説明

リチウムイオン二次電池用正極活物質、その正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池及びリチウムマンガン銀複合酸化物の製造方法

【課題】 サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池用正極活物質、その正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池及びリチウムマンガン銀複合酸化物の製造方法を提供する。
【解決手段】 組成式:xLiMnO・(1―x)LiMeO(0<x≦1、MeはNb、Al、Fe、F、Mg、Co、Ti、Ni及び3価のMnのうちから選ばれる少なくとも一つの金属)であらわされるリチウムマンガン複合酸化物のLi、4価のMn及びMeのうちの少なくとも一つの金属の一部がAgで置換されたリチウムマンガン銀複合酸化物を含み、該リチウムマンガン銀複合酸化物の一次粒子の平均粒径が10nm以上200nm以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用正極活物質、その正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池及びその正極活物質に含まれるリチウムマンガン銀複合酸化物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコンなどのポータブル電子機器の発達や、電気自動車の実用化などに伴い、小型軽量でかつ高容量の二次電池が必要とされている。現在、この要求に応える高容量二次電池としては、正極材料としてコバルト酸リチウム(LiCoO)、負極材料として炭素系材料、を用いた非水二次電池が商品化されている。このような非水二次電池は、エネルギー密度が高いため小型化及び軽量化が図れることから、幅広い分野で電源としての使用が注目されている。しかしながら、LiCoOは希少金属であるCoを原料として製造されるため、今後、資源不足が深刻化すると予想される。さらに、Coは高価であり、価格変動も大きいため、安価で供給の安定している正極材料の開発が望まれている。
【0003】
そこで、構成元素の価格が安価で、供給が安定しているマンガン(Mn)を基本組成に含むリチウムマンガン酸化物系の複合酸化物の使用が有望視されている。その中でも、4価のマンガンイオンからなるLiMnOという物質が注目されている。LiMnOは、今まで充放電不可能と考えられてきたが、最近の研究では4.8Vまで充電することにより充放電可能となることが見出されてきている。しかしながらLiMnOは、充放電特性に関してさらなる改善が必要である。
【0004】
充放電特性の改善のため、LiMnOとLiMeO(Meは遷移金属元素)との固溶体であるxLiMnO・(1−x)LiMeO(0<x≦1)の開発が盛んである。なお、LiMnOは、一般式Li(Li0.33Mn0.67)Oとも書き表すことが可能であり、LiMeOと同じ結晶構造(層状岩塩構造)に属するとされている。そのため、xLiMnO・(1−x)LiMeOは、Li1.33―yMn0.67−zMey+z(0≦y<0.33、0≦z<0.67)とも記載される場合がある。
【0005】
正極活物質としてLiMnOを含む非水二次電池を使用する際には、使用に先立ち正極活物質を高電圧まで上げて活性化させる必要がある。しかし、LiMnOの粒径が大きい場合には、粒子の表層しか活性化されないため、使用するLiMnOのほぼ全量を電池として活性な材料とするためにはLiMnOの粒径を小さくすることが必要と考えられている。そのため、簡便な微粒子の合成プロセスの開発も検討されている。
【0006】
たとえば、特許文献1には、Mnを含むリチウムマンガン酸化物の製造方法として、ナノオーダーの酸化物粒子を合成する方法が開示されている。特許文献1の実施例3では、1:1のモル比で混合したLiOH・HOとLiNOにMnO及びLiを加えて混合し、乾燥工程を経た後、溶融塩として、Mnが3価と4価のマンガン酸リチウム(LiMn)を合成している。
【0007】
また本発明者等は、たとえばLiMnOのような4価のMnを含む微粒子状のリチウムマンガン酸化物の製造方法を、これまで検討してきた(特願2009−294080、特願2010−051676等参照)。水酸化リチウムと硝酸リチウムとの混合溶融塩を用いることで、溶融塩の融点ひいては反応温度を比較的低温とすることができ、微細な生成物を得ることが出来る。
【0008】
このような微粒子状のLiMnOを含む正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池において、更なるサイクル特性の向上が要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−105912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、ナノオーダーの微粒子状のリチウムマンガン複合酸化物を含む正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池において、更にサイクル特性を向上させることである。すなわち本発明の目的は、サイクル特性を向上させたナノオーダーの微粒子状のリチウムマンガン銀複合酸化物を含むリチウムイオン二次電池用正極活物質、その正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池及びリチウムマンガン銀複合酸化物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意研究の結果、ナノオーダーの微粒子状の一次粒子を有する、組成式:xLiMnO・(1―x)LiMeO(0<x≦1、MeはNb、Al、Fe、F、Mg、Co、Ti、Ni及び3価のMnのうちから選ばれる少なくとも一つの金属)であらわされるリチウムマンガン複合酸化物のLi,4価のMn及びMeのうちの少なくとも一つの金属の一部がAgで置換されたリチウムマンガン銀複合酸化物を正極活物質として用いることでリチウムイオン二次電池のサイクル特性を向上できることを見出した。
【0012】
すなわち本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質は、組成式:xLiMnO・(1―x)LiMeO(0<x≦1、MeはNb、Al、Fe、F、Mg、Co、Ti、Ni及び3価のMnのうちから選ばれる少なくとも一つの金属)であらわされるリチウムマンガン複合酸化物のLi、4価のMn及びMeのうちの少なくとも一つの金属の一部がAgで置換されたリチウムマンガン銀複合酸化物を含み、リチウムマンガン銀複合酸化物の一次粒子の平均粒径が10nm以上200nm以下であることを特徴とする。
【0013】
上記リチウムマンガン複合酸化物のLi、4価のMn及びMeのうちの少なくとも一つの金属の一部がAgで置換されたリチウムマンガン銀複合酸化物を正極活物質として用いることによって、正極活物質を活性化する際に、正極活物質の結晶構造がひずむことを抑制できる。そのため、上記の特徴を有する正極活物質を用いることで、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を向上できる。
【0014】
なお、言うまでもなく、リチウムマンガン複合酸化物は、不可避的に生じるLi、Mn、MeまたはOの欠損により、上記組成式からわずかにずれた複合酸化物をも含む。
【0015】
また本発明のリチウムイオン二次電池は、上記のリチウムイオン二次電池用正極活物質を用いたことを特徴とする。
【0016】
また本発明のリチウムマンガン銀複合酸化物の製造方法を用いることによって、容易に上記リチウムイオン二次電池用正極活物質を得ることが出来る。
【発明の効果】
【0017】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池は、優れたサイクル特性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例1のXRD測定結果を示すグラフである。
【図2】実施例2のXRD測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質、リチウムイオン二次電池及びリチウムマンガン銀複合酸化物の製造方法を実施するための形態を説明する。なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「a〜b」は、下限a及び上限bをその範囲に含む。そして、これらの上限値及び下限値、ならびに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。
【0020】
<リチウムイオン二次電池用正極活物質>
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質は、組成式:xLiMnO・(1―x)LiMeO(0<x≦1、MeはNb、Al、Fe、F、Mg、Co、Ti、Ni及び3価のMnのうちから選ばれる少なくとも一つの金属)であらわされるリチウムマンガン複合酸化物のLi、4価のMn及びMeのうちの少なくとも一つの金属の一部がAgで置換されたリチウムマンガン銀複合酸化物を含む。またこのリチウムマンガン銀複合酸化物の一次粒子の平均粒径は10nm以上200nm以下である。
【0021】
上記リチウムマンガン銀複合酸化物の構造は、X線回折(XRD)、電子線回折などにより確認することができる。また、高分解能の透過電子顕微鏡(TEM)を用いた高分解能像で、構造を観察可能である。
【0022】
本発明の4価のMnを含むリチウムマンガン銀複合酸化物は、層状岩塩構造のリチウムマンガン複合酸化物の中のLi,4価のMn及びMeのうちの少なくとも一つの金属の一部がAgに置換されていると推察される。
【0023】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質は、Agが4価のMnの一部と置換されたリチウムマンガン銀複合酸化物を含むことが好ましい。
【0024】
Agが4価のMnの一部と置換された場合、リチウムマンガン銀複合酸化物は、組成式:xLiMn1−yAg・(1―x)LiMeO(0<x≦1、MeはNb、Al、Fe、F、Mg、Co、Ti、Ni及び3価のMnのうちから選ばれる少なくとも一つの金属、0<y≦0.1)であらわされる。
【0025】
リチウムマンガン銀複合酸化物の一次粒子の平均粒径は、10nm以上200nm以下である。さらにはリチウムマンガン銀複合酸化物の一次粒子の平均粒径は、100nm〜200nmであることが好ましい。
【0026】
リチウムマンガン銀複合酸化物の一次粒子の平均粒径が200nmより大きいと、正極活物質として活性化する際に、リチウムマンガン銀複合酸化物の全体が活性化されにくい。またリチウムマンガン銀複合酸化物の一次粒子の平均粒径が10nmより小さいと、充放電によりリチウムマンガン銀複合酸化物の結晶構造が崩れやすくなり、リチウムイオン二次電池の電池特性が低下することがある。
【0027】
リチウムマンガン銀複合酸化物の平均粒径は、透過電子顕微鏡(TEM)の高分解能像を用いて測定可能である。TEM像から一次粒子の平均粒径を測定する場合、例えばTEM像から粒子を2本の平行線で挟んだ場合の最大長さを測定し、その最大長さを複数個測定した数値の数平均値を平均粒径として用いることが出来る。
【0028】
またX線回析ピークの半値幅よりシェラーの式を用いて、リチウムマンガン銀複合酸化物の一次粒子のC軸方向の結晶子サイズを測定することが出来る。なお、半値幅は、最大強度をImaxとしたときに、Imax/2で算出される強度のところで測定される値とする。
【0029】
本発明で規定するリチウムマンガン銀複合酸化物の平均粒径は上記で説明したTEMによって計測されたものである。
【0030】
リチウムマンガン銀複合酸化物は、一次粒子が単結晶であるのが好ましい。一次粒子が単結晶であることで、そのリチウムマンガン銀複合酸化物を用いたリチウムイオン二次電池のサイクル特性が向上する。リチウムマンガン銀複合酸化物の一次粒子が単結晶であることは、TEMの高分解能像により確認することができる。
【0031】
上記組成式:xLiMnO・(1―x)LiMeO(0<x≦1、MeはNb、Al、Fe、F、Mg、Co、Ti、Ni及び3価のMnのうちから選ばれる少なくとも一つの金属)において、Liは、原子百分率で60at%以下さらには45at%以下がHに置換されていてもよい。また、xLiMnOの4価のMnは原子百分率でMnの50at%未満さらには80at%未満が他の金属で置換されていてもよい。Meを構成する金属として、電極材料とした場合の充放電可能な容量の観点から、Nb、Al、Fe、F、Mg、Co、Ti、Ni及び3価のMnのうちから選ばれる少なくとも一つの金属を用いる。
【0032】
上記Li、4価のMn及びMeのうちの少なくとも一つの金属の一部は、Agで置換されている。このAgは電池の充放電時の反応に寄与しない。つまりAgは一旦入った結晶構造の中から出入りしない。Agのイオン半径は、Li、4価のMn、Meのイオン半径に比べて大きい。そのため、Liが出入りする結晶構造の中で、結晶構造から出入りしないイオン半径の大きなAgは、結晶構造の土台となり、結晶構造がLiの出入りでひずむのを抑制することが出来る。
【0033】
上記Agは、リチウムマンガン銀複合酸化物に0.01mol%〜1mol%含有されることが好ましい。
【0034】
<リチウムイオン二次電池>
以下に、上記リチウムイオン二次電池用正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池を説明する。リチウムイオン二次電池は、主として、正極、負極及び非水電解質を備える。また、一般のリチウムイオン二次電池と同様に、正極と負極の間に挟装されるセパレータを備える。
【0035】
正極は、リチウムイオンを挿入・脱離可能な正極活物質と、正極活物質を結着する結着
剤と、を含む。さらに、導電助剤を含んでもよい。
【0036】
正極活物質は、上記のリチウムマンガン銀複合酸化物を単独で含んでいてもよく、あるいは上記のリチウムマンガン銀複合酸化物とともに、一般のリチウムイオン二次電池に用いられるLiCoO、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiMn、Sなどのうちから選ばれる一種以上の他の正極活物質を含んでいてもよい。
【0037】
結着剤及び導電助剤は特に限定されない。結着剤、導電助剤はともに、一般のリチウムイオン二次電池で使用可能なものを使用することが出来る。
【0038】
結着剤は、正極活物質及び導電助剤を繋ぎ止める役割を果たすもので、たとえば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂などを用いることができる。
【0039】
導電助剤は、電極の電気伝導性を確保するためのものであり、たとえば、カーボンブラック、アセチレンブラック、黒鉛などの炭素物質粉状体の1種または2種以上を混合したものを用いることができる。
【0040】
正極に対向させる負極は、負極活物質である金属リチウムをシート状にして形成することが出来る。また負極は、金属リチウムをシート状にしたものをニッケル、ステンレス等の集電体網に圧着して形成することもできる。金属リチウムのかわりに、リチウム合金またはリチウム化合物も用いることができる。
【0041】
また、正極同様、リチウムイオンを吸蔵・脱離できる負極活物質と結着剤とからなる負極を使用してもよい。負極活物質としては、たとえば、天然黒鉛、人造黒鉛、フェノール樹脂等の有機化合物焼成体、コークス等の炭素物質の粉状体を用いることができる。結着剤としては、正極同様、含フッ素樹脂、熱可塑性樹脂などを用いることができる。必要に応じて負極は導電助剤を含んでもよい。
【0042】
正極及び負極は、少なくとも正極活物質または負極活物質が結着剤で結着されてなる活物質層を、集電体に付着して形成されるのが一般的である。そのため、正極及び負極は、活物質及び結着剤、必要に応じて導電助剤を含む電極合材層形成用組成物を調製し、さらに適当な溶剤を加えてペースト状にしてから集電体の表面に塗布後、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成することができる。
【0043】
集電体は、金属製のメッシュや金属箔を用いることができる。集電体として、金属材料または導電性樹脂からなる多孔性または無孔の導電性基板が挙げられる。金属材料としてステンレス鋼、チタン、ニッケル、アルミニウム、銅などが使用できる。導電性樹脂としては、例えば樹脂にカーボン性材料を分散させたものが挙げられる。
【0044】
多孔性導電性基板としては、たとえば、メッシュ体、ネット体、パンチングシート、ラス体、多孔質体、発泡体、不織布などの繊維群成形体、などが挙げられる。無孔の導電性基板としては、たとえば、箔、シート、フィルムなどが挙げられる。
【0045】
電極合材層形成用組成物の塗布方法として、ドクターブレード、バーコーターなどの従来から公知の方法を用いればよい。
【0046】
粘度調整のための溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、メタノール、メチルイソブチルケトン(MIBK)などが使用可能である。
【0047】
電解質としては、有機溶媒に電解質を溶解させた有機溶媒系の電解液や、電解液をポリマー中に保持させたポリマー電解質などを用いることができる。その電解液あるいはポリマー電解質に含まれる有機溶媒は特に限定されるものではないが、負荷特性の点からは鎖状エステルを含んでいることが好ましい。
【0048】
そのような鎖状エステルとしては、たとえば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートに代表される鎖状のカーボネートや、酢酸エチル、プロピオン酸メチルなどの有機溶媒が挙げられる。
【0049】
これらの鎖状エステルは、単独でもあるいは2種以上を混合して用いてもよく、特に、低温特性の改善のためには、上記鎖状エステルが全有機溶媒中の50体積%以上を占めることが好ましく、特に鎖状エステルが全有機溶媒中の65体積%以上を占めることが好ましい。
【0050】
ただし、有機溶媒としては、上記鎖状エステルのみで構成するよりも、放電容量の向上をはかるために、上記鎖状エステルに誘導率の高い(誘導率:30以上)エステルを混合して用いることが好ましい。このような誘導率の高いエステルの具体例としては、たとえば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネートに代表される環状のカーボネートや、γ−ブチロラクトン、エチレングリコールサルファイトなどが挙げられ、特にエチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどの環状構造のエステルが好ましい。
【0051】
そのような誘導率の高いエステルは、放電容量の点から、全有機溶媒中10体積%以上、特に20体積%以上含有されることが好ましい。また、負荷特性の点からは、40体積%以下が好ましく、30体積%以下がより好ましい。
【0052】
有機溶媒に溶解させる電解質としては、たとえば、LiClO、LiPF、LiBF、LiAsF、LiSbF、LiCFSO、LiCSO、LiCFCO、Li(SO、LiN(CFSO、LiC(CFSO、LiCn2n+1SO(n≧2)などが単独でまたは2種以上混合して用いられる。中でも、良好な充放電特性が得られるLiPFやLiCSOなどが好ましく用いられる。
【0053】
電解液中における電解質の濃度は、特に限定されるものではないが、0.3〜1.7mol/dm、特に0.4〜1.5mol/dm程度が好ましい。
【0054】
また、電池の安全性や貯蔵特性を向上させるために、非水電解液に芳香族化合物を含有させてもよい。芳香族化合物としては、シクロヘキシルベンゼンやt−ブチルベンゼンなどのアルキル基を有するベンゼン類、ビフェニル、あるいはフルオロベンゼン類が好ましく用いられる。
【0055】
セパレータとしては、強度が充分でしかも電解液を多く保持できるものがよく、そのような観点から、5〜50μmの厚さで、ポリプロピレン製、ポリエチレン製、あるいはプロピレンとエチレンとの共重合体などのポリオレフィン製の微孔性フィルムや不織布などが好ましく用いられる。特に、5〜20μmと薄いセパレータを用いた場合には、充放電サイクルや高温貯蔵などにおいて電池の特性が劣化しやすく、安全性も低下するが、上記の複合酸化物を正極活物質として用いたリチウムイオン二次電池は安定性と安全性に優れているため、このような薄いセパレータを用いても安定して電池を機能させることができる。
【0056】
以上の構成要素によって構成されるリチウムイオン二次電池の形状は円筒型、積層型、コイン型等、種々のものとすることができる。いずれの形状を採る場合であっても、正極と負極との間にセパレータを挟装させ電極体とする。そして正極集電体及び負極集電体から外部に通ずる正極端子及び負極端子までの間を集電用リードなどで接続し、この電極体に上記電解液を含浸させ電池ケースに密閉し、リチウムイオン二次電池が完成する。
【0057】
リチウムイオン二次電池を使用する場合には、はじめに充電を行い、正極活物質を活性化させる。ただし、上記のリチウムマンガン銀複合酸化物を正極活物質として用いる場合には、初回の充電時にリチウムイオンが放出されるとともに酸素が発生する。そのため、電池ケースを密閉する前に充電を行うのが望ましい。
【0058】
以上説明した本発明のリチウムイオン二次電池は、携帯電話、パソコン等の通信機器、情報関連機器の分野の他、自動車の分野においても好適に利用できる。たとえば、このリチウムイオン二次電池を車両に搭載すれば、リチウムイオン二次電池を電気自動車用の電源として使用できる。
【0059】
<リチウムマンガン銀複合酸化物の製造方法>
以下に、本発明のリチウムマンガン銀複合酸化物の製造方法の各工程を説明する。もちろん上記リチウムマンガン銀複合酸化物は本発明で記載の製造方法及び実施例の製造方法で製造されるものに限定されない。
【0060】
本発明のリチウムマンガン銀複合酸化物の製造方法は、上記リチウムマンガン銀複合酸化物を主生成物とするリチウムマンガン銀複合酸化物の製造方法であって、原料混合物調製工程、溶融反応工程及び回収工程を含み、必要に応じて、前駆体合成工程を含む。
【0061】
原料混合物調製工程は、少なくとも、金属化合物原料と溶融塩原料とを混合して原料混合物を調製する工程である。
【0062】
金属化合物原料は、Mnを必須とする一種以上の金属元素を含む酸化物、水酸化物及び金属塩から選ばれる一種以上の第一の金属化合物及びAg金属単体またはAgを必須とする一種以上の金属元素を含む酸化物、水酸化物、金属塩及び金属合金から選ばれる一種以上の第二の金属化合物を含む。溶融塩原料は、水酸化リチウムを50質量%以上含む。
【0063】
Mnを供給する原料として、Mnを必須とする一種以上の金属元素を含む酸化物、水酸化物及び金属塩から選ばれる一種以上の第一の金属化合物を用いる。この第一の金属化合物は、金属化合物原料に必須である。具体的には、二酸化マンガン(MnO)、三酸化二マンガン(Mn)、一酸化マンガン(MnO)、四酸化三マンガン(Mn)、水酸化マンガン(Mn(OH))、オキシ水酸化マンガン(MnOOH)などが挙げられる。
【0064】
またここに列挙した酸化物のMnの一部がCr、Fe、Co、Ni、Al、Mgなどで置換された金属化合物でもよいし、ここに列挙した水酸化物のMnの一部がCr、Fe、Co、Ni、Al、Mgなどで置換された金属化合物でもよいし、ここに列挙した金属塩のMnの一部がCr、Fe、Co、Ni、Al、Mgなどで置換された金属化合物でもよい。
【0065】
これらのうちの一種あるいは二種以上を必須の第一の金属化合物として用いればよい。なかでも、MnOは、入手が容易であるとともに、比較的高純度のものが入手しやすいため好ましい。ここで、金属化合物のMnは、必ずしも4価である必要はなく、4価以下のMnであってもよい。これは、高酸化状態で反応が進むため、2価や3価のMnであっても4価になるためである。Mnの一部を置換する金属元素についても同様に価数を問わない。
【0066】
Agを供給する原料として、Ag金属単体あるいはAgを必須とする一種以上の金属元素を含む酸化物、水酸化物、金属塩及び金属合金から選ばれる一種以上の第二の金属化合物を用いる。このAg金属単体あるいは第二の金属化合物も金属化合物原料に必須である。第二の金属化合物として、具体的には酸化銀(AgO)、硝酸銀(AgNO)、塩化銀(AgCl)、銀ニッケル(AgNi)などを用いることが出来る。
【0067】
本発明の製造方法によれば、Li、Ag及び4価のMnの他に他の金属元素を含む複合酸化物を製造することもできる。その場合には、上記の第一の金属化合物及びAg金属単体あるいは第二の金属化合物に加え、Nb、Al、Fe、F、Mg、Co、Ti、Ni及び3価のMnのうちから選ばれる少なくとも一つの金属元素を含む酸化物、水酸化物及び金属塩から選ばれる一種以上の第三の金属化合物をさらに金属化合物原料に加えればよい。
【0068】
第三の金属化合物の具体例として、酸化コバルト(CoO、Co)、硝酸コバルト(Co(NO・6HO)、水酸化コバルト(Co(OH))、酸化ニッケル(NiO)、硝酸ニッケル(Ni(NO・6HO)、硫酸ニッケル(NiSO・6HO)、水酸化アルミニウム(Al(OH))、硝酸アルミニウム(Al(NO・9HO)などが挙げられる。これらのうちの一種あるいは二種以上を第三の金属化合物として用いればよい。
【0069】
また、二種以上の金属元素を含む原料を用いてあらかじめ前駆体を合成しておいてもよい。すなわち、原料混合物調製工程の前に、Mn及び/またはAgを必須とした少なくとも二種の金属を含む水溶液をアルカリ性にして沈殿物を得る前駆体合成工程を行ってもよい。また原料混合物調製工程の前に、Mn、Ag及び/または上記Meを必須とした少なくとも二種の金属を含む水溶液をアルカリ性にして沈殿物を得る前駆体合成工程を行ってもよい。
【0070】
水溶液は、水溶性の無機塩、具体的には金属元素の硝酸塩、硫酸塩、塩化物塩などを水に溶解することによって作成できる。この水溶液をアルカリ金属水酸化物、アンモニア水などでアルカリ性にすると、前駆体は沈殿物として生成される。
【0071】
このようにして沈殿物を金属化合物原料の少なくとも一部として用いることで、副生成物の生成が抑制され、リチウムマンガン銀複合酸化物を高純度で得ることが出来る。
【0072】
溶融塩原料は、Liの供給源となるが、製造されるリチウムマンガン銀複合酸化物に含まれるLiの理論組成を超えるLiを含む。本発明のリチウムマンガン銀複合酸化物の製造方法では、主として水酸化リチウムの溶融塩を用いるが、水酸化リチウムは、Liの供給源のみならず、溶融塩の酸化力を調整する役割を果たす。
【0073】
溶融塩原料に含まれるLiに対する、目的のリチウムマンガン銀複合酸化物に含まれるLiの理論組成(複合酸化物のLi/溶融塩原料のLi)は、モル比で1未満であればよいが、0.02〜0.7が好ましく、0.03〜0.5さらには0.04〜0.25であることがさらに好ましい。0.02未満であると、使用する溶融塩原料の量に対して生成するリチウムマンガン銀複合酸化物の量が少なくなるため、製造効率の面で望ましくない。また、0.7以上であると金属化合物原料を分散させる溶融塩の量が不足し、溶融塩中でリチウムマンガン銀複合酸化物が凝集したり粒成長したりすることがあるため望ましくない。
【0074】
溶融塩原料は、実質的に水酸化リチウムのみからなるのが望ましい。ただし、水酸化リチウムは、大気中の二酸化炭素を吸収して炭酸リチウムとなる性質があるため、不純物として微量の炭酸リチウムを含む場合がある。
【0075】
溶融塩原料として過酸化リチウムなどの酸化物、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどの水酸化物、硝酸リチウムなどの金属塩を含まないほうがよい。水酸化リチウムの溶融塩は、リチウム化合物のうち最も塩基性が高い。水酸化リチウムを単独で使用することで、目的とするリチウムマンガン銀複合酸化物の合成に好適な酸化力を示す。なお、水酸化リチウムは、水和物を用いてもよい。使用可能な水酸化リチウムとしては、LiOH、LiOH・HOなどが挙げられる。
【0076】
溶融反応工程は、原料混合物を溶融して反応させる工程である。反応温度は溶融反応工程における原料混合物の温度であり、溶融塩原料の融点以上であればよい。反応温度が、500℃未満では溶融塩の反応活性が不十分であり、所望のリチウムマンガン銀複合酸化物を選択率よく製造することが困難である。
【0077】
反応温度が550℃以上であれば、結晶性の高いリチウムマンガン銀複合酸化物が得られる。反応温度の上限は、水酸化リチウムの分解温度未満であり、900℃以下さらには850℃以下が望ましい。4価のMnを供給する第一の金属化合物として二酸化マンガンを使用するのであれば、反応温度は500〜700℃さらには550〜650℃が望ましい。反応温度が高すぎると、溶融塩の分解反応が起こるため望ましくない。この反応温度で30分以上さらに望ましくは1〜6時間保持すれば、原料混合物は十分に反応する。
【0078】
また、溶融反応工程を酸素含有雰囲気、たとえば大気中、酸素ガス及び/またはオゾンガスを含むガス雰囲気中で行うと、リチウムマンガン銀複合酸化物が単相で得られやすい。酸素ガスを含有する雰囲気であれば、酸素ガス濃度を20〜100体積%さらには50〜100体積%とするのがよい。なお、酸素濃度を高くするほど、合成されるリチウムマンガン銀複合酸化物の粒子径は小さくなる傾向にある。
【0079】
このようにしてリチウムマンガン銀複合酸化物が得られる理由は、次のように推測される。リチウムマンガン銀複合酸化物を合成するには、高酸化状態でありかつ反応活性が高いことが必要である。このような状態は溶融塩の強い塩基性及び高い反応温度によりもたらされると考えられる。
【0080】
水酸化リチウムの溶融塩は強い塩基性である。溶融塩原料として水酸化リチウムを用い、同時に反応温度が高温であると原料混合物の溶融塩の塩基性は十分に強くなり反応活性が高くなる。さらに塩基性の溶融塩では、水酸化イオンは酸素イオンと水とに分解し、水は高温の溶融塩から蒸発する。その結果、原料混合物の溶融塩は、高塩基濃度と脱水環境が得られ、所望のリチウムマンガン銀複合酸化物の合成に適した高酸化状態が形成される。
【0081】
さらに原料混合物を溶融塩とし、溶融塩中で原料を反応させることにより、微粒子状のリチウムマンガン銀複合酸化物が得られる。これは溶融塩中で原料がイオンの状態で均一に混合されるためである。
【0082】
回収工程は、溶融反応工程にて生成したリチウムマンガン銀複合酸化物を回収する工程である。回収方法に特に限定はないが、溶融反応工程にて生成したリチウムマンガン銀複合酸化物は水に不溶であるため、溶融塩を十分に冷却して凝固させて固体とし、固体を水に溶解することでリチウムマンガン銀複合酸化物が不溶物として得られる。水溶液を濾過して得られた濾物を乾燥して、リチウムマンガン銀複合酸化物を取り出せばよい。
【0083】
また、回収工程では、溶融反応工程後の原料混合物を徐冷してからリチウムマンガン銀複合酸化物を回収するほうがよい。すなわち、反応終了後の高温の原料混合物を、加熱炉の中に放置して炉冷してもよいし、加熱炉から取り出して室温にて空冷してもよい。具体的に規定するのであれば、溶融反応工程後の原料混合物の温度が、450℃以下になる(つまり、溶融塩が凝固する)まで、2℃/分以上50℃/分以下、さらには3〜25℃/分の速度で冷却することで、結晶性の高いリチウムマンガン銀複合酸化物が得られる。このような冷却方法は、層状岩塩構造をもつリチウムマンガン銀複合酸化物の合成に有利である。
【0084】
以上、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質及びリチウムイオン二次電池及びリチウムマンガン銀複合酸化物の製造方法の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【実施例】
【0085】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。
【0086】
<実施例1>
(原料混合物調整工程)
Mn:Ag=95:5になるように、0.095molの二酸化マンガンMnO(8.3g)と0.0025molの酸化銀AgO(0.58g)とを乳鉢を用いて混合し金属化合物原料とした。
【0087】
溶融塩原料として0.2molの水酸化リチウム一水和物LiOH・HO(8.4g)と、0.010molの上記金属化合物原料 (8.9g)とを混合し、原料混合物とした。
【0088】
(溶融反応工程)
上記原料混合物をるつぼにいれ、そのるつぼを真空乾燥器内で120℃の加熱真空下で12時間乾燥した。その後、真空乾燥器を大気圧に戻し、るつぼを取り出し、直ちにるつぼを電気炉に移した。空気で満たされた600℃の電気炉内で、るつぼを1時間加熱した。このときるつぼ内で、原料混合物は融解して溶融塩となり、溶融反応して茶色の反応生成物が沈殿した。
【0089】
(回収工程)
るつぼを電気炉から取り出して、室温にて冷却した。るつぼ内の反応生成物が十分に冷えて固体化した後、反応生成物をるつぼごとビーカー内へ移し、約200mLのイオン交換水に浸した。その後ビーカー内のイオン交換水をスターラーで攪拌した。ここで反応生成物は水に不溶性であるため、イオン交換水はこげ茶色の懸濁液となった。こげ茶色の懸濁液を濾過し、濾紙上の茶色の固体の濾物と透明な濾液とを得た。
【0090】
得られた濾物を更に蒸留水を用いて十分に洗浄しながら濾過し、洗浄後の茶色の固体を120℃で12時間程度、真空乾燥した。乾燥後の茶色の固体を、乳鉢と乳棒を用いて粉砕した。
【0091】
得られた茶色の粉末を濃塩酸を用いて溶かし、50倍に希釈した後、発光分光分析(ICP)測定を行った。ICP測定結果から、得られた茶色の粉末の組成はLiMn0.95Ag0.053―z(0<z<0.1)であることが確認された。
【0092】
<実施例2>
(前駆体合成工程)
0.26molのMn(NO・6HO(74.59g)と0.12molのNi(NO・6HO(34.88g)と0.02molのAgNO(3.40g)とを300mlの蒸留水に溶解させて金属塩含有水溶液を作製した。
【0093】
この金属塩含有水溶液を氷浴中でスターラーを用いて撹拌しながら、1.2molのLiOH・HO(50g)を300mlの蒸留水に溶解させたものを2時間程度かけて滴下しアルカリ性として金属水酸化物沈殿物を析出させた。この金属水酸化物沈殿物の溶液を5℃に保持したまま酸素雰囲気下で1日熟成を行った。
【0094】
得られた金属水酸化物沈殿物を濾過し、蒸留水を用いて洗浄することによりMn:Ni:Ag=0.65:0.30:0.05の金属水酸化物前駆体を得た。得られた金属水酸化物前駆体を500℃2時間焼成することで、金属酸化物前駆体を得た。
【0095】
(原料混合物調整工程)
0.2molの水酸化リチウムLiOH・HO(8.4g)と合成したMn:Ni:Ag=0.65:0.30:0.05の金属酸化物前駆体1.0gを加えて混合し原料混合物とした。
【0096】
(溶融反応工程)
上記原料混合物をるつぼにいれて、るつぼを真空乾燥器内で120℃の加熱真空下で12時間乾燥した。その後、真空乾燥器を大気圧に戻し、るつぼを取り出し、直ちにるつぼを電気炉に移した。空気で満たされた600℃の電気炉内で、るつぼを1時間、加熱した。このときるつぼ内の原料混合物は融解して溶融塩となり、溶融反応して黒茶色の反応生成物が沈殿した。
【0097】
(回収工程)
るつぼを電気炉から取り出して、室温にて冷却した。るつぼ内の反応生成物が十分に冷えて固体化した後、反応生成物をるつぼごとビーカー内へ移し、約200mLのイオン交換水に浸した。その後ビーカー内のイオン交換水をスターラーで攪拌した。ここで反応生成物は水に不溶性であるため、イオン交換水は黒色の懸濁液となった。黒色の懸濁液を濾過し、濾紙上の黒色の固体の濾物と透明な濾液とを得た。
【0098】
得られた濾物を更に蒸留水を用いて十分に洗浄しながら濾過し、洗浄後の黒色の固体を120℃で12時間程度、真空乾燥した。乾燥後の黒色の固体を、乳鉢と乳棒を用いて粉砕した。
【0099】
得られた黒色の粉末を濃塩酸を用いて溶かし、50倍に希釈した後、ICP測定を行った。ICP測定結果から、得られた黒色の粉末の組成は0.3(LiMn0.95Ag0.053−z)・0.7(LiNi0.5Mn0.5)(0<z<0.1)であることが確認された。
【0100】
<比較例1>
原料混合物調整工程で酸化銀AgOをいれずに、0.2molの水酸化リチウム一水和物LiOH・HO(8.4g)と、0.010molのMnO(8.3g)を加えて、混合した以外は実施例1と同様の処理を行った。ICP測定結果から、得られた生成物はLiMnOであることが確認された。
【0101】
<比較例2>
前駆体合成工程で硝酸銀AgNOを入れずに0.26molのMn(NO・6HO(74.59g)と0.14molのNi(NO・6HO(40.70g)を300ml蒸留水に溶解させて金属塩含有水溶液を作製した以外は実施例2と同様の処理を行った。
【0102】
ICP測定結果から得られた生成物は0.3(LiMnO)・0.7(LiNi0.5Mn0.5)であることが確認された。
【0103】
<一次粒子の観察>
実施例1及び実施例2で得られたリチウムマンガン銀複合酸化物について、透過電子顕微鏡(TEM)を用いて観察した。TEM像から、得られたリチウムマンガン銀複合酸化物はいずれも単結晶であることが観察された。
【0104】
またTEM像から、一次粒子の粒径を測定した。粒径の測定は、粒子を2本の平行線で挟んだ場合の最大長さを測定し、25個測定した数平均値とした。測定結果を表1に示す。
【0105】
【表1】

【0106】
さらに実施例1及び実施例2で得られたリチウムマンガン銀複合酸化物のCuKα線を用いたX線回折(XRD)測定を行った。測定結果を図1及び図2に示す。実施例1で得られたリチウムマンガン銀複合酸化物及び実施例2で得られたリチウムマンガン銀複合酸化物は測定結果のピーク位置よりα-NaFeO型の層状岩塩型構造であることがわかった。
【0107】
図1では実施例1の測定結果とLiMnO、Ag、及びAgOのXRDのレファレンス値を並べて、また図2では実施例2の測定結果とAg,AgOのXRDのレファレンス値を並べて示している。この結果から、実施例1のリチウムマンガン銀複合酸化物はLiMnOとは異なるものであり、不純物を含まないものであることがわかった。また実施例2のリチウムマンガン銀複合酸化物は不純物を含まないものであることがわかった。
【0108】
<リチウムイオン二次電池>
実施例1,実施例2、比較例1及び比較例2で得られた生成物をそれぞれ正極活物質として用い、リチウムイオン二次電池を作製した。
【0109】
正極活物質として各々の正極活物質を90質量部、導電助剤として5質量部のカーボンブラック(KB)、結着剤(バインダー)として5質量部のポリフッ化ビニリデン、を混合し、N−メチル−2−ピロリドンを溶剤として分散させ、スラリーを調製した。次いで、このスラリーを集電体であるアルミニウム箔上に塗布し、スラリー塗布後の集電体を乾燥させた。その後、乾燥後の集電体を厚さ60μmに圧延し、直径11mmφのサイズで打ち抜き、打ち抜いたものを各々の正極とした。また、正極に対向させる負極は、金属リチウム(φ14mm、厚さ200μm)とした。
【0110】
正極及び負極の間にセパレータとして厚さ20μmの微孔性ポリエチレンフィルムを挟装して電極体電池とした。この電極体電池を電池ケース(宝泉株式会社製CR2032コインセル)に収容した。また、電池ケースには、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを3:7(体積比)で混合した混合溶媒にLiPFを1.0mol/Lの濃度で溶解した非水電解質を注入して、各々のリチウムイオン二次電池を得た。
【0111】
<サイクル試験評価>
上記の各々の正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池について、25℃にて充放電試験を10サイクル行った。充放電試験は、0.2Cで4.6VまでCCCV充電(定電流定電圧充電)を行い正極活物質を活性化させた後、0.02Cの電流値まで4.6V一定電圧で充電を行った。放電は2.0Vまで0.2Cで行った。表2に10サイクル目の放電容量維持率(初回の放電容量に対する10サイクル目の放電容量の割合)を示した。
【0112】
【表2】

【0113】
実施例1及び実施例2で得られた生成物(リチウムマンガン銀複合酸化物)を正極活物質として用いたリチウムイオン二次電池は、10サイクルの充放電後も、放電容量維持率が91%、92%と初期の容量を高く維持することができた。これは比較例1及び比較例2で得られた生成物(銀を含有しないリチウムマンガン複合酸化物)を正極活物質として用いたリチウムイオン二次電池に比べて約10%も放電容量維持率の高いものであった。このことから実施例1及び実施例2で得られたリチウムマンガン銀複合酸化物を正極活物質として用いたリチウムイオン二次電池は、比較例1及び比較例2で得られたリチウムマンガン複合酸化物を正極活物質として用いたリチウムイオン二次電池に比べてサイクル特性が大きく向上していることがわかった。
【0114】
つまり、4価のMnの一部をAgで置換したリチウムマンガン銀複合酸化物を正極活物質として用いることで、活性化時の結晶構造のひずみを抑制し、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を向上できたと考えられる。
【0115】
実施例においては4価のMnの一部がAgに置換されているが、AgはLi及びMeの少なくとも一つの金属の一部と置換されていても同様にサイクル特性が向上すると考えられる。その理由は、Agはレドックス反応に関与せず、結晶構造が安定化するためである。
【0116】
またAgはリチウムマンガン銀複合酸化物に0.01mol%〜1mol%含有されるとサイクル特性向上に効果がある。実施例1ではAgのリチウムマンガン銀複合酸化物における含有量は0.8mol%であり、実施例2では0.3mol%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式:xLiMnO・(1―x)LiMeO(0<x≦1、MeはNb、Al、Fe、F、Mg、Co、Ti、Ni及び3価のMnのうちから選ばれる少なくとも一つの金属)であらわされるリチウムマンガン複合酸化物のLi、4価のMn及びMeのうちの少なくとも一つの金属の一部がAgで置換されたリチウムマンガン銀複合酸化物を含み、該リチウムマンガン銀複合酸化物の一次粒子の平均粒径が10nm以上200nm以下であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記Agは、前記リチウムマンガン銀複合酸化物に0.01mol%〜1mol%含有される請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項3】
前記4価のMnの一部が前記Agで置換され、組成式:xLiMn1−yAg・(1―x)LiMeO(0<x≦1、MeはNb、Al、Fe、F、Mg、Co、Ti、Ni及び3価のMnのうちから選ばれる少なくとも一つの金属、0<y≦0.1)であらわされる請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質を含む正極と、負極と、非水電解質と、を備えることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
組成式:xLiMnO・(1―x)LiMeO(0<x≦1、MeはNb、Al、Fe、F、Mg、Co、Ti、Ni及び3価のMnのうちから選ばれる少なくとも一つの金属)であらわされるリチウムマンガン複合酸化物のLi、4価のMn及びMeのうちの少なくとも一つの金属の一部がAgで置換されたリチウムマンガン銀複合酸化物の製造方法であって、
Mnを必須とする一種以上の金属元素を含む酸化物、水酸化物及び金属塩から選ばれる一種以上の第一の金属化合物並びにAg金属単体あるいはAgを必須とする一種以上の金属元素を含む酸化物、水酸化物、金属塩及び金属合金から選ばれる一種以上の第二の金属化合物を少なくとも含む金属化合物原料と、水酸化リチウムを50質量%以上含む溶融塩原料とを混合して原料混合物を調製する原料混合物調製工程と、
前記原料混合物を溶融して前記溶融塩原料の融点以上で該原料混合物を反応させる溶融反応工程と、
前記溶融反応工程にて生成した前記リチウムマンガン銀複合酸化物を回収する回収工程と、
を経て前記リチウムマンガン銀複合酸化物を得ることを特徴とするリチウムマンガン銀複合酸化物の製造方法。
【請求項6】
前記金属化合物原料は、さらに、Nb、Al、Fe、F、Mg、Co、Ti、Ni及び3価のMnのうちから選ばれる少なくとも一つの金属を含む酸化物、水酸化物及び金属塩から選ばれる一種以上の第三の金属化合物を含む請求項5に記載のリチウムマンガン銀複合酸化物の製造方法。
【請求項7】
前記原料混合物調製工程の前に、Mn及び/またはAgを必須とした少なくとも二種の金属元素を含む水溶液をアルカリ性にして沈殿物を得る前駆体合成工程を行い、該原料混合物調製工程にて前記金属化合物原料の少なくとも一部として該沈殿物を使用する請求項5に記載のリチウムマンガン銀複合酸化物の製造方法。
【請求項8】
前記原料混合物調製工程の前に、Mn、Ag及び/または前記Meを必須とした少なくとも二種の金属を含む水溶液をアルカリ性にして沈殿物を得る前駆体合成工程を行い、該混合物調製工程にて前記金属化合物原料の少なくとも一部として該沈殿物を使用する請求項6に記載のリチウムマンガン銀複合酸化物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−37879(P2013−37879A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172871(P2011−172871)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】