説明

リサイクル可能な人工皮革

【課題】耐摩耗性等の物性および風合の優れたリサイクル可能な人工皮革(合成皮革)を提供すること。
【解決手段】不織シート状物をバインダーで処理してなる人工皮革において、平均粒子径が5.0μm以下の熱可塑性樹脂エマルジョンをバインダーとして用いることを特徴とする人工皮革。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐摩耗性等の物性および風合の優れたリサイクル可能な人工皮革(合成皮革)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人工皮革(合成皮革)のバインダーとして、弾性のあるポリウレタン系の樹脂エマルジョンを使用することは一般的である。風合と接着力等のバインダーとしてのバランスが良好であるためである。例えば、水系ポリウレタンエマルジョンを付与した人工皮革の工業的且つ安定的な製造方法が知られている(例えば、下記特許文献1参照)。
しかし、ポリウレタン系の樹脂を使用した人工皮革は、その最終製品の廃棄の際にウレタン成分が阻害要因になりリサイクルに不向きであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−229071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、耐摩耗性等の物性および風合に優れ、かつリサイクル可能な人工皮革(合成皮革)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、鋭意検討した結果、特定の熱可塑性樹脂エマルジョンをバインダーとして用いることにより、上記目的が達成されることを見出し、本発明をなすに至った。即ち、本発明は下記の発明を提供する。
(1)不織シート状物をバインダーで処理してなる人工皮革において、平均粒子径が5.0μm以下の熱可塑性樹脂エマルジョンをバインダーとして用いることを特徴とする人工皮革。
(2)熱可塑性樹脂エマルジョンがポリエステル系樹脂またはポリアミド系樹脂である上記(1)に記載の人工皮革。
(3)不織シート状物が表面繊維層および中間スクリム層の少なくとも2層構造からなる上記(1)または(2)に記載の人工皮革。
(4)スエード調である上記(3)に記載の人工皮革。
【発明の効果】
【0006】
本発明の人工皮革(合成皮革)は、耐摩耗性等の物性および風合に優れ、かつリサイクル可能なものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で用いる不織シート状物は表面繊維層および中間スクリム層の少なくとも2層構造からなることが好ましい。より好ましくは、表面繊維層、中間スクリム層および裏面繊維層の3層構造からなる。
表面繊維層および裏面繊維層を構成する主体繊維としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートおよびポリトリメチレンテレフタレートなどのポリエステル系短繊維並びにナイロン6、ナイロン66およびナイロン12などのボリアミド系短繊維などが好適に用いられるが、これらに限定されるものではなく、目的とする用途によって適宜選択すればよい。
【0008】
天然皮革様風合が得られ易い点やスエード調やヌバック調表面感が得られ易い点からすれば、上記主体短繊維の単繊維繊度は0.6dtex以下の極細短繊維を用いることが好ましい。0.02〜0.33dtexの極細短繊維を用いることがさらに好ましい。0.02dtex未満の単繊維繊度では、染色時の染料濃度が非常に高くなる。また、染色堅牢度や耐光性が不充分であり実用的ではない。
上記極細短繊維は、溶融紡糸法により直接紡糸されたものを短繊維化したものや、共重合ポリエステルを海成分、レギュラーポリエステルを島成分に用いた海島繊維から海成分を溶解または分解することによって除去して得られる極細繊維などの極細繊維発生型繊維から取り出したものを短繊維化したものなどが使用できる。
【0009】
本発明の表面繊維層および裏面繊維層は、前記各繊維からカード法およびエアレイ法などの乾式法、および水中に各繊維を分散させたスラリーを用いた抄造法などにより製造することができる。単繊維繊度0.6dtex以下の極細繊維は、カード法ではカーディングローラーの針に繊維が巻き付き繊維の開繊が困難であることがあり、エアレイ法でも極細繊維の分散が困難であることがある。また乾式法で得られた繊維層は均一分散性に劣るということがあることから、各繊維の均一分散性や極細短繊維が利用できる点では抄造法が好ましい。
表面繊維層の不織布の目付は10〜200g/m2が好ましく、より好ましくは30〜150g/m2である。また、裏面繊維層の不織布の目付は10〜200g/m2が好ましく、より好ましくは20〜100g/m2である。
【0010】
中間スクリム層のスクリム織編物としては、限定されるものではないが50〜230dtexの総繊度のものが好ましい。より好ましくは、80〜170dtexである。織密度も同じく限定されるものではないが経緯とも50から60本/inchが好ましい。上記の総繊度と織密度であれば、表裏面繊維層の極細短繊維との一体化がより強く図れる。中間スクリム層の目付は20〜200g/m2が好ましく、より好ましくは50〜150g/m2である。
本発明における交絡一体化はスパンレース法と呼ばれる水流交絡法、ニードルパンチ法などを用いることができるが、中間スクリム層である織編物の組織を破壊することがない水流交絡法が好ましい。
【0011】
本発明の人工皮革(合成皮革)は、バインダーとして平均粒子径が5.0μm以下の熱可塑性樹脂エマルジョンが使用される。
熱可塑性樹脂の種類としては、ポリエステル系はポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートおよびポリプロピレンテレフタレート等やその共重合体、ポリアミド系はナイロン6、ナイロン66、ナイロン10およびナイロン12等やその共重合体などである。本発明で用いる熱可塑性樹脂には、一般的なバインダーである熱硬化性のポリウレタン樹脂は含まれない。人工皮革(合成皮革)の主体繊維に対してリサイクル時の阻害要因にならない樹脂を選択する事が重要である。一般的に人工皮革(合成皮革)はポリエステル系又はポリアミド系繊維からなる事から上記の樹脂を選択する事が好ましい。
【0012】
熱可塑性樹脂エマルジョンの平均粒子径は、5μm以下、好ましくは3μm以下、更に好ましくは1μm以下の熱可塑性樹脂エマルジョンを用いる。熱可塑性樹脂エマルジョンは含浸法で人工皮革(合成皮革)の内部に浸透させるが、粒子径が5.0μmより大きいと均一に浸透せず表面層により多くの樹脂が付着し、外観および風合を損ねる。
また、3.0μm以下、好ましくは1.0μm以下の粒子径になると主体繊維との粒子当りの接触面が増大し、主体繊維との親和性から乾燥時のマイグレーションが抑制されることから好適である。この点がゲル化により粒子径を増大させてマイグレーションを抑えるポリウレタンエマルジョンとの根本的な相違といえる。上記観点から平均粒子径は細かい方が好ましいが、あまり細かすぎると保管時のエマルジョンの状態が不安定になり擬似凝集を起こすことから、0.5μm以上が好ましい。
【0013】
本発明におけるバインダー(熱融着)処理には、ドラム乾燥機やカレンダー機のような接触式乾燥機およびピンテンタードライヤーのようなエアースルー乾燥機が使えるが、表面のフィルム化防止、高密度化防止および良好な風合発現の点からエアースルー乾燥機の使用が好ましい。処理温度は熱可塑性樹脂の融点の10℃以上高い温度、好ましくは20℃以上高い温度である。処理温度と熱可塑性樹脂の融点の差が10℃未満の場合は充分な熱融着効果が得られない場合がある。
【0014】
上記処理に組み合わせて、起毛(バフ)処理及び染色処理することによってスエード調やヌバック調の人工皮革が得られる。起毛処理は、サンドペーパーでバフィングするなどの公知の方法を用いることができる。その場合、熱可塑性樹脂を熱融着させる前に起毛処理を行えばスエード調の表面感が得られる。また熱可塑性樹脂を熱融着させた後に起毛処理を行えばヌバック調の表面感が得られる。染色処理は、例えば、主体短繊維がポリエステル系繊維の場合は分散染料を用い、主体繊維がポリアミド系繊維の場合は酸性染料を用いることが一般的である。染色方法については染色加工業者に良く知られた通常の方法を用いることができ、人工皮革においては均染性の点から液流染色機が好適に用いられる。このようにして染色された人工皮革は、ソーピングや必要に応じて化学的還元剤の存在下で還元洗浄を実施し、余剰染料を除去する。
【0015】
熱可塑性樹脂バインダーを用いた本発明の人工皮革の場合、染色時の樹脂脱落による染色釜への付着(釜汚れ)及び製品への再付着が緩和され染色加工の安定化にも寄与する点で優位にあると言える。これは樹脂劣化の形態がポリウレタン樹脂と異なり極めて安定であることに起因すると推定される。
銀付き人工皮革に仕上げる場合は、必要に応じて染色処理を行った後、表面に湿式ポリウレタンや乾式ポリウレタンなどの高分子弾性体を塗工もしくは離型紙上に形成した銀面層を人工皮革用不織布に貼り付けるなどの公知の方法によって被覆し、銀付き人工皮革として用いる。
【0016】
リサイクルの具体的な方法としては、サーマルリサイクル、マテリアルリサイクルおよびケミカルリサイクルなどが挙げられる。
サーマルリサイクルは、製品(人工皮革)をボイラーなどにより焼却した熱を利用するものである。マテリアルリサイクルは製品を粉砕し、不純物などを除去した後に溶融して得られた樹脂ポリマーチップを利用するものである。ケミカルリサイクルは製品を粉砕し、不純物及び染料成分を除去した後、再度、解重合反応させて、例えばポリエチレンテレフタレートの場合は、ジメチルテレフタレートとエチレングリコールのモノマーに戻した後、再重合して出来た樹脂ポリマーチップを利用するものである。マテリアルリサイクルとケミカルリサイクルとでは原料精製の程度が違い、マテリアルリサイクルはチップの産業用途への利用が限定的になるのに対して、ケミカルリサイクルチップはほぼ汎用的に利用できる。
本発明は上記マテリアルリサイクルおよびケミカルリサイクルに好適なものである。特にケミカルリサイクルに対しては必須のものである。なぜなら、ケミカルリサイクルの過程ではウレタン成分が存在する場合、環境負荷や作業安全性に悪影響を与える硝酸系ガスの発生を伴なうからである。本発明はこの点に対して好適なものである。
【実施例】
【0017】
以下、本発明を実施例に基づいて更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。尚、本発明で用いられる各種特性の測定方法は以下の通りである。
(1)平均粒子径
堀場製作所製の自動粒径測定装置(型番:CAPA−300)を用い、分散媒を水とした光透過法遠心沈殿法によりディスク回転速度3000rpmで測定し、容積基準のメディアン径で表した。
(2)表面繊維層および裏面繊維層を構成する繊維の単繊維繊度
JIS L1015−A法で測定した。
(3)中間スクリム層を構成する繊維の総繊度
JIS L1013−B法で測定した。
【0018】
(4)耐摩耗性
JIS L1096法(マーチンデール法)に準じ、20000回磨耗後にスクリムが露出しない場合を合格(○もしくは◎)とし、測定結果としてスクリムが露出した磨耗回数に応じて下記の基準で判断した。
×:10000回でスクリムが露出する。
△:10000回ではスクリム露出しないが20000回でスクリムが露出する。
○:20000回ではスクリム露出しないが30000回でスクリムが露出する。
◎:30000回でスクリムが露出しない。
(5)柔軟度
JIS L−1079−A法(45°カンチレバー法)で測定し、加えて実際の手持ち感を官能評価して硬いと判断したものを×とする。
【0019】
(6)外観
官能評価で判断し、起毛感があり、表面が綺麗になびく状態で、風合いがよい場合を良好とする。
(7)リサイクル容易性
使用原材料で判断し、ウレタン成分など熱硬化性樹脂成分を含む場合は不良、含まない場合は良好とする。
【0020】
[実施例1]
直接紡糸法によって単繊維繊度0.17dtexの極細ポリエチレンテレフタレート繊維を製造し、長さ5mmに切断して主体短繊維とした。この主体短繊維を水中に分散させてスラリーを作製した。このスラリーから抄造法によって目付100g/m2の表面繊維層用抄造シートを作製した。裏面繊維層としてこの主体短繊維を水中に分散させてスラリーを作製した後、抄造法によって目付50g/m2の裏面繊維層用抄造シートを作製した。
表面繊維層用抄造シートと裏面繊維用抄造シートの間に166dtex/48fのポリエチレンテレフタレート糸から成る目付100g/m2の織物スクリムを挿入し、3層積層体を作製した。
この3層積層体へ直進流噴射ノズルを用いた高速水流を噴射して絡合させて交絡一体化した後に、エアースルー方式のピンテンター乾燥機を用いて100℃で乾燥して3層構造の人工皮革用原反を得た。
【0021】
この原反の表面繊維層の表面を400メッシュのサンドペーパーでバフィングすることによって起毛処理した後に、熱可塑性樹脂として平均粒子径1.0μm、融点160℃のポリエチレン及びポリブチレンテレフタレート共重合樹脂を用いたエマルジョン(濃度10%)を原反にピックアップ100%で含浸させ、ピンテンター乾燥機を用いて180℃で熱処理することで乾燥及び熱可塑性樹脂の熱融着処理を行った。
次いで分散染料を用い、液流染色機にて130℃で染色しスエード調の人工皮革を得た。得られた人工皮革の評価結果を表1に示す。
【0022】
[実施例2]
熱可塑性樹脂エマルジョンの平均粒子径を3.2μmとしたことを除いて、実施例1と同様にスエード調の人工皮革を得た。得られた人工皮革の評価結果を表1に示す。
【0023】
[実施例3]
直接紡糸法によって単繊維繊度0.22dtexの極細ナイロン6繊維を製造し、長さ5mmに切断して主体短繊維とした。この主体短繊維を水中に分散させてスラリーを作製した。このスラリーから抄造法によって目付100g/m2の表面繊維層用抄造シートを作製した。裏面繊維層としてこの主体繊維を水中に分散させてスラリーを作製した後、抄造法によって目付50g/m2の裏面繊維層用抄造シートを作製した。
表面繊維層用抄造シートと裏面繊維用抄造シートの間に166dtex/48fのナイロン6糸から成る目付100g/m2の織物スクリムを挿入し、3層積層体を作製した。
この3層積層体へ直進流噴射ノズルを用いた高速水流を噴射して絡合させて交絡一体化した後に、エアースルー方式のピンテンター乾燥機を用いて100℃で乾燥して3層構造の人工皮革用原反を得た。
【0024】
この原反の表面繊維層の表面を400メッシュのサンドペーパーでバフィングすることによって起毛処理した後に、熱可塑性樹脂として平均粒子径1.0μm、融点150℃のナイロン6及びナイロン12共重合樹脂を用いたエマルジョン(濃度10%)を原反にピックアップ100%で含浸させ、ピンテンター乾燥機を用いて180℃で熱処理することで乾燥及び熱可塑性樹脂の熱融着処理を行った。
次いで酸性染料を用い、液流染色機にて120℃で染色し、スエード調の人工皮革を得た。得られた人工皮革の評価結果を表1に示す。
【0025】
[比較例1]
熱可塑性樹脂として平均粒子径7.0μm、融点160℃のポリエチレン及びポリブチレンテレフタレート共重合樹脂を用いたことを除いて、実施例1と同様にスエード調の人工皮革を得た。得られた人工皮革の評価結果を表1に示す。
【0026】
[比較例2]
熱可塑性樹脂の代わりにウレタン樹脂を用いたことを除いて、実施例1と同様にスエード調の人工皮革を得た。但し、ウレタン樹脂エマルジョンには、マイグレーションを防ぐため5%の硫酸ナトリウム塩を添加する熱ゲル化の処方を施した。
得られた人工皮革の評価結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明で得られた人工皮革(合成皮革)は衣料および手袋などの雑貨、家具、カーシート並びにプリンターロールなどに使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織シート状物をバインダーで処理してなる人工皮革において、平均粒子径が5.0μm以下の熱可塑性樹脂エマルジョンをバインダーとして用いることを特徴とする人工皮革。
【請求項2】
熱可塑性樹脂エマルジョンがポリエステル系樹脂またはポリアミド系樹脂である請求項1に記載の人工皮革。
【請求項3】
不織シート状物が表面繊維層および中間スクリム層の少なくとも2層構造からなる請求項1または2に記載の人工皮革。
【請求項4】
スエード調である請求項3に記載の人工皮革。

【公開番号】特開2012−201994(P2012−201994A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−66402(P2011−66402)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】