説明

リアルタイム遠隔化学物質検出のためのパラメトリック広帯域光を用いるシステム

光源(102)がパラメトリック装置(106)をポンピングするために用いられるポンピング波(104)を発生する。パラメトリック装置(106)は縮退点またはその近傍に構成されて、広帯域出力(108)を発生する。広帯域出力(108)は化学剤(112)があるかもしれない遠隔地(110)に向けられる。広帯域出力(108)は遠隔地(110)を通して送波するかまたは遠隔地(110)から散乱させることができ、遠隔地(110)にある化学剤(112)は広帯域出力(108)の部分領域を吸収することができる。広帯域出力(108)を集光して、分散させて(114)、検出器アレイによって検出されるチャネルまたはサブバンドをつくることができる。検出器アレイはサブバンドの強度を多重化して、吸収スペクトルをつくることができる。吸収スペクトルは既知の化学剤のライブラリと比較することができ、遠隔地における化学剤の存在をリアルタイムまたはほぼリアルタイムに判定することができる。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリアルタイム化学物質検出システムに関し、特に、パラメトリック広帯域光を用いるシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
化合物は、用いられるエネルギーのタイプで大別されるスペクトル解析法によって同定することができる。そのような解析法は、光子が用いられる場合には「光分光法」、電子が用いられる場合には「電子分光法」または「オージェ分光法」、イオンが用いられる場合には「質量分光法」と呼ばれることもある。スペクトル解析法すなわち分光技術で一般に必要とされるのは、エネルギー源と、エネルギーが試料または化合物と相互作用した後にソースエネルギーの変化を測定するための装置、である。光分光法は、光源で発生する光のタイプによって、赤外または「IR」分光法と、「可視」分光法と、紫外または「UV」分光法とに分類できる。光分光法の場合、エネルギー源としてレーザ及びアーク灯が広く用いられ、測定装置として分光計及び干渉計が用いられることが多い。
【0003】
用いられるエネルギー源のタイプにより、光分光法はさらに受動型及び能動型に分類することもできる。受動型光分光法は輻射源として材料の固有熱輻射を用い、能動型光分光法は光源を用いて注目する領域を照明する。能動型分光技術は、気体、液体または固体を含むターゲットまたは領域から反射または散乱された光、あるいはそのようなターゲットまたは領域を透過した光を検出及び測定することができる。これらの技術には、一般にターゲットまたは試料に入射する光とターゲットまたは試料を透過したかターゲットまたは試料から散乱または反射された光の間のパーセント差を検出する、様々な「吸収」技法が含まれる。
【0004】
吸収分光法の場合、光源からの光子束の形態のエネルギーが、試料、領域またはターゲットに向けられ、試料、領域またはターゲットに入射する。試料、領域またはターゲット内の分子は特定の周波数において光を吸収することができ、別の分子はいくつかの周波数において別の周波数におけるより容易にエネルギーを吸収することができる。どの分子内の原子または原子団(すなわち「官能基」の間の結合)も、特性的な、伸縮、曲げ及び捻りの共鳴周波数を有することができる。いずれの化学物質も、そのような共鳴周波数ではエネルギーを吸収するが、他の非共鳴周波数ではエネルギーを吸収しない傾向がある。化学物質に入射して化学物質から反射されるかまたは化学物質を透過する、光源からの光は、この特定化学物質に特徴的な吸収スペクトルすなわち「化学的指紋」を有するであろう。異なる化学物質は異なる吸収スペクトルを有し、例えば山と谷などの特徴的な特性が、遠紫外(FUV)から可視領域を通って遠赤外すなわち長波赤外(LWIR)まで存在することもある。多くの化学吸収スペクトルが知られており、そのような吸収スペクトルは多くの化学文献に見ることができる。
【0005】
遠隔地にある化学物質を検出するために吸収分光技術を使うことができる。大気にいくつかの光透過帯すなわち「窓」があるからである。これらの窓が存在するのは、大気の気体分子がそれぞれ自己の吸収スペクトルを有し、いくつかの波長及び周波数では光を吸収するが、他の波長及び周波数では光を吸収しないからである。したがって、ある光波長は吸収分光法に適していないが、別のある波長はそのような用途に十分に適する。例えば、赤外(IR)透過窓は3μmから5μmの間及び8μmから12μmの間の波長範囲に存在し、他にも存在する。
【0006】
これまで能動型光分光法は、離れたところで化学剤を検出するために用いられてきた。しかし、これらの技術は波長スペクトルにわたる光源の同調を利用していた。遠隔地にある化学物質の同定に用いられていた能動型光分光システムは一般に、ある波長範囲にかけてのレーザ源、例えば波長可変ダイオードレーザ(TDL)、の同調及びそれぞれの同調波長に対する吸収の検出によって、そうしていた。そのような同調の導入は化学物質同定プロセスを遅くする。注目するスペクトル範囲にわたる所要の同調には時間がかかり、複雑性、大きさ及び費用を増大させる装置の追加を要する。
【0007】
受動型光分光法も離れたところから化学物質を検出するために用いられてきた。これらの技術は、熱的に放射される輻射または散乱光及び拡散光の検出に必要な時間のため、能動型システムより遅い。さらに、そのようなシステムには照射源がないため、一貫性に欠ける不確実な光検出がおこり、長時間にわたる検出がさらに必要である。米国空軍で用いられている統合軍軽量遠距離化学兵器検出器(JSLSCAD)はそのような受動型光分光システムの一例である。さらに、統合軍軽量遠距離化学兵器検出器のような受動型システムは検出される熱輻射の低い信号対雑音比(S/N)及び受動型システムの検出器内の暗電流雑音により偽警報率が高くなり易い。
【0008】
例えば、その波長範囲では十分な光量レベルで光を発生するレーザ発光媒質または活性媒質がないため、レーザ源が利用できないいくつかの波長範囲において光を発生するために非線形光学系が用いられている。非線形光学技法には、非線形結晶内での3つの光波または電場の混合を伴うパラメトリック光発生がある。3つの光波のうちの2つが同じかまたはほとんど同じエネルギーまたは周波数(したがって波長)を有するときに縮退点が生じる。縮退点によりパラメトリック発振器を同調しようとする試みに関する情報は、特許文献1,特許文献2及び特許文献3に見ることができる。1982年9月14日に公告された、名称を「波長可変範囲の広いピコ秒IR源(Broadly Tunable Picosecond IR Source)」とする特許文献1は、赤外領域においてスペクトル帯域及び波長を制御できるピコ秒進行波パラメトリック装置を開示している。このシステムの出力は本質的に広帯域ではなく、赤外波長範囲においてのみ同調可能である。そのような範囲にわたる同調は遅く、リアルタイム分光法または準リアルタイム分光法には適していない。
【0009】
2002年11月28日に公開された、名称を「縮退による非線形周波数混合装置を同調するための方法(Method for Tuning Nonlinear Frequency Mixing Devices Through Degeneracy)」とする特許文献2及び、関連する、2002年11月28日に公開された、名称を「縮退近傍におけるパラメトリック光発振を用いる波長可変光源(Tunable Light Source Employing Optical Parametric Oscillation Near Degeneracy)」とする特許文献3は、広い同調範囲をもつ出力を達成するための縮退点による光パラメトリック装置の同調を開示している。上で引用した特許文献1と同様に、その真の性質により同調にはある時間がかかり、したがって同調を行わない場合より本質的に遅くなる。したがって、開示される技術はリアルタイム分光法または準リアルタイム分光法に適していない。また、同調装置は本質的に複雑であり、同調装置が用いられるシステムの大きさ及び費用を増大させる。
【特許文献1】米国特許第4349907号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2002/0176454号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2002/0176472号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、必要とされているのは、比較的簡素で安価なリアルタイムまたは準リアルタイム化学物質検出システムである。さらに必要とされているのは、出力範囲にわたる同調の必要がない、遠隔地にある化学兵器及び生物兵器を含む化学剤を定性的に検出できる、そのようなシステムである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
簡潔かつ概略的にいえば、本発明は遠隔地におけるいくつかの化学物質の存在を判定するための1つまたはそれより多くの広スペクトル幅パルスすなわち、「閃光」を含むことができる広帯域出力を発生する、システム及び方法を含む。特定の化学物質の存在を定性的に判定することができる。広帯域出力は、紫外範囲、可視範囲及び赤外範囲の波長を含むことができる。
【0012】
閃光分光法による遠距離化学物質検出システムは光源及びパラメトリック装置を備え、パラメトリック装置はその縮退点においてポンピング波を受信するように構成されている。パラメトリック装置は光源からポンピング波を受信して広帯域出力を生じる。広帯域出力は、化学剤が存在するかも知れない遠隔地に送波される。遠隔地から広帯域出力を受信して吸収スペクトルをつくるように動作できる分光計を備えることができる。
【0013】
広帯域出力はアイドラー波及び信号波を含むことができ、アイドラー波はいくつかの実施形態において実質的に信号波に等しい。いくつかの実施形態において、広帯域出力は半値全幅値が広帯域出力の中心波長の約5%から約25%である帯域幅または線幅を有することができる。広帯域出力は半値全幅値が200波数/cm(200cm−1)より大きい帯域幅または線幅を有することができる。いくつかの実施形態では、広帯域出力は半値全幅値が300波数/cm(300cm−1)より大きい帯域幅または線幅を有することができる。ポンピング波はアイドラー波長または信号波長の約1/2に等しい波長を有することができる。いくつかの実施形態において、アイドラー波及び信号波の内の1つの中心波長は約8μmから約12μmの間とすることができる。
【0014】
遠距離化学物質検出方法は、縮退点に構成されたパラメトリック装置にポンピング波を供給する工程及び広帯域出力を発生させる工程を含む。広帯域出力は化学剤があるかもしれない遠隔地に向けることができる。広帯域出力は遠隔地から検出することができ、化学剤の化学吸収スペクトルをつくることができる。
【0015】
広帯域出力の検出はさらに、広帯域出力を2つまたはそれより多くのサブバンドに分散させる工程を含むことができる。2つまたはそれより多くのサブバンドのそれぞれの強度を検出し、多重化して、吸収スペクトルを形成することができる。吸収スペクトルは1つまたはそれより多くの既知の化学物質または化学剤の吸収スペクトルと比較することができる。
【0016】
閃光分光法による化学物質検出システムは、ポンピング波を発生する手段及びポンピング波を縮退増幅して広帯域出力を発生させる手段を備える。システムは、広帯域出力を遠隔地に向ける手段ならびに遠隔地から広帯域出力を検出する手段を備えることができる。化学剤を同定する手段も備えられる。
【0017】
化学剤を同定する手段はさらに、化学吸収スペクトルをつくる手段及び/または広帯域出力を2つまたはそれより多くのサブバンドに分散させる手段を含むことができる。化学剤を同定する手段は2つまたはそれより多くのサブバンドのそれぞれの強度を検出する手段を含むことができる。化学剤を同定する手段はさらに、2つまたはそれより多くのサブバンドの強度を多重化して吸収スペクトルをつくる手段を含むことができる。化学剤を同定する手段は吸収スペクトルを既知の化学吸収スペクトルと比較するかまたは相関させる手段を含むことができる。いくつかの実施形態では、広帯域出力は半値全幅値が200波数/cm(200cm−1)より大きい帯域幅または線幅を有することができる。
【0018】
本発明の上記及びその他の特徴、態様及び利点は、以下の説明、添付される特許請求の範囲及び添付図面によってさらに深く理解されることになろう。図面は必ずしも比例尺で描かれておらず、代りに、本発明の原理を示す場合は強調されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は、添付図面とともに読まれるべき、以下の詳細な説明によって理解することができる。以下の詳細の説明は例示に過ぎず、本発明の範囲の限定を意味するものではない。
【0020】
本発明は、化学剤を検出するために遠隔地に向けることができる、例えば赤外領域における、広帯域出力を発生するシステム及び方法に関する。広帯域出力の広い帯域幅により、1つまたはそれより多くの化学剤の存在を示す吸収スペクトルを、光源を同調する必要なしにほぼリアルタイムにつくることができる。この結果、化学兵器及び生物兵器及び/またはこれらの合成前駆体及び分解生成物を含む化学剤を同定することができる。同調の回避により応答時間が短縮され、遠隔地における特定の化学剤の存在を検出するための速度が上がる。
【0021】
図面を参照して、化学物質同定及び検出に用いるための閃光分光法の実施形態をここで説明する。図1は、遠距離化学物質検出のための閃光分光システム100のコンポーネントを示す。光源102が、パラメトリック装置106として用いられる非線形結晶または結晶性材料に入射する、例えば赤外領域の、ポンピング波104を発生する。パラメトリック装置106は、パラメトリック光増幅器(OPA)、パラメトリック光発生器(OPG)またはパラメトリック光発振器(OPO)として構成することができる。
【0022】
パラメトリック装置106はパラメトリック相互作用または光発生により光を発生するために1つまたはそれより多くのポンピング波とともに用いることができる。パラメトリック相互作用または光発生は、非線形結晶内での3つの光波または電場、すなわち、ポンピング波、信号波及びアイドラー波の間のエネルギー混合またはエネルギー交換を含む。非線形材料または非線形結晶内でパラメトリック相互作用がおこるため、相互作用している3つの光波のエネルギーが保存される。運動量または位相も保存されるが、それでも少量の不整合により非線形結晶内で3つの光波の間のエネルギー移行が可能になるであろう。パラメトリック光発生により、3つの光波の内の1つまたは2つを他の光波からのエネルギー転換によって選択的に増幅させることができる。
【0023】
狭い範囲の許容不整合を含む、運動量保存の要請は「位相整合」条件と称される。運動量または位相の不整合が大きくなるほど、3つの光波の相互作用またはパラメトリック相互作用の効率は低くなるであろう。非線形結晶は複屈折性であるから、そのような結晶は、2つまたはそれより多くの位相速度モードを与え、したがって、結晶内の光波の進行方向及び偏極に依存する2つまたはそれより多くの屈折率、すなわち常屈折率及び異常屈折率を有する。ある与えられた非線形結晶に対し、屈折率は位相整合条件を満たす波長の組合せを決定する。
【0024】
パラメトリック装置106に用いられる非線形材料または非線形結晶は、入射光が特定の結晶に入った後に二重屈折すなわち複屈折が入射光にどの様に影響するかにしたがって識別することができる。非線形結晶はタイプI結晶またはタイプII結晶と称することができる。非線形結晶は、入射波または「ポンピング」波が二重に屈折されて、ポンピング波に垂直な、同じ偏極を有する信号電場または信号波及びアイドラー電場またはアイドラー波になる場合に、タイプI結晶と称される。タイプIIパラメトリック結晶は、ポンピング波から直交偏極した信号波及びアイドラー波を発生する結晶である。パラメトリック装置106はタイプI結晶またはタイプII構成に構成することができる。
【0025】
パラメトリック装置106は縮退点またはその近傍に同調させるかまたは構成することができる。非線形結晶の縮退点は、信号波及びアイドラー波として知られる、2つの非ポンピング波がそれぞれ、ポンピング波の1/2である、同じ周波数またはエネルギーを有する点である。信号波及びアイドラー波の周波数またはエネルギーがほぼ等しい、縮退点近傍の領域は縮退領域と称される。ポンピング波104はパラメトリック装置106の縮退点に基づいて選択するかまたは同調させることができる。
【0026】
パラメトリック装置106に用いられる特定の非線形結晶性材料の縮退点及び位相整合条件は、セルマイヤー方程式として知られる分散関係から決定することができる。セルマイヤー方程式は、特定の非線形結晶性材料の誘電率テンソル及び反透磁率テンソルと一致する、測定された屈折条件及び偏極条件、例えばその材料についての屈折率楕円体と一致するモードの偏極及び方向の数学的モデルである。様々な温度及び波長におけるある材料の屈折率測定値をその材料についてのセルマイヤー方程式を導くために用いることができる。
【0027】
セルマイヤー方程式は一般に、一般の固体はその固体の誘電定数に寄与する共鳴周波数が相異なるいくつかの電子状態を有するという事実を表す。セルマイヤー方程式は下の式(1):
【数1】

【0028】
または同様の形式とすることができる。ここで、nは特定の非線形結晶の常屈折率または異常屈折率であり、A,B,C及びDはセルマイヤー係数として知られる。セルマイヤー係数及び屈折率は座標軸、例えば、特定の結晶材料の主軸または、x軸、y軸及びz軸に対して決定することができる。セルマイヤー方程式の別の形式が知られており、それらの形式では非線形結晶の温度を考慮することができる。
【0029】
パラメトリック装置106の同調は、ポンピング波の波長の調節による、例えばプリズム表または等価物上での方位調節、すなわち「角度同調」によるか、パラメトリック装置の温度制御、すなわち「温度同調」によるか、あるいはこれらのいかなる組合せによっても実施することができる。適切であれば、パラメトリック装置106の温度を制御できる。例えば、パラメトリック装置106を窒素デュワー瓶内で冷却するか、オーブン内で加熱することができる。
【0030】
図1を続けて参照すれば、パラメトリック装置106は、ポンピング波104を3光波混合またはパラメトリック相互作用によって広帯域出力108に変換する。広帯域出力108は、等しいか、実質的に等しいか、及び/または縮退点または縮退領域またはそれらの近傍での、パラメトリック装置の構成による波長値に重なり得る、信号波及びアイドラー波を含むことができる。広帯域出力108は、例えば透過光学系によって、パラメトリック装置106から離れた、「離隔距離」と称される、距離にある遠隔地110に向けられる。
【0031】
ある与えられたパラメトリック装置、例えばパラメトリック装置106に対し、縮退点または縮退領域またはそれらの近傍での、広帯域出力108の帯域幅の絶対値は下の式(2):
【数2】

【0032】
によって計算することができる。ここで、それぞれの一次微分はそれぞれの光波の群速度であり、Δkは運動量または位相の不整合であって、Lをパラメトリック装置の結晶長として、2π/Lとおくことができ、添字s及びiはそれぞれ信号波及びアイドラー波を指し、Δωは縮退点またはその近傍におけるパラメトリック装置の帯域幅の絶対値である。式(2)は、信号波またはアイドラー波の帯域幅Δωが群速度の差に依存することを示す。群速度差は縮退点において無限大になり、ω=ωになるから、式(2)に示されるように、速度分散を表す二次項が帯域幅に導入される。
【0033】
式(2)は、温度及び角度の変動を無視することによって、特定の材料のパラメトリック装置に対する期待スペクトル範囲の計算を簡単にする。式(2)の使用は、光源を同調する必要なしにリアルタイムまたはほぼリアルタイムに特定の化学剤を検出するに十分な帯域幅の広帯域出力を発生させるための、パラメトリック装置の材料の選択を容易にすることができる。帯域幅は、半値全幅値または3dB値、1/e値、あるいはパワースペクトル密度の二乗の積分で総平均強度の二乗を割った比で表すことができる。
【0034】
MATHCAD,MATLAB及びMATHEMATICAなどの適する数学ソフトウエアにより、ある与えられた非線形結晶に対するパラメトリック装置の広帯域出力のスペクトル範囲を決定するための式(2)の解を容易に得ることができる。そのようなソフトウエアにより、所望の変数を見いだすためかまたは特定の非線形結晶に対して係数を決定するためにセルマイヤー方程式の解を容易に得ることもできる。MATHCADは米国マサチューセッツ州ケンブリッジ(Cambridge)ケンドールスケア(Kendall Square)1のマスソフト社(Mathsoft, Inc.)に公許されたコンピュータプログラムの登録商標である。MATHEMATICAは米国イリノイ州シャンペーン(Champaign)トレードセンタードライブ(Trade Center Drive)100のウォルフラムリサーチ社(Wolfram Research, Inc.)に公許されたコンピュータプログラムの登録商標である。MATLABは米国マサチューセッツ州ナティック(Natick)アップルヒルドライブ(Apple Hill Drive)3のザマスワークス社(The MathWorks, Inc.)に公許されたコンピュータプログラムの登録商標である。
【0035】
図1を再び参照すれば、広帯域出力108の様々な波長は遠隔地110において存在するいずれかの化学剤112によって吸収され得る。そのような化学剤112はいずれかの化学材料または生物材料であり得る。例えば、化学剤には有機リン化合物を含めることができ、固体、液体、気体またはエアロゾルのようないずれかの形態の化学兵器を含めることができる。化学剤には、生体毒素、発疱剤/糜爛ガス、血液侵襲性薬剤、腐食剤または酸、窒息性または肺侵襲性ガス、不能化ガス、金属、神経ガス、有機溶媒、催涙ガスを含む暴徒鎮圧ガス、殺虫剤、有毒アルコール及び嘔吐ガスのいずれを含むこともできる。遠隔地110にある化学剤112との相互作用後、化学剤による吸収によっていずれかの周波数が減衰している広帯域出力108を分光計114または分光光度計によって検出し、測定することができる。
【0036】
分光計114は、(1)遠隔地110から広帯域出力を受信し、(2)広帯域出力108をサブバンドまたはチャネルに分散させ、(3)分散したサブバンドまたはチャネルの強度を検出するように機能する。分光計114は、例えば一体化された単一装置、または装置の集合体あるいは個別の光学コンポーネント及び電気コンポーネントとすることができる。分光計114は強度信号を多重化して、分光計114のスペクトル範囲のある領域にわたる吸収スペクトルをつくることもできる。分光計114の操作可能なパラメータ、例えば、スペクトル範囲、サブバンドのスペクトル帯域幅、スペクトルサンプリング及び検出感度は、離隔距離、光源102の光量、広帯域出力108のコヒーレンス度及び注目する化学剤の吸収スペクトルの特徴のような様々な要因を考慮して選択するか、または設計することができる。
【0037】
各チャネルの強度信号は、分光計114とは別の場所で、すなわちコンピュータまたは光多重スペクトル分析器(OMA)において多重化することもできる。吸収スペクトルがつくられると、様々な化学剤の既知の吸収スペクトルとの比較を行うことができる。分光計114でそのような比較を行うことができ、あるいは分光計114とは別の適する装置で比較を実施することができる。例えば、適するコンピュータまたは光多重スペクトル分析器(OMA)を比較のために用いることができる。
【0038】
光源102に関してはいずれか適するコヒーレントまたは準コヒーレント光源を用いることができる。例にはレーザまたはその他の非熱的光源があるが、これらには限定されない。適するレーザは、気体、液体色素、ダイオードまたは固体の活性媒質を有することができる。光源102には、パラメトリック装置を含む非線形光デバイスによって所望のポンピング波長に変換される出力を発生するレーザを含めることができる。光源102によって発生されるポンピング波104は、例えばファブリー−ペロエタロンまたはその他のフィルタデバイスによってフィルタリングすることができる。さらに、ポンピング波がある範囲にわたって同調可能であるように、波長可変光源102を用いることができる。
【0039】
次に図2を参照すれば、別の実施形態の閃光分光システム200が示されている。光源202,例えばレーザが、縮退点または縮退領域に構成されたパラメトリック装置206に送波される、ポンピング波204を発生する。光源202は透過光学系も有することができる。パラメトリック装置206は広帯域出力208を発生する。光源202及びパラメトリック装置206の非線形材料または非線形結晶の適切な選択によって、広帯域出力208は所望の光スペクトル領域、例えば、紫外領域、可視領域または赤外領域を含むことができる。
【0040】
透過光学系210は広帯域出力208を受信し、広帯域出力208を遠隔領域212にある化学剤211に向けることができる。透過光学系210は広帯域出力208を拡大及びコリメートするに適するレンズを有することができる。透過光学系208のレンズは望遠鏡構成またはビーム拡大器構成に構成することができる。存在するいずれかの化学剤211との相互作用後、広帯域出力208は、遠隔領域212から、適するレンズ、フィルタ及びアパーチャを有することができる集光光学系214によって受信できる。
【0041】
集光光学系214は、チャネルまたはサブバンド2181〜nへの分散のための分散光学系216に広帯域出力208を送波することができる。検出器または検出器アレイ220のピクセルがサブバンド2181〜nの強度を検出する。分散素子または分散光学系216はいずれかの適するタイプとすることができる。例には、回折格子、プリズム、自己集束素子のような電気光学素子、アダマールマスク等があるが、これらには限定されない。
【0042】
検出器アレイ220は吸収スペクトル222をつくるためにサブバンド2181〜nの強度を多重化または結合することができる。次いで、注目する化学剤の既知の吸収スペクトルとの吸収スペクトル222の比較によっていくつかの化学兵器または生物兵器の存在を判定することができる。比較は、既知の吸収スペクトルに対応する1つまたはそれより多くの整合フィルタの使用を含むがこれには限定されない適する技術またはその他の既知の技術によって達成することができる。比較は、例えば分光計またはコンピュータに備えることができる信号処理ハードウエアまたは信号処理ソフトウエアあるいはこれらの両者によって実施することができる。
【0043】
広帯域出力208から分散されたサブバンド2181〜nの信号検出にはいずれか適する検出器アレイ220を用いることができる。例えば、検出器アレイには、量子井戸赤外光検出器(QWIP)、フォトダイオード、電荷結合素子(CCD)、アバランチフォトダイオード、マイクロボロメータを含むボロメータ及びフォトトランジスタを含めることができるがこれらには限定されない。検出器アレイは1次元または2次元とすることができる。検出器アレイは、システムの分散光学系の焦平面におかれるフォーカルプレーンアレイ(FPA)とすることができる。2次元アレイの並列検出器素子からの信号は、加え合せて、信号対雑音比を改善し、したがって吸収スペクトルの検出を改善することができる。用いられるいかなるタイプの検出器に対しても、検出器材料を広帯域出力208のスペクトル範囲に整合させることができる。検出器はサブバンド2181〜nの検出を容易にするため、適切な方法、例えばデュワー瓶によって冷却できる。
【0044】
次に、離隔距離における遠隔化学物質検出のための閃光分光システムの使用を、図2を参照して説明する。光源202が、パラメトリック装置206、例えば、縮退点またはその近傍に構成されたパラメトリック光発生器に入射する、ポンピング波204を発生する。広帯域出力208がパラメトリック装置206によって発生され、望遠鏡構成またはビーム拡大器構成の2枚のレンズを有することができる、透過光学系210を通って進行する。広帯域出力208は次いで化学剤211の存在を判定するために遠隔地212に向けられる。広帯域出力208は遠隔地212に存在するいずれかの化学剤211と相互作用し、存在する化学剤211は広帯域出力208の光の特性波長を吸収する。
【0045】
広帯域出力208は、1つまたはそれより多くの集束レンズを有することができる集光光学系214に向けて反射または後方散乱される。次いで、広帯域出力208は分散光学系216,例えば回折格子によって、検出器アレイ220によって検出されるサブバンド2181〜nに分散される。検出器アレイ220はサブバンド2181〜nの強度を多重化し、吸収スペクトル222をつくる。吸収スペクトル222は次いで、神経ガス及び発疱性ガスのIR吸収スペクトルを含めることができるがこれらには限定されない、既知の吸収スペクトルのライブラリと比較することができる。
【0046】
遠隔地212は、地理的拘束条件、利用できる光源の光量、検出器アレイ220の検出器の検出感度を含む分光計の信号対雑音比(S/N)パラメータ及び検出された吸収スペクトル222内の特徴の信号対雑音比によって、影響され、調節され得る、離隔距離にある。
【0047】
図3を次に参照すれば、閃光分光法を用いて離れた遠隔地にある化学剤を検出する方法300についてのフローチャートが示される。適切な光源によってポンピング波が発生され(ステップ302)、このポンピング波が縮退点またはその近傍に構成された(ステップ304)パラメトリック装置に入射する。例えばIR領域の、広帯域出力がパラメトリック装置から、広帯域出力のいくつかの領域を吸収し得る1つまたはそれより多くの化学剤が存在する、遠隔地に送波される(ステップ306)。後方散乱光であり得る、広帯域出力の一部が遠隔地から受信され(ステップ308)、吸収スペクトルが検出される(ステップ310)。
【0048】
図4は、方法300の受信するステップ308及び検出するステップ310における付加ステップの方法400のフローチャートである。広帯域出力の遠隔地から受信される部分が、集光光学系によって集光され(ステップ402)、次いで多くのサブバンドまたはチャネルに分散される(ステップ404)。サブバンドの強度が検出され(ステップ406)、次いで吸収スペクトルをつくるために多重化または結合される(ステップ408)。次いで吸収スペクトルが既知の化学物質の吸収スペクトルと比較または相関されて(ステップ410)、遠隔地における1つまたはそれより多くの化学剤の存在が判定される(ステップ412)。
【0049】
本発明に用いられるパラメトリック装置は、パラメトリック光増幅器(OPA)、パラメトリック光発生器(OPG)またはパラメトリック光発振器(OPO)として構成することができる。いくつかの実施形態において、パラメトリック光発生器(OPG)を、そのような装置はOPOに比較して利得幅拡大を生じる傾向があることから、用いることができる。OPGを用いる場合、単パスまたは複パス構成を用いることができる。OPOを用いることもできるが、装置の共振器内での複パス中に利得幅縮小が生じる可能性がある。
【0050】
パラメトリック装置に対する材料の選択において考慮され得る要因には、非線形光学係数、非線形増幅または利得閾値、レーザまたは光損傷閾値、分光透過範囲、受容角、ウオークオフ角及び縮退点における帯域幅の内の1つまたはいくつかを含めることができるが、これらには限定されない。d/nで定義される、非線形性能指数のような別の要因を考慮することもできる。ここで、d=dNLすなわち非線形光学係数であり、nは特定の材料の透過率中心波長近傍の平均屈折率である。
【0051】
既述の一般性を制限することなしに、パラメトリック装置、例えばパラメトリック装置106に適する材料または結晶には、二リン酸アンモニウム(NHPOすなわち「ADP」)、ベータ(β)ホウ酸バリウム(BBO)、セレン化ガリウム(GaSe)、ニオブ酸バリウムリチウム(BaLiNb15)、硫化カドミウムガリウム(CdGa)、セレン化カドミウム(CdSe)、二ヒ化カドミウムゲルマニウム(CdBeAs)、ニオブ酸リチウム(LiNbO)、化学量論的ニオブ酸リチウム(LiNbO)、タンタル酸リチウム(LiTaO)、三ホウ酸リチウム(LiBすなわち「LBO」)、二リン酸カリウム(KHPOすなわち「KDP」)、リン酸カリウムチタニル(KTiOPOすなわち「KTP」)、ヒ酸カリウムチタニル(KTiOAsOすなわち「KTA」)、インジウムドープヒ酸カリウムチタニル(In:KTiOAsOすなわち「In:KTA」)、ヒ酸ルビジウムチタニル(RbTiOAsOすなわち「RTA」)、セレン化銀ガリウム(AgGaSe)、硫化銀ガリウム(AgGaS)、硫化銀ヒ素(AgAsSすなわち「淡紅銀鉱」)、ニオブ酸カリウム(KNbO)、ネオジムドープニオブ酸マンガンリチウム(Nd:MgLiNbO)、及び適する黄銅鉱のいずれかを含めることができるが、これらには限定されない。適する非線形材料は、以下の化合物系または合金、(Zn1−xCd)GeAs,Zn(Ge1−xSi)As及びZn(Ge1−xSi)Pから選ぶことができる。これらの化合物系については、付随する二次非線形分極率、したがって非線形係数を、PのAsへの置換、SiのGeへの置換、及びZnのCdへの置換に対応して大きくすることができる。その他の適する非線形材料は、以下の化合物系または合金、AgGa1−xInSe及びCdGe(As1−xから選ぶことができる。
【0052】
上述した材料に加えて、準位相整合(QPM)または周期的極交番型材料をパラメトリック装置に用いることができる。そのようなQPM材料は周期的分域反転、すなわち周期的極交番を利用し、相互作用している光波または信号の間の位相速度不整合を補償するQPM格子を形成するために用いることができる。非線形係数の符号の変化が分域反転にともない、したがって、そのような格子は材料の屈折率による分散を補償することができる。
【0053】
準位相整合(QPM)により、多くの波長において位相整合された動作が可能になる。変調周期、すなわち格子周期は、いかなる周波数変換プロセスの位相整合も提供するように設計することができ、よって非線形結晶特性を所望の要件に精確に調整することができる。さらに、そのような格子は真に周期的である必要はない。例えば、それぞれの分域長が先行分域長に対して調節すなわち「チャープ」された、チャープ型格子を用いることができる。チャープ型格子は、受容帯域幅のような特性を高め、ウオークオフを弱め、時間的パルス補償を容易にするために用いることができる。
【0054】
QPMに利用される周期的極交番型材料によって、特定の非線形結晶における最大の非線形係数を利用する伝搬方向と偏極の組合せの選択が可能になり得る。パラメトリック装置に適する周期的極交番型材料には、周期的双晶ヒ化ガリウム(PTGaAs)及びその他のリソグラフィパターン付材料、周期的極交番型ニオブ酸リチウム(PPLN)、周期的極交番型KTP(PPKTP)、周期的極交番型RTA(PPRTA)を含めることができるが、これらには限定されない。非周期的極交番型ニオブ酸リチウム(APPLN)を含むがこれには限定されない非周期極交番型材料をパラメトリック装置に用いることができる。時間的ウオークオフ、制限された受容帯域幅及び逆変換のような帯域幅制限効果は、格子周期が線形チャープされた、適切に設計された結晶により回避することができる。
【0055】
非線形係数及び性能指数が大きい材料はパラメトリック装置に十分な非線形利得を与えることができ、よってOPO構成は必要ではない。アニールされた陽子交換LiNbO構造のような導波構造にQPM材料が組み込まれる、導波QPM材料も用いることができる。いくつかの実施形態において、導波QPMパラメトリック材料をパラメトリック増幅器に用いて、回折効果を弱め、得られるパラメトリック利得を高めることができる。
【0056】
パラメトリック素子として用いられる特定の非線形結晶の縮退点は、(1)先験的に既知であるか、(2)適切なセルマイヤー方程式から決定するか、(3)既知の同調曲線から決定するか、(4)得られる同調曲線から決定するか、及び/または(5)適切な屈折率楕円体から決定することができる。温度同調に適する温度は特定の結晶材料に対する温度依存セルマイヤー方程式から求めることができる。
【0057】
したがって、本発明の使用により遠隔地にある特定の化学剤の吸収スペクトルをリアルタイムまたはほぼリアルタイムに決定できることは当然である。例えば、VX、サリン、シクロサリン、ソマン、タブンのような神経ガスも、マスタードガスのような発疱剤も含む、多くの主要な化学兵器の赤外(IR)吸収スペクトルを観測及び識別することができた。少なくとも8つの主要な化学兵器が9μm周辺に集まるIR吸収帯を有する。これらには、タブン(NATO名称「GA」)、サリン(GB)、ソマン(GD)、VX、蒸留マスタードガス(HD)、クロロアセトフェノン(CN)、o−クロロベンジルマロノニトリル(CS)、及びBZが含まれる。例えば、「化学兵器の赤外スペクトル(8〜13μm)及びポテンシャル干渉集(Atlas of Infrared Spectra (8-13 micron) of Chemical Agents and Potential Interferences)」,米国陸軍化学システムラボラトリ(1977年)を参照のこと。この文献の内容は本明細書に参照として含まれる。これらのような化学兵器は、検出された吸収スペクトルを既知の吸収スペクトルのライブラリまたはデータベースと比較することによって遠隔地にあると判定することができる。
【0058】
いくつかの実施形態において、従来の帯域幅の定義を用いれば、200波数/cm(200cm−1)より広い帯域幅を有する広帯域出力を発生するパラメトリック装置を用いることができる。例示的実施形態において、300波数/cm(300cm−1)より広い帯域幅を有する広帯域出力を発生するパラメトリック装置を用いることができる。
【0059】
いくつかの実施形態において、波長が4μmと5μmの間、好ましくはほぼ4.5μm近傍の赤外ポンピング波を発生する光源を用いることができる。そのような範囲のポンピング波により、縮退点に構成された4μmから12μmの送波範囲をもつパラメトリック装置は8〜12μmの範囲の広帯域出力を発生する。このスペクトル範囲をもつ広帯域出力は、神経ガス、発疱ガス及び衰弱化ガスを含む、有機リン化合物または有機リン酸化合物の検出に用いることができる。ほとんどの神経ガスは、リン酸の有機リン酸エステル誘導体であり、8〜12μmの範囲に信号対雑音比の高い特徴をもつ吸収スペクトルを有する。このスペクトル範囲はその他の化学兵器のリン原子団を検出するために用いることもできる。サリンまたはソマンの加水分解によって生成され、それらのいずれよりも安定である、メチルホスホン酸(MPA)も8〜12μmの範囲にある吸収スペクトル特徴によって検出できる。
【0060】
いくつかの実施形態において、パラメトリック装置が9μm範囲を含む広帯域出力を発生するように、一酸化炭素(CO)レーザまたは量子多段(QC)レーザを4.5μm近傍のポンピング波を発生するための光源として用いることができる。図5に示されるように、いくつかの既知の致死性神経ガスを含む様々な化学兵器は、赤外スペクトルの9μm範囲に特有の吸収スペクトル細部を有する。いくつかの実施形態において、量子多段(QC)レーザを、そのようなQCレーザはリン化インジウム(InP)上のAlInAs/InGaAs格子を用いてほぼ4.5〜17μmのいかなる波長においても作成することができるから、所望の赤外光の小型光源を得るために用いることができる。
【0061】
本発明にしたがえば、パルスレーザ光源により1パルスまたは数パルスだけで、遠隔地における1つまたはそれより多くの化学剤の存在を示す化学吸収スペクトルをつくることができる。さらに、光源の光量のような操作可能なパラメータを、有毒または致死性の化学剤の場合に、それらの化学剤を人命へのリスクを低くして検出することができるように、遠隔地への離隔距離を広げるために調節することができる。
【0062】
有効離隔距離は、特定の透過窓、注目する化学剤、検出器アレイの検出感度、広帯域出力の波長広がり、地理的拘束条件、得られる光源の光量及び分光計の信号対雑音比パラメータによって影響を受ける場合がある。
【0063】
いくつかの透過窓内にある信号対雑音比の高い特徴を探すことにより、及び大光量光源及び高検出感度検出器の適切な選択により、数100mから数kmの離隔距離を実現することができる。そのような距離では、市街地または都市環境内での化学剤検出に対する本発明の使用が理想的になる。本発明は、光源によって提供される照明及び化学剤を検出することができる速度のため、統合軍軽量遠距離化学兵器検出器(JSLCAD)の代りの使用にもよく適する。
【0064】
以下の実施例は本発明の広い範囲及び適用可能性を示すために提示される。
【実施例1】
【0065】
本予見的実施例については、光源としてCOレーザが用いられ、パラメトリック装置の材料にAgGaSeまたはCdGeAsが用いられる。そのような一酸化炭素(CO)レーザは約4.8μmから約8.3μmの多数のレーザ線を発生することができ、特定の線を選択するために線の同調を行うことができる。本実施例においては、COレーザが光源として用いられ、パルス波長の中心が4.8μmの、パルス出力を発生することができる。本予見的実施例は、化学兵器の検出に用いるための8.6〜10.6μmの範囲にわたる広帯域出力を発生するための、AgGaSeまたはCdGeAsのような適する非線形結晶でつくられたパラメトリック装置をポンピングするために、4.8μm近傍の光を発生する適する光源をどのように用いることができるかを示す。
【0066】
パルス特性は既知のタイミング及び/または圧縮技術及び装置によって能動的に制御することができる。COレーザからの出力は十分なフルーエンスを有し、ポンピング波として用いて、例えばAgGaSeまたはCdGeAsでつくられたOPGに送波される。パラメトリック装置は縮退点または縮退領域に構成される。パラメトリック装置はCOレーザ出力を縮退増幅し、ほとんど等しい信号波及びアイドラー波を含む広帯域出力を発生する。縮退構成の結果、広帯域出力の中心は約9.6μmにある。広帯域出力は、ほぼ8.6〜10.6μmの範囲に相当する、ポンピング波長の、±10%またはそれ以上の、例えば、FWHM、3dBまたは1/eで表される、帯域幅または線幅を有することができる。そのような広帯域出力は、多くの化学兵器の吸収スペクトルが信号対雑音比の高い特徴を有する、スペクトル範囲にある。
【0067】
図5を参照すれば、実施例1の広帯域出力に対するいくつかの既知の神経ガスの信号対雑音比が高い特徴を示すグラフが示されている。示される軸は波長対AgGaSeについての内部角であり、ここで内部角は光軸を含む固有結晶軸すなわち主軸に対してどのように結晶がカットされたかを示す。ポンピング波の波長は4.635μmであり、広帯域出力は8μm近傍に始まり約10.2μmまで広がる。
【0068】
図5に示されるポンピング波長は、二酸化炭素(CO)の最も占有粒子数が多い、すなわち最も強い線である、J=20からJ=21への回転量子数の遷移に対応するCOレーザ線R(20)に基づいて計算した。4.5μm近傍で動作するCOレーザはそのようなパラメトリック装置に対して同様の広帯域出力を発生することができる。様々な化学兵器に対する吸収スペクトルピークの位置が示されている。例えば、VXはほぼ8.63μmにある吸収ピークで示されている。その他の化学兵器の吸収ピークは、「化学兵器の赤外スペクトル(8〜13μm)及びポテンシャル干渉集」,米国陸軍化学システムラボラトリ(1977年)に開示されており、この文献の内容は本明細書に参照として含まれる。
【0069】
パラメトリック装置からの広帯域出力は、VXガス,サリンガスまたはソマンガスあるいはその他のガスのような、化学兵器がある遠隔領域に向けられ、その領域において化学兵器が広帯域出力の様々な成分を吸収する。広帯域出力の一部が分散光学系及び検出器を有する分光計の近傍に反射または後方散乱される。広帯域出力の後方散乱光は後方散乱光をサブバンドに分散させる分散光学系、例えば回折格子によって分散される。
【0070】
検出器は検出器素子またはピクセルでつくられた1次元(1D)アレイを有することができる。実施例1の検出器については、8〜10.5μmの範囲にわたる波長に適する材料でピクセルをつくることができる。検出器アレイの個々の素子がそれぞれのサブバンドの強度を検出する。個々の検出器は、個々のサブバンドに対応する限定された範囲の波長を検出するために、相異なる材料でつくることができる。検出器アレイは2次元(2D)フォーカルプレーンアレイ、例えば酸化バナジウム(VO)マイクロボロメータのアレイを有することもできる。検出器は強度を多重化して、広帯域出力の波長範囲にわたる検出された吸収スペクトルをつくる。次いで、遠隔地に1つまたはそれより多くの化学兵器または生物兵器があるか否かを判定するために、検出された吸収スペクトルを既知の化学兵器または生物兵器の吸収スペクトルと比較することができる。
【実施例2】
【0071】
タイプI AgGaSe OPOをポンピングするために2段階波長変換プロセスを用いた。光源はレーザ及びOPOとした。すなわち、1.06μmNd:YAGレーザを用いてタイプII KTP OPOをポンピングした。ポンピングレーザはコンティニューム(Continuum)モデルNY61 YAGレーザである。Nd:YAGポンピングレーザの出力をθ=53.5°の内部角にカットしたタイプII KTP OPOに対する1.06μmポンピング波として用いた。タイプII KTP OPOによってポンピング波は1.99/2.28μmの信号波/アイドラー波対に変換された。
【0072】
波長の短い信号波、すなわち1.99μm波を、θ=49°の内部角にカットした10×10×40mmの反射防止(AR)膜付セレン化銀ガリウム(AgGaSe)結晶を有する、クリーブランドクリスタルズ(Cleveland Crystals)製タイプI位相整合型OPOをポンピングするために用いた。このタイプIパラメトリック装置は縮退点近傍に構成され、中心波長が約4μmの赤外広帯域出力を発生した。
【0073】
亜酸化窒素(NO)を380Torr(5.07×10Pa)で入れたガスセルに広帯域出力を向けた。ガスセルから後方散乱された光を多重2D焦電素子アレイを有するプリズム分光計で集光した。分光計にはスピリコン(Spiricon)モデル パイロカム・パイロエレクトリック(Pyrocam Pyroelectric)(128×128)を用いた。2Dアレイの縦方向のピクセルの出力を総和し、5ポンピングパルスからの結果を平均した。多重アレイからの信号を結合し、ほぼ3.75〜4.25μmの範囲を有する吸収スペクトルをつくった。この吸収スペクトルを亜酸化窒素の既知の化学吸収スペクトルと比較し、吸収スペクトルは既知の亜酸化窒素吸収スペクトルと高い相関度で一致した。検出器アレイの分解能を改善することができたと発明者等は考えている。ほぼ0.1667秒(1/6秒)内で全プロセスを達成した。
【0074】
本発明を本発明のいくつかの実施形態を参照して詳細に説明したが、他の実施形態も可能である。例えば、既述の説明は全般的に赤外広帯域出力の使用による化学剤の同定に向けられているが、当業者であれば紫外光及び可視光の広帯域出力の使用及び発生が本発明の範囲内にあることを理解するはずである。本発明の実施形態の説明は全般的に、光源または送波器及び分光計または受波器が同じ場所にある、モノスタティック構成における後方散乱光の検出に向けられているが、本発明の範囲にはその他の構成も含まれる。例えば、光源または送波器及び分光計または受波器が異なる場所にある、バイスタティック構成を利用することができる。そのようなバイスタティック構成は、光源またはパラメトリック装置からほぼ180°の、遠隔地と実質的に同一線上に配置された検出器の使用を含むことができる。さらに、1つより多くの検出器または検出器アレイを用いることができ、これらは相異なる場所に配置することができる。さらに、全般的にレーザまたは非熱的光源として光源を説明したが、適する光源にはそのような光源からの周波数シフト出力も含めることができる。
【0075】
当業者であれば、上述から明らかであろうように、本発明が多くの手段で改変され得ることを理解するであろう。したがって、本発明は添付される特許請求の範囲によって求められる限りにしか限定されるべきではない。
【0076】
読者の注意は、本明細書と同時に提出され、本明細書とともに自由に公衆が便覧できる、全ての論文及び文書に向けられ、そのような論文及び文書の内容は本明細書に参照として含まれる。添付される特許請求の範囲、要約及び図面を含む、本明細書に開示される特徴の全ては、そうではないことが明白に述べられている場合を除き、同じか、等価であるかまたは同様の目的を果たす別の特徴によって置き換えることができる。したがって、そうではないことが明白に述べられている場合を除き、開示される特徴のそれぞれは包括的な等価または同様の特徴の組の内の一例に過ぎない。特定の機能を実施する「手段」を明示的に述べていない特許請求項におけるいずれの要素も、米国特許法第112条第6項に明記されているように、「手段」または「工程」条項と解されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】遠距離化学物質検出のための閃光分光法のコンポーネントを示す簡略な概念図である
【図2】閃光分光システムの別の実施形態の簡略なブロック図である
【図3】閃光分光法を用いて遠隔地にある化学剤を検出する方法のフローチャートである
【図4】図3の方法の付加工程のフローチャートである
【図5】波長が計算された広帯域出力対AgGaSeについての内部角のグラフである
【符号の説明】
【0078】
100 閃光分光システム
102 光源
104 ポンピング波
106 パラメトリック装置
108 広帯域出力
110 遠隔地
112 化学剤
114 分光計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
閃光分光法による遠距離化学物質検出システムにおいて、
光源、
パラメトリック装置であって、前記パラメトリック装置の縮退点において前記光源からポンピング波を受信するように構成されたパラメトリック装置、
前記パラメトリック装置によって発生され、遠隔地に送波される、広帯域出力、及び
前記遠隔地から前記広帯域出力を受信し、吸収スペクトルをつくるように動作できる分光計、
を備えることを特徴とするシステム。
【請求項2】
前記広帯域出力がアイドラー波及び信号波を含むことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記アイドラー波が前記信号波と実質的に等しいことを特徴とする請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記広帯域出力は、半値全幅値が広帯域出力中心波長の約5%から約25%である帯域幅または線幅を有することを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記広帯域出力は、半値全幅値が広帯域出力中心波長の約10%から約20%である帯域幅または線幅を有することを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記広帯域出力は、半値全幅値が200cm−1より広い帯域幅または線幅を有することを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記広帯域出力は、半値全幅値が300cm−1より広い帯域幅または線幅を有することを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記ポンピング波が前記広帯域出力中心波長の約1/2に等しい中心波長を有することを特徴とする請求項5に記載のシステム。
【請求項9】
前記アイドラー波及び前記信号波の内の1つの中心波長が約8μmから約12μmの間にあることを特徴とする請求項2に記載のシステム。
【請求項10】
前記アイドラー波及び前記信号波の内の1つの中心波長が約3μmから約5μmの間にあることを特徴とする請求項2に記載のシステム。
【請求項11】
前記分光計が、前記広帯域出力を受信し、前記広帯域出力が前記遠隔地から受信された後に前記広帯域出力を複数のサブバンドに分散させるように構成された光分散素子を備えることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項12】
前記分光計が前記サブバンドを受信するように構成された検出器アレイを備え、前記検出器アレイが前記サブバンドから多重吸収スペクトルをつくるように動作できることを特徴とする請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記検出器アレイが1Dアレイを含むことを特徴とする請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記検出器アレイが128の検出器素子を有することを特徴とする請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
前記検出器アレイが256の検出器素子を有することを特徴とする請求項13に記載のシステム。
【請求項16】
前記検出器アレイが2Dアレイを含むことを特徴とする請求項12に記載のシステム。
【請求項17】
前記検出器素子が128×128構成に構成されることを特徴とする請求項16に記載のシステム。
【請求項18】
既知の化学剤に対応する整合フィルタをさらに備えることを特徴とする請求項12に記載のシステム。
【請求項19】
前記ポンピング波が約4μmから約5μmの間の波長を有することを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項20】
前記パラメトリック装置がコリメート光学系または透過光学系を有することを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項21】
前記パラメトリック装置がパラメトリック光発生器を有することを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項22】
前記パラメトリック装置がパラメトリック光発振器を有することを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項23】
前記光源が一酸化炭素ガスレーザまたは二酸化炭素ガスレーザを有することを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項24】
前記光源がダイオードレーザを有することを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項25】
前記光源が4.5μmの波長を有するポンピング波を発生する量子多段ダイオードレーザを有することを特徴とする請求項24に記載のシステム。
【請求項26】
前記光源がAlInAs/InGaAs量子多段ダイオードレーザを有することを特徴とする請求項24に記載のシステム。
【請求項27】
前記パラメトリック装置がタイプI構成に構成されていることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項28】
前記パラメトリック装置がタイプII構成に構成されていることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項29】
前記パラメトリック装置がヒ化カドミウムゲルマニウム(CdGeAs)でつくられることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項30】
前記パラメトリック装置がセレン化銀ガリウム(AgGaSe)でつくられることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項31】
前記パラメトリック装置が周期的双晶ヒ化ガリウム(PTGaAs)でつくられることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項32】
前記検出器アレイが量子井戸赤外光検出器(QWIP)を有することを特徴とする請求項12に記載のシステム。
【請求項33】
遠距離化学物質検出方法において、
縮退点に構成されたパラメトリック装置にポンピング波を供給する工程、
広帯域出力を発生させる工程、
化学剤がある遠隔地に前記広帯域出力を向ける工程、
前記遠隔地からの前記広帯域出力を検出する工程、及び
前記化学剤の化学吸収スペクトルをつくる工程、
を有してなることを特徴とする方法。
【請求項34】
前記検出する工程が前記広帯域出力を2つまたはそれより多くのサブバンドに分散させる工程をさらに含むことを特徴とする請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記2つまたはそれより多くのサブバンドのそれぞれの強度を検出する工程をさらに含むことを特徴とする請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記化学吸収スペクトルをつくる前記工程が前記2つまたはそれより多くのサブバンドの前記強度を多重化する工程を含むことを特徴とする請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記化学吸収スペクトルを1つまたはそれより多くの既知の吸収スペクトルと比較する工程をさらに含むことを特徴とする請求項33に記載の方法。
【請求項38】
前記遠隔地における既知の化学物質の存在を判定する工程をさらに含むことを特徴とする請求項33に記載の方法。
【請求項39】
閃光分光法による化学物質検出システムにおいて、
ポンピング波を発生させる手段、
前記ポンピング波を縮退増幅して、広帯域出力を発生させる手段、
前記広帯域出力を遠隔地に向ける手段、
前記遠隔地からの前記広帯域出力を検出する手段、及び
化学剤を同定する手段、
を備えることを特徴とするシステム。
【請求項40】
前記同定する手段が化学吸収スペクトルをつくる手段をさらに含むことを特徴とする請求項39に記載のシステム。
【請求項41】
前記同定する手段が前記広帯域出力を2つまたはそれより多くのサブバンドに分散させる手段を含むことを特徴とする請求項39に記載のシステム。
【請求項42】
前記同定する手段が前記2つまたはそれより多くのサブバンドのそれぞれの強度を検出する手段をさらに含むことを特徴とする請求項41に記載のシステム。
【請求項43】
前記同定する手段が前記吸収スペクトルをつくるために前記2つまたはそれより多くのサブバンドの前記強度を多重化する手段をさらに含むことを特徴とする請求項42に記載のシステム。
【請求項44】
前記同定する手段が前記吸収スペクトルを既知の化学吸収スペクトルと相関させる手段をさらに含むことを特徴とする請求項43に記載のシステム。
【請求項45】
前記広帯域出力は、半値全幅値が200cm−1より広い帯域幅または線幅を有することを特徴とする請求項39に記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−501401(P2007−501401A)
【公表日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−529360(P2006−529360)
【出願日】平成16年5月20日(2004.5.20)
【国際出願番号】PCT/US2004/016262
【国際公開番号】WO2004/114011
【国際公開日】平成16年12月29日(2004.12.29)
【出願人】(500030242)テクストロン・システムズ・コーポレイション (6)
【Fターム(参考)】