説明

リウマチ性関節炎で発生する抗体を検出することが可能なシトルリン化フィブリン−フィラグリンキメラポリペプチド

【解決課題】本発明はリウマチ性関節炎で生成される抗体と反応するキメラポリペプチドに関する。
【解決手段】このペプチドは、少なくとも2つのシトルリン化ペプチドサブユニットである(i)フィブリンのα鎖又はβ鎖由来のものと、(ii)フィラグリン由来のものとを含んでいる。加えて、本発明は、病気の進行時に生成される自己抗体を検出することでリウマチ性関節炎を診断する抗原性組成物、方法及びキットにも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リウマチ性関節炎で発生する抗体を検出することができるキメラポリペプチドに関する。このペプチドは少なくとも2つのシトルリン化(citrullinated)ペプチドサブユニットを含む。これらサブユニットとは、(i)フィブリンのα鎖またはβ鎖からのサブユニットと(ii)フィラグリンからのサブユニットである。さらに本発明は、抗原組成物と、リウマチ性関節炎の進行過程で発生する自己抗体の検出に関わるリウマチ性関節炎の疾病診断及び予後診断を行う方法並びにキットとに関する。
【背景技術】
【0002】
リウマチ性関節炎(RA)は、原因不明であって、人口の0.5%から1%が罹患する罹患頻度が非常に高い自己免疫症の1つであり、全身性合併症を伴い、徐々に関節を破壊し、関節変形を引き起こし、関節機能を失わせる。
【0003】
この病気においては初期段階で適用される集中治療が非常に有効であるため、その早期診断が治療のためには重要である。米国リウマチ学大学(ACR)によるRAの分類(AmeltFC,他、Arthritis Rheum.;1988;31,315-24)は純粋に臨床的なパラメータに基づいている。但し、これらの基準はRAの早期診断には有用ではない(Saraux A.et al.Arthritis Rheum 2001;
44;2485-91)。
【0004】
現在、RAの診断を可能にする複数の異なる血清学方法が存在する。それらは、それらの病状進行の初期段階で他の類似した病気から自身を区別するものである。このため、RA用の特定抗体がいくつか知られている。例えば、抗核周囲因子(APF)、抗フィラグリン抗体(AFA)及び抗ケラチン抗体(AKA)である。これらの抗体(シトルリン化抗タンパク質自己抗体)に対して認められるエピトープは、ペプチジルアルギニンデイミナーゼ酵素によるアルギニンのシトルリンへの脱イミノ化(deimination)で成る翻訳後修飾によって発生する(VossenaarER,et al.Bioessays2003;25;1106-18)。
【0005】
RAを診断する最も特有な方法の1つは、ペプチド又はシトルリン化タンパク質に対抗して発生する自己抗体の検出である。それらは、知られているこの病気の最も効果的な血清マーカの1つを構成する(ニイェンフイスS他、臨床化学アクタ、2004年版、350:17−34)。RAの診断のための最も効果的であり、商業的に最も広く活用されているキットであるELISAは、特にフィラグリンタンパク質由来のシトルリン化ペプチドであるCCP−1及びCCP−2に基づいている(NijenhuisS.,et al.2004)。
【0006】
シトルリン化可能なシノビン組織の他のタンパク質はフィブリンのα鎖及びβ鎖と、Sa抗原又はシトルリン化ビメンチンである。近年、セバッグ他(Sebbag et al. Eur.J.Clin.Immunol.,2006,36;2250-2263)はフィブリンタンパク質由来の18種のペプチドを特定した。それらのうちの2種は[Cit60,72,74]βフィブリン(60−74)及び[Cit38、42]αフィブリン(36−50)と呼称され、タンパク質の球状ドメインに存在し、シトルリン化抗タンパク質自己抗体のための全陽性血清に反応することができた。これらの結果は近年の研究(Perez,etal.,Chem.Biol.Drug Des.,2006,68,194-200;US 7,022,485)によって確認された。ここではRAの診断においてフィブリンから得られたペプチドの活性が分析され、現行の診断システムの効能の開発及び改良における利用性が確認された。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
RAの診断を改善する特殊試験の開発、並びに関節及び連結組織に影響を及ぼす他のリウマチ性疾患に関する早期診断、特に予後診断が思わしくない患者や、症状の進行が速い患者に対する関心が高まっている。これら臨床試験の採用は、病気の診断時点から集中的な治療を必要とする患者を特定することを可能とし、症状の進行を抑え、可能な限り関節の破壊を回避させ、病気の予後診断を改善する。
【0008】
本発明の発明者は現在利用されているRA診断システムの改良を目指しており、驚くべきことに、RAの進行過程で発生するシトルリン化抗タンパク質自己抗体(以降単に“自己抗体”)に対する特別な感度及び特異性を備えたフィブリンのα鎖及びβ鎖のシトルリン化ペプチド類を発見した。さらにこれらフィブリンのα鎖のシトルリン化ペプチドの1つはフィラグリンの環状ペプチドに共有結合し、ペプチドCCP−1及びCCP−2(イミュノスキャンRA)で得られる感度及び特異性の結果を補足又は改善できるキメラポリペプチド(フィブリン−フィラグリン)を得た。
【0009】
よって、本発明の第1の特徴は、少なくとも2つのシトルリン化ペプチドサブユニットを含み、共有結合しており、RA進行中に発生する自己免疫抗体と反応することができるキメラポリペプチドに関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
サブユニット(a)は、フィブリンのα鎖及びβ鎖の少なくとも7個のアミノ酸の断片、好適には10個から18個のアミノ酸の断片を有しており、少なくとも85%、好適には少なくとも90%、さらに好適には少なくとも93%、さらに好適には少なくとも95%、さらに好適には少なくとも98%相同性である。
【0011】
別の環状サブユニット(b)は、フィラグリンタンパク質の少なくとも7個のアミノ酸の断片、好適には10個から18個のアミノ酸の断片を有しており、少なくとも85%、好適には少なくとも90%、さらに好適には少なくとも93%、さらに好適には少なくとも95%、さらに好適には少なくとも98%相同性である。
【0012】
本発明のこの特徴を有する1好適実施例では、サブユニット(b)は、それらの間でそのサブユニットを環状にするジスルフィド架橋が形成される少なくとも2つのシステインアミノ酸を含む。好適には、これらシステインはセリンとシステインの置換により得られるものである。
【0013】
本発明のこの特徴を有するさらに好適な実施例では、そこからサブユニット(b)が得られるフィラグリン断片はそのタンパク質の部位306から324の間で成り、さらに好適な実施例では、β鎖フィブリンの部位306から324の間の配列はSEQ ID NO:7である。
【0014】
さらに好適な実施例では、サブユニット(b)の配列はSEQ ID NO:1(cfc1cyc)である。
【0015】
本発明のこの特徴のさらに好適な実施例では、そこからサブユニット(a)が得られるフィブリン断片は、フィブリンのα鎖の部位617から631又はフィブリンのβ鎖の部位43から62の断片である。本発明の1好適実施例では、フィブリンのα鎖の部位617から631の配列はSEQ ID NO:8である。さらに好適な実施例では、フィブリンのβ鎖の部位43から62の配列はSEQ ID NO:9である。
【0016】
本発明のこの特徴のさらに好適な実施例においては、キメラポリペプチドのサブユニット(a)は以下の群から選択される配列を含む。

a.SEQ ID NO:2(p18)
b.SEQ ID NO:3(p19)
c.SEQ ID NO:4(p22)
【0017】
本発明のこの特徴のさらに好適な実施例では、キメラポリペプチドのサブユニット(a)は配列SEQ ID NO:5(p38)を含む。
【0018】
本発明の別な好適実施例では、キメラポリペプチドはSEQ ID NO:6(p18、cfc1cyc)を含む。
【0019】
本発明のさらに好適な実施例では、本発明の前出の特徴によるキメラポリペプチドは輸送分子でマーク又は共役されている。
【0020】
以降、これらシトルリン化キメラポリペプチドを“本発明のキメラポリペプチド”という。これらポリペプチドは固形ペプチドの化学合成のごとき従来技術において良く知られる手法で得られる(材料及び方法参照)。
【0021】
本発明の第2の特徴は、それらペプチドがp18、p19、p22及びp38の群から選択された配列又はそれらの相似(相同)配列(相同ペプチド)を有するα鎖及びβ鎖のフィブリンのシトルリン化ペプチドに関するものである。これらシトルリン化ペプチド及び相同ペプチドはRAの特定自己抗体と反応することができる。本発明の1好適実施例では、それらペプチドは環状化される。1実施例では、その環状化は2つのシステイン、好適にはセリンとシステインの置換で実行される。以降、これらシトルリン化ペプチドを“本発明のペプチド”と呼称する。
【0022】
本発明の第3の特徴は、本発明のペプチドである本発明のキメラポリペプチド又はそれらペプチドの組み合わせ物中の少なくとも1つのペプチドを含んだRAの診断及び/又は予後分析のための抗原組成物に関する。以降、この組成物を“本発明の抗原組成物”と呼称する。
【0023】
本発明の第4の特徴は、生物サンプルのRAに対する特定自己抗体の検出方法に関するものであり、以下のステップを含む。
(a)本発明のペプチド、本発明のキメラポリペプチド及び本発明の抗原組成物の少なくとも1つと接触状態で生体サンプルを配置するステップ。
(b)従来の利用可能な方法等(例えば、ペプチドマーキング又はサンプルの光学密度を利用、等々)で特定自己抗体と、ステップ(a)の本発明のペプチド、キメラポリペプチド又は抗原組成物との反応を検出するステップ。
【0024】
本発明の1好適実施例では、本発明の2以上のキメラポリペプチドが生体サンプルと接触状態に置かれる。本発明の別実施例では、生体サンプルは本発明のキメラポリペプチドの1種又は複数種及びポリペプチドCCP−2と接触状態に置かれる。
【0025】
本発明の第5の特徴は、本発明のペプチドの少なくとも1種、本発明のキメラポリペプチド又は本発明の抗原組成物(抗原)を含むRAの病気診断と予後診断のためのキットに関する。好適にはこのキットは抗体と抗原との複合体の形成を促すのに必要な試薬及び緩衝剤を含むものである。
【0026】
定義
本明細書を通じて“由来(得られた)ペプチド又はポリペプチド”とはフィラグリンタンパク質の少なくとも7個のアミノ酸の領域又は断片、あるいはフィブリンのα鎖及びβ鎖の少なくとも7個のアミノ酸の領域又は断片から得られるペプチド類のことである。これら由来ペプチドは修正(例:環状化、デイミネーション、等々)を受けているであろう。この修正の結果、由来先のタンパク質の当初配列との相同性が低減している。これらペプチド類の1例はCCP−1及びCCP−2として知られるペプチド群である。
【0027】
“CCP−1ペプチド”とはフラグリン由来の環状ペプチドのことである。
【0028】
“CCP−2ペプチド”とはCCP−1ペプチドで達成される検出性能より大きなRA検出のための感度及び特異性の程度を備えたペプチドのことである。
【0029】
明細書で記載されているアッセイを通じて、本発明のペプチドは商業的に入手できるイミュノスキャンキット(イミュノスキャンRA;“ユーロダイアグノスチカ”、ダイアゾリン社供給、スペイン国マドリード市)から得られるCCP−2ペプチドと比較される。
【0030】
“ポリペプチドの相同ペプチド”とは、以下で解説するように、少なくとも1つのアミノ酸が別な類似の特徴を有するアミノ酸により置換されているペプチドのことである。
【0031】
−極性中性好水性又は(極性):セリン(Ser)、トレオニン(Thr)、システイン(Cys)、アスパラギン(Asn)及びグルタミン(Gln)
−非極性中性無極又は疎水性:グリシン(Gly)、アラニン(Ala)、バリン(Val)、ロイシン(Leu)、イソロイシン(Ile)、メチオニン(Met)、プロリン(Pro)、フェニルアラニン(Phe)、トリプトファンン(Trp)及びチロシン(Tyr)
−負電荷又は酸:アスパラギン酸(Asp)及びグルタミン酸(Glu)
−正電荷又は塩基:リシン(Lys)、アルギニン(Arg)及びヒスチジン(His)
【0032】
“共有結合ペプチド”とは両者間に共有結合が存在し、そこでその結合がスペーサを介して、あるいはスペーサを介さずに発生することができるペプチドのことである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、フィブリンのβ鎖(断片43〜62)の“頭−尾”環状ペプチド(p38HT)の固相合成の手法を表す図である。試薬及び条件:(i)Fmoc−Asp−Odmab DCM、DIPCDI、20分間、0℃;(ii)DMAP(4−ジメチルアミノピリジン)、DMF、3時間;(iii)固相ペプチド合成(SPPS);(iv)20%ピペリジン/DMF;(v)3%ヒドラジン/DMF;(vi)20%HO/DMF、16時間;(vii)DMF、DCM、メタノール;(viii)1%DIPEA/DMF;(ix)1%GOBt/DMF;(x)PyBOP/DMF、DCM、72時間;(xi)1%DIEA/DMF;(xii)DMF/MeOH;(xiii)TFA(トリフルオロ酢酸)/EDTA/TIS(トリイソプロピルシラン)/HO、3時間。W基、X基及びZ基はペプチドの化学合成反応を導くのに使用される保護基である。
【図2】図2は、ジスルフィド架橋を有した環状ペプチドの固相ペプチド(p38SS)の合成の手法を表す図である。試薬及び条件:(i)SPPS;(ii)20%ピペリジン/DMF;(iii)TFA/EDT/TIS/HO、3時間;(iv)l/MeOH、60分間、l/MeOH、90分間;(v)DCM。W基、X基及びZ基はペプチドの化学合成反応を導くのに使用される保護基である。
【図3】図3は、ペプチドp18−cfc1cycの固相ペプチド合成の手法を表す図である。試薬及び条件:(a)(i)20%ピペリジン/DMF;(ii)ペプチドcfc1cycのSPPS;(iii)SPPS、ペプチドp18の固相によるペプチド合成;(iv)20%ピペリジン/DMF;(v)TFA/TIS/HO;(vi)l/メタノール、60分間及びHO、90分間;(vii)DCM;(b)試薬及び条件:(i)20%ピペリジン/DMF;(ii)ペプチドcfc1のSPPS;(iii)l/メタノール/DCM、4時間;(iv)DMF/メタノール;(v)ペプチドp18のSPPS;(vi)20%ピペリジン/DMF;(vii)TFA/TIS/HO(90:5:5)
【図4】図4は、RA患者からの33血清のサンプルのα鎖及びβ鎖フィブリン由来のペプチドの吸光度(OD492)で測定した反応グラフである。
【図5】図5は、110RA血清サンプルのフィブリンのβ鎖由来のペプチド(p38)並びに環状ペプチドp38HT及びp38SSの吸光度(OD492)で測定した反応グラフである。
【図6】図6は、RA患者又は乾癬性関節炎(PsA)患者群の自己抗体(B、C及びD)に対するペプチドp22、p22sc及びp22lcのROC曲線(A)と反応性の分析を示す。(A)全ての可能なカットオフ値の感度と特異性は計算され、ROC曲線(n=111 RA陽性患者、n=82 PsA陽性患者)として表された。グラフB、C及びDは、それぞれのアッセイのROC曲線による分析で得られた最良カットオフ値で表されるRA患者及びPsA患者(対照)の抗体に対するペプチドp22、22sc及びp22lcの活性を示す。
【図7】図7は、RA患者又はPsA患者群のROC曲線(A)並びにβ―フィブリン(p38)の直鎖ペプチドの抗体(B、C、D及びE)に対する活性、α―フィブリン(p22)の直鎖ペプチド、キメラポリペプチド(p38−GGG−p22)及びペプチドp38とp22の混成物の分析を示す。(A)全ての可能なカットオフ値の感度と特異性は計算され、ROC曲線(n=111 RA陽性患者、n=82 PsA陽性患者)として表された。グラフB、C、D及びEは、それぞれのアッセイのROC曲線による分析で得られた最良カットオフ値で表されるRA患者及びPsA患者(対照)の自己抗体に対するペプチドp38、p22、p38−GGG−p22及びp38+p22の活性を示す。
【図8】図8は、Ra患者又はPsA患者群のROC曲線と、フィラグリン(cfc1cyc)由来の環状ペプチド(ペレスT他、ペプチド科学協会誌、2006年版、12(4):267−278)及びキメラポリペプチド(p18−cfc1cyl)の活性の分析を示す。(A)全可能なカットオフ値に対して感度と特異性が計算され、ROC曲線(n=111 RA患者、n=82 PsA患者)として表された。(B)グラフBとCは、それぞれのアッセイのROC曲線による分析から得られた最良カットオフ値で表されるRA患者又はPsA患者(対照)の自己抗体に対するcfc1及びp18−cfc1cycの活性を示す。
【図9】図9は、抗ペプチド抗体p18−cfc1cyc及び抗CCP−2の適定濃度間相関関係の分析を示す。
【図10】図10は、抗CCP−2のROC曲線を示す。
【図11】図11は、フィブリン/フィラグリン抗キメラp−18のROC曲線を示す。
【図12】図12は、フィブリン/フィラグリン抗キメラp−19のROC曲線を示す。
【図13】図13は、フィブリン/フィラグリン抗キメラp−22のROC曲線を示す。
【図14】図14は、CCP−2(+)と(−)の患者間モニタリングを通じたC反応性タンパク質(CRP)の値の変化を示す
【図15】図15は、CCP−2(+)と(−)の患者間モニタリングを通じたDAS28活性インデックスの変化を示す。
【図16】図16は、抗p18(+)と(−)抗キメラの患者間モニタリングを通じたC反応性タンパク質(CRP)値の変化を示す。
【図17】図17は、抗p18(+)と(−)抗キメラの患者間モニタリングを通じたDAS28活性インデックスの変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下では、本発明の開発に使用された物質と方法並びに実施形態が解説されている。これら実施例は本発明を限定するものではなく、実施例の目的は本発明の説明であり、本発明のキメラポリペプチド及びペプチドの感度と特異性を解説するものである。
【0035】
材料と方法
ペプチド合成
異なる程度のデイミネーションを備えたα鎖及びβ鎖のフィブリンタンパク質に属するペプチドの合成(表1a及び表1b)が、テンタゲルRAM樹脂(ラップポリメレGmbH社、ドイツ)(100mg、0.28meq/g)を使用してペプチド分析法により固相で実施された。この合成は半自動ペプチド合成装置(SAM、マルチシンテック社、ドイツ)を使用して実行され、その結果はC末端カルボキシアミドの形態で得られた。Fmoc/tBut手法に従ってアミノ酸同士の結合反応が、縮合剤1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)及びN,N’−ジイソプロピルカルボジイミド(DIPCDI)を使用して、前の3倍の濃度で2回実行された。ジメチルホルムアミド(DMF)内のピペリジン(20%)を10分間使用してFmoc保護基の脱保護処理も2回実行された。
【0036】
【表1a】

【0037】
【表1b】

【0038】
これらペプチドはトリフルオロ酢酸(TFA)/トリイソプロピルシラン(TIS)/HO(95/2.5/2.5)の混合物を使用して脱保護され、同時的に樹脂から1回で解離された。これらペプチドは冷却ジエチルエーテルで沈殿され、遠心分離され、10%酢酸内で凍結乾燥された。このようにして得られたペプチドは215nmにて分析用HPLCにより分析された。それらの組成はMALDI−TOF質量分析法で確認された。
【0039】
ペプチドの環状化
その配列は表2で提供されているが、“頭−尾”環状ペプチドp38HTを得るためにアミノ酸の標準保護が使用された。p38HTは表1で示す手法に従って手作業で合成された、C末端の形態であるNovasyn(登録商標)TGA樹脂(スイス国ノババイオケム社)(0.25mmol/g)で得られた。この樹脂はヒドロキシメチルフェノキシ酢酸(HMPA)で官能化されて商業的に供給された。この第1段階は、横鎖を介したFmoc−Asp−ODmabの無水異性体による樹脂のアシル化であった。このペプチド合成は標準Fmoc/tBut手法に従って継続された。このペプチド合成の完了後、Fmoc末端基はDMF内の20%ピペリジンで除去された。Dmab基の除去はDMF内の3%ヒドラジンによる処理と、続くDMF内の20%水での処理によって実行された。
【0040】
【表2】

【0041】
この脱保護された樹脂は1%DIPEA−DMFで処理され、続いて1%HOBt−DMFで処理された。このマクロ環状化反応は、72時間、常温条件下でPyBOPの3当量を使用して実行された。最後に、ペプチド樹脂はTFA/1,2−エタンジチオール(EDT)/TIS/HO(95/2/1/2)の混合物の酸処理によってペプチドから放出された。この環状構造は冷却ジエチルエーテルでの沈殿により単離され、10%酢酸内で最終残基を溶解させ、最後に凍結乾燥された。未精製ペプチドは逆相HPLCで精製され、エレクトロスプレー質量分析(ES−MS)で確認された。
【0042】
表2と表3で示すジスルフィド形態の環状ペプチド(p38SS、p18−sc、p19−sc、p22−sc、p18−lc、p19−lc及びp22−lc)を得るためには元来のペプチド配列の2セリン残基をCys(Acm)としての保護された2システイン残基で置換することが必要であった。対応する直鎖ペプチドは前述のようにC末端カルボキシアミドの形態で合成され、最終的に、TFA/EDT/HO(95/2.5/2.5)による処理で樹脂から放出され、冷却ジエチルエーテルにより沈殿された。最後に、それらは10%酢酸内で溶解され、凍結乾燥された。得られたペプチドの特徴の特定はMALDI−TOF及び分析用HPLCにより実行された。環状化はペプチドを酢酸内に溶解し、メタノール内にヨウ素溶液を加えてジスルフィド結合を得ることで実行された。60分間撹拌した後、水が加えられ、Acm保護基の放出が加速された。得られた溶液はさらに90分間撹拌され、最後にヨウ素がジクロロメタンで抽出された。その水相物は水で3倍に希釈され、凍結乾燥された。未精製ペプチドは分析用HPLCで特徴付けられ、予備HPLCで精製され、ES−MSで特徴付けられた。図2はジスルフィド架橋を備えた環状ペプチドの1つ(p38SS)を生成するために実行された合成法を図示する。
【0043】
【表3】

【0044】
キメラペプチド
α及びβフィブリン(表4a)から選択されるペプチドの中で3個のグリシン残基を含む直鎖キメラペプチドの合成を実行するために前述の一般手法が実行された。
【0045】
その主要配列が表4bで示されているαフィブリンとフィラグリンのキメラ(ポリ)ペプチド(p18−cfc1cyc)の合成を実行するための2つの異なる合成法が利用された。第1方法(図3a)は固相での直鎖キメラ配列の合成ステップと、ジスルフィド架橋の形成による溶液内における後の環状化ステップとで成る。第2方法(図3b)ではフィラグリンペプチドに対応する領域の環状化が固相にて実行され、続いて、フィラグリンペプチドが既に環状化されている状態にてペプチジル樹脂上でαフィブリンに対応する配列により配列合成が完了した。キメラポリペプチドの解離と最終脱保護は、既成のジスルフィド結合を保存して実行された。
【0046】
【表4】

【0047】
血清サンプル
分析された血清サンプルはバルセロナ病院のリウマチサービスセンターの患者からのものであった。全部で193の血清サンプルが検査され、1987年の米国リウマチ協会(現在、米国リウマチ学大学)の改定基準に従って、そのうち111サンプルがRAであると診断された患者に対応するものであった。これらサンプルはCCP−2抗体のキット(イミュノスキャンRA、“ユーロダイアグノスチカ”、ディアゾリン社提供、スペイン国マドリード市)を使用してELISAによって以前に試験されていた。82の残りの血清サンプルはPsAであると診断された患者(非予備選択)から得られたものであり、陰性対照として使用された。
【0048】
ELISAアッセイ
これらペプチド配列は、前述したように(Perez,T.;Gomez,etal. Lett.Peptide Sci.,2002,9,291-300)ELISA適定プレートに共有結合された。
【0049】
簡単に言えば、これらペプチドは0.05Mの炭酸塩/重炭酸塩緩衝剤(pH9.6)内で10mg/mLの濃度に希釈された。100μLのペプチド溶液が微小適定プレートの各ウェルに入れられ、4℃で一晩培養された。各適定プレートは背景ノイズを予測するための、血清サンプル以外は全試薬を含んだ対照のウェルと、非特異血清反応を評価するための、ペプチド以外は全試薬を含んだウェルとを含んでいた。対照ではそれらウェルは2mgのBSA/ウェルでブロックされた。培養後、適定プレートは室温で1時間、0.05Mの炭酸塩/重炭酸塩緩衝剤(pH9.6)内の2%のBSAでブロックされた。血清は10%のウシ胎児血清が補充されたRIA緩衝剤(1%のBSA、350mMのNaCl、10mMのTris−HCl、pH7.6、1%vol/volのトリトンX−100、0.5%wt/volのNa−デオキシコレート、0.1%のSDS)内で200倍に希釈された。100μL/ウェルが追加され、室温にて1.5時間培養された。PBS/0.05%のTween−20で6回洗浄した後、100μL/ウェルのペルオキシダーゼに共役された抗ヒトLgGが加えられ、RIA緩衝剤で1:1000に希釈された。室温での1時間の培養後に適定プレートはPBS/0.05%のTween−20で6回洗浄され、結合した抗体はo−フェニレンジアミンジヒドロクロリド(OPD、シグマケミカルカンパニ社)と、0.8mL/mLの30%過酸化水素で検出された。適定プレートは室温で30分間培養された。反応は50mLの2N HSOで留保され、得られた光吸収率は492nmの波長で測定された。全部の血清は二重に試験された。アッセイ間及びアッセイ内の変動をモニターするために対照血清も含まれた。
【0050】
リポペプチドp66又はフィブリンペプチドの物理的混合物で実行されたELISAアッセイが、前述の方法(Gomara,M.J. et al.,J.Immunol Methods 2000,234,(1-2),23-34)に従って固体表面への配列の受動的吸収後に実行された(マックスソープ、96Fヌンク、デンマーク国ロスキルド市)。ペプチドp65はCovalinkNHプレート(ヌンク、デンマーク国ロスキルド市)を使用して分析された。これはC末端領域を介してペプチドの共有結合を促す。この汎用方法は以下の通りである。
【0051】
10μg/mLのペプチド溶液が8mMの濃度にてスルフォ−N−ヒドロキシスクシンイミド(スルフォ−NHS)を含有した蒸留水内で準備された。100μLのペプチド/スルフォ−NHS溶液が各ウェルに入れられた。同様に2%のBSA/スルフォ−NHSの溶液が準備され、対照ウェルに入れられた。50μLの16mMである1−エチル−3(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド(EDC)が各ウェルに入れられた後、共有反応が開始した。適定プレートは室温にて一晩培養され、ELISAアッセイの残りステップはCostarプレートに関して前述した方法に従って実行された。
【0052】
統計解析
統計プログラムSPSSバージョン12.0を使用した統計解析が実行された。異なる病気での異なるELISAアッセイの感度/特異性を確立するためにROC曲線研究が実行された。比率を比較するため、カイ二乗検定又はフィッシャ検定が実行され、継続的変動要素の二変系分析のために、スチューデントt−検定及び/又はウィルコキソン−マン−ウィットニーアッセイが利用された。複数比較のために変動分析又はクルスカル−ワリス検定が利用された。パラメトリック検定を利用するため、常態対比(コルモゴロフ−スミルノフ)及びホモセダスティシティ検定(レベン検定)が前もって実行されていた。
【0053】
本発明の実施例
【実施例1】
【0054】
αフィブリン及びβフィブリンのエピトープ特定
RAの陽性血清(以降“RA血清”)に対してさらに反応性(活性)であるフィブリンタンパク質のペプチドを検出する目的で、デイミネーション程度の影響が、異なるアルギニン/シトルリン比を有するフィブリンから得られたペプチドの合成によって分析された。このアッセイで使用されるαフィブリン鎖及びβヒブリン鎖の領域の特定はコンピュータで作成された抗原性の予測によって実行された。ジャナン疎通性とウェリング抗原性のホップとウッズ親水性スケールが使用された。さらに、どの領域がベータターンを形成するさらに高い確率を有しており、従って、抗体との反応のためのさらに高い活性を有してタンパク質のさらに外部の区分に存在すべきであるか考察された。これらペプチドは最終的に固相で合成され、それらの配列である質量分析のHPLC及びMALDI−Tによって特徴付けられた。
【0055】
RAの陽性血清内に存在する自己抗体を認識する能力を見極めるため、これらペプチドはイミュノアッセイ(ELISA)により分析された。どのペプチドが自己抗体の最良基材であるかを特定するため、当初は全ての合成ペプチドがRAの33の陽性血清と40の対照血清とで検定された。図4で示すように、αフィブリン鎖由来のペプチドp18、p19及びp22の感度が相当程度の増加されていた。アルギニンは部位630で置換されていた。ペプチドp24もこの特定部位にシトルリンを有しているが、それは領域617から631の全面的にシトルリン化されたペプチドである。本発明の発明者による過去の研究によれば、正味正電荷はペプチドの活性に貢献する追加的要素である。発明者の経験によれば、ペプチド内のArg/Cit残基の好適なバランスは自己抗体に対するさらに大きな結合能力での形成に有利である。これはそれらの分析、病気診断及び予後診断の利用性を改善するのに好適であった。
【0056】
同一部位に非変質アルギニンを有したαフィブリンの領域617から631の対応するその他のペプチドは相対的に低い反応性を示した。部位43から62で定義された領域から得られたペプチドのβフィブリン鎖由来のペプチドにおいては、p38が最良の吸収性結果(DO492)を有した。すなわち、自己抗体に対するさらに大きな結合性を有していた。
【実施例2】
【0057】
環状化ペプチドによる自己抗体の検出検定
βフィブリンの環状化ペプチド
βフィブリンの領域43から62由来のペプチドは環状化され、この環状化処理が抗体に対する親和性を増加させたか否かが判定された。よって、βフィブリンの領域43から62由来の環状ペプチドの2形態(表2)が準備された。これら形態の一方であるp38HT(頭−尾)は環状ペプチドp38に対応する。p38はそのペプチドのN末端と、オドマブ基(4[N−[1−(4,4−ジメチル−2,6−ジオキソ−シクロヘキシルイデン)−3−メチルブチルアミノ]ベンジルオキシ])(図1)によって保護されたペプチドの配列のC末端に導入されたAsp残基のカルボキシル基との間のアミノ結合の形成によって固相にて得られた。そのペプチドの別形態であるp38SSは、2つのセリン残基を、βフィブリンの領域43から62の2つのシステインで置換することにより得られ、環状化はヨウ素/メタノール溶液の酸化によって実行された(図2)。
【0058】
環状化ペプチドのこれら2形態はELISAにより、RAの110の陽性血清と80の対照血清を使用して検定された。図5で示すように、p38HTとp38SSとの間の相違はさほどではなかったが(p=162)、自己抗体を検出する直鎖ペプチドの能力は環状ペプチド(p<0.05)に大きく劣った。
【0059】
αフィブリンの環状化ペプチド
βフィブリンの場合と同様に、αフィブリン由来の環状化ペプチドは、さらに高い抗原値p18、p19及びp22を提供していたペプチドから得られた。このように、各ペプチドの2つの環状化形態(表3で示すように長大形態と短小形態)が準備され、RAの110の陽性血清と、PsAの70の陽性血清で検定された。ROC曲線分析は短小環状ペプチドの曲線(AUC)値(p18−sc、p19−sc及びp22−scそれぞれに対して0.829、0.745及び0.703)の下側で、長大環状ペプチドのもの(p18−lc、p19−lc及びp22−lcそれぞれに対して0.738、0.703及び0.685)と較べて大きな領域を示した。図6で示すように、環サイズが相対的に小さいときにはペプチドp22−scに対してさらに高いAUC及び感度値(P=0.008)が得られた。
【0060】
一方、このアッセイに使用されたフィブリンペプチドは、他のRA検出法の結果とは異なり、PsAに対する陽性サンプルで偽陽性の原因とはならなかった。その結果、抗CCP検定で検出された抗体がPsAによって影響を受けるさらに高頻度の個体群であると主張する様々な研究者(21、22)によって解説されているように、ここで解説するαフィブリンの環状化ペプチドはRA検出システムの改善に大きな関連性を有するであろう。
【実施例3】
【0061】
αフィブリン−βフィブリン及びフィブリン−フィラグリンキメラペプチドによるRA自己抗体の検出検定
αフィブリン及びβフィブリン由来のポリペプチドの異なる領域のために得られた特異性及び選択性データから、キメラペプチドが設計され、固相にて合成された(表4)。
【0062】
ELISA分析は、ROC曲線によって分析されたαフィブリン及びβフィブリンキメラポリペプチドが、モノマーペプチドに対応するものよりも高いAUC値を提供することを示した(図7)。驚くことに、このアッセイが、フィラグリンペプチドが環状化されているフィブリン−フィラグリンキメラポリペプチドで実行されると、感度及び特異性の結果はさらに改善された。
【0063】
この最後のアッセイを準備するために2つのペプチドが準備された。すなわち、CCP−1(15)として知られるペプチド群に属するcfc1cycと、p18との前記一方の共有結合で得られたp18−cfc1cycとが準備された。これら両ペプチドの感度と特異性の比は図8で示す。p18−cfc1cycに対するELISAの感度は82%であり、これはcfc1cycに対してELISAにより到達されたもの(65.8%;P=0.002)より大幅に高かった。特異性は両方の場合とも非常に大きかった(93%)。対照として使用された群がPsA患者(RAを擬似する臨床症状の炎症)で成ることを考慮すると、特異性を維持したこの高い感度は見落とせない。一方、対照固体群(PsA)におけるポリペプチドp18−cfc1cyc(6%)に対する抗体頻度は、CCP−2に基づく商業的検定を利用する他の研究者により発表されているものに類似しており、5.6から7.8%の発現率を報告した。
【実施例4】
【0064】
ペプチド混合物によるキメラポリペプチドRA抗体の検出検定
フィブリン由来ペプチドに基づいてRA検出法を改善するため、様々に異なるペプチド混合物が準備された。
【0065】
CCP−2に基づく商業検定が陰性結果を出した23の血清サンプルのパネルが使用され、抗原的にさらに関連が深かったものから選択された、異なるペプチド混合物に対するそれらの反応性が研究された(表5)。これらペプチド混合物は、23のRA陽性サンプルのうちで4サンプルを検出できただけであった。しかし、キメラポリペプチドp18−cfc1cycは8血清サンプルでRA自己抗体を検出でき、試された他の方法で得られた最大21%と17%と比して33%の反応性に達した。これらの結果はフィブリン−フィラグリンキメラペプチドがRAの検出方法の感度を改善できることを証明した。
【0066】
【表5】

【0067】
フィブリン−フィラグリンキメラポリペプチド、特に、ポリペプチドp18−cfc1cycがcfc1cycのものよりも高い感度を提供できること、及び商業的CCP−2検定が偽陰性を検出したRAの陽性血清を検出することができたことすら言及することは重要なことである。実際に、CCP−2検定で46%以上の陰性血清がp18−cfc1cyc及び/又はp38と反応し、フィブリン由来のペプチド及びフィブリン−フィラグリンキメラポリペプチドが、本発明以前の検定結果よりも良好な結果を提供するRA自己抗体検出検定の開発を可能にすることを示している。
【0068】
これらアッセイの実行中に、図9(r=0.86、p<0.001)で示すようにp18−cfc1cycとCCP−2の相関関係の存在も確認された。これら結果は、RAの病気診断及び予後診断の方法を補強するためにフィブリン−フィラグリンペプチドの利用性を向上させる。
【実施例5】
【0069】
抗CCP−2抗体及びシトルリン化キメラ抗ペプチド(フブリン/フィラグリン)(fb/f(フィブリン/フィラグリン)抗キメラ)の感度並びに特異性
この分析を実行するため、抗CCP2及びfb/f抗キメラ(p18.p19、p22)抗体の値がELISA技術を活用して利用された。よって、RAの診断のために感度、特異性及び陽性と陰性の予測値を評価するため、リウマチ性関節炎(RA)の患者の血清サンプル(ACR規準、1987年)(n=322)及びクリニコ病院の血液バンクからの対照血清サンプル(n=307)が使用された。このため、ROC曲線分析が実行され、98%の特異性が示された。以下は、異なる抗原に対するカットオフ値を示す。

抗CCP2: 29IU/I
fb/f抗キメラ−p18: 0.241
Fb/f抗キメラ−p19: 0.229
Fb/f抗キメラ−p22: 0.280
【0070】
以下において、RA患者群(n=322)と血液バンクからの対照群(n=307)の間のRA診断のためのROC曲線が詳述されている。
【0071】
【表6】

【0072】
【表7】

【0073】
【表8】

【0074】
【表9】

【0075】
このアッセイで、RA患者の血清に、シトルリン化フィブリン/フィラグリンキメラペプチドに対して反応する抗体が存在していることが示された。このことは、リウマチ滑膜に存在するヒトヒブリンのα鎖のエピトープが、RA患者においてこれら自己抗体を形成して免疫反応を引き起こす主抗原で構成されているという考察を補強する。
【0076】
これら抗体の感度/特異性分析で、それら抗体がRA診断において高感度及び高特異性を有することが証明された。実際に、322のRA患者と307の対照(血液バンク)の固体群を使用し、98%の特異性を維持して、3種のフィブリン/フィラグリン(fb/f)キメラペプチド(p18、p19、p22)の感度はそれぞれ72%、78%及び71%であった。これは商業用抗CCP−2で観察されたもの(74%)と類似した感度であった。興味深いことに、異なる抗体間の相関関係は非常に緊密であるが、それらには相当な不一致性(13%から15%の不調和血清)が存在する。このことは特異性(96%から97%)を維持しつつ、複数の抗体の判定が感度を向上させている(最高81%)ことを示す。
【0077】
事実、比較的に多数の患者が非調和値で観察された。13.9%の患者はCCP−2抗体とfb/f抗キメラp−18の陽性判定において不一致を有している。
【0078】
【表10】

【0079】
分析が抗CCP−2とfb/fキメラペプチドp19及びp22に対する抗体との間で実行されると、それぞれ13.3%と15.3%の不一致も観察される。3つのfb/fキメラ抗体間でさえも不一致レベルは13.9%であり、図11で示すようにfb/fキメラ抗体に対してはさらに多数の陽性判定不一致である血清が存在する。
【0080】
【表11】

【実施例6】
【0081】
異なる病気におけるシトルリン化ペプチド(CCP−2及びfb/fキメラ)に対する抗体の感度/特異性
後に、RA患者と血液バンクの対照群との間でROC曲線を介して陽性を判定するためのカットオフポイントを使用して、3つの異なる研究における患者の血清が研究された。

1.全身性紅斑性エリテマトーデス(SLE):n=119
2.乾癬性関節炎:(PsA):n=133
3.慢性肝炎C型ウィルス(HCV):n=84
【0082】
異なる抗体の感度又は陽性判定はこれら3種の病気では非常に低い。これは表12に従って、RAの診断に使用された4種の抗体の特異性及びそれらの特異性の値を示している。表12では、抗CCP−2及びfb/f抗キメラp18抗体の特異性に関するデータが示されている。
【0083】
【表12】

【0084】
表12で確認できるように、抗CCP−2及びキメラの両方で、乾癬性関節炎及び慢性肝炎C型ウイルスにおいて特異性は非常に高い(97%から98%)。偽陽性は非常に少ない。
【0085】
従って、この異なる自己抗体の特異性研究で、自己免疫症状が観察される他の病気(全身性紅斑性エリテマトーデス、慢性C型肝炎)の場合、又はRAに類似した臨床症状(乾癬性関節炎)の場合には、fb/f抗キメラ抗体が非常に特異的であることが明確に確認される。
【実施例7】
【0086】
予後診断の重要性
この分析の目的は、RAのヒトフィブリンドメイン由来シトルリン化抗体の予後診断値を分析し、それを次世代商業キット(CCP−2、ユーロダイアグノスチカ社)による臨床検定で決定されたものと比較することであった。以上の本発明の説明で解説したように、さらに大きな感度/特異性バランスを有することを示したペプチドはfb/fキメラp18、p19及びp22である。この理由で、それらペプチドは予後診断の重要性の研究に使用されてきた。
【0087】
この分析を実行するため、118のRA患者が2年以上にわたって研究された。抗リウマチ薬を使用した治療プロトコルはこの2年間にわたってモニターされた。この2年間のモニター終結時に関節破壊の程度(放射線プログレッション)が主測定因子として検査された。異なる臨床学的、生物学的及び免疫遺伝学的な変動要素が大きな関節破壊に関与していることを確認することは可能であった。それらのなかにはシトルリン化環状ペプチドに対する特異的抗体の存在が含まれていた。特に抗CCP−2及びfb/fキメラp18抗体の場合には、ベースライン時におけるその存在は2年のモニター後にさらに大きな放射線性病変にさらに明確に関連していた。
【0088】
しかし、これら抗CCP−2には陰性であるが、抗キメラに対しては陽性である患者が、抗CCPに対する陽性に類似する関節破壊の程度を示し、これら抗体が追加の予後診断情報を提供していることに注目することは非常に重要である。
【0089】
以下では、既に上記で解説した結論に到達するために得られたデータが提供されている。まず、分析された患者の異なる特徴が提供されている。

女性(%) 82.2
年齢(歳)±S.D. 53.8±15
病気期間(月)X±S.D. 10±6.7
EAV痛み(mm)X±S.D. 50.6±21
VGPatient(mm)X±S.D. 57.6±15.8
VGMedium(mm)X±S.D. 55.7±14
NAD28、X±S.D. 9.8±5.5
NAI28、X±S.D. 8.1±4.2
DAS28、X±S.D. 5.7±0.9
DAS28>5.1(%) 75.4
mHAQ、X±S.D. 0.9±0.5
VSG(mm/h)X±S.D. 39.7±24.4
CRP(mm/dL)X±S.D. 2.8±2.3
ヘモグロビン(mg/dL)X±S.D. 12.7±1.4
陽性リウマチ因子(>25U) 73.7
陽性抗CCP−2(>50U)(%) 69.7
リウマチエピトープ(%) 72.5
ホモ接合リウマチエピトープ(%) 19.3
HLA−DRB1−04(%) 44.5
【0090】
このアッセイ(fb/f抗キメラ)(ELISA)でシトルリン化合成キメラペプチドに対する特定抗体の検出に関して、キトルリナーゼ化合成キメラペプチドに対する特殊抗体の検出に関し、結果は以下の通りであった。
【0091】
【表13】

【0092】
表14において、シトルリン化ペプチドに対する異なる特定自己抗体の存在又は不在に従った放射線損傷値(ベースライン時及び2年後)を観察することが可能である。
【0093】
【表14】

【0094】
関節破壊を予測するとき、異なる変動要素の予後診断値が評価され、破壊の進行の存在が列挙される。そのとき、モニター終了時(24ヶ月)に4ポイント以上のラルセン値の増加がある(0ヶ月から24ヶ月)この規準に従って判定すると、118の患者の39(33%)は関節破壊の進行があり、79(67%)にはなかった。
【0095】
一方、シトルリン化キメラペプチド(抗キメラ)に対する3種の抗体の二変系分析は表15に記載された結果をもたらした。
【0096】
【表15】

【0097】
これらの結果は、シトルリン化フィブリン/フィラグリンキメラペプチドに対する抗体を有した患者の割合が、そのような抗体を有しない患者の場合よりも放射線的進行を有する患者においては高いことが示した。さらに、陽性及び陰性である抗CCP−2の患者(陽性及び陰性のfb/f抗キメラ)間の放射線的進行データが分析されたとき、実施例5で既に述べた結果に注意すれば、CCP−2/−キメラ+が、CCP−2基ではなくCCP−2+基(すなわち、さらに大きな放射線的進行)の振る舞いにどのように類似しているかが観察される。このことは、これら抗体の存在が、陰性抗CCP2の患者においても大きな放射線的進行が存在すると判定することを示す。よって、本発明のキメラペプチドを利用した病気診断と予後診断の重要性が理解されよう。
【0098】
従って、これらデータに基づいて、シトルリン化環状ペプチドに対する抗体、特に抗CCP−2及びfb/fキメラp18抗体がどのように関節破壊に関与するか、並びにベースライン時においてその存在が2時間のモニター後にどのように増加した放射線疾患に関連するかを確認することができる。
【実施例8】
【0099】
シトルリン化ペプチド及びHLADRB遺伝子型に対する抗体間の関連性の分析
表16で、異なるDRB04及びDRB03対立遺伝子の頻度並びにシトルリン化ペプチドに対する特定抗体を有した患者のリウマチエピトープを観察することができる。
【0100】
【表16】

【0101】
表16はDRB04と抗CCP−2及びfb/fキメラp18抗体間の関連性を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共有結合された少なくとも2種のシトルリン化ペプチドサブユニット(a)と(b)を含んだキメラポリペプチドであって、サブユニット(a)はαフィブリンタンパク質又はβフィブリンタンパク質の少なくとも7個のアミノ酸の断片と少なくとも85%の相同性を有しており、サブユニット(b)は環状化されており、フィラグリンタンパク質の少なくとも7個のアミノ酸の断片と少なくとも85%の相同性を有していることを特徴とするポリペプチド。
【請求項2】
サブユニット(b)は両者間にジスルフィド架橋を形成する少なくとも2個のシステインアミノ酸を含んでいることを特徴とする請求項1記載のポリペプチド。
【請求項3】
配列SEQ ID NO:7の部位306と324との間にフィラグリンタンパク質断片を含んでいることを特徴とする請求項1又は2記載のキメラポリペプチド。
【請求項4】
サブユニット(b)は配列SEQ ID NO:1を含んでいることを特徴とする請求項3記載のキメラポリペプチド。
【請求項5】
配列SEQ ID NO:8の部位617と631との間にαフィブリンタンパク質の断片を含んでいることを特徴とする請求項1又は2記載のキメラポリペプチド。
【請求項6】
βフィブリンタンパク質の断片は配列SEQ ID NO:9の部位43と62との間に含まれていることを特徴とする請求項1又は2記載のキメラポリペプチド。
【請求項7】
サブユニット(a)は、配列(a)SEQ ID NO:2(p18)、配列(b)SEQ ID NO:3(p19)及び配列(c)SEQ ID NO:4(p22)で成る群から選択される配列を含んでいることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のキメラポリペプチド。
【請求項8】
サブユニット(a)は、配列SEQ ID NO:5を含んでいることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のキメラポリペプチド。
【請求項9】
配列はSEQ ID NO:6であることを特徴とする請求項1又は2記載のキメラポリペプチド。
【請求項10】
少なくとも1個の輸送分子でマーキングされ、あるいは共役されていることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載のキメラポリペプチド。
【請求項11】
請求項1から10のいずれかに記載のキメラポリペプチド又はそれらの組み合わせであるキメラポリペプチドを含んでいることを特徴とする組成物。
【請求項12】
ポリペプチドCCP−2をさらに含んでいることを特徴とする請求項11記載の組成物。
【請求項13】
生体サンプル内でリウマチ性関節炎の特定自己抗体を検出する方法であって、
前記生体サンプルを、請求項1から10に記載のキメラポリペプチドの少なくとも1種又は請求項11に記載の抗原性組成物と接触状態に維持するステップと、
前記特定自己抗体と、前記キメラポリペプチド又は前記抗原性組成物との間の反応を検出するステップと、
を含んでいることを特徴とする方法。
【請求項14】
生体サンプルを、請求項1から10に記載のキメラポリペプチドの少なくとも1種又は請求項11に記載の抗原性組成物と接触状態に維持するステップに加えて、ポリペプチドCCP−2又は請求項12に記載の抗原性組成物を使用することを特徴とする請求項13記載の方法。
【請求項15】
生体サンプルは遺伝子型HLADRBを有する患者のものであることを特徴とする請求項13又は14記載の方法。
【請求項16】
リウマチ性関節炎を病気診断又は予後診断のためのキットであって、請求項1から10に記載のキメラポリペプチドの少なくとも1種又は請求項11又は12に記載の抗原性組成物又はそれらの組み合わせと、そのような抗体−抗原複合体を形成させるのに必要な試薬及び/又は緩衝剤とを含んでいることを特徴とするキット。
【請求項17】
キメラポリペプチドCCP−2をさらに含んでいることを特徴とする請求項16記載のキット。
【請求項18】
キメラポリペプチドは配列SEQ ID NO:6であることを特徴とする請求項16又は17記載の予後診断キット。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公表番号】特表2010−526042(P2010−526042A)
【公表日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−504765(P2010−504765)
【出願日】平成20年4月30日(2008.4.30)
【国際出願番号】PCT/ES2008/070087
【国際公開番号】WO2008/132264
【国際公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(508157886)コンセジョ スペリオール デ インベスティガショネス シエンティフィカス (21)
【出願人】(509302283)
【Fターム(参考)】