説明

リウマチの症状改善用飲食品

【課題】ヒトを含む哺乳動物のリウマチを予防し、かつ発症したリウマチ症状を、日常経口的に摂取でき、かつ、副作用がなく、迅速に改善治療できる飲食品を提供すること。
【解決手段】フラボノイドおよび/またはフラボノイド配糖体を含有するリウマチの症状改善用飲食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリウマチの症状を予防ないし改善するための飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
慢性関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)は、全身の関節を中心とする慢性炎症性疾患で自己免疫現象が病態に深く関与している。臨床的症状は、慢性に経過する多発関節炎、全身倦怠感・微熱・筋肉痛、皮下結節が主なもので、寛解と憎悪を繰り返しながら慢性に進行し、無治療で放置すると関節の破壊と変形を来たし、やがて運動機能の障害を呈してくる。したがって、RA患者は身体的にも精神的にも計り知れないほど大きな苦痛を生涯にわたって背負うことになる。
【0003】
一方、我が国のRA患者数は約60〜120万人、人口の0.5〜1.0%を占め、男女比は1:4で女性に多く、年齢は20〜60才に発症することが多い。しかし、残念ながら現在の医学ではRAを完全に治癒させることも予防することもできない。したがって、現時点での治療目標はRAを早期に診断し、RA炎症を可及的速やかにかつ最大限に抑制して、非可逆的変化の出現を防止、ないしはその進展を阻止して、患者の身体的、精神的、社会的な生活の質(QOL)の向上を図ることである。
【0004】
RAの原因は不明であるが、その発症のメカニズムについては、免疫機構の研究の進展にともない、徐々に明らかになりつつあり、それらの知見をもとに種々の治療法が開発されている。つまり、リンパ球やサイトカインなどの産生抑制や活性の中和、受容体への結合阻害などである。
【0005】
サイトカインは、細胞から産生される分子量8000〜100000の糖蛋白質で、細胞間の情報伝達を介して細胞間相互作用を調整する。したがって、生体の恒常性維持のためには非常に重要なものである。一方で、これらが過剰に産生されたり、産生のバランスが崩れると、免疫系にも影響がおよび、RAなど慢性的な炎症を引き起こすことになる。とくに、炎症に強く関与する炎症性サイトカインと呼ばれるものには、インターロイキン−1(IL−1)、インターロイキン−6(IL−6)、腫瘍壊死因子−α(TNF−α)、マクロファージ炎症性タンパク質(MIP−1)などが知られている。つまり、これらのサイトカインの発現を抑制することで炎症の改善が期待できるのである。
【0006】
これらのサイトカインのなかでもTNF−αは、多くの炎症病態に関わっており、これが生体内に産生されると、引き続きIL−1、IL−6、IL−8などが産生され、免疫系の亢進が起こる。また、RA滑膜からは大量のTNF−αが産生されていることも明らかになっている。さらに、TNF−α トランスジェニックマウスは、RAと酷似する関節炎を発症することもわかっている(たとえば、非特許文献1参照)。そこで、TNF−αを抗体で中和する抗体療法が提唱され(たとえば、非特許文献2および3参照)、cA2(Centocor Inc.)などが開発されている。
【0007】
しかしながら、これらのマウスモノクロナール抗体は、人に対して異種タンパク質であるため、アレルギーの出現や抗マウス抗体の出現などが生じる可能性がある。このため、長期投与における有効性の検証、感染症やほかの免疫疾患への影響を含めた副作用の有無など解決すべき課題も非常に多い。
【0008】
また、現在RAに対する治療法としては、患部に対する直接投与が一般的であり、経口的な投与では、特に最近注目されているTNF−αの抗体やIL−1受容体のアンタゴニストのようなタンパク質の場合、胃における低pH、消化酵素による加水分解などの影響があり、通常の薬剤においても治療薬の吸収が低いこと、薬物の希釈化などから、患部への直接投与に比べ、その治療効果はほとんど期待できないのが現状である。しかしながら、注射や点滴による治療は、経口投与に比べて患者に種々の負担を強いるものであるため、経口投与により効果を発揮することができる薬剤の開発が望まれている。
【0009】
一方、フラボノイドは、広く植物に存在する2次代謝成分で、C6−C3−C6(それぞれA環、C環、B環)の骨格を有するポリフェノール化合物である。B環の結合位置、C環中の2重結合の有無、C環の開閉、各環に結合する水酸基の数や位置などにより、フラボン、フラボノール、イソフラボン、カテキン、カルコンなどに分類される。これらフラボノイドは植物からの抽出により容易に精製することができる。
【0010】
フラボノイドは、柑橘類をはじめ、果物、野菜など植物全般に含まれており、通常の食事をすることにより体内に取りこまれている。また、欧州では25.9〜26.6mg/日のフラボノイドを摂取しているといった報告(たとえば、非特許文献4参照)や、米国では115mg/日のフラボノイドを摂取しているといった報告(たとえば、非特許文献5参照)もあり、これまでの食経験により安全であることは明らかであるので、飲食品または医薬品として安心して利用できる。
【0011】
たとえば、ヘスペリジンは、温州みかんの主要なフラボノイドとして古くから知られている。ヘスペリジンはこれまで、温州みかんの缶詰や果汁製品の白濁物質として知られており、白濁防止のための研究が重ねられてきた(たとえば、非特許文献6、7および8参照)。
【0012】
しかしながら、最近では、その生理活性に注目が集まり、健康志向の高まりとともに、機能素材としての用途が開発されている。これら生理作用には、古くから知られているビタミンP作用:毛細血管の強化(たとえば、非特許文献9参照)をはじめ、抗炎症作用(たとえば、非特許文献10および11参照)、コレステロールの低減作用(たとえば、非特許文献12および13参照)、中性脂質の低減作用(たとえば、非特許文献14参照)、発ガンの抑制作用(非特許文献15、16、17および18参照)などがあるが、リウマチ症状の改善に関する知見は現在のところまったく知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【非特許文献1】ケファー ジェイ(Keffer, J.)ら著、“EMBO J.”、1991年、第10巻、p.4025−4031
【非特許文献2】エリオット エム ジェイ(Elliot, M. J.)ら著、「ランセット(Lancet)」、1994年、第344巻、p.1105‐1140
【非特許文献3】マイニ アール エヌ(Maini, R. N)著、“Arthritis Rheum.”、1997年、第40巻、S126
【非特許文献4】ハートグ エム ジー エル(Hertog, M.G.L.)著、「ランセット(Lancet)」、1993年、第342巻、p.1007−1011
【非特許文献5】クーナウ ジェイ(Kuhnau, J.)著、“World Rev. Nutr. Diet”、1976年、第24巻、p.117−191
【非特許文献6】紺野ら著、「日本食品工業学会誌」、1982年、第29巻、p.225−258
【非特許文献7】三崎ら著、「日本食品工業学会誌」、1982年、第29巻、p.228−231
【非特許文献8】三崎著、「澱粉科学」、1984年、第31巻、p.98−106
【非特許文献9】神谷著、「新ビタミン学(日本ビタミン学会)」、1969年
【非特許文献10】松田ら著、「薬学雑誌」、1991年、第111巻、p.193−198
【非特許文献11】ダ シルヴァ エミム ジェイ エイ(Da Silva Emim J. A.)ら著、“J. Pharm. Pharmacol. ”、1994年、第46巻、p.118−122
【非特許文献12】モンフォルト エム ティー(Monforte M. T.)ら著、“Il Farmaco”、1995年、第50巻、p.595−599
【非特許文献13】ボク エス−エイチ(Bok S-H.)ら著、“J. Nutr.”、1999年、第129巻、p.1182−1185
【非特許文献14】カワグチ ケイ(Kawaguchi K.)ら著、“Biosci. Biotech. Biochem. ”、1997年、第61巻、p.102−104
【非特許文献15】タナカ ティー(Tanaka T.)ら著、「キャンサー リサーチ(Cancer Research)」、1994年、第54巻、p.4653−4659
【非特許文献16】タナカ ティー(Tanaka T.)ら著、「キャンサー リサーチ(Cancer Research)」、1997年、第57巻、p.246−252
【非特許文献17】タナカ ティー(Tanaka T.)ら著、「発癌(Carcinogenesis)」、1997年、第18巻、p.761−769
【非特許文献18】タナカ ティー(Tanaka T.)ら著、「発癌(Carcinogenesis)」、1997年、第18巻、p.957−965
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、前記課題を解決し、ヒトを含む哺乳動物のリウマチ症状を、日常経口的に摂取でき、かつ、副作用がなく、予防または迅速に改善することができる飲食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記状況に鑑み、鋭意研究を行なった結果、柑橘類に広く存在するフラボノイドおよび/またはこれらフラボノイド類にさらに糖を結合させた配糖体を生体に投与することにより、リウマチ症状を予防し、さらに罹患したのちにおいてもリウマチ症状が著しく改善することを見出し、それらを応用した飲食品を開発し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち本発明は、フラボノイドおよび/またはフラボノイド配糖体を含有するリウマチの症状改善用飲食品に関する。
【0017】
本発明は、ヘスペリジン配糖体、ナリンジン配糖体、ディオスミン配糖体および/またはルチン配糖体を含有するリウマチの症状改善飲食品に関する。
【0018】
本発明は、ヘスペリジン配糖体、ナリンジン配糖体、ディオスミン配糖体および/またはルチン配糖体を含有するTNF−αの発現を抑制するための飲食品に関する。
【発明の効果】
【0019】
図1〜3によりフラボノイドおよび/またはフラボノイド配糖体(たとえば、ヘスペリジン、ナリンジン、ヘスペリジン配糖体)の経口投与により、CIAの発症を予防、抑制することができることが示された。また、図4および5より、CIAの発症したのちにフラボノイドの投与を開始しても、その症状を改善し治療できることが示された。これにより、臨床におけるRAに対する新しい予防法および治療法の可能性が示唆された。つまり、フラボノイドおよび/またはフラボノイド配糖体を経口投与することによって、有意にリウマチを予防することができ、さらに発症後のリウマチの症状を抑制・改善することができる。
【0020】
図6および7から、ヘスペリジンおよびヘスペリジン配糖体との混合物がヘスペリジンと比較して約10分の1用量で充分に効果を発揮することが示された。
【0021】
また、フラボノイドおよびフラボノイド配糖体は安全であることから、ヒトを含む哺乳動物のリウマチを予防するため、またはリウマチの症状を改善するための、日常経口的に摂取でき、かつ、副作用がなく、迅速に改善治療できる飲食品となり得る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】ヘスペリジン投与群の臨床スコアを示す図である。
【図2】ナリンジン投与群の臨床スコアを示す図である。
【図3】ヘスペリジン配糖体投与群の臨床スコアを示す図であり、黒塗り三角はII型コラーゲン処理を行なっていない陰性対照を示す。
【図4】CIA発症後にヘスペリジンを投与した場合の臨床スコアを示す図である。
【図5】CIA発症後にナリンジンを投与した場合の臨床スコアを示す図である。
【図6】ヘスペリジンの投与量に対する臨床スコアを示す図である。
【図7】ヘスペリジン(3mg)投与およびヘスペリジンとヘスペリジン配糖体との等モル混合物(ヘスペリジン0.3mgに相当するモル数)投与に対する臨床スコアを示す図である。
【図8】陽性対照群(a)およびヘスペリジン投与群(b)の関節薄片のHE染色顕微鏡写真であり、(a)におけるYはX領域の拡大図である。
【図9】関節組織細胞におけるTNF−αmRNAの発現抑制を示す電気泳動写真である。
【図10】CIA発症後にヘスペリジンまたはナリンジンの投与を開始したマウスの、関節組織の病理組織学的観察結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、この発明について詳細に述べる。
【0024】
本発明のフラボノイドとしては、リウマチの症状に対して症状を緩和するまたは発症を予防する効果のあるものである限り、とくに限定されるものではない。具体的には、たとえばヘスペリジン、ナリンジン、ディオスミン、ルチンおよびこれらのアグリコンであるヘスペレチン、ナリンゲニン、ディオスメチン、クェルセチンなどが好ましく、単独または組み合わせて使用することができる。このなかでもヘスペリジンまたはナリンジンがさらに好ましい。
【0025】
つぎにヘスペリジンとナリンジンとを用いて本発明を具体的に説明する。
【0026】
ヘスペリジンは、水には難溶性であるが、アルカリには非常によく溶解するので、これを利用して温州みかんから効率的に抽出することができる(三宅ら、日本食品工業学会誌、37, 631-636(1990)、稲葉ら、日本食品工業学会誌、40, 833-840(1993))。具体的には、温州みかんを搾汁機で搾汁し、排出される搾汁粕に0.1〜1.0%の水酸化カルシウムを添加混合したのち、30〜40kg/cm2で圧搾処理する。これにたとえばアスペルギルス ニガー(Aspergillus niger)などの微生物由来のペクチナーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼなどの糖質加水分解酵素を添加し、25〜50℃で10〜36時間作用させる。この酵素液の遠心上清に1〜4倍の水を加え、水酸化カルシウムまたは水酸化ナトリウムを用いてpH11.0〜12.5に調整し、約1時間撹拌したのち、遠心すると、上清としてヘスペリジン抽出液が得られる。これを濃塩酸でpH4.5〜6.0に調整し、50〜80℃に加温して析出する結晶を遠心分離により収集し、粗ヘスペリジンを得ることができる。本発明においては、この粗ヘスペリジンをそのまま使用することもできるが、再結晶を行ない、より純度を高くして利用することもできる。
【0027】
ヘスペリジンの粉末は、淡い黄色を呈しており、独特の風味を帯びているが、それは弱いものであり、ほかの食品素材や食品に添加することや種々の加工により問題なく摂食することができる。
【0028】
また、ナリンジンはミカン科のグレープフルーツ、夏みかん、ダイダイ、ザボンの果実や果皮、とくに未熟果に多く含まれており、通常、グレープフルーツ、夏みかんおよびダイダイの果皮から抽出して製造することができる。ナリンジンの苦味の程度は非常に強く、キニーネよりも強い苦みがあり、水で50000倍に希釈しても苦みを感じるが、柑橘類などを摂取したときに感じられるように食欲を刺激する良質な苦みを呈する。
【0029】
また、ナリンジンの調製についてもグレープフルーツ、夏みかんなどを温州みかんの代わりに使用すれば、前記ヘスペリジンとほぼ同様の方法でナリンジンを得ることが可能である。
【0030】
ナリンジンの粉末は、淡い黄色を呈しており、苦みを帯びているが、それは良質なもの(すっきりとしたさわやかな苦み)であり、ほかの食品素材や食品に添加することや種々の加工により問題なく摂取することができる。
【0031】
本明細書において「フラボノイド配糖体」とは、前記フラボノイドを人工的に配糖化したものを意味し、前記フラボノイドにグルコース、キシロース、ソルボース、ガラクトースなどの糖を1〜20個、好ましくは1〜6個つけたものをいう。20個より多いと、アミロース的な性質が現れ、水溶液中では容易に老化し、沈澱を生じる傾向がある。本発明においてフラボノイドに結合させる糖質としては、澱粉の構成成分として日常的に摂取している点からグルコースが好ましい。さらに、本発明に用いるフラボノイド配糖体は、モノグルコサイドであっても、ジグルコサイドであってもよい。さらには、モノグルコサイドとオリゴグルコサイドの混合物でも同様の効果を発揮する。
【0032】
このようなフラボノイド配糖体としては、ヘスペリジン配糖体、ナリンジン配糖体、さらにはディオスミン、ルチンなどの配糖体、およびヘスペレチン、ナリンゲニン、ディオスメチン、クェルセチンなどの配糖体が好ましく、単独または組み合わせて使用できる。このなかでもヘスペリジン配糖体およびナリンジン配糖体がさらに好ましい。
【0033】
配糖体生成のための糖転移反応は通常の条件で行なうことができる。たとえば、糖転移反応は糖転移酵素であれば、シクロデキストリン合成酵素、アミラーゼなどいずれのものでも利用することができる(T. Kometani, et al, Biosci. Biochem., 58, 517-520(1994)、T. Kometani, et al, Biosci. Biotechem., 58, 1990-1994(1994)、T. Kometani, et al, Biosci. Biotech. Biochem., 60, 645-649(1996))。また、このとき、酵素の起源などは問わない。これに加えて、有機化学的な反応や植物組織細胞を用いた配糖化反応によって、ヘスペリジンやナリンジンを配糖化することも可能である(E. Lewinsohn, et al., Phytochemistry, 25, 2531-2535(1986))。
【0034】
また、フラボノイド配糖体溶液にラット小腸由来の酵素を作用させると、容易にフラボノイドに分解されるため、フラボノイド配糖体は、フラボノイドと同様非常に安全性の高い物質であると考えられる。
【0035】
フラボノイド配糖体、たとえばヘスペリジンにグルコースが1〜20個程度ついた配糖体は、たとえば、特開平5−256141号公報において記載された以下のような条件で調製される。
【0036】
糖供与体として可溶性澱粉を0.5〜10重量%および受容体としてヘスペリジンを0.1〜5.0重量%含有するpH8.0〜10.5の基質溶液に、たとえばアルカロフィリック バチルス スピーシーズ(Alkalophilic Bacillus sp.)A2−5a(産業技術総合研究所特許生物寄託センター 受託番号FERM P−13864)の生産するアルカリ耐性のシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ(以下「CGTase」という)、すなわち1,4−α−D−グルカン;4−α−D−(1,4−グルカノ)−トランスフェラーゼ(E.C.2.4.1.19)を0.1〜10ユニット/mlとなるように加えて、25〜50℃で反応を開始させる。4〜48時間反応させたのち、90〜100℃で10〜30分間の加熱などにより、反応を停止させる。酵素反応を行なった後は、凍結乾燥、噴霧乾燥などの操作により粉末化でき、反応液に添加したヘスペリジンの70〜80%が配糖化された粗ヘスペリジン配糖体が得られる。
【0037】
この粗ヘスペリジン配糖体におけるヘスペリジン配糖体の純度は、添加する酵素量、糖供与体および受容体濃度などで変わってくるが、通常2〜50%程度であり、未反応のヘスペリジンおよびデキストリンを含んでいる。このようにして生成されたヘスペリジン配糖体は、ヘスペリジン1分子にグルコースが1〜20程度結合した混合物である。
【0038】
前記酵素反応においては、pH9.5というアルカリ性領域で反応を行なっているが、この方法以外に、ヘスペリジンの溶解性を上げて生産性を高める方法として、(a)β−シクロデキストリン(以下β−CDという)などを反応液中に添加し、β−CDとヘスペリジンを包接させる方法、(b)メチルセルロースなどの増粘多糖類を添加して、ヘスペリジンを可溶化させる方法などがある。またこれらの方法を組み合わせることにより、ヘスペリジンの溶解度を高めることもできる。
【0039】
このようにして得られた混合物は、そのまま本発明のヘスペリジン配糖体として使用してもよく、また必要に応じて、疎水性樹脂などを用いたカラムクロマトグラフィーにより、精製を行なってもよい。
【0040】
精製の方法としては、たとえば、前記酵素反応終了後の反応液を、アンバーライトXAD−16樹脂などを用いたカラムクロマトグラフィーに通し充分水洗して未反応のデキストリンなど非吸着画分を除去したのち、50%エタノールで溶出してくる画分を得る。これを濃縮し液体状とし、あるいは乾燥し粉末状とすることができる。得られた試料には、約20%の未反応のヘスペリジンが含まれており、ヘスペリジン配糖体としての純度は約80%である。
【0041】
このようにして得たヘスペリジン配糖体は、元のヘスペリジンにグルコースが1〜20個程度結合しており、さらにβ−アミラーゼなどで処理したのちにセファデックスLH20などのゲルろ過カラムを用いて分離し、ヘスペリジンにグルコースがそれぞれ1個、2個および3個結合したものを得ることができる。これらの純度は100%である。
【0042】
本発明で用いるヘスペリジン配糖体とヘスペリジンとの混合物において、ヘスペリジン配糖体の含有量は混合物全体に対して10%以上、好ましくは20%以上、より好ましくは50%以上である。
【0043】
試料の色調は粉末でわずかに黄色を帯びているが、ほとんど無味無臭である。またpH3〜13のあいだで安定である。加熱に対しては中性では120℃、15分間安定である。
【0044】
また、ヘスペリジン配糖体溶液にラット小腸由来の酵素を作用させると、容易にヘスペリジンに分解されるため、ヘスペリジン配糖体は、ヘスペリジンと同様非常に安全性の高い物質であると考えられる。
【0045】
さらに、ラットに対する急性毒性試験においても死亡例は皆無であり、生化学血液検査および病理組織学的検査においても異常が認められていないため、本発明のヘスペリジン配糖体は無毒性のものである。また、ヘスペリジン配糖体のLD50は2000mg/kgラットであり、変異原性も認められていない。
【0046】
また、ナリンジン配糖体もヘスペリジン配糖体と同様にして生成され、その構造も同様にナリンジン1分子にグルコースが1〜20個程度結合したものである。さらに、配糖体として期待される性質もヘスペリジン配糖体と同様であるため、本発明の目的で利用するに際してもヘスペリジン配糖体と同様に使用できる。
【0047】
活性成分としてのフラボノイドおよび/またはフラボノイド配糖体の投与量は、使用するフラボノイドおよび/またはフラボノイド配糖体の種類、2種以上使用する場合はその組み合わせ、対象となる疾患の種類、程度により異なるが、好ましくは1〜1000mg/kg/日、より好ましくは10〜500mg/kg/日の範囲で用いるのが望ましい。投与量が1mg/kg/日より少ないと効果が現れにくくなる傾向があり、1000mg/kg/日より多いと副作用などの心配はないが、粉体であれば、飲みにくくなり、液体であれば、濃度の高いものの摂取または多量摂取が必要となる傾向がある。濃度の高いものはそのフラボノイドおよび/またはフラボノイド配糖体独特の風味が表れてくる可能性があり、飲みにくくなる傾向がある。
【0048】
フラボノイドおよび/またはフラボノイド配糖体を飲食品に含有させる場合には、フラボノイドおよび/またはフラボノイド配糖体の含有量は、好ましくは1〜100重量%、さらに好ましくは10〜80重量%の溶液とすることが望ましい。含有量が1重量%より小さいと必要量摂取するためには、やや多めの量が必要となり、80重量%より大きいとその独特の風味が表れてくる可能性がある。
【0049】
また、本発明において、難溶性のフラボノイドを可溶化させるという点から、フラボノイドとフラボノイド配糖体を共存させることが好ましい。この場合、フラボノイド単独で使用する場合より、相加的あるいは相乗的な効果が得られ投与量を大幅に減じ生体にかかる負担を減らすことできる。
【0050】
フラボノイド配糖体は、難溶性のフラボノイドを可溶化させるため、フラボノイド配糖体とフラボノイドの混合物を投与すると、吸収性が向上する。すなわち、フラボノイド単独投与に比べて、早く吸収され、かつ吸収効率も高い。たとえば、ヘスペリジンとヘスペリジン配糖体の混合物ではヘスペリジンの単独投与に比べ、1/10量で同等、またはそれ以上の効果を発揮することが可能である。さらに、小腸で吸収されなかったフラボノイド配糖体とフラボノイドの混合物は、大腸に移行し、腸内細菌叢でアグリコンにまで分解されて吸収される。この時には、フラボノイド配糖体よりフラボノイドの方が有利である。したがって、これらの混合物を用いると、生体への吸収性が向上し、生理効果も向上すると考えられる。
【0051】
フラボノイドおよびフラボノイド配糖体を組み合わせて使用する場合、フラボノイドおよびフラボノイド配糖体の総重量に対するフラボノイド配糖体の割合は、5重量%以上が好ましく、20重量%以上がより好ましい。フラボノイド配糖体の割合が5重量%より小さいと難溶性のフラボノイドが析出する傾向にある。
【0052】
また、活性成分としてのフラボノイドおよび/またはフラボノイド配糖体は、そのまま溶液、粉末顆粒、錠剤、乳剤、ゼリー状などの任意の形態で単独投与することもできるが、種々の飲食品に添加することができる。
【0053】
さらに、フラボノイドおよび/またはフラボノイド配糖体は、前述のように熱安定性やpH安定性が高いので、広範囲のさまざまな飲食品に利用することができる。
【0054】
本発明における飲食品とは、経口摂取できるものであればどのようなものでもよく、具体的には、和菓子、洋菓子、氷菓、飲料、スプレッド、ペースト、調味料、漬物、ビン缶詰、蓄肉加工品、魚肉・水産加工品、乳・卵加工品、野菜加工品、果実加工品、穀類加工品などがあげられる。このなかでも、ヘスペリジン配糖体との風味のなじみの面から野菜加工品、果実加工品、野菜や果実の風味を有する食品、さらにはヘスペリジン配糖体は、苦味や嫌味などを改善する効果が明らかにされているので、野菜飲料の青臭味、酸味または渋味を低減すること、生薬類含有飲食品の苦味、渋味または薬臭を低減すること、カカオ製品の酸味または渋味を低減すること、ハチミツ製品のエグ味またはいがらっぽい味を低減することを目的とし、果実、野菜、カカオ、ハチミツなど健康イメージを有するが、やや嫌味などがあり飲みにくい健康志向の飲食品に添加して、風味を改善することも可能である。
【実施例】
【0055】
つぎに、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0056】
製造例1 <ヘスペリジン配糖体の製造>
可溶性澱粉(メルク社製)5重量%、ヘスペリジン(シグマ社製)3重量%およびメチルセルロース(和光純薬工業株式会社製)0.1%を含有するpH9.5のトリス塩酸緩衝液に、従来の方法によりバチルス属の菌体から精製したCGTase(方法特開平7−107972号明細書)を2ユニット/mlとなるように加えて、40℃で16時間反応させた。ついで、100℃で10分間加熱し、酵素反応を停止させた。得られた反応混合液を、アンバーライトXAD−16樹脂(ファルツ バウア社製)を用いたカラムクロマトグラフィーにより精製し、未反応のデキストリンおよびメチルセルロースを除去した。ついで噴霧乾燥を行ない、ヘスペリジン配糖体の粉末を得た。得られた粉末試料の純度はヘスペリジン配糖体として80%であった。
【0057】
試料の色調は粉末でわずかに黄色を帯びているが、ほとんど無味無臭であった。またpH3〜13のあいだで安定であった。加熱に対しては中性では120℃、15分間安定であった。
【0058】
このようにして生成されたヘスペリジン配糖体は、ヘスペリジン1分子にグルコースが1〜10数個結合した混合物であった。
【0059】
ここで得られたヘスペリジン配糖体混合物粉末試料を、以下の実施例におけるヘスペリジン配糖体として用いた。
【0060】
製造例2 <ナリンジン配糖体の製造>
ヘスペリジン3重量%をナリンジン(シグマ社製)3重量%とした以外は製造例1と全く同様の方法で反応を行ない、ナリンジン配糖体の粉末を得た。
【0061】
このようにして生成されたナリンジン配糖体は、ナリンジン1分子にグルコースが1〜10数個結合した混合物であった。得られた粉末試料の純度は約80%であった。
【0062】
試料の色調は粉末でわずかに黄色を帯びている。ほとんど無臭であり、配糖化しても元のさわやかな苦味は保持されていた。またpH3〜11のあいだで安定であった。加熱に対しては中性では120℃、15分間安定であった。
【0063】
ここで得られたナリンジン配糖体混合物粉末試料を、以下の実施例におけるナリンジン配糖体として用いた。
【0064】
実施例1〜10
実験動物として9週齢の雄DBA/1Jマウスを用いた。飼育条件は、湿度50±10%、室温23±2℃、12時間の明暗サイクルで、飲料水と基本食(商品名:CE−2、日本クレア社製)は自由に摂食させた。CE−2の組成は、炭水化物45.5%、蛋白質24.8%、脂肪4.6%、灰分7.2%、セルロース4.2%、ミネラル3.9%、ビタミン混合物1%、水分8.8%でありフラボノイドおよびフラボノイド配糖体はまったく含んでいない。
【0065】
RAのモデルとして一般的に使用されるコラーゲン誘発関節炎(collagen-induced arthritis、以下、CIAという)は以下のように誘導した。II型コラーゲン(シグマ社製、chicken sternall cartilage由来)8mgを10mM酢酸4mlに溶解した。この溶液と完全フロイントアジュバントとを等量混合してW/Oエマルジョンを作製し、これを1週間予備飼育したマウスの尾基部に100μl投与した(これを0日目として以下の日数を規定する)。同様の処置を21日目に再び行なった。
【0066】
このようにしてCIAが誘導されたマウスに表1の組成で配合した組成物の経口投与を21日目より開始し、3mg/マウス(体重20g)の用量で週3回行なった。投与は、たとえば実施例1および2では2週間にわたって計6回、実施例4では6週間にわたって計18回行なった。陽性対照群には注射用蒸留水(大塚製薬株式会社製)のみを経口投与した。マウスに現れる関節炎の症状を監視し、週3回臨床スコアを測定した。症状に応じて臨床スコアを0=正常、1=発赤、2=軽い腫れ、3=中程度の腫れ、4=重篤な腫れ、5=関節の硬直/機能の消失、とした。4本の肢にそれぞれスコアを与え、その合計を臨床スコアとした。
【0067】
【表1】

【0068】
実施例1〜10の各投与群において、臨床スコアはCIA陽性対照群に対して有意に抑制されていた。実施例1、2および4について結果を図1、2、および3に示す。CIA陽性対照群は23日目以降、臨床スコアが顕著に増加することを確認した。一方、ヘスペリジン、ナリンジンおよびヘスペリジン配糖体投与群では臨床スコアが陽性対照群に対して有意に減少した(図1〜3)。また、CIA陽性対照群では、発症群が100%であったのに対し、ヘスペリジン投与およびナリンジン投与では50%であった(実施例1および2)。
【0069】
実施例11
実施例1と同様にしてCIA誘導マウスを作製した。
【0070】
CIAが誘導されたマウス5匹にヘスペリジンの経口投与を、発症が認められる28日目より開始し、3mg/マウス(体重20g)の用量で週3回、3週間にわたって計9回行なった。陽性対照群にはCIAが誘導されたマウス6匹に生理食塩水のみを経口投与した。マウスに現れる関節炎の症状を監視し、週3回、実施例1と同様にして臨床スコアを測定した。結果を図4に示す。
【0071】
投与群において、投与開始直後は、臨床スコアがCIA陽性対照群と同様であったが、32日〜35日付近から陽性対照群に対して減少傾向を示した(図4)。
【0072】
実施例12
CIA誘導マウスは実施例1と同様にして作製した。
【0073】
CIAが誘導されたマウス5匹にナリンジンの経口投与を、発症が認められた31日目より開始し、3mg/マウス(体重20g)の用量で週3回、3週間にわたって計8回行なった。陽性対照群の5匹には注射用蒸留水のみを経口投与した。マウスに現れる関節炎の症状を監視し、週3回、実施例1と同様にして臨床スコアを測定した。結果を図5に示す。
【0074】
投与群において、投与開始直後は、臨床スコアがCIA陽性対照群と同様であったが、35日付近からCIA陽性対照群に対して減少傾向を示した(図5)。さらに、40日以降では有意な差が認められた(図5)。
【0075】
実施例13
CIA誘導マウスは実施例1と同様にして作製した。
【0076】
2回目のII型コラーゲン投与(21日目)と同時にヘスペリジンの経口投与を開始し、各投与量(0.3mg、1mg、3mg/マウス(体重20g))で週3回、3週間にわたって計11回行なった。マウスの数は、各投与量でそれぞれ5匹、5匹、9匹とした。陽性対照群の18匹には注射用蒸留水のみを経口投与した。マウスに現れる関節炎の症状を監視し、週3回、実施例1と同様にして臨床スコアを測定した。投与群において、臨床スコアはCIA陽性対照群に対して用量依存的に減少した(図6)。
【0077】
実施例14
CIA誘導マウスは実施例1と同様にして作製した。
【0078】
CIAが誘導されたマウス(各群6匹)にヘスペリジン(3mg/体重20g)、またはヘスペリジンおよびヘスペリジン配糖体の等モル混合物(ヘスペリジン0.3mg相当モル/体重20g)の経口投与を、それぞれ発症が認められた28日目より開始し、週3回、4週間にわたって計12回行なった。陽性対照群の6匹には注射用蒸留水のみを経口投与した。マウスに現れる関節炎の症状を監視し、週3回、実施例1と同様にして臨床スコアを測定した。結果を図7に示す。
【0079】
ヘスペリジン投与群、ならびにヘスペリジンおよびヘスペリジン配糖体の等モル混合物投与群では、CIA陽性対照群と比較し臨床スコアの顕著な減少を示したが、さらに、ヘスペリジンおよびヘスペリジン配糖体の等モル混合物投与群では、10倍量のヘスペリジン投与群と比較しても、より低い臨床スコアを示した(図7)。
【0080】
実施例15および16
通常の搾汁、殺菌、充填工程を経て作製したオレンジジュース(果汁100%)に0.1%ヘスペリジンまたは0.2%ヘスペリジン配糖体を添加したジュースを作製した。ヘスペリジンまたはヘスペリジン配糖体を添加してもともに、味、香りにほとんど影響のないオレンジジュースを作ることができた。
【0081】
実施例17および18
凍結された濃縮オレンジジュースを還元した濃縮還元オレンジジュース(商品名:バレンシアオレンジ5倍濃縮果汁#4000N、輸入元;雄山商事株式会社)、これに0.2%ヘスペリジンまたは0.2%ヘスペリジン配糖体を添加してジュースを作製した。ヘスペリジンまたはヘスペリジン配糖体を添加してもともに、味、香りにほとんど影響のないオレンジジュースを作ることができた。
【0082】
実施例19および20
グラニュー糖70部、水飴30部、水20部、酸味料1部、香料および着色料を適量配合したキャンディを作製した。グラニュー糖は水に完全溶解しながら110℃まで加熱し、水飴を加えて125℃まで温度を上げた。さらに、145℃で煮詰めたのち、冷却板上に流し、酸味料、続いて香料および着色料、0.2部のヘスペリジンまたは0.2部のヘスペリジン配糖体を混合し、キャンディとして成形した。ヘスペリジンまたはヘスペリジン配糖体を添加しても味、香りにほとんど影響のないキャンディを作ることができた。
【0083】
実施例21および22
全卵300部、薄力粉200部、砂糖200部、食用油脂80部、乳化油脂30部、食塩0.6部、ベーキングパウダー4部、ヘスペリジン0.5部またはヘスペリジン配糖体0.5部を常法により混合し、その生地を生地比重0.50に調整した。これを180℃で30分焼成してスポンジケーキを作製した。ヘスペリジンまたはヘスペリジン配糖体を添加しても味、香りにほとんど影響のないケーキを作ることができた。
【0084】
実施例23および24
サラダ油75部、酢25部、食塩1部、香辛料適量を1000rpmでよく撹拌し、通常のフレンチドレッシングを得た。一方、この配合にヘスペリジン0.3部またはヘスペリジン配糖体0.3部を添加し、ヘスペリジンまたはヘスペリジン配糖体を添加したフレンチドレッシングを得た。
【0085】
野菜サラダにかけて食したところ従来品と同等の食味、食感と物性が得られた。
【0086】
実施例25および26
卵黄5個、卵4個、グラニュー糖150g、牛乳700gの配合で、常法にしたがい通常のプリンを作製した。前記配合にヘスペリジンまたはヘスペリジン配糖体を2g添加したヘスペリジンまたはヘスペリジン配糖体添加プリンも作製した。
【0087】
パネラー15名について前記通常のプリンとヘスペリジンまたはヘスペリジン配糖体添加プリンの食味を調べた結果、ヘスペリジンまたはヘスペリジン配糖体を添加したプリンも通常のプリンと同等の食味が得られた。
【0088】
試験例1 <ヘスペリジン配糖体の消化性>
ラットの小腸のアセトンパウダー(シグマ社製)100mgから、酵素を1mlの蒸留水で抽出し、抽出液を5000gで5分遠心し、上清を消化酵素液とした。ヘスペリジン配糖体はヘスペリジンモノグルコサイドとヘスペリジンジグルコサイドがほぼ1:1含まれる混合物を20mg/mlで蒸留水に溶解したものを用いた。酵素液50μlにヘスペリジン配糖体溶液50μlを加え、37℃でインキュベートし、経時的にHPLCで分析した。その結果ヘスペリジンモノグルコサイドは1時間で、ヘスペリジンジグルコサイドは4時間で完全に分解され消失した。
【0089】
このようにヘスペリジン配糖体溶液にラット小腸由来の酵素を作用させたところ、容易にヘスペリジンに分解されたため、ヘスペリジン配糖体は、ヘスペリジンと同様非常に安全性の高い物質であると考えられる。
【0090】
試験例2
実施例1の処置を行なったヘスペリジン投与群のマウスと、CIA陽性対照群のマウスをそれぞれ1回目のII型コラーゲン投与から35日目に解剖した。心採血で得た血液を10000rpmで1分間遠心分離し、上清を再度10000rpmで1分間遠心分離して得た血漿を(1)抗II型コラーゲンIgG価の測定に用いた。また、リンパ節を採取し、得られた細胞をRPMI 1640培地に懸濁し、2×106細胞個/mlに調整し、24穴プレートに1ml/穴で分注し、10mMに溶解したII型コラーゲン50μg/mlまたは結核菌(H37Ra)の脱脂死菌体から調製した精製ツベルクリン(PPD)50μg/mlを添加し、72時間刺激した。培養上清を回収し、これを被験試料として(2)TNF−α濃度を測定した。さらに、関節組織は(3)病理学的解析および(4)mRNAの解析に用いた。各実験操作は、以下の通りである。
【0091】
(1)抗II型コラーゲンIgG価の測定
II型コラーゲンでコートしたELISAプレートに段階希釈した被験試料を加え、1時間放置後、HRP(horse radish peroxidase)標識抗マウスIgG抗体を1時間反応させた。TMB(3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン)を基質として発色させたのち、450nmの吸光度を測定した。血漿中の抗II型コラーゲンIgG価を比較したところ、ヘスペリジン投与群では、抗II型コラーゲンIgG価はわずかに抑制されていたが、有意な差ではなかった。
【0092】
(2)TNF−α濃度の測定
96穴プレートにL929(C5F6)細胞を分注し4時間培養し、アクチノマイシンD、および希釈した被験試料を加え、さらに16時間培養した。組換えマウスTNF−αを標準試料として、50%細胞傷害活性を示す被験試料の希釈倍率および標準試料の濃度から被験試料のTNF−αを算出した。TNF−α産生はCIA陽性対照群に対してほとんど抑制されていなかった。
【0093】
(3)関節組織の病理学的解析
後部膝関節を4%パラホルムアルデヒド緩衝液で固定後、EDTA(pH7.4)で脱灰して薄切後、HE(ヘマトキシリン−エオシン)染色し顕微鏡観察した。結果を図8(a)および(b)に示す。関節組織については、CIA陽性対照群では滑膜組織の増殖2a、および多層化が著明であり、滑膜下組織にはリンパ球6、好中球、類上皮細胞8などの細胞浸潤が著しく、フィブリン7の析出も認められた(図8(a))。一方、ヘスペリジン投与群では、このような所見は抑制されていた(図8(b))。
【0094】
(4)TNF−αmRNAの解析
関節組織細胞から全RNAを抽出し、cDNAを合成したのち、TNF−α特異的プライマーを用いてPCRを行なった。PCR産物は2%アガロースゲル電気泳動を行ない確認した。結果を図9に示す。ヘスペリジン投与群の関節組織でのTNF−αmRNAの発現はCIA陽性対照群に対して抑制されていた。
【0095】
以上(1)〜(4)の実験の結果から、ヘスペリジンを経口投与することにより、CIAを抑制できることが明らかとなった。ヘスペリジン投与群では、関節組織において細胞浸潤や滑膜炎症が抑制されていた。また、関節組織におけるTNF−αmRNA発現が抑制されていた。インビトロにおけるリンパ節細胞のTNF−α産生能および抗II型コラーゲンIgG価においてはCIA陽性対照群とのあいだに差が見られなかった。これらのことから、ヘスペリジンの投与はT細胞には作用せず、炎症部位に浸潤したマクロファージに作用しTNF−α産生を抑制することで、CIAの発症を抑制したものと考えられる。
【0096】
試験例3
実施例11および12の処置を行なったマウスと、CIA陽性対照群のマウスをそれぞれ1回目のII型コラーゲン投与から49日目に解剖した。心採血で得た血液を10000rpmで1分間遠心分離し、上清を再度10000rpmで1分間遠心分離して得た血漿を(1)抗II型コラーゲンIgG価の測定に用いた。また、関節組織は(2)病理組織学的観察、(3)TNF−α mRNAの解析および(4)COX−2(シクロオキシゲナーゼ−2)の測定に用いた。各実験操作は、以下の通りである。
【0097】
(1)抗II型コラーゲンIgG価の測定
試験例2の抗II型コラーゲンIgG価の測定と同様に行なった。血漿中の抗II型コラーゲンIgG価は、ヘスペリジンおよびナリンジン投与群では、陽性対照群と比較してわずかに抑制されていたが、有意な差ではなかった。
【0098】
(2)関節組織の病理組織学的観察
<試料の調製および染色>
後部膝関節を4%パラホルムアルデヒド・リン酸緩衝液で固定後、EDTA−ナトリウム水溶液(pH7.4)で脱灰して、厚さ3μmの連続切片を作製した。染色は、HE(ヘマトキシリン−エオシン)染色、線維素染色のPTAH(リンタングステン酸ヘマトキシリン)染色、膠原線維染色のAZAN染色を行ない、顕微鏡観察した。また、TNF−α産生細胞の局在を調べるために免疫組織化学解析をABC(アビジン−ビオチン複合体)法を用いて行なった。対比染色としてメチルグリーン染色を行なった。
【0099】
<観察結果>
CIA発症の判定を各マウスの組織学的な所見により行なった。その結果は以下の組織学的基準に沿ってスコア0〜4とした。
(a)関節軟骨の障害:関節軟骨の破壊と膠原線維増生の頻度
(b)滑膜増生:滑膜増生の範囲と程度
(c)炎症細胞浸潤:炎症細胞出現の頻度とリンパ濾胞の形成
(d)パンヌスの増生:パンヌス形成、脂肪組織消失の程度
【0100】
結果を図10に示す。
【0101】
CIA陽性対照群と比較して、ヘスペリジンおよびナリンジン投与群では滑膜ひだ部位に脂肪組織が残っているものが多く、関節組織の軟骨障害、滑膜増生、滑膜面炎症細胞浸潤、パンヌスの増生がいずれも抑制されていた。とくにヘスペリジン投与群では滑膜増生(P<0.05)、炎症細胞浸潤(P<0.05)およびパンヌスの増生(P<0.001)が有意に抑制されていた。同様に、ナリンジン投与群においては、軟骨障害、炎症細胞浸潤、パンヌスの増生(P<0.05)の抑制が有意であった(図10)。
【0102】
ABC法によるTNF−α産生細胞の染色では、CIA陽性対照群では関節包のリンパ濾胞形成周辺部にTNF−α産生細胞が認められたが、同じ部分のヘスペリジン、ナリンジン投与群では炎症細胞浸潤とリンパ濾胞形成が認められず、TNF−α産生細胞は確認できなかった。
【0103】
(3)TNF−α mRNAの解析
試験例2のTNF−α mRNAの解析と同様に行なった。
【0104】
ヘスペリジン投与群およびナリンジン投与群の関節組織でのTNF−αmRNAの発現はCIA陽性対照群に対して抑制されていた。
【0105】
(4)COX−2測定
各投与群および陽性対照群のマウスの足関節(約200mg)を砕いたのち、20μlヘパリン含有トリス緩衝液(pH7.4)で2回洗浄し、1ml冷緩衝液(0.1M トリス・塩酸、pH7.8、1mM エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、250mM マンニトール、0.3mM ジエチルジチオカルバミン酸)を加えて、ポリトロンホモジナイザーでホモジナイズした。4℃、13000rpmで15分間遠心後の上清をマイクロコン 30(アミコン社製)で濃縮し、COX−2のレベルをCOX−2活性アッセイキット(Cayman Chemical社製)を用いて測定した。
【0106】
49日目の組織においてCOX−2のレベルに有意な差は見られなかった。
【0107】
以上(1)〜(4)の実験の結果から、CIAが発症してから、ヘスペリジンまたはナリンジンを経口投与することにより、CIAを治療できることが明らかとなった。ヘスペリジン投与群では、関節組織において細胞浸潤や滑膜炎症が抑制されていた。また、関節組織におけるTNF−αmRNA発現が抑制されていた。インビトロにおける抗II型コラーゲンIgG価においてはCIA陽性対照群とのあいだに差が見られなかった。また、組織におけるCOX−2のレベルに有意な差は見られなかった。これらのことから、ヘスペリジンとナリンジンは、アスピリンなどの通常の抗炎症剤とは異なる機構で炎症を抑制していることが推察された。
【0108】
試験例4
BALB/cマウス(13匹)を用い、背中に0.22μmフィルターで滅菌した空気を5ml注入した。この日からヘスペリジンを7匹のマウスに、毎日1回当たりの用量として3mg/マウスで7日間経口投与した。陽性対照群(6匹のマウス)には注射用蒸留水を経口投与した。ついで、空気を注入してから3日後に再び3mlの滅菌空気を注入した。さらに3日後に1%(w/v)のZymosan A(和光純薬工業株式会社製)懸濁液/生理食塩水0.3mlで刺激し、12および24時間後にAir−pouch内に浸潤してきた細胞の1部を3mM EDTA含有PRMI1640培地を用いて回収し、細胞数はチュルク液で染色して血球計算板で測定し、細胞構成はスメアーをメイグリュンワルド ギムザ染色液で染色して調べた。同様に、心採血により得た末梢血白血球の細胞構成をスメアーで調べた。
【0109】
Zymosan刺激12時間後の末梢血白血球の細胞構成は、単球がわずかに減少していたが、有意差はなかった(陽性対照群n=3:22.3±4.2%、ヘスペリジン投与群n=3:13.3±4.5%)。また、Air−pouch内に浸潤してきた細胞は、陽性対照群(6.72×107)とヘスペリジン投与群(6.98×107)でほぼ同数であったが、マクロファージの割合がヘスペリジン投与群では陽性対照群に比べて有意に少なかった(陽性対照群n=3:31.3±4.2%、ヘスペリジン投与群n=3:20.0±2.6%;P<0.02)。
【0110】
なお、Zymosan刺激24時間後の陽性対照群(n=3)とヘスペリジン投与群(n=4)における末梢血白血球の細胞構成、Air−pouch内への浸潤細胞数と細胞構成には有意な差は認められなかった。
【0111】
Air−pouchの実験の結果および、関節組織の病理学的解析から、ヘスペリジンあるいはナリンジンの投与により関節炎の炎症局所へのマクロファージの浸潤が抑制されると推察された。マクロファージの浸潤が特異的に抑制されたことから、MCP−1などマクロファージに対して特異的に働くケモカインの産生が抑制されると推察された。
【符号の説明】
【0112】
1 滑膜表面
2 滑膜組織
2a 増殖した滑膜組織
3 滑液
4 軟骨
5 骨組織
6 リンパ球の浸潤
7 フィブリン
8 好中球、類上皮細胞の浸潤
9 関節包

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘスペリジンおよびヘスペリジン配糖体を含有するリウマチの症状改善用飲食品。
【請求項2】
投与量が、ヘスペリジンおよびヘスペリジン配糖体の量に換算して1〜1000mg/kg/日である請求項1記載の飲食品。
【請求項3】
ヘスペリジンおよびヘスペリジン配糖体を含有するTNF−αの発現を抑制するための飲食品。
【請求項4】
投与量が、ヘスペリジンおよびヘスペリジン配糖体の量に換算して1〜1000mg/kg/日である請求項3記載の飲食品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2010−31033(P2010−31033A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−244588(P2009−244588)
【出願日】平成21年10月23日(2009.10.23)
【分割の表示】特願2002−342848(P2002−342848)の分割
【原出願日】平成14年11月26日(2002.11.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成13年10月31日 日本免疫学会発行の「2001日本免疫学会総会・学術集会記録 第31巻」に発表
【出願人】(000000228)江崎グリコ株式会社 (187)
【Fターム(参考)】