説明

リチウムイオン二次電池用電解液、及びリチウムイオン二次電池

【課題】マイクロショートの発生リスクを顕著に低減したリチウムイオン二次電池用電解液を提供すること。
【解決手段】バソクプロイン、スルホン化バスクプロイン、4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリンジスルホン酸、チアジアゾール類、2−(5−ブロモ−2−ピリジルアゾ)−5−(N−プロピルー3−スルホプロピルアミノ)フェノール、2−(5−ブロモ−2−ピリジルアゾ)−5−(N−プロピル−N−スルホプロピルアミノ)アニリン、4−(2−ピリジルアゾ)レゾルシン、サリチルアルドキシム、α−ベンゾインオキシム、ジメチルグリオキシム、アルミノン、8−ヒドロキシキノリン、及びこれらの誘導体よりなる群から選択された1種又は2種以上の化合物と、非水電解液と、を含むリチウムイオン二次電池用電解液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用電解液、及び該リチウムイオン二次電池用電解液を含むリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子技術の発展に伴い、移動体通信機器やポータブルコンピュータが広く普及してきている。そして、これら携帯機器の電源として、高エネルギー密度の二次電池が有望視されている。特に、非水電解質二次電池であるリチウムイオン二次電池は、高電圧が期待できることから、機器の小型化、軽量化に寄与し得る。また、リチウムイオン二次電池は、近年環境問題対策で注目を集めているハイブリット自動車用電池としても有望であり、開発が加速されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、リチウムを吸蔵、放出可能な活物質を含む正極と負極とがセパレーターを介して配された構成を有する。前記正極は、正極活物質としてのLiCoO2、LiNiO2、LiMn24等に、導電剤としてのカーボンブラックや黒鉛、バインダーとしてのポリフッ化ビニリデンやラテックス、ゴム等を混合した正極合剤が、アルミニウム等からなる正極集電体上に被覆されて形成される。一方、前記負極は、負極活物質としてのコークスや黒鉛等に、バインダーとしてのポリフッ化ビニリデンやラテックス、ゴム等を混合した負極合剤が、銅等からなる負極集電体上に被覆されて形成される。前記セパレーターは、多孔性ポリエチレンや多孔性ポリプロピレン等にて形成され、その厚みは数μmから数百μmと非常に薄い。そして、前記正極、負極、セパレーターは電解液に含浸される。電解液としては、LiPF6のようなリチウム塩を、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネートのような非プロトン性溶媒やポリエチレンオキシドのようなポリマーに溶解させた電解液が用いられている。
【0004】
このようなリチウムイオン電池においては、特許文献1に記載されているようにマイクロショートと呼ばれる短絡が発生する場合がある。このマイクロショートの原因としては、製造工程中における微小量の金属不純物、特に銅の混入に起因する場合と、正極や、集電体の劣化が除々に進行することにより、銅、コバルト、ニッケル、マンガン等の金属イオンが電池内に溶出し、さらに充放電を繰り返すことによって電極上に上記金属が析出することに起因する場合がある。
【0005】
上記問題を解決するために、例えば、特許文献2には、正極から溶出するマンガン成分を捕捉する手段として、正極中に燐酸リチウム、タングステン酸リチウム、珪酸リチウム、アルミナイト、ホウ酸リチウム、モリブテン酸リチウム、陽イオン交換樹脂の群から選ばれる捕捉剤を添加する方法が開示されている。
また、特許文献3には、不織布からなるセパレーターの表面に水酸基、カルボン酸基、スルホン酸基、又はこれらの塩からなる官能基を表面に付与する方法が開示されている。
さらに、特許文献4には、マンガン系正極から溶出するマンガンを捕捉することを目的として、セパレーター表面を、カルボン酸やスルホン酸等の陽イオン交換樹脂で修飾させる方法が開示されている。しかしながら、電解液中には大量のリチウムイオンが存在し、しかもリチウムは非常に低い電気陰性度を有しているので、たとえ、上述のような陽イオン交換基があっても、微量に溶出した銅等の重金属を効率よく捕捉する事は困難である。
【0006】
一方、重金属を選択的に捕捉する方法として、重金属イオンを配位的に束縛するキレート官能基を用いる方法が検討されている。例えば、特許文献5には、正極、負極、セパレーターの少なくとも1つにキレート高分子を含有させる方法が開示されている。
また、特許文献6には、マンガン系正極を用いた二次電池において正極又は負極にキレート剤、キレート樹脂を添加する方法が記載されている。
さらに、特許文献7には、バインダー、セパレーター、電解質にキレート剤を添加する方法が開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開2005−209528号公報
【特許文献2】特開2000−11996号公報
【特許文献3】特開2000−268799号公報
【特許文献4】特開2002−25527号公報
【特許文献5】特開H11−121012号公報
【特許文献6】特開2000−195553号公報
【特許文献7】特開2004−63123号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、キレート剤のような低分子化合物を添加しても、電池内で容易に拡散が起こってしまい、活性な電極上ではせっかくキレート化させた重金属イオンが還元され、結果としてマイクロショートが起こってしまう。また、バインダーは、一般的にポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンコポリマー等の高分子から構成され、一方、セパレーターは、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンから構成される。この様なバインダーやセパレーターを構成する高分子は、キレート基のような極性基を持つ高分子との密着性が非常に悪く、また、相溶性も非常に悪いため、均一に混合させる事はできず、界面からの剥離や、バインダーやセパレーターの強度低下を伴う。
【0009】
また、水中の金属イオンを沈殿させる試薬として金属用重量分析試薬が一般的に知られているが、本発明者らの検討の結果、有機溶媒系の非水電解液中では、Cu等の金属イオンを有効に沈殿させることが可能な化合物と、そうでない化合物が存在することが判明した。
【0010】
上記事情に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、マイクロショートの発生リスクを顕著に低減したリチウムイオン二次電池用電解液を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の化合物と、非水電解液とを含むリチウムイオン二次電池用電解液が、マイクロショートの発生リスクを顕著に低減できることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]
バソクプロイン、スルホン化バスクプロイン、4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリンジスルホン酸、チアジアゾール類、2−(5−ブロモ−2−ピリジルアゾ)−5−(N−プロピルー3−スルホプロピルアミノ)フェノール、2−(5−ブロモ−2−ピリジルアゾ)−5−(N−プロピル−N−スルホプロピルアミノ)アニリン、4−(2−ピリジルアゾ)レゾルシン、サリチルアルドキシム、α−ベンゾインオキシム、ジメチルグリオキシム、アルミノン、8−ヒドロキシキノリン、及びこれらの誘導体よりなる群から選択された1種又は2種以上の化合物と、非水電解液と、を含むリチウムイオン二次電池用電解液。
[2]
前記化合物の含有量は、0.0001質量%〜10質量%である、上記[1]記載のリチウムイオン二次電池用電解液。
[3]
前記チアジアゾール類は、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール、5−メルカプト−3−フェニル−1,3,4−チアジアゾール−2−チオン、及びこれらのアルカリ金属塩よりなる群から選ばれる1種又は2種以上である、上記[1]又は[2]記載のリチウムイオン二次電池用電解液。
[4]
正極と、負極と、前記正極と前記負極の間に介在したセパレーターとを備えるリチウムイオン二次電池であって、前記リチウムイオン二次電池は、上記[1]〜[3]のいずれか記載のリチウムイオン二次電池用電解液を含む、リチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、マイクロショートの発生リスクを顕著に低減したリチウムイオン二次電池用電解液を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、本実施の形態)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0015】
[リチウムイオン二次電池用電解液]
本実施の形態のリチウムイオン二次電池用電解液は、バソクプロイン、スルホン化バスクプロイン、4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリンジスルホン酸、チアジアゾール類、2−(5−ブロモ−2−ピリジルアゾ)−5−(N−プロピル−3−スルホプロピルアミノ)フェノール、2−(5−ブロモ−2−ピリジルアゾ)−5−(N−プロピル−N−スルホプロピルアミノ)アニリン、4−(2−ピリジルアゾ)レゾルシン、サリチルアルドキシム、α−ベンゾインオキシム、ジメチルグリオキシム、アルミノン、8−ヒドロキシキノリン、及びこれらの誘導体よりなる群から選択された1種又は2種以上の化合物と、非水電解液と、を含む。
【0016】
本実施の形態の電解液に含まれる上記特定の化合物は、金属用重量分析試薬と言われるものの1種である。金属用重量分析試薬とは、重金属である鉄、鉛、金、白金、銅、クロム、カドミウム、亜鉛、砒素、マンガン、コバルト、モリブテン、タングステン、錫、ビスマス等と難溶性の沈殿物を形成させることのできる試薬であり、本実施の形態においては、上記特定の金属用重量分析試薬を電解液中に含有させる。
【0017】
上記特定の化合物は、重金属イオンとの錯体の溶解度積が非常に小さいので、有機溶媒系の非水電解液中においても、電極等から溶出する金属イオン(例えば、Niイオン、Cuイオン、Coイオン等)と、効率的に反応して沈殿物を生じさせることにより、溶出金属イオンが結晶成長して電極間にまたがることに起因するマイクロショートの発生を有効に防止することを可能とする。
【0018】
上記化合物の中でも、重金属イオンと橋かけ構造を採るような錯体を形成するため、特に窒素と硫黄からなる複素環を形成するチアジアゾール類が好ましく、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール、5−メルカプト−3−フェニル−1,3,4−チアジアゾール−2−チオン、及びこれらのアルカリ金属塩がより好ましい。アルカリ金属塩の形で供給される場合は、例えば、リチウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩等の形で供給される。ここで、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールは、「ビスムチオールI」として、5−メルカプト−3−フェニル−1,3,4−チアジアゾール−2−チオンのカリウム塩は、「ビスムチオールII」として知られている。
【0019】
上記化合物の含有量としては、リチウムイオン二次電池用電解液に対して、好ましくは0.0001質量%〜10質量%、より好ましくは0.0001質量%〜5質量%、さらに好ましくは0.001質量%〜5質量%である。化合物の含有量が0.0001質量%以上であると、マイクロショート防止効果が顕著となる傾向にあり、10質量%以下であると、長期間リチウムイオン二次電池を使用した場合であっても構成部材の劣化を引き起こすおそれが少なくなる。
【0020】
本実施の形態のリチウムイオン二次電池用電解液に含まれる非水電解液としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の環状カーボネート;メチルエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状カーボネート;ガンマブチルラクトン等のラクトン類;ジメチルエーテル等のエーテル類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル類;アセトニトリル等が挙げられ、中でも、高いイオン伝導性を確保する観点から、特に、環状カーボネートと鎖状カーボネートの混合物が好ましく、エチレンカーボネートとメチルエチルカーボネートの混合物がより好ましい。
【0021】
エチレンカーボネートとメチルエチルカーボネートの混合物を用いる場合、両者の混合比としては、(エチレンカーボネート)/(メチルエチルカーボネート)(質量比)として、好ましくは1/9〜9/1、より好ましくは3/7〜7/3である。
【0022】
非水電解液としては、電池内での非水電解液の分解を低減することを目的として、フッ素や珪素等で変性されているものを用いてもよい。
【0023】
本実施の形態のリチウムイオン二次電池用電解液は、上述した特定の化合物、及び非水系電解液に加え、さらに、種々のリチウム塩を含むことができる。このようなリチウム塩としては、例えば、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6等の無機リチウム塩;LiN(SO2CF22、LiN(SO2CF2CF32、LiN(SO2CF2CHF22等のリチウムイミド塩等が好適に用いられる。リチウム塩の電解液中の濃度としては、好ましくは0.1〜2mol/Lである。
【0024】
[リチウムイオン二次電池]
本実施の形態のリチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、前記正極と前記負極の間に介在したセパレーターとを備える構造を有しており、二次電池中に、上記のリチウムイオン二次電池用電解液を含む。
【0025】
前記正極としては金属酸化物系活物質を用いることができる。金属酸化物系活物質としては、例えば、LiCoO2、LiMn24、LiNiO2、LiNi1/3Mn1/3Co1/32、LiNixCo1-x2、LiFePO4等が挙げられる。金属酸化物系活物質は、単独で用いてもよく、複数の金属酸化物系活物質を混合して用いてもよい。
【0026】
金属酸化物系活物質の平均粒径としては、好ましくは0.1μm〜100μm、より好ましくは1μm〜10μmである。なお、本実施の形態において、「平均粒径」とは、レーザー回折式粒度分布法を用いた測定における50%累積径値を意味する。
【0027】
正極は、例えば、上記活物質に必要に応じて導電助剤やバインダー等を加えて混合した正極合剤を溶剤に分散させて正極合剤含有ペーストを調製する。次いで、この正極合剤含有ペーストをアルミニウム箔等からなる正極集電体に塗布し、乾燥して正極合剤層を形成し、必要に応じて加圧し厚みを調整することによって作製される。
【0028】
ここで、正極合剤含有ペースト中の固形分濃度は、好ましくは30〜80質量%であり、より好ましくは40〜70質量%である。
【0029】
一方、前記負極としては、その活物質として、炭素質材料が好適に用いられる。より具体的には、例えば、黒鉛、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物の焼成体、メソカーボンマイクロビーズ、炭素繊維、活性炭、グラファイト、炭素コロイド等が好適に用いられる。炭素質材料は、単独で用いてもよく、複数の炭素質材料を混合して用いてもよい。
【0030】
このような炭素質材料の平均粒径としては、好ましくは0.1μm〜100μm、より好ましくは1μm〜10μmである。
【0031】
負極は、例えば、前記炭素質材料からなる負極活物質に必要に応じて導電助剤やバインダーなどを加えて混合した負極合剤を溶剤に分散させて負極合剤含有ペーストを調製する。次いで、その負極合剤含有ペーストを負極集電体に塗布し、乾燥して負極合剤層を形成し、必要に応じて加圧し厚みを調整することによって作製される。
【0032】
ここで、負極合剤含有ペースト中の固形分濃度は、好ましくは30〜80質量%であり、より好ましくは40〜70質量%である。
【0033】
正極や、負極の作製にあたって必要に応じて使用する導電助剤としては、例えば、グラファイト、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、炭素繊維等が挙げられる。また、バインダーとしては、例えば、PVDF、PTFE、ポリアクリル酸、スチレンブタジエンゴム、フッ素ゴム等が挙げられる。
【0034】
このような導電助剤の平均粒径としては、好ましくは0.1μm〜100μm、より好ましくは1μm〜10μmである。
【0035】
セパレーターとしては、例えば、織布、不織布、合成樹脂微多孔質等を用いることができ、中でも、合成樹脂多孔質膜を好適に用いることができる。合成樹脂多孔質膜としては、ポリエチレン及びポリプロピレン製微多孔質膜、又はこれらを複合した微多孔質膜等のポリオレフィン系微多孔質膜が好適に用いられる。
【0036】
前記正極と負極とは、その間にセパレーターを介在させて巻回して巻回構造の積層体にしたり、折り曲げや複数層の積層などによって積層体にしたりして、電池として成型することができる。本実施の形態の電解液を内部に注液し、封印することによって、本実施の形態のリチウムイオン二次電池を作製することができる。本実施の形態のリチウムイオン二次電池の電池形態は、特定のものに限ることなく、円筒形、楕円形、角筒型、ボタン形、コイン形、扁平形、ラミネート形などが好適に用いられる。
【実施例】
【0037】
次に、実施例及び比較例を挙げて本実施の形態をより具体的に説明するが、本実施の形態はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の物性は以下の方法により測定した。
(1)上澄み中の銅イオン濃度(ppm)
上澄み中の銅イオン濃度の測定はパーキンエルマー社製ICP発光分析装置(Optima 5300DV)を用いて行った。
(i)溶液の調製
1mol/LのLiBF4を含む非水電解液(エチレンカーボネート/メチルエチルカーボネート=1/2)に、ビスムチオールII(同仁化学社製:商品名Bismuthiol−II)を、下表1に示す所定量溶解し、リチウムイオン二次電池用電解液を調製した。
この電解液にCu(BF42を、下表1に示す所定量加え、室温で一晩静置した。次いで、この溶液を12,000rpmで20分間遠心分離し、サンプル上澄み中の銅イオン濃度をICP−発光分析により測定するために、以下の前処理を行った。
(ii)ICP−発光分析用試料の調製
サンプル上清1mLを白金るつぼに加え、260℃ホットプレート上で1時間乾固後、電気炉で450℃で3時間灰化処理を行った。白金るつぼに濃塩酸(30%)1mLを加えて溶解し、水で50mLにメスアップしてICP−発光分析用試料とした。
(iii)測定条件、計算方法
標準試料としては、市販のCu標準液(関東化学Cu1000)を希塩酸(0.6%HCl)で希釈し、所定濃度としたものを用いた。検量線は0.01〜0.1ppm、0.1〜1ppmを用意して測定に用いた。
【0038】
(2)ストリッピングボルタンメトリーの測定
溶液のストリッピングボルタンメトリーの測定は、TraceDetect社のナノバンドエクスプローラーを用いて行った。
(i)溶液の調製
1mol/LのLiBF4を含む非水電解液(エチレンカーボネート/メチルエチルカーボネート=1/2)に、ビスムチオールII(同仁化学社製:商品名Bismuthiol−II)を、下表1に示す所定量溶解し、リチウムイオン二次電池用電解液を調製した。この電解液に所定量のCu(BF42を、下表1に示す所定量加えて直ちに測定した。
(ii)装置の調整
3%の硝酸を含む所定濃度の銅イオン溶液中で0−5回のプレ測定を行い、電極を安定化させた後に、電解液に直接電極を入れて、電位を挿引していき、溶液中に含まれる銅イオンの析出及びその後に続く溶解のシグナルを評価した。参照電極としては、銀/塩化銀電極を使用した。
ストリッピングボルタンメトリーでは、電解液に含まれる銅イオンをいったん電極表面で還元し、電極電位を酸化側に挿引することにより電極表面に析出している銅を銅イオンに変化させるときの電流を測定した。今回の系では、銅が銅イオンとして析出するときの電位は、約800mV(対 銀/塩化銀電極)であった。
【0039】
[実施例1〜4]
表1に示す組成で銅イオンとビスムチオールIIを含む電解液を調製した。いずれもCu(BF42を加えるとすぐに沈殿物を形成した。遠心分離を行った後の上澄み液をICP発光分析したところ銅イオンは検出されなかった。
【0040】
[比較例1]
銅イオンのみを含みビスムチオールIIを含まない電解液を調製した。電解液は均一であり沈殿物は形成していなかった。これを実施例1と同様に遠心分離を行い、上澄み液を用いてICP発光分析したところ仕込んだ銅イオン濃度と同じ20ppmの銅イオンが検出された。
【0041】
[実施例5,6]
表1に示す組成で銅イオンとビスムチオールIIを含む電解液を調製した。銅イオンを添加した後にストリッピングボルタンメトリーを測定した。800mV付近にはピークが観測されず、電解液中に添加された銅イオンは電気化学的に不活性になっていることがわかった。
【0042】
[比較例2]
銅イオンのみを含みビスムチオールIIを含まない電解液を調製し、実施例5,6と同様にストリッピングボルタンメトリーを測定した。約800mVに大きなピークが観測され、電解液中に添加された銅イオンは電気化学的に活性でありマイクロショートの原因になることがわかった。
[比較例3,4]
ビスチモールIIのかわりに、「N−ベンゾイルフェニルヒドロキシルアミン」(同仁化学社製:商品名BPA)、又は、「ジアンチピリルメタン」(同仁化学社製:商品名Diantipyrylmethane)を用いた以外は、実施例1と同様の方法によりリチウムイオン二次電池用電解液を調製した。いずれもCu(BF42を加えても沈殿物は形成しなかった。また実施例1と同条件で遠心分離を行った後の上澄み液をICP発光分析したところ、仕込んだ銅イオン濃度と同じ20ppmの銅イオンが検出された。
【0043】
【表1】

【0044】
表1の結果から明らかなように、金属用重量分析試薬としてビスムチオールIIを用いた実施例1〜4の電解液は、Cu(BF42添加後、遠心分離を行った後の上澄み液から銅イオンは検出されず、ビスムチオールIIと銅イオンが効率的に反応して沈殿物を生じていた。
また、実施例5及び6の電解液は、銅イオン添加後のストリッピングボルタンメトリーの測定結果において800mV付近のピークは観測されず、電解液中に添加された銅イオンが電気化学的に不活性な状態となっていた。本実施の形態の電解液をリチウムイオン二次電池の電解液として用いた場合、溶出金属イオンが結晶成長して電極間にまたがることに起因するマイクロショートの発生を有効に防止し得ることが実証された。
一方、金属用重量分析試薬が含まれていない比較例1,2、及び、金属用重量分析試薬としてN−ベンゾイルフェニルヒドロキシルアミンやジアンチピリルメタンを用いた比較例3,4においては銅イオンが電気化学的に活性な状態となっていた。金属用重量分析試薬として分類される化合物の中でも、本実施例において銅イオンを不活性化し得るものとし得ないものとが存在することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明のリチウムイオン二次電池用電解液は、マイクロショートの発生リスクを顕著に低減することが可能であり、携帯機器の電源等で用いられるリチウムイオン二次電池用の電解液としての産業上利用可能性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バソクプロイン、スルホン化バスクプロイン、4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリンジスルホン酸、チアジアゾール類、2−(5−ブロモ−2−ピリジルアゾ)−5−(N−プロピルー3−スルホプロピルアミノ)フェノール、2−(5−ブロモ−2−ピリジルアゾ)−5−(N−プロピル−N−スルホプロピルアミノ)アニリン、4−(2−ピリジルアゾ)レゾルシン、サリチルアルドキシム、α−ベンゾインオキシム、ジメチルグリオキシム、アルミノン、8−ヒドロキシキノリン、及びこれらの誘導体よりなる群から選択された1種又は2種以上の化合物と、
非水電解液と、
を含むリチウムイオン二次電池用電解液。
【請求項2】
前記化合物の含有量は、0.0001質量%〜10質量%である、請求項1記載のリチウムイオン二次電池用電解液。
【請求項3】
前記チアジアゾール類は、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール、5−メルカプト−3−フェニル−1,3,4−チアジアゾール−2−チオン、及びこれらのアルカリ金属塩よりなる群から選ばれる1種又は2種以上である、請求項1又は2記載のリチウムイオン二次電池用電解液。
【請求項4】
正極と、負極と、前記正極と前記負極の間に介在したセパレーターとを備えるリチウムイオン二次電池であって、
前記リチウムイオン二次電池は、請求項1〜3のいずれか1項記載のリチウムイオン二次電池用電解液を含む、リチウムイオン二次電池。

【公開番号】特開2009−117081(P2009−117081A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−286511(P2007−286511)
【出願日】平成19年11月2日(2007.11.2)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】