説明

リソソーム貯蔵疾患治療組成物および方法

【課題】生物学的に活性のあるヒトリソソーム酵素をコードする導入遺伝子を含む組み換えウイルスベクターおよび非ウイルスベクターの提供。
【解決手段】ヒトリソソーム酵素を欠損する細胞に感染し、そして/あるいはトランスフェクションし、生物学的に活性のあるヒトリソソ−ム酵素の導入遺伝子を持続的に発現させることができるベクターであり、生物学的に活性のあるヒトリソソーム酵素を、それを欠損している細胞に与える方法。さらに、生物学的に活性のあるヒトリソソーム酵素を、それを欠損している他の離れた細胞に供給する方法を提供し、トランスフェクションおよび/または感染された、該ベクターを有する細胞は生物学的に活性のある酵素を分泌し、ついで、該酵素が他の欠損細胞に取り込まれる。好ましい具体例において、生物学的に活性のあるヒトα−ガラクトシダーゼAを、該酵素を欠損するファブリー病の細胞における持続的産生。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リソソーム貯蔵疾患治療組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
リソソーム貯蔵疾患は、細胞のリソソーム中の糖脂質または多糖類消費産物を分解する酵素をコードする遺伝子の欠損から生じる40種を超える一群の疾病である。酵素反応生成物、例えば、糖類および脂質は後でリサイクルされて新たな生成物となる。これらの疾病のそれぞれは、リソソーム中の酵素のレベルに影響を及ぼす遺伝的な常染色体またはX−染色体劣性により生じる。一般的には、障害のある酵素の生物学的または機能的活性は罹病個体の細胞および組織中には存在しない。表Iは、典型的な貯蔵疾患およびそれに関連する酵素欠損を示す。かかる疾患において、酵素機能の欠損は、全身の細胞のリソソーム中における脂質または炭水化物の進行性の沈着を引き起こし、最終的には、器官機能損失および死を引き起こす。リソソーム貯蔵疾患の遺伝病理学、臨床的証拠、分子生物学および発症可能性についてはScriver et al., eds., The Metabolic and Molecular Basis of Inherited Disease, 7th Ed., Vol. II, McGraw Hill, (1995)に詳述されている。
【0003】
【表1】

【0004】
リソソーム貯蔵疾患の典型的なクラスとして、ファブリー(Fabry)病は劣性のX染色体性疾患であり、リソソーム酵素α−ガラクトシダーゼAの欠損により起こる。このリソソームヒドロラーゼの不存在により、体内の大部分の組織においてグリコスフィンゴ脂質グロボトリアシルセラミド(GL3)またはガラクトシル−(α1→4)−グルコシル−(β1→1’)−セラミドの進行性沈着が起こる。GL3の複屈折性沈着物は、最初は血管内皮に見られる。進行性のGL3内皮蓄積は、腎臓、心臓または脳のごとき器官における虚血および梗塞を引き起こし、激痛、腎臓障害、心臓および脳血管の疾病を引き起こす。罹病個体の平均死亡年齢は41歳である。この疾病に対しては、現在有効な治療法がない。(例えば、Desnick et al., in Scriver et al., eds., The Molecular Basis of Inherited Disease, 7th Ed., Chapter 89, pp. 2741-2784, McGraw Hill (1995)参照)。
【0005】
ヒトα−ガラクトシダーゼA(α−D−ガラクトシドガラクトヒドロラーゼ;α−gal A;EC3.2.1.22)はリソソームエキソグリコシダーゼであり、Xq22上の遺伝子によりコードされている。α−ガラクトシダーゼAをコードするヒト肝臓cDNAはラムダgt11発現ライブラリーから単離された(Calhoun et al., Proc. Natl. Acad. Sci., USA 82: 7364-7368 (1985))。単離されたcDNAはα−ガラクトシダーゼAの成熟アミノ酸配列をコードしていたが、前駆体形態の完全なシグナルペプチド配列を含んでいなかった(Bishop et al., Proc. natl. Acad. Sci., USA 83: 4859-4863 (1986))。ついで、この部分cDNAクローンは、trpプロモーター制御下のα−ガラクトシダーゼAコーディング配列を有するイー・コリ(E. coli)発現ベクターを構築するために使用された(Hantzopoulos et al., Gene 57: 159-169 (1987))。後になって、全シグナルペプチドならびに当該蛋白のプロモーターおよび第1エキソンを担持するゲノムクローンが単離された(Quinn et al., Gene 58: 177-188 (1987))。さらに、ヒト繊維芽細胞から単離された全長cDNAクローンが得られ、COS細胞中のα−ガラクトシダーゼAを一時的発現させるために使用された(Tsuji et al., Eur. J. Biochem. 165: 275-280 (1987))。最近になって、この酵素活性の欠損を示すファブリーノックアウトトランスジェニックマウスが作成された(Ohshima et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94: 2540-2544 (1997)、ノックアウトマウスはα−ガラクトシダーゼA活性の完全な欠損を示した)。ノックアウトマウスの肝臓および腎臓の脂質の分析により、試験期間中におけるGL3の著しい蓄積が明らかとなり、ファブリー病の変異マウスおよび患者における病理生理学的プロセスの類似性が示された。かくして、ファブリーノックアウトマウスはヒトの疾病の優れたモデルを提供する。
【0006】
De Duveは、失われたリソソーム酵素を外来性の生物学的活性酵素で置換することがリソソーム貯蔵疾患の実行可能な治療法でありうることを最初に示唆した(De Duve, Fed. Proc.23: 1045 (1964))。その時以来、種々の研究により、酵素置換療法が種々のリソソーム貯蔵疾患の治療に有益であることが示唆されてきた。最も成功した例は、I型ゴーシェ(Gauche)病の個体について示されており、該個体は胎盤から調製した外来性酵素(β−グルコセレブロシダーゼ)(CeredaseR)で治療され、より最近になって、組み換え酵素(CerezymeR)により治療されている。酵素置換はファブリー病ならびに他のリソソーム貯蔵疾患にも有益であることが示唆されている。例えば、Dawson et al., Ped. Res. 7(8): 684-690 (1973)(インビトロ)およびMapes et al., Scirence 169: 987 (1970)(インビボ)参照。正常血漿(Mapes et al., Science 169: 987-989 (1970));胎盤から精製されたα−ガラクトシダーゼA(Brady et al., N. Eng. J. Med. 279: 1163 (1973));あるいは脾臓または胎盤から精製されたα−ガラクトシダーゼA(Desnick et al., Proc. Natl. Acad. Sci., USA 76: 5326-5330 (1979))の輸液を用いる酵素置換療法の臨床的試験がファブリー病患者に関して報告されており、ファブリー病に対する直接酵素置換の生化学的有効性が示されている。これらの研究は、繰り返し酵素置換による病理学的糖脂質貯蔵の除去または有意な減少の可能性を示すものであった。例えば、1の研究(Desnick)において、精製酵素の静脈注射により貯蔵脂質基質グロボトリアシルセラミドの血漿レベルの一時的低下が起こった。
【0007】
しかしながら、現在に至るまで、ファブリー病ならびに他のリソソーム貯蔵疾患における酵素置換の生化学的および臨床的有効性は、十分な投与および長期にわたる評価のための十分なヒト酵素がないため、まだ示されていない。
【0008】
したがって、ヒトα−ガラクトシダーゼAのごとき十分な量の生物学的に活性のあるリソソーム酵素を欠損細胞に提供する方法に対する必要性が当該分野において存在している。さらに、α−ガラクトシダーゼAのごときリソソーム酵素をコードする遺伝子を欠損細胞に有効に導入しうるための新たなベクター組成物、そして同時に、導入遺伝子の直接発現に対する必要性もある。最近、ファブリー病に対する組み換えα−ガラクトシダーゼ療法に関して、これらの必要性に応えるための組換え法が試みられた。融合蛋白としての生物学的活性α−ガラクトシダーゼAのクローニングおよび発現に関する米国特許第5580757号(1996年12月3日付与);Bishop, D. F. et al., Proc. Natl. Acad. Sci., USA 83: 4859-4863 (1986);Medin, J. A. ee al., Proc. Natl. Acad. Sci., USA. 93: 7917-7922 (1966);Novo, F. J., Gene Therapy 4: 488-492 (1997); Ohshima, T. et al., Proc. Natl. Acad. Sci., 94: 2540-2544 (1997)およびSugimoto Y. et al., Human Gene Therapy 6: 905-915 (1995)。さらに、許可された特許出願第08/466597号(1995年6月6日出願)(参照により本明細書に記載されているものとみなす)において、ヒトβ−グルコセレブロシダーゼをコードする遺伝子を含むレトロウイルス発現ベクターは自己由来の造血幹細胞に感染し、感染細胞をゴーシェ病患者に移植した場合、患者に対する生物学的活性酵素の持続的産生が起こることが示された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第5580757号明細書
【特許文献2】特許出願第08/466597号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Scriver et al., eds., The Metabolic and Molecular Basis of Inherited Disease, 7th Ed., Vol. II, McGraw Hill, (1995)
【非特許文献2】Desnick et al., in Scriver et al., eds., The Molecular Basis of Inherited Disease, 7th Ed., Chapter 89, pp. 2741-2784, McGraw Hill (1995)
【非特許文献3】Calhoun et al., Proc. Natl. Acad. Sci., USA 82: 7364-7368 (1985)
【非特許文献4】Bishop et al., Proc. natl. Acad. Sci., USA 83: 4859-4863 (1986)
【非特許文献5】Hantzopoulos et al., Gene 57: 159-169 (1987)
【非特許文献6】Quinn et al., Gene 58: 177-188 (1987)
【非特許文献7】Tsuji et al., Eur. J. Biochem. 165: 275-280 (1987)
【非特許文献8】Ohshima et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94: 2540-2544 (1997)
【非特許文献9】De Duve, Fed. Proc.23: 1045 (1964)
【非特許文献10】Dawson et al., Ped. Res. 7(8): 684-690 (1973)
【非特許文献11】Mapes et al., Science 169: 987-989 (1970)
【非特許文献12】Brady et al., N. Eng. J. Med. 279: 1163 (1973)
【非特許文献13】Desnick et al., Proc. Natl. Acad. Sci., USA 76: 5326-5330 (1979)
【非特許文献14】Bishop, D. F. et al., Proc. Natl. Acad. Sci., USA 83: 4859-4863 (1986)
【非特許文献15】Medin, J. A. ee al., Proc. Natl. Acad. Sci., USA. 93: 7917-7922 (1966)
【非特許文献16】Novo, F. J., Gene Therapy 4: 488-492 (1997)
【非特許文献17】Sugimoto Y. et al., Human Gene Therapy 6: 905-915 (1995)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
今日に至るまで、ヒトα−ガラクトシダーゼA遺伝子あるいはリソソーム酵素をコードする大部分の他の遺伝子の、それを欠損する細胞への導入および持続的発現を可能にすることが証明されたベクター組成物はない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明の概要
したがって、本発明は、生物学的に活性のあるヒトリソソーム酵素をコードする導入遺伝子を含む組み換えウイルスベクターおよび非ウイルスベクターを提供するものであり、該ベクターはヒトリソソーム酵素を欠損する細胞に感染し、そして/あるいはトランスフェクションし、生物学的に活性のあるヒトリソソ−ム酵素の導入遺伝子を持続的に発現させることができるものである。好ましい具体例において、発現される導入遺伝子はα−ガラクトシダーゼをコードするものであり、欠損細胞はファブリー病の個体の細胞である。
【0013】
さらに本発明は、生物学的に活性のあるヒトリソソーム酵素を、それを欠損している細胞に与える方法を提供し、該方法は、生物学的に活性のあるヒトリソソーム酵素をコードする導入遺伝子を含有しそれを発現するベクターを細胞に導入することを含むものであり、該ベクターは細胞により取り込まれ、導入遺伝子が発現され、生物学的に活性のある酵素が産生される。ベクターがウイルスベクターあるいはプラスミド等であるかどうかによって、細胞はベクターにより感染および/またはトランスフェクションされてもよい。
【0014】
好ましい具体例において、本発明は、生物学的に活性のあるヒトα−ガラクトシダーゼAを、該酵素を欠損するファブリー病の細胞における持続的産生を提供する。
さらなる態様において、本発明は、生物学的に活性のあるヒトリソソーム酵素を、それを欠損している他の離れた細胞に供給する方法を提供し、トランスフェクションおよび/または感染された、該ベクターを有する細胞は生物学的に活性のある酵素を分泌し、ついで、該酵素が他の欠損細胞に取り込まれる。好ましい具体例において、酵素はヒトα−ガラクトシダーゼAであり、細胞はファブリー病個体のものである。
さらなる態様において、生物学的に活性のある酵素、好ましくはα−ガラクトシダーゼAは個体(例えば、ファブリー病個体)の循環系中に分泌される。
【0015】
また本発明は、組み換えE1欠失アデノウイルスベクターAd2/CEHα−gal、および組み換えプラスミド発現ベクターpCFA−hAGAを提供し、いずれもα−ガラクトシダーゼAをコードする導入遺伝子を含み、これを発現する。
さらに本発明は、生物学的に活性のあるヒトα−ガラクトシダーゼAをファブリー病の個体に提供する方法を提供し、該方法は、欠損細胞に感染して生物学的に活性のあるヒトα−ガラクトシダーゼAを持続的に発現する有効量のAd2/CEHα−galをファブリー病個体の細胞に導入することを含む。
さらに本発明は、生物学的に活性のあるヒトα−ガラクトシダーゼAをファブリー病の個体に提供する方法を提供し、該方法は、欠損細胞にトランスフェクションして生物学的に活性のあるヒトα−ガラクトシダーゼAを持続的に発現する有効量のpCFA−hAGAをファブリー病個体の細胞に導入することを含む。
本発明の他の特徴および利点は、詳細な説明ならびに特許請求の範囲から明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1はプラスミド発現ベクターpCFA−hAGAを示す。
【図2】図2はアデノウイルス発現ベクターAd2/CEHα−galを示す。
【図3】図3は、Ad2/CEHα−galから生成されたα−ガラクトシダーゼAのファブリー病細胞による取り込みを示す。図3AはAd2/CEHα−galに感染した繊維芽細胞(GMO2775)において発現されたα−ガラクトシダーゼAの取り込みを示す。図3AはAd2/CEHα−galに感染した骨格筋細胞(SkMC)において発現されたα−ガラクトシダーゼAの取り込みを示す。
【図4】図4は、正常マウスおよびファブリー病マウスにおけるα−ガラクトシダーゼAの組織分布を示す。
【図5】図5は、プラスミドを鼻腔内、静脈および筋肉内投与した後のα−ガラクトシダーゼAの組織分布を示す。
【図6−1】Ad2/CEHα−gal/CEHα−galベクターをファブリーノックアウトマウスに投与した後のα−ガラクトシダーゼAの組織分布を示す。図6Aは、メスのファブリーノックアウトマウスの尾静脈へのウイルス注射後の分布を示す。図6Bはメスのファブリーノックアウトマウスの右四頭筋グループへのウイルス注射後の分布を示す。
【図6−2】Ad2/CEHα−gal/CEHα−galベクターをファブリーノックアウトマウスに投与した後のα−ガラクトシダーゼAの組織分布を示す。図6Aは、メスのファブリーノックアウトマウスの尾静脈へのウイルス注射後の分布を示す。図6Bはメスのファブリーノックアウトマウスの右四頭筋グループへのウイルス注射後の分布を示す。
【図7−1】図7は、Ad2/CEHα−galをC57BL/6nマウス中に静脈注射した後のα−ガラクトシダーゼA発現の経時変化を示す。図7Aは試験期間中のα−ガラクトシダーゼA発現を示す。図7Bは3日目のα−ガラクトシダーゼAの維持を比較して示す。
【図7−2】図7は、Ad2/CEHα−galをC57BL/6nマウス中に静脈注射した後のα−ガラクトシダーゼA発現の経時変化を示す。図7Aは試験期間中のα−ガラクトシダーゼA発現を示す。図7Bは3日目のα−ガラクトシダーゼAの維持を比較して示す。
【図8−1】図8は、Ad2/CEHα−galをC57BL/6nおよびBALB/c(nu/nu)マウス中に静脈注射した後の全血中のα−ガラクトシダーゼAレベルを示す。図8Aは試験期間中のα−ガラクトシダーゼA発現を示す。図8Bは3日目のα−ガラクトシダーゼAの維持を比較して示す。
【図8−2】図8は、Ad2/CEHα−galをC57BL/6nおよびBALB/c(nu/nu)マウス中に静脈注射した後の全血中のα−ガラクトシダーゼAレベルを示す。図8Aは試験期間中のα−ガラクトシダーゼA発現を示す。図8Bは3日目のα−ガラクトシダーゼAの維持を比較して示す。
【図9−1】図9は、低レベル用量(1.65x1010個)のAd2/CEHα−galを静脈注射した後のファブリー病マウス組織におけるα−ガラクトシダーゼAレベルを示す。図9Aは試験期間中のα−ガラクトシダーゼA発現を示す。図9Bは3日目のα−ガラクトシダーゼAの維持を比較して示す。
【図9−2】図9は、低レベル用量(1.65x1010個)のAd2/CEHα−galを静脈注射した後のファブリー病マウス組織におけるα−ガラクトシダーゼAレベルを示す。図9Aは試験期間中のα−ガラクトシダーゼA発現を示す。図9Bは3日目のα−ガラクトシダーゼAの維持を比較して示す。
【図10−1】図10は、高レベル用量(1.65x1011個)のAd2/CEHα−galを静脈注射した後のファブリー病マウス組織におけるα−ガラクトシダーゼAレベルを示す。図10Aは試験期間中のα−ガラクトシダーゼA発現を示す。図10Bは3日目のα−ガラクトシダーゼAの維持を比較して示す。
【図10−2】図10は、高レベル用量(1.65x1011個)のAd2/CEHα−galを静脈注射した後のファブリー病マウス組織におけるα−ガラクトシダーゼAレベルを示す。図10Aは試験期間中のα−ガラクトシダーゼA発現を示す。図10Bは3日目のα−ガラクトシダーゼAの維持を比較して示す。
【図11−1】図11は、高レベルおよび低レベル用量のAd2/CEHα−galを静脈注射した後の、試験期間中のファブリー病マウス組織におけるGL3レベルを示す。
【図11−2】図11は、高レベルおよび低レベル用量のAd2/CEHα−galを静脈注射した後の、試験期間中のファブリー病マウス組織におけるGL3レベルを示す。
【図11−3】図11は、高レベルおよび低レベル用量のAd2/CEHα−galを静脈注射した後の、試験期間中のファブリー病マウス組織におけるGL3レベルを示す。
【図12】図12は、アデノウイルスベクターを繰り返し投与した後のマウスにおけるα−ガラクトシダーゼAレベルに対するDSGの影響を示す。
【図13】図13は、アデノウイルスベクターを繰り返し投与した後のマウスにおける抗アデノウイルス抗体レベルに対するDSGの影響を示す。
【図14】図14は、アデノウイルスベクターを繰り返し投与した後のマウスにおけるα−ガラクトシダーゼAレベルに対するCD154に指向されたMR1抗体の影響を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
発明の詳細な説明
本発明は、生物学的に活性のあるヒトリソソーム酵素をコードする導入遺伝子を含む組み換えウイルスベクターおよび非ウイルスベクターを提供するものであり、該ベクターはヒトリソソーム酵素を欠損する細胞に感染し、そして/あるいはトランスフェクションし、生物学的に活性のあるヒトリソソ−ム酵素の導入遺伝子を持続的に発現させることができるものである。好ましい具体例において、発現される導入遺伝子はα−ガラクトシダーゼAをコードする。
【0018】
さらに本発明は、生物学的に活性のあるヒトリソソーム酵素を、それを欠損している細胞に与える方法を提供し、該方法は、生物学的に活性のあるヒトリソソーム酵素をコードする導入遺伝子を含み、それを発現するベクターを細胞に導入することを含むものであり、該ベクターは細胞により取り込まれ、導入遺伝子が発現され、生物学的に活性のある酵素が産生される。ベクターがウイルスベクターあるいはプラスミド等であるかどうかによって、細胞はベクターにより感染および/またはトランスフェクションされてもよい。
【0019】
さらなる態様において、本発明は、生物学的に活性のあるヒトリソソーム酵素を、それを欠損している他の離れた細胞に供給する方法を提供し、トランスフェクションおよび/または感染された、該ベクターを有する細胞は生物学的に活性のある酵素を分泌し、ついで、該酵素が他の欠損細胞に取り込まれる。
【0020】
本発明に使用しうるベクターは、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス(AAV)、ワクシニア、ヘルペスウイルス、バキュロウイルスおよびレトロウイルスのごときウイルス、バクテリオファージ、コスミド、プラスミド、真菌ベクターならびに種々の真核および原核宿主における発現につき記載されている当該分野において典型的に用いられる他の組み換えビヒクルを包含し、遺伝子治療ならびに単なる蛋白発現に使用できるものである。
【0021】
当該分野においてよく知られた方法を用いてポリヌクレオチド/導入遺伝子をベクターゲノムに挿入する。本明細書において、導入遺伝子は、特定の蛋白をコードする核酸分子または構造遺伝子であると定義する。本発明においては、ヒトリソソーム酵素および該酵素をコードする核酸である。本発明の典型的なリソソーム酵素は上表1に掲載するものである。表1のリソソーム酵素の単離および特徴づけに関する文献はScriver et al., eds., The Metabolic and Molecular Basis of Inherited Disease, 7th Ed., Vol. II, pp. 2427-2879, McGraw Hill, (1995)中に見出される(参照により本明細書に記載されているものとみなす)。
【0022】
例えば、ベクター中に導入遺伝子を挿入するために、適当な条件下で導入遺伝子およびベクター核酸を制限酵素と接触させて、互いに対になりうる各分子上に相補的末端を生じさせ、ついで、リガーゼを用いて連結することができる。別法として、制限酵素で切断したポリヌクレオチドの末端に合成核酸リンカーを連結することもできる。これらの合成リンカーは、ベクター核酸中の特定の制限酵素部位に対応する核酸配列を含む。さらに、終止コドンおよび適当な制限部位を含有するオリゴヌクレオチドを連結して、例えば以下のもの:
哺乳動物細胞における安定または一時的なトランスフェクション体の選択のためのネオマイシン遺伝子のごとき選択可能マーカー遺伝子;高レベルの転写のためのヒトCMVの即時初期遺伝子由来のエンハンサー/プロモーター配列;mRNA安定性のためのSV40由来の転写終結およびRNAプロセッシングシグナル;正しいエピソーム複製のためのSV40ポリオーマ複製開始点およびColE1;汎用マルチプルクローニング部位;ならびにセンスおよびアンチセンスRNAのインビトロでの転写のためのT7およびSP6 RNAプロモーター
のうちいくつかまたは全部を含有するベクター中に挿入することもできる。他の手段も当該分野においてよく知られており、利用可能である。
【0023】
本明細書において「発現」とは、ポリヌクレオチド/導入遺伝子がmRNAへと転写され、ついで、ペプチド、ポリペプチドまたは蛋白へと翻訳されるプロセスをいう。ポリヌクレオチドがゲノムDNA由来のものである場合、適当な真核宿主を選択したならば、発現にはmRNAのスプライシングが必要である。発現に必要な調節メレメントは、RNAポリメラーゼに結合するプロモーター配列およびリボソームに結合するための転写開始配列を含む。例えば、細菌発現ベクターとは、lacプロモーターのごときプロモーターおよび転写開始のためのシャインダルガルノ配列およびスタートコドンAUG(Sambrook et al., Molecular Cloning, A laboratory Manual 2d Ed. (Cold Spring Harbor, NY, 1989)またはAusbel et al., Current Protocols in Molecular Biology (Greene Assoc, Wiley Interscience, NY, NY, 1995)を含む。同様に、真核発現ベクターがウイルスまたはプラスミドである場合には、RNAポリメラーゼIIのための異種または同種プロモーター、下流のポリアデニル化シグナル、スタートコドンAUG、およびリボソームからの離脱のための終止コドン含む。かかるベクターは市販されており、あるいは説明した配列を当該分野においてよく知られた方法で、例えば、ベクター構築のための一般的方法で集合させることにより得ることもできる。発現ベクターは、ポリヌクレオチド/導入遺伝子によりコードされる蛋白を発現する細胞を作成するのに有用である。
【0024】
当該分野において知られた方法を用いて、ヒトリソソーム酵素、例えばα−ガラクトシダーゼAをコードする導入遺伝子の調製物を、個体の細胞、例えば、ファブリー病個体の細胞にデリバリーするための適当なベクターに含ませることができる。例えば、Finkel and Epstein, FASEB J. 9: 843-851 (1995);Feldman and Steg, Cardiovascular Res., 32: 194-207 (1996)参照。
【0025】
裸の(naked)核酸− 例えば、組織に直接注射することにより、裸のプラスミドDNAを筋肉細胞に導入することができる(Wolff et al., Science 247: 1465 (1989))。
核酸−脂質複合体− 脂質担体を裸の核酸(例えば、プラスミドDNA)と会合させて細胞膜の通過を容易ならしめることができる。カチオン性、アニオン性、または中性脂質をこの目的に使用することができる。しかしながら、カチオン性脂質が好ましい。なぜなら、それらは、通常には負の電荷を有するDNAにうまく会合することが示されているからである。カチオン性脂質もまた、プラスミドDNAの細胞内デリバリーを媒介することが示されている(Felgner and Ringold, Nature 337: 387 (1989))。カチオン性脂質−プラスミド複合体のマウスへの静脈注射は、肺におけるDNA発現を引き起こすことが示されている(Brigham et al., Am. J. Med. Sci. 298: 278 (1989))。さらにOsaka et al., J. Pharm. Sci. 85(6): 612-618 (1996); San et al., Human Gene Therapy 4: 781-788 (1993); Senior et al., Biochimica et Biophysica Acta 1070: 173-179 (1991); Kabanov and Kabanov, Bioconjugate Chem. 6: 7-20 (1995); Remy et al., Bioconjugate Chem. 5: 647-654 (1994); Behr, J-P., Bioconjugate Chem. 5: 382-389 (1994); Behr et al., Proc. Natl. Acad. Sci., USA 86: 6982-6986 (1989);およびWyman et al., Biochem. 36: 3008-3017 (1997)も参照。
【0026】
カチオン性脂質は当業者に知られている。典型的なカチオン性脂質は、例えば、米国特許第5283185号および例えば米国特許第5767099号に開示されたものを包含し、それらの開示を参照により本明細書に記載されているものとみなす。好ましい具体例において、カチオン性脂質は米国特許第5767099に開示されたN4−スペルミンコレステリルカルバメート(GL−67)である。さらなる好ましい脂質は、N4−スペルミンコレステリルカルバメート(GL−53)および1−(N4−スペルミド)−2,3−ジラウリルグリセロールカルバメート(GL−89)である。
【0027】
アデノウイルス− 導入遺伝子のデリバリーのためのアデノウイルスをベースにしたベクターは当該分野においてよく知られており、市販されているか、あるいは標準的な分子生物学的方法により構築することができる。導入のための外来遺伝子を含有する組み換えアデノウイルスベクターは、一般的には、アデノウイルスタイプ2(Ad2)およびアデノウイルスタイプ5(Ad5)から誘導される。ベクターは他の非腫瘍原性セロタイプからも誘導されうる。例えば、Horowitz, "Adenoviridae and their Reolication" in VIRILOGY, 2d ed., Fields et al. Eds., Raven Press Ltd., New York, 1990参照(参照により本明細書に記載されているものとみなす)。
【0028】
本発明のアデノウイルスベクターは複製することができず、最小ウイルス遺伝子を発現し、標的細胞において導入遺伝子を発現することができる。一般的には、アデノウイルスベクターは、E1領域遺伝子を欠失させることにより複製欠損(replication-defective)とされる。E1機能を発現するヒト胚腎臓細胞系293細胞系(ATCC CRL 1573)において複製欠損ベクターを産生させてもよい。欠失されたE1領域を、アデノウイルスまたは非アデノウイルスプロモターの制御下の目的導入遺伝子で置き換えてもよい。アデノウイルスゲノムの他の領域に導入遺伝子を置いてもよい。複製欠損アデノウイルスベクターの製造のレビューとしてGraham et al., "Adenovirus-based Expression Vectors and Recombinant Vaccines" in VACCINES: NEW APPROACHES to IMMUNOLOGICAL PROBLEMS pp 363-390, Ellis, Ed, Butterworth-Heinemann, Boston, (1992)参照(参照により本明細書に記載されているものとみなす)。
【0029】
当業者は、アデノウイルスの他の非必須領域を欠失させ、あるいはウイルスゲノム中で配置替えを行って、本発明の導入遺伝子のデリバリーに適したアデノウイルスベクターを得ることができる、ということにも気づく。例えば、米国特許第5670488号(参照により本明細書に記載されているものとみなす)には、E1およびE3領域の一定部分または全部を欠失させることができ、インビトロでのウイルス増殖に必要でないE4の非必須読み枠(ORFs)も欠失可能であることが開示されている。他の典型的なアデノウイルスは、例えば、Rich et al., Human Gene Therapy 4: 461 (1993); Brody et al., Ann. NY Acad Sci. 716: 90 (1994); Wilson, N. Eng. J. Med. 334: 1185 (1996); Crystal, Science 270: 404 (1995); O'Neal et al., Hum. Mol. Genet. 3: 1497 (1994);およびGrahamらの上記文献(参照により本明細書に記載されているものとみなす)により開示されている。本発明の好ましい具体例において、アデノウイルスはE1欠失Ad2をベースにしたベクター、例えば、米国特許第5670488号(参照により本明細書に記載されているものとみなす)に開示されているものである。使用可能な他のアデノウイルスベクターとしては、インビボにおいて複製コンピテントなアデノウイルスの発生を防止するように設計されたもの(米国特許第5707618号、参照により本明細書に記載されているものとみなす)等がある。さらに、米国特許第5670488号(参照により本明細書に記載されているものとみなす)に記載されたような、初期および後期遺伝子が欠失されたシュードアデノウイルスベクター(PAV)についても本発明における使用が考えられる。
【0030】
上で定義したように、本明細書における導入遺伝子とは、ヒトリソソーム酵素をコードする核酸または構造遺伝子である。そのうえ、導入遺伝子はアデノウイルスにとり外来性であり、あるいは固有のものではない。アデノウイルスベクター中にあって転写されうるヒトリソソーム酵素をコードする核酸が企図される。好ましい具体例において、導入遺伝子は、生物学的に活性があるかまたは機能的なα−ガラクトシダーゼA蛋白をコードする。生物学的に活性があるかまたは機能的な蛋白またはペプチドは、それが発現される細胞の機構あるいは組織または器官の機能に影響する蛋白またはペプチドである。α−ガラクトシダーゼAの場合、該酵素は脂質基質グロボトリアシルセラミド(ガラクトシル−ガラクトシル−グルコシル−セラミド)またはGL3を開裂する。
【0031】
本発明のアデノウイルスベクターにおいて、導入遺伝子は発現制御配列、例えば導入遺伝子の発現を指令するプロモーターに作動可能に連結されている。本明細書の用語「作動可能に連結」とは、ポリヌクレオチド/導入遺伝子と、プロモーター、エンハンサー、転写および翻訳停止部位ならびに他のシグナル配列のごときヌクレオチドの調節およびエフェクター配列との機能的関連をいう。例えば、プロモーターへの核酸の作動可能な連結とは、ポリヌクレオチドとプロモーターとの間の物理的および機能的関連性が、プロモーターを特異的に認識して結合するRNAポリメラーゼによってDNAの転写がプロモーターより開始されるようになっていて、かつプロモーターがポリヌクレオチドからのRNAの転写を指令するようになっていることをいう。
【0032】
プロモーター領域は、RNAポリメラーゼの認識、結合および転写開始に十分な特異的配列を含んでいる。さらに、プロモーター領域は、RNAポリメラーゼの認識、結合、および転写開始活性を転調させる配列を含む。かかる配列はシス作用性であってもよく、あるいはトランス作用性因子に応答するものであってもよい。調節の性質により、プロモーターは構成的なものであっても、あるいは調節されたものであってもよい。プロモーターの例はSP6、T4、T7、SV40初期プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、マウス乳癌ウイルス(MMTV)ステロイド−誘導可能プロモーター、モロニーネズミ白血病ウイルス(MMLV)プロモーター、ホスホグリセレートキナーゼ(PGK)プロモーター等である。あるいはまた、プロモーターは内在性アデノウイルスプロモーター、例えば、E1aプロモーターまたはAd2主要後期プロモーター(MLP)であってもよい。同様に、当業者は、内在性または異種性のポリA付加シグナルを用いてアデノウイルスベクターを構築することができる。詳細には、アデノウイルスE4領域、好ましくはORF3とCMVプロモーター/導入遺伝子とを一緒に使用することも考えられる(1998年4月14日出願のPCT/US98/07841に開示されている(参照により本明細書に記載されているものとみなす))。
【0033】
本発明に使用される他のウイルスベクターは、ワクシニア、ヘルパスウイルス、AAVおよびレトロウイルスから誘導されたベクターを包含する。詳細には、ヘルペスウイルス、特に米国特許第5672344号(参照により本明細書に記載されているものとみなす)に開示された単純ヘルペスウイルス(HSV)は、神経細胞への導入遺伝子のデリバリーに特に有用であり、神経細胞における酵素欠損が示されるリソソーム貯蔵疾患、例えばHurler病、Hunter病およびTay-Sach病に対して重要性を有する。
【0034】
米国特許第5139941、5252479および5753500号ならびにPCT国際公開WO97/09441(参照により本明細書に記載されているものとみなす)に開示されたもののごときAAVベクターも有用である。なぜなら、これらのベクターは宿主染色体中に組み込まれ、ベクターの繰り返し投与を最小限にすることができるからである。
【0035】
レトロウイルスもまた本発明において、特に、細胞へのデリバリーに有用であることがわかる。細胞は、個体から取り出され、エクスビボにて感染させれれて、生物学的に活性のある酵素を産生させるために個体に再投与されうるものである。
【0036】
本発明のウイルスベクターおよび非ウイルスベクターは、リソソーム酵素をコードする導入遺伝子の標的細胞への導入に有用である。標的細胞はインビトロまたはインビボのものであってよい。本発明ベクターのインビトロでの使用は、導入遺伝子を培養細胞に導入し、導入遺伝子産物の組み換え生産に有用である。インビボにおいて導入遺伝子を細胞にデリバリーするための本発明ベクターの使用は、生物学的に活性のある酵素を、それを欠損する細胞に提供することに有用であり、例えばファブリー(Fabry)病の場合に有用であり、細胞がα−ガラクトシダーゼA不存在、不十分または無機能である場合に有用である。
【0037】
本発明ベクターは、標的分子をベクターに連結することにより、特定細胞に標的化させることができる。標的分子は目的の細胞または組織タイプに特異的なものであり、例えば、リガンド、抗体、糖類、受容体または他の結合分子を包含する。標的化されたベクターの能力により、本発明ベクターはリソソーム貯蔵疾患の治療において特に有用となっている。例えば、VEGFまたはVEGF受容体に対する抗体のごとき標的分子等を、ファブリー病個体の血管内皮細胞に標的化することができる。
【0038】
さらに、ウイルスベクター、特に、上記のようなカチオン性脂質、ポリ−L−リジン(PLL)およびジエチルアミノエチルデキストラン(DEAE−デキストラン)のごときカチオン性両親媒性物質との複合体となったアデノウイルスベクターは、標的細胞へのウイルス感染の無能化を促進する(例えば、11月20日出願のPCT/US97/21496参照、参照により本明細書に記載されているものとみなす)。
【0039】
DEAEデキストランと複合体化したアデノウイルスベクターが特に好ましい。さらに、ウイルスベクターの繰り返し投与はベクターに対する免疫応答を引き起こすため、罹病細胞への遺伝子のデリバリーの有効性が限定されるので、アデノウイルスおよび他のウイルスベクターをポリマー修飾して、例えばポリエチレングリコールと複合体化させて、ウイルスの免疫原性を減少させ、ベクターの繰り返し投与を可能にしてもよい(例えば、1998年4月3日出願のPCT/US98/06609参照、参照により本明細書に記載されているものとみなす)。別法として、ベクターを免疫抑制剤とともに投与して、繰り返しベクター投与に対する免疫応答を減少させてもよい。
【0040】
本発明による標的細胞への導入遺伝子の導入を、標的細胞中の導入遺伝子産物(生物学的に活性のある酵素)のレベルを測定することにより評価することができる。標的細胞中の導入遺伝子産物のレベルは、本発明ベクターによる導入遺伝子の導入効率と直接相関関係がある。当該分野で知られた方法を用いて、例えばELISA、ラジオイムノアッセイ、蛍光および化学発光酵素基質を用いるアッセイを用いて酵素レベルを測定することができる。
【0041】
特に、免疫学的、組織学的および活性のアッセイを含む当該分野において知られた種々の方法により導入遺伝子の発現をモニターすることができる。試料中の導入遺伝子産物のインビトロでの検出に有用な免疫学的方法は、検出可能な抗体を使用するイムノアッセイを包含する。かかるイムノアッセイは、例えば、当該分野においてよく知られたELISA、Pandexマイクロフルオリメトリーアッセイ、凝集アッセイ、フローサイトメトリー、血清診断アッセイおよび免疫組織化学的スキャンニング法を包含する。例えば、検出可能マーカーを抗体に直接的または間接的に結合させることができる。有用なマーカーは、例えば、放射性核種、酵素、蛍光発生物質、色素発生物質および化学発光標識を包含する。
【0042】
インビボでのイメージング法を行うためには、検出可能抗体を対象に投与し、導入遺伝子産物への抗体の結合を、当該分野でよく知られたイメージング法により検出することができる。適当なイメージング剤は知られており、例えば、111In、99mTc、51Cr等のごときγ線放射性核種ならびに常磁性金属イオンを包含し、それらは米国特許第4647447号に記載されている。放射性核種により、γシンチレーションフォトメトリー、ポジトロン放射トモグラフィー、シングルフォトンエミッションコンピューテッドトモグラフィー(single photon emission computed tomography)およびガンマカメラ全身イメージングによる組織のイメージングが可能となるが、常磁性金属イオンは核磁気共鳴イメージングを可能にする。
【0043】
ファブリー病個体の細胞および組織に生物学的に活性のあるα−ガラクトシダーゼAをデリバリーするためのα−ガラクトシダーゼA導入遺伝子を含むベクターを用いて本発明を説明する。このアプローチの有効性はマウスモデル系、例えば、ファブリーニックアウトマウスを用いて示された。かくして、感染および/またはトランスフェクションし、細胞中で生物学的に活性のあるα−ガラクトシダーゼ発現を持続させる量の本発明ベクターをファブリー病個体に導入することにより、活性ヒトα−ガラクトシダーゼAがファブリー病個体の細胞に提供される。本発明ベクターを単独でまたは上記のごとき複合体として適当な組成物中に入れて標的細胞にデリバリーしてもよく、該組成物は本発明ベクターおよび適当な許容される担体を含んでなる。好ましくは、プラスミドベクターをGL67のごときカチオン性脂質との複合体とする。好ましくは、アデノウイルスベクターはをDEAEデキストランとの複合体とする。当該分野において知られた方法、例えば、静脈、筋肉内、鼻腔内、皮下、挿管、洗浄等によりベクターを標的細胞にデリバリーしてもよい。
【0044】
用語「α−ガラクトシダーゼAをコードする導入遺伝子」は、α−ガラクトシダーゼAをコードする核酸(DNA)または構造遺伝子を包含し、ファブリー病個体の欠損細胞において発現された場合、α−ガラクトシダーゼA欠損を改善するものである。
【0045】
本明細書の用語「有効量」は、ファブリー病個体の欠損細胞において生物学的に活性のあるα−ガラクトシダーゼAを産生することにより欠損を改善する量をいう。ファブリー病個体における生物学的に活性のあるα−ガラクトシダーゼAの産生を、ファブリー病に関連した徴候の改善により評価することができる。本発明方法に使用されるベクターの正確な有効量を、例えば、個体の年齢、疾病の重さおよび症状の個々の相違を考慮して当業者が決定することができる。
【0046】
詳細には、本発明は、ファブリー病個体の細胞に生物学的に活性のあるα−ガラクトシダーゼAをデリバリーするためのウイルス的アプローチおよび非ウイルス的アプローチの両方を提供する。ヒトα−ガラクトシダーゼAを発現する組み換えアデノウイルスベクター(pAd2/CEHα−gal)およびプラスミド発現ベクター(pCFA−hAGA)を構築した。これらのベクターに感染またはトランスフェクションされたヒト気道上皮細胞系は、内在レベルよりも10倍以上多いレベルの活性酵素を発現し、活性のかなりの割合が培地に分泌された。感染繊維芽細胞(GMO2775)または感染一次ヒト骨格筋細胞(SkMC)のいずれかから分泌されたα−ガラクトシダーゼAは、ファブリー病繊維芽細胞により取り込まれることが示された。このことは、インビボにおいてベクターを取り込んだ細胞により酵素が分泌されうること、および分泌酵素が未トランスフェクション細胞により取り込まれることができ、かくして、体内の大部分の遺伝的欠損が修正されることを示す。
【0047】
3つの可能なデリバリー経路(鼻腔内、静脈および筋肉内投与)の有効性を比較するために、pCFA−hAGAを用いてマウスにおいて研究を行った。カチオン性GL67との複合体となったプラスミドDNAを肺に入れるための鼻腔内滴下は、肺における低レベルの発現を引き起こした(組織100mgあたり1800pgまでのα−gal)。GL67との複合体となったプラスミドDNAの静脈投与もまた、肺における低レベルの発現を示した(組織100mgあたり700pgまで)。カチオン性脂質不存在下のプラスミドDNAのみの筋肉内注射は、注射された筋肉における低レベルの発現を引き起こした(組織100mgあたり1200pgまで)。アデノウイルスベクターを用いて行った実験は、アッセイしたすべての組織において非常に高レベルの活性を示す(肝臓において組織100mgあたり100μgまで、他の大部分の器官において組織100mgあたり10μgまで)。正常マウスの肝臓においてアッセイされる酵素レベルは組織100mgあたり400ngであった。ウイルス処理したマウスからの組織試料を、2つの異なる方法(活性のアッセイおよびELISAアッセイ)によりアッセイし、同様の結果を得た。
【0048】
さらに、ウイルスベクターのファブリー病マウスへの静脈投与は、処理動物の種々の組織においてGL3蓄積レベルの減少を引き起すことが示された。通常には少量のリソソーム酵素が分泌され、これらはマンノース−6−リン酸受容体を介して離れた細胞により再捕捉されうることが示された。実際、結果は、酵素をコードするウイルスベクターおよび非ウイルスベクターでトランスフェクションされた細胞の上清から集められたα−ガラクトシダーゼAがファブリー病細胞に内在化されうることを示した。これらの結果はさらに、適切な沈着器官へのα−ガラクトシダーゼAの遺伝子導入は、生物学的欠損を逆転させることができ、さらにファブリー病患者の罹病組織におけるGL3の貯蔵を逆転させることができるということを示唆する。
【0049】
さらに本発明を限定するものと解してはならない下記実施例により本発明をさらに説明する。本願にて引用するすべての文献の内容を、参照により本明細書に記載されているものとみなす。
【実施例】
【0050】
実施例1:ベクターの構築
pCFA−hAGA
このプラスミド発現ベクターは、ヒトα−ガラクトシダーゼA cDNAの発現をドライブするためにサイトメガロウイルスの即時初期プロモーターを用いている。ハイブリッドイントロンをプロモーターの後に置いて、発現促進のためのスプライス部位を提供する。ポリアデニル化シグナルをウシ成長ホルモン遺伝子から取った。pUC由来のColE1レプリコンをイー・コリにおける複製のための骨格として使用した。プラスミド維持についての選択を行うためにカナマイシン耐性遺伝子を用いた。pCFA−hAGAの構造は、例えば、米国特許第5783565号(参照によりその開示を本明細書に記載されているものとみなす)に開示されたCTFR導入遺伝子含有pCF1ベクターの構造と類似している。pCFA−hAGAベクター中において、pCF1中のCFTR導入遺伝子のかわりにα−ガラクトシダーゼA導入遺伝子が存在している。
【0051】
Ad2/CEHα−gal
Ad2セロタイプウイルス骨格を用いたE1欠失アデノウイルス発現ベクターを、米国特許第5670488号(参照によりその開示を本明細書に記載されているものとみなす)に示されたようにして構築した。ウイルスゲノムのE1領域を欠失させて発現カセットのためのスペースを作成した。またE1領域の欠失は複製可能なウイルスを作り出す。ヒトα−ガラクトシダーゼA cDNAの発現をドライブするためにアデノウイルスE1aプロモーターを用いた。ハイブリッドイントロンハイブリッドイントロンをプロモーターの後に置いた。ポリアデニル化シグナルをSV40ウイルスから取った(図2)。
【0052】
実施例2:Ad2/CEHα−galから産生されるヒトα−ガラクトシダーゼAのファブリー病繊維芽細胞による取り込み
以下の感染の多重度で、ヒト一次細胞をAd2/CEHα−galに感染させた(ファブリー病繊維芽細胞系GMO2775:0、2、4、6および8μU α−gal/μg蛋白;骨格筋細胞系SkMC:0、0.5、1、1.5、2、2.5および38μU α−gal/μg蛋白)。感染から3日後、ならし培地を集め、濾過してウイルス粒子を除去した。濾過されたならし培地を未感染ファブリー病線維芽細胞(GMO2775)に適用した。5時間インキュベーションした後、培地を除去し、細胞をPBSで洗浄し、0.5ml溶解バッファー中に取った。ならし培地に曝露されていない正常ドナー由来の繊維芽細胞(GMO2770B)およびファブリー病ドナー由来の線維芽細胞(GMO2775)を集め、対象としてアッセイした。蛍光基質4−メチルウンベリフェリル−α−D−ガラクトピラノシド(4−mu−α−gal)を用いて細胞溶解物をアッセイした(図3Aおよび3B)。アッセイにより、Ad2/CEHα−galに感染したヒト一次細胞は生物学的に活性のあるα−ガラクトシダーゼAを分泌し、α−ガラクトシダーゼAがファブリー病線維芽細胞により取り込まれたことが示された。
【0053】
実施例3:正常マウス対ファブリーノックアウトマウスにおけるα−ガラクトシダーゼAの組織分布
正常(C57BL/6n)およびファブリーノックアウトマウス(Mount Sinai School of Medicine, New York, NYのRobert Desnick博士から提供された)のα−ガラクトシダーゼAレベルを、4−mu−α−galを用いてアッセイした。屠殺時に全身潅流を行い、器官を取り、−80℃で保存した。アッセイバッファー中で組織をホモジナイズし、数回の凍結−融解サイクルを行った。ファブリー病マウスは、正常マウスと比較すると、すべての器官においてα−ガラクトシダーゼレベルが有意に低下していた(図4)。
【0054】
実施例4:pCFA−hAGAを鼻腔内、静脈および筋肉内投与した後のα−ガラクトシダーゼAの組織分布
例えば米国特許第5783565号(参照により本明細書に記載されているものとみなす)にカチオン性脂質GL−67(N4−スペルミンコレステリルカルバメート)と複合体となったpCFA−hAGAをC57BL/6nマウスに投与した。ヒトα−ガラクトシダーゼに特異的な酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)により組織ホモジネート中のα−galレベルをアッセイした。100μlのGL−67:DOPE(1:2):pCFA−hAGA複合体(脂質:DNA比 0.6mM:3.6mM)を用いて鼻腔内滴下を行った。例えば、国際公開WO96/18372(治療分子の細胞内デリバリーのためのカチオン性両親媒性物質およびプラスミド);Fasbender, A. J. et al., Am. J. Physiol. 269(1) Pt 1: L 45-51 (1995);Zabner, J. et al., J. Biol. Chem. 270(32): 18997-19007 (1995)参照。滴下から2日後に動物を屠殺した。100μlのGL−67:DOPE:DMPE−PEG(1:2:0.005):pCFA−hAGA複合体(脂質:DNA比 4mM:4mM)を用いて静脈注射を行った。投与から2日後にこれらの動物を屠殺した。
体積50μl中の100μgの裸のpCFA−hAGAの筋肉内注射を右四頭筋群に行った。投与5日後にこれらの動物を屠殺した。主に、選択された脂質/DNA処方およびデリバリー経路によりトランスフェクションされた組織において酵素が検出可能であった(図5)。
【0055】
実施例5:Ad2/CEHα−gal投与後のファブリーノックアウトマウスにおけるα−ガラクトシダーゼAの組織分布
メスのファブリーノックアウトマウスの尾静脈に体積260μl中の5x109 IUのウイルスを注射した。3日後にマウスを屠殺した。ELISAを用いて種々の器官におけるα−ガラクトシダーゼレベルを検出した。ウイルスの静脈注射により、試験したすべての器官において高レベルのα−ガラクトシダーゼAが検出された(10〜100倍)。酵素活性の広範な分布は、これがファブリー病に対する見込みのある治療であることを示す(図6A)。
メスのファブリーノックアウトマウスの右四頭筋群に体積50μl中の9.5x108 IUのウイルスを注射した。5日後にマウスを屠殺した。ELISAを用いて種々の器官におけるα−ガラクトシダーゼAレベルを検出した。ウイルスの筋肉内注射は、注射部位においてかなりのレベルの酵素を生じさせ、さらに肝臓および脾臓において中庸レベルの酵素を生じさせ、注射部位の感染細胞が酵素を分泌し、該酵素が他の組織の細胞により取り込まれたことが示された(図6B)。
【0056】
実施例6:Ad2/CEHα−galのC57BL/6nマウスへの静脈注射後のα−ガラクトシダーゼA発現の経時変化
本実験は、かなりのレベルの活性酵素がベクター投与後一定時間において維持されたことを示した。C57BL/6nマウスの尾静脈にウイルスを注射した。デリバリーされた用量は260μl中5x109 IUであった。3、14および28日後に器官を取った。ELISAを用いて組織ホモジネート中のα−ガラクトシダーゼAレベルを検出した(図7Aおよび7B)。28日目までに、酵素レベルは3日目のレベルの5〜10分の1またはそれ以上となったが、そのレベルは野生型のレベルより有意に高かった。
【0057】
実施例7:Ad2/CEHα−galのC57BL/6nおよびBALB/c(nu/nu)マウスへの静脈注射後の全血中のα−ガラクトシダーゼAレベル
C57BL/6nまたはBALB/c(nu/nu)マウスの尾静脈にウイルスを注射した。デリバリーされた用量は260μl中5x109 IUであった。3、14および28日後に血液を取った。ELISAを用いて全血中のα−ガラクトシダーゼAレベルを検出した(図8Aおよび8B)。血中α−ガラクトシダーゼAの存在は、酵素の注射部位からの血流中への分泌を示した。14日目までに、酵素レベルは3日目のレベルの10分の1またはそれ以上となった。ヌードマウスおよび正常マウスにおける同様のパターンは、この低下が免疫応答によるものではないことを意味する。
【0058】
実施例8:Ad2/CEHα−galを静脈注射されたファブリー病マウスにおけるGL3レベルの低下を示す短期の経時変化
3ないし8月齢のメスのファブリー病マウス(各群12匹)の尾静脈に高用量(1.65x1011個の粒子)または低用量(1.65x1010個の粒子)のAd2/CEHα−gal(0.25ml PBS/5%蔗糖中)を注射した。注射から3、7または14日後にマウスを屠殺した(各用量につき各時点において4匹ずつ)。2匹の無処理のメスのファブリーマウス(3ないし8月齢)を3日後に屠殺して、未処理マウス中のGL3レベルの対照とした。血液試料を屠殺時に集めてα−ガラクトシダーゼA活性を測定した。屠殺後すぐにマウスにPBSを潅流させ、種々の器官を集めた。器官を2部に分け、1部はヒトα−ガラクトシダーゼAに特異的なELISAによるα−ガラクトシダーゼA活性アッセイを行い、もう1部は抽出して、ELISA型アッセイを用いるGL3アッセイを行った。組織試料の重量に対してデータを正規化した。
【0059】
低用量および高用量のAd2/CEHα−gal投与後のα−ガラクトシダーゼA活性の経時変化をそれぞれ図9Aおよび10Aに示す。各用量の3日目に対するα−ガラクトシダーゼA活性の維持をそれぞれ図9Bおよび10Bに示す。この研究は、無処理マウスと比較して、高用量のベクターは試験したすべての組織においてα−ガラクトシダーゼA活性が著しく増大させ、活性が14日目まで維持されたことを示した。低用量においてはα−ガラクトシダーゼA活性は中庸の上昇を示した。
高用量のベクターを用いた場合、試験組織中のα−ガラクトシダーゼAレベルの上昇と同時にすべての組織においてGL3の有意な低下が起った(図11)。低用量のベクターによるGL3レベルの低下が少ないことは、試験動物の加齢に基づく結果であると考えられる。低用量での研究には若いマウスを用いており、若いマウスは加齢マウスと比べて貯蔵GL3量が少ない。例えば、ニューヨークのMount Sinai School of Medicineにおける研究は、ファブリー病マウスは試験期間中において組織にGL3を蓄積することが示されている。月齢3カ月において、GL3レベルは有意に正常以上であり、月齢5カ月のマウスにおいて月齢3カ月の約2倍のレベルとなる。月齢5〜11カ月においてGL3レベルは安定し、月齢5カ月のGL3レベルは最大値の約80%である。高用量でのすべての研究を月齢5〜7カ月のマウスにおいて行ったので、この群において最初のGL3レベルはさほど変わりがなかった。
【0060】
実施例9:デオキシスペルグアリン(DSG)を用いる免疫抑制後のマウスに対するアデノウイルスの繰り返し投与
α−ガラクトシダーゼA遺伝子を含有するアデノウイルスベクターの繰り返し投与を行う際には処理個体中のα−ガラクトシダーゼAレベルを維持することが必要であるかもしれないので、種々の免疫抑制剤を用いて、投与されたアデノウイルスベクターに対する免疫応答を抑制することができる。かかる免疫応答は再投与ウイルスの有効性を抑制する可能性がある。本実験は、繰り返しアデノウイルス投与に対する免疫抑制剤DSGの影響を示すものである。
4匹のBALB/cマウスからなる2群を、1x1011個のAd2/CFTR−16粒子(E1欠失、部分的にE3欠失ベクターであって、1998年4月14日出願のPCT/US98/07840(参照により本明細書に記載されているものとみなす)に開示されたように導入遺伝子発現を維持することができる)を尾の静脈から注射して処理した。4匹のマウスからなる2群には1x1010個のウイルス粒子(低用量)を与えた。ウイルス投与1日前〜5日後において各用量の1つの群に20mg/kgのDSGを静脈注射により投与した。この処理規則を28日後に繰り返した。56日目にマウスに同量のウイルスを与え、この時にはAd2/CEHα−galを使用した。56日目に、1x1011または1x1010個のAd2/CEHα−galを、さらなる群のマウスに前処理せずに与えた。最初のウイルス投与から−1、27および55日目にこれらの動物から血液を集めた。動物にAd2/CEHα−galウイルスを投与してから3日後に動物を屠殺し、器官を集めた。ヒトα−ガラクトシダーゼAに特異的なELISAを用いて組織ホモジネートをα−ガラクトシダーゼA発現に関して分析した。血漿試料中のアデノウイルスに対して生成した抗体の力価を調べた。いずれのウイルス投与レベルに関しても、α−ガラクトシダーゼAレベルは、DSGを投与されなかったマウスよりもDSGを投与されたマウスにおいて高く(図12)、繰り返しウイルス投与により導入遺伝子を発現させる場合にDSGが有益であることが示された。同様に、DSGはマウスにおける抗アデノウイルス抗体力価を抑制した(図13)。
【0061】
実施例10:抗CD154(CD40リガンド)抗体(MR1)での免疫抑制後の繰り返しアデノウイルス投与の有効性
PharMingenから得たMR1抗体(カタログ番号090205)は、活性化T細胞上に発現されるアクセサリー分子gp39(CD40リガンド−CD154)と反応する(Noelle et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 6550 (1992); Roy et al., J. Immunol. 151: 2497 (1993))。gp39は免疫応答の準備に必要であり、MR1はこれを阻害することにより免疫応答を抑制する。実際、gp39(CD40リガンド−CD154)に対する抗体は、体液性免疫応答および細胞性免疫応答の両方を抑制し、マウス気道への繰り返しアデノウイルス投与を容易にすることが示されている。Scaraia et al., Gene Therapy 4: 611 (1997); WO98/08541参照(参照により本明細書に記載されているものとみなす)。
本実験はマウスにおける繰り返しアデノウイルス投与に対する免疫応答を阻害することにおけるMR−1の有効性を示すために計画された。
3匹のBALB/cマウスからなる2群に、1x1011個のAd2/CFTR−16粒子を尾の静脈から注射して投与した。ウイルス投与から−1,1,4,7および14日目に、1の群に500μgのMR1抗CD154抗体を腹腔内注射した。最初のウイルス投与から28日後に、マウスに2回目のウイルス粒子(1x1011個)の注射を行い、この時にはAd2/CEHα−gal/CEHα−galを使用した。3匹のマウスからなる第3の群には28日目にAd2/CEHα−galを注射した。2回目のウイルス注射から3日後に動物を屠殺し、器官を取った。ELISAを用いて組織ホモジネートをα−ガラクトシダーゼA発現について分析した。図14に示すように、この実験は、MR1抗体での免疫抑制後短期間のうちに2回目のアデノウイルス投与を行うことにより高レベルのα−ガラクトシダーゼA導入遺伝子発現が達成できることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リソソーム貯蔵疾患を治療するための医薬の調製のためのアデノウイルス、アデノ関連ウイルス(AAV)、ワクシニア、ヘルペスウイルス、バクテリオファージ、コスミド、真菌ベクターの群より選択されるベクターの使用であって、該リソソーム貯蔵疾患がゴーシェ病であり、該ベクターが生物学的に活性のあるヒトβ−グルコシダーゼをコードする導入遺伝子を含み、それを発現するものであって、該ベクターが標的細胞によりインビボで取り込まれ、導入遺伝子が発現されて、生物学的に活性のある酵素がインビボで産生されるところの、使用。
【請求項2】
アデノウイルスがDEAE−デキストランとの複合体となっている、請求項1記載の使用。
【請求項3】
ベクターを有する細胞が、生物学的に活性のある酵素を分泌し、該酵素を欠損する他の細胞により該酵素が取り込まれるものである、請求項1または2に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図8−1】
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【図8−2】
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【図9−1】
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【図9−2】
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【図10−1】
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【図10−2】
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【図11−1】
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【図11−2】
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【図11−3】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−31023(P2010−31023A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−222892(P2009−222892)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【分割の表示】特願2000−564655(P2000−564655)の分割
【原出願日】平成10年10月29日(1998.10.29)
【出願人】(500579888)ジェンザイム・コーポレーション (34)
【Fターム(参考)】