説明

リチウムの回収方法及びこれに用いる電極

【課題】希薄水溶液からでも簡単な操作で、効率よくリチウムを分離、濃縮、精製しうるリチウム回収方法を提供する。
【解決手段】金属多孔体の空間部分にリチウム吸着能を有する吸着剤を充填してなる電極をリチウム含有水溶液中に浸漬して前記電極に電圧を印加して被処理液中のリチウムを吸着させる吸着工程と、前記リチウムを吸着した電極に電圧を印加して前記リチウムを吸着した吸着剤からリチウムを脱着させるリチウム脱着工程とを含むリチウムの回収方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム含有水溶液、特にかん水、海水、又は廃リチウム電池材料等からリチウムを回収する方法及びこれに用いる装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウム金属及びその化合物は、多くの分野において種々の用途で用いられている。特に、リチウム化合物を電極用活物質として使用するリチウム電池は、動作電圧が高く、サイクル寿命が長い等の長所があるため、ノート型パソコン、携帯電話、電気自動車等において広く使用されており、リチウムに対する需要は年々増加している。
【0003】
現在リチウムは、主にリチウム含有鉱石(スポジューメン、アンブリゴナイト、ペタライト、レピドライト等)、リチウム濃度の高い塩湖や地下かん水から抽出されている。しかしながら、わが国にはリチウム含有鉱石も塩湖もないため、ほとんど全量を輸入に頼っているのが実情である。
【0004】
一方、わが国の地熱水や温泉水にはかなりのリチウムを含有するものがあり、また、海水中にも微量のリチウムが含まれているため、これらのリチウムを含む希薄水溶液からリチウムを回収することも試みられている。また、最近では、リチウム電池等のリチウム含有製品の製造工程で発生するリチウム含有廃棄物又使用済みとなって廃棄されるリチウム含有製品等からリチウムを分離、回収する検討が始まっている。
【0005】
海水やかん水からリチウムを回収する方法としては、リチウムを選択的に吸着する吸着剤を用いる方法が主流であり、このような吸着剤としては、例えばリチウム含有マンガン化合物を加熱処理したのち酸処理してリチウムを溶出させて得られるリチウム吸着剤(特許文献1)、アルカリ金属チタン酸塩を酸処理して得たチタン酸の加熱処理物からなるリチウム吸着剤(特許文献2)などが知られている。
【0006】
リチウムを含む希薄水溶液からリチウムを回収する方法としてリチウムを選択的に吸着する吸着剤を用いる方法は有効な方法であるが、海水やかん水等のリチウムを含む希薄水溶液ではリチウムが希薄であるため、吸着サイトから吸着能を及ぼす範囲には限界があり、また、脱着用溶液の調整や脱着操作に厳密な条件調整が必要となる。
【0007】
また、吸着剤は微粉末状であることが多く、そのため吸着剤にリチウム含有液を連続的に接触させて処理するには、液体の通流性を良くするために吸着剤を造粒する必要があり、またバッチ処理するには、リチウムイオンを吸着、回収後に固液分離を行なう必要があるためコスト面及び効率面で問題がある。
【0008】
吸着剤は吸着サイトを表面に備えた粉末であり、表面を維持したまま、押し固めただけでは、強度が弱く破損しやすい。このため、強度を高めるために焼結すると、粉末同士が結合するため、表面が減少し、吸着性能が低下する。
吸着剤電極の強度を高めるために、有機物によるバインダーを添加して押し固める方法があるが、バインダーが電気抵抗になって、電極の電気抵抗が高くなり、加えて、バインダーが吸着剤の表面に存在する吸着サイトを被覆し、所期の効果が得られない。また、バインダー添加せずに押し固めた場合でも、吸着剤そのものの電気抵抗が高く、電気伝導が不十分である。
【0009】
上記の問題を解決するための提案もなされている。
特許文献3には、リチウム含有水溶液中に、リチウム吸着能をもつ導電性マンガン酸化物を白金等の金属基板に塗布して成る電極を作用極とし、通常の電極材料から成る電極を対極として、両極間に比較的低い電圧を印加し、作用極に選択的にリチウムを吸着させたのち、リチウムを吸着させた作用極と前記対極間に前工程におけるよりもさらに高い電圧を印加して作用極からリチウムを脱着させるリチウム回収方法が記載されている。
図5はこの電極を模式的に示した図である。
しかしながらこの方法では、塗布層を厚くすると、塗布層が電気抵抗増加および強度低下を引き起こすため塗布層の厚さには限界がある。また、熱処理時に収縮量の差から亀裂を起こすこともある。強度向上のためにバインダーを添加すると電気抵抗の増大に加え、バインダーによって粉末表面の吸着サイトが被覆されるため同様に厚い塗布層を形成することができない。
【0010】
特許文献4には固体ポリマー吸着剤をアルミナ、シリカ、酸化ジルコニウム等の担体に被覆または含浸させたものをカラムに充填して用いることが記載されている。
特許文献5には、リチウムあるいはマグネシウムとマンガン、チタン、アンチモンなどの多価金属からなる複合酸化物中のリチウムあるいはマグネシウムを水素で置換した金属酸化物からなるリチウム吸着剤を耐熱性無機質多孔体に担持して用いることが記載されており、耐熱性無機質多孔体としてはアルミナ系耐火煉瓦を破砕して整粒したものが例示されている。
しかしながら、特許文献4、5の方法では担体に担持できる吸着剤の量が少ないため工業的利用に適した方法とはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特公平4−48495号公報
【特許文献2】特開昭61−72623号公報
【特許文献3】特開平6−88277号公報
【特許文献4】特開2009−161794号公報
【特許文献5】特公平6−26662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、このような従来のリチウム回収方法の欠点を克服し、希薄水溶液からでも簡単な操作で、効率よくリチウムを分離、濃縮、精製しうるリチウム回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は上記課題を解決すべく鋭意探求を重ねた結果、金属多孔体の空間部分に吸着剤を充填して電極を形成し、この電極に電圧を印加して液中のリチウムの吸着、脱離を行う電気化学的回収方法を採用することにより、上記課題を解決することができることを見いだして本発明を完成した。
すなわち、本発明は以下の構成を有する。
【0014】
(1)金属多孔体の空間部分にリチウム吸着能を有する吸着剤を充填してなる電極をリチウム含有水溶液中に浸漬して前記電極に電圧を印加して被処理液中のリチウムを吸着させる吸着工程と、前記リチウムを吸着した電極に電圧を印加して前記リチウムを吸着した吸着剤からリチウムを脱着させるリチウム脱着工程とを含むことを特徴とするリチウムの回収方法。
(2)前記金属多孔体が発泡状金属多孔体であることを特徴とする(1)に記載のリチウムの回収方法。
(3)前記金属多孔体が遷移金属、Mg、Al、Ge、Sn及びPbよりなる元素群から選ばれた元素の単体又は前記元素群から選ばれる二種以上の合金からなることを特徴とする(1)又は(2)に記載のリチウムの回収方法。
(4)前記金属多孔体がFe−Ni基合金に遷移金属が添加されてなる合金からなることを特徴とする(1)又は(2)に記載のリチウムの回収方法。
(5)前記金属多孔体がNi基合金に遷移金属、Mg、Al及びSnよりなる元素群から選ばれた元素が添加されてなる合金からなることを特徴とする(1)又は(2)に記載のリチウムの回収方法。
(6)前記吸着剤がリチウム含有またはマグネシウム含有マンガン酸化物から得られたものであることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載のリチウムの回収方法。
(7)金属多孔体の空間部分にリチウム吸着能を有する吸着剤を充填してなる(1)〜(5)のいずれかに記載のリチウムの回収方法に用いられる電極。
(8)前記金属多孔体が発泡状金属多孔体であることを特徴とする(7)に記載の電極。
(9)前記金属多孔体が遷移金属、Mg、Al、Ge、Sn及びPbよりなる元素群から選ばれた元素の単体又は前記元素群から選ばれる二種以上の合金からなることを特徴とする(7)又は(8)に記載の電極。
(10)前記金属多孔体がFe−Ni基合金に遷移金属が添加されてなる合金からなることを特徴とする(7)又は(8)8に記載の電極。
(11)前記金属多孔体がNi基合金に遷移金属、Mg、Al及びSnよりなる元素群から選ばれた元素が添加されてなる合金からなることを特徴とする(7)又は(8)に記載の電極。
【発明の効果】
【0015】
本発明の方法は次の特徴を有しているためリチウムイオンの回収を効率的に行なうことができるという効果を奏する。
(1)金属多孔体の骨格が吸着剤を保持するため、有機バインダーの添加無しで、または、添加量を少量に抑えることで、電気抵抗の低減を抑制することができる。
(2)金属多孔体の骨格は電気伝導性が高いため、電気伝導のルートとなり、電極内に電気を流しやすくし、吸着剤への電圧負荷を促進することができる。
(3)金属多孔体の骨格が吸着剤電極の強度を保持するため、電極を厚くし、吸着剤の吸着能を低下させることなく、単位面積当たりの吸着剤量を多くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のリチウムの電気化学的回収方法を説明する模式図である。
【図2】発泡状金属多孔体の製造工程の一例を示すフロー図である。
【図3】発泡状金属多孔体の製造工程を説明する断面模式図である。
【図4】ウレタン樹脂多孔体の構造を示す表面拡大写真である。
【図5】従来のチウムの電気化学的回収方法を説明する模式図である。
【図6】比較例の電極における吸着剤とバインダの状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のリチウム回収方法は、導電性を有する金属の多孔体の空間部分に吸着剤を充填して電極を形成し、この電極を、リチウムを含有する希薄溶液中に浸漬し、電極に低電圧を印加することによって液中のリチウムイオンを吸着剤に吸着させ、ついで、電極に電圧を印加することによってリチウムイオンを吸着剤から脱離させてリチウムを回収するという方法である。
以下、本発明の詳リチウム回収方法の詳細について述べる。
【0018】
(リチウム回収プロセス)
本発明のリチウムの電気化学的回収方法を図1に基づいて説明する。
図1は本発明のリチウムの回収方法を模式的に示した図である。
本発明のリチウムの回収方法は、リチウムの稀薄溶液からリチウムを吸着剤に吸着させる吸着工程と、リチウムを吸着した吸着剤からリチウムを脱着させる工程とを含んでいる。
図1(a)はリチウム吸着工程を示す図であり、図1(b)はリチウム脱着工程を示す図である。
図1(a)に示すように、金属多孔体にリチウム吸着能を有する吸着剤(例:スピネル型マンガン酸化物)を充填して作製した電極を作用極としてリチウムの稀薄溶液に浸漬する。一方、対極として白金線を同じくリチウムの稀薄溶液に浸漬する。作用極にリチウム吸着反応が起こるように低電圧を印加してリチウムイオンを吸着剤に選択的に吸着させる。
ついで、図1(b)に示すように、リチウムイオンを吸着した電極を脱離用溶液に浸漬して作用極にリチウムイオンの脱着反応が起こるように電圧を印加してリチウムイオンを吸着剤から脱着させることによってリチウムの濃厚溶液を得る。
【0019】
(吸着剤)
吸着剤としては公知の吸着剤を用いることができるが、前記特許文献3に記載されているような、リチウム又はマグネシウムを含有するマンガン酸化物からリチウム又はマグネシウムを除去して得られる吸着剤を用いることが好ましい。
特許文献3記載の吸着剤は、リチウム又はマグネシウムを含有するマンガン酸化物で形成された電極からリチウム又はマグネシウムを除去したものである。
【0020】
まず、リチウム化合物又はマグネシウム化合物とマンガン化合物の混合物を200℃以上、好ましくは400〜900℃の温度で加熱処理することによりマンガン酸化物を得る。
リチウム化合物としては、例えば水酸化リチウム、酸化リチウム、炭酸リチウム、硝酸リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウムなどを用い、マグネシウム化合物としては、例えば水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウムなどを用いる。
また、マンガン化合物としては、酸化マンガン、水酸化マンガン、塩化マンガン、臭化マンガン、ヨウ化マンガン、硫酸マンガン、炭酸マンガン、硝酸マンガン、三二酸化マンガン、二酸化マンガン、シュウ酸マンガンなどを用いる。
このリチウム化合物又はマグネシウム化合物と、マンガン化合物の混合比は、リチウム又はマグネシウムとマンガンとのモル比換算で1:10ないし1:1、好ましくは1:5ないし1:2の範囲内で選ばれる。
【0021】
リチウム化合物又はマグネシウム化合物とマンガン化合物との混合物を加熱処理するには、両成分を粉砕し、粉末状で混合したものを、加熱処理する。必要に応じて、加熱処理と混合粉砕を繰り返してもよい。繰り返すことで均質に化合したリチウムまたはマグネシウムのマンガン酸化物を得ることができる。スピネル型のマンガン酸化物が好ましい。この後、粉砕することで、粉末状のマンガン酸化物の吸着材が得られる。
【0022】
このようにして得た粉末状のマンガン酸化物に対してこの中に含まれているリチウム又はマグネシウムを除去する処理を行う。
【0023】
この処理は、リチウム又はマグネシウムのマンガン酸化物をpH6以下、好ましくはpH3以下に調整された酸溶液でリチウム又はマグネシウムを抽出することによって行われる。この酸溶液としては、例えば塩酸、硫酸、硝酸のような無機酸、シュウ酸、酢酸、クエン酸のような有機酸の水溶液が用いられる。また、この酸による抽出処理の代わりに、マンガン酸化物を後で示すような電極の形にした後で、この電極を作用極とし、普通に用いられている電極を対極として電離液中で電圧を印加することにより、リチウムやマグネシウムを除去することもできる。
【0024】
(金属多孔体)
金属多孔体の材料としては、リチウムを回収する海水もしくはかん水に浸して、腐食等の劣化を起こさない材質であることが好ましく、このような材料としては、遷移金属、Mg、Al、Ge、Sn、Pbのいずれかの単体もしくは複数の元素の合金を挙げることができる。たとえば、単体であれば、Au、Ag、Pt、Ti、Cr等を用いることができる。または、ステンレス系であるFe−Ni基合金、NiおよびNi系合金、AlおよびAl系合金であり、好ましくは、Fe−Ni基合金に遷移金属を添加した合金及びNi基合金に遷移金属、Mg、Al、Snのいずれかが添加されている合金である。Ni基合金であれば、Ni-Cr、Ni-Cu、Ni-W、Ni-Sn等を用いることができる。また、Fe-Ni基合金としては、ステンレス材料が有効である。
金属多孔体はその全体が同じ材料である必要はなく、少なくとも海水もしくはかん水と接触する表面部が、腐食等の劣化を起こさない材質からなっているものでもよい。
【0025】
金属多孔体の形状・構造としては、パンチングメタル、エキスパンドメタル、焼結金属、不織布状金属多孔体、発泡状金属多孔体等、吸着剤を担持できる形状・構造のものを使用することができるが、空間率が高く多量の吸着剤を担持することが可能な不織布状金属及び発泡状金属を用いることが好ましい。
金属多孔体としては市販のものを用いることができるが、以下では金属多孔体の製造例として耐酸化性に優れている発泡状ニッケル−クロム合金の金属多孔体を製造する場合の例を説明する。
なお、以下の製造例では発泡状ニッケル多孔体を合金化する方法としてクロマイジング法を採用したが、発泡状ニッケル多孔体表面にCrめっきを施したのち熱処理してCrをNi中に拡散させる方法、発泡状ニッケル多孔体表面に気相法でCr被膜を形成したのち、熱処理してCrをNi中に拡散させる方法など、種々の方法を用いることができる。
【0026】
(発泡状ニッケル多孔体の製造)
発泡状ニッケルを発泡状樹脂を用いて製造する場合には、発泡状樹脂の表面にニッケル被覆層を形成したのち、基材である樹脂を除去し、次いで必要に応じて還元性雰囲気中で加熱処理してニッケルを還元することにより発泡状ニッケルを得ることができる。
図2は発泡状ニッケル多孔体の製造工程を示すフロー図である。また図3は、フロー図に対応して樹脂多孔体を芯材としてニッケルめっき膜を形成する様子を模式的に示したものであり、図4は樹脂多孔体の構造を示す図である。
【0027】
図2〜4を参照して製造工程全体の流れを説明する。
まず基体樹脂多孔体の準備101を行う。図3(a)は、基体樹脂多孔体の例として、連通気孔を有する樹脂多孔体の表面を拡大視した拡大模式図である。樹脂多孔体1を骨格として気孔が形成されている。次に樹脂多孔体表面の導電化102を行う。この工程により、図3(b)に示すように樹脂多孔体1の表面には薄く導電体による導電層2が形成される。
続いて溶融塩中でのニッケルめっき103を行い、導電層が形成された樹脂多孔体の表面にニッケルめっき層3を形成する(図3(c))。これで、基体樹脂多孔体を基材として表面にニッケルめっき層3が形成されたニッケル構造体が得られる。基体樹脂多孔体について基体樹脂多孔体の除去104を行う。
発泡樹脂多孔体1を分解等して消失させることによりニッケル層のみが残った金属構造体(多孔体)を得ることができる(図3(d))。
以下発泡状ニッケル−クロム合金多孔体の製造方法についてその詳細を述べる。
【0028】
〈発泡状樹脂〉
発泡状樹脂は、多孔性のものであればよく公知又は市販のものを使用でき、例えば、発泡ウレタン、発泡スチレン等が挙げられる。これらの中でも、特に多孔度が大きい観点から、発泡ウレタンが好ましい。
【0029】
〈導電処理〉
発泡状樹脂の表面にニッケル被覆層を形成するには、公知のニッケル被覆方法を採用することができ、このような方法としては例えば、電解めっき法、無電解めっき法、スパッタリング法等が挙げられる。これらの被覆方法は単独で用いてもよく、複数の被覆方法を組み合わせて用いても良い。
生産性、コストの観点からは、まず、無電解めっき法又はスパッタリング法によって発泡状樹脂表面を導電処理し、次いで、これに電解めっき法によって所望の目付量までニッケルめっきする方法を採用することが好ましい。
【0030】
導電処理は、発泡状樹脂の表面に導電性を有する層を設けることができる処理である限り特に制限はない。導電性を有する層(導電被覆層)を構成する材料としては、例えば、ニッケル、チタン、ステンレススチール等の金属の他、黒鉛等が挙げられる。これらの中でも特にニッケルが好ましい。
導電処理の具体例としては、例えば、ニッケルを用いる場合は、無電解めっき処理、スパッタリング処理等が好ましく挙げられる。また、チタン、ステンレススチール等の金属、黒鉛などの材料を用いる場合は、これら材料の微粉末にバインダーを加えて得られる混合物を、発泡状樹脂に塗着する処理が好ましく挙げられる。
【0031】
ニッケルを用いた無電解めっき処理としては、例えば、還元剤として次亜リン骸ナトリウムを含有した硫酸ニッケル水溶液等の公知の無電解ニッケルめっき浴に発泡状樹脂を浸漬すればよい。必要に応じて、めっき浴浸漬前に、発泡状樹脂を微量のパラジウムイオンを含む活性化液(カニゼン社製の洗浄液)等に浸漬し、洗浄してもよい。
【0032】
ニッケルを用いたスパッタリング処理(ニッケルスバッタリング処理)としては、ニッケルをターゲットとする限り限定的でなく、常法に従って行えばよい。例えば、基板ホルダーに発泡状樹脂を取り付けた後、不活性ガスを導入しながら、ホルダーとターゲット(ニッケル)との問に直流電圧を印加することにより、イオン化した不活性ガスをニッケルに衝突させて、吹き飛ばしたニッケル粒子を発泡状樹脂表面に堆積すればよい。
【0033】
(電解めっき処理)
次に、上記のようにして導電被覆層を形成した発泡状樹脂に電解ニッケルめっき処理を施す。
電解ニッケルめっき処理は、常法に従って行えばよい。電解ニッケルめっき処理に用いるめっき浴としては、公知又は市販のものを使用することができ、例えば、ワット浴、塩化浴、スルフアミン酸浴等が挙げられる。
前記の無電解メッキやスパッタリングにより表面に導電層を形成された発泡樹脂をメッキ浴に浸し、発泡樹脂を陰極に、ニッケル対極板を陽極に接続して直流或いはパルス断続電流を通電させることにより、導電層上に、さらにニッケルの被覆を形成することができる。
【0034】
導電被覆層及び電解めっき層の目付量(付着量)は特に制限されない。導電被覆層は発泡状樹脂表面に連続的に形成されていればよく、電解ニッケルめっき層は導電被覆層が露出しない程度に当該導電被覆層上に形成されていればよい。
【0035】
(発泡状樹脂除去処理)
次いで、上記により得られた導電被覆層/ニッケルめっき層形成発泡状樹脂中の発泡状樹脂成分を除去する。除去方法は限定的でないが、焼却により除去することが好ましい。具体的には、例えば600℃程度以上の大気等の酸化性雰囲気下で加熱すればよい。また、水素等の還元性雰囲気中750℃程度以上で加熱してもよい。これにより、導電被覆層、電解ニッケルめっき層からなる発泡状ニッケルが得られる。なお、発泡樹脂除去処理によってニッケル多孔体が酸化されている場合には得られた多孔体を還元性雰囲気下で加熱処理してニッケルを還元する。
【0036】
(クロマイジング処理)
上記で得た発泡状ニッケルをクロマイジング処理する。
クロマイジング処理は、ニッケルにクロムを拡散浸透させる処理である。クロマイジング処理の方法としては公知のものが採用でき、例えば、発泡状ニッケルにクロム粉末、ハロゲン化物、アルミナ粉末を混合した浸透材を充填して還元性雰囲気で加熱する粉末パック法を採用することができる。また、浸透材と発泡状ニッケルを離間して配置し、還元性雰囲気中で加熱し、浸透材のガスを形成してニッケル不織布表面に浸透材を浸透させることもできる。
ニッケルクロム中のクロムの含有量はクロマイズ処理の加熱時間によって調整することができる。本発明においてはクロマイジング処理によってクロムの含有率を25質量%以上とすることが必要である。クロムの含有率は25〜50質量%であり、好ましくは30〜40質量%である。25質量%未満であると耐酸化性が不足し、50質量%を超えると電気抵抗が増加して集電性が下がる。
【0037】
(電極)
本発明のリチウムの電気化学的回収方法において用いる電極は、金属多孔体の空間部分に吸着剤を充填することによって得られる。
本発明において用いる金属多孔体は大きな多孔度を有しているため、より多くの吸着剤を充填することが可能となる。金属多孔体として発泡状金属を用いた場合には多孔体中の空隙に吸着剤を包み込める構造であるため、金属多孔体と吸着剤とを結合させるためのバインダー等(絶縁体)の含量を少なくすることができる。これにより、吸着剤によるリチウムの吸着、脱着効率を高めることができる。
【0038】
金属多孔体に吸着剤を充填させるには、例えば、吸着剤前駆体の溶液を金属多孔体に含浸したのち、加熱処理するという操作を繰り返して金属多孔体中に吸着剤を充填(担持)させる方法、粉末状の吸着剤を含むペーストを圧入法等の公知の方法により、上記金属多孔体に充填すればよい。
圧入法としては、例えば、吸着剤ペースト中に上記金属多孔体を浸漬し、必要に応じて減圧する方法、吸着剤ペーストを金属多孔体の一方面からポンプで加圧しながら充填する方法等が挙げられる。吸着剤の充填量は、スラリー中の吸着剤量を調整することで変化させることが可能である。
スラリーの粘度は吸着剤の粒径や粒度分布を変化させることによって調整することが可能である。
吸着剤の充填量は限定的でないが、金属多孔体1cm当たり、通常24mg〜540mg程度、好ましくは30mg〜436mg程度とすればよい。
【0039】
吸着剤ペーストは、吸着剤及び溶媒を含有していればよく、その配合割合は限定的でない。溶媒としては限定的でなく、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、水等が挙げられる。特に、バインダーとしてポリフッ化ビニリデンを用いる場合は溶媒としてN−メチル−2−ピロリドンを用いればよく、バインダーとしてポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルアルコール、カルポキシメチルセルロース等を用いる場合は溶媒として水を用いればよい。
本発明における電極は、吸着剤ペーストを金属多孔体に充填した後に必要に応じて、乾燥処理を施すことにより、ペースト中の溶媒が除去されていてもよい。
【0040】
金属多孔体に充填する物質としては、吸着剤の他、例えば、導電助剤、バインダー等の添加剤を含んでいてもよい。
導電助剤は吸着剤と金属多孔体骨格との導通を良好にするためのものであり、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛等を用いることができる。導電助剤の含有量は、上記吸着剤100質量部に対して、通常5質量部以下であり、好ましくは0.5〜2質量部程度である。これにより、吸着剤によるリチウムの吸着、脱着効率を高めることができる。
【0041】
バインダーとしては、公知又は市販のものを使用できる。例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(pp)、エチレン−プロピレン共重合体、スチレンブタジェンゴム(SBR)、ポリビニルアルコール(PVA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等が挙げられる。これらの中でも、PVDF等が好ましい。これにより、吸着剤と金属多孔体との結着強度を向上させることができる。
【0042】
バインダーの添加量は、バインダーの種類等に応じて適宜決定されるが、吸着剤100質量部に対して、通常、0.1〜5質量部程度である。この範囲とすることにより、電気抵抗の増加及び吸着サイトの被覆による吸着能の低下を防ぎながら、結着強度を向上させることができる。
【0043】
本発明の電極は、さらに必要に応じて、上記吸着剤ペーストを金属多孔体に充填した後にローラプレス機等により加圧することにより、圧縮成形されていてもよい。圧縮前後の厚さは限定的でないが、圧縮前の厚さは通常200μm〜10000μm、好ましくは300μm〜5000μmとすればよく、圧縮成形後の厚みは通常100μm〜5000μm程度、より好ましくは150μm〜3000μm程度とすればよい。
【0044】
図5は本発明における金属多孔体の空間部に吸着剤を充填してなる電極の構造を模式的に示した図である。図に示すように、吸着剤は金属多孔体の骨格によって形成される孔中に充填されているため、吸着剤が脱落しにくい。併せて、網目状の金属多孔体の骨格により、微細かつ均一に電気的な効力を発することができる。
【実施例】
【0045】
以下では、本発明を実施例及び比較例に基づいて具体的に説明する。
[実施例1]
(金属多孔体の作製)
発泡状樹脂として、発泡ウレタン樹脂シート(市販品、平均孔径300μm、厚さ1.4mm、多孔度96%)を用いた。この発泡ウレタン樹脂シートにターゲットとしてニッケルを用いてスパッタリング処理を行うことにより、発泡ウレタン樹脂シートの表面に導電被覆層(ニッケル層)を形成させた。導電被覆層の目付量は10g/mであった。
【0046】
次いで、得られた導電被覆層形成発泡ウレタン樹脂に電解めっき処理を施した。電解ニッケルめっき浴としては、ワット浴(硫酸ニッケル330g/L、塩化ニッケル50g/L、硼酸40g/L)を用いた。対極には、ニッケル片を入れたチタンバスケットを使用した。電着条件は浴温60℃、電流密度30A/dmとした。電解ニッケルめっき層の目付量は導電被覆層及び電解ニッケルめっき層によって形成された被覆層の合計量で400g/mとなるようにした。
【0047】
電解めっき後の発泡構造体を大気中800℃で加熱処理してウレタン樹脂を焼却除去し、次いで水素ガス雰囲気中で1000℃に加熱してニッケルを還元処理することにより発泡状ニッケルを得た。得られた発泡状ニッケルは平均孔径280μm、厚さ1.2mm、多孔度95%であった。
【0048】
この発泡状ニッケルに、クロム粉末、塩化アンモニウム及びアルミナ粉末を混合して得られた浸透材(クロム:90質量%、NHCl:1質量%、Al:9質量%)を充填し、水素ガス雰囲気中で800℃に加熱してクロマイジング処理を施して発泡状のニッケルクロム合金からなる集電体を得た。
上記クロマイズ処理において、クロマイズ処理の加熱時間を調整することによって、クロム含有量が25質量%の集電体a(実施例1)及びクロム含有量が30質量%の集電体b(実施例2)を得た。それぞれの集電体の厚さは1.4mmであった。
【0049】
(吸着剤の調製)
酸化リチウム粉末と酸化マンガン粉末とをLi/Mnモル比0.5の割合となるように混合して450℃で5時間加熱処理し仮焼成を行った。さらに粉砕したのち、830℃で5分間焼成し、再度粉砕してマンガン酸化物からなる吸着剤を得た。
【0050】
(電極の作製)
前記吸着剤100質量部に、導電助剤としてケッチェンブラックを2.5質量部、バインダーとしてポリフッ化ビニリデンを5質量部になるように加えて混合し、バインダーの溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン25質量部を加えて吸着剤ペーストを作製した。
一方、発泡状ニッケルはローラプレス機を用いて調厚し、その厚さを500μmに調節した。
ペーストの充填を圧入法によって行ったところ、吸着剤の充填量は148mg/cmになった。
次いで、この電極を、乾燥機で100℃、1時間乾燥させて溶媒を除去した後、直径500ミリのローラプレス機(スリット:50μm)で加圧した。加圧後の厚さは258μmであった。その後に、さらに減圧下150℃で5時間乾燥することにより実施例1の電極を得た。
この電極を作用極として10mM塩化リチウム水溶液中に浸し、対極として白金線を用いて、カロメル電極に対して1.0Vの電位を印加することによりリチウムを抽出しマンガン酸化物電極を得た。
【0051】
[実施例2]
金属多孔体としてFe−Ni基合金にCrを添加したステンレス合金の多孔体を用いたこと以外は実施例1と同様にして電極を作製した。
ステンレス多孔体は実施例1のNi-Cr合金多孔体の製造方法に準じて製作した。すなわち、実施例1でのNiめっきの代わりに、Fe-Niの合金めっきをおこなった。その後、ウレタン樹脂を焼却除去したのち、クロマイズ処理により、Crを含浸させ、熱処理により均質化し、ステンレス合金とした。
【0052】
[実施例3]
金属多孔体の形状をエキスパンドメタルとした以外は実施例1と同様にして電極を作製した。Niのエキスパンドメタルにクロマイズ処理を施し、Ni-Cr合金のエキスパンドメタルを作製した。
エキスパンドメタルの形状は空間率96%、厚み500μmであり、吸着剤の充填量は25mg/cmであった。
【0053】
[実施例4]
金属多孔体の形状を不織布状とした以外は実施例1と同様にして電極を作製した。
実施例1のウレタンの代わりに樹脂製不織布を用い、Ni-Cr合金の不織布状多孔体を作製した。
不織布状多孔体は空間率90%、厚み800μmであり、吸着剤の充填量は100mg/cmであった。
【0054】
[比較例1]
吸着剤の担持体として、白金箔(市販品、厚さ300μm)を用いた。この場合に、実施例で作製した吸着剤ペーストをドクターブレード法により両面合計が75mg/cmとなるように塗着したが、接着強度が不十分であるため、吸着剤が十分に白金箔に接着できなかった。
そこで、ポリフッ化ビニリデンを10質量部にした以外は実施例で作製したのと同様の吸着剤ペーストを作製した。このペーストをドクターブレード法により、白金箔の両面に塗着し、乾燥及び加圧することにより、比較例の電極を作製した。吸着剤の塗着量は25mg/cmであり、厚みは63μmであった。この電極における吸着剤とバインダの状態を模式的に示すと図6の通りである。
【0055】
[評価試験]
実施例1、2及び比較例1の各電極材料を5cm×5cmに裁断して評価用電極とした。
この電極をリチウムを含む電解液500mlに浸し対極として白金線を用いて、カロメル電極に対して0.2Vの電圧を印加して吸着処理を行った。電極上のマンガン及び吸着されたアルカリ金属の濃度を原子吸光法で定量し、各アルカリ金属吸着量を算出した。その結果を表1に示す。
【0056】
【表1】

〔注〕
電解液1:10mM LiCl+ 10mM NaCl
電解液2:10mM LiCl+ 10mM KCl
電解液3:10mM LiCl+ 10mM RbCl
電解液4:10mM LiCl+ 10mM CsCl
電解液5:10mM LiCl+ 10mM NaCl +10mMKCl
+10mM RbCl+ 10mM CsCl
n.d.:原子吸光法で金属イオンが検出されない
以上の結果から、本発明の吸着剤の担持体として金属多孔体を用いたリチウム回収方法は、高効率の吸着性を示すことが分る。
【符号の説明】
【0057】
1 発泡樹脂成形体
2 導電層
3 ニッケルめっき層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属多孔体の空間部分にリチウム吸着能を有する吸着剤を充填してなる電極をリチウム含有水溶液中に浸漬して前記電極に電圧を印加して被処理液中のリチウムを吸着させる吸着工程と、前記リチウムを吸着した電極に電圧を印加して前記リチウムを吸着した吸着剤からリチウムを脱着させるリチウム脱着工程とを含むことを特徴とするリチウムの回収方法。
【請求項2】
前記金属多孔体が発泡状金属多孔体であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムの回収方法。
【請求項3】
前記金属多孔体が遷移金属、Mg、Al、Ge、Sn及びPbよりなる元素群から選ばれた元素の単体又は前記元素群から選ばれる二種以上の合金からなることを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウムの回収方法。
【請求項4】
前記金属多孔体がFe−Ni基合金に遷移金属が添加されてなる合金からなることを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウムの回収方法。
【請求項5】
前記金属多孔体がNi基合金に遷移金属、Mg、Al及びSnよりなる元素群から選ばれた元素が添加されてなる合金からなることを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウムの回収方法。
【請求項6】
前記吸着剤がリチウム含有またはマグネシウム含有マンガン酸化物から得られたものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のリチウムの回収方法。
【請求項7】
金属多孔体の空間部分にリチウム吸着能を有する吸着剤を充填してなる請求項1〜5のいずれかに記載のリチウムの回収方法に用いられる電極。
【請求項8】
前記金属多孔体が発泡状金属多孔体であることを特徴とする請求項7に記載の電極。
【請求項9】
前記金属多孔体が遷移金属、Mg、Al、Ge、Sn及びPbよりなる元素群から選ばれた元素の単体又は前記元素群から選ばれる二種以上の合金からなることを特徴とする請求項7又は8に記載の電極。
【請求項10】
前記金属多孔体がFe−Ni基合金に遷移金属が添加されてなる合金からなることを特徴とする請求項7又は8に記載の電極。
【請求項11】
前記金属多孔体がNi基合金に遷移金属、Mg、Al及びSnよりなる元素群から選ばれた元素が添加されてなる合金からなることを特徴とする請求項7又は8に記載の電極。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−11003(P2013−11003A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145482(P2011−145482)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】