説明

リグニン含有シートおよびリグニン含有シートの製造方法

【課題】 リグニン含有シート中のリグニン含有濃度を向上させることができ、ホルムアルデヒド吸着性が良好なリグニン含有シートを提供するも。
【解決手段】 リグニンと熱可塑性樹脂を含んでなり、前記リグニンは熱可塑性樹脂により結着されたものであるリグニン含有シート、およびリグニンと熱可塑性樹脂を含んでなるリグニン含有シートを製造する方法であって、リグニンと、熱可塑性樹脂の水性エマルジョンを含む組成物を、加熱圧着することを特徴とするリグニン含有シートの製造方法により達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグニン含有シートおよびリグニン含有シートの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、アルデヒド化合物やアンモニウム化合物を含む接着剤を用いた建材から発生するホルムアルデヒドの放散量を抑える方法が検討されている。一方、リグニンは紙の原料であるセルロースを木から取り出した後に残る成分の一つで、一部燃料等に使用されてはきたが、用途も限られており、これまでは廃棄されてきたがリグニンまたはリグニンの誘導体に揮発性成分の一つであるホルマリンや異臭等を吸着させる作用があることが分かってきた。しかし、リグニンまたはリグニンの誘導体は粉末または塊状であるため、リグニンをそのまま部屋の中に置くと粉が飛散してしまう問題があった。
【0003】
上記問題を解決するため、リグニンまたはリグニンの誘導体を樹脂中に練りこみシートなどに成形して使用する方法も考えられるが、この方法ではリグニンシート中のリグニン含有濃度を多くすることができず、揮発性成分の吸着効果を多く望めない問題がある。また、リグニンをセルロースに含浸させ、乾燥後に、更に再生セルロース繊維で覆うことにより得られるリグニンシートが特許文献1に開示されている。しかしながら、この方法でも前述のリグニンシートと同様の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−185231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の様な状況に鑑み、リグニン含有シート中のリグニン含有濃度を向上させることができ、ホルムアルデヒド吸着性が良好なリグニン含有シートを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的は、下記の本発明第(1)項〜第(4)項により達成される。
(1) リグニンと熱可塑性樹脂を含んでなり、前記リグニンは熱可塑性樹脂により結着されたものであるリグニン含有シート。
(2) 前記リグニン含有シートは、凝集剤を含むものである第(1)項に記載のリグニン含有シート。
(3) リグニンと熱可塑性樹脂を含んでなるリグニン含有シートを製造する方法であって、リグニンと、熱可塑性樹脂の水性エマルジョンを含む組成物を、加熱圧着することを特徴とするリグニン含有シートの製造方法。
(4) リグニンと、熱可塑性樹脂の水性エマルジョンを含む組成物は、凝集剤を含む凝集体である第(3)項に記載のリグニン含有シートの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によるリグニン含有シートは、リグニン含有濃度を向上させることができ、これによりホルムアルデヒドの吸着性を向上させることができる。また、本発明のリグニン含有シートの製造方法によれば、シート中のリグニン含有濃度を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、リグニンと熱可塑性樹脂を含むリグニン含有シートであり、前記リグニンは熱可塑性樹脂により結着されたものである。このようにリグニン同士を熱可塑性樹脂により結着することにより、シート中のリグニンの含有量を高めることができ、リグニンによる大気中のホルムアルデヒド吸着効率が向上するものである。
【0009】
本発明は、リグニンと熱可塑性樹脂を含んでなるリグニン含有シートを製造する方法であって、リグニンと、水性エマルジョンの熱可塑性樹脂を含む組成物を、加熱圧着することを特徴とするリグニン含有シートの製造方法である。リグニン含有シートの製造において、水性エマルジョンの熱可塑性樹脂を用いることで、水性エマルジョン中でリグニンが分散しやすくなり、リグニンの使用量が多くなっても、熱可塑性樹脂による結着効果が得られ、シート中のリグニン含有量を向上させることができる。
【0010】
本発明に用いるリグニンは、セルロース及びヘミセルロースと共に、植物体の骨格を形成する主要成分であり、自然界に最も豊富に存在する物質の一つである。このリグニンには、針葉樹、広葉樹及び草本を由来とする3種類のリグニンがある。これらのリグニンは、針葉樹、広葉樹及び草本を酸化分解することにより得ることができる。また、その構造は、それぞれの原料から生成する分解生成物によって区別され、針葉樹リグニンは、主にグアイアシルプロパン構造から、広葉樹リグニンは、主に前記グアイアシルプロパン構造及びシリンギルプロパン構造から、又、草本類リグニンは、主に前記グアイアシルプロパン構造、前記シリンギルプロパン構造、及び4-ヒドロキシフェニルプロパン構造から成る。
【0011】
本発明に用いるリグニンの製造方法としては、上記針葉樹、広葉樹及び草本の各種木材の粉と水を、亜臨界または臨界条件で処理することにより、木粉から抽出して得ることができる。
【0012】
本発明に用いるリグニンは、リグニン誘導体としても用いることができ、リグニン誘導体としては、クロロリグニン、ニトロリグニン、リグニンスルホン酸、チオリグニン等を挙げることができる。これらの内、リグニンスルホン酸が好ましい。
【0013】
本発明に用いるリグニンスルホン酸としては、カルシウム塩、マグネシウム塩、ナトリウム塩などのリグニンスルホン酸塩を挙げることができる。これらの内、マグネシウム塩及びナトリウム塩が好ましい。リグニンスルホン酸の製造方法としては、主に、亜硫酸法による木材のパルプ化時に副生される亜硫酸廃液を原料として、リグニンスルホン酸塩として製造することができ、この木材のパルプ化において、木材チップを、高温高圧下で、重亜硫酸塩亜硫酸溶液を用いて蒸煮することによって、木材の細胞の中間層の主成分であるリグニンは、スルホン化され、水溶性のリグニンスルホン酸塩となる。
【0014】
本発明に用いる熱可塑性樹脂としては、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、アクリル変性ウレタン樹脂、エチレン−酢酸ビニル樹脂及び酢酸ビニル樹脂などが挙げられ、これらの中でも、リグニン同士を結着させる上で、ウレタン樹脂、アクリル樹脂及びアクリル変性ウレタン樹脂などが好ましい。また、これらを水性エマルジョンとすることにより、リグニンが分散し、その濃度を向上させることができ、良好な凝集物を作製することができる。
【0015】
上記水性エマルジョンは、熱可塑性樹脂が、小さな粒子状になって、水中で分散している分散系溶液のことである。熱可塑性樹脂の粒子径としては数十nmのものから数μmのものまで好適に用いられる。粒子径はレーザー回折散乱法の粒度分布計や動的光散乱法の粒度分布計を用いて測定することができる。
【0016】
水性エマルジョンの濃度としては、水中に樹脂固形分として30〜50質量%を含むことが好ましい。このようなエマルジョンは水中で良好に分散し、長期間保管してもエマルジョン成分が沈殿することなく良好な分散状態を保っていることが望ましい。これらの水性エマルジョンは、水分揮発後、エマルジョン成分が製膜して固化するため、水分が揮発しない様保管することが望ましい。
【0017】
本発明において、水性エマルジョンンの溶液中でリグニンを凝集させ、凝集物の乾燥をしやすくするなど、より作業性を向上させる上で凝集剤を用いることが好ましい。
【0018】
本発明に用いる凝集剤としては、リグニンを凝集させ水性エマルジョンの溶液から取り出せる程度にリグニン凝集物を生成することができるものであればよい。このような凝集剤としては、一般的に上下水道、し尿処理、工場廃水などの浄水剤として使われるものを用いることができ、例えば、高分子凝集剤(ポリアクリルアミド(ノニオン系高分子凝集剤)、ポリアクリル酸、アクリルアミド・アクリル酸共重合体、アクリルアミド・アクリル酸ナトリウム共重合物(アニオン系高分子凝集剤)、ポリアクリルアミド系高分子凝集剤、ジメチルアミノエチルアクリレート系高分子凝集剤、アクリルアミド・ジメチルアミノエチルアクリレートメチルクロライド4級塩の共重合物(カチオン系高分子凝集剤))、鉄系凝集剤(ポリ硫酸第二鉄、塩化第二鉄)、硫酸バンド(硫酸アルミニウム)、PAC(ポリ塩化アルミニウム)などを挙げることができる。更に、前記凝集剤は、リグニン同士の結着剤としても機能するものであり、前記凝集剤の中でも費用の点から鉄系凝集剤などが好ましい。鉄系凝集剤の種類は特に限定しないが、塩化第二鉄系のものが好ましい。なお、本発明で用いる凝集剤は、1種を単独で用いることもできるが、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0019】
本発明のリグニン含有シートの製造方法としては、まず、リグニンを、リグニンに対して10〜100質量倍程度の水の中に入れて撹拌し、リグニンを水中に分散させ、リグニン水溶液を作製する。次に、リグニン水溶液を撹拌しながら、熱可塑性樹脂の水性エマルジョン溶液を添加し、しばらく撹拌した後、必要に応じて、凝集剤を添加し、撹拌する。このとき、リグニンが水性エマルジョンの熱可塑性樹脂成分に絡みついた状態でリグニン同士が熱可塑性樹脂で結着し、水溶液中に凝集するため、凝集物を得ることができる。次に、凝集物を水溶液より取り出し、好ましくはシート状に薄くのばして、エバポレータや乾燥機などで乾燥して凝集物中の水分を除去し、最後に加熱加圧プレスを用いて、任意の厚みに加熱、加圧することにより、全体の厚みを均一にしてリグニン含有シートを得ることができる。
【0020】
このようにして得られるリグニン含有シート中におけるリグニン含有濃度としては、熱可塑性樹脂とリグニンの合計量に対して40質量%〜70質量%程度であり、ホルムアルデヒドを吸着する上で高い方が好ましい。また、リグニン含有濃度は、前記範囲外でも使用できるが、例えば、濃度が40質量%より低い場合は、リグニンによるホルムアルデヒドを吸着する効果があまり得られなくなるおそれがある。
【0021】
本発明のリグニン含有シートの用い方としては、揮発性成分であるホルムアルデヒド等を吸着させたい箇所にそのまま、リグニン含有シートを備え付けて用いることができ、また、必要に応じて粘着テープ等で固定するなどして用いることができる。これにより、リグニン含有シートがホルムアルデヒド等の成分を吸着することになる。さらに、必要に応じて水や溶液の中に浸漬させて任意の成分を吸着させても構わない。
【実施例】
【0022】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。ここで、「%」、「部」、「倍」は、すべて「質量%」、「質量部」、「質量倍」である。
【0023】
実施例1
リグニンスルホン酸マグネシウム(日本製紙株式会社製サンエキスP321)0.53gを、100mlの水中にいれて撹拌し、さらに、アクリル変性ウレタン樹脂水性エマルジョン(中央理化工業株式会社製水性エマルジョンSU−100、樹脂固形分33%)溶液2.4gを入れて撹拌を行った。撹拌後、更に塩化第二鉄系凝集剤(やよい産業株式会社製、塩化第二鉄液38%水溶液)を凝集剤の濃度が10%になるまで水で希釈した水溶液3.0gを添加し、撹拌した。凝集剤を入れた瞬間に、液中のリグニンどうしが凝集した。溶液中に凝集したものを取り出し、薄く伸ばした後に、60℃で24時間乾燥後、更に加熱加圧装置で厚み0.3mmのスペーサーを用いて、150℃で30分間加圧することにより、リグニン含有シート(シートの大きさ約20cm、厚み約0.5mm)約1.2gを得た。シート中におけるリグニン含有濃度は40%となる。
【0024】
実施例2
実施例1において、リグニンスルホン酸マグネシウム(日本製紙株式会社製、サンエキスP321)の量を1.848gとした以外は、実施例1と同様にして、リグニン含有シート約2.4gを得た。シート中におけるリグニン含有濃度は70%となる様、配合した。
【0025】
比較例1
実施例1で使用したのと同じリグニンとポリプロピレン(住友化学株式会社製、住友ノーブレン)を混合(リグニン濃度30%)したものを、押出機(株式会社神戸製鋼所社製、同方向噛み合い型2軸押出機、KTX−30)よりフィルムシート状に押出し(加熱温度150℃)、リグニン含有シートを作成した。得られたリグニン含有シートはもろく、ハンドリングが困難であった。
【0026】
比較例2
坪量100g/mのパルプシート(興人商事株式会社製)の表裏に、でん粉糊(株式会社菊井商会社製)を塗布し、実施例1で使用したのと同じリグニンを付着可能な限り接着させ、60℃で24時間乾燥した。パルプシートに付着したリグニン量からリグニン濃度を計算すると、パルプシート、糊の重量も含め33%が限度であった。その後、メッシュ加工した市販のポリプロピレン不織布(倉敷繊維加工株式会社、クランボン)にて覆い、両端をヒートシール処理により調製した。
【0027】
以上の実施例及び比較例で得られたリグニン含有シートについて、特性を評価し、その結果を表1に示す。
(試験方法)
1.におい吸着性試験
上記で得られたリグニン含有シートについて、内側に試薬のホルムアルデヒド溶液を数滴たらしたポリ袋を用意し、上記の各サンプルも、それぞれポリ袋内に入れ、各サンプル投入から24時間後に、ポリ袋内のにおいを嗅ぎ、官能評価を行った。なお、ポリ袋にホルムアルデヒド溶液のみ入れたものをブランクとした。
【0028】
【表1】

【0029】
この結果から明らかなように、実施例で得られたリグニン含有シートは、シート中のリグニン濃度を高くすることができるため、におい吸着性試験の評価によるホルムアルデヒドの吸着性も良好であった。ホルムアルデヒドの吸着性はリグニン濃度が大きい程、向上する傾向にあった。これに対して、比較例1で得られたリグニン含有シートはホルムアルデヒドの吸着性は実施例のものと比べると良くなかった。また、比較例2で得られたリグニン含有シートはホルムアルデヒドの吸着性はあまり良くなく、得られたリグニン含有シートももろく、シートのハンドリングが困難であった。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明によるリグニン含有シートは、リグニン含有シート中のリグニン含有量を多くすることができ、ホルムアルデヒド吸着性が良好である。得られたリグニン含有シートは部屋を汚すことなく、また邪魔にならない様に設置することができるため、部屋の中の大気中のホルマリンキャッチャー剤として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグニンと熱可塑性樹脂を含んでなり、前記リグニンは熱可塑性樹脂により結着されたものであるリグニン含有シート。
【請求項2】
前記リグニン含有シートは、凝集剤を含むものである請求項1に記載のリグニン含有シート。
【請求項3】
リグニンと熱可塑性樹脂を含んでなるリグニン含有シートを製造する方法であって、リグニンと、熱可塑性樹脂の水性エマルジョンを含む組成物を、加熱圧着することを特徴とするリグニン含有シートの製造方法。
【請求項4】
リグニンと、熱可塑性樹脂の水性エマルジョンを含む組成物は、凝集剤を含む凝集体である請求項3に記載のリグニン含有シートの製造方法。

【公開番号】特開2012−144623(P2012−144623A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3261(P2011−3261)
【出願日】平成23年1月11日(2011.1.11)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】