説明

リチウムイオン二次電池用負極材料

【課題】極板強度に優れるリチウムイオン二次電池用負極材料を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明のリチウムイオン二次電池用負極材料は、表面官能基量が2.0meq/kg以上の高官能基量黒鉛と、表面官能基量が2.0meq/kg未満の低官能基量黒鉛とを含有し、前記高官能基量黒鉛と前記低官能基量黒鉛の質量比(高官能基量黒鉛/低官能基量黒鉛)が、10/90〜80/20であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用負極材料に関するものであり、より詳細には、リチウムイオン二次電池用負極の極板強度を高める技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器等の小型化に伴い、電源となる電池も小型化が求められており、特に電池の高容量化の観点からリチウムイオン二次電池が注目されている。リチウムイオン二次電池の中でも、負極に黒鉛材料を用いたものは、大容量が得られやすく、かつ、安全で高電圧が得られやすいといった点でも有用である。このような観点から、リチウムイオン二次電池の負極材料として、さまざまな黒鉛材料が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、二次電池用電極を製造する際に用いる材料であって、酸性官能基が1.0ミリ当量/kg以下である球状化黒鉛粒子と、前記球状化黒鉛粒子より相対的に微細で、且つ、該球状化黒鉛粒子とは異なる導電性炭素質微粒子を混合状態で含有することを特徴とする二次電池用負極材料が開示されている。
【0004】
特許文献2には、二次電池用の電極を製造する際に用いる黒鉛であって、前記黒鉛の酸性官能基量が、質量当たり5ミリ当量/kg以下で、且つ、比表面積当たり0.3μ当量/m2以上であることを特徴とする二次電池電極用黒鉛が開示されている。
【0005】
特許文献3には、黒鉛粉末(A)からなるリチウム二次電池用負極材料であって、該黒鉛粉末(A)のタップ密度が0.8g/cm3以上、1.35g/cm3以下であり、表面官能基量O/Cが0以上、0.01以下であり、BET比表面積が2.5m2/g以上、7.0m2/g以下であり、ラマンR値が0.02以上、0.05以下であることを特徴とする、リチウム二次電池用負極材料が開示されている。
【0006】
特許文献4には、第1および第2の電極と、上記第1の電極と第2の電極との間にセパレータを備えた電池であって、上記第1の電極と第2の電極の少なくともいずれかは、活物質と、この活物質に接触する電子導電材と、上記活物質および上記電子導電材の少なくともいずれかに接触する導電助剤を含有する活物質層を備え、上記電子導電材および上記導電助剤の一方は疎水性を有し、他方は親水性を備えたことを特徴とする電池が開示されている。
【0007】
特許文献5には、バインダーの量を増加したり、導電助材の量を減少したりすることなく、電極の密着性を向上させることができる導電助材及び該導電助材を用いた正極及び/又は負極を備えた非水電池を提供することを目的として、正極と負極の少なくとも片方の電極が導電助材として、非水溶液中でイオン解離しうる官能基を表面に有したカーボンを含むことを特徴とする非水電池が開示されている。
【0008】
特許文献6には、集電体と炭素材料との密着性に優れた高容量のリチウムイオン二次電池用負極を提供することを目的として、集電体表面に炭素材料からなる塗布層を有するリチウムイオン二次電池用の負極において、炭素材料からなる塗布層を二層以上とし、集電体に接する塗布層の炭素材料として比表面積が2m2/g以下の炭素材料を用い、かつ該層の厚みを20〜100μmの範囲としたことを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−111109号公報
【特許文献2】特開2005−108456号公報
【特許文献3】特開2006−49288号公報
【特許文献4】特開2004−39443号公報
【特許文献5】特開2001−313035号公報
【特許文献6】特開平11−3699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
リチウムイオン二次電池の負極を作製するには、黒鉛とバインダーとを混合して、スラリーを調製し、スラリーを集電体に塗布するのが一般的である。この際、負極材料である黒鉛と集電体との結着性能(極板強度)が低いと、電極の歩合低下、電池製造コストの増大をもたらすとともに、電池製造後に負極材料が、集電体から剥離する場合がある。バインダー量を増やすことにより、極板強度は向上するが、電池容量の低下、充放電特性の低下を引き起こす。そのため、黒鉛負極材料と集電体との結着性(極板強度)を向上させることが重要である。
【0011】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、電池容量や充放電特性を維持しつつ、極板強度に優れたリチウムイオン二次電池用負極材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決することのできた本発明のリチウムイオン二次電池用負極材料は、表面官能基量が2.0meq(ミリ当量)/kg以上の高官能基量黒鉛と、表面官能基量が2.0meq/kg未満の低官能基量黒鉛とを含有し、前記高官能基量黒鉛と前記低官能基量黒鉛の質量比(高官能基量黒鉛/低官能基量黒鉛)が、10/90〜80/20であることを特徴とする。前記高官能基量黒鉛の配合量が所定量以上であれば、黒鉛の表面官能基がバインダーと結合するようになり、バインダー量を増加させることなく集電体への結着性能(極板強度)を向上させることができる。また、前記低官能基量黒鉛の配合量が所定量以上であれば、電池容量や充放電特性の低下を抑制することができる。
【0013】
前記高官能基量黒鉛と前記低官能基量黒鉛とを混合した黒鉛混合粉全体の表面官能基量は2.0meq/kg以上8.0meq/kg以下であることが好ましい。前記高官能基量黒鉛および前記低官能基量黒鉛としては、鱗片状黒鉛を粉砕した後、球状化した球形化黒鉛粒子が好適である。
【0014】
本発明には、前記リチウムイオン二次電池用負極材料を用いたことを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極および、該リチウムイオン二次電池用負極を用いたリチウムイオン二次電池も含まれる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、電池容量や充放電特性を維持しつつ、極板強度に優れたリチウムイオン二次電池用負極材料が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】球形化黒鉛を製造する装置を例示する模式図である。
【図2】円筒型リチウムイオン二次電池の内部構造を例示する斜視図である。
【図3】コイン型リチウムイオン二次電池の内部構造を例示する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材料は、表面官能基量が2.0meq(ミリ当量)/kg以上の高官能基量黒鉛(以下、単に「高官能基量黒鉛」と称することがある)と、表面官能基量が2.0meq/kg未満の低官能基量黒鉛(以下、単に「低官能基量黒鉛」と称することがある)とを含有し、前記高官能基量黒鉛と前記低官能基量黒鉛の質量比(高官能基量黒鉛/低官能基量黒鉛)が、10/90〜80/20であることを特徴とする。前記高官能基量黒鉛を所定量以上配合することにより、これらの高官能基量黒鉛が有する表面官能基がバインダーと結合するようになるため、バインダー量を増加させることなく、黒鉛の集電体に対する結着性能を向上させることができる。また、本願発明では、負極材料に含有される全ての黒鉛の表面官能基量を増加させるのではなく、一部に高官能基量黒鉛を使用する、すなわち、表面官能基を一部の黒鉛に局所的に保持させるため、電池容量や充放電特性の低下を抑制することができる。
【0018】
本発明で使用する高官能基量黒鉛および低官能基量黒鉛は、その表面官能基量が所定量に制御されていれば特に限定されず、天然黒鉛、人造黒鉛のいずれも使用することができる。前記表面官能基とは、例えば、黒鉛表面に存在する、カルボキシル基、フェノール性水酸基、カルボニル基などの酸性官能基であり、後述する方法により測定することができる。
【0019】
前記高官能基量黒鉛の表面官能基量は、2.0meq/kg以上であり、好ましくは5.0meq/kg以上、より好ましくは8.0meq/kg以上である。高官能基量黒鉛の表面官能基量が2.0meq/kg以上であれば、得られる黒鉛負極の極板強度を効率よく向上させることができる。また、高官能基量黒鉛の表面官能基量の上限は特に限定されないが、30meq/kg以下が好ましく、より好ましくは20meq/kg以下、さらに好ましくは10meq/kg以下である。高官能基量黒鉛の表面官能基量が30meq/kg以下であれば、一部の黒鉛に表面官能基が過剰に存在することを抑制できる。
【0020】
前記低官能基量黒鉛の表面官能基量は、2.0meq/kg未満であり、好ましくは1.5meq/kg以下、より好ましくは1.0meq/kg以下である。低官能基量黒鉛の表面官能基量が2.0meq/kg未満であれば、得られるリチウムイオン二次電池の電池容量および充放電特性がより良好となる。なお、低官能基量黒鉛の表面官能基量の下限は特に限定されない。
【0021】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材料中の前記高官能基量黒鉛と前記低官能基量黒鉛の質量比(高官能基量黒鉛/低官能基量黒鉛)は、10/90以上、好ましくは20/80以上、より好ましくは40/60以上であり、80/20以下、好ましくは70/30以下、より好ましくは60/40以下である。前記質量比が10/90未満では、黒鉛混合粉に導入される表面官能基量が少なすぎ、負極材料の集電体に対する結着性能が向上しない。一方、前記質量比が80/20を超えると、黒鉛混合粉に導入される表面官能基量が過剰となり、得られるリチウムイオン二次電池の電池容量や充放電特性が低下する。
【0022】
ここで、前記高官能基量黒鉛と前記低官能基量黒鉛とを混合した黒鉛混合粉全体の表面官能基量は2.0meq/kg以上が好ましく、より好ましくは4.0meq/kg以上であり、8.0meq/kg以下が好ましく、より好ましくは7.0meq/kg以下、さらに好ましくは6.0meq/kg以下である。前記黒鉛混合粉全体の表面官能基量を上記範囲内とすることにより、負極材料の集電体に対する結着性能と得られるリチウムイオン二次電池の電池容量や充放電特性とを、バランスよく両立させることができる。
【0023】
以下、高官能基量黒鉛および低官能基量黒鉛について詳細に説明する。なお、以下で単に「黒鉛」という場合、高官能基量黒鉛および低官能基量黒鉛を含むものとする。
【0024】
黒鉛の表面官能基量は、例えば、酸化性雰囲気下あるいは非酸化性雰囲気下で黒鉛を加熱処理することにより制御することができ、酸化性雰囲気下で加熱すれば、黒鉛の表面官能基量を増加させることができ、非酸化性雰囲気下で加熱すれば、黒鉛の表面官能基量を低減することができる。また、酸化性雰囲気下において、黒鉛を粉砕することによっても黒鉛の表面官能基量を増加させることができる。
【0025】
前記酸化性雰囲気としては、例えば、空気、酸素、酸素と不活性ガスとの混合ガスなどの酸化性ガス雰囲気を挙げることができる。前記非酸化性雰囲気としては、例えば、アルゴン、窒素、ヘリウムなどの不活性ガス雰囲気を挙げることができる。
【0026】
黒鉛の表面官能基量を制御する際の加熱処理温度は、特に限定されないが、200℃以上が好ましく、より好ましくは300℃以上であり、800℃以下が好ましく、より好ましくは600℃以下である。表面官能基量を制御する際の加熱処理時間は、所望の表面官能基量に応じて適宜調節すればよいが、0.5時間以上が好ましく、1.0時間以上がより好ましい。
【0027】
前記黒鉛の比表面積は、1.0m2/g以上が好ましく、より好ましくは2.0m2/g以上、さらに好ましくは、3.0m2/g以上であり、50m2/g以下が好ましく、より好ましくは20m2/g以下、さらに好ましくは10m2/g以下である。黒鉛の比表面積が1.0m2/g以上であれば、電解液との接触面積が大きくなり、得られるリチウムイオン二次電池の急速充放電特性がより良好となり、50m2/g以下であれば、負極材料(黒鉛)の表面に生じる不動態膜を抑制でき、得られるリチウムイオン二次電池の初期効率がより良好となる。なお、比表面積は、Micromeritics社製「ASAP−2405」装置を用い、N2吸着によるBET法にて測定することができる。
【0028】
前記黒鉛の平均粒子径は1μm以上が好ましく、より好ましくは5μm以上、さらに好ましくは10μm以上であり、50μm以下が好ましく、より好ましくは30μm以下である。平均粒子径が、1μm以上であれば、比表面積が大きくなりすぎず、かつ、粒子間の通液性が良好となるため、得られるリチウムイオン二次電池の急速充放電特性がより良好となり、50μm以下であれば、電極密度をより均一にすることができる。ここで、本願において平均粒子径とは、水に分散させた試料を、レーザー回折式粒度分布測定装置(例えば、島津製作所製の「SALD(登録商標)−2000」)により測定して、求められる体積基準メディアン径(D50)である。
【0029】
本発明で使用する黒鉛は、その形状は特に限定されず、例えば、鱗片状黒鉛、球形化黒鉛、およびこれらを併用することもできる。なお、本発明では、前記高官能基量黒鉛および前記低官能基量黒鉛の両方に、鱗片状黒鉛を粉砕した後、球状化した球形化黒鉛粒子を使用することが好ましい。本発明では、負極の極板強度を向上させるために、高官能基量黒鉛を多量に配合することが必要となる。ここで、高官能基量黒鉛として鱗片状黒鉛をそのまま使用した場合には、高官能基量黒鉛の配合量が増加するにつれて黒鉛粒子間の空隙が減少し、電極内部への電解液の通液性が悪くなり負荷特性が低下するおそれがある。しかし、高官能基量黒鉛および低官能基量黒鉛の両方に球形化黒鉛を使用すれば、高官能基量黒鉛の配合量が増加しても黒鉛粒子間の空隙を確保することができ、電極内部への電解液の通液性が良好となる。よって、得られるリチウムイオン二次電池用負極の極板強度および負荷特性をより向上させることができる。
【0030】
前記球形化黒鉛は、黒鉛粒子の形状が球状化されている黒鉛であれば特に限定されず、例えば、鱗片状黒鉛を球状化することにより得られるものであり、例えば、鱗片状黒鉛を粉砕した後、これらを球状化させることによって、球形化黒鉛を得ることができる。球形化黒鉛を製造する具体的な方法は特に限定されないが、例えば、本発明者らが先に提案した方法(特開平11−263612号)やこれに類似する方法で製造できる。以下、図面を参酌しつつ製法の一例を説明する。
【0031】
図1は、球形化黒鉛の製造に用いられる装置の概略説明図であり、1は槽、2はフィーダー、3は対向ノズル、4は分級機、5は吹き上げノズルを夫々示している。鱗片状黒鉛(原料)を、槽1に設けられたフィーダー2から槽1内へ供給する。フィーダー2は、ホッパー式のものを槽1の適当箇所に設置することが好ましく、球形化黒鉛の取出口としても利用できる。また、フィーダー2は、スクリュー式のものを槽1の下部に設けてもよい。槽1内への原料供給量は、槽1の容量を考慮して定めればよい。槽1の下部側には槽壁を貫通して対向ノズル3を設け、対向ノズル3からジェット気流を吹き込むことにより、槽1内の下部側に衝突域を形成する。衝突域の気流に入った前記鱗片状黒鉛は互いに衝突し、粉砕されながら再凝集して球状化する。対向ノズル3は、複数個(例えば、3〜4個)設けることが好ましい。対向ノズル3から吹き込むジェット気流の速度、吹き込みガス量、槽圧などは、円滑な衝突と流動が達成できるように設定され、操作時間を適宜に設定することにより鱗片状黒鉛を球状化する。例えば、ノズル吐出圧は0.01MPa〜0.50MPa程度、吹き込みガス量は0.2Nm3/min〜1.0Nm3/min程度、槽圧は−10kPa〜30kPa程度、操作時間は1分〜100分程度とすればよい。なお、対向ノズル3から吹き込むガスとしては空気や窒素、水蒸気などを用いれば良く、また槽1内の温度は0℃〜60℃程度とすればよい。槽1内では気体の対流が起こり、槽1の下部側の衝突域で互いに衝突して球状化した黒鉛は、槽1内の対流に沿って上部側へ吹き上げられ、その後再び沈降する。すなわち、粒子は槽1の中心部近傍で吹き上げられ、槽1の壁際に沿って降下して、槽1内に循環流動が起こる。槽1の上部には、分級機4を設けることで分級限界以下の微粉を槽1外に排出できる。分級機4は、公知のものを設ければよいが、高速回転分級機を用いるのが通常である。このときの排出量は、原料として用いる鱗片状黒鉛の粒度によって異なる。
【0032】
上記の操作はバッチで行なうことが好ましく、槽1の底部に設けられた吹き上げノズル5から槽1内へ空気を送り込むことにより球形化黒鉛粒子をフィーダー2から回収できる。
【0033】
なお、球形化黒鉛粒子の原料としては、鱗片状の天然黒鉛や人造黒鉛を使用することができ、例えば、鱗片状天然黒鉛は、一般に85%から99%を上まわる純度で入手できるのでそのまま用いればよい。必要に応じて、公知の方法でさらに純度を高めることも好ましい。原料となる鱗片状黒鉛の粒度には種々のものがあるが、例えば、平均粒子径が10μm〜60μm程度の鱗片状黒鉛(原料)を用いるのがよい。
【0034】
本発明で好適に使用する球形化黒鉛の粒子形状は、サッカーボールやテニスボールの様な真球状のみならず、ラグビーボールの様な扁球状のものも含み、特に限定されないが、円形度が0.86程度以上のものであることが好ましい。但し、円形度は三次元の黒鉛粒子を二次元平面に投影して算出される指標であるので、例えば一般的に入手できる鱗片状天然黒鉛粒子の円形度を算出すると0.84程度になり、本発明で使用する球形化黒鉛の円形度と近似するが、鱗片状黒鉛粒子(原料)は平面的な粒子であるのに対し、本発明における二次電池用電極材料の実際の形状は立体的であり全く異なる。なお、円形度は、次式のようにして求めることができる(特開平11−263612号参照)。
円形度=(相当円の周囲長)/(粒子投影像の周囲長)
ここで、相当円とは、撮像した粒子像と同じ投影面積を持つ円であり、粒子投影像の周囲長とは、2値化された粒子像のエッジ点を結んで得られる輪郭線の長さである。
【0035】
球形化黒鉛として、上述した球形化黒鉛を等方的に加圧して成形した等方加圧処理球形化黒鉛も使用することができる。上述した球形化黒鉛を等方的に加圧することにより、得られる球形化黒鉛の等方性が一層高まるとともに、球形化黒鉛粒子の粒子内空隙が低減して高密度化する。等方性が高く、高密度化された球形化黒鉛粒子を使用することにより、得られるリチウムイオン二次電池の電池容量を大きくすることができる。等方的に加圧する方法は、特に限定されず、例えば、ガス、液体などの加圧媒体を用いて、球形化黒鉛を等方的に加圧する方法が挙げられ、例えば、高温で等方的に加圧する熱間等方加圧処理(Hot Isotatic Pressing)、水若しくはアルゴンなどを加圧媒体として用いて、室温で等方的に加圧する冷間等方加圧処理(Cold Isotatic Pressing)などが挙げられる。
【0036】
球形化黒鉛を加圧する圧力は、特に限定されるものではないが、50kgf/cm2(490.5×104Pa)以上、より好ましくは100kgf/cm2(981×104Pa)以上、さらに好ましくは200kgf/cm2(1962×104Pa)以上が好ましい。圧力が50kgf/cm2未満では、黒鉛粒子の密度や等方性を十分に高めることができないからである。
【0037】
球形化黒鉛を等方加圧して成形し、得られた成形体を解砕する。得られた成形体を解砕することによって、高密度で等方性の高い等方加圧処理球形化黒鉛が得られる。加圧処理に際してバインダーを使用しなければ、得られる成形体にわずかの剪断力を付与するだけで、成形体を容易に解砕できる。解砕の方法は特に限定されないが、例えば、撹拌羽根を有する撹拌機を用いて行うことができる。また、通常のジェットミル、振動ミル、ピンミル、ハンマーミルなどの公知の粉砕機を使用してもよい。
【0038】
リチウムイオン二次電池用負極
次に、本発明のリチウムイオン二次電池用負極について説明する。本発明のリチウムイオン二次電池用負極は、上述した本発明のリチウムイオン二次電池用負極材料を用いたことを特徴とする。本発明のリチウムイオン二次電池用負極は、例えば、上記負極材料と電極作製用バインダーとを水あるいは有機溶剤に分散させたスラリーを銅箔などの集電体に塗布した後、乾燥しプレスすることにより得られる。前記電極作製用バインダーとしては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/フッ化ビニリデン共重合体などのフッ素系高分子化合物;カルボキシメチルセルロース、スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴムなどが挙げられ、単独で、あるいは、二種以上を混合して使用してもよい。これらの中でも、電極作製用バインダーとしては、カルボキシメチルセルロースとスチレン−ブタジエンゴムとの混合物が好ましい。
【0039】
電極作製用バインダーの使用量は、負極材料100質量部に対して、固形分換算で0.5質量部以上が好ましく、より好ましくは1.0質量部以上であり、3.0質量部以下が好ましく、より好ましくは2.0質量部以下である。
【0040】
リチウムイオン二次電池
本発明のリチウムイオン二次電池は、上記本発明の負極を使用することを特徴とする。本発明のリチウムイオン二次電池は、本発明の負極を用いたものであれば、特に限定されず、例えば、円筒(乾電池)型、角型、ボタン型、コイン型などの形状を有することができる。図2は、円筒(乾電池)型のリチウムイオン二次電池の内部構造を例示する斜視図であり、シート状の正極体14と負極体15との間にセパレータ16を挟んで渦巻状に巻いたスパイラル構造になっている。図3は、コイン型のリチウムイオン二次電池の内部構造を例示する断面図であり、正極体14と負極体15と電解液とを備え、正極体14と負極体15とはセパレータ16によって分離されており、リチウムイオンが、電解液を介して正極体と負極体とを行き来することにより、起電反応が行われる。
【0041】
リチウムイオン二次電池における正極材料としては、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiNi1-yCoy2、LiMnO2、LiMn24、LiFeO2などのリチウム複合酸化物などが挙げられる。これらの中でも好ましいのは、リチウムコバルト複合酸化物である。正極用のバインダーとしては、ポリフッ化ビニリデンやポリ四フッ化エチレンなどを挙げることができる。電解液としては、エチレンカーボネート、メチルエチルカーボネートなどの有機溶媒や、該有機溶媒と、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシメタン、エトキシメトキシエタンなどの低沸点溶媒との混合溶媒に、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiCF3SO3、LiAsF6などの電解液溶質(電解質塩)を溶解した溶液が用いられる。また、電解液の代わりに固体電解質を使用してもよい。正極体と負極体とを分離するセパレータとしては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィンを主成分とした不織布、クロス、微孔フィルムなどを用いることができる。
【実施例】
【0042】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、前・後記の趣旨に適合しうる範囲で適宜変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0043】
[評価方法]
1.表面官能基量の測定
薬包紙の上で、黒鉛試料をそれぞれ10.00g秤量し、100mlの褐色フラスコに入れた。そこにホールピペットを用いて0.002mol/l NaOEt水溶液を50ml入れ、黒鉛の酸性表面官能基を反応させた。褐色フラスコにサイズ25の撹拌子を入れ、軽く振り混ぜて黒鉛を沈めた後、空気抜きをして栓をした。それぞれの三角フラスコをマグネティックスターラーに載せ、500rpmで2時間撹拌させた後、撹拌を停止して約22時間放置した。黒鉛を濾過して得られた反応液から25mlをとり、0.002mol/l HCl水溶液を用いて、滴定装置にてNaOEt残量を測定し、下記式(1)により黒鉛の表面官能基量を算出した。
【0044】
【数1】

【0045】
2.平均粒子径
レーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所製、「SALD(登録商標)−2000」)を用いて測定を行い、体積基準メディアン径(D50)を求めた。
【0046】
3.比表面積
比表面積測定装置(Micromeritics社製、「ASAP 2405」)を用いて、BET法による比表面積を測定した。
【0047】
4.極板強度試験
黒鉛試料10gに対して、純水2.1g±0.1g、CMC(カルボキシメチルセルロース)水溶液(ダイセル化学株式会社製、CMC濃度:2.0質量%)5g、SBR(スチレンブタジエンゴム)分散液(日本合成ゴム株式会社製、SBR含有率;5.0質量%、溶媒;水)2gを加えてスラリー状にしたものを厚さ18μmの銅箔上に自動コーター(松尾産業株式会社製)を用いて塗布し、乾燥機で80℃10分間乾燥後、さらに100℃10分間乾燥して負極を作製した。作製した極板を直径1.6cmの円盤状に打ち抜き、ローラープレス機を用いて1.6g/cm2〜1.8g/cm2の間で種々の電極密度になるようにプレスを行い、極板強度測定用円盤状電極を作製した。
【0048】
黒鉛が塗布されたこの円盤状電極をSUS板上に両面テープで貼り付け、SUS板上の電極に10mm×5mmの接触面積となるように短冊状に切ったテープを貼り付けた。SUS板を引張試験機(東京試験機社製LSC−1/30−2)の下部治具に固定し、電極に貼り付けられたテープを試験機の上部治具(上下可動)に固定し、引張速度30mm/minにて引っ張り、テープが極板から剥がれたときの力(最大引張力)を記録した。この値から式(2)により単位当りの極板強度(g/cm2)を計算した。
極板強度(kg/cm2)=最大引張力(kg)/(1cm×0.5cm)・・・(2)
1.6g/cm2〜1.8g/cm2の電極密度の電極に対して得られたそれぞれの極板密度の値を電極密度に対してプロットし、線形最小二乗法による近似曲線の式から、電極密度1.7g/cm2における極板強度を算出した。
【0049】
5.初期効率
電池の充電を、電流密度0.72mA/cm2(0.2C)の定電流値で電圧が0.007Vになるまで行い、続けて、0.007Vの定電圧で電流値が0.14mAになるまで行った。次に、電池の放電を、電流密度0.72mA/cm2(0.2C)の定電流値で電圧が1.1Vになるまで行った。なお、電池の充放電は、25℃で行った。電池の初期効率を、一回目の充電容量と一回目の放電容量から下記式(3)により算出した。
【0050】
【数2】

【0051】
6.負荷特性
電池の充電を、電流密度0.72mA/cm2(0.2C)の定電流値で電圧が0.007Vになるまで行い、続けて、0.007Vの定電圧で電流値が0.14mAになるまで行った。次に、電流密度0.72mA/cm2(0.2C)の定電流値で電圧が1.1Vになるまで放電を行い、放電容量を測定した。続いて、上記と同様にして電池の充電を行った後、電流密度14.4mA/cm2(2.0C)の定電流値で電圧が1.1Vになるまで放電を行い、放電容量を測定した。なお、電池の充放電は、25℃で行った。
電池の負荷特性を、下記式(4)により算出した。
【0052】
【数3】

【0053】
球形化黒鉛の作製
球形化黒鉛A(高官能基量黒鉛)
平均粒子径20μmの鱗片状天然黒鉛をホソカワミクロン社製「カウンタージェットミル100AFG」を用いて、試料量200g、ノズル吐出空気圧0.20MPa、操作時間20分の条件で球状化し、球形化黒鉛Aを得た。得られた球形化黒鉛Aの表面官能基量は、9.9meq/kgであった。
【0054】
球形化黒鉛B(低官能基量黒鉛)
前記球形化黒鉛Aを窒素雰囲気下、1200℃で2時間加熱処理して、球形化黒鉛Bを得た。得られた球形化黒鉛Bの表面官能基量は、0.6meq/kgであった。
【0055】
球形化黒鉛C(高官能基量黒鉛)
前記球形化黒鉛Bを空気雰囲気下、200℃で2時間加熱処理して、球形化黒鉛Cを得た。得られた球形化黒鉛Cの表面官能基量は、2.3meq/kgであった。
【0056】
球形化黒鉛D(高官能基量黒鉛)
前記球形化黒鉛Bを空気雰囲気下、270℃で2時間加熱処理して、球形化黒鉛Dを得た。得られた球形化黒鉛Dの表面官能基量は、5.8meq/kgであった。
【0057】
【表1】

【0058】
リチウムイオン二次電池用負極材料の作製
上記で得た球形化黒鉛A〜Dを使用して、表2に示す配合組成を有するリチウムイオン二次電池用負極材料を作製した。リチウムイオン二次電池用負極材料No.1〜7について評価した結果を表2に示した。
【0059】
リチウムイオン二次電池用負極および二次電池の作製
リチウムイオン二次電池用負極材料No.1〜7を用いて、リチウムイオン二次電池用負極を次のようにして作製した。まず、リチウムイオン二次電池用負極材料100質量部、CMC(カルボキシメチルセルロース)水溶液(濃度2.0質量%)50質量部、SBR(スチレンブタジエンゴム)分散液(SBR含有率;5.0質量%、溶媒;水)20質量部、純水30質量部を、撹拌機を用いて10分間撹拌し電極材スラリーを調製した。
【0060】
得られた電極材スラリーを銅箔(厚み;18μm)上に塗布した後、100℃に設定した乾燥機で乾燥することにより電極材付着量10mg/cm2、電極材面積2.0cm2の電極を得た。この電極材を、プレス機を用いて加圧することにより極板密度を1.7g/cm3に調製し、リチウムイオン二次電池用負極を得た。
【0061】
得られたリチウムイオン二次電池用負極を用いて、リチウムイオン二次電池を次のようにして作製した。リチウムイオン二次電池用負極を作用極とし、対極および参照極に金属リチウムを用いて3電極式セルを組み立てた。電解液としては、1M LiPF6/(EC+MEC)(宇部興産社製)0.2mlを用いた。ここで、1M LiPF6/(EC+MEC)とは、エチレンカーボネート(EC)とメチルエチルカーボネート(MEC)を容積比1:1で混合した溶媒に、LiPF6を濃度1Mとなるように溶解させたものである。得られたリチウムイオン二次電池についての評価結果を表2に示した。
【0062】
【表2】

【0063】
リチウムイオン二次電池No.1〜3は、負極材料が高官能基量黒鉛と低官能基量黒鉛とを20/80〜80/20の質量比で含有する場合である。これらのNo.1〜3の電池は、いずれも負極の極板強度が高く、且つ、電池の初期効率および負荷特性にも優れている。リチウムイオン二次電池No.4は負極材料が高官能基量黒鉛のみを含有する場合であるが、これは負極の極板強度には優れるものの、初期効率や負荷特性が劣る。一方、リチウムイオン二次電池No.5は負極材料が低官能基量黒鉛のみを含有する場合であるが、これは初期効率や負荷特性には優れるものの、負極の極板強度が劣る。リチウムイオン二次電池No.6,7は、負極材料に含有される全ての黒鉛の表面官能基量を増加させた場合であるが、これらは負極の極板強度または電池性能が不十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、リチウムイオン二次電池用負極材料として好適である。
【符号の説明】
【0065】
1:槽、2:フィーダー、3:対向ノズル、4:分級機、5:吹き上げノズル、13:集電体、13a:負極集電体、13b:正極集電体、14:正極体、15:負極体、16:セパレータ、17:電池ケース、18:絶縁ガスケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面官能基量が2.0meq/kg以上の高官能基量黒鉛と、表面官能基量が2.0meq/kg未満の低官能基量黒鉛とを含有し、
前記高官能基量黒鉛と前記低官能基量黒鉛の質量比(高官能基量黒鉛/低官能基量黒鉛)が、10/90〜80/20であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材料。
【請求項2】
前記高官能基量黒鉛と前記低官能基量黒鉛とを混合した黒鉛混合粉全体の表面官能基量が2.0meq/kg以上8.0meq/kg以下である請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料。
【請求項3】
前記高官能基量黒鉛および前記低官能基量黒鉛が、鱗片状黒鉛を粉砕した後、球状化した球形化黒鉛粒子である請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料を用いたことを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項5】
請求項4に記載のリチウムイオン二次電池用負極を用いたリチウムイオン二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−76897(P2011−76897A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−227828(P2009−227828)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000156961)関西熱化学株式会社 (117)
【出願人】(505447766)カーボンテック株式会社 (9)
【Fターム(参考)】