説明

リチウムイオン二次電池の製造方法

【課題】 密着強度が高い負極板を有し,サイクル特性の高いリチウムイオン二次電池の製造方法を提供すること。
【解決手段】 金属箔の少なくとも一方の表面に負極合材ペーストを塗工後,乾燥することにより負極活物質層を形成してなる負極板を用いるリチウムイオン二次電池の製造方法が本発明の適用対象である。本発明のリチウムイオン二次電池の製造方法はさらに,負極合材ペーストとして,いずれも粉末状の負極活物質および第1の増粘剤を,溶媒とともに混練する第1の混練と,第1の混練後の混練物に第2の増粘剤と溶媒とを加えて混練する第2の混練と,第2の混練後の混練物に結着材を加えて混練する第3の混練とにより製造したものを用いる。また,第1の増粘剤として分子量が33万以下のカルボキシメチルセルロースを用い,第2の増粘剤として分子量が33万以上のカルボキシメチルセルロースを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,金属箔の表面に負極合材ペーストを塗工後,乾燥させることにより負極活物質層を形成してなる負極板を備えるリチウムイオン二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年,リチウムイオン二次電池は,携帯電話やノート型パソコンなどを始めとするポータブル電子機器のみならず,ハイブリッド自動車や電気自動車などの車両用の電源として注目されている。リチウムイオン二次電池は,シート状の正極板および負極板を,これらの間にはシート状のセパレータを挟み込みつつ捲回または積層してなる電極体を備えている。
【0003】
リチウムイオン二次電池の電極板は,集電体である金属箔の表面に活物質層を形成することにより製造される。そして,電極板には,集電体と活物質層との密着強度が高いことが要求される。活物質層が剥離した箇所では,集電体と活物質層との間の抵抗が大きくなる。このため,そのリチウムイオン二次電池は,充放電性能を十分に発揮することができなくなるからである。
【0004】
活物質層は,一般的に,集電体の表面に活物質などの電極材料を含む合材ペーストを塗工後,乾燥することにより形成される。このため,電極板の密着強度は,合材ペーストの質に影響される。密着強度の高い電極板を製造するためには,特に,成分の分布に偏りのない均質な合材ペーストを製造することが重要である。
【0005】
例えば特許文献1には,負極板の製造に用いる負極合材ペーストを,初混練工程,希釈混練工程,仕上げ混練工程の3つの混練工程により製造する方法が開示されている。ここで,初混練工程においては,活物質である黒鉛を増粘剤の水溶液とともに混練している。希釈混練工程においては,初混練工程後の混練物に増粘剤の水溶液をさらに加えて希釈しつつ混練している。仕上げ混練工程においては,希釈混練工程後の混練物に結着材を加えつつ混練している。そして,これらの混練工程により製造した負極合材ペーストを用いることにより,集電体と活物質層との密着強度が高い負極板を製造することができるとされている。さらに,密着強度の高い負極板を用いることにより,サイクル特性の高いリチウムイオン二次電池を製造することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−092760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで,黒鉛や増粘剤などの粉末成分は,溶媒である水と混ざり合った際にこれを吸収する。そして,その吸水量は,粉末成分を製造したメーカーや,さらにはその製造ロットにより異なる。つまり,粉末成分に対する水の量は,粉末成分の吸水量に応じて混練時に適切に調整されなければならないのである。
【0008】
しかしながら,前記した従来の技術においては,粉末成分である黒鉛および増粘剤に対する水の量を,混練時に適切に調整することができない。溶媒である水を,すべて増粘剤の水溶液の状態で加えているからである。このため,完成した負極合材ペーストの粘度がばらついてしまい,密着強度の高い負極板を安定して製造することができないおそれがあった。そして,負極板の密着強度が低かった場合,そのリチウムイオン二次電池においては,充放電とともに負極板の剥離が発生しやすくなる。すなわち,サイクル特性が低下してしまうおそれがあった。
【0009】
本発明は,前記した従来の技術が有する問題点の解決を目的としてなされたものである。すなわちその課題とするところは,密着強度が高い負極板を有し,サイクル特性の高いリチウムイオン二次電池の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題の解決を目的としてなされた本発明のリチウムイオン二次電池の製造方法は,金属箔の少なくとも一方の表面に負極合材ペーストを塗工後,乾燥することにより負極活物質層を形成してなる負極板を用いるリチウムイオン二次電池の製造方法であって,負極合材ペーストとして,いずれも粉末状の負極活物質および第1の増粘剤を,溶媒とともに混練する第1の混練と,第1の混練後の混練物に第2の増粘剤と溶媒とを加えて混練する第2の混練と,第2の混練後の混練物に結着材を加えて混練する第3の混練とにより製造したものを用い,第1の増粘剤は,分子量が33万以下のカルボキシメチルセルロースであり,第2の増粘剤は,分子量が33万以上のカルボキシメチルセルロースであることを特徴とするリチウムイオン二次電池の製造方法である。
【0011】
すなわち,第1の混練において,黒鉛およびCMCを,いずれも粉末のまま用いる。これにより,黒鉛およびCMCに対する水の量を混練時に調整することができ,適正な粘度の負極合材ペーストを安定して製造することができる。また,増粘剤であるカルボキシメチルセルロース(CMC)は分子量が小さいほど,負極活物質に付着しやすく,水中に分散しやすい性質を示す。さらに,負極活物質は,その表面をCMCに均一に被覆されることにより,分散しやすくなる。そして,分子量が33万以下のCMCは,負極活物質の表面を均一に被覆することができるとともに,溶媒中に好適に分散することができる。つまり,第1の混練により,負極活物質を分散しやすい状態にすることができる。また,CMCを分散させにくい第1の混練においても,負極活物質を被覆していない未付着分のCMCを,溶媒中に好適に分散させることができる。一方,CMCは,分子量が大きいほど,その混練物の粘度を高くする。そして,分子量が33万以上のCMCは,その混練物の粘度を適度に高くすることができる。つまり,第2の混練により,混練物を,各成分が沈降しにくい状態にすることができる。これにより,各成分が好適に分散した,沈降しにくい負極合材ペーストを製造することができる。すなわち,成分の分布に偏りのない均質な負極合材ペーストを製造することができる。従って,負極板の密着強度が高く,サイクル特性の高いリチウムイオン二次電池を製造することができるのである。
【0012】
また,上記に記載のリチウムイオン二次電池の製造方法において,第1の混練における混練のトルクが,第2および第3の混練における混練のトルクの1倍以上,2.3倍以下であることが好ましい。第1の混練は,いずれも粉末状の負極活物質およびCMCを,溶媒とともに最初に混練する工程である。つまり,第1の混練においては,負極活物質およびCMCがまだ完全に溶媒中に分散しておらず,これらにせん断力が掛かかってしまう状態である。よって,第1の混練のトルクが大き過ぎる場合には,負極活物質を損傷させるおそれがあるのである。一方,第1の混練のトルクが小さ過ぎる場合には,特に負極活物質を被覆していない未付着分のCMCを混練物中に均一に分散させることができない。よって,第1の混練における混練のトルクは,大き過ぎても小さ過ぎても好ましくなく,上記の範囲内であることが好ましいのである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば,密着強度が高い負極板を有し,サイクル特性の高いリチウムイオン二次電池の製造方法が提供されている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施形態に係る電池の断面図である。
【図2】実施形態に係る電池の断面図(図1のA−A断面図)である。
【図3】実施形態に係る電池の断面図(図1のB−B断面図)である。
【図4】実施形態に係る電池の拡大断面図(図3のC部)である。
【図5】実施形態に係る負極合材ペーストの製造方法の概略工程を示す図である。
【図6】第1混練工程における混合粉末および固形分率による混練物の粘度の違いを例示するグラフ図である。
【図7】負極板の剥離試験の結果を示すグラフ図である。
【図8】二次電池のサイクル試験の結果を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下,本発明を具体化した最良の形態について,図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0016】
[二次電池]
図1に本形態に係る二次電池1の断面図を示す。二次電池1は,本発明のリチウムイオン二次電池の製造方法により製造されたものである。図1に示すように,二次電池1は,電極体10と,電解液50と,これら電極体10および電解液50を収容する電池ケース60とを備えるリチウムイオン二次電池である。電池ケース60は電池ケース本体61と封口板62とを備えている。また,封口板62は,絶縁部材63を備えている。
【0017】
電解液50は,有機溶媒に電解質を溶解させたものである。特に限定する訳ではないが,本形態における有機溶媒は,エチレンカーボネート(EC),ジメチルカーボネート(DMC),エチルメチルカーボネート(EMC)を混合したものである。また,電解液50においては,これらの有機溶剤を,次の体積比で混合している。
EC :3
DMC :3
EMC :4
さらに,電解液50は,上記の混合有機溶媒に,電解質であるリチウム塩として六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を添加し,Liイオンを1mol/lの濃度とした有機電解液である。
【0018】
図2は,図1に示すA−A断面による二次電池1の断面図である。図2に示すように,電極体10は,扁平形状をした捲回型の電極体である。また,図3は,図1に示すB−B断面による二次電池1の断面図である。図2および図3に示すように,電極体10は,帯状の正極板20と帯状の負極板30とを,これらの間に帯状でかつ正極板20および負極板30より幅狭のセパレータ40を挟み込みつつ捲回したものである。
【0019】
セパレータ40としては,ポリプロピレン(PP),ポリエチレン(PE)などの多孔性フィルムや,これらをその厚さ方向に複数積層させた複合材料を用いることができる。本形態においては,セパレータ40として,PP/PE/PPよりなる複合材料を用いている。
【0020】
図4は,図3に示す二次電池1のC部の拡大断面図である。図4に示すように,正極板20は,正極集電体であるアルミニウム箔21の両面に,正極活物質層22を形成したものである。一方負極板30は,負極集電体である銅箔31の両面に負極活物質層32を形成したものである。
【0021】
また,図3に示すように,正極板20には,セパレータ40および負極板30より図中上向き(図1では右向き)に突出した部分がある。正極板20のこの部分には正極活物質層22は形成されておらず,アルミニウム箔21が露出している。正極板20は,この部分において,正極端子70と接続されている。
【0022】
一方,負極板30には,セパレータ40および正極板20より図3中下向き(図1では左向き)に突出した部分がある。負極板30のこの部分には,負極活物質層32は形成されておらず,銅箔31が露出している。負極板30は,この部分において,負極端子80と接続されている。
【0023】
さらに,図1に示すように,正極端子70と負極端子80とは,それぞれ電極板に接続されていない側の端71,81を,絶縁部材63を介し,電池ケース60の外部に突出させている。
【0024】
[正極板の製造方法]
本形態に係る正極板20の製造方法について説明する。正極板20は,アルミニウム箔21の表面に,正極活物質層22を形成してなるものである。本形態においては,正極活物質層22を,正極材料を溶媒中に分散させてなる正極合材ペーストをアルミニウム箔21の表面に塗工後,乾燥することにより形成した。
【0025】
また,正極材料として,正極活物質である三元系のLiNi1/3Co1/3Mn1/3と,導電助剤であるアセチレンブラック(AB)と,結着材であるポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを用いている。正極活物質であるLiNi1/3Co1/3Mn1/3は,正極活物質層22において,充放電に寄与する成分である。導電助剤であるABは,正極活物質層22内の導電性を高くするための成分である。結着材であるPVdFは,正極活物質層22内の各成分を互いに結着させつつ,正極活物質層22をアルミニウム箔21の表面に結着させるための成分である。
【0026】
本形態における,これら正極材料の正極合材ペースト中における配合比を,以下に示す。
LiNi1/3Co1/3Mn1/3 :90wt%
AB :5wt%
PVdF :5wt%
【0027】
[負極板の製造方法]
本発明に係る負極板30の製造方法について説明する。負極板30は,銅箔31の表面に,負極活物質層32を形成してなるものである。本形態においては,負極活物質層32を,負極材料を溶媒中に分散させてなる負極合材ペーストを銅箔31の表面に塗工後,乾燥することにより形成した。
【0028】
また,負極材料として,負極活物質である黒鉛と,増粘剤であるカルボキシメチルセルロース(CMC)と,結着材であるスチレンブタジエンゴム(SBR)とを用いている。負極活物質である黒鉛は,負極活物質層32において,充放電に寄与する成分である。本形態に用いる黒鉛は,詳細には平均粒径が10μmの天然黒鉛である。増粘剤であるCMCは,負極合材ペースト内に,各成分を均一に分散させるための成分である。結着材であるSBRは,負極活物質層32内の各成分を互いに結着させつつ,負極活物質層32を銅箔31の表面に結着させるための成分である。また,本形態においては,溶媒として水を用いている。
【0029】
本形態の負極合材ペーストの製造方法について,図5に示す概略工程図を用いて説明する。図5に示すように,本形態の負極合材ペーストは,上記の負極材料と水とを用いて「第1混練工程」,「第2混練工程」,「第3混練工程」の3つの混練工程を順次行うことにより製造されたものである。なお,本形態における負極合材ペーストは,第1〜3のすべての混練工程を完了させることにより製造されたものである。各混練工程における混練途中のものは,混練物として説明している。
【0030】
本形態における,上記の負極材料の負極合材ペースト中における配合比を,以下に示す。
黒鉛 :98.2wt%(第1混練工程)
CMC :1.0wt% (第1混練工程0.5wt%+第2混練工程0.5wt%)
SBR :0.8wt% (第3混練工程)
また,上記に括弧で示すように,黒鉛は,第1混練工程において,そのすべての量を投入している。CMCは,第1混練工程と第2混練工程とに分けて,そのすべての量を投入している。SBRは,第3混練工程において,そのすべての量を投入している。
【0031】
まず,「第1混練工程」について説明する。第1混練工程は,黒鉛とCMCと水とを混練装置に収容し,最初に行う混練工程である。また,黒鉛を,その表面にCMCを付着させることにより,CMCにより均一に被覆するための混練工程である。さらに,CMCで被覆した黒鉛と,黒鉛に付着していない未付着分のCMCとを,水中に均一に分散させるための混練工程である。黒鉛は,その表面がCMCにより均一に被覆されることにより,水中に分散しやすい状態となる。これにより,最終的には,黒鉛が均一に分布した均質な負極合材ペーストを製造することができるのである。
【0032】
なお,前述したように,第1混練工程で用いた黒鉛の量は,負極合材ペースト中の負極材料の重量に対し,98.2wt%となる量である。また,CMCの量は,負極合材ペースト中の負極材料の重量に対し,0.5wt%となる量である。
【0033】
第1混練工程は,混練装置に,まず黒鉛およびCMCをそれぞれ粉末のまま収容して混ぜ合わせることにより混合粉末とし,その後,水を加えて混練することが好ましい。黒鉛の表面を,CMCにより均一に被覆させやすいからである。また,CMCで被覆した黒鉛および未付着分のCMCを,水中に均一に分散させやすいからである。
【0034】
第1混練工程においては,黒鉛およびCMCを,いずれも粉末のまま用いている。これは,黒鉛およびCMCに対する水の量を調整し,適正な粘度の混練物を安定して製造するためである。さらには,これを用いることにより,適正な粘度の負極合材ペーストを安定して製造するためである。例えば,黒鉛と,予めCMCを水に分散させたCMC水溶液とを用いた場合,黒鉛およびCMCに対する水の量を調整することができない。負極活物質層32を形成するための黒鉛およびCMCの配合比は,二次電池1として要求される仕様により,予め決まっているからである。
【0035】
ここで,黒鉛およびCMCには,その製造過程において,品質のばらつきが発生する。具体的に,黒鉛およびCMCには,吸水量のばらつきが発生する。吸水量とは,黒鉛およびCMCが,混練時に吸収する水の量である。そして,これらの吸収量は,同一仕様のものであっても,各メーカーにより異なる。さらには,同一メーカーの同一仕様のものであっても,その製造ロットにより異なる。このため,例えば異なるロットで製造された黒鉛およびCMCを同じ配合比で混合した場合であっても,吸水量の多い混合粉末と,吸水量の少ない混合粉末とが製造されるのである。
【0036】
図6は,第1混練工程における混合粉末および固形分率による混練物の粘度の違いを例示するグラフ図である。ここでいう固形分率は,固形分である混合粉末が,第1混練工程における混練物中に占める割合のことである。図6において,縦軸は,混練物の粘度である。横軸は,固形分率である。また図6には,それぞれ同一メーカーにおいて異なるロットで製造された黒鉛およびCMCを混ぜ合わせた第1および第2混合粉末について示している。
【0037】
図6に示すように,混練物の粘度は,混合粉末に対する水の量が多過ぎても少な過ぎても適正範囲とならない。そして,いずれの混合粉末においても,その固形分率を,混練物の粘度が適正範囲にあるときの固形分率の範囲の中心の値を目標として調整することが好ましい。調整により目標の固形分率から多少ズレたとしても,その混練物の粘度が適正範囲に納まるからである。つまり,第1混合粉末においては,加える水の量を,固形分率がS1となるように調整することが最適である。一方,第2混合粉末においては,加える水の量を,固形分率がS2となるように調整することが最適である。
【0038】
そして,第2混合粉末に固形分率がS1となる量の水を加えた場合には,水の量が多過ぎるため,粘度が適正範囲よりも低くなる。また反対に,第1混合粉末に固形分率がS2となる量の水を加えた場合には,水の量が少な過ぎるため,粘度が適正範囲よりも低くなる。第1混合粉末と第2混合粉末とは,黒鉛およびCMCのロットが異なることにより,吸水量が異なるからである。
【0039】
よって,本形態においては,第1混練工程の前に,第1混練工程で用いるものとそれぞれ同じロットおよび比率の黒鉛とCMCとを混合させた混合粉末について,これに最適な水の比率を調査している。そして,この調査と同じロットおよび比率の黒鉛とCMCとを混合させた混合粉末に,調査した最適な比率の水を加えつつ第1混練工程を行っているのである。
【0040】
また,黒鉛およびCMCのいずれかのロットが変わる度に,また,第1混練工程で混合させる黒鉛とCMCとの比率が変わる度に改めて同様の調査を行っている。そしてその都度,加える水の比率を再度調査している。これにより,適正な粘度の混練物を安定して製造することができるのである。
【0041】
また,第1混練工程を行う際の混練のトルクは,大き過ぎても小さ過ぎても好ましくない。第1混練工程は,いずれも粉末状の黒鉛およびCMCを,水とともに最初に混練する工程である。つまり,第1混練工程の途中においては,黒鉛およびCMCがまだ完全に水中に分散していない。このため,黒鉛およびCMCが互いに擦れ合うことで,これらにせん断力が掛かかってしまう状態である。そして,混練のトルクが大き過ぎる場合には,混練物中の黒鉛に過剰なせん断力が掛かることとなり,黒鉛を損傷させてしまうおそれがあるのである。さらに,負極活物質である黒鉛が損傷することにより,二次電池1においてはサイクル特性を低下させてしまうおそれがある。
【0042】
一方,混練のトルクが小さ過ぎる場合には,黒鉛およびCMCを混練物中に均一に分散させることができない。特に,黒鉛を被覆していない未付着分のCMCが,混練物中に分散されずに凝析してしまうおそれがある。すなわち,第1混練工程においては,混練物を適正なトルクで混練しなければならないのである。そして具体的には,第1混練工程における混練のトルクは,第2,第3混練工程における混練のトルクの1〜2.3倍の範囲内であることが好ましい。
【0043】
また,第1混練工程に用いるCMCの分子量は,33万以下であることが好ましい。一般に,CMCは分子量が小さいほど,黒鉛に付着しやすく,水中に分散しやすい性質を示す。そして,分子量が33万以下のCMCは,黒鉛の表面を均一に被覆することができるのである。さらに,黒鉛を被覆していない未付着分のCMCは,水中に好適に分散されなければならない。これが分散されずに凝析した場合には,均質な負極合材ペーストを製造することができないからである。そして,分子量が33万以下のCMCは,水中に好適に分散することができるのである。
【0044】
なお,第1混練工程において分子量が33万より大きいCMCを用いた場合には,CMCが黒鉛に付着しにくい。また,分子量が33万より大きいCMCは,それ自体も水中に分散しにくい。よってこの場合には,黒鉛および未付着分のCMCを水中に好適に分散させるため,大きなトルクで混練しなければならない。つまり,黒鉛を損傷させてしまうおそれがあるのである。
【0045】
また,第1混練工程において加えるCMCの量は,黒鉛を均一に被覆するのに十分な量であればよい。すなわち,黒鉛を被覆しない未付着分のCMCは,この段階では少ない方が好ましい。混練のトルクが同じであっても,CMCの量が多い程,混練物に掛かるせん断力が大きくなるからである。すなわち,黒鉛を損傷させるおそれが高くなるからである。
【0046】
次に,「第2混練工程」について説明する。第2混練工程は,第1混練工程後の混練物にCMCおよび水を加えて行う混練工程である。また,混練物中の成分の沈降を抑制するため,混練物の粘度を高くする混練工程である。負極合材ペーストにおいては,その粘度が低いほど,黒鉛などの成分が沈降しやすい。そして,負極合材ペーストは製造された後,直ぐに塗工されるとは限らない。製造後,塗工されるまでの間,しばらく保管されることもある。よって,粘度が過度に低い負極合材ペーストにおいては,塗工されるときには均質でなくなってしまうおそれがあるのである。なお,第2混練工程で加えたCMCの量は,負極合材ペースト中の負極材料の重量に対し,0.5wt%となる量である。
【0047】
第2混練工程においては,第1混練工程の完了した混練部が収容された混練装置に,粉末状のCMCと水とをそれぞれ別で加えてもよいし,予めCMCを水中に分散させたCMC水溶液として加えてもよい。ただし,第1混練工程だけでは,吸水量のばらつきによる固形分率の調整が不十分な場合がある。この場合には,第2混練工程において粉末状のCMCと水とをそれぞれ別で加えつつ,再度,固形分率を微調整すればよい。
【0048】
そして,第2混練工程で加えるCMCの分子量は,33万以上であることが好ましい。一般に,CMCは分子量が大きいほど,混練物の粘度を高くする。そして,分子量が33万以上のCMCは,混練物の粘度を適度に高くすることができるのである。これにより,成分が沈降しにくく,塗工時においても均質な負極合材ペーストを製造することができるのである。
【0049】
第2混練工程において分子量が33万より小さいCMCを用いた場合には,混練物の粘度が高くなりにくい。そこで,混練物の粘度を高くするため,分子量が33万より小さいCMCを大量に加えることも考えられる。混練物に対するCMCの比率を大きくするほど,粘度は高くなるからである。しかし,CMCを過剰に加えた場合には,負極活物質層32の内部抵抗を増加させるため好ましくない。CMCは,充放電に寄与しない抵抗成分だからである。
【0050】
なお,前述したように,第1混練工程においては,分子量が33万より大きいCMCを用いることができない。これは,第1混練工程が,黒鉛の表面をCMCにより均一に被覆することを主目的とした混練工程だからである。しかし,第2混練工程における黒鉛は,第1混練工程により,分子量が33万以下のCMCにより均一に被覆されている。よって,第2混練工程では,黒鉛に付着しやすいCMCを用いる必要はないのである。
【0051】
また,第2混練工程は,第1混練工程が完了し,黒鉛およびCMCが好適に分散した状態の混練物に,CMCおよび水を加えて混練する工程である。このため,第2混練工程の混練物においては,CMCを粉末状で加えた場合であっても,粉末状態の成分がそれのみである。これにより,分子量が33万以上のCMCであっても分散しやすく,凝析するおそれがないのである。
【0052】
次に,「第3混練工程」について説明する。第3混練工程は,第2混練工程後の混練物に結着材であるSBRを加えつつ,仕上げの混練を行うための工程である。第3混練工程においては,第2混練工程が完了した混練部が入った混練装置に,粉末状のSBRを加えて混練を行った。第3混練工程で加えたSBRの量は,負極合材ペースト中の負極材料の重量に対し,0.8wt%となる量である。
【0053】
以上において説明したように,「第1混練工程」,「第2混練工程」,「第3混練工程」の3つの混練工程により,本形態の負極合材ペーストを製造した。また,これらの混練工程を経て完成した負極合材ペーストの粘度は,せん断速度が2sec−1のとき2000〜3000mPa・sの範囲内となるよう調整されている。
【0054】
[効果の確認]
本発明者は,この発明の効果を確認するため,以下の2つの試験を行った。
1.剥離試験
2.サイクル試験
【0055】
「1.剥離試験」について説明する。この試験を行うため,まず,実施例1〜3,比較例1,2,従来例の負極板を作製した。作製した負極板の,それぞれの作製条件を表1に示す。なお,表1中の「混練トルク比」は,第2,第3混練工程における混練のトルクに対する,第1混練工程における混練のトルクの比のことである。また,以下において特に言及しない条件については,いずれも本形態の負極板の製造方法と同じ条件で作製している。例えば,用いた負極材料の種類やそれの配合比,混練に用いた混練装置などは同じである。
【0056】
【表1】

【0057】
実施例1〜3および比較例1,2の負極板は,本形態の負極板の製造方法と同じ手順で作製したものである。ただし,実施例1〜3の負極板においては,前述した条件をすべて満たす方法で作製した。一方,比較例1,2の負極板においては,前述した条件のうち,少なくとも1つは満たさない方法で作製した。すなわち,比較例1の負極板については,第2混練工程で用いたCMCの分子量が28万であり,前述した条件である「33万以上」を満たしていない。比較例2の負極板については,第1混練工程で用いたCMCの分子量が35万であり,前述した条件である「33万以下」を満たしていない。なお,混練トルク比については,比較例1,2の負極板はいずれも,前述した条件である「1〜2.3倍の範囲内」を満たしている。
【0058】
また,従来例の負極板は,本形態の負極板の製造方法とは一部異なる手順で作製した。すなわち,負極材料のうちの黒鉛およびCMCをすべて,第1混練工程で加えた。よって,第2混練工程においては,CMCを一切加えておらず,第1混練工程の完了した混練物に水のみを加えた。さらに,従来例の負極板については,第1混練工程の混練トルクが,第2,3混練工程の混練のトルクの10倍であり,前述した条件である「1〜2.3倍の範囲内」を満たしていない。
【0059】
剥離試験においては,以上の条件で作製した実施例1〜3,比較例1,2,従来例の負極板を用い,それぞれ銅箔と負極活物質層との間で90°剥離試験を行った。図7に剥離試験の結果を示す。図7に示すように,本発明に係る実施例1〜3の負極板の剥離強度はすべて,比較例1,2および従来例の負極板の剥離強度よりも高いことが確認された。
【0060】
そして,剥離試験の結果より,以下のことが考えられる。まず,比較例1の負極板においては,第2混練工程で用いたCMCの分子量が,「33万以上」を満たしていない。これにより,完成した負極合材ペーストの粘度が低く,成分が沈降してしまったと考えられる。比較例2の負極板においては,第1混練工程で用いたCMCの分子量が,「33万以下」を満たしていない。これにより,黒鉛を被覆していない未付着分のCMCが凝析してしまったと考えられる。従来例の負極板においては,第1混練工程ですべてのCMCを加えている。このため,第1混練工程におけるCMCが過剰であり,大きなトルクで混練したにもかかわらず,これが凝析してしまったと考えられる。すなわち,比較例1,2および従来例の負極板はいずれも,負極材料の偏りが発生した不均質な負極合材ペーストを用いて作製されている。よって,これらの負極板においては,銅箔と負極活物質層との密着強度が低かったと考えられる。
【0061】
一方,実施例1〜3の負極板はいずれも,本形態の負極板の製造方法に従い,負極材料の分布に偏りのない均質な負極合材ペーストを用いて作製されている。これにより,銅箔と負極活物質層との密着強度が高い負極板となっている。
【0062】
次に,「2.サイクル試験」について説明する。この試験を行うため,まず,実施例1〜3,比較例1,2,従来例の二次電池を作製した。これらの二次電池にはそれぞれに,「1.剥離試験」に用いたものと同様の方法で作製した実施例1〜3,比較例1,2,従来例の負極板を用いている。また,これらの二次電池の構成はいずれも,負極板以外は二次電池1の構成と同じである。
【0063】
サイクル試験においては,実施例1〜3,比較例1,2,従来例の二次電池をそれぞれ,繰り返し充放電させた。サイクル試験の共通の条件として,満充電容量(Ah)に対する電流値(A)の比で表わされるCレートが2Cの電流で充放電させた。また充放電させる範囲を,残電池容量を満充電状態の電池容量に対する比で表わしたSOC(Stat
e Of Charge)が30〜90%の範囲内とした。さらに,これらの条件での充放電を,500サイクル繰り返した。
【0064】
図8にサイクル試験の結果を示す。図8の縦軸に示す容量維持率は,実施例1〜3,比較例1,2,従来例の二次電池それぞれの,最初に満充電したときの電池容量に対する,サイクル試験後に満充電したときの電池容量の比である。そして,図8に示すように,本発明に係る実施例1〜3の二次電池の容量維持率はすべて,比較例1,2および従来例の二次電池の容量維持率よりも高いことが確認された。
【0065】
そして,サイクル試験の結果より,以下のことが考えられる。まず,剥離試験の結果より,比較例1,2および従来例の負極板はいずれも,銅箔と負極活物質層との密着強度が低い。つまり,これら密着強度の低い負極板を用いて作製された二次電池においては,充放電に伴い膨張収縮した負極活物質層が,銅箔から一部剥がれてしまったと考えられる。よって,剥離した部分の充放電反応が起こらなくなり,容量維持率が低下したと考えられる。
【0066】
さらに,比較例2の負極板においては,第1混練工程で用いたCMCの分子量が33万より大きく,CMCの分散が不十分であったと考えられる。また,従来例の負極板においても,第1混練工程におけるCMCが過剰であるため,CMCの分散が不十分であったと考えられる。このため,比較例2および従来例の二次電池の負極板においては,分散が不十分であったCMCを基点とし,充放電を繰り返すうちにLiが析出してしまったと考えられる。よって,比較例2および従来例の二次電池では,充放電に寄与するLiイオンが徐々に不足し,容量維持率が低下したと考えられる。
【0067】
一方,実施例1〜3の二次電池はいずれも,密着強度の高い負極板を用いて作製されている。さらに,実施例1〜3の二次電池はいずれも,負極材料の分布に偏りのない均質な負極合材ペーストを用いて作製された負極板を用いて構成されている。よって,容量維持率が高く,サイクル特性に優れた二次電池となっている。
【0068】
以上,詳細に説明したように,本実施の形態に係る負極板30は,銅箔31の表面に,負極材料を水に分散させてなる負極合材ペーストを塗工後,乾燥させることにより負極活物質層32を形成してなるものである。そして,負極合材ペーストは,いずれも粉末状の黒鉛およびCMCを水とともに混練する第1混練工程と,さらにCMCと水とを加えて混練する第2混練工程と,さらにSBRを加えて混練する第3混練工程とにより製造されたものである。また,第1混練工程に用いるCMCの分子量は,33万以下である。第2混練工程で加えるCMCの分子量は,33万以上である。加えて,第1混練工程における混練のトルクは,第2,第3混練工程における混練のトルクの1〜2.3倍の範囲内である。これにより,密着強度の高い負極板が製造されている。また,その負極板を用いることにより,サイクル特性の高いリチウムイオン二次電池が実現されている。
【0069】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。従って本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,扁平型のリチウムイオン二次電池に限らず,捲回型電極体を用いる電池であれば,同様に適用することができる。また例えば,捲回しないで負極板と正極板とを積層してなる積層型電極体を有するリチウムイオン二次電池にも適用することができる。
【0070】
また例えば,正極材料や負極材料をはじめとする各種の材料は単なる一例であり,従来からリチウムイオン二次電池に使用されている種々のものから選択することも可能である。また,負極合材ペーストを構成する溶媒としては水に限らず,水を主体とする混合溶媒であれば好ましく用いることができる。該混合溶媒を構成する水以外の溶媒としては,水と均一に混合し得る有機溶剤(低級アルコール,低級ケトン等)の一種または二種以上を適宜選択して用いることができる。また,これらの溶媒のうち,第1混練工程と第2混練工程とにそれぞれ異なるものを用いることも可能である。
【符号の説明】
【0071】
1…二次電池
30…負極板
31…銅箔
32…負極活物質層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属箔の少なくとも一方の表面に負極合材ペーストを塗工後,乾燥することにより負極活物質層を形成してなる負極板を用いるリチウムイオン二次電池の製造方法において,
前記負極合材ペーストとして,
いずれも粉末状の負極活物質および第1の増粘剤を,溶媒とともに混練する第1の混練と,
前記第1の混練後の混練物に第2の増粘剤と溶媒とを加えて混練する第2の混練と,
前記第2の混練後の混練物に結着材を加えて混練する第3の混練とにより製造したものを用い,
前記第1の増粘剤は,分子量が33万以下のカルボキシメチルセルロースであり,前記第2の増粘剤は,分子量が33万以上のカルボキシメチルセルロースであることを特徴とするリチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のリチウムイオン二次電池の製造方法において,
前記第1の混練における混練のトルクが,前記第2および第3の混練における混練のトルクの1倍以上,2.3倍以下であることを特徴とするリチウムイオン二次電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−114747(P2013−114747A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256813(P2011−256813)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】