説明

リチウムイオン二次電池の製造方法

【課題】 生産性が高く安価であるとともに,品質の高い電極板を備えたリチウムイオン二次電池の製造方法を提供すること。
【解決手段】 正極と負極とを有し,正極および負極がそれぞれ,集電体とその上に形成された活物質層とを有するリチウムイオン二次電池の製造方法が本発明の適用対象である。本発明のリチウムイオン二次電池の製造方法ではさらに,活物質とバインダーとを少なくとも含む,活物質層を形成するための材料のそれぞれを粉末の状態で混合させてなる粉末成分を供給して堆積させる。その後,集電体上の粉末成分の堆積層を,加熱しつつ堆積層の厚さ方向に加圧することにより製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,リチウムイオン二次電池の製造方法に関する。さらに詳細には,正極と負極とを有し,正極および負極がそれぞれ,集電体とその表面に形成された活物質層とを有するリチウムイオン二次電池の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年,携帯電話,ノート型パソコン,ビデオカムコーダなどのポータブル電子機器やハイブリッド電気自動車などの車両の普及により,これらの駆動用電源に用いられる電池の需要は増大している。このような電池として,リチウムイオン二次電池がある。そして,リチウムイオン二次電池は一般的に,正極板と負極板とをこれらの間にセパレータを挟み込みつつ捲回してなる電極体をケースに挿入し,電解液を注入して封口することにより製造される。
【0003】
リチウムイオン二次電池の電極板は,集電体の表面に活物質層を形成することにより製造される。ここにおいて,活物質層には,少なくとも活物質とバインダーとが含まれている。活物質は,リチウムイオン二次電池の充放電に寄与するものである。バインダーは,活物質を集電体の表面に保持するためのものである。このような電極板の製造方法として,様々な方法が提案されている。
【0004】
例えば,特許文献1および特許文献2には,集電体上に活物質層を構成するための材料を溶媒中に分散させてなる合材ペーストを塗工後,乾燥によって溶媒を除去することにより活物質層を形成する技術が開示されている。
【0005】
また,特許文献3には,集電体上に活物質層を構成するための材料を造粒してなる造粒粉体を供給して堆積させた後,これらを加熱しつつ堆積層の厚さ方向に加圧することにより活物質層を形成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−96800号公報
【特許文献2】特開2010−73547号公報
【特許文献3】特開2009−212113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで,特許文献1および特許文献2では,活物質層の形成に溶媒を用いている。これらのような溶媒を用いた電極板の製造方法には,以下のような問題があった。
【0008】
溶媒を用いた電極板の製造方法には,溶媒を除去するための乾燥工程が必要である。つまり,乾燥炉が必要となる。加えて,特許文献1においては,溶媒として有機溶剤を用いている。このため,蒸発させた後に溶媒を回収する装置が必要となる。乾燥炉や溶媒を回収する装置は大型かつ高価であり,またその稼働には多くのエネルギーを消費する。よって,これらの設備の設置面積やコストが問題であった。
【0009】
また,溶媒は,乾燥させることにより除去され,完成後の電極板には残らないものである。さらに,特許文献2においては,活物質やバインダーなどを溶媒中に均一に分散させるため,カルボキシメチルセルロース(CMC)に代表される増粘材を加えている。しかし,増粘材は,完成後の電極板において充放電に寄与するものではない。すなわち,完成後の電極板において必要のない溶媒や増粘材を,製造過程において用いている。よって,溶媒や増粘材自体のコスト,およびこれらを製造過程に用いることにより生産性を低下させてしまうことが問題であった。加えて,増粘材は完成後の電極板の活物質層内にも存在し,内部抵抗を増加させる要因となっていた。
【0010】
さらには,溶媒を用いた電極板の製造方法においては,溶媒を除去するための乾燥工程により,集電体と活物質層との密着強度が低下してしまうという問題があった。乾燥工程において,溶媒は集電体より遠ざかる向きに移動し,最終的に活物質層の表面から大気へと蒸発する。また,乾燥工程が加熱乾燥の場合,活物質層内には熱対流が生じる。これら溶媒の移動や熱対流により,活物質層中のバインダーは集電体より遠ざかる向きに移動する。その結果,完成後の電極板においては,活物質層の集電体側のバインダーが少なくなってしまうのである。
【0011】
一方,特許文献3においては,集電体に供給する造粒粉体が溶媒を含んでいない。このため,堆積させた造粒粉体を乾燥する必要はない。しかし,特許文献3のような造粒粉体を用いた電極板の製造方法においては,造粒粉体を,活物質層を構成するための材料を造粒することにより製造している。すなわち,活物質層を構成するための材料を一度溶媒中に分散させた後,溶媒を除去することにより製造しているのである。このため,造粒粉体を用いた電極板の製造方法には,造粒粉体の製造過程において,溶媒や増粘材,造粒装置などが必要であった。
【0012】
また,造粒粉体の粒子径は,活物質層を構成するための各材料の元の粒子径より大きい。造粒により,活物質層を構成するための材料同士を互いに付着させているからである。このため,厚みの薄い電極板を製造することができなかった。よって,出力密度の高いリチウムイオン二次電池を製造することができないという問題があった。
【0013】
本発明は,前記した従来の技術が有する問題点の解決を目的としてなされたものである。すなわちその課題とするところは,生産性が高く安価であるとともに,品質の高い電極板を備えたリチウムイオン二次電池の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この課題の解決を目的としてなされた本発明のリチウムイオン二次電池の製造方法は,正極と負極とを有し,正極および負極がそれぞれ,集電体とその上に形成された活物質層とを有するリチウムイオン二次電池の製造方法であって,正極および負極の少なくとも一方を,集電体に,活物質とバインダーとを少なくとも含む,活物質層を形成するための材料のそれぞれを粉末の状態で混合させてなる粉末成分を供給して堆積させ,その後に集電体上の粉末成分の堆積層を,加熱しつつ堆積層の厚さ方向に加圧することにより製造することを特徴とするリチウムイオン二次電池の製造方法である。
【0015】
本発明に用いる粉末成分は,活物質層を形成するための材料のそれぞれを,粉末の状態で混合させたものである。このため,粉末成分の製造から電極板の完成までの工程の全体において,溶媒を用いていない。すなわち,従来の電極板の製造に必要としていた溶媒や増粘材,および溶媒を除去する工程などが不要である。これにより,乾燥工程により電極板の密着強度が低下することや,増粘材により内部抵抗が増加するなど,品質を低下させることがない。さらに,供給される粉末成分の粒子径が小さいため,厚みの薄い電極板を製造することができる。よって,品質の高い電極板を備えたリチウムイオン二次電池を,効率良く安価に生産することができる。
【0016】
また,上記に記載のリチウムイオン二次電池の製造方法であって,バインダーとして,常温では固体であるが軟化開始温度以上とされることで軟化し,その後,軟化開始温度以下とされることで再び固化するホットメルト樹脂を用い,加熱により,粉末成分の堆積層を,前記軟化開始温度以上とすることが好ましい。ホットメルト樹脂は,固化する際において,活物質同士を強固に結着させる。また同時に,活物質と集電体とを,強固に結着させることができる。ホットメルト樹脂はさらに,軟化開始温度に加熱された後,大気放熱などの冷却により速やかに固化する特徴を有している。このため,加熱後の冷却の際,必ずしも冷却装置などを必要としない。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば,生産性が高く安価であるとともに,品質の高い電極板を備えたリチウムイオン二次電池の製造方法が提供されている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施形態に係る電池の断面図である。
【図2】実施形態に係る電池の断面図(図1のA−A断面図)である。
【図3】実施形態に係る電池の断面図(図1のB−B断面図)である。
【図4】実施形態に係る電池の拡大断面図(図3のC部)である。
【図5】実施形態に係る電極板製造装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下,本発明を具体化した最良の形態について,図面を参照しつつ詳細に説明する。本形態は,リチウムイオン二次電池について本発明を具体化したものである。
【0020】
[電池]
図1に本形態に係る電池10の断面図を示す。図1に示すように,電池10は,電極体20と,電解液30と,これら電極体20および電解液30を収容する電池ケース40とを備えるリチウムイオン二次電池である。電池ケース40は電池ケース本体41と封口板42とを備えている。また,封口板42は,絶縁部材43と注液孔44とを備えている。
【0021】
図2は,図1に示すA−A断面による電池10の断面図である。図2に示すように,電極体20は,扁平形状をした捲回型の電極体である。また,図3は,図1に示すB−B断面による電池10の断面図である。図3に示すように,電極体20は,帯状の正極板100と帯状の負極板200とを,これらの間に帯状でかつ正極板100および負極板200より幅狭のセパレータ50を挟み込みつつ捲回したものである。
【0022】
図4は,図3に示す電池10のC部の拡大断面図である。図4に示すように,正極板100は,正極集電体であるアルミニウム箔110の両面に,正極活物質層120を形成したものである。一方負極板200は,負極集電体である銅箔210の両面に負極活物質層220を形成したものである。
【0023】
また,図3に示すように,正極板100には,セパレータ50および負極板200より図中上向き(図1では右向き)に突出した部分がある。正極板100のこの部分には正極活物質層120は形成されておらず,アルミニウム箔110のみである。正極板100は,この部分において,正極端子60と接続している。
【0024】
一方,負極板200には,セパレータ50および正極板100より図3中下向き(図1では左向き)に突出した部分がある。負極板200のこの部分には,負極活物質層220は形成されておらず,銅箔210のみである。負極板200は,この部分において,負極端子70と接続している。
【0025】
さらに,図1に示すように,正極端子60と負極端子70とは,それぞれ電極板に接続していない側の端を,絶縁部材43を介し,電池ケース40の外部に突出させている。このように,正極板100と負極板200とは,それぞれに用いられる材料が異なるのみであって,同様の構造をしている。このため,正極板100の製造方法は,負極板200の製造方法と共通している。本形態では,本発明を負極板200に適用したものについて説明する。
【0026】
[電極板製造装置]
図5は,本形態の電極板の製造方法に用いる電極板製造装置1の概略構成図である。ただし以下では,前述したように,電極板製造装置1により,負極板200を製造する場合について説明する。電極板製造装置1は,粉体供給部2,スキージ3,プレスローラ4,プレスローラ5を備えている。電極板製造装置1には,銅箔210が,図5中左より矢印Xの向きに供給される。その後銅箔210は,電極板製造装置1より,図5中右向きに搬出される。
【0027】
ここにおいて,図5における銅箔210の上面を,第1面とする。また,銅箔210の下面を,第2面とする。銅箔210の第1面には,電極板製造装置1に供給されてくる時において,まだ何も形成されていない。そして,電極板製造装置1は,銅箔210の第1面に,負極活物質層220を形成するためのものである。
【0028】
粉体供給部2は,銅箔210の第1面に,一定量の粉末成分230を,連続的に供給するためのものである。また,スキージ3は,粉体供給部2により供給された粉末成分230を,所定の厚さに均すためのものである。
【0029】
粉末成分230は,負極活物質231とバインダー232とを混合したものである。詳細には,粉末状態の負極活物質231と粉末状態のバインダー232とを,例えば混合装置などを用いることにより混ぜ合わせ,これらを均一に分布させたものである。
【0030】
負極活物質231としては,従来よりリチウムイオン二次電池の負極用の活物質として使用されているものであれば好ましく用いることができる。そのようなものとして,炭素系材料,リチウム遷移金属複合酸化物,リチウム遷移金属複合窒化物などが例示される。
【0031】
バインダー232としては,常温では固体であるが一定温度以上に加熱されることで軟化し,冷却により再び固化する性質を有するホットメルト樹脂が好ましい。さらには,用いられる電極の電位に耐えうるものが好ましい。そのようなものとして,ポリプロピレン(PP),ポリアクリロニトリル(PAN)などが例示される。
【0032】
なお,本形態においては,負極活物質231として,炭素系材料であるアモルファスコート黒鉛を用いている。また,バインダー232として,PANを用いている。そして,本形態の粉末成分230は,負極活物質231とバインダー232とを,次の比率(wt%)で混合したものである。
負極活物質:97
バインダー:3
【0033】
プレスローラ4とプレスローラ5とは,これらの間を通過する対象物を加圧することができる一対の加圧ローラである。さらに,プレスローラ4とプレスローラ5とは,これらの間を通過する対象物を,その通過時において加熱することができるものである。すなわち,プレスローラ4とプレスローラ5とは,これらの間を通過する対象物を,加熱しつつ加圧することができるのである。また,銅箔210の第1面側に位置しているプレスローラ4の表面には,離型剤による表面処理など,摩擦を小さくする処理が施されていることが好ましい。粉末成分230が付着することを防止するためである。
【0034】
[電極板の製造方法]
次いで電極板の製造方法について説明する。本形態では,集電体の上に活物質層を形成することによる負極板の製造を,電極板製造装置1を用いて,概略,次の工程によって行う。
1.粉末成分の供給
2.加熱・加圧
そして以下,上記1から2の工程に沿って順に説明する。
【0035】
まず,「1.粉末成分の供給」について説明する。この工程は,粉体供給部2およびスキージ3により行われる。電極板製造装置1に矢印Xの向きに供給された銅箔210は,図5に示すように,粉体供給部2に到達する。この時の銅箔210の第1面および第2面には,まだ何も形成されていない。そして,粉体供給部2に到達した銅箔210の第1面には,粉末成分230が供給される。よって,粉体供給部2を通過した後の銅箔210の第1面には,粉末成分230が堆積されている。
【0036】
粉末成分230が堆積した銅箔210は,次に,スキージ3を通過する。堆積した粉末成分230は,スキージ3を通過することにより,所定の厚さに均される。そして,粉体供給部2により供給され,スキージ3を通過した粉末成分230の堆積層の厚さは,125μm程度となるように調整されている。
【0037】
次いで,「2.加熱・加圧」について説明する。この工程は,プレスローラ4とプレスローラ5とにより行われる。図5に示すように,粉体供給部2およびスキージ3を通過した銅箔210は,プレスローラ4とプレスローラ5との間を通過する。これにより,銅箔210上の粉末成分230の堆積層は,加熱されつつその厚さ方向に加圧される。
【0038】
詳細には,粉末成分230の堆積層は,プレスローラ4とプレスローラ5との間を通過する時において,120℃まで加熱される。粉末成分230に含まれているバインダー232を,軟化させるためである。よって,バインダー232は,ある程度の流動性を有しつつ強い結着力を奏するようになる。また,加熱温度が高すぎると,粉末成分230に含まれる材料を損傷するおそれがあるため好ましくない。このため,加熱温度は,上記が満たされる110℃から180℃の範囲内で好ましく設定することができ,120℃に限定されるものではない。
【0039】
さらに,粉末成分230の堆積層は,プレスローラ4とプレスローラ5との間を通過する時において,その厚さ方向に加圧される。プレスローラ4とプレスローラ5とにより粉末成分230の堆積層に加えられる線圧力は,5kN/cmから15kN/cmの範囲内であることが好ましく,本形態においては10kN/cm程度としている。そして加圧により,粉末成分230中の負極活物質231においては,それぞれが互いに多くの接触箇所を有することとなる。また,負極活物質231は銅箔210へ押し付けられるため,負極活物質231と銅箔210との接触箇所は多くなる。
【0040】
プレスローラ4とプレスローラ5との間を通過した後の銅箔210と粉末成分230とは,電極板製造装置1の中を搬送されつつ大気放熱により冷却される。このため,軟化していたバインダー232は,速やかに固化する。またこの時,粉末成分230中の負極活物質231は,それぞれが互いに多くの接触箇所を有しつつ,バインダー232により結着される。さらに,負極活物質231と銅箔210とは,多くの接触箇所を有しつつ,バインダー232により結着される。以上により,銅箔210の第1面の負極活物質層220の形成が完了する。なお,本形態では,特段の冷却装置などは設けられていない。しかし,冷却装置を設けてもよい。
【0041】
なお,本形態においては,プレスローラ4とプレスローラ5との間を通過した後における負極活物質層220の厚さは,100μm程度である。その後,銅箔210の第2面においても,第1面と同様の方法を用いることにより負極活物質層220を形成し,負極板200を製造する。
【0042】
このように,本形態の電極板の製造方法では,粉末成分の製造から電極板の完成までの工程の全体において,溶媒を用いていない。つまり,活物質やバインダーなどを溶媒中に均一に分散させるための増粘材も不要である。また,従来の溶媒を用いた電極板の製造方法のような乾燥工程や,従来の造粒粉体を用いた電極板の製造方法のような造粒工程が不要である。このため,乾燥炉や溶媒を回収する装置,造粒装置などが不要である。よって,本形態の電極板の製造方法は,生産性が高く,安価である。
【0043】
さらに,本形態の電極板の製造方法に用いる粉末成分は,活物質層を形成するための材料のそれぞれを,粉末の状態で混合させたものである。つまり,本形態の粉末成分中には,活物質層を形成するための各材料のそれぞれが,元の粒子径のまま混ざり合った状態で存在している。一方,造粒して得られる造粒粉体中には,活物質層を構成するための各材料のそれぞれが,造粒により互いに付着し,元の粒子径よりも大きくなった状態で存在している。すなわち,本形態の粉末成分の粒子径は,造粒して得られる造粒粉体の粒子径より小さい。これにより,本形態の電極板の製造方法によれば,活物質層の薄い電極板を製造することができる。
【0044】
そして,活物質層の薄い電極板を用いて電池を構築することにより,電池内における活物質層の表面積を大きくすることができる。本形態のような捲回型の電極体の場合には,厚みの薄い分,長い電極板を用いることができるからである。これにより,活物質層と電解液とが接触する面積が大きくなるため,これらの間のリチウムイオンの移動量を増やすことができる。従って,電池が内部に蓄えたエネルギーを瞬間的に放出する能力である出力密度の高い電池を製造することができる。
【0045】
また,本発明者は,この発明により製造された電極板の品質を確認するため,以下の2つの実験を行った。
1.電極板の剥離試験
2.内部抵抗値の測定
【0046】
まず,「1.電極板の剥離試験」について説明する。この実験を行うため,まず,実施例の負極板と比較例の負極板とを作製した。実施例の負極板は,前述した本形態の電極板の製造方法により作製された負極板200である。比較例の負極板は,従来より一般的に用いられている溶媒を用いた電極板の製造方法により作製された負極板である。
【0047】
すなわち,比較例の負極板は,銅箔の表面に目付10.0mg/cmで合材ペーストを塗工後,100℃で60secの条件で乾燥することにより作製されたものである。比較例に用いた合材ペーストは,負極活物質,バインダー,増粘材を次の比率(wt%)で配合し,溶媒中に分散させたものである。
負極活物質:97.3
バインダー:2.0
増粘材:0.7
なお,比較例の合材ペーストにおいては,負極活物質,バインダー,増粘材として,それぞれアモルファスコート黒鉛,スチレンブタジエンゴム(SBR),CMCを用いている。また,溶媒には,水を用いている。
【0048】
そして,実施例の負極板と比較例の負極板とを用い,それぞれ銅箔と負極活物質層との間で90°剥離試験を行った。その結果,比較例の負極板の剥離強度は,約2.5N/mであった。これに対し,実施例の負極板の剥離強度は,約7.2N/mであった。よって,本発明に係る実施例の負極板の剥離強度は,比較例の負極板の剥離強度よりも高い値を示すことが確認された。
【0049】
この理由として,以下のことが挙げられる。比較例の負極板においては,溶媒を蒸発させるために,加熱による乾燥を行っている。このため,溶媒は銅箔より遠ざかる向きに移動する。そしてこの時,合材ペースト内のバインダーは,溶媒とともに銅箔の表面から遠ざかる向きに移動する。さらに加熱により,合材ペースト内には熱対流が生じる。そして,熱対流によっても,合材ペースト内のバインダーは,銅箔の表面から遠ざかる向きに移動する。すなわち,比較例の負極板においては,加熱による乾燥を行うことにより,負極活物質層の銅箔側のバインダーが少ないのである。これにより,銅箔と負極活物質層との間の密着強度が低下しているのである。
【0050】
一方,実施例の負極板においては,溶媒を用いていない。このため,乾燥工程がなく,溶媒の移動や熱対流により,負極活物質層の銅箔側のバインダーが少なくなることがない。よって,本形態の電極板の製造方法により,銅箔と負極活物質層との間の密着強度が高い負極板を製造できることが確認された。
【0051】
次いで,「2.内部抵抗値の測定」について説明する。この実験を行うため,まず,実施例の電池と比較例の電池とを作製した。実施例の電池は,前述した本形態の電極板の製造方法に従って作製された負極板200を備える電池である。比較例の電池は,「1.電極板の剥離試験」に用いた比較例の負極板を備える電池である。実施例の電池と比較例の電池とは,負極板が異なるのみであって,その他の構成は同じである。
【0052】
そして,実施例の電池と比較例の電池とを,それぞれ満充電容量(Ah)に対する電流値(A)の比で表わされるCレートが2Cの電流で,10秒間放電させた時の内部抵抗値を測定した。その結果,実施例の電池の内部抵抗値は,比較例の電池の内部抵抗値と比較し,約5%程度低い値を示すことが確認された。
【0053】
前述したように,比較例の電池が備える負極板においては,活物質層の形成に増粘材を用いている。一方,実施例の電池が備える負極板においては,活物質層の形成に増粘材を用いていない。増粘材は,活物質やバインダーなどを,溶媒中に均一に分散させるためのものだからである。
【0054】
ここにおいて,増粘材は,溶媒のように乾燥工程などにより除去されるものではない。すなわち,活物質層の形成に増粘材を用いた場合には,完成後の電極板の活物質層内に残留する。しかし,増粘材は,電池の充放電に寄与するものではなく,完成後の電極板には不要なものである。加えて,活物質層内に残留した増粘材は,活物質同士や活物質と集電体との接触を阻害し,内部抵抗を増加させる要因となる。よって,本形態の電極板の製造方法により,増粘材を含まない分,内部抵抗が低い電池を製造できることが確認された。そして,電池においては,内部抵抗が低いことにより,出力密度を高くすることができる。よって,本形態の電極板の製造方法により,出力密度の高い電池を製造することができるのである。
【0055】
以上,詳細に説明したように,本実施の形態に係る電極板の製造方法は,活物質層を構成するための材料のそれぞれを粉末の状態で混合させた粉末成分を,集電体上に供給して堆積させる。その後,集電体と粉末成分の堆積層とを加熱しつつ堆積層の厚さ方向に加圧することにより,活物質層を形成する。すなわち,本形態の電極板の製造方法は,溶媒を用いていない。これにより,品質の高い電極板を備えたリチウムイオン二次電池を,効率良く安価に生産することができる製造方法が実現されている。
【0056】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。従って本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,活物質として導電性の低いものを用いる際には,粉末成分に,アセチレンブラックなどの導電助剤を加えることができる。この場合においても,導電助剤を,粉末の状態で加えればよい。また本形態では,負極板に本発明を適用したが,正極板にも本発明を適用することができる。
【0057】
また例えば,扁平型のリチウムイオン二次電池に限らず,捲回型電極体を用いる電池であれば,同様に適用することができる。また例えば,捲回しないで負極板と正極板とを積層する積層型電極体を有する電池にも適用することができる。
【符号の説明】
【0058】
10…電池
100…正極板
110…アルミニウム箔
120…正極活物質層
200…負極板
210…銅箔
220…負極活物質層
230…粉末成分
231…負極活物質
232…バインダー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と負極とを有し,前記正極および前記負極がそれぞれ,集電体とその上に形成された活物質層とを有するリチウムイオン二次電池の製造方法において,
前記正極および前記負極の少なくとも一方を,
前記集電体に,活物質とバインダーとを少なくとも含む,前記活物質層を形成するための材料のそれぞれを粉末の状態で混合させてなる粉末成分を供給して堆積させ,
その後に前記集電体上の前記粉末成分の堆積層を,加熱しつつ前記堆積層の厚さ方向に加圧することにより製造することを特徴とするリチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のリチウムイオン二次電池の製造方法において,
前記バインダーとして,常温では固体であるが軟化開始温度以上とされることで軟化し,その後,前記軟化開始温度以下とされることで再び固化するホットメルト樹脂を用い,
前記加熱により,前記粉末成分の堆積層を,前記軟化開始温度以上とすることを特徴とするリチウムイオン二次電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−65478(P2013−65478A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203933(P2011−203933)
【出願日】平成23年9月19日(2011.9.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】