活の変化がもたらしたものの1つが、油の摂取バランスの乱れである。通常摂取している脂肪酸には、分子内に炭素―炭素二重結合を持たない飽和脂肪酸(Saturate)と分子内に炭素―炭素二重結合を一つ持つ一価不飽和脂肪酸(Monounsaturate)、および分子内に複数の炭素―炭素二重結合を持つ多価不飽和脂肪酸(polyunsatuate)があり、さらに多価不飽和脂肪酸は炭素―炭素二重結合の位置によりオメガ3系(以下ω3系という)とオメガ6系(以下ω6系という)とに分かれる。現代の日本人は、ω6系脂肪酸の摂取が過剰になり、ω3系脂肪酸の摂取が不足している。摂取脂肪酸のバランスが崩れることはで、血栓性疾患、及び炎症、さらには発癌にも影響することも指摘されている。こうした状況のもと、平成17年に厚生労働省が定めた「日本人の食事摂取基準」では、これら2つの脂肪酸の摂取バランスをω6系:ω3系=4:1とし、さらに生活習慣病の予防のためにもω3系脂肪酸の摂取を1日2.0〜2.9グラム以上とすべきという数値目標を定めた。しかし、加工品など意識の外で摂取している油も問題視されているため、ω3系脂肪酸の摂取はより意識して摂取する必要がある。
【0004】
こうした状況から、ω3系脂肪酸の内、α−リノレン酸を多く含む、エゴマ油、シソ油、アマニ油が注目されてきている。これらの油は、α−リノレン酸を総脂肪酸中に50%〜65%含んでいる。特にエゴマ油は高齢化する農家が栽培しやすいことや政府の減反政策が進むことが栽培の追い風となってきている。
【0005】
しかしながら、これらα−リノレン酸を多く含むエゴマ油、シソ油、アマニ油には独特の癖があり酸化や熱にも弱いため、摂取のし難さ、調理のし難さに問題があった。また、最近では、α−リノレン酸を多く含む例えばエゴマ油を、短時間で100℃以下で過熱使用するなら問題ないが、長時間高温(180℃)で加熱して使用する場合は、トランス脂肪酸を生成・増加させてしまうことがわかってきている。トランス脂肪酸とは、化学的な合成や精製の過程で作り出される変形した脂肪酸のことで、血液中や細胞中で異常な働きをすると言われており、「最も危険な油」とも呼ばれている。
【0006】
このような問題により、商品や調理のバリエーションが極めて少ないため、栽培者、販売者、消費者共、α−リノレン酸を多く含む油の特性を生かした商品の開発が望まれていた。
【0007】
一方、一般的なラー油は、ゴマ油を高温加熱(140〜180℃程度)し、その中に唐辛子やニンニク等の香辛料を加えて、加熱して辛味成分を抽出するようにして製造している。
【0008】
しかしながら、唐辛子の辛味成分の抽出に適している温度である140℃以上にゴマ油を加熱すると、ゴマの香味が失われ易く、またニンニクも焦げ易くなる問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、α−リノレン酸を多く含むエゴマ油等の使用する植物油及び香辛料の特性を生かした処理を行うことで、トランス脂肪酸の生成を抑え、香味良好でバランスの良いラー油の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するため本発明のラー油の製造方法にあっては、オレイン酸を多く含む第1の植物油を130℃〜180℃程度に加熱し、高温抽出に適した第1の香辛料を加えて成分を抽出し、次にリノール酸を多く含む第2の植物油を加えて100℃〜130℃程度に温度を調整し、低温抽出に適した第2の香辛料を加えて成分を抽出し、次にα−リノレン酸を多く含む第3の植物油を加えて60℃〜100℃程度に温度調整することを特徴とする。
【0011】
オレイン酸を多く含む第1の植物油は、菜種油であることを特徴とする。リノール酸を多く含む第2の植物油は、ゴマ油であることを特徴とする。α−リノレン酸を多く含む第3の植物油は、エゴマ油、シソ油、アマニ油の何れかであることを特徴とする。
【0012】
高温抽出に適した第1の香辛料は、唐辛子であることを特徴とする。低温抽出に適した第2の香辛料は、ニンニク、ジンジャー、オニオンのいずれか1つ又は2つ以上の組み合わせであることを特徴とする。
【0013】
第1〜第3の植物油の配合脂肪酸のバランスをω6系:ω3系=2〜4:1とするように配合比率を調整することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
α−リノレン酸を多く含むエゴマ油等の油をトランス脂肪酸の生成されない温度で加えるようにすることで、α−リノレン酸を多く含む油を含むラー油を製造することができ、商品や調理のバリエーションを広げることができる。また、α−リノレン酸を多く含む第3の植物油を加えて60℃程度以上に調整することで、低温殺菌とすることができ、別途殺菌処理を行う必要がなく効率的である。
【0015】
使用する油と香辛料の特性を生かす加熱処理を行うことで、香味良好でバランスの良いラー油が得られる。具体的には、第1〜3の植物油の配合脂肪酸のバランスをω6系:ω3系=2〜4:1とするように各油の配合比率を調整することで、理想的な摂取バランスのラー油を得ることができる。また、このことで、エゴマ特有の癖により摂取しにくかった人も容易に摂取可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のラー油の製造方法の実施の形態を説明する。
【0017】
このラー油の製造方法は以下の通りである。先ず、オレイン酸を多く含む第1の植物油として、菜種油を、50〜95重量%、130℃〜180℃程度に加熱する。加熱したら、高温抽出に適した第1の香辛料として、唐辛子やペッパー類を加えて加熱し成分を抽出する。唐辛子は、140℃程度で香味成分が最適に抽出される。なお、オレイン酸を多く含む第1の植物油としては、菜種油以外に、オリーブ油、ツバキ油等も使用できる。
【0018】
次に、ω6系脂肪酸の内、リノール酸を多く含む第2の植物油として、ゴマ油を、1〜35重量%加えて100℃〜130℃程度に温度を調整し、次に低温抽出に適した第2の香辛料として、ニンニク、ジンジャー、オニオンなど糖質を含み焦げやすい低温抽出に適した香辛料を加えて成分を抽出する。ゴマ油は、130℃を超えて加熱すると、その香味が失われてしまうので、注が必要である。なお、リノール酸を多く含む第2の植物油としては、ゴマ油以外に、コーン油、ヒマワリ油等も使用できる。
【0019】
次に、ω3系脂肪酸の内、α−リノレン酸を多く含む第3の植物油として、エゴマ油を、5〜50重量%加えて60℃〜100℃程度になるよう温度を調整する。100℃以上に加熱しないように調整することで、トランス脂肪酸は生成されない。また、60℃程度以上とすることで、低温殺菌とすることができ、別途殺菌処理を行う必要がなく効率的である。なお、α−リノレン酸を多く含む第3の油としては、エゴマ油以外に、シソ油、アマニ油も使用できる。
【0020】
最後に、油をろ過して、容器に充填して製品は完成である。場合によっては、ろ過せず容器に充填しても良い。
【0021】
第1〜第3の植物油の配合脂肪酸のバランスを、ω6系:ω3系=2〜4:1とするように配合比率を適宜調整することで、理想的な摂取バランスのラー油を得ることができる。
【実施例】
【0022】
以下に実施例について説明するが、本発明はこの実施例のみに限定されるものではない。
【0023】
この実施例にあっては、第1の植物油として菜種油、第2の植物油としてゴマ油、第3の植物油としてエゴマ油を使用する。また、第1の香辛料として唐辛子、第2の油としてニンニクを使用する。
【0024】
250gの菜種油(キザキノナタネの焙煎圧搾油)を147℃まで加熱し、その後唐辛子を20g加えて加熱し、次に、30℃のゴマ油を150g加えると全体の温度は117℃まで低下した。さらに刻んだニンニクを50g加えると全体の温度は92℃まで低下した。さらに30℃のエゴマ油を100g加えると全体の温度は61℃まで低下した。その後、No.1の濾紙でろ過した後、容器に充填した。
【0025】
エゴマ油、ゴマ油、菜種油、それぞれの総脂肪酸中におけるオレイン酸、リノール酸、α−リノレン酸の含まれる配合率を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
この実施例で製造したラー油の、リノール酸(ω6系):α−リノレン酸(ω3系)比は、1.6:1となった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレイン酸を多く含む第1の植物油を130℃〜180℃程度に加熱し、高温抽出に適した第1の香辛料を加えて成分を抽出し、次にリノール酸を多く含む第2の植物油を加えて100℃〜130℃程度に温度を調整し、低温抽出に適した第2の香辛料を加えて成分を抽出し、次にα−リノレン酸を多く含む第3の植物油を加えて60℃〜100℃程度に温度調整することを特徴とするラー油の製造方法。
【請求項2】
前記オレイン酸を多く含む第1の植物油は、菜種油であることを特徴とする請求項1記載のラー油の製造方法。
【請求項3】
前記リノール酸を多く含む第2の植物油は、ゴマ油であることを特徴とする請求項1記載のラー油の製造方法。
【請求項4】
前記α−リノレン酸を多く含む第3の植物油は、エゴマ油、シソ油、アマニ油の何れかであることを特徴とする請求項1記載のラー油の製造方法。
【請求項5】
前記高温抽出に適した第1の香辛料は、唐辛子であることを特徴とする請求項1記載のラー油の製造方法。
【請求項6】
前記低温抽出に適した第2の香辛料は、ニンニク、ジンジャー、オニオンのいずれか1つ又は2つ以上の組み合わせであることを特徴とする請求項1記載のラー油の製造方法。
【請求項7】
前記第1〜第3の植物油の配合脂肪酸のバランスをω6系:ω3系=2〜4:1とするように各油の配合比率を調整することを特徴とする請求項1記載のラー油の製造方法。


【公開番号】特開2010−279284(P2010−279284A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−134599(P2009−134599)
【出願日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(307008679)株式会社浅沼醤油店 (4)
【Fターム(参考)】