説明

リグノセルロース含有材料からの機能材料の製造方法

【課題】 リグノセルロース含有材料からリグニンおよびセルロース等の機能材料組成物を、様々な用途に利用しやすい状態で得ることのできる製造方法を提供する。
【解決手段】 溶媒中でリグノセルロース含有材料に酸を添加して酸分解する酸分解工程と、濾過工程とを含む機能材料の製造方法であって、前記酸分解工程は、芳香族系グリコールエーテル、3−メトキシブタノールおよび4−メトキシブタノールからなる群から選ばれる少なくとも1つを含む溶媒中で、酸としてスルホン酸系の酸を用いて行い、前記酸の添加量が、絶乾状態のリグノセルロース含有材料10gに対して0.1〜5mmolの範囲内であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグノセルロース含有材料からの機能材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化や化石資源枯渇の観点から、近年、製材時に排出される樹皮、おが屑、間伐材等の木質系物質や、稲わら、葦、藻類等の植物資源を有効活用することが検討されている。本発明では、これらを含めてリグノセルロース含有材料と総称する。リグノセルロース含有材料の主成分は、セルロース、ヘミセルロースおよびリグニンであるが、液化することで、これら成分の分離・利用に供することが試みられてきた。リグノセルロース含有材料の液化は、高温高圧下や臨界圧下で行われることが多く、大掛かりな装置が必要であった(例えば、特許文献1、2参照)。また、得られた溶液は粘性が強い場合が多く、水で洗浄することも難しいため、各成分の単離は容易ではなかった。そこで、濃酸およびフェノール誘導体の混合系において、室温で前記成分を分離する方法が検討されている(例えば、特許文献3参照)。この方法は、木粉にフェノール誘導体および73%硫酸を混合、攪拌して各成分を分解するものであるが、混合液から各成分を分離するには、大量の溶剤を用いた希釈、洗浄、抽出が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭61−261358号公報
【特許文献2】特開平11−80367号公報
【特許文献3】特開平2−233701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の方法では、リグノセルロース含有材料を液化することに主眼が置かれており、液化する必要のない成分までが液化されていた。特に、セルロースとリグニンとを、利用しやすい状態で取り出すことができ、なおかつ分離や洗浄の工程が容易な処理方法は開発されていなかった。そこで、本発明は、リグノセルロース含有材料からリグニンおよびセルロース等の機能材料組成物を、様々な用途に利用しやすい状態で得ることのできる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するために、本発明のリグノセルロース含有材料からの機能材料の製造方法は、溶媒中でリグノセルロース含有材料に酸を添加して酸分解する酸分解工程と、濾過工程とを含む機能材料の製造方法であって、
前記酸分解工程は、芳香族系グリコールエーテル、3−メトキシブタノールおよび4−メトキシブタノールからなる群から選ばれる少なくとも1つを含む溶媒中で、酸としてスルホン酸系の酸を用いて行い、
前記酸の添加量が、絶乾状態のリグノセルロース含有材料10gに対して0.1〜5mmolの範囲内であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によると、リグノセルロース含有材料から、リグニンおよびセルロース等の機能材料組成物を、様々な用途に利用しやすい状態で得ることができる。また、酸分解工程において添加する酸の量を少量とすることができるので、後工程における処理での水、中和剤および溶剤等の使用量を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は、本発明のリグノセルロース含有材料からの機能材料の製造方法を説明するチャート図である。
【図2】図2は、本発明のリグノセルロース含有材料からの機能材料の製造方法により得られた濾過残渣について赤外吸収スペクトル分析を行った結果のチャートである。図2(a)は実施例1で得られた濾過残渣の測定結果、図2(b)は対照サンプルの測定結果である。
【図3】図3は、本発明のリグノセルロース含有材料からの機能材料の製造方法により得られた液層についてのGPCクロマトグラムである。図3(a)は波長254nmの紫外光(UV)により検出したもの、図3(b)は示唆屈折率(RI)検出によるものである。
【図4】図4は、本発明で得られたポリエステルのTG/DTA測定結果を示す図である。図4(a)はTG曲線、図4(b)はDTA曲線である。
【図5】図5は、本発明で得られたポリエステルの昇温観察時の偏光顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のリグノセルロース含有材料からの機能材料の製造方法において、前記溶媒として、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、3−メトキシブタノールおよび4−メトキシブタノールからなる群から選ばれる少なくとも1つを含む溶媒を用いることが好ましい。
【0009】
本発明のリグノセルロース含有材料からの機能材料の製造方法において、前記スルホン酸系の酸として、硫酸およびドデシルベンゼンスルホン酸の少なくとも1つを用いることが好ましい。
【0010】
本発明のリグノセルロース含有材料からの機能材料の製造方法において、前記酸分解工程を、120〜200℃の範囲内で行うことが好ましい。
【0011】
本発明のリグニン系機能材料は、前記本発明の製造方法によって得られたものである。また、本発明のポリステルは、前記リグニン系機能材料を構成成分とすることを特徴とする。そして、前記本発明のポリエステルは、60℃から250℃の範囲に少なくとも一つの融点を持ち、溶融成型加工可能であることが好ましい。
【0012】
つぎに、本発明について詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の記載により制限されない。
【0013】
図1に、本発明のリグノセルロース含有材料からの機能材料の製造方法のチャート図の一例を示す。まず、溶媒中でリグノセルロース含有材料にスルホン酸系の酸を添加し、酸分解工程を行う。酸分解後の液は、濾過によって、固層と液層とに分離することができる。固層として、主にセルロースを含む成分が得られ、液層(油層)としては、リグニンを多く含む成分が得られる。この液層から溶媒を蒸発させ、濃縮することで、高濃度のリグニンが得られる。濃縮工程によって蒸発させた溶媒は、回収して再利用することが可能である。また、液層の溶媒が、疎水性であれば、濃縮した後に、水を加えて、水による抽出工程を行うと、油層には、主にリグニンが、水層には、酸あるいは分解によって生成した糖などのセルロースの一部やヘミセルロース由来の化合物が抽出される。前記抽出工程によって、油層の水洗浄(酸成分の除去)が可能である。従来は、これら成分の分解や分離が困難であったり、過剰な反応に起因する副生成物の生成等が起こりやすかった。本発明の機能材料の製造方法によると、セルロースやリグニン、ヘミセルロース由来の化合物等の分離が容易であり、かつ、これらの化合物を使用しやすい状態で得ることが可能である。
【0014】
本発明のリグノセルロース含有材料からの機能材料の製造方法は、リグノセルロース含有材料に酸を添加して酸分解する酸分解工程を含んでいる。そして、前記酸分解工程を、芳香族系グリコールエーテル、3−メトキシブタノールおよび4−メトキシブタノールからなる群から選ばれる少なくとも1つを含む溶媒中で、酸としてスルホン酸系の酸を用いて行うことを特徴とする。リグノセルロース含有材料としては、木材のバージン材やチップ以外にも、製材時に排出される樹皮、おが屑、木粉、間伐材、および建築廃材などの木質系廃棄物を使用することができる。また、竹、葦、稲わら、もみ殻、麦わら、藻類などの非木材系植物資源も使用することができる。これらの材料は、チップ状、フレーク状、あるいは粉状にすることで好ましく用いられる。
【0015】
本発明で用いられる溶媒のうち、芳香族系グリコールエーテルは、一価または二価のフェノールを原料としたポリオールである。芳香族系グリコールエーテルとしては、エチレングリコールフェニルエーテル、エチレングリコールベンジルエーテル、プロピレングリコールフェニルエーテル等があげられる。芳香族系グリコールエーテルのうち、エチレングリコールモノフェニルエーテルおよびエチレングリコールモノベンジルエーテルが特に好ましく使用できる。
【0016】
前記溶媒は、芳香族系グリコールエーテル、3−メトキシブタノールおよび4−メトキシブタノールからなる群から選ばれる溶媒以外の、他の溶媒を混合して用いることができる。例えば、脂肪族グリコールエーテルやアルコール類を混合した場合でも、スムーズに反応が進む。芳香族系グリコールエーテル、3−メトキシブタノールおよび4−メトキシブタノールからなる群から選ばれる少なくとも1つの溶媒は、溶媒全体に対し、10〜100重量%の範囲で含まれることが好ましく、より好ましくは、20〜100重量%の範囲である。
【0017】
前記溶媒は、リグノセルロースへの親和性とリグニンに対する溶解性とが良好であることが好ましい。また、前記溶媒の沸点は、160℃以上であることが好ましく、より好ましくは、160〜250℃の範囲内である。図1の濃縮工程において、前記溶媒の沸点が160℃以上のあまり高くない温度であると、蒸発や回収が容易であり、好ましい。前記溶媒として、例えば、エチレングリコールブチルエーテル、メトキシブタノール等の水と任意に混合する溶媒を混合した場合は、濾液(液層)をそのまま濃縮して回収すればよいが、2−エチルヘキシルアルコール等の水と混ざり合わずに共沸する溶媒を混合した場合には、水蒸気蒸留によって回収することも可能である。
【0018】
リグノセルロース含有材料と前記溶媒との混合比率は両者が均一に混合できれば特に限定されるものではないが、前記溶媒100重量部に対してリグノセルロース含有材料を、好ましくは1〜100重量部、より好ましくは10〜50重量部混合する。
【0019】
本発明で用いられる酸は、スルホン酸系の酸である。塩酸、燐酸および酢酸等の他の酸を用いた場合には、セルロースとリグニンの分離がうまくいかず、残渣もリグニン含量の多いものとなり、目的物が得られない。スルホン酸系の酸としては、硫酸およびドデシルベンゼンスルホン酸が、好ましく使用できる。前記スルホン酸系の酸の添加量は、絶乾状態のリグノセルロース含有材料10gに対して0.1〜5mmolの範囲内であることが好ましく、0.5〜2mmolの範囲内であることがより好ましい。
【0020】
酸分解工程においては、リグノセルロース含有材料、スルホン酸系の酸および前記溶媒の含有される混合物を加熱することも好ましい。加熱温度は、使用する前記溶媒の沸点まで上げることが可能であるが、120〜200℃の範囲が好ましく、より好ましくは、140〜160℃の範囲である。160℃以下であれば、汎用の蒸気ボイラーを使用することができ、また、様々な産業で発生する廃熱を利用することも可能となる。前記温度範囲で前記酸分解工程を行うと、水分が系外に排出される。したがって、本発明の製造方法では、リグノセルロース含有材料を粉砕して、そのまま使用することが可能であり、原料となる木粉等の材料の含水率を減少させるための乾燥工程等を必要としない点で好ましい。
【0021】
なお、従来においても木質系物質を液化する検討がなされてきたが、得られた溶液にはリグニンあるいはセルロース系多糖がすべて溶解するため、これらの成分を単離することは容易ではなかった。さらに、余剰の酸を水で抽出しようとしても、水と均一に混和させることが難しいほど粘稠になってしまっていた。本発明の製造方法によって得られるリグニン等の機能材料は、流動性に優れた状態で得ることが可能であり、前述のとおり、酸の除去や分離・濃縮等の操作が容易にできる。
【0022】
本発明の製造方法によると、分子量が100以上600未満の範囲と低分子量のリグニンも得られる。前記低分子量のリグニンは、各種の溶媒に可溶な芳香族原料である。前記リグニンは、水酸基を多く含んでおり、これを原料として機能性ポリマー、特にポリエステルを好適に合成することができる。ただし、合成できる機能性ポリマーはポリエステルに限るものではなく、前記リグニンの含有する水酸基と反応可能な官能基(イソシアネート基、エポキシ基等)を有する化合物を用いることで、ポリウレタン、エポキシ樹脂等の合成も可能である。
【0023】
前記本発明の製造方法で得られるリグニンを構成成分とすることで、60〜250℃の範囲に少なくとも一つの融点を有するポリエステルを得ることができる。このようなポリエステルは、溶融成形加工が可能であり、特に、前記ポリエステルが液晶ポリマーであると、強度に異方性を持たせることが可能となる。
【実施例】
【0024】
つぎに、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。なお、本発明は、下記の実施例および比較例によってなんら限定ないし制限されない。また、各実施例および各比較例における各種特性および物性の測定および評価は、下記の方法により実施した。
【0025】
(GPC分析)
GPC分析は試料の濃度が0.1wt%となるようにテトラヒドロフラン(THF)で希釈し、下記の条件で行った。
GPC (株)島津製作所製
本体 CBM−20A
UV SRD−20A(検出波長254nm)
RI RID−10A
摂取量 約0.1ml 流量 1.0ml/1min 溶媒THF
カラム温度 40℃
【0026】
(硬度)
JIS K 5600−5−4(1999)による鉛筆硬度を測定した。鉛筆は、三菱鉛筆株式会社製「uni」(商品名)を用いた。
【0027】
(耐溶剤性評価)
2ポンドハンマーの凸部にガーゼを16枚重ねて固定し、メチルエチルケトン(MEK)でよく湿らせた後、塗装試験片の上を往復させた。前記塗料の塗膜がはがれた時の回数を耐溶剤性とした。
【0028】
(碁盤目密着)
JIS K 5600−5−6(1999)に準じて、密着性を評価した。塗膜にカッターで1mm×1mmのマス目を碁盤目状に100個形成し、その部分に粘着テープ(ニチバン株式会社製セロテープ(登録商標))を貼着した後、急速に剥離し、塗膜の剥離状態を目視観察にて評価した。
【0029】
(濾過性評価)
酸分解工程後の反応液を、ヌッチェを用いて、直径70mmの円形濾紙(No.2 ADVANTEC社製)を使用して濾過した際の濾過性を、以下の基準で評価した。
判定基準
G :濾過に要した時間が10分以内。
NG:濾過に要した時間が10分を超える、あるいは、濾過による分離が不可能。
【0030】
[実施例1]
(酸分解工程)
木粉(杉、富山県西部森林組合 おが粉)11.36g(含水率12% 絶乾状態で10g)、エチレングリコールモノフェニルエーテル(日本乳化剤株式会社製、商品名「フェニル グリコール(PhG)」、沸点244.7℃)90g、95%硫酸0.08g(0.8mmol)をフラスコに計量し、150℃で4時間攪拌した。このとき系に含まれている水分(木粉起因のものと思われる)はディーンスタークフラスコなどの器具を用いることで系外へ留去される。
【0031】
(濾過工程)
前記混合物を常温まで冷却し、ヌッチェを用いて濾過した。濾過には、直径70mmの円形濾紙(No.2 ADVANTEC社製)を使用した。濾過に要した時間は10分以内で、スムーズな濾別が可能だった。フラスコはプロピレングリコールメチルエーテル100gをもちいて洗浄し残渣上に濾過した。濾過残渣は、メチルエチルケトン(MEK)で洗浄した後、風乾後130℃で2時間乾燥させた。得られた濾過残渣は、白っぽい綿状であり、3.6gであった。また濾液は、UV検出によるGPC分析により、数平均分子量1421、重量平均分子量3108をピークとする成分を多く含み、透明感のある黒っぽい粘稠な液体だった。
【0032】
(酸不溶性リグニンの分離工程)
前記乾燥後の濾過残渣1gに対し、72%硫酸を16.4g加え、30℃で1時間混練した。硫酸と混練した濾過残渣を、水277gとともに、500mLの耐圧瓶に移した。この耐圧瓶を滅菌機に入れ、130℃で1時間のレトルト処理を行った。この処理で、残渣中のセルロースはほぼ溶解する。その後、耐圧瓶を常温まで冷却し、ヌッチェを用いて濾過した。濾過には、直径70mmの円形濾紙(No.2 ADVANTEC社製)を使用した。不溶解成分(酸不溶性リグニン)は、4.3質量%であった。
【0033】
(赤外吸収スペクトル分析)
前記濾過工程で濾別された濾過残渣について、赤外吸収スペクトル分析を行った。赤外吸収スペクトル分析は、日本分光株式会社製 FT/IR4100を用い、一点ATR法にて測定した。対照サンプルとして、高純度のセルロースを含むパルプ素材からなる産業用ワイパーである「キムワイプ」S−200(商品名、日本製紙クレシア株式会社製)を用いた。結果を図2に示す。得られた濾過残渣のスペクトル(図2(a))は、「キムワイプ」のスペクトル(図2(b))と略同一であり、得られた濾過残渣は、純度の高いセルロースを含むことがわかった。
【0034】
(濾液(液層))
得られた濾液について、GPC分析を行った結果を図3に示す。溶出時間44分付近までのUV吸収強度が大きい画分がリグニンである。それ以降のRI強度が大きい画分について、酵素法によるグルコース検出キット(和光純薬工業株式会社製、グルコースCII−テストワコー)を用いて測定したところ、グルコースが検出され、低分子化されたセルロース系多糖が含まれていることがわかった。液層には、リグニン、リグノセルロースおよびセルロース由来のグルコースが含まれていることが特定できた。液層は、リグノセルロースとして使用したり、燃料として活用することもできる。リグニンは、溶液の状態で取り出すことができるので、広く利用が可能である。
【0035】
[実施例2〜12、比較例1〜14]
表1に示した条件で、実施例1と同様に、酸分解工程、濾過工程、酸不溶性リグニンの分離工程を行った。
【0036】
実施例6で取り出した残渣(セルロース、リグニン含量7.7質量%)2g、n−メチルピロリドン(NMP)98gおよび2mm径のガラスビーズ100gをマヨネーズ瓶に量り取り、ペイントシェーカーで24時間振とうした。振とう後、ガラスビーズを分別濾過し、粘度が約150cpsの茶褐色の粘稠液体を得た。得られた粘稠液体を、♯34のバーコータを用いて12cm×20cmのアルミ板に塗装し、熱風循環式オーブン(佐竹化学機械工業株式会社製)を用いて、215℃で120秒間乾燥したところ、厚さ約1μmの、均一な外観の親水性塗膜が得られた、得られた塗膜の鉛筆硬度はHであった。
【0037】
実施例6で取り出した濾液を、エバポレーターを用いて、80℃で真空乾燥を行い、ブチルセロソルブを蒸発させ、濃縮した。濃縮液をMEKで希釈したものを、刷毛でポリカーボネートテストパネルに塗装し、100℃で2時間乾燥した。塗膜は鼈甲のような透明感のある色をしていた。物性は鉛筆硬度HB、MEKラビング75回、碁盤目密着も問題ない強靭な塗膜であった。蒸発させたブチルセロソルブは蒸留して、回収再利用が可能であった。
【0038】
[実施例13〜19]
実施例13〜19は、原料の材料に含まれる水分の影響をみた実施例である。実施例13は、実施例1で使用したおが粉を、パルピングの叩解に倣って、水中でハンマーで叩いて繊維をほぐしたものを使用した。実施例14および15は、実施例1と同じおが粉を用い、反応系に水を添加することで、仮想的に含水率の高い材料を用いた系を作ったものである。実施例16〜19は、おが粉ではなく、チップを使用した。その他は、表2に示した条件で、実施例1と同様に、酸分解工程、濾過工程、酸不溶性リグニンの分離工程を行った。
【0039】
表1に、実施例1〜12および比較例1〜14の結果を、表2に、実施例13〜19の結果を示す。実施例では、いずれも、わた状の形態の色の薄い濾過残渣であり、原料である木粉の残存は見られなかった。また、濾過性も良好であった。実施例で得られた残渣は、リグニン含量が10wt%以下と少なく、セルロースからリグニンが高い割合で分離できていることがわかる。
【0040】
一方、比較例では、木粉の断片が残ったり、反応が進んでいないと思われる外観の濾過残渣が得られた。比較例1および比較例2は、酸分解工程では溶媒と材料との馴染みがよく、一見反応がうまく進行しているかのようであったが、得られた濾過残渣のリグニン含有量が多く(反応前と比べてほとんど減っていない)、セルロースとリグニンとの分離はうまくできていなかった。比較例3では、酸分解工程において、反応温度の150℃を維持できず、また、激しい異臭がした。150℃での留出分があることから、別の分解反応が進んでいる可能性がある。比較例4および比較例6では、外観上も、反応が進んでいないようであった。溶媒とリグニンとの相溶性が低いことが原因と考えられる。比較例5では、わた状で薄い茶色の残渣が見られ、分解が良好に起こっている可能性はあるが、反応液は、分解工程後に濾過ができないほど粘度が高くなり、濾過が不可能だった。比較例9〜14は、スルホン酸系ではない酸を用いた例である。塩酸を用いた場合(比較例9)では、若干分解が起こっているようであるが、木粉の断片が残り、また、黒色になった。酢酸(比較例10)、燐酸(比較例11〜14)を用いた場合には、酸分解が進まなかった。
【0041】
実施例13〜19の結果からは、水分の含有(添加)が多い場合であっても、酸分解反応が良好に進んでいることがわかる。水分があったとしても、100℃を超える反応温度であることから、反応温度まで昇温させる途中で水分が飛んでしまい、反応には影響を及ぼさないためと考えられる。従来、木質材料等を使用する際には、絶乾状態まで乾燥した後に使用される場合が多かったが、本発明の製造方法によると、原料や反応系に含まれる水分量を考慮する必要がないことがわかる。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
[実施例20]
(リグニン回収工程)
マグネチックスターラー、温度計、冷却管のついた300ml二つ口フラスコに、実施例1で用いたのと同じ木粉10.2g、フェニル グリコール10.2g、ブチルセロソルブ80.3g、ドデシルベンゼンスルホン酸0.663gを加え、2時間還流・攪拌(162〜164℃)し、放冷後、実施例1と同様にして濾過し、濾液を回収した。そして、濾紙上の濾過残渣をジエチレングリコールモノエチルエーテル100gおよびメチルエチルケトン100gで洗浄し、先の濾液とこれらの洗液とを併せて160℃、5時間ロータリーエバポレータで減圧濃縮を行い、リグニン(収量5.93g)を回収した。
得られたリグニンは、アセトン、2−ブタノン、クロロホルムに可溶、酢酸エチルに部分可溶であり、ヘキサン、トルエン、1−ブタノール、2−プロパノールに不溶であった。GPCにより求めたリグニンの重量平均分子量は470と低分子化されていた。また、アセチル化後の遊離酢酸の滴定により求められた水酸基価は38mg/gであった。
【0045】
(ポリエステル合成工程)
得られた低分子化リグニン0.2gをアセトン0.3gに溶かし、リグニンの含有する水酸基に対して当量のカルボキシル基となるだけのジカルボン酸クロリドと、前記ジカルボン酸クロリドに対し二倍mol量のトリエチルアミンを氷浴中で加えて撹拌した。前記ジカルボン酸クロリドとしては、塩化アジポイル(0.15g)、塩化セバコイル(0.28g)、二塩化テレフタロイル(0.15g)を使用し、それぞれを用いてポリエステル合成を行った。なお、二塩化テレフタロイルは固体のため、アセトン0.3gに溶解させてからリグニン溶液に添加した。これらの反応により、アセトンに不溶な沈殿としてポリエステルが得られた。これらの反応溶液をそれぞれ濾過し、濾過残渣(沈殿)をアセトン洗浄した後、前記沈殿を風乾した。風乾後の前記沈殿の重量は、塩化アジポイルを用いたもので0.33g、塩化セバコイルを用いたもので0.48g、二塩化テレフタロイルを用いたもので0.29gであった。
【0046】
(ポリエステルの特性解析)
種々のジカルボン酸クロリドを用いて作製した前記ポリエステルについて、それぞれ、TG/DTA装置(リガクTG−8120)を用いて相転移および熱分解挙動の観測を行った。結果を図4に示す。TG曲線(図4(a))からは、いずれのポリエステルでも、200℃付近までの重量減少が僅かであることがわかる。また、DTA曲線(図4(b))において、いずれのポリエステルも71℃で吸熱ピークを示したほか、塩化アジポイルを用いたポリエステルで212℃、塩化セバコイルを用いたポリエステルで197℃、二塩化テレフタロイルを用いたポリエステルで190℃において、それぞれ吸熱ピークが観測された。これらの吸熱ピークは、融解および相転移を示しており、このように複数の吸熱ピークを有するポリエステルは、液晶性を示すものと考えられる。さらに、前記塩化アジポイルを用いたポリエステルについて、ホットステージ付偏光顕微鏡観察(Nikon ECLIPSE50iPOL偏光顕微鏡とLinkam 10013Lホットステージ使用)で、昇温速度10K/minで昇温させながら状態を観察した。結果を図5に示す。図5に示すように、固相から溶融しながらも、200℃付近で複屈折を示す液晶相への転移が観測されたことから、前記ポリエステルがサーモトロピック液晶性を有することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明によると、リグノセルロース含有材料から、リグニン等の従来までは分離が困難であった物質を、分離や精製が容易な液化状態で得ることができる液化樹脂原料組成物とともに、セルロースを溶剤に易分散である形で得ることができる。本発明の製造方法においては、酸分解の工程において添加する酸の量を少量とすることができるので、後工程における処理での水、中和剤および溶媒の使用量を削減することができる。また、本発明によると、溶媒可溶性リグニンを回収することができ、このリグニンを原料として各種の機能性ポリマー、特にポリエステルを合成することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒中でリグノセルロース含有材料に酸を添加して酸分解する酸分解工程と、濾過工程とを含む機能材料の製造方法であって、
前記酸分解工程は、芳香族系グリコールエーテル、3−メトキシブタノールおよび4−メトキシブタノールからなる群から選ばれる少なくとも1つを含む溶媒中で、酸としてスルホン酸系の酸を用いて行い、
前記酸の添加量が、絶乾状態のリグノセルロース含有材料10gに対して0.1〜5mmolの範囲内であることを特徴とするリグノセルロース含有材料からの機能材料の製造方法。
【請求項2】
前記溶媒として、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、3−メトキシブタノールおよび4−メトキシブタノールからなる群から選ばれる少なくとも1つを含む溶媒を用いることを特徴とする、請求項1記載のリグノセルロース含有材料からの機能材料の製造方法。
【請求項3】
前記スルホン酸系の酸として、硫酸およびドデシルベンゼンスルホン酸の少なくとも1つを用いることを特徴とする、請求項1または2に記載のリグノセルロース含有材料からの機能材料の製造方法。
【請求項4】
前記酸分解工程を、120〜200℃の範囲内で行うことを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載のリグノセルロース含有材料からの機能材料の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の製造方法によって得られたことを特徴とするリグニン系機能材料。
【請求項6】
請求項5に記載のリグニン系機能材料を構成成分とすることを特徴とするポリエステル。
【請求項7】
請求項6に記載のポリエステルであって、60℃から250℃の範囲に少なくとも一つの融点を持ち、溶融成型加工可能なポリエステル。

【図1】
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【図4】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−76067(P2013−76067A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−196271(P2012−196271)
【出願日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【出願人】(591176225)桜宮化学株式会社 (22)
【出願人】(391048049)滋賀県 (81)
【出願人】(597065329)学校法人 龍谷大学 (120)
【Fターム(参考)】