説明

リチウムイオン二次電池およびその初回充電方法

【課題】 容量密度が400Wh/l以上の高容量のリチウムイオン二次電池において、サイクル特性が優れ、かつ安全性が優れたリチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】 負極活物質に炭素系材料を含み、容量密度が400Wh/l以上のリチウムイオン二次電池において、負極合剤の密度を1.55g/cm3 以下にして、リチウムイオン二次電池を構成する。負極活物質に炭素系材料を含み、容量密度が400Wh/l以上のリチウムイオン二次電池の初回充電に当たり、充電初期の正極の単位面積当たりの電流密度を0.3mA/cm2 以下にして初回充電をする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、リチウムイオン二次電池およびその初回充電方法に関し、さらに詳しくは、サイクル特性が優れ、かつ安全性が優れたリチウムイオン二次電池およびその初回充電方法に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、各種携帯機器の電源として、軽量でかつ高容量密度のリチウムイオン二次電池が使用されている。最近では携帯機器の長時間使用へのニーズが高まり、更なる高容量密度化が求められている。しかしながら、電池の高容量密度化を図るために、電極活物質を高密度で充填したり、リチウムニッケル酸化物などの高容量密度化が可能な正極活物質を使用すると、負極活物質である炭素系材料の表面に金属リチウムが析出して、サイクル特性が低下したり、通常の製品では遭遇しないような苛酷な条件下で破壊試験を試験的に行った場合に安全性が悪くなるという問題があった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決し、負極活物質に炭素系材料を含み、容量密度が400Wh/l以上の高容量のリチウムイオン二次電池において、負極合剤の密度や初回充電方法を制御することにより、炭素系材料の表面への金属リチウムの析出を抑制し、サイクル特性が優れ、かつ安全性が優れたリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、負極活物質に炭素系材料を含み、容量密度が400Wh/l以上のリチウムイオン二次電池において、上記負極活物質を含む負極合剤の密度を1.55g/cm3 以下にすることによって、負極活物質の炭素系材料の表面への金属リチウムの析出を抑制し、サイクル特性が優れ、かつ通常の製品では遭遇しないような苛酷な条件下で破壊試験を試験的に行った場合においても、安全性の優れたリチウムイオン二次電池を得ることができることを見出した。
【0005】また、本発明者らは、負極活物質に炭素系材料を含み、容量密度が400Wh/lのリチウムイオン二次電池の初回充電にあたり、充電初期の正極の単位面積当たりの電流密度を0.3mA/cm2 以下にして初回充電することにより、サイクル特性が優れ、かつ通常の製品では遭遇しないような苛酷な条件下で破壊試験を試験的に行った場合においても、安全性の優れたリチウムイオン二次電池を得ることができることも見出した。
【0006】本発明が対象とするような、負極活物質に炭素系材料を含み、容量密度が400Wh/l以上の高容量密度のリチウムイオン二次電池においては、負極活物質の炭素系材料の表面に金属リチウムが析出すると、上記炭素系材料へのリチウムのインターカレーション・ディインターカレーションの可逆性が悪くなり、サイクル特性が低下するものと考えられる。また、上記炭素系材料の表面に析出した金属リチウムが電解液と反応しやすいこともサイクル特性を低下させる原因になるものと考えられる。
【0007】ところが、容量密度が400Wh/l未満の容量密度が低いリチウムイオン二次電池の場合、負極の表面にわずかにリチウムが析出していても、サイクル特性の著しい低下がなく、また、通常の製品では遭遇しないような苛酷な条件下で破壊試験を試験的に行って短絡させた場合でも、安全性の著しい低下がなかった。このことから、炭素系材料の表面への金属リチウムの析出は、特に高容量密度の電池に影響を及ぼすものと考えられる。
【0008】本発明の請求項1に記載の発明において、負極合剤の密度を1.55g/cm3 以下にすることによって、負極活物質の炭素系材料の表面への金属リチウムの析出を抑制することが可能になる理由としては、負極合剤の密度が1.55g/cm3 以下になると、負極合剤中へのリチウムイオンの拡散が容易になり、負極の表面に金属リチウムが析出しにくくなるためであると考えられる。
【0009】本発明の請求項2に記載の発明において、初回充電時の充電初期の正極の単位面積当たりの電流密度を0.3mA/cm2 以下にすることによって、負極活物質の炭素系材料の表面への金属リチウムの析出を抑制することが可能になる理由としては、電流密度を0.3mA/cm2 以下にすると、初回充電時の充電初期の正極の分極を小さくできるので正極の反応が均一になり、それによって正極と対向する負極の反応も均一になり、局部的な電流集中が少なくなることによるものと考えられる。
【0010】
【発明の実施の形態】本発明の容量密度が400Wh/l以上のリチウムイオン二次電池において、負極活物質として用いる炭素系材料としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、炭素繊維、乱層構造を有する炭素、低結晶炭素、非晶質炭素などが挙げられるが、それら以外の炭素系材料であってもよく、また、ホウ素、リンなどの他の元素を含んだものであってもよい。さらに、2種類以上の炭素系材料を併用してもよいし、電池の容量密度を400Wh/l以上にできるものであれば、炭素系材料以外のものを含んでいてもよい。
【0011】負極の作製は、例えば、上記炭素系材料からなる負極活物質に、必要に応じて、バインダーや、カーボンブラック、グラファイトなどのような導電助剤などを加えて混合して負極合剤を調製し、溶剤でペースト状にし(ただし、バインダーはあらかじめ溶剤に溶解させておいてから負極活物質などと混合してもよい)、その負極合剤ペーストを集電体に塗布し、乾燥して、上記集電体の一方の面または両面に負極合剤の密度が1.55g/cm3 以下になるように負極合剤層を形成することによって行われる(両面に負極合剤層を形成する場合は、両面の負極合剤とも密度を1.55g/cm3 以下にする)。ただし、負極の作製方法は上記例示の方法に限られることはない。
【0012】本発明においては、上記のように集電体の一方の面または両面に形成される負極合剤層における負極合剤の密度を1.55g/cm3 以下にするが、この負極合剤の密度は小さいほど、負極活物質の炭素系材料の表面への金属リチウムの析出を抑制するのに適しているが、負極合剤の密度があまりにも小さくなりすぎると、電池をサイクルさせた時に負極合剤の剥離が生じ、容量が低下するおそれがあるので、負極合剤の密度としては、上記のように1.55g/cm3 以下であって、1.20g/cm3 以上が実用上適している。
【0013】本発明において、正極活物質としては、例えば、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウムマンガン酸化物などが挙げられるが、これらはMg、Ti、Alなどの他の元素を含んでいてもよく、また、2種類以上を併用してもよい。正極の作製は、例えば、上記正極活物質に、必要に応じ、バインダーや導電助剤を加えて混合し、溶剤でペースト状にし(ただし、バインダーはあらかじめ溶剤に溶解させておいてから正極活物質などと混合してもよい)、その正極合剤ペーストを集電体に塗布し、乾燥して、上記集電体の一方の面または両面に正極合剤層を形成することによって行われる。ただし、正極の作製方法は上記例示の方法に限られることはない。
【0014】正極や負極のバインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルアルコール、エチルセルロース、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルブチラール、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、エチレンプロピレンゴム、スチレンブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴムなどが挙げられ、これらはそれぞれ単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。また、導電助剤としては、例えば、カーボンブラック、グラファイト、Ti、Al、Niなどの金属粉末などが用いられる。
【0015】正極や負極の集電体としては、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、チタン、銅などの金属の網、パンチドメタル、エキスパンドメタル、フォームメタル、箔などが用いられる。
【0016】電解液としては、有機溶媒に電解質を溶解させた有機溶媒系の電解液が用いられる。上記の電解質としては、例えば、LiClO4 、LiPF6 、LiBF4、LiAsF6 、LiSbF6 、LiCF3 SO3 、LiC4 9 SO3 、LiCF3 CO2 、Li2 2 4 (SO3 2 、LiN(R1 )(R2 )(R1 =CX 2X+1SO2 、R2 =Cy 2ySO2 、x+y≧2)、LiC(CF3 SO2 3 、LiCn 2n+1SO3 (n≧2)などが単独でまたは2種以上混合して用いられる。電解液中における電解質の濃度は、特に限定されているものではないが、0.3〜1.7mol/l、特に0.7〜1.5mol/l程度が好ましい。
【0017】また、上記電解液の有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、σ−バレロラクトンなどの環状エステル、1,2−ビスメトキシカルボニルオキシエタン、1,2−ビスエトキシカルボニルオキシエタン、1,2−ビスメトキシカルボニルオキシプロパン、1,2−ビスエトキシカルボニルオキシプロパンなどのアルキレンビスカーボネート化合物、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネートなどの鎖状炭酸エステルや、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソランなどのエーテルなどが挙げられ、これらの中の1種のみを用いてもよいし、また複数種を併用してもよいし、さらには、上記例示のもの以外のものを用いてもよい。
【0018】セパレータとしては、例えば、微孔性のポリエチレンフィルム、微孔性のポリプロピレンフィルム、微孔性ポリエチレン−ポリプロピレン複合フィルムなどが好適に用いられるが、それら以外のものを用いてもよい。
【0019】本発明の請求項2に記載の発明においては、前記のように、放回充電の充電初期の正極の単位面積当たりの電流密度を0.3mA/cm2 以下にして初回充電を行うが、そのような0.3mA/cm2 以下で充電する際の充電時間としては、電池容量の1/20以上が充電される時間まで行うことが好ましく、その後は電池容量を5時間で放電するときの電流値(0.2C)以下の電流で充電することが好ましい。ただし、初回充電時の充電初期を超えて上記のような0.3mA/cm2 以下の電流密度で充電してもよい。
【0020】上記のような初回充電時の充電初期の正極の単位面積当たりの電流密度は小さいほど正極の分極を少なくするという点では適しているが、電流密度が小さくなりすぎると、充電時間が長くなり、生産性に問題を生じる可能性があるので、この電流密度は上記のように0.3mA/cm2 以下であって、0.01mA/cm2 以上が実用上適している。
【0021】
【実施例】つぎに、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はそれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0022】実施例1バインダーであるポリフッ化ビニリデン20gにN−メチル−2−ピロリドン250gを加え、60℃に加熱してポリフッ化ビニリデンをN−メチル−2−ピロリドンに溶解させ、バインダー溶液を調製した。このバインダー溶液に正極活物質としてLiNi0.7 Co0.3 2 を450g加え、かつ導電助剤としてカーボンブラック5gとグラファイト25gを加え、攪拌混合して正極合剤ペーストを調製した。この正極合剤ペーストを集電体となる厚さ20μmのアルミニウム箔の両面に均一に塗布し、乾燥して正極合剤層を形成し、ローラープレス機により圧縮成形した後、裁断して、平均厚み150μmの帯状正極を作製した。
【0023】また、上記と同様にバインダー溶液を調製し、そのバインダー溶液に負極活物質として人造黒鉛を180g加え、攪拌混合して負極合剤ペーストを調製し、その負極合剤ペーストを集電体となる厚さ10μmの銅箔の両面に均一に塗布し、乾燥して負極合剤層を形成し、ローラープレス機により圧縮成形した後、裁断し、平均厚みが190μmで、負極合剤の密度が1.45g/cm3 の帯状負極を作製した。
【0024】つぎに、上記帯状正極と帯状負極との間に厚さ25μmの微孔性ポリエチレンフィルムからなるセパレータを配置し、渦巻状に巻回して渦巻状巻回構造の電極体とした後、外形18mmの有底円筒状の電池缶内に挿入し、正極および負極リード体の溶接を行った。
【0025】その後、電池缶内に1.4MLiPF6 /EC+MEC(1:2)からなる電解液(すなわち、エチレンカーボネートとメチルエチルカーボネートの容積比1:2の混合溶媒にLiPF6 を1.4モル/リットル溶解させてなる電解液)を4.0cc注入した。ついで、上記電池缶の開口部を常法に従って封口し、図1に示す構造の筒形リチウムイオン二次電池を作製した。
【0026】ここで、図1に示す電池について説明すると、1は上記の正極で、2は負極である。ただし、図1では、繁雑化を避けるため、正極1や負極2の作製にあたって使用した集電体としての金属箔などは図示していない。そして、これらの正極1と負極2はセパレータ3を介して渦巻状に巻回され、渦巻状巻回構造の電極体として上記の電解液4と共に電池缶5内に収容されている。
【0027】電池缶5はステンレス鋼製で、負極端子を兼ねており、電池缶5の底部には上記渦巻状巻回構造の電極体の挿入に先立って、ポリプロピレンからなる絶縁体6が配置されている。封口板7はアルミニウム製で、円板状をしていて、中央部に薄肉部7aを設け、かつ上記薄肉部7aの周囲に電池内圧を防爆弁9に作用させるための圧力導入口7bとしての孔が設けられている。そして、この薄肉部7aの上面に防爆弁9の突出部9aが溶接され、溶接部分11を構成している。なお、上記の封口板7に設けた薄肉部7aや防爆弁9の突出部9aなどは、図面上での理解がしやすいように、切断面のみを図示しており、切断面後方の輪郭線は図示を省略している。また、封口板7の薄肉部7aと防爆弁9の突出部9aとの溶接部分11も、図面上での理解が容易なように、実際よりは誇張した状態に図示している。
【0028】端子板8は、圧延鋼製で表面にニッケルメッキが施され、周縁部が鍔状になった帽子状をしており、この端子板8にはガス排出孔8aが設けられている。防爆弁9は、アルミニウム製で、円板状をしており、その中央部には発電要素側(図1では、下側)に先端部を有する突出部9aが設けられ、かつ薄肉部9bが設けられ、上記突出部9aの下面が、前記したように、封口板7の薄肉部7aの上面に溶接され、溶接部分11を構成している。絶縁パッキング10は、ポリプロピレン製で、環状をしており、封口板7の周縁部の上部に配置され、その上部に防爆弁9が配置していて、封口板7と防爆弁9とを絶縁するとともに、両者の間から電解液が漏れないように両者の間隙を封止している。環状ガスケット12はポリプロピレン製で、リード体13はアルミニウム製で、前記封口板7と正極1とを接続し、渦巻状巻回構造の電極体の上部には絶縁体14が配置され、負極2と電池缶5の底部とはニッケル製のリード体15で接続されている。
【0029】上記のようにして組み立てられた電池においては、封口板7の薄肉部7aと防爆弁9の突出部9aとが溶接部分11で接触し、防爆弁9の周縁部と端子板8の周縁部とが接触し、正極1と封口板7とは正極側のリード体13で接続されているので、正極1と端子板8とはリード体13、封口板7、防爆弁9およびそれらの溶接部分11によって電気的接続が得られ、電路として正常に機能する。
【0030】そして、電池に異常事態が起こり、電池内部にガスが発生して電池の内圧が上昇した場合には、その内圧上昇により、防爆弁9の中央部が内圧方向(図1では、上側の方向)に変形し、それに伴って溶接部分11で一体化されている薄肉部7aに剪断力が働いて、該薄肉部7aが破断するか、または防爆弁9の突出部9aと封口板7の薄肉部7aとの溶接部分11が剥離し、それによって、正極1と端子板8との電気的接続が消失して、電流が遮断されるようになる。その結果、電池反応が進行しなくなるので、過充電時や短絡時でも、充電電流や短絡電流による電池の温度上昇や内圧上昇がそれ以上進行しなくなって、電池の発火や破裂を防止できるように設計されている。
【0031】なお、上記防爆弁9には薄肉部9bが設けられており、例えば、充電が極度に進行にして電解液や活物質などの発電要素が分解し、大量のガスが発生した場合は、防爆弁9が変形して、防爆弁9の突出部9aと封口板7の薄肉部7aとの溶接部分11が剥離した後、この防爆弁9に設けた薄肉部9bが開裂してガスを端子板8のガス排出孔8aから電池外部に排出させて電池の破裂を防止することができるように設計されている。
【0032】上記のように作製したリチウムイオン二次電池を、20℃で正極の単位面積当たり0.2mA/cm2 の電流密度で1.5時間充電し、その後、0.2C、4.1Vの定電流定電圧方式で10時間充電を行い、充電後、1Cで2.75Vまで放電した。
【0033】実施例2負極合剤の密度を1.53g/cm3 にして負極を作製した以外は、実施例1と同様に電池を作製した後、20℃で正極の単位面積当たり0.3mA/cm2の電流密度で1時間充電し、その後、0.5C、4.1Vの定電流定点圧方式で5時間充電を行い、充電後、1Cで2.75Vまで放電した。
【0034】実施例3実施例1と同様に電池を作製した後、20℃で正極の単位面積当たり0.5mA/cm2 の電流密度で1時間充電し、その後、0.2C、4.1Vの定電流定点圧方式で8時間充電を行い、充電後、1Cで2.75Vまで放電した。
【0035】実施例4負極合剤の密度を1.60g/cm3 にして負極を作製した以外は、実施例1と同様に電池を作製した後、20℃で正極の単位面積当たり0.3mA/cm2の電流密度で1.5時間充電し(充電量は電池容量の約1/9)、その後、0.2C、4.1Vの定電流定電圧方式で10時間充電を行い、1Cで2.75Vまで放電した。
【0036】比較例1負極合剤の密度を1.60g/cm3 にして負極を作製した以外は、実施例1と同様に電池を作製した後、20℃で正極の単位面積当たり0.5mA/cm2の電流密度で1時間充電し、その後、0.2C、4.1Vの定電流定電圧方式で8時間充電を行い、充電後、1Cで2.75Vまで放電した。
【0037】比較例2負極合剤密度を1.60g/cm3 にして負極を作製した以外は、実施例1と同様に電池を作製した後、20℃で正極の単位面積当たり1.0mA/cm2 の電流密度で1時間充電し、その後、0.2C、4.1Vの定電流定電圧方式で8時間充電を行い、充電後、1Cで2.75Vまで放電した。
【0038】上記実施例1〜4および比較例1〜2のリチウムイオン二次電池について、下記の条件で、負極の表面への金属リチウムの析出、サイクル特性および電池の安全性確認試験を行った。この安全性確認試験は、通常の製品では遭遇しないような苛酷な条件下で破壊試験、つまり、通常の製品では行わないような安全性に欠ける状態に電池を作製し、かつ強制的に短絡を発生させる破壊試験を試験的に行って短絡させた場合の安全性を評価するものであり、これらの評価方法や試験方法は下記の通りである。
【0039】〈負極の表面へのリチウム析出〉上記実施例1〜4および比較例1〜2のリチウムイオン二次電池を20℃で4.2Vまで充電した後、電池を分解し、負極の表面への金属リチウムの析出を目視により観察する。
【0040】〈サイクル特性〉上記実施例1〜4および比較例1〜2のリチウムイオン二次電池を20℃で4.2V〜2.75Vの範囲で充放電させ、その500サイクル目の放電容量の1サイクル目の放電容量に対する比〔(500サイクル目の放電容量)/(1サイクル目の放電容量)×100%〕を500サイクル時の容量保持率(%)としてサイクル特性を評価する。
【0041】〈安全性確認試験〉上記実施例1〜4および比較例1〜2のリチウムイオン二次電池を、異常事態発生時の電流遮断機構などの安全機構を持たない状態に作製し、強制的な釘刺し試験を行って安全性を確認する。すなわち、通常の製品では電池に異常事態が発生した場合には、図1に示すような電流を遮断して電池の発火や破裂を防止する安全機構が設けられているが、この安全機構を設けることなく電池をそれぞれ50個ずつ作製し、それらの電池を20℃で4.2Vまで充電した後、電池の側面から横方向に1/2の深さまで直径3mmの釘を120mm/secの速度で突き刺し、強制的に短絡を発生させて、発煙および発火の有無を観察する。
【0042】上記実施例1〜4および比較例1〜2のリチウムイオン二次電池について、上記特性を測定した結果を表1に示す。
【0043】
【表1】


【0044】表1に示す結果から明らかなように、実施例1〜4は、サイクル特性が優れ、かつ安全性が優れていた。すなわち、実施例1〜3の電池では負極合剤の密度を1.55g/cm3 以下にし、実施例4の電池では初回充電を充電初期の正極の単位面積当たりの電流密度を0.3mA/cm2 以下で行ったことにより、サイクル特性が優れ、かつ苛酷な条件下での安全性確認試験でも発火が生じることなく、安全性が優れていた。
【0045】これに対して、比較例1では、負極合剤の密度が1.60g/cm3 と高く、また充電時の電流密度も0.5mA/cm2 と高かったため、サイクル特性が低下し、かつ発煙確率が増加し、比較例2では、充電時の電流密度が1.0mA/cm2 とさらに高くなったため、サイクル特性の低下がさらに大きくなるとともに、発火の生じるものがあり、安全性に欠けていた。なお、実施例3は、比較例1と同様に0.5mA/cm2 の電流密度で充電を行っているが、それにもかかわらず、サイクル特性が優れ、かつ安全性が優れていた。また、実施例4も、比較例2と同様に負極合剤の密度を1.60g/cm3 にしているにもかかわらず、サイクル特性が優れ、かつ安全性が優れていた。
【0046】
【発明の効果】以上説明したように、本発明では、負極活物質に炭素系材料を含み、容量密度が400Wh/l以上の高容量のリチウムイオン二次電池において、サイクル特性が優れ、かつ安全性が優れたリチウムイオン二次電池を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のリチウムイオン二次電池の一例を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
1 正極
2 負極
3 セパレータ
4 電解液

【特許請求の範囲】
【請求項1】 負極活物質に炭素系材料を含み、容量密度が400Wh/l以上のリチウムイオン二次電池において、負極合剤の密度を1.55g/cm3以下にしたことを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項2】 負極活物質に炭素系材料を含み、容量密度が400Wh/l以上のリチウムイオン二次電池の初回充電に当たり、充電初期の正極の単位面積当たりの電流密度を0.3mA/cm2 以下にして初回充電することを特徴とするリチウムイオン二次電池の初回充電方法。

【図1】
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【公開番号】特開平11−297310
【公開日】平成11年(1999)10月29日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−102437
【出願日】平成10年(1998)4月14日
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)