リチウムイオン二次電池用モジュール、これを搭載した乗り物および発電システム
【課題】放熱空間等のスペース確保による体積当たりのエネルギー密度を低下させることなくモジュールの高温部の温度上昇を抑制し、かつ、高温における劣化を抑制したリチウムイオン二次電池モジュールの提供を目的とする。
【解決手段】 モジュールの高温部に位置する電池が、モジュールの低温部に位置する電池と電気的に並列接続され、高温部の電池は低温部の電池に比べ、20℃における電気抵抗が高く、かつ、50℃における高温保存特性に優れているものを配置する。
【解決手段】 モジュールの高温部に位置する電池が、モジュールの低温部に位置する電池と電気的に並列接続され、高温部の電池は低温部の電池に比べ、20℃における電気抵抗が高く、かつ、50℃における高温保存特性に優れているものを配置する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用を複数組み合わせたリチウムイオン電池モジュールと、これを搭載した乗り物および発電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化の防止や化石燃料の枯渇への懸念に対して、走行に必要となるエネルギーが少ないハイブリッド車や電気自動車で使用する車載用二次電池モジュールや、太陽光や風力等の自然エネルギーを利用した発電システムの出力を平準化する定置用二次電池モジュールなど、大型の二次電池モジュールに期待が集まっている。これらの二次電池モジュールでは高出力密度と高エネルギー密度の双方が求められる。
【0003】
リチウムイオン二次電池を使用した電池モジュールはニッケル水素電池や鉛電池等の二次電池を使用した電池モジュールに比べ、出力密度、および、エネルギー密度の双方に優れるため、車載用や定置用の電池モジュールとして期待されている。
【0004】
しかしながら、複数の電池を組み合わせて使用する大型の電池モジュールは、高出力で使用した場合電池温度が上昇するが、放熱が不十分な位置では他の位置に比べて電池温度が下がらずに、容量低下や抵抗上昇などの劣化が著しくなる。そのため、電池モジュールの冷却効率を高める、および、電池の高温での劣化を抑制するための対策が検討されている。
【0005】
特許文献1には電池の冷却効率を高めるため、平型電池間の空気流路を冷却空気下流ほど狭くした電池モジュールが開示されている。
【0006】
特許文献2には電池の高温保存特性を改善するため、ビニレンカーボネートを0.01%〜10%添加したリチウムイオン電池が開示されている。
【0007】
特許文献3にはハイレート充放電による劣化のばらつきを低減するため、モジュール内の低温部から高温部に位置するに従い、セルの電解液量を増やした電池モジュールが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−324112号公報
【特許文献2】特開2005−32701号公報
【特許文献3】特開2010−170942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1では電池モジュールの冷却効率を高められているが、電池間に放熱のための流路や構造体が必要になり、電池モジュールの体積当たりのエネルギー密度が低下する。
【0010】
一方、特許文献2では電池の高温保存特性を改善するための添加材が開示されているが、高温保存特性の向上と共に抵抗上昇を招くため、添加量は少量に限定されており、高温保存特性の改善は不十分である。
【0011】
特許文献3ではハイレート充放電による各セル間の劣化のばらつきを低減することは可能であるが、モジュールの高温部の温度上昇抑制や高温保存特性の改善はできないため、結果としてモジュールとしての劣化を防ぐことはできない。
【0012】
本発明は上記実状に鑑み、放熱空間等のスペース確保による体積当たりのエネルギー密度を低下させることなくモジュールの高温部の温度上昇を抑制し、かつ、高温における劣化を抑制したリチウムイオン二次電池モジュール、および、これを搭載した乗り物および発電システムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成すべく、第1の本発明に関わるリチウムイオン二次電池モジュールは、複数のリチウムイオン二次電池が電気的に接続されており、モジュールの高温部に位置する1つ以上の電池が、モジュールの低温部に位置する電池と電気的に並列接続され、高温部の電池は低温部の電池に比べ、20℃における電気抵抗が高く、かつ、50℃における高温保存特性(50℃保存後の容量維持率)に優れている。
【0014】
第2の本発明に関わる乗り物は、第1の本発明のリチウムイオン二次電池モジュールを搭載している。
【0015】
第3の本発明に関わる発電システムは、第2の本発明のリチウムイオン二次電池モジュールを搭載している。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、電池間での放熱のための構造体をモジュール高温部における発熱量を抑制することでモジュール高温部における温度上昇を抑制することができ、かつ、温度がある程度上昇しても高温部のセルは高温保存特性に優れるため高温による劣化が抑制されるリチウムイオン二次電池モジュール、これを搭載した乗り物および電力貯蔵システムを実現できる。さらに、この結果、電池間における放熱のための流路や構造体を削減することができ、体積当たりのエネルギー密度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1の電池モジュールの概略図である。
【図2】比較例1の電池モジュールの概略図である。
【図3】8W/m2/Kにおける本発明1と比較例1の温度分布を示す図である。
【図4】8W/m2/Kにおける本発明1と比較例1の電流分布を示す図である。
【図5】40W/m2/Kにおける本発明1と比較例1の温度分布を示す図である。
【図6】40W/m2/Kにおける本発明1と比較例1の電流分布を示す図である。
【図7】実施例の電池モジュールを使用した電気自動車の駆動システムの概略図である。
【図8】実施例の電池モジュールを使用した電力貯蔵システムの概略図である。
【図9】実施例2の水平方向中央付近における各段電池の外表面温度変化を示す図である。
【図10】比較例2の水平方向中央付近における各段電池の外表面温度変化を示す図である。
【図11】実施例2の30サイクル目における放電レート分布を示す図である。
【図12】比較例2の30サイクル目における放電レート分布を示す図である。
【図13】電気自動車の駆動システムの概略平面図である。
【図14】自然エネルギーを利用した発電システムの電力貯蔵用電源の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0019】
本発明の実施形態は例示であり、本発明は以下に例示する実施形態に限定されない。
【0020】
本発明が備えるリチウムイオン二次電池は従来と同様の基本構成を採用することができる。例えば、正極と、負極と、正極と負極との間に挟み込まれ、有機電解質に含浸されたセパレータとを有する構成とすることができる。なお、セパレータは、正極と負極とを隔て短絡を防止し、有機電解液を介してリチウムイオン(Li+)が通過するための多孔性を有している。
【0021】
正極はリチウムイオンの挿入脱離反応に関る正極活物質,導電性を付加する導電材,結着剤のバインダ,金属箔等の集電体などから構成される。正極活物質にはLiCoO2,LiNiO2,LiNiaCobMn1-a-bO2,LiNicCodAl1-c-dO2などが例示される層状系材料、LiMn2O4,LiMn1.5Ni0.5O4などが例示されるスピネル系材料、LiFePO4,LiFeeMnfCo1-e-fPO4など例示されるオリビン系材料、xLi2MnO3−(1−x)LiNigCohMn1-g-hO2が例示される固溶体系材料など種々の材料を用いることができる。また、2種類以上の負極活物質を混合して用いることもできる。導電材にはアセチレンブラック,黒鉛等の炭素材料が一般に使用される。バインダにはPVdF(ポリフッ化ビニリデン)等が一般に使用される。
【0022】
負極はリチウムイオンの挿入脱離反応に関る負極活物質,結着剤のバインダ,金属箔等の集電体などから構成される。また、導電性を付加する導電材を加えてもよい。負極活物質には黒鉛や非晶質炭素などが例示される炭素系材料、Si合金やSn合金などが例示される合金系材料、Li4Ti5O12,MoO2など酸化物系材料など種々の材料を用いることができる。また、2種類以上の負極活物質を混合して用いることもできる。バインダにはPVdF(ポリフッ化ビニリデン)等が一般に使用される。
【0023】
有機電解液は電解質であるLi塩とLi塩を溶解させる有機溶媒で構成される。Li塩としてはLiPF6やLiBF4等が一般に用いられる。導電材にはアセチレンブラック,黒鉛等の炭素材料が一般に使用される。有機溶媒には、エチレンカーボネート(EC),プロピレンカーボネート(PC)などの環状カーボネートとジメチルカーボネート(DMC),エチルメチルカーボネート(EMC),ジエチルカーボネート(DEC)などの鎖状カーボネートの混合溶媒が一般に用いられる。
【0024】
セパレータにはポリプロピレン(PP)やポリエチレン(PE)などを材料に用いた多孔質シートが一般に用いられる。
【0025】
本発明の電池モジュールにおいては、上記のような従来と同様の基本構成を採用したリチウムイオン二次電池が複数組み合わされており、複数のリチウムイオン電池が電気的に並列接続されており、その並列接続された電池の中で高温となる位置には、それ以外の位置の電池より20℃における抵抗が高く50℃における高温保存特性に優れた電池が配置している。また、上記のような並列接続された電池群と他の電池群が直列接続されて一つの電池モジュールを構成してもよい。また、モジュールの高温となる位置の電池が複数直列接続され、その高温部の電池群が、同数直列接続されたそれ以外の位置の電池群と並列接続された構成でもよい。
【0026】
本発明の構成において、モジュールの高温部の電池は抵抗を高くすることで、電流が流れにくくなり、その分、並列接続されたその他の電池に電流が多く流れる。そのため、高温部の電池の発熱量が減り、高温部での温度上昇を抑制できる。さらに高温部の電池は高温保存特性が優れるため、高温に維持された状態でも劣化が少ない。よって、本発明の構成とすることで温度分布が平坦化され、かつ、高温で劣化の少ないモジュールを提供することが可能になる。そして、これにより、モジュール最高温度の許容値を緩和することができ、モジュールの冷却負荷が低減できる。その結果、体積当たりのエネルギー密度向上,運転制御の簡便化,冷却エネルギー低減による高効率化,冷却装置の削減などの効果が得られる。
【0027】
高温部に用いるための、抵抗が高く、高温保存特性に優れた電池を得る方法を以下に例示する。容量低下や抵抗増大といった高温における劣化の原因は主に電解液と負極の反応にある。そのため、高温での劣化を防ぐためには、負極上に強固な保護膜を形成したり、電解液の安定性を高めたりすることが有効である。
【0028】
負極に強固な保護膜を形成する方法としてビニレンカーボネート(VC)などを添加剤として電解液に添加する方法がある。ただし、これらの添加剤の添加量は電池の抵抗増大を招くため、5wt%以下に限られてきた。しかしながら、本発明の高温部に用いる電池には抵抗も必要であるため、5wt%以上、さらには、10wt%以上の添加も許容される。
【0029】
電解液の安定性を高める方法として、鎖状カーボネートよりも安定な環状カーボネート(EC,PCなど)の割合を増やす方法がある。ただし、この方法は電解液の粘性増加による抵抗増大を招くため、ECは30〜50vol%程度に制限されてきた。本発明の高温部に用いる電池には抵抗も必要であるため、ECは50〜70vol%も許容される。また、EC濃度を高めることで電解液の沸点・引火点が高くなるため、電池の安全性を高める効果もある。
【0030】
なお、以上の高温部に用いる電池を得る方法は一例であり、上記の方法に限定されない。
【0031】
〔実施例〕
以下に実施例を示す。ただし、以下の実施例は、本発明を詳細に説明するための一形態であり、本発明の主旨を逸脱しない限り以下の実施例に限定されるものではなく、適宜変形して実施することができることは勿論である。
【実施例1】
【0032】
(実施例1の電池モジュール構成)
実施例1の構成を図1に示す。リチウムイオン電池には厚さ6.5mmのラミネートシート型電池を用いた。上記のリチウムイオン電池を6枚積層し、各電池を電気的に並列接続し、電池モジュールとした。積層した6枚の電池のうち、高温となる中央の4枚の電池(図1中の電池2〜5)は、両端の2枚の通常電池7(図1中の電池1,6)よりも電解液中のVC濃度およびEC濃度を高めた高抵抗高温耐性電池8を用いた。高抵抗高温耐性電池8は通常電池7に比べ、20℃における抵抗が1.2倍程度高く、50℃保存における容量維持率が高い電池となった。寿命を考慮した許容最高温度は高抵抗高温耐性電池8が50℃、通常電池7が45℃であった。また、モジュールは冷却ファン9を用いて周囲に空気を流して冷却した。
【0033】
〔比較例1〕
(比較例1の電池モジュール構成)
比較例1の構成を図2に示す。実施例1と同様にリチウムイオン電池には厚さ6.5mmのラミネートシート型電池を6枚積層し、各電池を電気的に並列接続し、電池モジュールとした。6枚のリチウムイオン電池は全て通常電池7を用いた。また、実施例1と同様にモジュールは冷却ファン9を用いて周囲に空気を流して冷却した。
【0034】
(試験内容)
実施例1と比較例1の電池モジュールを用いて、5C(1Cは定格容量を1時間で充放電する電流値)で100秒間放電し、その後5Cで100秒間充電するサイクルを5サイクル繰り返した。そして、モジュール周囲に流す空気流量を変化させて電池表面の熱伝達率が8、40W/m2/Kとなる条件において、モジュール内の電池の温度,電流を計測した。初期温度および環境温度は15℃、初期充電状態は70%とした。
【0035】
(試験結果)
モジュールの対称性からセル1と6、セル2と5、セル3と4はほぼ同じ条件となるので、以下においてセル1〜3について結果を示す。
【0036】
(熱伝達率8W/m2/K)
図3に熱伝達率が8W/m2/Kの時の電池の温度分布、図4に電池電流分布を示す。電池1,2の位置で比較する実施例1の方が温度は高くなっている。これは、比較例1よりも実施例1の方が全体としての抵抗が高く、発熱量が多いためである。しかし、電池3の位置で比較すると実施例1と比較例1でほとんど差異はない。このように最高温度は同程度に抑えられている。このことから温度分布が平坦化したと言える。また、高温の電池ほど抵抗が低いため、比較例1の電流分布では温度分布が発生するに従い、高温となるセル3に大きな電流が流れている。一方、実施例1ではセル3の抵抗が比較例1よりも高いため電流が抑えられている。この結果、図3に示したように最高温度となるセル3の温度が抑制され、温度分布が平坦化し、さらに電流分布も平坦化するという相乗効果を生んでいる。また、高温部の過大な電流を抑制できるので高電流による劣化抑制の効果もある。
【0037】
また、5サイクル後(1000s)の各電池温度とその電池の許容最高温度を表1に示す。比較例1ではセル2,セル3で許容温度を越えているのに対して、実施例1では全ての電池で許容温度以下である。このように実施例1では熱伝達率が8W/m2/Kと比較的弱い冷却条件でもセル温度を許容値以内に制御することが可能であった。
【0038】
【表1】
【0039】
(熱伝達率40W/m2/K)
図5に熱伝達率が40W/m2/Kの時の電池の温度分布、図6に電池電流分布を示す。図5に示すように、実施例1,比較例1ともに、冷却を強めてもセル1,2温度が下がるだけで、高温となるセル3の温度はほとんど変わらなかった。その結果、温度分布が広がり、図6に示すように電流分布も拡大した。また、5サイクル後(1000s)の各電池温度とその電池の許容最高温度を表2に示す。表2に示すように、比較例1では冷却を強めても、セル3が効率的に冷却されないため、許容温度以下とすることができなかった。
【0040】
以上の結果から、本実施例1は比較例1に比べ、温度分布が平坦化され、高温での寿命に優れるため、冷却負荷が低減でき、かつ、運転制御が容易であることが示された。その結果、体積エネルギー密度が高く、かつ、低コストな電池モジュールとすることが可能となる。
【0041】
【表2】
【実施例2】
【0042】
(実施例2の電池モジュール構成)
実施例2の構成を図7に示す。リチウムイオン電池には直径67mmの円筒電池を用いた。垂直方向に5段並べられ、垂直方向の電池同士は電気的に並列接続されている。また、水平方向の電池同士は電気的に直列接続されている。電池同士の間隔は垂直方向,水平方向ともに10mmとした。また、モジュールは冷却ファン9を用いて電池の周囲を1.5m/sで空気が流れるようにして冷却した。
【0043】
垂直方向に並べた電池のうち、高温となる上部の2段の電池(図7中の第4段,第5段)は、中央部の2段の通常電池7(図7中の第2段,第3段)よりも電解液中のVC濃度およびEC濃度を高めた高抵抗高温耐性電池8を用いた。高抵抗高温耐性電池8は通常電池7に比べ、20℃における抵抗が1.5倍程度高く、50℃保存における容量維持率が高い電池となった。また、冷却ファン9により常に低温に保たれる図7中の第1段の電池には、通常電池7よりも電解液中のECなど環状カーボネートの濃度を下げ、EMC,DECなどの鎖状カーボネートの濃度を高めた低抵抗電池12を用いた。低抵抗電池12は通常電池7に比べ、20℃における抵抗が5%程度低く、50℃保存における容量維持率がわずかに低い電池となった。寿命を考慮した電池外表面の許容最高温度は高抵抗高温耐性電池8が45℃、通常電池7が40℃、低抵抗電池12が37℃であった。
【0044】
〔比較例2〕
(比較例2の電池モジュール構成)
比較例2の構成を図8に示す。比較例2はすべての電池に通常電池7を使用している点以外は実施例2と同じ構成である。
【0045】
(試験内容)
実施例2と比較例2の電池モジュールを用いて、4C(1Cは定格容量を1時間で充放電する電流値)で60秒間放電し、300秒間休止し、その後4Cで60秒間充電し、300秒間休止するサイクルを30サイクル繰り返した。初期温度および環境温度は20℃、初期充電状態は60%とした。
【0046】
図9には実施例2の水平方向中央付近における各段電池の外表面温度変化を示す。また、図10には比較例2の水平方向中央付近における各段電池の外表面温度変化を示す。比較例2では第5段の電池温度は約2時間後には定常的に通常電池7の許容最高温度である40℃を越えている。一方、実施例2では第3段の電池が40℃を越えることがあるものの、定常的に40℃を越える電池はない。また、6時間(30サイクル)後においてもやや温度上昇している第5段の電池がさらにサイクルを重ねることで40℃を越えることがあり得るが、第5段の電池は高抵抗高温耐性電池8であるので許容範囲内である。また、初期、一時的に第3段の電池が40℃を越える事象についても、第4段,第5段の電池が昇温するまでの間、電流レートを抑えるなどの制御を施すことにより回避可能である。
【0047】
図11には実施例2の30サイクル目における放電レート分布を示す。また、図12には比較例2の30サイクル目における放電レート分布を示す。図11,図12の放電レートが負の部分は充電されていることを示している。同じ仕様の電池の場合は高温ほど抵抗値が下がるため、比較例2では他の電池に比べ高温である第5段の電池に電流が集中し、平均4Cの充放電において第5段の電池には約6Cの電流が流れている。このため、他の電池に比べてハイレートによる劣化が進行する。一方、実施例2では最高温度となる第5段の電池は通常電池に比べ高抵抗であるため、電流集中が抑制される。最も高い充放電レートとなった第3段の電池においても約5C程度であり、実施例2は比較例2に比べてハイレートによる劣化を抑制できる。
【実施例3】
【0048】
実施例1および実施例2に示すリチウムイオン二次電池モジュールは、エンジンとモータとで走行するハイブリッド鉄道,電池をエネルギー源としてモータで走行する電気自動車,ハイブリッド自動車,外部から電池に充電できるプラグインハイブリッド自動車,水素と酸素の化学反応から電力を取り出す燃料電池自動車等の種々の乗り物の電源に適用できる。
【0049】
代表例として電気自動車(乗り物)30の駆動システムの概略平面図を図13に示す。
【0050】
電池モジュール16から、図示しないバッテリコントローラ,モータコントローラ等を介して、モータ17に電力が供給され、電気自動車30が駆動される。また、減速時にモータ17により回生された電力が、バッテリコントローラを介して、電池モジュール16に貯蔵される。
【0051】
実施例3によれば、本発明の電池モジュール16を適用することにより、エネルギー密度,出力,電池寿命,安全性が向上し、電気自動車(乗り物)30のシステムの信頼性が向上する。また、電池モジュールの冷却装置やその制御のためのコストが低減でき、電気自動車(乗り物)30のシステムのコストが低減できる。
【0052】
なお、乗り物としては、例示したもの以外にフォークリフト,工場等の構内搬送車,電動車椅子,各種衛星,ロケット,潜水艦等に幅広く適用可能であり、バッテリ(電池)を有する乗り物であれば、限定されず適用可能である。
【実施例4】
【0053】
実施例1,実施例2に示すリチウムイオン二次電池モジュールは、太陽の光エネルギーを電力に変換する太陽電池18や、風力によって発電する風力発電等の自然エネルギーを利用した発電システムSの電力貯蔵用電源に適用できる。その概略を図14に示す。
【0054】
太陽電池18や風力発電装置19等の自然エネルギーを利用した発電では発電量が不安定であるため、安定な電力供給のためには、電力系統20の側の負荷に合わせて電力貯蔵用電源から電力を充放電する必要がある。
【0055】
この電力貯蔵用電源に本発明の電池モジュール26を適用することにより、エネルギー密度,出力,電池寿命,安全性が向上し、発電システム(電力貯蔵システム)Sの信頼性が向上する。電池モジュールの冷却装置やその制御のためのコストが低減でき、発電システム(電力貯蔵システム)Sのコストが低減できる。
【0056】
なお、電力貯蔵システムとして、太陽電池18や風力発電装置19を用いた発電システムを例示したが、これに限定されず、その他の発電システムにも、幅広く適用可能である。
【符号の説明】
【0057】
7 通常電池
8 高抵抗高温耐性電池
9 冷却ファン
10 +端子
11 −端子
12 低抵抗電池
16 電池モジュール(リチウムイオン二次電池)
17 モータ
18 太陽電池
19 風力発電装置
20 電力系統
30 電気自動車(乗り物)
S 発電システム(電力貯蔵システム)
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用を複数組み合わせたリチウムイオン電池モジュールと、これを搭載した乗り物および発電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化の防止や化石燃料の枯渇への懸念に対して、走行に必要となるエネルギーが少ないハイブリッド車や電気自動車で使用する車載用二次電池モジュールや、太陽光や風力等の自然エネルギーを利用した発電システムの出力を平準化する定置用二次電池モジュールなど、大型の二次電池モジュールに期待が集まっている。これらの二次電池モジュールでは高出力密度と高エネルギー密度の双方が求められる。
【0003】
リチウムイオン二次電池を使用した電池モジュールはニッケル水素電池や鉛電池等の二次電池を使用した電池モジュールに比べ、出力密度、および、エネルギー密度の双方に優れるため、車載用や定置用の電池モジュールとして期待されている。
【0004】
しかしながら、複数の電池を組み合わせて使用する大型の電池モジュールは、高出力で使用した場合電池温度が上昇するが、放熱が不十分な位置では他の位置に比べて電池温度が下がらずに、容量低下や抵抗上昇などの劣化が著しくなる。そのため、電池モジュールの冷却効率を高める、および、電池の高温での劣化を抑制するための対策が検討されている。
【0005】
特許文献1には電池の冷却効率を高めるため、平型電池間の空気流路を冷却空気下流ほど狭くした電池モジュールが開示されている。
【0006】
特許文献2には電池の高温保存特性を改善するため、ビニレンカーボネートを0.01%〜10%添加したリチウムイオン電池が開示されている。
【0007】
特許文献3にはハイレート充放電による劣化のばらつきを低減するため、モジュール内の低温部から高温部に位置するに従い、セルの電解液量を増やした電池モジュールが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−324112号公報
【特許文献2】特開2005−32701号公報
【特許文献3】特開2010−170942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1では電池モジュールの冷却効率を高められているが、電池間に放熱のための流路や構造体が必要になり、電池モジュールの体積当たりのエネルギー密度が低下する。
【0010】
一方、特許文献2では電池の高温保存特性を改善するための添加材が開示されているが、高温保存特性の向上と共に抵抗上昇を招くため、添加量は少量に限定されており、高温保存特性の改善は不十分である。
【0011】
特許文献3ではハイレート充放電による各セル間の劣化のばらつきを低減することは可能であるが、モジュールの高温部の温度上昇抑制や高温保存特性の改善はできないため、結果としてモジュールとしての劣化を防ぐことはできない。
【0012】
本発明は上記実状に鑑み、放熱空間等のスペース確保による体積当たりのエネルギー密度を低下させることなくモジュールの高温部の温度上昇を抑制し、かつ、高温における劣化を抑制したリチウムイオン二次電池モジュール、および、これを搭載した乗り物および発電システムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成すべく、第1の本発明に関わるリチウムイオン二次電池モジュールは、複数のリチウムイオン二次電池が電気的に接続されており、モジュールの高温部に位置する1つ以上の電池が、モジュールの低温部に位置する電池と電気的に並列接続され、高温部の電池は低温部の電池に比べ、20℃における電気抵抗が高く、かつ、50℃における高温保存特性(50℃保存後の容量維持率)に優れている。
【0014】
第2の本発明に関わる乗り物は、第1の本発明のリチウムイオン二次電池モジュールを搭載している。
【0015】
第3の本発明に関わる発電システムは、第2の本発明のリチウムイオン二次電池モジュールを搭載している。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、電池間での放熱のための構造体をモジュール高温部における発熱量を抑制することでモジュール高温部における温度上昇を抑制することができ、かつ、温度がある程度上昇しても高温部のセルは高温保存特性に優れるため高温による劣化が抑制されるリチウムイオン二次電池モジュール、これを搭載した乗り物および電力貯蔵システムを実現できる。さらに、この結果、電池間における放熱のための流路や構造体を削減することができ、体積当たりのエネルギー密度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1の電池モジュールの概略図である。
【図2】比較例1の電池モジュールの概略図である。
【図3】8W/m2/Kにおける本発明1と比較例1の温度分布を示す図である。
【図4】8W/m2/Kにおける本発明1と比較例1の電流分布を示す図である。
【図5】40W/m2/Kにおける本発明1と比較例1の温度分布を示す図である。
【図6】40W/m2/Kにおける本発明1と比較例1の電流分布を示す図である。
【図7】実施例の電池モジュールを使用した電気自動車の駆動システムの概略図である。
【図8】実施例の電池モジュールを使用した電力貯蔵システムの概略図である。
【図9】実施例2の水平方向中央付近における各段電池の外表面温度変化を示す図である。
【図10】比較例2の水平方向中央付近における各段電池の外表面温度変化を示す図である。
【図11】実施例2の30サイクル目における放電レート分布を示す図である。
【図12】比較例2の30サイクル目における放電レート分布を示す図である。
【図13】電気自動車の駆動システムの概略平面図である。
【図14】自然エネルギーを利用した発電システムの電力貯蔵用電源の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0019】
本発明の実施形態は例示であり、本発明は以下に例示する実施形態に限定されない。
【0020】
本発明が備えるリチウムイオン二次電池は従来と同様の基本構成を採用することができる。例えば、正極と、負極と、正極と負極との間に挟み込まれ、有機電解質に含浸されたセパレータとを有する構成とすることができる。なお、セパレータは、正極と負極とを隔て短絡を防止し、有機電解液を介してリチウムイオン(Li+)が通過するための多孔性を有している。
【0021】
正極はリチウムイオンの挿入脱離反応に関る正極活物質,導電性を付加する導電材,結着剤のバインダ,金属箔等の集電体などから構成される。正極活物質にはLiCoO2,LiNiO2,LiNiaCobMn1-a-bO2,LiNicCodAl1-c-dO2などが例示される層状系材料、LiMn2O4,LiMn1.5Ni0.5O4などが例示されるスピネル系材料、LiFePO4,LiFeeMnfCo1-e-fPO4など例示されるオリビン系材料、xLi2MnO3−(1−x)LiNigCohMn1-g-hO2が例示される固溶体系材料など種々の材料を用いることができる。また、2種類以上の負極活物質を混合して用いることもできる。導電材にはアセチレンブラック,黒鉛等の炭素材料が一般に使用される。バインダにはPVdF(ポリフッ化ビニリデン)等が一般に使用される。
【0022】
負極はリチウムイオンの挿入脱離反応に関る負極活物質,結着剤のバインダ,金属箔等の集電体などから構成される。また、導電性を付加する導電材を加えてもよい。負極活物質には黒鉛や非晶質炭素などが例示される炭素系材料、Si合金やSn合金などが例示される合金系材料、Li4Ti5O12,MoO2など酸化物系材料など種々の材料を用いることができる。また、2種類以上の負極活物質を混合して用いることもできる。バインダにはPVdF(ポリフッ化ビニリデン)等が一般に使用される。
【0023】
有機電解液は電解質であるLi塩とLi塩を溶解させる有機溶媒で構成される。Li塩としてはLiPF6やLiBF4等が一般に用いられる。導電材にはアセチレンブラック,黒鉛等の炭素材料が一般に使用される。有機溶媒には、エチレンカーボネート(EC),プロピレンカーボネート(PC)などの環状カーボネートとジメチルカーボネート(DMC),エチルメチルカーボネート(EMC),ジエチルカーボネート(DEC)などの鎖状カーボネートの混合溶媒が一般に用いられる。
【0024】
セパレータにはポリプロピレン(PP)やポリエチレン(PE)などを材料に用いた多孔質シートが一般に用いられる。
【0025】
本発明の電池モジュールにおいては、上記のような従来と同様の基本構成を採用したリチウムイオン二次電池が複数組み合わされており、複数のリチウムイオン電池が電気的に並列接続されており、その並列接続された電池の中で高温となる位置には、それ以外の位置の電池より20℃における抵抗が高く50℃における高温保存特性に優れた電池が配置している。また、上記のような並列接続された電池群と他の電池群が直列接続されて一つの電池モジュールを構成してもよい。また、モジュールの高温となる位置の電池が複数直列接続され、その高温部の電池群が、同数直列接続されたそれ以外の位置の電池群と並列接続された構成でもよい。
【0026】
本発明の構成において、モジュールの高温部の電池は抵抗を高くすることで、電流が流れにくくなり、その分、並列接続されたその他の電池に電流が多く流れる。そのため、高温部の電池の発熱量が減り、高温部での温度上昇を抑制できる。さらに高温部の電池は高温保存特性が優れるため、高温に維持された状態でも劣化が少ない。よって、本発明の構成とすることで温度分布が平坦化され、かつ、高温で劣化の少ないモジュールを提供することが可能になる。そして、これにより、モジュール最高温度の許容値を緩和することができ、モジュールの冷却負荷が低減できる。その結果、体積当たりのエネルギー密度向上,運転制御の簡便化,冷却エネルギー低減による高効率化,冷却装置の削減などの効果が得られる。
【0027】
高温部に用いるための、抵抗が高く、高温保存特性に優れた電池を得る方法を以下に例示する。容量低下や抵抗増大といった高温における劣化の原因は主に電解液と負極の反応にある。そのため、高温での劣化を防ぐためには、負極上に強固な保護膜を形成したり、電解液の安定性を高めたりすることが有効である。
【0028】
負極に強固な保護膜を形成する方法としてビニレンカーボネート(VC)などを添加剤として電解液に添加する方法がある。ただし、これらの添加剤の添加量は電池の抵抗増大を招くため、5wt%以下に限られてきた。しかしながら、本発明の高温部に用いる電池には抵抗も必要であるため、5wt%以上、さらには、10wt%以上の添加も許容される。
【0029】
電解液の安定性を高める方法として、鎖状カーボネートよりも安定な環状カーボネート(EC,PCなど)の割合を増やす方法がある。ただし、この方法は電解液の粘性増加による抵抗増大を招くため、ECは30〜50vol%程度に制限されてきた。本発明の高温部に用いる電池には抵抗も必要であるため、ECは50〜70vol%も許容される。また、EC濃度を高めることで電解液の沸点・引火点が高くなるため、電池の安全性を高める効果もある。
【0030】
なお、以上の高温部に用いる電池を得る方法は一例であり、上記の方法に限定されない。
【0031】
〔実施例〕
以下に実施例を示す。ただし、以下の実施例は、本発明を詳細に説明するための一形態であり、本発明の主旨を逸脱しない限り以下の実施例に限定されるものではなく、適宜変形して実施することができることは勿論である。
【実施例1】
【0032】
(実施例1の電池モジュール構成)
実施例1の構成を図1に示す。リチウムイオン電池には厚さ6.5mmのラミネートシート型電池を用いた。上記のリチウムイオン電池を6枚積層し、各電池を電気的に並列接続し、電池モジュールとした。積層した6枚の電池のうち、高温となる中央の4枚の電池(図1中の電池2〜5)は、両端の2枚の通常電池7(図1中の電池1,6)よりも電解液中のVC濃度およびEC濃度を高めた高抵抗高温耐性電池8を用いた。高抵抗高温耐性電池8は通常電池7に比べ、20℃における抵抗が1.2倍程度高く、50℃保存における容量維持率が高い電池となった。寿命を考慮した許容最高温度は高抵抗高温耐性電池8が50℃、通常電池7が45℃であった。また、モジュールは冷却ファン9を用いて周囲に空気を流して冷却した。
【0033】
〔比較例1〕
(比較例1の電池モジュール構成)
比較例1の構成を図2に示す。実施例1と同様にリチウムイオン電池には厚さ6.5mmのラミネートシート型電池を6枚積層し、各電池を電気的に並列接続し、電池モジュールとした。6枚のリチウムイオン電池は全て通常電池7を用いた。また、実施例1と同様にモジュールは冷却ファン9を用いて周囲に空気を流して冷却した。
【0034】
(試験内容)
実施例1と比較例1の電池モジュールを用いて、5C(1Cは定格容量を1時間で充放電する電流値)で100秒間放電し、その後5Cで100秒間充電するサイクルを5サイクル繰り返した。そして、モジュール周囲に流す空気流量を変化させて電池表面の熱伝達率が8、40W/m2/Kとなる条件において、モジュール内の電池の温度,電流を計測した。初期温度および環境温度は15℃、初期充電状態は70%とした。
【0035】
(試験結果)
モジュールの対称性からセル1と6、セル2と5、セル3と4はほぼ同じ条件となるので、以下においてセル1〜3について結果を示す。
【0036】
(熱伝達率8W/m2/K)
図3に熱伝達率が8W/m2/Kの時の電池の温度分布、図4に電池電流分布を示す。電池1,2の位置で比較する実施例1の方が温度は高くなっている。これは、比較例1よりも実施例1の方が全体としての抵抗が高く、発熱量が多いためである。しかし、電池3の位置で比較すると実施例1と比較例1でほとんど差異はない。このように最高温度は同程度に抑えられている。このことから温度分布が平坦化したと言える。また、高温の電池ほど抵抗が低いため、比較例1の電流分布では温度分布が発生するに従い、高温となるセル3に大きな電流が流れている。一方、実施例1ではセル3の抵抗が比較例1よりも高いため電流が抑えられている。この結果、図3に示したように最高温度となるセル3の温度が抑制され、温度分布が平坦化し、さらに電流分布も平坦化するという相乗効果を生んでいる。また、高温部の過大な電流を抑制できるので高電流による劣化抑制の効果もある。
【0037】
また、5サイクル後(1000s)の各電池温度とその電池の許容最高温度を表1に示す。比較例1ではセル2,セル3で許容温度を越えているのに対して、実施例1では全ての電池で許容温度以下である。このように実施例1では熱伝達率が8W/m2/Kと比較的弱い冷却条件でもセル温度を許容値以内に制御することが可能であった。
【0038】
【表1】
【0039】
(熱伝達率40W/m2/K)
図5に熱伝達率が40W/m2/Kの時の電池の温度分布、図6に電池電流分布を示す。図5に示すように、実施例1,比較例1ともに、冷却を強めてもセル1,2温度が下がるだけで、高温となるセル3の温度はほとんど変わらなかった。その結果、温度分布が広がり、図6に示すように電流分布も拡大した。また、5サイクル後(1000s)の各電池温度とその電池の許容最高温度を表2に示す。表2に示すように、比較例1では冷却を強めても、セル3が効率的に冷却されないため、許容温度以下とすることができなかった。
【0040】
以上の結果から、本実施例1は比較例1に比べ、温度分布が平坦化され、高温での寿命に優れるため、冷却負荷が低減でき、かつ、運転制御が容易であることが示された。その結果、体積エネルギー密度が高く、かつ、低コストな電池モジュールとすることが可能となる。
【0041】
【表2】
【実施例2】
【0042】
(実施例2の電池モジュール構成)
実施例2の構成を図7に示す。リチウムイオン電池には直径67mmの円筒電池を用いた。垂直方向に5段並べられ、垂直方向の電池同士は電気的に並列接続されている。また、水平方向の電池同士は電気的に直列接続されている。電池同士の間隔は垂直方向,水平方向ともに10mmとした。また、モジュールは冷却ファン9を用いて電池の周囲を1.5m/sで空気が流れるようにして冷却した。
【0043】
垂直方向に並べた電池のうち、高温となる上部の2段の電池(図7中の第4段,第5段)は、中央部の2段の通常電池7(図7中の第2段,第3段)よりも電解液中のVC濃度およびEC濃度を高めた高抵抗高温耐性電池8を用いた。高抵抗高温耐性電池8は通常電池7に比べ、20℃における抵抗が1.5倍程度高く、50℃保存における容量維持率が高い電池となった。また、冷却ファン9により常に低温に保たれる図7中の第1段の電池には、通常電池7よりも電解液中のECなど環状カーボネートの濃度を下げ、EMC,DECなどの鎖状カーボネートの濃度を高めた低抵抗電池12を用いた。低抵抗電池12は通常電池7に比べ、20℃における抵抗が5%程度低く、50℃保存における容量維持率がわずかに低い電池となった。寿命を考慮した電池外表面の許容最高温度は高抵抗高温耐性電池8が45℃、通常電池7が40℃、低抵抗電池12が37℃であった。
【0044】
〔比較例2〕
(比較例2の電池モジュール構成)
比較例2の構成を図8に示す。比較例2はすべての電池に通常電池7を使用している点以外は実施例2と同じ構成である。
【0045】
(試験内容)
実施例2と比較例2の電池モジュールを用いて、4C(1Cは定格容量を1時間で充放電する電流値)で60秒間放電し、300秒間休止し、その後4Cで60秒間充電し、300秒間休止するサイクルを30サイクル繰り返した。初期温度および環境温度は20℃、初期充電状態は60%とした。
【0046】
図9には実施例2の水平方向中央付近における各段電池の外表面温度変化を示す。また、図10には比較例2の水平方向中央付近における各段電池の外表面温度変化を示す。比較例2では第5段の電池温度は約2時間後には定常的に通常電池7の許容最高温度である40℃を越えている。一方、実施例2では第3段の電池が40℃を越えることがあるものの、定常的に40℃を越える電池はない。また、6時間(30サイクル)後においてもやや温度上昇している第5段の電池がさらにサイクルを重ねることで40℃を越えることがあり得るが、第5段の電池は高抵抗高温耐性電池8であるので許容範囲内である。また、初期、一時的に第3段の電池が40℃を越える事象についても、第4段,第5段の電池が昇温するまでの間、電流レートを抑えるなどの制御を施すことにより回避可能である。
【0047】
図11には実施例2の30サイクル目における放電レート分布を示す。また、図12には比較例2の30サイクル目における放電レート分布を示す。図11,図12の放電レートが負の部分は充電されていることを示している。同じ仕様の電池の場合は高温ほど抵抗値が下がるため、比較例2では他の電池に比べ高温である第5段の電池に電流が集中し、平均4Cの充放電において第5段の電池には約6Cの電流が流れている。このため、他の電池に比べてハイレートによる劣化が進行する。一方、実施例2では最高温度となる第5段の電池は通常電池に比べ高抵抗であるため、電流集中が抑制される。最も高い充放電レートとなった第3段の電池においても約5C程度であり、実施例2は比較例2に比べてハイレートによる劣化を抑制できる。
【実施例3】
【0048】
実施例1および実施例2に示すリチウムイオン二次電池モジュールは、エンジンとモータとで走行するハイブリッド鉄道,電池をエネルギー源としてモータで走行する電気自動車,ハイブリッド自動車,外部から電池に充電できるプラグインハイブリッド自動車,水素と酸素の化学反応から電力を取り出す燃料電池自動車等の種々の乗り物の電源に適用できる。
【0049】
代表例として電気自動車(乗り物)30の駆動システムの概略平面図を図13に示す。
【0050】
電池モジュール16から、図示しないバッテリコントローラ,モータコントローラ等を介して、モータ17に電力が供給され、電気自動車30が駆動される。また、減速時にモータ17により回生された電力が、バッテリコントローラを介して、電池モジュール16に貯蔵される。
【0051】
実施例3によれば、本発明の電池モジュール16を適用することにより、エネルギー密度,出力,電池寿命,安全性が向上し、電気自動車(乗り物)30のシステムの信頼性が向上する。また、電池モジュールの冷却装置やその制御のためのコストが低減でき、電気自動車(乗り物)30のシステムのコストが低減できる。
【0052】
なお、乗り物としては、例示したもの以外にフォークリフト,工場等の構内搬送車,電動車椅子,各種衛星,ロケット,潜水艦等に幅広く適用可能であり、バッテリ(電池)を有する乗り物であれば、限定されず適用可能である。
【実施例4】
【0053】
実施例1,実施例2に示すリチウムイオン二次電池モジュールは、太陽の光エネルギーを電力に変換する太陽電池18や、風力によって発電する風力発電等の自然エネルギーを利用した発電システムSの電力貯蔵用電源に適用できる。その概略を図14に示す。
【0054】
太陽電池18や風力発電装置19等の自然エネルギーを利用した発電では発電量が不安定であるため、安定な電力供給のためには、電力系統20の側の負荷に合わせて電力貯蔵用電源から電力を充放電する必要がある。
【0055】
この電力貯蔵用電源に本発明の電池モジュール26を適用することにより、エネルギー密度,出力,電池寿命,安全性が向上し、発電システム(電力貯蔵システム)Sの信頼性が向上する。電池モジュールの冷却装置やその制御のためのコストが低減でき、発電システム(電力貯蔵システム)Sのコストが低減できる。
【0056】
なお、電力貯蔵システムとして、太陽電池18や風力発電装置19を用いた発電システムを例示したが、これに限定されず、その他の発電システムにも、幅広く適用可能である。
【符号の説明】
【0057】
7 通常電池
8 高抵抗高温耐性電池
9 冷却ファン
10 +端子
11 −端子
12 低抵抗電池
16 電池モジュール(リチウムイオン二次電池)
17 モータ
18 太陽電池
19 風力発電装置
20 電力系統
30 電気自動車(乗り物)
S 発電システム(電力貯蔵システム)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のリチウムイオン電池が組み合わされた電池モジュールにおいて、モジュールの高温となる位置の1つ以上の電池と、それ以外の位置の1つ以上の電池が並列に接続された電池モジュールであって、モジュールの高温となる位置の電池が並列接続されたそれ以外の位置の電池に比べて、20℃における内部抵抗が高く、かつ、50℃に4週間保存した時の容量維持率に優れることを特徴としたリチウムイオン電池モジュール。
【請求項2】
請求項1に記載したリチウムイオン電池モジュールにおいて、モジュールの高温となる位置の電池が並列接続されたそれ以外の位置の電池に比べて、20℃における内部抵抗が10%以上高いことを特徴としたリチウムイオン電池モジュール。
【請求項3】
請求項1および2に記載したリチウムイオン電池モジュールにおいて、モジュールの高温となる位置の電池が並列接続されたそれ以外の位置の電池に比べて、50℃に4週間保存した時の容量低下率(=1−容量維持率)が10%以上低いことを特徴としたリチウムイオン電池モジュール。
【請求項4】
請求項1から3に記載したリチウムイオン電池モジュールにおいて、モジュールの高温となる位置の電池が並列接続されたそれ以外の位置の電池に比べて、電解液中のビニレンカーボネート濃度が高いことを特徴としたリチウムイオン電池モジュール。
【請求項5】
請求項4に記載したリチウムイオン電池モジュールにおいて、モジュールの高温となる位置の電池における電解液中のビニレンカーボネート濃度が10重量パーセント以上であることを特徴としたリチウムイオン電池モジュール。
【請求項6】
請求項1から4に記載したリチウムイオン電池モジュールにおいて、モジュールの高温となる位置の電池が並列接続されたそれ以外の位置の電池に比べて、電解液中のエチレンカーボネート濃度が高いことを特徴としたリチウムイオン電池モジュール。
【請求項7】
請求項6に記載したリチウムイオン電池モジュールにおいて、モジュールの高温となる位置の電池における電解液中のエチレンカーボネート濃度が50体積パーセント以上70体積パーセント以下であることを特徴としたリチウムイオン電池モジュール。
【請求項8】
請求項1から7に記載したリチウムイオン電池モジュールにおいて、モジュールの低温部から高温部に位置するに従い、電池の内部抵抗が高くなっていることを特徴としたリチウムイオン電池モジュール。
【請求項9】
請求項1から8に記載したリチウムイオン電池モジュールにおいて、モジュールの低温部から高温部に位置するに従い、ビニレンカーボネート濃度が高くなっていることを特徴としたリチウムイオン電池モジュール。
【請求項10】
請求項1から9に記載したリチウムイオン電池モジュールにおいて、モジュールの低温部から高温部に位置するに従い、エチレンカーボネート濃度が高くなっていることを特徴としたリチウムイオン電池モジュール。
【請求項11】
請求項1から10の何れか一項記載のリチウムイオン二次電池を搭載した乗り物。
【請求項12】
請求項1から10の何れか一項記載のリチウムイオン二次電池を搭載した発電システム。
【請求項1】
複数のリチウムイオン電池が組み合わされた電池モジュールにおいて、モジュールの高温となる位置の1つ以上の電池と、それ以外の位置の1つ以上の電池が並列に接続された電池モジュールであって、モジュールの高温となる位置の電池が並列接続されたそれ以外の位置の電池に比べて、20℃における内部抵抗が高く、かつ、50℃に4週間保存した時の容量維持率に優れることを特徴としたリチウムイオン電池モジュール。
【請求項2】
請求項1に記載したリチウムイオン電池モジュールにおいて、モジュールの高温となる位置の電池が並列接続されたそれ以外の位置の電池に比べて、20℃における内部抵抗が10%以上高いことを特徴としたリチウムイオン電池モジュール。
【請求項3】
請求項1および2に記載したリチウムイオン電池モジュールにおいて、モジュールの高温となる位置の電池が並列接続されたそれ以外の位置の電池に比べて、50℃に4週間保存した時の容量低下率(=1−容量維持率)が10%以上低いことを特徴としたリチウムイオン電池モジュール。
【請求項4】
請求項1から3に記載したリチウムイオン電池モジュールにおいて、モジュールの高温となる位置の電池が並列接続されたそれ以外の位置の電池に比べて、電解液中のビニレンカーボネート濃度が高いことを特徴としたリチウムイオン電池モジュール。
【請求項5】
請求項4に記載したリチウムイオン電池モジュールにおいて、モジュールの高温となる位置の電池における電解液中のビニレンカーボネート濃度が10重量パーセント以上であることを特徴としたリチウムイオン電池モジュール。
【請求項6】
請求項1から4に記載したリチウムイオン電池モジュールにおいて、モジュールの高温となる位置の電池が並列接続されたそれ以外の位置の電池に比べて、電解液中のエチレンカーボネート濃度が高いことを特徴としたリチウムイオン電池モジュール。
【請求項7】
請求項6に記載したリチウムイオン電池モジュールにおいて、モジュールの高温となる位置の電池における電解液中のエチレンカーボネート濃度が50体積パーセント以上70体積パーセント以下であることを特徴としたリチウムイオン電池モジュール。
【請求項8】
請求項1から7に記載したリチウムイオン電池モジュールにおいて、モジュールの低温部から高温部に位置するに従い、電池の内部抵抗が高くなっていることを特徴としたリチウムイオン電池モジュール。
【請求項9】
請求項1から8に記載したリチウムイオン電池モジュールにおいて、モジュールの低温部から高温部に位置するに従い、ビニレンカーボネート濃度が高くなっていることを特徴としたリチウムイオン電池モジュール。
【請求項10】
請求項1から9に記載したリチウムイオン電池モジュールにおいて、モジュールの低温部から高温部に位置するに従い、エチレンカーボネート濃度が高くなっていることを特徴としたリチウムイオン電池モジュール。
【請求項11】
請求項1から10の何れか一項記載のリチウムイオン二次電池を搭載した乗り物。
【請求項12】
請求項1から10の何れか一項記載のリチウムイオン二次電池を搭載した発電システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−221816(P2012−221816A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−87850(P2011−87850)
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
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