説明

リチウムイオン二次電池用負極及びその製造方法

【課題】負極作製時のしわ等がなく、充放電時の膨張収縮による活物質の剥離を抑制し、サイクル特性に優れたLiイオン二次電池用負極及び製造方法を提供する。
【解決手段】Siを含む活物質を集電体上に配置したLiイオン二次電池用負極で、バインダが、式(1)のSi含有ポリイミド樹脂を含むLiイオン二次電池用負極〔Xは4価の有機基、Yは2価の有機基、nは1〜10,000整数、Tは式(2)で示される官能基(R〜RはC1〜8の炭化水素基又は酸素含有炭化水素基、mは1〜8の整数)〕



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケイ素を含む負極活物質とバインダーとを含む活物質合材層を、負極集電体の表面上に配置したリチウムイオン二次電池用負極、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、リチウム(Li)を挿入及び脱離することができる活物質を正極及び負極にそれぞれ有する。そして、両極間に設けられた電解液内をLiイオンが移動することによって動作する。
かかるリチウムイオン二次電池は、小型で大容量であるため、携帯電話やノートパソコンといった幅広い分野で用いられている。
【0003】
近年、リチウムイオン二次電池の高出力化のために、負極活物質にケイ素(Si)を含む活物質を用いたリチウムイオン二次電池が提案されている。
しかしながら、ケイ素を含む活物質は、従来から負極活物質として用いられてきた黒鉛よりも、充放電に伴う体積膨張収縮が数倍大きい。そのため、活物質同士、あるいは活物質と集電体とが剥離しやすく、また、活物質が微粉化しやすく、これら剥離や微粉化の影響により集電性が低下し、充放電サイクル特性が悪くなるといった問題があった。また、電池使用時の温度変化による、活物質や集電体の体積膨張収縮も問題となっていた。
【0004】
また、ケイ素を含む活物質を用いたリチウムイオン二次電池の負極バインダーには、高強度なポリイミドが好適に用いられる。バインダーをポリイミドとする場合、通常、ポリイミド前駆体を焼結処理(イミド化)することにより負極を作製する。
しかしながら、焼結処理温度は通常200℃以上と非常に高温であり、集電体と活物質合材層との線膨張率の差により、バインダーと集電体との接触界面において歪みが生じ、応力が発生し、得られる負極にしわやカールが生じ易いという問題があった。
【0005】
そこで、焼結処理等の際における、このような歪みや応力が発生するのを抑制するため、特許文献1では、1〜300ppm/℃の線膨張率を持つ熱可塑性ポリイミドを用いる技術が開示されている。しかしながら、その抑制力は、まだなお十分とはいえなかった。
【0006】
また、集電体と活物質との接着性を向上させるために、バインダーとして、特許文献2では、シラン変性ポリアミック酸をゾル−ゲル硬化及び脱水閉環させたポリイミドシリカハイブリッド樹脂を用い、特許文献3では、シロキサン含有ポリイミドを用いる方法が提案されている。しかしながら、これらの文献記載のポリイミド樹脂は、線膨張率の制御が難しいといった問題があった。
【0007】
本発明に関連して、特許文献4では、燃料電池の電解質膜として、末端にアルコキシシリル基を有するポリイミドを用いた例が記載されている。
しかしながら、特許文献4には、末端のアルコキシシリル基の、他物質との付着力の重要性や、線膨張率の重要性、リチウムイオン二次電池負極用バインダーへの展開等については言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2004/004031号パンフレット
【特許文献2】特開2011−86427号公報
【特許文献3】特開2010−238562号公報
【特許文献4】国際公開第2008/123522号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記した従来技術に鑑みてなされたものであり、その目的は、負極活物質としてケイ素を含む材料を用いた場合においても、負極作製時のしわやカールの発生がなく、充放電時の物理的・温度的膨張収縮による、活物質同士、あるいは活物質と集電体の剥離を抑制でき、サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を得ることができるリチウムイオン二次電池用負極、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討を重ねた。その結果、バインダーとして、後述する式(1)で表される、末端に、ケイ素含有基を有するポリイミド樹脂を用いると、負極作製時のしわやカールの発生がなく、充放電時の物理的・温度的膨張収縮による、活物質同士、あるいは活物質と集電体の剥離を抑制でき、サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を得ることができることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0011】
かくして本発明によれば、下記〔1〕〜〔3〕のリチウムイオン二次電池用負極、及び〔4〕のリチウムイオン二次電池用負極の製造方法が提供される。
【0012】
〔1〕ケイ素を含む負極活物質とバインダーとを含む活物質合材層を、負極集電体の表面上に配置したリチウムイオン二次電池用負極であって、
前記バインダーが、下記式(1)で表されるケイ素含有ポリイミド樹脂を含んでなるものであることを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極。
【0013】
【化1】

【0014】
〔式中、Xは4価の有機基を表し、Yは2価の有機基を表し、nは、1〜10,000の整数を表す。Tは、式(2)
【0015】
【化2】

【0016】
(式中、R〜Rはそれぞれ独立して、炭素数1〜8の炭化水素基又は炭素数1〜8の酸素含有炭化水素基を表し、mは1〜8の整数を表す。)で示されるケイ素含有基を表す。〕
【0017】
〔2〕前記ケイ素含有ポリイミド樹脂が、2〜30ppm/℃の線膨張率を有するものであることを特徴とする〔1〕に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
〔3〕前記ケイ素含有ポリイミド樹脂が、下記式(3)で表されるケイ素含有ポリイミド前駆体樹脂をイミド化して得られたものであることを特徴とする〔1〕又は〔2〕に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【0018】
【化3】

【0019】
(式中、T、X、Y及びnは、前記と同じ意味を表す。Rは、水素原子または炭素数1〜8の炭化水素基を表す。)
〔4〕ケイ素を含む負極活物質と、下記式(3)で表されるケイ素含有ポリイミド前駆体樹脂とを含む負極合材スラリーを、負極集電体の表面上に塗布した後、30〜130℃で予備乾燥を行い、圧延した後、前記ケイ素含有ポリイミド前駆体樹脂をイミド化する工程を有することを特徴とする〔1〕又は〔2〕に記載のリチウムイオン二次電池用負極の製造方法。
【0020】
【化4】

【0021】
(式中、T、X、Y、n及びRは、前記と同じ意味を表す。)
【発明の効果】
【0022】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極は、その作製時にしわやカールが発生せず、活物質と集電体、又は活物質同士が剥離したり、活物質が微粉化することがないものであるので、集電性が低下しない、充放電サイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池を好適に作製することができる。
本発明のリチウムイオン二次電池用負極の製造方法によれば、本発明のリチウムイオン二次電池用負極を効率よく製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を、1)リチウムイオン二次電池用負極、及び、2)リチウムイオン二次電池用負極の製造方法、に項分けして、詳細に説明する。
【0024】
1)リチウムイオン二次電池用負極
本発明のリチウムイオン二次電池用負極は、ケイ素(Si)を含む負極活物質とバインダーとを含む活物質合材層を、負極集電体の表面上に配置したリチウムイオン二次電池用負極であって、前記バインダーが、前記式(1)で表されるケイ素含有ポリイミド樹脂を含んでなるものであることを特徴とする。
【0025】
〈ケイ素を含む負極活物質〉
本発明に用いるケイ素(Si)を含む負極活物質(以下、単に「負極活物質」ということがある。)は、Siを含む負極活物質であれば、特に制約はない。例えば、Siの単体;Siを含む酸化物(酸化ケイ素等)、Siを含む窒化物(窒化ケイ素等)等のSi化合物;、及びSiを含む合金(ケイ素と他の1種以上の元素との固溶体、ケイ素と他の1種以上の元素との金属間化合物、ケイ素と他の1種以上の元素との共晶合金等);等が挙げられる。
これらは、1種単独で、或いは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
また、負極活物質は、Siの単体、Siの化合物、Siを含む合金以外に、他の活物質を含んでいてもよい。他の活物質としては、黒鉛、Sn、Al、Ag、Zn、Ge、Cd、Pd等が挙げられる。他の活物質は、1種単独でも、或いは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
負極活物質の平均粒径は、通常、0.01〜100μm、好ましくは1〜10μmである。なお、負極活物質は、結晶質であってもよいし、非晶質であってもよい。
【0028】
〈バインダー〉
本発明に用いるバインダーは、末端にケイ素含有基を有する、前記式(1)で表されるケイ素含有ポリイミド樹脂(以下、「ケイ素含有ポリイミド樹脂(1)」ということがある。)を含有するものである。バインダーは、負極活物質同士或いは負極活物質と集電体を結着させ、導電ネットワークを形成してその構造を維持する役割を有する。
【0029】
前記ケイ素含有ポリイミド樹脂(1)の含有量は、バインダー全体に対して、通常90重量%以上、好ましくは95重量%以上、より好ましくは98重量%以上である。
【0030】
前記式(1)中、Tは前記式(2)で表されるケイ素含有基を表す。
前記式(2)中、R〜Rはそれぞれ独立して、炭素数1〜8の炭化水素基又は炭素数1〜8の酸素含有炭化水素基を表す。
【0031】
〜Rの炭素数1〜8の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基等の、炭素数1〜8のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の、炭素数3〜8のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基等の、炭素数2〜8のアルケニル基;シクロヘキセニル基等のシクロアルケニル基;エチニル基、1−プロピニル基等の、炭素数2〜8のアルキニル基;フェニル基、トリル基等の、炭素数6〜8のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等の、炭素数7又は8のアラルキル基;等が挙げられる。
【0032】
炭素数1〜8の酸素含有炭化水素基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等の、炭素数1〜8のアルコキシ基;メトキシメチル基、メトキシエチル基等の総炭素数2〜8のアルコキシアルキル基;アセチル基、ベンゾイル基等の。総炭素数2〜8のアシル基;メトキシカルボニル基等の総炭素数2〜8のアルコキシカルボニル基;アセトキシ基、ベンゾイルオキシ基等の、総炭素数2〜8のアシロキシ基;等が挙げられる。
これらの中でも、R〜Rの炭素数1〜8の炭化水素基としては、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシ基が好ましく、メチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基がより好ましく、メチル基、エチル基が特に好ましい。
mは、1〜8の整数であり、好ましくは1〜5の整数、より好ましくは1〜4の整数である。
【0033】
Tの具体例としては、トリメトキシシリルメチル基、トリエトキシシリルメチル基、メチルジエトキシシリルメチル基、ジメチルエトキシシリルメチル基等のmが1である基;1−トリメトキシシリルエチル基、2−トリメトキシシリルエチル基、1−(トリエトキシシリル)エチル基、2−(トリエトキシシリル)エチル基、2−(ジメトキシメチルシリル)エチル基、2−(ジエトキシメチルシリル)エチル基等のmが2である基;3−(トリメトキシシリル)プロピル基、3−(ジメトキシメチルシリル)プロピル基、3−(ジメチルメトキシシリル)プロピル基、3−(トリエトキシシリル)プロピル基、3−(メチルジエトキシシリル)プロピル基、3−(ジメチルエトキシシリル)プロピル基等のmが3である基;4−(トリメトキシシリル)ブチル基、4−(ジメトキシメチルシリル)ブチル基、4−(メトキシジメチルシリル)ブチル基、4−(トリエトキシシリル)ブチル基、4−(ジエトキシメチルシリル)ブチル基、4−(エトキシジメチル)シリルブチル基等のmが4である基;等が挙げられる。
【0034】
式(1)中、Xは4価の有機基を表す。4価の有機基としては、環状構造を有するものが好ましい。ここで、環状構造の環としては、芳香環、脂肪族環等が挙げられるが、芳香環であるのが好ましい。
Xとしては、具体的には、後述する式(4)で表される化合物として例示される酸無水物由来の4価の有機基が挙げられる。そのうちの一例を以下に示す。
【0035】
【化5】

【0036】
【化6】

【0037】
Yは2価の有機基を表す。2価の有機基としては、環状構造を有するものが好ましい。ここで、環状構造の環としては、芳香環、複素環等が挙げられるが、芳香環であるのが好ましい。具体的には、後述する式(5)で表される化合物として例示されるジアミン類由来の2価の有機基が挙げられる。そのうちの一例を以下に示す。
【0038】
【化7】

【0039】
なお、これらの基は、1種単独で、或いは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
nは、1〜10,000の整数であり、10〜10,000が好ましく、10〜5,000であるのがより好ましい。
【0040】
本発明に用いるケイ素含有ポリイミド樹脂(1)としては、前記式(3)で表される、末端にSi含有基を有するポリイミド前駆体樹脂(以下、「ポリイミド前駆体樹脂(3)」ということがある。)をイミド化して得られたものであるのが好ましい。
ポリイミド前駆体樹脂(3)を用いることにより、本発明のリチウムイオン二次電池用負極をより簡便に形成することができる。
【0041】
前記式(3)中、T、X、Y及びnは、前記と同じ意味を表す。
Rは、水素原子又は炭素数1〜8の炭化水素基を表す。
Rの炭素数1〜8の炭化水素基としては、前記R〜Rの炭素数1〜8の炭化水素基として例示したのと同様のものが挙げられる。
【0042】
ポリイミド前駆体樹脂(3)をイミド化する方法としては、公知の熱イミド化方法、化学イミド化方法等が挙げられる。
熱イミド化方法は、ポリイミド前駆体樹脂(3)が脱水閉環反応を起こす温度、具体的には130〜450℃、好ましくは300〜400℃に加熱する方法である。加熱する方法としては、最高温度まで一段階で昇温する方法、多段階で昇温する方法のどちらでもよい。
加熱時間は、反応規模等にもよるが、通常数分から1日、好ましくは30分から数時間である。
加熱は、大気中で行ってもよいが、真空中、又は、窒素、ヘリウム等の不活性ガス雰囲気中で行うのが好ましい。
【0043】
化学イミド化方法は、化学イミド化剤を含む溶液にポリイミド前駆体樹脂(3)を浸漬し、脱水閉環させ、その後乾燥させる方法である。
化学イミド化剤としては、従来公知のものを使用することができる。例えば、脂肪族酸無水物、芳香族酸無水物を脱水剤として用い、トリエチルアミン等の第三級アミンを触媒として用いてもよいし、特開平4−339835号公報に記載のように、イミダ−ル、ベンズイミダゾ−ル、もしくはそれらの置換誘導体を用いてもよい。
【0044】
イミド化の進行は、IRスペクトル等で分析することにより確認することができる。具体的には、ポリイミド前駆体樹脂溶液(反応混合物)を、ガラス基板上に塗布し、予備乾燥後、IRスペクトルを確認すると、イミド結合特有の1780cm−1付近のスペクトルが見えないことから確認することができる。
【0045】
得られるケイ素含有ポリイミド樹脂(1)の線膨張率は、2〜30ppm/℃であるのが好ましく、2〜25ppm/℃であるのがより好ましく、2〜20ppm/℃であるのが特に好ましい。
このようなケイ素含有ポリイミド樹脂(1)を用いることにより、集電性が低下しない、充放電サイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池を得ることができる。
【0046】
なお、ポリイミド前駆体樹脂(3)は、例えば、下記式に示すように、式(2a)で表されるSi含有末端変性剤(Si含有末端変性剤(2a))、式(4)で表されるテトラカルボン酸二無水物(テトラカルボン酸二無水物(4))、及び、式(5)で表されるジアミン化合物(ジアミン化合物(5))を、溶媒中で混合、攪拌することにより得ることができる。
【0047】
【化8】

【0048】
式中、R〜R、R、X、Y、m及びnは、前記と同じ意味を表す。
【0049】
式(2a)で表されるSi含有末端変性剤としては、具体的には、アミノメチルトリメトキシシラン、アミノメチルトリエトキシシラン、アミノメチルメチルジエトキシシラン、アミノメチルジメチルエトキシシラン、アミノメチルメチルジメトキシシラン等のアミノメチルシラン類;1−(アミノエチル)トリエトキシシラン、2−(アミノエチル)トリエトキシシラン、2−(アミノエチル)ジメトキシメチルシラン等の2−アミノエチルシラン類;3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3−アミノプロピルジメチルメトキシシラン、3−アミノプロピルジメチルエトキシシラン等の3−アミノプロピルシラン類;4−アミノブチルトリメトキシシラン、4−アミノブチルメチルジメトキシシラン、4−アミノブチルジメチルメトキシシラン、4−アミノブチルトリエトキシシラン、4−アミノブチルメチルジエトキシシラン、4−アミノブチルジメチルエトキシシラン等の4−アミノブチルシラン類;等が挙げられる。
これらの化合物は、1種単独で、或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0050】
テトラカルボン酸二無水物(4)としては、例えば、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸無水物、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,3’,4,4’−テトラカルボキシフェニル)テトラフルオロプロパン二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシフェニル)スルホン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸無水物、ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸無水物等が挙げられる。
【0051】
これらの中でも、好ましい線膨張率や優れた耐熱性が得られる観点から、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸無水物を用いるのが好ましい。
なお、これらの化合物は、1種単独で、或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0052】
ジアミン化合物(5)としては、例えば、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2−ジ(3−アミノフェニル)プロパン、2,2−ジ(4−アミノフェニル)プロパン、2−(3−アミノフェニル)−2−(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ジ(3−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ジ(4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2−(3−アミノフェニル)−2−(4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、1,1−ジ(3−アミノフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ジ(4−アミノフェニル)−1−フェニルエタン、1−(3−アミノフェニル)−1−(4−アミノフェニル)−1−フェニルエタン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(3− アミノ−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、2,6−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゾニトリル、2,6−ビス(3−アミノフェノキシ)ピリジン、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、4,4’−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾフェノン、4,4’−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ジフェニルスルホン、4,4’−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ]ジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジフェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジビフェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4−フェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4−ビフェノキシベンゾフェノン、5−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンゾオキサゾール、2,2’−ジ(p−アミノフェニル)−6,6’−ビスベンゾオキサゾール、2−(4−アミノフェニル)−6−アミノベンゾオキサゾール、N−(4−アミノフェニル)−4−アミノベンズアミド、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)テレフタルアミド、4−アミノフェニル−4−アミノベンゾエート、2,2‘−ジメチルビフェニル−4,4’−ジアミン等が挙げられる。
【0053】
これらの中でも、コストの面からは、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミンが好ましく、活物質の分散性の観点からは、2,2’−ジ(p−アミノフェニル)−6,6’−ビスベンゾオキサゾール、2−(4−アミノフェニル)−6−アミノベンゾオキサゾールが好ましい。
なお、これらの化合物は、1種単独で、或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0054】
Si含有末端変性剤(2a)、テトラカルボン酸二無水物(4)及びジアミン化合物(5)の混合割合は、質量比で、通常、(Si含有末端変性剤(2a)):(テトラカルボン酸二無水物(4)):(ジアミン化合物(5))=100:80〜100:5〜15、好ましくは、100:90〜100:5〜12である。
【0055】
用いる溶媒としては、反応に不活性なものであれば特に制約はなく、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルカプロラクタム等のアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルフォスホルムアミド、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホン、ジメチルテトラメチレンスルホン等の含硫黄系溶媒;クレゾール、フェノール、キシレノール等のフェノール系溶媒;ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム)、テトラグライム等のジグライム系溶媒;γ−ブチロラクトン等のラクトン系溶媒;イソホロン、シクロヘキサノン、3,3,5−トリメチルシクロヘキサノン等のケトン系溶媒;ピリジン、エチレングリコール、ジオキサン、テトラメチル尿素等のその他の溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;等が挙げられる。これらの溶媒は1種単独で、或いは2種以上を混合して用いることができる。
溶媒の使用量は、得られる負極合材スラリーが、後の負極合材層形成において集電体に付与されるのに適した粘度、具体的には、室温における回転式粘度計による値で、0.5〜10Pa・sになるように選定することが望ましい。
【0056】
反応温度は、通常0〜100℃、好ましくは10〜50℃、より好ましくは15〜35℃である。
反応時間は、反応規模等にもよるが、通常数十分から数日、好ましくは数時間から48時間である。
得られるポリイミド前駆体樹脂(3)は、単離することなく、溶媒溶液のまま、次のイミド化工程に供することができる。
【0057】
〈活物質合材層〉
本発明において用いる活物質合材層は、前記Siを含む負極活物質と前記ケイ素含有ポリイミド樹脂(1)を含んでなるバインダーとを含有するが、その他に、導電補助材を含むことが好ましい。
導電補助材としては、特に制限されないが、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー等の導電性炭素材料を用いるのが好ましい。
導電補助材の配合割合は、負極活物質、バインダー及び導電補助材の合計を100質量%としたとき、通常1〜20質量%、好ましくは4〜6質量%である。導電補助材が少なすぎると良好な導電ネットワークを形成できず、また、導電補助材が多すぎると電極の成形性が悪くなるとともに電極のエネルギー密度が低くなる。
【0058】
〈負極集電体〉
本発明において、負極集電体としては、従来公知のものを使用することができる。具体的には、ステンレス鋼、チタン、ニッケル、アルミニウム、銅等の導電性の金属材料又は導電性樹脂からなる、多孔性又は無孔の導電性基板;メッシュ体、ネット体、パンチングシート、ラス体、多孔質体、発泡体、不織布等の繊維群成形体等の多孔性導電性基板;箔、シート、フィルム等の無孔の導電性基板;等が挙げられる。
【0059】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極は、負極活物質と、ケイ素含有ポリイミド樹脂(1)を含有するバインダーとを含む活物質合材層が、負極集電体の表面上に配置されてなるものである。
本発明のリチウムイオン二次電池用負極の製造方法としては、特に制約はなく、従来公知の製造方法が挙げられる。なかでも、後述する本発明のリチウムイオン二次電池用負極の製造方法が好ましい。
本発明のリチウムイオン二次電池用負極によれば、Siを含む負極活物質を使用していても、負極作製時のしわやカールの発生がなく、充放電時の物理的・温度的膨張収縮による、活物質と集電体、又は活物質同士の剥離を抑制でき、サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を得ることができる。
【0060】
2)リチウムイオン二次電池用負極の製造方法
本発明のリチウムイオン二次電池用負極の製造方法は、前記Siを含む負極活物質と、前記ポリイミド前駆体樹脂(3)とを含む負極合材スラリーを、負極集電体の表面上に塗布した後、30〜130℃で予備乾燥を行い、圧延した後、前記ポリイミド前駆体樹脂をイミド化する工程を有することを特徴とする。
本発明の製造方法によれば、本発明のリチウムイオン二次電池用負極を効率よく製造することができる。
【0061】
用いる負極合材スラリーには、前記Siを含む負極活物質とポリイミド前駆体樹脂(3)に加えて、前記導電補助材を含むのが好ましい。
負極合材スラリーの調製方法としては、前記ポリイミド前駆体(3)に、負極活物質を添加して混合し、後に導電補助材を添加して混合する方法;ポリイミド前駆体樹脂(3)の製造重合時に、負極活物質及び導電補助剤を添加し混合する方法;等が挙げられ、操作が簡便であることから、前者の方法が好ましい。
【0062】
ポリイミド前駆体樹脂(3)、負極活物質、及び導電補助材の質量混合比は、ポリイミド前駆体樹脂(3):負極活物質:導電補助材=1〜30:50〜99:1〜20であるのが好ましく、1〜20:60〜95:1〜20であるのがより好ましく、1〜15:70〜95:1〜15であるのがさらに好ましく、1〜10:80〜95:1〜10であるのが特に好ましい。
なお、用いるポリイミド前駆体樹脂(3)、負極活物質、及び導電補助材としては、前記1)で例示したのと同様のものが挙げられる。
ポリイミド前駆体樹脂(3)は、前述の通り、反応終了後、溶媒を除去せずに反応混合物溶液のまま用いることができる。
【0063】
ポリイミド前駆体樹脂(3)、負極活物質、及び導電補助材を混合する際には、従来公知の、プラネタリーミキサー、脱泡ニーダー、ボールミル、ペイントシェーカー、振動ミル、ライカイ機、アジテーターミル等の一般的な混合装置を使用すればよい。
【0064】
負極合材スラリーの粘度は、次工程で集電体上に塗りやすい粘度であればよく、必要に応じて前記ポリイミド前駆体樹脂の製造時に使用した溶剤の増減により粘度調整することができる。具体的には、25℃における回転式(B型)粘度計による値で、1000〜9000mPa・sになるように選定するのが好ましい。
【0065】
得られた負極合材スラリーを負極集電体の表面上に塗布する方法としては、従来公知の、ドクターブレード、バーコーター等の装置を用いて塗布する方法が挙げられる。
形成される活物質合材層の厚みは、乾燥前厚みで、通常10〜500μm程度である。
【0066】
塗布後は予備乾燥を行う。予備乾燥とは、用いた溶媒がある程度蒸発し、スラリーが集電体上で液ダレせず、空気中の水分を吸って白化しない程度の乾燥を意味する。予備乾燥を行うことにより、負極活性物質と集電体との密着性が向上する。
【0067】
予備乾燥温度は、熱イミド化を起こさない、30〜130℃の範囲である。予備乾燥温度が30℃より低いと乾燥が不十分となり、130℃より高温であると、熱イミド化が進行し、目的とする線膨張率が得られないおそれがある。
乾燥時間は、通常1〜60分である。乾燥時間が1分より短いと乾燥が不十分となり、60分より長く加熱しても残留溶媒量はほとんど変わらない。
【0068】
次に圧延を行う。圧延することにより、所望の厚み、密度になるように負極を成形することができる。圧延する方法としては、特に制約はなく、ロールプレス、加圧プレスによる公知の方法が挙げられる。
【0069】
次に行うイミド化は、前述の、熱イミド化方法又は化学イミド化方法によって行うことができる。
イミド化を行った後には、さらに、ロールプレス、加圧プレス等の公知の方法により、所望の厚み、密度になるように負極を成形してもよい。得られるシート状のリチウムイオン二次電池用負極は、作製するリチウムイオン二次電池の仕様に応じた寸法に裁断して用いられる。
【実施例】
【0070】
以下、実施例を挙げて、本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0071】
(実施例1)
(1)負極バインダー前駆体の作製
3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物と、2,2’−ジ(p−アミノフェニル)−6,6’−ビスベンゾオキサゾールと、3−アミノプロピルジエトキシメチルシランとを、モル比(3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物:2,2’−ジ(p−アミノフェニル)−6,6’−ビスベンゾオキサゾール:3−アミノプロピルジエトキシメチルシラン)が100:96:8となるように、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)120mlに溶解し、室温で24時間攪拌・重合し、負極バインダー前駆体溶液α1を得た。
【0072】
(2)負極合材スラリーの作製
負極活物質として粒径10μm以下のSi粉末(純度99.9%)と、導電補助材として平均粒径3μmの黒鉛粉末と、上記作製の負極バインダー前駆体溶液α1とを重量比(Si粉末:黒鉛粉末:負極バインダー前駆体溶液α1)が80:10:10となるように混合し、負極合材スラリーとした。
【0073】
(3)負極の作製
(2)で作製した負極合材スラリーを、集電体である圧延銅箔(厚さ30μm)の片面に塗布し、130℃で10分間予備乾燥を行い、溶剤を除去し、これを圧延した。得られたものを窒素雰囲気下、350℃で60分間加熱し、熱イミド化を完結したものを負極とした。この際、得られた負極はカールせず、活物質層の剥離も起こってはいなかった。
上記負極の熱処理によって、バインダー前駆体溶液α1からポリイミド化合物が生成したことを確認するために以下の試験1を行った。
【0074】
(試験1)
バインダー前駆体溶液α1を、130℃で10分間予備乾燥を行い、溶剤を除去し、窒素雰囲気下350℃で60分間加熱し、赤外線吸収スペクトルを測定した。その結果、1780cm−1付近にイミド結合由来のピークが検出された。これにより、バインダー前駆体溶液α1の熱処理により、イミド化反応が進行してポリイミド化合物が生成したことが確認された。
【0075】
また、上記負極の熱処理によって、生成したポリイミド樹脂が有する線膨張率を測定するために以下の試験2を行った。
【0076】
(試験2)
バインダー前駆体溶液α1を、130℃で10分間予備乾燥を行い溶剤を除去し、窒素雰囲気下350℃で60分間加熱し、ポリイミド膜を得た。この膜について、熱機械的分析装置(TMA)を用いて線膨張率の測定を行ったところ、5ppm/℃を示しており、負極活物質(Si)と同程度の線膨張率を有していた。
【0077】
〈接着力・結着力評価〉
実施例1で作製した負極中のバインダーと集電体であるCuとの接着力、又は負極活物質であるSi粉末との結着力を評価するために以下の試験を行った。
【0078】
実施例1で作製した負極を10mm角に切り抜き、上面(負極合材層側)にエポキシ接着剤付きアルミ製ピン(直径2.7mm)を、下面(銅箔側)にエポキシ接着剤付きセラミック板(11mm角)を設置し、アルミ製クリップで3つを挟み込んで固定した。これを窒素雰囲気下150℃で60分間加熱し、アルミ製ピン、活物質合材層付き負極、及びセラミック板を接着した。これを、付着力試験機(品名:ロミュラス薄膜密着強度測定機、Quad Group社製)を用いて、接着力(バインダーを介した活物質と集電体との付着力)又は結着力(バインダーを介した活物質同士の付着力)を、下記の基準で判定した。この値が大きいほど接着力又は結着力が強いことを表す。
【0079】
A : 20MPa以上
B : 15MPa以上20MPa未満
C : 10MPa以上15MPa未満
D : 5MPa以上10MPa未満
E : 5MPa未満
試験の結果、評価は、Aであった。
【0080】
〈サイクル特性評価〉
実施例1で得られた負極を用いて、下記のようにしてリチウムイオン二次電池を作製し、サイクル特性を評価した。
(i)正極の作製
LiCoO(品名:セルシードC−10N、日本化学工業社製)100部に対し、ポリ二フッ化ビニリデン(PVDF)2部(固形分相当)及び導電剤としてアセチレンブラック2部を混合し、更にN−メチルピロリドンを固形分濃度が80%になるように混合してプラネタリーミキサーで混合して正極用スラリーを調製した。この正極用スラリーをコンマコーターで厚さ20μmのアルミ箔上に、乾燥後の膜厚が120μm程度になるように塗布し、60℃で20分間乾燥後、150℃で2時間加熱処理して電極原反を得た。この電極原反をロールプレスで圧延し、密度が3.7g/cm、銅箔及び正極活物質層の合計厚みが100μmに制御された正極を作製した。
【0081】
(ii)電池の作製
実施例1で得られた負極を14mmの円形に、(i)で作製した正極を13mmの円形に打ち抜き、直径16mm、乾式法により製造された厚さ25μmの単層のポリプロピレン製セパレーター(気孔率55%)を介在させて、互いに活物質層を対向させて、ポリプロピレン製パッキンを配置したステンレス鋼製の外装容器中(直径20mm、高さ1.8mm、ステンレス鋼厚さ0.2mm)に収納した。容器中に、LiPFを1mol/Lの濃度でエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート=1/2(容積比)の混合溶媒に溶解させた電解液(キシダ化学社製)を、空気が残らないように、注入して、厚さ0.2mmのステンレス鋼のキャップをかぶせて、ポリプロピレン製パッキンを介して外装容器とキャップを固定し、それぞれキャップに銅箔が、容器低面にアルミ箔が接触するように内容物を封止して、直径20mm、厚さ2.0mmのコイン型電池β1を製造した。
【0082】
(iii)サイクル特性評価
得られたリチウムイオン二次電池を用いて、それぞれ20℃で0.1Cの定電流で4.2Vまで充電し、0.1Cの定電流で3.0Vまで放電する充放電サイクルを行った。充放電サイクルは100サイクルまで行い、初期放電容量に対する100サイクル目の放電容量の比を容量維持率とし、下記の基準で判定した。この値が大きいほど繰り返し充放電による容量減が少ないことを示す。
【0083】
A : 80%以上
B : 75%以上80%未満
C : 70%以上75%未満
D : 50%以上70%未満
E : 50%未満
評価の結果は、Aであった。
【0084】
(実施例2)
負極バインダー前駆体作製時に、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と、2,2’−ジ(p−アミノフェニル)−6,6’−ビスベンゾオキサゾールと、3−アミノプロピルジエトキシメチルシランとを、モル比が3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物:2,2’−ジ(p−アミノフェニル)−6,6’−ビスベンゾオキサゾール:3−アミノプロピルジエトキシメチルシラン=100:96:8となるように、NMP150mlに溶解し、室温で24時間攪拌・重合した以外は、実施例1と同様にして、負極バインダー前駆体溶液α2を調製し、実施例1と同様にして負極を作製した。作製した負極はしわやカールを起こさず、接着力・結着力評価はAであった。
【0085】
得られた負極バインダー前駆体溶液α2を用いて、実施例1の試験1と同様にしてポリイミド膜を得た。得られたポリイミド膜の赤外線吸収スペクトルを測定した結果、1780cm−1付近にイミド結合由来のピークが検出され、ポリイミド化合物が生成したことが確認された。また、実施例1の試験2と同様にして、得られたポリイミド膜の線膨張率を測定した。測定結果を表1に示す。
さらに実施例1と同様にしてコイン型電池β2を作製したところ、サイクル特性評価はBであった。
【0086】
(実施例3)
負極バインダー前駆体作製時に、ピロメリット酸無水物と、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルと、3−アミノプロピルエトキシジメチルシランとを、モル比がピロメリット酸無水物:4,4’−ジアミノジフェニルエーテル:3−アミノプロピルエトキシジメチルシラン=100:92:10となるように、NMP115mlに溶解し、室温で24時間攪拌・重合した以外は、実施例1と同様にして、負極バインダー前駆体溶液α3を調製し、実施例1と同様にして負極を作製した。作製した負極はしわやカールを起こさず、接着力・結着力評価はAであった。
【0087】
得られた負極バインダー前駆体溶液α3を用いて、実施例1の試験1と同様にしてポリイミド膜を得た。得られたポリイミド膜の赤外線吸収スペクトルを測定した結果、1780cm−1付近にイミド結合由来のピークが検出され、ポリイミド化合物が生成したことが確認された。また、実施例1の試験2と同様にして、得られたポリイミド膜の線膨張率を測定した。測定結果を表1に示す。
さらに実施例1と同様にしてコイン型電池β3を作製したところ、サイクル特性評価はBであった。
【0088】
(実施例4)
負極バインダー前駆体作製時に、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と、p−フェニレンジアミンと、3−アミノプロピルトリエトキシシランとを、モル比が3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物:p−フェニレンジアミン:3−アミノプロピルトリエトキシシラン=100:98:6となるように、NMP125mlに溶解し、室温で24時間攪拌・重合した以外は、実施例1と同様にして、負極バインダー前駆体溶液α4を調製し、実施例1と同様にして負極を作製した。作製した負極はしわやカールを起こさず、接着力・結着力評価はBであった。
【0089】
得られた負極バインダー前駆体溶液α4を用いて、実施例1の試験1と同様にしてポリイミド膜を得た。得られたポリイミド膜の赤外線吸収スペクトルを測定した結果、1780cm−1付近にイミド結合由来のピークが検出され、ポリイミド化合物が生成したことが確認された。また、実施例1の試験2と同様にして、得られたポリイミド膜の線膨張率を測定した。測定結果を表1に示す。
さらに実施例1と同様にしてコイン型電池β4を作製したところ、サイクル特性評価はBであった。
【0090】
(実施例5)
負極バインダー前駆体作製時に、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と、2,2‘−ジメチルビフェニル−4,4’−ジアミンと、3−アミノプロピルジエトキシメチルシランとを、モル比が3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物:2,2‘−ジメチルビフェニル−4,4’−ジアミン:3−アミノプロピルジエトキシメチルシラン=100:95:7となるように、NMP155mlに溶解し、室温で24時間攪拌・重合した以外は、実施例1と同様にして、負極バインダー前駆体溶液α5を調製し、実施例1と同様にして負極を作製した。作製した負極はしわやカールを起こさず、接着力・結着力評価はCであった。
【0091】
得られた負極バインダー前駆体溶液α5を用いて、実施例1の試験1と同様にしてポリイミド膜を得た。得られたポリイミド膜の赤外線吸収スペクトルを測定した結果、1780cm−1付近にイミド結合由来のピークが検出され、ポリイミド化合物が生成したことが確認された。また、実施例1の試験2と同様にして、得られたポリイミド膜の線膨張率を測定した。測定結果を表1に示す。
さらに実施例1と同様にしてコイン型電池β5を作製したところ、サイクル特性評価はBであった。
【0092】
(実施例6)
負極バインダー前駆体作製時に、ピロメリット酸無水物と、N−(4−アミノフェニル)−4−アミノベンズアミドと、3−アミノプロピルジエトキシメチルシランとを、モル比がピロメリット酸無水物:N−(4−アミノフェニル)−4−アミノベンズアミド:3−アミノプロピルジエトキシメチルシラン=100:85:6となるように、NMP120mlに溶解し、室温で24時間攪拌・重合した以外は、実施例1と同様にして、負極バインダー前駆体溶液α6を調製し、実施例1と同様にして負極を作製した。作製した負極はしわやカールを起こさず、接着力・結着力評価はBであった。
【0093】
得られた負極バインダー前駆体溶液α6を用いて、実施例1の試験1と同様にしてポリイミド膜を得た。得られたポリイミド膜の赤外線吸収スペクトルを測定した結果、1780cm−1付近にイミド結合由来のピークが検出され、ポリイミド化合物が生成したことが確認された。また、実施例1の試験2と同様にして、得られたポリイミド膜の線膨張率を測定した。測定結果を表1に示す。
さらに実施例1と同様にしてコイン型電池β6を作製したところ、サイクル特性評価はAであった。
【0094】
(実施例7)
負極バインダー前駆体作製時に、ピロメリット酸無水物と、4−アミノフェニル−4−アミノベンゾエートと、3−アミノプロピルジエトキシメチルシランとを、モル比がピロメリット酸無水物:4−アミノフェニル−4−アミノベンゾエート:3−アミノプロピルジエトキシメチルシラン=100:90:7となるように、NMP140mlに溶解し、室温で24時間攪拌・重合した以外は、実施例1と同様にして、負極バインダー前駆体溶液α7を調製し、実施例1と同様にして負極を作製した。作製した負極はしわやカールを起こさず、接着力・結着力評価はAであった。
【0095】
得られた負極バインダー前駆体溶液α7を用いて、実施例1の試験1と同様にしてポリイミド膜を得た。得られたポリイミド膜の赤外線吸収スペクトルを測定した結果、1780cm−1付近にイミド結合由来のピークが検出され、ポリイミド化合物が生成したことが確認された。また、実施例1の試験2と同様にして、得られたポリイミド膜の線膨張率を測定した。測定結果を表1に示す。
さらに実施例1と同様にしてコイン型電池β7を作製したところ、サイクル特性評価はBであった。
【0096】
(比較例1)
負極バインダー前駆体作製時に、3−アミノプロピルジエトキシメチルシランを使用しなかったこと以外は、実施例1と同様にして負極バインダー前駆体溶液γ1を作製し、実施例1と同様にして負極を作製した。作製した負極はしわやカールを起こさなかったが、接着力・結着力評価はEであった。
【0097】
得られた負極バインダー前駆体溶液γ1を用いて、実施例1の試験1と同様にしてポリイミド膜を得た。得られたポリイミド膜の赤外線吸収スペクトルを測定した結果、1780cm−1付近にイミド結合由来のピークが検出され、ポリイミド化合物が生成したことが確認された。また、実施例1の試験2と同様にして、得られたポリイミド膜の線膨張率を測定した。測定結果を表1に示す。
さらに実施例1と同様にしてコイン型電池δ1を作製したが、サイクル特性評価はEであった。
【0098】
(比較例2)
負極バインダー前駆体作製時に、3−アミノプロピルジエトキシメチルシランを使用しなかったこと以外は、実施例2と同様にして負極バインダー前駆体溶液γ2を作製し、実施例1と同様にして負極を作製した。作製した負極はしわやカールを起こさなかったが、接着力・結着力評価はEであった。
【0099】
得られた負極バインダー前駆体溶液γ2を用いて、実施例1の試験1と同様にしてポリイミド膜を得た。得られたポリイミド膜の赤外線吸収スペクトルを測定した結果、1780cm−1付近にイミド結合由来のピークが検出され、ポリイミド化合物が生成したことが確認された。また、実施例1の試験2と同様にして、得られたポリイミド膜の線膨張率を測定した。測定結果を表1に示す。
さらに実施例1と同様にしてコイン型電池δ2を作製したが、サイクル特性評価はEであった。
【0100】
(比較例3)
負極バインダー前駆体作製時に、ピロメリット酸無水物と、p−フェニレンジアミンとを、モル比がピロメリット酸無水物:p−フェニレンジアミン=100:96となるように、NMP125mlに溶解し、室温で24時間攪拌・重合した以外は、実施例1と同様にして負極バインダー前駆体溶液γ3を作製し、実施例1と同様にして負極を作製した。作製した負極はしわやカールを起こさなかったが、接着力・結着力評価はEであった。
【0101】
得られた負極バインダー前駆体溶液γ3を用いて、実施例1の試験1と同様にしてポリイミド膜を得ようとしたが、非常に硬く脆い膜であったため、自己支持性がとれず、線膨張率は測定できなかった。
さらに実施例1と同様にしてコイン型電池δ3を作製したが、サイクル特性評価はEであった。
【0102】
(比較例4)
負極バインダー前駆体作製時に、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物と、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとを、モル比が3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物:4,4’−ジアミノジフェニルエーテル=100:94となるように、NMP130mlに溶解し、室温で24時間攪拌・重合した以外は、実施例1と同様にして、負極バインダー前駆体溶液γ4を調製し、実施例1と同様にして負極を作製した。作製した負極はしわやカールが発生し、接着力・結着力評価はEであった。
【0103】
得られた負極バインダー前駆体溶液γ4を用いて、実施例1の試験1と同様にしてポリイミド膜を得た。得られたポリイミド膜の赤外線吸収スペクトルを測定した結果、1780cm−1付近にイミド結合由来のピークが検出され、ポリイミド化合物ガ生成したことが確認された。また、実施例1の試験2と同様にして、得られたポリイミド膜の線膨張率を測定した。測定結果を表1に示す。
さらに実施例1と同様にしてコイン型電池δ4を作製したが、サイクル特性評価はEであった。
【0104】
【表1】

【0105】
表1から、末端に、ケイ素含有基を有し、線膨張率が2〜30ppm/℃であるポリイミド樹脂を用いたリチウムイオン二次電池用負極は、負極作製時のしわやカールの発生がなく、接着力・結着力、あるいはサイクル特性の観点から、優れているといえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素を含む負極活物質とバインダーとを含む活物質合材層を、負極集電体の表面上に配置したリチウムイオン二次電池用負極であって、
前記バインダーが、下記式(1)で表されるケイ素含有ポリイミド樹脂を含んでなるものであることを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極。
【化1】

〔式中、Xは4価の有機基を表し、Yは2価の有機基を表し、nは、1〜10,000の整数を表す。Tは、式(2)
【化2】

(式中、R〜Rはそれぞれ独立して、炭素数1〜8の炭化水素基又は炭素数1〜8の酸素含有炭化水素基を表し、mは1〜8の整数を表す。)で示されるケイ素含有基を表す。〕
【請求項2】
前記ケイ素含有ポリイミド樹脂が、2〜30ppm/℃の線膨張率を有するものであることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項3】
前記ケイ素含有ポリイミド樹脂が、下記式(3)で表されるケイ素含有ポリイミド前駆体樹脂をイミド化して得られたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【化3】

(式中、T、X、Y及びnは、前記と同じ意味を表す。Rは、水素原子または炭素数1〜8の炭化水素基を表す。)
【請求項4】
ケイ素を含む負極活物質と、下記式(3)で表されるケイ素含有ポリイミド前駆樹脂とを含む負極合材スラリーを、負極集電体の表面上に塗布した後、30〜130℃で予備乾燥を行い、圧延した後、前記ケイ素含有ポリイミド前駆体樹脂をイミド化する工程を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池用負極の製造方法。
【化4】

〔式中、Xは4価の有機基を表し、Yは2価の有機基を表し、nは、1〜10,000の整数を表す。Tは、式(2)
【化5】

(式中、R〜Rはそれぞれ独立して、炭素数1〜8の炭化水素基又は炭素数1〜8の酸素含有炭化水素基を表し、mは1〜8の整数を表す。)で示されるケイ素含有基を表し、Rは、水素原子または炭素数1〜8の炭化水素基を表す。〕

【公開番号】特開2013−77498(P2013−77498A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217465(P2011−217465)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】