説明

リアクトル構造体

【課題】コイルとコアの露出部とが面一に形成されたリアクトルであっても、ケース内での位置決めを容易に行うことができるリアクトル構造体を提供する。
【解決手段】リアクトル構造体1は、並列して配置される一対のコイル40,50と各コイル40,50に覆われるコイル巻回部およびコイル40,50に覆われることなく露出する露出部31,32を有する環状のコア30とを備えるリアクトル10と、リアクトル10を収納するケース90とを備える。そして、リアクトル構造体1は、前記ケース90の底面と対向する前記コイル40,50の外周面と前記コア30の露出部31,32の外周面とが実質的に面一であり、前記ケース90の底面にリアクトル10の一部と係合して、ケース90におけるリアクトル10の位置決めを行う係合凹部91を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド自動車などのコンバータの構成部品などに利用されるリアクトル構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド自動車のコンバータなどの構成部品として利用されるリアクトル構造体は、並列される一対のコイルと、各コイルに覆われるコイル巻回部およびコイルに覆われることなく露出する露出部を有する環状のコアとを備える。このようなリアクトルは、ケースに収納された状態で樹脂により固められたリアクトル構造体として利用されることがある(例えば、特許文献1の図3を参照)。
【0003】
一方で、リアクトルの使用に伴う問題として、リアクトルが発熱することが挙げられる。この発熱に対する対策として、コアのうち、コイルに覆われていない露出部をコイルの外周面と実質的に面一に形成することで、リアクトルの放熱性を向上させることも提案されている(例えば、特許文献2の図1〜3参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2007−116066号公報
【特許文献2】特開2004−327569号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、コイルとコアの露出部とが実質的に面一に形成されていると、ケース内におけるリアクトルの位置を決めることが難しい。また、ケース内でリアクトルを適正な位置に配置したとしても、ケース内にリアクトルを配置した状態で樹脂を充填するときに、樹脂の充填圧力によりリアクトルの位置がズレてしまう虞がある。
【0006】
ケースに収納されるリアクトルは、通常、コイルの端部がケースから引き出され、端子台の端子金具に接続される。このとき、ケースにおけるリアクトルの位置が適正でないと、コイル端部を端子金具に接続することが困難となり、その作業が煩雑であった。
【0007】
また、ケース内でのリアクトルの位置が適正でないと、ケースの側壁とリアクトルとの隙間の距離にバラツキが生じ、隙間に介在される樹脂の厚さも一定しない。そのため、リアクトルからケースへの伝熱にムラができるので、リアクトルの動作が不安定になる虞もある。
【0008】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的の一つは、コイルと露出部とを実質的に面一に形成したリアクトルをケースに対して容易に位置決めをすることができるリアクトル構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、並列して配置される一対のコイルと各コイルに覆われるコイル巻回部およびコイルに覆われることなく露出する露出部を有する環状のコアとを備えるリアクトルと、リアクトルを収納するケースとを備えるリアクトル構造体に係る。そして、本発明のリアクトル構造体は、前記ケースの底面と対向する前記コイルの外周面と前記環状コアの露出部の外周面とが面一であり、前記ケースの底面にリアクトルの一部と係合する係合凹部を有することを特徴とする。
【0010】
本発明リアクトル構造体によれば、リアクトルの一部と係合する係合凹部をケースの底面に設けることで、ケース内におけるリアクトルの位置決めを正確に行うことができる。その結果、リアクトルのコイル端部の位置も所定の位置に決まるので、コイル端部を端子金具に容易に接続させることができる。また、ケース内でのリアクトルの位置が決まれば、リアクトルで生じた熱をムラなくケースに放熱することができる。ケース内におけるリアクトルの位置は、例えば、ケースの中央部とすると良い。
【0011】
ケースにおけるリアクトルの位置決めを行う構成としては、具体的には、以下に示す2つの構成が代表的である。
【0012】
まず、第一の構成としては、前記係合凹部が、前記コイルと前記環状コアの露出部とからなる面一の面全体と実質的に等しい広さを有する構成とすることが挙げられる。
【0013】
このような構成であれば、リアクトルをそのままケースの係合凹部に嵌め込むように配置できるので、ケース内のリアクトルを安定させることができる。また、前記面一の面全体でケースに接触する構成とできるので、リアクトルから効率よく放熱することができる。
【0014】
また、第二の構成として、前記リアクトルは、前記コイル両端と前記環状コアの各露出部との間に介在されて両者の絶縁を確保する枠状インシュレータを備えるようにする。そして、このインシュレータに、前記コイルと前記環状コアの露出部とからなる面一の面から突出する係合凸部を形成し、かつ、ケースの係合凹部を、前記係合凸部の外形に沿った溝状とする構成が挙げられる。
【0015】
このような構成であれば、係合凹部の形成も容易であるし、ケースにおけるリアクトルの位置決めも確実に行うことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明リアクトル構造体の構成によれば、コイルとコアの露出部とを面一に形成したリアクトルであっても、ケース内におけるリアクトルの位置決めを容易に行うことができる。その結果、ケースから引き出されるコイル端部の位置が所定の位置に決まるので、このコイル端部を、コイルに電力供給するための端子台の端子金具に容易に接続することができる。また、ケース内でのリアクトルの位置が所定位置に決まっているので、リアクトルで生じた熱をムラなく放熱することができ、リアクトルを安定して動作させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明リアクトルの実施形態を説明する。
【0018】
<実施形態1>
【0019】
図1(A)は、実施形態1に係るリアクトルの斜視図、(B)はリアクトル構造体の斜視図である。また、図2は、ケースにおけるリアクトルの配置状態を示す部分断面図である。但し、図2では、ケースとリアクトルとを離隔して示し、コイルの巻回数は、図1よりも少なくしている。
【0020】
<リアクトル構造体の全体構成>
図1、2に示すように、リアクトル構造体1は、リアクトル10とこのリアクトル10を収納するケース90とを備える。ケース90におけるリアクトル10は、ステー部材95で固定され、かつ、樹脂80で封止されている。このようなリアクトル構造体1は、ケース90を取り付け部に固定することで取り付けられる。取り付け部としては、例えば、ハイブリッド自動車のコンバータ部であれば、コンバータ部の各構成を冷却する冷却ベースなどを挙げることができる。
【0021】
リアクトル構造体1に備わるリアクトル10は、環状のコア30と、コア30の外周を覆うように配置されるコイル40,50とを備える。また、このリアクトル10は、コア30とコイル40,50との間に介在され、両者の絶縁を確実にするインシュレータ60を備える。
【0022】
上記構成を備えるリアクトル構造体1の特徴とするところは、インシュレータ60からケース90に伸びる係合凸部610,620と、ケース90に形成され、係合凸部610,620に係合する係合凹部91を有することである。以下、各構成を詳細に説明する。
【0023】
<コイル>
コイル40,50は、後述するコア30のコイル巻回部の外側に配置される巻線からなる。巻線は、導体と導体の周囲を覆う絶縁性の被覆とからなり、導体には導電性に優れる金属材料を、絶縁性の被覆にはエナメルなどを利用することができる。また、巻線として、その断面形状が円形、楕円形、多角形などの種々の形態を有するものを利用できる。特に、断面矩形の平角線は、断面円形のものに比べてコイルの占積率を高くすることが容易である。
【0024】
コイル40,50は一連の巻線を屈曲して形成され、屈曲連結部Jを介して接続されている。また、コイル40の端部41とコイル50の端部51は、コイル巻回部から離れるように引き出され、コイルに電力供給するための端子台の端子金具(図示略)に接続される。
【0025】
<コア>
コア30は、コイル40,50が巻回されるコイル巻回部(図示せず)と、コイル40,50に覆われずに露出する露出部31,32とを有する。コア30は、並列されるコイル巻回部の一方の端部に露出部31が接続され、他方の端部に露出部32が接続されることで、環状に形成されている。
【0026】
コイル巻回部は、直方体状であり、通常、複数の磁性材部がギャップ部を介して接合されて構成される。磁性材部は、例えば、軟磁性粉末の圧粉成形体や電磁鋼板の積層体を利用できる。ギャップ部は、磁性部材の間に介在されて、コア30のインダクタンスを調節するために用いられ、アルミナなどの非磁性材料で構成される。
【0027】
一方、露出部31,32は、ケース底面側に突出する突出部31C,32Cとを有する。これら突出部31C,32Cは、ケース底部に対向するコイル40,50と面一になるように突出しており、ケース底面に対向する端面が平滑な面となっている。そのため、突出部31C,32Cの端面全体でケース底面に接触し、コア30に生じる熱を効率よく取り付け面に放熱することができる。
【0028】
<インシュレータ>
インシュレータ60は、筒状インシュレータ(図示せず)と、筒状インシュレータの両開口部から筒の径方向外方に突出する枠状インシュレータ61,62とからなる。インシュレータ60をコア30に取り付けると、筒状インシュレータは、コイル巻回部の外周面全体を覆い、枠状インシュレータ61,62は、両露出部31,32の互いに対向する端面に接触する。従って、インシュレータ60を取り付けたコア30にコイル40,50を配置すると、コイル40,50の内周面とコア30のコイル巻回部との間に筒状インシュレータが介在された状態になると共に、コイル40,50の端面とコア30の各露出部31,32との間に枠状インシュレータ61,62が介在された状態になる。その結果、コイル40,50とコア30との間の絶縁が確保される。
【0029】
枠状インシュレータ61,62は、図2に示す様にコア30に配置したときに、コイル40,50と露出部31,32の面一の面から突出する係合凸部610,620を有する。係合凸部610,620は、紙面直交方向に連続して伸びる突条としても良いし、紙面直交方向に分散配置される複数の突片としても良い。
【0030】
上述したインシュレータ60は、絶縁性を有していれば良く、例えば、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、液晶ポリマー(LCP)などの絶縁材料が利用できる。また、インシュレータ60は、コアに取り付け易くするために複数の分割片から構成すると良い。
【0031】
<ケース>
ケース90は、リアクトル10を実質的に収納することができる箱状の部材であり、開口部を有する。ケース90は、例えば、アルミニウムやアルミニウム合金などで形成することができる。このケース90の底面には、上述した係合凸部610,620と係合する係合凹部91が形成されている。係合凹部91は、実質的に、係合凸部610,620の厚みと長さに等しい幅と長さに形成され、リアクトル10をケース90の所定位置に精度良く配置することができるようになっている。このとき、係合凹部91と係合凸部610,620とは係合凸部610,620の軸方向に何ら引っ掛かりを有することなく係合している。これら係合凸部610,620と係合凹部91との係合により、ケース90内におけるリアクトル10の位置を正確に決めることができる。
【0032】
上記係合凹部91の深さは、係合凸部610,620の突出量とほぼ等しくても良いし、浅くてもかまわない。係合凹部91の深さが、係合凸部610,620の突出量にほぼ等しいと、コイル40,50とコア30の露出部31,32がケース90に直接接触するので、リアクトル構造体1の放熱性を向上させることができる。また、係合凹部91の深さが、係合凸部610,620の突出量よりも浅い場合、コイル40,50と露出部31,32とがケース90から浮いた状態になって隙間ができ、この隙間に樹脂が回り込み易い。この場合でも、ケース90に対するリアクトル10の位置が適正な位置に配置されているので、リアクトル構造体1の放熱性は高い。
【0033】
係合凸部610,620と係合凹部91との係合により、ケース90内にリアクトル10を配置した後は、陸橋状のステー部材95で露出部31を上から押さえつけると共に、ケース90内に樹脂80を充填して、ケース90内にリアクトル10を固定する(図1(B)参照)。このとき、係合凸部610,620と係合凹部91とが係合しているので、ケース90内におけるリアクトル10の位置がズレることがない。
【0034】
<実施形態2>
実施形態2に係るリアクトルを図3,4に基づいて説明する。実施形態1からの変更点は、ケースに設けられる係合凹部の形状である。以下、この変更点を中心に説明する。
【0035】
図3(A)は、実施形態2に係るリアクトルの斜視図、(B)はリアクトル構造体の斜視図である。また、図4は、ケースにおけるリアクトルの配置状態を説明する部分断面図である(但し、ケースとリアクトルは離隔して示し、コイルの巻回数は図3よりも少なくしている)。
【0036】
図4に示すように、本実施形態における係合凹部92は、コイル40,50と露出部31,32の面一の面全体と実質的に等しい広さを有するように形成されている。このような係合凹部92とすることにより、リアクトル20がそのままケース90の係合凹部92に嵌まり込むようにして配置される。そのため、ケース90におけるリアクトル20の位置決めが容易にできる。また、リアクトル20は係合凹部91に引っ掛かりなく係合しているだけであるが、位置決め後にケース90内に樹脂80を充填してもケース90におけるリアクトルの位置がズレることが殆どない。その結果、取り付け部に対するリアクトル20の位置も正確に決めることができるので、リアクトル構造体2の放熱性を向上させることができる。
【0037】
ここで、本実施形態におけるインシュレータ60は、図3,4に示すように、コイル40,50とコア30の露出部31,32の面一の面から突出することなく構成されているが、突出するように構成してもかまわない。この場合、ケース90の係合凹部92にさらに枠状インシュレータ61,62の突出部が係合する溝を設ける、これら突出部と溝との係合により、ケース90内でのリアクトル20の安定性がより向上する。
【0038】
尚、本発明の実施の形態は、上述したものに限定されるわけではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で、適宜、変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のリアクトル構造体は、例えばハイブリッド自動車のコンバータの構成部品などに好適に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】(A)は実施形態1に係るリアクトルの斜視図、(B)は実施形態1に係るリアクトル構造体の斜視図である。
【図2】実施形態1に係るリアクトル構造体であって、ケースにおけるリアクトルの配置状態を説明する部分断面図である。
【図3】(A)は実施形態2に係るリアクトルの斜視図、(B)は実施形態2に係るリアクトル構造体の斜視図である。
【図4】実施形態2に係るリアクトル構造体であって、ケースにおけるリアクトルの配置状態を説明する部分断面図である。
【符号の説明】
【0041】
1,2 リアクトル構造体
10,20 リアクトル
30 コア 31,32 露出部 31C,32C 突出部
40,50 コイル
41,51 コイルの端部 J 屈曲連結部
60 インシュレータ
61,62 枠状インシュレータ 610,620 係合凸部
80 樹脂
90 ケース 91 係合凹部(係合溝) 92 係合凹部
95 ステー部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
並列して配置される一対のコイルと各コイルに覆われるコイル巻回部およびコイルに覆われることなく露出する露出部を有する環状のコアとを備えるリアクトルと、リアクトルを収納するケースとを備えるリアクトル構造体であって、
前記ケースの底面と対向する前記コイルの外周面と前記環状コアの露出部の外周面とが実質的に面一であり、
前記ケースの底面にリアクトルの一部と係合する係合凹部を有することを特徴とするリアクトル構造体。
【請求項2】
前記係合凹部は、前記コイルと前記環状コアの露出部とからなる面一の面全体と実質的に等しい広さを有することを特徴とする請求項1に記載のリアクトル構造体。
【請求項3】
前記リアクトルは、前記コイル両端と前記環状コアの各露出部との間に介在されて両者の絶縁を確保する枠状インシュレータを備え、
このインシュレータは、前記コイルと前記環状コアの露出部とからなる面一の面から突出する係合凸部を有し、
前記ケースの係合凹部は、前記係合凸部の外形に沿った溝状であることを特徴とする請求項1に記載のリアクトル構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−21448(P2010−21448A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−182077(P2008−182077)
【出願日】平成20年7月11日(2008.7.11)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)