説明

リチウムアルミネートの製造方法及びリチウムアルミネート

【課題】リチウムアルミネートの製造方法及びその製造方法で製造した高比表面積のリチウムアルミネートを提供する。
【解決手段】リチウムアルミニウム複合水酸化物とリチウム塩を混合後、熱処理するリチウムアルミネートの製造方法であり、リチウムアルミニウム複合水酸化物とリチウム塩を水中で攪拌混合し、その沈殿生成物を乾燥した後、熱処理するリチウムアルミネートの製造方法である。熱処理温度が400〜1300℃であることが好ましい。前記製造方法により製造したリチウムアルミネートは、電解質保持材や触媒担体として用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムアルミネートの製造方法及びその製造方法で製造したリチウムアルミネートに関する。
【背景技術】
【0002】
溶融炭酸塩型燃料電池の電解質保持材として、γ型リチウムアルネート(LiAlO)が使用されている(特許文献1、特許文献2)。従来、このγ型リチウムアルミネートの製造方法としては、(1)アルミナ(α−Al又はγ−Al)と炭酸リチウムを乾式混合して熱処理する方法(特許文献3)、(2)アルミニウム化合物とリチウム化合物を溶媒存在下で混合のうえスラリー化し、そのスラリー化したものを乾燥後に焼成する方法(特許文献4)が知られている。しかしながら、(1)の方法では、乾燥、焼成に長時間を要し、(2)の方法では、(1)の方法によって得られるリチウムアルミネートより比表面積の大きなリチウムアルミネートが得られるものの、スラリー化する工程が必要であった。
また、リチウムアルミニウム複合水酸化物を製造する方法としては、リチウム塩をアルミン酸ナトリウムの水溶液に加えて加水分解させて得られる沈殿物方法が開発されている(特許文献5)。一方、炭酸型リチウムアルミニウム複合水酸化物を200〜1000℃で熱処理すると、高温安定型であるγ型リチウムアルミネートのみならず、他の結晶型のLiAlOやLiAlといった副生物が生成するといった課題があった(非特許文献1)。
【特許文献1】特開平11−339825号公報
【特許文献2】特開平11−273694号公報
【特許文献3】特開平5−294614号公報
【特許文献4】特開平9−320618号公報
【特許文献5】特開平10−17322号公報
【非特許文献1】M.J.HERNANDEZ、M.A.ULIBARRI、J.CORNEJO、M.J.PENA and C.J.SERNA、“THERMAL STABILITY OF ALUMINIUM HYDROXYCARBONATES WITH MONOVALENT CATIONS”、 Thermochimica Acta、1985、p.257−266
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、リチウムアルミネートの製造方法及びその製造方法で得られる高純度、高比表面積で複数の結晶型のリチウムアルミネートを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
すなわち、本発明は、(1)リチウムアルミニウム複合水酸化物とリチウム塩を混合後、熱処理するリチウムアルミネートの製造方法、(2)リチウムアルミニウム複合水酸化物とリチウム塩を水中で攪拌混合し、その沈殿生成物を乾燥した後、熱処理するリチウムアルミネートの製造方法、(3)熱処理温度が400〜1300℃である(1)又は(2)のリチウムアルミネートの製造方法、(4)(1)〜(3)のいずれかの製造方法により製造したリチウムアルミネート、(5)(4)のリチウムアルミネートを用いた電解質保持材、(6)(4)のリチウムアルミネートを用いた触媒担体、である。
【発明の効果】
【0005】
本発明のリチウムアルミネートの製造方法によれば、高純度、高比表面積で複数の結晶型のリチウムアルミネートを製造できる。このリチウムアルミネートは電解質保持材や触媒担持体等に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本発明における部や%は特に規定しない限り質量基準で示す。
【0007】
本発明の「リチウムアルミニウム複合水酸化物」(以下、LACSという)とは、一般式[AlLi(OH)]nX・mHOで表わされる化合物を総称するものである。ただし、式中のXは、例えば炭酸イオン、重炭酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、亜硝酸イオン、水酸化物イオン、塩化物イオン等のアニオンを示し、nは1もしくは2、mは0〜5の値を示す。
LACSを合成する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、アルミン酸塩とリチウム塩を液相で反応させて得ることができる。
LACSを合成する時に用いる溶媒の水には、通常、炭酸イオンが溶存していることや、溶媒の水のpHが強アルカリ性であることから、硫酸イオン、硝酸イオン、亜硝酸イオン、及び水酸化物イオン等のアニオンを有するLACSを合成する場合でも、多少の炭酸イオンが含まれることが多い。つまり、純粋な硫酸イオン、硝酸イオン、亜硝酸イオン、及び水酸化物イオン等のアニオンを有するLACSを合成するには、溶存する炭酸イオンを完全に除去した水を使用し、空気中の炭酸ガスが溶媒中に吸収されないように遮断した条件で合成を行なわなければならないが、通常、微量の炭酸イオンの存在は特に問題にならない。また、これらLACSのうちの一種又は二種以上を混合して使用することもできる。
LACSは層状構造を有する化合物であり、粉末X線回折法(XRD)の回折パターンが底面反射型であることから容易に確認することができる。
【0008】
本発明でLACSと混合するリチウム塩とは、例えば、炭酸リチウム、水酸化リチウム、硫酸リチウム、硝酸リチウム、亜硝酸リチウム、酢酸リチウム、シュウ酸リチウム等が挙げられる。本発明ではこれらリチウム塩のうちの一種又は二種以上が使用可能である。なかでも、水等の溶媒に溶解性が高い、熱分解性が高い、融点が低い等の性質を有するリチウム塩が反応性の点で好ましく、コスト、入手し易さの面から、炭酸リチウムの使用が好ましい。なお、これらリチウム塩の中には結晶水を有するものもあるが、本発明では、結晶水の存在は特に限定されるものではない。
【0009】
本発明のリチウムアルミネートの製造方法によって得られるリチウムアルミネートの比表面積は、3m/g以上であることが好ましい。より好ましい比表面積は、5m/g以上である。リチウムアルミネートの比表面積は、出発物質であるLACSとリチウム塩の比表面積に依存する。そのため、出発物質のLACSとリチウム塩の比表面積は高いものほど好ましい。本発明のリチウムアルミネートの製造方法において、LACS及びリチウム塩の比表面積は3m/g以上が好ましく、5m/g以上がより好ましく、10m/g以上がさらに好ましい。
【0010】
本発明の原料であるLACSとリチウム塩の混合方法は、特に限定されるものではなく、何れも固形分の状態、若しくは、リチウム塩の水溶液にLACSを分散させた状態のいずれからもリチウムアルミネートを製造することが可能である。
特にリチウム塩の水溶液中にLACSを分散させることで、短時間でかつ均一分散性に優れる混合が可能となる。但し、水溶液とした場合、熱処理前にできた混合溶液を乾燥する必要があり、その際、溶媒である水の量が多すぎると好ましくない。従って、水溶液とする場合、過飽和に近い濃度に調製することが好ましい。
また、LACSとリチウム塩の混合は、LACSとリチウム塩ないしその水溶液を、通常、室温20℃でAl/Li原子比がリチウムアルミネートの化学量論比2.0となるように秤量して行う。
【0011】
本発明の乾燥は、リチウム塩を水溶液にして混合した場合に必要な操作である。固形分で混合した場合は、乾燥する必要はなく、混合後、すぐに熱処理することができる。混合後の熱処理は、電気炉等を用い、大気雰囲気下で行なうことが好ましい。電気炉で行なう場合の熱処理条件は、例えば、室温から最高温度まで毎分5〜20℃の速度で昇温するのが好ましく、最高温度での保持時間は15〜240分間が好ましい。更に好ましくは、最高温度での保持時間は30〜210分間である。最高温度はLACSもしくはリチウム塩の分解温度以上であれば良く、通常400〜1300℃、好ましくは700〜1100℃で行なう。なお、熱処理温度を800℃以下とすることにより、γ型リチウムアルミネートの多形であるα型リチウムアルミネートやβ型リチウムアルミネートの合成が可能である。
【0012】
本発明の製造方法によれば、高純度、高比表面積で複数の結晶型のリチウムアルミネートを製造できる。さらに、熱的安定性に優れるため、例えば、溶融塩型燃料電池の電解質保持材や触媒担持体等として使用することができる。
【実施例】
【0013】
以下、実験例に基づき詳細に説明する。
【0014】
(実験例1)
表1に示すような比表面積の異なるLACSを製造した。このLACSとリチウム塩(イ)をAl/Li原子比がリチウムアルミネートの化学量論比2.0となるように混合し、昇温速度10℃/minで1000℃(熱処理温度)まで加熱し、1時間保持した。得られた物質を粉末X線回折法(XRD)により同定した。また、BET比表面積を測定した。結果を表1に併記する。なお比較例として、LACSイのみを熱処理した場合の結果を示す。
【0015】
(使用材料)
リチウム塩(イ):試薬1級炭酸リチウム、LiCO、BET比表面積3.0m/g
LACS(イ):濃度0.5mol/Lのアルミン酸ナトリウム水溶液と濃度0.25mol/Lの水酸化リチウム水溶液を配合し、1リットル中、20℃で3時間撹拌して沈殿生成物を得た。得られた沈殿物をろ過により固液分離し、純水でよく洗浄して50℃で乾燥した。合成物が水酸化物イオンを有するLACSであることをXRDにより確認した。BET比表面積は7.3m/gであった。
LACS(ロ):濃度0.5mol/Lのアルミン酸ナトリウム水溶液と濃度0.125mol/Lの炭酸リチウム水溶液を配合し、1リットル中、20℃で3時間撹拌して沈殿生成物を得た。得られた沈殿物をろ過により固液分離し、純水でよく洗浄して50℃で乾燥した。合成物が炭酸イオンを有するLACSであることをXRDにより確認した。BET比表面積は25.7m/gであった。
LACS(ハ):濃度0.5mol/Lのアルミン酸ナトリウム水溶液と濃度0.125mol/Lの硫酸リチウム水溶液を配合し、1リットル中、20℃で3時間撹拌して沈殿生成物を得た。得られた沈殿物をろ過により固液分離し、純水でよく洗浄して50℃で乾燥した。合成物が硫酸イオンを有するLACSであることをXRDにより確認した。BET比表面積は8.6m/gであった。
LACS(ニ):濃度0.5mol/Lのアルミン酸ナトリウム水溶液と濃度0.125mol/Lの塩化リチウム水溶液を配合し、1リットル中、20℃で3時間撹拌して沈殿生成物を得た。得られた沈殿物をろ過により固液分離し、純水でよく洗浄して50℃で乾燥した。合成物が塩化物イオンを有するLACSであることをXRDにより確認した。BET比表面積は11.0m/gであった。
【0016】
(測定方法)
結晶相評価試験:XRDを用いて結晶相の同定を行なった。測定装置は、リガク社製「RINT2500V/PC型」を使用した。
BET比表面積測定試験:流動法一点法により測定を行なった。測定装置は、ユアサアイオニクス社製「Chem-BET-3000」を使用した。
【0017】
【表1】

【0018】
表1より、本発明の製造条件で製造されたリチウムアルミネートは、単一相からなり高比表面積であることが分かる。
【0019】
(実験例2)
熱処理温度を表2に示すように変化したこと以外は実験例1の実験No.1-1と同様に行った。結果を表2に併記する。
【0020】
【表2】

【0021】
表2より、本発明の製造条件で製造されたリチウムアルミネートは、単一相からなり高比表面積であることが分かる。また、熱処理温度を変えることによって複数の結晶型のリチウムアルミネートを製造することができる。
【0022】
(実験例3)
リチウム塩の種類を表3に示すように変化したこと以外は実験例1の実験No.1-1と同様に行なった。結果を表3に併記する。
【0023】
(使用材料)
リチウム塩(イ):試薬1級炭酸リチウム、LiCO、BET比表面積3.0m/g
リチウム塩(ロ):試薬1級水酸化リチウム、LiOH、BET比表面積値3.2m/g
リチウム塩(ハ):試薬1級硝酸リチウム、LiNO、BET比表面積値3.0m/g
リチウム塩(ニ):試薬1級硫酸リチウム、LiSO、BET比表面積値3.1m/g
【0024】
【表3】

【0025】
表3より、本発明の製造条件で製造されたリチウムアルミネートは、単一相からなり高比表面積であることが分かる。また、リチウム塩を選ぶことによって、比表面積の異なるリチウムアルミネートが製造できることができる。
【0026】
(実験例4)
電解質として炭酸リチウム(イ)と炭酸ナトリウム(イ)をモル比で62:38の割合で混合した炭酸塩を用意し、リチウムアルミネートと炭酸塩を、質量比で1:3となる割合で混合した。この混合粉体を酸素雰囲気下650℃で100時間加熱した。加熱後、酢酸(イ)と無水酢酸(イ)を等量混合した溶液で洗浄し、炭酸塩を除去し、ろ過後に純水を用いて洗浄し、乾燥して、得られたリチウムアルミネートの比表面積を測定した。加熱後の比表面積の値から熱的安定性を評価した。結果を表4に示す。
【0027】
(使用材料)
リチウムアルミネート(イ):実験例1(表1)の実験No.1-1
リチウムアルミネート(ロ):実験例2(表2)の実験No.2-3
リチウムアルミネート(ハ):実験例3(表3)の実験No.3-3
リチウムアルミネート(ニ):実験例1(表1)の実験No.1-5
炭酸リチウム(イ):試薬1級炭酸リチウム、LiCO
炭酸ナトリウム(イ):試薬1級炭酸ナトリウム、NaCO
酢酸(イ):試薬1級酢酸
無水酢酸(イ):試薬1級無水酢酸
【0028】
【表4】

【0029】
表4より、本発明の製造条件で製造されたリチウムアルミネートは、溶融炭酸塩中の熱的安定性に優れていることが分かる。そのため、電解質保持材や触媒担体等に有用である。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明のリチウムアルミネートの製造方法によれば、高純度、高比表面積のリチウムアルミネートを製造することができる。さらに、複数の結晶型のリチウムアルミネートを製造することができる。そのため、従来のリチウムアルミネートと比べ広範囲な用途、例えば、溶融塩型燃料電池の電解質保持材や触媒担持体等として使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムアルミニウム複合水酸化物とリチウム塩を混合後、熱処理するリチウムアルミネートの製造方法。
【請求項2】
リチウムアルミニウム複合水酸化物とリチウム塩を水中で攪拌混合し、その沈殿生成物を乾燥した後、熱処理するリチウムアルミネートの製造方法。
【請求項3】
熱処理温度が400〜1300℃である請求項1又は2記載のリチウムアルミネートの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載の製造方法により製造したリチウムアルミネート。
【請求項5】
請求項4記載のリチウムアルミネートを用いた電解質保持材。
【請求項6】
請求項4記載のリチウムアルミネートを用いた触媒担体。

【公開番号】特開2007−320837(P2007−320837A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−155866(P2006−155866)
【出願日】平成18年6月5日(2006.6.5)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】