説明

リチウムイオン二次電池用複合負極活物質

【課題】サイクル特性のさらなる向上が可能なリチウムイオン二次電池用複合負極活物質と、このような複合負極活物質を適用したチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】例えば、Ti、Al、Zn等を含有するSi系合金から成る負極活物質の表面に、Li3xLa2/3−x1/3−2xTiO(0.1<x<0.17)のようなイオン伝導性固体酸化物を配置して、リチウムイオン二次電池用複合負極活物質とする。このような複合負極活物質を含んだ負極を用いてリチウムイオン二次電池を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、電気自動車やハイブリッド電気自動車などのモータ駆動用電源として好適なリチウムイオン二次電池の負極に用いられる負極活物質に係り、より詳細には、Siを含有する負極活物質とイオン伝導性固体酸化物を含む複合負極活物質と、これを用いたリチウムイオン二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、大気汚染や地球温暖化に対処すべく、CO排出量の低減に向けた種々の取り組みがなされており、自動車業界においては、ハイブリット電気自動車(HEV)や電気自動車(EV)の導入によるCO排出量の削減が期待されている。そして、これら車両のモータ駆動用電源として、高性能な二次電池の開発が進んでいる。
【0003】
このようなモータ駆動用の二次電池としては、特に高容量であることやサイクル特性に優れていることが求められることから、各種二次電池の中でも、高い理論エネルギーを有するリチウムイオン二次電池が注目されている。
【0004】
リチウムイオン二次電池におけるエネルギー密度を高めるためには、正極と負極の単位質量当たりに蓄えられる電気量を増大することが必要であり、このような要求を満たすためには、それぞれの活物質の選定が極めて重要なものとなることから、種々の提案がなされている。
【0005】
例えば、特許文献1には、Siを主成分とする粉末を湿式メディアミルによって粉砕された所定の平均粒径と比表面積のSi微粒子と、Sn、Al、Zn、Inなどの1種以上を含む金属粉末と、炭素粉末とを乾式粉砕することによって所定の平均粒径と比表面積を備えた複合粒子とするリチウム二次電池用電極材料の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−216277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載の電極材料は、充放電時の体積膨張を抑制することができ、純シリコン系の材料に較べてはサイクル特性が改善されるものの、充放電サイクルに伴う電解液の分解を押さえることができず、サイクル特性を十分に向上させることができないという問題点があった。
【0008】
本発明は、従来の電極材料における上記課題を解決すべくなされたものであって、その目的とするところは、サイクル特性のさらなる向上が可能なリチウムイオン二次電池用複合負極活物質を提供することにある。さらには、このような負極活物質を適用したリチウムイオン二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を繰り返した結果、Siを主成分とする合金系負極活物質の表面に、イオン伝導性固体酸化物を配置することによって、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は上記知見に基づくものであって、本発明のリチウムイオン二次電池用複合負極活物質は、Siを主たる成分とする負極活物質の表面に、イオン伝導性固体酸化物が配置されたことを特徴としている。
また、本発明のリチウムイオン二次電池は、上記リチウムイオン二次電池用複合負極活物質を含む負極を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、Siを主成分とする負極活物質とイオン伝導性固体酸化物を含むものとし、負極活物質の表面にイオン伝導性固体酸化物が配置された複合負極活物質ととしたため、サイクル特性にさらに優れたリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明のリチウムイオン二次電池用複合負極活物質について、これを用いたリチウムイオン二次電池の構造などと共に、詳細に説明する。なお、本明細書において、「%」は特記しない限り質量百分率を表すものとする。また、成分比についても質量比とする。
【0013】
本発明のリチウムイオン二次電池用複合負極活物質は、上記したように、Siを主たる成分とする負極活物質と、イオン伝導性固体酸化物を含有し、このイオン伝導性固体酸化物が、活物質助剤として上記負極活物質の表面に存在するものであって、リチウムイオン二次電池の負極に用いられる。
【0014】
本発明のリチウムイオン二次電池用複合負極活物質において、上記負極活物質としては、Siを主たる成分とする合金系、具体的には70%以上のSiを含有するものが用いられる。
この負極活物質については、純Siから成るものでも差し支えないが、電導性を向上させると共に、体積の膨張を避け、Liとの反応に伴う結晶化を防止してアモルファス状態を維持し、脆化を防止する観点から、他の元素との合金を用いることが望ましい。このような合金元素としては、Nb、V、Sn、Mo、W、Ti、Al、Zn及びCから成る群より選ばれた少なくとも1種を用いることができる。なお、これら元素群の中では、特にTi、Al、Zn及びCの効果が優れることから、これらを選択することがより好ましいと言える。
【0015】
一方、上記負極活物質の表面に配置されるイオン伝導性固体酸化物としては、化学式
Li3xLa2/3−x1/3−2xTiO
で表される複合酸化物を用いることができる。
上記化学式において、□は空孔を示す。また、式中のxは、0.1を超え、0.17に満たない値を採る。この値が0.1以下の場合には、当該酸化物のイオン伝導性が低下して、複合負極活物質へのリチウムイオンの移動が阻害される。また、0.17(正確には「1/6」)以上では、空孔がなくなってリチウムイオンの移動ができなくなる。
【0016】
このように、本発明の複合負極活物質では、Siを主たる成分とする合金系負極活物質の表面に、イオン伝導性固体酸化物が配置された構造を有している。
したがって、本発明の複合負極活物質を用いた負極を備えたリチウムイオン二次電池においては、負極活物質は、電解液と直接接触することなくリチウムイオンを吸蔵、脱離することができ、充放電過程における電解液の分解が抑制され、サイクル特性が改善されることになる。
【0017】
なお、本発明の複合負極活物質において、Siを主成分とする負極活物質とイオン伝導性固体酸化物との含有割合については、イオン伝導性固体酸化物を負極活物質に対して1〜20%の範囲で含有させることが望ましい。
これは、イオン伝導性固体酸化物の含有割合が負極活物質の1%未満では、イオン伝導性固体酸化物を配置することによる効果が十分に得られなくなり、20%を超えると、当該複合負極活物質中における負極活物質の量が相対的に減少することによって、電池のエネルギー密度が減少する傾向があることによる。
【0018】
なお、本発明の複合負極活物質において、イオン伝導性固体酸化物は、上記のように、Si系負極活物質の表面に存在することによって、リチウムイオン二次電池の充電時に電解液と負極活物質との直接的な接触を防止して、電解液の分解を抑制する機能を発揮するものである。
したがって、上記イオン伝導性固体酸化物は、負極活物質の表面全体を被覆するように配置されていることが好ましいことは言うまでもないが、部分的に覆っていたとしても、それなりの効果を得ることができ、必ずしも全面被覆に限定されることはない。
【0019】
本発明のリチウムイオン二次電池は、本発明の上記複合負極活物質を含む負極活物質層を集電体表面に備えた負極を電解質層及び正極と共に備えた少なくとも1つの単電池を有するものであり、優れたサイクル特性を有する。
以下に、本発明のリチウムイオン二次電池に用いる部材やその材料、構造などについてそれぞれ説明する。
【0020】
一般に、リチウムイオン二次電池は、正極集電体に正極活物質等を塗布した正極と、負極集電体に負極活物質等を塗布した負極とが、電解質層を介して接続され、電池ケース内に収納された構造を有している。
【0021】
〔正極〕
リチウムイオン二次電池において、正極は、アルミニウム箔、銅箔、ニッケル箔、ステンレス箔などの導電性材料から成る集電体(正極集電体)の片面又は両面に、正極活物質層、すなわち正極活物質と共に、必要に応じて導電助剤やバインダを含む正極活物質層を形成した構造を備えたものである。
【0022】
上記集電体の厚さとしては、特に限定されないが、一般には1〜30μm程度であることが好ましい。また、正極活物質層中におけるこれら正極活物質、導電助剤、バインダの配合比としては、特に限定されない。
【0023】
上記正極活物質としては、例えば、リチウム−遷移金属複合酸化物、リチウム−遷移金属リン酸化合物、リチウム−遷移金属硫酸化合物、固溶体系、3元系、NiMn系、NiCo系、スピネルMn系などが挙げられる。
【0024】
リチウム−遷移金属複合酸化物としては、例えば、LiMn、LiCoO、LiNiO、Li(Ni、Mn、Co)O、Li(Li、Ni、Mn、Co)O、LiFePO及びこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換されたもの等を挙げることができる。
固溶体系としては、xLiMO・(1−x)LiNO(0<x<1、Mは平均酸化状態が3+、Nは平均酸化状態が4+である1種類以上の遷移金属)、LiRO−LiMn(R=Ni、Mn、Co、Fe等の遷移金属元素)等が挙げられる。
【0025】
3元系としては、ニッケル・コバルト・マンガン系(複合)正極材等を挙げることができる。スピネルMn系としてはLiMn等が挙げられる。また、NiMn系としては、LiNi0.5Mn1.5等が挙げられる。NiCo系としては、Li(NiCo)O等が挙げられる。
場合によっては、2種以上の正極活物質が併用されてもよい。好ましくは、容量、出力特性の観点から、リチウム−遷移金属複合酸化物が、正極活物質として用いられる。
【0026】
なお、上記正極活物質の粒径としては、特に限定するものではないが、一般には細かいほど望ましく、作業能率や取り扱いの容易さなどを考慮すると、平均粒径で、1〜30μm程度であればよく、5〜20μm程度であることがより好ましい。
また、上記以外の正極活物質が用いられてもよいことはもちろんであって、活物質それぞれの固有の効果を発現する上で最適な粒径が異なる場合には、それぞれの固有の効果を発現する上で最適な粒径同士をブレンドして用いればよく、全ての活物質の粒径を必ずしも均一化させる必要はない。
【0027】
上記バインダは、活物質同士又は活物質と集電体とを結着させて電極構造を維持する目的で添加される。
このようなバインダとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ酢酸ビニル、ポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)およびポリアクリロニトリル(PAN)などの熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、およびユリア樹脂などの熱硬化性樹脂、ならびにスチレンブタジエンゴム(SBR)などのゴム系材料を用いることができる。
【0028】
導電助剤は、導電剤とも称し、導電性を向上させるために配合される導電性の添加物を意味する。本発明に使用する導電助剤としては、特に制限されず、従来公知のものを利用することができ、例えば、アセチレンブラック等のカーボンブラック、グラファイト、炭素繊維などの炭素材料を挙げることができる。
導電助剤を含有させることによって、活物質層の内部における電子ネットワークが効果的に形成され、電池の出力特性の向上、電解液の保液性の向上による信頼性向上に寄与する。
【0029】
〔負極〕
一方、負極は、正極と同様に、上記したような導電性材料から成る集電体(負極集電体)の片面又は両面に、負極活物質と共に、必要に応じて、上記した正極活物質の場合と同様の導電助剤やバインダを含有させて成る負極極活物質層を形成した構造を備えたものとすることができる。
【0030】
本発明のリチウムイオン二次電池においては、上記したような、Siを主成分とする負極活物質の表面に、イオン伝導性固体酸化物が配置された構造の複合負極活物質が用いられるが、このような複合負極活物質が必須成分として含有されてさえいれば、リチウムを可逆的に吸蔵及び放出できる従来公知の負極活物質を併用することに支障はない。
このような負極活物質としては、例えば、高結晶性カーボンであるグラファイト(天然グラファイト、人造グラファイト等),低結晶性カーボン(ソフトカーボン,ハードカーボン),カーボンブラック(ケッチェンブラック,アセチレンブラック,チャンネルブラック,ランプブラック,オイルファーネスブラック,サーマルブラック等),フラーレン,カーボンナノチューブ,カーボンナノファイバー,カーボンナノホーン,カーボンフィブリルなどの炭素材料、Si,Ge,Sn,Pb,Al,In,Zn,H,Ca,Sr,Ba,Ru,Rh,Ir,Pd,Pt,Ag,Au,Cd,Hg,Ga,Tl,C,N,Sb,Bi,O,S,Se,Te,Cl等のリチウムと合金化する元素の単体、及びこれらの元素を含む酸化物(一酸化ケイ素(SiO),SiOx(0<x<2),二酸化スズ(SnO),SnO(0<x<2),SnSiOなど)及び炭化物(炭化ケイ素(SiC)など)等、リチウム金属等の金属材料、リチウム−チタン複合酸化物(チタン酸リチウム:LiTi12)等のリチウム−遷移金属複合酸化物を挙げることができる。
【0031】
なお、上記においては、正極活物質層及び負極活物質層をそれぞれの集電体の片面又は両面上に形成するものとして説明したが、1枚の集電体の一方の面に正極活物質層、他方の面に負極活物質層をそれぞれに形成することもでき、このような電極は、双極型電池に適用される。
【0032】
〔電解質層〕
電解質層は、非水電解質を含む層であって、電解質層に含まれる非水電解質は、充放電時に正負極間を移動するリチウムイオンのキャリアーとしての機能を有する。
なお、電解質層の厚さとしては、内部抵抗を低減させる観点から薄ければ薄いほどよく、通常1〜100μm程度、好ましくは5〜50μmの範囲とする。
【0033】
非水電解質としては、このような機能を発揮できるものであれば特に限定されず、液体電解質又はポリマー電解質を用いることができる。
【0034】
液体電解質は、有機溶媒にリチウム塩(電解質塩)が溶解した形態を有する。有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)等のカーボネート類が例示される。
また、リチウム塩としては、Li(CFSON、Li(CSON、LiPF、LiBF、LiAsF、LiTaF、LiClO、LiCFSO等の電極の活物質層に添加され得る化合物を採用することができる。
【0035】
一方、ポリマー電解質は、電解液を含むゲルポリマー電解質(ゲル電解質)と、電解液を含まない真性ポリマー電解質に分類される。
ゲルポリマー電解質は、好ましくはイオン伝導性ポリマーからなるマトリックスポリマー(ホストポリマー)に、上記の液体電解質が注入されて成る構成を有する。電解質としてゲルポリマー電解質を用いることで電解質の流動性がなくなり、各層間のイオン伝導を遮断することが容易になる点で優れている。
【0036】
マトリックスポリマー(ホストポリマー)として用いられるイオン伝導性ポリマーとしては、特に限定されず、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体(PVDF−HFP)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)及びこれらの共重合体等が挙げられる。
ここで、上記のイオン伝導性ポリマーは、活物質層において電解質として用いられるイオン伝導性ポリマーと同じであってもよく、異なっていてもよいが、同じであることが好ましい。電解液(リチウム塩及び有機溶媒)の種類は特に制限されず、上記で例示したリチウム塩などの電解質塩及びカーボネート類などの有機溶媒が用いられる。
【0037】
真性ポリマー電解質は、上記のマトリックスポリマーにリチウム塩が溶解して成るものであって、有機溶媒を含まない。したがって、電解質として真性ポリマー電解質を用いることによって電池からの液漏れの心配がなくなり、電池の信頼性が向上することになる。
【0038】
ゲルポリマー電解質や真性ポリマー電解質のマトリックスポリマーは、架橋構造を形成することによって、優れた機械的強度を発現することができる。このような架橋構造を形成させるには、適当な重合開始剤を用いて、高分子電解質形成用の重合性ポリマー(例えば、PEOやPPO)に対して熱重合、紫外線重合、放射線重合、電子線重合等の重合処理を施せばよい。
これらの電解質層に含まれる非水電解質は、1種のみから成る単独のものでも、2種以上を混合したものであっても差し支えない。
【0039】
なお、電解質層が液体電解質やゲルポリマー電解質から構成される場合には、電解質層にセパレータを用いる。
セパレータの具体的な形態としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンから成る微多孔膜が挙げられる。
【0040】
〔電池の形状〕
リチウムイオン二次電池は、上述のような正極と負極とが電解質層を介して接続された電池素子(電極構造体)を有しており、かかる電池素子を缶体やラミネート容器(包装体)などの電池ケースに収容した構造を有している。
なお、電池素子が正極、電解質層及び負極を巻回した構造を有する巻回型の電池と、正極、電解質層及び負極を積層型の電池に大別され、上述の双極型電池は積層型の構造を有する。また、電池ケースの形状や構造に応じて、いわゆるコインセル、ボタン電池、ラミネート電池などと称されることもある。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明する。なお、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0042】
〔1〕複合負極活物質の作製
〔1−1〕負極活物質の調製
遊星ボールミルを用いて、高純度シリコンと、Ti、Al、Znの金属粉とをジルコニア製容器により、Ar雰囲気下において、回転速度:600rpm、24時間メカニカルアロイングすることによって、Si−Ti(9:1)、Si−Ti−Al(8:1:1)、Si−Al−Zn(8:1:1)の3種のSi合金から成る負極活物質を得た。なお、これらの平均一次粒子径は、約500nmであった。
【0043】
〔1−2〕イオン伝導性固体酸化物前駆体の調製
6.0gのチタンイソプロポキシドと12.1gの酢酸を24.2gのイソプロパノールに溶解させた。また、0.7gの酢酸リチウム2水和物と3.8gの酢酸ランタン3水和物を50.4gのイオン交換水に溶解させた。
そして、この水溶液と、上記のイソプロパノール溶液とを混合し、室温にて12時間攪拌することによって、Li0.36La0.550.09TiO(x=0.12)の前駆体溶液を調製した。
【0044】
〔1−3〕イオン伝導性固体酸化物による被覆
前項のようにして得られたLi0.36La0.550.09TiOの前駆体溶液に、先に得られたSi合金負極活物質をそれぞれ浸漬させ、室温にて12時間攪拌したのち、80℃にて濃縮・乾固させた。
次いで、得られた乾固物を大気中600℃にて8時間焼成することによって、各負極活物質の表面に、上記イオン伝導性固体酸化物Li0.36La0.550.09TiOを被覆して成る本発明の複合負極活物質を得た。なお、負極活物質に対するイオン伝導性固体酸化物の被覆量については、負極活物質を浸漬させる前駆体溶液量を増減することによって、5種の複合負極活物質(実施例1〜5)を調整した。
【0045】
〔2〕電極の作製
〔2−1〕負極
上記で得られた5種の複合負極活物質(実施例1〜5)と、イオン伝導性固体酸化物を被覆することなく、メカニカルアロイングによって得られたままのSi合金負極活物質3種(比較例1〜3)を用いて負極を作製した。
すなわち、まず、上記実施例及び比較例の負極活物質と、導電助剤としてのアセチレンブラックと、バインダとしてのポリイミドの前駆体であるポリアミック酸を80:5:15の質量比となるように配合し、これにN−メチルピロリドンを溶媒として添加、混合し、負極スラリーを得た。集電体としては銅箔を使用し、これに上記負極スラリーをそれぞれ30μmの厚さとなるように塗布し、十分に乾燥させ、さらに、バインダをポリイミド化するため、真空下300℃にて1時間焼成することによって、それぞれの負極を得た。
【0046】
〔2−2〕正極
正極活物質としてLi(Ni0.33Co0.33Mn0.33)Oを、導電助剤としてアセチレンブラックを、バインダとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)をそれぞれ使用し、これらを90:5:5の質量比となるように配合し、これにN−メチルピロリドンを溶媒として添加して、混合し、正極スラリーを得た。集電体としてはアルミニウム箔を使用し、これに上記正極スラリーをそれぞれ80μmの厚さとなるように塗布し、十分に乾燥させた。
【0047】
〔3〕電池の作製
上記により得られた各負極と、対極として作製した正極とを対向させ、これらの間に、厚さ20μmのポリオレフィン製セパレータを配置した。
そして、この負極、セパレータ、正極の積層体をステンレス鋼(SUS316)の電池缶(CR2032)内に配し、電解液を注入した後、密閉し、リチウムイオン二次電池を得た。このとき、電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)を1:1の容積比で混合した混合非水溶媒中に、LiPF(六フッ化リン酸リチウム)を1Mの濃度となるように溶解させたものを用いた。
【0048】
〔4〕電池のサイクル特性評価
上記により得られたそれぞれのリチウムイオン二次電池電池に対して、以下の充放電試験を行い、放電容量保持率について調査した。
すなわち、30℃の雰囲気下において、定電流方式(CC、電流:0.1C)で4.2Vまで充電し、10分間休止させた後、定電流(CC、電流:0.1C)で2Vまで放電し、放電後10分間休止させる充放電過程を1サイクルとして、これを100回繰り返した。
【0049】
この結果を表1に示す。なお、表中、100サイクル時容量維持率とは、1サイクル時の放電容量を100とした場合の比率を意味する。
【0050】
【表1】

【0051】
この結果、負極活物質をイオン伝導性固体酸化物Li0.36La0.550.09TiOで被覆した複合負極活物質を用いた実施例1〜3においては、被覆を施すことなく、同一成分のSi合金のみから成る負極活物質を用いた比較例1〜3とそれぞれ比較して、100サイクル時の放電容量維持率がそれぞれ改善されていることが確認された。
また、100サイクル時のクーロン効率において、それぞれ1%程度の差が認められることから、イオン伝導性固体酸化物の被覆によって電解液の分解が抑制されたものと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Siを主たる成分とする負極活物質の表面に、イオン伝導性固体酸化物が配置されていることを特徴とするリチウムイオン二次電池用複合負極活物質。
【請求項2】
上記負極活物質がSiと共に、Nb、V、Sn、Mo、W、Ti、Al、Zn及びCから成る群より選ばれた少なくとも1種の元素を含有することを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用複合負極活物質。
【請求項3】
上記負極活物質がSiと共に、Ti、Al、Zn及びCから成る群より選ばれた少なくとも1種の元素を含有することを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用複合負極活物質。
【請求項4】
上記イオン伝導性固体酸化物が、次の化学式
Li3xLa2/3−x1/3−2xTiO
(式中のxは0.1<x<0.17を満足する)で表される化合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載のリチウムイオン二次電池用複合負極活物質。
【請求項5】
上記負極活物質に対する質量比で、1〜20%のイオン伝導性固体酸化物が配置されていることを特徴とする請求項4に記載のリチウムイオン二次電池用複合負極活物質。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つの項に記載のリチウムイオン二次電池用複合負極活物質を含む負極を備えたことを特徴とするリチウムイオン二次電池。

【公開番号】特開2013−73818(P2013−73818A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212627(P2011−212627)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、次世代自動車用高性能蓄電システム技術開発/要素技術開発/高容量電池の研究開発委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】