説明

リアクトル、リアクトル用コイル部品、コンバータ、及び電力変換装置

【課題】放熱性に優れるリアクトル、及びリアクトル用コイル部品を提供する。
【解決手段】リアクトル1Aは、筒状のコイル2と、筒状のコイル2の内外に配置されて閉磁路を形成する磁性コア3と、これらを収納するケース4Aとを具える。磁性コア3の少なくとも一部(ここでは、コイル2の外周側に設けられた外側コア部32)は、磁性体粉末と樹脂とを含む複合材料から構成される。ケース4Aは、底板部40と壁部41とが独立した部材である。リアクトル1Aは、コイル2と、非磁性金属材料から構成された底板部40とが絶縁性樹脂からなる樹脂モールド部21によって一体に保持されている。樹脂モールド部21によって、コイル2と底板部40とが固定されることで、コイル2の熱を設置対象に効率よく伝えられ、リアクトル1Aは、放熱性に優れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド自動車などの車両に搭載される車載用DC-DCコンバータや電力変換装置の構成部品などに利用されるリアクトル、リアクトル用コイル部品、このリアクトルを具えるコンバータ、及びこのコンバータを具える電力変換装置に関するものである。特に、放熱性に優れるリアクトルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電圧の昇圧動作や降圧動作を行う回路の部品の一つに、リアクトルがある。例えば、特許文献1は、ハイブリッド自動車などの車両に載置されるコンバータに利用されるリアクトルを開示している。このリアクトルは、筒状のコイルと、コイルの内外に配置される磁性コアと、コイルと磁性コアとを収納する有底筒状のケースとを具える。特許文献1では、磁性コアのうち、コイルの外周面及び端面を覆う箇所が磁性体粉末と樹脂との複合材料からなる形態を開示している。
【0003】
車載部品に利用されるリアクトルでは、一般に、通電時に発熱するコイルなどを冷却するために、冷却ベースといった設置対象に固定されて利用される。上記ケースは、アルミニウムなどの熱伝導性に優れる材料から構成され(特許文献1の明細書の段落[0039]など)、このケースの外底面が設置対象に接するように固定されて、放熱経路として利用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-124310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
磁性コアの少なくとも一部が上述の樹脂を含む複合材料で構成される形態のリアクトルに対して、更なる放熱性の向上が望まれる。
【0006】
上記複合材料のうち、樹脂は、一般に、上述のケースを構成する金属に比較して熱伝導率が小さく、放熱性に劣る。そのため、通電によって発熱するコイルの外周面や端面が上記複合材料で覆われた形態では、コイルの熱が篭り易い。上記複合材料からなる成形体を用意し、この成形体をコイルに組み付ける場合、コイルの外周面の一部を上記複合材料から露出させることができる。しかし、この成形体中に樹脂が存在することで、実質的に金属から構成される磁性コア(例えば、電磁鋼板の積層体)に比較して放熱性に劣る。そのため、上記複合材料からなる成形体を具える場合にも、放熱性の改善が望まれる。
【0007】
放熱性を向上するために、例えば、冷却ベースといった設置対象に接するケースの外底面に対して、コイルの軸が平行するようにコイルをケースに収納することが考えられる。この収納形態(以下、横型収納形態と呼ぶ)では、ケースの外底面にコイルの軸が直交するようにコイルをケースに収納する形態(以下、この収納形態を縦型収納形態と呼ぶ)と比較して、コイルの外周面において設置対象までの距離が短い領域が多くなることで、放熱性を高められる。
【0008】
しかし、コイルを円筒状などの曲面を有する形状とすると、コイルを形成し易いものの、特に横型収納形態では、ケースに安定してコイルを配置することが難しい。コイルの不安定な配置によって、放熱性の向上効果を十分に得られない恐れがある。また、横型収納形態では、コイルを安定して配置し難いことで、リアクトルの生産性の低下を招く。
【0009】
そこで、本発明の目的の一つは、放熱性に優れるリアクトルを提供することにある。また、本発明の他の目的は、放熱性に優れるリアクトルが得られるリアクトル用コイル部品を提供することにある。更に、本発明の他の目的は、放熱性に優れるリアクトルを具えるコンバータ、このコンバータを具える電力変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ケースを構成する底板部と壁部とを独立した部材とし、底板部とコイルとを樹脂によって一体に保持することで上記目的を達成する。
【0011】
本発明のリアクトルは、筒状のコイルと、上記コイルの内外に配置されて閉磁路を形成する磁性コアと、上記コイルと上記磁性コアとを収納するケースとを具える。上記磁性コアの少なくとも一部は、磁性体粉末と樹脂とを含む複合材料から構成されている。上記ケースは、非磁性金属材料から構成されており、上記コイルと上記磁性コアとの組物が配置される底板部と、上記底板部とは独立した部材であり、この底板部に取り付けられて、上記組物の周囲を囲む壁部とを具える。そして、本発明のリアクトルは、絶縁性樹脂から構成されており、上記コイルの外周の少なくとも一部を覆って、その形状を保持すると共に、上記コイルと上記底板部とを一体に保持する樹脂モールド部を具える。
【0012】
本発明のリアクトルは、一般に熱伝導性に優れる金属材料から構成された底板部が樹脂モールド部によってコイルに一体化されていることから、コイルをケースの底部に直接配置する場合と比較して、コイルにおける底板部に対する配置状態が安定している。従って、本発明のリアクトルは、コイルの熱が底板部に伝わり易く、底板部が接する設置対象に効率よくコイルの熱を伝えられ、放熱性に優れる。
【0013】
また、本発明のリアクトルは、樹脂モールド部によって、(1)コイルの形状を維持できるため、組立時、コイルが伸縮せずコイルを取り扱い易い、(2)コイルと底板部とを一体化しているため、この底板部と壁部とを組み付けてケースを構築することで、コイルをケースに収納した状態にでき、重量物のコイルを壁部の開口部から入れる必要がなく、収納作業が容易である。更に、樹脂モールド部は、射出成形などを利用することで、コイルの外周の少なくとも一部を覆うと共に、底板部を一体化するといった複雑な形状であっても、容易に成形可能である。加えて、リアクトルの組立途中において、底板部に対してコイルの位置がずれず、精度よくリアクトルを製造することができる。例えば、ケースを成形型として注型成形によって上述の複合材料を形成する場合、複合材料となる混合物をケースに充填している最中にケース内でコイルの位置がずれない。また、底板部を適宜な形状とすることで、コイルの熱を上記底板部により効率よく伝えられて、放熱性を高められる。本発明では、リアクトルの製造段階において、底板部と壁部とが独立した部材であるため、例えば、コイルの形状に沿った溝を有するなど任意の形状に底板部を容易に成形できる。従って、従来の底部と壁部とが一体成形されたケースの内底面にコイルの形状に沿った嵌合溝を形成するなどの場合に比較して、ケースの構成部品を所望の形状に容易に製造できる。これらの点から、本発明のリアクトルは、生産性にも優れる。
【0014】
その他、樹脂モールド部が絶縁性樹脂で構成されることから、コイルと磁性コア間やコイルと底板部間に介在された絶縁性樹脂によって、コイルと磁性コア間の絶縁性やコイルと底板部間の絶縁性を高められる。
【0015】
上記本発明のリアクトルの構成部品として、以下の本発明のリアクトル用コイル部品を好適に利用することができる。本発明のリアクトル用コイル部品は、筒状のコイルと、このコイルの内外に配置されて閉磁路を形成する磁性コアとがケースに収納されたリアクトルの構成部品に利用されるものである。このリアクトル用コイル部品は、筒状のコイルと、非磁性金属材料から構成されており、上記ケースにおいて上記コイルと上記磁性コアとの組物が配置される底板部と、絶縁性樹脂から構成されており、上記コイルの外周の少なくとも一部を覆って、その形状を保持すると共に、上記コイルと上記底板部とを一体に保持する樹脂モールド部とを具える。但し、上記リアクトルは、上記磁性コアの少なくとも一部が磁性体粉末と樹脂とを含む複合材料から構成されるものとする。また、上記ケースの底板部には、この底板部とは独立した部材であって、上記組物の周囲を囲む壁部が取り付けられるものとする。
【0016】
本発明のリアクトル用コイル部品は、上述のように熱伝導性に優れる底板部とコイルとを樹脂モールド部によって一体化している。この構成により、本発明のリアクトル用コイル部品をリアクトルの構成要素に利用することで、放熱性に優れるリアクトルが得られる。また、本発明のリアクトル用コイル部品は、上述のように取り扱い易く、組立作業性にも優れることから、放熱性に優れるリアクトルの生産性の向上にも寄与することができる。
【0017】
本発明のリアクトルの一形態として、上記コイルが横並びされた一対の筒状のコイル素子を具え、上記磁性コアが上記複合材料から構成された形態が挙げられる。また、本発明のリアクトル用コイル部品の一形態として、上記磁性コアが上記複合材料から構成されたリアクトルに利用されるものであり、上記コイルが横並びされた一対の筒状のコイル素子を具える形態が挙げられる。
【0018】
上記形態は、一対のコイル素子を具えることで、ターン数が多くても、コイルの軸方向の長さを短くでき、小型にできる。また、上記形態は、磁性コアの全体が上記複合材料から構成されるものの、コイルと底板部とが近接配置された状態が樹脂モールド部の構成樹脂によって保持されるため、放熱性に優れる。更に、上記形態は、磁性体粉末の種類や含有量によって種々の磁気特性の磁性コアを容易に製造できる上に、磁性コアの形状の自由度も大きい。
【0019】
本発明のリアクトルの一形態として、上記コイルが筒状のコイル素子を一つのみ具え、上記磁性コアのうち、上記コイル素子の外周側に配置される箇所の少なくとも一部が上記複合材料から構成されており、上記コイル素子の外周のうち、上記複合材料に覆われる箇所が上記樹脂モールド部の構成樹脂によって覆われている形態が挙げられる。また、本発明のリアクトル用コイル部品の一形態として、上記コイルが筒状のコイル素子を一つのみ具え、上記コイル素子の外周のうち、上記複合材料に覆われる箇所が上記樹脂モールド部の構成樹脂によって覆われている形態が挙げられる。このリアクトル用コイル部品は、上記磁性コアのうち、上記コイル素子の外周側に配置される箇所の少なくとも一部が上記複合材料から構成されたリアクトルに利用される。
【0020】
上記形態は、コイル素子が一つであることで、小型なリアクトルとすることができる。また、上記形態は、コイルの外周の少なくとも一部が上記複合材料によって覆われているものの、コイルと底板部とが近接配置された状態が樹脂モールド部の構成樹脂によって保持されるため、放熱性に優れる。
【0021】
本発明のリアクトル及び本発明のリアクトル用コイル部品の一形態として、上記底板部において上記樹脂モールド部に覆われる被覆領域の少なくとも一部に粗面化処理が施された形態が挙げられる。
【0022】
粗面化処理によって、底板部と樹脂モールド部の構成樹脂との接触面積を増大して、両者の密着性を高められる。従って、上記形態は、樹脂モールド部の構成樹脂を介して、コイルと底板部とが強固に接合され、コイルの熱を底板部に伝え易く、放熱性に優れる。また、粗面化処理によって底板部自体の表面積が大きいことからも、上記形態は、放熱性に優れる。
【0023】
本発明のリアクトル及び本発明のリアクトル用コイル部品の一形態として、上記底板部が上記コイルの外周面に沿った支持面が設けられた放熱台部を具える形態が挙げられる。
【0024】
支持面によって、コイルの外周面のより広い領域が底板部に近接して配置されるため、コイルの熱を底板部により効率よく伝えられ、上記形態は、放熱性に優れる。また、コイルの外周面と放熱台部の支持面との間に樹脂モールド部の構成樹脂が均一的な厚さで介在することで、上記形態は、絶縁性にも優れる。
【0025】
本発明のリアクトルの一形態として、上記壁部の開口部を覆う蓋部と、非磁性金属材料から構成されており、上記樹脂モールド部の構成樹脂によって上記コイルと一体に保持され、上記蓋部が取り付けられる蓋側台部とを具える形態が挙げられる。また、本発明のリアクトル用コイル部品の一形態として、非磁性金属材料から構成されており、上記樹脂モールド部の構成樹脂によって上記コイルと一体に保持され、上記ケースを構成する壁部の開口部を覆う蓋部が取り付けられる蓋側台部を具える形態が挙げられる。
【0026】
上記形態は、蓋側台部や蓋部も放熱経路に利用でき、放熱性により優れる。また、蓋部によって壁部の開口部を覆うことで、ケースの収容物に対する外部環境からの保護・機械的保護を図ることができる。
【0027】
本発明のリアクトルの一形態として、上記ケースが上記壁部と一体に成形された蓋部を具える形態が挙げられる。
【0028】
上記形態は、壁部と蓋部とが一体物であるため、蓋部の取付作業が不要であり、組立作業性に優れる。また、蓋部を具えることで、上述のように放熱性の向上やケースの収容物の保護を図ることができる。
【0029】
本発明のリアクトルの一形態として、上記磁性コアのうち、上記コイルの内側に配置される内側コア部が上記樹脂モールド部の構成樹脂によって上記コイルと一体に保持された形態が挙げられる。また、本発明のリアクトル用コイル部品の一形態として、上記リアクトルに具える上記磁性コアのうち、上記コイルの内側に配置される内側コア部が上記樹脂モールド部の構成樹脂によって上記コイルと一体に保持された形態が挙げられる。
【0030】
上記形態は、コイルに加えて、磁性コアの一部も樹脂モールド部によって一体化されていることで、リアクトルの組立作業性に優れる。
【0031】
本発明のリアクトルの一形態として、上記コイルが上記底板部の外底面に対してコイルの軸が平行するように上記ケースに収納された形態が挙げられる。また、本発明のリアクトル用コイル部品の一形態として、上記コイルが上記底板部の外底面に対してコイルの軸が平行するように取り付けられた形態が挙げられる。
【0032】
上記形態は、上述の横型収納形態のリアクトルを構築することができ、コイルの外周面において設置対象までの距離が短い領域を十分に広く有することで、放熱性に優れる。
【0033】
本発明のリアクトルの一形態として、上記ケースが上記リアクトルを設置対象に固定するための取付部を一体に具える形態が挙げられる。また、本発明のリアクトル用コイル部品の一形態として、上記底板部が上記リアクトルを設置対象に固定するための取付部を一体に具える形態が挙げられる。
【0034】
上記形態は、ボルトなどの固定部材を利用することで、リアクトルを設置対象に容易に取り付けることができる。
【0035】
本発明のコンバータは、本発明のリアクトルを具える。本発明の電力変換装置は、本発明のコンバータを具える。
【0036】
本発明のコンバータや本発明の電力変換装置は、放熱性に優れる本発明のリアクトルを具えることで、放熱性に優れ、車載部品、特にコンバータの構成部品や電力変換装置の構成部品などに好適に利用することができる。
【発明の効果】
【0037】
本発明のリアクトルは、放熱性に優れる。本発明のリアクトル用コイル部品は、放熱性に優れるリアクトルを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】(A)は、実施形態1に係るリアクトルの概略斜視図、(B)は、図1(A)における(B)-(B)断面図である。
【図2】実施形態1に係るリアクトルの分解斜視図である。
【図3】実施形態1に係るリアクトルに具えるコイル部品において樹脂モールド部によって保持される構成部材の概略斜視図である。
【図4】実施形態2に係るリアクトルの概略斜視図である。
【図5】実施形態3に係るリアクトルの概略斜視図である。
【図6】実施形態3に係るリアクトルの分解斜視図である。
【図7】実施形態5に係るリアクトルに具えるコイルと、内側コア部と、底板部とを示す概略斜視図である。
【図8】実施形態5に係るリアクトルに具えるコイルと、内側コア部と、底板部とを示す概略斜視図であり、コイルの端面形状が異なる例を示す。
【図9】ハイブリッド自動車の電源系統を模式的に示す概略構成図である。
【図10】本発明のコンバータを具える本発明の電力変換装置の一例を示す概略回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。図中の同一符号は同一名称物を示す。
【0040】
[実施形態1]
図1〜図3を参照して、実施形態1のリアクトル1Aを説明する。リアクトル1Aは、巻線2wを螺旋状に巻回してなる一つの筒状のコイル素子を主体とするコイル2と、コイル2の内外に配置されて閉磁路を形成する磁性コア3とを具え、コイル2と磁性コア3とは、ケース4Aに収納されている。リアクトル1Aは、代表的には、冷却ベースなどの設置対象にケース4Aが設置されて使用される。磁性コア3は、コイル2内に配置された柱状の内側コア部31と、コイル2の外周側に配置された外側コア部32とを具える。ここでは、外側コア部32は、磁性体粉末と樹脂とを含む複合材料から構成されている。リアクトル1Aの特徴とするところは、ケース4Aを構成する底板部40と壁部41とが一体に成形されておらず独立した部材である点、コイル2とこの底板部40とが樹脂モールド部21によって一体に保持されたコイル部品20Aを具える点にある。以下、各構成を詳細に説明する。
【0041】
(コイル部品)
コイル部品20Aは、図2,図3を参照して説明する。実施形態1のリアクトル1Aに具えるコイル部品20Aは、コイル2と、ケース4Aを構成する底板部40と、磁性コア3を構成する内側コア部31と、これらを一体に保持する樹脂モールド部21とを具える。
【0042】
<コイル>
コイル2は、1本の連続する巻線2wを螺旋状に巻回してなる複数のターンから構成される筒状のコイル素子を具える。巻線2wは、銅やアルミニウム、その合金といった導電性材料からなる導体の外周に、絶縁材料(代表的にはポリアミドイミドといったエナメル材料)からなる絶縁被覆を具える被覆線が好適である。導体は、横断面形状が長方形状である平角線、円形状である丸線、多角形状である異形線などの種々の形状のものを利用できる。ここでは、コイル(コイル素子)2は、導体が銅製の平角線からなり、絶縁被覆がエナメルからなる被覆平角線をエッジワイズ巻きにして形成されたエッジワイズコイルとしている。エッジワイズコイルは、占積率を高めて小型なコイルとし易く、リアクトルの小型化に寄与する。
【0043】
コイル(コイル素子)2の端面形状は、適宜選択することができる。ここでは、端面は、直線と円弧とを組み合わせて構成されるレーストラック状であり、コイル2の外周面の少なくとも一部が平面で構成される。ここで、実施形態1のリアクトル1Aは、ケース4Aにおいて平面で構成された外底面40o(図1(B))に対して、コイル2の軸が平行するようにケース4Aにコイル2が収納された横型収納形態である。横型収納形態では、コイル2の外周面のうち上記平面をケース4の外底面40oに平行に配置することで、コイル2の外周面から外底面40oまでの距離が短い領域を多くすることでき、放熱性を高められる。従って、横型収納形態では、上述のレーストラック状のように外周面の少なくとも一部が平面で構成されたコイルが好ましい。その他の形状として、例えば、端面が多角形(例えば、長方形など)で各角部を丸めた形状のコイル(後述の図7参照)などを好適に利用できる。一方、コイル2の端面形状を円形や楕円などの実質的に曲線のみからなる形状とすると、巻線に平角線を用いた場合でも巻回し易く、コイルの製造性に優れる。円筒状のコイルでも、樹脂モールド部21によって底板部40に固定されることで、リアクトルの組立時、底板部40に対するコイル2の位置が安定して維持される。
【0044】
コイル2を形成する巻線2wにおいて各端部側の領域は、図3に示すようにターン部分から適宜引き延ばされ、銅やアルミニウムなどの導電性材料からなる端子部材(図示せず)が接続される。端子部材を介して、コイル2に電力が供給される。巻線2wの各端部の引き出し方向は適宜選択することができる。ここでは、巻線2wの各端部をコイル2の一端側及び他端側にそれぞれ引き出しているが、巻線2wの一端部側の領域をコイル2の他端側に向かって適宜折り返して、巻線2wの両端部がコイル2の一端側に配置された形態とすることができる。なお、巻線2wの両端部は、ケース4Aから露出させた形態が代表的であるが、ケース4A内に収納することもできる。
【0045】
コイル2においてターン部分から延ばされた巻線2wの引出箇所には、ターン部分に比較して、高電圧が加わる場合がある。従って、巻線2wの引出箇所のうち、少なくとも磁性コア3(外側コア部32)との接触部分に絶縁物を配置すると、コイル2と磁性コア3(特にここでは外側コア部32)との間の絶縁性を高められる。ここでは、図1,図2に示すように、巻線2wの引出箇所を樹脂モールド部21によって覆っている。その他、絶縁紙や絶縁テープ(例えば、ポリイミドテープ)、絶縁フィルム(例えば、ポリイミドフィルム)などを適宜巻き付けたり、絶縁性材料をディップコーティングしたり、絶縁性チューブ(熱収縮チューブ及び常温収縮チューブのいずれでもよい)を配置する形態が挙げられる。巻線2wの引出箇所を樹脂モールド部によって覆わない形態では、樹脂モールド部の外形を単純にできるため、コイル部品を成形し易く、樹脂モールド部によって覆う形態では、別途、絶縁物を配置する必要がなく、工程数を低減できる。
【0046】
<内側コア部>
コイル2の内部に挿通配置される内側コア部31は、図3に示すようにコイル2の内周形状に沿った外形を有する柱状体である。ここでは内側コア部31は、軟磁性金属粉末を利用した圧粉成形体から構成している。詳細は、後述する。
【0047】
<底板部>
底板部40は、ケース4Aの一部を構成すると共に、コイル2を支持しつつ、放熱経路として機能する板状の部材である。リアクトル1Aを冷却ベースといった設置対象に設置したとき、底板部40の外底面40o(図1(B))が設置対象に接して配置され、その対向面:内底面40iに、コイル2と磁性コア3との組物が配置され、かつその周縁部に後述する壁部41が取り付けられる。ケース4Aの詳細は後述する。そして、この底板部40は、コイル2の表面の一部を覆うように配置され、この配置状態が樹脂モールド部21によって維持される。
【0048】
底板部40は、コイル2に近接配置されるため、その構成材料は、非磁性材料とする。かつ、底板部40は、コイル2の放熱経路に利用されるため、その構成材料は、一般に熱伝導性に優れる金属材料とする。底板部40の構成材料は、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金が挙げられる。列挙した非磁性金属は、軽量であるため、軽量化が望まれる車載部品の構成材料に適する。底板部40が金属から構成されることで、鋳造や切削加工、塑性加工などにより、所望の形状に容易に製造できる。ここでは、底板部40は、アルミニウム合金から構成している。
【0049】
底板部40は、図3に示すように、その表裏面:内底面40i,外底面40o(図1(B))が平面で構成された矩形板状の部材であり、内底面40iにおいてコイル2が配置される箇所に放熱台部401が一体に成形されている。ここでは、2つの放熱台部401を具える。各放熱台部401はいずれも、コイル(コイル素子)2の全長に亘って、コイル2の外周面に沿って配置され、コイル2の外周面に沿った形状の支持面402を具える。支持面402は、レーストラック状のコイル2の外周面に沿った曲面で構成され、コイル2の外周面の一部、ここでは設置側(図3において下方側)の領域の曲面を覆うことが可能な面積を有する。放熱台部401は、支持面402の他、支持面402に繋がり、コイル2の端面に平行な一対の端面401eと、支持面402及び両端面401eに繋がり、コイル2の軸に平行な側面401sとで構成され、両端面401e及び側面401sはいずれも平面で構成されている。両放熱台部401は、各支持面402が向かい合うように、かつ、各支持面402における内底面40iに繋がる縁間に間隔があくように設けられている。レーストラック状のコイル2の外周面のうちの平面は、内底面40iにおいて両放熱台部401に挟まれた平面に平行するように配置される。
【0050】
コイル2の外周の実質的に全体が後述する樹脂モールド部21に覆われることで、コイル2と底板部40との間には、樹脂モールド部21の構成樹脂が介在する。そのため、主として金属材料から構成される両者間の絶縁性を高められる。ここでは、放熱台部401の支持面402がコイル2の外周面に沿っていると共に、二つの放熱台部401がコイル2の外周面に沿うように設けられていることで、コイル2と底板部40間に樹脂モールド部21の構成樹脂が均一的な厚さで存在する(図1(B))。
【0051】
底板部40の表面の少なくとも一部、特に、後述する樹脂モールド部21に覆われる領域には、粗面化処理を施すと、底板部40と樹脂モールド部21の構成樹脂との密着性を高められて好ましい。特に、コイル2と底板部40との密着性を高めるために、底板部40においてコイル2の外周面を覆う領域、つまり、支持面402、及び内底面40iの一部(二つの放熱台部401間の平面)の少なくとも一部に粗面化処理が施されていることが好ましい。
【0052】
粗面化処理は、例えば、最大高さが1mm以下、好ましくは0.5mm以下となるような微細な凹凸を設ける処理が挙げられる。具体的には、(1)アルマイト処理に代表される陽極酸化処理、(2)公知の手法による針状めっき、(3)公知の手法による分子接合化合物の植え付け、(4)レーザによる微細な溝加工、(5)公知の特殊溶液を用いたナノオーダーのディンプル形成、(6)エッチング処理、(7)サンドブラストやショットブラスト、(8)鑢がけ、(9)水酸化ナトリウムによる艶消し処理、(10)金属ブラシによる研削など、金属と樹脂との密着性を高めるための公知の手法を利用することができる。このような粗面化による表面積の増大によって、放熱性の向上も期待できる。
【0053】
その他、一般的な金属に対する切削加工により、溝(図示せず)や穴(図示せず)を形成したり、鋳造や塑性加工などにより、表面を凹凸形状としたりすることで、底板部40の表面積を大きくすることでも、底板部40と樹脂モールド部21の構成樹脂との接触面積の増大による密着性の向上や放熱性の向上を期待できる。
【0054】
底板部40において樹脂モールド部21によって覆われる領域が広いほど、底板部40と樹脂モールド部21との密着性を高められ、結果として、底板部40と共にコイル2も樹脂モールド部21に強固に保持される。ここでは、底板部40のうち、放熱台部401(支持面402,端面401e,側面401s)が樹脂モールド部21に覆われ、内底面40iにおける放熱台部401以外の領域、側面、及び外底面40o(図1(B))は、樹脂モールド部21に覆われておらず、露出されている。外底面40oが樹脂モールド部21から露出されていることで、放熱台部401から設置対象にコイル2の熱を伝え易く、放熱性に優れる。その他、端面401eや側面401sの一部又は全部が樹脂モールド部21から露出された形態、内底面40iの全面が樹脂モールド部21に覆われた状態などとすることができる。
【0055】
<樹脂モールド部>
樹脂モールド部21は、コイル2の表面の少なくとも一部を覆って、コイル2を一定の形状に保持する。そのため、コイル2は、樹脂モールド部21によって伸縮せず、組立時などで取り扱い易い。また、ここでは、樹脂モールド部21は、コイル2を自然長よりも圧縮した状態に保持する機能も有する。そのため、コイル2は、その長さが自然長よりも短く、小型である。更に、樹脂モールド部21は、絶縁性樹脂から構成されて、コイル2の表面を覆うことで、コイル2とその周辺部材(磁性コア3や底板部40(特に放熱台部401や内底面40i))との間の絶縁性を高める機能も有する。そして、樹脂モールド部21は、コイル2と底板部40とを一体に保持する部材としても機能する。実施形態1のリアクトル1Aでは、更に、樹脂モールド部21は、コイル2と、底板部40と、内側コア部31とを一体に保持する。従って、リアクトル1Aは、このようなコイル部品20Aを利用することで、組立部品の点数が少なく、組立作業性に優れる。
【0056】
ここでは、樹脂モールド部21は、コイル2と、コイル2内に挿通配置された内側コア部31と、コイル2の外周面の一部を覆うように配置される放熱台部401を具える底板部40との組物において、上述した端子部材が接続される巻線2wの両端部、及び底板部40の内底面40iにおいて放熱台部401を除いた箇所を覆う。つまり、コイル2は、内周面及び外周面、並びに一対の端面、巻線2wの引出箇所の一部、内側コア部31は、外周面の全体、底板部40は、放熱台部401の支持面402及び側面401s並びに端面401eの全体が樹脂モールド部21によって覆われている。
【0057】
樹脂モールド部21の被覆領域は、適宜選択することができる。例えば、コイル2のターン部分の一部が樹脂モールド部21によって覆われず、露出された形態とすることができる。具体的には、コイル2と底板部40との間にのみ樹脂モールド部21の構成樹脂が介在する形態としても、コイル2の形状の維持、両者間の絶縁などを行える。又は、コイル2の外周のうち、少なくとも外側コア部32を構成する複合材料に覆われる箇所が樹脂モールド部21の構成樹脂によって覆われた形態としても、コイル2の形状の維持、コイル2と磁性コア3(外側コア部32)との間の絶縁を行える。しかし、本例のように、コイル2の実質的に全部を被覆する形態とすると、コイル2と磁性コア3間、及びコイル2と底板部40間に樹脂モールド部21の構成樹脂が介在することで、コイル2と磁性コア3及び底板部40と間の絶縁性を高められる。また、樹脂モールド部21によるコイル2の被覆領域が多いほど、コイル2の形状を保持し易い。
【0058】
ここでは、内側コア部31の両端面31e及びその近傍が樹脂モールド部21に覆われずに露出され、後述する外側コア部32を構成する複合材料と接触する形態であるが、少なくとも一方の端面31eが樹脂モールド部21に覆われた形態とすることができる。このとき、内側コア部31の端面31e上に存在する樹脂は、ギャップとして利用できる。
【0059】
樹脂モールド部21の厚さは、適宜選択することができ、例えば、0.1mm〜10mm程度が挙げられる。樹脂モールド部21の厚さが厚いほど、絶縁性を高められ、薄いほど、放熱性を高められる上にコイル部品の小型化を図ることができる。薄くする場合、上記厚さは、0.1mm〜3mm程度が好ましく、所望の絶縁強度などを満たす範囲で適宜選択するとよい。また、被覆箇所の全域に亘って厚さが同じである形態、部分的に厚さが異なる箇所を有する形態のいずれも利用することができる。例えば、図1(B)に示すように、樹脂モールド部21において、放熱台部401の側面401s及び端面401e(図3)を覆う箇所の厚さを比較的薄く、コイル2を覆う箇所の厚さを比較的厚くすると、コイル2と磁性コア3間の絶縁性、コイル2と放熱台部401間の絶縁性を効果的に高められる。ここでは、樹脂モールド部21においてコイル2の表面を覆う箇所の厚さを均一的とし、放熱台部401の側面401s及び端面401eを覆う箇所の厚さも薄いものの均一的にしている。従って、コイル部品20Aの外形は、コイル2と、内側コア部31と、放熱台部401を具える底板部40とを組み合わせた組物と相似形状である。なお、コイル2と内側コア部31間に介在される樹脂モールド部21の構成樹脂によって、コイル2と内側コア部31とは同軸に配置されている。
【0060】
樹脂モールド部21を構成する絶縁性樹脂は、コイル2と磁性コア3間、コイル2と底板部40(特に放熱台部401や内底面40i)間を十分に絶縁可能な程度の絶縁特性と、リアクトル1Aの使用時における最高到達温度に対して軟化しない程度の耐熱性とを有し、トランスファー成形や射出成形などが可能な樹脂が好適に利用できる。例えば、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、不飽和ポリエステルなどの熱硬化性樹脂や、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、液晶ポリマー(LCP)などの熱可塑性樹脂が好適に利用できる。窒化珪素、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ほう素、及び炭化珪素から選択される少なくとも1種のセラミックスからなるフィラーを上記樹脂に混合したものを樹脂モールド部21に利用すると、絶縁性を向上できる上に、放熱性も高められる。特に、熱伝導率が1W/m・K以上、更に2W/m・K以上を満たすものを樹脂モールド部21に利用すると放熱性に優れて好ましい。ここでは、樹脂モールド部21は、フィラーを含有したエポキシ樹脂(熱伝導率:2W/m・K)を利用している。
【0061】
コイル部品20Aの製造には、例えば、特開2009-218293号公報に記載される製造方法を利用できる。射出成形やトランスファー成形、注型成形などの種々の成形方法によってコイル部品20Aを製造することができる。より具体的には、コイル2、内側コア部31、及び底板部40を成形用金型に収納し、所望の厚さの樹脂で覆われるように適宜な支持部材を配置して樹脂モールド部21を成形することによって、コイル部品20Aを製造できる。
【0062】
絶縁性接着剤(シート状のものでもよい)によって、底板部40にコイル2を接合しておき、この接合物に樹脂モールド部21を形成することができる。この場合、成形用金型に対するコイル2と底板部40との位置決め、両者の位置の維持を行う必要が無く、成形性に優れる。この製造方法では、コイル2と底板部40との間の少なくとも一部に絶縁性接着剤が介在したコイル部品が得られる。従って、本発明では、コイル2と底板部40との間に樹脂モールド部21の構成樹脂が介在せず、絶縁性接着剤のみが介在する形態を許容する。絶縁性接着剤は、エポキシ樹脂、アクリル樹脂などからなるもの、更に、上述した窒化珪素やアルミナなどのセラミックスからなるフィラーを含有するもの(好ましくは熱伝導率が2W/m・K超、更に3W/m・K以上、特に10W/m・K以上、とりわけ20W/m・K以上のもの)が挙げられる。接着剤の厚さ(ここでは、塗布直後の厚さ)は、薄いほど放熱性を高められ、例えば、1mm以下、更に0.5mm以下とすることができる(コイル2接合後の接着剤の厚さは更に薄くなることがある)。熱伝導率が大きい場合には、接着剤の厚さを1mm以上としてもよい。スクリーン印刷やシート状接着剤などを利用すると、薄い接着剤層を形成し易い。
【0063】
コイル部品20Aの製造にあたり、コイル2と内側コア部31間の間隔を保持するための間隔保持部材(図示せず)を配置すると、成形用金型の構成を簡易にし易い。間隔保持部材は、例えば、内側コア部31の外周に配置される筒状部材(短くてもよい。複数の分割片を組み合わせて筒状になるものでもよい)、上記筒状部材と筒状部材の周縁から外方に突出する1つ又は複数の平板状のフランジ部とを具える断面L字状の環状部材、コイル2と内側コア部31間に配置される板部材などが挙げられ、これらを組み合わせて利用してもよい。間隔保持部材は、樹脂モールド部21の構成樹脂によってコイル2などに一体化されることから、上述したPPS樹脂、LCP、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂などの絶縁性樹脂によって構成すると、コイル2と内側コア部31間の絶縁性を高められる。上述の筒状部材や環状部材を利用する場合、コイル2と内側コア部31間に樹脂モールド部21の構成樹脂が十分に充填されるように、一部を薄くしたり、切れ込みを設けるなど、形状や厚さなどを調整する。
【0064】
(磁性コア)
磁性コア3は、主として図1,図2を参照して説明する。磁性コア3は、上述のように柱状の内側コア部31と、内側コア部31の少なくとも一方の端面31e(ここでは両端面)、及びコイル2の外周側に配置されて、コイル部品20Aの外周面(主としてコイル2の外周面)を覆う外側コア部32とを具え、コイル2を励磁した際に閉磁路を形成する。
【0065】
<内側コア部>
ここでは、内側コア部31は、コイル2の軸方向の長さよりも若干長いため、コイル2内に挿通配置された状態において、両端面31e及びその近傍の外周面がコイル2の端面から若干突出しており、この状態が樹脂モールド部21によって維持されている。内側コア部31においてコイル2の各端面から突出する長さ(以下、突出長さと呼ぶ)は、適宜選択することができる。ここでは、突出長さを等しくしているが、異ならせてもよいし、コイル2のいずれか一方の端面からのみ突出部分が存在するように、内側コア部の長さやコイルに対する内側コア部の配置位置を調整することができる。内側コア部の長さがコイルの長さと同等以上であると、コイル2がつくる磁束を内側コア部31に十分に通過させられる。
【0066】
磁性コア3はその全体が一様な材質から構成された形態とすることができるが、ここでは、部分的に材質が異なっている。内側コア部31は、圧粉成形体、外側コア部32は、複合材料から構成されている。
【0067】
圧粉成形体は、代表的には、原料粉末を加圧成形後、適宜熱処理を施すことで製造され、複雑な立体形状であっても、比較的容易に成形することができる。原料粉末には、鉄基材料(鉄族金属や鉄合金)や希土類金属などの軟磁性材料からなる金属粒子の表面にシリコーン樹脂やリン酸塩などからなる絶縁被覆を具える被覆粉末やフェライト粉末、更に熱可塑性樹脂などの樹脂や高級脂肪酸などの添加剤(代表的には、熱処理によって消失、又は絶縁物に変化するもの)を適宜混合した混合粉末が挙げられる。上述の製造方法によって、軟磁性粒子間に絶縁物が介在する圧粉成形体が得られる。この圧粉成形体は、絶縁性に優れるため、渦電流損を低減できる。また、圧粉成形体は、原料の軟磁性粉末を多くしたり、成形圧力を高めたりするなど、原料や製造条件を調整することで、外側コア部32を構成する複合材料よりも飽和磁束密度を高め易い。圧粉成形体は、公知のものを利用することができる。
【0068】
柱状の内側コア部31は、所望の形状の金型を用いて成形した一体物としたり、圧粉成形体からなる複数のコア片を積層した積層体としたりすることができる。積層体は、接着剤や接着テープなどで固定して一体物とすることができる。ここでは、内側コア部31は、ギャップ材やエアギャップが介在していない中実体としている。
【0069】
<外側コア部>
ここでは、外側コア部32は、ケース4Aの内周面と、コイル部品20Aの外周面においてケース4Aに収納された部分とがつくる空間に沿った形状である。コイル部品20Aにおいて、ケース4Aの外表面(底板部40の側面及び外底面40o)、及び巻線2wの両端部を除く領域は、外側コア部32に覆われている。外側コア部32の一部が内側コア部31の両端面31eに連結するように設けられていることで、磁性コア3は閉磁路を形成する。
【0070】
外側コア部32を構成する複合材料は、代表的には、射出成形、トランスファー成形、MIM(Metal Injection Molding)、注型成形、磁性体粉末と粉末状の固体樹脂とを用いたプレス成形などにより製造することができる。射出成形は、磁性体粉末と樹脂とを含む混合物を所定の圧力をかけて成形型に充填して成形した後、上記樹脂を硬化することで複合材料が得られる。トランスファー成形やMIMも原料を成形型に充填して成形を行う。注型成形では、上記混合物を、圧力をかけることなく成形型又はケース4Aに注入して成形・硬化することで複合材料が得られる。ここでは、壁部41と蓋部42とが一体成形された容器43を具えるケース4Aを利用することから、外側コア部32は、図2に示すように複数の複合材料から構成される形態としている。具体的には、外側コア部32の一部を、成形型によって別途成形した成形体(分割成形体32a,32b)とし、他部を、上記容器43を成形型として成形した成形体(一体成形体32c)とし、これら成形体32a〜32cを組み合わせることで、外観が直方体状の外側コア部32を構成する。
【0071】
成形型を利用して複合材料を別途形成する場合、原料の充填時間が短く、複合材料を大量生産でき、生産性に優れる。また、任意の形状の複合材料(分割成形体)を容易に成形することができる。一方、ケース(ここでは容器43。以下、この段落において同様)を成形型に利用して、原料を直接充填して複合材料を形成する場合、ケースと複合材料とを密着させ易い。特に、成形型とするケースの内面にも、放熱台部401などと同様に上述の粗面化処理を施すと、ケースと外側コア部32との接触面積を増大して、放熱性を高められる。容器43を成形型として一体成形体32cを成形する場合、巻線2wの端部をケース4Aの外部に引き出せるように、一体成形体32cに貫通孔を設けるための中子を配置し、成形後、中子を除去する。この貫通孔は、容器43に形成された巻線孔42hに繋がるように設ける。容器43に原料を充填する場合、巻線孔42hを塞ぐ、又は巻線孔42hを貫通する中子を配置するとよい。
【0072】
成形体32a〜32cは、図2に示すように、コイル2の径方向に分割されている。ここでは、これら成形体32a〜32cの合わせ目のうち、コイル2の端面側に配置されるものがコイル2の径方向に沿った直線となり、コイル2の外周面側に配置されるものがコイル2の軸方向に平行に配置されるように、成形体32a〜32cの各接合面320,320cは平面で形成されている。外側コア部32を構成する複合材料の分割方向は、適宜選択することができる。この例に示すように、コイル2の外周面側に配置される合わせ目がコイル2の軸方向に非直交(好ましくは平行)に配置されるように分割されていると、合わせ目が磁束を分断し難く(好ましくは実質的に分断せず)、この磁束の分断に伴う磁気特性の低下を抑制することができる。また、分割数、各分割成形体及び一体成形体の形状は、ケース4Aに収納可能な範囲で適宜選択することができる。分割数が少ないほど、組付工程数を低減でき、リアクトルの生産性に優れ、各成形体の形状が被覆物に沿った形状であると、磁路をより増大できる。
【0073】
各分割成形体32a,32bはいずれも、コイル2において設置側の領域(図2では下方側の領域)に組み付けられるΠ状の部材である。また、各分割成形体32a,32bはいずれも、コイル2を覆うコイル被覆面321と、放熱台部401を覆う台部被覆面322とを具える。コイル被覆面321は、コイル部品20Aにおいてコイル2の外周面に沿った曲面から構成され、台部被覆面322は、コイル部品20Aにおいて放熱台部401の端面及び側面に沿った平面で構成されている。一体成形体32cは、コイル部品20A(コイル2)において、巻線2wの引出側の領域(図2において上方側の領域)を覆う断面Π状の部材であり、端的に言うと、直方体の一面をコイル2の外周面に沿って凹ませた形状である。コイル部品20Aと分割成形体32a,32bとを組み付ける前において、一体成形体32cは、この凹んだ内側面(図示せず)と、矩形枠状の接合面(図示せず)が露出されている。また、一体成形体32cは、巻線2wの端部が挿通される貫通孔を有する。なお、一体成形部32cも、分割成形体32a,32bと同様に、成形型で別途作製した成形体とし、ケース4A(容器43)に収納する形態とすることができる。
【0074】
ここでは、上述のように各成形体32a〜32cにおいてコイル部品20Aに接する箇所をコイル部品20Aの外形に沿った形状としており、磁路を十分に確保することができる。複合材料の内面形状をコイル部品20Aに正確に沿った形状でなく、大まかに沿った単純な形状(例えば、複数の複合材料を組み合わせてできる内部空間が直方体状、など)とすると、複合材料の成形性に優れる。
【0075】
外側コア部32を構成する複合材料中の磁性体粉末は、上述した内側コア部31を構成する軟磁性粉末と同様の組成でも異なる組成でもよい。同じ組成の場合でも、複合材料は、非磁性材料である樹脂を含有することから、圧粉成形体よりも飽和磁束密度が低く、かつ比透磁率も低くなる。従って、外側コア部32を複合材料によって構成することで、圧粉成形体から構成された内側コア部31よりも比透磁率を低くすることができる。また、内側コア部31が圧粉成形体であることで、コイル2の外周に配置される上述の複合材料と比較して、飽和磁束密度を高め易い。
【0076】
複合材料中の磁性体粉末は、単一種でも、材質の異なる複数種の粉末を含有していてもよい。外側コア部32を構成する複合材料では、純鉄粉などの鉄基粉末が好ましい。また、複合材料でも、圧粉成形体の場合と同様に被覆粉末であると、軟磁性粒子間の絶縁性を高められ、渦電流損を低減できる。
【0077】
複合材料中の磁性体粉末の平均粒径は、1μm以上1000μm以下、特に10μm以上500μm以下が挙げられる。また、磁性体粉末は、粒径が異なる複数種の粉末(粗大粉末及び微細粉末)を含むと、飽和磁束密度が高く、低損失なリアクトルを得易い。なお、複合材料中の磁性体粉末は、原料の粉末と実質的に同じである(維持されている)。平均粒径が上記範囲を満たす粉末を原料に用いると、流動性に優れ、射出成形などを利用して上述の分割成形体32a,32bなどの複合材料を生産性よく製造することができる。
【0078】
外側コア部32を構成する複合材料中の磁性体粉末の含有量は、複合材料を100%とするとき、40体積%以上70体積%以下が挙げられる。磁性体粉末が40体積%以上であることで、磁性成分の割合が十分に高いため磁性コア3全体の飽和磁束密度といった磁気特性を高め易い。磁性体粉末が70体積%以下であると、上述の分割成形体32a,32bなどの複合材料の製造性に優れる。
【0079】
複合材料中のバインダとなる樹脂は、代表的には、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂が挙げられる。その他、PPS樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、ポリアミド樹脂などの熱可塑性樹脂、常温硬化性樹脂、又は低温硬化性樹脂を利用することができる。
【0080】
磁性体粉末及び樹脂に加えて、アルミナやシリカなどのセラミックスといった非磁性体からなる粉末(フィラー)を含有する複合材料とすることができる。フィラーは、放熱性の向上、磁性体粉末の偏在の抑制(均一的な分散)に寄与する。また、フィラーが微粒である場合、磁性体粒子間に介在することで、フィラーの含有による磁性体粉末の割合の低下を抑制できる。フィラーの含有量は、複合材料を100質量%とするとき、0.2質量%以上20質量%以下、更に0.3質量%以上15質量%以下、特に0.5質量%以上10質量%以下であると、上記効果を十分に得られる。
【0081】
ここでは、外側コア部32は、平均粒径75μm以下の鉄基材料(純鉄)からなる粒子の表面に絶縁被膜を具える被覆粉末とエポキシ樹脂との複合材料から構成されている(複合材料中の純鉄粉の含有量:40体積%)。また、外側コア部32もギャップ材やエアギャップを介在していない。従って、磁性コア3は、その全体に亘ってギャップを有していない。ギャップを有さないことで、(1)小型化、(2)損失の低減、(3)大電流の通電時におけるインダクタンスの低下の低減、を図ることができる。なお、磁性コア3は、アルミナ板などの非磁性材料からなるギャップ材やエアギャップを介在した形態とすることができる。
【0082】
外側コア部32は、閉磁路が形成できれば、その形状は特に問わない。この例のように、底板部40の外表面を除くコイル部品20Aの概ね全周が複合材料によって覆われた形態は、複合材料(外側コア部32)によって、コイル部品20Aの機械的保護の強化を図ることができる。また、ここでは、外側コア部32は、放熱台部401を含む底板部40だけでなく、壁部41及び蓋部42に接することができるため、外側コア部32からの熱を、ケース4A全体を介してケース4A外部に効率よく伝えられる。
【0083】
<磁気特性>
上述のように構成材料が異なることで、磁性コア3は、部分的に磁気特性が異なっている。ここでは、内側コア部31は、外側コア部32よりも飽和磁束密度が高く、外側コア部32は、内側コア部31よりも比透磁率が低い。具体的には、圧粉成形体から構成される内側コア部31は、飽和磁束密度:1.6T以上、かつ外側コア部32の飽和磁束密度の1.2倍以上、比透磁率:100以上500以下、複合材料から構成される外側コア部32は、飽和磁束密度:0.6T、かつ以上内側コア部31の飽和磁束密度未満、比透磁率:5以上50以下、好ましくは10以上30以下、内側コア部31及び外側コア部32からなる磁性コア3全体の比透磁率は10以上100以下である。内側コア部の飽和磁束密度が高い形態は、全体の飽和磁束密度が均一的な磁性コアと同じ磁束を得る場合、内側コア部の断面積を小さくできるため、リアクトルの小型化に寄与することができる。この形態では、内側コア部31の飽和磁束密度は、1.8T以上、更に2T以上が好ましく、外側コア部32の飽和磁束密度の1.5倍以上、更に1.8倍以上が好ましい。圧粉成形体に代えて、珪素鋼板に代表される電磁鋼板の積層体を利用すると、内側コア部の飽和磁束密度を更に高め易い。一方、外側コア部32の比透磁率を内側コア部31よりも低くすると、磁気飽和を抑制できるため、例えば、ギャップレス構造の磁性コア3とすることができる。ギャップレス構造の磁性コア3とすると漏れ磁束を低減できる。
【0084】
(ケース)
コイル2と磁性コア3との組物を収納するケース4Aは、ここでは、板状の底板部40(図3)と、底板部40から立設される枠状の壁部41とが独立した部材であり、適宜な固定材によって一体化される。ここでは、ケース4Aは、壁部41と蓋部42とが一体成形された容器43を具えており、容器43を底板部40に取り付けることで、上述の組物は、その全周がケース4Aに覆われる。
【0085】
底板部40において、内底面40iは、上記組物の載置面及び壁部41の取付面となり、外底面40oは、その少なくとも一部(ここでは全体)が設置対象に接して冷却される冷却面となる。外底面40oの一部に設置対象に接触しない領域(平面でも曲面でもよい)が存在することを許容する。図1では、外底面40oが下方に配置された形態を示すが、側方(図1において左右)や上方に配置される場合がある。
【0086】
壁部41は、ここでは、矩形板状の底板部40に適合した矩形枠状である。この枠の一方の開口部が底板部40に塞がれ、他方は、矩形板状の蓋部42が一体に成形されて、矩形箱状の容器43を構成している。蓋部42が一体成形された容器43を具えることで、上述のように容器43を複合材料の成形型に利用できる他(巻線孔42hを塞いだ状態にして利用)、ケース4Aの収納物の脱落防止、収納物の保護が行える。その他、容器43の構成材料を後述する非磁性、導電性材料とすることで、漏れ磁束を防止でき、金属材料といった熱伝導性に優れる材料とすることで、放熱性の向上も期待できる。
【0087】
蓋部42には、巻線2wの各端部が挿通され、上述した複合材料(一体成形体32c)に設けられた貫通孔に連通する巻線孔42hを具える。
【0088】
底板部40と壁部41(ここでは容器43)とを一体に接続するには、種々の固定材、例えば、接着剤やボルトといった締結部材が利用できる。ここでは、接着剤を用いて両者を一体化している。
【0089】
その他、ケース4Aは、リアクトル1Aを設置対象に固定するための取付部を具える。ここでは、底板部40及び壁部41のそれぞれに、固定用のボルト100が挿通されるボルト孔(ネジ孔でも、ネジ加工の無い貫通孔でもよい)が設けられた取付部400,410を具える。取付部400,410は、矩形の各角部から突出した突片であり、その中央部にボルト孔を具え、両部400,410のボルト孔が連通するように設けられている。取付部400,410を具えることで、リアクトル1Aを設置対象に容易に固定できる。取付部400,410の取付位置、個数、形状などは適宜選択することができる。また、ここでは各部40,41にそれぞれ取付部400,410を具えるが、底板部40のみが取付部400を具える形態、壁部41のみが取付部410を具える形態とすることができる。取付部400,410を有しない形態とすることもできる。
【0090】
ケース4Aの形状・大きさは、収容物の形状・大きさなどに応じて適宜選択することができる。
【0091】
ケース4Aのうち、少なくとも底板部40は上述のように非磁性金属材料とする。壁部41や蓋部42も非磁性金属材料や磁性コア3を構成する磁性体粉末よりも熱伝導率が高い材料、具体的には、上述のアルミニウムやマグネシウム、その合金であると、放熱性に優れる上に、ケース外部への漏れ磁束を防止できる。本発明では、底板部40と壁部41とが独立した部材であることで、両者の構成材料を異ならせることができる。例えば、実質的に外側コア部32のみが接する壁部41や蓋部42は、樹脂といった非磁性、非導電性材料とすることができる。底板部40と壁部41及び蓋部42とを異なる金属材料で構成することもできる。例えば、底板部40の構成材料を壁部41よりも熱伝導率が高い金属材料とすることができる。ここでは、ケース4Aは、その全体をアルミニウム合金から構成している。
【0092】
この例に示すようにケース4Aの全体を金属材料で構成し、その少なくとも一部を成形型として、注型成形によって外側コア部32を構成する複合材料を成形する場合などでは、複合材料との密着性を高める処理を施すと、放熱性を向上できて好ましい。具体的には、ケース4Aにおいて成形型に利用される領域(ここでは容器43の内面)の少なくとも一部、好ましくは50面積%以上、更に80面積%以上の領域に微細な凹凸を有する形態が挙げられる。微細な凹凸の形成には、上述した粗面化処理を利用することができる。
【0093】
(用途)
上記構成を具えるリアクトル1Aは、通電条件が、例えば、最大電流(直流):100A〜1000A程度、平均電圧:100V〜1000V程度、使用周波数:5kHz〜100kHz程度である用途、代表的には電気自動車やハイブリッド自動車などの車載用電力変換装置の構成部品に好適に利用できる。
【0094】
(リアクトルの大きさ)
車載部品とする場合、リアクトル1Aは、ケース4Aを含めた容量が0.2リットル(200cm3)〜0.8リットル(800cm3)程度であることが好ましい。本例では、約540cm3である。
【0095】
(リアクトルの製造方法)
リアクトル1Aは、例えば、以下のようにして製造することができる。ここでは、まず、図3に示すコイル2と内側コア部31と底板部40とをそれぞれ用意し、樹脂モールド部21(図2)によって一体に成形したコイル部品20A(図2)を作製する。
【0096】
次に、図2に示す容器43を用意し、容器43を成形型とし、外側コア部32の一部を構成する一体成形体32cを注型成形によって製造する。具体的には、外側コア部32の原料となる磁性体粉末及び樹脂、適宜結合剤や非磁性体粉末を用意して混合物を作製し、成形型となる容器43にこの混合物を充填した後、樹脂を硬化する。同様の混合物を利用して適宜な成形型に充填・硬化して、外側コア部32の他部を構成する分割成形体32a,32bを製造する。
【0097】
用意した分割成形体32a,32bをコイル部品20Aの外周に組み付け、得られた組合体を容器43によって覆うように容器43を底板部40に配置する。このとき、複合材料からなる成形体同士や、内側コア部31と外側コア部32とを接着剤によって接合してもよい。また、分割成形体32a,32bとケース4Aの壁部41間に接着剤などを充填して、両者の密着性を高めることができる。容器43の配置にあたり、コイル部品20Aの巻線2wの引出箇所や巻線孔42hをガイドに利用することで、底板部40に対して、容器43を精度よく配置できる。そして、容器43の壁部41と底板部40とを適宜な固定材によって接続する。この工程により、リアクトル1A(図1)が得られる。
【0098】
(効果)
リアクトル1Aは、コイル2とケース4Aを構成する底板部40とが樹脂モールド部21によって一体に保持されることから、ケース4Aに対して、コイル2の配置状態が安定している。特に、リアクトル1Aのように横型収納形態であっても、コイル2が安定している。そのため、底板部40に固定されたコイル2の熱を、底板部40を介して効率よく設置対象に伝えられる。従って、リアクトル1Aは、磁性コア3の一部(ここでは外側コア部32)が磁性体粉末と樹脂とを含有する複合材料から構成されており、この複合材料にコイル2が覆われていても、放熱性に優れる。
【0099】
特に、実施形態1のリアクトル1Aは、上述のように横型配置形態であるため、コイル2の外周面において設置対象までの距離が短い領域が多い。また、リアクトル1Aは、底板部40が放熱台部401を一体に具え、この放熱台部401がコイル2の外周面に沿った支持面402を具えることからも、コイル2の熱を底板部40に伝え易い。これらの点からもリアクトル1Aは、放熱性に優れる。
【0100】
また、放熱台部401は非磁性材料から構成されることで、コイル2に近接配置されていても、磁気的影響を与え難い。更に、絶縁性樹脂から構成される樹脂モールド部21によって、主たる構成材料が金属であるコイル2と底板部40(放熱台部401など)間の絶縁を確保することができる。
【0101】
加えて、底板部40が放熱台部401を具えるものの、リアクトル1Aでは、底板部40と壁部41とが別部材であることで、ケース4Aの構成要素を成形し易い。また、壁部41と蓋部42とが一体にされた容器43を利用することで、蓋部42の取付工程が不要である。更に、リアクトル1Aは、コイル部品20Aを構成要素とすることで、コイル2を扱い易い上に、組立部品の点数が少なく、組立作業性にも優れる。特に、リアクトル1Aでは、コイル部品20Aが磁性コア3の一部(内側コア部31)をも一体に保持することから、組立作業性に更に優れる。これらの点から、リアクトル1Aは、生産性にも優れる。
【0102】
更に、リアクトル1Aでは、壁部41と蓋部42とが一体にされた容器43を利用することで、コイル2及び磁性コア3の全体に対して、外部環境(粉塵や腐食など)からの保護や機械的保護を図ることができる。
【0103】
その他、磁性コア3の少なくとも一部(ここでは外側コア部32)が上述の複合材料であることで、以下の効果を奏する。
(1)コイル2・内側コア部31・底板部40(放熱台部401)が一体化されたコイル部品20Aを覆うといった複雑な形状であっても、外側コア部32を容易に形成できる。
(2)容器43を成形型とした注型成形を利用することで、製造工程を低減でき、生産性に優れる。
(3)外側コア部32の磁気特性を容易に変更可能である。
(4)コイル部品20A(コイル2)の外周を覆う材料が磁性体粉末を含有するため、樹脂だけの場合よりも熱伝導率が高く放熱性に優れる。
【0104】
[実施形態2]
図4を参照して実施形態2のリアクトル1Bを説明する。実施形態2のリアクトル1Bの基本的構成は、実施形態1のリアクトル1Aと同様であり、一つの筒状のコイル素子を主体とするコイル2と内側コア部31と放熱台部401を具える底板部40とが樹脂モールド部21によって一体に保持されたコイル部品20Aを具える。また、リアクトル1Bでは、コイル部品20A(コイル2)の外周側が、磁性体粉末と樹脂とを含む複合材料から構成された外側コア部32によって覆われ、更にケース4Bに囲まれている。このケース4Bは、底板部40と壁部41とが別部材であり、適宜な固定材により一体に接続される。実施形態2のリアクトル1Bにおける実施形態1との主たる相違点は、ケース4Bが蓋部を有しておらず、開口した有底筒状である点にある。以下、相違点を中心に説明し、実施形態1と同様な構成及び効果は、説明を省略する。
【0105】
ケース4Bの壁部41は、矩形枠状であり、実施形態1と同様に、枠の一方の開口部が底板部40に塞がれ、他方が開口したままである。そのため、リアクトル1Bでは、図4に示すようにコイル部品20Aを覆う外側コア部32の一面が露出された形態である。
【0106】
実施形態2では、ケース4Bを組み立てた状態において開口部を有することから、ケース4Bを成形型とし、外側コア部32を全て注型成形で形成できる。具体的には、実施形態1で説明したようにコイル部品20Aを作製し、コイル2の外周を囲むように壁部41を底板部40に配置して、底板部40と壁部41とを接続する。特に、この形態では、底板部40と壁部41とを接着剤によって一体化すると、外側コア部32の原料の混合物が両部40,41の隙間から漏れ出ることを防止できる。ボルトといった締付部材を利用する場合には、両部40,41間にシール部材(図示せず)を配置することができる。上記混合物の漏出の恐れが無い場合(混合物の粘度が高い場合など)には、シール部材を省略できる。組み立てたケース4Bに外側コア部32の原料の混合物を充填して、樹脂を硬化する。この工程により、外側コア部32を形成できると共に、磁性コア3が得られ、更にリアクトル1Bが得られる。
【0107】
一方、外側コア部32を別途作製した複合材料(成形体)とする場合には、実施形態1のようにコイル2の径方向に分割される複数の分割片を成形し、離型した各分割片をコイル部品20Aに組み付けた後、壁部41を底板部40に取り付けるとよい。外側コア部32の少なくとも一部を複合材料からなる成形体とする場合、ケース4B内に封止樹脂を充填した形態とすることができる。この形態は、ケース4Bのように開口したケースを利用すると、封止樹脂を充填し易い。封止樹脂によって、複合材料からなる成形体同士の固定、成形体とコイル部品との固定などを行える。封止樹脂は、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂などの絶縁性樹脂が挙げられる。絶縁性や放熱性に優れるフィラーを含有する樹脂を封止樹脂に利用すると、コイルや磁性コアとケースとの間の絶縁性、放熱性を向上できる。封止樹脂の材質や厚さによっては、振動の防止や騒音の防止の効果も得られる。
【0108】
実施形態2のリアクトル1Bは、ケース4Bを成形型に利用して、原料をケース4Bに直接充填して複合材料を形成する場合、(1)上述の組み付け工程や磁性コア3の接合工程(内側コア部31と外側コア部32とを接着剤で接合する工程)を省略できる上に、この場合には外側コア部32の形成と同時にリアクトル1Bが得られる、(2)コイル部品20Aが複雑な形状であっても、外側コア部32を容易に成形できる、(3)ケース4Bと複合材料とを密着させ易い、特に、ケース4B(内底面及び壁部の内面)にも、放熱台部401と同様に上述の粗面化処理を施すと、ケース4Bと外側コア部32との接触面積を増大して、放熱性を高められる、といった利点を有する。
【0109】
また、実施形態2のリアクトル1Bは、蓋部を有していないものの、外側コア部32の構成材料が樹脂を含むことで、コイル部品20Aの外部環境からの保護・機械的保護を図ることができる。更に、蓋部を有していない場合、コイル部品20Aの一部、特に、ケース4Bの開口側に配置される領域が複合材料から露出された形態とすると、放熱性を高められると期待される。
【0110】
なお、実施形態2のリアクトル1Bも、ケース4Bの開口部を覆う矩形板状の蓋部を具える形態とすることができる。蓋部を具える場合、例えば、蓋部を固定するボルトといった締付部材が螺合する蓋台をケースの壁部に一体に具え、蓋部には、ボルトといった締付部材が挿通されるボルト孔が設けられた突片を具えることができる。蓋台及び突片の形成箇所・個数は適宜選択できる。
【0111】
[実施形態3]
図5,図6を参照して実施形態3のリアクトル1Cを説明する。実施形態3のリアクトル1Cの基本的構成は、実施形態2のリアクトル1Bと同様であり、一つの筒状のコイル素子を主体とするコイル2と内側コア部31と放熱台部401を具える底板部40とが樹脂モールド部21によって一体に保持されたコイル部品20Cを具える。また、リアクトル1Cでは、コイル部品20C(コイル2)の外周側が、磁性体粉末と樹脂とを含む複合材料から構成された外側コア部32によって覆われている。このコイル部品20Cは、底板部40と壁部41とが適宜な固定材により一体化された有底筒状のケース4Cに収納されている。実施形態3のリアクトル1Cにおける実施形態2との主たる相違点は、コイル部品20Cが放熱台部401に加えて蓋側台部5を具える点、及び蓋側台部5に取り付けられる蓋部42Cを具える点にある。以下、相違点を中心に説明し、実施形態2と同様な構成及び効果は、説明を省略する。なお、図6では、外側コア部を省略している。
【0112】
蓋側台部5は、放熱台部401(底板部40)などと同様に非磁性金属材料で構成されて、コイル2の外周面においてケース4Cの開口側(図5において上方側)に配置され、放熱経路に利用される。この蓋側台部5は、図6に示すように、矩形板状の部材であり、蓋側台部5のコイル2の軸方向に沿った長さが、コイル2の軸方向の長さに略等しく、コイル2の全長に亘って、コイル2の外周面に沿って配置される。蓋側台部5のコイル2の外周面に対向する一面は、底板部40の内底面40i及び放熱台部401と同様に、上記外周面に沿った形状であり、レーストラック状のコイル2の外周面と同様に曲面と平面とで構成され、ケース4Cの開口側の領域を覆うことが可能な面積を有する。この一面との対向面(図6において上面)は、平面で構成され、平面で構成された蓋部42Cの内面に接する(図5)。
【0113】
蓋側台部5の各端面は、中央部分が薄く、両縁側に向かって厚くなった]状であり、各側面は、長方形状の平面で構成されている。蓋側台部5の各角部には、蓋部42Cを固定するためのボルト110といった締結部材が螺合される固定孔50を有し、図6に示すように固定孔50の形成部分が側面から突出している。固定孔50の個数や配置位置は、蓋部42Cを固定できれば、適宜選択することができる。
【0114】
蓋側台部5は、コイル2の軸を中心として底板部40に設けられた放熱台部401に対向するように配置されて、樹脂モールド部21によってコイル2に一体に保持されている。従って、リアクトル1Cに具えるコイル部品20Cは、コイル2と、放熱台部401を具える底板部40と、蓋側台部5と、内側コア部31とが樹脂モールド部21によって一体化されている。また、コイル部品20Cでは、蓋側台部5において蓋部42Cに接する面、内底面40iにおいて放熱台部401の形成領域及びコイル2の配置領域以外の領域が樹脂モールド部21から露出されている。そして、蓋側台部5において樹脂モールド部21から露出された面に接するように蓋部42Cがボルト110によって取り付けられる。
【0115】
コイル2と蓋側台部5との間に樹脂モールド部21の構成樹脂が介在されることで、両者間の絶縁性を高められる。また、蓋側台部5と上記構成樹脂との接触面積を増大するために、放熱台部401と同様に蓋側台部5(コイル2側の面)にも粗面化処理を施すことができる。
【0116】
蓋部42Cは、実施形態1のリアクトル1Aに具える蓋部42と同様に、巻線2wの端部が挿通される巻線孔42hを具える。更に、蓋部42Cは、ボルト110が挿通されるボルト孔42bを具える。蓋部42Cがボルト孔42bを具えることで、上述のボルト孔を具える突片が不要であり、蓋部42Cは、単純な形状である。また、リアクトル1Cでは、上述のように蓋側台部5に蓋部42Cが取り付けられるため、ケース4Cも、上述の蓋台が不要であり、単純な形状である。
【0117】
実施形態3のリアクトル1Cは、底板部40に一体の放熱台部401に加えて、熱伝導性に優れる材料によって構成された蓋側台部5を具え、かつこの蓋側台部5に蓋部42Cが固定されることで、蓋側台部5や蓋部42Cをも放熱経路に利用でき、コイル2の熱をケース4C外部に効率よく伝えられる。従って、リアクトル1Cは、ケース4Cの開口側領域の放熱性を高められ、放熱性により優れる。また、リアクトル1Cは、蓋側台部5をも樹脂モールド部21によってコイル2に一体に保持するコイル部品20Cを構成要素とすることで、組立部品の点数が増加せず、組立作業性に優れる。
【0118】
なお、蓋側台部は、上述の固定孔を有していない形態とすることができる。例えば、蓋側台部は、接着剤によって蓋部を固定する形態とすると、部品点数を低減できる上に、蓋側台部と蓋部とを密着できる。又は、蓋側台部と蓋部との間にグリースを塗布することでも、両者を密着させることができる。
【0119】
又は、蓋側台部と蓋部との双方に係合部を具える形態とすることができる。例えば、蓋部に突起を具え、蓋側台部に上記突起が嵌め込まれる貫通孔や凹部を具える形態、蓋部に凹部を具え、蓋側台部にこの凹部に嵌め込まれる突起を具える形態、これらを組み合わせた形態などが挙げられる。更に、上述した接着剤を併用することができる。
【0120】
[実施形態4]
上記実施形態1〜3は、内側コア部31が圧粉成形体から構成され、外側コア部32のみが複合材料から構成された形態を説明した。その他、内側コア部も磁性体粉末と樹脂とを含有する複合材料により構成された形態、つまり、磁性コアの全てが複合材料で構成された形態とすることができる。この場合、例えば、内側コア部と外側コア部とは、同じ複合材料により構成することができる。この場合、各コア部を構成する複合材料の磁性体粉末の含有量は、40体積%以上70体積%以下、飽和磁束密度は0.6T以上、比透磁率は5以上50以下、好ましくは10以上30以下とすることができ、磁性コア全体の比透磁率は、5以上50以下とすることができる。また、この場合、実施形態2で説明したようにケースを成形型として、内側コア部及び外側コア部の双方を一体成形してもよいし、それぞれを複合材料からなる成形体としてもよい。
【0121】
又は、内側コア部と外側コア部とは、異なる複合材料により構成することもできる。この構成では、例えば、磁性体粉末の材質を同じとする場合、磁性体粉末の含有量を変えるだけで飽和磁束密度や比透磁率を調整することができ、所望の特性の複合材料を製造し易いという利点もある。具体的な形態として、内側コア部と外側コア部とが、磁性体粉末の材質や含有量が異なる複合材料により構成され、実施形態1〜3と同様に内側コア部の飽和磁束密度が高く、外側コア部の比透磁率が低い形態、又は逆の形態、つまり内側コア部の比透磁率が低く、外側コア部の飽和磁束密度が高い形態が挙げられる。磁性体粉末の配合量を多くすると、飽和磁束密度が高く比透磁率が高い複合材料が得られ易く、上記配合量を少なくすると、飽和磁束密度が低く比透磁率が低い複合材料が得られ易い。所望の組成の原料によって、柱状の複合材料(成形体)を別途作製しておき、この柱状の複合材料を内側コア部や外側コア部に利用することもできる。内側コア部及び外側コア部を構成する各複合材料はいずれも、磁性体粉末の含有量:40体積%以上70体積%以下、飽和磁束密度:0.6T以上、比透磁率:5以上50以下、好ましくは10以上30以下とすることができ、磁性コア全体の比透磁率は、5以上50以下とすることができる。
【0122】
[実施形態5]
上記実施形態1〜4は、コイル素子を一つ具える形態を説明した。その他、図7,図8に示すコイル2B,2Cのように、巻線2wを螺旋状に巻回してなる一対のコイル素子2a,2bを具える形態とすることができる。コイル2B,2Cの主な相違点は端面形状である。図7に示すコイル2Bの各コイル素子2a,2bの端面形状は、角部を丸めた矩形状、図8に示すコイル2Cの各コイル素子2a,2bの端面形状は、実施形態1と同様にレーストラック状である。
【0123】
図7,図8に示すコイル2B,2Cに具える一対のコイル素子2a,2bは、各素子2a,2bの軸が平行するように横並び(並列)され、巻線2wの一部を折り返してなる連結部2rにより連結されている。各コイル素子2a,2bを別々の巻線によって形成し、両コイル素子2a,2bを構成する巻線の一端部同士をTIG溶接などの溶接、圧着、半田付けなどで接合した形態、上記一端部同士を別途用意した連結部材を介して接合した形態とすることもできる。そして、例えば、横型収納形態では、横並びした各コイル素子2a,2bの設置側面を底板部40B,40Cに載置し、この状態で樹脂モールド部(図示せず)によってコイル2B,2Cと底板部40B,40Cとを一体に保持するコイル部品を形成する。底板部40B,40Cは、各コイル素子2a,2bの外周面に沿った支持面402を具える放熱台部401a,401b,401cを具える。各コイル素子2a,2bの外周面の一部(平面部分)はそれぞれ、内底面40iの一部(放熱台部401a,401bに挟まれた領域、放熱台部401b,401cに挟まれた領域)に平行に配置される。ここでは、一対のコイル素子2a,2bに対して、共通の放熱台部401bを具える形態(合計三つの放熱台部を具える形態)を示すが、コイル素子2aを支持する放熱台部とコイル素子2bを支持する放熱台部とをそれぞれ二つずつ、合計四つの放熱台部を具える形態とすることができる。一対のコイル素子2a,2bを具える場合には、横型収納形態とすると、放熱性に優れる上に、上記連結部2rが邪魔にならず、コイル部品などを製造し易い。
【0124】
コイル素子2a,2bを二つ具える場合も、実施形態1のように内側コア部を圧粉成形体、外側コア部を複合材料で構成した形態とすることができる。この場合、図7,図8に示すように各コイル素子2a,2b内にそれぞれ挿通配置される一対の内側コア部31a,31bを用意する。外側コア部は、実施形態1のようにケース(容器)に一体化された成形体と、複数の分割片とを組み付ける形態とすると配置し易い。又は、外側コア部は、実施形態2のようにケースを成形型として成形すると、複雑な形状であっても容易に形成できる。その他、二つのコイル素子2a,2bを具える場合も、実施形態3のように蓋側台部を具える形態とすることができる。この蓋側台部は、図5,図6に示す蓋側台部5と同様に、両コイル素子2a,2bの外周面に沿った支持面を有するものとすると、放熱性により優れるリアクトルを構築できる。
【0125】
[実施形態6]
コイル素子2a,2bを二つ具える場合も、実施形態4のように磁性コアの全てが複合材料で構成された形態とすることができる。この場合、各コイル素子2a,2b内にそれぞれ配置される内側コア部、及びコイル素子2a,2b外に配置される外側コア部は、いずれも複合材料からなる成形体とし、複数の成形体を組み付ける形態、又は内側コア部を成形体とし、外側コア部を上述のようにケースを成形型として成形した形態とすることができる。また、内側コア部と外側コア部とは、同じ複合材料により構成することができる。この複合材料の磁性体粉末の含有量は、40体積%以上70体積%以下、飽和磁束密度は0.6T以上、比透磁率は5以上50以下、好ましくは10以上30以下とすることができ、磁性コア全体の比透磁率は5以上50以下とすることができる。この場合、ケースを成形型として、内側コア部及び外側コア部の双方を一体成形すると、組付作業を省略できる。
【0126】
又は、内側コア部と外側コア部とは、異なる複合材料により構成することができる。この構成では、例えば、磁性体粉末の材質を同じとする場合、磁性体粉末の含有量を変えるだけで飽和磁束密度や比透磁率を調整することができ、所望の特性の複合材料を製造し易いという利点もある。磁性体粉末の材質や含有量を調整することで、例えば、内側コア部の飽和磁束密度が高く、外側コア部の比透磁率が低い形態、内側コア部の比透磁率が低く、外側コア部の飽和磁束密度が高い形態などとすることができる。内側コア部及び外側コア部を構成する各複合材料はいずれも、磁性体粉末の含有量:40体積%以上70体積%以下、飽和磁束密度:0.6T以上、比透磁率:5以上50以下、好ましくは10以上30以下とすることができ、磁性コア全体の比透磁率:5以上50以下とすることができる。この場合、内側コア部及び外側コア部をそれぞれ、複合材料からなる成形体とすると、製造し易い。
【0127】
[変形例1]
上記実施形態1では、横型収納形態を説明したが、実施形態1〜6のいずれも、縦型配置形態とすることができる。縦型配置形態は、設置対象に対する接触面積を小さくし易く、設置面積の小型化を図ることができる。
【0128】
縦型配置形態では、例えば、内側コア部の一端面をコイルの一端面から突出させてケースの内底面に接触させ、コイルから突出した内側コア部の一端面側の外周面及び内側コア部の他端面が外側コア部を構成する複合材料に接触するように磁性コアを形成する。ケースを構成する底板部には、例えば、棒状、板状、L字状などの放熱台部を形成し、この放熱台部がコイルの一端面側に配置された状態が樹脂モールド部によって維持されたコイル部品とすることが挙げられる。この場合、内側コア部と外側コア部との間で磁束が十分に通過できるように、放熱台部の形状・個数、樹脂モールド部の形状を選択する。また、この場合、ケースをまず組み立てて、このケースを成形型とする注型成形によって外側コア部を製造すると、外側コア部を製造し易い。
【0129】
[変形例2]
上記実施形態1では、内側コア部31をも一体に具えるコイル部品を説明した。その他、実施形態1〜6のいずれも、内側コア部31,31a,31bを有していないコイル部品、つまり、コイルと底板部とが樹脂モールド部によって保持され、かつ内側コア部31,31a,31bが挿通配置される中空孔を有するコイル部品とすることができる。このコイル部品の製造には、上述した内側コア部31に代わって中子を利用するとよい。また、コイル2(コイル素子)の内側に設ける樹脂の厚さを調整して中空孔を形成することで、上記樹脂を内側コア部31,31a,31bの位置決めに利用できる。
【0130】
[実施形態7]
実施形態1〜6や変形例1,2のリアクトルは、例えば、車両などに載置されるコンバータの構成部品や、このコンバータを具える電力変換装置の構成部品に利用することができる。
【0131】
例えば、ハイブリッド自動車や電気自動車といった車両1200は、図9に示すようにメインバッテリ1210と、メインバッテリ1210に接続される電力変換装置1100と、メインバッテリ1210からの供給電力により駆動して走行に利用されるモータ(負荷)1220とを具える。モータ1220は、代表的には、3相交流モータであり、走行時、車輪1250を駆動し、回生時、発電機として機能する。ハイブリッド自動車の場合、車両1200は、モータ1220に加えてエンジンを具える。なお、図9では、車両1200の充電箇所としてインレットを示すが、プラグを具える形態とすることができる。
【0132】
電力変換装置1100は、メインバッテリ1210に接続されて、入力電圧を変換するコンバータ1110と、コンバータ1110に接続されて、直流と交流との相互変換を行うインバータ1120とを有する。この例に示すコンバータ1110は、車両1200の走行時、200V〜300V程度のメインバッテリ1210の直流電圧(入力電圧)を400V〜700V程度にまで昇圧して、インバータ1120に給電する。また、コンバータ1110は、回生時、モータ1220からインバータ1120を介して出力される直流電圧(入力電圧)をメインバッテリ1210に適合した直流電圧に降圧して、メインバッテリ1210に充電させている。インバータ1120は、車両1200の走行時、コンバータ1110で昇圧された直流を所定の交流に変換して、変換した電力をモータ1220に給電してモータ1220を駆動し、回生時、モータ1220からの交流出力を直流に変換してコンバータ1110に出力している。
【0133】
コンバータ1110は、図10に示すように複数のスイッチング素子1111と、スイッチング素子1111の動作を制御する駆動回路1112と、リアクトルLとを具え、ON/OFFの繰り返し(スイッチング動作)により入力電圧の変換(ここでは昇降圧)を行う。スイッチング素子1111には、FET,IGBTなどのパワーデバイスが利用される。リアクトルLは、回路に流れようとする電流の変化を妨げようとするコイルの性質を利用し、スイッチング動作によって電流が増減しようとしたとき、その変化を滑らかにする機能を有する。このリアクトルLとして、上記実施形態1〜6や変形例1,2のリアクトルを具える。放熱性に優れるリアクトル1Aなどを具えることで、電力変換装置1100やコンバータ1110も放熱性に優れる。
【0134】
なお、車両1200は、コンバータ1110の他、メインバッテリ1210に接続された給電装置用コンバータ1150や、補機類1240の電力源となるサブバッテリ1230とメインバッテリ1210とに接続され、メインバッテリ1210の高圧を低圧に変換する補機電源用コンバータ1160を具える。コンバータ1110は、代表的には、DC-DC変換を行うが、給電装置用コンバータ1150や補機電源用コンバータ1160は、AC-DC変換を行う。給電装置用コンバータ1150のなかには、DC-DC変換を行うものもある。給電装置用コンバータ1150や補機電源用コンバータ1160のリアクトルに、上記実施形態1〜6や変形例1,2のリアクトルなどと同様の構成を具え、適宜、大きさや形状などを変更したリアクトルを利用することができる。また、入力電力の変換を行うコンバータであって、昇圧のみを行うコンバータや降圧のみを行うコンバータに、上記実施形態1〜6や変形例1,2のリアクトルなどを利用することもできる。
【0135】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能である。
【0136】
例えば、コイルと底板部との間に樹脂モールド部の構成樹脂に加えて上述の封止樹脂が介在された形態、コイルと底板部とが封止樹脂によって一体化された形態とすることができる。これらの形態は、コイルと底板部間に少なくとも存在する封止樹脂によって、コイルと底板部との相互の位置を維持できるため、コイルの熱を底板部を介してケース外部に良好に伝えられる。更に、底板部に粗面化処理を施すと、封止樹脂と底板部との接触面積を増大でき、放熱性をより高められる。その他、磁性コアを複合材料からなる成形体や圧粉成形体などとすると、コイルに組み付け易いことから、樹脂モールド部を省略して、コイルと磁性コアと底板部とを接着剤で固定したり、ケースに収納した後、上述のように封止樹脂などで固定する形態も考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明のリアクトルは、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車といった車両に搭載されるDC-DCコンバータや空調機のコンバータといった電力変換装置の構成部品に利用することができる。本発明のリアクトル用コイル部品は、上述の電力変換装置に用いられるリアクトルの構成部品に利用することができる。
【符号の説明】
【0138】
1A,1B,1C リアクトル
2,2B,2C コイル 2w 巻線 2a,2b コイル素子 2r 連結部
20A,20C コイル部品 21 樹脂モールド部
3 磁性コア 31,31a,31b 内側コア部 31e 端面 32 外側コア部
32a,32b 分割成形体 32c 一体成形体 320,320c 接合面
321 コイル被覆面 322 台部被覆面
4A,4B,4C ケース 40,40B,40C 底板部 40i 内底面 40o 外底面
41 壁部 42,42C 蓋部 42h 巻線孔 42b ボルト孔 43 容器
400,410 取付部 401,401a,401b,401c 放熱台部
401e 端面 401s 側面 402 支持面
5 蓋側台部 50 固定孔
100,110 ボルト
1100 電力変換装置 1110 コンバータ 1111 スイッチング素子
1112 駆動回路 L リアクトル 1120 インバータ
1150 給電装置用コンバータ 1160 補機電源用コンバータ
1200 車両 1210 メインバッテリ 1220 モータ 1230 サブバッテリ
1240 補機類 1250 車輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のコイルと、
前記コイルの内外に配置されて閉磁路を形成する磁性コアと、
前記コイルと前記磁性コアとを収納するケースとを具えるリアクトルであって、
前記磁性コアの少なくとも一部は、磁性体粉末と樹脂とを含む複合材料から構成されており、
前記ケースは、
非磁性金属材料から構成されており、前記コイルと前記磁性コアとの組物が配置される底板部と、
前記底板部とは独立した部材であり、この底板部に取り付けられて、前記組物の周囲を囲む壁部とを具え、
絶縁性樹脂から構成されており、前記コイルの外周の少なくとも一部を覆って、その形状を保持すると共に、前記コイルと前記底板部とを一体に保持する樹脂モールド部を具えるリアクトル。
【請求項2】
前記コイルは、横並びされた一対の筒状のコイル素子を具え、
前記磁性コアは、前記複合材料から構成されている請求項1に記載のリアクトル。
【請求項3】
前記コイルは、筒状のコイル素子を一つのみ具え、
前記磁性コアのうち、前記コイル素子の外周側に配置される箇所の少なくとも一部は、前記複合材料から構成されており、
前記コイル素子の外周のうち、前記複合材料に覆われる箇所は、前記樹脂モールド部の構成樹脂によって覆われている請求項1に記載のリアクトル。
【請求項4】
前記底板部において前記樹脂モールド部に覆われる被覆領域の少なくとも一部に粗面化処理が施されている請求項1〜3のいずれか1項に記載のリアクトル。
【請求項5】
前記底板部は、前記コイルの外周面に沿った支持面が設けられた放熱台部を具える請求項1〜4のいずれか1項に記載のリアクトル。
【請求項6】
前記壁部の開口部を覆う蓋部と、
非磁性金属材料から構成されており、前記樹脂モールド部の構成樹脂によって前記コイルと一体に保持され、前記蓋部が取り付けられる蓋側台部とを具える請求項1〜5のいずれか1項に記載のリアクトル。
【請求項7】
前記ケースは、前記壁部と一体に成形された蓋部を具える請求項1〜6のいずれか1項に記載のリアクトル。
【請求項8】
前記磁性コアのうち、前記コイルの内側に配置される内側コア部は、前記樹脂モールド部の構成樹脂によって前記コイルと一体に保持されている請求項1〜7のいずれか1項に記載のリアクトル。
【請求項9】
前記コイルは、前記底板部の外底面に対してコイルの軸が平行するように前記ケースに収納されている請求項1〜8のいずれか1項に記載のリアクトル。
【請求項10】
前記ケースは、前記リアクトルを設置対象に固定するための取付部を一体に具える請求項1〜9のいずれか1項に記載のリアクトル。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載のリアクトルを具えるコンバータ。
【請求項12】
請求項11に記載のコンバータを具える電力変換装置。
【請求項13】
筒状のコイルと、このコイルの内外に配置されて閉磁路を形成する磁性コアとがケースに収納されたリアクトルに利用されるリアクトル用コイル部品であって、
筒状のコイルと、
非磁性金属材料から構成されており、前記ケースにおいて前記コイルと前記磁性コアとの組物が配置される底板部と、
絶縁性樹脂から構成されており、前記コイルの外周の少なくとも一部を覆って、その形状を保持すると共に、前記コイルと前記底板部とを一体に保持する樹脂モールド部とを具えるリアクトル用コイル部品。
但し、前記磁性コアの少なくとも一部は、磁性体粉末と樹脂とを含む複合材料から構成されるものとする。また、前記ケースの底板部には、この底板部とは独立した部材であって、前記組物の周囲を囲む壁部が取り付けられるものとする。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−93549(P2013−93549A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−179585(P2012−179585)
【出願日】平成24年8月13日(2012.8.13)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【Fターム(参考)】