説明

リチウムイオン二次電池の電極材料用の導電助剤分散液

【課題】高い分散性を有し、電極ペーストを調製する際に、CNFが凝集したり、「だま」を形成することなく、均一に分散することが可能な、リチウムイオン二次電池の電極材料用の導電助剤分散液を提供する。
【解決手段】カーボンナノファイバーとカーボンブラックを含むリチウムイオン二次電池の電極材料用の導電助剤分散液において、カーボンブラックがアセチレンブラック又はケッチェンブラックのいずれか一方又はその双方であり、カーボンナノファイバーとカーボンブラックとが酸化処理され、溶媒中に酸化処理されたカーボンナノファイバーと酸化処理されたカーボンブラックとが均一に分散していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い分散性を有し、電極ペーストを調製する際に、CNFが凝集したり、「だま」を形成することなく、均一に分散することが可能な、リチウムイオン二次電池の電極材料用の導電助剤分散液に関するものである。ここで「だま」とは例えばCNFを溶媒で溶くなどしたとき、よく溶けないでできるぶつぶつのかたまりをいう。
【背景技術】
【0002】
これまでリチウムイオン二次電池の正極や負極では、カーボンブラック(Carbon Black;以下、CBという。)と呼ばれる電子導電性の優れた炭素粉末が導電助剤として活物質や結着剤とともに配合され、集電体上に上記成分が配合された電極ペーストを塗工することで、電極を作製していた。
【0003】
ここで、電極ペーストは活物質、導電助剤及び結着剤を溶媒に混合したペーストである。導電助剤であるCBとしては、10〜100nmの塊状粒子のアセチレンブラックや、ほぼ同じ大きさで、中空のケッチェンブラックが主に使用されている。また結着剤は、水系溶媒の場合にはSBR(スチレンブタジエンゴム)が用いられ、N−メチルピロリドン(NMP)等の有機系溶媒の場合にはPVdF(ポリフッ化ビニリデン)が用いられている。
【0004】
一方、リチウムイオン二次電池の充放電の性能を向上させるために、カーボンナノファイバー(Carbon Nano Fiber;以下、CNFという。)やカーボンナノチューブ(Carbon Nano Tube;CNT)などの炭素繊維を添加することが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。上記特許文献1では、CNF等の炭素繊維を添加する際に、活物質と炭素繊維とを乾式混合した後に、この乾式混合物とバインダと溶媒とを混練することで、炭素繊維の凝集を抑えた電極を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−16265号公報(請求項1,5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来の特許文献1に示されるような方法でも繊維径が数ナノメートルサイズのCNF等を電極ペーストに均一に分散させることは難しかった。またCNFを添加することによって、ある程度の電極の性能向上を図ることはできるが、CNFが電極ペースト中で均一に分散せずに凝集体が形成されることを回避できないため、ナノメートルサイズのCNFを添加することによる効果が十分に引き出せない不具合が生じていた。従って、CNFを添加することによる効果を引き出して、良好な電気的パスを構築するためには、電極ペーストにCNFを過剰に添加する必要があった。更に、CNFが電極ペースト中で「だま」を形成し易い問題があった。この原因としては、非常に微細なCNF表面が電気的に活性であるために、混ざり難いことが予想される。
【0007】
なお、導電助剤としてCNFとCBの双方を使用した電極作製方法においては、CNFにこれらのCBとPVdFをNMP中で撹拌して、PVdF等の結着剤を融かすとともに、CNFとCBを混合していた。この方法の場合、CNFが大きな凝集体として存在してしまうため、電極へのペースト塗工後においても、まばらに大きな凝集体として、CNFが電極中に存在していた。
【0008】
本発明の目的は、高い分散性を有し、電極ペーストを調製する際に、CNFが凝集したり、「だま」を形成することなく、均一に分散することが可能な、リチウムイオン二次電池の電極材料用の導電助剤分散液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の観点は、CNFとCBを含むリチウムイオン二次電池の電極材料用の導電助剤分散液において、CBがアセチレンブラック又はケッチェンブラックのいずれか一方又はその双方であり、CNFとCBとが酸化処理され、溶媒中に酸化処理されたCNFと酸化処理されたCBとが均一に分散していることを特徴とする。
【0010】
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、更に酸化処理がCNFとCBの混合粉に水を添加した混合液に、硝酸と硫酸の混酸を添加することにより行われ、混合液と混酸の合計量を100質量%とするとき、混酸の添加量が10〜30質量%であることを特徴とする。
【0011】
本発明の第3の観点は、第1又は第2の観点に基づく導電助剤分散液を用いたリチウムイオン二次電池の電極形成材料である。
【0012】
本発明の第4の観点は、第1又は第2の観点に基づく導電助剤分散液を用いて形成されたリチウムイオン二次電池の正極である。
【0013】
本発明の第5の観点は、第1又は第2の観点に基づく導電助剤分散液を用いて形成されたリチウムイオン二次電池の負極である。
【0014】
本発明の第6の観点は、第1又は第2の観点に基づく導電助剤分散液を用いて形成されたリチウムイオン二次電池である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の第1の観点のリチウムイオン二次電池の電極材料用の導電助剤分散液は、CNFとCBを含むリチウムイオン二次電池の電極材料用の導電助剤分散液の改良であり、その特徴ある構成は、CBがアセチレンブラック又はケッチェンブラックのいずれか一方又はその双方であり、CNFとCBとが酸化処理され、溶媒中に酸化処理されたCNFと酸化処理されたCBとが均一に分散しているところにある。
【0016】
このように、本発明の導電助剤分散液では、表面酸化処理したCNFと表面酸化処理したCBとを溶媒中に均一に分散しているので、高い分散性を有し、電極ペーストを調製する際に、CNFが凝集したり、「だま」を形成することなく、均一に分散することが可能である。従って、本発明の導電助剤分散液を用いて作製した電極ペーストを集電体上に塗工して電極を形成すると、高い分散性を有するCNFとCBとで正極或いは負極の活物質を均一に包み込むように被覆することができ、かつ集電体と活物質とに良好な電気的パスを構築することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に本発明を実施するための形態を説明する。
【0018】
本発明のリチウムイオン二次電池の電極材料用の導電助剤分散液はCNFとCBを含み、CBにはアセチレンブラック又はケッチェンブラックのいずれか一方又はその双方が使用される。使用されるアセチレンブラックとしては比表面積が70〜250m2/gのものが、またケッチェンブラックとしては比表面積が400〜2000m2/gのものがそれぞれ好適である。また、CNFとしては平均繊維径5〜25nm、平均繊維長100〜10000nm、平均比表面積100〜500m2/gの範囲にあるものが好適である。
【0019】
CNFの平均繊維径を上記範囲内が好適であるとしたのは、下限値未満では有効な断面積が得られず、カーボンナノファイバ自身の電子伝導性が低下してしまう不具合を生じ、上限値を越えると電極を作製した際の正極活物質との絡み合いが弱くなる不具合を生じるためである。上記範囲内のうち、平均繊維径5〜25nmが特に好ましい。また、CNFの平均繊維長を上記範囲内が好適であるとしたのは、下限値未満では正極活物質と、集電体、或いは、カーボンブラックとの電子の橋渡しのための長さが短くなる不具合を生じ、上限値を越えると正極活物質と結合せずCNF自体が絡み合う不具合を生じるためである。上記範囲内のうち、平均繊維長300〜3000nmが特に好ましい。また、CNFの比表面積を上記範囲内が好適であるとしたのは、下限値未満では表面活性が小さくなり、CNFが活物質やその他の導電助剤と良好な結合ができなくなる不具合を生じ、上限値を越えると表面活性が強くなり、CNF同士が絡み合いすぎて電極に均一に付着しなくなる不具合を生じるためである。上記範囲内のうち、比表面積100〜300m2/gが特に好ましい。
【0020】
上記CNFは例えば、次のような製造方法により作製される。例えば、触媒粒子としてFe、Ni、Co、Mn、Cuの酸化物から選ばれた1種又は2種以上と、Mg、Ca、Al、Siの酸化物から選ばれた1種又は2種以上の混合酸化物粉末を用い、400℃〜800℃の温度で、一酸化炭素又は二酸化炭素と水素の混合ガスを上記触媒粒子に接触させて、CNFを製造する気相成長法が挙げられる。
【0021】
この方法では、上記触媒粒子をファイバーの成長核として石英などの基板上に配置する。触媒粒子の基板上への配置は、触媒粒子をそのまま均一にボートに振りかければよい。または触媒粒子をアルコール等の溶媒に懸濁させて懸濁液を調製し、この懸濁液を基板上に散布して乾燥することによって均一にボート上に配置してもよい。ここで、使用する触媒粒子の粒径を調整することにより、合成するCNFの平均繊維径を上記範囲内に調整することが可能である。
【0022】
そして、反応室内で0.08〜10MPaの圧力下、450℃〜800℃の温度で、原料ガスを上記触媒粒子に接触させて反応させることによって多結晶構造グラファイトナノファイバーを成長させる。このCNFの気相合成においては、予め十分に合成雰囲気を定常化する必要がある。そのため、水素を10%程度含む不活性ガスを反応室に導入して合成雰囲気を置換した後に加熱を開始し、合成温度に1〜2時間ほど保持することが望ましい。
【0023】
反応室内の温度及び雰囲気を定常状態にしてから、原料ガスを導入し、触媒粒子に接触させ、原料ガスを熱分解させてグラファイトを成長させる。原料ガスとしては一酸化炭素及び/又は二酸化炭素と水素の混合ガスを用いることができる。混合ガスのCO及び/又はCO2に対するH2の混合容積比(CO/H2)は20/80〜99/1が適当であり、50/50〜99/1が好ましい。この原料ガスを所定の時間供給してCNFを触媒粒子から成長させて合成する。ここで、合成時間を調整することにより、合成するCNFの平均繊維長を上記範囲内に調整することが可能である。
【0024】
本発明の導電助剤分散液では、CNFとCBとが酸化処理される。
【0025】
CNFとCBとに、表面酸化処理を施すには、先ず、硝酸と硫酸の混酸を調製する。このうち濃硝酸と濃硫酸の混酸が好ましい。混酸中の硝酸と硫酸の比率は、混酸中の硝酸濃度が、好ましくは5〜35質量%、更に好ましくは10〜25質量%となるように調整する。混酸中の硝酸濃度が5質量%未満では、酸化処理が不十分となり、電極ペーストを作製した場合にCNFの分散性の効果が十分に得られない場合があり、一方、上限値を越えると、酸化処理が過度となり、CNF自体が溶解してしまう不具合が生じる傾向がみられる。
【0026】
次に、CNFとCBとを混合し、混合粉末に、粉質量の5〜10倍の水を添加し、好ましくは40〜60℃に加熱し、スターラ等で撹拌する。次いで、このCNFとCBの混合液を80〜100℃まで上昇させ、これに上記調製した硝酸と硫酸の混酸を添加した後、上記温度を保持したまま、好ましくは30〜120分間攪拌を続け、酸化処理を行う。このとき、酸化処理の処理時間が下限値未満では、酸化処理が不十分となり、所望の比表面積を有するCNF、CBが得られない場合があり、一方、上限値を越えると、所望の比表面積を有するCNF、CBが得られない、或いはCNFが溶解する不具合が生じる場合があるため好ましくない。
【0027】
酸化処理後、液温を30℃以下まで低下し、例えばろ過等により固液分離して固形分を回収する。回収した固形分は、イオン交換水を用いて、好ましくは3〜5回洗浄を行う。洗浄後、固形分を乾燥機内へ移し、好ましくは100〜150℃の温度で真空乾燥する。
【0028】
次に、上記酸化処理されたCNFと酸化処理されたCBとを、溶媒に添加して分散液を調製する。上記乾燥後の表面酸化処理されたCNF及び表面酸化処理されたCBの固体に、溶媒を固形重量の10〜30倍相当を加え、室温でスターラーにより3時間撹拌することにより、溶媒中に表面酸化処理されたCNFと表面酸化処理されたCBとが均一に分散している導電助剤分散液が得られる。溶媒としては、有機系ではN−メチルピロリドン(NMP)、水系ではイオン交換水が挙げられる。なお、水系溶媒の分散液を作製する場合には、NMP等の有機系溶媒の代わりにイオン交換水を用いて分散液を作製することが可能である。
【0029】
このように構成された本発明の導電助剤分散液では、表面酸化処理したCNFと表面酸化処理したCBとを溶媒中に均一に分散しているので、高い分散性を有し、電極ペーストを調製する際に、CNFが凝集したり、「だま」を形成することなく、均一に分散することが可能である。
【0030】
次に、上記本発明の導電助剤分散液を用いて形成されたリチウムイオン二次電池用の正極について説明する。
【0031】
本発明のリチウムイオン二次電池用の正極は、正極集電体上に、正極活物質層が形成されたものである。また、本発明のリチウムイオン二次電池用の負極は、負極集電体上に、負極活物質層が形成されたものである。それぞれ活物質層を形成するには、先ず、活物質粉末、導電助剤分散液(酸化処理CB、酸化処理CNF)及び結着剤を所定の質量比となるように秤量し、導電助剤分散液に結着剤と溶媒を添加し、固形の結着剤が完全に融けるまで、自転公転のハイブリッドミキサーで撹拌混合し、その後、活物質を添加して更に撹拌混合を行うことで、均質なペーストを調製する。
【0032】
正極活物質として使用される粉末状のリチウム含有遷移金属酸化物としては、LiCoO2、LiMnO2、LiNiO4、Li(Mn1/3Ni1/3Co1/3)O2又はLiFePO4等が挙げられる。リチウム含有遷移金属酸化物の粉末の平均粒径は0.5μm〜10μmであることが好ましい。負極活物質としては、天然黒鉛、人造黒鉛、又はチタン酸リチウム等が挙げられる。
【0033】
導電助剤には、上記本発明の導電助剤分散液を用いる。結着剤としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体(EPDM)、水溶系では、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)等が挙げられる。また、有機系の溶媒としては、N−メチルピロリドン(NMP)が一般的である。
【0034】
そして、上記調製したペーストを集電体上にドクターブレード法、又は、ダイコート法等により塗布し、乾燥させることにより活物質層を形成する。活物質層は、剥離防止の理由から、10〜50μmの厚さに形成されるのが好ましい。
【0035】
以上の工程により、本発明のリチウムイオン二次電池の正極、負極が得られる。このリチウムイオン二次電池の正極、負極は、本発明の導電助剤分散液を用いて作製した電極ペーストを集電体上に塗工して電極を形成しているので、高い分散性を有するCNFとCBとで正極或いは負極の活物質を均一に包み込むように被覆することができ、かつ集電体と活物質とに良好な電気的パスを構築することができる。
【実施例】
【0036】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0037】
<実施例1〜3>
(1) CNFの製造
先ず、触媒粒子として、Co34粉末とMgO粉末からなる混合粉末を用意した。この触媒粒子の一次粒子の平均粒径は10nmであり、混合粉末の重量比(Co)酸化物/Mg酸化物)は7/3の割合である。次いで、上記触媒粉末を基板に載せた後、この基板を熱処理炉のガス流路内に収納した。次に、熱処理炉の圧力を0.08〜10MPaの範囲内に制御して、原料の混合ガスを導入し、炉内を450℃に加熱して、原料ガスを触媒粒子に接触させて、原料ガスを熱分解反応させることによってカーボンナノファイバーを合成した。なお、原料ガスには一酸化炭素と水素の混合ガスを用い、混合ガスのCOに対するH2の混合容積比(CO/H2)は75/25とし、合成時間は3時間とした。合成したCNFの平均繊維径は15nm、平均繊維長は1000nmであった。
【0038】
(2) CNF及びCBの表面酸化処理
先ず、CBとして比表面積70m2/gのアセチレンブラック(AB、電気化学工業株式会社製、商品名:デンカブラック)、比表面積800m2/gのケッチェンブラック(KB、ライオン株式会社製、商品名:EC300J)をそれぞれ用意した。次いで、濃硝酸と濃硫酸とを混合して混酸を調製した。混酸中の硝酸と硫酸の比率は、混酸中の硝酸濃度が10質量%となるように調整した。次に、上記合成したCNFとCBとを、電極ペーストを作製したときに、次に表1に示すような割合となるように混合し、この混合粉末に粉質量の5〜10倍の水を添加し、50℃に加熱し、スターラ等で撹拌した。次に、このCNFとCBの混合液を100℃まで上昇させ、これに上記調製した濃硝酸と濃硫酸の混酸を10分〜60分程度の時間をかけて添加した後、上記温度を保持したまま、60分間攪拌を続け、酸化処理を行った。なお、混酸添加後の混合液中の混酸の濃度が10〜30質量%となるように混酸添加量を調整した。酸化処理後は液温を30℃以下まで低下し、ろ過等により固液分離して固形分を回収し、回収した固形分はイオン交換水を用いて5回洗浄を行った後、固形分を乾燥機内へ移し、80℃の温度で真空乾燥した。
【0039】
(3) 導電助剤分散液の作製
乾燥後の表面酸化処理されたCNF及び表面酸化処理されたCBの固体に、NMPを固形重量の20倍相当を加え、室温でスターラーにより3時間撹拌することにより、NMP中に表面酸化処理されたCNFと表面酸化処理されたCBとが均一に分散している導電助剤分散液を作製した。
【0040】
(4) 正極(作用極)の作製
先ず、正極活物質としてカーボンコートされた平均粒径1.2μmのLiFePO4粉末(TIANJIN STL ENERGY TECHNOLOGY CO. LTD社製、商品名:SLFP-PD60)、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)(株式会社クレハ社製、商品名:PVDF#1100)、導電助剤として、上記作製した導電助剤分散液、溶媒としてN−メチルピロリドン(NMP)(関東化学株式会社製)をそれぞれ用意した。
【0041】
次いで、LiFePO4粉末、上記作製した導電助剤分散液(酸化処理CB、酸化処理CNF)及びPVdFを次の表1に示す質量比となるように秤量し、導電助剤分散液にPVdFとNMPを添加し、固形のPVdFが完全に融けるまで、自転公転のハイブリッドミキサーで10分程度撹拌混合した。その後、正極活物質を添加して更に10分程度撹拌混合を行い、均質なペーストを作製した。
【0042】
次に、調製した正極ペーストを正極集電体上に塗布し、隙間50μmのアプリケータを用いて厚さ一定とし、乾燥器にそのシートを移し、130℃で、溶媒であるNMPを乾燥させることにより、正極シートを作製した。正極集電体には厚さ15μmのアルミ箔を用いた。この正極シートから10cm2の大きさの面積に切り抜き、正極(作用極)を得た。
【0043】
<比較例1〜3>
LiFePO4粉末、CB(アセチレンブラック、ケッチェンブラック)、合成したCNF及びPVdFを次の表1に示す質量比となるように秤量して混合し、この混合物をNMPに添加し、PVdFが融けて均一なペースト状になるまで撹拌を行うことで、ペーストを調製した以外は実施例1〜3と同様にして正極(作用極)を作製した。
【0044】
<比較試験1>
先ず、対極として厚さ0.25mmのLi金属(本城金属株式会社製)、ポリプロピレン製のセパレータ(ポリポア株式会社製、商品名:セルガード)、電解液としてエチレンカーボネート(EC)とジエチレンカーボネート(DEC)とが質量比1:1の割合で混合した溶媒の1M−LiPF6溶液(宇部興産株式会社製)を用意した。次いで、Li金属を上記得られた正極(作用極)と同じ大きさに切り抜き、またセパレータを上記得られた正極(作用極)より大きめに切り抜き、切り抜いたセパレータを正極(作用極)と対極の間に挟み込み、これに電解液を加えて電極を形成した。次に、アルミラミネートフィルム内に上記形成した電極を収納し、リード線を用いて正極(作用極)と対極がそれぞれ電気的に接続された構成とすることで充放電試験装置を作製した。
【0045】
上記作製した充放電試験装置により、0.2Cのレート一定、電圧3.6Vの条件でCC−CV方式(定電流−定電圧方式)により充電を行い、放電は0.2Cレート、2Cレートと異なるレートでのCC方式(定電流方式)による放電を行って放電特性を調べた。ここで「Cレート」とは充放電レートを意味し、電池の全容量を1時間で放電させるだけの電流量を1Cレート放電といい、その電流量の例えば2倍であるとき2Cレート放電という。このときの測定温度は25℃一定とした。なお、放電時のカットオフ電圧は2.0V一定とし、この電位まで低下した場合には、Cレートの所定の時間を待つことなく測定を停止した。その結果を次の表1に示す。
【0046】
【表1】

表1から明らかなように、あらかじめCNFとCBを均一に分散させた導電助剤分散液を用いた実施例1〜3の方が、CNFとCBを電極ペースト調製時に混合した比較例1〜3に比べて、2Cレートでの放電において、放電容量が増加する結果が得られた。このような放電容量の違いは、本発明の導電助剤分散液を使用した実施例1〜3では、CNFが均一に電極全面に分散して、固着していることにより、電気的なパスができ、高電流密度における電極内の抵抗が減少したことが、高い放電特性に繋がったと推察される。
【0047】
<実施例4〜10>
CNF及びCBの表面酸化処理条件を次の表2に示すように変動させ、正極活物質としてLiFePO4粉末の代わりにLiCoO2粉末を用い、ペースト調製におけるLiCoO2粉末、導電助剤分散液(酸化処理CB、酸化処理CNF)及びPVdFの割合を次の表2に示す質量比とした以外は実施例1〜3と同様にして正極(作用極)を作製した。
【0048】
<比較試験2>
上記比較試験1と同様に、実施例4〜10で得られた正極(作用極)を用いて充放電試験装置を作製した。
【0049】
上記作製した充放電試験装置により、0.2Cのレート一定、電圧4.2Vの条件でCC−CV方式(定電流−定電圧方式)により充電を行い、1CレートでのCC方式(定電流方式)による放電を行った。充電と放電を各1回実施した状態を1サイクルとし、500サイクルまでの充放電試験を行い、5サイクル目の放電容量と、500サイクル後の放電容量の初回放電容量に対する割合を容量保持率として性能評価した。このときの測定温度は25℃一定とした。なお、放電時のカットオフ電圧は3.0V一定とし、この電位まで低下した場合には、Cレートの所定の時間を待つことなく測定を停止した。その結果を次の表2に示す。
【0050】
【表2】

表2から明らかなように、実施例4〜10は、導電助剤分散液作製時の酸化処理条件を変動させた場合の放電容量の変化である。サイクル5回目の放電容量では、混合液の混酸の濃度の増加に応じて放電容量も増加する傾向が見られた。また、500サイクル後の容量保持率では、混合液の混酸の濃度に応じて放電容量が変化し、実施例5〜9(混酸濃度10質量%〜30質量%)の場合に高い容量が得られ、濃度が低い実施例4、濃度が高い実施例10では、容量保持率が低くなる傾向が見られた。以上の結果から、酸化処理時の混合液中の混酸の濃度には適切な範囲が存在することが判った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノファイバーとカーボンブラックを含むリチウムイオン二次電池の電極材料用の導電助剤分散液において、
前記カーボンブラックがアセチレンブラック又はケッチェンブラックのいずれか一方又はその双方であり、
前記カーボンナノファイバーと前記カーボンブラックとが酸化処理され、
溶媒中に前記酸化処理されたカーボンナノファイバーと前記酸化処理されたカーボンブラックとが均一に分散している
ことを特徴とするリチウムイオン二次電池の電極材料用の導電助剤分散液。
【請求項2】
前記酸化処理が前記カーボンナノファイバーと前記カーボンブラックの混合粉に水を添加した混合液に、硝酸と硫酸の混酸を添加することにより行われ、
前記混合液と前記混酸の合計量を100質量%とするとき、前記混酸の添加量が10〜30質量%である請求項1記載の導電助剤分散液。
【請求項3】
請求項1又は2記載の導電助剤分散液を用いたリチウムイオン二次電池の電極形成材料。
【請求項4】
請求項1又は2記載の導電助剤分散液を用いて形成されたリチウムイオン二次電池の正極。
【請求項5】
請求項1又は2記載の導電助剤分散液を用いて形成されたリチウムイオン二次電池の負極。
【請求項6】
請求項1又は2記載の導電助剤分散液を用いて形成されたリチウムイオン二次電池。

【公開番号】特開2013−77479(P2013−77479A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217273(P2011−217273)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(597065282)三菱マテリアル電子化成株式会社 (151)
【Fターム(参考)】