説明

リチウムイオン二次電池及びリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法

【課題】正極活物質としてLiMnO−LiMO系の固溶体を用いた場合に、電極密度を高めることが可能なリチウムイオン二次電池、及び、このリチウムイオン二次電池用の正極活物質の製造方法を提供する。
【解決手段】リチウムイオン電池の正極活物質としてLiMnOとLiMO(Mは、Co、MnおよびNiのうちの少なくとも1種)との固溶体を用いることで、正極の電極密度を2.9g/cc以上とする。このとき、前記固溶体として、前記固溶体の前駆体とリチウム化合物との混合物または前記固溶体のいずれ一方と、モリブデン酸塩とを混合した後に焼成することで得られるものを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池及びリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池は、携帯電話、ノート型パーソナルコンピュータ等の携帯用電子機器に加え、自動車等に用いられるようになってきており、リチウムイオン二次電池に対してより一層の高容量化が求められている。このようなリチウムイオン二次電池の高容量化の要求に応えるため、リチウムイオン二次電池用正極材料として、LiMnO−LiMO系(M=Co、Niなど)の固溶体が注目されており、多数の報告例がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−155728号公報
【特許文献2】特開2007−042385号公報
【特許文献3】特開2006−086116号公報
【特許文献4】特開2010−033830号公報
【特許文献5】特開2006−127923号公報
【特許文献6】特開2010−218884号公報
【特許文献7】特開2007−141527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者が検討したところによれば、これまでに報告されているLiMnO−LiMO系固溶体は、リチウムイオン二次電池用正極材料として広く使用されているLiCoOのように電極密度を高くすることができない、ということがわかった。そのため、この固溶体を正極活物質として使用した場合、実電池の容量の向上には繋がらないため、未だ実用化には至っていない。
【0005】
ここで、従来は、電極密度を高めるための方法として、正極材料の前駆体のサイズを大きくしたり、正極材料の合成時の焼成温度を上げたりすることなどにより、正極材料の粒子径を増大させる方法が行われてきた(例えば、特許文献1を参照)。
【0006】
しかしながら、正極材料の前駆体のサイズを大きくしたり、焼成温度を上げたりするといった方法では、大粒子径の正極材料は得られるものの、電池の特性としては、容量が低下し、レート特性も悪化してしまい、正極材料の粒子径の増大化と電池特性とを両立できない事例が多かった。また、本発明者の検討によれば、高電極密度の固溶体正極材料を得るために上記方法を用いて、固溶体正極材料の製造条件(前駆体のサイズ、焼成条件)を変更するだけでは、固溶体の1次粒子は成長せずに部分的に焼結しているだけであり、結果として電極密度の向上もできず、電池特性も低下してしまうことが判明した。
【0007】
さらに、電極内に、活物質が比較的高密度で含まれる高密度領域と、活物質が比較的低密度で含まれる低密度領域を形成し、電極密度を高める方法が提案されている(例えば、特許文献2を参照)。また、VGCFと呼ばれる炭素繊維を用いることにより電極密度を高める方法も提案されている(例えば、特許文献3を参照)。また、負極の電極密度を高める方法として、粒度分布の異なる活物質粒子を含める技術が提案されている(例えば、特許文献4を参照)。しかし、固溶体正極材料を用いた場合には、これらの方法を用いても十分に電極密度を高めることはできなかった。
【0008】
その他にも、電極密度に着目した技術は提案されている(例えば、特許文献5〜7を参照)。しかし、これらの技術は、電池の高容量化を目的とするものではなく、保存特性、レート特性、サイクル特性を向上させるためのものであり、固溶体正極材料を用いた電池にこれらの技術を適用しても、電池を高容量化させることはできなかった。
【0009】
このように、これまでは、正極材料としてLiMnO−LiMO系の固溶体を用いたリチウムイオン二次電池において、高電極密度を有するものは得られておらず、そもそも、高容量となるLiMnO−LiMO系の固溶体を正極活物質として用いた場合に、さらに電極密度を高めて実電池として高容量化を目指す発想はなかったのが現状である。
【0010】
そこで、本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、正極活物質としてLiMnO−LiMO系の固溶体を用いた場合に、電極密度を高めることが可能なリチウムイオン二次電池、及び、このリチウムイオン二次電池用の正極活物質の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、LiMnO−LiMO系の固溶体を用いた正極活物質を製造する際に、焼結促進剤としてモリブデン酸塩を用いることにより、電池特性を劣化させることなく、固溶体粒子の1次粒子径を大きくすることができ、これにより電極密度を高めることができることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明のある観点によれば、LiMnOとLiMO(Mは、Co、MnおよびNiのうちの少なくとも1種)との固溶体を正極活物質として含有し、かつ、電極密度が2.9g/cc以上である正極を有し、前記正極活物質は、粒子状の前記固溶体の凝集体からなり、前記固溶体は、下記式(1)で表され、前記固溶体の1次粒子の数平均粒子径が、0.5μm以上である、リチウムイオン二次電池が提供される。
xLiMnO−(1−x)LiMO ・・・(1)
前記式(1)で、xは、0.2≦x≦0.5であり、Mは、下記式(2)で表される。
MnCoNi ・・・(2)
前記式(2)で、a、b、cは、0.3≦a≦0.5、0.1≦b≦0.3、0.3≦c≦0.5、かつ、a+b+c=1である。
【0013】
また、前記リチウムイオン二次電池において、前記正極活物質が、前記固溶体の前駆体とリチウム化合物との混合物または前記固溶体のいずれ一方と、モリブデン酸塩とを混合した後に焼成することで得られるものであることが好ましい。
【0014】
また、本発明の別の観点によれば、LiMnOとLiMO(MはCo、MnおよびNiのうちの少なくとも1種)との固溶体、または、該固溶体の前駆体とリチウム化合物との混合物のいずれか一方と、前記固溶体または前記固溶体の前駆体100質量部に対して5質量部以上50質量部以下の量のモリブデン酸塩とを混合した後に、750℃以上1050℃以下の温度で焼成し、前記固溶体は、下記式(1)で表される、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法が提供される。
xLiMnO−(1−x)LiMO ・・・(1)
前記式(1)で、xは、0.2≦x≦0.5であり、Mは、下記式(2)で表される。
MnCoNi ・・・(2)
前記式(2)で、a、b、cは、0.3≦a≦0.5、0.1≦b≦0.3、0.3≦c≦0.5、かつ、a+b+c=1である。
【0015】
また、前記リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法において、前記モリブデン酸塩が、モリブデン酸リチウムまたはモリブデン酸ナトリウムであることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、LiMnOとLiMOとの固溶体を用いた正極活物質を製造する際に、焼結促進剤としてモリブデン酸塩を用いることにより、電池特性を劣化させることなく、上記固溶体を用いた正極の電極密度を高めることができるので、LiMnO−LiMO系の固溶体正極材料を用いたリチウムイオン二次電池の単位体積当たりの容量が格段に高まり、実用化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施例1と比較例1における焼成前後の固溶体粒子を撮影したSEM画像である。
【図2】本発明の実施例1と比較例1の初回放電曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0019】
[リチウムイオン二次電池の構成]
まず、本発明の好適な実施形態に係るリチウムイオン二次電池の構成について詳細に説明する。本実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、例えば、角形、円柱状、コイン形状、ボタン形状、シート形状、シリンダー形状、偏平形状等の形状を有しており、主に、正極、負極、電解質、セパレータを備える。
【0020】
(正極)
正極は、集電体と、集電体上に形成される正極活物質層とからなり、正極活物質層は、正極活物質としてLiMnO−LiMO系の固溶体を含有する層である。
【0021】
<集電体>
集電体としては、例えば、銅、ニッケル、ステンレス鋼、チタン等からなる箔、シートやネット、炭素繊維からなるシートやネット、導電性金属がコーティングされたポリマー基材などが挙げられる。ポリマー基材としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリフッ化ビニリデン、ポリスルホン、これらの共重合体等のうちの1種又は2種以上で形成された基材を用いることができる。なお、集電体を用いずに、後述する正極活物質をペレット状に圧密化成形したものを正極としてもよい。
【0022】
<正極活物質>
本実施形態に係る正極活物質としては、LiMnOとLiMOとの固溶体を用いる。この固溶体は、具体的には、下記式(1)で表される化合物である。
xLiMnO−(1−x)LiMO ・・・(1)
【0023】
上記式(1)で、xの範囲としては、0.2≦x≦0.5である。xを上記範囲とすることにより、式(1)で表される固溶体が、高容量のリチウムイオン二次電池を製造可能な正極活物質となり得るとともに、固溶体の1次粒子径を増大させることができる。一方、xが上記範囲を外れると、電池のレート特性が悪化する。
【0024】
また、上記式(1)で、Mは、Co、MnおよびNiのうちの少なくとも1種で構成され、その組成は、下記式(2)で表される。
MnCoNi(a+b+c=1) ・・・(2)
【0025】
上記式(2)で、a、b、cの範囲としては、それぞれ、0.3≦a≦0.5、0.1≦b≦0.3、0.3≦c≦0.5である。a、b、cを上記範囲とすることにより、式(1)で表される固溶体が、高容量のリチウムイオン二次電池を製造可能な正極活物質となり得るとともに、固溶体の1次粒子径を増大させることができる。一方、a、b、cが上記範囲を外れると、初期容量の低下、電池のレート特性が悪化する。
【0026】
以上に述べたようなLiMnO−LiMO系の固溶体を正極活物質として用いることにより、これを用いたリチウムイオン二次電池を高容量化することができる。
【0027】
また、本実施形態に係る正極活物質は、粒子状のLiMnOとLiMOとの固溶体(1次粒子)の凝集体(2次粒子)からなっており、この固溶体(該固溶体の前駆体とリチウム化合物との混合物であってもよい)と、モリブデン酸塩とを混合した後に焼成することで得られるものである。ここで、モリブデン酸塩は、上記固溶体からなる正極活物質を製造する際に焼結促進剤として用いられるもので、モリブデン酸塩を焼結促進剤として使用することで、保存特性、レート特性、サイクル特性等の電池特性を低下させることなく、得られる正極活物質中の固溶体の1次粒子の粒子径を大きく成長させることが可能となる。
【0028】
具体的には、上記固溶体の1次粒子の数平均粒子径を0.5μm以上とする。本実施形態におけるように、モリブデン酸塩を焼結促進剤として使用することで、初めて上記固溶体の1次粒子の数平均粒子径を0.5μm以上とすることができる。なお、固溶体の1次粒子の数平均粒子径は、例えば、得られた正極活物質層を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、数視野のSEM画像を画像処理することにより、各画像中に存在する固溶体の1次粒子の粒子径の数平均をとることにより求めることができる。
【0029】
このように、本実施形態に係る正極活物質を構成する固溶体の1次粒子の粒子径を大きく成長させることができることから、この正極活物質を含む正極の電極密度を2.9g/cc以上とすることができる。従って、本実施形態に係るリチウムイオン電池を高容量化することができ、より詳細には、リチウムイオン二次電池の単位体積当たりの容量を格段に高めることができ、これにより実用電池として使用可能なものとすることができる。
【0030】
<その他の添加剤>
本実施形態に係る正極には、上述した正極活物質の他に、例えば、導電剤、結着剤、フィラー、分散剤、イオン導電剤等の添加剤が、適宜選択され含まれていてもよい。上記導電剤としては、例えば、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、炭素繊維、金属粉等が挙げられ、前記結着剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン等が挙げられる。また、結着剤、フィラー、分散剤、イオン導電剤等については、一般に用いられている物質を使用することができる。
【0031】
(負極)
負極は、集電体と、集電体上に形成される負極活物質層とからなる。
【0032】
<集電体>
集電体としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、チタン等からなる箔などの正極と同様のものを用いることができる。
【0033】
<負極活物質>
負極活物質としては、例えば、黒鉛系炭素材料、シリコン、スズ、シリコン合金、スズ合金、酸化ケイ素、リチウムバナジウム酸化物等が挙げられるが、特に、シリコン、スズ、シリコン合金、スズ合金等のリチウムと合金化可能な化合物や、酸化ケイ素、リチウムバナジウム酸化物等を使用することが好ましい。黒鉛系炭素材料の容量密度が560〜630mAh/cmであるのに対して、シリコン、スズ、シリコン合金、スズ合金、酸化ケイ素、リチウムバナジウム酸化物等の容量密度は850mAh/cm以上であり、これらを用いることにより電池の小型化及び高容量化を図ることができる。なお、これらの負極活物質は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0034】
<その他の添加剤>
本実施形態に係る負極にも、正極と同様に、上述した負極活物質の他に、例えば、導電剤、結着剤、フィラー、分散剤、イオン導電剤等の添加剤が、適宜選択され含まれていてもよい。
【0035】
(電解質)
電解質としては、例えば、有機溶媒にリチウム塩を溶解させた非水電解液、ポリマー電解質、無機固体電解質、ポリマー電解質と無機固体電解質との複合材等が挙げられる。
【0036】
上記非水電解液の溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状カーボネートや、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等の鎖状カーボネートや、γ−ブチルラクトン等のγ−ラクトン類や、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、エトキシメトキシエタン等の鎖状エーテル類や、テトラヒドロフラン類の環状エーテル類や、アセトニトリル等のニトリル類等が挙げられる。これらの溶媒は単独で用いてもよく、2種類以上混合して用いてもよい。
【0037】
上記非水電解液の溶質であるリチウム塩としては、例えば、LiAsF、LiBF、LiPF、LiAlCl、LiClO、LiCFSO、LiSbF、LiSCN、LiCl、LiCSO、LiN(CFSO、LiC(CFSO、LiCSO等が挙げられる。
【0038】
上記リチウム塩の濃度は、0.6M以上2.0M以下とすることが好ましく、0.7M以上1.6M以下とすることが更に好ましい。リチウム塩の濃度を上記範囲とすることにより、適切な粘度とすることができるとともに、リチウムイオンの伝導性を向上させることができる。
【0039】
(セパレータ)
セパレータとしては、例えば、ポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィンからなる多孔質膜が使用できる。また、この多孔質膜の上にポリアミド層を設けてもよく、無機金属化合物が含まれたポリアミド層があってもよい。
【0040】
[リチウムイオン二次電池の製造方法]
以上、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の構成について詳細に説明したが、続いて、上述した構成を有するリチウムイオン二次電池の製造方法について詳細に説明する。
【0041】
(正極の作製)
まず、正極を作製する。正極は、集電体上に正極活物質層を形成することにより得られる。
【0042】
<正極活物質の合成>
ここで、本実施形態に係る正極活物質の製造方法について説明する。初めに、上述したLiMnOとLiMOとの固溶体とモリブデン酸塩とを混合する。あるいは、LiMnOとLiMOとの固溶体の前駆体を用いる場合には、例えば、Ni、Co、Mnのうちの少なくとも1種を元素として含む複合水酸化物を前駆体として用意し、さらに、例えば、LiCO等をLi源として用意し、これらの前駆体とLi源とを混合し、この混合物とモリブデン酸塩とを混合する。
【0043】
このとき用いるモリブデン酸塩としては、金属のモリブデン酸塩であれば特に限定はされないが、例えば、モリブデン酸リチウム(LiMoO)またはモリブデン酸ナトリウム(NaMoO)を使用することが好ましい。これらの化合物を使用することにより、電池の特性を低下させることなく、より確実に固溶体の粒子径を大きく成長させることができる。
【0044】
また、混合するモリブデン酸塩の量としては、上記の固溶体または固溶体の前駆体100質量部に対して、5質量部以上50質量部以下とする。モリブデン酸塩の量が5質量部未満であると、固溶体の1次粒子の粒子径を増大させる効果が不十分となり、正極の電極密度を小さくなる(2.9g/cc未満となる)おそれがある。一方、モリブデン酸塩の量が50質量部を超えると、電池のレート特性が悪化するおそれがある。
【0045】
次いで、上記で得られた固溶体または固溶体の前駆体とモリブデン酸塩との混合物を焼成する。このときの焼成温度としては、750℃以上1050℃以下とする。焼成温度が750℃未満であると、固溶体の1次粒子の粒子径を増大させる効果が不十分となり、正極の電極密度を小さくなる(2.9g/cc未満となる)おそれがある。一方、焼成温度が1050℃を超えると、電池のレート特性が悪化するおそれがある。
【0046】
また、焼成時間としては特に限定されないが、例えば、3時間〜12時間程度とすればよい。焼成時間が3時間未満では、焼結が進まず所望の粒子が得られない。一方、12時間を超えるような長時間焼成でも特に特性が悪化することはないが12時間を超えて焼成を行う利点がない。
【0047】
さらに、上記焼成後の固溶体とモリブデン酸塩との混合物を水洗してモリブデン酸塩取り除いた後、乾燥させる(例えば、80℃で一晩)ことにより、大粒径の固溶体粒子を含有する正極活物質を得ることができる。
【0048】
<正極活物質層の形成>
次いで、上述したようにして得られた正極活物質と、導電剤、結着剤、フィラー、分散剤、イオン導電剤等の各種添加剤との混合物を水や有機溶媒等の溶媒に添加してスラリー又はペースト化する。さらに、得られたスラリー又はペーストを、ドクターブレード法等の塗布法を用いて集電体上に塗布し、乾燥した後に、圧延ロール等で圧密化することにより、集電体上に正極活物質層を形成することができる。
【0049】
(負極の作製)
次に、負極を作製する。負極は、集電体上に負極活物質層を形成することにより得られる。具体的には、正極を作製する場合と同様に、上述した負極活物質と、導電剤、結着剤、フィラー、分散剤、イオン導電剤等の各種添加剤との混合物を水や有機溶媒等の溶媒に添加してスラリー又はペースト化する。さらに、得られたスラリー又はペーストを、ドクターブレード法等の塗布法を用いて集電体上に塗布し、乾燥した後に、圧延ロール等で圧密化することにより、集電体上に負極活物質層を形成することができる。
【0050】
(電解質の作製)
電解質として、有機溶媒にリチウム塩を溶解させた非水電解液を使用する場合には、電解質溶液を調製する。この場合、上述した非水電解液の溶媒(例えば、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを所定混合比で混合した混合溶媒)中に、上述したリチウム塩を所定濃度で溶解させた溶液を調製する。また、電解質として、ポリマー電解質、無機固体電解質、ポリマー電解質と無機固体電解質との複合材等の固体電解質を用いる場合には、これらをそのまま(ポリマー電解質の場合は製膜して)電解質として用いる。
【0051】
(リチウムイオン二次電池の組み立て)
電解質として非水電解液を使用する場合には、以上のようにして得られた正極と負極との間にセパレータを介在させ、セパレータを介在させた電極を円筒形や偏平形等の電池ケースに応じた形状に巻き、巻かれた状態の電極を電池ケースに収容した後に、この電極が収容された電池ケース内に電解質溶液を注液することで、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池を製造することができる。また、電解質として固体電解質を使用する場合には、電解液を注入する代わりに、固体電解質を電極と積層させる。
【実施例】
【0052】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0053】
(サンプルの作製)
正極活物質として、上記式(1)(xLiMnO−(1−x)LiMO)で表されるLiMnO−LiMO系固溶体を使用した。なお、式(1)におけるMの組成は、上記式(2)(MnCoNi)で表される。具体的には、正極活物質を作製する材料として、下記の表1に示す組成の固溶体またはその前駆体を用い、該固溶体または前駆体と、表1に示す種類のモリブデン酸塩とを混合した。このときのモリブデン酸塩の添加量は、固溶体または前駆体100質量部に対して、表1に示した質量部である。また、前駆体を使用した場合には、Ni、Co、Mnのうちの少なくとも1種を元素として含む複合水酸化物を使用し、この前駆体に、Li源としてLiCOを添加した後に、モリブデン酸塩と混合した。
【0054】
次に、上記のようにして得られた固溶体または前駆体とモリブデン酸塩との混合物を焼成炉に入れ、表1に示す温度で6時間焼成した。なお、表1に示す焼成温度までの昇温時間は、いずれも2.5時間とした。
【0055】
上記焼成後、固溶体または前駆体とモリブデン酸塩との混合物を焼成炉から取り出し、水洗後、80℃で一晩乾燥させることにより、実施例1〜11及び比較例1〜9の正極活物質を得た。なお、比較例10の正極活物質は、焼成をしていない例である。
【0056】
次いで、得られた正極活物質90質量%と、アセチレンブラック5質量%と、ポリビニルフッ化ビニリデン(PVdF)5質量%の混合物にN−メチル−2−ピロリドンを加えてペースト化して正極合材とし、この正極合材をアルミニウム箔(集電体)に塗布することにより、正極を作製した。
【0057】
また、負極活物質としては黒鉛粉末を使用し、この黒鉛粉末95質量%とポリフッ化ビニリデン(PVDF)5質量%の混合物にN−メチル−2−ピロリドンを加えてペースト状として負極合材とし、この負極合材を銅箔(集電体)に塗布することにより、負極を作製した。
【0058】
得られた正極及び負極にポリプロピレン製セパレータを介在させ、非水電解質を注液して、実施例1〜11及び比較例1〜10のリチウムイオン二次電池サンプルを作製した。非水電解質としては、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとが3:7の割合で混合されてなる混合溶媒に、LiPFを1.10mol/Lの濃度で溶解させた非水電解液を用いた。
【0059】
(評価方法)
上記のようにして得られた実施例1〜11及び比較例1〜10のリチウムイオン二次電池サンプルについて、正極活物質層中に含まれる固溶体粒子の1次粒子の数平均粒子径(μm)を測定し、この測定結果から、正極の電極密度(g/cc)を算出した。固溶体正極粒子の数平均粒子径の測定は、任意の倍率のSEM画像から無作為に100個の粒子を選択し、画像解析ソフトにて平均粒子径を算出した。また、正極の電極密度は、15mmΦに打ち抜いたコインセル用電極の塗布質量とプレス後の厚みから算出した。
【0060】
また、実施例1〜11及び比較例1〜10のリチウムイオン二次電池サンプルについて、25℃で、定電流(0.1C)−定電圧(4.75V)で充電した後、放電終始電圧2.0Vまで定電流で放電し、初回放電容量(mAh/g)を測定した。また、この初回放電容量の測定値に上記で算出した正極の電極密度を乗じることにより、リチウムイオン二次電池サンプルの単位体積当たりの容量(mAh/cc)を算出した。
【0061】
さらに、実施例1と比較例1については、焼成後の固溶体粒子の状態を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察するとともに、初回放電曲線から焼成前後の容量劣化について検討した。
【0062】
(評価結果)
固溶体粒子の1次粒子径(数平均粒子径)、正極の電極密度、リチウムイオン二次電池サンプルの初回放電容量及び単位体積当たりの容量を下記の表1に示す。なお、表1には、比較を容易にするため、実施例1を重複して記載している。
【0063】
【表1】

【0064】
表1に示すように、実施例1〜11については、固溶体粒子の1次粒子径が0.5μm以上と大きく、正極の電極密度も3.0g/cc以上となった。また、実施例1〜11は、初回放電容量も高く、単位体積当たりの容量も大きなものとなった。この結果から、本発明に係る固溶体を含有する正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池は、実用電池として十分に適用可能なものであることが示唆された。
【0065】
一方、比較例1については、焼成時にモリブデン酸塩を混合していないことから、固溶体粒子の1次粒子径、正極の電極密度、初回放電容量及び単位体積当たりの容量がいずれも低いものとなった。
【0066】
また、モリブデン酸塩の添加量が少ない比較例2や、焼成温度が低い比較例4は、固溶体粒子の1次粒子径が小さいために、正極の電極密度が低いものとなり、これにより、体積当たりの容量も低いものとなった。一方、モリブデン酸塩の添加量が多い比較例3、焼成温度が高い比較例5、式(1)及び(2)のx、a、b、cの値が本発明の範囲を外れるものについては、初回放電容量が低いために単位体積当たりの容量も小さいものとなった。比較例5では、高温で焼成したために、必要以上に大粒径化が進んでしまったこと、若しくはLiの蒸発によりLiが不足したため、放電容量が低かったものと考えられる。
【0067】
次に、図1を参照しながら、実施例1と比較例1について焼成後の固溶体粒子の状態を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した結果について説明する。図1は、実施例1と比較例1における焼成前後の固溶体粒子を撮影したSEM画像である。なお、図1には、比較参照用として、焼成前の固溶体粒子を撮影したSEM画像も示している。
【0068】
図1において、(a)は焼成前の固溶体粒子の状態、(b)は焼結促進剤としてモリブデン酸塩(LiMoO)を添加して焼成(焼成温度:1000℃)した後の固溶体粒子の状態、(c)は焼結促進剤を添加せずに焼成(焼成温度:1000℃)した後の固溶体粒子の状態を示している。図2に示すように、焼成前の固溶体粒子の状態は、小さな1次粒子の凝集体であるが、焼結促進剤としてモリブデン酸塩を添加して焼成した場合(実施例1)には、固溶体の1次粒子が大きく成長していることがわかる。一方、焼結促進剤を添加せずに焼成した場合(比較例1)には、固溶体の1次粒子には変化がなく、粒子径は増大していないことがわかる。この結果から、本発明のように、焼結促進剤を用いて焼成した固溶体を含有する正極活物質を用いれば、固溶体の1次粒子の粒子径が増大し、正極の電極密度が高まることがわかる。
【0069】
次に、図2を参照しながら、実施例1と比較例1について初回放電曲線から焼成前後の容量劣化について検討した結果について説明する。図2は、実施例1と比較例1の初回放電曲線を示すグラフである。なお、図2の縦軸はセル電圧(V)、横軸は放電容量(mAh/g)である。また、図2には、比較参照用として、焼成前の固溶体粒子を正極活物質として用いた場合の初回放電曲線も示している。
【0070】
図2に示すように、焼結促進剤としてモリブデン酸塩を添加して焼成した場合(実施例1)には、焼成前の固溶体を用いた場合と比較して容量の劣化が少ないのに対し、焼結促進剤を添加せずに焼成した場合(比較例1)には、焼成前の固溶体を用いた場合と比較して容量が大きく劣化していることがわかる。この結果から、本発明のように、焼結促進剤を用いて焼成した固溶体を含有する正極活物質を用いれば、焼成による容量劣化が少なく、電池特性の低下も抑制できることがわかる。
【0071】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
LiMnOとLiMO(Mは、Co、MnおよびNiのうちの少なくとも1種)との固溶体を正極活物質として含有し、かつ、電極密度が2.9g/cc以上である正極を有し、
前記正極活物質は、粒子状の前記固溶体の凝集体からなり、
前記固溶体は、下記式(1)で表され、
前記固溶体の1次粒子の数平均粒子径が、0.5μm以上である、リチウムイオン二次電池。
xLiMnO−(1−x)LiMO ・・・(1)
前記式(1)で、xは、0.2≦x≦0.5であり、
Mは、下記式(2)で表される。
MnCoNi ・・・(2)
前記式(2)で、a、b、cは、0.3≦a≦0.5、0.1≦b≦0.3、0.3≦c≦0.5、かつ、a+b+c=1である。
【請求項2】
前記正極活物質が、前記固溶体の前駆体とリチウム化合物との混合物または前記固溶体のいずれ一方と、モリブデン酸塩とを混合した後に焼成することで得られるものである、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
LiMnOとLiMO(MはCo、MnおよびNiのうちの少なくとも1種)との固溶体、または、該固溶体の前駆体とリチウム化合物との混合物のいずれか一方と、前記固溶体または前記固溶体の前駆体100質量部に対して5質量部以上50質量部以下の量のモリブデン酸塩とを混合した後に、750℃以上1050℃以下の温度で焼成し、
前記固溶体は、下記式(1)で表される、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
xLiMnO−(1−x)LiMO ・・・(1)
前記式(1)で、xは、0.2≦x≦0.5であり、
Mは、下記式(2)で表される。
MnCoNi ・・・(2)
前記式(2)で、a、b、cは、0.3≦a≦0.5、0.1≦b≦0.3、0.3≦c≦0.5、かつ、a+b+c=1である。
【請求項4】
前記モリブデン酸塩が、モリブデン酸リチウムまたはモリブデン酸ナトリウムである、請求項3に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。



【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2013−114815(P2013−114815A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257976(P2011−257976)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(590002817)三星エスディアイ株式会社 (2,784)
【氏名又は名称原語表記】Samsung SDI Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】428−5,Gongse−dong,Giheung−gu,Yongin−si,Gyeonggi−do 446−577 Republic of KOREA
【Fターム(参考)】