説明

リチウムイオン二次電池用負極の製造方法およびリチウムイオン二次電池の製造方法

【課題】低温特性が向上したリチウムイオン二次電池用負極を製造する方法を提供すること。
【解決手段】本発明により提供されるリチウムイオン二次電池用負極の製造方法は、リチウムを挿入/脱離可能な炭素材料からなる負極活物質を主成分とし、結着材と水溶性増粘材と水系溶媒とを含む負極合材層形成用組成物を負極集電体上に塗布して該負極集電体上に負極合材層を形成すること、および前記形成した負極合材層を、温度35℃以上70℃以下および相対湿度30%以上75%以下、かつ、式:
T×H≦220
(Tは温度(K)であり、Hは相対湿度(%)/100である。)
を満たす条件下に保持すること、を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用負極の製造方法に関し、より詳しくは、負極活物質と結着材と水溶性増粘材と水系溶媒とを含む負極合材層形成用組成物からなる負極合材層が負極集電体上に形成されたリチウムイオン二次電池用負極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウム二次電池やニッケル水素電池等の二次電池は、電気を駆動源とする車両搭載用電源、あるいはパソコンおよび携帯端末その他の電気製品等に搭載される電源として重要性が高まっている。特に、軽量で高エネルギー密度が得られるリチウム二次電池(典型的にはリチウムイオン二次電池)は、車両搭載用高出力電源として好ましく用いられるものとして期待されている。
【0003】
上記リチウムイオン二次電池の電極(正極および負極)は、電荷担体となる化学種(典型的にはリチウムイオン)を可逆的に吸蔵および放出し得る電極活物質を主成分とする電極合材層(具体的には、正極合材層および負極合材層)が電極集電体上に形成された構成を備える。かかる電極合材層は、電極活物質を結着材や増粘材等の添加材とともに適当な溶媒を添加して分散させ、それによって得られたペーストまたはスラリー状組成物を電極集電体に塗布することにより形成される。このような電極活物質と結着材と増粘材とから構成される負極合材を用いた電池に関する従来技術として特許文献1が挙げられる。
【0004】
しかし、上述したようなリチウムイオン二次電池は、低温領域での反応抵抗が増大し、低温特性(典型的には低温時のサイクル特性)が低下してしまう虞がある。そこで、負極合材層の性状を調整することによって、低温特性を向上させる方法が提案されている。この種の従来技術として特許文献2が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−279995号公報
【特許文献2】特開2010−67436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したような負極活物質と結着材と増粘材とを含有する負極合材層形成用組成物において、結着材や増粘材の配合量を減らせば、ある程度の低温特性の向上は望めるが、結着材量の低減は合材層と集電体との接着強度の低下を招く虞がある。また、増粘材量の低減は合材層中の結着材の分散性を低下させるため、合材層の性能が不均一となる虞がある。このように、結着材や増粘材の配合量の低減には限度があるため、配合材料の選択や配合割合の調整等によって低温特性を向上させることは困難になりつつある。
【0007】
そこで、本発明は、上述した従来の問題を解決するために創出されたものであり、その目的は、低温特性が向上したリチウムイオン二次電池用負極の製造方法を提供することである。また、低温特性が向上したリチウムイオン二次電池の製造方法を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を実現するべく、本発明により、リチウムを挿入/脱離可能な炭素材料からなる負極活物質を主成分とし、結着材と水溶性増粘材と水系溶媒とを含む負極合材層形成用組成物を負極集電体上に塗布して該負極集電体上に負極合材層を形成すること、および前記形成した負極合材層を、温度35℃以上70℃以下および相対湿度30%以上75%以下、かつ、式:T×H≦220(Tは温度(K)であり、Hは相対湿度(%)/100である。)を満たす条件下に保持すること、を包含する、リチウムイオン二次電池用負極の製造方法が提供される。
【0009】
本発明者らは、配合材料の選択や配合割合の調整等とは別の手段によりリチウムイオン二次電池の低温特性を向上するべく鋭意検討していたところ、集電体上に形成した合材層を、乾燥後、所定の温度および湿度条件下で保持することが、リチウムイオン二次電池の低温特性を向上させるのに有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、かかる構成のリチウムイオン二次電池用負極の製造方法によると、負極集電体上に形成した負極合材層を、温度35℃以上70℃以下および相対湿度30%以上75%以下(好ましくは、温度40℃以上65℃以下および相対湿度35%以上55%以下)、かつ、式:T×H≦220(Tは温度(K)であり、Hは相対湿度(%)/100である。)を満たす条件下に保持することで、該負極合材層が形成された負極を備えるリチウムイオン二次電池の低温時における反応抵抗の増大が抑制され、リチウムイオン二次電池の低温特性が向上する。
従って、本発明の製造方法によると、低温特性が向上したリチウムイオン二次電池用負極を提供することができる。
なお、本発明において「低温」とは、特に限定されないが、典型的には10℃以下をいう。従って、0℃〜−20℃またはそれ以下のような氷点下の温度領域は、ここでいう低温の典型例である。よって、低温特性が向上した本発明に係るリチウムイオン二次電池は、寒冷地で使用されるリチウムイオン二次電池用負極として好適である。
【0010】
ここで開示されるリチウムイオン二次電池用負極の製造方法の好適な一態様では、前記保持を、少なくとも1時間またはそれ以上行う。このように、負極合材層を所定の温度および湿度条件下で少なくとも1時間保持することにより、該負極合材層が形成された負極を備えるリチウムイオン二次電池は、低温特性がより向上する。また、前記リチウムイオン二次電池用負極をリール状に巻いた状態で前記所定時間の保持を行うことが、低温特性向上の観点からさらに好ましい。
【0011】
ここで開示されるリチウムイオン二次電池用負極の製造方法の好適な一態様では、前記形成した負極合材層にプレス処理を行い、その後、前記条件下で保持を行う。このように、プレス処理を行った後に、負極合材層を所定の温度および湿度条件下で保持することにより、該負極合材層が形成された負極を備えるリチウムイオン二次電池は、低温特性がより向上する。
【0012】
ここで開示されるリチウムイオン二次電池用負極の製造方法の好適な一態様では、前記水溶性増粘材がセルロース誘導体である。水溶性増粘材としてセルロース誘導体を用いることにより、リチウムイオン二次電池の低温特性はより向上する。
【0013】
また、本発明によると、リチウムを挿入/脱離可能な正極活物質を主成分として形成された正極合材層を正極集電体上に備えた正極を構築すること、リチウムを挿入/脱離可能な炭素材料からなる負極活物質を主成分として形成された負極合材層を負極集電体上に備えた負極を構築すること、および前記正極および前記負極を用いてリチウムイオン二次電池を構築すること、を包含し、ここで、前記負極として、ここで開示されるいずれかの製造方法によって得られた負極を用いることを特徴とする、リチウムイオン二次電池の製造方法が提供される。このように、負極集電体上に形成した負極合材層を、所定の温度および湿度条件下で保持することによって、該負極合材層が形成された負極を備えるリチウムイオン二次電池は、低温時における反応抵抗の増大が抑制され、低温特性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用負極の断面を示す模式図である。
【図2】一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の構成を模式的に示す断面図である。
【図3】例1〜例24に係るリチウムイオン二次電池の反応抵抗変化率を示すグラフである。
【図4】例4,例9および例11に係るリチウムイオン二次電池の−30℃におけるインピーダンスの測定結果を示すグラフである。
【図5】例4,例25,例26および例27に係るリチウムイオン二次電池の−30℃におけるインピーダンスの測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明による一実施形態を説明する。なお、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。また、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、正極および負極を備えた電極体の構成および製法、セパレータや電解液の構成および製法、電池その他の電池の構築に係る一般的技術等)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。
【0016】
図1に示されるように、リチウムイオン二次電池用負極10は、従来と同様の構成をとることができ、本実施形態では、負極集電体1上に負極合材層2が形成された構造を備える。以下、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用負極10の各構成要素について説明する。
【0017】
負極集電体としては、従来のリチウムイオン二次電池と同様に、導電性の良好な金属(例えば、アルミニウム、ニッケル、銅、ステンレス等の金属または該金属を主成分とする合金)からなるものを好ましく使用することができる。使用する負極集電体の形状は、得られた負極を用いて構築されるリチウムイオン二次電池の形状等に応じて異なり得るため特に制限はなく、棒状、板状、シート状、箔状、メッシュ状等の種々の形態であり得る。ここで開示される技術は、例えばシート状または箔状の負極集電体を用いた負極の製造に好ましく適用することができる。かかる負極集電体の厚みは特に限定されないが、負極集電体として銅製のシートを用いる場合、厚みは、例えば凡そ6μm〜30μmの範囲内に設定することが好ましい。
【0018】
負極合材層は、負極活物質を結着材と水溶性増粘材とともに水系溶媒に分散させてペーストまたはスラリー状の負極合材層形成用組成物を得た後、かかる負極合材層形成用組成物を負極集電体の表面に塗布することにより形成することができる。
【0019】
負極合材層形成用組成物に含まれる負極活物質としては、典型的なリチウムイオン二次電池に用いられる炭素材料からなるもの(炭素材料を主成分とする炭素系材料)であればよく特に限定されない。例えば、負極活物質として用いられる炭素系材料の代表例としては、グラファイトカーボン、アモルファスカーボン等が挙げられる。中でも天然黒鉛(もしくは人造黒鉛)を主成分とする炭素系材料の使用が好ましい。かかる天然黒鉛(もしくは人造黒鉛)は鱗片状の黒鉛を球形化したものであり得る。例えば、電子顕微鏡(SEMまたはTEM等)観察に基づく平均粒径が凡そ5μm〜30μmの範囲内にある球形化天然黒鉛(もしくは球形化人造黒鉛)を負極活物質として好ましく用いることができる。さらに、該黒鉛粒子の表面にアモルファスカーボンがコートされた炭素質粉末を用いてもよい。
【0020】
特に限定されるものではないが、負極合材層形成用組成物の固形分全体に占める負極活物質の割合は凡そ50質量%を超えることが好ましく、リチウムイオン二次電池の低温特性向上の観点から、凡そ90質量%〜99質量%(例えば95質量%〜99質量%、典型的には97質量%〜99質量%)であることがより好ましい。
【0021】
負極合材層形成用組成物に含まれる結着材(バインダ)としては、一般的なリチウムイオン二次電池の負極に使用される結着材と同様のものを適宜採用することができ、水に溶解または分散するポリマー材料を好ましく採用し得る。水に溶解または分散するポリマー材料としては、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)が挙げられる。ここでSBRとは、スチレンと1,3‐ブタジエンを含む共重合体のことであり、その共重合様式は特に限定されない。さらに不飽和カルボン酸や不飽和ニトリル化合物を共重合させた変性SBRであってもよい。その他のポリマー材料としては、ポリアクリレート(アクリル酸エステル単独重合体または共重合体)、ポリウレタン、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリエチレン等が挙げられる。かかる結着材は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
【0022】
結着材の添加量(含有量)は特に限定されないが、負極合材層形成用組成物の固形分全量を100質量%としたときに、好ましくは0.1質量%〜8質量%、より好ましくは0.4質量%〜3質量%(例えば0.5質量%〜1質量%)の範囲内とすることが好ましい。結着材の添加量が上記範囲内であることにより、電池の低温領域での反応抵抗を低く保ちやすく、また、良好な結着力を維持することで活物質の滑落等が防止されやすくなる。
【0023】
負極合材層形成用組成物に含まれる水溶性増粘材としては、水に溶解する(水溶性の)ポリマー材料を採用し得る。水に溶解する(水溶性の)ポリマー材料としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)、酢酸フタル酸セルロース(CAP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)等のセルロース誘導体(セルロース系ポリマー);ポリビニルアルコール(PVA);等が挙げられる。後述する所定の温度および湿度条件下での保持による作用との関係、負極合材層形成用組成物の混練(調製)の際の作業性および安定性等の観点からセルロース誘導体が好ましく使用される。
【0024】
水溶性増粘材の添加量(含有量)は、負極活物質の種類や量に応じて適宜選択すればよく特に限定されないが、負極合材層形成用組成物の固形分全量を100質量%としたときに、好ましくは0.3質量%〜2質量%、より好ましくは0.5質量%〜1質量%である。水溶性増粘材の添加量が上記範囲内であることにより、電池の低温領域での反応抵抗を低く保ちやすく、また、結着材が良好に分散しやすい。
【0025】
負極合材層形成用組成物に含まれる水系溶媒とは、水または水を主体とする混合溶媒を指す概念である。該混合溶媒を構成する水以外の溶媒としては、水と均一に混合し得る有機溶剤(低級アルコール、低級ケトン等)の1種または2種以上を適宜選択して用いることができる。例えば、該水系溶媒の凡そ80質量%以上(より好ましくは凡そ90質量%以上、さらに好ましくは凡そ95質量%以上)が水である水系溶媒の使用が好ましい。特に好ましい例として、実質的に水からなる水系溶媒が挙げられる。特に限定されないが、負極合材層形成用組成物の固形分濃度(不揮発分、すなわち合材層形成材料の割合)は、凡そ40質量%以上(例えば凡そ45質量%〜80質量%、典型的には50質量%〜60質量%)とすることが好ましい。固形分濃度が上記範囲内であることにより、負極合材層の乾燥効率を向上させることができ、負極合材層を均一な厚みに塗工しやすく、また、負極合材層形成用組成物の取扱いが容易となる。
【0026】
負極合材層形成用組成物は、目的や用途に応じて上記以外の材料、例えば導電材や凝集抑制材を適宜含有することができるが、リチウムイオン二次電池の低温特性向上の観点から、固形分として負極活物質と結着材と水溶性増粘材のみを含むことが好ましい。
【0027】
次に、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の負極の製造方法について説明する。かかる製造方法では、まず、上述した負極活物質と結着材と増粘材とを水系溶媒中で混ぜ合わせ(混練)、ペースト状(スラリー状ともいう)の負極合材層形成用組成物を調製する。かかる混練操作は、例えば、適当な混練機(プラネタリーミキサー、ホモディスパー、クレアミックス、フィルミックス等)を用いて行うことができる。負極合材層形成用組成物を調製するにあたっては、負極活物質と結着材と増粘材とを少量の水系溶媒(例えば水)で固練りし、その後、得られた混練物を適量の溶媒で希釈してもよい。
【0028】
次に、得られた負極合材層形成用組成物を負極集電体上に塗布して該負極集電体上に負極合材層を形成する。負極合材層形成用組成物を塗布する方法としては、従来公知の方法と同様の技法を適宜採用することができる。例えば、グラビアコーター、コンマコーター、スリットコーター、ダイコーター等の適当な塗布装置を使用することにより、負極集電体の表面に負極合材層形成用組成物を塗布することができる。
【0029】
塗布する負極合材層形成用組成物の単位面積当たりの塗付量、すなわち目付量は、十分な導電経路(導電パス)を確保することができる限りにおいて特に限定されるものではないが、好ましくは負極合材層の両面の合計で、5mg/cm以上35mg/cm以下(より好ましくは7mg/cm以上25mg/cm以下)である。
【0030】
負極合材層形成用組成物を塗布した後、塗布物を乾燥することによって(このとき、必要に応じて適当な乾燥促進手段(ヒータ等)を用いてもよい。)負極合材層形成用組成物中の溶媒を除去することが好ましい。乾燥方法としては、例えば、負極合材層形成用組成物が塗布された負極集電体を乾燥炉内を通過させることが挙げられる。上記乾燥温度は、特に限定されないが、例えば70℃より高く200℃以下(典型的には120℃〜150℃)である。乾燥時間は、例えば凡そ10秒〜120秒(典型的には凡そ20秒〜60秒)である。また、乾燥時の湿度は、特に限定されないが、典型的には相対湿度で30%未満(例えば1%〜25%)が好ましい。
【0031】
本実施形態では、上述の方法により負極合材層を形成した後、負極合材層を温度35℃以上70℃以下および相対湿度30%以上75%以下を満たす条件下に保持する。上記保持温度は、好ましくは35℃以上65℃以下(典型的には40℃以上65℃以下)である。上記温度範囲内における相対湿度は、好ましくは35%以上55%以下である。また、上記保持は、上記温度および湿度の条件に加えて、式:
T×H≦220
(Tは温度(K)であり、Hは相対湿度(%)/100である。)を満たす条件下で行う。T×Hは、好ましくは200以下(典型的には180以下)である。かかる条件下に負極合材層を保持することで、該保持が負極合材層を構成する材料に作用し、該負極合材層が形成された負極を備えるリチウムイオン二次電池の低温時における反応抵抗の増大が抑制され、リチウムイオン二次電池の低温特性が向上する。特に、上記温度が80℃を超えるような高温の場合、負極集電体(典型的には銅箔)が酸化する虞があるため、好ましくない。上記式におけるT×Hの下限値は特に限定されないが、リチウムイオン二次電池の低温特性向上の観点から、好ましくは70≦T×Hであり、より好ましくは90≦T×H(典型的には100≦T×H)である。
【0032】
上記保持は、少なくとも1時間またはそれ以上(例えば1.5時間以上、典型的には2時間以上)行うことが好ましい。一定時間以上、所定の温度および湿度条件下に保持することで、上記保持による作用が充分に得られる。また、上記保持時間は、24時間以下が好ましく、8時間以下(例えば5時間以下)がより好ましい。上記保持が長期に及ぶと負極集電体(銅箔)が酸化する虞があるため、好ましくない。また、上述した所定時間行う保持は、リチウムイオン二次電池用負極をリール状に巻いた状態で行うことが、低温特性向上の観点からより好ましい。
【0033】
上記保持を行った後の負極合材層の水分含量は、特に限定されないが、例えば質量基準で600ppm以上(典型的には800ppm以上)となり、また、例えば1300ppm以下(典型的には1100ppm以下)となる。上記保持を行うことで負極合材層の水分含量が上記範囲内となり、これが該負極合材層の比表面積を大きくするように作用し、これにより、該負極合材層を備えるリチウムイオン二次電池の低温特性が向上すると推察される。なお、上記保持が完了した後、必要に応じて負極合材層を乾燥させてもよい。かかる乾燥の条件(方法、温度等)は、例えば、上述した負極合材層形成用組成物の塗布後の乾燥条件と同様の条件を採用することができ、後述する実施例においても上記条件のもと乾燥を行うことが可能である。
【0034】
このようにして形成された負極合材層に、所望により厚み方向にプレス処理を行うことで、目的とする厚みの負極を得ることができる。上記プレス処理方法としては、従来公知のロールプレス法、平板プレス法等を適宜採用することができる。プレス処理後の負極(負極シート)の厚み(典型的には、負極集電体およびその両面に形成された負極合材層の合計厚み)は、特に限定されないが、例えば凡そ30μm〜300μm(典型的には50μm〜180μm)であることが好ましい。負極合材層が負極集電体の片面に形成される場合は、上記厚みの半分の厚みとなる。
【0035】
なお、上記保持はプレス処理の前に行ってもよく、プレス処理と同時並行的に行う(例えば、上記保持中にプレス処理を行う)こともできる。リチウムイオン二次電池の低温特性向上の観点から、上記保持をプレス処理の後に行うことが好ましい。
【0036】
次に、上記の方法により製造された負極(負極シート)10を用いて構築される、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池について説明する。図2に示されるように、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池100は、金属製(樹脂製またはラミネートフィルム製も好適である。)のケース21を備える。このケース(外容器)21は、上端が開口した扁平な直方体状のケース本体22と、その開口部分を塞ぐ蓋体23とを備える。ケース21の上面(すなわち蓋体23)には、捲回電極体80の正極と電気的に接続する正極端子25および捲回電極体80の負極と電気的に接続する負極端子27が設けられている。また、ケース21の内部には、扁平形状の捲回電極体80が収容されている。この捲回電極体80は、例えば長尺シート状の正極(正極シート)50および長尺シート状の負極(負極シート)10を計二枚の長尺シート状セパレータ(セパレータシート)60とともに積層して捲回し、次いで得られた捲回体を側面方向から押しつぶして拉げさせることによって作製されるものである。
【0037】
正極シート50および負極シート10は、それぞれ、長尺シート状の電極集電体の両面に電極活物質を主成分とする電極合材層が形成された構成を有する。正極シート50の幅方向の一端には、いずれの面にも上記正極合材層が形成されていない正極合材層非形成部分51が設けられており、負極シート10の幅方向の一端には、いずれの面にも上記負極合材層が形成されていない負極合材層非形成部分11が設けられている。そして、上記積層の際に、正極シート50の正極合材層非形成部分51と負極シート10の負極合材層非形成部分11とがセパレータシート60の幅方向の両側からそれぞれはみ出すように、正極シート50と負極シート10とを幅方向にややずらして重ね合わせることで、捲回電極体80の捲回方向に対する横方向において、正負極シート50,10の電極合材層非形成部分51,11が、それぞれ捲回コア部分(すなわち正極シート50の正極合材層形成部分と負極シート10の負極合材層形成部分と二枚のセパレータシート60とが密に捲回された部分)82から外方にはみ出た構成が得られる。かかる正極側はみ出し部分(正極合材層非形成部分)51および負極側はみ出し部分(負極合材層非形成部分)11には、正極リード端子26および負極リード端子28がそれぞれ付設されており、上述の正極端子25および負極端子27とそれぞれ電気的に接続される。
【0038】
かかる捲回電極体80を構成する各構成要素は、従来のリチウムイオン二次電池の電極体の各構成要素と同様でよく、特に制限はない。例えば、正極シート50は、長尺状の正極集電体の上に正極活物質を主成分とする正極合材層が付与されて形成され得る。正極集電体にはアルミニウム箔その他の正極に適する金属箔が好適に使用される。
【0039】
正極合材層の主成分となる正極活物質は、従来からリチウムイオン二次電池に用いられる物質の1種または2種以上を特に限定することなく使用することができる。好適例として、層状構造やスピネル構造のリチウムニッケル系複合酸化物、リチウムコバルト系複合酸化物、リチウムマンガン系複合酸化物、例えばLiFePO等のオリビン型リン酸リチウム等の、リチウムと1種または2種以上の遷移金属元素とを構成金属元素として含むリチウム遷移金属複合酸化物が例示される。正極合材層には、上記正極活物質の他に、さらに導電材や結着材等を含有させることが好ましい。導電材としては、例えばカーボン粉末やカーボンファイバー等のカーボン材料が挙げられ、結着材としては、例えばセルロース誘導体(典型的にはカルボキシメチルセルロース(CMC))等の水溶性ポリマーや水分散性ポリマーが挙げられる。なお、正極シート50および負極シート10のいずれかの表面には、電極合材層の脱落を防止する目的で多孔性保護膜が設けられていてもよい。正極合材層中における正極活物質の含有量は、固形分全量を100質量%としたときに凡そ50質量%を超えること(典型的には凡そ70質量%〜95質量%の範囲内)が好ましい。
【0040】
正負極シート間に使用されるセパレータ(セパレータシート)の好適例としては、多孔質ポリオレフィン系樹脂で構成されたものが挙げられる。例えば、厚さ5μm〜30μm程度の合成樹脂製(例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン製)多孔質セパレータシートを好適に使用し得る。なお、電解液に替えて固体電解質もしくはゲル状電解質を使用する場合には、セパレータが不要になること(すなわちこの場合には電解質自体がセパレータとして機能し得る。)があり得る。
【0041】
図2を参照し、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池100は、例えば次のような方法で製造される。まず、上述したような手法により、正極活物質を主成分として形成された正極合材層を正極集電体上に備えた正極シート50を構築し、上記炭素材料からなる負極活物質を主成分として形成された負極合材層2を負極集電体1上に備えた負極シート10を構築する。その後、上述したように、正極シート50と負極シート10とセパレータシート60とから構成される捲回電極体80を、ケース本体22の上端開口部分から該ケース本体22内に収容するとともに適当な支持塩を含む電解液をケース本体22内に配置(注液)する。
【0042】
電解液は、従来からリチウムイオン二次電池に用いられる非水電解液と同様のものを特に限定なく使用することができる。かかる電解液は、典型的には、適当な非水溶媒に支持塩を含有させた組成を有する。上記非水溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、エチルメチルカーボネート(EMC)等の1種または2種以上を用いることができる。また、上記支持塩としては、例えば、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiCFSO、LiCSO、LiN(CFSO、LiC(CFSO、LiI等のリチウム化合物(リチウム塩)の1種または2種以上を用いることができる。なお、支持塩の濃度は、従来のリチウムイオン二次電池で使用される非水電解液と同様でよく特に限定されないが、例えば上記支持塩を0.1mol/L〜5mol/L程度の濃度で含有させた電解液を好適に使用することができる。
【0043】
上記電解液を注液した後、上記開口部分を蓋体23との溶接等により封止することで、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池100が構築される。ケース21の封止プロセスや電解液の配置(注液)プロセスは、従来のリチウムイオン二次電池の製造で行われている手法と同様でよく、本発明を特徴付けるものではない。
【0044】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明において「部」および「%」は、特に断りがない限り質量基準である。
【0045】
<例1〜例24>
(1)負極シートの作製
負極活物質としての天然黒鉛(電子顕微鏡(SEM)観察に基づく平均粒子径D50が11μmのもの)を非晶質炭素で被覆し、炭素材料の比表面積を3.0m/gとした炭素材料を得た。この炭素材料と、結着材としての変性スチレンブタジエンゴムと、増粘材としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、これらの材料の質量比が98:1:1となるように秤量し、これらの材料をイオン交換水と混合して、ペースト状の負極合材層形成用組成物を調製した。この組成物を、長尺状銅箔から構成される負極集電体(厚さ10μm)の両面に合計塗布量が7.5mg/cm(固形分基準)となるように塗布した。塗布後、120℃で20秒間乾燥させ、該塗布物にプレス処理を行い、負極集電体上に負極合材層を形成した。この負極集電体とその上に形成された負極合材層とからなる負極合材層形成物を複数用意し、これらの負極合材層形成物を、それぞれ温度25℃、35℃、45℃、60℃で、かつ、各温度にて相対湿度20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%の条件下に2時間保持した。このようにして例1〜例24に係るシート状の負極(負極シート)を作製した。
【0046】
(2)正極シートの作製
正極活物質としてのニッケルマンガンコバルト酸リチウム(Li[Ni1/3Mn1/3Co1/3)粉末と、導電剤としてのアセチレンブラックと、結着材としてのCMCとを、これらの材料の質量比が90:5:5となるようにイオン交換水中で混合して、ペースト状の正極合材層形成用組成物を調製した。この組成物を、長尺シート状のアルミニウム箔(正極集電体;厚み15μm)の両面に合計塗布量が17mg/cm(固形分基準)となるように塗布して乾燥させた後、プレス処理を行い、シート状の正極(正極シート)を作製した。
【0047】
(3)リチウムイオン二次電池の構築
作製した負極シートと正極シートとを二枚の長尺状ポリオレフィン系セパレータ(ここでは厚みが25μmの多孔質ポリエチレンシートを用いた。)とともに積層し、その積層シートを長尺方向に捲回して捲回電極体を作製した。この捲回電極体を電解液とともに円筒型の容器に収容することにより、例1〜例24に係る18650型のリチウムイオン二次電池(理論容量223mAh、4.1V充電〜3V放電)を構築した。電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との3:3:4(質量比)混合溶媒に支持塩として約1mol/LのLiPFを溶解させたものを用いた。
【0048】
<例25〜例27>
負極合材層の乾燥後であってプレス処理の前に、各負極合材層形成物を温度35℃、45℃、60℃で相対湿度50%の条件下に保持した他は、例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を構築した。
【0049】
[反応抵抗測定]
上記のように作製した各リチウムイオン二次電池に対して、25℃の温度条件下において適当なコンディショニング処理(0.2Cの充電レートで4.1Vまで定電流定電圧で充電する操作と、0.2Cの放電レートで3.0Vまで定電流定電圧放電させる操作を3回繰り返す初期充放電処理)を行った後、SOC40%の充電状態に調整した。そして、各リチウムイオン二次電池に対して−30℃の温度条件下において周波数10mHz〜1MHzにて交流インピーダンス法により反応抵抗を測定した。負極合材層のプレス処理後に温度25℃および相対湿度50%の条件下で保持した例4に係るリチウムイオン二次電池の反応抵抗を100(基準)として、各例に係るリチウムイオン二次電池の反応抵抗を反応抵抗変化率として指数で表した。この指数表記では、反応抵抗変化率の値が小さいほど反応抵抗が小さく、値が大きいほど反応抵抗が大きいことを表す。その結果を表1および図3に示す。なお、表1には、各例における負極合材層の保持条件(保持時期、温度および湿度)も示した。なお、表中T×Hは、T(温度(K))×H(相対湿度(%)×10−2)を示したものである。また、例4,例9および例11に係るリチウムイオン二次電池の−30℃におけるインピーダンスを図4に示し、例4,例25,例26および例27に係るリチウムイオン二次電池の−30℃におけるインピーダンスを図5に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
表1および図3に示されるように、負極合材層を保持する条件として、温度35℃以上70℃以下および相対湿度30%以上75%以下、かつ、式:T×H≦220(Tは温度(K)であり、Hは相対湿度(%)/100である。)を満たす例7〜例11,例14〜例17,例20〜例23に係るリチウムイオン二次電池は、−30℃における反応抵抗が、上記保持を温度25℃、相対湿度50%で行った例4に係るリチウムイオン二次電池と比べて低かったことがわかる。同様の傾向は、図4からも見てとれる。
一方、上記保持を、温度が35℃未満か70℃を超え、もしくは相対湿度が30%未満か75%を超え、または式:T×Hが220より大きい条件下で行った例1〜例3,例5,例6,例12,例13,例18,例19,例24に係るリチウムイオン二次電池は、−30℃における反応抵抗が、実質的に保持を行っていない例4と同程度であった。
このように、負極合材層を所定の温度および湿度条件下に保持することにより、該負極合材層が形成された負極を備えるリチウムイオン二次電池の低温時における反応抵抗の増大が抑制されたことを判る。
【0052】
また、上記保持を、プレス処理前に行った例25〜例27のリチウムイオン二次電池も、−30℃における反応抵抗が、実質的に保持を行っていない例4に係るリチウムイオン二次電池と比べて低かったことがわかる。
このように、上記保持を、プレス処理の前後のいずれのタイミングで行っても、リチウムイオン二次電池の低温時における反応抵抗の増大が抑制されたことを判る。
【0053】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0054】
1 負極集電体
2 負極合材層
10 負極(負極シート)
11 負極側はみ出し部分(負極合材層非形成部分)
21 ケース
22 ケース本体
23 蓋体
25 正極端子
26 正極リード端子
27 負極端子
28 負極リード端子
50 正極(正極シート)
51 正極側はみ出し部分(正極合材層非形成部分)
60 セパレータ(シート)
80 捲回電極体
82 捲回コア部分
100 リチウムイオン二次電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムを挿入/脱離可能な炭素材料からなる負極活物質を主成分とし、結着材と水溶性増粘材と水系溶媒とを含む負極合材層形成用組成物を負極集電体上に塗布して該負極集電体上に負極合材層を形成すること、および
前記形成した負極合材層を、温度35℃以上70℃以下および相対湿度30%以上75%以下、かつ、式:
T×H≦220
(Tは温度(K)であり、Hは相対湿度(%)/100である。)
を満たす条件下に保持すること、
を包含する、リチウムイオン二次電池用負極の製造方法。
【請求項2】
前記保持を、少なくとも1時間またはそれ以上行う、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記保持を、前記負極をリール状に巻いた状態で行う、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記形成した負極合材層にプレス処理を行い、その後、前記条件下で保持を行う、請求項2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記保持を、温度40℃以上65℃以下および相対湿度35%以上55%以下の条件下で行う、請求項1から4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記水溶性増粘材がセルロース誘導体である、請求項1から5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
リチウムを挿入/脱離可能な正極活物質を主成分として形成された正極合材層を正極集電体上に備えた正極を構築すること、
リチウムを挿入/脱離可能な炭素材料からなる負極活物質を主成分として形成された負極合材層を負極集電体上に備えた負極を構築すること、および
前記正極および前記負極を用いてリチウムイオン二次電池を構築すること、
を包含し、
ここで、前記負極として、請求項1から6のいずれかに記載の製造方法によって得られた負極を用いることを特徴とする、リチウムイオン二次電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−84399(P2013−84399A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−222339(P2011−222339)
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】