説明

リチウム−ニッケル−マンガン−コバルト複合酸化物及びその製造方法並びにその用途

【課題】
Li二次電池の正極活物質に用いるリチウム−ニッケル−マンガン−コバルト複合酸化物は、充填密度(プレス密度)が増大しても電池性能、特に放電容量、放電容量維持率が低下しない、リチウム−ニッケル−マンガン−コバルト複合化合物の提供。
【解決手段】
プレス密度が3.47〜4.5g/cmであり、体積基準の粒度分布において10μm以下の粒子の割合が26〜60体積%であるリチウム−ニッケル−マンガン−コバルト複合酸化物を正極材料として用いる。リチウム−ニッケル−マンガン−コバルト複合酸化物は、下記化学式で示すBET比表面積が0.05〜1.0m/gであることが好ましい。Li1+aNiMnCo(MはNi,Mn,Co及びLi以外の金属) a+b+c+d+e=1 0<a≦0.2 0.2≦b/(b+c+d)≦0.4 0.2≦c/(b+c+d)≦0.4 0<d/(b+c+d)≦0.4 0≦e≦0.1

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウム二次電池用正極活物質等に使用されるリチウム−ニッケル−マンガン−コバルト複合酸化物及びその製造方法並びにその用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノートパソコン、AV機器などの小型化高性能化が進んでおり、その電源としてのリチウムイオン二次電池が使用されている。当該二次電池の正極材料として、は高充填性で、高容量なLiCoOが主に使用されている。例えば、充填性の指標であるタップ嵩密度と2t/cmの圧力で加圧した場合のプレス密度(以下プレス密度と表す)において、LiCoOではタップ嵩密度が2.9g/cm程度、プレス密度が3.5g/cm程度、即ち真密度の70%の高い充填嵩密度であった。
【0003】
従来用いられていた二次電池用のLiCoOは高充填において電気容量の低下が少なく、例えば32mA/g、4.3〜2.5Vの条件での充放電試験において150mAh/gの高容量が達成されていた。しかし、LiCoOは、充放電の繰り返しにおいて、その放電特性に安全性の問題があり、それに対応する安全回路の付与が不可欠であり、なおかつ希少金属であるCoを主成分とするためコストおよび資源面で問題があった。
【0004】
そこで他の二次電池用正極材料を用いて、高容量化するために単位容積当り高密度に正極材料を充填することが試みられているが、多くの場合LiCoO並の高充填化は達成できず、また特定の組成において高充填できた場合にも正極材料の表面積が低下する等により、電池性能が低下していた。
【0005】
例えば、層状構造のLiNi0.5Mn0.5が高エネルギー密度、安全性、コストを満足する可能性のある材料として提案されている(非特許文献1)。しかし、当該正極材料は、充填性と電池性能の両立が難しく、LiCoOの代替として使用されるには更なる改良が必要であった。
【0006】
さらにその改良として、NiとMn以外の元素をドープした正極材料が提案されている。しかしそこに示されている正極材料は、タップ密度における充填嵩密度が1.4−2.8g/cmであり、さらに高い充填密度では容量低下の問題があり好ましくないことが記載されていた(例えば特許文献1)。
【0007】
一方、Li−Ni−Co−Mn系の複合酸化物において、Li原料と混合する複合酸化物としてプレス密度の範囲として2.3〜3.2g/cmが提案され、具体的には3.09g/cmまで報告されている(例えば特許文献2)。
【0008】
しかし、これらの正極材料では、LiCoOに匹敵する3.1g/cmを超える、さらに言えばLiCoO並の3.3g/cmを超える高充填性で高容量なものは達成されていなかった。
【0009】
さらに従来の高充填性の正極材料では、例えばLiとCo,Ni,Mn及びFeからなる群より選択される少なくとも一種の遷移元素とを含む複合酸化物粒子からなる正極活物質で、そのタップ密度が2.9g/cm以上のものが提案されている(例えば特許文献3参照)。
【0010】
しかし当該文献では、高容量が期待できるが、従来から高充填性が達成されていなかったLi−Ni−Co−Mn系の複合酸化物について高充填とする具体例の記載はなく、さらに、高充填性を達成するための手法が酸化物粒子の形状を球状及び/又は楕円球状とする方法であり、粒子間の接触面積が小さく、内部抵抗が高くなり易いという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003−89526号公報
【特許文献2】特開2003−242976号公報
【特許文献3】特開2003−17050号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】第41回電池討論会予稿集(2000)460−461
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
Li二次電池の正極材料として用いた場合の繰り返し充放電における安全性が高く、なおかつ高充填性、高電池性能であり、低コストな新規の正極活物質およびその製造方法、並びにその正極活物質を使用するLi二次電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は二次電池の正極材料の充填性と電池性能について鋭意検討を重ねた結果、従来高容量であることが知られているが高充填密度とすることが困難であったリチウム、ニッケル、マンガン及びコバルトを必須の成分として有する複合酸化物において、体積基準の粒度分布において、10μm以下の粒子の割合が26〜60体積%にすると、プレス密度がLiCoO並の3.47〜4.5g/cmとなるリチウム−ニッケル−マンガン−コバルト複合酸化物(以下「複合酸化物」という)が得られ、この複合酸化物をLi二次電池用正極材料として使用すると、電池特性として重要な高放電容量で且つ放電容量維持率が高いLi二次電池が得られる事を見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0015】
本発明の複合酸化物は、プレス密度が3.47〜4.5g/cmであり、且つ、体積基準の粒度分布において、10μm以下の粒子の割合が26〜60体積%であるリチウム−ニッケル−マンガン−コバルト複合酸化物であり、3.47〜4.5g/cmの当該組成では従来にない高い充填性を有するものであり、この高いプレス密度から、このリチウム−ニッケル−マンガン−コバルト複合酸化物を二次電池用正極材料に使用して初めて、高放電容量で且つ放電容量維持率が高いLi二次電池が得られる事を明らかにして本発明を完成するに至った。
【0016】
前記粒度分布にすることにより、10〜20μmの粒子の隙間に10μm以下の粒子が充填され、高いプレス密度を得ることができる。
【0017】
さらに、原因は必ずしも明らかではないが、本材料を正極に用いて充放電を行った場合、10μm以下の粒子を含有することで電気的な抵抗が減り、充放電における劣化が減少し、二次電池として使用した場合、高い放電容量及び高い放電容量維持率が得られる。
【0018】
本発明でいうプレス密度とは、2t/cmの圧力で加圧した場合の嵩密度であり、従来技術に開示されているプレス密度と同様の条件である。粉末のプレス密度はさらに高圧で加圧しても充填密度の値は飽和し、同様の値に収斂する。また実際に二次電池を作成する際に、さらに高い圧力を加えることは現実的ではない。
【0019】
本発明の複合酸化物のタップ嵩密度は特に限定されないが、2.8g/cmより大きく3.5g/cm以下である。本発明の複合酸化物のタップ嵩密度は従来品と大きな違いはないが、プレス密度で評価することによって大きな差が見られる。プレス密度によってその差が顕在化する原因は定かでないが、例えば複合酸化物粒子の形状がその一因と考えられる。
【0020】
本発明の複合酸化物は、リチウム、ニッケル、マンガン及びコバルトを必須の成分として有する複合酸化物であれば特に限定されないが、特に下記化学式で示される組成、即ち、
Li1+aNiMnCo(但し、MはNi,Mn,Co及びLi以外の金属)
a+b+c+d+e=1
0<a≦0.2
0.2≦b/(b+c+d)≦0.4
0.2≦c/(b+c+d)≦0.4
0<d/(b+c+d)≦0.4
0≦e≦0.1
【0021】
なおかつ、BET比表面積が0.05〜1.0m/gの複合酸化物であることが好ましい。
【0022】
当該組成の複合酸化物であれば、高充填とした際に、特に高容量となり易い。
【0023】
この化学式において、MはNi,Mn,Co及びLi以外の金属を表わす。
【0024】
Mの元素としては、Na,K,Rb,Cs,Be,Mg,Ca,Sr,Ba,B,Al,Ga,In,Tl,C,Si,Ge,Sn,Pb,N,P,As,Sb,Bi,Se,Te,F,Cl,Br,I,Sc,Y,La,Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Tc,Re,Fe,Ru,Os,Rh,Ir,Pd,Pt,Cu,Ag,Au,Zn,Cd等が例示される。特にMg,Ca,B,Al,In,Si,Ge,Sn,Y,Ti,Zr,V,Nb,Cr,Mo,Fe,Znが好ましい。
【0025】
aは、0<a≦0.2の範囲を満足するものであり、好ましくは、0<a≦0.1、より好ましくは、0.005<a≦0.05、更に好ましくは、0.01≦a≦0.04である。bおよびcは、それぞれ、0.2≦b/(b+c+d)≦0.4および0.2≦c/(b+c+d)≦0.4の範囲を満足するものであり、好ましくは、0.32≦b≦0.34,0.32≦c≦0.34である。dは、0<d/(b+c+d)≦0.4を満足するものである。特に0.32≦d≦0.34が好ましい。eは0≦e≦0.1の範囲である。
【0026】
複合酸化物のBET比表面積は0.05〜1.0m/gであることが好ましい。該範囲よりも小さいと電池性能が低下し、大きいと充填性が低下する。BET比表面積は特に好ましくは0.1〜0.6m/gである。
【0027】
本発明の複合酸化物の形状は、粒子間の接触面積を大きくする形状、例えば、角を有する形状、より具体的には多面体粒子であることが好ましく、そのような形状では二次電池の正極材料として用いた際に内部抵抗が小さくなる。
【0028】
本発明の複合酸化物の粒子は、0.1μm以上2μm未満の一次粒子から成る二次粒子で、二次粒子の平均粒子径は5〜30μmであることが好ましい。該範囲より小さいと充填性が低下し、大きいと電池性能が低下するため、特に10〜20μmが好ましい。
【0029】
また、本発明の複合酸化物は50μm以上の粒子の割合が5%以下であることが好ましい。該割合が5%より多いと平坦な電極シートを作製するのが難しく、該割合は1%以下がより好ましく、0.5%以下がさらに好ましい。さらに、5μm以下の粒子の割合が5%以下であることが好ましい。該割合が5%より多いと充填性が低下するため、該割合は1%以下がより好ましく、0.5%以下がさらに好ましい。
【0030】
本発明の複合酸化物を正極材料に用いて充放電を行った場合、10μm以下の粒子を含有することで電気的な抵抗が減り、充放電における劣化が減少し、二次電池の正極として使用した場合に、従来にない高い放電容量と高い放電容量維持率を兼ね備えたLi二次電池が得られる。従来は、正極材料の充填性を向上すると、電池の放電容量維持率が低下し、放電容量維持率を向上すると充填性が低下するという、いわゆるトレードオフの関係があったが、本発明の複合酸化物は充填性と電池の放電容量維持率の両方を満足できる材料である。
【0031】
次に本発明の複合酸化物の製造法について説明する。
【0032】
本発明の複合酸化物は、体積基準の粒度分布において、10μm以下の粒子の割合が10〜80体積%であるニッケル−マンガン−コバルトを含んでなる共沈化合物とLi化合物を混合後、800〜1100℃の温度で焼成することによって、製造することができ、特に、体積基準の粒度分布において、10μm以下の粒子の割合が30〜70体積%であるニッケル−マンガン−コバルトを含んでなる共沈化合物を使用することが好ましい。
【0033】
前述の粒度分布にすることにより、Li原料と混合し、焼成した後の本発明の複合酸化物は体積基準の粒度分布において、10μm以下の粒子の割合を10〜70体積%にすることができ、10〜20μmの粒子の隙間に10μm以下の粒子が充填され、高いプレス密度を得ることができる。
【0034】
該粒度分布にする方法としては、異なる共沈条件で作製した共沈化合物を混合する方法、共沈化合物を粉砕する方法、および、粉砕した共沈化合物を混合する方法が好ましい。
【0035】
さらに、該共沈化合物の10μm以下の粒子の割合は、30〜70体積%とすることにより、複合酸化物の10μm以下の粒子の割合が30〜60体積%とすることができ、より好ましい。
【0036】
本発明の複合酸化物はBET比表面積が0.5m/g以上10m/g未満であるニッケル−マンガン−コバルト共沈化合物若しくは、ニッケル−マンガン−コバルト−ニッケル、マンガン及びコバルト以外の金属の共沈化合物(以下「共沈化合物」という)とLi化合物を混合後、800〜1100℃の温度で焼成することによって製造することができる。
【0037】
目的物である複合酸化物の充填性などの粉体物性はLi原料と混合する前駆物質である共沈化合物の乾燥後の粉体物性、特にBET比表面積と密接な関係がある。すなわち、共沈化合物の乾燥後のBET比表面積が0.5m/g以上10m/g未満とすると、得られる複合酸化物のBET比表面積が0.05〜1.0m/gの範囲に入り、充填性を向上させることができる。
【0038】
該共沈化合物の乾燥後のBET比表面積が0.5m/gより小さいと、得られる複合酸化物をLi二次電池の正極材料に使用した場合の電池性能が低下し、10m/g以上では複合酸化物の充填性が低下する。該共沈化合物の乾燥後のBET比表面積は0.5〜8m/gが好ましく、特に1〜5m/gが好ましい。
【0039】
本発明で用いる共沈化合物は、幅0.2〜3μm、厚さ0.05〜2μmの板状結晶が凝集した平均粒子径が5〜30μmの粒子を用いることが好ましい。
【0040】
該板状結晶が前記範囲より大きいと、得られる複合酸化物をLi二次電池の正極活物質に使用する場合の電池性能が低下し、小さいと充填性が低下する。
【0041】
本発明で用いる共沈化合物は、ニッケル、マンガンおよびコバルトの塩若しくはニッケル、マンガン、コバルトおよびニッケル、マンガン及びコバルト以外の金属を水に溶解した水溶液とアルカリ水溶液を連続的に反応槽に添加し、得られる共沈化合物スラリーを該反応槽より連続的に抜き出すことにより得られたものであることが好ましい。
【0042】
上記の金属塩水溶液とアルカリ水溶液の連続添加の方法に限定はないが、両液を別々に連続的に添加する方法、いずれか一方を連続的に添加し、もう一方を反応応槽内のpHが一定になる様に間欠的に添加する方法が好ましい。この反応は、一段でも、二段でも、又、三段以上の多段に分けて行ってもよい。
【0043】
該金属塩水溶液の塩の種類は特に限定されず、例えば、硫酸塩水溶液、硝酸塩水溶液、塩化物水溶液などが例示できるが、特に塩化物を使用した場合に、共沈化合物の結晶成長が進み、所望のBET比表面積、及び形状を得ることができるため特に好ましい。又、硫酸塩の場合の硫酸根残留、硝酸塩の場合の窒素酸化物発生がない点からも塩化物が好ましい。
【0044】
前記共沈反応は、反応槽内のpHを8〜10の範囲とすることが特に好ましい。これは、過飽和度をコントロールするためであり、該範囲よりpHが低いと過飽和度は大きくなるが、未共沈成分が多く、工業的ではない。該範囲よりpHが高いと過飽和度が小さくなり結晶成長が乏しく好ましくない。
【0045】
さらに、反応槽内の温度を40℃以上に設定することが特に好ましい。これも過飽和度をコントロールするためであり、反応温度が低いと過飽和度が小さくなり結晶成長が乏しく好ましくない。
【0046】
本発明の製造方法では,ニッケル−マンガン−コバルト共沈時にアンモニアを共存させることが好ましい。アンモニアは塩の形態で使用するのが好ましく、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウムなどが例示される。該アンモニアは、金属イオンとともにフィードさせるのが好ましい。その濃度は、共沈スラリー中にNHとして0.1〜5wt%が好ましく、0.2〜0.5wt%がより好ましい。NHを共存させると、金属イオンの溶解度の溶解度がまし、過飽和度が増加し、共沈化合物が成長する。
【0047】
本発明の製造方法では、前記共沈反応を不活性ガス雰囲気で行うことが好ましい。さらに、本発明ではニッケル、マンガンおよびコバルトの塩を水に溶解した水溶液とアルカリ水溶液を連続的に反応槽に添加するため、添加するニッケル、マンガンおよびコバルトの塩水溶液とアルカリ水溶液も不活性ガスを通気するなどして不活性雰囲気とするのが好ましい。
【0048】
本発明のアルカリ水溶液としては、アルカリ金属の水酸化物の水溶液が好ましく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等が例示される。
【0049】
得られた共沈化合物は、適宜、ろ過、洗浄し、スラリーの状態で使用しても良いし、必要であれば乾燥して得られるニッケル、マンガン及びコバルトの水酸化物及び/又はオキシ水酸化物粉末として取り出して使用しても良い。
【0050】
乾燥する場合は、50℃以下で行うのが好ましく、特に不活性ガス雰囲気で行うことが好ましい。
【0051】
次に、本発明では、該共沈化合物とLi化合物を混合する。
【0052】
用いるLi化合物は特に限定しないが、例えば水酸化リチウム、炭酸リチウム等が挙げられ、経済性の面からは炭酸リチウムが特に好ましい。また炭酸リチウムの平均粒子径が10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましい。
【0053】
共沈化合物とLi化合物の混合は、均一に混合できれば如何なる方法も適用でき、乾式混合では、転動混合法、撹拌混合法等、湿式混合ではスラリー混合後にスプレー乾燥する方法などが例示できる。
【0054】
次に、共沈化合物とLi化合物の混合物を焼成して複合酸化物を得る。
【0055】
焼成は、800〜1100℃で行うのが好ましい。焼成温度が800℃より低いと複合酸化物の結晶成長が低くなり、充填性、電池性能が低下する。一方、焼成温度が1000℃より高いと結晶成長が増し、充填性は向上するが、電池性能が低下する。焼成温度としては900〜1050℃が特に好ましい。
【0056】
本発明では、焼成後に、複合酸化物を水洗し、乾燥することが好ましい。水洗により、電池性能に悪影響を与える不純物を除去できる。水洗は、試料重量に対して5〜10倍の水を加え撹拌するリパルプ洗浄や、カラムに試料を充填して通水するカラム洗浄などが好適に使用できる。洗浄の終点は、洗浄液のpHを測定し、11以下とするのが好ましく、10以下が更に好ましい。
【0057】
洗浄後の乾燥は、水分を充分に除去できる100〜500℃が好ましく、300〜500℃がより好ましい。
【0058】
本発明の方法により、従来にはない高いプレス密度と高い電池性能(高い放電容量及び高い放電容量維持率)を満足する正極材料を得ることができる。
【0059】
こうして得られた複合酸化物はリチウム二次電池の正極活物質として用いられる。
【0060】
通常、正極活物質と少なくとも炭素材料等の導電材料、ポリフッ化ビニリデン等の結着剤、および、N−メチル−2−ピロリドン等の分散媒とを混合し、集電体に塗布、乾燥、プレスして、正極シートとする。
【0061】
本発明では前述のLi二次電池用正極活物質と少なくとも導電材料および結着剤を含有した正極シートの密度が2.5g/cm以上である。
【0062】
この密度が高いほど、電池缶内に収容できる正極活物質量が増え、エネルギー密度の高い、すなわち、高性能な電池を作製できる。
【0063】
該密度は好ましくは2.7g/cm以上、より好ましくは3.0g/cm以上である。
【0064】
なお、本発明の正極シートの導電材料および結着剤の含有量はLi二次電池用正極活物質、導電材料および結着剤の合計の重量に対して25wt%以下であることが好ましく、15wt%以下がより好ましい。
【0065】
該含有量が多いと正極シートが嵩高くなりの電池缶内に収容できる正極活物質量が減り、電池のエネルギー密度が低下する。
【0066】
また、Li二次電池用正極シート電極のプレス圧力は4ton/cm以下が好ましく、3ton/cm以下がより好ましい。
【0067】
該圧力が高いとLi二次電池用正極活物質、導電材料および結着剤の構造が破壊され、材料として機能しなくなることがあるためである。
【0068】
本発明のLi二次電池に用いる負極活物質としては、金属リチウム並びにリチウムまたはリチウムイオンを吸蔵放出可能な物質を用いることができる。例えば、金属リチウム、リチウム/アルミニウム合金、リチウム/スズ合金、リチウム/鉛合金および電気化学的にリチウムイオンを挿入・脱離することができる炭素材料が例示され、電気化学的にリチウムイオンを挿入・脱離することができる炭素材料が安全性および電池の特性の面から特に好適である。
【0069】
また、本発明のLi二次電池で用いる電解質としても特に制限はなく、例えば、カーボネート類、スルホラン類、ラクトン類、エーテル顆等の有機溶媒中にリチウム塩を溶解したものや、リチウムイオン導電性の固体電解質を用いることができる。
【0070】
また、本発明のLi二次電池で用いるセパレーターとしては、特に制限はないが、例えば、ポリエチレンまたポリプロピレン製の微細多孔膜等を用いることができる。
【0071】
Li二次電池の正極材料として用いた場合の繰り返し充放電における安全性が高く、なおかつ高充填性、高電池性能であり、低コストな新規の正極活物質およびその製造方法、並びにその正極活物質を使用するLi二次電池を提供する。
【発明の効果】
【0072】
本発明の複合酸化物は、高プレス密度でなお且つLi二次電池の正極として使用すると、高い放電容量及び高い放電容量維持率を示すLi二次電池が得られるため、Li二次電池用正極活物質として優れた電気化学的性能を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】実施例1〜4および比較例1〜2のリチウム−ニッケル−マンガン−コバルト複合酸化物の体積基準の粒度分布における10μm以下の粒子の割合と2t/cmの圧力で加圧した場合のプレス密度の関係を表わすグラフである。
【図2】実施例1のリチウム−ニッケル−マンガン−コバルト複合酸化物の体積基準の粒度分布を表わすグラフである。
【図3】実施例2のリチウム−ニッケル−マンガン−コバルト複合酸化物の体積基準の粒度分布を表わすグラフである。
【図4】実施例3のリチウム−ニッケル−マンガン−コバルト複合酸化物の体積基準の粒度分布を表わすグラフである。
【図5】実施例4のリチウム−ニッケル−マンガン−コバルト複合酸化物の体積基準の粒度分布を表わすグラフである。
【図6】比較例1のリチウム−ニッケル−マンガン−コバルト複合酸化物の体積基準の粒度分布を表わすグラフである。
【図7】比較例2のリチウム−ニッケル−マンガン−コバルト複合酸化物の体積基準の粒度分布を表わすグラフである。
【実施例】
【0074】
次に、本発明を具体的な実施例で説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0075】
実施例および比較例において、粒度分布測定は、レーザー回折散乱型粒度分布測定装置(マイクロトラック9320HRA(X100)日機装株式会社)を用い、溶媒にメタノールを使用し、試料をメタノールに入れ、30秒間超音波分散を行った後測定した。
【0076】
実施例1
内容積12リットルの反応槽において、予め純水10リットルに窒素バブリングし、次に塩化ニッケル、塩化マンガン、塩化コバルトおよび塩化アンモニウムをNi:Mn:Co:NH3=0.5mol/kg:0.5mol/kg:0.5mol/kg:0.45mol/kgとした水溶液と3mol/kgの水酸化ナトリウム水溶液を反応槽内のpHを9に保ちつつ連続的に添加し、反応槽下部より連続的に共沈化合物スラリーを抜き出した。反応温度は60℃、平均滞在時間は5時間であった。
【0077】
反応開始から20時間後から40時間後の抜き出し共沈化合物スラリーをろ過した後、純水で洗浄し、80℃で乾燥した。
【0078】
乾燥した共沈化合物は、BET比表面積が5m/gであり、SEM観察像より幅1.0〜2.0μm,厚さ0.2〜0.3μmの板状結晶が凝集した、平均粒子径が10〜30μmの粒子であり、体積基準の粒度分布において、10μm以下の粒子の割合が3体積%であった。
【0079】
得られた乾燥共沈化合物を体積基準の粒度分布において、10μm以下の粒子の割合が50体積%となるように粉砕した。
【0080】
当該粉砕乾燥共沈化合物を炭酸リチウムとヘンシェルミキサーにより撹拌混合し、空気流中940℃、12時間焼成し、複合酸化物を得た。得られた複合酸化物を純水で10%スラリーとした後、ろ過し、ろ液のpHが10.5になるまで繰り返して水洗した。その後、400℃、6時間乾燥を行った。
【0081】
得られた複合酸化物のXRDパターンは単相で、組成はLi1.04[Ni0.32Mn0.32Co0.32]Oであり、S元素は検出されず、2t/cmの圧力で加圧した場合のプレス密度は3.56g/cmであり、高い充填性を示した。BET比表面積は0.6m/gであった。
【0082】
純水を添加して10wt%スラリーを構成した際の元素の溶出元素量は70ppmであった。また、平均粒子径は12μmであり、体積基準の粒度分布において、10μm以下の粒子の割合が40体積%であった。
【0083】
実施例2
実施例1で得られた乾燥共沈化合物の一部を粉砕して、平均粒子径が0.6μmの粉砕共沈物を得た。
【0084】
未粉砕の該乾燥共沈物と該粉砕共沈物を重量比で未粉砕共沈物:粉砕共沈物=3:1で混合した。
【0085】
得られた混合共沈化合物は、体積基準の粒度分布において、10μm以下の粒子の割合が22体積%であった。
【0086】
この混合乾燥共沈物を使用した以外は、実施例1と同じ条件で試料を調製した。
【0087】
得られた複合酸化物は、XRDパターンが単相で、体積基準の粒度分布において、10μm以下の粒子の割合が26体積%であった。BET比表面積は0.5m/gであった。
【0088】
2t/cmの圧力で加圧した場合のプレス密度が3.43g/cmであり高い充填性を示した。
【0089】
実施例3
実施例2において、未粉砕の該乾燥共沈物と該粉砕共沈物を重量比で未粉砕共沈物:粉砕共沈物=1:1で混合した以外は全て同じ条件で製造した。
【0090】
得られた混合共沈化合物は、体積基準の粒度分布において、10μm以下の粒子の割合が41体積%であった。
【0091】
また、得られた複合酸化物は、XRDパターンが単相で、体積基準の粒度分布において、10μm以下の粒子の割合が35体積%であった。BET比表面積は0.6m/gであった。
【0092】
2t/cmの圧力で加圧した場合のプレス密度が3.52g/cmであり高い充填性を示した。
【0093】
実施例4
実施例2において、未粉砕の該乾燥共沈物と該粉砕共沈物を重量比で未粉砕共沈物:粉砕共沈物=1:3で混合した以外は全て同じ条件で製造した。
【0094】
得られた混合共沈化合物は、体積基準の粒度分布において、10μm以下の粒子の割合が60体積%であった。
【0095】
また、得られた複合酸化物は、XRDパターンが単相で、体積基準の粒度分布において、10μm以下の粒子の割合が58体積%であった。BET比表面積は0.8m/gであった。
【0096】
2t/cmの圧力で加圧した場合のプレス密度が3.47g/cmであり高い充填性を示した。
【0097】
比較例1
実施例2において、該粉砕共沈物のみを使用した以外は全て同じ条件で製造した。
【0098】
得られた混合共沈化合物は、体積基準の粒度分布において、10μm以下の粒子の割合が79体積%であった。
【0099】
また、得られた複合酸化物は、XRDパターンが単相で、体積基準の粒度分布において、10μm以下の粒子の割合が69体積%であった。BET比表面積は1.0m/gであった。
【0100】
2t/cmの圧力で加圧した場合のプレス密度が3.31g/cmであった。
【0101】
比較例2
実施例1において、得られた乾燥共沈化合物を粉砕せず、そのまま使用した以外は、全て同じ条件で試料を調製した。
【0102】
乾燥した共沈化合物は、BET比表面積が5m/gであり、SEM観察像より幅1.0〜2.0μm,厚さ0.2〜0.3μmの板状結晶が凝集した、平均粒子径が10〜30μmの粒子であり、体積基準の粒度分布において、10μm以下の粒子の割合が3体積%であった。
【0103】
得られた複合酸化物のXRDパターンは単相で、組成はLi1.04[Ni0.32Mn0.32Co0.32]Oであり、S元素は検出されず、2t/cmの圧力で加圧した場合のプレス密度は3.28g/cmであり、充填性は低かった。BET比表面積は0.3m/g、タップ嵩密度が2.4g/cmであった。
【0104】
純水を添加して10wt%スラリーを構成した際の元素の溶出元素量は70ppmであった。
【0105】
また、平均粒子径は17μmであり、体積基準の粒度分布において、10μm以下の粒子の割合が5体積%であった。
【0106】
比較例3
比較例2において、焼成条件を1000℃、12時間とした以外は全て同じ条件で試料を調製した。
【0107】
得られた複合酸化物、2t/cmの圧力で加圧した場合のプレス密度は3.48g/cmであり、充填性は高かった。BET比表面積は0.3m/g、タップ嵩密度が2.5g/cmであった。
【0108】
また、平均粒子径は19μmであり、体積基準の粒度分布において、10μm以下の粒子の割合が1体積%であった。
【0109】
[電池評価試験]
初期放電容量および強放電特性
実施例及び比較例で得られた正極材料を、導電剤のポリテトラフルオロエチレンとアセチレンブラックとの混合物(商品名:TAB−2)と重量比で2:1の割合で混合し、1ton/cmの圧力でメッシュ(SUS316製)上にペレット状に成型した後、150℃で減圧乾燥し電池用正極を作製した。得られた電池用正極と、金属リチウム箔(厚さ0.2mm)からなる負極、およびエチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合溶媒に六フッ化リン酸リチウムを1mol/dmの濃度で溶解した電解液を用いてCR2032型コインセルを構成した。
【0110】
この電池を用いて定電流で電池電圧が4.5Vから2.5Vの間で30回充放電させサイクル特性評価を行い、1回目の平均放電電圧に対する30回目の平均放電電圧の比率を放電電圧維持率とし、1回目の放電容量に対する30回目の放電容量の比率を放電容量維持率とした。電流密度は0.75mA/cm、温度は23℃とした。初期放電容量、放電電圧維持率及び放電容量維持率を以下の表1に示す。
【0111】
【表1】

【0112】
この表から本願発明の実施例においては、高いプレス密度、高い放電容量、且つ、高い放電容量維持率が得られた。
【0113】
又、図1に実施例1〜4および比較例1〜2のリチウム−ニッケル−マンガン−コバルト複合酸化物の体積基準の粒度分布における10μm以下の粒子の割合と2t/cmの圧力で加圧した場合のプレス密度の関係を示す。
【0114】
この図から、10μm以下の粒子の割合が10〜70体積%の範囲でプレス密度が上昇し、26〜60体積%の範囲で特に高いことが明らかである。
【0115】
実施例1〜4および比較例1〜2のリチウム−ニッケル−マンガン−コバルト複合酸化物の体積基準の粒度分布を表わすグラフを図2〜図7に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス密度が3.47〜4.5g/cmであり、体積基準の粒度分布において、10μm以下の粒子の割合が26〜60体積%であるリチウム−ニッケル−マンガン−コバルト複合酸化物。
【請求項2】
下記化学式で示される組成
Li1+aNiMnCo(但し、MはNi,Mn,Co及びLi以外の金属)
a+b+c+d=1
0<a≦0.2
0.2≦b/(b+c+d)≦0.4
0.2≦c/(b+c+d)≦0.4
0<d/(b+c+d)≦0.4
なおかつBET比表面積が0.05〜1.0m/gである請求項1に記載のリチウム−ニッケル−マンガン−コバルト複合酸化物。
【請求項3】
請求項1又は2記載のリチウム−ニッケル−マンガン−コバルト複合酸化物からなるLi二次電池用正極活物質。
【請求項4】
正極活物質が請求項1又は2記載のリチウム−ニッケル−マンガン−コバルト複合酸化物からなるLi二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−121805(P2012−121805A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−55806(P2012−55806)
【出願日】平成24年3月13日(2012.3.13)
【分割の表示】特願2006−186658(P2006−186658)の分割
【原出願日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】