説明

リチウムイオン二次電池からの有機溶剤の除去方法

【課題】リチウムイオン二次電池から簡単かつ安全に電解質の有機溶剤を除去可能なリチウムイオン二次電池からの有機溶剤の除去方法の提供。
【解決手段】開口していないリチウムイオン二次電池を25kPa〜65kPaの圧力下、100℃以上の温度で加熱する加熱工程を含むリチウムイオン二次電池からの有機溶剤の除去方法である。加熱工程中に安全弁が開くことが好ましい。圧力が35kPa〜65kPaであることが好ましい。加熱温度が100℃〜160℃であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造過程で発生した不良品のリチウムイオン二次電池、並びに使用機器及び電池の寿命などに伴い廃棄されるリチウムイオン二次電池などから有機溶剤を簡単に除去可能なリチウムイオン二次電池からの有機溶剤の除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、従来の鉛蓄電池、ニッカド二次電池などに比較して軽量、高容量、及び高起電力な二次電池であり、携帯電話、ノートパソコン等のモバイル機器に広く使用されており、自動車にも使用が拡大している。
【0003】
このようなリチウムイオン二次電池には、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、ニッケル−マンガン−コバルト系酸化物などが用いられており、これらには希少有価物であるコバルト、及びニッケルが含まれている。そこで、使用済みのリチウムイオン二次電池からこれらの希少有価物を回収することが行われている。
しかし、リチウムイオン二次電池から希少有価物を回収する際に、リチウムイオン二次電池が蓄電されたままであると、回収作業の際に放電を起こすため、作業上の安全性に問題がある。
【0004】
そこで、リチウムイオン二次電池の容器に穴を開けること又は分解することにより電解質を除去、回収することで、電池としての機能を喪失させて放電を予防することが行われている。そして、リサイクル全体にかかるコスト及び作業性を考慮すると、電解質の除去は、簡単かつ安全に行うことが求められている。
【0005】
リチウムイオン二次電池からの電解質の除去に関して、例えば、発火を抑えた手段によりリチウムイオン二次電池を開口し、有機溶剤で洗浄することで、電解質を除去するとともに、電解質中の有機溶剤を回収することが提案されている(特許文献1参照)。しかし、この提案の技術では、発火を抑えた手段として、超高圧水のウォータージェット、不活性雰囲気下又は不活性液体下での機械的な切断などが挙げられているが、これらの手段はいずれも装置を必要とし、手間が掛かるという問題がある。また、開口後の有機溶剤による臭気の点、及び作業者への有機溶剤の接触を防止する必要がある点で問題がある。
【0006】
また、貫通孔を開けるなどして開口したリチウムイオン二次電池を、1kPa〜10kPaの減圧下で85℃で30分間加熱し、更に102℃の温度で30分間加熱することで、リチウムイオン二次電池中の電解質の有機溶剤を除去、回収する方法が提案されている(特許文献2参照)。しかし、この提案の技術では、開口する際に感電及び火災を防止するために、開口の前に煩雑な作業である放電工程を行う必要がある。また、開口の際に、有機溶剤が作業者にかかる危険性がある。また、この提案の技術でも、開口後の有機溶剤による臭気の点で問題がある。
【0007】
したがって、リチウムイオン二次電池から簡単かつ安全に電解質の有機溶剤を除去可能なリチウムイオン二次電池からの有機溶剤の除去方法の提供が求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平06−251805号公報
【特許文献2】特開2005−197149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、リチウムイオン二次電池から簡単かつ安全に電解質の有機溶剤を除去可能なリチウムイオン二次電池からの有機溶剤の除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 開口していないリチウムイオン二次電池を25kPa〜65kPaの圧力下、100℃以上の温度で加熱する加熱工程を含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池からの有機溶剤の除去方法である。
<2> 加熱工程中にリチウムイオン二次電池の安全弁が開く前記<1>に記載のリチウムイオン二次電池からの有機溶剤の除去方法である。
<3> 圧力が、35kPa〜65kPaである前記<1>から<2>のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池からの有機溶剤の除去方法である。
<4> 加熱温度が、100℃〜160℃である前記<1>から<3>のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池からの有機溶剤の除去方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、従来における前記諸問題を解決することができ、リチウムイオン二次電池から簡単かつ安全に電解質の有機溶剤を除去可能なリチウムイオン二次電池からの有機溶剤の除去方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(リチウムイオン二次電池からの有機溶剤の除去方法)
本発明のリチウムイオン二次電池からの有機溶剤の除去方法は、開口していないリチウムイオン二次電池を25kPa〜65kPaの圧力下、100℃以上の温度で加熱する加熱工程を少なくとも含み、更に必要に応じて、その他の工程を含む。
【0013】
<加熱工程>
前記加熱工程としては、開口していないリチウムイオン二次電池を25kPa〜65kPaの圧力下、100℃以上の温度で加熱する工程であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0014】
−リチウムイオン二次電池−
前記リチウムイオン二次電池としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、リチウムイオン二次電池の製造過程で発生した不良品のリチウムイオン二次電池、使用機器の不良、使用機器の寿命などにより廃棄されるリチウムイオン二次電池、寿命により廃棄される使用済みのリチウムイオン二次電池などが挙げられる。
【0015】
前記リチウムイオン二次電池の構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、正極と、負極と、セパレーターと、電解質と、前記正極、前記負極、前記セパレーター及び前記電解質を収容する金属製の電池ケース、アルミラミネートフィルム等の容器とを備えたものなどが挙げられる。
【0016】
前記リチウムイオン二次電池の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ラミネート型、円筒型、ボタン型、コイン型、角型、平型などが挙げられる。
【0017】
−−正極−−
前記正極としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、正極集電体と、前記正極集電体上に付与された正極活物質を有する正極材とを備えた正極などが挙げられる。
前記正極の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、平板状などが挙げられる。
【0018】
−−−正極集電体−−−
前記正極集電体の材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アルミニウムなどが挙げられる。
前記正極集電体の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、平板状などが挙げられる。
前記正極集電体の大きさ、構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0019】
−−−正極材−−−
前記正極材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、希少有価物を含有する正極活物質を少なくとも含み、必要により導電剤と、結着樹脂とを含む正極材などが挙げられる。
前記希少有価物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、マンガン、コバルト、及びニッケルの少なくともいずれかであることが好ましい。
前記正極活物質としては、例えば、マンガン酸リチウム(LiMn)、コバルト酸リチウム(LiCoO)、コバルトニッケル酸リチウム(LiCo1/2Ni1/2)、LiNiCoMnなどが挙げられる。
前記導電剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、カーボンブラック、グラファイト、カーボンファイバー、金属炭化物などが挙げられる。
前記結着樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、フッ化ビニリデン、四フッ化エチレン、アクリロニトリル、エチレンオキシド等の単独重合体又は共重合体、スチレン−ブタジエンゴムなどが挙げられる。
【0020】
−−負極−−
前記負極としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、負極集電体と、前記負極集電体上に付与された負極材とを備えた負極などが挙げられる。
前記負極の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、平板状などが挙げられる。
【0021】
−−−負極集電体−−−
前記負極集電体の材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、銅などが挙げられる。
前記負極集電体の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、平板状などが挙げられる。
前記負極集電体の大きさ、構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0022】
−−−負極材−−−
前記負極材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、グラファイト、ハードカーボン等の炭素材、チタネイトなどが挙げられる。
【0023】
−−セパレーター−−
前記セパレーターとしては、前記正極と前記負極との短絡を防ぐものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、不織布、ミクロポア構造の材料、微細孔を有する金属酸化物フィルムなどが挙げられる。
前記セパレーターとしては、電池反応に関与するイオンが移動できる細孔を有し、電解質に不溶で安定であることが好ましい。
【0024】
−−電解質−−
前記電解質としては、有機溶剤を含有する電解質であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、リチウム塩と有機溶剤とを含有する電解質などが挙げられる。
【0025】
前記有機溶剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、γ−ブチロラクトン、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソランなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記リチウム塩としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、LiPF、LiBF、LiAsF、LiCFSO、LiCSO、LiN(CFSO、LiC(CFSOなどが挙げられる。
【0026】
前記リチウムイオン二次電池は、加熱前には、開口していない。そのため、リチウムイオン二次電池中の電解質の有機溶剤は、加熱前には、揮発して外部に拡散する又は漏れ出すことがない。そのため、臭気の問題がないとともに、作業者への有機溶剤の接触を防止する措置を取る必要がない。
【0027】
前記リチウムイオン二次電池は、通常、安全弁を有している。前記安全弁の材質、形状、大きさ、構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0028】
本発明においては、加熱工程中にリチウムイオン二次電池の内圧が外気圧に比べて相対的に高くなると、リチウムイオン二次電池の安全弁が開く(言い換えれば、安全弁が作動する)。そうすることにより、リチウムイオン二次電池が破裂することがない。また、開いた安全弁から有機溶剤が除去されていく。
【0029】
−加熱−
前記加熱を行うことにより、前記リチウムイオン二次電池中の前記有機溶剤を揮発させ、前記リチウムイオン二次電池から前記有機溶剤を除去できる。
【0030】
−−温度−−
前記加熱の温度としては、100℃以上であり、100℃〜160℃が好ましく、120℃〜160℃がより好ましく、125℃〜155℃が特に好ましい。
前記温度が、100℃未満であると、前記有機溶剤の除去が不十分になる。
前記温度が、160℃を超えても、加熱にエネルギーを要する割には、前記有機溶剤の除去率は向上しない。また、前記温度が、160℃を超えると、セパレーターの一部が溶解するため、後にリチウムイオン二次電池から有価物を回収する際に正極と負極との分離性が非常に悪くなることがある。
前記温度が、前記特に好ましい範囲内であると、加熱に要するエネルギーが少なく、かつリチウムイオン二次電池から十分に有機溶剤を除去できる点で有利である。
【0031】
ここで、加熱の温度は、加熱時のリチウムイオン二次電池周辺の気体の温度をいい、例えば、加熱時の加熱炉内においてリチウムイオン二次電池が置かれた付近の気体の温度をいう。
【0032】
−−圧力−−
前記圧力としては、25kPa〜65kPaであり、30kPa〜65kPaが好ましく、35kPa〜65kPaがより好ましい。
前記圧力が、25kPa未満であると、この減圧度に対応できる加熱装置が限られるため、簡単に有機溶剤を除去することが困難になる。また、この減圧度にするのに時間が掛かり、工程全体の時間が長くなる。
前記圧力が、65kPaを超えると、リチウムイオン二次電池からの有機溶剤の除去が不十分になる。また、加熱温度を高くする必要がある。
前記圧力が、前記より好ましい範囲内であると、リチウムイオン二次電池からの有機溶剤の十分な除去が簡単に行える点で有利である。
【0033】
ここで、圧力は、加熱時のリチウムイオン二次電池周辺の圧力をいい、例えば、加熱時の加熱炉内においてリチウムイオン二次電池が置かれた付近の圧力をいう。
【0034】
前記加熱の時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.5時間〜5時間が好ましく、1時間〜3時間がより好ましい。
【0035】
前記加熱に用いる加熱装置としては、炉内を減圧する機能を有する加熱装置であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、加熱炉などが挙げられる。
前記加熱炉としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、真空乾燥器、真空熱処理炉、減圧乾燥器、減圧熱処理炉などが挙げられる。
前記加熱装置の炉内の雰囲気としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、大気雰囲気などが挙げられる。
【0036】
前記加熱装置は、揮発した有機溶剤を外部へ飛散させない構造が好ましい。このような加熱装置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0037】
前記加熱装置は、揮発した有機溶剤を回収する回収手段を有することが好ましい。前記回収手段を有することにより、前記有機溶剤を回収することができる。
前記回収手段としては、加熱装置内で揮発した有機溶剤を回収できる手段であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ガス導管と、冷却部材とを備えた回収手段などが挙げられる。前記加熱装置内で揮発した有機溶剤は、ガス導管を通り、冷却部材により冷却されて液化し、回収される。
【0038】
前記有機溶剤の除去率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、50%以上が好ましく、70%以上がより好ましい。前記除去率が、50%未満であると、処理後のリチウムイオン二次電池に残存する有機溶剤の臭気が問題になることがある。
【0039】
前記リチウムイオン二次電池からの有機溶剤の除去方法は、開口していないリチウムイオン二次電池を用いるため、加熱工程の前に、リチウムイオン二次電池の放電を行う放電工程を行う必要がない。前記放電工程は、工数を要するため、前記放電工程を用ない前記リチウムイオン二次電池からの有機溶剤の除去方法は、非常に簡易な方法により、リチウムイオン二次電池から有機溶剤を除去できる。
一方、リチウムイオン二次電池を開口してから有機溶剤の除去を行う場合には、開口の際の感電、及び火災の危険性などから、開口の前にリチウムイオン二次電池の放電を行う放電工程を必要とする。前記放電工程では、通常、作業前に電池の電圧を測定した後、専用の電池放電装置を用いて放電を行う。更に、作業終了後、電池の電圧を測定して放電を確認する必要がある。なお、残存している電気容量にもよるが、通常、放電には1時間以上を要し、1晩かかるものもある。そのため、前記放電工程は、非常に多くの工数を必要とする。
【0040】
前記リチウムイオン二次電池からの有機溶剤の除去方法は、加熱前にリチウムイオン二次電池を開口することがないため、開口に要する装置を必要としない。また、開口した場合の有機溶剤の飛散の危険性がない。また、揮発した有機溶剤による火災の可能性がない。また、作業者が防毒マスクをする必要がない。そのため、リチウムイオン二次電池から簡単かつ安全に電解質の有機溶剤を除去可能である。
前記リチウムイオン二次電池からの有機溶剤の除去方法を行うと、該方法を用いた後のリチウムイオン二次電池は、電解質が機能しなくなっており、放電工程が必要ないため、リチウムイオン二次電池から有価物を回収する際の工程を短縮することができる。
前記リチウムイオン二次電池からの有機溶剤の除去方法は、減圧条件下で加熱するため、大気圧下よりも低温で加熱でき、有機溶剤の分解を抑制できる。そのため、有機溶剤を回収して、燃料として利用したり、更には、リチウムイオン二次電池の電解質に用いる有機溶剤として再利用できる。
前記リチウムイオン二次電池からの有機溶剤の除去方法は、減圧条件下で加熱するため、大気圧下よりも低温で加熱できる。そのため、該方法を用いた後のリチウムイオン二次電池は、正極、負極、セパレーター、容器などが、原形を保ったままとなり、リチウムイオン二次電池から有価物を回収する際の工程に支障をきたさない。
前記リチウムイオン二次電池からの有機溶剤の除去方法は、有機溶剤を燃焼して除去するものではない。そのため、燃焼により発生するハロゲン化物などにより、加熱装置を損傷、劣化させることがない。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0042】
(実施例1)
<有機溶剤の除去>
使用済みのラミネート型リチウムイオン二次電池を用いた。
このリチウムイオン二次電池における正極は、箔状の正極集電体としてアルミニウム箔を用い、前記正極集電体に正極活物質が塗布された正極である。負極は、箔状の負極集電体として銅箔を用い、前記負極集電体に炭素材が塗布された負極である。電解質の有機溶剤には、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどが用いられている。容器は、アルミラミネートフィルムである。アルミラミネートフィルムには安全弁が設けられている。
【0043】
直径190mm、長さ1,800mmの石英管にヒーターを設置した炉にリチウムイオン二次電池を入れ、炉内をエアーポンプにより減圧するとともに炉内雰囲気を10℃/分間で昇温し、炉内圧力40kPa、炉内温度130℃で2時間加熱処理した。炉内雰囲気は空気雰囲気とした。
なお、前記炉には、揮発した有機溶剤を回収可能な回収手段を接続した。
【0044】
2時間経過後に、自然冷却しつつ炉内の圧力を大気圧に戻した後、炉からリチウムイオン二次電池を取り出した。取り出したリチウムイオン二次電池は安全弁が開いていた。また、破裂はしていなかった。
取り出したリチウムイオン二次電池について、有機溶剤の除去率を測定したところ、64.3%であった。
なお、除去率は、試験前後の電池質量の差を電池に含有される電解液(有機溶剤を含有する電解質)量で除して100を乗じて算出した。
【0045】
また、処理後のリチウムイオン二次電池の内部を観察したところ、正極、及び負極の破損、変質(例えば、アルミニウム、銅の酸化)などは起こっていなかった。有機溶剤による臭気もほとんどなかった。更に、処理後のリチウムイオン二次電池内の正極及び負極は、手作業により容易に分離できた。そのため、正極及び負極のそれぞれを分離して回収することができた。
【0046】
(実施例2)
実施例1において、加熱の温度を120℃に変えた以外は、実施例1と同様にして、有機溶剤の除去を行った。炉から取り出したリチウムイオン二次電池は安全弁が開いていた。また、破裂はしていなかった。
有機溶剤の除去率は、41.7%であった。
また、処理後のリチウムイオン二次電池の内部を観察したところ、正極、及び負極の破損、変質(例えば、アルミニウム、銅の酸化)などは起こっていなかった。有機溶剤による臭気もほとんどなかった。更に、処理後のリチウムイオン二次電池内の正極及び負極は、手作業により容易に分離できた。そのため、正極及び負極のそれぞれを分離して回収することができた。
【0047】
(実施例3)
実施例1において、加熱の温度を150℃に変えた以外は、実施例1と同様にして、有機溶剤の除去を行った。炉から取り出したリチウムイオン二次電池は安全弁が開いていた。また、破裂はしていなかった。
有機溶剤の除去率は、78.6%であった。
また、処理後のリチウムイオン二次電池の内部を観察したところ、正極、及び負極の破損、変質(例えば、アルミニウム、銅の酸化)などは起こっていなかった。有機溶剤による臭気もほとんどなかった。更に、処理後のリチウムイオン二次電池内の正極及び負極は、手作業により容易に分離できた。そのため、正極及び負極のそれぞれを分離して回収することができた。
【0048】
(実施例4)
実施例1において、加熱の際の炉内圧力を60kPaに変えた以外は、実施例1と同様にして、有機溶剤の除去を行った。炉から取り出したリチウムイオン二次電池は安全弁が開いていた。また、破裂はしていなかった。
有機溶剤の除去率は、59.6%であった。
また、処理後のリチウムイオン二次電池の内部を観察したところ、正極、及び負極の破損、変質(例えば、アルミニウム、銅の酸化)などは起こっていなかった。更に、処理後のリチウムイオン二次電池内の正極及び負極は、手作業により容易に分離できた。そのため、正極及び負極のそれぞれを分離して回収することができた。
【0049】
(実施例5)
実施例1において、加熱の温度を160℃に変えた以外は、実施例1と同様にして、有機溶剤の除去を行った。炉から取り出したリチウムイオン二次電池は安全弁が開いていた。また、破裂はしていなかった。
有機溶剤の除去率は、82.4%であった。
また、処理後のリチウムイオン二次電池の内部を観察したところ、正極、及び負極の破損、変質(例えば、アルミニウム、銅の酸化)などは起こっていなかった。また、処理後のリチウムイオン二次電池内の正極及び負極の分離を試みたが、セパレーターの一部に溶解がみられ、正極及び負極の手作業による分離、及び回収は、実施例1〜4よりも時間が掛かった。
【0050】
(比較例1)
実施例1において、加熱の温度を95℃に変えた以外は、実施例1と同様にして、有機溶剤の除去を行った。炉から取り出したリチウムイオン二次電池は安全弁が開いていた。また、破裂はしていなかった。
有機溶剤の除去率は、26.3%であった。
また、処理後のリチウムイオン二次電池の内部を観察したところ、正極、及び負極の破損、変質(例えば、アルミニウム、銅の酸化)などは起こっていなかった。
【0051】
(比較例2)
実施例1において、加熱の際の炉内圧力を70kPaに変えた以外は、実施例1と同様にして、有機溶剤の除去を行った。炉から取り出したリチウムイオン二次電池は安全弁が開いていた。また、破裂はしていなかった。
有機溶剤の除去率は、35.6%であった。
また、処理後のリチウムイオン二次電池の内部を観察したところ、正極、及び負極の破損、変質(例えば、アルミニウム、銅の酸化)などは起こっていなかった。
【0052】
(比較例3)
実施例1において、加熱工程の前に、リチウムイオン二次電池をカッターにより開口した以外は、実施例1と同様にして、有機溶剤の除去、及び回収を行った。
有機溶剤の除去率は、67.6%であった。
なお、開口の前には、リチウムイオン二次電池の放電を行う放電工程が必要であった。また、開口により有機溶剤の臭気がしたため、防毒マスクをする必要であった。また、揮発した有機溶剤による火災を防ぐため、静電気防止対策が必要であった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のリチウムイオン二次電池からの有機溶剤の除去方法は、リチウムイオン二次電池から簡単かつ安全に電解質の有機溶剤を除去可能であるため、リチウムイオン二次電池からの有機溶剤の除去に好適に適用できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口していないリチウムイオン二次電池を25kPa〜65kPaの圧力下、100℃以上の温度で加熱する加熱工程を含むこと特徴とするリチウムイオン二次電池からの有機溶剤の除去方法。
【請求項2】
加熱工程中にリチウムイオン二次電池の安全弁が開く請求項1に記載のリチウムイオン二次電池からの有機溶剤の除去方法。
【請求項3】
圧力が、35kPa〜65kPaである請求項1から2のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池からの有機溶剤の除去方法。
【請求項4】
加熱温度が、100℃〜160℃である請求項1から3のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池からの有機溶剤の除去方法。

【公開番号】特開2013−109841(P2013−109841A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251653(P2011−251653)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(506347517)DOWAエコシステム株式会社 (83)
【Fターム(参考)】