説明

リチウムイオン二次電池用負極集電銅箔、リチウムイオン二次電池用負極、リチウムイオン二次電池及びリチウムイオン二次電池用負極集電銅箔の製造方法

【課題】負極活物質層に対して高い密着性を維持しつつ粗化粒子の脱落を抑制し、また、タブリードとの溶接強度を向上させる。
【解決手段】銅又は銅合金からなる圧延銅箔と、圧延銅箔の少なくとも順に設けられた第1Cuめっき層と、粗化粒子と、第2Cuめっき層と、を有し、さらに、ニッケル−コバルト合金めっき層、ニッケルめっき層、又はコバルトめっき層のいずれかと、を備え、負極活物質層のバインダ割合Cb(wt%)をCbとすると、表面粗さRaが、Cb≧38×Ra×Ra−1.2×Ra(ただし、0.10≦Ra≦0.72、かつ、2≦Cb≦20)を満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用負極集電銅箔、それを備える負極及び電池並びにリチウムイオン二次電池用負極集電銅箔の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池は、モバイル機器用途をはじめとして広く普及してきている。リチウムイオン二次電池の負極は、例えば銅箔又は銅合金箔からなる負極集電銅箔上に負極活物質層を形成してなる。負極集電銅箔の負極活物質層が形成されていない部分には、電池外挿缶と電気的接続を取るため、ニッケル(Ni)又はNiめっき銅等からなるタブリードが超音波溶接によって接続されている。
【0003】
負極活物質層にはこれまで炭素(C)系の材料が用いられてきたが、C系材料では放電容量(最大容量)の大幅な向上は困難である。このため、最近では更に放電容量の大きいスズ(Sn)やシリコン(Si)を主体とした負極活物質層が検討されている。
【0004】
係る検討にあたっては、SnやSiがリチウム(Li+)イオンを吸蔵・放出する際の体積膨張・体積収縮が障害となっている。負極活物質層の膨張・収縮により負極集電銅箔が塑性変形してしまい、負極集電銅箔から負極活物質層が脱落したり、電池の寸法安定性を低下させたりしてしまう。そこで、SnやSiの単体ではなく、Li+イオンと反応しない物質や、Li+イオンを吸蔵しても体積変化が小さい物質等と合金化或いは混合して、体積変化を抑制する研究がなされている。
【0005】
SnをSn合金薄膜やSn化合物薄膜として用いる例として、例えば特許文献1には、Sn合金であるCu6Sn5を負極活物質層に用いる手法が開示されている。また、SiをSi合金薄膜やSi化合物薄膜として用いる例としては、例えば特許文献2に、ケイ素(Si)粉末と導電性金属粉末とをバインダと混合して電解銅箔上に塗布する方法が開示されている。また、例えば特許文献3には、酸化シリコン(SiOx)粉体と炭素質物とをバインダと混合して負極集電体上に塗布する方法が開示されている。
【0006】
上記SnやSiを主体とした負極活物質層を用いる場合、400℃以上の温度で熱処理を行うことがあり、熱による軟化を抑制するため負極集電銅箔には高耐熱性が必要となる。そこで、例えば特許文献4には、400℃で10時間の熱処理に耐えるよう、銅箔の表面に、コバルト−ニッケル(Co−Ni)合金めっき層を0.5μm〜5μmの厚みに形成する手法について開示されている。
【0007】
一方で、負極集電銅箔と負極活物質層との密着性を向上させる試みもなされている。例えば特許文献5には、銅箔からなる集電体を粗面化する方法が開示されている。特許文献5によれば、電解法によって得られた銅箔を、更に電解槽中に浸潰して表面に銅微粒子を析出させ、両面を粗面化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−087232号公報
【特許文献2】特許第4212263号公報
【特許文献3】特開2004−119175号公報
【特許文献4】特許第4438541号公報
【特許文献5】特開2008−004462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、より多くの負極活物質層を電池内に収容して電池の高容量化を図るためには、負極集電銅箔はできるだけ薄いほうがよい。したがって、高耐熱性を得るためには、上述の特許文献4のように厚いめっき層を導入するのではなく、これに替わる解決手段が望まれる。
【0010】
一方で、上記400℃以上の熱処理による弊害は、負極集電銅箔の軟化だけではない。つまり、高温・長時間の熱処理により負極集電銅箔の表面に酸化膜が形成され、タブリードを溶接する際、溶接強度の低下を招いてしまうことがある。溶接強度が不充分であると、タブリードの剥がれが生じて電池外部に電流が取り出せなくなってしまう。
【0011】
また、上述の特許文献5のように、銅微粒子等の粒状電着物を負極集電銅箔の表面に付加させて粗化面を得る手法では、ときに粒状電着物が脱落してしまうことがあり、正負極間で短絡を引き起こすおそれがある。
【0012】
本発明の目的は、負極活物質層に対して高い密着性を維持しつつ粒状電着物の脱落を抑制することができ、また、タブリードとの溶接強度を向上させることが可能なリチウムイオン二次電池用負極集電銅箔、それを備える負極及び電池並びにリチウムイオン二次電池用負極集電銅箔の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の態様によれば、リチウムイオン二次電池用負極集電銅箔と、前記リチウムイオン二次電池用負極集電銅箔に設けられ、バインダを含む負極活物質層とを有するリチウムイオン二次電池用負極であって、
前記リチウムイオン二次電池用負極集電銅箔は、銅又は銅合金からなる圧延銅箔と、前記圧延銅箔の少なくとも順に設けられた第1Cuめっき層と、粗化粒子と、第2Cuめっき層と、を有し、さらに、ニッケル−コバルト合金めっき層、ニッケルめっき層、又はコバルトめっき層のいずれかと、を備えるとともに、
前記バインダ割合Cb(wt%)をCbとすると、表面粗さRaが、
Cb≧38×Ra×Ra−1.2×Ra・・・・(式1)
(ただし、0.10≦Ra≦0.72、かつ、2≦Cb≦20を満たす)
であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極が提供される。
【0014】
本発明の第2の態様によれば、バインダを含む負極活物質層とともに用いられることでリチウムイオン二次電池用負極となるリチウムイオン二次電池用負極集電銅箔であって、
銅又は銅合金からなる圧延銅箔と、
前記圧延銅箔の少なくとも順に設けられた第1Cuめっき層と、粗化粒子と、第2Cuめっき層と、を有し、さらに、
ニッケル−コバルト合金めっき層、ニッケルめっき層、又はコバルトめっき層のいずれかと、を備えるとともに、
前記バインダ割合Cb(wt%)をCbとすると、表面粗さRaが、
Cb≧38×Ra×Ra−1.2×Ra・・・・(式1)
(ただし、0.10≦Ra≦0.72、かつ、2≦Cb≦20を満たす)
であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極集電銅箔が提供される。
【0015】
本発明の第3の態様によれば、前記ニッケル−コバルト合金めっき層、前記ニッケルめっき層、及び前記コバルトめっき層の質量厚さは、20μg/cm2以上40μg/cm2以下である
ことを特徴とする第2の態様のリチウムイオン二次電池用負極集電銅箔が提供される。
【0016】
本発明の第4の態様によれば、前記圧延銅箔を構成する前記銅合金は、高耐熱性銅合金である
ことを特徴とする第2又は3の態様のリチウムイオン二次電池用負極集電銅箔が提供される。
【0017】
本発明の第5の態様によれば、前記第1Cuめっき層は、純銅からなる
ことを特徴とする第2〜4のいずれかの態様のリチウムイオン二次電池用負極集電銅箔が提供される。
【0018】
本発明の第6の態様によれば、第2の態様のリチウムイオン二次電池用負極集電銅箔と、
前記リチウムイオン二次電池用負極集電銅箔の少なくとも片面に形成された負極活物質層と、
前記リチウムイオン二次電池用負極集電銅箔に接続されたタブリードと、を備える
ことを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極が提供される。
【0019】
本発明の第7の態様によれば、第6の態様のリチウムイオン二次電池用負極と、
リチウムイオン二次電池用正極と、
前記リチウムイオン二次電池用負極及び前記リチウムイオン二次電池用正極の間に挿入されたセパレータと、
前記セパレータが間に挿入された前記リチウムイオン二次電池用負極及び前記リチウムイオン二次電池用正極が収容され、電解液が封入された容器と、を備える
ことを特徴とするリチウムイオン二次電池が提供される。
【0020】
本発明の第8の態様によれば 銅又は銅合金からなる圧延銅箔を陰極としてCuめっきを施し、前記圧延銅箔の少なくとも順に第1Cuめっき層と、粗化粒子と、第2Cuめっき層を設けるCuめっき工程と、
前記第2Cuめっき層上に、前記粗化粒子及び第2Cuめっき層を覆うようにニッケル−コバルト合金めっき層、ニッケルめっき層、又はコバルトめっき層のいずれかを形成する工程と、を有する
ことを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極集電銅箔の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、負極活物質層に対して高い密着性を維持しつつ粒状電着物の脱落を抑制することができ、また、タブリードとの溶接強度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用負極集電銅箔の断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用負極の平面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の斜視断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用負極集電銅箔の表面粗さRa及びバインダ割合Cbと、負極活物質密着性の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<本発明の一実施形態>
(1)リチウムイオン二次電池の概略構成
まずは、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の概略構成について、 図2及び 図3を参照しながら説明する。図2は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用負極1の平面図である。 図3は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池50の斜視断面図である。
【0024】
図3に示すように、リチウムイオン二次電池50は、図示しない電解液が封入された容器としての電池外挿缶5を備えている。電池外挿缶5には、タブリード16を備えたリチウムイオン二次電池用負極1(以下、単に「負極1」ともいう)と、タブリード26を備えたリチウムイオン二次電池用正極2(以下、単に「正極2」ともいう)とが、間にセパレータ3が挿入された状態で収容されている。
【0025】
また、図2に示すように、負極1は、リチウムイオン二次電池用負極集電銅箔10(以下、単に「負極集電銅箔10」ともいう)と、例えばその両面に形成された負極活物質層15a,15bとを備える。上述のタブリード16は、負極集電銅箔10の露出領域10sに直接接続されている。リチウムイオン二次電池50及びリチウムイオン二次電池用負極1の詳細の構成については後述する。
【0026】
(2)リチウムイオン二次電池用負極集電銅箔の構成
以下に、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用負極集電銅箔10について、図1を用いて説明する。図1は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用負極集電銅箔10の断面図である。
【0027】
図1に示すように、負極集電銅箔10は、例えば銅合金からなる圧延銅箔としての銅合金箔11と、銅合金箔11の両面にそれぞれ形成された純銅からなる銅(Cu)めっき層12a,12bとを備える。
【0028】
銅合金箔11は、例えば高耐熱性の固溶型銅合金又は析出型銅合金等からなる。銅合金箔11の例としては、ジルコニウム(Zr)、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、リン(P)等を含有した圧延銅箔がある。より具体的には、日立電線株式会社製のHCL02Z箔(Zrを0.015質量%〜0.030質量%含有)等を用いることができる(HCLは登録商標)。
【0029】
第1Cuめっき層12a,12bのそれぞれの表面には、粒状電着物としての粗化粒子13a,13bが付着しており、更に、図示しない第2Cuめっき層13a',13b'が粗化粒子13a,13bを被覆するように十分薄く設けられている。さらに、Ni−Co合金めっき層14a、14bが、粗化粒子13a,13b(及び第2Cuめっき層13a',13b')の粒子を被覆するような形態で、十分薄く設けられている。この負極集電銅箔10の表面粗さRa(μm)は、負極活物質層15a,15bにおける割合Cb(wt%)とすると、Cb≧38×Ra×Ra−1.2×Ra(式1)を満たしている。粗化粒子13a,13bは、例えばCuや鉄(Fe)等を含む金属粒子であり、粗化めっき等により形成される。ここで、表面粗さRaは、JIS B0601に規定の「算術平均粗さRa」であり、後述のNi−Co合金めっき層14a,14bの形成後に測定した値である。なお、Ni−Co合金めっき層14a,14bの形成後の負極集電銅箔10の算術平均粗さRa(μm)は、小数点第2位のオーダーにおいて、粗化粒子13a,13bの粗さとほぼ同等である。
【0030】
Ni−Co合金めっき層14a,14bの質量厚さは、20μg/cm2以上40μg/cm2以下である。ここで、質量厚さは、Ni−Co合金層14a,14bの厚さを、負極集電銅箔10表面の単位面積あたりに存在するNi−Co合金の質量で表したものである。単位面積あたりの質量は、例えば高周波誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP発光分光分析:Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy)等を用いた定量分析により求めることができる。
【0031】
上記のように、本実施形態では、銅合金箔11として、例えば高耐熱性の銅合金からなる圧延銅箔を用いる。圧延による銅合金箔11を用いることで高耐力が得られ、例えば 図2に示す負極活物質層15a,15bが、Li+イオンの吸蔵・放出に伴う体積膨張・体積収縮を繰り返したとしても、負極集電銅箔10の塑性変形を抑制することができる。よって、負極活物質層15a,15bが負極集電銅箔10から脱落し難くなり、また、リチウムイオン二次電池50の寸法安定性を向上させることができる。
【0032】
上記のような充放電による体積変化を抑えるべく、例えば上述のSnやSiの合金等を負極活物質層として用いたとしても、充放電容量の増大と充放電時の体積変化量の低減との両立は困難である。したがって、高容量のリチウムイオン二次電池を達成するためには、負極活物質層の体積変化をある程度許容する必要がある。体積変化の許容量は、銅箔等の負極集電銅箔の耐力及び厚さで決まる。銅箔には、電解銅箔と圧延銅箔とが知られているが、電解銅箔には高耐力を有する実用的な銅箔は見いだされていない。
【0033】
一方、圧延銅箔は、加工硬化により容易に高耐力化が可能である。また、圧延の場合、添加元素を配合することで固溶型銅合金や析出型銅合金等を製造することが可能であり、比較的容易に銅合金からなる高耐力の圧延銅箔を製造することができる。
【0034】
また、本実施形態のように、銅合金箔11を高耐熱性の銅合金から構成することで、純銅等を用いた場合よりも耐熱性が増し、後述するように、高温かつ長時間の熱処理を含むリチウムイオン二次電池用負極1の製造工程において、負極集電銅箔10が軟化してしまうことを抑制し、或いは、軟化が起きたとしても、比較的、高耐力を維持することができる。
【0035】
例えば上記HCL02Z箔の場合、純銅箔を軟化させるような熱が加わった後においても、1%耐力が480MPaと、圧延直後と同等の状態を維持できる。また、上述の特許文献4にあるような400℃以上の高温・長時間での熱処理で軟化させた後であっても、電解銅箔や純銅箔に比べ、100MPa以上高い耐力を維持できる。ここで、1%耐力は、例えばJIS Z2241に規定の「全伸び法」により求めたものである。
【0036】
このように、複合箔(集電銅箔)の厚みを増すことで耐熱性を向上させる特許文献4の方法とは異なり、本実施形態では、銅合金箔11を用いることで、高耐力性および高耐熱性を確保しつつ、負極集電銅箔10を薄く形成することが可能となる。よって、リチウムイオン二次電池50内により多くの負極活物質層15a,15bを収容することができ、リチウムイオン二次電池50の高容量化に寄与することができる。
【0037】
また、本実施形態では、負極集電銅箔10の表面粗さRa(μm)について、負極活物質層15a、15bにおけるバインダ割合Cb(wt%)との関係において、以下の式を満たす。
Cb≧38×Ra×Ra−1.2×Ra・・・・(式1)
ただし、0.10≦Ra≦0.72、かつ、2≦Cb≦20を満たす。
【0038】
一例として、第1Cuめっき層12a,12b、粗化粒子13a,13b、第2Cuめっき層13a',13b'、Ni−Co合金めっき層14a,14bを順に付着させた負極集電銅箔10の表面粗さRa(μm)は、負極活物質層15a,15bにおけるバインダ割合(wt%)をCbとして、Cb≧38×Ra×Ra−1.2×Ra(式1)となっている。これにより、負極集電銅箔10上に形成される後述の負極活物質層15a,15bとの密着性を向上させることができる。
【0039】
また、本実施形態では、第2Cuめっき層13a',13b’上に、例えばNi−Co合金めっき層14a,14bが20μg/cm2以上40μg/cm2以下の質量厚さで形成されている。これにより、負極集電銅箔10の表面が酸化され難くなる。すなわち、負極1の製造工程における熱処理によって負極集電銅箔10の表面に酸化膜が形成されてしまうことを抑制し、タブリード16との溶接強度を向上させることができる。
【0040】
また、第2Cuめっき層13a',13b’上にNi−Co合金めっき層14a,14bが形成されることで、粗化粒子13a,13bが脱落し難くなり、リチウムイオン二次電池50内への粗化粒子13a,13b等の金属粒子の混入によって、正負極間で短絡してしまうのを抑制することができる。
【0041】
Ni−Co合金めっき層14a,14bが粗化粒子13a,13bの脱落を抑制する効果は、Cuめっき層等よりも高い。係る効果を得るために、Cuめっき層が例えば50nm程度必要であるのに対し、Ni−Co合金めっき層14a,14bであれば、例えば20nm以上(20μg/cm2弱に相当)の厚さがあればよい。一方で、Ni−Co合金めっき層14a,14bが例えば50nm以上(50μg/cm2弱に相当)とあまりにも厚いと、負極集電銅箔10の表面が平坦化されて負極活物質層15a,15bとの密着性が低下してしまう。本実施形態では、上記のように、Ni−Co合金めっき層14a,14bの質量厚さを20μg/cm2以上40μg/cm2以下としているので、Cuめっき後の負極集電銅箔10の表面粗さRaをほとんど変化させることがなく、粗化粒子13a,13bの脱落を抑制するのに必要かつ充分な厚さとなっている。
【0042】
この点においても、複合箔(集電銅箔)の耐熱性の向上のみを主眼として0.5μm〜5μmの厚みにCo−Ni合金めっき層を形成する上述の特許文献4と、40μg/cm2(数十nm程度)以下にNi−Co合金めっき層14a,14bを形成する本実施形態とでは、目的および構成を異にする。
【0043】
このように、本実施形態においては、負極活物質層15a,15bに対して高い密着性を維持しつつ粗化粒子13a,13bの脱落を抑制することができ、また、タブリード16との溶接強度を向上させることができる。
【0044】
(3)リチウムイオン二次電池用負極集電銅箔の製造方法
次に、図1を参照しながら、リチウムイオン二次電池用負極集電銅箔10の製造方法について説明する。
【0045】
(圧延工程)
まず、例えば高耐熱性の固溶型銅合金又は析出型銅合金等を圧延し、図1に示す圧延銅箔としての銅合金箔11を製造する。すなわち、日立電線株式会社製のZrを含有するHCL02Z箔のような銅合金箔11を形成する場合、例えば無酸素銅鋳造設備等を使用し、Zr等の活性な金属が酸化しない環境で銅合金を溶解鋳造してケークとする。次に、このケークを熱間圧延した後、冷間圧延と焼鈍とを繰り返しながら所定厚さまで圧延し、溶剤による洗浄で圧延油を除去して銅合金箔11を得る。
【0046】
(Cuめっき工程)
次に、銅合金箔11を陰極としてCuめっきを施し、銅合金箔11の例えば両面に、第1Cuめっき層12a,12bを形成し、第1Cuめっき層12a,12bの表面に、粒状電着物としての粗化粒子13a,13bを付着させる。さらに、粗化粒子13a,13bを覆うように第2Cuめっき層13a',13b'を形成する。
【0047】
すなわち、銅合金箔11をコイル・ツー・コイルで搬送しながら、電解脱脂及び酸洗浄した銅合金箔11の表面に対して電解Cuめっきによる粗化を3段階で行う。第1段階では、銅合金箔11の表面を平坦にするCuめっきを行って第1Cuめっき層12a,12bを形成する。次いで第2段階では、代表値にして例えば直径0.8μm程度の小さな粗化粒子13a,13bを付ける。第3段階では、粗化粒子13a,13bの周囲を覆うように第2Cuめっき層13a',13b'を付けて、代表値にして例えば直径1μm程度になるよう粗化粒子13a,13bを肥大化させる。具体的には、第1段階及び第3段階では、例えば硫酸銅(CuSO4)めっき液を用いて数A/dm2の電流密度で電解し、第2段階では、例えば硫酸銅めっき液に鉄(Fe2+)イオンを配合して20A/dm2以上40A/dm2以下の高電流密度で電解する。処理時間は、各段階とも例えば3秒以上12秒以下とする。
【0048】
負極集電銅箔10の表面粗さRa(μm)について、負極活物質層15a、15bにおけるバインダの割合Cb(wt%)との関係において、以下の式を満たす。
Cb≧38×Ra×Ra−1.2×Ra・・・・(式1)
ただし、0.10≦Ra≦0.72、かつ、2≦Cb≦20を満たす。
【0049】
例えば、銅合金箔11上に、第1Cuめっき層12a,12b、粗化粒子13a,13b、第2Cuめっき層13a',13b'、Ni−Co合金めっき層14a、14bを順に付着させた負極集電銅箔10の表面粗さRa(μm)は、負極活物質層15a、15bにおけるバインダ割合(wt%)をCbとして、Cb≧38×Ra×Ra−1.2×Ra(式1)となっている。このような表面粗さRaとすることで、後に負極集電銅箔10上に形成される負極活物質層15a,15bとの密着性を向上させることができる。
【0050】
ここで、Cuめっきを施す前の銅合金箔11であっても、圧延後の状態で表面粗さRaは0.15μm程度である。しかし、この状態では、(式1)の関係を満たすバインダ割合となる負極活物質層を形成した場合であっても、負極活物質層15a,15bとの充分な密着性は得られない。上記のように、粗化粒子13a,13bを銅合金箔11の表面に付着させることで、凹凸面の空隙に材料が侵入することによるくさびのような働き(アンカー効果)により密着性が向上する。
【0051】
また、このとき、第3段階のCuめっき量が多すぎると、粗化粒子13a,13bのサイズが大きくなりすぎ、負極集電銅箔10の表面粗さRaが大きくなりすぎてしまう。このように、表面粗さRaが上限値を超えると、負極活物質層15a,15bとの密着性の向上効果が得られないばかりか、却って密着性が低下してしまう場合がある。一方、粗化粒子13a,13bを小さいままに留めるために、第3段階のめっき量を少なくしたり、又は第3段階の処理を省略したりすると、第2Cuめっき層13a',13b'を形成した場合に比べ、粗化粒子13a,13bの脱落が起こり易くなってしまう。
【0052】
本実施形態においては、粗化粒子13a,13b(もしくは第2Cuめっき層13a',13b’)を覆うように、粗化粒子13a,13bの脱落抑制効果の高いNi−Co合金めっき層14a,14bをそれぞれ形成することで、上記Cuめっきにより所望の値とした表面粗さRaをほとんど変化させることなく、粗化粒子13a,13bの脱落を抑制する。Ni−Co合金めっき層14a,14bの形成方法について説明する。
【0053】
(ニッケル−コバルト合金めっき工程)
銅合金箔11をコイル・ツー・コイルで搬送しながら、上述のようにCuめっきを施した銅合金箔11の例えば両面に電解めっきを行って、Ni−Co合金めっき層14a,14bを形成する。係る電解めっきでは、例えば硫酸ニッケル(NiSO4)液、硫酸コバルト(CoSO4)液、及びクエン酸ナトリウム(Na3(C35O(COO)3)液を混合しためっき液を用い、数A/dm2の電流密度で電解する。処理時間は、例えば3秒以上12秒以下とする。
【0054】
これにより、例えば質量厚さが20μg/cm2以上40μg/cm2以下のNi−Co合金めっき層14a,14bが形成される。Ni−Co合金めっき層14a,14bにより、粗化粒子13a,13bの脱落を抑制することができる。また、負極集電銅箔10の表面が酸化され難くなり、タブリード16との密着性を高めて溶接強度を向上させることができる。また、Ni−Co合金めっき層14a,14bの質量厚さを40μg/cm2以下としているので、負極集電銅箔10の平坦化を抑制して負極活物質層15a,15bとの密着性を充分に維持することができる。
【0055】
以上により、銅合金箔11と、銅合金箔11の両面に形成された第1Cuめっき層12、12bと、第1Cuめっき層12a,12b上に形成された粗化粒子13a,13bと、粗化粒子13a,13bを覆い粗化粒子13a,13bを肥大させる第2Cuめっき層13a',13b'と、第2Cuめっき層13a',13b'を覆うNi−Co合金めっき層14a,14bとを備え、負極集電銅箔10の表面粗さRa(μm)について、負極活物質層15a,15bにおけるバインダ割合Cb(wt%)との関係において、以下の式を満たすリチウムイオン二次電池用負極集電銅箔10が製造される。
Cb≧38×Ra×Ra−1.2×Ra・・・・(式1)
ただし、0.10≦Ra≦0.72、かつ、2≦Cb≦20を満たす。
【0056】
(4)リチウムイオン二次電池用負極の製造方法
次に、図2に示す構成を備えるリチウムイオン二次電池用負極1の製造方法について説明する。
【0057】
(負極活物質層の形成工程)
まずは、負極集電銅箔10にスラリーを塗布して負極活物質層15a,15bを形成する方法について説明する。係る工程は、例えばコイル・ツー・コイル方式の連続ラインにより、負極集電銅箔10にスラリーを塗布するアプリケータ等の装置を用いて行う。
【0058】
具体的には、例えば負極活物質、バインダ溶液、及び必要に応じて導電助剤を混練したスラリーを、負極集電銅箔10の両面に塗布し、略均一の厚みに均して圧着し、例えば70℃〜130℃で数分間〜数十分間、乾燥する。
【0059】
スラリーに含まれる負極活物質としては、例えばSnやSi等の合金、或いは化合物等の粉末を用いることができる。個々の粉末の直径は、例えば数μm〜数十μmである。また、バインダ溶液としては、ポリイミド(PI)等のイミド系樹脂の前駆体やその他の樹脂等の溶液を用いることができる。
【0060】
電池容量の観点から、負極活物質をできるだけ多く混入させたい場合、バインダ溶液は少量とすることが望ましい。乾燥工程等を経た後に負極集電銅箔10上に残った不揮発性成分のうち、バインダ成分が占める割合(以下、バインダ割合)(wt%)を例えば、2.1wt%などとすることができる。
【0061】
(式1)に規定される任意のバインダ割合Cb(wt%)に対して、負極集電銅箔10の表面粗さRaが、(式1)に規定されるRaより大きい値をとる場合、負極活物質層15a,15bとの密着性に向上がみられなかったり、却って密着性が低下してしまったりすることがある。係る密着性の挙動の原因として、負極活物質に対してバインダ溶液が少量であることが挙げられる。つまり、負極集電銅箔10の表面粗さRaが大きく、表面の凹凸が深いと、バインダ溶液が奥まで到達できないため、バインダ溶液は主に凸部近傍に留まることとなり、結果的に、バインダ成分と負極集電銅箔10の表面との接触面積が減り、密着性を高めることができないと考えられる。
【0062】
バインダ割合を大きくとることが可能な場合は、(式1)を満たす範囲内において、負極集電箔10の表面粗さRaを粗くすればよい。
【0063】
本実施形態においては、負極集電銅箔10の表面粗さRaが、負極活物質層15a,15b中のバインダ割合Cbとの関係において、適正値となるようCuめっきを行って負極活物質層15a,15bとの高い密着性を維持しつつ、Ni−Co合金めっき層14a,14bを設けることで粗化粒子13a,13bの脱落を抑制することができる。
【0064】
次に、例えば赤外線加熱炉等を用い、スラリーが圧着された負極集電銅箔10に対し、高温かつ長時間の熱処理を施す。このとき、タブリード16と溶接される負極集電銅箔10の露出面の酸化を抑制するため、上記熱処理は、例えば窒素(N2)ガスやアルゴン(Ar)ガス等の非酸化性雰囲気下で行う。これにより、例えばイミド系樹脂等の前駆体からなるバインダ成分のイミド化反応が進行して固化し、負極集電銅箔10の両面に、負極活物質及びイミド化されたバインダ成分を含む負極活物質層15a,15bが形成される。
【0065】
上記熱処理において、負極集電銅箔10の第2Cuめっき層13a',13b'が露出したままでは、たとえ上記のように非酸化性雰囲気下で熱処理を行ったとしても、残留酸素等の影響で表面が酸化される場合がある。そこで、本実施形態では、第2Cuめっき層13a',13b'の表面をNi−Co合金めっき層14a,14bで覆う構成としている。これにより、負極集電銅箔10に高温かつ長時間の熱処理を施しても表面が酸化され難くなる。
【0066】
このように、本実施形態においては、例えば負極活物質層15a,15bとしてSnやSiの合金等を用いてリチウムイオン二次電池50の高容量化を図りつつ、高温・長時間の熱処理を必要とする負極活物質層15a,15bの形成時には、Ni−Co合金めっき層14a,14bによりCuで形成される負極集電銅箔10の酸化を抑制する。よって、タブリードとの溶接強度を向上させてリチウムイオン二次電池50を長寿命化することが可能となる。
【0067】
(タブリードの溶接工程)
次に、図2を参照しながら、負極集電銅箔10にタブリード16を溶接する方法について説明する。
【0068】
図2に示すように、両面に負極活物質層15a,15bが形成された負極集電銅箔10は、少なくとも片面或いは両面の一端に、負極活物質層15a,15bが形成されていない露出領域10sを有する。リチウムイオン二次電池50が備える電池外挿缶5と電気的接続を取るため、この負極集電銅箔10の露出領域10sにタブリード16を溶接する。
【0069】
すなわち、負極集電銅箔10の露出領域10sと、例えばNi又はNiめっき銅等からなるタブリード16とを重ね合わせ、例えば超音波溶接機にて、所定の加圧力、負荷エネルギーを加えつつ、所定の負荷時間で溶接処理を行う。これにより、負極集電銅箔10とタブリード16とが溶接される。本実施形態では、負極集電銅箔10の表面を覆うNi−Co合金めっき層14a,14bにより負極集電銅箔10表面の酸化が抑制されているので、高い溶接強度でタブリード16を溶接することができる。
【0070】
このように、本実施形態では、タブリード16との溶接強度が向上するので、例えばリチウムイオン二次電池50の製造時、或いは使用時にタブリード16の剥がれが生じて電池外部に電流が取り出せなくなる等の不具合を低減することができる。
【0071】
このようなタブリード16との溶接強度の向上は、例えばNi−Co合金めっき層14a,14bの質量厚さが20μg/cm2以上において得られる。質量厚さを20μg/cm2以上とすることで、高温・長時間の熱処理を行っても下層のCuがNi−Co合金めっき層14a,14bへと拡散し難くなり、超音波溶接時に新生面の露出を妨げるNiやCoのCuとの合金の形成を抑制することができるからである。
【0072】
また、超音波を付加した際に新生面が露出し易くなることで、比較的短時間の溶接時間であってもタブリード16との充分な溶接強度が得られる。溶接時間が短縮されれば、製造スループットが上がるほか、溶接時の負極集電銅箔10へのダメージを低減することができる。よって、負極集電銅箔10が破れ易くなる等の不具合を低減することができる。
【0073】
また、Ni−Co合金めっき層14a,14bの質量厚さが例えば40μg/cm2よりも厚くなると、タブリード16との溶接強度の向上効果は飽和する。したがって、Ni−Co合金めっき層14a,14bの質量厚さを40μg/cm2以下とすることで、NiやCo等の高価な材料の浪費を抑え、製造コストを低減することができる。
【0074】
以上により、リチウムイオン二次電池用負極集電銅箔10と、負極集電銅箔10の例えば両面に形成された負極活物質層15a,15bと、負極集電銅箔10に接続されたタブリード16と、を備えるリチウムイオン二次電池用負極1が製造される。
【0075】
(5)リチウムイオン二次電池の製造方法
次に、図3を参照しながら、リチウムイオン二次電池50の製造方法について説明する。ここでは、図3に示す円筒型のリチウムイオン二次電池50を例にとって説明するが、リチウムイオン二次電池は、角型、ラミネート型等、他の形態を有していてもよい。
【0076】
まず、リチウムイオン二次電池用負極1とリチウムイオン二次電池用正極2とをセパレータ3を介して重ね合わせ、図示しない巻芯に巻き取った捲回体4を製作する。正極2は、リチウムイオン二次電池用正極集電金属箔と、正極集電金属箔の例えば両面に形成された正極活物質層と(いずれも図示せず)、正極集電金属箔に接続されたタブリード26と、を備える。正極集電金属箔を構成する金属は、例えばアルミニウム(Al)やその他の金属等である。正極活物質層は、例えばLiを含む金属複合酸化物等からなる。セパレータ3は、例えば多孔質の樹脂等からなる。
【0077】
次に、容器としての電池外挿缶5に、図示しない下部絶縁板と、捲回体4とをこの順に収容する。続いて、図示しないマンドレル(芯金)を捲回体4の中心に挿入し、上部絶縁板を電池外挿缶5に収容した後に、電池外挿缶5に溝6を形成(溝入れ)する。この後、乾燥を行って電池外挿缶5内の水分を飛ばす。電池外挿缶5内が充分に乾燥したら、図示しない電解液を注入する。次に、電池外挿缶5の溝6近傍にガスケット7を装着し、負極1のタブリード16を電池外挿缶5に、正極2のタブリード26をキャップ8の備える端子8tにそれぞれ溶接し、キャップ8を電池外挿缶5にクリンプ(圧着)して電解液を封入する。
【0078】
以上により、セパレータ3が間に挿入されたリチウムイオン二次電池用負極1及びリチウムイオン二次電池用正極2が収容され、電解液が封入された電池外挿缶5を備えるリチウムイオン二次電池50が製造される。
【0079】
<本発明の他の実施形態>
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0080】
例えば、上述の実施形態では、銅合金箔11の具体例として日立電線株式会社製のHCL02Z箔を挙げたが、銅合金からなる圧延銅箔はこれに限定されない。日立電線株式会社製品の中からさらにいくつかの具体例を示すと、HCL64T(Crを0.20質量%〜0.30質量%、Snを0.23質量%〜0.27質量%、Znを0.18質量%〜0.26質量%、それぞれ含有)、HCL305(Niを2.2質量%〜2.8質量%、Siを0.3質量%〜0.7質量%、Znを1.5質量%〜2.0質量%、Pを0.015質量%〜0.06質量%、それぞれ含有)等が挙げられる(HCLは登録商標)。また、これらのほか、純銅に、銀(Ag)、Sn、Fe等を添加した銅合金箔も用いることができる。
【0081】
また、上述の実施形態では、圧延銅箔として銅合金箔11を用いたが、純銅からなる圧延銅箔を用いることも可能である。純銅からなる圧延銅箔は、例えば負極の製造工程に含まれる熱処理が比較的緩やかな場合等に好適である。
【0082】
また、上述の実施形態では、負極集電銅箔10の両面に負極活物質層15a,15bを形成する構成としたが、負極活物質層は負極集電銅箔の少なくとも片面に形成されていればよく、この場合、Cuめっき層、粗化粒子、Ni−Co合金めっき層等も、銅合金箔或いは銅箔等の圧延銅箔の少なくとも片面に形成されていればよい。
【0083】
また、上述の実施形態では、Cuめっきの際、粗化粒子13a,13bの上に更に第2Cuめっき層13a',13b'を設けたが、係る第2Cuめっき層13a',13b'を省略してもよい。この場合であっても、本願においては、圧延銅箔上にNi−Co合金めっく層14a,14b等を別途設けるので、粗化粒子13a,13bの脱落を充分に抑制することが可能である。
【0084】
また、上記実施形態では、銅合金箔11上にNi−Co合金めっき層14a,14bを形成したが、Niめっき層やCoめっき層等であっても、タブリードとの密着性を高め、かつ、粒状電着物の脱落を抑制するNi−Co合金めっき層14a,14bと略同等の効果が得られる。
【実施例】
【0085】
本発明の実施例に係るリチウムイオン二次電池用負極集電銅箔の負極活物質層との密着性、タブリードとの溶接強度、及び粗化粒子の保持性の評価結果について以下に説明する。
【0086】
(1)負極集電銅箔の製作
まずは、以下に述べる手順に従い、実施例1〜8、比較例1〜6、実施例9〜33、及び比較例7〜16に係る負極集電銅箔を製作した。
【0087】
評価に用いる銅合金箔として、日立電線株式会社製のHCL02Z箔を、上述の実施形態と同様の手法により、厚さを12μm、Zrの含有量を0.02質量%に製作した。Zrの含有量は、溶解鋳造により得たケークの一部を採取し、固体発光分光分析により定量分析したものである。
【0088】
次に、上述の実施形態と同様の手法を用い、コイル・ツー・コイル方式の連続ラインにより、上記銅合金箔に対して、電解脱脂、酸洗浄、Cuめっき、Ni−Co合金めっきを施して負極集電銅箔を製作した。Cuめっき、Ni−Co合金めっきでは、以下の 表1に示す条件を中心として、所定ステップの省略、或いは電流密度、処理時間等の変更を行って、それぞれ実施例1〜33及び比較例1〜16とした。なお、Ni−Co合金めっきにおけるCo濃度は40%〜60%であった。
【0089】
【表1】

【0090】
また、Ni−Co合金めっき層以外のめっき層の効果をみるため、Niめっき及びCoめっきを施したものを、それぞれ実施例7,8とした。係るめっきは、連続ラインで上記Cuめっきを施した後の銅合金箔に対し、ビーカー試験にて実施した。
【0091】
(2)負極集電銅箔の測定
上記のように製作した実施例1〜33及び比較例1〜16に係る負極集電銅箔に対し、以下に述べる手順に従って各種測定を行った。
【0092】
(1%耐力の測定)
15mm×160mmに切り出した上記負極集電銅箔に対し、赤外線加熱炉によりN2ガス雰囲気下にて400℃で10時間の熱処理を施した。係る熱処理は、上述の実施形態における負極活物質層15a,15bの形成工程を模したものである。その後、各負極集電銅箔に対してJIS Z2241に規定の「金属材料引張試験」を行い、応力−歪み線図から「全伸び法」による1%耐力を求めた。
【0093】
(表面粗さRaの測定)
Ni−Co合金めっきを行う前に、Cuめっき後の銅合金箔のうちの一部を25mm×400mmに切り出して質量を測定し、Cuめっき前の銅合金箔の質量と比較することで、Cuめっき量を測定した。また、Ni−Co合金めっき後の上記負極集電銅箔の表面粗さ測定器(Keyence Laser Scanning Microscope VK-8700)を用いて、対物レンズ100倍で測定し、データ処理として、傾き補正及びノイズ除去(高さカットを「通常」条件で設定し)を行い、JIS B0601に準拠した「算術平均粗さRa」を算出した。
【0094】
(ニッケル−コバルト合金めっき層の質量厚さ測定)
40mm×100mmに切り出した負極集電銅箔を希硝酸(HNO3)に浸漬してNi−Co合金めっき層を溶解させ、適宜希釈した後、ICP発光分光分析によりめっき量を定量分析した。係るめっき量から、Ni−Co合金めっき層の質量厚さを算出した。
【0095】
(負極活物質層との密着性測定)
実施例1〜8及び比較例1〜6は、負極活物質層15a,15bにおけるバインダの割合(バインダ割合)を2.1wt%として、バインダ割合を一定としている。一方、実施例9〜33及び比較例7〜16については、バインダ割合を変化させている。
【0096】
一例として、バインダ割合2.1wt%とした実施例1について説明する。上述の実施形態に係る負極活物質層15a,15bを模して、負極集電銅箔上にSiを含む混合物を形成した。すなわち、直径が3μmの市販のSi粉末を、市販のポリイミド(PI)ワニス(PI前駆体のN−メチルピロリドン(NMP)溶液)に、重量比でSi:PI=9:1の割合で混合した後、上記負極集電銅箔上に100μm厚さに塗布した。次に、大気中にて100℃で30分乾燥して溶剤を蒸発させた後、赤外線加熱炉によりN2ガス雰囲気下にて400℃で10時間の熱処理を施して固化させた。なお、本実施の形態で使用したPIは、乾燥後に生成された負極活物質層15a,15bにおいて、2.1wt%となった。バインダ割合を変化させる場合は、実質的に形成されるPIの割合を加味して、配合を決定すればよい。
【0097】
続いて、JIS K5600−5−6に規定の「クロスカット法」を実施してSi混合物との密着性を調べ、係る結果を模式的に負極活物質層との密着性とした。具体的には、Si混合物が形成された負極集電銅箔を2mm間隔でカットし、剥離によって下地が露出しなかったものの割合(%)を求め、72%以上を許容値とした。
【0098】
(タブリードとの溶接強度測定)
15mm×50mmに切り出した負極集電銅箔に対し、赤外線加熱炉によりN2ガス雰囲気下にて400℃で10時間の熱処理を施した。次に、上述の実施形態と同様に超音波溶接機を用い、厚さが0.1mm、サイズが4mm×50mmの純Ni製のタブリードを負極集電銅箔に溶接した。溶接条件は、加圧力が0.2MPa、負荷エネルギーが20J、負荷時間が0.29秒〜0.35秒である。タブリードが溶接された負極集電銅箔に対して引張試験を行って最大破断荷重(gf)を測定し、7gf以上を許容値とした。
【0099】
(粗化粒子の保持性測定)
100重量グラム(gf)の加重で、負極集電銅箔に濾紙を押しつけながら1cm擦った後に、濾紙の着色の有無により、○(着色なし)、△(若干、着色あり)、×(着色あり)のいずれかに判別し、○のみを許容値とした。
【0100】
(3)負極集電銅箔の評価結果
上記の測定による評価結果を表2に示す。
【0101】
【表2】

【0102】
(圧延銅箔の評価)
表2に示す実施例1〜8及び比較例1〜6のいずれにおいても、400℃で10時間の熱処理後の1%耐力は300MPaであった。これは、純銅箔に比べ、100MPa以上高い耐力である。これにより、HCL02Z箔等の銅合金からなる圧延銅箔が、高耐力性と高耐熱性とを兼ね備えていることがわかった。
【0103】
(Cuめっきの評価)
表2に示す比較例1,2、実施例1〜3、及び比較例3は、Cuめっきの条件を種々に振って製作された負極集電銅箔の評価結果である。ここでは主に、Cuめっきの状態による影響を受け易い負極活物質との密着性(72%以上が許容値)に基づき、各実施例及び比較例の良否を判定した。
【0104】
Cuめっきを一切行わなかった比較例1は、表面粗さRaが0.15μmであり、所定範囲内となっているが、粗化粒子を有さないため負極活物質層との密着性が不足している。このような密着性の不足は、Cuめっきの第2、第3段階を省略した比較例2(第2、第3段階の電流密度が0A/dm2)においてもみられる。
【0105】
実施例1〜3及び比較例3は、Cuめっき工程の処理時間を3秒〜12秒まで徐々に延ばして製作した負極集電銅箔である。表面粗さRaが所定範囲内の実施例1〜3では負極活物質層との密着性が充分得られ、表面粗さRaが0.15μmの実施例2において密着性が最大となった。一方、処理時間が最長の比較例3では、表面粗さRaが所定範囲を超える値となっており、密着性が急激に低下している。
【0106】
以上の結果から、バインダ割合Cbが、2.1(wt%)の際には、負極集電銅箔の表面粗さRaが0.10μm以上0.30μm未満のときに、負極活物質層との密着性が良好となることがわかった。なお、実施例1〜3及び比較例1〜3においては、Ni−Co合金めっき層の質量厚さを適正値としているので、タブリードとの溶接強度及び粗化粒子の保持性においては、いずれも良好な結果が得られた。
【0107】
(ニッケル−コバルト合金めっきの評価)
表2に示す比較例4,5、実施例4〜6、及び比較例6は、Ni−Co合金めっきの条件を種々に振って製作された負極集電銅箔の評価結果である。具体的には、Ni−Co合金めっきの電流密度を0A/dm2〜10A/dm2まで徐々に増大させた。ここでは主に、Ni−Co合金めっきの状態による影響を受け易いタブリードとの溶接強度(7gf以上が許容値)、粗化粒子の保持性(○のみが許容値)に基づき、各実施例及び比較例の良否を判定した。
【0108】
Ni−Co合金めっき層を形成しなかった比較例4(電流密度が0A/dm2)、及び電流密度が小さくNi−Co合金めっき層の質量厚さが所定値未満の比較例5では、タブリードとの溶接強度が不足している。また、比較例1,2ともに、粗化粒子の若干の脱落が認められた。
【0109】
Ni−Co合金めっき層の質量厚さが所定範囲内の実施例4〜6では、タブリードとの溶接強度が充分得られ、質量厚さが30μg/cm2の実施例5において溶接強度が最大となった。また、実施例4〜6のいずれにおいても粗化粒子の脱落は認められなかった。
【0110】
一方、比較例6ではNi−Co合金めっき層の質量厚さを50μg/cm2としたものの、タブリードとの溶接強度には実施例4〜6以上の向上はみられなかった。つまり、比較例6においては、NiやCo等の高価な材料が無駄に消費されたことになる。
【0111】
以上の結果から、Ni−Co合金めっき層の質量厚さが20μg/cm2以上40μg/cm2以下のときに、粗化粒子の保持性が良好となり、タブリードとの溶接強度を向上させるのに必要かつ充分な厚さとなっていることがわかった。なお、実施例4〜6及び比較例4〜6においては、Cuめっきによる表面粗さRaを適正値としているので、負極活物質層との密着性においては、いずれも良好な結果が得られた。
【0112】
(Co−Ni合金めっき代替めっきによるめっき層の評価)
Niめっき層を有する実施例7及びCoめっき層を有する実施例8においても、Ni−Co合金めっき層の場合と同様、負極活物質層との密着性、タブリードとの溶接強度、及び粗化粒子の保持性のいずれについても良好な結果が得られた。
【0113】
(バインダ割合を変化させた場合の負極活物質密着性の評価)
表2に示す実施例9〜33及び比較例7〜16では、(1)Cuめっき時間について、第1〜3段のCuめっき毎に、それぞれ変化させる、(2)Cuめっき時の電流密度を変化させる、(3)第2又は/及び第3のCuめっきを複数回実施するなどして、0.12〜0.72(μm)の範囲内で、異なる表面粗さを有する負極集電銅箔を用意し、負極活物質層15a,15bにおけるバインダの割合Cbを2(wt%)以上20(wt%)以下の種々の値としている。
【0114】
実施例9〜33は、負極活物質との密着性の評価において、72%以上の値を示し、密着性が十分得られていることが分かる。一方、比較例7〜16は、72%を下回っている。
【0115】
なお、実施例9〜33及び比較例7〜16においては、Ni−Co合金めっき層の質量厚さを適正値としているので、上述した実施例タブリードとの溶接強度及び粗化粒子の保持性においては、いずれも良好な結果が得られた。
【0116】
このように、負極活物質密着性が良好なものについて、バインダ割合Cb(wt%)と表面粗さRa(μm)は以下の関係をみたす。
Cb≧38×Ra×Ra−1.2×Ra・・・・(式1)
ただし、0.10≦Ra≦0.72、かつ、2≦Cb≦20を満たす。
【0117】
また、図4に、実施例9〜33及び比較例7〜16を、横軸を表面粗さRa(μm)、縦軸をバインダ割合Cb(wt%)として、プロットしたものを示す。合わせて、負極活物質との密着性の評価が72%以上となる境界(閾値)を示す曲線も図4へ示す。
【符号の説明】
【0118】
1 リチウムイオン二次電池用負極
2 リチウムイオン二次電池用正極
3 セパレータ
4 捲回体
5 電池外挿缶(容器)
6 溝
7 ガスケット
8 キャップ
8t 端子
10 リチウムイオン二次電池用負極集電銅箔
11 銅合金箔(圧延銅箔)
12a,12b 第1Cuめっき層
13a,13b 粗化粒子(粒状電着物)
13a',13b’ 第2Cuめっき層
14a,14b Ni−Co合金めっき層
15a,15b 負極活物質層
16,26 タブリード
50 リチウムイオン二次電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン二次電池用負極集電銅箔と、前記リチウムイオン二次電池用負極集電銅箔に設けられ、バインダを含む負極活物質層とを有するリチウムイオン二次電池用負極であって、
前記リチウムイオン二次電池用負極集電銅箔は、銅又は銅合金からなる圧延銅箔と、前記圧延銅箔の少なくとも順に設けられた第1Cuめっき層と、粗化粒子と、第2Cuめっき層と、を有し、さらに、ニッケル−コバルト合金めっき層、ニッケルめっき層、又はコバルトめっき層のいずれかと、を備えるとともに、
前記バインダ割合Cb(wt%)をCbとすると、表面粗さRaが、
Cb≧38×Ra×Ra−1.2×Ra・・・・(式1)
(ただし、0.10≦Ra≦0.72、かつ、2≦Cb≦20を満たす)
であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項2】
バインダを含む負極活物質層とともに用いられることでリチウムイオン二次電池用負極となるリチウムイオン二次電池用負極集電銅箔であって、
銅又は銅合金からなる圧延銅箔と、
前記圧延銅箔の少なくとも順に設けられた第1Cuめっき層と、粗化粒子と、第2Cuめっき層と、を有し、さらに、
ニッケル−コバルト合金めっき層、ニッケルめっき層、又はコバルトめっき層のいずれかと、を備えるとともに、
前記バインダ割合Cb(wt%)をCbとすると、表面粗さRaが、
Cb≧38×Ra×Ra−1.2×Ra・・・・(式1)
(ただし、0.10≦Ra≦0.72、かつ、2≦Cb≦20を満たす)
であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極集電銅箔。
【請求項3】
前記ニッケル−コバルト合金めっき層、前記ニッケルめっき層、及び前記コバルトめっき層の質量厚さは、20μg/cm2以上40μg/cm2以下である
ことを特徴とする請求項2に記載のリチウムイオン二次電池用負極集電銅箔。
【請求項4】
前記圧延銅箔を構成する前記銅合金は、高耐熱性銅合金である
ことを特徴とする請求項2又は3に記載のリチウムイオン二次電池用負極集電銅箔。
【請求項5】
前記第1Cuめっき層は、純銅からなる
ことを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用負極集電銅箔。
【請求項6】
請求項2に記載のリチウムイオン二次電池用負極集電銅箔と、
前記リチウムイオン二次電池用負極集電銅箔の少なくとも片面に形成された負極活物質層と、
前記リチウムイオン二次電池用負極集電銅箔に接続されたタブリードと、を備える
ことを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項7】
請求項6に記載のリチウムイオン二次電池用負極と、
リチウムイオン二次電池用正極と、
前記リチウムイオン二次電池用負極及び前記リチウムイオン二次電池用正極の間に挿入されたセパレータと、
前記セパレータが間に挿入された前記リチウムイオン二次電池用負極及び前記リチウムイオン二次電池用正極が収容され、電解液が封入された容器と、を備える
ことを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項8】
銅又は銅合金からなる圧延銅箔を陰極としてCuめっきを施し、前記圧延銅箔の少なくとも順に第1Cuめっき層と、粗化粒子と、第2Cuめっき層を設けるCuめっき工程と、
前記第2Cuめっき層上に、前記粗化粒子及び第2Cuめっき層を覆うようにニッケル−コバルト合金めっき層、ニッケルめっき層、又はコバルトめっき層のいずれかを形成する工程と、を有する
ことを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極集電銅箔の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−69684(P2013−69684A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−197039(P2012−197039)
【出願日】平成24年9月7日(2012.9.7)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】