説明

リチウムイオン二次電池用正極材料、リチウムイオン二次電池用正極部材、リチウムイオン二次電池、及びリチウムイオン二次電池用正極材料の製造方法

【課題】構成元素として、Fe及びMnの少なくとも1つを含み、かつ、Li及びSiを含む酸化物と炭素材との複合を有するリチウムイオン二次電池用正極材料であって、高い放電容量が得られ、かつ塗工性に優れたリチウムイオン二次電池用正極材料、それを用いたリチウムイオン二次電池用正極部材、リチウムイオン二次電池、及び二次電池用正極材料の製造方法を提供する。
【解決手段】構成元素として、Fe及びMnの少なくとも1つを含み、かつ、Li及びSiを含む酸化物と炭素材との複合粒子であって、X線源としてCu−Kαを用いたX線回折法により測定した2θ=33±2゜の範囲に回折ピークが存在し、回折ピークの半値幅が0.55°以上であり、粒子のサイズが1μm以上20μm以下であるリチウムイオン二次電池用正極材料、リチウムイオン二次電池用正極部材、リチウムイオン二次電池、及び二次電池用正極材料の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用正極材料、リチウムイオン二次電池用正極部材、リチウムイオン二次電池、及びリチウムイオン二次電池用正極材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、従来の鉛二次電池やニッケル−カドミウム二次電池などに比べ軽量で容量も大きいため携帯電話やノート型パーソナルコンピューターなどの電子機器の電源として広く用いられている。最近では、電気自動車、プラグインハイブリッド自動車、電動二輪車等の電池としても利用され始めている。
リチウムイオン二次電池は、基本的に、正極、負極、電解質、セパレータで構成されている。
通常、負極は、金属リチウム、リチウムイオンを挿入脱離できる炭素やチタン酸リチウム等が使用されている。電解質は、リチウム塩とそれを溶解できる有機溶媒やイオン性液体(イオン液体)が使用されている。セパレータは、正極と負極の間に置かれその間の絶縁を保つとともに、電解質が通過できる細孔を有するもので多孔質の有機樹脂やガラス繊維等が使用されている。
正極は、基本的には、リチウムイオンが脱離挿入できる活物質、集電体への電気伝導経路(電子伝導経路)を確保するための導電助剤、活物質と導電助剤をつなぎ合わせる結着剤で構成されている。導電助剤としては、アセチレンブラック、カーボンブラック、グラファイト等の炭素材料が用いられている。また、正極材料である前記活物質としては、LiCoO2、LiNiO2、LiNi0.8Co0.2O2、LiMn2O4などのリチウムと遷移金属の金属酸化物が一般的に用いられている。その他にも、LiMPO4及び当該リン酸金属塩リチウムを基本構造として元素置換や組成変化させた誘導体、Li2MSiO4や当該ケイ酸金属塩リチウムを基本構造として元素置換や組成変化させた誘導体がある。ここで、Mは、Fe、Mn、Ni、Co等の価数変化する遷移金属元素が主として含まれる。
【0003】
このような金属酸化物は一般に電子伝導度が低いので、金属酸化物を活物質とする正極では、上述のように導電助剤が混合されている。また、導電助剤を混合するとともに、金属酸化物活物質の表面を炭素被覆したり、当該表面に炭素粒子や炭素繊維を付着させたりすることで更に正極内の電子伝導性を改善することも行われている(特許文献1〜6、非特許文献1参照)。
特に電子伝導性が著しく乏しい金属酸化物では、単に導電助剤を共存させて正極を構成するだけでは不十分であり、優れた電池特性が得られないので、金属酸化物の表面に炭素被覆して使用される。
また、上記酸化物の中で、ケイ酸鉄リチウムLi2FeSiO4やケイ酸マンガンリチウムLi2MnSiO4、及びそれらを基本構造として元素置換や組成変化させた誘導体は、1つの組成式中に2つのリチウムイオンを含んでいるために、理論的には高い容量が期待できる(特許文献7〜11、非特許文献2参照)。また、電子伝導度が特に低いので、電極中に導電助剤を混合するだけでなく、当該酸化物粒子への炭素被覆も試みられている(非特許文献3〜5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−34534号公報
【特許文献2】特開2006−302671号公報
【特許文献3】特開2002−75364号公報
【特許文献4】特開2003−272632号公報
【特許文献5】特開2004−234977号公報
【特許文献6】特開2003−59491号公報
【特許文献7】特開2007−335325号公報
【特許文献8】特表2005−519451号公報
【特許文献9】特開2001−266882号公報
【特許文献10】特開2010−108678号公報
【特許文献11】特開2009−170401号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J. Moskon, R. Dominko, R. Cerc-Korosec, M. Gaberscek, J. Jamnik, J. Power Sources 174, (2007)638-688.
【非特許文献2】R. Dominko, M. Bele, M. Gaberscek, A. Meden, M. Remskar, J. Jamnik, Electrochem. Commun. 8, (2006)217-222.
【非特許文献3】邵斌、谷口泉、第50回電池討論会講演要旨集、(2009)111.
【非特許文献4】邵斌、谷口泉、第51回電池討論会講演要旨集、(2010)211.
【非特許文献5】Yi-Xiao Li, Zheng-Liang Gong, Yong Yang, J. Power Sources 174, (2007)528-532.
【非特許文献6】小島晶、小島敏勝、幸琢寛、奥村妥絵、境哲男、第51回電池討論会要旨集、(2010)194.
【非特許文献7】上村雄一、小林栄次、土井貴之、岡田重人、山木準一、第50回電池討論会講演要旨集、(2009)30.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、ケイ酸鉄リチウムLi2FeSiO4やケイ酸マンガンリチウムLi2MnSiO4、及びそれらを基本構造として元素置換や組成変化させた誘導体は、理論上又は組成上高い容量(330mAh/g)が期待できる。実際には、1Li以上の実容量(165mAh/g)が得られたという例はまだ数少なく、1.5Liの実容量(247mAh/g)にまではまだ達成されていないが、特許文献7では、60〜130mAh/gの容量となっており、非特許文献6では190mAh/gの実容量、非特許文献7では225mAh/gの実容量が報告されている。
しかしながら、ケイ酸鉄リチウムLi2FeSiO4やケイ酸マンガンリチウムLi2MnSiO4、及びそれらの誘導体は、1μmより小さな微粒子にしないと高い容量が得られない。これは、これらの材料の導電性が低いため、Li+イオンや電子の拡散経路を短くするというものである。
このように、ナノサイズの微粒子にすれば高い容量が得られるようになるものの、ナノサイズの微粒子とした場合、当該微粒子をスラリーにして集電体に塗工してリチウムイオン二次電池の正極を作製する工程において、塗工性が良くないという問題が明らかとなった。例えば、塗工過程や乾燥過程でクラックが発生するという問題が生じる。また、クラックの発生は、高塗布量にしようとする際に顕著に表れる。
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、構成元素として、Fe及びMnの少なくとも1つを含み、かつ、Li及びSiを含む酸化物と炭素材との複合体を有するリチウムイオン二次電池用正極材料であって、高い放電容量が得られ、かつ塗工性に優れたリチウムイオン二次電池用正極材料、それを用いたリチウムイオン二次電池用正極部材、リチウムイオン二次電池、及びリチウムイオン二次電池用正極材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ケイ酸鉄リチウムLi2FeSiO4やケイ酸マンガンリチウムLi2MnSiO4、及びそれらを基本構造として元素置換や組成変化させた誘導体では、1μmよりできるだけ小さな微粒子にすると高い容量が得られるようになるが、前述のような塗工性の問題が発生し、反対に塗工性の問題が起こり難くするために、1μm以上に大きく粒成長させると高い容量が得られないという問題が起こるということを明らかにした。
そこで、本発明者らは、ケイ酸鉄リチウムやケイ酸マンガンリチウム組成の酸化物と炭素材とを有する特定サイズの複合粒子とすることで塗工性に優れるようになり、かつ、前記酸化物はX線回折パターンに特定範囲に回折ピークが観察され、当該回折ピークが特定の半値幅以上のブロードである酸化物が十分高い容量を示すことを見出した。
また、ケイ酸鉄リチウムやケイ酸マンガンリチウムの構成元素を含む化合物と、炭素材となる有機化合物とを含む溶液を、液滴の状態で熱分解して反応させることで、上記回折ピークを有する酸化物と炭素材との複合粒子を簡便に作製できることを見出し、本発明の製造方法を確立するに至った。
すなわち、本発明は、以下を要旨とするものである。
(1)構成元素として、Fe及びMnの少なくとも1つを含み、かつ、Li及びSiを含む酸化物と炭素材との複合粒子であって、X線源としてCu−Kαを用いたX線回折法により測定した2θ=33±2゜の範囲に回折ピークが存在し、当該回折ピークの半値幅が0.55°以上であり、当該粒子のサイズが1μm以上20μm以下であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極材料である。
(2)前記粒子の内部に200nm以上のサイズを有する空隙が存在することを特徴とする(1)に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料である。
(3)前記空隙の存在量が、前記粒子断面における面積率で20%以上80%以下であることを特徴とする(2)に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料である。
(4)前記粒子の内部は、前記炭素材に対して前記酸化物が島状に点在する海島構造を呈し、当該海島構造の島の円換算径の平均値が3nm以上10nm以下であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用正極材料である。
(5)(1)〜(4)のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用正極材料、及び、結合剤を含む正極層を有する金属箔を有することを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極部材である。
(6)(1)〜(4)のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用正極材料、又は(5)に記載のリチウムイオン二次電池用正極部材を用いたことを特徴とするリチウムイオン二次電池である。
(7)(1)に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料の製造方法であって、構成元素として、Fe及びMnの少なくとも1つを含み、かつ、Li及びSiを含む酸化物を構成する元素を含む化合物と、炭素材となる有機化合物とを含む溶液を、液滴の状態で熱分解し、反応させて得られた粒子を用いることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極材料の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、容量及び塗工性に優れたリチウムイオン二次電池用正極材料とすることができる。また、高い実容量を有するリチウムイオン二次電池用正極部材、リチウムイオン二次電池とすることができる。また、本発明によれば、前記リチウムイオン二次電池用正極材料を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明における複合粒子のTEM像を示した図である。
【図2】本発明における複合粒子のSEM像を示した図である。
【図3】XRDを示した図であり、(a)は、Li、Fe、及びSiをLi:Fe:Si=2:1:1で含む酸化物のXRDであり、回折ピークがブロードな例である。(b)は、Li2FeSiO4結晶の酸化物のXRDであり、回折ピークがシャープな例である。
【図4】本発明における複合粒子の空隙のSEM像を示した図である。
【図5】図4の複合粒子の内部構造の模式図及び破断部のTEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料は、構成元素として、Fe及びMnの少なくとも1つを含み、かつ、Li及びSiを含む酸化物と、炭素材との複合粒子である。更に、前記粒子のサイズが1μm以上20μm以下である。更に、X線源としてCu−Kαを用いたX線回折(X‐ray diffraction、XRD)法により測定した2θ=33±2゜の範囲に回折ピークが存在し、当該回折ピークの半値幅が0.55°以上である。
このようにすることで、十分高い容量で良好な塗工性が得られるという顕著な作用効果を奏するものである。
【0011】
本発明では、1μm以上の粒子であるので、良好な塗工性が得られている。粒子サイズが大きいことによって、塗工スラリー中に正極材料を均一に分散し易くなり、スラリーの流動性も良くなるので塗工斑が生じ難くなる。前記粒子の形態が球状であると、よりスラリー流動性が良くなって、少ない溶媒でもスラリー化が可能となる。よって、塗工過程や乾燥過程で起こる塗膜の収縮も小さく均一に起こり、クラックが発生するということも抑制される。特に、塗布量を多くした際には、前記効果が顕著に発揮される。ここで、球状というのは、粒子のアスペクト比が1〜1.1の範囲を意味する。
したがって、前記粒子のサイズが1μm未満になると、塗工性が悪くなる。一方、前記粒子のサイズが20μmを超えると、塗膜表面が粒子による凹凸によって均一でなくなり、特に、数十μm厚さの電極層を均一に作製できない。
【0012】
ここで、粒子のサイズとは、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope ; TEM)又は走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope; SEM)を用いて観察できる粒子の投影面積の円換算直径である。
図1には、TEMで観察した典型的な例を示す。図2には、SEMで観察した典型的な例を示す。TEM像又はSEM像を用いて、観測される粒子を円の面積として置き換えた場合の直径の平均値で円換算直径を算出する。円換算直径とは、20個以上の前記直径の数平均値である。通常は、50個の数平均値を、円換算直径とする。TEM又はSEMのいずれか1つの像が、本発明の範囲内に入っていれば、本発明の作用効果が得られるものである。
【0013】
本発明の酸化物は、構成元素として、Fe及びMnの少なくとも1つを含み、かつ、Li及びSiを含むものであり、結晶性が後述する範囲である以外は、組成式Li2(Fe,Mn)SiO4で表される酸化物と同じ組成比を有する酸化物を基本とする。
例えば、Li2FeSiO4やLi2MnSiO4と同じ組成、Li2FeSiO4やLi2MnSiO4を基本構造として元素置換や組成変化させた誘導体と同じ組成比を有する酸化物である。FeやMnの一部を他の遷移金属元素(V、Ti、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Mg等)で置換した組成比を有する酸化物でもよい。Siの一部を他の元素(B、Al、P、Ga、Ge、Mg等)で置換した組成比を有する酸化物でもよい。Liの一部を他の元素(Na、K、Mg、Ca、Cu、Zn等)で置換した組成比を有する酸化物でもよい。元素置換に伴って電荷補償するために、上記組成比を変化させてもよい。
【0014】
更に、Liの含有量を2より増加させた組成比を有する酸化物でもよく、組成式Li2+x(Fe,MA)(Si,MB)O4又はLi2+x(Mn,MA)(Si,MB)O4(ここで、MA及びMBは、Li+のx分の電荷を補償するために、それぞれFe及びSiを置換する元素である。)として表した場合にxが0<x≦0.25である組成と同じ組成比を有する酸化物がより好ましい。
【0015】
本発明の酸化物は、X線源としてCu−Kαを用いたX線回折法により測定した2θ=33±2゜の範囲に存在する回折ピークの半値幅が0.55゜以上である。図3に、典型的なXRD図を示す。図中(a)は本発明に係る酸化物を測定したものであり、同(b)は従来例を測定したものである。本発明の酸化物は、2θ=33±2゜の範囲に存在する回折ピークの半値幅は、0.55°以上であり、更に、2θ=15〜18°には回折ピークが現れないものが好ましい。換言すれば、本発明の酸化物は、特定の程度を限度とした結晶性の低い酸化物であるともいえる。
【0016】
ケイ酸鉄リチウムやケイ酸マンガンリチウム等の本系酸化物では、最初の充電(Li+イオンの脱離, delithiation)によって結晶の規則性が低下し(結晶構造が乱れ)、電気化学的に充放電し易い構造に変化することで活物質として作用している。したがって、正極活物質としては、ケイ酸鉄リチウムやケイ酸マンガンリチウム等の結晶であって高い結晶性を有する必要はなく、充放電し易い構造に変化しやすい構造であればよい。前述のように、最初の充電によって結晶構造が乱れるのであるから、寧ろ、結晶性が低い方が好ましく、XRDの回折ピークで言えば、特定のブロードな回折ピーク(半値幅が大きなピーク)であるのが好ましいと考える。
よって、上記半値幅の上限は、回折ピークが確認できる程度の幅広ピークで求められる半値幅になるので特に限定されないが、通常、回折ピークの存在する範囲、即ち4°を最大と考えることができる。ブロードな回折ピークを有する試料の作製し易さという観点からは、2°を最大と考えることができる。
【0017】
また、前記複合粒子の内部に200nm以上粒子径未満のサイズを有する空隙が存在するのがより好ましい。
前記複合粒子の内部に前記空隙が存在することによって、高い放電レートでも高い容量が得られる。前記空隙には、電解質溶液が浸透して十分な量を保持できるので、高いレートでも粒子内部で電解質溶液との間でLi+イオンのやり取りが容易にできるためである。一方、空隙が無い場合には、電解質溶液は粒子内部まで十分な量を浸透できないので、Li+イオンは固体内を粒子表面まで拡散しないといけなくなり、高いレートでは効率良くLi+イオンの挿入脱離が出来なくなる場合がある。即ち、高いレートで高い容量が得られない場合がある。
ここで、空隙のサイズとは、粒子の断面をSEMを用いて観察できる空隙の投影面積の円換算直径である。図4に、SEMで観察した典型的な粒子の断面を示す。
【0018】
前記空隙の存在量が、前記粒子断面における面積率で20%以上80%以下であるのが、より好ましい。前記面積率を20%以上80%以下としたのは、20%未満であると、高い放電レートで高い容量が得られない場合があり、一方、80%を超えると、高い放電レートでも高い容量が得られるが電極中に占める活物質の含有量を高くすることが難しくなる場合があるためである。
【0019】
前記複合粒子の内部は、図5のように、前記炭素材に対して前記酸化物が島状に点在する海島構造を呈し、当該海島構造の島の円換算径の平均値が3nm以上10nm以下であるのがより好ましい。
当該複合粒子の内部では、ケイ酸鉄リチウムやケイ酸マンガンリチウム等の本系酸化物である領域が複数存在することによって、即ち、炭素材がマトリックス(連続体)となり酸化物である領域が分散された(非連続体)構造とすることによって、リチウムイオンが前記各領域から挿入・脱離に伴って起こる前記各領域からの電子の移動が炭素材を経由してできるので、全ての前記領域が活物質として作用する。よって、高い実容量が実現できるものと考えられる。更に、前記領域の大きさが小さいとリチウムイオンの固体内拡散する距離が小さくなって実容量が高くなる傾向になる。前記ケイ酸塩酸化物では電気伝導度が非常に小さいので、現実的な充放電時間で高い実容量を得るには充放電時間に追随してリチウムイオンの固体内拡散ができる距離以下の粒子サイズである必要がある。
具体的には、前記複合粒子中の前記酸化物である領域の投影面積の円換算直径が10nm以下であると、より高い実容量が得られる。前記直径が10nmを超えるとリチウムイオンの固体内拡散距離が大きくなり現実的な充放電時間内にリチウムイオンが拡散できず、その結果、高い実容量が得られない場合がある。一方、前記直径の下限値は、リチウムイオンを酸化物構造内に保持し易い最小サイズである。よって、前記直径が3nm未満になるとリチウムイオンを酸化物構造内に保持し難くなる場合がある。
【0020】
ここで、前記複合粒子中の前記酸化物である領域は、透過型電子顕微鏡を用いて観察することができる。投影面積の円換算直径は、透過型電子顕微鏡で観察し、画像処理することによって算出することができる。
具体的には、透過型電子顕微鏡像を2値化し、円の面積として置き換えた場合の直径の平均値で円換算直径を算出することができる。円換算直径とは、20個以上の前記直径の数平均値である。通常は、50個の数平均値を、円換算直径とする。
【0021】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料では、炭素材の含有量が2質量%以上25質量%以下であるのがより好ましい。
前記炭素材の含有量が2質量%未満であると、集電体までの電子伝導経路が十分確保できない場合があり、優れた電池特性が得られない場合がある。一方、前記炭素材の含有量が25質量%を超えると、電極を作製した際の活物質の割合が少なくなるので、電池設計の仕方や目的によっては高い電池容量が得られなくなる場合がある。したがって、上記範囲内であると、優れた電池性能を容易に確保でき、電池設計の選択幅を広くできることになる。
【0022】
本発明における炭素材は、元素状炭素を含むものであり、複合体粒子中の炭素材に含まれるグラファイト骨格炭素の含有率は20〜70%であることが好ましい。グラファイト骨格炭素の含有率が20%未満であると、炭素材の電気伝導率が低くなり、高い容量が得られ難くなる場合がある。一方、グラファイト骨格炭素の含有率が70%を超えると疎水性が強まり、電解質溶液が浸透し難くなるため、高容量が得られ難くなる場合がある。
【0023】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料は、少なくとも結合剤を含む正極層とすることができ、当該正極層は金属箔表面に施されてリチウムイオン二次電池用正極部材にできるものである。
【0024】
前記結合剤(結着剤やバインダーとも呼ばれる。)は、活物質や導電助剤を結着する役割を担うものである。
本発明に係る結合剤としては、通常、リチウムイオン二次電池の正極を作製する際に使用されるものである。また、結合剤としては、リチウムイオン二次電池の電解質及びその溶媒に対して、化学的および電気化学的に安定なものが好ましい。
結合剤としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれであってもよい。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン;ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE樹脂)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、フッ化ビニリデン−ペンタフルオロプロピレン共重合体、プロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン共重合体などのフッ素樹脂;スチレンブタジエンゴム(SBR);エチレン−アクリル酸共重合体または当該共重合体のNaイオン架橋体;エチレン−メタクリル酸共重合体または当該共重合体のNaイオン架橋体;エチレン−アクリル酸メチル共重合体または当該共重合体のNaイオン架橋体;エチレン−メタクリル酸メチル共重合体または当該共重合体のNaイオン架橋体;カルボキシメチルセルロースなどが挙げられる。また、これらを併用することもできる。これらの材料の中でも、PVDF、PTFEが特に好ましい。
前記結合剤は、通常、正極全量中の1〜20質量%程度の割合で用いられる。
【0025】
また、前記リチウムイオン二次電池用正極部材の正極層に、更に、導電助剤を含んでいてもよい。
前記導電助剤とは、実質上、化学的に安定な電子伝導性材料であれば特に限定されない。例えば、天然黒鉛(鱗片状黒鉛など)、人造黒鉛などのグラファイト類;アセチレンブラック;ケッチェンブラック;チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック類;炭素繊維;などの炭素材料の他、金属繊維などの導電性繊維類;フッ化カーボン;アルミニウムなどの金属粉末類;酸化亜鉛;チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー類;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;ポリフェニレン誘導体などの有機導電性材料;などが挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を同時に使用しても構わない。これらの中でも、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンブラックといった炭素材料が特に好ましい。
前記導電助剤は、通常、正極全量中の1〜25質量%程度の割合で用いられる。
【0026】
前記正極層とは、少なくとも、正極活物質と結合剤を含むものであり、電解質溶液が侵入できる隙間を有する組織構造である。尚、前記正極層には、正極活物質と結合剤に加えて、導電助剤を含んでいてもよい。
【0027】
前記金属箔とは、導電性金属箔であり、例えば、アルミニウムまたはアルミニウム合金製の箔を用いることができる。その厚みは、5μm〜50μmとすることができる。
【0028】
前記リチウムイオン二次電池用部材を用いてリチウムイオン二次電池とすることができる。例えば、前記リチウムイオン二次電池用部材に加えて、少なくとも、負極、セパレータ、及び非水電解液の構成でリチウムイオン二次電池になる。
【0029】
前記負極は、負極活物質に必要に応じて結合剤(結着剤やバインダーとも呼ばれる。)を含むものである。
負極に係る負極活物質としては、金属リチウム、又はLiイオンをドープ・脱ドープできるものであればよく、Liイオンをドープ・脱ドープできるものとしては、例えば、黒鉛、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物の焼成体、メソカーボンマイクロビーズ、炭素繊維、活性炭などの炭素材料が挙げられる。また、Si、Sn、Inなどの合金、またはLiに近い低電位で充放電できるSi、Sn、Tiなどの酸化物、Li2.6Co0.4NなどのLiとCoの窒化物などの化合物も負極活物質として用いることができる。さらに、黒鉛の一部をLiと合金化し得る金属や酸化物などと置き換えることもできる。
負極活物質として黒鉛を用いた場合には、満充電時の電圧をLi基準で約0.1Vとみなすことができるため、電池電圧に0.1Vを加えた電圧で正極の電位を便宜上計算することができることから、正極の充電電位が制御しやすく好ましい。
【0030】
前記負極は、集電体となる金属箔の表面上に負極活物質と結合剤を含む負極層を有する構造としてもよい。
前記金属箔としては、例えば、銅、ニッケル、チタン単体またはこれらの合金、またはステンレスの箔が挙げられる。本発明で用いられる好ましい負極集電体の材質のひとつとして銅またはその合金が挙げられる。銅と合金化する好ましい金属としてはZn、Ni、Sn、Alなどがあるが、他にFe、P、Pb、Mn、Ti、Cr、Si、Asなどを少量加えても良い。
【0031】
前記セパレータは、イオン透過度が大きく、所定の機械的強度を持ち、絶縁性の薄膜であれば良く、材質として、オレフィン系ポリマー、フッ素系ポリマー、セルロース系ポリマー、ポリイミド、ナイロン、ガラス繊維、アルミナ繊維が用いられ、形態として、不織布、織布、微孔性フィルムが用いられる。
特に、材質として、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリプロピレンとポリエチレンの混合体、ポリプロピレンとポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の混合体、ポリエチレンとポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の混合体が好ましく、形態として微孔性フィルムであるものが好ましい。
また、特に、孔径が0.01〜1μm、厚みが5〜50μmの微孔性フィルムが好ましい。これらの微孔性フィルムは単独の膜であっても、微孔の形状や密度等や材質等の性質の異なる2層以上からなる複合フィルムであっても良い。例えば、ポリエチレンフィルムとポリプロピレンフィルムを張り合わせた複合フィルムを挙げることができる。
【0032】
前記非水電解液としては、一般に電解質(支持塩)と非水溶媒から構成される。リチウム二次電池における支持塩はリチウム塩が主として用いられる。
本発明で使用出来るリチウム塩としては、例えば、LiClO4 、LiBF4、LiPF6 、LiCF3 CO2 、LiAsF6 、LiSbF6 、LiB10Cl10、LiOSO2 n 2n+1で表されるフルオロスルホン酸(nは6以下の正の整数)、LiN(SO2 n 2n+1)(SO2 m 2m+1)で表されるイミド塩(m、nはそれぞれ6以下の正の整数)、LiC(SO2 p 2p+1)(SO2q 2q+1)(SO2 r 2r+1)で表されるメチド塩(p、q、rはそれぞれ6以下の正の整数)、低級脂肪族カルボン酸リチウム、LiAlCl4、LiCl、LiBr、LiI、クロロボランリチウム、四フェニルホウ酸リチウムなどのLi塩を上げることが出来、これらの一種または二種以上を混合して使用することができる。中でもLiBF4 及び/あるいはLiPF6 を溶解したものが好ましい。
支持塩の濃度は、特に限定されないが、電解液1リットル当たり0.2〜3モルが好ましい。
【0033】
非水溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、炭酸トリフルオロメチルエチレン、炭酸ジフルオロメチルエチレン、炭酸モノフルオロメチルエチレン、六フッ化メチルアセテート、三フッ化メチルアセテート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、ギ酸メチル、酢酸メチル、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,3−ジオキソラン、2,2−ビス(トリフルオロメチル)−1,3−ジオキソラン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、ジオキサン、アセトニトリル、ニトロメタン、エチルモノグライム、リン酸トリエステル、ホウ酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、3−アルキルシドノン(アルキル基はプロピル、イソプロピル、ブチル基等)、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、エチルエーテル、1,3−プロパンサルトンなどの非プロトン性有機溶媒、イオン性液体を挙げることができ、これらの一種または二種以上を混合して使用する。
これらの中では、カーボネート系の溶媒が好ましく、環状カーボネートと非環状カーボネートを混合して用いるのが特に好ましい。環状カーボネートとしてはエチレンカーボネート、プロピレンカーボネートが好ましい。また、非環状カーボネートとしては、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネートが好ましい。また、高電位窓や耐熱性の観点からは、イオン性液体が好ましい。
【0034】
電解質溶液としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネ−ト、1,2−ジメトキシエタン、ジメチルカーボネートあるいはジエチルカーボネートを適宜混合した電解液にLiCF3 SO3 、LiClO4 、LiBF4 および/またはLiPF6 を含む電解質溶液が好ましい。
特にプロピレンカーボネートもしくはエチレンカーボネートの少なくとも一方とジメチルカーボネートもしくはジエチルカーボネートの少なくとも一方の混合溶媒に、LiCF3 SO3 、LiClO4 、もしくはLiBF4 の中から選ばれた少なくとも一種の塩とLiPF6 を含む電解液が好ましい。
これら電解液を電池内に添加する量は特に限定されず、正極材料や負極材料の量や電池のサイズに応じて用いることができる。
【0035】
また、電解質溶液の他に次の様な固体電解質も併用することができる。固体電解質としては、無機固体電解質と有機固体電解質に分けられる。
無機固体電解質には、Liの窒化物、ハロゲン化物、酸素酸塩などが挙げられる。中でも、Li3 N、LiI、Li5 I2、Li3 N−LiI−LiOH、Li4 SiO4 、Li4 SiO4 −LiI−LiOH、x Li3 PO4 (1-x) Li4 SiO4 、Li2 SiS3 、硫化リン化合物(例えば、Li10GeP2S12等)などが有効である。
【0036】
有機固体電解質では、ポリエチレンオキサイド誘導体か当該誘導体を含むポリマー、ポリプロピレンオキサイド誘導体あるいは当該誘導体を含むポリマー、イオン解離基を含むポリマー、イオン解離基を含むポリマーと上記非プロトン性電解液の混合物、リン酸エステルポリマー、非プロトン性極性溶媒を含有させた高分子マトリックス材料が有効である。さらに、ポリアクリロニトリルを電解液に添加する方法もある。また、無機と有機固体電解質を併用する方法も知られている。
【0037】
また、前記リチウムイオン二次電池用部材とせずに、前記リチウムイオン二次電池用材料を用いてリチウムイオン二次電池とすることができる。例えば、リチウムイオン二次電池用材料、導電助剤、結合剤を含む正極層を金属メッシュに形成した正極、負極、セパレータ、及び非水電解液の構成でリチウムイオン二次電池となる。
【0038】
以下に、本発明のリチウムイオン二次電池正極材料の作製方法の例を示す。
まず、噴霧熱分解法を利用した作製方法の例を示す。
噴霧熱分解法で用いる原料は、所望の酸化物を構成する元素を含む化合物であって、水や有機溶媒に溶解する化合物を使用する。前記化合物と炭素源となる有機化合物とを溶解した溶液を、超音波やノズル(一流体ノズル、二流体ノズル、四流体ノズル等)によって液滴とし、次いで、前記液滴を500〜1000℃の温度の加熱炉中に導入して熱分解することによって本発明の粒子を作製することができる。したがって、工程数が少なく容易に前記粒子を作製することができる。尚、前記加熱炉の温度としては、X線源としてCu‐Kαを用いたX線回折法により測定して2θ=33±2°の範囲に回折ピークが存在する粒子を作製できる温度であって、当該回折ピークの半値幅は0.55°未満とならない温度とすることが好ましい。
【0039】
なお、前記粒子を更に不活性雰囲気で又は還元雰囲気下で300℃以上融点Tm(K)の0.757T以下の温度で熱処理してもよい。
前記熱処理温度としては、著しい粒成長しない温度(表面拡散が起こる温度以下)が好ましい。特に、結晶性が高くならない温度、即ち、XRDパターンの2θ=33±2゜の範囲に存在する回折ピークの半値幅が4.00°を超えることなく、かつ、0.55゜未満にならないように熱処理するのがより好ましい。
【0040】
炭素源となる有機化合物の量、噴霧熱分解する温度を適宜調整することで、本発明の要件を満たす粒子を作製することできる。粒子の粒径は、液滴のサイズ、噴霧溶液の濃度を適宜調整することで制御可能である。
【0041】
具体的な例として、例えば、硝酸リチウム、硝酸鉄(III)九水和物、コロイダルシリカをLi:Fe:Si=2:1:1モル比の化学組成になるように秤量して水に溶解させる。前記化合物を溶解した溶液に更にグルコースをLi:Fe:Si:グルコース=2:1:1:2モル比で添加し、当該溶液を、例えば、超音波噴霧器で液滴とし、800℃の加熱炉中に窒素をキャリヤーガスとして導入して熱分解することで粒子を作製することができる。
【0042】
また、例えば、硝酸リチウム、硝酸マンガン(II)六水和物、テトラエトキシシランをLi:Mn:Si=2:1:1モル比の化学組成になるように秤量して水に溶解させる。ここで、テトラエトキシシランは、予めメトキシエタノールに溶解し、その溶液を水に溶解させる。前記化合物を溶解した溶液に更にグルコースをLi:Mn:Si:グルコース=2:1:1:2モル比で添加し、当該溶液を、例えば、超音波噴霧器で液滴とし、600℃の加熱炉中に窒素をキャリヤーガスとして導入して熱分解することで粒子を作製することができる。
【0043】
次に、焙焼法を利用した作製方法の例を示す。
焙焼法で用いる原料は、所望の金属酸化物を構成する元素を含む化合物であって、水に溶解する化合物を使用する。鉄の元素を含む金属酸化物の場合には、前記原料に鉄鋼酸洗廃液又は圧延スケールを塩酸に溶解して調整した水溶液を使用するのが好ましい。前記化合物を溶解した水溶液を、ルスナー型、ルルギー型やケミライト型等の焙焼炉に導入して熱分解することで粒子を作製することができる。
【0044】
炭素源となる有機化合物の量、焙焼炉で分解する温度を適宜調整することで、本発明の要件を満たす粒子を作製することができる。粒子の粒径は、液滴のサイズ、噴霧溶液の濃度を適宜調整することで制御可能である。
【0045】
なお、前記粒子を更に不活性雰囲気で又は還元雰囲気下で300℃以上融点Tm(K)の0.757T以下の温度で熱処理してもよい。
前記熱処理温度としては、著しい粒成長しない温度(表面拡散が起こる温度以下)が好ましい。特に、結晶性が高くならない温度、即ち、XRDパターンの2θ=33±2゜の範囲に存在する回折ピークの半値幅が4.00°を超えることなく、かつ、0.55゜未満にならないように熱処理するのがより好ましい。
【0046】
具体的な例として、例えば、酢酸リチウム、硝酸マンガン(II)六水和物、及びコロイダルシリカをLi:Mn:Si=2:1:1モル比の化学組成になるように秤量して水に溶解させる。前記化合物を溶解した水溶液に更にグルコースをLi:Mn:Si:グルコース=2:1:1:2モル比で溶解し、当該溶液を、例えば、ケミライト型焙焼炉に導入して500〜800℃の温度で熱分解することで粒子を作製することができる。
【0047】
また、例えば、炭酸リチウムとコロイダルシリカを鉄鋼酸洗廃液(例えば、0.6mol(Fe)/L濃度の塩酸廃液)に溶解させ、Li:Fe:Si=2:1:1モル比の化学組成比の濃度に調製する。ここで、炭酸リチウムを全て溶解するように、18%塩酸を鉄鋼酸洗廃液に予め適量加えている。前記化合物を溶解した水溶液に更にグルコースをLi:Fe:Si:グルコース=2:1:1:2モル比で溶解し、当該溶液を、例えば、ルスナー型焙焼炉に導入して500〜800℃の温度で熱分解することで粒子を作製することができる。
【0048】
上述の炭素源となる有機化合物としては、例えば、アスコルビン酸、単糖(グルコース、フルクトース、ガラクトース等)、二糖(スクロース、マルトース、ラクトース等)、多糖(アミロース、セルロース、デキストリン等)、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、フェノール、ヒドロキノン、カテコール、マレイン酸、クエン酸、マロン酸、エチレングルコール、トリエチレングリコール、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、グルセリン等が挙げられる。
上述の酸化物を構成する元素を含む化合物としては、例えば、金属、水酸化物、硝酸塩、塩化物、有機酸塩、酸化物、炭酸塩、金属アルコキシド等が例示できる。
【実施例】
【0049】
(実施例1)
出発原料として、硝酸リチウム(LiNO3)、硝酸鉄(III)九水和物(Fe(NO3)3・9H2O)、テトトラエトキシシラン(以下、TEOSと言う)、アルミニウムsec-ブトキシドを用いた。表1の各組成比になるように、前記原料を水に溶解して水溶液を調製した。
ここで、TEOSは、予めメトキシエタノールに溶解し、その溶液を水に溶解させた。また、アルミニウムsec-ブトキシドを使用する場合には、アセト酢酸エチルで化学改質したものをTEOSを溶解したメトキシエタノールに添加して溶解し、その溶液を水に溶解させた。更に、前記水溶液に炭素材となる有機化合物としてグルコースを添加した。これらの水溶液を、それぞれ、窒素ガスからなるキャリヤーガスを用いて400〜1100℃に加熱した加熱炉中で噴霧熱分解することにより、試料を作製した。
溶液中の金属イオンの濃度は、Feイオンで0.05〜0.9mol/Lの範囲で溶液を調製した。前記グルコースは、グルコース/酸化物のモル比0.5〜4の範囲で添加した。なお、添加したグルコースは、グルコース/酸化物のモル比で0.5以下ならば粒子中に炭素として殆ど残らない。またグルコース添加量がそれより多い場合でも、加熱温度が高ければ粒子中に炭素として残らない。
グルコース添加量及び炉温によって、結晶性(半値幅)を制御した。残留炭素が多くなるほど、結晶成長し難くなるので結晶性が低くなる。炉温が低いほど、結晶成長し難くなるので結晶性が低くなる。また、液滴中の金属イオン濃度、グルコース含有量によって、粒子のサイズを制御した。
また、表1の試料No.1-5は、試料No.1-1を更に1%H2/Ar中、700℃、3hで熱処理したものである。表1の試料No.1-6は、試料No.1-1を更に1%H2/Ar中、600℃、3hで熱処理したものである。表1の試料No.1-7は、試料No.1-1を更に湿式粉砕した後、スプレードライで乾燥しながら造粒したものである。表1の試料No.1-9は、試料No.1-1を更に湿式粉砕し、凍結乾燥して造粒しないようにしたものである。表1の試料No.1-11は400℃に加熱した加熱炉中で噴霧熱分解し、それ以外の試料では500℃以上で噴霧熱分解している。
なお、各試料の噴霧炉温(加熱炉の温度)、グルコース添加量、溶液中の金属イオン濃度は表1に示す通りである。
【0050】
<各試料の分析>
上述のようにして得られた試料No.1-1〜No.1-23のそれぞれについて、以下の分析を行った。
粉末X線回折装置(リガク製Ultima II)を用いて、試料No.1-1〜No.1-23のX線回折を測定した。X線源にはCuKα線(λ=1.5405Å)を用い、JIS K0131に準拠して測定した。試料No.1-11は400℃の低温で噴霧熱分解しているので2θ=33±2°には回折ピークが現れなかったが、それ以外の試料では同範囲に回折ピークが存在した。試料No.1-11以外の試料については、2θ=33±2°に存在する回折ピークの半値幅(半値全幅、full width at half maximum, FWHM)を測定した。
透過型電子顕微鏡(日立製H-9000UHR III)を用いて、試料No.1-1〜No.1-23を観察した。試料No.1-2及びNo.1-3は、炭素材が含まれず複合粒子ではないので、海島構造は観察されなかったが、それ以外の試料では海島構造が観察された。既出の方法により、試料No.1-1、試料No.1-4〜No.1-23について島(酸化物)の円換算径を算出し、得られた各試料の円換算径を表1に併記した。
走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製のJSM-7000F)を用いて、粒子を観察し、その画像から粒子のサイズとして円換算径を算出した。試料No.1-1〜No.1-8、No.1-10〜No.1-23は、表1の「粒子サイズ」欄に示したような値であった。試料No.1-9は、試料No.1-1の粒子を0.2μmサイズに粉砕したものであるので、球状粒子ではなく、同サイズの異形微粒子である。また、試料No.1-7は、試料No.1-1を粉砕して造粒したものなので、球状に造粒された粒子のサイズである。尚、透過型電子顕微鏡によっても粒子を観察できるが、粒子のサイズは、透過型電子顕微鏡によっても同様の値が得られた。
また、粒子である試料No.1-1〜No.1-8、No.1-10〜No.1-23は、それらの断面も走査型電子顕微鏡で観察した。その画像から、粒子内の200nm以上の空隙を選定し、該空隙の存在量として、面積率を求めた。試料No.1-1〜No.1-6、No.1-8、No.1-10〜No.1-23は、表1の「粒子内の空隙」の「面積率」欄に示したような値であった。試料No.1-7は、試料No.1-1を粉砕して造粒した粒子であるので、粒子内はち密であり、200nmサイズのような大きな空隙は存在しなかった。
各試料中に含まれる炭素材の含有量を、堀場製作所製の炭素・硫黄分析装置EMIA-320Vを用いて測定し、表1の「炭素含有量」欄に併記した。試料No.1-2は、グルコースの添加量を減らして炭素が残らないように作製したものである。グルコース/酸化物のモル比で0.5以下では炭素が残らず、同モル比を超えると炭素が残るようになる。試料No.1-3は、1100℃の高温にした炉で噴霧熱分解して炭素が残らないように作製したものである。
【0051】
<塗工性の評価>
表1の試料No.1-1〜No.1-23の塗工性は、次のようにして行った。
各試料をそれぞれ90質量%と、ポリフッ化ビニルデン(PolyVinylidene DiFluoride、PVDF)4質量%、アセチレンブラック6質量%とを分散媒(N-methylpyrrolidone、NMP)に混合してスラリーを調製する。前記スラリーを厚さ20μmのアルミニウム箔上にクリアランス300μmとしたベーカー式アプリケータ―を用いて塗布し、100℃の乾燥器で乾燥させた。乾燥後の塗膜の表面を目視観察して、表面の凹凸が顕著なものやクラックが発生したものを「塗工性不良:×」、表面が平坦でクラックが発生しなかったものを「塗工性良:○」と評価した。
表1に示すように、試料No.1-1〜No.1-3、No.1-5〜No.1-6、No.1-8、No.1-10〜No.1-23がクラックの発生が見られず、塗工性は良好であった。試料No.1-4は、粒子のサイズが1μmより小さいので、塗膜を乾燥するとクラックが発生し、良好な塗工性が得られなかった。試料No.1-7は、粒子のサイズが大きすぎるので、粒子による表面凹凸が問題になる。試料No.1-9は、粒子を粉砕したものであるので、球状粒子でもなく、1μmより小さな微粒子となって、塗膜を乾燥するとクラックが発生し、良好な塗工性が得られなかった。
【0052】
<放電特性の評価>
各試料No.1-1〜No.1-23をそれぞれ正極電極に用い、金属リチウムを負極として、非水電解液を用いて試作電池を作製して評価した。上述のアルミニウム箔に塗工して作製した各電極シートを16mmφに打ち抜いたものを正極に用いた。尚、打ち抜いた正極版質量、アルミニウム箔のみを16mmφに打ち抜いた質量を引き、上記混合質量比から試料質量を算出した。また、活物質の質量は、更に、試料中の含有炭素量を除して求めた。
負極は厚さ500μm金属リチウム箔を用い、負極集電体にニッケル箔20μmを使用した。
また、電解液としては、エチルカーボネートとジメチルカーボネートの体積比で1:2の混合溶媒に1.0mol/LのLiPF6を溶解させた非水電解液を用い、セパレータには厚さ25μmの多孔質ポリプロピレンを用いてCR2032型コイン電池をアルゴングローブボックス内で組み立てた。
コイン電池を各試料についてそれぞれ5個作製し、25℃の恒温槽でそれぞれ充放電試験を行い、初期放電容量を測定した。充放電試験は、電圧範囲1.5〜5.0V、0.1CのCC-CV条件で4回予備充放電を繰り返した後に0.2C又は2.0CでCC-CV条件で250mAh/g充電し、その放電容量を測定して初期放電容量、高レートの初期放電容量とした。5個のコイン電池の初期放電容量を測定し、その最大値と最小値を除いた3個のコイン電池の初期放電容量の平均値が、表1の初期放電容量の値である。また、初期放電曲線の2Vにおける放電容量も表1の「2Vにおける放電容量(5回目放電)」欄に記載している。
試料No.1-1、No.1-4、No.1-6、No.1-8〜No.1-10、No.1-12〜No.1-23は、190mAh/g以上の高い初期放電容量を示すものであった。これらの中で、試料No.1-4、No.1-9は、高い初期放電容量ではあるものの、良好な塗工性が得られるものではない。
【0053】
【表1】

【0054】
(実施例2)
出発原料として、硝酸リチウム(LiNO3)、硝酸マンガン(II)六水和物(Mn(NO3)2・6H2O)、コロイダルシリカ、硝酸アルミニウム九水和物(Al(NO3)3・9H2O)、硝酸マグネシウム六水和物(Mg(NO3)2・6H2O)を用いた。
表2の各組成比になるように、前記原料を水に溶解して水溶液を調製した。更に、前記水溶液に炭素材となる有機化合物としてグルコースを添加した。これらの水溶液を、それぞれ、窒素ガスからなるキャリヤーガスを用いて400〜1100℃に加熱した加熱炉中で噴霧熱分解することにより、試料を作製した。
溶液中の金属イオンの濃度は、酸化物組成モル換算で0.05〜0.9mol/Lの範囲で溶液を調製した。前記グルコースは、グルコース/酸化物のモル比0.5〜4の範囲で添加した。グルコース添加量及び炉温によって、結晶性(半値幅)を制御した。残留炭素が多くなるほど、結晶成長し難くなるので結晶性が低くなる。炉温が低いほど、結晶成長し難くなるので結晶性が低くなる。また、液滴中の金属イオン濃度、グルコース含有量によって、粒子のサイズを制御した。
また、表2の試料No.2-1は、試料No.2-3を更に1%H2/Ar中、700℃、3hで熱処理したものである。表2の試料No.2-2は、試料No.2-3を更に1%H2/Ar中、500℃、1hで熱処理したものである。表2の試料No.2-9は、試料No.2-3を更に湿式粉砕した後、凍結乾燥して造粒しないようにしたものである。表2の試料No.2-10は、試料No.2-3を更に湿式粉砕した後、スプレードライで乾燥しながら造粒したものである。表2の試料No.2-11は、試料No.2-10の造粒粉を分級して粒度調整したものである。表2の試料No.2-14は、400℃に加熱した加熱炉中で噴霧熱分解し、それ以外の試料では500℃以上で噴霧熱分解している。
なお、各試料の噴霧炉温、グルコース添加量、溶液中の金属イオン濃度は表2に示す通りである。
【0055】
上述のようにして得られた試料No.2-1〜No.2-21のそれぞれについて、実施例1と同様に分析及び評価を行った。
試料No.2-1〜No.2-21をX線回折したところ、試料No.2-14は400℃の低温で噴霧熱分解しているので2θ=33±2°には回折ピークが現れなかったが、それ以外の試料では同範囲に回折ピークが存在し、該回折ピークの半値幅は表2のような値が得られた。試料No.2-1は、試料No.2-3を700℃で熱処理して結晶性が高くなっているので、半値幅が0.50になった。試料No.2-7は、1100℃の高温で噴霧熱分解しているので、結晶性が高くなっており、半値幅が0.37になった。
試料No.2-6及びNo.2-7は、炭素材が含まれず複合粒子ではないので、海島構造は観察されなかったが、それ以外の試料では海島構造が観察され、円換算径を表2に併記した。
試料No.2-1〜No.2-8、No.2-10〜No.2-21は、表2の「粒子サイズ」欄に示したような値であった。試料No.2-9は、試料No.2-3の粒子を0.1μmサイズに粉砕したものであるので、球状粒子ではなく、同サイズの異形微粒子である。また、試料No.2-10〜No.2-11は、試料No.2-3を粉砕して造粒したものなので、球状に造粒された粒子のサイズである。
試料No.2-1〜No.2-8、No.2-12〜No.2-21は、表2の「粒子内の空隙」の「面積率」欄に示したような値であった。試料No.2-10〜No.2-11は、試料No.2-3を粉砕して造粒した球状粒子であるので、粒子内はち密であり、200nmサイズのような大きな空隙は存在しなかった。
各試料の炭素含有量は、表2のような値であった。試料No.2-6は、グルコースの添加量を減らして炭素が残らないように作製したものである。試料No.2-7は、1100℃の高温にした炉で噴霧熱分解して炭素が残らないように作製したものである。
表2に示すように、試料No.2-1〜No.2-7、No.2-11〜No.2-21がクラックの発生が見られず、塗工性は良好であった。試料No.2-8は、粒子のサイズが1μmより小さいので、塗膜を乾燥するとクラックが発生し、良好な塗工性が得られなかった。試料No.2-9は、粒子を粉砕したものであるので、球状粒子でもなく、1μmより小さな微粒子となって、塗膜を乾燥するとクラックが発生し、良好な塗工性が得られなかった。試料No.2-10は、粒子のサイズが大きすぎるので、粒子による表面凹凸が問題になる。
試料No.2-2〜No.2-5、No.2-8〜No.2-13、No.2-15〜No.2-21は、195mAh/g以上の高い初期放電容量を示すものであった。これらの中で、試料No.2-8、No.2-9、No.2-10は、高い初期放電容量ではあるものの、良好な塗工性が得られるものではない。
【0056】
【表2】

【0057】
(実施例3)
出発原料として、硝酸リチウム(LiNO3)、硝酸マンガン(II)六水和物(Mn(NO3)2・6H2O)、硝酸鉄(III)九水和物(Fe(NO3)3・9H2O)、TEOS、アルミニウムsec-ブトキシド、硝酸マグネシウム六水和物(Mg(NO3)2・6H2O)を用いた表3の各組成比になるように、前記原料を水に溶解して水溶液を調製した。ここで、TEOSは、予めメトキシエタノールに溶解し、その溶液を水に溶解させた。また、アルミニウムsec-ブトキシドを使用する場合には、アセト酢酸エチルで化学改質したものを、TEOSを溶解したメトキシエタノールに添加して溶解し、その溶液を水に溶解させた。更に、前記水溶液に炭素材となる有機化合物としてグルコースを添加した。これらの水溶液を、それぞれ、窒素ガスからなるキャリヤーガスを用いて400〜1100℃に加熱した加熱炉中で噴霧熱分解することにより、試料を作製した。
溶液中の金属イオンの濃度は、酸化物組成モル換算で0.05〜0.9mol/Lの範囲で溶液を調製した。前記グルコースは、グルコース/酸化物のモル比0.5〜4の範囲で添加した。グルコース添加量及び炉温によって、結晶性(半値幅)を制御した。残留炭素が多くなるほど、結晶成長し難くなるので結晶性が低くなる。炉温が低いほど、結晶成長し難くなるので結晶性が低くなる。また、液滴中の金属イオン濃度、グルコース含有量によって、粒子のサイズを制御した。
また、表3の試料No.3-2は、試料No.3-1を更に1%H2/Ar中、700℃、3hで熱処理したものである。表3の試料No.3-3は、試料No.3-1を更に湿式粉砕した後、凍結乾燥して造粒しないようにしたものである。表3の試料No.3-9は、試料No.3-1を更に湿式粉砕した後、スプレードライで乾燥しながら造粒したものである。表3の試料No.3-7は、400℃に加熱した加熱炉中で噴霧熱分解し、それ以外の試料では500℃以上で噴霧熱分解している。
なお、各試料の噴霧炉温、グルコース添加量、溶液中の金属イオン濃度は表3に示す通りである。
【0058】
上述のようにして得られた試料No.3-1〜No.3-14のそれぞれについて、実施例1と同様に分析及び評価を行った。
試料No.3-1〜No.3-14をX線回折したところ、試料No.3-7は400℃の低温で噴霧熱分解しているので2θ=33±2°には回折ピークが現れなかったが、それ以外の試料では同範囲に回折ピークが存在し、該回折ピークの半値幅は表3のような値が得られた。試料No.3-2は、試料No.3-1を750℃で熱処理して結晶性が高くなっているので、半値幅が0.50になった。試料No.3-14は、1100℃の高温で噴霧熱分解しているので、結晶性が高くなっており、半値幅が0.45になった。
試料No.3-11は、炭素材が含まれず複合粒子ではないので、海島構造は観察されなかったが、それ以外の試料では海島構造が観察され、円換算径を表3に併記した。
試料No.3-1〜No.3-2、No.3-4〜No.3-14は、表3の「粒子サイズ」欄に示したような値であった。試料No.3-3は、試料No.3-1の粒子を0.2μmサイズに粉砕したものであるので、球状粒子ではなく、同サイズの異形微粒子である。また、試料No.3-9は、試料No.3-1を粉砕して造粒したものなので、球状に造粒された粒子のサイズである。
試料No.3-1〜No.3-8、No.3-10〜No.14は、表3の「粒子内の空隙」の「面積率」欄に示したような値であった。試料No.3-9は、試料No.3-1を粉砕して造粒した球状粒子であるので、粒子内はち密であり、200nmサイズのような大きな空隙は存在しなかった。
各試料の炭素含有量は、表3のような値であった。試料No.3-10は、グルコースの添加量を減らして炭素が残らないように作製したものである。
表3では、試料No.3-1〜No.3-2、No.3-4〜No.3-7、No.3-10〜No.3-14がクラックの発生が見られず、塗工性は良好であった。試料No.3-3は、粒子を粉砕したものであるので、球状粒子でもなく、1μmより小さな微粒子となって、塗膜を乾燥するとクラックが発生し、良好な塗工性が得られなかった。試料No.3-8試料は、1μmより小さな微粒子であったので、塗膜を乾燥するとクラックが発生し、良好な塗工性が得られなかった。No.3-9は、粒子のサイズが大きすぎるので、粒子による表面凹凸が問題になる。
試料No.3-1、No.3-3〜No.3-6、No.3-8、No.3-11〜No.3-13は、190mAh/g以上の高い初期放電容量を示すものであった。これらの中で、試料No.3-3、No.3-8は、高い初期放電容量ではあるものの、良好な塗工性が得られるものではない。
【0059】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成元素として、Fe及びMnの少なくとも1つを含み、かつ、Li及びSiを含む酸化物と炭素材との複合粒子であって、
X線源としてCu−Kαを用いたX線回折法により測定した2θ=33±2゜の範囲に回折ピークが存在し、当該回折ピークの半値幅が0.55°以上であり、
当該粒子のサイズが1μm以上20μm以下であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項2】
前記粒子の内部に200nm以上のサイズを有する空隙が存在することを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項3】
前記空隙の存在量が、前記粒子断面における面積率で20%以上80%以下であることを特徴とする請求項2に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項4】
前記粒子の内部は、前記炭素材に対して前記酸化物が島状に点在する海島構造を呈し、当該海島構造の島の円換算径の平均値が3nm以上10nm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料、及び、結合剤を含む正極層を有する金属箔を有することを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極部材。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料、又は請求項5に記載のリチウムイオン二次電池用正極部材を用いたことを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項7】
請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料の製造方法であって、
構成元素として、Fe及びMnの少なくとも1つを含み、かつ、Li及びSiを含む酸化物を構成する元素を含む化合物と、炭素材となる有機化合物とを含む溶液を、液滴の状態で熱分解し、反応させて得られた粒子を用いることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極材料の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−54927(P2013−54927A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192576(P2011−192576)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(000186762)昭栄化学工業株式会社 (55)
【Fターム(参考)】