説明

リチウムイオン二次電池の負極用バインダ及びその負極用バインダを用いたリチウムイオン二次電池

【課題】ポリアクリル酸を含むバインダを用いると、負極活物質への被覆性が高いためバインダ自体が抵抗となり、負荷特性が悪化する。
【解決手段】アクリル酸とイタコン酸との共重合体を負極用バインダとする。分子内にカルボキシル基を二つ以上持った酸性度の高いイタコン酸由来の構造があることにより、充電時に電解液分解反応が起こる前にリチウムイオンをトラップし易くなり、負荷特性と初期効率が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池の負極用バインダ及びその負極用バインダを用いたリチウムイオン二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、充放電容量が高く、高出力化が可能な二次電池である。現在、主として携帯電子機器用の電源として用いられており、更に、今後普及が予想される電気自動車用の電源として期待されている。リチウムイオン二次電池は、リチウム(Li)を挿入および脱離することができる活物質を正極及び負極にそれぞれ有する。そして、両極間に設けられた電解液内をLiイオンが移動することによって動作する。
【0003】
リチウムイオン二次電池には、正極の活物質として主にリチウムコバルト複合酸化物等のリチウム含有金属複合酸化物が用いられ、負極の活物質としては多層構造を有する炭素材料が主に用いられている。
【0004】
リチウムイオン二次電池の性能は、二次電池を構成する正極、負極および電解質の材料に左右される。なかでも活物質を形成する活物質材料の研究開発が活発に行われている。例えば負極活物質材料として炭素よりも高容量なケイ素またはケイ素酸化物が検討されている。
【0005】
ケイ素を負極活物質として用いることにより、炭素材料を用いるよりも高容量の電池とすることができる。しかしながらケイ素は、充放電時のLiの吸蔵・放出に伴う体積変化が大きい。そのためケイ素が微粉化して集電体から脱落または剥離し、電池の充放電サイクル寿命が短いという問題点がある。そこでケイ素酸化物を負極活物質として用いることにより、ケイ素よりも充放電時のLiの吸蔵・放出に伴う体積変化を抑制することができる。
【0006】
例えば、負極活物質として、酸化ケイ素(SiOx:xは0.5≦x≦1.5程度)の使用が検討されている。SiOxは熱処理されると、SiとSiO2とに分解することが知られている。これは不均化反応といい、SiとOとの比が概ね1:1の均質な固体の一酸化ケイ素SiOであれば、固体の内部反応によりSi相とSiO2相の二相に分離する。分離して得られるSi相は非常に微細である。また、Si相を覆うSiO2相が電解液の分解を抑制する働きをもつ。したがって、SiとSiO2とに分解したSiOxからなる負極活物質を用いた二次電池は、サイクル特性に優れる。
【0007】
上記した負極活物質を含む負極は、例えば、負極活物質とバインダとを含むスラリーを集電体に塗布し、乾燥することにより作製される。このため活物質粒子どうしの結着と、活物質と集電体との結着とを担うバインダの性能が、負極の性能に大きく影響する。バインダの結着力が低い場合には、活物質粒子どうしの密着性及び活物質と集電体との密着性が低下し、集電性が低下する。
【0008】
また上述の酸化ケイ素からなる負極活物質を用いた負極であっても、充放電反応時のリチウムの吸蔵及び放出に伴う体積変化が避けられない。このため、負極の活物質層に含まれるバインダには大きな応力が作用するので、バインダには強い結着力が求められている。
【0009】
例えば下記の特許文献1には、ポリアクリル酸及びポリメタクリル酸よりなる群から選ばれるポリマーを含有し、そのポリマーは酸無水物基を含むリチウムイオン二次電池用負極が記載されている。
【0010】
また下記の特許文献2には、アクリル酸とメタクリル酸とを共重合させて得られるポリマーを負極用バインダ又は正極用バインダとして用いることが記載されている。
【0011】
さらに下記の特許文献3には、アクリルアミドとアクリル酸とイタコン酸とを共重合させて得られるポリマーを負極用バインダ又は正極用バインダとして用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2007−115671号公報
【特許文献2】特開2003−268053号公報
【特許文献3】特開2006−513554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ポリアクリル酸はカルボキシル基を多く含むポリマーであり、電極材料への被覆性が高く結着力も大きい。したがって酸化ケイ素を負極活物質とする負極のバインダとして用いることで、充放電時の体積変化によく追従することができ活物質層の剥離などを効果的に防止することができる。
【0014】
ところがポリアクリル酸を含むバインダを用いると、負極活物質への被覆性が高いためバインダ自体が抵抗となり、負荷特性が悪化するという不具合があった。
【0015】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、充放電時の体積変化への追従性に優れ、且つ負荷特性を向上できるリチウムイオン二次電池の負極用バインダを提供するとともに、その負極用バインダを用いたリチウムイオン二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決する本発明のリチウムイオン二次電池の負極用バインダの特徴は、分子中に1のカルボキシル基をもつモノマーから選ばれる第一モノマーと、分子中に2以上のカルボキシル基をもつ第二モノマーと、を共重合させてなるポリマーからなることにある。
【0017】
また上記課題を解決する本発明のリチウムイオン二次電池の特徴は、活物質層をもつ負極を有するリチウムイオン二次電池であって、活物質層には、分子中に1のカルボキシル基をもつモノマーから選ばれる第一モノマーと、分子中に2以上のカルボキシル基をもつ第二モノマーと、を共重合させてなるポリマーからなるバインダが含まれていることにある。
【発明の効果】
【0018】
本発明のリチウムイオン二次電池の負極用バインダは、アクリル酸など分子内に1のカルボキシル基をもつ第一モノマーと分子内に2以上のカルボキシル基をもつ第二モノマーとが共重合されているため、ポリアクリル酸やポリメタクリル酸に比べてカルボキシル基が多く酸性度が高い。そのため本発明の負極用バインダを用いて形成された負極をもつリチウムイオン二次電池は、負荷特性と初期効率が向上する。
【0019】
このような効果が発現する理由は明らかではないが、一分子中にカルボキシル基を2以上有する酸性度の高いモノマー由来の構造があることにより、充電時に電解液分解反応が起こる前にリチウムイオンをトラップし易くなるため初期効率が向上すると考えられている。また、カルボキシル基を2以上有する酸性度の高いモノマー由来の構造があることにより、リチウムイオンがしっかりとトラップできるため負荷特性が向上すると考えられている。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例1,2と比較例1に係るリチウムイオン二次電池の負荷特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の負極用バインダは、分子中に1のカルボキシル基をもつモノマーから選ばれる第一モノマーと、分子中に2以上のカルボキシル基をもつ第二モノマーと、を共重合させてなるポリマーからなる。第一モノマーは、アクリル酸、メタクリル酸、ビニル安息香酸、クロトン酸、ペンテン酸、アンジェリカ酸、チグリン酸などが例示される。これらの一種のみでもよいし、二種以上を混合して用いることもできる。アクリル酸とメタクリル酸との混合モノマーを用いる場合は、モル比で、アクリル酸/メタクリル酸=50/50〜100/0の範囲とすることが好ましい。
【0022】
第二モノマーは分子内に二つ以上のカルボキシル基をもつモノマーであり、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸、フマル酸、マレイン酸、2-ペンテン二酸、メチレンコハク酸、アリルマロン酸、イソプロピリデンコハク酸、2,4-ヘキサジエン二酸、アセチレンジカルボン酸よりなる群から選ばれる少なくとも一種を用いることができる。
【0023】
第一モノマーと第二モノマーとの混合比は、モル比で、第一モノマー/第二モノマー=99/1〜50/50の範囲とすることが好ましく、90/10〜60/40の範囲とすることがさらに望ましい。第一モノマーの量がこの範囲を超えて多いと負極における結着力が低下し、第一モノマーの量がこの範囲より少ないとリチウムイオン二次電池の負荷特性と初期効率が低下する。
【0024】
本発明の負極用バインダを製造するには、第一モノマーと第二モノマーとを共重合させたポリマーを製造する。この重合方法としては、塊状重合、懸濁重合、溶液重合など既存の重合方法を用いることができる。中でも溶液重合が簡便である。重合に用いられるラジカル重合開始剤としては、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、t-ブチルパオキシベンゾエート、ジ-t-ブチルパーオキシヘキサヒドロテレフタレート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、1,1-t-ブチルパーオキシ-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートなどの有機過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス-4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサノン-1-カルボニトリル、アゾジベンゾイル等のアゾ化合物、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の水溶性触媒及び過酸化物あるいは過硫酸塩と還元剤の組み合わせによるレドックス触媒等、通常のラジカル重合に使用できるものはいずれも使用することができる。
【0025】
重合開始剤は、モノマーの総量に対して0.01〜10質量%の範囲で使用されることが好ましい。分子量調整剤として、メルカプタン系化合物、チオグリコール、四塩化炭素、α-メチルスチレンダイマー等を必要に応じて添加することができる。
【0026】
本発明の負極用バインダを製造するために、必要に応じて有機溶媒または水からなる反応溶媒を用いることができる。例えばN-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド等のアミド類、N,N-ジメチルエチレンウレア、N,N-ジメチルプロピレンウレア、テトラメチルウレア等のウレア類、γ-ブチロラクトン、γ-カプロラクトン等のラクトン類、プロピレンカーボネート等のカーボネート類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、ブチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート、エチルセロソルブアセテート、エチルカルビトールアセテート等のエステル類、ジグライム、トリグライム、テトラグライム等のグライム類、トルエン、キシレン、シクロヘキサン等の炭化水素類、スルホラン等のスルホン類などが挙げられる。
【0027】
中でもカルボキシル基を含有する樹脂の溶解性に優れる点でアミド類、ウレア類が好ましく、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルエチレンウレア、N,N-ジメチルプロピレンウレア、テトラメチルウレアが好ましく、N-メチル-2-ピロリドンが特に好ましい。これらの溶媒は、単独で又は二種類以上組み合わせて用いられる。熱重合による場合、重合温度は、0℃〜200℃の間で適宜選択することができ、40〜120℃が好ましい。
【0028】
本発明の負極用バインダを構成するポリマーは、質量平均分子量が1000以上であれば特に制限はないが、10,000〜5,000,000の範囲が好ましく、30,000〜3,000,000の範囲がより好ましく、100,000〜1,000,000の範囲が特に望ましい。質量平均分子量が10,000未満であると活物質や導電助剤などの分散性が低下する傾向があり、5,000,000を超えると、スラリ−の粘度が上昇して集電体への塗布が困難になる。
【0029】
本発明の負極用バインダを構成するポリマーは、負極用バインダとして単独で使用することができる。また、負極用バインダとしての特性を損なわない範囲で、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリブロックイソシアナート、ポリオキサゾリン、ポリカルボジイミド等の硬化剤、エチレングリコール、グリセリン、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、アクリルオリゴマ、フタル酸エステル、ダイマー酸変性物、ポリブタジエン系化合物等の各種添加剤を単独で又は二種以上組み合わせて配合してもよい。
【0030】
本発明の負極用バインダを用いてリチウムイオン二次電池の負極を作製するには、負極活物質粉末と、炭素粉末などの導電助剤と、本発明の負極用バインダと、適量の有機溶剤を加えて混合しスラリーにしたものを、ロールコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの方法で集電体上に塗布し、負極用バインダを乾燥あるいは硬化させることによって作製することができる。
【0031】
負極用バインダは、なるべく少ない量で活物質等を結着させることが求められるが、その添加量は活物質、導電助剤、及び負極用バインダを合計したものの0.5wt%〜50wt%が望ましい。負極用バインダが0.5wt%未満では電極の成形性が低下し、50wt%を超えると電極のエネルギー密度が低くなる。
【0032】
集電体は、放電或いは充電の間、電極に電流を流し続けるための化学的に不活性な電子高伝導体のことである。集電体は箔、板等の形状を採用することができるが、目的に応じた形状であれば特に限定されない。集電体として、例えば銅箔やアルミニウム箔を好適に用いることができる。
【0033】
負極活物質としては、グラファイト、ハードカーボン、ケイ素、炭素繊維、スズ(Sn)、酸化ケイ素など公知のものを用いることができる。中でもSiOx(0.3≦x≦1.6)で表されるケイ素酸化物が特に好ましい。このケイ素酸化物粉末の各粒子は、不均化反応によって微細なSiと、Siを覆うSiO2とに分解したSiOxからなる。xが下限値未満であると、Si比率が高くなるため充放電時の体積変化が大きくなりすぎてサイクル特性が低下する。またxが上限値を超えると、Si比率が低下してエネルギー密度が低下するようになる。0.5≦x≦1.5の範囲が好ましく、0.7≦x≦1.2の範囲がさらに望ましい。
【0034】
一般に、酸素を断った状態であれば800℃以上で、ほぼすべてのSiOが不均化して二相に分離すると言われている。具体的には、非結晶性のSiO粉末を含む原料酸化ケイ素粉末に対して、真空中または不活性ガス中などの不活性雰囲気中で800〜1200℃、1〜5時間の熱処理を行うことで、非結晶性のSiO2相および結晶性のSi相の二相を含むケイ素酸化物粉末が得られる。
【0035】
またケイ素酸化物として、SiOxに対し炭素材料を1〜50質量%で複合化したものを用いることもできる。炭素材料を複合化することで、サイクル特性が向上する。炭素材料の複合量が1質量%未満では導電性向上の効果が得られず、50質量%を超えるとSiOxの割合が相対的に減少して負極容量が低下してしまう。炭素材料の複合量は、SiOxに対して5〜30質量%の範囲が好ましく、5〜20質量%の範囲がさらに望ましい。SiOxに対して炭素材料を複合化するには、CVD法などを利用することができる。
【0036】
ケイ素酸化物粉末は平均粒径が1μm〜10μmの範囲にあることが望ましい。平均粒径が10μmより大きいとリチウムイオン二次電池の充放電特性が低下し、平均粒径が1μmより小さいと凝集して粗大な粒子となるため同様にリチウムイオン二次電池の充放電特性が低下する場合がある。
【0037】
導電助剤は、電極の導電性を高めるために添加される。導電助剤として、炭素質微粒子であるカーボンブラック、黒鉛、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)、気相法炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber:VGCF)等を単独でまたは二種以上組み合わせて添加することができる。導電助剤の使用量については、特に限定的ではないが、例えば、活物質100質量部に対して、20〜100質量部程度とすることができる。導電助剤の量が20質量部未満では効率のよい導電パスを形成できず、100質量部を超えると電極の成形性が悪化するとともにエネルギー密度が低くなる。なお炭素材料が複合化されたケイ素酸化物を活物質として用いる場合は、導電助剤の添加量を低減あるいは無しとすることができる。
【0038】
有機溶剤には特に制限はなく、複数の溶剤の混合物でも構わない。本発明の負極用バインダの合成に用いることのできる前述の反応溶媒をそのまま使用できるが、N-メチル-2-ピロリドン及びN-メチル-2-ピロリドンとエステル系溶媒(酢酸エチル、酢酸n-ブチル、ブチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート等)あるいはグライム系溶媒(ジグライム、トリグライム、テトラグライム等)の混合溶媒が特に好ましい。
【0039】
本発明のリチウムイオン二次電池における負極を構成するケイ素酸化物には、リチウムがプリドーピングされていることもできる。負極にリチウムをドープするには、例えば対極に金属リチウムを用いて半電池を組み、電気化学的にリチウムをドープする電極化成法などを利用することができる。リチウムのドープ量は特に制約されない。
【0040】
上記した負極を用いる本発明のリチウムイオン二次電池は、特に限定されない公知の正極、電解液、セパレータを用いることができる。正極は、リチウムイオン二次電池で使用可能なものであればよい。正極は、集電体と、集電体上に結着された正極活物質層とを有する。正極活物質層は、正極活物質と、バインダとを含み、さらには導電助剤を含んでも良い。正極活物質、導電助材およびバインダは、特に限定はなく、リチウムイオン二次電池で使用可能なものであればよい。
【0041】
正極活物質としては、金属リチウム、LiCoO2、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2、Li2MnO3、硫黄などが挙げられる。集電体は、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼など、リチウムイオン二次電池の正極に一般的に使用されるものであればよい。導電助剤は上記の負極で記載したものと同様のものが使用できる。
【0042】
電解液は、有機溶媒に電解質であるリチウム金属塩を溶解させたものである。電解液は、特に限定されない。有機溶媒として、非プロトン性有機溶媒、たとえばプロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等から選ばれる一種以上を用いることができる。また、溶解させる電解質としては、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiI、LiClO4、LiCF3SO3等の有機溶媒に可溶なリチウム金属塩を用いることができる。
【0043】
例えば、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネートなどの有機溶媒にLiClO4、LiPF6、LiBF4、LiCF3SO3等のリチウム金属塩を0.5mol/lから1.7mol/l程度の濃度で溶解させた溶液を使用することができる。
【0044】
セパレータは、リチウムイオン二次電池に使用されることができるものであれば特に限定されない。セパレータは、正極と負極とを分離し電解液を保持するものであり、ポリエチレン、ポリプロピレン等の薄い微多孔膜を用いることができる。
【0045】
本発明のリチウムイオン二次電池は、形状に特に限定はなく、円筒型、積層型、コイン型等、種々の形状を採用することができる。いずれの形状を採る場合であっても、正極および負極にセパレータを挟装させ電極体とし、正極集電体および負極集電体から外部に通ずる正極端子および負極端子までの間を、集電用リード等を用いて接続した後、この電極体を電解液とともに電池ケースに密閉して電池となる。
【0046】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。
【実施例1】
【0047】
<負極用バインダの作製>
攪拌機と、温度計と、冷却管と、留出管と、窒素ガス導入管とを備えた0.5リットルのフラスコに、22.0mLのアクリル酸と、3.0gのイタコン酸とを混合して溶解し、さらに0.13gの2,2'-アゾビス[2-(2-イミダリン-2-イル)プロペン]・塩酸塩を添加して溶解した後、窒素ガス雰囲気下にて45℃で7時間撹拌して反応させた。反応終了後、1.0Lのアセトンを混合したところ、白色沈殿を得た。この白色沈殿物を130℃で1.5時間真空乾燥し、負極バインダ用ポリマーを得た。
【0048】
得られたポリマの固形分が8質量部となるようにN-メチル-2-ピロリドンを加えて溶解し、室温で液状のポリマー溶液を調製した。ポリマー溶液中のポリマーは、アクリル酸が80.8モル%、イタコン酸が19.2モル%の組成の共重合体であり、GPCによって測定されたその質量平均分子量は36,000であった。
【0049】
<負極活物質の作製>
一方、SiO粉末(シグマ・アルドリッチ・ジャパン社製、平均粒径5μm)を900℃で2時間熱処理し、平均粒径5μmのSiOx粉末を調製した。この熱処理によって、SiとOとの比が概ね1:1の均質な固体の一酸化ケイ素SiOであれば、固体の内部反応によりSi相とSiO2相の二相に分離する。分離して得られるSi相は非常に微細である。
【0050】
<リチウムイオン二次電池用負極の作製>
上記したポリマー溶液を固形分として15質量部と、上記SiOx粉末48質量部と、導電助剤としての黒鉛粉末34.4質量部とケッチェンブラック(KB)粉末2.6質量部と、を混合し、スラリーを調製した。スラリー中の各成分の組成比は固形分として、SiOx粉末:黒鉛粉末:ケッチェンブラック:バインダ(ポリマー)=48:34.4:2.6:15である。このスラリーを、厚さ18μmの電解銅箔(集電体)の表面にドクターブレードを用いて塗布し、銅箔上に負極活物質層を形成した。
【0051】
その後、80℃で20分間乾燥し、負極活物質層から有機溶媒を揮発させて除去した。乾燥後、ロールプレス機により、集電体と負極活物質層を強固に密着接合させた。これを200℃で2時間加熱硬化させて、活物質層の厚さが15μm程度の負極を形成した。
【0052】
<リチウムイオン二次電池の作製>
負荷特性の測定にはラミネートセル電池を作製し、初期効率の測定にはコインセル電池を作製した。
【0053】
<コインセル>
上記の手順で作製した電極を評価極として用い、リチウムイオン二次電池(ハーフセル)を作製した。対極は、金属リチウム箔(厚さ500μm)とした。
【0054】
対極をφ13mm、評価極をφ11mmに裁断し、セパレータ(ヘキストセラニーズ社製ガラスフィルターおよびcelgard2400)を両者の間に挟装して電極体電池とした。この電極体電池を電池ケース(宝泉株式会社製CR2032コインセル)に収容した。また、電池ケースには、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを1:1(体積比)で混合した混合溶媒にLiPF6を1Mの濃度で溶解した非水電解液を注入し、電池ケースを密閉して、リチウムイオン二次電池を得た。
【0055】
<ラミネートセル>
上記の手順で作製した電極を評価極として用い、リチウムイオン二次電池(ハーフセル)を作製した。対極には、活物質としてのLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2が88質量部と、導電助剤としてのケッチェンブラック(KB)が6質量部と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデンが6質量部と、を含む混合スラリーをアルミニウム箔上に塗布して乾燥させたものを用いた。
【0056】
電解液には、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを3:7(体積比)で混合した混合溶媒に、LiPF6を1Mの濃度で溶解したものを用いた。
【実施例2】
【0057】
負極用バインダの作製時において、アクリル酸とイタコン酸との混合比率を変更したこと以外は実施例1と同様にしてポリマー溶液を調製した。ポリマー溶液中のポリマーは、アクリル酸が60.8モル%、イタコン酸が39.2モル%の組成の共重合体であり、GPCによって測定されたその質量平均分子量は30,000であった。
【0058】
このポリマー溶液を用い、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池用負極を作製し、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0059】
[比較例1]
負極用バインダとしてポリアクリル酸(「H-AS」日本触媒社製)を用いたこと以外は実施例1と同様にしてポリマー溶液を調製した。ポリマー溶液中のポリマーは、アクリル酸が100モル%の単独重合体であり、GPCによって測定されたその質量平均分子量は700,000であった。
【0060】
このポリマー溶液を用い、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池用負極を作製し、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0061】
<リチウムイオン二次電池の充放電特性>
作製したリチウムイオン二次電池のそれぞれに対して、測定温度25℃、0.2CのCCCV充電(定電流定電圧充電)の条件下において充電し、1サイクルから順に0.2C、1C、2C、3C、4C、5CのCC放電(定電流放電)で放電し、各レートにおける放電容量を測定した。そして0.2Cレートに対する放電容量の維持率を算出し、結果を図1に示す。
【0062】
またハーフセルにて、電流量0.05mAで1サイクル目における放電容量と充電容量から、初期充放電効率をそれぞれ算出し、結果を表1に示す。なお、初期充放電効率は、初期充電容量を初期放電容量で除した値の百分率((初期充電容量)/(初期放電容量)×100)で求められる値である。
【0063】
【表1】

【0064】
図1及び表1より、各実施例のリチウムイオン二次電池は比較例1に対して負荷特性と初期効率が向上していることがわかる。また実施例1より実施例2の方が負荷特性及び初期効率が高いこともわかる。この結果から、負極用バインダとしてポリアクリル酸のみよりもイタコン酸を共重合したポリマーを用いることが好ましいことが明らかであり、共重合するイタコン酸の量が多くなるほど好ましいことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子中に1のカルボキシル基をもつモノマーから選ばれる第一モノマーと、分子中に2以上のカルボキシル基をもつ第二モノマーと、を共重合させてなるポリマーからなることを特徴とするリチウムイオン二次電池の負極用バインダ。
【請求項2】
前記第一モノマーは、アクリル酸及びメタクリル酸よりなる群から選ばれる請求項1に記載のリチウムイオン二次電池の負極用バインダ。
【請求項3】
第一モノマーと第二モノマーとの共重合割合は、モル比で第一モノマー/第二モノマー=99/1〜50/50の範囲である請求項1又は請求項2に記載のリチウムイオン二次電池の負極用バインダ。
【請求項4】
第一モノマーはアクリル酸であり、第二モノマーはイタコン酸である請求項1〜3のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池の負極用バインダ。
【請求項5】
活物質層をもつ負極を有するリチウムイオン二次電池であって、該活物質層には、アクリル酸及びメタクリル酸よりなる群から選ばれる第一モノマーと、分子内に二つ以上のカルボキシル基をもつ第二モノマーと、を共重合させてなるポリマーからなるバインダが含まれていることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
第一モノマーと第二モノマーとの共重合割合は、モル比で第一モノマー/第二モノマー=99/1〜50/50の範囲である請求項5に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項7】
第一モノマーはアクリル酸であり、第二モノマーはイタコン酸である請求項5又は請求項6に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項8】
前記活物質層には、SiOx(0.3≦x≦1.6)で表されるケイ素酸化物からなる負極活物質を含む請求項5〜請求項7のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項9】
前記負極にはリチウムがプリドーピングされている請求項5〜8のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。

【図1】
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【公開番号】特開2013−65493(P2013−65493A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204140(P2011−204140)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】