説明

リソソーム蓄積症の処置のための組成物および方法

本発明は、幹細胞、好ましくは多能性成体前駆細胞(MAPC)を投与することによりリソソーム酵素を被験体に提供する方法に関する。本発明はさらに幹細胞を投与することによるリソソーム蓄積症の処置方法に関する。本発明はまた、効果的な量のリソソーム酵素を被験体に提供する工程を包含する、被験体中の基質の蓄積を調節するための方法に関する。上記幹細胞は、Oct−3/4陽性であり、かつ内胚葉系統の細胞、外胚葉系統の細胞および中胚葉系統の細胞を生じ得、そしてリソソーム酵素を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の参照)
本出願は、米国特許法第119条(e)のもとで、本明細書において参考として援用される2003年12月4日出願の米国仮出願第60/527,249号の優先権を主張する。
【0002】
(政府権利の陳述)
本研究は、米国国立衛生研究所の補助金No.R01−HL49997により支援を受けた。米国政府は本発明に一定の権利を有しよう。
【0003】
(発明の分野)
本発明は、幹細胞、好ましくは多能性成体前駆細胞(MAPC)を投与することによりリソソーム酵素を提供する方法に関する。さらに、本発明は、幹細胞を投与することによりリソソーム蓄積症を処置する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
(発明の背景)
リソソーム蓄積症は、リソソームの酸ヒドロラーゼ欠乏をもたらす40を超える劣性遺伝病のグループである(非特許文献1)。個人的には稀であるが、リソソーム蓄積症は7700誕生あたり一回の発生を有する。そのような病気として、多くの他の中でもゴーシェ病、ファブリー病、ニーマン−ピック病、I型〜VII型ムコ多糖症、Tay−Sachs病が挙げられる。リソソーム酵素活性の損失はリソソーム内の未分解基質の累積的な蓄積をもたらし、オルガネラの鬱血とそれに続く細胞、組織および器官の機能不全、そしてしばしば死をもたらす。リソソーム蓄積症は、多様な器官システムに、その多くで誕生前に影響を与え、非可逆的な欠陥をもたらす。代謝蓄積症の臨床的な処置は骨髄移植および酵素補充療法に限定されている(非特許文献2)。
【0005】
酵素補充療法は、機能的リソソーム酵素の患者への投与をともなう。投与後、補充酵素は肝臓により全身循環へと分泌される。隣接細胞および離れた細胞の両方が、その分泌酵素を、事実上すべての細胞の表面に存在する主にマンノース−6−ホスフェートレセプターを通じて再捕捉する(非特許文献3)。酵素の局在的投与は欠乏細胞において少なくとも一部の酵素集団を補給することができる。しかし、これらの酵素は一般的に短い循環細胞内半減期を有し、治療は比較的大量の関連酵素の規則的な非経口投与を必要とする。
【0006】
酵素補充療法は、ある種のリソソーム蓄積症を処置する場合に特に効果的である。例えば、ゴーシェ病とファブリー病の処置における酵素補充はこれらの病気の非神経病症候を逆戻りさせるのに効果的である(非特許文献4;非特許文献5)。しかし、I型ムコ多糖症(すなわち、MPS−IH;ハーラー症候群)等の多くのリソソーム蓄積症において、酵素の補充は、注入されたドナータンパク質に対して潜在的な免疫原応答をもたらしうる。さらに、全身に投与された酵素は、CNSおよび骨格系等、発達において後に生じる部位に到達できない。よって、酵素補充療法は、これらの代謝蓄積症の多くに関連した神経学的徴候や骨格疾患の修正には効果的でない。
【0007】
遺伝子標的法も、酵素を患者に供給するために用いられている。しかし、限定された結果が現在まで観察されている。遺伝子標的法(レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルスベクター等の標的用ベクターによる)は、肺、肝臓または骨髄等の標的器官に対する十分な供給をもたらすことができる(非特許文献6;非特許文献7)。さらに、標的用ベクターの静脈内供給は肝臓からの高レベルの酵素分泌および他の侵された組織での再取り込みをもたらし得る。
【0008】
しかし、遺伝子標的法は欠点も有する。所望の酵素の発現は一過性であり、数週間内に基礎レベルに戻りうる。また、酵素に対する細胞毒性Tリンパ球により仲介される炎症性応答も観察されている。さらに、血管/脳関門の通過を達成することの困難性やCNSの静止性細胞の十分な発現を誘導することの困難性を所与とすれば、さらに重篤な欠乏、例えばCNSで起こる欠乏の修正は起こりそうにない。1つの研究において、AAVベクターを用いる直接の頭蓋内注射は、VII型ムコ多糖症(MPS VII)のネズミモデルにおける認識欠損の中程度の修正のもたらしただけである(非特許文献8)。
【0009】
骨髄移植はリソソーム蓄積症の処置に対する別の潜在的な治療方法である。骨髄移植は、患者の造血系を健康な免疫適合性ドナーの幹細胞により再構成して、長期の酵素供給源を確立する(非特許文献9)。リソソーム蓄積症を有する数百人の患者が移植により長年処置されている。例えば、骨髄移植による非神経病性ゴーシェ病の処置は症状のほとんど完全な逆転をもたらした(非特許文献10)。
【0010】
骨髄移植は、MPS−IH等、他のリソソーム蓄積症の処置にさらに限定された効果を有する。骨髄移植は、病気のいくつかの、しかし全てではない有害な効果を逆転できる(上記の非特許文献10)。移植により処置されない場合、患者は、角膜、中央神経系、肝臓、脾臓、肺、心臓、筋肉、腱および骨におけるヘパリン硫酸およびデルマタン硫酸、グリコサミノグリカン蓄積のために悪化し続けるだろう。神経学的改善の程度は、患者の年齢、移植時の発達比率、および移植後に得られる酵素の量に関連付けられる(非特許文献11;非特許文献12)。若い移植片受容者は、典型的にはCNSを安定化して、またはその悪化を遅らせて、内臓器官がクリアになることを経験する。不幸にも、骨格系および多くのCNS欠陥は移植後に影響を受けずにいる。
【0011】
骨髄移植および酵素補充研究の結果は、すべてでないが、ほとんどの欠陥が患者に酵素を供給することによって修正できることを実証する。しかし、うまく移植された患者での骨格およびCNS欠陥の修正の失敗は、必要とされる部位(すなわち、骨またはCNS)でのリソソーム酵素の濃度が不十分であるか、または損傷が非可逆的であることを示す。MPS−IH患者は典型的には正常な酵素レベルの<0.13%を有する。しかし、α−L−イズロニダーゼに関してヘテロ接合体である患者において、臨床的に侵されていない白血球および繊維芽細胞を作るために酵素レベルのわずかに3%だけが必要である(非特許文献13)。このことは、低いレベルの補充酵素のみが必要であり、骨格およびCNA出現の修正を達成することができないことは、これら部位で利用可能な酵素の非常に低いレベルによるものであることを示唆する。
【0012】
発達の初期に補充酵素を供給することは、CNSと骨格の異常のさらに高い修正をもたらすかもしれない。胎内(in utero)移植とも知られる子宮内移入は、妊娠中に起こる不可逆的な欠陥の修正を最適化する最も初期の機会を提供する(非特許文献14)。初期の妊娠胎児は免疫学的に未熟で、外来抗原を許容して、免疫抑制の必要性なしに、同種または異種の細胞の受容を許容する。したがって、免疫学的または代謝的な再構築が誕生前に可能である。
【0013】
重篤な免疫不全病を有する患者は子宮内移入により修正できるが、リソソーム蓄積症を有する患者はこれらの操作から利点を受けるように思われない。子宮内移植により処置されたMPS−IHを有するわずかに二人の患者が報告されている(非特許文献15)。蓄積症に対して免疫不全に対する子宮内移植間の結果の差異は、免疫担当ドナー細胞(すなわち、リンパ系細胞)が免疫不全病を有する受容者に顕著な競合的増殖利点を有するという事実に関連する。リソソーム酵素を発現するドナー細胞(すなわち、造血幹細胞(HSC)または骨髄単核細胞(BMMNC))は、該酵素を欠如する細胞より勝る増殖または生存の有利な点を持たない。
【0014】
リソソーム蓄積症の動物モデルはこの観察を確証している。MPS VIIマウスの研究において、レトロウイルスベクターによりマークされた同系の胎児肝臓造血幹細胞、またはヒトβ−グルクロニダーゼ(“gus”)トランスジーンを構成的に過剰発現する同種ドナー細胞はわずかに0.1%の移植を生じた(非特許文献16)。幹細胞と前駆細胞を豊富にすることで、2ヶ月齢で顕著に高いgus活性を生じ、病気の発症を遅らせ、胎児生命初期の酵素発現が病気の進展を遅らせることを示唆する。造血幹細胞またはドナー胎児肝臓細胞の子宮内移入は、皮質ニューロンおよびグリア等の組織において(非特許文献17)ならびに肝臓において(非特許文献18)、GAG蓄積を緩和する。
【0015】
また、MPS−IH欠乏のイヌモデルを用いて、子宮内移植により導入された造血幹細胞の治療可能性を評価した(非特許文献19)。同原の骨髄細胞を、α−L−イズロニダーゼを発現するように遺伝子的に修飾して、胎内で成熟前胎児イヌに移植した。α−L−イズロニダーゼもプロウイルス特異的転写物も、MPS−IHイヌの血液や骨髄白血球に検出されなかった。しかし、形質導入された造血前駆細胞は受容胎児に移植でき、造血に寄与でき、α−L−イズロニダーゼに対する免疫学的非応答性を誘導できた。イヌにおける造血幹細胞遺伝子移入の治療可能性は、プロウイルスα−L−イズロニダーゼ遺伝子発現の不十分な維持と遺伝子的に修正された循環白血球の低いレベルとにより制限されているように思えた。
【非特許文献1】Wraith,「J.E.Dev.Med.Child.Neurol.」43(2001):639−646
【非特許文献2】Cheng,S.H.およびSmith,A.E.,「Gene Ther.」10(2003):1275−1281
【非特許文献3】Suzuki,K.,「Lysosomal dieases.」、Graham,D.I.,Lantos,P.K.(編)Greenfield’s Neuropathology.Arnold:London,(2002)pp.653−735
【非特許文献4】Weinreb,N.J.ら,「Am.J.Med.」113(2002):112−119
【非特許文献5】Schiffman,Rら,「JAMA」285(2001):2743−2749
【非特許文献6】Marshall,J.ら,「Mol.Ther.」6(2002):179−189
【非特許文献7】Du,H.ら,「Gene Ther.」13(2002):1361−1372
【非特許文献8】Frisella,W.A.ら,「Mol.Ther.」3(2001):351−358
【非特許文献9】Steward,C.G.「Bone marrow transplantation for genetic diseases.」,Fairbairn,L.J.,Testa,N.G.(編)Blood Cell Biochemistry.第8巻:Hematopoiesis and Gene Therapy New York:Klewer Academic/Plenum Publishers.(1999)p.13−56
【非特許文献10】Hoogerbrugge,P.M.ら,「Lancet」345(1995):1398−1402
【非特許文献11】Peters,C.ら,「Blood」87(1996):4894−4902
【非特許文献12】Peters,C.ら,「Blood」91(1998):2601−8
【非特許文献13】Scott,H.S.ら,「Hum.Mutat.」6(1995):288−302
【非特許文献14】Flake,A.W.およびZanjani,E.D.「Blood」94(1999):2179−2191
【非特許文献15】Donahue,J.およびCarrier,E.「Cancer Treat Res」110(2002):177−211
【非特許文献16】Casal,M.L.ら,「Blood」97(2001):1625−1634
【非特許文献17】Barker,J.E.ら,「Blood Cells Mol.Dis.」27(5)(2001):861−873
【非特許文献18】Casal,M.L.,「Pediatr.Res.」47(6)(2000):750−756
【非特許文献19】Lutzko,C.ら,「Hum.Gene Ther.」(1999)10:1521−1532
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
したがって、リソソーム蓄積症の処置に対する改良方法の必要が当分野において存在する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
(発明の要旨)
本発明は、幹細胞を、標的細胞のリソソーム中の基質を代謝するリソソーム酵素を提供するのに効果的な量で投与することにより該細胞中の基質の蓄積を調節する(例えば、防止または低下する)、リソソーム蓄積症の処置に関する。幹細胞、好ましくは多能性成体前駆細胞(「MAPC」)を投与して、リソソーム酵素をインビボで提供する。本発明の方法に使用される幹細胞は、内胚葉、外胚葉および中胚葉由来の細胞を生じることのできる細胞である。
【0018】
失われた酵素または欠乏酵素を基質の蓄積を有する組織または複数の組織に提供して、基質の酵素的触媒(すなわち、代謝または分解)を可能とすることにより、該蓄積を防止、減少または除去する。
【0019】
したがって、1つの実施形態において、本発明は、被験体にリソソーム酵素を提供する方法に関し、この方法は、幹細胞を被験体に投与する工程を包含し、この幹細胞はリソソーム酵素を提供する。
【0020】
別の実施形態において、本発明は、リソソーム蓄積症を処置する方法に関し、この方法は、リソソーム蓄積症を有する患者に幹細胞を投与する工程を包含し、この幹細胞は上記病気を処置するのに効果的な量のリソソーム酵素を提供する。
【0021】
別の実施形態において、本発明は、被験体中の基質の蓄積を調節する工程に関し、この工程は、上記基質の蓄積を調節するのに効果的な量のリソソーム酵素を被験体に投与する工程を包含し、このリソソーム酵素は、被験体に投与された幹細胞によって提供される。ここで用いられる「基質」は、一種類以上のリソソーム酵素に対するリソソーム基質をいう。好ましくは、調節は、基質の蓄積(例えば、所望とされない蓄積レベルおよび/またはリソソーム関連状態のない被験体での蓄積レベルよりも高い蓄積レベル)の防止、減少または除去からなる。
【0022】
問題のリソソーム酵素は、本発明の幹細胞における正常な遺伝子発現により作ることができる。さらに、細胞は、例えば、リソソーム酵素をコードする遺伝子のさらなるコピーを含むか、および/または内因性遺伝子を過剰発現させるように遺伝子改変することができる。
【0023】
リソソーム酵素として、β−ガラクトシダーゼ、ヘキソサミニダーゼA、ヘキソサミニダーゼB、GM活性化因子、アリールスルファターゼA、アリールスルファターゼB、ガラクトシルセラミダーゼ、α−ガラクトシダーゼA、ガラクトサミン−4−スルファターゼ、β−グルコシダーゼ、スフィンゴミエリナーゼ、セラミダーゼ、酸性リパーゼ、スルファターゼ類、α−L−イズロニダーゼ、イズロネート−2−サルフェートスルファターゼ、ヘパランスルファミニダーゼ、N−アセチル−α−グルコサミニダーゼ、α−グルコサミニド−N−アセチルトランスフェラーゼ(アセチルCoAグルコサミン−N−アセチルトランスフェラーゼ)、N−アセチルグルコサミン−6−サルフェートスルファターゼ、N−アセチルガラクトサミン−6−サルフェートスルファターゼ、β−グルクロニダーゼ、ヒアルロニダーゼ、カテプシンK、N−アセチル−β−グルコサミニダーゼ、α−フコシダーゼ、α−マンノシダーゼ、β−マンノシダーゼ、シアル酸トランスポーター、α−N−アセチルガラクトサミニダーゼ、α−ノイラミニダーゼ、カテプシンA、N−アセチルグルコサミン−1−ホスホトランスフェラーゼ、α−1,4−グルコシダーゼ、パルミトイルプロテインチオエステラーゼおよび/またはトリペプチジルペプチダーゼIであってよいが、これらに限定されない。
【0024】
リソソーム蓄積症は、スフィンゴリピドーシス、ムコ多糖症、糖タンパク症(glycoproteinoses)、ムコリピドーシス、II型糖原病およびセロイド脂褐素症であってよいが、これらに限定されない。さらに具体的に、該病気は、GM1ガングリオシドーシス(Landing肺)、GM2ガングリオシドーシス変種B/B1(Tay−Sach病)および変種O(ザントホフ病)、異染性白質萎縮症、クラッベ病、ファブリー病、ゴーシェ病、ニーマン−ピック病(A、B、C)、ファーバー病、ウォルマン病、オースティン病、ムコ多糖症のI型(ハーラー病またはハーラー症候群)、シャイエ病、ハーラー−シャイエ病、II型(ハンター病)、III型(サンフィリポ病、III A〜D型、IV型(モルキオ病)、IV AおよびB型、VI型(マロトー−ラミー病)、VII型(スライ病)、IX型、ピクノダイソストーシス(pycnodysostosis)、アスパルチルグルコサミン尿、フコース蓄積症、α−マンノシドーシス、β−マンノシドーシス、シンドラー病、Kanzaki病、I型ムコリピドーシス(シアリドーシス)、IB型ムコリピドーシス(ガラクトシアリドーシス)およびII型、III型およびIV型(ムコリピドーシス)、II型糖原病(ポーンプ病により特徴付けられる)、Santavuori−Haltia病、ヤンスキー−ビールショースキー病、バッテン病、クッフス病、CLN5、CLN6、CLN7およびCLN8座の変異により特徴付けられる病状、および/または他のリソソーム蓄積症、例えばシアル酸蓄積症(小児型、サラ病)およびメチルマロン酸性尿症であってよいが、これらに限定されない。1つの実施形態において、病気はムコ多糖症である。別の実施形態において、病気はムコ多糖症(I型)(例えば、ハーラー病またはハーラー症候群)である。
【0025】
基質として、デルマタン硫酸;ヘパリン硫酸;ケラタン硫酸;ヒアルロン酸;シアル酸;GM−ガングリオシド;GM−ガングリオシド;ガラクトシルセラミド;スルファチド;ガラクトシルスフィンゴリピド;グルコセラミド;セラミド;スフィンゴミエリン;α−マンノシド;β−マンノシド;フコシド;アスパルチルグルコサミン;N−アセチルガラクトサミン;グリコーゲン;コレステロールエステル;骨由来のペプチド;および/またはサポシン類であってよいが、これらに限定されない。
【0026】
本発明の1つの実施形態において、基質はグリコサミノグリカンである。グリコサミノグリカンとして、ヘパラン硫酸、デルマタン硫酸およびケラタン硫酸が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の1つの実施形態において、酵素はα−L−イズロニダーゼである。
【0027】
1つの実施形態において、幹細胞またはその分化子孫を被験体の該器官に投与して、幹細胞またはその分化子孫がリソソーム酵素を器官に提供する。
【0028】
好ましくは、器官は、心臓、肺、筋肉、腎臓、脾臓、回腸、結腸、脳、肝臓および眼等の、しかしこれらに限定されない内臓器官である。好ましくは、幹細胞またはその分化子孫を、リソソーム酵素を提供するように、器官の存在する細胞に接触させることにより器官に移植する。
【0029】
本発明の幹細胞(またはそれらの子孫)は、カテーテル投与、全身注射、腹腔内注射、胎盤内注射、子宮内注射、頭蓋内注射、非経口投与、動脈内注射および側脳室への注射等の局所注射により投与することができる。
【0030】
1つの実施形態において、本発明の幹細胞を被験体に胎内投与する。被験体への胎内投与は、胎児の臍静脈または肝臓への直接の注射、腹腔内注射、胎盤内注射または子宮内注射により実施できる。好ましくは、本発明の幹細胞は始めの3ヶ月間に腹腔内注射により投与する。好ましい実施形態において、幼児が本発明の方法により処置される。処置は、出生後の幼児または胎内のときに本発明の幹細胞を投与することによるものであってよい。
【0031】
1つの実施形態において、幹細胞を被験体に投与する前に、該細胞を、例えばリソソーム酵素をコードする外因性遺伝子を含み、および/または内因性遺伝子を過剰発現するように遺伝子改変する。本発明の1つの実施形態において、外因性遺伝子または過剰発現する内在性遺伝子は、β−ガラクトシダーゼ、ヘキソサミニダーゼA、ヘキソサミニダーゼB、GM活性化因子、アリールスルファターゼA、アリールスルファターゼB、ガラクトシルセラミダーゼ、α−ガラクトシダーゼA、ガラクトサミン−4−スルファターゼ、β−グルコシダーゼ、スフィンゴミエリナーゼ、セラミダーゼ、酸性リパーゼ、スルファターゼ類、α−L−イズロニダーゼ、イズロネート−2−サルフェートスルファターゼ、ヘパランスルファミニダーゼ、N−アセチル−α−グルコサミニダーゼ、α−グルコサミニド−N−アセチルトランスフェラーゼ(アセチルCoAグルコサミン−N−アセチルトランスフェラーゼ)、N−アセチルグルコサミン−6−サルフェートスルファターゼ、N−アセチルガラクトサミン−6−サルフェートスルファターゼ、β−グルクロニダーゼ、ヒアルロニダーゼ、カテプシンK、N−アセチル−β−グルコサミニダーゼ、α−フコシダーゼ、α−マンノシダーゼ、β−マンノシダーゼ、シアル酸トランスポーター、α−N−アセチルガラクトサミニダーゼ、α−ノイラミニダーゼ、カテプシンA、N−アセチルグルコサミン−1−ホスホトランスフェラーゼ、α−1,4−グルコシダーゼ、パルミトイルプロテインチオエステラーゼおよび/またはトリペプチジルペプチダーゼI等の、しかしこれらに限定されないリソソーム酵素をコードする。別の実施形態において、外因性DNA配列は、変更ゲノムを有する幹細胞またはその子孫が未変更ゲノムを有する幹細胞から分化できるように発現する選択可能またはスクリーニング可能なマーカーをコードする遺伝配列を含む。マーカーの例として、緑、赤または黄色の蛍光タンパク質、β−ガラクトシダーゼ、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ(NPT)、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFRm)、またはハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ(hpt)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0032】
別の実施形態は、リソソーム酵素の基質の望まない蓄積を処置する医薬品を調製するための幹細胞の使用を提供する。1つの実施形態において、リソソーム酵素の蓄積はリソソーム蓄積症をもたらす。
【0033】
本発明の他の特徴は、下記の開示に開示されるか、またはそれから明らかであり、本発明の範囲内にある。
【0034】
例示であって、本発明を記載された特定の実施形態に限定することを意図するものではない下記の詳細な説明は、ここに編入される添付の図面に関連して理解されよう。ここでは、本発明の多様な好ましい特徴と実施形態を、限定するものではない実施例により、および添付の図面を参照して説明する。
【0035】
(発明の詳細な説明)
(定義)
ここで用いられる下記の用語は下記の意味により定義される。
【0036】
「幹細胞」は、内胚葉、外胚葉および中胚葉由来の細胞を生じることのできる細胞をいう。「MAPC」とは1タイプの幹細胞である。別のものは「胎児性幹細胞」である。
【0037】
「生殖層」は、内胚葉、中胚葉および外胚葉からなる初期胚の原腸形成の結果として形成された三主要層である。胚芽性生殖層は、すべての組織と器官が由来する起源である。内胚葉は、例えば、咽頭、食道、胃、腸および関連する腺(例えば、唾液腺)、肝臓、呼吸経路および胃腸管の上皮内面、膵臓および肺の起源である。中胚葉は、例えば、平滑筋および横紋筋、結合組織、血管、心筋系、血液細胞、骨髄、骨格、生殖器官および排出器官の起源である。外胚葉は、例えば、表皮(皮膚の表皮層)、感覚器官、脳、脊髄等の全神経系および神経系の外にある全成分の起源である。
【0038】
「MAPC」は、多能性成体前駆細胞(multipotent adult progenitor cell)の頭字語である。それは、自己更新可能であり、かつ分化の際にすべての三主要生殖層(内胚、中胚および外胚)の細胞を生じることのできる多分化能性非ES、非EG、非生殖細胞をいう。(MAPC単離、特性付けおよび調製の説明に関して文献の援用により具体的に編入される)WO01/11011として公開され、米国特許出願第10/048,757号として出願されたPCT/US00/21387および(MAPC単離、特性付けおよび調製の説明に関して援用により具体的に編入される)WO02/064748として公開され、米国特許出願第10/467,963号として出願されたPCT/US02/04652を参照されたい。胚芽性幹細胞と同じく、MAPCはそれらを主要細胞型と明示する多くの細胞マーカーを発現する。例えば、ヒトMAPCがそれらについて調べられ、Oct−3/4、Rex−1、Rox−1、Sox−2を発現し、MAPCの集団はSSEA−4を発現する。
【0039】
MAPCに関する「多分化能」は、分化の際にすべての三主要生殖層(内胚、中胚および外胚)の細胞を生じる能力をいう。
【0040】
「前駆細胞」は、それらの最終的に分化した子孫のすべての特徴ではないが、一部の特徴を有する幹細胞の分化中に作られる細胞である。定義される前駆細胞は子孫に託されるが、特定のまたは最終的に分化する細胞型には託されない。頭字語「MAPC」に用いられる「前駆」(“progenitor”)との用語はこれらの細胞を特別な由来に限定するものではない。
【0041】
「豊富にする」(“enriching”)とは、出発培養物または調製物において、1タイプの細胞が別タイプの細胞よりも増加させられていること意味する。
【0042】
「単離された」とは、インビボで細胞に結合している1つ以上の細胞または1つ以上の細胞成分と結合していない細胞をいう。例えば、細胞の単離集団はここで以下に示すように多様な程度までに精製された細胞集団であってよい。
【0043】
「被験体」とは、脊椎動物、好ましくは哺乳類、さらに好ましくはヒトである。本発明の被験体は、未誕生(例えば、胎児または胎)または新生の被験体であってよいが、これらに限定されない。哺乳類として、ヒト、農場動物、スポーツ動物および愛玩動物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0044】
「処置」または「処置する」とは、肉体的または病気に関連する損傷および/または被験体の肉体的または病気に関連する損傷の症状の処置、予防、緩和または抑制を含む。さらに「処置する」とは、被験体中の基質の望まない蓄積の処置、防止、緩和または抑制を含む。
【0045】
「効果的な量」とは、所望の局所的または全身的効果を提供する量を意味する。例えば、効果的な量は、有益または所望の臨床的または非臨床的結果を達成するのに十分な量である。
【0046】
ここで用いられるように、リソソーム酵素を受けていて、「それを必要とする」被験体は、リソソーム蓄積症を有するか、またはリソソーム蓄積症を発症する危険のある被験体である。さらに、リソソーム酵素を受けていて、「それを必要とする」被験体は、望まれない量の基質を有する被験体である。
【0047】
「リソソーム蓄積症」は、リソソーム酵素の欠乏のために、リソソーム酵素基質の存在または蓄積が起こって、望まれない効果(例えば、基質の異常な蓄積または異常な基質の生産)が生じる病気である。リソソーム酵素は異常な量で作られる(例えば、酵素が被験体内にまったく発現しないか、低いレベルで発現するか、または高いレベルで発現する)か、または例えば変異か不適切なタンパク質の折畳みのために異常に機能する。
【0048】
「リソソーム酵素」は細胞のリソソーム区画に含まれる加水分解酵素であり、そこに含まれる細胞副産物を代謝する。
【0049】
ここで用いられる「基質」とは、一種類以上のリソソーム酵素のリソソーム基質をいう。
【0050】
「基質の蓄積を調節する」とは、リソソーム酵素の未代謝または不適切に代謝された基質の量を調節することである。調節は、基質の蓄積(例えば、リソソーム蓄積症をもたらす基質の蓄積ならびに被験体に対して発病的ではないが、所望のレベルではない基質の蓄積)の減少、除去または防止を含む。
【0051】
「移植」とは、問題の組織の存在する細胞への接触によってインビボでの幹細胞の該組織への取り込みをいう。
【0052】
「分化因子」とは、細胞因子をいい、好ましくは分化を誘導する成長因子または血管形成因子をいう。この文脈において用いられる類似の用語は「サイトカイン」である。サイトカインは、MAPCまたは本発明の他の幹細胞、前駆細胞または分化細胞等の帰還(homing)等の細胞移動を誘導または増強する細胞因子を言及することもできる。
【0053】
この開示において、「含む/包含する」(“comprises”、“comprising”)、「含む」(“containing”)および「有する」(“having”)等は、米国特許法でそれらに帰される意味を有し、「含む」(“includes”、“including”)等を意味することができ;「から基本的になる」(“consisting sessentially of”または「基本的になる」(“consists essentially”)は同じく米国特許法に帰される意味を有し、その用語は幅広い解釈ができ、明示物の基本的または新規な特徴が、明示物以上の存在によって有害に変更されない限り、明示物以上の存在を許容する。
【0054】
他の定義が本開示にわたって適当な文脈で現われよう。
【0055】
(本発明の方法)
1つの実施形態において、本発明は、発明の幹細胞が該被験体の細胞中の望まれない基質蓄積を調節するのに効果的な量のリソソーム酵素を提供するように、発明の幹細胞を、それを必要とする被験体に投与することによりリソソーム蓄積症を処置する方法に関する。好ましくは、幹細胞はMAPCである。
【0056】
本発明のリソソーム蓄積症は下記の病状に細分することができる:スフィンゴリピドーシス、ムコ多糖症、糖タンパク症、ムコリピドーシス、II型糖原病およびセロイド脂褐素症および「他」のカテゴリーにはいるもの(Caillaud,C.et al.,(2000)Biomed.Pharmacother.54:505−12;Nathan and Oski’s Hematology of Infancy and Childhood,(2003)Chapter 35,W.B.Saunders)。ほとんど全てのリソソーム蓄積症は常染色体劣性である。これに対して2つの注記される例外はファブリー病およびハンター症候群であり、これらはX結合性である。
【0057】
スフィンゴリピドーシスは下記の病気を含むが、これらの病気に限定されない:GM1ガングリオシドーシス(Landing肺;β−ガラクトシダーゼ欠乏)、GM2ガングリオシドーシス変種B/B1(Tay−Sach病;ヘキソサミニダーゼA欠乏)および変種O(ザントホフ病;ヘキソサミニダーゼAおよびB欠乏)、異染性白質萎縮症(アリールファターゼA欠乏)、クラッベ病(ガラクトシルセラミダーゼ欠乏)、ファブリー病(α−ガラクトシダーゼ欠乏)、ゴーシェ病(β−グルコシダーゼの欠乏)、ニーマン−ピック病(A、B、C;スフィンゴミエリナーゼ欠乏)、ファーバー病(セラミダーゼの欠乏)、ウォルマン病(酸性リパーゼの欠乏)、およびオースティン病(複数のスルファターゼの欠乏)。
【0058】
ムコ多糖症は下記の病気を含むが、これらの病気に限定されない:I型(ハーラー病またはハーラー症候群)、シャイエ病(α−L−イズロニダーゼの欠乏)、ハーラー−シャイエ病、II型(ハンター病;イズロニダーゼ−2−サルフェートスルファターゼ欠乏)、III型(サンフィリポ病、III A〜D型(それぞれ、ヘパランスルファミダーゼ、N−アセチル−α−グルコサミニダーゼ、α−グルコサミニド−N−アセチルトランスフェラーゼまたはN−アセチルグルコサミン−6−サルフェートスルファターゼの欠乏)、IV型(モルキオ病)、IV A型(N−アセチルガラクトサミン−6−スルファートスルファターゼ欠乏)およびB(β−ガラクトシダーゼ欠乏)、VI型(マロトー−ラミー病;アリールスルファターゼB欠乏)、VII型(スライ病;β−グルクロニダーゼ欠乏)、IX型(ヒアルロニダーゼ欠乏)およびピクノダイソストーシス(ケテプシンK欠乏)。
【0059】
糖タンパク症は下記の病気を含むが、これらの病気に限定されない:アスパルチルグルコサミン尿(N−アセチルβ−グルコサミニダーゼの欠乏)、フコース蓄積症(α−フコシダーゼの欠乏)、α−マンノシドーシス(α−マンノシダーゼ欠乏),β−マンノシドーシス(β−マンノシダーゼ欠乏)、シンドラー病およびKanzaki病(シンドラー病およびKanzaki病の両方に関してα−N−アセチルガラクトサミニダーゼまたはα−ガラクトシダーゼB)。
【0060】
ムコリピドーシスは下記の病気を含むが、これらの病気に限定されない:I型(シアリドーシス;α−ノイラミニダーゼ欠乏)、IB型(ガラクトシアリドーシス;カテプシンA欠乏)およびII型、III型およびIV型(ムコリピドーシス;N−アセチルグルコサミン−1−ホスホトランスフェラーゼ)。II型糖原病は、例えばポーンプ病により特徴付けられる(α−1,4−グルコシダーゼまたは酸性マルターゼの欠乏)。
【0061】
セロイド脂褐素症は、例えば、Santavuori−Haltia病(パルミトイルプロテインチオエステラーゼ欠乏)、ヤンスキー−ビールショースキー病(トリペプチジルペプチダーゼI欠乏)、バッテン病(CLN3タンパク質欠乏)、クッフス病、およびCLN5、CLN6、CLN7およびCLN8座の変異により特徴付けられる病状を含む。
【0062】
他のリソソーム蓄積症として、シアル酸蓄積症(小児型、サラ病;シアル酸担体の欠乏)およびメチルマロン酸性尿症(ビタミンB12担体タンパク質の欠乏)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0063】
ムコ多糖症、例えばI型ムコ多糖症(ハーラー病またはハーラー症候群)には本発明の方法による処置を施すことができる。
【0064】
リソソーム酵素として、β−ガラクトシダーゼ、ヘキソサミニダーゼA、ヘキソサミニダーゼB、GM活性化因子、アリールスルファターゼA、アリールスルファターゼB、ガラクトシルセラミダーゼ、α−ガラクトシダーゼA、ガラクトサミン−4−スルファターゼ、β−グルコシダーゼ、スフィンゴミエリナーゼ、セラミダーゼ、酸性リパーゼ、スルファターゼ類、α−L−イズロニダーゼ、イズロネート−2−サルフェートスルファターゼ、ヘパランスルファミニダーゼ、N−アセチル−α−グルコサミニダーゼ、α−グルコサミニド−N−アセチルトランスフェラーゼ(アセチルCoAグルコサミン−N−アセチルトランスフェラーゼ)、N−アセチルグルコサミン−6−サルフェートスルファターゼ、N−アセチルガラクトサミン−6−サルフェートスルファターゼ、β−グルクロニダーゼ、ヒアルロニダーゼ、カテプシンK、N−アセチル−β−グルコサミニダーゼ、α−フコシダーゼ、α−マンノシダーゼ、β−マンノシダーゼ、シアル酸トランスポーター、α−N−アセチルガラクトサミニダーゼ、α−ノイラミニダーゼ、カテプシンA、N−アセチルグルコサミン−1−ホスホトランスフェラーゼ、α−1,4−グルコシダーゼ、パルミトイルプロテインチオエステラーゼおよびトリペプチジルペプチダーゼIを挙げることができるが、これらに限定されない。1つの実施形態において、該酵素はα−L−イズロニダーゼである。
【0065】
1つの実施形態において、本発明の幹細胞またはその分化子孫の投与は、1つ以上のリソソーム酵素が量および/または機能において欠乏する1つ以上の器官に対して直接行われる。本発明の方法は、心臓、肺、筋肉、腎臓、脾臓、回腸、結腸、脳、肝臓および眼等、しかし、これらに限定されない内臓器官に対するリソソーム酵素の供給によく適する。本発明の方法は、骨格系およびCNS等の非内臓器官にリソソーム酵素を提供することもできる。好ましくは、本発明の幹細胞は移植される(すなわち、器官の存在する細胞と接触すると器官に取り込まれる)ことにより、必要とされるリソソーム酵素を被験体に提供する。リソソーム酵素は本発明の幹細胞により分泌され、例えば、エンドサイトーシス、レセプター仲介取り込み、および/またはピノサイトーシスによりネイティブの細胞に取り込まれる。
【0066】
例えば、ムコ多糖症において、体のすべての細胞に存在するリポソーム区画中の特定のリソソーム加水分解酵素は不活性である。通常、各酵素はその基質中の特定の化学結合に対して高い特異性を有するハイドロラーゼとして機能するだろう。(通常、酵素により分解する)グリコサミノグリカンは、ムコ多糖症に苦しむ被験体の細胞に蓄積し、細胞の構造や機能を損傷する。本発明の方法にしたがえば、酵素を発現する本発明の幹細胞はリソソームハイドロラーゼを放出する。繊維芽細胞等の周囲細胞の表面レセプターは、その酵素を、その炭化水素部分の認識によりピックアップすることができる。特に、α−L−イズロニダーゼは本発明の幹細胞により分泌され、さらなる全身的プロセスを受けることなく活性がある。
【0067】
酵素量は公知の方法にしたがって本発明の方法により処置された被験体中でモニターすることができる。一般的に、酵素検出の好ましい方法は基質アッセイである。基質アッセイは、例えば、基質を用いて酵素活性を検定することからなり、基質は酵素の直接的な作用により色素を直線的に放出し、これを次に比色法により定量する。本発明の方法により処置された被験体中の補充酵素の存在は、酵素mRNAの測定(例えば、逆転写酵素PCRまたはノーザンブロット)によるか、細胞溶解物中の酵素の検出(例えば、ウエスタンブロット)により検出することもできる。
【0068】
基質は、(α−L−イズロニダーゼ、イズロネート−2−スルファターゼ、ガラクトサミン−4−スルファターゼおよび/またはβ−グルクロニダーゼにより代謝される)デルマタン硫酸;(α−L−イズロニダーゼ、イズロネート−2−スルファターゼ、ヘパランスルファミダーゼ、N−アセチル−α−グルコサミニダーゼ、アセチルCoAグルコサミン−N−アセチルトランスフェラーゼ、N−アセチルグルコサミン−1−ホスホトランスフェラーゼ、N−アセチルグルコサミン−6−サルフェートスルファターゼおよび/またはβ−グルクロニダーゼにより代謝される)ヘパリン硫酸;(N−アセチルガラクトサミン−6−サルフェートスルファターゼおよび/またはβ−ガラクトシダーゼにより代謝される)ケラタン硫酸;(ヒアルロニダーゼにより代謝される)ヒアルロン酸;(ノイラミニダーゼおよび/またはシアル酸トランスポーターにより代謝される)シアル酸;(β−ガラクトシダーゼにより代謝される)GM−ガングリオシド;(β−ヘキソサミニダーゼA、β−ヘキソサミニダーゼB、GM活性化因子により代謝される)GM2−ガングリオシド;(ガラクトシルセラミニダーゼにより代謝される)ガラクトシルセラミド;(アリールスルファターゼAおよびBにより代謝される)スルファチド;(α−ガラクトシダーゼAにより代謝される)ガラクトシルスフィンゴリピド;(β−グルコシダーゼにより代謝される)グルコセラミド、(セラミダーゼにより代謝される)セラミド;(スフィンゴミリナーゼにより代謝される)スフィンゴミエリン;(α−マンノシダーゼにより代謝される)α−マンノシド;(β−マンノシダーゼにより代謝される)β−マンノシド;(フコシダーゼにより代謝される)フコシド;(N−アセチル−β−グルコサミニダーゼにより代謝される)N−アセチル−β−グルコサミン;(α−ガラクトシダーゼ、α−N−アセチルガラクトサミニダーゼにより代謝される)N−アセチルガラクトサミン;(α−グルコシダーゼにより代謝される)グリコーゲン;(酸性リパーゼにより代謝される)コレステロールエステル;(カプテプシンKにより代謝される)骨由来のペプチド;(カテプシンAにより代謝される)ガラクトシアル酸;および(パルミトイルプロテインチオエステラーゼにより代謝される)サポシン類であってよいが、これらに限定されない。
【0069】
表1〜6を、リソソーム蓄積症、それらの関連する酵素および対応する基質の概略として提供する。
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】

【0072】
【表3】

【0073】
【表4】

【0074】
【表5】

【0075】
【表6】

(i.グリコサミノグリカン蓄積の低減または防止方法)
1つの実施形態において、本発明は、リソソーム酵素を提供することによりリソソーム酵素が幹細胞によって提供されるグリコサミノグリカン蓄積の調節に関する。例えば、酵素はα−L−イズロニダーゼであってよい。
【0076】
グリコサミノグリカンの蓄積は、β−ガラクトシダーゼ、ヘキソサミニダーゼA、ヘキソサミニダーゼB、GM活性化因子、アリールスルファターゼA、アリールスルファターゼB、ガラクトシルセラミダーゼ、α−ガラクトシダーゼA、ガラクトサミン−4−スルファターゼ、β−グルコシダーゼ、スフィンゴミエリナーゼ、セラミダーゼ、酸性リパーゼ、スルファターゼ類、α−L−イズロニダーゼ、イズロネート−2−サルフェートスルファターゼ、ヘパランスルファミニダーゼ、N−アセチル−α−グルコサミニダーゼ、α−グルコサミニド−N−アセチルトランスフェラーゼ(アセチルCoAグルコサミン−N−アセチルトランスフェラーゼ)、N−アセチルグルコサミン−6−サルフェートスルファターゼ、N−アセチルガラクトサミン−6−サルフェートスルファターゼ、β−グルクロニダーゼ、ヒアルロニダーゼ、カテプシンK、N−アセチル−β−グルコサミニダーゼ、α−フコシダーゼ、α−マンノシダーゼ、β−マンノシダーゼ、シアル酸トランスポーター、α−N−アセチルガラクトサミニダーゼ、α−ノイラミニダーゼ、カテプシンA、N−アセチルグルコサミン−1−ホスホトランスフェラーゼ、α−1,4−グルコシダーゼ、パルミトイルプロテインチオエステラーゼおよびトリペプチジルペプチダーゼI等の、しかし、これらに限定されないリソソーム酵素を提供することにより調節することができる。
【0077】
別の実施形態において、本発明は、発明の幹細胞を投与することによりムコ多糖症(例えば、ハーラー病(ハーラー症候群とも称する))を処置または予防する方法に関する。
【0078】
別の実施形態において、本発明は、幹細胞またはその分化子孫を器官に提供する工程を包含する、1つ以上のリソソーム酵素を欠乏する1つ以上の器官におけるグリコサミノグリカンの蓄積を調節する方法に関する。器官は、心臓、肺、筋肉、腎臓、脾臓、回腸、結腸、脳、肝臓および眼等の、しかしこれらに限定されない内臓器官であってよい。リソソーム酵素は、骨格系およびCNS等の非内臓器官に提供することもできる
(ii.グリコサミノグリカン(GAG)蓄積の検出方法)
問題の組織中のグリコサミノグリカン蓄積の存在は、クレアチンの比色アッセイ法等の比色法を用いるか、ジメチルメチレンブルー色素を用いて検出することができる。リソソーム蓄積症は、それが存在する場合、酵素活性の関数である。したがって、GAG蓄積は、リソソーム酵素発現または活性の減少、低減または緩和と一般的に考えられる。これは、α−L−イズロニダーゼ(「IDUA」)等の精製酵素に、コンドロイチン硫酸またはデルマタン硫酸等のその生理学的物質、または4−メチルウンベリフェロン等の合成基質を与え、その酵素活性を比色または蛍光アッセイにより測定することによって測定できる。色の変化は、例えば、分光光度計で検出することができ、一方、蛍光は分光蛍光計で測定でき、この場合、分光蛍光計は生成物の励起波長と発光波長を検出する。
【0079】
グリコサミノグルカンは、薄層クロマトグラフィー、ガス/液体クロマトグラフィーにより正確に測定することもでき、もしくは、それらを四級アンモニウム塩により沈殿させて電気泳動により分画することもできる。IDUA等のリソソーム酵素の発現は、中でも、RT−PCR、ウエスタンブロット、ELISAおよび免疫組織化学のような標準的な方法を用いて検出できる。支持するデータは、例えばRT−PCRまたはノーザンブロットによる酵素のmRNAの測定から、および例えばウエスタンブロットによる細胞溶解物中のタンパク質の検出から得ることができる。しかし、酵素の直接の活性は色素を直線的に放出し、これを次に比色法により定量できるので、上記の比色アッセイを用いて酵素活性を検出することが好ましい。
【0080】
(iii.幹細胞)
幹細胞は、広範囲の、おそらくは無限の増殖可能性を有し、2つ以上の細胞子孫に分化し、移植の際に組織を再集団化する細胞と定義される。典型的な幹細胞は胎児性幹(ES)細胞である。なぜなら、それは無制限の自己更新性を有し、すべての組織タイプに分化できるためである。ES細胞は、胚盤胞の内細胞塊に由来するか、または内移植後胎芽(胎児性生殖細胞、すなわちEG細胞)からの原始生殖細胞に由来する。ESおよびEG細胞はマウスから得られ、さらに最近では非ヒト霊長類およびヒトからも得られている。マウス胚盤胞または他の動物の胚盤胞に導入された場合、ES細胞はマウス(動物)の全組織に寄与することができる。出生後の動物に移植された場合、ESおよびEG細胞は奇形腫を作る。ES(およびEG)細胞は抗体SSEA1(マウス)およびSSEA4(ヒト)との陽性染色により同定することができる。
【0081】
分子レベルでは、ESおよびEG細胞は、これらの未分化細胞に高度に特異的な多くの転写因子を発現する。これらにはoct−4とrex−1が挙げられる。LIF−Rおよび転写因子sox−2とrox−1も発見されている。rox1とsox−2は非ES細胞でも発現する。Oct−4遺伝子(ヒトにおけるOct−3)はヒトにおいて少なくとも2つのスプライス変異体のOct3AとOct3Bへと転写される。Oct3Bスプライス変異体は多くの分化細胞に見られるが、Oct3Aスプライス変異体(以前にOct3/4と命名されたもの)は未分化胎児性幹細胞に特異的であることが報告されている。
【0082】
Oct−4(ヒトにおけるOct3)は、前原腸形成胚芽、初期切断段階胚芽、胚盤胞の内細胞塊の細胞、および胎児性がん腫(EC)細胞で発現する転写因子であり(Nichols,J,et al Cell 95:379−91,1998)、細胞が分化するように誘導されたときにダウンレギュレーションを受ける。Oct−4の発現は、胚形成および分化の初期段階の決定に役割を果たしている。Oct−4は、Rox−1と組合わされて、ESを未分化に維持するために必要でもあるZn−フィンガータンパク質Rex−1の転写活性化を引き起こす(Rosfjord E,Rizzino A.Biochem Biophys Res Commun 203:1795−802,1997;Ben−Shushan E,et al,Mol Cell Biol 18:1866−78,1998)。さらに、ES/ECで発現し、さらに他のさらに分化された細胞でも発現するSox−2は、ES/ECの未分化状態を保持するために、Oct−4とともに必要とされる(Uwanogho D,Rex M,Cartwright EJ,Pearl G,Healy C,Scotting PJ,Sharpe PT,Mech Dev.,49:23−36(1995))。ネズミEC細胞および原始生殖細胞の維持はLIFの存在を必要とするが、この必要性はヒトおよび非ヒト霊長類ES細胞に対してはそれほど明確ではない。
【0083】
本発明の方法を実施するために用いられる幹細胞は、すべての三生殖層に由来する細胞子孫を生じることのできる細胞をいう。好ましくは、幹細胞はMAPCである。公知の他の幹細胞、例えばここに記載されたものが使用のためにも望ましい。
【0084】
「MAPC」は、非胚芽組織に由来するものであるが、インビトロまたはインビボで分化の際、すべての三生殖層(すなわち、内胚葉、中胚葉および外胚葉)の細胞子孫を生じることのできる(子孫多分化能性の定義)細胞をいう。この文脈において、それらは胎児性幹細胞と等しく、骨髄から単離される間葉系幹細胞とは異なる。これらの細胞の生物学的潜在性は、マウス、ラット等の多様な動物モデルおよびラットまたはNOS/SCIDマウスへのヒト幹細胞の異種移植において立証された(Reyes,M.and C.M.Verfaillie(2001)Ann N.Y.Acad.Sci.,938:231−3;discussion 233−5;Jiang,Y.,et al.(2002)Exp Hematol.,30(8):896−904)。この細胞集団のクローン潜在性の的確な実証において、遺伝子マークされた単一のMAPCがマウスの胚盤胞に注入され、胚盤胞が内移植され、胎が出産予定日まで発達させられた(Jiang,Y.,et al.(2002)Nature,418(6893):41−9)。高度にキメラである動物での出生後分析はすべての組織と器官(肝臓等)の再構成を示す。2回の染色実験は、遺伝子マークされた幹細胞はこれらの動物において、顕著な比率の明らかに機能的な心筋細胞に寄与することを実証する。これらの動物は、胎生学的状態または成体状態のいずれにおいても心臓の異常または不規則性を示さなかった。異常や器官の機能不全はこれら動物のいずれにも観察されなかった。
【0085】
この細胞は、MAPCおよび特にヒト組織からのそれらの単離の説明に関して本文に編入される米国特許出願第10/048,757号および同第10/467,963号で広く特性付けられている。MAPCは細胞表面マーカー発現に関して広く特性付けられており、GlyA、CD44、CD45およびHLAの細胞表面発現に関して陰性である。
【0086】
MSCと生物学的および抗原的に異なるMAPCは、MSCよりも原始的な前駆細胞集団を代表し、上皮性、内皮性、神経性、筋原性、造血性、骨原性、肝臓原性、軟骨原性および脂肪原性の子孫を含む分化能力を示す(Verfaillie,C.M.(2002)Trends Cell Biol.,12(11):p.502−8,Jahagirdar,B.N.,et al.(2001)Exp Hematol.,29(5)p.543−56)。よって、MAPCは、成体幹細胞を魅力あるものとする他の特性を保持しつつ、ES細胞の広い生物学的適応特性に負けない新しい種類の成体幹細胞を代表する。例えば、MAPCは、それらの分化可能性を失うことなく無限の培養が可能であり、テラトーマ形成の証拠なしにNOD−SCIDマウスで、十分で長期の移植と複数の発達子孫に沿った分化を示す(Reyes,M.and C.M.Verfaillie(2001)Ann NY Acad Sci.,938:p.231−3;discussion 233−5)。ES細胞に似た複製老化から逃れる能力(他の成体幹細胞タイプではみられない性質)はこれらの細胞を臨床または研究使用する細胞発展方法の重要な要素である。
【0087】
MAPCは当初骨髄から単離されたが、引き続いて脳、筋肉および帯血等の他の組織から確立された(Jiang,Y.,et al.(2002)Exp.Hematol.,30(8):p.896−904)。骨組織からの付着細胞は、低血清(2%)、デキサメタゾン、EGF、PDGFおよび他の添加物を含有する培地で豊富にさせ、高集団の二倍となるまで増殖させる。初期の培養点において、さらなる不均一性が集団中に検出されるが、多くの付着ストローマ細胞は細胞二倍30あたりで複製老化を受け、細胞のさらに均一な集団が発展し続け、長いテロメア長を維持する。
【0088】
ヒトのMAPCは、MAPCの特性付けに関して具体的に援用される米国特許出願第10/048,757号(8ページの23〜32行目;9ページの1〜22行目;21ページの19〜32行目;22ページの1〜27行目;25ページの20〜31行目;26ページ〜28ページの1〜13行目、20〜25行目;29ページの1〜21行目を参照)および米国特許出願第10/467,963号(9ページの29〜32行目;10ページの1〜25行目を参照)に記載されている。
【0089】
MAPCは、Oct−4および高レベルのテロメラーゼを構成的に発現する細胞としてさらに特性付けられている(Jiang,Y.et al.(2002)Nature 418:41−49)。ヒト、マウス、ラットまたは他の哺乳動物に由来するMAPCは、末期の継代細胞においてさえ非常に高いレベルのテロメラーゼを発現することが現在までに知られている唯一の正常な非悪性の体細胞(すなわち、非胚細胞)であると思われる。テロメラーゼはMAPCにおいて伸張し、それらは核型的には正常である。哺乳動物に注入されたMAPCは移動して複数の器官で同化することができる。MAPCは自己更新型幹細胞である。そのようなものとして、それらは自己更新状態または問題の器官と適合性のある分化状態のいずれかで器官の再集団化に有用性がある。それらは、損傷したか、死んだか、または遺伝的か後天的病気のために異常な機能を有する細胞タイプと置き換わる能力を有する。
【0090】
MAPCは他の哺乳動物で同定されている。例えば、ネズミのMAPCは、ネズミMAPCの説明に関して具体的に編入される米国特許出願第10/048,757号(28ページの15〜18行目を参照)および米国特許出願第10/467,963号(22ページの25〜32行目;23ページの1〜32行目を参照)にも記載されている。
【0091】
MAPC単離の方法は、記載された単離法の説明に関して具体的に編入される米国特許出願第10/048,757号(10ページの17〜32行目;11ページの1〜12行目;22ページの29〜32行目;23ページの1〜32行目;24ページの1〜28行目;71ページの28〜32行目;72ページ〜74ページの1〜27行目)および米国特許出願第10/467,963号(26ページの13〜34行目;27ページ〜28ページの1〜27行目)に記載されている。
【0092】
MAPCは、骨髄、筋肉、脳、脊髄、臍帯血液等の血液、または皮膚等の複数の起源から単離することができる。MAPCを単離するために、骨髄単核細胞は、当業者に公知の標準的な手段により得ることのできる骨髄穿刺から得ることができる(例えば、Muschler,GF.,et al.,(1997)J.Bone Joint Surg.Am.79(11):1699−709;Batinic,D.,et al.,(1990)Bone Marrow Transplant.6(2):103−7)。
【0093】
MAPCは骨髄(または肝臓および脳等の他の器官)内に存在するが、共通する白血球抗原CD45または赤芽球特異的グリコホリン−A(Gly A)を発現しない。骨髄細胞の混合集団をFicol Hypaque分離に供することができる。
【0094】
次に、細胞を、抗CD45および抗GlyA抗体を用いる陰性選択に供して、CD45とGlyA細胞の集団を除去し、残っている約0.1%の骨髄単核細胞を回収する。細胞はフィブロネクチン被覆ウエルに塗布し、2〜4週間、下記に記載のように培養することもでき、その後に細胞からCD45とGlyA細胞を除去する。
【0095】
もしくは、陽性選択を使用して、白血球阻害因子(LIF)レセプター等の細胞特異的マーカーの組み合わせを用いて細胞を単離することができる。陽性および陰性の両方の選択技術が当業者に公知であり、陰性選択目的に適する多くのモノクローナル抗体とポリクローナル抗体も公知であり(例えば、Leukocyte Typing V,Schlossman,et al.,Eds.(1995)Oxford University Pressを参照)、多くの供給者から市販されている。
【0096】
また、細胞集団の混合物からの哺乳類細胞の分離技術は、Schwartzらの米国特許第5,759,793号(磁気分離)、Baschら(1983)J.Immunol.Methods 56:269(イムノアフィニテフィークロマトグラフィー)およびWysockiとSato、Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)(1978)75:2844(蛍光活性化細胞選別)にも記載されている。
【0097】
MAPCの培養方法は、記載された培養方法に関して具体的に編入される米国特許出願第10/048,757号(23ページの25〜32行目)および米国特許出願第10/467,963号(26ページの18〜29行目)に記載されている。
【0098】
回収されたCD45−/GlyA細胞を、5ng/ml(好ましくは約7〜10ng/ml)血清フィブロネクチンまたは他の適当なマトリックス被覆で被覆された培養皿に塗布することができる。細胞は、10ng/ml(好ましくは約5〜15ng/ml)の血小板由来の成長因子−BB(PDGF−BB)、1〜50ng/ml(好ましくは約5〜15ng/ml)上皮成長因子(EGF)、1〜50ng/ml(好ましくは約5〜15ng/ml)インシュリン様成長因子(IGF)、または100〜10,000IU(好ましくは約1,000IU)LIFを補い、100〜10−8Mデキサメタゾンまたは他の適当なステロイド、2〜10μg/mlリノール酸および0.05〜0.15μMアスコルビン酸を有するダルベッコの最少基本培地(DMEM)または他の適当な細胞培養培地に維持することができる。他の適当な培地として、例えば、MCDB、MEM、IMDMおよびRPMLがあげられる。細胞は、血清なしで、1〜2%のウシ胎児血清の存在下に、または例えば1〜2%ヒトAB血清または同原血清中に維持することができる。細胞が培養される密度は約500/cm〜10,000/cmの範囲で変えることができる。約500/cm以下では、細胞はよく成長せず、細胞死を受け始める。10,000/cm以上では、細胞は多分化能性を失い始める。好ましい維持密度は約2,000細胞/cmである。
【0099】
幹細胞の使用に関する問題は、単離された幹細胞集団の純度である。例えば、骨髄細胞は、所望の効果を得るために十分な程度まで精製できる細胞の混合集団からなる。当業者は、蛍光活性化細胞選別(FACS)等のよく知られた多様な方法を用いて、集団中のMAPCのパーセントを容易に決定することができる。MAPCを含む集団中の純度の好ましい範囲は、約50〜55%、55〜60%および65〜70%である。さらに好ましくは、純度は約70〜75%、75%〜80%、80〜85%;最も好ましくは、純度は約85〜90%、90〜95%および95〜100%である。しかし、約25〜30%、30〜35%、35〜40%、40〜45%および45〜50%の等の低い純度を有する集団も有用でありうる。MAPCの純度は、集団内の遺伝子発現プロフィールにしたがって決定することができる。投与量は当業者により容易に調節することができる(例えば、純度の減少は投与量の増加を必要とするだろう)。
【0100】
本発明の方法にしたがう使用のための他の幹細胞は、すべての三生殖層に由来する細胞子孫を生じることのできる幹細胞であり、そのような細胞としてここで記載の細胞が挙げられるが、これらに限定されない。MAPCに関して、本発明に有用な他の幹細胞は、約50〜55%、55〜60%、60〜65%および65〜70%の純度を有する細胞の集団からなる。より具体的には、純度は約70〜75%、75〜80%、80〜85%;最も好ましくは、純度は約85〜90%、90〜95%および95〜100%である。
【0101】
米国特許第6,090,625号および米国特許出願第20030166272号は、多分化能性であると述べられた未分化細胞を開示する。
【0102】
米国特許第5,827,735号は、多分化能性であると述べられた間葉系幹細胞を開示する。間葉系幹細胞は、分化するように誘導された場合に、繊維芽細胞ならびに自発的に収縮する多核構造物を形成することができる。
【0103】
非胎児性または出生後の動物細胞または組織に由来し、かつ自己更新および内胚葉、外胚葉および中胚葉子孫に分化しうる多分化能性(例えば、内胚葉、外胚葉および中胚葉子孫を生じうる)と述べられた胎児様幹細胞が米国特許出願第20030161817号に開示されている。
【0104】
米国特許第6,200,806号および同第5,843,780号は、1年を超える期間にわたってインビトロ培養で増殖すると述べられ、染色体が正倍数性であり長期培養で変化しない核型を維持し、培養の間じゅう内胚葉、中胚葉および外胚葉組織の誘導体へと分化する潜在能力を維持し、繊維芽細胞フィーダー層上で培養された場合分化が抑制される霊長類(ヒトを含む)胎児性幹細胞を言及する。
【0105】
米国特許出願第20010024825号および同第20030008392号は、1年を超える期間にわたってインビトロ培養で増殖すると述べられ、ヒト種に特徴的なすべての染色体が存在し、長期培養で変化しない核型を維持し、培養の間じゅう内胚葉、中胚葉および外胚葉組織の誘導体へと分化する潜在能力を維持し、繊維芽細胞フィーダー層上で培養された場合分化が抑制されるヒト胎児性幹細胞を開示する。
【0106】
米国特許出願第20030113910号は、1年を超える期間にわたってインビトロ培養で増殖すると述べられ;細胞が正倍数性であり培養中変化しない核型を維持し;培養の間じゅう内胚葉、中胚葉および外胚葉に由来する細胞種へと分化する潜在能力を維持し、繊維芽細胞フィーダー層上で培養された場合分化が抑制される多分化能性非胎児性幹細胞を開示する。
【0107】
米国特許出願第20030073234号は、少なくとも8ヶ月間のインビトロ培養後に正常な胎児性幹細胞表現型を維持することのできると述べられたクローナルヒト胎児性幹細胞系を開示する。
【0108】
米国特許第5,914,268号は、造血細胞、その前駆細胞および子孫への発達のために多分化能性であると述べられた多分化能性細胞集団を開示する。この多分化能性細胞集団は、胎児性幹細胞集団を培養して胚質体細胞集団を得て、次に該胚質体細胞集団を、多分化能性集団を作るのに効果的な条件下に培養することにより得られる。培養条件は胎児性芽球細胞培地を含む。
【0109】
米国特許出願第20030157078号は、単離された多分化能性前間充織、前造血前駆幹細胞を言及する。そのような細胞は、誘導成長因子およびサイトカインに対する増殖応答性により、およびそれらの形態学的および細胞化学的特徴により決定された間充織表現型と造血表現型の両方に分化する潜在能力を有すると述べられている。
【0110】
米国特許出願第20030161817号は、帯血液以外の、幹細胞の臍帯マトリックス起源から単離された幹細胞からなる培養単離物において、該単離物が分化全能の不死幹細胞からなる培養単離物を言及する。これらの細胞単離物は、1年を超える期間にわたってインビトロ培養で増殖可能と述べられ;ヒト種に特徴的なすべての染色体が存在し、長期培養で著しく変化しない核型を維持でき;培養の間じゅう内胚葉、中胚葉および外胚葉組織の誘導体へと分化する潜在能力を維持すると述べられている。
【0111】
米国特許出願第20030180269号は、多数の胎児様幹細胞を補った、産後の胎盤および臍帯血液からの幹細胞または前駆細胞からなる組成物を開示する。これらの細胞は、oct−4、ABC−p、SSEA3およびSSEA4であると述べられている。同様に、米国特許出願第20030032179号は、単離された産後の胎盤およびそれから単離された、CD10、CD29、CD34、CD44、CD45、CD54、CD90、SH2、SH3、SH4、SSEA3、SSEA4、OCT−4およびABC−pの表現型を示すと述べられている細胞を開示する。
【0112】
米国特許出願第20020168763号および同第20030027331号はホモ接合幹細胞を開示する。これらの幹細胞は、2つの卵母細胞または2つの精子細胞を融合し、卵形成中は第二の極体の突き出しを妨げ、次に第二の極体の突き出しと自発的な自己複製を適当な条件下で行うか、または2つの精子または2つの一倍体卵核を脱核卵母細胞に移入することにより、有糸分裂で活性化されたホモ接合減数分裂I後二倍体生殖細胞から作られることが述べられている。この後に、該活性化ホモ接合減数分裂I後二倍体生殖細胞を培養して、胎盤胞様塊を形成し、この胎盤胞塊の内細胞塊からホモ接合幹細胞を単離する。
【0113】
米国特許出願第20020090722号は、哺乳類の卵母細胞または受精接合体(細胞質体ドナー)に由来する細胞質断片を調製する方法から得られたと述べられている、どの哺乳動物種から取ることができる細胞質体断片と細胞または核質(核ドナー)との融合物である多分化能性細胞集団を開示する。
【0114】
米国特許出願第20020142457号は、生体組織または臍血から単離された細胞であって、造血または間葉系幹細胞よりも原始的であり、内胚葉、中胚葉および外胚葉等の三生殖層のすべてに分化すると述べられている細胞を開示する。
【0115】
未分化のヒト胎児性幹細胞が米国特許出願第20020160509号に開示されている。この細胞は、SSEA−4、GCTM−2抗原およびTRA1−60等、ヒト多分化能性幹細胞のマーカーに対して免疫反応性があり、oct−4を発現すると述べられている。
【0116】
米国特許出願第20020164794号は、ヒト臍帯血、胎盤血および/または新生児からの血液試料に由来する限定されない体幹細胞(unrestricted somatic stem cell(USSC))を記載する。この体幹細胞は、間充織細胞または前駆細胞、造血子孫幹または前駆細胞、神経幹または前駆細胞または内皮幹または前駆細胞とは異なるが、これら細胞に分化できることが述べられている。
【0117】
非マウス胎児性幹細胞の単離集団が米国特許出願第20020188963号に開示されている。これらの標的ES細胞は、標的胎に由来する細胞を、マウスES細胞等の非標的ES細胞とともに培養することにより得られると述べられている。
【0118】
米国特許出願第20030219866号は、脱分化幹細胞または「幹細胞様細胞」と述べられたものを開示する。
【0119】
米国特許出願第20030219898号は、哺乳類の多分化能性幹細胞(MSCs)を開示する。これらの細胞は、あまり発達性のない分化細胞からさらに発達性のある分化細胞を作る方法により得ることができる。
【0120】
米国特許出願第20030124720号は、多分化能性があり生殖系列の適格な哺乳類幹細胞であると述べられたものを開示する。
【0121】
米国特許出願第20030082803号は、Cdk2等の細胞周期を変えるキナーゼの活性または発現レベルを調節することにより作られる、哺乳類(ヒトであってよい)由来の多分化能性または多分化能性関連細胞であると述べられたものを開示する。
【0122】
米国特許出願第20020081724号は、胎児性幹細胞および胚質体(EBs)の分解により単離された、胎児性幹細胞由来の細胞培養物であると述べられたものを記載する。
【0123】
米国特許出願第20020081724号および同第20020137204号は、基本的にフィーダー細胞を含まない、霊長類の多分化能性幹(pPS)細胞を増殖することからなる組成物であると述べられたものを開示する。
【0124】
米国特許出願第20030032177号は、多分化能性または多分化能性関連細胞中で細胞分化調節分子の発現および/または活性を操作することにより分化可能性を調節する方法により得られた多分化能性または多分化能性関連細胞であると述べられたものを開示する。
【0125】
米国特許出願第20030087431号は、生育不能な前胚芽に由来する細胞からなる複合胎盤胞(CBs)から単離された幹細胞系であると述べられたものを開示する。CBsは、生育不能な前胎芽を非核形成細胞および個々の核形成細胞または細胞群に解離し;b)非凝集の生育不能な前胚芽からの個々の単核細胞または単核細胞群の単離;c)ホストの透明帯中の生育不能な前胎芽から単離された単核細胞または単核細胞群の集合;およびd)細胞の増殖および分化を可能とするように帯に包まれた細胞集合体を培養することにより作られる。
【0126】
本出願人は、文献の援用により、幹細胞の単離、特性付けおよび調製の説明に関して上記のすべての文献をここに具体的に編入する。
【0127】
本発明の方法によれば、問題のリソソーム酵素を、本発明の幹細胞における正常な遺伝子発現により作ることができる。さらに、本発明の幹細胞が問題のリソソーム酵素をコードする1つ以上の遺伝子のさらなるコピーを含むか、または内因性遺伝子を過剰発現するように幹細胞を遺伝子改変することができる。遺伝子改変幹細胞は、組換えタンパク質の強力な発現を指令するプロモーターの制御下に酵素をコードするDNAを含んでよい。もしくは、該細胞は、条件が高度に制御された調節または酵素の発現のタイミングを必要とする誘導プロモーターまたは他の制御機構により調節される遺伝子を発現する。
【0128】
本発明の幹細胞は、それらの未修飾形に提供されるか、または治療効果を提供できる1つ以上の遺伝子を発現するように遺伝子設計してよい。
【0129】
例えば、本発明の幹細胞は、なかでも、β−ガラクトシダーゼ、ヘキソサミニダーゼA、ヘキソサミニダーゼB、アリールスルファターゼA、ガラクトシルセラミダーゼ、α−ガラクトシダーゼA、β−グルコシダーゼ、スフィンゴミエリナーゼ、セラミダーゼ、酸性リパーゼ、多スルファターゼ欠乏、α−L−イズロニダーゼ、イズロネート−2−サルフェートスルファターゼ、ヘパランスルファミニダーゼ、N−アセチル−α−グルコサミニダーゼ、α−グルコサミニド−N−アセチルトランスフェラーゼ、N−アセチルグルコサミン−6−サルフェートスルファターゼ、N−アセチルガラクトサミン−6−サルフェートスルファターゼ、β−グルクロニダーゼ、ヒアルロニダーゼ、カテプシンK、N−アセチル−β−グルコサミニダーゼ、α−フコシダーゼ、α−マンノシダーゼ、β−マンノシダーゼ、α−N−アセチルガラクトサミニダーゼ、α−ノイラミニダーゼ、カテプシンA、N−アセチルグルコサミン−1−ホスホトランスフェラーゼ、α−1,4−グルコシダーゼ、パルミトイルプロテインチオエステラーゼおよびトリペプチジルペプチダーゼI等のリソソーム酵素をコードする不均一DNAを含有することができる。特定の酵素の選択は、処置すべきリソソーム蓄積症の具体的な種類に依存するだろう。
【0130】
本発明の幹細胞は、単離された不均一DNAまたはRNAを当業者に公知の多様な方法によって細胞に導入することにより、(好ましくはリソソーム酵素をコードする)不均一DNAを含むように遺伝子改変することができる。これらの方法は一般的に下記の4つのカテゴリーに分類することができる:(1)レトロウイルス(レンチウイルスを含む)、サルウイルス40(SV40)、アデノウイルス、シンドビスウイルスおよびウシパピローマウイルス等のDNAまたはRNAウイルスベクターの使用を含むウイルス導入;(2)リン酸カルシウムトランスフェクションおよびDEAEデキストラントランスフェクション法等の化学的導入;(3)リポソーム、赤血球細胞ゴーストおよびプロトプラスト等のDNA充填膜ベシクルを用いる膜融合導入;および(4)マイクロインジェクション、エレクトロポレーションまたは直接の「ネイキッド」DNA導入等の物理的導入技術。
【0131】
本発明の幹細胞は、前選択された単離DNAの挿入により、または前選択された単離DNAによる細胞ゲノムのセグメントの置換または拡大により遺伝子改変することができ、または細胞の細胞ゲノムの少なくとも一部の欠失または不活性化により改変することができる。細胞ゲノムの少なくとも一部の欠失または不活性化は、均一組換え等の、しかし、これに限定されない多様な手段により達成することができる。一般的に、「均一組換え」とは、DNAのセグメントを、同一またはほとんど同一の他のセグメントにより置換することである。例えば、外因性DNA分子を均一的に組換えるとは、分子のセグメント、好ましくは挿入用の所望のヌクレオチド配列に隣接するセグメントを、該外因性DNA分子またはその一部が幹細胞ゲノムに挿入されるように幹細胞の均一ゲノムDNA配列と物理的に交換することである。均一組換えの概説に関して、Lewin,B.,Genes V,Oxford University Press,New York,1994,pp.968−997;Capecchi,M.,(1989)Science 244:1288−1292;Capecchi,M.,(1989)Trends Genet.5(3):70−76を参照されたい。さらに、文献の援用により均一組換えの方法に関する全開示がすべて本文中に編入される米国特許第5,783,385号、同第5,733,761号および同第5,641,670号を参照されたい。さらに、非均一組換えの方法も、例えば米国特許第6,623,958号、同第6,602,686号、同第6,541,221号、同第6,524,824号、同第6,524,818号、同第6,410,266号、同第6,361,972号(文献の援用により非均一組換えの方法に関する全開示がすべて本文中に編入される)に記載されているように公知である。
【0132】
変更ゲノムは、変更ゲノムを有する前駆細胞またはその子孫が未変更ゲノムを有する前駆細胞から分化されうるように発現されるスクリーニング可能または選択可能なマーカー遺伝子の遺伝配列を含有してよい。例えば、マーカーは、緑、赤、黄色の蛍光タンパク質、β−ガラクトシダーゼ、ネオマイシン耐性遺伝子、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)、またはハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼであってよいが、これらの実施例に限定されない。
【0133】
1つ以上の前選択DNA配列の挿入は、均一組換えによるか、または宿主細胞ゲノム中へのウイルス組込みにより達成することができる。また、所望の遺伝子配列は、プラスミド発現ベクターおよび核局在化配列を用いて、細胞、特にその核に組込むことができる。ポリヌクレオチドを核に向けさせる方法は当分野で記載されている。問題とする遺伝子を、化学薬品/薬物を用いて正または負に誘導させ、所与の薬物/化学薬品の投与後に除去するプロモーターを用いるか、または(細胞膜等の、しかしこれに限定されない)特定の細胞区分中での(タモキシフェン応答性変異エストロゲンレセプター等の、しかしこれに限定されない)化学薬品による誘導を可能とするようにラベルすることのできるプロモーターを用いて遺伝子材料を導入することができる。
【0134】
標的遺伝子またはポリヌクレオチドを含むプラスミドDNAを、単離または培養多分化能性幹細胞に導入するためにリン酸カルシウムトランスフェクションが用いられ、これは当業者にとってDNA導入の標準的な方法である。DEAE−デキストラントランスフェクションも当業者に公知であり、一時的なトランスフェクションが望ましい場合、しばしばより効率的であるために、リン酸カルシウムトランスフェクションよりも好ましいであろう。本発明の細胞は単離細胞であるために、マイクロインジェクションは遺伝子物質を細胞に導入するために特に効果的でありうる。この方法は、所望の遺伝子材料を直接核に供給して、注入されたポリヌクレオチドの細胞質およびリソソーム分解を避けるので有利である。この技術は、トランスジェニック動物で生殖系列の修飾を達成するために効果的に用いられている。本発明の幹細胞は、エレクトロポレーションまたはヌクレオフェクションを用いて遺伝的に修飾することもできる。
【0135】
細胞を遺伝的に修飾するためのDNAまたはRNAのリポソーム輸送は、ポリヌクレオチドと安定な複合体を形成するカチオン性リポソームを用いて実施することができる。リポソーム複合体の安定化のために、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)またはジオレオイルホスファチジルコリン(DOPQ)を加えることができる。リポソーム導入用の市販の試薬として、LipofectinS(Life Technologies)が挙げられる。例えば、Lipofectinは、カチオン性脂質N−[1−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル]−N−N−N−トリメチルアンモニア塩化物およびDOPEの混合物である。リポソームは大きなピースのDNAを運ぶことができ、ポリヌクレオチドを分解から一般的に守り、特定の細胞または組織を標的とすることができる。カチオン性脂質仲介遺伝子導入の効率は、水疱性口炎ウイルスエンベロープ(VSV−G)の精製G糖タンパク質等の精製ウイルス成分または細胞エンベロープ成分を組込むことにより増強することができる。リポポリアミン被覆DNAを用いて、主要な確立された哺乳類細胞系へのDNAの供給に効果的であると示された遺伝子導入技術を用いて、標的DNAを本発明の幹細胞に導入することができる。
【0136】
次に、ネイキッドプラスミドDNAは、本発明の幹細胞から分化した細胞から形成された組織塊に直接注入することができる。この技術はプラスミドDNAを骨格筋組織に導入するために効果的であることが示されており、この場合、マウス骨格筋での発現が一回の筋内注射後の19ヶ月を超える期間観察された。迅速に分裂する細胞はネイキッドプラスミドDNAをさらに効果的に取り込む。したがって、プラスミドDNAによる処置前に細胞分裂を促進することは有利である。さらに、微小発射遺伝子導入が、遺伝子を本発明の幹細胞にインビトロまたはインビボで導入するために用いることができる。微小発射遺伝子導入の基本的な操作はJ.WolffによりGene Therapeutics(1944)の195ページに記載された。同様に、微小粒子注射技術がすでに記載されており、方法は当業者に公知である。シグナルペプチドをプラスミドDNAに結合して、該DNAをさらに効率的な発現のために核に向けさせることができる。
【0137】
ウイルスベクターを用いて本発明の幹細胞およびそれらの子孫を遺伝的に改変する。既に記載した物理的方法が用いられるようにウイルスベクターを用いて、標的遺伝子、ポリヌクレオチド、アンチセンス分子またはリボザイム配列等の1つ以上の核酸を細胞に投与することができる。ウイルスベクターおよびDNAを細胞に運ぶためにそれらを使用する方法は当業者によく知られている。本発明の細胞を遺伝的に変えるために用いることのできるウイルスベクターの具体例として、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター(レンチウイルスベクターを含む)、アルファウイルスベクター(例えば、シンドビスベクター)およびヘルペスウイルスベクターが挙げられるが、これらに限定されない。
【0138】
(iv.幹細胞の投与)
本発明の幹細胞またはそれらの子孫は、カテーテル投与、全身注射、腹腔内注射、頭蓋内注射、筋内、肝臓内、非経口投与、動脈内注射、側脳室への注射または胎盤内注射等の局所注射により投与することができる。例えば、MAPCは公知の多様な方法により被験体に投与することができる。好ましくは、投与は、外科的心筋内注射、経心内膜注射、冠状血管内注射、経血管注射、筋内注射および/または静脈内注射等の、しかし、これらに限定されない注射による。注射は、所望の器官系、例えば、骨髄、肝臓、心臓組織またはその血管へ直接向けることができる。本発明の幹細胞は、マトリックス系組成物等の組織設計構造または肝臓または腎臓補助装置等の生物人工的器官の形で投与することができる。
【0139】
静脈内注射は細胞投与の最も簡単な方法であるが、幹細胞の帰還(“homing”)に対する高い依存度が、それら細胞が問題の組織(例えば、心筋)に到達するために必要とされる。当業者により容易に決定される注意深く調節された投与量はこの投与方法を増強する。
【0140】
あるサイトカインは、MAPCまたはそれらの分化細胞の損傷筋肉組織部位への移動を変えるか、影響を与えることができる。幹細胞の障害筋肉組織への「帰還」は、成長および機能に有利な環境に内移植細胞を集中させるので必須である。さらに急性の状態では、幹細胞を末梢的もしくは局所的に循環系を経て投与することができる。帰還シグナルが強くない場合、細胞の部位への直接の注入はさらに有利な結果をもたらすだろう。帰還を促進するためにサイトカインによる患者の前処置は、本発明の方法で意図される別法である。さらに、外因性因子(例えば、サイトカイン、分化因子および抗細胞死因子)を、MAPC前、後または同時に投与することができる。例えば、同時投与の形は、投与前にMAPC懸濁培地中の問題の因子を組み合わせることからなるものであろう。投与量は変えることができ、最初の投与後に次の投与を含んでよい。
【0141】
当業者は、組成物中および本発明の方法で投与すべき細胞の量および任意の添加物、ベヒクルおよび/または担体の量を容易に決定できる。典型的には、(活性のある幹細胞および/またはサイトカインに加えて)添加物は、リン酸緩衝塩溶液中、0.001〜50重量%溶液の量で存在し、有効成分は、約0.0001〜約5重量%、好ましくは約0.0001〜約1重量%、最も好ましくは約0.0001〜約0.05重量%または約0.001〜約20重量%、好ましくは約0.01〜約10重量%、最も好ましくは約0.05〜約5重量%などのマイクログラムからミリグラムのオーダーで存在する。もちろん、動物またはヒトに投与される組成物に関して、および投与の特定の方法に関して、適当な動物モデル、例えばマウス等のげっ歯類での致死量(LD)およびLD50を決定する等により毒性、および適当な応答を引き出す組成物の投与量、組成物中の成分濃度および組成物投与のタイミングを決定することが望ましい。そのような決定は当業者の知識、本開示およびここで挙げられた文献から、過度な実験を必要としない。連続投与の時間は過度な実験なしに確かめることができる。
【0142】
本発明の治療組成物を投与する場合、一般的に、単位投与量の注射可能な形態(溶液、懸濁液、乳濁液)で処方されよう。注射に適する医薬処方物として、滅菌水溶液および分散液が挙げられる。担体は、溶媒、または例えば、水、塩溶液、リン酸緩衝塩溶液、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコール等)およびそれらの適当な混合物を含む分散媒であってよい。
【0143】
さらに、抗微生物防腐剤、抗酸化剤、キレート化剤および緩衝液等の、組成物の安定性、滅菌性および等張性を向上させる多様な添加物を用いることができる。微生物の作用の防止は、多様な抗微生物および抗真菌物質、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸等により確保することができる。多くの場合、等張性物質、例えば糖、塩化ナトリウム等を含ませることが望ましいだろう。注射可能な薬学形の持続的な吸収は、吸収を遅らせる物質、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを使用することにより達成することができる。しかし、本発明によれば、使用されるどのベヒクル、希釈剤または添加物も細胞と適合性のあるものでなければならない。
【0144】
滅菌注射可能溶液は、必要とされる量の適当な溶媒中で、本発明の実施に利用される細胞に、必要により多様な量の他の成分を配合することにより調製することができる。
【0145】
1つの実施形態において、本発明の幹細胞を最初に投与し、その後、さらなる投与により幹細胞が保持できる。例えば、本発明の幹細胞を注射の一方法により投与し、その後に異なるか同じ種類の方法によりさらに投与することができる。好ましくは、本発明の幹細胞は酵素が適当なレベルに達するまで腹腔内注射により投与することができる。次に、患者の酵素レベルを、例えば、静脈内注射により保持することができるが、患者の状態に依存しながら、他の投与形を用いることができる。本発明の幹細胞またはそれらの子孫は、カテーテル投与、全身注射、頭蓋内注射、動脈内注射、非経口投与、側脳室への注射、胎盤内注射または子宮内注射等の局所注射により胚に投与することができる。
【0146】
本発明の幹細胞は、マトリックス系組成物等の組織設計構造の形態で投与することができる。細胞を、それを必要とする被験体へ導入する場合に細胞生存を潜在的に高める方法は、本発明の幹細胞またはそれらの問題の分化子孫をバイオポリマーまたは合成ポリマーマトリックスへ取り込むことである。被験体の状態に基づいて、注射部位は、傷跡や他の傷害のために細胞接種や増殖に適さないことが明らかになることもある。バイオポリマーの例として、フィブロネクチン、フィブリン、フィブリノーゲン、トロンビン、コラーゲンおよびプロテオグリカンと混合された細胞が挙げられるが、これらに限定されない。これは、含まれるサイトカインまたは分化因子を用いるか、または用いずに作ることができよう。さらに、これらは懸濁物中にあってよいが、流れに供される部位での残留時間は公称である。別のものは、細胞バイオポリマー混合物の裂け目内に取り込まれた細胞を有する三次元ゲルである。再び、分化因子またはサイトカインは細胞内に含ませることができる。これらは、ここに記載の多様な経路による注射により配置させることができる。
【0147】
本発明の幹細胞の治療用の使用に関する問題は、最適効果を達成するために必要な細胞の量である。同原単核骨髄細胞の現在のヒト研究において、1〜4×10個の細胞の実験的範囲が用いられ、勇気付けられる結果が得られている。しかし、問題の組織に注入される細胞の量を最適化するために異なるシナリオが必要であろう。例えば、投与される細胞の量は処置される被験体に応じて変えられるだろう。好ましい実施形態において、10〜10個、さらに好ましくは10〜10個および最も好ましくは3×10個の本発明の幹細胞および任意に50〜500μg/kg/日のサイトカインをヒト被験体に投与することができる。しかし、基質の望まれない蓄積が始まるために、効果的な量と考えられる正確な決定は被験体ごとに異なる因子、例えば被験体の大きさ、年齢、標的器官、および時間の長さに基づいてよい。したがって、投与量は、この開示および当分野での知識から当業者により容易に確かめることができる。
【0148】
処置が病気のプロセスの期間および有効性に比例する期間を有するように、ヒト被験体は一般的にマウスまたは他の実験動物よりも長期間処置されることに注意されたい。投与は、数日の期間にわたって単回投与または複数回投与であってよい。例えば、当業者は、この開示およびここで開示された文献および当技術の知識からの技術により、過度な実験をすることなしに、動物実験、例えば、ラット、マウス、イヌ等から、ヒトへとスケールアップすることができる。通常、処置は病気プロセスの期間および薬剤有効性および処置される被験体に比例する期間を有する。
【0149】
本発明の幹細胞からなる組成物の実施例として、懸濁液等の投与用液体調製物;および滅菌懸濁液または乳濁液等の注射可能な投与用調製物が挙げられる。そのような組成物は、適当な担体、希釈剤、または賦形剤、例えば滅菌水、生理学的食塩水、グルコース、デキストロース等との混合物であってよい。組成物は凍結乾燥することもできる。組成物は、投与経路および所望の調製物に基づき、湿潤剤または乳化剤、pH緩衝剤、ゲル化または粘度増強添加剤、防腐剤、香料剤、色剤等の補助物質を含むことができる。“REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCE”、第17版、1985年(この内容は、本明細書において参考として援用される)などの標準的なテキストで調べて、過剰な実験なしに適当な調製物を作ることができる。
【0150】
本発明の組成物は、液体調製物、例えば、選択されたpHに緩衝性を持たせてよい等張水溶液、懸濁液、乳濁液または粘性組成物として提供するのが便利である。通常、液体調製物は、ゲル、他の粘性組成物および固体組成物よりも調製が容易である。さらに、液体組成物は、特に注射によって投与するのがさらに幾分か便利である。一方、粘性組成物は、特定の組織とのさらに長い接触時間を提供する適当な粘度範囲内で処方することができる。
【0151】
適当な担体および他の添加剤の選択は正確な投与経路および特定の投与形、例えば液体投与形の性質(例えば、組成物を溶液、懸濁液、ゲルまたは他の液体形、例えば時間放出形または液体充填形に処方すべきかどうか)に基づくだろう。
【0152】
溶液、懸濁物およびゲルは、細胞以外に大量の水(好ましくは精製滅菌水)を含んでよい。少量の他の成分、例えば、pH調整剤(例えば、NaOH等の塩基)、乳化剤または分散剤、緩衝剤、防腐剤、湿潤剤およびゲル化剤(例えば、メチルセルロース)も存在してよい。組成物は等張性であってよく、すなわち血液および涙と同じ浸透圧を有することができる。
【0153】
本発明の組成物の所望の等張性は、塩化ナトリウムまたは他の薬学的に許容される物質、例えばデキストロース、ホウ酸、酒石酸ナトリウム、プロピレングリコールまたは他の無機または有機の溶質を用いて達成してよい。塩化ナトリウムは、ナトリウムイオンを含有する緩衝液に特に好ましい。
【0154】
所望であれば、組成物の粘度は、薬学的に許容される増粘剤を用いて選択されたレベルに維持できる。メチルセルロースは容易かつ経済的に利用でき、とりかかるのに容易であるために好ましい。他の適当な増粘剤として、例えば、キサンタンガム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボマー等が挙げられる。増粘剤の好ましい濃度は選択された薬剤に依存し、増粘剤の量は選択された粘度を達成するように用いられる。粘性組成物はそのような増粘剤の添加により溶液から調製することができる。
【0155】
薬学的に許容される防腐剤または細胞安定剤を用いて組成物の寿命を高めることができる。好ましくは、防腐剤が必要な場合、本発明に記載されたように本発明の幹細胞の生存性または有効性に影響を与えない組成物を選択することは十分に当業者の範囲内にある。
【0156】
当業者は、組成物の成分が化学的に不活性であるように選択すべきことを理解するだろう。これは、化学的および薬学的原理の当業者に問題を示さないか、もしくは、この開示およびここに挙げられた文献から、標準的な教科書を参照することにより、または簡単な実験により(過度な実験はともなわない)、問題を容易に回避することができる。
【0157】
特定の患者の年齢、性別、体重および状態および投与に用いられる組成物形(例えば、固体対液体)を考慮しながら、医療および獣医技術の当業者によく知られた投与量と技術により組成物を投与することができる。ヒトまたは他の哺乳類のための投与量は、本開示、ここで挙げられた文献および当分野での知識から、過度な実験なしに決定することができる。
【0158】
初期の投与の適当な投与計画およびさらなる投与量またはその連続的な投与の投与計画も変更可能であり、投薬計画は初期の投与およびその後の投与を含むが、それにもかかわらず、当業者により、本開示、ここで挙げられた文献および当分野での知識から確かめることができる。
【0159】
(v.幹細胞の被験体への胎内投与)
好ましい実施形態において、本発明は、本発明の幹細胞を投与することによりリソソーム酵素を被験体に胎内において提供する方法に関する。
【0160】
本発明の幹細胞の被験体への胎内投与は、胎児の臍静脈または肝臓への直接の注射、腹腔内注射、胎盤内注射、または胚への子宮内注射により実施できる。好ましくは、本発明の幹細胞は、6ヶ月間以内に開始する腹腔内注射により投与する。好ましくは、腹腔内投与は最初の3ヶ月に開始する。
【0161】
好ましい実施形態において、小児は本発明の方法により処置する。処置は、本発明の幹細胞を、産後の小児または胎内にあるうちに投与することにより行ってよい。
【0162】
子宮切開術または他の方法のいずれかにより細胞の直接の可視化によるか、または細胞がドナー細胞の容易な検出を可能とするマーカーとともに形質導入された場合に本発明の幹細胞の成功する周生期導入が実施され評価できる。周生期導入は超音波ガイダンスと組み合わせて用いることもできる(Surbek,D.V.,et al.(2002)Am.J.Obstet.Gynecol.187:960−3)。母方細胞または胎児細胞が胎盤を横断しているうちに、ほとんどが胎盤により除去されると思われる。よって、非母方注入が望ましい。
【0163】
ヒトおよび大型哺乳動物(ヤギ、ヒツジ)における胎内注入は最初の3ヶ月に実施するのが最も好ましい。胎内移植は公知であり、その技術は本明細書において参考として援用される(Carrier,E.,et al.(1997)Transplantation 64(4):627−633;Carrier,E.,et al.(1995)Blood 86(12):4681−4690)。本発明の幹細胞は発達の初期に投与することもでき、これが、大きな移植片およびここに開示のリソソーム蓄積症に関連した出生前誕生欠損の修正をもたらすことができる。
【0164】
本発明の幹細胞は、第一および第二の3ヶ月間に胎児血液中に容易に検出することができる。よって、幹細胞注入は各器官系の発達中に行うことができ、ここで注入のタイミングが各器官系に特異的な期間に対応させることができる。細胞は、後に必要とされるときに(すなわち、傷害時に)利用可能な「プール」、それらの分化子孫または他の幹細胞前駆体を確立しないかもしれないので、最適な投与は誕生前および誕生後両方で複数の幹細胞注入を必要とするだろう。
【0165】
(vi.MAPCの分化)
本発明の方法にしたがって、MAPCまたはそれらの分化子孫を投与してリソソーム酵素を提供することができる。MAPCはインビボで提供、分化させることができ、または投与前にエクスビボで分化させることができる。
【0166】
本発明のMAPCは、中胚葉、外胚葉および内胚葉起源の少なくとも1つの分化細胞タイプを形成するように誘導することができる。例えば、MAPCは、少なくとも骨芽細胞、軟骨細胞、軟骨、脂肪細胞、繊維芽細胞、骨髄ストローマ細胞、骨格筋細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、内皮細胞、上皮細胞、内分泌細胞、外分泌細胞、造血細胞、グリアル細胞、神経細胞、オリゴデンドサイト、皮膚細胞、肝臓細胞、膵臓細胞、島細胞、腸管細胞または腎臓細胞系を形成するように分化誘導できる能力を有する。
【0167】
よって、本発明の方法は、MAPCの分化子孫の投与を提供し、ここで子孫細胞は、骨細胞、軟骨、脂肪細胞、繊維芽細胞、骨髄、ストローマ、骨格筋、平滑筋、心筋、内皮細胞、上皮細胞、内分泌細胞、外分泌細胞、造血細胞、グリアル細胞、神経細胞、オリゴデンドサイト、皮膚細胞、肝臓細胞、膵臓細胞、島細胞、腸管細胞または腎臓細胞、または表皮の関連構造物(例えば、毛包)からなってよい。ここに記載のMAPCに由来する分化子孫を、欠乏または減少リソソーム酵素活性の特定の器官または器官系に直接投与することができる。
【0168】
MAPCを、適当な増殖または分化因子、ケモカインおよびサイトカインを用いて、関与子孫および組織特異的細胞タイプを形成するように誘導分化できる。MAPCはインビボまたはエクスビボで分化させることができる。MAPCまたはその分化子孫は、好ましい細胞タイプへの分化を促進するためにサイトカインおよび増殖/分化因子の存在下に共投与することができる。これは、例えば特定の器官または器官系の移植が望ましい場合に有利でありうる。細胞は培養で分化できるか、または胎児中の器官または器官系の発達の進展にしたがってサイトカインおよび分化因子とともに共注入することができる。
【0169】
骨芽細胞を形成するために、集密的MAPCは約10−6〜10−8M(好ましくは10−7M)デキサメタゾン、β−グリセロホスフェートおよび5〜20mM(好ましくは10mM)アスコルビン酸とともに培養することができる。骨芽細胞の存在は、Von Kossa染色(CaPOの銀還元)を用いるか、または骨シアロタンパク質、オステオネクチン、オステオポンチンおよびオステオカルシンに対する(免疫組織化学またはウエスタンブロットにより検出可能な)抗体を用いて検出することができる。培養の14〜21日後、>80%の細胞がこれらの抗体で陽性に染色する。
【0170】
軟骨芽細胞への分化を達成するために、MAPCをトリプシン処理し、マイクロマス懸濁培養物中50〜100ng/mL(好ましくは100ng/mL)のTGF−β1を補った無血清DMEM中で培養することができる。軟骨の小さな凝集体が、トルイジンブルーで陽性に染色するチューブの底に検出することができる。I型コラーゲンは、当初マイクロマス全体にわたって検出することができるが(5日目)、約14日後では、原線維軟骨の外側層で検出されるのみである。II型コラーゲンは約5日後に検出可能となり、およそ14日までにマイクロマスを強く染色する。骨シアロタンパク質の染色は外側原線維軟骨層で陰性または最小限に陽性であった。可変染色はオステオネクチン、オステオカルシンおよびオステオポンチンに対して可視化することができる。II型コラーゲンの存在は、ウエスタンブロットおよびRT−PCRにより確認することができる。さらに、5日後に回収された細胞でのRT−PCRは軟骨に特異的な転写因子であるCART1とCD−RAP1の存在を示すことができる。
【0171】
脂肪細胞の分化を誘導するために、約10−7〜約10−6M(好ましくは約10−7M)デキサメタゾン、約50〜約200μg/ml(好ましくは約100μg/ml)インシュリン、または約20%ウマ血清を補った培地を用いることができる。脂肪細胞の分化は、光学顕微鏡による検査、オイル−レッドによる染色、またはリポタンパク質リパーゼ(LPL)、脂肪細胞脂質結合タンパク質(aP2)、またはパーオキシソーム増殖因子活性化レセプターガンマ(PPAR)の検出により検出することができる。細胞マーカーの検出法は当業者に公知であり、例えば、PPARγに結合するトログリタゾン(TRO)およびロシグリタゾン(RSG)等の特定のリガンドを用いる検出を含むことができる。
【0172】
骨格筋細胞分化を誘導するために、集密的MAPCは、MAPC膨張培地中、約1〜約3μM(好ましくは約3μM)の5−アザシチジンで24時間処理することができる。次に、培養物を上記のMAPC培地に維持することができる。分化をウエスタンブロットおよび免疫組織化学により評価することができる。in vitroの骨格筋分化は、当業者に公知の標準的技術を用いる免疫組織化学もしくはウエスタンブロットおよび市販の抗体を用いて、Myf−5、Myo−D、Myf−6、ミオゲニン、デスミン、骨格アクチンおよび骨格ミオシンの逐次的発現を検出することにより示すことができる。5−アザシチジンによる誘導の5日後、Myf5、Myo−DおよびMyf−6転写因子を約50%の細胞中に検出することができる。14〜18日後、Myo−Dは有意に低いレベルで発現されるが、Myf5およびMyf6は維持した。デスミンおよび骨格アクチンは、誘導後4日目の初期に検出することができ、骨格ミオシンは約14日後に検出することができる。免疫組織化学により、70〜80%の細胞が約14日後に成熟筋肉タンパク質を発現する。5−アザシチジンによる処理は、培養の一週目中に、Gata4およびGata6の発現をもたらした。さらに、低いレベルのトロポニン−Tが約二日目以降から検出することができた。平滑筋アクチンは、誘導後2日目に検出することができ、14日間維持した。20%ウマ血清を加えた場合、筋原細胞の筋管への融合を見ることができる。二重免疫蛍光を用いて、形質導入筋原細胞は、異なる側方筋細胞と融合することができた。
【0173】
また、平滑筋は、成長因子を含まず、高濃度(約50〜約200ng/ml、好ましくは約100ng/ml)の血小板由来成長因子(PDGF)を補った無血清培地でMAPCを培養することにより誘導することができる。細胞は好ましくは分化の開始時に集密的でなければならない。デスミン、平滑筋に特異的なアクチンおよび平滑筋に特異的なミオシンの発現を当業者に公知の標準的な方法により検出することによって、最終分化平滑筋細胞を同定することができる。平滑筋アクチンは約2日目以降および平滑筋ミオシンは約14日以降に検出することができる。約70%の細胞は抗平滑筋アクチンとミオシン抗体により陽性に染色する。ミオゲニンの存在は4日目以降およびデスミンは6日以降に見ることができる。Myf5とMyf6タンパク質は、2〜4日後にも検出することができ、約15日目まで持続する。
【0174】
心筋分化は、約5〜約200ng/ml(約100ng/ml)の塩基性繊維芽細胞成長因子(bFGF)を、前記のように成長因子を含まない標準的な無血清培地に加えることにより達成することができる。集密的MAPCを3μM(好ましくは、約3μM)5−アザシチジンと10−5〜10−7(好ましくは10−6M)レチン酸とにさらし、次にMAPC膨張培地で培養することができる。もしくは、MAPCをこれら誘導体の1つのみまたは両者の組み合わせとともに培養し、次に50〜200ng/mL(好ましくは100ng/mL)のFGF2または5〜20ng/mL(好ましくは10ng/mL)のBMP−4および100ng/mLのFGF2の組み合わせを有する無血清培地で培養することができる。心筋細胞に一致するタンパク質の発現はこれらの条件下で観察することができる。Gata4とGata6はだいたい2日目の初期に発現し、およそ15日目まで持続する。心臓トロポニン−Tは4日後、および心臓トロポニン−Iはおよそ6日目から発現するが、ANPは約11日後に検出することができる。これらの心臓タンパク質は、15日目に免疫組織化学により>70%の細胞に検出された。転写因子Myf6はおよそ2日目から見ることができる。デスミンの発現は6日目およびミオゲニンの発現は2日目に始まりうる。骨格アクチンも検出された。培養物を>3週間維持すると、細胞はシンチウムを形成することができる。培養物中で起こる稀な自発的収縮が観察でき、これは数mmの距離にわたって広がった。
【0175】
内皮細胞を形成するために、MAPCを、20ng/mLのVEGFを有するMAPC培地で無血清にて培養する。次に、細胞表面上のCD34の出現が見られ、細胞は14日目までにvWFを発現する。さらに、分化内皮細胞はTie、Tek、Flk1およびFltl、PECAM、P−セレクチンおよびE−セレクチンおよびCD36を発現する。VEGF誘導細胞をMatrigel(登録商標)またはIV型コラーゲンを用いて培養した場合、血管形成が見られる。
【0176】
造血細胞を形成するために、ネズミとヒト再集合幹細胞をエクスビボで支持することのできる胎児肝臓由来の間充織細胞系であるAFT024フィーダー層によって順化された100ng/mLのSCFと5%FCSを有するPDGF−BBとEGFを含有するMAPC培地中のIV型コラーゲンにMAPCを再塗布することができる。これらの培地から回収された細胞は、RT−PCRにより検出可能なc−Kit、cMyb、Gata2およびG−CSF−Rを発現するが、CD34は発現しない。造血は胎児性内臓の内胚葉により放出される因子により誘導されるため、ヒトMAPCは、ヒトCSF、Flt3−L、TpoおよびEpoの存在下にβ−Gal+ネズミEBsとともに培養することができる。MAPCをIL−1a、FCSおよびウマ血清とともにインキュベートすることにより、「ストローマの」分化を誘導することができる。これらの細胞が造血を支持することを実証するために、フィーダー細胞を2,000cGyで照射し、CD34+帯血液細胞を塗布してフィーダーに接触させることができる。1、2および5週間後、子孫をメチルセルロースアッセイで再塗布してコロニー形成細胞(CFC)の数を決定することができる。CFCの3〜5倍発現はおよそ2週間後に見られ、ネズミの胎児肝臓由来のフィーダーAFT024と接触したCD34+細胞の培養物と同じように、CFCの保持がおよそ5週目に見られる。
【0177】
造血支持フィーダーA−FT024により順化されたEGFを含むMAPC媒体中でVEGF、造血サイトカインのSCF、Flt3−L,TpoおよびEpoで誘導されたMAPCはグリア原線維酸性タンパク質(GFAP)陽性アストロサイト、ガラクトセレブロシド(GalC)陽性オリゴデンドロサイトおよび神経フィラメント陽性ニューロンへと分化した。EGFとPDGF−BBとともに培養されたヒト骨髄由来のMAPCの<50%集密的培養物を50〜500ng/mL(好ましくは100ng/mL)のFGF2を含む培地に切り替えると、アストロサイト、オリゴデンドロサイトとニューロンを発現する細胞への分化は2〜4週後に見ることができる。培養の二週間後、細胞はGFAP陽性、GalC陽性および神経フィラメント−200陽性である。3週間後、さらに少ない細胞がGFAPまたはGalC陽性であるが、細胞はβ−チュブリン−III、神経フィラメント−68、神経フィラメント−160、神経フィラメント−200、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)および微小管関連タンパク質−2(MAP2)に対して陽性に染色することができる。GABA、パルブアルブミン、チロシンヒドロキシラーゼ、DOPA−デカルボキシラーゼおよびトリプトファンヒドロキシラーゼは検出されない。1ニューロンにつき神経突起の数は分化後の2、3〜4週から増加した。アストロサイト、オリゴデンドロサイトおよびニューロンの特性を有する細胞への分化は、FGF2処理の、しかし未分化ではないMAPC中で、ウエスタンブロットおよびRT−PCR分析によりGFAP、ミエリン塩基タンパク質(MBP)および神経フィラメント−200の存在を実証することによって確認することができる。
【0178】
グリオブラストーマ細胞系から最初に単離されたFGF−9は培養でグリア細胞の増殖を誘導することができる。FGF−9は、大脳皮質、海馬、黒質、脳幹の運動核およびプルキンエ細胞層のニューロンにインビボで見られる。5〜50ng/mL(好ましくは10ng/mL)FGF−9およびEGFとともに3週間培養した場合、MAPCはアストロサイト、オリゴデンドロサイトおよびGABA作動性およびドーパミン作動性ニューロンを作ることができる。CNS発達中、ソーニックヘッジホッグと組み合わせて中/後脳境界においておよび吻側前脳により発現したFGF−8は中脳および前脳のドーパミン作動性ニューロンの分化を誘導する。MAPCが5〜50ng/mL(好ましくは10ng/mL)FGF−8およびEGFとともに3週間培養すると、ドーパミン作動性ニューロンとGABA作動性ニューロンの両者が作られたことがわかった。FGF−10は脳中に非常に低い量で見られ、その発現は海馬、視床、中脳および脳幹に限定され、ここではグリア細胞ではなく、ニューロンに優先的に発現する。5〜50ng/mL(好ましくは10ng/mL)FGF−10およびEGF中の3週間のMAPCの培養は、アストロサイトおよびオリゴデンドロサイトを作ることができるが、ニューロンを作ることはできない。FGF−4は脊索によって発現され、中脳を地域に分けるために必要である。5〜50ng/mL(好ましくは10ng/mL)FGF−4とEGFで3週間処理されると、MAPCはアストロサイトとオリゴデンドロサイトに分化するが、ニューロンには分化しない。
【0179】
脳に特異的に発現し、インビボまたはインビトロで神経発達に影響を与える他の成長因子として、脳由来の神経組織栄養因子(BDNF)、グリア由来神経組織栄養因子(GDNF)および絨毛性神経組織栄養因子(CNTF)が挙げられる。BDNFは、NSC、ヒト上衣下細胞およびニューロン前駆体のニューロンへのインビトロ分化を促進し、馬肉幹細胞のインビボでの神経突起成長を促進する神経成長因子ファミリーのメンバーである。黒質のドーパミン作動性ニューロンの生存を助けるBDNFの公知の機能にしたがって、MAPCを5〜50ng/mL(好ましくは10ng/mL)BDNFおよびEGFで処理すると、チロシンヒドロキシラーゼ陽性ニューロンへの排他的分化が見られた。GDNFはTGF−スーパーファミリーのメンバーである。初期の神経生成において、GDNFは前部神経外胚葉で発現し、それがニューロン発達で重要な役割を果たしていることを示唆する。GDNFは末梢神経と筋肉において運動ニューロンの生存を促進し、神経組織栄養能力と分化能力を有する。5〜50ng/mL(好ましくは10ng/mL)GDNFがMAPCをGABA作動性ニューロンとドーパミン作動性ニューロンに分化するように誘導できることがわかった。絨毛性ガングリオンから始めて単離されたCNTFはサイトカインのgp130ファミリーのメンバーである。CNTFは発達の初期でニューロンの生存を促進する。胎児性ラット海馬培養物において、CNTFはGABA作動性ニューロンとコリン作動性ニューロンの数を増加させた。さらに、それはGABA作動性ニューロンの細胞死を妨げ、GABA取り込みを促進する。5〜50ng/mL(好ましくは10ng/mL)のCNTFの濃度は、MAPCに対して同じGABA作動性誘導を及ぼして、CNTFへの曝露のおよそ3週間後にGABA作動性ニューロンに排他的に分化させることができる。
【0180】
上皮細胞は、集密的MAPCを10ng/mL肝臓細胞成長因子(HGF)のみ、またはケラチノサイト成長因子(KGF)と組み合わせて処理することにより作ることができる。およそ14日後、HGFレセプター、サイトケラチン8,18および19を発現した大きな上皮細胞を見ることができる。サイトケラチン−19の存在は、胆汁上皮への起こりうる分化を示唆する。マトリックスのフィブロネクチンからコラーゲンゲルまたはMatrigel(登録商標)への変更は、上皮細胞の形態を有するサイトケラチン−18発現細胞の発生を向上させることができる。
【0181】
本発明の他の幹細胞は、よく知られた方法にしたがって分化させることができる。例えば、分化は、米国特許第5,733,727号および同第6,015,671号(そこで記載された分化方法に関して文献の援用によりここに具体的に編入する)に開示された方法にしたがって進めることができる。さらに、上記方法のパラメーターを、MAPC以外の本発明の幹細胞に適するように調節することは十分に当業者の技量の十分な範囲内にある。
【0182】
分化細胞を同定し、次にそれらを未分化の細胞から分離する方法は当分野でよく知られた方法により実施することができる。分化するように誘導された細胞は、分化細胞の数が未分化細胞の数を超えさせる条件下に細胞を選択的に培養することにより同定することができる。同様に、分化細胞は、細胞の大きさ、細胞プロセス(すなわち、樹状突起および/または分枝の形成)の数、および細胞内オルガネル分布の複雑性等、未分化細胞に存在しない形態学的な変化と特性により同定することができる。細胞レセプターや経膜タンパク質等の特異的な細胞表面マーカーの発現により分化細胞を同定する方法も意図する。これらの細胞表面マーカーに対するモノクローナル抗体を用いて分化細胞を同定することができる。これらの細胞の検出は蛍光活性化細胞選別(FACS)、免疫組織化学、免疫蛍光および酵素結合イムノソーベントアッセイ(ELISA)により達成することができる。特定遺伝子の転写アップレギュレーションの観点から、分化細胞はしばしば未分化細胞とは異なる遺伝子発現レベルを示す。逆転写ポリメラーゼ鎖リアクション(RT−PCR)を用いて、分化に応じる遺伝子発現の変化をモニターすることもできる。同様に、in situハイブリゼーションおよび蛍光in situハイブリゼーション等の技術を用いて、特定の細胞または組織のmRNAレベルを検出することができる。さらに、マイクロアレイ技術およびproteomicアレイを用いる全ゲノム分析を用いて分化細胞を同定することができる。
【0183】
したがって、分化細胞がいったん同定されたら、それらを必要であれば未分化細胞から分離することができる。上記に詳細に説明した同定方法は、FACS、優先的細胞培養方法、ELISA、磁気ビーズおよびそれらの組み合わせ等の分離方法も提供する。FACSを用いて細胞表面抗原発現に基づいて細胞を同定分離することができる。
【0184】
下記の実施例は、本発明の細胞をどのように製造し、使用するかについての完全な開示と説明を当業者に提供するために示されるものであり、発明者が発明とみなすものの範囲を限定することを意図するものではない。
【実施例】
【0185】
(実施例1:重症複合免疫不全(SCID)受容動物中のMAPC移植)
lacZレポーター遺伝子およびネオマイシン耐性遺伝子を含むC57BL/6J−rosa26マウスの骨髄からMAPCを単離した。これらの単核骨髄細胞は内胚葉、中胚葉および外胚葉生殖層に分化することができる。骨髄単核細胞(n=2、8週齢)から、CD45およびGlyA陽性細胞をマイクロ磁気ビーズ(Miltenyi Biotec、Sunnyvale、CA)を用いて除去した。CD45、GlyA細胞を、60%のDMEM−LG(Gibco−BRL、Grand Island、NY)、40%MCDB−201(Sigma Chemical Co.,St.Lous、MO)からなる培地(1×インシュリン−トランスフェリン−セレニウム(ITS)、1×リノール酸−ウシ血清アルブミン(LA−BSA)、10−9Mデキサメタゾン(Sigma)および10−4Mアスコルビン酸−2−ホスフェート(Sigma)、フィブロネクチン(FN;Sigma)上の100Uペニシリンおよび1000Uストレプトマイシン(Gibco)、ラミニン、IV型コラーゲンおよびMatrigel(登録商標)+2%ウシ胎児血清(FCS;Hyclone Laboratories,Logan,UT)、さらに表皮成長因子(EGF)、血小板由来成長因子−BB(PDGF−BB)およびに白血病阻害因子(LIF;すべてR&D Systems,Minneapolis,MN)をそれぞれ25ng/ml補った培地)に接種した。3週間の培養後に、残りのCD45/GlyA細胞を選択し、10細胞/ウエルで継代培養し、0.5〜1.5×10細胞/cmで維持した。10ng/ml EGF、10ng/ml PDGF−BBおよび10ng/ml LIFを有するFN上で培養したMAPCはDC3、Gr−1、Mac−1、CD19、CD34、CD44、CD45、c−Kitおよび主要組織適合複合体(MHC)クラスIおよびII陰性の、発現された低いレベルのFlk1およびSca1および高いレベルのCD13およびSSEA−1であった。
【0186】
MAPCを、胎芽日15/16胎児BALB/c−SCIDマウス、または0〜5日の範囲の新生BALB/c−SCIDマウスに注入した。マウスをMAPCの導入の10、20および30週間後に殺し、組織を、移植に関して免疫組織化学および定量的PCRにより調べた。通常の麻酔下に、正中線腹腔切開を実施し、妊娠BALB/c−SCIDマウス(E15/16およびE16/17)の子宮を露出させた。個々の胎児の直接的な可視化後、(5〜10μlのPBS中の)1×10個のC57BL/6J−rosa26 MAPCを絨毛性膜および子宮壁を横切って胎児肝臓柔組織にゆっくりと注入した。
【0187】
受容動物の組織試料はOCT中、−80℃で冷凍保存した。約6μm厚みの新鮮な凍結切片をガラススライドに乗せ、アセトン中、10分間室温で固定し、イソタイプの血清中で20分間インキュベートした。凍結切片を、β−ガラクトシダーゼ(フルオレセインイソチオシアネート(FITC)結合抗β−ガラクトシダーゼ抗体、Rockland Immunochemicals)に関して染色し、C57BL/6J−rosa26 MAPC由来細胞の受容動物中の正確な組織学的位置を調べた。組織は、下記の組織特異的抗原の1つに対する抗体とともにFITC結合抗β−ガラクトシダーゼ抗体を用いて2回の色免疫蛍光によりC57BL/6J−rosa26 MAPC由来細胞の組織特異的特性付けについても調べた。全サイトケラチンは肺および結腸の上皮ならびに脾臓および皮膚を染色し、アルブミンとサイトケラチン−18は肝臓を染色した。抗マウスIgG Cy3複合体(すべてSigmaから入手)および核カウンターステイン(TO−PRO−3、Molecular Probes)。工程の間では、スライドをPBSで洗浄した。スライドを共焦点蛍光顕微鏡(Olympus AX70,Olympus optical Co.,LTD,Japan)により調べた。共焦点像の三次元再構成のZ−スタックシリーズを用いて2つの独立した細胞の単一のオーバーレイから真の陽性細胞から区別した。
【0188】
Rosa26 MAPCの周生期導入を受けたマウスのアルブミン染色で示されるように、MAPCは肝臓に移植した。対照的に、BALB/c−SCIDマウスはアルブミンを発現しなかった。MAPCの存在はlacZ−フルオレセインイソチオシアネート(FITC)染色により確認された。脳中、NF−200染色は陰性であり、MAPCはニューロンに分化しないことを示した。しかし、GFAP染色は非常に明るく、アストロサイト細胞タイプの存在を確認した。MAPC移植がlacZ−FITC染色により肺にも観察された;しかし、これらの細胞はサイトケラチンに対して陰性であり、MAPCのIUT導入は、上皮細胞タイプへの分化に帰結しないことを示した。肺移植と同じように、MAPCは腸に存在した;しかし、サイトケラチン染色も陰性であり、MAPCは腸上皮に分化しないことを示した。MAPCは心筋および骨格筋ならびに脾臓と皮膚にも見られた。
【0189】
個々の組織中の全C57BL/6J−rosa26 MAPC移植を、NeO遺伝子に関する定量的PCR(Sequence Detector Software 1.6(Applied Biosystems)を有するABI PRISM7700 Sequence Detector)を用いて測定した。NeO遺伝子の増幅の反応条件は下記の通りであった:最初の変性後(95℃、10分間)、2μlのDNA溶液、1×SYBR Green PCR Master Mix(Applied Biosystems)および150nMの各プライマーによる2工程PCR(95℃、15分間および60℃、60秒間)の40サイクル。NeoPCRプライマーはPrimerExpressソフトウエアバージョン1.0(Perkin Elmer/Applied Biosystems)を用いて下記のように設計した:Neo−フォワード:TGGATTGCACGCAGGTTCT(配列番号1)、Neo−リバース:TTCGCTTGGTGGTCGAATG(配列番号2)。コントロールのハウスキーピングGAPDH遺伝子増幅の反応条件は下記の通りであった:最初の変性(95℃、10分間)後、2μlのDNA溶液、1×SYBR Green PCR Master Mix(Applied Biosystems)および100nMの各プライマー(Applied Biosystems)による2工程PCR(95℃、15分間および60℃、60秒間)の40サイクル。結果を表7に示す。
【0190】
(表7:BALB/c−SCIDマウスにおけるMAPC移植の定量的PCR)
【0191】
【表7】

Neo増幅は、各試料のためにRosa26 MAPCおよびグリセルアルデヒド−3−ホスフェートデヒドロゲナーゼ遺伝子増幅に標準化した。
【0192】
(実施例2:ハーラー症候群のネズミモデルでのMAPC注入)
α−L−イズロニダーゼを欠乏するマウス(IDUA−/−;MPS−1H)は検出可能なIDUAを持たず、骨格およびCNSの異常を導くGAGsの増加レベルを持ち、進行する粗さを示す。MAPCは基本的にC57BL/6J−Rosa26マウスから実施例1に記載のように単離し、コントロールまたはMPS−1Hマウスに胚芽日E15/16または出生後日1〜3(E15/16の投与量:1胎児あたり百万細胞、出生後投与量:体重1グラムあたり215,000または450,000細胞)に注入した。MAPCを10、20および30週間で組織に帰還させた。
【0193】
尿を11週から25週まで毎週集めてGAG排出を測定した。新生日2/3MPS−1H MAPC受容動物(n=6)は、年齢に合った新生MPS−1Hマウス(n=5)に比較してGAGの有意に減少した排出(p<0.05)を示した(図1)。処置マウスは出生後10、20および30週目に殺し、多様な組織をGAGレベルとIDUAレベルについて測定した。比色アッセイを用いて、尿中のGAGレベルを測定した。およそ15μlの未希釈尿のアリコートを採取し、次に35μlのdHO、100μlのピクリン酸溶液(ピクリン酸の1:10希釈物)、100μlの7.5g/LのNaOH溶液のアリコートを準備した。各試料を反転により混合し、20分間攪拌した。20分間発色させ、200μlの試料溶液を96ウエルプレートに移した。吸収をλ=530nmで、Bioscan Chameleon分光光度計によりモニターした。尿中のGAGレベルを評価し、各尿試料に対してクレアチン値に標準化した。
【0194】
組織GAGsが、1,9ジメチルメチレンブルー色素結合比色アッセイを用いて組織ホモゲネート中に検出され、全タンパク質含量に対して標準化された。組織ホモゲネート試料を0.24M塩化グアニジニウム中に1:10に希釈した。尿をアッセイする場合、尿も0.24M塩化グアニジニウムで希釈した。試料のアリコートを96ウエルプレートに入れ、200μlのDMMB色素(5mlの95%エタノール中の16mgの1,9−ジメチルメチレンブルー塩化物;1LのdH2Oに加えられた2mlのギ酸および2gのギ酸ナトリウム;DMMB溶液をそのギ酸溶液に加える)を試料に加えた。試料をλ=550nmで読み、次にλ=650nmで読んだ。すべての値はブランク溶液から引かれ、濃度の知られているスタンダードに対して標準化した。次に、調節した吸光度をA650からA550を引くことにより計算した。
【0195】
MPS−1Hコントロールマウスに標準化された平均GAG値は、胎児および新生の両方のMPS−1H MAPC受容動物において多くの組織で有意に減少した。調べられた各組織において、GAG含量は、MPS−1Hコントロールに比較して、MPS−1H+MAPCで減少し、肺、筋肉、脾臓、回腸および脳におけるC57BL/6マウスの値に近づくか、到達した。それよりも低い効果が腎臓、肝臓および結腸で観察された。
【0196】
胎内MAPC注入されたマウスからの肝臓におけるGAGsの減少した蓄積をグラフの形式で示す(図2と図3)。IDUAレベルは図2に示されるように観察された。さらに、MAPCが注入されたMPS−1Hマウスからの脳、心臓および脾臓中の減少したGAGの蓄積もグラフの形式で示す(図6、図7および図8)。まず、組織の重量を計り、次に組織を冷凍チューブ中でホモゲナイズすることにより組織溶解物を調製した。ホモゲネートを遠心し、50μlの上清をエッペンドルフチューブ中の50μlのDH2Oに加えた。次に、1mLのDMMB色素を加えた。試料を30分間攪拌し、次に10分間遠心(10,4000rpm)した。色素を排出し、ペレットを解離剤(Blyscan)によって再懸濁して、未結合の色素を遊離させた。各試料の200μLのアリコートを96ウエルプレートウエルに(トリプリケートにて)加えた。組織中のGAGレベルを検出するために、試料を、Bioscan Chameleonプレートリーダーを用いて650nmのABSで読んだ。血漿または血液試料が用いられる場合、5%FBSを有する3mlのRPMI培地を0.5mlの血液に加え、30秒間15,000rpmで遠心した。上層を抽出し、次にIDUAアッセイに用いた。
【0197】
IDUAアッセイのために、組織溶解物を、0.02Mトリス塩基、0.25MのNaClおよび0.1Mジチオスレイトール(DTT)(pH7.4)からなる溶解緩衝液で1:10にて希釈した。基質溶液は、まず、42mgのBSA、6mlの0.1Mジメチルグルタレート(DMG)および12μlの1.0Mメタ重亜硫酸水素ナトリウムを含む2×希釈緩衝液を作ることにより調製した。基質保存溶液は、0.1Mジメチルグルタレート緩衝液に溶解した2mgのL−4−メチルウンベリフェリル−α−L−イズロニドシクロヘキシルアンモニウム塩からなる。次に、基質保存溶液を250μlの2×希釈緩衝液に加えた。すべての組織溶解物を氷上に置き、次にそのアリコートを基質溶液に加えた。次に、試料を37℃の水槽中でインキュベートした。反応は1400μlのグリシン緩衝液(1LのdHO中の溶解15gグリシンおよび13.25gのNaCO、NaOHでpH10.7に調節)を加えることにより停止させた。次に、各試料を黒の平底の96ウエルプレートに加えて、蛍光をBioscan Chemeleonプレートリーダーで、励起=360nmおよび発光425nmで検出した。
【0198】
図3に示されるように、各ドットは、組織により分類された1動物中の値を表わす。コントロール動物は、グラフの右側部分の黒いダイアモンドにより表わす。ラインをB6の最大蓄積およびMPS−1Hマウスの最低蓄積のレベルで引かれる。記号(正方形、円、三角)は実験動物を殺すときの年齢を示している。値はIDUA−/−または野生型コントロールの%である。MAPCを10細胞/胎児で投与し、胚芽日15/16に注入した。肝臓GAGsの類似の減少は、MAPCがMPS−1Hマウスに出生後注入された場合に見られた(図4)。値はIDUA−/−コントロールの%(n=5)、p=0.027で表わす。MAPCを0.215×10または0.45×10細胞/体重グラムの投与量で、出生後日1〜3に投与した。
【0199】
また、GAG蓄積は心臓組織において評価した(図5)。上記のように、各ドットは組織により分類された1動物中の値を表わす。コントロール動物は右側に黒いダイアモンドとして示す。ラインはB6の最大蓄積およびMPS−1Hマウスの最低蓄積のレベルで引かれる。記号(正方形、円、三角)は実験動物を殺すときの年齢を示している
さらに、エコーカルジオグラムを実施して心臓機能を評価した。B6コントロールと比較して、MPS−1Hマウスは左心室末端心拡張直径および縮率%の有意な減少と左心室質量の減少を示し、不十分な心筋収縮性を示す。さらに、大動脈不全(エコーカルジオグラムに検出された異常な流れにより検出)がMPS−1Hマウス(10匹中10匹)に見られたが、B6コントロールには見られなかった。MモードECHOは、B6コントロールに対するMPS−1Hマウスの厚い心臓壁に関連した心臓機能不全を示した。コントロールB6マウスの心臓組織ではなく、MPS−1Hマウスの心臓組織のGAG蓄積が免疫組織化学により決定された。MAPC注入は大動脈不全の発生を減少させた。実際、11実験マウスのうち6匹が大動脈不全を持たなかった(表8)。
【0200】
【表8】

さらに、MAPC移植を免疫組織化学により検定した。受容動物の組織標本はOCT中、−80℃で冷凍保存した。約6μm厚みの新鮮な凍結切片をガラススライドに乗せ、アセトン中、10分間室温で固定し、イソタイプの血清中で20分間インキュベートした。凍結切片を、β−ガラクトシダーゼ(フルオレセインイソチオシアネート(FITC)結合抗β−ガラクトシダーゼ抗体、Rockland Immunochemicals)に関して染色し、C57BL/6J−rosa26 MAPC由来細胞の受容動物中の正確な組織学的位置を調べた。
【0201】
組織は、下記の組織特異的抗原の1つに対する抗体とともにFITC結合抗β−ガラクトシダーゼ抗体を用いて2回の色免疫蛍光によりC57BL/6J−rosa26 MAPC−由来細胞の組織特異的特性付けについても調べた。全サイトケラチンは肺および結腸の上皮に用い、アルブミンとサイトケラチン−18は肺のために用いた。抗マウスIgG Cy3複合体(すべてSigmaから入手)および核カウンターステイン(yoyo−1、PI)。工程の間では、スライドをPBSで洗浄した。スライドを共焦点蛍光顕微鏡(Olympus AX70.Olympus optical Co.,LTD,Japan)により調べた。共焦点像の三次元再構成のZ−スタックシリーズを用いて2つの独立した細胞の単一のオーバーレイから真の陽性細胞を区別した(陰性コントロール:MPS−1H肝臓組織のヨウ化プロピジウムとlacZ染色;陽性コントロール:Rosa25肝臓)。MPS−1HマウスのRosa26MAPCの周生期注入は、β−ガラクトシダーゼ染色による顕著な移植を示した。肺組織において、MPS−1H陰性コントロールマウスは鮮明でないβ−gal発現を有する一方で、Rosa26マウスはβ−galに対して明るい染色を有した。核はDNA特異的色素であるYoyo−1(登録商標)(Molecular Probes)により染色した。周生期に投与されたMAPCは肺において移植を示す。
【0202】
さらに、個々の組織における全C57BL/6J−rosa26 MAPC移植を、LacZ遺伝子に関する定量的PCR(Sequence Detector Software 1.6(Applied Biosystems)を有するABI PRISM7700 Sequence Detector)を用いて測定した。lacZ遺伝子のフォワードプライマーは以下の通りである:5’−AAA CCA GCC ATC GCC ATC TG−3’(配列番号3)。リバースプライマー配列は、5’−GGA CAG GTC GGT CTT GAC AAA AAG−3’(配列番号4)である。PCR条件は94℃で30秒間、58℃で30秒間、および72℃で60秒間の34サイクルであった。
【0203】
本発明の限定を意図するものではないが、組織障害は誘導シグナルまたは許容される環境を提供して、MAPCを誘引し、それらの生存と拡大を促進する。ルシフェラーゼおよびDsREd2にトランスジェニックである10MAPCを4日齢の顔静脈からMPS−1Hイヌに注入した。ルシフェリンの腹腔内注射後、毎週5分間マウスの像を取った。Xenogen IVIS Imaging Systemを用いて冷光活性を分析し、擬似色スキームを用いてルシフェラーゼ活性を示した。MPS−1Hマウス中のMAPCのリアルタイムトラッキングの結果は、MAPCが、WT(コントロール)マウスとは対照的に7〜14間の数で増加したことを示す。したがって、組織中のGAGの異常なレベルがMAPC移植を支持するだろう。
【0204】
前記事項はその実施形態に関連して説明してきたが、多くの詳細は説明の目的のために提示されたものであり、本発明はさらなる実施形態の影響を受け、ここに記載の詳細の一部は本発明の基本的な原理から離れずにかなり変えてもよいことは当業者に明らかであろう。
【0205】
本文に挙げられた各出願と特許、ならびに出願と特許のそれぞれに挙げられた各文献(各公布特許遂行中の「出願引用文献」)およびこれら出願および特許の優先権に対応し、および/またはそれを請求する各PCTおよび外国の出願または特許、および各出願引用文献で挙げられた各文献は参照によって本文中に編入する。さらに一般的には、文献一覧または本文自体のいずれかでここに挙げられ、これらの各文献ならびにここに挙げられた各文献(製造業者の明細、指示書等)が参照により本文中に編入する。特に、2000年8月4日出願の国際出願第PCT/US00/21387号(2001年2月15日にWO01/110011として公告されたもの)および2002年2月14日出願のPCT/US02/04652号(2002年8月22日にWO02/064748として公告されたもの)(これらの内容は、本明細書において参考として援用される)を参照されたい。
【0206】
(文献)
全ての引用文献は、本明細書においてあたかも全体が示されるように、参考として援用される。
【0207】
【化1】

【0208】
【化2】

【0209】
【化3】

【0210】
【化4】

【図面の簡単な説明】
【0211】
【図1】図1は、胎内MAPC注入を受けたB6およびMPS−1Hマウスの尿中GAGレベルの減少を示すグラフである。
【図2】図2は、胎内MAPC注入を受けたB6、MPS−1HマウスおよびMPS−1Hマウスのα−L−イズロニダーゼレベル(左のグラフ)と肝臓GAG蓄積(右のグラフ)のグラフを示す。
【図3】図3は、胎内MAPC注入を受けたB6およびMPS−1Hマウスの肝臓GAG蓄積のドットグラフである。
【図4】図4は、誕生後にMAPC注入を受けたB6およびMPS−1Hマウスの肝臓GAG蓄積を示す棒グラフである。
【図5】図5は、胎内MAPC注入を受けたB6およびMPS−1Hの心臓GAG蓄積のドットグラフである。
【図6】図6は、胎内MAPC注入を受けたMPS−1Hマウスの脳中GAGレベルの減少を示すグラフである。(x軸上に挙げられた)個々のマウスからの全タンパク質(TP)あたりのGAG(y軸)が示される。範囲:明るいパターン範囲のMPS−1H(DUA−/−)マウスおよび灰色領域のB6WTコントロール。一匹を除いてMAPC処置マウスは正常な脳GAGレベルを有した。
【図7】図7は、胎内MAPC注入を受けたMPS−1Hマウスの心臓中GAGレベルの減少を示すグラフである。(x軸上に挙げられた)個々のマウスからの全タンパク質(TP)あたりのGAG(y軸)が示される。範囲:明るいパターン範囲のMPS−1H(DUA−/−)マウスおよび灰色領域のB6WTコントロール。ほとんどのマウスで、心臓GAGは<MPS−1Hレベルであり、約50%がWTコントロールを超えない値を有した。
【図8】図8は、胎内MAPC注入を受けたMPS−1Hマウスの脾臓中GAGレベルの減少を示すグラフである。(x軸上に挙げられた)個々のマウスからの全タンパク質(TP)あたりのGAG(y軸)が示される。範囲:明るいパターン範囲のMPS−1H(DUA−/−)マウスおよび灰色領域のB6WTコントロール。脾臓GAGは、MPS−1HとWTコントロールとの間のレベルまで減少した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体にリソソーム酵素を提供するための方法であって、該方法は、幹細胞を該被験体に投与する工程を包含し、ここで、該幹細胞は、Oct−3/4陽性であり、かつ内胚葉系統の細胞、外胚葉系統の細胞および中胚葉系統の細胞を生じ得、そして該幹細胞は、リソソーム酵素を提供する、方法。
【請求項2】
リソソーム蓄積症を処置するための方法であって、リソソーム蓄積症を有する被験体に幹細胞を投与する工程を包含し、ここで、該幹細胞は、Oct−3/4陽性であり、かつ内胚葉系統の細胞、外胚葉系統の細胞および中胚葉系統の細胞を生じ得、そそして該幹細胞は、投与後に、該疾患を処置するのに効果的な量のリソソーム酵素を発現する、方法。
【請求項3】
被験体中の基質の蓄積を調節するための方法であって、該方法は、該蓄積を調節するために効果的な量のリソソーム酵素を該被験体に提供する工程を包含し、ここで、該リソソーム酵素は、該被験体に投与された幹細胞により提供され、そして該幹細胞は、Oct−3/4陽性であり、かつ内胚葉系統の細胞、外胚葉系統の細胞および中胚葉系統の細胞を生じ得る、方法。
【請求項4】
請求項1、2または3に記載の方法であって、前記リソソーム酵素が、以下:β−ガラクトシダーゼ、ヘキソサミニダーゼA、ヘキソサミニダーゼB、GM活性化因子、アリールスルファターゼA、アリールスルファターゼB、ガラクトシルセラミダーゼ、α−ガラクトシダーゼA、ガラクトサミン−4−スルファターゼ、β−グルコシダーゼ、スフィンゴミエリナーゼ、セラミダーゼ、酸性リパーゼ、スルファターゼ類、α−L−イズロニダーゼ、イズロネート−2−サルフェートスルファターゼ、ヘパランスルファミニダーゼ、N−アセチル−α−グルコサミニダーゼ、α−グルコサミニド−N−アセチルトランスフェラーゼ(アセチルCoAグルコサミン−N−アセチルトランスフェラーゼ)、N−アセチルグルコサミン−6−サルフェートスルファターゼ、N−アセチルガラクトサミン−6−サルフェートスルファターゼ、β−グルクロニダーゼ、ヒアルロニダーゼ、カテプシンK、N−アセチル−β−グルコサミニダーゼ、α−フコシダーゼ、α−マンノシダーゼ、β−マンノシダーゼ、シアル酸トランスポーター、α−N−アセチルガラクトサミニダーゼ、α−ノイラミニダーゼ、カテプシンA、N−アセチルグルコサミン−1−ホスホトランスフェラーゼ、α−1,4−グルコシダーゼ、パルミトイルプロテインチオエステラーゼおよびトリペプチジルペプチダーゼIからなる群から選択される、方法。
【請求項5】
前記リソソーム蓄積症が、スフィンゴリピドーシス、ムコ多糖症、糖タンパク症、ムコリピドーシス、II型糖原病およびセロイド脂褐素症からなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
請求項2に記載の方法であって、前記リソソーム蓄積症が、GM1ガングリオシドーシス、GM2ガングリオシドーシス変種B/B1および変種O、異染性白質萎縮症、クラッベ病、ファブリー病、ゴーシェ病、ニーマン−ピック病、ファーバー病、ウォルマン病、オースティン病、I型ムコ多糖症、シャイエ病、ハーラー−シャイエ病、サンフィリポ病、モルキオ病、マロトー−ラミー病、スライ病、ピクノダイソストーシス、アスパルチルグルコサミン尿、フコース蓄積症、α−マンノシドーシス、β−マンノシドーシス、シンドラー病、Kanzaki病、I型ムコリピドーシス、ガラクトシアリドーシス、ムコリピドーシス、II型糖原病、Santavuori−Haltia病、ヤンスキー−ビールショースキー病、バッテン病、クッフス病、CLN5、CLN6、CLN7およびCLN8座の変異により特徴付けられる病状、シアル酸蓄積症、サラ病およびメチルマロン酸性尿症からなる群から選択される、方法。
【請求項7】
請求項3に記載の方法であって、前記基質が、デルマタン硫酸、ヘパリン硫酸、ケラタン硫酸、ヒアルロン酸、シアル酸、GM−ガングリオシド、GM−ガングリオシド、ガラクトシルセラミド、スルファチド、ガラクトシルスフィンゴリピド、グルコセラミド、セラミド、スフィンゴミエリン、α−マンノシド、β−マンノシド、フコシド、アスパルチルグルコサミン、N−アセチルガラクトサミン、グリコーゲン、コレステロールエステル、骨由来のペプチドおよびサポシンからなる群から選択される、方法。
【請求項8】
前記調節が、被験体中における前記基質の減少を包含する、請求項3に記載の方法。
【請求項9】
前記基質が、グリコサミノグリカンである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記酵素が、α−L−イズロニダーゼである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記幹細胞またはその分化子孫が前記被験体の器官に投与され、これによって、該幹細胞またはその分化子孫が該器官にリソソーム酵素を提供する、請求項1、2または3に記載の方法。
【請求項12】
前記器官が内臓器官である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記内臓器官が、心臓、肺、筋肉、腎臓、脾臓、回腸、結腸、脳、肝臓および眼からなる群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記幹細胞またはその分化子孫が、前記器官の存在する細胞との接触を介して該器官に移植されて、リソソーム酵素を提供する、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記幹細胞が、局所注入、カテーテル投与、全身注入、腹腔内注射、胎盤内注射、子宮内注射、頭蓋内注射、非経口投与、動脈内注射および側脳室への注射からなる群から選択される方法により投与される、請求項1、2または3に記載の方法。
【請求項16】
前記被験体がムコ多糖症を有する、請求項1、2または3に記載の方法。
【請求項17】
前記ムコ多糖症がハーラー病である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記幹細胞を被験体に胎内で提供する工程を包含する、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記投与の方法が、胎児の臍静脈への直接的注射、胎児の肝臓への直接的注射、腹腔内注射、胎盤内注射および子宮内注射からなる群から選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記幹細胞が、前記被験体の最初のトリメスターにおいて投与される、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記幹細胞が、前記被験体の最初のトリメスターにおいて、腹腔内注射により投与される、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記幹細胞が、MAPCの単離された集団である、請求項1、2または3に記載の方法。
【請求項23】
前記幹細胞を遺伝的に改変する工程をさらに包含する、請求項1、2または3に記載の方法。
【請求項24】
リソソーム酵素に対する基質の望ましくない蓄積を処置するための医薬を調製するための幹細胞の使用であって、ここで、該幹細胞は、Oct−3/4陽性であり、かつ内胚葉系統の細胞、外胚葉系統の細胞および中胚葉系統の細胞を生じ得、そして幹細胞は、リソソーム酵素を提供する、使用。
【請求項25】
前記基質の蓄積がリソソーム蓄積症をもたらす、請求項24に記載の使用。
【請求項26】
前記リソソーム蓄積症が、スフィンゴリピドーシス、ムコ多糖症、糖タンパク症、ムコリピドーシス、II型糖原病およびセロイド脂褐素症を包含する、請求項25に記載の使用。
【請求項27】
前記幹細胞が、MAPCの単離された集団である、請求項24に記載の使用。
【請求項28】
前記医薬が、薬学的に許容される担体を包含する、請求項24に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2007−513188(P2007−513188A)
【公表日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−542882(P2006−542882)
【出願日】平成16年12月6日(2004.12.6)
【国際出願番号】PCT/US2004/040932
【国際公開番号】WO2005/056026
【国際公開日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(301078489)リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミネソタ (24)
【Fターム(参考)】