説明

リアクトル

【課題】電流センサやバスバを別途組み込む工程が不要で、コンバータなどの容積や重量を増加させることがないリアクトルを提供する。
【解決手段】相互に対向して並列配置され、各々に巻線が巻回されたコイルを備えた一対のセンターコアと、一対のセンターコアの両端に、相互に対向して並列配置された一対のサイドコアとを備えており、センターコアの一端とサイドコアとの間に設けられたギャップに、コイルを流れる電流を検出する電流センサが設けられているリアクトル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気自動車やハイブリッドカーのコンバータなどに用いられるリアクトルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題などを背景に、ハイブリッド自動車が急激に普及し、電気自動車などの開発も進められている。これらのハイブリッド車や電気自動車は、従来のガソリンエンジンなどの内燃機関と異なり、電気によるモータ駆動系が備えられている。
【0003】
このような電気によるモータ駆動系は、300V程度の高圧バッテリー、パワーコントロールユニット(PCU)、モータからなり、ハーネスにより結線されている。
【0004】
PCUには、電圧を600V程度まで昇圧する昇圧コンバータ部、モータを駆動させるインバータ部、制御部、内部結線、電流センサなどの各種センサが内包されている。昇圧コンバータ部は、スイッチング半導体素子、磁性体からなる環状のコアと巻線を巻回したコイルとを備えたリアクトル、およびコンデンサとから構成されている。内部配線には、ピークで200〜300Aの電流が流れることを考慮して、金属配線(バスバ)が使用され、電流の状態を監視する電流センサが取り付けられている(特許文献1)。電流センサは基板、ホール素子、集磁コアによって構成されている。
【0005】
昇圧コンバータを用いて高圧バッテリーの300V程度から約600V程度にまで昇圧された電圧が、インバータを介して制御されることにより、モータの駆動が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−279150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、モータの駆動のために種々の部品が組み込まれるが、車両においては、限られた空間に多くの部品を詰め込む必要があるため、部品の小型化、軽量化が強く望まれている。
【0008】
そこで、本発明は、リアクトルについて、より小型化、軽量化が図られた製品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意研究を行った結果、以下に記載する発明により上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。以下、各請求項の発明を説明する。
【0010】
請求項1に記載の発明は、
相互に対向して並列配置され、各々に巻線が巻回されたコイルを備えた一対のセンターコアと、
前記一対のセンターコアの両端に、相互に対向して並列配置された一対のサイドコアと
を備えており、
前記センターコアの一端と前記サイドコアとの間に設けられたギャップに、
前記コイルを流れる電流を検出する電流センサが設けられている
ことを特徴とするリアクトルである。
【0011】
本請求項の発明に係るリアクトルは、センターコアの一端とサイドコアとの間に設けられたギャップに電流センサが配置されている。即ち、電流センサがリアクトルに内蔵されて一体化されている。このため、PCUの容積や重量の増加を抑制することができる。また、リアクトルをコンバータなどに組み込んだ後、電流センサを別途組み込む必要がないため、工程の簡略化を図ることができると共に、PCUを構成する部品点数の削減を図ることができる。
【0012】
そして、電流センサは、ギャップに挿入するだけであるため、リアクトル自体の容積も実質的に増加することがない。
【0013】
また、電流センサは、コイルに近接して配置されているため、精度高く電流を検出することができる。さらに、ギャップ内に設けられて位置ズレを生じる恐れがないため、この点からも精度高く電流を検出することができる。この結果、リアクトル自体を高機能化することができる。
【0014】
なお、電流センサとしては、ホール効果を利用する電流センサ、カレントトランスを利用する電流センサ、シャント抵抗を利用する電流センサなど種々の電流センサがあるが、本発明においては、ホール効果を利用するホール素子やホールICが好ましく使用される。
【0015】
請求項2に記載の発明は、
前記電流センサが、前記センターコアの周面から、前記ギャップの間隔と同一距離以上の前記ギャップ内の位置に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のリアクトルである。
【0016】
電流によりコイルが形成する磁場は、ギャップの端部では乱れた状態になりやすいが、本請求項の発明においては、電流センサがギャップの間隔と同一距離以上のギャップ内の位置に配置されているため、磁場の乱れが小さく、より高い精度で電流を検出することができる。
【0017】
請求項3に記載の発明は、
前記電流センサが、検出データ取出用のコネクタと共にフレキシブルプリント基板に実装されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のリアクトルである。
【0018】
ギャップ内に設けられた電流センサは、検出データ取出用のコネクタと接続する必要があるが、予め接続回路が形成されたフレキシブルプリント基板(FPC)に実装することにより、センターコアやサイドコアへの接触の恐れなく接続することができ、製造も容易である。また、FPCの裏面に接着剤を塗布することにより、広い面積で確実に電流センサを固定させることができる。
【0019】
請求項4に記載の発明は、
前記フレキシブルプリント基板が、前記電流センサと前記コネクタとの間で折り曲げられて前記サイドコアに貼付けられており、前記コネクタが前記サイドコア上面に配置されていることを特徴とする請求項3に記載のリアクトルである。
【0020】
FPCが電流センサとコネクタとの間で折り曲げられていると、電流センサを容易にギャップ内に配置することができるため好ましい。
【0021】
請求項5に記載の発明は、
前記電流センサと、検出データ取出用のコネクタが配置された基板とが、直線状のリードにより接続され、
前記基板は、前記サイドコアの周面に配置されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のリアクトルである。
【0022】
電流センサとコネクタとを接続する手段としては、前記FPCに替えて、コネクタが配置された基板を用意し、直線状のリードにより電流センサと基板とを接続することも好ましい。直線状のリードにより接続されているため、センターコアやサイドコアへの接触の恐れがない。
【0023】
請求項6に記載の発明は、
前記電流センサと、検出データ取出用のコネクタが配置された基板とが、リードにより接続され、
前記基板は、前記サイドコアの周面に配置されており、
前記リードは、前記センターコアおよび前記サイドコアに非接触状態で折り曲げられている
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のリアクトルである。
【0024】
本請求項の発明においては、リードがセンターコアおよびサイドコアに非接触状態で折り曲げられているため、センターコアやサイドコアとの短絡が発生せず、検出データを正しく取り出すことができるため好ましい。
【0025】
また、リードをこのように折り曲げておくことにより、電流センサを容易にギャップ内に配置することができる。さらに、基板をサイドコアの周面に配置することにより、基板を安定して固定することができる。また、電流センサも安定した状態でギャップ内に配置することができる。基板は、サイドコアの周面でもサイドコアの上面に配置することが好ましい。
【0026】
なお、ギャップは、通常、鉛直方向に形成され、サイドコアの上面は水平方向に形成されるため、リードの折り曲げ角度は略直角とすることが好ましい。また、基板をサイドコアの周面へ配置するに際しては、エポキシ樹脂などを用いて基板裏面をサイドコアの周面へ接着して固定することが好ましい。
【0027】
請求項7に記載の発明は、
前記センターコアが複数の部分コアを接続して形成されており、
前記電流センサが配置される前記ギャップの間隔が、前記部分コア間のギャップの間隔よりも大きい
ことを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載のリアクトルである。
【0028】
センターコアは、通常、複数の部分コアを接続して形成される。この場合、部分コア同士のギャップをできるだけ小さくすることにより、電流センサを配置するギャップを大きくすることができるため、電流センサの配置が容易になる。
【0029】
請求項8に記載の発明は、
組み付けられた前記センターコア、前記サイドコア、および前記電流センサが、モールド樹脂加工により固定されていることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載のリアクトルである。
【0030】
モールド樹脂加工することにより、センターコア、サイドコア、電流センサなどの全てを一度に固定することができ、また樹脂加工であるため、リアクトルの重量増加を抑制することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明においては、より小型化、軽量化が図られたリアクトルを提供することができる。そして、工程の簡略化を図ることができると共に、PCUを構成する部品点数の削減を図ることができる。また、リアクトル自体を高機能化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施の形態におけるリアクトルを模式的に示す斜視図である。
【図2】本発明の一実施の形態におけるリアクトルのコア部を模式的に示す斜視図である。
【図3】本発明の一実施の形態におけるリアクトルの電流検出部の斜視図である。
【図4】本発明の他の実施の形態におけるリアクトルの電流検出部の斜視図である。
【図5】電流センサの電流値と磁束密度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明を実施の形態に基づいて説明する。
【0034】
図1は、本実施の形態におけるリアクトルを模式的に示す斜視図であり、図2は、本実施の形態におけるリアクトルのコア部を模式的に示す斜視図である。図1、図2において、100はコイルであり、101および102はコイル100両端の外部への接続端子、103はコイル100の巻き返し部である。そして、210および220はセンターコアであり、211および221はサイドコアである。また、300は電流検出部であり、301は電流センサである。
【0035】
212、213、214および222、223、224は、それぞれ、センターコア210および220を構成する部分コアであり、隣り合う部分コアの間には所定の厚さのギャップ材218および228が配されて、エポキシ樹脂系接着剤などを用いて熱硬化させることにより、一体に接合されている。
【0036】
そして、部分コア212とサイドコア211の間、部分コア214とサイドコア221の間、および部分コア222とサイドコア221の間にも、ギャップ材218および228が配されて、上記と同様に接合されている。一方、部分コア224とサイドコア221の間にはギャップ901が設けられており、このエア空間に電流センサ301が配置されている。
【0037】
リアクトルのコアは所定のサイズに設計する必要がある。このため、部分コア間で形成されるギャップはできるだけ小さくし、電流センサ301が配置されるギャップ901の間隔を、部分コア間で形成されるギャップの間隔より大きく設計することが、電流センサ301の配置の容易さの観点から好ましく、ギャップ901の間隔は約4mm程度に設定することが好ましい。
【0038】
そして、センターコア210および220に巻線が巻回されることにより、前記のコイルが形成されて、その後、ギャップ901に電流センサ301が配置され、さらに、接続端子101、102がコイル100の両端に取り付けられることにより、図1のリアクトルが組み立てられる。
【0039】
なお、巻線の巻回に際して、通常は、予め、センターコア210、220の周囲にPBT(ポリブチレンテレフタレート)樹脂などから形成されたボビン(図示せず)が配される。
【0040】
前記の各部分コアおよび各サイドコアの形成材としては、絶縁被覆処理された鉄粉が圧縮成形された軟磁性材が好ましく用いられる。そして、ギャップ材としては、PBT樹脂やPA(ポリアミド)樹脂などが好ましく用いられる。
【0041】
また、コイルを形成する巻線としては、導体である銅をポリイミド樹脂などの被膜(厚み:約30〜40μm)で被覆した平角エナメル線(サイズとしては、例えば、4.5×1.7mm)などが好ましく用いられる。
【0042】
次に、電流検出部300の一例を図3に示す。図3において、310はコネクタ、320は基板、331はホールIC(電流センサ)、332はリードである。図3に示すように、リード332は略直角に折り曲げられている。なお、基板320上には、チップ抵抗、チップコンデンサなどの周辺部品を実装してもよい。そして、絶縁性を確保する観点から、折り曲げ部には樹脂コーティングが施されていることが好ましい。
【0043】
リード332が略直角に折り曲げられているため、先端に接続されたホールIC331を、ギャップ901(図2参照)の深い位置に、センターコアやサイドコアへ接触することなく、容易に位置させることができる。
【0044】
前記の通り、電流によりセンターコアに形成される磁場(磁束)は、ギャップの端部では乱れた状況になりやすい。このため、ギャップの間隔と同一距離以上の深い位置にホールIC(電流センサ)331を設けることにより、高い精度で電流を検出することができる。
【0045】
ホールIC(電流センサ)331は、センターコア220の中心部近傍に設けることが好ましいが、リード332が長くなるため、センターコア220やサイドコア211に接触しやすい。
【0046】
本発明者の実験によると、ギャップの間隔と同一距離以上の位置であれば、電流の検出に際して、検出精度上の問題は殆どない。このため、ギャップの間隔と同じ深さより少し深い位置にホールIC(電流センサ)331を配置することが好ましい(図2参照)。
【0047】
ホールICは、センターコアとサイドコアとの間に設けられたギャップに配置されるが、サイドコア211側、サイドコア211側のいずれの側に配置されてもよい。
【0048】
なお、基板320は、サイドコア211(図2参照)の上面側にエポキシ系接着剤などを用いて、固定されていることが好ましい。これにより、基板320を安定して保持することができるため、ホールIC331やリード332の動きが規制されて、より安定した検出が行われる。
【0049】
図3に示した電流検出部に替えて、図4に示すような電流検出部を用いることもできる。図4において、コネクタ310とホールIC(電流センサ)340とは、内部に銅箔の回路パターンが設けられたフレキシブルプリント基板321により接続されている。なお、リードの場合と同様に、フレキシブルプリント基板321に、チップ抵抗、チップコンデンサなどの周辺部品を実装してもよい。
【0050】
このような構成の電流検出部300は、フレキシブルプリント基板321上にコネクタ310とホールIC340を配置した後、フレキシブルプリント基板321をサイドコア211の上面と側面に貼付けるだけで、容易に作製することができる。そして、回路パターンが外部に露出していないため、センターコアやサイドコアへの接触を確実に防止することができる。
【0051】
以上のように、電流検出部の取り付けやコイルの形成が終了した後、全体をモールド樹脂加工することにより、ギャップのエア空間にも樹脂が注入されて、全部品が強固に固定される。
【0052】
このように、本実施の形態におけるリアクトルは、電流センサが内蔵されているため、コンバータなどに組み込む際、バスバや電流センサを別途組み込む必要がない。また、コンバータなどの容積や重量の増加を抑制することができる。また、部品点数を削減することもできる。
【0053】
そして、電流センサ(ホールICなど)がギャップ内の適切な位置に配置されているため、精度高い電流の検出が可能となる。
【実施例】
【0054】
本実施例においては、前記の実施の形態に沿って作製された(縦)80×(横)120×(高さ)60mmの大きさのリアクトルを用いて、検出された電流と、磁束密度との関係を確認した。
【0055】
結果を図5に示す。図5において、横軸は作製したリアクトルにより検出された電流(A)であり、縦軸は別途測定された磁束密度B(T)である。図5に示すように、リアクトルにより検出された電流と磁束密度Bとは直線関係を示しており、本発明のように、電流センサを一体化して内蔵したリアクトルにより、電流の変化が精度高く検出できることが確認できた。
【0056】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることができる。
【符号の説明】
【0057】
100 コイル
101、102 コイルの接続端子
103 コイルの巻き返し部
210、220 センターコア
211、221 サイドコア
212、213、214 部分コア
222、223、224 部分コア
218、228 ギャップ材
300 電流検出部
310 コネクタ
320 基板
321 フレキシブルプリント基板
331、340 ホールIC
332 リード
901 ギャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相互に対向して並列配置され、各々に巻線が巻回されたコイルを備えた一対のセンターコアと、
前記一対のセンターコアの両端に、相互に対向して並列配置された一対のサイドコアと
を備えており、
前記センターコアの一端と前記サイドコアとの間に設けられたギャップに、
前記コイルを流れる電流を検出する電流センサが設けられている
ことを特徴とするリアクトル。
【請求項2】
前記電流センサが、前記センターコアの周面から、前記ギャップの間隔と同一距離以上の前記ギャップ内の位置に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のリアクトル。
【請求項3】
前記電流センサが、検出データ取出用のコネクタと共にフレキシブルプリント基板に実装されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のリアクトル。
【請求項4】
前記フレキシブルプリント基板が、前記電流センサと前記コネクタとの間で折り曲げられて前記サイドコアに貼付けられており、前記コネクタが前記サイドコア上面に配置されていることを特徴とする請求項3に記載のリアクトル。
【請求項5】
前記電流センサと、検出データ取出用のコネクタが配置された基板とが、直線状のリードにより接続され、
前記基板は、前記サイドコアの周面に配置されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のリアクトル。
【請求項6】
前記電流センサと、検出データ取出用のコネクタが配置された基板とが、リードにより接続され、
前記基板は、前記サイドコアの周面に配置されており、
前記リードは、前記センターコアおよび前記サイドコアに非接触状態で折り曲げられている
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のリアクトル。
【請求項7】
前記センターコアが複数の部分コアを接続して形成されており、
前記電流センサが配置される前記ギャップの間隔が、前記部分コア間のギャップの間隔よりも大きい
ことを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載のリアクトル。
【請求項8】
組み付けられた前記センターコア、前記サイドコア、および前記電流センサが、モールド樹脂加工により固定されていることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載のリアクトル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−98302(P2013−98302A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−238816(P2011−238816)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)