リガンド探索用細胞、リガンド探索方法、抗肥満薬または抗メタボリックシンドローム薬探索用細胞
【課題】肥満を標的とした新規の予防薬・治療薬の開発に利用できる、肥満の発症や病態に関わる免疫レセプターを含有するリガンド探索用細胞、リガンド探索方法、及び抗肥満薬または抗メタボリックシンドローム薬探索用細胞を提供する。
【解決手段】細胞表面にRP105及びMD-1の一方または両方を発現する細胞であり、かつ脂肪細胞において肥満の発症及び/又は病態に関わるリガンドを探索するために用いるための細胞。この細胞(探索用細胞)を用いて、脂肪細胞において肥満の発症及び/又は病態に関わるリガンドを探索する方法。探索用細胞に被検体を接触させて、前記探索用細胞と結合したリガンドを分離し、同定することを含む。細胞表面にRP105及びMD-1の一方または両方を発現する細胞であり、かつ抗肥満薬または抗メタボリックシンドローム薬を探索するために用いるための細胞。
【解決手段】細胞表面にRP105及びMD-1の一方または両方を発現する細胞であり、かつ脂肪細胞において肥満の発症及び/又は病態に関わるリガンドを探索するために用いるための細胞。この細胞(探索用細胞)を用いて、脂肪細胞において肥満の発症及び/又は病態に関わるリガンドを探索する方法。探索用細胞に被検体を接触させて、前記探索用細胞と結合したリガンドを分離し、同定することを含む。細胞表面にRP105及びMD-1の一方または両方を発現する細胞であり、かつ抗肥満薬または抗メタボリックシンドローム薬を探索するために用いるための細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肥満の発症及び/又は病態に関わるリガンド探索用細胞、この細胞を用いたリガンド探索方法、並びに抗肥満薬または抗メタボリックシンドローム薬探索用細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
肥満は、高血圧、動脈硬化、糖尿病等の生活習慣病や癌などの数多くの疾患の危険因子である。欧米等の先進諸国では病気の主要原因が肥満となっており、社会的にも大きな問題となっている。近年、肥満の本質は、内臓脂肪の炎症と考えられており、脂肪組織に炎症性細胞であるマクロファージやTリンパ球が浸潤し、TNF-αなどの炎症性サイトカインを産生することが分かっている。しかしながら、脂肪組織において炎症が惹起される詳細な機序については不明な点が多く残されている。将来的に免疫系を標的にした治療技術を確立するためには、標的となる分子を見出すことが重要である。
【0003】
Toll-like receptor (TLR)は、病原体の構成成分を特異的に認識するレセプターであり、感染微生物に対して防御反応を誘導する。近年、TLRは感染防御に関わるだけでなく、自己免疫病や炎症性腸疾患、肥満等のメタボリック症候群の発症や病態に関わることも明らかになりつつある。例えばTLR4は生体内の飽和脂肪酸と結合し、脂肪組織の炎症、すなわち肥満を惹起するという報告もある(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Tsukumo et al., Diabetes 2007; 56; 1986-1998
【非特許文献2】Nagai et al., J. Immunology 2005; 174; 7043-7049
【非特許文献3】Ogata et al., J. Exp. Med. 2000; 192; 23-29
【非特許文献4】Nagai et al., Nat. Immunology 2002; 3; 667-672
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、TLR4欠損マウスの解析では、肥満の惹起に関わる程度は弱いと考えられ、さらに有効な標的となる分子の探索が必要である。肥満の発症や病態に関わる免疫レセプターを同定し、その制御機構を明らかにすることができれば、肥満を標的とした新規の予防薬・治療薬の開発に利用できる。
【0006】
本発明の目的は、肥満を標的とした新規の予防薬・治療薬の開発に利用できる、肥満の発症や病態に関わる免疫レセプターを含有するリガンド探索用細胞、リガンド探索方法、及び抗肥満薬または抗メタボリックシンドローム薬探索用細胞を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、自然免疫レセプターであるRP105及びMD-1が肥満の発症や病態に関わることを見出し、この発見に基づいて、肥満の発症や病態に関わる免疫レセプターに関わる本発明を完成させた。
【0008】
TLRファミリー分子であるRP105は、分泌蛋白MD-1と会合し、複合体を形成している。これまでの本発明者らの研究から、RP105及びMD-1がBリンパ球において、グラム陰性菌のLPS(エンドトキシン)に対する応答性に関わることが示されている(非特許文献2、3)。一方、TLR4は、MD-1の類似分子である分泌蛋白MD-2と会合し、複合体を形成しており、本発明者らと他の研究者の研究から、TLR4/MD-2複合体がLPSに対する応答に必須の分子であることが示されている(非特許文献4)。このようにRP105とTLR4は、良く似た構造と機能を有している。
【0009】
本発明者らは、RP105及びMD-1が肥満の発症や病態に関わるかどうか、高脂肪食誘発性の肥満マウス系を用いて検討した。その結果、RP105及びMD-1が、TLR4に比べて肥満の発症や病態により強く関わることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
本発明は以下のとおりである。
[1]
細胞表面にRP105及びMD-1の一方または両方を発現する細胞であり、かつ脂肪細胞において肥満の発症及び/又は病態に関わるリガンドを探索するために用いるための細胞。
[2]
細胞が免疫細胞である[1]に記載の細胞。
[3]
免疫細胞がBリンパ球、マクロファージまたは樹状細胞である[2に記載の細胞。
[4]
RP105は配列表の配列番号1に示されるアミノ酸配列を有する[1]〜[3]のいずれかに記載の細胞。
[5]
MD-1は配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列を有する[1]〜[4]のいずれかに記載の細胞。
[6]
RP105及びMD-1の一方または両方を発現する細胞が、生体から分離した細胞である[1]〜[5]のいずれかに記載の細胞。
[7]
生体から分離した細胞が、高脂肪食を摂餌したヒトを除く哺乳動物から分離した細胞である[6]に記載の細胞。
[8]
RP105及びMD-1の一方または両方を発現する細胞が、RP105及びMD-1の一方または両方を発現しない細胞に、RP105及びMD-1の一方または両方の遺伝子を導入して作製した細胞である[1]〜[5]のいずれかに記載の細胞。
[9]
[1]〜[8]のいずれかに記載の細胞(探索用細胞)を用いて、脂肪細胞において肥満の発症及び/又は病態に関わるリガンドを探索する方法であって、
前記探索用細胞に被検体を接触させて、前記探索用細胞と結合したリガンドを分離し、同定することを含む、リガンド探索方法。
[10]
前記被検体が、脂肪細胞に由来する物質であるか、または高脂肪食を摂餌した哺乳動物若しくは肥満症の哺乳動物から採取した血清である[8]に記載のリガンド探索方法。
[11]
細胞表面にRP105及びMD-1の一方または両方を発現する細胞であり、かつ抗肥満薬または抗メタボリックシンドローム薬を探索するために用いるための細胞。
[12]
抗肥満薬または抗メタボリックシンドローム薬がRP105及び/又はMD-1のリガンドとの結合を阻害する物質である[11]に記載の細胞。
[13]
リガンドが[9]または[10]に記載の方法で探索された物質である[12]に記載の細胞。
【発明の効果】
【0011】
本発明の肥満の発症や病態に関わる免疫レセプターについて、その制御機構を明らかにすることで、肥満を標的とした新規の予防薬・治療薬の開発に利用できる。さらに、RP105及びMD-1とリガンドとの結合を阻害する物質を見出すことができれば、抗肥満薬の開発に繋がることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】野生型マウス、RP105欠損マウス、MD-1欠損マウス、TLR4欠損マウスに3ヶ月間、高脂肪食または4/4コントロール食を摂餌し、体重の変化を観察した結果を示す。
【図2】3ヶ月間の高脂肪食又はコントロール食摂取の野生型マウス及びRP105欠損マウスでの脂肪肝の組織像(上図),肝臓重量の変化、血清トランスアミナーゼ(AST, ALT)の変化を示す。
【図3】3ヶ月間の高脂肪食摂取による、野生型マウス、RP105欠損マウス、及びMD-1欠損マウスの内臓脂肪組織の重量増加を示す。
【図4】3ヶ月間の高脂肪食摂取による野生型マウス、RP105欠損マウス、及びMD-1欠損マウスでの炎症細胞浸潤、脂肪細胞の肥大化の程度を示す。
【図5】3ヶ月間の高脂肪食又はコントロール食摂取による、野生型マウス、RP105欠損マウス、及びMD-1欠損マウスの内臓脂肪での炎症性サイトカイン、ケモカイン(TNF-α, MCP-1, MIP-1α)とIKK-εの発現量の変化を示す。
【図6】3ヶ月間の高脂肪食又はコントロール食摂取による、野生型マウス、RP105欠損マウス、及びMD-1欠損マウスの内臓脂肪でのアディポネクチンの発現量の変化を示す。
【図7】3ヶ月間の高脂肪食又はコントロール食摂取による、野生型マウス、RP105欠損マウス、及びMD-1欠損マウスでの高血糖、インスリン感受性の変化を示す。
【図8】3ヶ月間の高脂肪食又はコントロール食摂取による、野生型マウス、RP105欠損マウス、及びMD-1欠損マウスでの血清総コレステロール値の上昇の変化を示す。
【図9】野生型マウス、RP105欠損マウス、MD-1欠損マウス、及びTLR4欠損マウスの高脂肪食の摂餌量を示す。
【図10】3ヶ月間の高脂肪食を摂取した野生型マウス及びRP105欠損マウスについてのMRIを示す。
【図11】3ヶ月間のコントロール食または高脂肪食を摂取した野生型マウスの内臓脂肪における、RP105の発現量、MD-1の発現量、及びその他のTLR関連遺伝子(TLR1, TLR7, TLR8, TLR9、TLR5, TLR6, TRIF)の発現量を示す。
【図12】野生型マウスの内臓脂肪におけるCD45陽性の血球系細胞及びCD45陰性の非血球系細胞でのRP105, MD-1, TLR2の発現量を示す。
【図13】3ヶ月間のコントロール食または高脂肪食を摂取した野生型マウスの内臓脂肪から血球系細胞を分離し、RP105, MD-1, TLR2の発現量をフローサイトメトリー法で検査した。
【発明を実施するための形態】
【0013】
野生型マウス、RP105 欠損マウス、MD-1欠損マウス、TLR4欠損マウスに3ヶ月間、高脂肪食または4/4コントロール食を摂餌し、体重の変化を観察した(図1)。野生型マウスでは、3ヶ月後には摂餌前と比較して体重が約20g増加した。一方、RP105またはMD-1欠損マウスでは、野生型マウスに比較して体重の増加が悪く、3ヶ月後には約10gしか体重が増えなかった。TLR4欠損マウスでも、体重の増加は悪かったが、その程度はRP105欠損マウス、MD-1欠損マウスと比べて軽度であった。また、コントロール食を摂餌させた4系統のマウス間では、体重増加に差は認めなかった。
【0014】
このように、図1に示す、野生型マウス、RP105欠損マウス、MD-1欠損マウス、TLR4欠損マウスに高脂肪食を摂餌した結果では、野生型マウスに比較してRP105 欠損マウス、MD-1欠損マウスでは体重の増加が著明に抑制されていた。一方、TLR4欠損マウスでは、野生型マウスの体重より若干軽い程度であった。すなわち、これまで肥満の発症や病態に関わることが報告されていたTLR4よりもRP105及びMD-1の方が肥満の発症や病態により重要であり、RP105及びMD-1が、より有効な肥満制御の標的となりうることが示された。
【0015】
上記知見に基づいて完成された本発明は、(1)RP105及びMD-1の一方または両方を含有し、かつ脂肪細胞において肥満の発症及び/又は病態に関わるリガンドを探索するために用いるための細胞、並びに(2)RP105及びMD-1の一方または両方を含有し、かつ抗肥満薬または抗メタボリックシンドローム薬を探索するために用いるための細胞である。
【0016】
(1)リガンド探索用細胞
本発明のリガンド探索用細胞は、RP105及びMD-1の一方または両方が細胞表面に発現した細胞である。RP105は、TLRファミリー分子であって、生体内では細胞外部分で分泌蛋白MD-1と会合し、複合体を形成している。RP105は、具体的には、I型の膜貫通型タンパクで、成熟タンパクは641個のアミノ酸からなる。分子量は105kDで、細胞外部分にロイシンの繰り返し配列であるロイシンリッチモチーフ(LRM)を持ち、LRMが22回繰り返した構造を持つ。例えば、マウスのRP105のアミノ酸配列(NP_032559)は配列表の配列番号1に示し、ヒトのRP105のアミノ酸配列(NP_005573)は配列表の配列番号2に示す。尚、括弧内のIDは、NCBI (National Center for Biotechnology Information)のデータベースのAccession No.である。RP105は主に脾臓に強く発現し、脾臓のBリンパ球やマクロファージ、樹状細胞等の免疫細胞の細胞表面に発現している。そこで、RP105を発現する細胞は、生体から分離した細胞であることができ、生体から分離した細胞は、例えば、高脂肪食を摂餌したヒトを除く哺乳動物から分離した細胞であることができる。ヒトを除く哺乳動物には特に制限ないが、例えば、マウス、ラット等であることができる。RP105が細胞表面に発現した細胞は、抗RP105抗体を用いてフローサイトメトリーで検出することができる。従って、抗RP105抗体を用いて、RP105を発現するBリンパ球やマクロファージ、樹状細胞を単離することで、RP105を細胞表面に発現する細胞を調製できる。
【0017】
RP105を発現する細胞は、RP105を発現しない細胞に、RP105の遺伝子を導入して作製した細胞であることもできる。RP105を発現しない細胞はヒトを除く哺乳動物から分離した細胞であることができる。遺伝子を導入は、具体的には、RP105のcDNAを組み込んだ発現ベクターを細胞株に導入することによって行い、細胞内にRP105を過剰に発現させることができる。例えば、マウスのRP105の塩基配列(NM_008533)は配列表の配列番号3に示し、ヒトのRP105の塩基配列(NM_005582)は配列表の配列番号4に示す。尚、括弧内のIDは、NCBI (National Center for Biotechnology Information)のデータベースのAccession No.である。尚、MD-1欠損Bリンパ球表面でRP105の発現が認められないことから、RP105の細胞表面への発現にMD-1が必須であると考えられ、細胞内にRP105を発現させる際には、MD-1も発現させることが適当である。
【0018】
一方、MD-1は、具体的には、分子量22/25kDのRP105と会合する分子としてクローニングされた。成熟タンパクは143個のアミノ酸からなり、シグナルシークエンスを持つことから、分泌蛋白であることが予想された。またMD-1はRP105の細胞表面での発現を増強することも知られている。例えば、マウスのMD-1のアミノ酸配列(NP_034875)は配列表の配列番号5に示し、ヒトのMD-1のアミノ酸配列(NP_004262)は配列表の配列番号6に示す。尚、括弧内のIDは、NCBI (National Center for Biotechnology Information)のデータベースのAccession No.である。さらに、MD-1は以下の方法で調製できる。MD-1は脾臓に強く発現しているが、肝臓や脳、胸腺、腎臓にも発現している。脾臓のBリンパ球やマクロファージ、樹状細胞等の免疫細胞の細胞表面に発現している。そこで、MD-1を発現する細胞は、生体から分離した細胞であることができ、生体から分離した細胞は、例えば、高脂肪食を摂餌したヒトを除く哺乳動物から分離した細胞であることができる。ヒトを除く哺乳動物の例は前述のとおりである。MD-1が細胞表面に発現した細胞は、抗MD-1抗体を用いてフローサイトメトリーで検出することができる。従って、抗MD-1抗体を用いて、MD-1を発現するBリンパ球やマクロファージ、樹状細胞を単離することで、MD-1を細胞表面に発現する細胞を調製できる。
【0019】
MD-1を発現する細胞は、MD-1を発現しない細胞に、MD-1の遺伝子を導入して作製した細胞であることもできる。MD-1を発現しない細胞はヒトを除く哺乳動物から分離した細胞であることができる。遺伝子を導入は、具体的には、MD-1のcDNAを組み込んだ発現ベクターを細胞株に導入することによって行うことができ、細胞内にMD-1を過剰に発現させることができる。例えば、マウスのMD-1の塩基配列(NM_010745)は配列表の配列番号7に示し、ヒトのMD-1の塩基配列(NM_004271)は配列表の配列番号8に示す。尚、括弧内のIDは、NCBI (National Center for Biotechnology Information)のデータベースのAccession No.である。
【0020】
上記のように、RP105は一般には生体内では分泌蛋白MD-1と会合し、複合体を形成していることから、本発明では、RP105とMD-1とは、両者の複合体として用いることもできる。RP105とMD-1は、Bリンパ球やマクロファージ、樹状細胞等の免疫細胞の表面において複合体を形成している。RP105の細胞外部分のLRMにMD-1が結合していると予想される。MD-1欠損Bリンパ球表面では、RP105の発現が認められないことから、MD-1はRP105の細胞表面への発現に必須である。さらにRP105欠損Bリンパ球表面では、MD-1の発現が認められないことから、MD-1は細胞表面でRP105のみと結合していると考えられる。RP105とMD-1の複合体は、Bリンパ球やマクロファージ、樹状細胞の表面において発現する。そこで、RP105及びMD-1を発現する細胞は、生体から分離した細胞であることができ、生体から分離した細胞は、例えば、高脂肪食を摂餌したヒトを除く哺乳動物から分離した細胞であることができる。ヒトを除く哺乳動物の例は前述のとおりである。RP105及びMD-1が細胞表面に発現した細胞は、例えば、抗RP105抗体または抗MD-1抗体を用いたフローサイトメトリー法によって検出することができる。従って、抗RP105抗体及び抗MD-1抗体を用いて、RP105とMD-1を発現するBリンパ球やマクロファージ、樹状細胞を単離することで、RP105とMD-1を細胞表面に発現する細胞を調製できる。
【0021】
また、RP105及びMD-1を発現する細胞は、RP105及びMD-1を発現しない細胞に、RP105及びMD-1の遺伝子を導入して作製した細胞であることもできる。RP105及びMD-1を発現しない細胞はヒトを除く哺乳動物から分離した細胞であることができる。遺伝子を導入は、具体的には、RP105またはMD-1のcDNAを組み込んだ発現ベクターを同時に細胞株に遺伝子導入することによってRP105及びMD-1の複合体を細胞表面に発現させることができる。
【0022】
本発明のリガンド探索用細胞は、脂肪細胞において肥満の発症及び/又は病態に関わるリガンドを探索するために用いられる。脂肪細胞とは、脂肪組織を構成する細胞の1種であり、肥満の発症及び/又は病態に関わるリガンドの探索は、例えば、メタボローム解析により行うことができる。
【0023】
[リガンド探索方法]
本発明は、リガンド探索方法を包含し、本発明のリガンド探索方法は、上記本発明の細胞(探索用細胞)を用いて、脂肪細胞において肥満の発症及び/又は病態に関わるリガンドを探索する方法である。具体的には、前記探索用細胞に被検体を接触させて、前記探索用細胞と結合したリガンドを分離し、同定することを含む。前記被検体は、脂肪細胞に由来する物質であるか、または高脂肪食を摂餌した哺乳動物若しくは肥満症の哺乳動物から採取した血清であることができる。
【0024】
本発明のリガンド探索方法は、より具体的には、以下のとおり実施できる。RP105及び/又はMD-1に結合するリガンドは、脂肪細胞由来または高脂肪食を摂餌したマウス血清に含まれる脂質やその代謝産物であることが予測される。RP105及び/又はMD-1を発現した細胞株またはマクロファージ等の探索用細胞に、脂肪細胞または上記血清等の被検体を添加し、被検体中に含まれるリガンドを細胞株のRP105及び/又はMD-1に結合させる。リガンドと結合したRP105及び/又はMD-1は、例えば、抗RP105抗体または抗MD-1抗体などを用いて免疫沈降を行い、分離することができる。分離されたRP105及び/又はMD-1に結合する候補物質は、常法により精製した後に、例えば、質量分析機等を用いて解析、同定することができる。
【0025】
または高脂肪食を摂餌したマウス内臓脂肪のマクロファージにおいてRP105とMD-1の発現が上昇することから、内臓脂肪マクロファージのRP105及び/又はMD-1にリガンドが作用している可能性がある。そこで、高脂肪食を摂餌したマウスの内臓脂肪よりマクロファージを分離し、例えば、抗RP105抗体または抗MD-1抗体で免疫沈降を行うことでRP105及び/又はMD-1に結合した候補物質を分離することができる。前記マウスの内臓脂肪より分離されたマクロファージは、RP105及び/又はMD-1を発現したマクロファージであると考えられる。分離した候補物質は、常法により精製した後に、例えば、質量分析機を用いて解析、同定することができる。
【0026】
(2)抗肥満薬または抗メタボリックシンドローム薬探索用細胞
本発明の抗肥満薬または抗メタボリックシンドローム薬探索用細胞が表面に発現するRP105及びMD-1は、本発明のリガンド探索用細胞におけるものと同様である。
【0027】
RP105及びMD-1の一方または両方を用いる、抗肥満薬または抗メタボリックシンドローム薬の探索は、例えば、上記本発明のリガンド探索用細胞を用いて探索したリガンドとRP105及びMD-1の一方または両方との結合または相互作用に対して影響を与える物質を探索することで、実施できる。リガンドとRP105及びMD-1の一方または両方との結合または相互作用に対する影響とは、具体的には前記結合または相互作用に対する阻害または促進である。前記結合または相互作用に対する阻害または促進は、例えば、以下の方法で測定することができる。RP105及びMD-1を発現するマクロファージにリガンドを添加することで、炎症性サイトカイン産生等の炎症反応が惹起されることが予想される。この実験系に候補物質を添加し、炎症反応が阻害または促進されるかどうかを検討することで、リガンドの結合または相互作用に対して影響を与える物質を測定することができる。
【0028】
上記探索において見出される抗肥満薬または抗メタボリックシンドローム薬は、例えば、RP105及び/若しくはMD-1の活性化を阻害する物質、又はRP105及び/若しくはMD-1のリガンドとの結合を阻害する物質であることができる。
【実施例】
【0029】
以下本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【0030】
以下に示す実験方法に従って、野生型マウス、RP105 欠損マウス、MD-1欠損マウス、TLR4欠損マウスに3ヶ月間、高脂肪食または4/4コントロール食を摂餌し、体重の変化等を観察した。体重の変化については図1に示す。
【0031】
実験方法
1.マウスについて
10週令の雄の野生型マウス(C57BL/6マウス)とC57BL/6系統RP105欠損、MD-1欠損、TLR4欠損マウスに高脂肪食または普通食を与え、1ヶ月に一度体重を測定する。さらに一週間に2回餌の摂餌量を測定する。餌を与えて3ヶ月後にマウスを安楽死させ、内臓脂肪(両側の精巣上体周囲の脂肪組織)と肝臓を採取し、重量を測定する。さらに腹部大静脈から採血し、血清を採取する。
【0032】
2.内臓脂肪からの細胞成分の単離について
採取した内臓脂肪をコラゲナーゼ処理し、遠心分離することによって脂肪細胞分画とマクロファージなどの血球系細胞を含む細胞分画とに分ける。細胞成分分画の細胞数をカウントし、1 x 105個を抗F4/80抗体で染色し、フローサイトメーター(FACSCanto, Becton Dickinson社)でマクロファージの割合、細胞数をカウントする。
【0033】
3.フローサイトメトリーについて
内臓脂肪細胞成分分画1 x 105個を抗CD45抗体、抗RP105抗体、抗MD-1抗体、抗TLR2抗体で染色し、CD45陽性または陰性細胞におけるRP105, MD-1, TLR2の発現をFACSCantoで検討する。また、抗F4/80抗体、抗CD11c抗体、抗CD206抗体、抗RP105抗体、抗MD-1抗体、抗TLR2抗体で染色し、M1またはM2マクロファージにおけるRP105, MD-1, TLR2の発現をFACSCantoで検討する。
【0034】
4.RNA精製、一本鎖cDNA合成について
QIAGEN社のRNAeasyのプロトコールにしたがって、採取した内臓脂肪から総RNAを精製する。RNA濃度と純度を確認し、一部をApplied Biosystems社のTaqMan Reverse Transcription Reagentsを用いて、プロトコールにしたがって逆転写反応し、一本鎖cDNAを合成する。
【0035】
5.リアルタイムPCRについて
合成した一本鎖cDNAを鋳型として、Applied Biosystems社のTaqMan Universal PCR Master Mixと各遺伝子に対するプライマーを用いて、定量的PCR反応を行う。PCR機器は、STRATAGENE社のMx3000Pを用い、プロトコールにしたがってPCR反応を行う。
【0036】
6.血清中の糖、総コレステロール、トランスアミナーゼの測定について
各マウスを12時間絶食し、血糖値をニプロフリースタイルセンサー、ニプロフリースタイルメーターを用いて測定する。ロシュ・ダイアグノスティク社のレフロトロンシステムを用いて血清総コレステロール値、AST/ALT値を測定する。
【0037】
7.インスリン負荷試験について
各マウスを2時間絶食し、体重(g)あたり1.25 mUの速効性ヒト型インスリンを腹腔投与し、30, 60, 90, 120分後の血糖値をニプロフリースタイルセンサー、ニプロフリースタイルメーターを用いて測定する。
【0038】
8.MRIについて
中動物用MRIを用いて、各マウスの内臓脂肪、皮下脂肪の蓄積をT1協調画像で検討する。
9.マクロファージの単離について
実験方法2によって分離した血球成分を抗F4/80抗体で染色し、F4/80陽性のマクロファージをセルソーター(FACSAria, Becton Dickinson社)を用いて単離する。または野生型マウスの大腿骨、頸骨より骨髄を採取し、リコンビナントマウスM-CSFの存在下で7日間培養し、骨髄誘導性マクロファージを単離する。
【0039】
実験結果
1. 3ヶ月間の高脂肪食摂取により野生型マウスで認められる肝臓重量の増加、脂肪肝の組織像、血清トランスアミナーゼ(AST, ALT)の上昇がRP105欠損マウスでは顕著に抑制されていた(図2)。
【0040】
2. 3ヶ月間の高脂肪食摂取により野生型マウスで認められる内臓脂肪(精巣上体周囲脂肪)重量の増加がRP105欠損マウス、MD-1欠損マウスでは軽度であった(図3)。
【0041】
3. 3ヶ月間の高脂肪食摂取により野生型マウスで認められる内臓脂肪へのマクロファージなどの炎症細胞浸潤、脂肪細胞の肥大化がRP105欠損マウス、MD-1欠損マウスでは顕著に抑制されていた(図4)。
【0042】
4. 3ヶ月間の高脂肪食摂取により野生型マウスで認められる内臓脂肪での炎症性サイトカイン、ケモカイン(TNF-α, MCP-1, MIP-1α)の発現上昇とIKK-εの発現上昇がRP105欠損マウス、MD-1欠損マウスでは顕著に抑制されていた(図5)。
【0043】
5. 3ヶ月間の高脂肪食摂取により野生型マウスで認められる内臓脂肪でのアディポネクチンの発現減少がRP105欠損マウス、MD-1欠損マウスでは認められなかった(図6)。
【0044】
6. 3ヶ月間の高脂肪食摂取により野生型マウスで認められる高血糖、インスリン感受性の低下がRP105欠損マウスでは顕著に改善していた(図7)。
【0045】
7. 3ヶ月間の高脂肪食摂取により野生型マウスで認められる血清総コレステロール値の上昇がRP105欠損マウスでは顕著に抑制されていた(図8)。
【0046】
8. 野生型マウス、RP105欠損マウス、MD-1欠損マウス、TLR4欠損マウスの4系統のマウス間で、高脂肪食の摂餌量に差は認められなかった(図9)。
【0047】
9. MRIを用いた検討により、3ヶ月間の高脂肪食を摂取した野生型マウスで認められる内臓脂肪の蓄積、皮下脂肪の蓄積がRP105欠損マウスで顕著に抑制されていた(図10)。
【0048】
10. 3ヶ月間の普通食または高脂肪食を摂取した野生型マウスの内臓脂肪を検査した結果、高脂肪食群においてRP105の発現が約13倍、MD-1の発現が約2倍に上昇していた。他のTLR関連遺伝子については、高脂肪食群においてTLR1, TLR7, TLR8, TLR9の発現が2-3倍上昇し、TLR5, TLR6, TRIFの発現が約1/2に減少していた(図11)。
【0049】
11. 野生型マウスの内臓脂肪において、CD45陽性の血球系細胞にRP105, MD-1, TLR2の発現が認められた。一方、CD45陰性の非血球系細胞にはRP105, MD-1, TLR2の発現は認められなかった(図12)。
【0050】
12. 3ヶ月間の普通食または高脂肪食を摂取した野生型マウスの内臓脂肪から血球系細胞を分離し、フローサイトメトリー法で検査した結果、高脂肪食群のM1マクロファージにおいてRP105, MD-1, TLR2の発現上昇が認められた。普通食群のM1マクロファージでは、このような発現の変化は認められなかった(図13)。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、抗肥満薬または抗メタボリックシンドローム薬等に関する分野に有用である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、肥満の発症及び/又は病態に関わるリガンド探索用細胞、この細胞を用いたリガンド探索方法、並びに抗肥満薬または抗メタボリックシンドローム薬探索用細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
肥満は、高血圧、動脈硬化、糖尿病等の生活習慣病や癌などの数多くの疾患の危険因子である。欧米等の先進諸国では病気の主要原因が肥満となっており、社会的にも大きな問題となっている。近年、肥満の本質は、内臓脂肪の炎症と考えられており、脂肪組織に炎症性細胞であるマクロファージやTリンパ球が浸潤し、TNF-αなどの炎症性サイトカインを産生することが分かっている。しかしながら、脂肪組織において炎症が惹起される詳細な機序については不明な点が多く残されている。将来的に免疫系を標的にした治療技術を確立するためには、標的となる分子を見出すことが重要である。
【0003】
Toll-like receptor (TLR)は、病原体の構成成分を特異的に認識するレセプターであり、感染微生物に対して防御反応を誘導する。近年、TLRは感染防御に関わるだけでなく、自己免疫病や炎症性腸疾患、肥満等のメタボリック症候群の発症や病態に関わることも明らかになりつつある。例えばTLR4は生体内の飽和脂肪酸と結合し、脂肪組織の炎症、すなわち肥満を惹起するという報告もある(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Tsukumo et al., Diabetes 2007; 56; 1986-1998
【非特許文献2】Nagai et al., J. Immunology 2005; 174; 7043-7049
【非特許文献3】Ogata et al., J. Exp. Med. 2000; 192; 23-29
【非特許文献4】Nagai et al., Nat. Immunology 2002; 3; 667-672
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、TLR4欠損マウスの解析では、肥満の惹起に関わる程度は弱いと考えられ、さらに有効な標的となる分子の探索が必要である。肥満の発症や病態に関わる免疫レセプターを同定し、その制御機構を明らかにすることができれば、肥満を標的とした新規の予防薬・治療薬の開発に利用できる。
【0006】
本発明の目的は、肥満を標的とした新規の予防薬・治療薬の開発に利用できる、肥満の発症や病態に関わる免疫レセプターを含有するリガンド探索用細胞、リガンド探索方法、及び抗肥満薬または抗メタボリックシンドローム薬探索用細胞を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、自然免疫レセプターであるRP105及びMD-1が肥満の発症や病態に関わることを見出し、この発見に基づいて、肥満の発症や病態に関わる免疫レセプターに関わる本発明を完成させた。
【0008】
TLRファミリー分子であるRP105は、分泌蛋白MD-1と会合し、複合体を形成している。これまでの本発明者らの研究から、RP105及びMD-1がBリンパ球において、グラム陰性菌のLPS(エンドトキシン)に対する応答性に関わることが示されている(非特許文献2、3)。一方、TLR4は、MD-1の類似分子である分泌蛋白MD-2と会合し、複合体を形成しており、本発明者らと他の研究者の研究から、TLR4/MD-2複合体がLPSに対する応答に必須の分子であることが示されている(非特許文献4)。このようにRP105とTLR4は、良く似た構造と機能を有している。
【0009】
本発明者らは、RP105及びMD-1が肥満の発症や病態に関わるかどうか、高脂肪食誘発性の肥満マウス系を用いて検討した。その結果、RP105及びMD-1が、TLR4に比べて肥満の発症や病態により強く関わることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
本発明は以下のとおりである。
[1]
細胞表面にRP105及びMD-1の一方または両方を発現する細胞であり、かつ脂肪細胞において肥満の発症及び/又は病態に関わるリガンドを探索するために用いるための細胞。
[2]
細胞が免疫細胞である[1]に記載の細胞。
[3]
免疫細胞がBリンパ球、マクロファージまたは樹状細胞である[2に記載の細胞。
[4]
RP105は配列表の配列番号1に示されるアミノ酸配列を有する[1]〜[3]のいずれかに記載の細胞。
[5]
MD-1は配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列を有する[1]〜[4]のいずれかに記載の細胞。
[6]
RP105及びMD-1の一方または両方を発現する細胞が、生体から分離した細胞である[1]〜[5]のいずれかに記載の細胞。
[7]
生体から分離した細胞が、高脂肪食を摂餌したヒトを除く哺乳動物から分離した細胞である[6]に記載の細胞。
[8]
RP105及びMD-1の一方または両方を発現する細胞が、RP105及びMD-1の一方または両方を発現しない細胞に、RP105及びMD-1の一方または両方の遺伝子を導入して作製した細胞である[1]〜[5]のいずれかに記載の細胞。
[9]
[1]〜[8]のいずれかに記載の細胞(探索用細胞)を用いて、脂肪細胞において肥満の発症及び/又は病態に関わるリガンドを探索する方法であって、
前記探索用細胞に被検体を接触させて、前記探索用細胞と結合したリガンドを分離し、同定することを含む、リガンド探索方法。
[10]
前記被検体が、脂肪細胞に由来する物質であるか、または高脂肪食を摂餌した哺乳動物若しくは肥満症の哺乳動物から採取した血清である[8]に記載のリガンド探索方法。
[11]
細胞表面にRP105及びMD-1の一方または両方を発現する細胞であり、かつ抗肥満薬または抗メタボリックシンドローム薬を探索するために用いるための細胞。
[12]
抗肥満薬または抗メタボリックシンドローム薬がRP105及び/又はMD-1のリガンドとの結合を阻害する物質である[11]に記載の細胞。
[13]
リガンドが[9]または[10]に記載の方法で探索された物質である[12]に記載の細胞。
【発明の効果】
【0011】
本発明の肥満の発症や病態に関わる免疫レセプターについて、その制御機構を明らかにすることで、肥満を標的とした新規の予防薬・治療薬の開発に利用できる。さらに、RP105及びMD-1とリガンドとの結合を阻害する物質を見出すことができれば、抗肥満薬の開発に繋がることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】野生型マウス、RP105欠損マウス、MD-1欠損マウス、TLR4欠損マウスに3ヶ月間、高脂肪食または4/4コントロール食を摂餌し、体重の変化を観察した結果を示す。
【図2】3ヶ月間の高脂肪食又はコントロール食摂取の野生型マウス及びRP105欠損マウスでの脂肪肝の組織像(上図),肝臓重量の変化、血清トランスアミナーゼ(AST, ALT)の変化を示す。
【図3】3ヶ月間の高脂肪食摂取による、野生型マウス、RP105欠損マウス、及びMD-1欠損マウスの内臓脂肪組織の重量増加を示す。
【図4】3ヶ月間の高脂肪食摂取による野生型マウス、RP105欠損マウス、及びMD-1欠損マウスでの炎症細胞浸潤、脂肪細胞の肥大化の程度を示す。
【図5】3ヶ月間の高脂肪食又はコントロール食摂取による、野生型マウス、RP105欠損マウス、及びMD-1欠損マウスの内臓脂肪での炎症性サイトカイン、ケモカイン(TNF-α, MCP-1, MIP-1α)とIKK-εの発現量の変化を示す。
【図6】3ヶ月間の高脂肪食又はコントロール食摂取による、野生型マウス、RP105欠損マウス、及びMD-1欠損マウスの内臓脂肪でのアディポネクチンの発現量の変化を示す。
【図7】3ヶ月間の高脂肪食又はコントロール食摂取による、野生型マウス、RP105欠損マウス、及びMD-1欠損マウスでの高血糖、インスリン感受性の変化を示す。
【図8】3ヶ月間の高脂肪食又はコントロール食摂取による、野生型マウス、RP105欠損マウス、及びMD-1欠損マウスでの血清総コレステロール値の上昇の変化を示す。
【図9】野生型マウス、RP105欠損マウス、MD-1欠損マウス、及びTLR4欠損マウスの高脂肪食の摂餌量を示す。
【図10】3ヶ月間の高脂肪食を摂取した野生型マウス及びRP105欠損マウスについてのMRIを示す。
【図11】3ヶ月間のコントロール食または高脂肪食を摂取した野生型マウスの内臓脂肪における、RP105の発現量、MD-1の発現量、及びその他のTLR関連遺伝子(TLR1, TLR7, TLR8, TLR9、TLR5, TLR6, TRIF)の発現量を示す。
【図12】野生型マウスの内臓脂肪におけるCD45陽性の血球系細胞及びCD45陰性の非血球系細胞でのRP105, MD-1, TLR2の発現量を示す。
【図13】3ヶ月間のコントロール食または高脂肪食を摂取した野生型マウスの内臓脂肪から血球系細胞を分離し、RP105, MD-1, TLR2の発現量をフローサイトメトリー法で検査した。
【発明を実施するための形態】
【0013】
野生型マウス、RP105 欠損マウス、MD-1欠損マウス、TLR4欠損マウスに3ヶ月間、高脂肪食または4/4コントロール食を摂餌し、体重の変化を観察した(図1)。野生型マウスでは、3ヶ月後には摂餌前と比較して体重が約20g増加した。一方、RP105またはMD-1欠損マウスでは、野生型マウスに比較して体重の増加が悪く、3ヶ月後には約10gしか体重が増えなかった。TLR4欠損マウスでも、体重の増加は悪かったが、その程度はRP105欠損マウス、MD-1欠損マウスと比べて軽度であった。また、コントロール食を摂餌させた4系統のマウス間では、体重増加に差は認めなかった。
【0014】
このように、図1に示す、野生型マウス、RP105欠損マウス、MD-1欠損マウス、TLR4欠損マウスに高脂肪食を摂餌した結果では、野生型マウスに比較してRP105 欠損マウス、MD-1欠損マウスでは体重の増加が著明に抑制されていた。一方、TLR4欠損マウスでは、野生型マウスの体重より若干軽い程度であった。すなわち、これまで肥満の発症や病態に関わることが報告されていたTLR4よりもRP105及びMD-1の方が肥満の発症や病態により重要であり、RP105及びMD-1が、より有効な肥満制御の標的となりうることが示された。
【0015】
上記知見に基づいて完成された本発明は、(1)RP105及びMD-1の一方または両方を含有し、かつ脂肪細胞において肥満の発症及び/又は病態に関わるリガンドを探索するために用いるための細胞、並びに(2)RP105及びMD-1の一方または両方を含有し、かつ抗肥満薬または抗メタボリックシンドローム薬を探索するために用いるための細胞である。
【0016】
(1)リガンド探索用細胞
本発明のリガンド探索用細胞は、RP105及びMD-1の一方または両方が細胞表面に発現した細胞である。RP105は、TLRファミリー分子であって、生体内では細胞外部分で分泌蛋白MD-1と会合し、複合体を形成している。RP105は、具体的には、I型の膜貫通型タンパクで、成熟タンパクは641個のアミノ酸からなる。分子量は105kDで、細胞外部分にロイシンの繰り返し配列であるロイシンリッチモチーフ(LRM)を持ち、LRMが22回繰り返した構造を持つ。例えば、マウスのRP105のアミノ酸配列(NP_032559)は配列表の配列番号1に示し、ヒトのRP105のアミノ酸配列(NP_005573)は配列表の配列番号2に示す。尚、括弧内のIDは、NCBI (National Center for Biotechnology Information)のデータベースのAccession No.である。RP105は主に脾臓に強く発現し、脾臓のBリンパ球やマクロファージ、樹状細胞等の免疫細胞の細胞表面に発現している。そこで、RP105を発現する細胞は、生体から分離した細胞であることができ、生体から分離した細胞は、例えば、高脂肪食を摂餌したヒトを除く哺乳動物から分離した細胞であることができる。ヒトを除く哺乳動物には特に制限ないが、例えば、マウス、ラット等であることができる。RP105が細胞表面に発現した細胞は、抗RP105抗体を用いてフローサイトメトリーで検出することができる。従って、抗RP105抗体を用いて、RP105を発現するBリンパ球やマクロファージ、樹状細胞を単離することで、RP105を細胞表面に発現する細胞を調製できる。
【0017】
RP105を発現する細胞は、RP105を発現しない細胞に、RP105の遺伝子を導入して作製した細胞であることもできる。RP105を発現しない細胞はヒトを除く哺乳動物から分離した細胞であることができる。遺伝子を導入は、具体的には、RP105のcDNAを組み込んだ発現ベクターを細胞株に導入することによって行い、細胞内にRP105を過剰に発現させることができる。例えば、マウスのRP105の塩基配列(NM_008533)は配列表の配列番号3に示し、ヒトのRP105の塩基配列(NM_005582)は配列表の配列番号4に示す。尚、括弧内のIDは、NCBI (National Center for Biotechnology Information)のデータベースのAccession No.である。尚、MD-1欠損Bリンパ球表面でRP105の発現が認められないことから、RP105の細胞表面への発現にMD-1が必須であると考えられ、細胞内にRP105を発現させる際には、MD-1も発現させることが適当である。
【0018】
一方、MD-1は、具体的には、分子量22/25kDのRP105と会合する分子としてクローニングされた。成熟タンパクは143個のアミノ酸からなり、シグナルシークエンスを持つことから、分泌蛋白であることが予想された。またMD-1はRP105の細胞表面での発現を増強することも知られている。例えば、マウスのMD-1のアミノ酸配列(NP_034875)は配列表の配列番号5に示し、ヒトのMD-1のアミノ酸配列(NP_004262)は配列表の配列番号6に示す。尚、括弧内のIDは、NCBI (National Center for Biotechnology Information)のデータベースのAccession No.である。さらに、MD-1は以下の方法で調製できる。MD-1は脾臓に強く発現しているが、肝臓や脳、胸腺、腎臓にも発現している。脾臓のBリンパ球やマクロファージ、樹状細胞等の免疫細胞の細胞表面に発現している。そこで、MD-1を発現する細胞は、生体から分離した細胞であることができ、生体から分離した細胞は、例えば、高脂肪食を摂餌したヒトを除く哺乳動物から分離した細胞であることができる。ヒトを除く哺乳動物の例は前述のとおりである。MD-1が細胞表面に発現した細胞は、抗MD-1抗体を用いてフローサイトメトリーで検出することができる。従って、抗MD-1抗体を用いて、MD-1を発現するBリンパ球やマクロファージ、樹状細胞を単離することで、MD-1を細胞表面に発現する細胞を調製できる。
【0019】
MD-1を発現する細胞は、MD-1を発現しない細胞に、MD-1の遺伝子を導入して作製した細胞であることもできる。MD-1を発現しない細胞はヒトを除く哺乳動物から分離した細胞であることができる。遺伝子を導入は、具体的には、MD-1のcDNAを組み込んだ発現ベクターを細胞株に導入することによって行うことができ、細胞内にMD-1を過剰に発現させることができる。例えば、マウスのMD-1の塩基配列(NM_010745)は配列表の配列番号7に示し、ヒトのMD-1の塩基配列(NM_004271)は配列表の配列番号8に示す。尚、括弧内のIDは、NCBI (National Center for Biotechnology Information)のデータベースのAccession No.である。
【0020】
上記のように、RP105は一般には生体内では分泌蛋白MD-1と会合し、複合体を形成していることから、本発明では、RP105とMD-1とは、両者の複合体として用いることもできる。RP105とMD-1は、Bリンパ球やマクロファージ、樹状細胞等の免疫細胞の表面において複合体を形成している。RP105の細胞外部分のLRMにMD-1が結合していると予想される。MD-1欠損Bリンパ球表面では、RP105の発現が認められないことから、MD-1はRP105の細胞表面への発現に必須である。さらにRP105欠損Bリンパ球表面では、MD-1の発現が認められないことから、MD-1は細胞表面でRP105のみと結合していると考えられる。RP105とMD-1の複合体は、Bリンパ球やマクロファージ、樹状細胞の表面において発現する。そこで、RP105及びMD-1を発現する細胞は、生体から分離した細胞であることができ、生体から分離した細胞は、例えば、高脂肪食を摂餌したヒトを除く哺乳動物から分離した細胞であることができる。ヒトを除く哺乳動物の例は前述のとおりである。RP105及びMD-1が細胞表面に発現した細胞は、例えば、抗RP105抗体または抗MD-1抗体を用いたフローサイトメトリー法によって検出することができる。従って、抗RP105抗体及び抗MD-1抗体を用いて、RP105とMD-1を発現するBリンパ球やマクロファージ、樹状細胞を単離することで、RP105とMD-1を細胞表面に発現する細胞を調製できる。
【0021】
また、RP105及びMD-1を発現する細胞は、RP105及びMD-1を発現しない細胞に、RP105及びMD-1の遺伝子を導入して作製した細胞であることもできる。RP105及びMD-1を発現しない細胞はヒトを除く哺乳動物から分離した細胞であることができる。遺伝子を導入は、具体的には、RP105またはMD-1のcDNAを組み込んだ発現ベクターを同時に細胞株に遺伝子導入することによってRP105及びMD-1の複合体を細胞表面に発現させることができる。
【0022】
本発明のリガンド探索用細胞は、脂肪細胞において肥満の発症及び/又は病態に関わるリガンドを探索するために用いられる。脂肪細胞とは、脂肪組織を構成する細胞の1種であり、肥満の発症及び/又は病態に関わるリガンドの探索は、例えば、メタボローム解析により行うことができる。
【0023】
[リガンド探索方法]
本発明は、リガンド探索方法を包含し、本発明のリガンド探索方法は、上記本発明の細胞(探索用細胞)を用いて、脂肪細胞において肥満の発症及び/又は病態に関わるリガンドを探索する方法である。具体的には、前記探索用細胞に被検体を接触させて、前記探索用細胞と結合したリガンドを分離し、同定することを含む。前記被検体は、脂肪細胞に由来する物質であるか、または高脂肪食を摂餌した哺乳動物若しくは肥満症の哺乳動物から採取した血清であることができる。
【0024】
本発明のリガンド探索方法は、より具体的には、以下のとおり実施できる。RP105及び/又はMD-1に結合するリガンドは、脂肪細胞由来または高脂肪食を摂餌したマウス血清に含まれる脂質やその代謝産物であることが予測される。RP105及び/又はMD-1を発現した細胞株またはマクロファージ等の探索用細胞に、脂肪細胞または上記血清等の被検体を添加し、被検体中に含まれるリガンドを細胞株のRP105及び/又はMD-1に結合させる。リガンドと結合したRP105及び/又はMD-1は、例えば、抗RP105抗体または抗MD-1抗体などを用いて免疫沈降を行い、分離することができる。分離されたRP105及び/又はMD-1に結合する候補物質は、常法により精製した後に、例えば、質量分析機等を用いて解析、同定することができる。
【0025】
または高脂肪食を摂餌したマウス内臓脂肪のマクロファージにおいてRP105とMD-1の発現が上昇することから、内臓脂肪マクロファージのRP105及び/又はMD-1にリガンドが作用している可能性がある。そこで、高脂肪食を摂餌したマウスの内臓脂肪よりマクロファージを分離し、例えば、抗RP105抗体または抗MD-1抗体で免疫沈降を行うことでRP105及び/又はMD-1に結合した候補物質を分離することができる。前記マウスの内臓脂肪より分離されたマクロファージは、RP105及び/又はMD-1を発現したマクロファージであると考えられる。分離した候補物質は、常法により精製した後に、例えば、質量分析機を用いて解析、同定することができる。
【0026】
(2)抗肥満薬または抗メタボリックシンドローム薬探索用細胞
本発明の抗肥満薬または抗メタボリックシンドローム薬探索用細胞が表面に発現するRP105及びMD-1は、本発明のリガンド探索用細胞におけるものと同様である。
【0027】
RP105及びMD-1の一方または両方を用いる、抗肥満薬または抗メタボリックシンドローム薬の探索は、例えば、上記本発明のリガンド探索用細胞を用いて探索したリガンドとRP105及びMD-1の一方または両方との結合または相互作用に対して影響を与える物質を探索することで、実施できる。リガンドとRP105及びMD-1の一方または両方との結合または相互作用に対する影響とは、具体的には前記結合または相互作用に対する阻害または促進である。前記結合または相互作用に対する阻害または促進は、例えば、以下の方法で測定することができる。RP105及びMD-1を発現するマクロファージにリガンドを添加することで、炎症性サイトカイン産生等の炎症反応が惹起されることが予想される。この実験系に候補物質を添加し、炎症反応が阻害または促進されるかどうかを検討することで、リガンドの結合または相互作用に対して影響を与える物質を測定することができる。
【0028】
上記探索において見出される抗肥満薬または抗メタボリックシンドローム薬は、例えば、RP105及び/若しくはMD-1の活性化を阻害する物質、又はRP105及び/若しくはMD-1のリガンドとの結合を阻害する物質であることができる。
【実施例】
【0029】
以下本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【0030】
以下に示す実験方法に従って、野生型マウス、RP105 欠損マウス、MD-1欠損マウス、TLR4欠損マウスに3ヶ月間、高脂肪食または4/4コントロール食を摂餌し、体重の変化等を観察した。体重の変化については図1に示す。
【0031】
実験方法
1.マウスについて
10週令の雄の野生型マウス(C57BL/6マウス)とC57BL/6系統RP105欠損、MD-1欠損、TLR4欠損マウスに高脂肪食または普通食を与え、1ヶ月に一度体重を測定する。さらに一週間に2回餌の摂餌量を測定する。餌を与えて3ヶ月後にマウスを安楽死させ、内臓脂肪(両側の精巣上体周囲の脂肪組織)と肝臓を採取し、重量を測定する。さらに腹部大静脈から採血し、血清を採取する。
【0032】
2.内臓脂肪からの細胞成分の単離について
採取した内臓脂肪をコラゲナーゼ処理し、遠心分離することによって脂肪細胞分画とマクロファージなどの血球系細胞を含む細胞分画とに分ける。細胞成分分画の細胞数をカウントし、1 x 105個を抗F4/80抗体で染色し、フローサイトメーター(FACSCanto, Becton Dickinson社)でマクロファージの割合、細胞数をカウントする。
【0033】
3.フローサイトメトリーについて
内臓脂肪細胞成分分画1 x 105個を抗CD45抗体、抗RP105抗体、抗MD-1抗体、抗TLR2抗体で染色し、CD45陽性または陰性細胞におけるRP105, MD-1, TLR2の発現をFACSCantoで検討する。また、抗F4/80抗体、抗CD11c抗体、抗CD206抗体、抗RP105抗体、抗MD-1抗体、抗TLR2抗体で染色し、M1またはM2マクロファージにおけるRP105, MD-1, TLR2の発現をFACSCantoで検討する。
【0034】
4.RNA精製、一本鎖cDNA合成について
QIAGEN社のRNAeasyのプロトコールにしたがって、採取した内臓脂肪から総RNAを精製する。RNA濃度と純度を確認し、一部をApplied Biosystems社のTaqMan Reverse Transcription Reagentsを用いて、プロトコールにしたがって逆転写反応し、一本鎖cDNAを合成する。
【0035】
5.リアルタイムPCRについて
合成した一本鎖cDNAを鋳型として、Applied Biosystems社のTaqMan Universal PCR Master Mixと各遺伝子に対するプライマーを用いて、定量的PCR反応を行う。PCR機器は、STRATAGENE社のMx3000Pを用い、プロトコールにしたがってPCR反応を行う。
【0036】
6.血清中の糖、総コレステロール、トランスアミナーゼの測定について
各マウスを12時間絶食し、血糖値をニプロフリースタイルセンサー、ニプロフリースタイルメーターを用いて測定する。ロシュ・ダイアグノスティク社のレフロトロンシステムを用いて血清総コレステロール値、AST/ALT値を測定する。
【0037】
7.インスリン負荷試験について
各マウスを2時間絶食し、体重(g)あたり1.25 mUの速効性ヒト型インスリンを腹腔投与し、30, 60, 90, 120分後の血糖値をニプロフリースタイルセンサー、ニプロフリースタイルメーターを用いて測定する。
【0038】
8.MRIについて
中動物用MRIを用いて、各マウスの内臓脂肪、皮下脂肪の蓄積をT1協調画像で検討する。
9.マクロファージの単離について
実験方法2によって分離した血球成分を抗F4/80抗体で染色し、F4/80陽性のマクロファージをセルソーター(FACSAria, Becton Dickinson社)を用いて単離する。または野生型マウスの大腿骨、頸骨より骨髄を採取し、リコンビナントマウスM-CSFの存在下で7日間培養し、骨髄誘導性マクロファージを単離する。
【0039】
実験結果
1. 3ヶ月間の高脂肪食摂取により野生型マウスで認められる肝臓重量の増加、脂肪肝の組織像、血清トランスアミナーゼ(AST, ALT)の上昇がRP105欠損マウスでは顕著に抑制されていた(図2)。
【0040】
2. 3ヶ月間の高脂肪食摂取により野生型マウスで認められる内臓脂肪(精巣上体周囲脂肪)重量の増加がRP105欠損マウス、MD-1欠損マウスでは軽度であった(図3)。
【0041】
3. 3ヶ月間の高脂肪食摂取により野生型マウスで認められる内臓脂肪へのマクロファージなどの炎症細胞浸潤、脂肪細胞の肥大化がRP105欠損マウス、MD-1欠損マウスでは顕著に抑制されていた(図4)。
【0042】
4. 3ヶ月間の高脂肪食摂取により野生型マウスで認められる内臓脂肪での炎症性サイトカイン、ケモカイン(TNF-α, MCP-1, MIP-1α)の発現上昇とIKK-εの発現上昇がRP105欠損マウス、MD-1欠損マウスでは顕著に抑制されていた(図5)。
【0043】
5. 3ヶ月間の高脂肪食摂取により野生型マウスで認められる内臓脂肪でのアディポネクチンの発現減少がRP105欠損マウス、MD-1欠損マウスでは認められなかった(図6)。
【0044】
6. 3ヶ月間の高脂肪食摂取により野生型マウスで認められる高血糖、インスリン感受性の低下がRP105欠損マウスでは顕著に改善していた(図7)。
【0045】
7. 3ヶ月間の高脂肪食摂取により野生型マウスで認められる血清総コレステロール値の上昇がRP105欠損マウスでは顕著に抑制されていた(図8)。
【0046】
8. 野生型マウス、RP105欠損マウス、MD-1欠損マウス、TLR4欠損マウスの4系統のマウス間で、高脂肪食の摂餌量に差は認められなかった(図9)。
【0047】
9. MRIを用いた検討により、3ヶ月間の高脂肪食を摂取した野生型マウスで認められる内臓脂肪の蓄積、皮下脂肪の蓄積がRP105欠損マウスで顕著に抑制されていた(図10)。
【0048】
10. 3ヶ月間の普通食または高脂肪食を摂取した野生型マウスの内臓脂肪を検査した結果、高脂肪食群においてRP105の発現が約13倍、MD-1の発現が約2倍に上昇していた。他のTLR関連遺伝子については、高脂肪食群においてTLR1, TLR7, TLR8, TLR9の発現が2-3倍上昇し、TLR5, TLR6, TRIFの発現が約1/2に減少していた(図11)。
【0049】
11. 野生型マウスの内臓脂肪において、CD45陽性の血球系細胞にRP105, MD-1, TLR2の発現が認められた。一方、CD45陰性の非血球系細胞にはRP105, MD-1, TLR2の発現は認められなかった(図12)。
【0050】
12. 3ヶ月間の普通食または高脂肪食を摂取した野生型マウスの内臓脂肪から血球系細胞を分離し、フローサイトメトリー法で検査した結果、高脂肪食群のM1マクロファージにおいてRP105, MD-1, TLR2の発現上昇が認められた。普通食群のM1マクロファージでは、このような発現の変化は認められなかった(図13)。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、抗肥満薬または抗メタボリックシンドローム薬等に関する分野に有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞表面にRP105及びMD-1の一方または両方を発現する細胞であり、かつ脂肪細胞において肥満の発症及び/又は病態に関わるリガンドを探索するために用いるための細胞。
【請求項2】
細胞が免疫細胞である請求項1に記載の細胞。
【請求項3】
免疫細胞がBリンパ球、マクロファージまたは樹状細胞である請求項2に記載の細胞。
【請求項4】
RP105は配列表の配列番号1に示されるアミノ酸配列を有する請求項1〜3のいずれかに記載の細胞。
【請求項5】
MD-1は配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列を有する請求項1〜4のいずれかに記載の細胞。
【請求項6】
RP105及びMD-1の一方または両方を発現する細胞が、生体から分離した細胞である請求項1〜5のいずれかに記載の細胞。
【請求項7】
生体から分離した細胞が、高脂肪食を摂餌したヒトを除く哺乳動物から分離した細胞である請求項6に記載の細胞。
【請求項8】
RP105及びMD-1の一方または両方を発現する細胞が、RP105及びMD-1の一方または両方を発現しない細胞に、RP105及びMD-1の一方または両方の遺伝子を導入して作製した細胞である請求項1〜5のいずれかに記載の細胞。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の細胞(以下、探索用細胞)を用いて、脂肪細胞において肥満の発症及び/又は病態に関わるリガンドを探索する方法であって、
前記探索用細胞に被検体を接触させて、前記探索用細胞と結合したリガンドを分離し、同定することを含む、リガンド探索方法。
【請求項10】
前記被検体が、脂肪細胞に由来する物質であるか、または高脂肪食を摂餌した哺乳動物若しくは肥満症の哺乳動物から採取した血清である請求項8に記載のリガンド探索方法。
【請求項11】
細胞表面にRP105及びMD-1の一方または両方を発現する細胞であり、かつ抗肥満薬または抗メタボリックシンドローム薬を探索するために用いるための細胞。
【請求項12】
抗肥満薬または抗メタボリックシンドローム薬がRP105及び/又はMD-1のリガンドとの結合を阻害する物質である請求項11に記載の細胞。
【請求項13】
リガンドが請求項9または10に記載の方法で探索された物質である請求項12に記載の細胞。
【請求項1】
細胞表面にRP105及びMD-1の一方または両方を発現する細胞であり、かつ脂肪細胞において肥満の発症及び/又は病態に関わるリガンドを探索するために用いるための細胞。
【請求項2】
細胞が免疫細胞である請求項1に記載の細胞。
【請求項3】
免疫細胞がBリンパ球、マクロファージまたは樹状細胞である請求項2に記載の細胞。
【請求項4】
RP105は配列表の配列番号1に示されるアミノ酸配列を有する請求項1〜3のいずれかに記載の細胞。
【請求項5】
MD-1は配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列を有する請求項1〜4のいずれかに記載の細胞。
【請求項6】
RP105及びMD-1の一方または両方を発現する細胞が、生体から分離した細胞である請求項1〜5のいずれかに記載の細胞。
【請求項7】
生体から分離した細胞が、高脂肪食を摂餌したヒトを除く哺乳動物から分離した細胞である請求項6に記載の細胞。
【請求項8】
RP105及びMD-1の一方または両方を発現する細胞が、RP105及びMD-1の一方または両方を発現しない細胞に、RP105及びMD-1の一方または両方の遺伝子を導入して作製した細胞である請求項1〜5のいずれかに記載の細胞。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の細胞(以下、探索用細胞)を用いて、脂肪細胞において肥満の発症及び/又は病態に関わるリガンドを探索する方法であって、
前記探索用細胞に被検体を接触させて、前記探索用細胞と結合したリガンドを分離し、同定することを含む、リガンド探索方法。
【請求項10】
前記被検体が、脂肪細胞に由来する物質であるか、または高脂肪食を摂餌した哺乳動物若しくは肥満症の哺乳動物から採取した血清である請求項8に記載のリガンド探索方法。
【請求項11】
細胞表面にRP105及びMD-1の一方または両方を発現する細胞であり、かつ抗肥満薬または抗メタボリックシンドローム薬を探索するために用いるための細胞。
【請求項12】
抗肥満薬または抗メタボリックシンドローム薬がRP105及び/又はMD-1のリガンドとの結合を阻害する物質である請求項11に記載の細胞。
【請求項13】
リガンドが請求項9または10に記載の方法で探索された物質である請求項12に記載の細胞。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−10597(P2012−10597A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−147034(P2010−147034)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【出願人】(305060567)国立大学法人富山大学 (194)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【出願人】(305060567)国立大学法人富山大学 (194)
【Fターム(参考)】
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