説明

リソソーム病の検出方法

【課題】リソソーム病についての高精度、高感度、簡便、迅速的かつ安価な検出方法及びキットを提供することを目的とする。
【解決手段】ムコ多糖症I、II、IIIまたはVII型に罹患している可能性のある動物由来の血液検体中におけるヘパラン硫酸を測定し、その測定結果とムコ多糖症I、II、IIIまたはVII型とを関連づけるステップを少なくとも含む、ムコ多糖症I、II、IIIまたはVII型の検出方法であって、ヘパラン硫酸の測定結果が健常動物と比して高い場合は、ムコ多糖症I、II、IIIまたはVII型に罹患している可能性が高いと関連づけ、ヘパラン硫酸の測定結果が健常動物における測定結果と同等である場合は、ムコ多糖症I、II、IIIまたはVII型ではないと関連付ける、ムコ多糖症I、II、IIIまたはVII型の検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ムコ多糖症の検出方法及び検出キットに関する。
【背景技術】
【0002】
まず、本明細書において用いる略号を説明する。
GAG:グリコサミノグリカン
KS:ケラタン硫酸
HS:ヘパラン硫酸
CS:コンドロイチン硫酸
CS−4S:コンドロイチン−4−硫酸
CS−6S:コンドロイチン−6−硫酸
DS:デルマタン硫酸(コンドロイチン硫酸Bともいう)
GSD I:グリコーゲン蓄積疾患1型
GSD II:グリコーゲン蓄積疾患2型(ポンペ病)
Hep:ヘパリン
HA:ヒアルロン酸
LIPO:リポフシノーシス
MPS:ムコ多糖症
ML:ムコリピドーシス
MLD:メタクロマティック・ロイコジストロフィー
NP:ニーマン・ピック病
TS:タイ・サックス病
【0003】
リソソーム病(lysosomal storage diseases)は、リソソームに存在する酵素の異常に起因する疾患である。
ムコ多糖症(mucopolysaccharidoses)は、リソソーム病の一種であり、GAGの分解代謝に関係する酵素の障害(活性低下)によって起こる一連の遺伝病の総称である。障害される酵素の種類に応じて特異的なGAGが組織中に蓄積し、体液中に分泌されることが知られている。ムコ多糖症の臨床症状は多様だが、多くは、粗な顔貌、多発性骨異常や内臓腫大を伴う。また聴力低下、心血管障害や精神発達の遅れを伴う場合もある。
ムコ多糖症の型とこれに対応して蓄積されるGAGとの関係は、表1−1の通りであることが知られている(非特許文献1等参照)。
【0004】
【表1】

【0005】
【表2】

【0006】
しかし、上記のムコ多糖症のそれぞれにおいて、上記のGAGのみならずそれ以外のGAGについても体液中に多量に排出されていることは知られていなかった。
【0007】
また特許文献1には、第一受容体(抗KS抗体、抗CS抗体、抗HS抗体などの抗GAG抗体)が固着した固相体と、第一リガンド(KS、CS、HSなどのGAG)を含む検体とを接触させ、第一受容体と第一リガンドとの複合体の形成を第一標識物質で標識された第一受容体で検出することにより、検体中の第一リガンドを測定する方法が開示されている。そして、この方法によればGAGに関連する疾患(モルキオ症、ハーラー症などのムコ多糖症など)の一次スクリーニングを簡便に行うことができる旨の開示がある。
【0008】
しかしこの文献にも、前記のムコ多糖症のそれぞれにおいて、前記したGAG以外の種類のGAGが体液中に排出されていることについては記載も示唆もない。そして、単一種類のGAGを測定することによって、前記のムコ多糖症の分類(型)を問わず、全種類のムコ多糖症を検出しうることについての記載も示唆もない。
【0009】
ムコリピドーシス(mucolipidoses)もリソソーム病の一種であり、ムコ多糖症と同様の臨床症状がみられる疾患である。ムコリピドーシスの型に関しては表1−2の通りであることが知られている。
【0010】
また、GM1ガングリオシドーシス(GM1 gangliosidosis)及びフコシドーシス(fucosidosis)もリソソーム病の一種であって、前者はβ−ガラクトシダーゼの障害によってGM1ガングリオシド、β−ガラクトース残基を持つオリゴ糖や糖タンパク質が蓄積する疾患であり、後者はα−フコシダーゼの障害によってα−フコース残基を持つオリゴ糖や糖タンパク質が蓄積する疾患である。
【0011】
また、ガラクトシアリドーシス(galactosialidosis)もリソソーム病の一種であって、β−ガラクトシダーゼ(β−galactosidase)やα-ノイラミニダーゼ(α−neuraminidase)の障害や、これらの酵素の安定化に関与するカテプシンA(cathepsin A)の障害によって、シアリルオリゴ糖(sialyloligosaccharide)やGM1ガングリオシドーシス(GM1 gangliosidosis)におけるのと同様の物質が蓄積する疾患である。
【0012】
さらに、以下の疾患もリソソーム病の一種である。
メタクロマティック・ロイコジストロフィー(Metachromatic Leukodystrophy)は、アリールスルファターゼA(arylsulfatase A)の障害によって、スルファチド(sulphatides)が蓄積する疾患である。
ニーマン・ピック(Niemann−Pick)病は、スフィンゴミエリン(sphingomyelin)が蓄積する疾患である。
【0013】
このうち、B型は酸性スフィンゴミエリナーゼ(acid sphingomyelinase)の障害によるものであり、C型はコレステロールのエステル化の障害(cholesterol esterification defect)によるものである。
タイ・サックス(Tay−Sachs)病は、N−アセチル−β−D−グルコサミニダーゼA(N−acetyl−β−D−glucosaminidase A)のα−サブユニットの障害によって、GM2ガングリオシド(GM2 ganglioside)が蓄積する疾患である。
【0014】
サンドホッフ(Sandhoff)病は、N−アセチル−β−D−グルコサミニダーゼA及びB(N−acetyl−β−D−glucosaminidase A and B)のβ−サブユニットの障害によって、GM2ガングリオシド(GM2 ganglioside)が蓄積する疾患である。
【0015】
GM2ガングリオシドーシス(GM2 gangliosidosis)は、GM2活性化タンパク質(GM2 activator protein)の障害によって、GM2ガングリオシド(GM2 ganglioside)が蓄積する疾患である。
クラッベ(Krabbe)病は、β−D−ガラクトセレブロシダーゼ(β−D−galactocerebrosidase)の障害によって、ガラクトセレブロシド(galactocerebroside)が蓄積する疾患である。
【0016】
ファブリー(Fabry)病は、α−D−ガラクトシダーゼ(α−D−galactosidase)の障害によって、グロボシド(globosides)が蓄積する疾患である。
【0017】
ガウチャー(Gaucher)病は、β−D−グルコセレブロシダーゼ(β−D−glucocerebrosidase)の障害によって、グルコシルセラミド(glucosylceramide)が蓄積する疾患である。
【0018】
グリコーゲン蓄積疾患1型(glycogen storage disease type 1)は、グルコース−6−フォスファターゼの障害によって、グリコーゲン(glycogen)が蓄積する疾患である。
【0019】
グリコーゲン蓄積疾患2型(glycogen storage disease type 2)はポンペ病(Pompe disease)とも呼ばれ、α−D−グルコシダーゼ(α−D−glucosidase)の障害によって、グリコーゲン(glycogen)が蓄積する疾患である。
【0020】
リポフシノーシス(lipofuscinoses)は、パルミトイル-プロテイン チオエステラーゼ(palmitoyl−protein thioesterase)やトリペプチジルアミノペプチダーゼ-I(tripeptidyl amino peptidase−I)の障害によって引き起こされる疾患である。
これらの疾患についても、GAGが体液中に多量に排出されていることは知られていなかった。
【0021】
以下、ムコ多糖症、ムコリピドーシス、GM1ガングリオシドーシス、フコシドーシス、ガラクトシアリドーシス、メタクロマティック・ロイコジストロフィー、ニーマン・ピック病、タイ・サックス病、サンドホッフ病、GM2ガングリオシドーシス、クラッベ病、ファブリー病、ガウチャー病、グリコーゲン蓄積疾患及びリポフシノーシスをまとめて「ムコ多糖症等」という。
【0022】
ムコ多糖症等は通常、出生時には症状がなく、乳幼児期や小児期における身長の発達の低さ、骨の異常な発育、毛深さ等の症状によって明らかとなる。また、出生時においては正常でも、数年にわたって次第に精神発達の遅れを来す場合もある。したがって、未だ臨床症状が現れない出生後の早期にムコ多糖症等の診断がなされれば、早期に酵素補充療法、遺伝子治療、骨髄移植等を実施でき、精神発達の遅れ等をくい止めることができる可能性がある。従って、全ての新生児についてムコ多糖症等の診断が行われることが最も望ましい。
【0023】
しかし、例えば日本国における新生児数は年間100万人を超える一方、ムコ多糖症等の発生頻度は4万〜5万人に1人と極めて低く、しかも診断は酵素欠損や酵素異常を調べるという煩雑かつ高価なものであることから、その診断の前段階として、精度の高いスクリーニング法が求められている。すなわち、ムコ多糖症等の患者を漏れなく、高精度、高感度、簡便、迅速かつ安価に検出できる方法が提供されれば、全新生児についてムコ多糖症等の可能性の存否を調べることが可能となり、ムコ多糖症等の患者について漏れなく、的確な確定診断を経て早期に治療することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】特開平10−153600号公報
【非特許文献】
【0025】
【非特許文献1】The metabolic and molecular bases of inherited disease,7th edn.,Scriver CR,Beaudet AL,Sly WS,Valle D(eds),1995,McGraw−Hill,New York
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
本発明は、リソソーム病についての高精度、高感度、簡便、迅速的かつ安価な検出方法及びキットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、従来、ムコ多糖症の型(分類)に応じて特定種類のGAGが体液中に多量に排出されると考えてられてきたところ、実はそれ以外の種類のGAGについても体液中に多量に排出されている事実を発見した。
さらに、ムコリピドーシス、GM1ガングリオシドーシス、フコシドーシス、ガラクトシアリドーシス、メタクロマティック・ロイコジストロフィー、ニーマン・ピック病、タイ・サックス病、サンドホッフ病、GM2ガングリオシドーシス、クラッベ病、ファブリー病、ガウチャー病、グリコーゲン蓄積疾患及びリポフシノーシスなどのリソソーム病についてもGAGが体液中に多量に排出されている事実を発見した。そして、これに基づいてリソソーム病についての高精度、高感度、簡便、効率的かつ安価な検出方法及びキットを提供するに至り、本発明を完成した。
【0028】
すなわち本発明は、検体中の単一種類のGAGを測定し、その測定結果とリソソーム病とを関連づけるステップを少なくとも含む、リソソーム病の検出方法(以下、本発明方法という)を提供する。
本発明方法における「リソソーム病」は、ムコ多糖症、ムコリピドーシス、GM1ガングリオシドーシス、フコシドーシス、ガラクトシアリドーシス、メタクロマティック・ロイコジストロフィー、ニーマン・ピック病、タイ・サックス病、サンドホッフ病、GM2ガングリオシドーシス、クラッベ病、ファブリー病、ガウチャー病、グリコーゲン蓄積疾患及びリポフシノーシスから選ばれる1以上の疾患であることが好ましい。
本発明方法における検体は、体液であることが好ましく、尿又は血液であることがより好ましい。
また本発明方法における単一種類のGAGの測定は、GAG含有分子に特異的に結合するポリペプチドを用いて行われることが好ましい。
【0029】
なかでも下記(1)及び(2)の工程を少なくとも含む工程によって行われることが好ましい。
(1)「GAG含有分子に特異的に結合する第1のポリペプチドが固着された固相」、「検体」及び「GAG含有分子に特異的に結合する第2のポリペプチド」を接触させ、「固相に固着された前記第1のポリペプチド−検体中のGAG含有分子−第2のポリペプチド」からなるサンドイッチ状複合体を形成させる工程。
(2)工程(1)において形成されたサンドイッチ状複合体を検出する工程。
【0030】
そのなかでも特に、下記(1)〜(3)の工程を少なくとも含む工程によって行われることが好ましい。
(1)「GAG含有分子に特異的に結合する第1のポリペプチドが固着された固相」に「検体」を接触させて、「固相に固着された第1のポリペプチド−検体中のGAG含有分子」からなる複合体を形成させる工程。
(2)前記固相に、「GAG含有分子に特異的に結合する第2のポリペプチド」を接触させ、「固相に固着された前記第1のポリペプチド−検体中のGAG含有分子−第2のポリペプチド」からなるサンドイッチ状複合体を形成させる工程。
(3)工程(2)において形成されたサンドイッチ状複合体を検出する工程。
前記の「第2のポリペプチド」は、標識物質で標識されているか又は標識されることが好ましい。
【0031】
また、下記(1)及び(2)の工程を少なくとも含む工程によって行われることも好ましい。
(1)「GAG含有分子に特異的に結合する第3のポリペプチド」、「検体」及び「GAG含有分子が固着された固相」を接触させ、「固相に固着されたGAG含有分子−第3のポリペプチド」からなる第1の複合体及び「検体中のGAG含有分子−第3のポリペプチド」からなる第2の複合体を形成させる工程。
(2)工程(1)において形成された「固相に固着されたGAG含有分子−第3のポリペプチド」からなる第1の複合体及び「検体中のGAG含有分子−第3のポリペプチド」からなる第2の複合体の少なくとも一方の複合体を検出する工程。
【0032】
そのなかでも特に、下記(1)〜(3)の工程を少なくとも含む工程によって行われることが好ましい。
(1)「GAG含有分子に特異的に結合する第3のポリペプチド」と「検体」とを接触させて、「第3のポリペプチド−検体中のGAG含有分子」からなる第1の複合体を形成させる工程。
(2)「GAG含有分子が固着された固相」に、工程(1)によって得られた「『第1の複合体』と『第1の複合体を形成しなかった第3のポリペプチド』とを含有する混合物」を接触させ、「固相に固着されたGAG含有分子−第3のポリペプチド」からなる第2の複合体を形成させる工程。
(3)工程(2)において形成された第2の複合体を検出する工程。
【0033】
この第2の複合体の検出は、「第3のポリペプチドに特異的に結合する第4のポリペプチドであって、標識物質で標識されているもの又は標識されるもの」を用いて行われることが好ましい。
【0034】
また、これらの方法に用いられる「ポリペプチド」は、抗体又はその抗原結合部位を有するポリペプチドであることが好ましい。
【0035】
本発明方法における「単一種類のGAG」は、硫酸基を有するGAGであることが好ましい。硫酸基を有するGAGは、KS、HS、CS又はDSであることが好ましい。本発明方法は、なかでも「硫酸基を有するGAG」がKSであって、かつ「ムコ多糖症」がI型、II型、III型、VI型及びVII型から選ばれる1以上のムコ多糖症であるものが好ましい。また、「硫酸基を有するGAG」がKSであって、かつ、ムコリピドーシスがII型及びIII型から選ばれる1以上のムコリピドーシスであるものが好ましい。また、「硫酸基を有するGAG」がHSであって、かつ「ムコ多糖症」がIV型及びVI型から選ばれる1以上のムコ多糖症であるもの、「硫酸基を有するGAG」がHSであって、かつ、「リソソーム病」がムコリピドーシス、メタクロマティック・ロイコジストロフィー、ニーマン・ピック病、タイ・サックス病、サンドホッフ病、GM2ガングリオシドーシス、クラッベ病、ファブリー病、ガウチャー病、グリコーゲン蓄積疾患及びリポフシノーシスから選ばれる1以上の疾患であるもの、「硫酸基を有するGAG」がCSであって、かつ「ムコ多糖症」がI型、II型、III型、IV型及びVI型から選ばれる1以上のムコ多糖症であるもの、及び「硫酸基を有するGAG」がDSであって、かつ「ムコ多糖症」がIII型及びIV型から選ばれる1以上のムコ多糖症であるものも好ましい。
【0036】
また本発明は、下記の構成成分を少なくとも含み、検体中の単一種類のGAGの測定結果に基づいてムコ多糖症、ムコリピドーシス、GM1ガングリオシドーシス、フコシドーシス、ガラクトシアリドーシス、メタクロマティック・ロイコジストロフィー、ニーマン・ピック病、タイ・サックス病、サンドホッフ病、GM2ガングリオシドーシス、クラッベ病、ファブリー病、ガウチャー病、グリコーゲン蓄積疾患及びリポフシノーシスから選ばれる1以上の疾患を検出するためのキット(以下、本発明キットという)を提供する。
(A)GAG含有分子に特異的に結合する第1のポリペプチドが固着された固相、及び、
(B)GAG含有分子に特異的に結合する第2のポリペプチドであって、標識物質で標識されているもの又は標識されるもの。
【0037】
本発明キットは、下記の構成成分を少なくとも含むものであってもよい。
(A)GAG含有分子が固着された固相、
(B)GAG含有分子に特異的に結合する第3のポリペプチド、及び、
(C)第3のポリペプチドに特異的に結合する第4のポリペプチドであって、標識物質で標識されているもの又は標識されるもの
これらのポリペプチドは、抗体又はその抗原結合部位を有するポリペプチドであることが好ましい。
【0038】
本発明キットにおける「単一種類のGAG」は、硫酸基を有するGAGであることが好ましい。硫酸基を有するGAGは、KS、HS、CS又はDSであることが好ましい。本発明キットは、なかでも「硫酸基を有するGAG」がKSであって、かつ「ムコ多糖症」がI型、II型、III型、VI型及びVII型から選ばれる1以上のムコ多糖症であるものが好ましい。また、「硫酸基を有するGAG」がKSであり、かつ、ムコリピドーシスがII型及びIII型から選ばれる1以上のムコリピドーシスであるものが好ましい。
また、「硫酸基を有するGAG」がHSであって、かつ「ムコ多糖症」がIV型及びVI型から選ばれる1以上のムコ多糖症であるもの、「硫酸基を有するGAG」がHSであって、かつ、「リソソーム病」がムコリピドーシス、メタクロマティック・ロイコジストロフィー、ニーマン・ピック病、タイ・サックス病、サンドホッフ病、GM2ガングリオシドーシス、クラッベ病、ファブリー病、ガウチャー病、グリコーゲン蓄積疾患及びリポフシノーシスから選ばれる1以上の疾患であるもの、「硫酸基を有するGAG」がCSであって、かつ「ムコ多糖症」がI型、II型、III型、IV型及びVI型から選ばれる1以上のムコ多糖症であるもの、及び「硫酸基を有するGAGがDS」であって、かつ「ムコ多糖症」がIII型及びIV型から選ばれる1以上のムコ多糖症であるものも好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】ヒトの尿中のKSの測定結果を示す図である。
【図2】ヒトの尿中のHSの測定結果を示す図である。
【図3】ヒトの尿中のCSの測定結果を示す図である。
【図4】ヒトの尿中のDSの測定結果を示す図である。
【図5】ヒトの尿中のKSの測定結果を示す図である。
【図6】ヒトの血漿中のKSの測定結果を示す図である。
【図7】ヒトの血漿中のKSの測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下に、本発明の実施の形態を説明する。
<1>本発明方法
本発明方法は、検体中の単一種類のGAGを測定し、その測定結果とリソソーム病とを関連づけるステップを少なくとも含む、リソソーム病の検出方法である。
本発明方法は、好ましくは、検体中の単一種類のGAGを測定し、その測定結果とムコ多糖症、ムコリピドーシス、GM1ガングリオシドーシス、フコシドーシス、ガラクトシアリドーシス、メタクロマティック・ロイコジストロフィー、ニーマン・ピック病、タイ・サックス病、サンドホッフ病、GM2ガングリオシドーシス、クラッベ病、ファブリー病、ガウチャー病、グリコーゲン蓄積疾患及びリポフシノーシスから選ばれる1以上の疾患とを関連づけるステップを少なくとも含む、ムコ多糖症、ムコリピドーシス、GM1ガングリオシドーシス、フコシドーシス、ガラクトシアリドーシス、メタクロマティック・ロイコジストロフィー、ニーマン・ピック病、タイ・サックス病、サンドホッフ病、GM2ガングリオシドーシス、クラッベ病、ファブリー病、ガウチャー病、グリコーゲン蓄積疾患及びリポフシノーシスから選ばれる1以上の疾患の検出方法である。
【0041】
本発明方法は、検体中の複数種類のGAGを測定するのではなく「単一種類」のGAGを測定することによって、ムコ多糖症を検出する点に大きな特徴がある。従来は、ムコ多糖症の型(分類)によって蓄積・排出されるGAGの種類がまちまちであると考えられていたため、ある1種類のGAG(例えばKS)の測定結果が陰性であったとしても、他の種類のGAG(例えばHS、CS、DSなど)についても測定しなければムコ多糖症の可能性が否定できないと考えられてきた。すなわち、ムコ多糖症を検出するためには1つの検体について複数種類のGAGを測定せねばならないと考えられてきたのである。
これに対し、本発明方法は「単一種類のGAG」の測定のみをもってムコ多糖症との関連づけを可能とするものである。さらにムコ多糖症に止まらず、ムコリピドーシス、GM1ガングリオシドーシス、フコシドーシス、ガラクトシアリドーシス、メタクロマティック・ロイコジストロフィー、ニーマン・ピック病、タイ・サックス病、サンドホッフ病、GM2ガングリオシドーシス、クラッベ病、ファブリー病、ガウチャー病、グリコーゲン蓄積疾患及びリポフシノーシスから選ばれる1以上の疾患との関連づけをも可能とするものである。
【0042】
本発明方法における「検体」は特に限定されないが、体液であることが好ましい。「体液」は、リソソーム病において蓄積されたGAGが含有されている、あるいはその可能性がある体液である限りにおいて特に限定されない。このような体液としては、例えば尿、血液(本明細書では、血清及び血漿を含む概念として用いる)、唾液、汗、涙液、関節液、軟骨の抽出液、細胞の培養上清等を挙げることができる。なかでも尿又は血液は新生児からも採取しやすく、現に通常の新生児検査においても採取されていることから好ましい。
【0043】
「体液」として「血液」を用いる場合、採取した血液を処理せずそのまま用いてもよく、この血液から得られる血清や血漿を用いても良いが、血清又は血漿を用いることが好ましい。また、血液から親水性成分を抽出し、その抽出物溶液に含まれるGAGを測定してもよい。親水性成分の抽出方法は特に限定されないが、例えば市販の濾紙に血液を滴下し、その濾紙から親水性成分を抽出することによって行うことができる。濾紙からの親水性成分の抽出は、血液が滴下された濾紙を水性溶液中に浸すこと等によって簡便に行うことができる。
「体液」が採取される対象も、リソソーム病に罹患する可能性がある動物である限りにおいて特に限定されないが、リソソーム病に罹患する可能性がある哺乳動物が好ましく、なかでもヒトが好ましい。ヒトのなかでも特に出生直後〜6ヶ月程度の新生児が好ましい。
【0044】
本発明方法における「単一種類のGAG」とは、文字通り1種類のGAGを意味するものである。GAGに他の成分が結合しているか否かは問わない。よって、GAGに他の成分が結合して複合体を形成しているような場合における「単一種類のGAG」とは、その複合体中に存在する「単一種類のGAG」を意味することになる。例えば、GAGがタンパク質と結合して「プロテオグリカン」を形成している場合における「単一種類のGAG」とは、そのプロテオグリカン分子中の「単一種類のGAG」を意味することとなる。
「GAG」としては、KS、HS、CS、DS(コンドロイチン硫酸Bと呼ばれる場合もある)、Hep、HA等が例示されるが、硫酸基を有するGAGであることが好ましい。なかでもKS、HS、CS又はDSであることが好ましく、KS又はHSであることがより好ましく、KSであることが特に好ましい。
そして、このようなGAGにタンパク質が結合した「プロテオグリカン」としては、例えばデコリン(コアタンパク質にDSが結合している)、アグリカン(コアタンパク質にCS及びKSが結合している)、バーシカン(コアタンパク質にDSが結合している)、ケラトカン(コアタンパク質にKSが結合している)、シンデカン(コアタンパク質にCS及びHSが結合している)、パールカン(コアタンパク質にHSが結合している)等を例示することができる。
【0045】
検体中に含まれるこれら単一種類のGAGの「測定」の方法は、GAGを検出しうる方法である限りにおいて特に限定されない。なお、本発明方法における「測定」とは、GAGを定量的に検出することのみならず、定性的に検出すること(GAGの存否を検出すること)をも含む概念である。
単一種類のGAGの測定(特定種類のGAGの測定)は、例えば以下の方法で行うことができる。
i) GAGに特異的に結合するポリペプチドを用いる方法。
ii) 各種クロマトグラフィーを用いて分析する方法。クロマトグラフィーの方法は特に限定されず、ガスクロマトグラフィー法、液体クロマトグラフィー法をはじめとする各種のクロマトグラフィー法を用いることができる。例えば、特定種類のGAGに特異的な分解酵素を検体中のGAGに作用させ、これによって生ずる分解産物(二糖)のイオン交換カラムからの溶出時間を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて分析する方法(二糖分析)が例示される。
iii)特定種類のGAGに特異的な分解酵素を検体中のGAGに作用させ、GAGの分解の有無及び程度を、GAGに反応する色素を用いて分析する方法。
iv) 特定種類のGAGに特異的な分解酵素を検体中のGAGに作用させ、GAGの分解の有無及び程度を、当該GAGに特異的に結合するポリペプチドを用いて分析する方法。
このiv)の方法は、後述の実施例1にも記載されている。
v) マススペクトロメトリーによって分析する方法。マススペクトロメトリーの方法は特に限定されず、タンデムマススペクトロメトリー法(MS/MS)、MALDI−TOFMS法等をはじめとする各種マススペクトロメトリー法を用いることができる。
これらのなかでも、GAGに特異的に結合するポリペプチドを用いて行われることが好ましい。
【0046】
この「ポリペプチド」は、抗体又はその抗原結合部位(Fab)を有するポリペプチドであることが好ましい。「抗体のFabを有するポリペプチド」としては、例えば、抗体のFabを含むフラグメントが例示される。Fabを含むフラグメントは、例えばFabを分解しないプロテアーゼ(例えばプラスミン、ペプシン、パパイン等)で抗体を処理することによって製造することができる。「Fabを含むフラグメント」としては、Fab以外に、Fabc、(Fab')等が例示される。
また「抗体のFabを有するポリペプチド」としては、例えば、目的とするFabを有するキメラ抗体を挙げることができる。抗体をコードする遺伝子の塩基配列や抗体のアミノ酸配列が決定されれば、目的とするFab部位を有するキメラ抗体や、目的とするFab部位を含むフラグメント等を遺伝子工学的に製造することができる。
【0047】
この「ポリペプチド」は、予め精製されているものが好ましい。例えば、ポリペプチドが「抗体」であって、その免疫グロブリンクラスがIgGである場合にはプロテインAやプロテインGを用いたアフィニティークロマトグラフィー等によって精製することができる。また、抗体の免疫グロブリンクラスがIgMである場合には、ゲル濾過カラムクロマトグラフィー等によって精製することができる。
ここで用いる「抗体」は、「単一種類のGAG」に特異的に結合する抗体である限りにおいて特に限定されず、ポリクローナル、モノクローナルのいずれであってもよいが、特異性、均質性、再現性、大量かつ永続的な生産性等の観点からモノクローナル抗体であることが好ましい。
【0048】
「抗体」は、公知の方法(例えば、抗KS抗体については、J.Biol.Chem.258(1983)p8848−8854に記載の方法、抗CS抗体については、J.Biol.Chem.262(1987)p4146−4152に記載の方法等)を参照して製造することができる。また、以下の一般的な製造方法によっても製造することができる。
1)ポリクローナル抗体の製造方法:
抗原を、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ウマ、ブタ、イヌ、ネコ、ニワトリ等の被免疫動物の皮下、腹腔内、足蹠(footpad)等に投与する。
被免疫動物を免疫する際に、補助剤(アジュバント)を併用することは、抗体産生細胞を賦活するので望ましい。また初回免疫後、2〜3週目に常法によって追加免疫を行うと力価の高い抗血清が得られる。最終免疫から約1週間後に血液を採取し、血清を分離する。この血清を熱処理して補体を失活させた後、通常の抗体の精製方法によって免疫グロブリン画分を精製してもよい。
2)モノクローナル抗体の製造方法:
モノクローナル抗体は、KohlerとMilsteinの方法(Nature 256,495−497(1975))によって作製することができる。
【0049】
例えば抗原をマウス、ラット、モルモット、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ウマ、ブタ、イヌ、ネコ、ニワトリ等の被免疫動物の腹腔内、皮下、足蹠(footpad)等に投与する。
被免疫動物から脾臓細胞、リンパ細胞、末梢血液等を採取し、これらと腫瘍細胞株であるミエローマ細胞とを細胞融合させてハイブリドーマを調製する。なお細胞融合に用いるミエローマ細胞は、種々の哺乳動物の細胞株を利用することができるが、被免疫動物と同種の動物の細胞株を用いることが好ましい。またミエローマ細胞は、細胞融合の後に未融合細胞と融合細胞とを区別できるようにするために、未融合のミエローマ細胞が生存できずハイブリドーマだけが増殖できるように、マーカーを有するものを用いることが好ましい。またミエローマ細胞は、固有の免疫グロブリンを分泌しない株を使用することが、ハイブリドーマの培養上清から目的の抗体を取得することが容易となる点で好ましい。
得られたハイブリドーマを連続増殖させ、抗原に対して特異的に結合する抗体を継続的に産生するハイブリドーマ株を選別する。
【0050】
こうして選別されたハイブリドーマ株を好適な培地で培養することによって、培地中にモノクローナル抗体が得られる。なお、マウスの腹腔などの生体内にて前記ハイブリドーマ株を培養し、腹水等から単離することによって、モノクローナル抗体を大量に製造することもできる。このようにして得られたモノクローナル抗体は、通常の抗体の精製方法によって精製してもよい。
抗体の免疫グロブリンクラスは特に限定されないが、IgGであることが好ましい。免疫グロブリンクラスがIgGである抗体は、抗IgG抗体を用いたスクリーニングによって取得することができる。
【0051】
「単一種類のGAG」の説明については前記の通りである。したがって「GAGに特異的に結合するポリペプチド」としては、硫酸基を有するGAGに特異的に結合するポリペプチドが好ましく、KS、HS、CS又はDSに特異的に結合するポリペプチドがより好ましく、KS又はHSに特異的に結合するポリペプチドが特に好ましく、KSに特異的に結合するポリペプチドが極めて好ましい。
【0052】
「GAGに特異的に結合するポリペプチド」としては、例えば以下のような市販のものを用いることもできる。なお、カッコ内は免疫グロブリンの由来動物及びクラスを示す。
【0053】
KSに特異的に結合するポリペプチド:抗KS抗体「5D4」(マウス、IgG1)。「5D4」はKSに特異的に結合するモノクローナル抗体である。
【0054】
HSに特異的に結合するポリペプチド:抗HS抗体「HepSS−1」(マウス、IgM)、「F58−10E4」(マウス、IgM)、「HK−249」(マウス、IgM)及び「F69−3G10」(マウス、IgG2b)、「JM403」(マウス、IgM(Diabetologia,37(3),p313−320(1994)))。これらはいずれもHSに特異的に結合するモノクローナル抗体である。
【0055】
DS及びCSに特異的に結合するポリペプチド:抗CS抗体「CS−56」(マウス、IgM)、「MO−225」(マウス、IgM)、「MC21C」(マウス、IgM)、「LY111」(マウス、IgM)、「1−B−5」(マウス、IgG1)、「2−B−6」(マウス、IgG1)、「3−B−3」(マウス、IgM)、「2H6」(マウス、IgM)及び「473」(マウス、IgA)。これらはいずれもCSに特異的に結合するモノクローナル抗体である。
以上の抗体はいずれも公知であり、またJM403以外については生化学工業株式会社(東京)から市販されていることから、当業者が適宜作製し又は入手することができる。
【0056】
単一種類のGAGの測定を、GAGに特異的に結合するポリペプチドを用いて行う方法としては、例えば以下のものを挙げることができる。
i) 第1のポリペプチドが固着された固相に検体を接触させ、次いでこれに第2のポリペプチドを接触させることによって、サンドイッチ状複合体を形成させ、この複合体を検出する方法(いわゆるサンドイッチ法)。
ii)固相に固着させたGAG含有分子、検体及びポリペプチド(検体及びポリペプチドは、予め接触させておいてもよい)の共存下で、固相に固着させたGAG含有分子と検体中のGAG含有分子とを競合させ、固相に結合したポリペプチドを検出することによって検体中のGAG量を求める方法(いわゆる阻害法)。
iii)ポリペプチドを固着させた微粒子に検体を接触させ、次いでこれにポリペプチドを接触させることによって微粒子を凝集させて、この凝集物(または沈殿物)を検出する方法(いわゆる凝集法)。
【0057】
本発明方法は、なかでもサンドイッチ法によって行われることが好ましい。すなわち本発明方法は、下記(1)及び(2)の工程を少なくとも含む工程によって行われることが好ましい。
(1)「GAG含有分子に特異的に結合する第1のポリペプチドが固着された固相」、「検体」及び「GAG含有分子に特異的に結合する第2のポリペプチド」を接触させ、「固相に固着された前記第1のポリペプチド−検体中のGAG含有分子−第2のポリペプチド」からなるサンドイッチ状複合体を形成させる工程。
(2)工程(1)において形成されたサンドイッチ状複合体を検出する工程。
この工程(1)は、「GAG含有分子に特異的に結合する第1のポリペプチドが固着された固相」、「検体」及び「GAG含有分子に特異的に結合する第2のポリペプチド」の3者を同時に接触させてもよく、前2者を接触させた後にこれを後1者に接触させてもよく、また、後2者を接触させた後に前1者に接触させてもよい。この本発明方法は、なかでも前2者を接触させた後にこれを後1者に接触させることが好ましい。すなわち、下記(1)〜(3)の工程を少なくとも含む工程によって行われることがより好ましい。
【0058】
(1)「GAG含有分子に特異的に結合する第1のポリペプチドが固着された固相」に「検体」を接触させて、「固相に固着された第1のポリペプチド−検体中のGAG含有分子」からなる複合体を形成させる工程。
(2)前記固相に、「GAG含有分子に特異的に結合する第2のポリペプチド」を接触させ、「固相に固着された前記第1のポリペプチド−検体中のGAG含有分子−第2のポリペプチド」からなるサンドイッチ状複合体を形成させる工程。
(3)工程(2)において形成されたサンドイッチ状複合体を検出する工程。
【0059】
以下、この方法を各工程ごとに詳述する。
工程(1)
工程(1)は、「GAG含有分子に特異的に結合する第1のポリペプチドが固着された固相」に「検体」を接触させて、「固相に固着された第1のポリペプチド−検体中のGAG含有分子」からなる複合体を形成させる工程である。
【0060】
(1)−1 GAG含有分子に特異的に結合する第1のポリペプチド
本明細書において「GAG含有分子」とは、GAGを成分として含有する分子を意味する。このような分子としては、GAG分子自体(他の成分を含まない)のほか、プロテオグリカン分子等が例示される。
【0061】
ここで用いる「第1のポリペプチド」は、後述する「第2のポリペプチド」と同一であっても異なっていてもよいが、いずれか一方はGAG(GAG分子自体)に特異的に結合するポリペプチドであることを要する。
【0062】
「GAG(GAG分子自体)に特異的に結合するポリペプチド」の説明については前記の通りである。また、「GAG含有分子(GAG分子自体を除く)に特異的に結合するポリペプチド」としては、例えばプロテオグリカンのコアタンパク質部分に特異的に結合する抗体を例示することができる。このような抗体としては、「6−B−6」(マウス、IgG1)(抗デコリン抗体)、「2−B−1」(マウス、IgG1)(抗バーシカン抗体)、「HK−102」(マウス、IgG2b)(抗パールカン抗体)、「1−G−2」(マウス、IgG1)(抗ニューロカン抗体)、「6−B−4」(マウス、IgM)(抗フォスファカン抗体)等が例示される。なお、カッコ内は免疫グロブリンの由来動物及びクラスである。
【0063】
これらはいずれもプロテオグリカンのコアタンパク質部分に特異的に結合するモノクローナル抗体である。これらの抗体は、いずれも生化学工業株式会社(東京)から市販されており、入手可能である。
【0064】
例えば検体として「血液」を用いる場合、血液中のGAGはプロテオグリカンとして存在していると考えられることから、第1のポリペプチド又は後述する第2のポリペプチドのいずれか一方に「GAG含有分子(GAG分子自体を除く)に特異的に結合するポリペプチド」を採用することができる。ただしこの場合、他方のポリペプチドとして「GAG(GAG分子自体)に特異的に結合するポリペプチド」を採用することが必要である。
【0065】
(1)−2 固相
第1のポリペプチドを固着する固相は、ポリペプチドを固着させることができ、かつ、水、検体または測定反応液に不溶性である限りにおいて特に限定されない。固相の形状としては、プレート(例えばマイクロプレートのウエル等)、チューブ、ビーズ、メンブレン、ゲル、微粒子状固相担体(ゼラチン粒子、カオリン粒子、ラテックス等の合成ポリマー粒子等)等を例示することができる。なかでも、正確な定量性と使用上の簡便性の点から、マイクロプレートが望ましい。
【0066】
固相の材質としては、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ニトロセルロース、ナイロン、ポリアクリルアミド、テフロン(登録商標)、ポリアロマー、ポリエチレン、ガラス、アガロース等が例示される。これらの中でも、ポリスチレンを材質としたプレートが好ましい。
【0067】
これらの固相に第1のポリペプチドを固着させる方法としては、物理的吸着法、共有結合法、包括法などの固定化酵素の調製法として一般的な方法(固定化酵素、1975年、講談社発行、第9〜75頁参照)を応用することができる。
【0068】
これらの中でも、物理的吸着法が、操作が簡便かつ頻用されていることから好ましい。
物理的吸着の具体的方法を例示すると以下の通りである。ここでは、第1のポリペプチドとして「抗KS抗体」を用いた場合の例を示す。
【0069】
抗KS抗体をpH7〜9程度の緩衝液(例えばリン酸緩衝液、リン酸緩衝食塩液(PBS)、炭酸緩衝液等)に溶解して固相(例えばマイクロプレート)に加え、37℃程度で1〜2時間保存するか、4℃程度で一晩保存して固着させる。
【0070】
また、第1のポリペプチドを固着させた固相の表面には、これらが固着していない表面部分が残存している場合があり、そこに検体中に存在するGAG含有分子が非特異的に固着すると正確な測定結果が得られなくなるおそれがある。よって、検体を固相と接触させる前にブロッキング物質を添加して、第1のポリペプチドが固着していない部分を被覆しておくことが好ましい。このようなブロッキング物質としては、血清アルブミン、カゼイン、スキムミルク、ゼラチン、プルロニック等が挙げられ、また、ブロッキング物質として市販されているものを使用することもできる。
【0071】
ブロッキングの方法として具体的には、ブロッキング物質を添加して、37℃程度で30分〜2時間保存するか、常温(15〜25℃)で1〜2時間保存する方法を例示することができる。
【0072】
(1)−3 検体
前記の説明と同様である。
(1)−4 固相と検体との接触
固相と検体との接触方法は、当該固相に固着された第1のポリペプチド分子と、検体中に存在するGAG含有分子とが接触する状態となる限りにおいて特に限定されない。例えば、固相に検体を添加して接触させても良く、また検体に固相を添加して接触させても良く、別体の容器に両者を同時に添加しても良い。接触の方法はこれらに限定されるものではなく、固相の形状や材質等に応じて当業者が適宜決定することができる。
【0073】
これら両者を接触させた後、第1のポリペプチドと検体中のGAG含有分子とを十分に結合させるために、例えば4〜37℃、好ましくは37℃で1時間程度反応させることが好ましい。
【0074】
この反応後に固相と液相を分離する。必要に応じて固相の表面を洗浄液で洗浄し、非特異的吸着物や反応しなかった検体中の成分を除去することが好ましい。
【0075】
洗浄液としては、例えば、トゥイーン(Tween)系界面活性剤等の非イオン性界面活性剤を添加した緩衝液(例えばリン酸緩衝液、PBS、トリス塩酸緩衝液等)を用いることが好ましい。
【0076】
第1のポリペプチドが固着された固相に検体を接触させることによって、「固相に固着された第1のポリペプチド−検体中のGAG含有分子」からなる複合体が形成される。
【0077】
工程(2)
工程(2)は、工程(1)を経た前記固相に、GAG含有分子に特異的に結合する第2のポリペプチドを接触させ、「固相に固着された第1のポリペプチド−検体中のGAG含有分子−第2のポリペプチド」からなるサンドイッチ状複合体を形成させる工程である。
【0078】
(2)−1 GAG含有分子に特異的に結合する第2のポリペプチド
前記の「第1のポリペプチド」の説明と同様である。
この第2のポリペプチドは、検出を容易とするために標識物質で標識されているか又は標識されることが好ましい。標識に用いることができる標識物質は、通常のタンパク質の標識に使用可能なものであれば特に限定されないが、例えば酵素(ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、アセチルコリンエステラーゼ、グルコースオキシダーゼなど)、放射性同位元素(125I、131I、Hなど)、蛍光色素(フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、7−アミノ−4−メチルクマリン−3−酢酸(AMCA)、ジクロロトリアジニルアミノフルオレセイン(DTAF)、テトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC)、リスアミンローダミンB(Lissamine Rhodamine B)、テキサスレッド(Texas Red)、フィコエリスリン(Phycoerythrin;PE)、ウンベリフェロン、ユーロピウム、フィコシアニン、トリカラー、シアニンなど)、化学発光物質(ルミノールなど)、ハプテン(ジニトロフルオロベンゼン、アデノシン一リン酸(AMP)、2,4−ジニトロアニリンなど)、特異的結合対(ビオチンとアビジン類(ストレプトアビジンなど)、レクチンと糖鎖、アゴニストとアゴニストの受容体、ヘパリンとアンチトロンビンIII(ATIII)、多糖類とその結合タンパク質(ヒアルロン酸とヒアルロン酸結合性タンパク質(HABP)など)のいずれか一方の物質等が例示される。
【0079】
これらの標識物質のなかでも、特異的結合対の一方の物質を用いることが好ましく、ビオチンとアビジン類のいずれか一方の物質を用いることがより好ましい。特に、ビオチンを用いることが好ましい。
【0080】
第2のポリペプチドを標識物質で標識する方法は、標識物質に適した公知の方法、例えば酵素で標識する場合はグルタルアルデヒド法、過ヨウ素酸架橋法、マレイミド架橋法、カルボジイミド法、活性化エステル法など、放射性同位元素で標識する場合はクロラミンT法、ラクトペルオキシダーゼ法など(続生化学実験講座2「タンパク質の化学(下)」、東京化学同人(1987年)参照)から適宜選択することができる。例えば標識物質としてビオチンを使用する場合は、ビオチンのN−ヒドロキシサクシミドエステル誘導体又はヒドラジド誘導体を用いる方法(Avidin−Biotin Chemistry:A Handbook,p57−63,PIERCE CHEMICAL COMPANY,1994年発行参照)を用いることができる。
この第2のポリペプチドは、標識物質で予め標識されていることが好ましい。
【0081】
(2)−2 工程(1)を経た前記固相と第2のポリペプチドとの接触
前記(1)−4と同様に行うことができる。反応後に固相と液相を分離する点、及び必要に応じて固相の表面を洗浄液で洗浄して非特異的吸着物や反応しなかった検体中の成分を除去することが好ましい点についても(1)−4と同様である。また、用いることができる洗浄液についても(1)−4と同様である。
【0082】
工程(1)を経た前記固相(「固相に固着された第1のポリペプチド−検体中のGAG含有分子」からなる複合体が形成されている)に、GAG含有分子に特異的に結合する第2のポリペプチドを接触させることによって、「固相に固着された前記第1のポリペプチド−検体中のGAG含有分子−第2のポリペプチド」からなるサンドイッチ状複合体が形成される。
【0083】
工程(3)
工程(3)は、工程(2)において形成されたサンドイッチ状複合体を検出する工程である。
サンドイッチ状複合体の検出方法は特に限定されない。例えば第2のポリペプチドが標識物質で標識されている場合には、当該標識物質を検出することによって、当該複合体を検出することができる。
【0084】
標識物質を検出する方法は、標識物質の種類に応じた公知の検出手段を適宜選択することができる。例えば、標識物質として特異的結合対の一方の物質(例えばビオチン)を使用した場合には、これに特異的に結合する他方の物質(例えばストレプトアビジン)を結合させた酵素(例えばペルオキシダーゼ等)を添加して、特異的結合対を形成せしめる。
次いで、これに該酵素の基質(例えば過酸化水素(酵素がペルオキシダーゼの場合))及び発色物質(例えば3,3’,5,5’−テトラメチルベンチジン(TMB)や、ジアミノベンチジン等)を添加して、酵素反応による生成物の発色の度合いを吸光度で測定することによって、標識物質を検出することができる。
【0085】
また、例えば標識物質として放射性同位元素、蛍光色素又は化学発光物質を使用した場合には、放射能のカウント、蛍光強度、蛍光偏光、発光強度等を測定する方法などが例示される。
【0086】
このような標識物質の検出を介してサンドイッチ状複合体を検出することができ、これによって検体中の単一種類のGAG(特定種類のGAG)を測定することができる。この方法はサンドイッチ法であることから、標識物質が多く検出されたとすれば、それだけサンドイッチ状複合体の量が多いこと、すなわち検体中の単一種類のGAG量が多いこと意味することになる。
【0087】
GAGの定性的な測定(GAGの存否の検出)を所望する場合には、標識物質の検出の有無をそのままGAGの測定結果とすることができる。
【0088】
また、GAGの定量的な測定(GAGの濃度の測定など)を所望する場合には、吸光度、放射能のカウント、蛍光強度、発光強度などをそのままGAG量の指標とすることができる。また、既知濃度のGAG標準溶液を用いてGAG濃度と標識物質の検出結果(例えば吸光度)との関係について予め検量線又は関係式を作成しておき、これを用いて検体中のGAG濃度を求めることもできる。また検体として尿を用いた場合には、求められたGAG濃度を、尿中に含まれるクレアチニンなどの他の成分の濃度を基準に補正をしてもよい。
【0089】
また本発明方法は、阻害法によって行われることも好ましい。すなわち本発明方法は、下記(1)及び(2)の工程を少なくとも含む工程によって行われることもより好ましい。
(1)「GAG含有分子に特異的に結合する第3のポリペプチド」、「検体」及び「GAG含有分子が固着された固相」を接触させ、「固相に固着されたGAG含有分子−第3のポリペプチド」からなる第1の複合体及び「検体中のGAG含有分子−第3のポリペプチド」からなる第2の複合体を形成させる工程。
(2)工程(1)において形成された「固相に固着されたGAG含有分子−第3のポリペプチド」からなる第1の複合体及び「検体中のGAG含有分子−第3のポリペプチド」からなる第2の複合体の少なくとも一方の複合体を検出する工程。
【0090】
この工程(1)では、「GAG含有分子に特異的に結合する第3のポリペプチド」、「検体」及び「GAG含有分子が固着された固相」の3者を同時に接触させてもよく、前2者を接触させた後にこれを後1者に接触させてもよく、また、後2者を接触させた後に前1者に接触させてもよい。この本発明方法は、なかでも、前2者を接触させた後にこれを後1者に接触させることが好ましい。
【0091】
またこの工程(2)では、「固相に固着されたGAG含有分子−第3のポリペプチド」からなる第1の複合体及び「検体中のGAG含有分子−第3のポリペプチド」からなる第2の複合体の、前者のみを検出してもよく、後者のみを検出してもよく、またこれらの両方を検出してもよい。この本発明方法は、なかでも前者のみを検出することが好ましい。
【0092】
すなわち、下記(1)〜(3)の工程を少なくとも含む工程によって行われることがより好ましい。
(1)「GAG含有分子に特異的に結合する第3のポリペプチド」と「検体」とを接触させて、「第3のポリペプチド−検体中のGAG含有分子」からなる第1の複合体を形成させる工程。
(2)GAG含有分子が固着された固相に、工程(1)によって得られた「『第1の複合体』と『第1の複合体を形成しなかった第3のポリペプチド』とを含有する混合物」を接触させ、「固相に固着されたGAG含有分子−第3のポリペプチド」からなる第2の複合体を形成させる工程。
(3)工程(2)において形成された第2の複合体を検出する工程。
この第2の複合体の検出は、「第3のポリペプチドに特異的に結合する第4のポリペプチドであって、標識物質で標識されているもの又は標識されるもの」を用いて行われることが好ましい。
【0093】
以下、この方法を各工程ごとに詳述する。
工程(1)
工程(1)は、「GAG含有分子に特異的に結合する第3のポリペプチド」と「検体」とを接触させて、「第3のポリペプチド−検体中のGAG含有分子」からなる第1の複合体を形成させる工程である。
【0094】
「GAG含有分子に特異的に結合する第3のポリペプチド」については、前記の「GAG(GAG分子自体)に特異的に結合するポリペプチド」の説明と同様である。また検体についても前記の説明と同様である。第3のポリペプチドと検体との接触方法も、第3のポリペプチド分子と、検体中に存在するGAG含有分子とが接触する状態となる限りにおいて特に限定されない。
【0095】
第3のポリペプチドと検体とを接触させることによって、「第3のポリペプチド−検体中のGAG含有分子」からなる第1の複合体が形成される。その結果、工程(1)によって「『第3のポリペプチド−検体中のGAG含有分子からなる第1の複合体』と『第1の複合体を形成しなかった第3のポリペプチド』とを含有する混合物」が得られる。
【0096】
工程(2)
工程(2)は、GAG含有分子が固着された固相に、工程(1)によって得られた「『第1の複合体』と『第1の複合体を形成しなかった第3のポリペプチド』とを含有する混合物」を接触させ、「固相に固着されたGAG含有分子−第3のポリペプチド」からなる第2の複合体を形成させる工程である。
【0097】
GAG含有分子を固着する固相は、GAG含有分子を固着させることができ、かつ、水、検体または測定反応液に不溶性である限りにおいて特に限定されない。他の点については、前記の説明と同様である。
【0098】
また、固相に固着するGAG含有分子についても前記の説明と同様である。なお、固相に固着するGAG含有分子は、第3のポリペプチドが特異的に結合する部位(一部分)を有している限りにおいて特に限定されない。すなわち、GAG含有分子そのものは勿論、GAG含有分子をGAGに特異的な分解酵素によって処理して得られる断片であってもよい。
【0099】
固相にGAG含有分子を固着させる方法も、物理的吸着法、共有結合法などの一般的な方法を採用することができる。なかでも、物理的吸着法が、操作が簡便かつ頻用されていることから好ましい。
【0100】
GAG含有分子が固着された固相と、工程(1)によって得られた混合物との接触も、前記と同様に行うことができる。反応後に固相と液相を分離する点、及び必要に応じて固相の表面を洗浄液で洗浄して非特異的吸着物や反応しなかった検体中の成分を除去することが好ましい点についても前記と同様である。また、用いることができる洗浄液についても前記と同様である。
【0101】
GAG含有分子が固着された固相と、工程1によって得られた混合物とを接触させることによって、「第1の複合体を形成しなかった第3のポリペプチド」が固相のGAG含有分子に特異的に結合し、「固相に固着されたGAG含有分子−第3のポリペプチド」からなる第2の複合体が形成される。
【0102】
工程(3)
工程(3)は、工程(2)において形成された第2の複合体を検出する工程である。
この第2の複合体の検出方法も特に限定されないが、「第3のポリペプチドに特異的に結合する第4のポリペプチドであって、標識物質で標識されているもの又は標識されるもの」を用いて行われることが好ましい。
【0103】
「第3のポリペプチドに特異的に結合する第4のポリペプチド」は、第3のポリペプチドに特異的に結合するものである限りにおいて特に限定されない。例えば、第3のポリペプチドが抗体(免疫グロブリン)である場合には、当該免疫グロブリンが由来する動物及びクラス等に応じて、その免疫グロブリンに特異的に結合する抗体等が例示される。例えば、第3のポリペプチドがマウスの免疫グロブリン(マウス由来のIgG1)である場合には、第4のポリペプチドとして抗マウスIgG1抗体を用いることができる。
【0104】
また、第4のポリペプチドの標識に用いることができる標識物質も前記と同様であるが、酵素(ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、アセチルコリンエステラーゼ、グルコースオキシダーゼなど)が好ましく、なかでもペルオキシダーゼが好ましい。
【0105】
第4のポリペプチドを標識物質で標識する方法や、この標識物質を検出する方法等についても、前記の説明と同様である。ただし、この方法は阻害法であることから、標識物質が多く検出されたとすれば、それだけ検体中の「『第3のポリペプチド−検体中のGAG含有分子』からなる第1の複合体を形成しなかった第3のポリペプチド」の量が多いこと(その分、当該複合体の量が少ないこと)、すなわち検体中の単一種類のGAG量が少ないこと意味することになる。
【0106】
本発明方法において、GAGの測定結果との関連づけがなされ、かつ、検出の対象となる「リソソーム病」は、当技術分野においてリソソーム病として認識される疾患である限りにおいて特に限定されない。リソソーム病は、なかでもムコ多糖症、ムコリピドーシス、GM1ガングリオシドーシス、フコシドーシス、ガラクトシアリドーシス、メタクロマティック・ロイコジストロフィー、ニーマン・ピック病、タイ・サックス病、サンドホッフ病、GM2ガングリオシドーシス、クラッベ病、ファブリー病、ガウチャー病、グリコーゲン蓄積疾患及びリポフシノーシスから選ばれる1以上の疾患であることが好ましい。
【0107】
本発明方法において、GAGの測定結果との関連づけがなされ、かつ、検出の対象となる「ムコ多糖症」は、当技術分野においてムコ多糖症として認識される疾患である限りにおいて特に限定されないが、「I型、II型、III型、IV型、VI型及びVII型から構成される一群のムコ多糖症」であることが好ましい。
【0108】
同様に、本発明方法における「ムコリピドーシス」、「GM1ガングリオシドーシス」、「フコシドーシス」、「ガラクトシアリドーシス」、「メタクロマティック・ロイコジストロフィー」、「ニーマン・ピック病」、「タイ・サックス病」、「サンドホッフ病」、「GM2ガングリオシドーシス」、「クラッベ病」、「ファブリー病」、「ガウチャー病」、「グリコーゲン蓄積疾患」及び「リポフシノーシス」は、当技術分野においてこれらの疾患として認識されるものである限りにおいて特に限定されない。「ムコリピドーシス」についてはII型又はIII型であることが好ましい。また、「ニーマン・ピック病」についてはB型又はC型であることが好ましい。また、「ガウチャー病」についてはI型又はIII型であることが好ましい。また、「グリコーゲン蓄積疾患」については、1型又は2型であることが好ましい。
【0109】
GAGの測定結果とリソソーム病とを関連づけるステップは、以下の通り行うことができる。
前記の通り、リソソーム病の動物の検体中ではGAGが有意に増加する。よって単一種類のGAGの測定結果(GAGの量)が、健常動物(リソソーム病でない動物)における測定結果(GAGの量)に比して高い場合には、「リソソーム病である」又は「リソソーム病である可能性が高い」と関連づけることができる。
【0110】
単一種類のGAGの測定結果(GAGの量)が、健常動物における測定結果(GAGの量)と同等もしくはそれよりも低ければ、「リソソーム病ではない」又は「リソソーム病である可能性は低い」と関連づけることができる。
【0111】
また、GAGの測定結果とリソソーム病とを関連づけは「リソソーム病の可能性の有無」のみでなく、リソソーム病の進行の程度の検出も含まれる。例えばある個体の検体中のGAG量を定期的に測定し、GAG量が増加傾向にある場合には「リソソーム病が進行している」又は「リソソーム病が進行している可能性が高い」と関連づけることができる。
GAG量が減少傾向にある場合には「リソソーム病が改善方向にある」又は「リソソーム病が改善方向にある可能性が高い」と関連づけることができる。またGAG量に変化がない場合には「リソソーム病の進行(改善)に変化がない」又は「リソソーム病の進行(改善)に変化がない可能性が高い」と関連づけることができる。これにより、リソソーム病のモニタリング等に応用することができる。
【0112】
なお、リソソーム病との関連づけの基準となる測定結果(GAG量)は、前記の検量線又は関係式を用いて求めたGAG濃度であっても良く、健常動物の検体中のGAG量に対する比であっても良い。
【0113】
本発明方法における「単一種類のGAG」は、硫酸基を有するGAGであることが好ましいが、「硫酸基を有するGAG」がKSであって、かつ、検出される「ムコ多糖症」がI型、II型、III型、VI型及びVII型から選ばれる1以上のムコ多糖症であるものが好ましい。従来、I型、II型、III型、VI型及びVII型のムコ多糖症においてKSが排出されることは全く知られていなかったことから、この点は本発明のなかでも特に重要な知見である。そのなかでも、検出される「ムコ多糖症」がI型、II型、III型及びVI型から選ばれる1以上のムコ多糖症であるものが好ましい。また、「硫酸基を有するGAG」がKSであって、かつ、検出される「ムコリピドーシス」がII型及びIII型から選ばれる1以上のムコリピドーシスであるものが好ましい。
【0114】
また本発明方法は、「硫酸基を有するGAG」がHSであって、かつ、検出される「ムコ多糖症」がIV型及びVI型から選ばれる1以上のムコ多糖症であるものも好ましい。
従来、IV型及びVI型のムコ多糖症においてHSが排出されることは全く知られていなかったことから、この点も本発明のなかで特に重要な知見である。
【0115】
また本発明方法は、「硫酸基を有するGAG」がHSであって、かつ、「リソソーム病」がムコリピドーシス、メタクロマティック・ロイコジストロフィー、ニーマン・ピック病、タイ・サックス病、サンドホッフ病、GM2ガングリオシドーシス、クラッベ病、ファブリー病、ガウチャー病、グリコーゲン蓄積疾患及びリポフシノーシスから選ばれる1以上の疾患であるものも好ましい。
【0116】
また本発明方法は、「硫酸基を有するGAG」がCSであって、かつ、検出される「ムコ多糖症」がI型、II型、III型、IV型及びVI型から選ばれる1以上のムコ多糖症であるものも好ましい。従来、I型、II型、III型、IV型及びVI型のムコ多糖症においてCSが排出されることは全く知られていなかったことから、この点も本発明のなかで特に重要な知見である。
【0117】
また本発明方法は、「硫酸基を有するGAG」がDSであって、かつ、検出される「ムコ多糖症」がIII型及びIV型から選ばれる1以上のムコ多糖症であるものも好ましい。従来、III型及びIV型のムコ多糖症においてDSが排出されることは全く知られていなかったことから、この点も本発明のなかで特に重要な知見である。
【0118】
なお本発明方法はリソソーム病の「検出方法」であるが、「スクリーニング方法」や「診断方法」としての思想も包含することはいうまでもない。
【0119】
<2>本発明キット
本発明キットは、下記の構成成分を少なくとも含み、検体中の単一種類のGAGの測定結果に基づいてムコ多糖症、ムコリピドーシス、GM1ガングリオシドーシス、フコシドーシス、ガラクトシアリドーシス、メタクロマティック・ロイコジストロフィー、ニーマン・ピック病、タイ・サックス病、サンドホッフ病、GM2ガングリオシドーシス、クラッベ病、ファブリー病、ガウチャー病、グリコーゲン蓄積疾患及びリポフシノーシスから選ばれる1以上の疾患を検出するためのキットである。
【0120】
(A)GAG含有分子に特異的に結合する第1のポリペプチドが固着された固相
(B)GAG含有分子に特異的に結合する第2のポリペプチドであって、標識物質で標識されているもの又は標識されるもの
【0121】
本発明キットにおける「単一種類のGAG」、「GAG含有分子に特異的に結合する第1のポリペプチド」、「第1のポリペプチドが固着された固相」、「GAG含有分子に特異的に結合する第2のポリペプチド」、「標識物質」、標識物質によるポリペプチドの標識方法、及び検出対象となる「ムコ多糖症等」等の説明は、いずれも前記の「<1>本発明方法」における説明と同様である。この本発明キットは、サンドイッチ法によるGAGの測定を通じて、ムコ多糖症等の検出に用いることができる。
【0122】
また本発明キットは、上記の(A)及び(B)に代えて、下記の構成成分(A)、(B)及び(C)を少なくとも含むものも好ましい。
(A)GAG含有分子が固着された固相、
(B)GAG含有分子に特異的に結合する第3のポリペプチド、及び、
(C)第3のポリペプチドに特異的に結合する第4のポリペプチドであって、標識物質で標識されているもの又は標識されるもの
【0123】
この本発明キットにおける「GAG含有分子が固着された固相」、「GAG含有分子に特異的に結合する第3のポリペプチド」、「第3のポリペプチドに特異的に結合する第4のポリペプチド」、「標識物質」、標識物質によるポリペプチドの標識方法、及び検出対象となる「ムコ多糖症等」等の説明は、いずれも前記の「<1>本発明方法」における説明と同様である。この本発明キットは、阻害法によるGAGの測定を通じて、ムコ多糖症等の検出に用いることができる。
これらの本発明キットを用いたムコ多糖症等の検出は、前記の「<1>本発明方法」に従って行うことができる。
【0124】
本発明キットにおける「ポリペプチド」は、抗体又はその抗原結合部位を有するポリペプチドであることが好ましい。
【0125】
また本発明キットによる検出対象となる「ムコ多糖症」は、当技術分野においてムコ多糖症として認識される疾患である限りにおいて特に限定されず、「I型、II型、III型、IV型、VI型及びVII型から構成される一群のムコ多糖症」であることが好ましい。同様に、本発明キットにおける「ムコリピドーシス」、「GM1ガングリオシドーシス」、「フコシドーシス」、「ガラクトシアリドーシス」、「メタクロマティック・ロイコジストロフィー」、「ニーマン・ピック病」、「タイ・サックス病」、「サンドホッフ病」、「GM2ガングリオシドーシス」、「クラッベ病」、「ファブリー病」、「ガウチャー病」、「グリコーゲン蓄積疾患」及び「リポフシノーシス」は、当技術分野においてこれらの疾患として認識されるものである限りにおいて特に限定されない。「ムコリピドーシス」についてはII型又はIII型であることが好ましい。また、「ニーマン・ピック病」についてはB型又はC型であることが好ましい。また、「ガウチャー病」についてはI型又はIII型であることが好ましい。また、「グリコーゲン蓄積疾患」については、1型又は2型であることが好ましい。
【0126】
また本発明キットにおける「単一種類のGAG」は、硫酸基を有するGAGであることが好ましい。そして硫酸基を有するGAGは、KS、HS、CS又はDSであることが好ましい。
【0127】
本発明キットは、なかでも「硫酸基を有するGAG」がKSであって、かつ「ムコ多糖症」がI型、II型、III型、VI型及びVII型から選ばれる1以上のムコ多糖症であるものが好ましい。そのなかでも、検出される「ムコ多糖症」がI型、II型、III型及びVI型から選ばれる1以上のムコ多糖症であるものが好ましい。また、「硫酸基を有するGAG」がKSであって、かつ、ムコリピドーシスがII型及びIII型から選ばれる1以上のムコリピドーシスであるものが好ましい。
【0128】
また、「硫酸基を有するGAG」がHSであって、かつ「ムコ多糖症」がIV型及びVI型から選ばれる1以上のムコ多糖症であるもの、「硫酸基を有するGAG」がHSであって、かつ、「リソソーム病」がムコリピドーシス、メタクロマティック・ロイコジストロフィー、ニーマン・ピック病、タイ・サックス病、サンドホッフ病、GM2ガングリオシドーシス、クラッベ病、ファブリー病、ガウチャー病、グリコーゲン蓄積疾患及びリポフシノーシスから選ばれる1以上の疾患であるもの、「硫酸基を有するGAG」がCSであって、かつ「ムコ多糖症」がI型、II型、III型、IV型及びVI型から選ばれる1以上のムコ多糖症であるもの、及び「硫酸基を有するGAGがDS」であって、かつ「ムコ多糖症」がIII型及びIV型から選ばれる1以上のムコ多糖症であるものも好ましい。これらの点も本発明方法と同様である。
【0129】
本発明キットは、前記の構成成分を少なくとも含む限りにおいて特に限定されず、さらに検量線や関係式作成の標準となる既知濃度のGAG標準品や、標識物質の検出試薬等を構成として加えることができる。また、これらの構成の他に、前記ブロッキング物質、前記洗浄液、検体希釈液、酵素反応停止液等が含まれていてもよい。さらに本発明キットには、測定バッチ同士の実施レベルを一定水準に保つための陽性コントロール(QCコントロール)を含有させることもできる。
【0130】
これらの構成は、それぞれ別体の容器に収容しておき、使用時に本発明方法に従って使えるキットとして保存しておくことができる。
【0131】
なお本発明キットはムコ多糖症等の「検出キット」であるが、「スクリーニングキット」や「診断キット」としての思想も包含することはいうまでもない。
【0132】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0133】
ヒトの尿を検体とし、サンドイッチ法によってムコ多糖症の検出を試みた。
(1)本実施例において用いた検体、試薬等は以下の通りである。
(検体及び標準品)
I、II、III、IV又はVI型のムコ多糖症のヒト(各1名)、及び健常なヒト(ムコ多糖症ではないヒト)(2名)の尿を検体とした。
またGAGの標準品としては、以下のものを用いた。
【0134】
・HS(ウシ腎臓由来;生化学工業株式会社製)
このHSは、生化学工業株式会社の試薬カタログコード番号400700として同社から販売されているものであり、以下の性質を有する。
窒素含量:2.6〜3.2%(Z.Anal.Chem.,22,p366(1883)に記載の方法で測定)
硫黄含量:5.0〜6.0%(Mikrochim.Acta.,123(1955)に記載の方法で測定)
ウロン酸含量:28.0〜30.0%(オルシノール反応)
36.0〜40.0%(カルバゾール反応)
グルコサミン含量:30.0〜35.0%(アミノ酸自動分析器)
ガラクトサミン含量:<0.01%
【0135】
・KS(ケラタンポリ硫酸;サメ軟骨由来;生化学工業株式会社製)
このKSは、生化学工業株式会社の試薬カタログコード番号400610として同社から販売されているキットに含まれているものであり、以下の性質を有する。
窒素含量:2.58%(Z.Anal.Chem.,22,p366(1883)に記載の方法で測定)
硫黄含量:9.70%(Mikrochim.Acta.,123(1955)に記載の方法で測定)
グルコサミン含量:23.51%(アミノ酸自動分析器)
ガラクトサミン含量:0.11%(アミノ酸自動分析器)
ガラクトース含量:26.26%(Biochem.J.,50,298(1952))
【0136】
・CS(コンドロイチン硫酸D;サメ軟骨由来;生化学工業株式会社製)
このCSは、生化学工業株式会社の試薬カタログコード番号400676として同社から販売されているものであり、以下の性質を有する。
窒素含量:2.2〜2.6%(Z.Anal.Chem.,22,p366(1883)に記載の方法で測定)
硫黄含量:7.1〜7.7%(Mikrochim.Acta.,123(1955)に記載の方法で測定)
ガラクトサミン含量:30〜35%(アミノ酸自動分析器)
グルクロン酸含量:32〜35%(カルバゾール反応)
コンドロイチン硫酸Dは、「グルクロン酸残基とN−アセチルガラクトサミン残基とがβ1,3グリコシド結合した二糖単位」が連続して結合されてなる分子であって、「2位が硫酸化されたグルクロン酸残基−6位が硫酸化されたN−アセチルガラクトサミン残基」からなる二糖単位を主たる構成成分とするCSである。
【0137】
・デコリン(ウシ関節軟骨由来;シグマ社製)
【0138】
(抗体)
固相に固着させる抗KS抗体としては「5D4」(生化学工業株式会社製)を使用した。
また、ビオチン化された抗KS抗体としては「ビオチン化5D4」(生化学工業株式会社製)を使用した。
【0139】
固相に固着させる抗HS抗体としては「F58−10E4」(生化学工業株式会社製)を使用した。また、ビオチン化された抗HS抗体としては「ビオチン化F58−10E4」(生化学工業株式会社製)を使用した。
【0140】
固相に固着させる抗CS抗体としては「LY111」(生化学工業株式会社製)を使用した。また、ビオチン化された抗CS抗体としては「ビオチン化LY111」(生化学工業株式会社製)を使用した。
プロテオグリカン(デコリン)のコアタンパク質に対する抗体としては、「6−B−6」(生化学工業株式会社製)を使用した。
【0141】
(抗体が固着されたプレート)
抗体固着プレート(5D4、F58−10E4、LY111又は6−B−6が固着されたプレート)は、以下の通り作製した;
抗体をリン酸緩衝生理食塩液(PBS)に溶解してタンパク質濃度を20μg/mlに調整した。これをイムノプレート(マキシソープ;ヌンク社製)に50μl/ウエルで添加して、37℃で1.5時間インキュベートした。
インキュベート後、ウエルをPBSで2回洗浄し、ブロッキング剤(イムノアッセイスタビライザー;アプライド・バイオシステムズ社製)を200μl/ウエルで添加して、37℃にて1時間インキュベートした。
このようにして作製された抗体固着プレートは、洗浄液で3回洗浄してすぐに使用することができる。またプレートを乾燥して数ヶ月間保存した後でも使用することができる。
【0142】
(試薬等)
洗浄液(0.05% Tween20を含有するPBS)
検体希釈液(1% ウシ血清アルブミン(BSA)を含有するPBS(−))
【0143】
(2)KS測定によるムコ多糖症の検出
各検体を検体希釈液で希釈して、希釈済の検体(0.5ml)を2セットずつ用意した。一方には2.5mUのケラタナーゼII(生化学工業株式会社製)を添加し、他方にはこれを添加せずに、それぞれ室温で3時間インキュベートした。
処理後の検体を「測定用検体」とし、5D4固着プレートとビオチン化5D4を用いて、以下の方法でGAGの測定を行った。
測定用検体を50μl/ウエルで上記の抗体結合プレートに添加して、37℃で1時間インキュベートした。その後、洗浄液を200μl/ウエルで添加して4回洗浄した。
検体希釈液で0.5μg/mlに調整したビオチン化5D4を50μl/ウエルでプレートに添加して、37℃で1時間インキュベートした。その後、洗浄液を200μl/ウエルで添加して4回洗浄した。
検体希釈液で1000倍に希釈したアビジン−ペルオキシダーゼ(Vector社製)を50μl/ウエルでプレートに添加して、37℃で30分間インキュベートした。その後、洗浄液を200μl/ウエルで添加して4回洗浄した。
TMB溶液(基質)(Moss Inc)を50μl/ウエルでプレートに添加して、室温で5分間インキュベートした。その後、1M HClを50μl/ウエルで添加して酵素反応を停止させた。その後、吸光光度計を用いて450−630nmの吸光度を測定した。
【0144】
吸光度の測定結果を図1に示す。なお、それぞれの棒グラフの左側はケラタナーゼII処理していないものの結果を、右側はケラタナーゼII処理したものの結果を示す。また図1〜図4における「ブランク」は検体を添加しなかった場合の結果を、「MPS」はムコ多糖症を、「ノーマル」は健常者をそれぞれ示す。
【0145】
図1から、I型〜VI型のいずれのムコ多糖症患者の尿も、健常者に比して顕著に高い吸光度を示した。また、ケラタナーゼII(KSを特異的に分解する)で処理したものについては、いずれも同程度かつ低い吸光度を示した。これらの結果から、I型〜VI型のムコ多糖症患者の尿で示された高い吸光度はKSに起因するものであり、いずれの型のムコ多糖症患者の尿においてもKSの量が顕著に増加していることが示された。特に、I型、II型、III型及びVI型のムコ多糖症患者の尿においてもKS量が増加しているとの知見は、驚くべきものである。
したがって、体液(尿)中の単一種類のGAG(KS)の測定結果とムコ多糖症とを関連づけることによって、ムコ多糖症を検出できることが示された。
【0146】
(3)HS測定によるムコ多糖症の検出
各検体を検体希釈液で希釈して、希釈済の検体(0.5ml)を2セットずつ用意した。一方には10mUのヘパリチナーゼI(生化学工業株式会社製)を添加し、他方にはこれを添加せずに、それぞれ室温で1時間インキュベートした。また、標準品(HS)についても検体と同様に処理した。
処理後の検体を「測定用検体」とし、F58−10E4固着プレートとビオチン化F58−10E4を用いて、以下の方法でGAGの測定を行った。
測定用検体を50μl/ウエルで上記の抗体結合プレートに添加して、37℃で1時間インキュベートした。その後、洗浄液を200μl/ウエルで添加して4回洗浄した。
4℃の検体希釈液で1000倍に希釈したアビジン−ペルオキシダーゼ(Vector社製)、及び、4℃の検体希釈液で1.0μg/mlに調整したビオチン化F58−10E4をそれぞれ25μl/ウエルでプレートに添加して、4℃で1時間インキュベートした。その後、洗浄液を200μl/ウエルで添加して4回洗浄した。
TMB溶液(基質)の添加から吸光度の測定までのステップは、前記(2)と同様に行った。
【0147】
吸光度の測定結果を図2に示す。なお、それぞれの棒グラフの左側はヘパリチナーゼI処理していないものの結果を、右側はヘパリチナーゼI処理したものの結果を示す。また「HS(+)コントロール」は、標準品(HS)を用いた場合の結果を示す。
【0148】
図2から、I型〜VI型のいずれのムコ多糖症患者の尿も、健常者に比して顕著に高い吸光度を示した。また、ヘパリチナーゼI(HSを特異的に分解する)で処理したものについては、いずれも同程度かつ低い吸光度を示した。これらの結果から、I型〜VI型のムコ多糖症患者の尿で示された高い吸光度はHSに起因するものであり、いずれの型のムコ多糖症患者の尿においてもHSの量が顕著に増加していることが示された。特に、IV型及びVI型のムコ多糖症患者の尿においてもHS量が増加しているとの知見は、驚くべきものである。
したがって、体液(尿)中の単一種類のGAG(HS)の測定結果とムコ多糖症とを関連づけることによって、ムコ多糖症を検出できることが示された。
【0149】
(4)CS測定によるムコ多糖症の検出
各検体を検体希釈液で希釈して、希釈済の検体(0.5ml)を用意した。
この検体を「測定用検体」とし、LY111固着プレートとビオチン化LY111を用いて、以下の方法でGAGの測定を行った。
測定用検体を50μl/ウエルで上記の抗体結合プレートに添加して、37℃で1時間インキュベートした。その後、洗浄液を200μl/ウエルで添加して4回洗浄した。
4℃の検体希釈液で1000倍に希釈したアビジン−ペルオキシダーゼ(Vector社製)、及び、4℃の検体希釈液で1.0μg/mlに調整したビオチン化LY111をそれぞれ25μl/ウエルでプレートに添加して、37℃で1時間インキュベートした。
その後、洗浄液を200μl/ウエルで添加して4回洗浄した。
【0150】
TMB溶液(基質)の添加から吸光度の測定までのステップは、前記(2)と同様に行った。吸光度の測定結果を図3に示す。
図3から、I型〜VI型のいずれのムコ多糖症患者の尿も、健常者に比して顕著に高い吸光度を示した。この結果から、I型〜VI型のいずれのムコ多糖症患者の尿においてもCSの量が顕著に増加していることが示された。特に、I型、II型、III型、IV型及びVI型のムコ多糖症患者の尿においてもCS量が増加しているとの知見は、驚くべきものである。
したがって、体液(尿)中の単一種類のGAG(CS)の測定結果とムコ多糖症とを関連づけることによって、ムコ多糖症を検出できることが示された。
【0151】
(5)DS測定によるムコ多糖症の検出
各検体を検体希釈液で希釈して、希釈済の検体(0.5ml)を用意した。
この検体を「測定用検体」とし、6−B−6固着プレートとビオチン化LY111を用いて、以下の方法でGAGの測定を行った。なお、6−B−6はプロテオグリカン(デコリン)のコアタンパク質に特異的に結合する抗体である。よって、ここでの測定対象となるGAGは、プロテオグリカン(デコリン)分子中に存在するDSである。
測定用検体を50μl/ウエルで上記の抗体結合プレートに添加して、37℃で1時間インキュベートした。その後、洗浄液を200μl/ウエルで添加して4回洗浄した。
4℃の検体希釈液で1000倍に希釈したアビジン−ペルオキシダーゼ(Vector社製)、及び、4℃の検体希釈液で1.0μg/mlに調整したビオチン化LY111をそれぞれ25μl/ウエルでプレートに添加して、37℃で1時間インキュベートした。
その後、洗浄液を200μl/ウエルで添加して4回洗浄した。
【0152】
TMB溶液(基質)の添加から吸光度の測定までのステップは、前記(2)と同様に行った。吸光度の測定結果を図4に示す。
図4から、I型〜VI型のいずれのムコ多糖症患者の尿も、健常者に比して顕著に高い吸光度を示した。この結果から、I型〜VI型のいずれのムコ多糖症患者の尿においてもDSの量が顕著に増加していることが示された。特に、III型及びIV型のムコ多糖症患者の尿においてもDS量が増加しているとの知見は、驚くべきものである。
したがって、体液(尿)中の単一種類のGAG(DS)の測定結果とムコ多糖症とを関連づけることによって、ムコ多糖症を検出できることが示された。
【実施例2】
【0153】
イヌ又はネコの血清又は尿を検体とし、阻害法によってムコ多糖症の検出を試みた。
(1)本実施例において用いた検体、試薬等は以下の通りである。
(検体)
IIIB又はVII型のムコ多糖症のモデル動物(イヌ)、I、VI又はVII型のムコ多糖症のモデル動物(ネコ)及び健常な動物(ムコ多糖症ではないイヌ及びネコ)の血清及び尿を検体とした。
またGAGの標準品としては、ウシ角膜由来のKS(シグマ社)を用いた。
【0154】
(抗体)
一次抗体として抗KS抗体「5D4」(1/20/5D4;ICN イムノバイオロジカルズ)を使用した。また、二次抗体としてホースラディッシュ・ペルオキシダーゼ結合抗マウスIgG(H+L)(ピアス社)を使用した。
【0155】
(抗原が固着されたプレート)
抗原固着プレート(KSが固着されたプレート)は、以下の通り作製した;
1mgのKS(ウシ角膜由来;シグマ社)溶液あたり0.2UのコンドロイチナーゼABC(生化学工業株式会社製)を添加して、振とうしながら37℃で2時間インキュベートして、夾雑するCS等を分解した。コンドロイチナーゼABC処理後、KSを希釈し、イムノプレート(ヌンク社製)に200μl/ウエルで添加して、室温で2時間インキュベートした。
このようにして作製された抗原固着プレートは、洗浄してすぐに使用することもでき、少なくとも4℃で1ヶ月間程度保存した後でも使用することができる。
【0156】
(試薬等)
洗浄液(0.05% Tween20を含有するPBS(pH5.3))
検体希釈液(1% BSA及び0.05% Tween20を含有するPBS(pH5.3))
【0157】
(2)KS測定によるムコ多糖症の検出
イムノプレート(抗原は固着されていない)に検体(血清又は尿)を入れ、検体希釈液で希釈して140μl/ウエルとした。これに、検体希釈液で18,000倍に希釈した一次抗体を140μl/ウエル添加し、4℃で一晩インキュベートした。
抗原固着プレートのウエルを洗浄液で3回洗浄した後、これにインキュベート後の検体混合液(一次抗体と反応済)を200μl/ウエルで添加して、4℃で1時間インキュベートした。その後、ウエルを洗浄液で3回洗浄した。
検体希釈液で1000倍に希釈した二次抗体を200μl/ウエルで添加して、振とうしながら室温で1時間インキュベートした。その後、ウエルを洗浄液で3回洗浄した。
TMB溶液(基質)(Moss Inc)を200μl/ウエルでプレートに添加して、室温で発色の程度を見ながらインキュベートした。2M HClを50μl/ウエルで添加して酵素反応を停止させ、吸光光度計を用いて490nmの吸光度を測定した。吸光度の測定結果と、標準品を用いて予め作成しておいた検量線とを用いて、KS濃度を求めた。検体として尿を用いた結果を以下に示す。カッコ内の数値は、クレアチニン(Cre)濃度に対して補正した値である。
【0158】
(尿)
健常イヌ 121.38ng/ml(132.49ng/mgCre)
MPS IIIB型イヌ 380.52ng/ml(345.85ng/mgCre)
MPS VII型イヌ 1988.28ng/ml(435.07ng/mgCre)
MPS I型ネコ 3150.90ng/ml(1057.34ng/mgCre)
MPS VI型ネコ 1812.78ng/ml(1066.34ng/mgCre)
MPS VII型ネコ 3224.61ng/ml(1258.63ng/mgCre)
【0159】
また、検体として血清を用いた結果を以下に示す。
(血清)
健常イヌ 89.1ng/ml
MPS IIIB型イヌ 186.2ng/ml
MPS VII型イヌ 457ng/ml
健常ネコ 120ng/ml
MPS I型ネコ 396ng/ml
MPS VI型ネコ 554.4ng/ml
MPS VII型ネコ 483.3ng/ml
【0160】
以上の結果から、ヒトのみならず、ヒト以外のムコ多糖症の動物の尿においてもKSの量が顕著に増加していることが確認された。さらに、尿のみならず血液(血清)においてもKS量が顕著に増加していること、及び、サンドイッチ法のみならず阻害法によってもムコ多糖症の検出が可能であることが確認された。特に、I型、III型(IIIB型)、VI型及びVII型のムコ多糖症動物の尿及び血液(血清)においてもKS量が増加しているとの知見は、驚くべきものである。
したがって、この結果からも、体液(尿や血液)中の単一種類のGAG(KS)の測定結果とムコ多糖症とを関連づけることによって、ムコ多糖症を検出できることが示された。
【実施例3】
【0161】
マススケールでのムコ多糖症の検出
ヒトの尿又は血漿を検体とし、サンドイッチ法によってマススケールでのムコ多糖症の検出を試みた。その方法は、実施例1の「(2)KS測定によるムコ多糖症の検出」と同様である。
検体として尿を用いた結果(クレアチニン(Cre)濃度に対して補正した値)を図5に、血漿を用いた結果を図6及び図7に示す。
なお、図5中の「コントロール」は健常なヒト(n=67)の結果を、「全MPS IVA」はムコ多糖症 IVA型ヒト(年齢を問わない;n=78)の全サンプルについての結果を、「重症」はムコ多糖症 IVA型(重症型)ヒト(n=54)の結果を、「軽症」はムコ多糖症 IVA型(軽症型)ヒト(n=11)の結果を、「コントロール 0−5」は健常なヒト(0歳以上5歳未満;n=21)の結果を、「IVA 0−5」はムコ多糖症 IVA型ヒト(0歳以上5歳未満;n=12)の結果を、「コントロール 5−10」は健常なヒト(5歳以上10歳未満;n=21)の結果を、「IVA 5−10」はムコ多糖症 IVA型ヒト(5歳以上10歳未満;n=28)の結果を、「コントロール 10−15」は健常なヒト(10歳以上15歳未満;n=10)の結果を、「IVA 10−15」はムコ多糖症 IVA型ヒト(10歳以上15歳未満;n=9)の結果を、「コントロール 15以上」は健常なヒト(15歳以上;n=29)の結果を、「IVA 15以上」はムコ多糖症 IVA型ヒト(15歳以上;n=18)の結果をそれぞれ示す。
【0162】
また、図6中の「全コントロール」は健常なヒト(n=112)の結果を、「全MPS」はムコ多糖症のヒト(年齢及び型を問わない;n=88)の全サンプルについての結果を、「I」はムコ多糖症 I型ヒト(年齢を問わない;n=17)の結果を、「II」はムコ多糖症 II型ヒト(年齢を問わない;n=11)の結果を、「III」はムコ多糖症 III型ヒト(年齢を問わない;n=7)の結果を、「IVA」はムコ多糖症 IVA型ヒト(年齢を問わない;n=42)の結果を、「IVB」はムコ多糖症 IVB型ヒト(年齢を問わない;n=3)の結果を、「VI」はムコ多糖症 VI型ヒト(年齢を問わない;n=2)の結果を、「VII」はムコ多糖症 VII型ヒト(年齢を問わない;n=6)の結果を、「MLII」はムコリピドーシスII型ヒト(年齢を問わない;n=2)の結果を、「MLIII」はムコリピドーシスIII型ヒト(年齢を問わない;n=3)の結果をそれぞれ示す。
【0163】
また、図7中の「全コントロール」は健常なヒト(n=112)の結果を、「帯血」は臍帯血の結果を、「全MPS」はムコ多糖症のヒト(年齢及び型を問わない;n=88)の全サンプルについての結果を、「コントロール 1−5」は健常なヒト(1歳以上5歳未満;n=7)の結果を、「MPS 1−5」はムコ多糖症のヒト(1歳以上5歳未満;n=19)の結果を、「コントロール 5−10」は健常なヒト(5歳以上10歳未満;n=4)の結果を、「MPS 5−10」はムコ多糖症のヒト(5歳以上10歳未満;n=27)の結果を、「コントロール 10−15」は健常なヒト(10歳以上15歳未満;n=3)の結果を、「MPS 10−15」はムコ多糖症のヒト(10歳以上15歳未満;n=12)の結果を、「コントロール 15以上」は健常なヒト(15歳以上;n=11)の結果を、「MPS 15以上」はムコ多糖症のヒト(15歳以上;n=14)の結果をそれぞれ示す。
【0164】
図5〜図7中のボックスは、各群における25%〜75%の範囲を示す。ボックス中のバーは平均値を示す。また、ボックス外の縦のバーはレンジ(10%〜90%の範囲)を示し、丸印はこの範囲を逸脱したものを示す。
【実施例4】
【0165】
ムコリピドーシスの検出
ヒトの血清又は尿を検体とし、サンドイッチ法によってムコリピドーシスの検出を試みた。その方法は、実施例1の「(2)KS測定によるムコ多糖症の検出」と同様である。
検体として尿を用いた結果(クレアチニン(Cre)濃度に対して補正した値)を以下に示す。「健常なヒト」については「平均値±SD」で示した。
(尿)
健常なヒト 0.208±0.142ng/mgCre
ML II型ヒト 0.92ng/mgCre
ML II型ヒト 0.615ng/mgCre
ML III型ヒト 1.25ng/mgCre
ML III型ヒト 0.75ng/mgCre
ML(型は不明)ヒト 0.614ng/mgCre
また、検体として血清を用いた結果を以下に示す。「健常なヒト」については「平均値±SD」で示した。
【0166】
(血清)
健常なヒト(臍帯血) 44.2±27.87ng/ml
健常なヒト(1〜3歳) 127±23.18ng/ml
健常なヒト(4〜14歳) 237±58ng/ml
健常なヒト(18歳以上) 137±51.7ng/ml
ML II型ヒト(0.9歳)263ng/ml
ML III型ヒト(12歳)1147ng/ml
ML III型ヒト(10歳)743ng/ml
ML III型ヒト(40歳)340ng/ml
【0167】
以上の結果から、ムコ多糖症のみならず、ムコリピドーシスの動物においてもKSの量が顕著に増加していることが確認された。
したがって、この結果から、体液(尿や血液)中の単一種類のGAG(KS)の測定結果とムコリピドーシスとを関連づけることによって、ムコリピドーシスを検出できることが示された。
【実施例5】
【0168】
GM1ガングリオシドーシス、フコシドーシス及びガラクトシアリドーシスの検出
ヒトの血清又は尿を検体とし、サンドイッチ法によってGM1ガングリオシドーシス、フコシドーシス及びガラクトシアリドーシスの検出を試みた。その方法は、実施例1の「(2)KS測定によるムコ多糖症の検出」と同様である。
検体として尿を用いた結果(クレアチニン(Cre)濃度に対して補正した値)を以下に示す。「健常なヒト」については「平均値±SD」で示した。
(尿)
健常なヒト 0.215±0.14ng/mgCre
GM1ガングリオシドーシス ヒト 3.406ng/mgCre
フコシドーシス ヒト 1.44ng/mgCre
フコシドーシス ヒト 1.37ng/mgCre
ガラクトシアリドーシス ヒト 1.18ng/mgCre
以上の結果から、ムコ多糖症、ムコリピドーシスのみならず、ガラクトシアリドーシスの動物においてもKSの量が顕著に増加していることが確認された。
したがって、この結果から、体液(尿や血液)中の単一種類のGAG(KS)の測定結果とGM1ガングリオシドーシス、フコシドーシス又はガラクトシアリドーシスとを関連づけることによって、これらの疾患を検出できることが示された。
【実施例6】
【0169】
HPLCを用いた検出
ヒトの尿を検体とし、HPLCを用いる方法(二糖分析)によってGAGの検出を行った。結果を表2に示す。
なお、表2中の「全−CS」は全コンドロイチン硫酸を、「DS−4S」は4位硫酸化デルマタン硫酸を、「Cre」はクレアチニンを示す。
【0170】
【表3】

【0171】
表2から、いずれの疾患についてもGAGの量が増加していることが示された。このことから、抗体を用いない方法によっても本発明方法が実施可能であることが示された。
【実施例7】
【0172】
マススケールでのリソソーム病の検出
ヒトの血清又は尿を検体とし、サンドイッチ法によって各種リソソーム病の検出を試みた。その方法は、実施例1の「(3)HS測定によるムコ多糖症の検出」と同様である。
検体として血清を用いた結果を以下に示す。数値は「平均値」である。
(血清)
健常なヒト(n=51) 4.89U/ml
MPS I型ヒト(n=16) 38.0U/ml
MPS II型ヒト(n=25) 82.1U/ml
MPS IIIA型ヒト(n=6) 22.0U/ml
MPS IIIB型ヒト(n=6) 26.8U/mlMPS IIIC型ヒト(n=3) 13.4U/ml
MPS IVA型ヒト(n=29) 7.51U/ml
MPS IVB型ヒト(n=2) 9.43U/ml
MPS VI型ヒト(n=3) 12.0U/ml
MPS VII型ヒト(n=5) 18.9U/ml
MLDヒト(n=4) 9.82U/ml
LIPOヒト(n=1) 103U/ml
TSヒト(n=7) 13.0U/ml
GSD I型ヒト(n=1) 19.1U/ml
GSD II型ヒト(n=1) 7.57U/ml
サンドホッフ病(SAN) ヒト(n=3) 7.59U/ml
ML II型ヒト(n=2) 54.1U/ml
ML III型ヒト(n=3) 12.2U/ml
NP B型ヒト(n=5) 8.67U/ml
NP C型ヒト(n=4) 6.06U/ml
GM2ガングリオシドーシス ヒト(n=1) 10.7U/ml
クラッベ病 ヒト(n=3) 6.68U/ml
ファブリー病 ヒト(n=5) 10.6U/ml
ガウチャー病 I型(GCI)ヒト(n=5) 8.18U/ml
ガウチャー病 III型(GCIII)ヒト(n=2) 11.7U/ml
【0173】
以上の結果から、ムコ多糖症等のみならず、種々のリソソーム病の動物においてもHSの量が増加していることが示唆された。
したがって、この結果から、体液(尿や血液)中の単一種類のGAG(HS)の測定結果と以上のようなリソソーム病とを関連づけることによって、リソソーム病を検出できることが示された。
【実施例8】
【0174】
本発明キットの作製(1)
以下の構成からなる本発明キットを作製した。このキットは、サンドイッチ法によるGAGの測定を通じて、ムコ多糖症等の検出に用いることができる。
1.5D4が固着された96ウェルのイムノプレート 1枚
2.ビオチン化5D4 1本
3.アビジン−ペルオキシダーゼ 1本
4.TMB溶液 1本
5.反応停止液(1N HCl) 1本
6.洗浄液(0.05% Tween20を含有するPBS)
7.検体希釈液(1% ウシ血清アルブミン(BSA)を含有するPBS(−))
8.KS標準溶液 1セット
【0175】
また、上記のイムノプレート及びビオチン化5D4を、それぞれF58−10E4が固着された96ウェルのイムノプレート及びビオチン化F58−10E4に置換した本発明キットを作製した。
このキットにはHS標準溶液を添付した。
【0176】
また、上記のイムノプレート及びビオチン化5D4を、それぞれLY111が固着された96ウェルのイムノプレート及びビオチン化LY111に置換した本発明キットを作製した。このキットにはCS(コンドロイチン硫酸D)標準溶液を添付した。
さらに、上記のイムノプレート及びビオチン化5D4を、それぞれ6−B−6が固着された96ウェルのイムノプレート及びビオチン化LY111に置換した本発明キットを作製した。このキットにはデコリン標準溶液を添付した。
【実施例9】
【0177】
本発明キットの作製(2)
以下の構成からなる本発明キットを作製した。このキットは、阻害法によるGAGの測定を通じて、ムコ多糖症等の検出に用いることができる。
1.KSが固着された96ウェルのイムノプレート 1枚
2.5D4 1本
3.ペルオキシダーゼ結合抗マウスIgG(H+L) 1本
4.TMB溶液 1本
5.反応停止液(1N HCl) 1本
6.洗浄液(0.05% Tween20を含有するPBS(pH5.3))
7.検体希釈液(1% BSA及び0.05% Tween20を含有するPBS(pH5.3))
8.KS標準溶液 1セット
【0178】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱すること無く様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。ここに引用されるすべての参照は全体として取り込まれる。
【0179】
本出願は、2002年4月30日出願の米国仮特許出願60/376,194および2003年1月22日出願の米国仮特許出願60/441,325に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0180】
本発明方法は、リソソーム病(好ましくはムコ多糖症等)の検出を高精度、高感度、簡便、迅速かつ安価に実施できる方法であることから極めて実用性が高い。特に、わずか1種類のGAGを測定することによってリソソーム病の可能性が検出できることから、複数種のGAGを測定する必要がなく、簡便性、迅速性、廉価性が格段に向上するものである。また本発明キットは、本発明方法の実施をさらに簡便・迅速化するものであることから、極めて有用である。
【0181】
これにより全新生児についてリソソーム病の可能性が検出できれば、未だリソソーム病の臨床症状が現れない出生後の早期の段階で酵素補充療法、遺伝子治療、骨髄移植等を実施でき、精神発達の遅れ等をくい止めることができる可能性が高くなる。
なお本発明は、リソソーム病の検出のみならず、状態の把握、治療方針の決定、治療効果の確認、経過観察、モニタリング、医薬品開発の評価等へも応用することができ、極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ムコ多糖症I、II、IIIまたはVII型に罹患している可能性のある動物由来の血液検体中におけるヘパラン硫酸を測定し、その測定結果とムコ多糖症I、II、IIIまたはVII型とを関連づけるステップを少なくとも含む、ムコ多糖症I、II、IIIまたはVII型の検出方法であって、ヘパラン硫酸の測定結果が健常動物と比して高い場合は、ムコ多糖症I、II、IIIまたはVII型に罹患している可能性が高いと関連づけ、ヘパラン硫酸の測定結果が健常動物における測定結果と同等である場合は、ムコ多糖症I、II、IIIまたはVII型ではないと関連付ける、ムコ多糖症I、II、IIIまたはVII型の検出方法。
【請求項2】
血液検体中のヘパラン硫酸が他の成分と結合して複合体を形成している、請求項1に記載の検出方法。
【請求項3】
ムコ多糖症I、II、IIIまたはVII型に罹患している可能性のある動物が新生児である、請求項1または2に記載の検出方法。
【請求項4】
ヘパラン硫酸の測定が、ヘパラン硫酸に特異的に結合するポリペプチドを用いて行われることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の検出方法。
【請求項5】
ポリペプチドが、ヘパラン硫酸に特異的に結合する抗体または該抗体の抗原結合部位を有するポリペプチドである、請求項4に記載の検出方法。
【請求項6】
ヘパラン硫酸の測定が、下記(1)及び(2)の工程を少なくとも含む工程によって行われることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の検出方法。
(1)「ヘパラン硫酸に特異的に結合する第1のポリペプチドが固着された固相」に「血液検体」を接触させて、「固相に固着された第1のポリペプチド−血液検体中のヘパラン硫酸含有分子」からなる複合体を形成させる工程。
(2)工程(1)において形成された複合体を検出する工程。
【請求項7】
ヘパラン硫酸の測定が、下記(1)〜(3)の工程を少なくとも含む工程によって行われることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の検出方法。
(1)「ヘパラン硫酸に特異的に結合する第1のポリペプチドが固着された固相」に「血液検体」を接触させて、「固相に固着された第1のポリペプチド−血液検体中のヘパラン硫酸含有分子」からなる複合体を形成させる工程。
(2)前記固相に、「ヘパラン硫酸含有分子に特異的に結合する第2のポリペプチド」を接触させて、「固相に固着された前記第1のポリペプチド−血液検体中のヘパラン硫酸含有分子−第2のポリペプチド」からなるサンドイッチ状複合体を形成させる工程。
(3)工程(2)において形成されたサンドイッチ状複合体を検出する工程。
【請求項8】
第1のポリペプチドおよび/または第2のポリペプチドが、ヘパラン硫酸に特異的に結合する抗体または該抗体の抗原結合部位を有するポリペプチドである、請求項7に記載の検出方法。
【請求項9】
抗体が抗ヘパラン硫酸抗体F58−10E4である、請求項8に記載の検出方法。
【請求項10】
第2のポリペプチドが、標識物質で標識されているか又は標識されることを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載の検出方法。
【請求項11】
ヘパラン硫酸の測定が、下記(1)〜(3)の工程を少なくとも含む工程によって行われることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の検出方法。
(1)「ヘパラン硫酸に特異的に結合する第3のポリペプチド」と「ヘパラン硫酸含有分子が固着された固相」を接触させて、「第3のポリペプチド−固相に固着されたヘパラン硫酸含有分子」からなる第1の複合体を形成させる工程。
(2)血液検体中のヘパラン硫酸と工程(1)によって得られた『第1の複合体』との結合に適した条件下で、血液検体に「『第1の複合体』と『第1の複合体を形成しなかった第3のポリペプチドとを含有する混合物』」を接触させて、「血液検体中のヘパラン硫酸含有分子−第3のポリペプチド」からなる第2の複合体を形成させる工程。
(3)工程(2)において形成された第2の複合体を検出する工程。
【請求項12】
第3のポリペプチドが、ヘパラン硫酸に特異的に結合する抗体または該抗体の抗原結合部位を有するポリペプチドである、請求項11に記載の検出方法。
【請求項13】
第2の複合体の検出が、「第3のポリペプチドに特異的に結合する第4のポリペプチドであって、標識物質で標識されているもの又は標識されるもの」を用いて行われる、請求項11または12に記載の検出方法。
【請求項14】
第4のポリペプチドが、抗体又はその抗原結合部位を有するポリペプチドである請求項13に記載の検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−11621(P2013−11621A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−214668(P2012−214668)
【出願日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【分割の表示】特願2009−206047(P2009−206047)の分割
【原出願日】平成15年4月30日(2003.4.30)
【出願人】(000195524)生化学工業株式会社 (143)
【出願人】(504402061)セント ルイス ユニバーシティ (3)