説明

リソグラフィ装置及びデバイスの製造方法

【課題】投影光学系と基板との衝突の低減に有利なリソグラフィ装置を提供する。
【解決手段】ステージに保持された基板の上の複数の計測点の高さを計測する計測部と、基板を保持して前記光学系の光軸に平行な方向に第1ストロークで移動する微動ステージと、微動ステージを保持して光学系の光軸に平行な方向に第1ストロークより大きい第2ストロークで移動する調整ステージと、調整ステージが移動しないように機械的に調整ステージを固定する固定機構と、を含み、制御部は、基板に前記パターンを転写する前に、計測部で計測された複数の計測点の高さで代表される基板の仮想平面が水平になるように、且つ、仮想平面が光学系の最も基板側の面と基板との間であって第1ストロークから決まる初期位置に位置するように調整ステージを移動させ、仮想平面を初期位置に位置させた後に固定機構によって調整ステージを固定するリソグラフィ装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リソグラフィ装置及びデバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスなどの製造に用いられるリソグラフィ装置の1つとして、原版(マスク又はレチクル)を用いることなく、複数の電子線(荷電粒子線)によって基板にパターンを転写(描画)するマルチ電子線露光装置が提案されている(特許文献1参照)。かかるマルチ電子線露光装置は、基板を保持して移動する基板ステージを有し、基板ステージに保持された基板の高さ(厚さ)や傾きに応じて基板の位置を調整(補正)しながら基板にパターンを転写する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−7538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
マルチ電子線露光装置では、電子線を基板に投影する光学系の下面と基板との間の間隔が極めて小さくなり、基板の位置の調整に必要とされる基板ステージのストローク(光学系の光軸に平行な方向への移動可能範囲)より小さくなっている。従って、基板にパターンを転写する際に、何らかの理由(基板ステージの故障や基板ステージを制御する制御系の故障など)で基板ステージの制御ができなくなった場合には、光学系の下面と基板とが衝突する可能性がある。このような問題は、マルチ電子線露光装置だけではなく、パターンを転写するためのエネルギーを基板ステージに保持された基板に投影する光学系の下面と基板との間の間隔が小さくなっているようなリソグラフィ装置に生じるものである。
【0005】
本発明は、このような従来技術の課題に鑑みてなされ、パターンを転写するためのエネルギーを基板に投影する光学系と基板との衝突の低減に有利なリソグラフィ装置を提供することを例示的目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の一側面としてのリソグラフィ装置は、基板にパターンを転写するリソグラフィ装置であって、前記基板を保持して移動するステージと、前記パターンを転写するためのエネルギーを前記ステージに保持された前記基板に投影する光学系と、前記ステージに保持された前記基板の上の複数の計測点の高さを計測する計測部と、前記ステージを制御する制御部と、を有し、前記ステージは、前記基板を保持して前記光学系の光軸に平行な方向に第1ストロークで移動する微動ステージと、前記微動ステージを保持して前記光学系の光軸に平行な方向に前記第1ストロークより大きい第2ストロークで移動する調整ステージと、前記調整ステージが移動しないように機械的に前記調整ステージを固定する固定機構と、を含み、前記制御部は、前記基板に前記パターンを転写する前に、前記計測部で計測された前記複数の計測点の高さで代表される前記基板の仮想平面が水平になるように、且つ、前記仮想平面が前記光学系の最も基板側の面と前記基板との間であって前記第1ストロークから決まる初期位置に位置するように前記調整ステージを移動させ、前記仮想平面を前記初期位置に位置させた後に前記固定機構によって前記調整ステージを固定することを特徴とする。
【0007】
本発明の更なる目的又はその他の側面は、以下、添付図面を参照して説明される好ましい実施形態によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、例えば、パターンを転写するためのエネルギーを基板に投影する光学系と基板との衝突の低減に有利なリソグラフィ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一側面としての電子線露光装置の構成を示す図である。
【図2】図1に示す電子線露光装置の調整ステージ及び調整ステージ駆動機構の構成を示す図である。
【図3】図1に示す電子線露光装置の動作を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施の形態について説明する。なお、各図において、同一の部材については同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0011】
図1は、本発明の一側面としての電子線露光装置1の構成を示す図である。電子線露光装置1は、複数の電子線(荷電粒子線)を用いて基板にパターンを転写(描画)するリソグラフィ装置である。電子線露光装置1は、電子光学系101と、計測部106と、レーザ干渉計107と、真空チャンバ108と、除振マウント109とを有する。また、電子線露光装置1は、主制御部100と、微動ステージ制御部113と、調整ステージ制御部114と、粗動ステージ制御部115と、基板ステージ130とを有する。なお、図1に示すように、電子光学系101の光軸AXに平行な方向をZ軸方向、Z軸方向に垂直な方向、且つ、基板ステージ130の移動方向をY軸方向、Z軸及びY軸に垂直な方向をX軸方向とする。なお、当然のことながら、Z軸と光軸AXとの平行度や3軸間の垂直度は、本発明の効果が得られる程度にずれていてもよい。
【0012】
電子光学系101は、パターンを転写するためのエネルギーとして、パターンを反映する電子線を基板102に投影する光学系であり、真空チャンバ108に固定される。真空チャンバ108は、除振マウント109に支持される。真空チャンバ108の内部は、真空ポンプ(不図示)によって、真空状態に維持される。
【0013】
基板ステージ130は、真空チャンバ108の内部に配置され、基板102を保持して移動する機能を有する。基板ステージ130は、微動ステージ103と、微動ステージ駆動機構104と、調整ステージ116と、調整ステージ駆動機構117と、固定機構118と、粗動ステージ105とを含む。
【0014】
微動ステージ103は、微動ステージ制御部113の制御下において、微動ステージ駆動機構104に駆動(6軸駆動)され、本実施形態では、基板102を保持して微小ストローク(第1ストローク)で移動する。6軸駆動は、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向への移動のための駆動と、それら3軸の軸回りの回転のための駆動とを含む。
【0015】
調整ステージ116は、調整ステージ制御部114の制御下において、調整ステージ駆動機構117に駆動(6軸駆動)され、本実施形態では、微動ステージ103を保持して微動ステージ103のストロークより大きいストローク(第2ストローク)で移動する。但し、Z軸回りの回転の駆動は、本発明で注目している高さ方向(Z軸方向)に関係しない。そのため、Z軸回り(光軸AX又は光軸AXと平行な軸回り)の回転の駆動は、微動ステージ103のZ軸回りの回転の駆動だけで構成することも可能である。コストの面からも調整ステージ駆動機構117は、Z軸回りの駆動以外の5軸駆動で構成することが好ましい。
【0016】
微動ステージ及び粗動ステージの2つのステージだけの構成の場合、基板の受け渡しのために微動ステージのZ軸方向の移動ストロークを大きくする必要があった。微動ステージが下がった状態で、基板を吸着するピンが基板を支持したまま露出する。そして、基板と微動ステージとの間に搬送用ハンドが入り、基板を受け取るためである。しかし、光学系の下面と基板との間の間隔が小さくなっている場合、微動ステージの駆動は、制御的にストロークを短くする構成よりも、機構的にストロークを短くする構成の方が衝突の可能性をより低減することができる。一方、基板の受け渡しは必要であるため、本実施形態では、駆動ストロークが大きく、実際の露光時には、機構的に固定されて移動が不能状態で、且つ、駆動制御対象ともならない調整ステージ116が設けられている。
【0017】
図2は、調整ステージ116及び調整ステージ駆動機構117の構成を示す図である。図2(a)は調整ステージ116及び調整ステージ駆動機構117の上面図、図2(b)は調整ステージ116及び調整ステージ駆動機構117の正面図、図2(c)は調整ステージ駆動機構117の具体的な構成を示す図である。調整ステージ116には、図2(a)及び図2(b)に示すように、3つの調整ステージ駆動機構117が設けられている。従って、調整ステージ116は、後述するように、微動ステージ103に保持された基板102の位置(Z軸方向の位置)及び傾きを調整(補正)することができる。調整ステージ駆動機構117は、例えば、図2(c)に示すように、リニアガイド131、直動アクチュエータ133、傾斜かわし機構134などで構成されるが、これに限定されるものではない。また、固定機構118は、調整ステージ116が移動しないように機械的に調整ステージ116を固定する。
【0018】
粗動ステージ105は、微動ステージ103及び調整ステージ116を保持し、粗動ステージ制御部115の制御下において、X軸方向及びY軸方向に移動する。即ち、粗動ステージ105は、光軸AXと交わる平面内で2軸に駆動される。
【0019】
レーザ干渉計107は、基板ステージ130の位置、具体的には、微動ステージ103の位置を計測する。図1では、レーザ干渉計107として、微動ステージ103のY軸方向の位置を計測するレーザ干渉計のみが図示されているが、実際には、微動ステージ103のX軸方向の位置及びZ軸方向の位置を計測するレーザ干渉計も設けられている。従って、レーザ干渉計107は、微動ステージ103の6軸方向の位置を計測することができる。
【0020】
計測部106は、基板ステージ130(微動ステージ103)に保持された基板102の上の複数の計測点の高さを計測する。計測部106は、その計測結果(計測部106で計測された基板102の上の複数の計測点の高さ)を主制御部100に入力する。主制御部100では、計測部106の計測結果に基づいて、基板102の上の複数の計測点の高さで代表される(即ち、複数の計測点の高さから近似される)基板の仮想平面が算出される。また、電子線露光装置1には、基板102の上のアライメントマークの位置を計測するアライメント計測系(不図示)も設けられている。
【0021】
主制御部100は、CPUやメモリなどを含み、電子線露光装置1の全体(動作)を制御する。本実施形態では、主制御部100は、微動ステージ制御部113、調整ステージ制御部114及び粗動ステージ制御部115と協同して、基板ステージ130(の移動)を制御する。
【0022】
以下、図3を参照して、電子線露光装置1の動作を説明する。まず、図3(a)に示すように、微動ステージ103に保持された基板102が計測部106の視野内に位置する(配置される)ように、粗動ステージ105を移動させる。そして、微動ステージ103に保持された基板102の上の複数の計測点の高さを計測部106で計測し、かかる計測結果を主制御部100に入力して基板102の仮想平面121を算出する。
【0023】
次いで、図3(b)に示すように、基板102の仮想平面121が水平になるように、且つ、基板102の仮想平面121が初期位置120に位置するように、調整ステージ116を移動させる。換言すれば、微動ステージ103に保持された基板102の仮想平面121が初期位置120に一致するように、調整ステージ116によって、基板102のZ軸方向の位置及び傾きを調整(補正)する。但し、基板102の仮想平面121と初期位置120とを一致させても、基板102の実際の平面が電子光学系101の像面に位置しているわけではない。従って、基板102にパターンを転写する際には、後述するように、微動ステージ103による基板102のZ軸方向の位置及び傾きを調整(補正)が必要となる。また、基板102の仮想平面121を初期位置120に位置させた後に、固定機構118によって調整ステージ116を固定する。
【0024】
ここで、初期位置120は、電子光学系101の最も基板側の面(下面)と微動ステージ103に保持された基板102との間であって微動ステージ103のストロークから決まる位置に設定される。また、微動ステージ103のZ軸方向(電子光学系101の光軸AXに平行な方向)のストロークは、基板102の位置(Z軸方向の位置)や傾きを調整する際に、電子光学系101の最も基板側の面(下面)に衝突しないように設定される。具体的には、微動ステージ103のZ軸方向のストロークは、電子光学系101の下面と基板102の仮想平面121を初期位置120に位置させた基板102の表面との間の間隔より小さくなるように設定される。一方、調整ステージ116のZ軸方向のストロークは、少なくとも、微動ステージ103に保持された基板102の仮想平面121を初期位置120に位置させることができるように設定される。
【0025】
次に、図3(c)に示すように、微動ステージ103に保持された基板102が電子光学系101の下に位置するように、粗動ステージ105を移動させる。そして、微動ステージ103に保持された基板102の表面が電子光学系101の像面に位置するように微動ステージ103を移動させながら、電子光学系101からの電子線によって基板102にパターンを転写(描画)する。換言すれば、微動ステージ103に保持された基板102の表面が電子光学系101の像面に一致するように、微動ステージ103によって、基板102のZ軸方向の位置及び傾きを調整(補正)しながら、基板102にパターンを転写する。この際、微動ステージ103のZ軸方向のストロークは、電子光学系101の下面と基板102の仮想平面121を初期位置120に位置させた基板102の表面との間の間隔より小さくなるように設定されている。従って、微動ステージ103、微動ステージ駆動機構104、微動ステージ制御部113などの故障などで微動ステージ103の制御ができなくなったとしても、微動ステージ103に保持された基板102と電子光学系101の下面とが衝突することはない。また、固定機構118によって調整ステージ116は機械的に固定されているため、調整ステージ116の制御ができなくなったとしても、基板102と電子光学系101の下面とが衝突することはない。
【0026】
このように、本実施形態の電子線露光装置1では、基板102にパターンを転写する前に、基板102の仮想平面121が水平になるように、且つ、初期位置120に位置するように調整ステージ116を移動させる。そして、基板102の仮想平面121を初期位置120に位置させた後に、固定機構118によって調整ステージ116を固定する。これにより、電子線露光装置1では、電子光学系101からの電子線を用いて基板102にパターンを転写する際に、基板102と電子光学系101の下面とが衝突することを回避(低減)することができる。従って、電子線露光装置1は、高いスループットで経済性よく高品位なデバイス(半導体集積回路素子、液晶表示素子等)を提供することができる。ここで、デバイスは、電子線露光装置1を用いてフォトレジスト(感光剤)が塗布された基板(ウエハ、ガラスプレート等)を露光する工程と、露光された基板を現像(加工)する工程と、その他の周知の工程と、を経ることにより製造される。
【0027】
なお、本実施形態では、調整ステージ116を移動させることによって基板102の仮想平面121と初期位置120とを一致させている。但し、その移動量が少ない場合には、微動ステージ103を移動させることによって基板102の仮想平面121と初期位置120とを一致させてもよい。また、ロット内での基板102の基板の高さ(厚さ)や傾きのばらつきが小さい場合には、図3(a)及び図3(b)に示す動作を基板ごとではなく、ロットごとに行うようにしてもよい。
【0028】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されないことはいうまでもなく、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、本発明は、電子線露光装置以外のリソグラフィ装置、例えば、原版(レチクル又はマスク)のパターンを通過した光を基板に投影する投影光学系を備えた露光装置にも適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板にパターンを転写するリソグラフィ装置であって、
前記基板を保持して移動するステージと、
前記パターンを転写するためのエネルギーを前記ステージに保持された前記基板に投影する光学系と、
前記ステージに保持された前記基板の上の複数の計測点の高さを計測する計測部と、
前記ステージを制御する制御部と、
を有し、
前記ステージは、
前記基板を保持して前記光学系の光軸に平行な方向に第1ストロークで移動する微動ステージと、
前記微動ステージを保持して前記光学系の光軸に平行な方向に前記第1ストロークより大きい第2ストロークで移動する調整ステージと、
前記調整ステージが移動しないように機械的に前記調整ステージを固定する固定機構と、
を含み、
前記制御部は、前記基板に前記パターンを転写する前に、前記計測部で計測された前記複数の計測点の高さで代表される前記基板の仮想平面が水平になるように、且つ、前記仮想平面が前記光学系の最も基板側の面と前記基板との間であって前記第1ストロークから決まる初期位置に位置するように前記調整ステージを移動させ、前記仮想平面を前記初期位置に位置させた後に前記固定機構によって前記調整ステージを固定することを特徴とするリソグラフィ装置。
【請求項2】
前記第1ストロークは、前記光学系の最も基板側の面と前記仮想平面を前記初期位置に位置させた基板の表面との間の間隔より小さいことを特徴とする請求項1に記載のリソグラフィ装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記基板の表面が前記光学系の像面に位置するように前記微動ステージを移動させながら前記基板に前記パターンを転写することを特徴とする請求項1又は2に記載のリソグラフィ装置。
【請求項4】
前記ステージは、前記調整ステージを保持して移動する粗動ステージを更に有し、
前記制御部により、前記微動ステージは6軸に駆動され、前記調整ステージは前記光軸又は前記光軸に平行な軸回りの駆動以外の5軸に駆動され、前記粗動ステージは前記光軸と交わる平面内の2軸に駆動されることを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか1項に記載のリソグラフィ装置。
【請求項5】
前記光学系は、前記パターンを転写するためのエネルギーとして、前記パターンを反映する電子線を前記基板に投影することを特徴とする請求項1乃至4のうちいずれか1項に記載のリソグラフィ装置。
【請求項6】
前記光学系は、前記パターンを転写するためのエネルギーとして、前記パターンを有する原版を通過した光を前記基板に投影することを特徴とする請求項1乃至4のうちいずれか1項に記載のリソグラフィ装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のうちいずれか1項に記載のリソグラフィ装置を用いて基板にパターンを転写するステップと、
前記パターンが転写された基板を加工するステップと、
を有することを特徴とするデバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−46044(P2013−46044A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−185253(P2011−185253)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】