説明

リターン装置およびロックボルト

【課題】流体の濃度と該流体への加圧状況の両方の確認が可能であり、これら両特性の確認を必要とする作業に利用して好適なリターン装置を提供する。
【解決手段】リターン装置32は、開放閉塞自在な第1のバルブ41と、所定の流体圧力で開放する第2のバルブ42と、第1、第2のバルブの各々に接続し、流体をこれらバルブに導く分岐管43を備えるとともに、第2バルブ42は、一端に入口通路が、中間に出口通路が設けられたシリンダー部と、該シリンダー部の内部に入口通路と反対側に配設されるスプリングと、通常は該スプリングのバネ力により入口通路と出口通路間の流路を塞ぎ、所定の流体圧力でバネを押し込んで入口通路と出口通路間の流路を開通するピストンロッドとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリターン装置および該リターン装置を備えたロックボルトに関わり、特に、ロックボルト打設後の定着材注入に使用して好適なリターン装置および該リターン装置を備えたロックボルトに関する。
【背景技術】
【0002】
山岳等のトンネル工事では、図9に示すように、地山1を掘削して例えばトンネル空間2を形成し、該トンネル空間2の壁に必要に応じて吹き付けコンクリートを施し、壁から岩盤内部へロックボルト4を打ち込み、しかる後、セメント系或いは樹脂系等の定着材を注入して該ロックボルトを地山に定着する。以上のようにすることにより、トンネルの内壁近くの地盤を強固にでき、また岩盤内部の地盤で支持することで内壁周辺の崩落を防ぐことが可能になる。
図10は従来のパッカー付き後注入式ロックボルトの構成図であり、(A)は全体図、(B)は口元拡大図である。パッカー付き後注入式ロックボルトは、地山に開けた孔(ボアホール)HL内に設置される中空ボルト11と、中空ボルト11の口元に取り付けられ、孔を塞ぐためのパッカー12と、パッカー12を加圧注入して径方向に拡大させるためのパッカー用注入ホース13と、モルタル、セメントミルクなどの定着材を孔内に注入するための定着材用注入ホース14と、中空ボルト11の口元(リターン口)に開放閉塞自在に接続されたバルブ15と、ロックボルトを地山に押し付けて固定するためのワッシャー16やナット(図示せず)を有している。中空ボルト11は、例えば外側に特殊なネジが形成された中空の異型ネジ節中空鉄筋である。
【0003】
かかるパッカー付き後注入式ロックボルトの施工は、地山に削孔し、孔(ボアホール)HL内にロックボルトを挿入、セットし、ついで、パッカー13を膨張させて孔口を塞ぎ、その後、定着材を孔内に注入し、孔に注入された定着材(リターン材)が中空ボルト11の先端よりボルト中空部を介してリターン口に戻ったことで定着材が孔奥まで充填されたものと判定し、バルブ15を閉じて注入を完了する。なお、パッカー付き後注入式ロックボルトは、図10に示す構成のほか、パッカーを加圧して径方向に拡大、孔壁に密着させ、定着材であるセメントミルクの加圧注入を周辺土壌に対して図るものも提案されている(特許文献1)。
【0004】
ところで、ロックボルト打設箇所に湧水がある場合、すなわち、パッカーより奥側の地山から地下水が湧き出ている場合、上記の施工方法では、注入された定着剤が湧水によってボルト周囲から流失し、ボアホール内の定着材が薄められボルトの定着が不十分となる。そこで、透水性のパッカーに吸水性ポリマーの粉末とセメントの粉末を充填してボアホールの口元を該パッカーで遮水しながら塞いで、孔奥側に対して定着剤を注入するようにしたパッカー付きロックボルトが提案されている(特許文献2)。かかるロックボルトにおける定着材の注入、停止、加圧、保持などの動作は、流路のいずれかに設けた圧力計を作業者が目視しながらバルブ15を開閉して行なう。
【特許文献1】特開平11−117698号公報
【特許文献2】特開2006−118130号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ボアホールにおける湧水が多く、ボアホール内の湧水圧が高い場合、特許文献2のようなパッカーでボアホール口元を塞いだとしても、図11に示すように孔奥側に水WTが溢れている。このため、作業者がリターンの確認によって十分に定着材の充填がなされたと判断して定着材の注入を完了した場合であっても、定着材が水で薄められて孔内の定着材の濃度が適正値以下になり、十分な定着強度が得られない場合がある。そこで、リターン用のバルブを閉じて注入圧を高めようとすると材料圧送ポンプに大きな負荷がかかって該ポンプが停止する問題が生じる。このように、既に水圧など何らかの圧力がかかっている状態の空間に定着材のように粘性のある材料を圧送してこの空間に充填しようすとすると、材料圧送ポンプに大きな負荷がかかって該ポンプが停止し、たとえ高圧で圧送できたとしても、実際に充填された材料の濃度が薄まっていたりして、確実な注入材充填作業が非常に難しい問題がある。
以上より、本発明の目的は、材料圧送ポンプにかかる負荷を極力軽減しながら、適正な品質の材料を充填できるようにしたリターン装置と、該リターン装置を使用したロックボルトを提供することである。
本発明の目的は、流体の濃度と該流体への加圧状況の両方の確認が可能であり、これら両特性の確認を必要とする作業に利用して好適なリターン装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、リターン装置および該リターン装置を備えたロックボルトである。
・リターン装置
本発明のリターン装置は、開放閉塞自在な第1のバルブと、所定の流体圧力で開放する第2のバルブと、第1、第2のバルブの各々に接続し、流体をこれらバルブに導く分岐管とを備えている。前記第2バルブは、一端に入口通路が、中間に出口通路が設けられたシリンダー部と、該シリンダー部の内部に前記入口通路と反対側に配設されるスプリングと、通常は該スプリングのバネ力により入口通路と出口通路間の流路を塞ぎ、前記所定の流体圧力でバネを押し込んで入口通路と出口通路間の流路を開通するピストンロッドとを備えている。また、前記ピストンロッドの流体当接部を球状に形成している。
【0007】
・ロックボルト
本発明のロックボルトは、孔内に設置される中空状本体と、前記本体の口元に取り付けられ、前記孔を塞ぐパッカーと、前記孔内に定着材を注入するための注入部と、前記パッカーにより仕切られる前記孔内に連通する形で前記中空状本体に接続されるリターン装置とを備え、前記リターン装置は、開放閉塞自在な第1のバルブと、所定の注入圧力で開放する第2のバルブと、前記中空状本体に接続され、該中空状本体より流入するリターン材を第1、第2のバルブのそれぞれに導く分岐管を備えている。
【発明の効果】
【0008】
本発明のリターン装置によれば、流路内部の圧力にかかわらず開放閉塞自在な第1のバルブから材料をリターンさせ、そのリターン材の濃度を判定し、リターン材が適性濃度になってから第1のバルブを閉め、第2のバルブが開となるまで流路内を加圧し、第2のバルブからのリターン材のリターンによって、内部が所定圧で加圧充填されたことの確認が的確に可能となる。すなわち、本発明のリターン装置は、流体の濃度と該流体への加圧状況の両方の確認が可能であり、これら両特性の確認を必要とする作業に利用して好適である。
また、本発明のリターン装置によれば、流路が詰まったら、第1のバルブを手動で開閉してポンピングすることにより詰まりを除去でき、材料圧送ポンプにかかる負荷を軽減することができる。
さらに、本発明によれば、ピストンロッドの流体当接面を丸くすることにより、入口通路部と出口通路部間が一気に開かず、リターン材が少しづつリターンされるため、注入圧力が急激に降下せず、注入圧力を設定圧力P2に略維持したままリターン材の排出を検出して注入を完了することができ、定着効果を高めることができる。
【0009】
また、本発明の中空ボルトの口元側端部にリターン装置を組み付けてロックボルトを構成すれば、定着材注入に際して、第1のバルブから材料をリターンさせ、そのリターン材の濃度を判定し、リターン材が適性濃度になってから第1のバルブを閉め、第2のバルブが開となるまで流路内を加圧し、第2のバルブが開いてリターン材がリターンしたとき、注入を停止することができ、この結果、ボアホールおよび該ボアホール近傍からの湧水を抑制し、かつ、孔内における濃度が適正となるように定着材を注入することができる。また、材料圧送ポンプにかかる負荷を極力軽減しながら、適正な品質の材料を充填することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
・ロックボルト施工装置
図1はロックボルト施工に本発明のリターン装置を適用した場合のロックボルト施工装置の全体構成図であり、既に地山21に形成した削孔(ボアホール)22にパッカー付き後注入式のロックボルト23が設置されている状態が示されている。
パッカー付き後注入式のロックボルト23は、削孔(ボアホール)22内に設置される中空ボルト23aと、中空ボルト23aの口元に取り付けられ、孔を塞ぐための透水性の布袋状のパッカー23bと、パッカー23bを加圧注入して径方向に拡大させるためのパッカー用注入ホース23cと、グラウト材などの定着材を孔内に注入するための定着材用注入ホース23dを備えている。
パッカー23bには、セメント系グラウト材が注入される。セメント系グラウト材が注入されると透水性のパッカー23bは内部の水分のみが滲み出し、これにより、パッカー内は硬練状態となって充填されてゆき、膨張したパッカーがボアホールの孔壁に密着して一時的にボアホールを封水する。
【0011】
中空ボルト23aは、図2(A)に示すように外側に特殊なネジが形成された中空の異型ネジ節中空鉄筋であり、異型ネジ節にすることによりグラウト材との付着力を増大させることができる。なお、ロックボルト23は以上の構成要素に加えて、図2(B)、(C)に示すようにロックボルトを地山に押し付けて固定するためのワッシャー23eや特殊ナット23dを有している。ワッシャー23eには、ボルト挿通孔H1、定着材用注入ホース挿通孔H2、パッカー用注入ホース挿通孔H3が設けられている。特殊ナット23dは中空ボルト23aのネジ部と螺合するネジが形成された円筒ネジ部23d−1、頭部23d−2を備え、円筒ネジ部23d−1には縁きり用のプラスチックキャップCPが装着されている。
【0012】
図1に戻って、中空ボルト23aの口元側端部には、排気・リターン側流路の圧力を測定する圧力計31が接続され、該圧力計31にリターン装置32が接続されている。リターン装置32は後で詳述するが、開放閉塞自在な第1のバルブ(リターンバルブ)41と、ボアホール内の湧水の圧力P1より大きい所定の圧力P2(例えば2MPa:2メガパスカル)で開放する第2のバルブ(リリースバルブ)42と、第1、第2のバルブ41,42の各々に接続し、ロックボルトの中空ボルト23aから流入するリターン材をこれらバルブに導く分岐管43を備えている。なお、圧力計31は、リリースバルブ42が注入圧力P2で開放することを確認するためのものであり、必ずしも必要ではない。
リターンバルブ41の出口はリターン材のリターン口となっており、該リターン口にはリターン材の濃度を測定する濃度測定部33が設けられている。リターン材の濃度測定には周知のPロート測定を採用することが出来る。リリースバルブ42にはリリース口への流路を開放閉塞する切換バルブ34が接続されている。この切換バルブ34はネジ螺合によりリリースバルブ42へ着脱可能である。
【0013】
グラウト材注入側には、ハンドミキサー35が設けられ、定着材であるグラウト材を混練りしてミキシング圧送ポンプ36に投入するようになっている(ハンドミキサー35はミキシング圧送ポンプのミキシング能力に応じて省略することができる)。ミキシング圧送ポンプ36は、投入されたグラウト材をミキシング圧送して定着材用注入ホース23dよりボアホール内に注入するようになっている。ミキシング圧送ポンプ36の出力側グラウト材通路には圧力センサー37が配設され、注入側の注入圧力が設定値より大きくなるとミキシング圧送ポンプ36がグラウト材の圧送を停止するようになっている。定着材用注入ホース23dにはグラウト材の通過を制御するバルブ38が設けられている。
以上のように、ロックボルト23の定着材用注入ホース23dには、圧力センサー37を介してミキシング圧送ポンプ36が接続され、また、ロックボルトの排気・リターン側にはリターン装置32、切換バルブ34が接続されてリターン口、リリース口で開口している。
図3はロックボルトの口元部の拡大図であり、図1と同一部分には同一符号を付している。圧力計31の一端が中空ボルト23aの口元側端部に接続され、圧力計31の他端にリターン装置32のT字状の分岐管43の第1端部43aが接続されている。また、分岐管43の第2端部43bにはリターンバルブ41が接続されており、各部間はネジ螺合により互いに接続されている。切換バルブ34が組み付けられたリリースバルブ42は全体的にT字管の形状を備え、流体入口側がレバー式耐圧継手44により分岐管43の第3端部43cに接続され、流体出口側がネジにより切換バルブ34に接続されている。なお、パッカー用注入ホース23cにはグラウト材の通過を制御するバルブ39が設けられている。
【0014】
・リリースバルブ
図4はリリースバルブの組み付け断面図で、(A)は流路閉状態を示し、(B)は流路開状態を示すもの、図5はリリースバルブの分解図、図6はリリースバルブの動作原理説明図である。
リリースバルブ42は図5に示すようにピストンシリンダー51とスプリング52とスプリング押し付け部材53とピストンロッド54と接続部55を有している。ピストンシリンダー51は内部にネジTH1が切られた円筒の入口通路部51aと、該入口通路部に直線的に連通する円筒シリンダー部51bと、円筒シリンダー部に垂直に連通する出口通路部51cを有している。円筒シリンダー部51bにはスプリング52、スプリング押し付け部材53、Oリング54a付のピストンロッド54がはめ込まれる。また、ピストンシリンダー51の入口通路部51aには、内部に形成したネジTH1とネジ螺合して接続部55が装着され、装着時、該接続部55の一端がピストンロッド54に当接してスプリング52を押し付け、これによりピストンロッド54にスプリングから所定のバネ力が働くようになっている。
通常、図4(A)に示すようにピストンロッド54はスプリング52を押し付けた状態で入口通路部51aと出口通路部51c間を遮断している。しかし、リターン材が図4(B)に示すように到来してスプリングのバネ力に打ち勝つ所定の注入圧力P2が加わるとピストンロッド54はスプリング52を圧縮する方向(右方向)に移動し、これにより入口通路部51aと出口通路部51c間の流路を開通し、リターン材はリリース口方向に移動可能となる。出口通路部51cの先端外周にはネジTH2が形成され、切換バルブ34がネジ螺合により着脱可能になっている。
【0015】
接続部55は内部に円筒状の中空部55aが形成され、該中空部のシリンダー側の外周部にはネジTH3が形成されている。このネジTH3により、接続部55はピストンシリンダー51の入口通路部51aの内部に形成したネジTH1とネジ螺合し、ピストンシリンダー51に装着できるようになっており、装着時、該接続部55の一端がピストンロッド54に当接してスプリング52を押し付け、これによりピストンロッド54にスプリングから所定のバネ力が働く。また、接続部55の中空部55aの分岐管側の外周部にはネジTH4が形成され、レバー式耐圧継手44に形成したネジとネジ螺合し、該レバー式耐圧継手44を接続部55に装着できるようになっている。ネジTH3、TH4間は円周状の突起55bにより分離されており、ネジTH3の先端非ネジ部にはOリング55cが嵌め込まれている。
【0016】
レバー式耐圧継手44は、分岐管43の第3端部43cが挿入される挿入部44aと、接続部55のネジ部TH4と螺合するネジが形成されたナット部44bと、複数の開閉可能なレバー44cを有している。ナット部44bによりレバー式耐圧継手44をリリースバルブ42の接続部55に装着し、かつレバー44cを開いた状態において、分岐管43の第3端部43cを挿入部44aより突き当て部44dに突き当たるまで挿入し、レバー44cを閉じれば分岐管43がリリースバルブ42の接続部55に接続される。
図6(A)に示すように、通常時、リリースバルブ42のピストンロッド54には、入口通路部51aと出口通路部51c間の流路を遮断する方向(図では左方向)にスプリング52のバネ力F1が働いている。又、ピストンロッド54には、定着材の注入により入口通路部51aと出口通路部51c間の流路を開通する方向(図では右方向)に注入圧力F2が働いている。したがって、ボアホール内への定着材の注入圧力が大きくなって、F2>F1となる注入圧力P2において、図6(B)に示すようにピストンロッド54が右方向に移動し、入口通路部51aと出口通路部51c間の流路が開通し、リターン材がリリース口方向に流動して該リリース口より排出される。
【0017】
・ロックボルト施工法
図7はロックボルトの施工フローである。なお、既に、中空ボルト23aの排気・リターン側にはリターン装置32が接続され、又、切換バルブ34もリリースバルブ42に装着されているものとする。
まず、地山21(図1)にボアホール22を削孔し(ステップ100)、そこにパッカー付後注入式のロックボルト23を挿入、セットする(ステップ101)。
ついで、パッカー23bにセメント系グラウト材を挿入して膨らませるために、圧力センサー(図示せず)をパッカーセットに適した圧力P1(湧水圧P1を基準とする)に設定し(ステップ102)、パッカー用注入ホース23cを介して図示しない圧送ポンプよりパッカー注入を行なう(ステップ103)。
セメント系グラウト材を注入すると透水性のパッカー23bは内部の水分のみを滲み出し、これにより、パッカー内は硬練状態となって充填されてゆき、膨張したパッカーがボアホール22の孔壁に密着して一時的にボアホールを封水する。このとき、注入圧力がP1となって圧送ポンプからのセメント系グラウト材の注入が終了する。なお、パッカー用の圧送ポンプ、圧力センサーとして、ミキシング圧送ポンプ36、圧力センサー37を兼用することが出来る。
【0018】
ステップ103が終了した状態で圧力センサー35を、湧水圧P1より高い圧力P3に設定する(ステップ104)。なお、ミキシング圧送ポンプ34は注入圧力が設定圧力P3(例えば6MPa(メガパスカル))より大きくなると機械の負荷を限度内に止める為に定着材の圧送を停止するようになっている。
ついで、パッカーより孔奥側へのグラウト注入を開始する(ステップ105)。注入圧の目標はP1より大きく、P3より小さい所定の圧力P2である。例えば、P2=2MPa(メガパスカル)である。なお、注入初期、リターンバルブ41、切換バルブ34は開放しておく(ステップ106、リターンバルブ開放確認)。
定着材用注入ホース23dからボアホール内にグラウト材が注入されると、それまでボアホール内にあったエアまたは水がロックボルトの先端開口部から中空部を通ってリターン装置32のリターンバルブ41に到り、該リターンバルブから排出される(ステップ107)。
【0019】
リターン材のリターンが確認されると、リターン口に設けた濃度検出部33によりリターン材の濃度を検出し、適正濃度になっているか判定する(ステップ108)。湧水がボアホール内のグラウト材を希釈化していると、最初はリターン材として希釈化されたグラウト材が排出され、リターン材は濃度が適正になっていない。適正濃度になっていなければステップ105に戻り更にグラウト材の加圧注入を行なう。
リターン材が適正濃度になれば、リターンバルブ41を閉じ(ステップ109)、グラウト材の注入を継続する。リターンバルブ41が閉じたため、排気・リターン側の圧力が上昇してグラウト材の加圧注入が行なわれる(ステップ110)。排気・リターン側の注入圧が設定した圧力P2になるとピストンロッド54が右方向に移動し(図4参照)、リターン材がリリースバルブ42、切換バルブ34を介してリリース口より排出される(ステップ111で「YES」)。リターン材がリリース口より排水され、次ステップ112の「グラウト材濃度OK?」で「YES」であれば、切換バルブ34を閉塞する。以後、ミキシング圧送ポンプ36より圧送を継続すると注入側の注入圧力が設定圧力P3以上になり、自動的にミキシング圧送ポンプ36は定着材の圧送を停止する。これにより定着材の注入工程が終了する。しかし、排出されたリターン材濃度が「NO」であれば、ステップ110に戻り、加圧注入を継続し、グラウト材が適正濃度になったことを確認し、切換バルブ34を閉塞し、注入完了に移行する。
なお、リターンバルブ41を閉じているにもかかわらず、リリース口からグラウト材が排出されない場合には(ステップ111で「NO」)、リリースバルブ42が閉じている状態で手動でリターンバルブ41を開閉する動作(ポンピング)を繰り返し行ない(ステップ113,114)、グラウト材が適正濃度になったことを確認した後、リターンバルブ41を閉じ(ステップ109)、リリースバルブ42よりリターン材が排出されるまで加圧注入(ステップ110)を繰り返す。これにより、圧送ポンプに負荷をかけることなく、適正な品質のグラウト注入を行なうことが可能になる。
【0020】
・リリースバルブの別の実施例
図8はリリースバルブの別の実施例であり、図4のリリースバルブと同一部分には同一符号を付している。図8のリリースバルブが図4のリリースバルブと異なる点は、ピストンロッド54の端面54bを平面でなく丸く、例えば球面にした点と、接続部55においてピストンロッド54の球面状の端面54bと接する部位が出口通路部51c側において部分的に切り欠かれる一方でその他の部位(図中上側部分)が密着するように形成されている点である。このようにリターン材より圧力を受けるピストンロッド54の面を丸くすることにより、入口通路部51aと出口通路部51c間が一気に開かず、リターン材が少しづつリターンされるため、注入圧力が急激に降下せず、注入圧力を設定圧力P2に略維持したままリターン材の排出を検出して注入を完了することができ、定着効果を高めることができる。また、一方でリターン材が部材間に詰まってピストンロッド54の動作不良となることを極力防止することができるため、リリースバルブが繰り返しの使用に耐えることが可能となり、あるいは、定着材として通常は詰まりやすい材料である砂を用いたモルタルを使用することも可能となる。
以上では、リターン装置をロックボルト施工時におけるリターン材のリターン確認のために用いたが、本発明のリターン装置の適用対象はかかる場合に限らず、所定の圧力と適正濃度の両者の確認を必要とする場合に適宜採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明のロックボルト施工方法を実現するロックボルト施工装置の全体構成図である。
【図2】ロックボルトの説明図である。
【図3】ロックボルトの口元部の拡大図である。
【図4】リリースバルブの組み付け断面図である。
【図5】リリースバルブの分解図である。
【図6】リリースバルブの動作原理説明図である。
【図7】ロックボルトの施工フローである。
【図8】リリースバルブの別の組み付け断面図である。
【図9】トンネル工事における支保工説明図である。
【図10】従来のパッカー付き後注入式ロックボルトの構成図である。
【図11】ボアホール内の湧水圧が高い場合における従来の問題点説明図である。
【符号の説明】
【0022】
21 地山
22 削孔(ボアホール)
23 パッカー付き後注入式ロックボルト
23a 中空ボルト
23b パッカー
23c パッカー用注入ホース
23d 定着材用注入ホース
32 リターン装置
33 濃度測定部
34 切換バルブ
36 ミキシング圧送ポンプ
37 圧力センサー
41 リターンバルブ
42 リリースバルブ
43 分岐管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開放閉塞自在な第1のバルブと、
所定の流体圧力で開放する第2のバルブと、
第1、第2のバルブの各々に接続し、流体をこれらバルブに導く分岐管、
を備えたことを特徴とするリターン装置。
【請求項2】
前記第2バルブは、一端に入口通路が、中間に出口通路が設けられたシリンダー部と、
該シリンダー部の内部に前記入口通路と反対側に配設されるスプリングと、
通常は該スプリングのバネ力により入口通路と出口通路間の流路を塞ぎ、前記所定の流体圧力でバネを押し込んで入口通路と出口通路間の流路を開通するピストンロッド、
を備えたことを特徴とする請求項1記載のリターン装置。
【請求項3】
前記ピストンロッドの流体当接部を球状に形成した、ことを特徴とする請求項2記載のリターン装置。
【請求項4】
孔内に設置されて地盤を強化するロックボルトにおいて、
孔内に設置される中空状本体と、
前記本体の口元に取り付けられ、前記孔を塞ぐパッカーと、
前記孔内に定着材を注入するための注入部と、
前記パッカーにより仕切られる前記孔内に連通する形で前記中空状本体に接続されるリターン装置、
を備え、前記リターン装置は、
開放閉塞自在な第1のバルブと、
所定の注入圧力で開放する第2のバルブと、
前記中空状本体に接続され、該中空状本体より流入するリターン材を第1、第2のバルブのそれぞれに導く分岐管、
を備えたことを特徴とするロックボルト。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2010−37742(P2010−37742A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−199174(P2008−199174)
【出願日】平成20年8月1日(2008.8.1)
【出願人】(000129758)株式会社ケー・エフ・シー (120)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【出願人】(593199345)東陽商事株式会社 (1)