説明

リチウムイオン二次電池用の負極材料、リチウムイオン二次電池用の負極材料を製造する方法及びリチウムイオン二次電池

【課題】リチウムイオン二次電池のサイクル特性を向上し不可逆容量を抑制する。
【解決手段】負極材料に担持体及びシリコン/無定形炭素複合粒子が含まれる。担持体においては、電子伝導性を有する炭素繊維が絡み合う。炭素繊維の間には流動体が浸透しうる隙間がある。シリコン/無定形炭素複合粒子は、隙間に侵入し、担持体の内部に分散し、担持体に担持される。シリコン/無定形炭素複合粒子は、シリコン粒子及び表面密着物を備える。表面密着物は、無定形炭素からなり、シリコン粒子の表面に密着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用の負極材料、リチウムイオン二次電池用の負極材料を製造する方法及びリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に黒鉛系の負極材料が広く用いられている。黒鉛系の負極材料の単位重量あたりの理論放電容量は、372mAh/gである。
【0003】
この理論放電容量を超えるため、リチウムイオン二次電池にシリコン系の負極材料を用いることが期待されている。シリコン系の負極材料の単位重量あたりの理論放電容量は、4000mAh/gを超える。
【0004】
しかし、シリコン系の負極材料を用いたリチウムイオン二次電池には、サイクル特性が十分でないという問題がある。これは、充放電が繰り返された場合に、電子伝導パスが寸断されるためであると考えられている。電子伝導パスが寸断された場合は、充放電に寄与しないシリコン粒子が増加し、リチウムイオン二次電池の容量が低下する。
【0005】
充放電が繰り返された場合に電子伝導パスが寸断されるのは、シリコン粒子がリチウムイオンの吸収及び放出を繰り返し、シリコン粒子が膨張及び収縮を繰り返し、シリコン粒子が微細化するためである。充電末におけるシリコン粒子の体積は放電末におけるシリコン粒子の体積の約4倍もあり、シリコン粒子が膨張及び収縮を繰り返すことの影響は大きい。
【0006】
この問題を解決するため、電子伝導性の炭素からなるマトリクスにシリコン粒子を分散させること、シリコン粒子と電子伝導性の炭素とを複合化すること等が提案されている。特許文献1は、その一例である。特許文献1は、カーボンブラック、カーボンナノファイバー及びシリコン/炭素複合材料粉末の混合物からなる負極材料を提案する。特許文献1の負極材料によれば、シリコン/炭素複合材料粉末が膨張及び収縮を繰り返しても電子伝導パスが維持され、リチウムイオン二次電池のサイクル特性が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−18575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記の解決策によってもリチウムイオン二次電池のサイクル特性は依然として不十分であり、サイクル特性のさらなる向上が望まれる。また、カーボンナノファイバーがマトリクスに用いられた場合は、充電容量に対する放電容量の比が小さくなる不可逆容量も発生する。
【0009】
本発明は、この問題を解決するためになされる。本発明の目的は、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を向上し、不可逆容量を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1及び第2の局面は、リチウムイオン二次電池用の負極材料に向けられる。
【0011】
本発明の第1の局面においては、担持体及びシリコン/無定形炭素複合粒子が負極材料に含まれる。担持体においては、電子伝導性を有する炭素繊維が絡み合う。流動体が浸透しうる隙間が炭素繊維の間にある。シリコン/無定形炭素複合粒子は、隙間に侵入し、担持体の内部に分散し、担持体に担持される。シリコン/無定形炭素複合粒子は、シリコン粒子及び表面密着物を備える。表面密着物は、無定形炭素からなり、シリコン粒子の表面に密着する。
【0012】
本発明の第2の局面は、本発明の第1の局面にさらなる事項を付加する。本発明の第2の局面においては、担持体がカーボンペーパー、カーボンクロス又はカーボンフェルトである。
【0013】
本発明の第3の局面は、リチウムイオン二次電池用の負極材料を製造する方法に向けられる。
【0014】
本発明の第3の局面においては、流動体及び担持体が準備される。流動体は、分散媒、シリコン粒子及び炭素前駆体を含有する。シリコン粒子が分散媒に分散させられ、炭素前駆体が分散媒に溶解させられる。担持体においては、電子伝導性を有する炭素繊維が絡み合う。炭素繊維の間には隙間がある。隙間に流動体が浸透させられる。これにより、シリコン粒子及び炭素前駆体が隙間に侵入する。シリコン粒子及び炭素前駆体が隙間に侵入した後に、担持体から分散媒が除去される。担持体から分散媒が除去された後に、担持体が焼成される。これにより、炭素前駆体が表面密着物に変化する。表面密着物は、無定形炭素からなり、シリコン粒子の表面に密着する。
【0015】
本発明の第4の局面は、リチウムイオン二次電池に向けられる。本発明の第4の局面においては、負極材料からなる負極と正極材料からなる正極との間に電解質が存在する。負極材料は、本発明の第1の局面と同じものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、シリコン/無定形炭素複合粒子が膨張及び収縮を繰り返しても電子伝導パスが維持され、リチウムイオン二次電池のサイクル特性が向上する。また、不可逆容量の発生も抑制される。
【0017】
これらの及びこれら以外の本発明の目的、特徴、局面及び利点は、添付図面とともに考慮されたときに下記の本発明の詳細な説明によってより明白となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1実施形態のリチウムイオン二次電池用の負極材料の断面図である。
【図2】第1実施形態のリチウムイオン二次電池用の負極材料の微構造の模式図である。
【図3】第1実施形態のシリコン/無定形炭素複合粒子(以下では「Si/DC複合粒子」という。)の別例の模式図である。
【図4】第2実施形態のリチウムイオン二次電池用の負極材料を製造する方法を示すフローチャートである。
【図5】Si/DC複合粒子がカーボンペーパーの表層にとどまった状態を示す断面図である。
【図6】第3実施形態のリチウムイオン二次電池の基本構造を示す断面図である。
【図7】評価用セルの分解斜視図である。
【図8】焼成プロファイルを示すグラフである。
【図9】実施例1の評価用セルの充放電レート特性を示すグラフである。
【図10】実施例1の評価用セルのサイクル特性を示すグラフである。
【図11】比較例1及び比較例2の評価用セルの充放電レート特性を示すグラフである。
【図12】比較例1及び比較例2の評価用セルのサイクル特性を示すグラフである。
【図13】比較例2及び比較例3の評価用セルの充放電レート特性を示すグラフである。
【図14】比較例2及び比較例3の評価用セルのサイクル特性を示すグラフである。
【図15】実施例1の負極材料の電子顕微鏡写真である。
【図16】カーボンペーパーの電子顕微鏡写真である。
【図17】Si/DC複合粒子の電子顕微鏡写真である。
【図18】比較例1の負極材料の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1実施形態)
第1実施形態は、リチウムイオン二次電池用の負極材料に関する。
【0020】
図1の模式図は、第1実施形態のリチウムイオン二次電池用の負極材料の断面図である。図2の模式図は、第1実施形態のリチウムイオン二次電池用の負極材料の微構造を示す。
【0021】
図1に示すように、負極材料1000は、カーボンペーパー1020及びシリコン/無定形炭素複合粒子(以下では「Si/DC複合粒子」という。)1022からなる。これらの構成物以外の構成物が負極材料1000に含まれてもよい。
【0022】
カーボンペーパー1020は、電子伝導性のマトリクスとなり、負極活物質を担持する担持体として機能し、負極活物質への電子伝導パスを提供する。
【0023】
Si/DC複合粒子1022は、リチウムイオンを吸収及び放出する負極活物質となる。
【0024】
図2に示すように、カーボンペーパー1020においては、炭素繊維1040が不規則に絡み合っている。炭素繊維1040は電子伝導性を有する。これにより、カーボンペーパー1020は、電子伝導パスを提供する。
【0025】
カーボンペーパー1020が負極集電体に接触する場合は、放電時にSi/DC複合粒子1022から炭素繊維1040を経由して負極集電体へ電子が移動し、充電時に負極集電体から炭素繊維1040を経由してSi/DC複合粒子1022へ電子が移動する。
【0026】
カーボンペーパー1020は網目構造を有し、炭素繊維1040の間には隙間1060がある。隙間1060には流動体が浸透しうる。
【0027】
Si/DC複合粒子1022は、隙間1060に侵入し、カーボンペーパー1020の内部に分散する。望ましくは、Si/DC複合粒子1020は、カーボンペーパー1020の全体に分散する。Si/DC複合粒子1022は、カーボンペーパー1020に担持される。
【0028】
隙間1060には流動体が浸透しうるため、カーボンペーパー1020が電解液に接触した場合は、電解液が隙間1060に浸透し、電解液とSi/DC複合粒子1022とが接触する。充電時にはSi/DC複合粒子1022が電解液からリチウムイオンを吸収し、放電時にはSi/DC複合粒子1022が電解液へリチウムイオンを放出する。Si/DC複合粒子1022がリチウムイオンを吸収した場合はSi/DC複合粒子1022が膨張する。Si/DC複合粒子1022がリチウムイオンを放出した場合は、Si/DC複合粒子1022は収縮する。Si/DC複合粒子1022の膨張及び収縮は、Si/DC複合粒子1022の核となるシリコン粒子(以下では「Si粒子」という。)1080の膨張及び収縮に起因する。炭素繊維1040は柔軟性を有するので、Si/DC複合粒子1022が膨張及び収縮を繰り返しても電子伝導パスは維持される。このため、負極材料1000を用いたリチウムイオン二次電池のサイクル特性は良好である。カーボンペーパー1020がマトリクスである場合は、不可逆容量も抑制される。
【0029】
カーボンペーパー1020が他の種類の炭素繊維の絡み合い体に置き換えられてもよい。例えば、カーボンペーパー1020がカーボンクロス、カーボンフェルト等に置き換えられてもよい。
【0030】
Si/DC複合粒子1022は、Si粒子1080及び無定形炭素からなる表面密着物1082からなる。2個以上のSi粒子1080が1個のSi/DC複合粒子1022に含まれてもよい。Si粒子1080は、1次粒子及び2次粒子のいずれでもよい。
【0031】
表面密着物1082は、電子伝導性を有し、本来は半導体であるSi粒子1080に電子伝導性を付与する。したがって、表面密着物1082は、Si粒子1080の表面に密着する必要がある。表面密着物1082は、Si粒子1080の表面に化学吸着され、物理吸着された場合よりも強力にSi粒子1080の表面に密着する。
【0032】
Si粒子1080の表面を広範囲に覆うためには、望ましくは、図2に示すようにSi粒子1080の表面に密着する殻の表面密着物1082として無定形炭素が存在する。ただし、図3の模式図に示すようにSi粒子1080aの表面に密着する粒子の表面密着物1082aとして無定形炭素が存在してもよい。
【0033】
Si粒子1080の表面に表面密着物1082が密着する場合も、電解液はSi粒子1080の表面に接触しうる。これは、Si粒子1080の表面に表面密着物1082が密着しても、Si粒子1080の表面の一部が露出しているか、又は、電解液が浸透しうる欠陥が表面密着物1082に存在するためである。
【0034】
(第2実施形態)
第2実施形態は、第1実施形態のリチウムイオン二次電池用の負極材料の製造に適したリチウムイオン二次電池用の負極材料を製造する方法に関する。第2実施形態のリチウムイオン二次電池用の負極材料を製造する方法においては、隙間に流動体が浸透しうるというカーボンペーパーの特徴がSi粒子及び炭素前駆体(プレカーサー)を隙間へ侵入させるために用いられる。
【0035】
図4のフローチャートは、第2実施形態のリチウムイオン二次電池用の負極材料を製造する方法を示す。
【0036】
図4に示すように、負極材料1000の製造においては、スラリーが準備され(ステップS101)、カーボンペーパー1020が準備される(ステップS102)。スラリー及びカーボンペーパー1020の準備の順序は問われない。
【0037】
スラリーは、テトラヒドロフラン(以下では「THF」という。)、Si粒子1080及びポリ塩化ビニル(以下では「PVC」という。)からなる。これらの成分以外の成分がスラリーに含まれてもよい。例えば、分散剤がスラリーに含まれてもよい。Si粒子1080はTHFに分散させられる。PVCはTHFに溶解させられる。スラリーと呼ばれる高粘度の流動体に代えてスラリーとは呼ばれないような低粘度の流動体が準備されてもよい。
【0038】
THFがPVCを溶解させることができる他の種類の溶媒に置き換えられてもよい。例えば、THFがメチルエチルケトン等に置き換えられてもよい。
【0039】
PVCは、無定形炭素からなる表面密着物1082の炭素前駆体となる。PVCが他の種類の有機化合物に置き換えられてもよい。例えば、PVCがスクロース等に置き換えられてもよい。ただし、Si粒子1080の表面に均一に密着する表面密着物1082が形成されやすくなるという利点がPVCにはある。この利点は、PVCに含まれる塩素がSi粒子1080の表面をエッチングしSi粒子1080の表面を無定形炭素が密着しやすい状態に整えるためであると考えられる。フッ素も塩素と同様の効果を生じる。より一般的には、望ましい炭素前駆体は、塩素又はフッ素を含む有機化合物である。
【0040】
PVCが他の種類の有機化合物に置き換えられる場合は、当該有機化合物を溶解させることができる溶媒が選択される。
【0041】
カーボンペーパー1020としては、炭素繊維1040の隙間1060にSi粒子1080が侵入しうる孔径を有するものが選択される。
【0042】
カーボンペーパー1020の製造においては、有機質繊維が抄紙され、紙層が形成される。有機質繊維は、木材パルプ、非木材系植物繊維、化学繊維等からなる。有機質繊維が2種類以上の繊維の混合物であってもよい。有機質繊維が抄紙された後に、望ましくは、樹脂塗工等の紙加工が紙層に行われる。得られた前駆紙は焼成される。これにより、有機質繊維が炭化され炭素繊維1040になる。炭素繊維1040は、黒鉛化され、電子伝導性を有する。有機質繊維を抄紙した後に焼成することにより製造されるカーボンペーパー1020は、炭素繊維を抄紙することにより製造されるカーボンペーパーと比較して、多量のバインダーが不要であるという利点を有する。
【0043】
スラリー及びカーボンペーパー1020が準備された後に、スラリーがカーボンペーパー1020に塗布される(ステップS103)。これにより、スラリーが隙間1060に浸透する。スラリーは、カーボンペーパー1020の表面のみならずカーボンペーパー1020の内部にまで浸透する。望ましくは、カーボンペーパー1020の全体にスラリーが浸透する。スラリーが隙間1060に浸透した場合は、スラリーに含まれるSi粒子1080及びPVCが隙間1060に侵入する。PVCはTHFに溶解した状態で隙間1060に侵入するので、PVCはSi粒子1080とともに隙間1060に容易に侵入する。一方、Si/DC複合粒子1022を作製してからカーボンペーパー1020の内部にSi/DC複合粒子1022を分散させようと試みても、図5の模式図に示すように、Si/DC複合粒子1022はカーボンペーパー1020の表層にとどまりカーボンペーパー1020の内部に分散しない。カーボンペーパー1020の「内部」とは、Si/DC複合粒子1022を作製してからカーボンペーパー1020の内部にSi/DC複合粒子1022を分散させようと試みた場合にSi/DC複合粒子1022が分散しない部分、すなわち、表層でない部分をいう。
【0044】
Si粒子1080及びPVCが隙間1060に侵入した後に、カーボンペーパー1020が乾燥させられる(ステップS104)。これにより、THFが蒸発し、カーボンペーパー1020からTHFが除去される。このとき、Si粒子1080及びPVCは、隙間1060に残存する。
【0045】
カーボンペーパー1020からTHFが除去された後に、カーボンペーパー1020が焼成される(ステップS105)。これにより、隙間1060においてPVCが無定形炭素(熱分解炭素)に変化する。無定形炭素の全部又は一部はSi粒子1080の表面に密着する表面密着物1082になる。
【0046】
焼成が行われる場合には、カーボンペーパー1020が設置される空間の雰囲気が非酸化性雰囲気又は還元性雰囲気に設定される。これにより、炭素が酸化されて散逸することが抑制される。非酸化性雰囲気は、典型的には、窒素ガス、希ガス等からなる。還元性雰囲気は、典型的には、アルゴンガス及び水素ガスの混合ガス(以下では「Ar/H2」という。)からなる。
【0047】
望ましくは、Si粒子1080及び表面密着物1082の界面にSiCが生成しないように焼成の条件が選択される。SiCの生成の有無は、X線回折等により確認される。これにより、絶縁性が高いSiCがSi粒子1080への電子伝導を阻害することが抑制される。
【0048】
第2実施形態によれば、Si粒子1080及び炭素前駆体が容易に隙間1060に侵入し、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を向上する負極材料1000が容易に製造される。ただし、他の方法により第1実施形態の負極材料1000が製造されてもよい。
【0049】
(第3実施形態)
第3実施形態は、第1実施形態のリチウムイオン二次電池用の負極材料を用いたリチウムイオン二次電池に関する。
【0050】
図6の模式図は、第3実施形態のリチウムイオン二次電池の基本構造を示す断面図である。
【0051】
図6に示すように、リチウムイオン二次電池3000は、容器3020及び積層体3022を備える。積層体3022は、正極集電体3040、正極3042、セパレーター3044、負極3046及び負極集電体3048を備える。セパレーター3044には電解液が含侵させられる。したがって、正極3042と負極3046との間には電解液が存在する。
【0052】
容器3020の一部が正極集電体3040を兼ねてもよい。容器3020の一部が負極集電体3048を兼ねてもよい。
【0053】
負極3046は第1実施形態の負極材料1000からなる。負極3046以外の構成物には既に開発されているものが用いられてもよいし、新たに開発されたものが用いられてもよい。負極3046以外の構成物の一例は、以下で説明される。
【0054】
リチウムイオン二次電池3000は、コイン(ボタン)型の形状を有する。リチウムイオン二次電池3000がコイン型以外の形態を有してもよい。例えば、リチウムイオン二次電池3000が円筒型、角型等の形状を有してもよい。リチウムイオン二次電池3000の形状等によって容器3020の形状、容器3020の構成物、容器3020への積層体3022の収容の形態等も変化する。
【0055】
電解液は、溶媒及びリチウム塩からなる。リチウム塩は、溶媒に溶解させられる。リチウム塩は、LiPF6、LiClO4、LiBF4、LiN(CF3SO22、LiN(C25SO22等である。溶媒は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γーブチルラクトン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、アセトニトリル等である。2種類以上の溶媒が混合された混合溶媒が用いられてもよい。
【0056】
正極集電体3040は、金属、合金等の導電体からなる。正極集電体3040は、典型的にはアルミニウムからなる。正極集電体3040は、典型的には箔形状又は板形状を有する。
【0057】
正極3042は、正極材料からなる。正極材料は、正極活物質、導電助剤及び結着剤からなる。正極活物質は、金属酸化物、金属硫化物、金属フッ化物、リチウム金属複合酸化物、リチウム金属リン酸塩等である。導電助剤は、電子伝導性の炭素粉末、炭素繊維等である。炭素粉末は、アセチレンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック等である。炭素繊維は、カーボンナノファイバー等である。結着剤は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)等である。
【0058】
セパレーター3044は、ポリエチレン、ポリプロピレン等からなる。セパレーター3044は、多孔体である。2層以上のセパレーターが積層されてもよい。リチウムイオン二次電池の3000の構造によってはセパレーター3044が省略される場合もある。
【0059】
負極集電体3048は、金属、合金等の導電体からなる。負極集電体3048は、典型的には銅からなる。負極集電体3048は典型的には箔形状又は板形状を有する。
【0060】
リチウムイオン二次電池3000は、通常の方法で充電及び放電を行うことができる。
【実施例】
【0061】
(概略)
実施例1及び比較例1から比較例3までにおいて、負極材料が異なる4種類の評価用セルを試作した。評価用セルは、CR2025タイプのコイン型のセルである。
【0062】
実施例1及び比較例1の負極材料は、Si/DC複合粒子及びカーボンペーパーの複合体である。実施例1の負極材料においては、Si/DC複合粒子がカーボンペーパーの内部に分散する。比較例1の負極材料においては、Si/DC複合粒子がカーボンペーパーの表面にとどまる。比較例2の負極材料は、Si/DC複合粒子、アセチレンブラック及びPVDFの複合体である。比較例3の負極材料は、Si粒子、アセチレンブラック及びPVDFの複合体である。
【0063】
図7の模式図は、評価用セルの分解斜視図である。
【0064】
評価用セル100は、正極缶120、正極材122、薄いセパレーター124、厚いセパレーター126、負極材128及び負極缶130を図7に示す順序で重ねてからカシメ器でかしめることにより作製した。
【0065】
正極缶120の内面には、ステンレスからなるメッシュが溶接されている。
【0066】
対極となる正極材122は、金属リチウムからなる。正極材122は、直径12mmのポンチで円形に加工されている。
【0067】
薄いセパレーター124及び厚いセパレーター126は、ポリプロピレン製である。薄いセパレーター124は微多孔膜であり、厚いセパレーター126は不織布である。薄いセパレーター124及び厚いセパレーター126には電解液を含侵させた。電解液は、LiClO4及び混合溶媒からなる。LiClO4は、混合溶媒に溶解させられる。混合溶媒は、エチレンカーボネート(EC)1体積部及びジエチルカーボネート(DEC)1体積部の混合物である。LiClO4の濃度は1mol/lである。
【0068】
負極材128は、負極材料からなる。負極材128は、直径14mmのポンチで円形に加工されている。
【0069】
評価用セル100の初期の充放電レート特性及びサイクル特性を測定した。充放電時の電流密度は100mA/gの一定値とした。カットオフ電圧は0.02〜1.5Vとした。
【0070】
(実施例1)
第2実施形態のリチウムイオン二次電池用の負極材料を製造する方法により第1実施形態のリチウムイオン二次電池用の負極材料を製造した。製造した負極材料を用いて評価用セル100を試作した。
【0071】
実施例1の負極材料の製造においては、最初に、0.5μmのSi粒子が分散させられPVCが溶解させられたスラリーを調製し、表1に示す特性を有するカーボンペーパーを準備した。
【0072】
【表1】

【0073】
スラリーの調製においては、Si粒子、PVC及びTHFの混合物を回転ミキサーで混合した。回転速度は2000rpmとした。回転時間は20分とした。
【0074】
カーボンペーパーの原料の有機質繊維は、ポリアクリルニトリル系繊維60重量部及び非木材系植物繊維40重量部の混合物である。カーボンペーパーの製造においては、有機質繊維を抄紙し紙層を形成した。続いて、紙層を紙加工し前駆紙を得た。紙加工において樹脂塗工を行った。樹脂は、アクリル酸エステル樹脂である。紙加工においては、紙100重量部に対してアクリル酸エステル樹脂の樹脂固形分が15重量部となるようにした。
【0075】
調製したスラリーを準備したカーボンペーパーに塗布した。続いて、カーボンペーパーを室温で乾燥した。さらに続いて、カーボンペーパーを焼成した。焼成プロファイルを図8に示す。焼成雰囲気はAr/H2である。
【0076】
実施例1の評価用セル100の充放電レート特性及びサイクル特性を、それぞれ、図9及び図10のグラフに示す。図9に示すように、実施例1の評価用セル100の初期効率は90%であった。図10に示すように、実施例1の評価用セル100は、20サイクルまで容量の低下を示さなかった。
【0077】
図15の電子顕微鏡写真は、実施例1の負極材料を示す。図16の電子顕微鏡写真は、Si/DC複合粒子を担持していないカーボンペーパーを示す。図15及び図16から、実施例1の負極材料においてはSi/DC複合粒子がカーボンペーパーの内部に分散していることがわかる。
【0078】
(比較例1)
負極材料を製造した。製造した負極材料を用いて評価用セル100を試作した。
【0079】
比較例1の負極材料の製造においては、最初に、Si/DC複合粒子及びアセチレンブラックが分散させられPVDFが溶解させられたスラリーを調製し、実施例1と同じカーボンペーパーを準備した。
【0080】
スラリーの調製においては、Si/DC複合粒子、アセチレンブラック、PVDF及びN−メチル-2−ピロリドン(以下では「NMP」という。)の混合物を回転ミキサーで混合した。回転速度は2000rpmとした。回転時間は20分とした。
【0081】
調製したスラリーを準備したカーボンペーパーに塗布した。続いて、カーボンペーパーを室温で乾燥した。
【0082】
比較例1の評価用セル100の充放電レート特性及びサイクル特性を、それぞれ、図11及び図12のグラフに示す。図11に示すように、比較例1の評価用セル100の初期効率は76%であった。図12に示すように、比較例1の評価用セル100は、10サイクルまでは大きな容量の低下を示すが、10サイクル以降の容量の低下は小さく、70サイクルまで初期の70%の容量を維持した。
【0083】
図17の電子顕微鏡写真は、Si/DC複合粒子を示す。図18の電子顕微鏡写真は、比較例1の負極材料を示す。図17及び図18から、比較例1の負極材料においてはSi/DC複合粒子がカーボンペーパーの表面にとどまっていることがわかる。
【0084】
(比較例2)
負極材料を製造した。製造した負極材料を用いて評価用セル100を試作した。
【0085】
比較例2の負極材料の製造においては、最初に、Si/DC複合粒子及びアセチレンブラックが分散させられPVDFが溶解させられたスラリーを調製した。
【0086】
スラリーの調製においては、Si/DC複合粒子、アセチレンブラック、PVDF及びNMPの混合物を回転ミキサーで混合した。回転速度は2000rpmとした。回転時間は20分とした。
【0087】
調製したスラリーを銅箔に塗布し、塗布膜を形成した。続いて、塗布膜を室温で乾燥し、負極材料の膜を形成した。
【0088】
比較例2の評価用セル100の充放電レート特性を図11及び図13のグラフに示す。比較例2の評価用セル100のサイクル特性を図12及び図14のグラフに示す。図11及び図13に示すように、比較例2の評価用セル100の初期効率は80.3%であった。図12及び図14に示すように、比較例2の評価用セル100は、サイクルが進行した場合に大きな容量の低下を示した。
【0089】
(比較例3)
負極材料を製造した。製造した負極材料を用いて評価用セル100を試作した。
【0090】
比較例3の負極材料の試作においては、Si粒子及びアセチレンブラックが分散させられPVDFが溶解させられたスラリーを調製した。
【0091】
スラリーの調製においては、Si粒子、アセチレンブラック、PVDF及びNMPの混合物を回転ミキサーで混合した。回転速度は2000rpmとした。回転時間は20分とした。
【0092】
調製したスラリーを銅箔に塗布し、塗布膜を形成した。続いて、塗布膜を室温で乾燥し、負極材料の膜を形成した。
【0093】
比較例3の評価用セル100の充放電レート特性及びサイクル特性を、それぞれ、図13及び図14のグラフに示す。図13に示すように、比較例3の評価用セル100の充放電効率は良好でなかった。図14に示すように、比較例3の評価用セル100は、サイクルが進行した場合に大きな容量の低下を示した。
【0094】
(比較)
比較例2及び比較例3から、負極活物質をSi粒子からSi/DC複合粒子へ変更することにより、初期効率及びサイクル特性が向上することがわかる(図13及び図14)。しかし、負極活物質がSi/DC複合粒子である場合は、初期容量が低下する。これは、Si粒子の表面に密着する無定形炭素だけでは電子伝導パスの維持には不十分であることを示しており、Si粒子の膨張により電子伝導パスが失われることを示している。
【0095】
比較例1及び比較例2から、Si/DC複合粒子及びカーボンペーパーの複合化の有無にかかわらず、初期効率は同程度であることがわかる(図11及び図12)。また、Si/DC複合粒子及びカーボンペーパーが複合化された場合は、サイクル特性も不十分ではあるが向上することがわかる。サイクル特性の向上は、カーボンペーパーの表層にあるSi/DC複合粒子により電子伝導パスがわずかに維持されているためであると考えられる。
【0096】
実施例1から、Si/DC複合粒子がカーボンペーパーの内部に分散する場合は、初期効率及びサイクル特性のいずれも良好であることがわかる。サイクル特性の向上は、電子伝導パスが維持されているためであると考えられる。
【0097】
本発明は詳細に示され記述されたが、上記の記述は全ての局面において例示であって限定的ではない。したがって、本発明の範囲からはずれることなく無数の修正及び変形が案出されうると解される。
【符号の説明】
【0098】
1000 負極材料
1020 カーボンペーパー
1022 Si/DC複合粒子
1040 炭素繊維
1080 Si粒子
1082 表面密着物
3000 リチウムイオン二次電池
3020 容器
3040 正極集電体
3042 正極
3044 セパレーター
3046 負極
3038 負極集電体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン二次電池用の負極材料であって、
電子伝導性を有する炭素繊維が絡み合い、流動体が浸透しうる隙間が前記炭素繊維の間にある担持体と、
前記隙間に侵入し、前記担持体の内部に分散し、前記担持体に担持されるシリコン/無定形炭素複合粒子と、
を備え、
前記シリコン/無定形炭素複合粒子は、
シリコン粒子と、
無定形炭素からなり、前記シリコン粒子の表面に密着する表面密着物と、
を備えるリチウムイオン二次電池用の負極材料。
【請求項2】
請求項1のリチウムイオン二次電池用の負極材料において、
前記担持体がカーボンペーパー、カーボンクロス又はカーボンフェルトである
リチウムイオン二次電池用の負極材料。
【請求項3】
リチウムイオン二次電池用の負極材料を製造する方法であって、
(a) 分散媒、シリコン粒子及び炭素前駆体を含有し、前記シリコン粒子が前記分散媒に分散させられ前記炭素前駆体が前記分散媒に溶解させられた流動体を準備する工程と、
(b) 電子伝導性を有する炭素繊維が絡み合い、前記炭素繊維の間に隙間がある担持体を準備する工程と、
(c) 前記隙間に前記流動体を浸透させ、前記シリコン粒子及び前記炭素前駆体を前記隙間に侵入させる工程と、
(d) 工程(c)の後に、前記担持体から前記分散媒を除去する工程と、
(e) 工程(d)の後に、前記担持体を焼成し、前記炭素前駆体を無定形炭素からなり前記シリコン粒子の表面に密着する表面密着物に変化させる工程と、
を備えるリチウムイオン二次電池用の負極材料を製造する方法。
【請求項4】
リチウムイオン二次電池であって、
負極材料からなる負極と、
正極材料からなる正極と、
前記負極と前記正極との間に存在する電解質と、
を備え、
電子伝導性を有する炭素繊維が絡み合い、流動体が浸透しうる隙間が前記炭素繊維の間にある担持体と、
前記隙間に侵入し、前記担持体の内部に分散し、前記担持体に担持されるシリコン/無定形炭素複合粒子と、
を備え、
前記シリコン/無定形炭素複合粒子は、
シリコン粒子と、
無定形炭素からなり、前記シリコン粒子の表面に密着する表面密着物と、
を備えるリチウムイオン二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2013−89403(P2013−89403A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227778(P2011−227778)
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【出願人】(304026696)国立大学法人三重大学 (270)
【出願人】(391016842)岐阜県 (70)
【出願人】(000244176)明智セラミックス株式会社 (40)
【出願人】(308019885)株式会社テックオン (2)
【出願人】(303043759)有限会社エム・イ−・ティ− (6)
【Fターム(参考)】