説明

リチウムイオン二次電池

【課題】安全性に優れ、かつ出力特性に優れたリチウムイオン二次電池と、その実現に必要な正極活物質を実現することにある。
【解決手段】正極活物質として、一般式LiMn1-xxPO4(M:Mn以外の2価のカチオン、0.01≦X≦0.4)であり、その空間群がPmnbの対称性を有する斜方晶であり、そのa軸,b軸及びc軸の格子定数がそれぞれ1.060nm≦a≦1.120nm,0.620nm≦b≦0.66nm,0.486nm≦c≦0.515nmであるリン酸化合物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池とそれに用いる正極活物質に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池はその正極に正極活物質を有し、負極においてはリチウムを吸蔵する黒鉛や非晶質炭素等の炭素を主とする負極活物質を有する。そして正極と負極を電気化学的に結合するリチウムイオンを有する非水電解液を有する。
【0003】
リチウムイオン二次電池の正極活物質としては、LiNiO2,LiCoO2及びLiMnO2に代表される層状系酸化物や、LiMn24に代表されるスピネル系正極材料が良く知られている。層状系酸化物の理論容量は約270mAh/gであり、実用容量でも140mAh/gないし200mAh/gと高いものの、充電生成物が熱安定性に劣り、特に過充電時における安全性に課題があることが良く知られている。一方スピネル系正極材料は、充電生成物の熱安定性に優れ安全性が高いものの、その実用容量は100mAh/g程度と小さいのが現状である。
【0004】
最近、オリビン系化合物と総称される、一般式LiMPO4(MはMn,Fe等)で表記されるリン酸化合物がリチウムイオン二次電池の正極活物質として注目されつつある。例えば特許文献1にはリン酸化合物の一つとしてLiMnPO4の開示がある。
【0005】
上述のリン酸化合物はその容量が170mAh/g程度とされ、実用容量も100mAh/gを超えるものが合成されつつある。かつ上述のリン酸化合物は充電生成物の熱安定性に優れることが明らかとなりつつあり、電池の高い安全性も期待できる。正極活物質としてのリン酸化合物は、現在、LiFePO4とLiMnPO4の検討が進んでいるが、前者の放電電圧が約3.5Vであるのに対し、後者の放電電圧は3.8V前後であり、エネルギー密度の点でLiMnPO4が優れている。
【0006】
しかしながら、従来のLiMnPO4を用いたリチウムイオン二次電池では、その電池抵抗が高く、出力特性に劣る課題があった。これは正極活物質であるLiMnPO4の抵抗が高いことに起因するものと考えられる。従って安全性に優れ、かつ容量と出力特性に優れたリチウムイオン二次電池を実現するには、従来技術では困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−25983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、安全性に優れ、かつ出力特性に優れたリチウムイオン二次電池と、その実現に必要な正極活物質を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のリチウムイオン二次電池は正極活物質を有する正極と、負極と、電解液とを有するリチウムイオン二次電池であって、前記正極活物質が一般式LiMn1-xxPO4(M:Mn以外の2価のカチオン、0.01≦X≦0.4)である空間群Pmnbの対称性を有する斜方晶のリン酸化合物を有し、かつ前記リン酸化合物のa軸,b軸及びc軸の格子定数がそれぞれ1.060nm≦a≦1.120nm,0.620nm≦b≦0.66nm,0.486nm≦c≦0.515nmであることを主要な特徴とする。
【0010】
また、本発明のリチウムイオン二次電池用の正極活物質は、一般式LiMn1-xxPO4(M:Mn以外の2価のカチオン、0.01≦X≦0.4)である空間群Pmnbの対称性を有する斜方晶のリン酸化合物を有し、かつ前記リン酸化合物のa軸,b軸及びc軸の格子定数がそれぞれ1.060nm≦a≦1.120nm,0.620nm≦b≦0.66nm,0.486nm≦c≦0.515nmであることを主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明により安全性に優れ、かつ容量と出力特性に優れたリチウムイオン二次電池と、その実現に必要な正極活物質が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のコイン型リチウムイオン二次電池の一例を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のリチウムイオン二次電池はその正極活物質として、一般式LiMn1-xxPO4(M:Mn以外の2価のカチオン、0.01≦X≦0.4)であり、その空間群がPmnbの対称性を有する斜方晶であり、そのa軸,b軸及びc軸の格子定数がそれぞれ1.060nm≦a≦1.120nm,0.620nm≦b≦0.66nm,0.486nm≦c≦0.515nmである本発明のリン酸化合物を有する。LiMn1-xxPO4で表記されるリン酸化合物中のMnはその化合物内で2価のカチオンとして存在すると考えられる。本発明のリン酸化合物は2価のカチオンとして主としてMnで構成され、かつMn以外の2価のカチオンで構成されるものである。
【0014】
本発明の正極活物質におけるリン酸化合物は、その格子定数を適切に制御することで、結晶構造中のLiイオンの拡散が優れ、低抵抗となり出力特性に優れるものと考えられる。すなわち、a軸,b軸及びc軸の格子定数がそれぞれ1.060nm≦a≦1.120nm,0.620nm≦b≦0.66nm,0.486nm≦c≦0.515nmであることが望ましく、格子定数がこれより小さいとLiイオンの拡散に必要な空間が狭められ、また格子定数が上述より大きいと、結晶構造が著しく乱れることでLiイオンの拡散が阻害されるものと考えられる。
【0015】
また本発明のリン酸化合物における、Mnと異なる2価のカチオンが存在することにより出力特性に優れる機構は必ずしも明らかではないが、結晶構造中でイオン半径がMnと異なる2価のカチオンを適切な比率で存在させることが、結晶構造中におけるLiイオンの拡散移動の促進に効果があるものと考えられる。
【0016】
本発明における一般式LiMn1-xxPO4であるリン酸化合物におけるMnと異なる2価のカチオンMの存在比率xは0.01≦X≦0.4の範囲である。Xが0.01未満であれば、上述の2価のカチオンによる低抵抗への効果が不十分であり、またXが0.4を超えると、単一相のリン酸化合物の合成が困難になり望ましくない。
【0017】
本発明のリン酸化合物におけるMn以外の2価のカチオンとしては、2価のカチオンとなりうる遷移金属元素が好ましく、特にCo,Fe,Ni,Cuから選ばれる1種以上とすることで合成が容易であり、かつより低抵抗の正極活物質が得られることからより好ましい。
【0018】
本発明におけるリン酸化合物の組成を求めるには、リン酸化合物を例えば硫酸に溶解させた溶液を原子吸光スペクトル等で各元素比を定量することで求めることができる。
【0019】
本発明におけるリン酸化合物の格子定数を求めるには、反射回折式の粉末X線回折法を用いる。Cuをターゲットとし、管電圧50kV,管電流150mAでCuKα線を正極活物質に照射し、回折線をゴニオメータで測定し、粉末X線回折スペクトルを得る。得られた回折線の回折角とPmnbの対称性を有する斜方晶で指数付けした値を持って格子定数を求める。
【0020】
本発明の正極活物質であるリン酸化合物を実現する方法は特に限定されるものではないが、リン酸化合物の格子定数を適切に制御するためには500〜900℃で焼成することが好ましい。このためには粉末原料を混合焼成するいわゆる固相法に比べ、原料を溶液としたものを由来として前駆体を得る液相法を経たほうが、原料の元素がより均質に混合し、より低温での合成が可能となることから好ましい。同時に液相法であるほうが、Li,Mn,P以外の複数の元素を均質に混合することができ好ましい。液相法として、例えば原料を溶解した酸性溶液にアルカリ成分を添加し活物質の構成元素を沈殿させ前駆体を得てこの前駆体を焼成するいわゆるゾル−ゲル法、あるいは溶液を高温の気相中に噴霧乾燥し前駆体を得てこの前駆体を焼成するいわゆるスプレードライ法がある。特にスプレードライ法では、原料を溶解した溶液中の各元素の構成比率がそのまま前駆体の元素構成比率とすることが容易であることから、合成上より好ましい。液相法に用いる各元素の原料としては特に限定されるものではなく、Liや2価のカチオンについては硝酸塩,リン酸塩等の無機酸塩や酢酸塩等の有機酸塩を用いることができ、Pについてはアンモニウム塩等を用いることができる。
【0021】
合成した正極活物質の形態として、その平均粒径として0.1〜30μmとすることができ好ましく、またその比表面積として2〜50m2/gとすることが好ましい。これらの形態は前駆体の形成方法と条件、及び焼成条件の制御により実現できる。
【0022】
本発明の正極活物質は、一般式LiMn1-xxPO4(M:Mn以外の2価のカチオン、0.01≦X≦0.4)であり、その空間群がPmnbの対称性を有する斜方晶であり、そのa軸,b軸及びc軸の格子定数がそれぞれ1.060nm≦a≦1.120nm,0.620nm≦b≦0.66nm,0.486nm≦c≦0.515nmである本発明のリン酸化合物を有するものであり、上述のリン酸化合物の単体でもよく、あるいは炭素材等の他の材料との複合材でもよい。例えばリン酸化合物に気相反応を用いて炭素被覆を形成した複合材においては、正極活物質としての電子伝導性が向上し、より低抵抗の正極活物質と出力に優れたリチウムイオン二次電池が期待できる。
【0023】
また本発明の別の形態のリチウムイオン二次電池は、正極活物質を有する正極と、負極と、電解液とを有するリチウムイオン二次電池であって、前記正極活物質が一般式LiMn1-xxPO4(M:Mn以外の2価のカチオン、0≦X≦0.4)である空間群Pmnbの対称性を有する斜方晶のリン酸化合物を有し、かつ前記リン酸化合物のa軸,b軸及びc軸の格子定数がそれぞれ1.060nm≦a≦1.120nm,0.620nm≦b≦0.66nm,0.486nm≦c≦0.515nmであり、かつ前記正極にカーボンブラックもしくはアセチレンブラックを1〜10重量%有しかつ平均粒系1ないし20μmの炭素材粒子を5〜20重量%有するリチウムイオン二次電池である。
【0024】
ここでカーボンブラックもしくはアセチレンブラックはその平均粒径が5ないし100nm程度と極めて小粒径の炭素質粒子であり、これらの炭素材粒子が正極活物質表面に付着し、正極活物質粒子の電子伝導性を向上し、電池出力を向上させる作用を有する。本発明においては炭素材粒子の平均粒径が5ないし100nmの範囲であれば、必ずしもカーボンブラックもしくはアセチレンブラックに限定はされない。
【0025】
また、平均粒系1ないし20μmの炭素材粒子とは、正極活物質と同程度の粒径を有する黒鉛粒子や非晶質炭素粒子であり、これらは正極活物質間及び正極活物質と集電体との電子伝導性を向上し、電池出力を向上させる作用を有する。この炭素材粒子の形態としては特に限定はされないが、例えば燐片状,塊状のものが上げられる。
【0026】
本発明における一般式LiMn1-xxPO4(M:Mn以外の2価のカチオン、0≦X≦0.4)である空間群Pmnbの対称性を有する斜方晶のリン酸化合物を有し、かつ前記リン酸化合物のa軸,b軸及びc軸の格子定数がそれぞれ1.060nm≦a≦1.120nm,0.620nm≦b≦0.66nm,0.486nm≦c≦0.515nmである正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池においては、上述のカーボンブラックもしくはアセチレンブラックと、平均粒系1ないし20μmの炭素材粒子とを適切な比率で正極に配合することにより、より優れた出力特性を発現する。すなわち上記一般式組成においてMn以外の2価のカチオンを有さないリン酸化合物を用いたリチウムイオン二次電池においても優れた出力特性を有する。ここでカーボンブラックもしくはアセチレンブラックの電池出力に対する作用と、平均粒系1ないし20μmの炭素材粒子の作用は異なるものであることから、どちらか一方のみ正極に含有したとしても十分な出力特性は得られない。
【0027】
また、カーボンブラックもしくはアセチレンブラックの含有量が1重量%未満では、正極活物質の導電性向上に対する十分な効果が得られない。逆に10重量%を超えた場合でも出力特性が低下するが、これは上記のカーボンブラックもしくはアセチレンブラックが正極活物質表面を覆ってしまい、リチウムイオンと正極活物質との反応を阻害するためと推測される。
【0028】
さらにまた平均粒系1ないし20μmの炭素材粒子の含有量が5重量%未満では、正極活物質間の導電性向上に対する十分な効果が得られない。逆に20重量%を超えた場合でも出力特性が低下するが、これは正極活物質の重量比率が低下したためと推測される。
【0029】
次に、本発明のリチウムイオン二次電池を実現するための具体的な手段の一例を説明する。
【0030】
まず正極を以下のとおり作製する。本発明の正極活物質粉末と導電剤をよく混合する。導電剤としては、カーボンブラックもしくはアセチレンブラックを正極合剤量に対し1〜10重量%、さらに平均粒系1ないし20μmの炭素材粒子を正極合剤に対し5〜20重量%とすることが望ましい。これに、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)等をN−メチルピロリドン(NMP)等の溶媒に溶解させた溶液を加えてさらに混合しスラリーにする。前述のこのスラリーを厚さ10ないし20μmのアルミニウム箔に塗布して80ないし100℃の温度で乾燥する。同じ手順でアルミニウム箔の両面に塗布乾燥を行う。その後ロールプレス機等により圧縮成形し、所定の大きさに切断し、正極を作製する。
【0031】
次に負極を作製する。負極に用いる負極活物質としては、例えば、金属リチウムや、炭素材料,リチウムを挿入もしくは化合物の形成が可能な材料を用いることが可能であるが、黒鉛や非晶質炭素等の炭素材料が特に好適である。本発明のリチウム二次電池においては、その負極にラマン分光スペクトルで測定される1300〜1400cm-1の範囲にあるピーク強度(ID)と1580〜1620cm-1の範囲にあるピーク強度(IG)の強度比であるR値(ID/IG)が0.4以上1.5以下である炭素材料を有する炭素材料を用いることで、より高出力のリチウムイオン二次電池が得られる。ラマン分光スペクトルで測定される1580〜1620cm-1の範囲にあるピークは黒鉛の六角網面の規則正しい積層を示すものとされており、1300〜1400cm-1の範囲にあるピークは六角網面の積層の乱れを示すものとされている。Liイオンの負極活物質の挿入・脱離反応は、積層した六角網面の端面で進行する。従ってR値が0.4未満では規則正しく積層した炭素六角網面の比率が高く、従って端面の比率が小さくなるため、出力が低下する。またR値が1.5を超えると積層の乱れが大きすぎるためLiイオンの挿入・脱離反応を阻害する可能性があり、出力が低下する可能性がある。
【0032】
負極の作製は以下のようにするものである。負極活物質として望ましくはR値が0.4以上1.5以下の炭素材料を用いる。負極活物質に、結着剤としてPVDF等をNMP等の溶媒に溶解させた溶液を加えて混合しスラリーにした。このスラリーを銅箔に塗布して80ないし100℃の温度で乾燥する。同じ手順で銅箔の両面に塗布乾燥を行う。その後ロールプレス機により圧縮成形し、所定の大きさに切断し負極を作製する。
【0033】
円筒型電池を作製する場合には、以下のとおりするものである。得られた正極と負極を正極と負極を電気的に絶縁する機構として、正極と負極の間に厚さ15〜50μmの多孔質絶縁物フィルムからなるセパレータを挟み、これを円筒状に捲回して電極群を作製しSUSやアルミでできた電池容器に挿入する。セパレータとして用いることが出来るものは、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)等の樹脂製多孔質絶縁物フィルムやその積層体,アルミナなどの無機化合物を分散させたものでも構わない。
【0034】
この電池容器に、乾燥空気中または不活性ガス雰囲気の作業容器内で、正極と負極を電気化学的に結合させるリチウム塩を非水溶媒に溶解した非水電解液を注入し、容器を封止して電池とする。リチウム塩は、電池の充放電により電解液中を移動するリチウムイオンを供給するもので、LiClO4,LiCF3SO3,LiPF6,LiBF4,LiAsF6などを単独もしくは2種類以上を用いることができる。有機溶媒としては、カーボネート類,エステル類,エーテル類等が挙げられ、例えばエチレンカーボネート(EC),プロピレンカーボネート,ブチレンカーボネート,ジメチルカーボネート(DMC),ジエチルカーボネート(DEC),メチルエチルカーボネート,ジエチルカーボネート,γ―ブチロラクトンなどがあげられる。これらを単独あるいは混合した非水溶媒を用いる。
【0035】
また、電池の副反応の抑制や高温での安定性を高める等の目的で必要に応じ各種の添加剤を添加してもよい。用いられる添加剤は、硫黄系化合物,リン系化合物等、上記の溶媒に溶解するもの、溶媒をかねるものがあげられる。
【0036】
また、角形電池とするためには以下のようにするものである。正極及び負極の塗布は前記円筒型電池を作製する場合と同様である。角形電池を作製するためには、角形のセンターピンを中心として、捲回群を作製する。円筒型電池と同様に、電池容器にこれを収納し電解液を注入後、電池缶を密封する。また、捲回群の代わりに、セパレータ,正極,セパレータ,負極,セパレータの順に積層していく積層体を用いることもできる。
【0037】
本発明のリチウムイオン二次電池の用途としては特に限定されないが、各種携帯型機器や情報機器,家庭用電気機器等の電源として、あるいは電気自動車や、内燃機関等により駆動される発電機や燃料電池等の発電機関を搭載するハイブリッド型自動車、さらに内燃機関等により駆動される発電機を搭載する汽動車や、エレベータ等の動力機器用の電源として、さらに、各種業務用や家庭用の蓄電システム用の電源として用いることができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明のリチウムイオン二次電池及びそれに用いる正極活物質のさらに詳細な実施例を示し、具体的に説明する。但し、本発明は以下に述べる実施例に限定されるものではない。
【0039】
(実施例1)
本発明の正極活物質1ないし正極活物質6を以下のとおり作製した。原料として、酢酸リチウム,酢酸マンガン,酢酸コバルト,酢酸ニッケル,酢酸鉄,酢酸銅、及びリン酸二水素アンモニウムを選択した。これらの原料を、各元素が所定のモル比になるよう秤量し、蒸留水に溶解し原料溶液を得た。この原料溶液をスプレードライ装置に導入し、前駆体粉末を得た。得られた前駆体粉末を350℃で1時間不活性ガス雰囲気下で熱分解した後、550℃で8時間不活性ガス下で焼成し、正極活物質を得た。得られた正極活物質1ないし正極活物質6を各々乳鉢で粉砕し、CuKα線による粉末X線回折スペクトルを測定し、得られた回折線の回折角とPmnbの対称性を有する斜方晶で指数付けした値を持って格子定数を求めた。
【0040】
表1に実施例1の正極活物質1ないし正極活物質6の組成、及び格子定数を示す。正極活物質1ないし正極活物質6いずれのa軸,b軸及びc軸の格子定数がそれぞれ1.060nm≦a≦1.120nm,0.620nm≦b≦0.66nm,0.486nm≦c≦0.515nmの範囲にあった。
【0041】
【表1】

【0042】
(比較例1)
比較例1として、実施例1と同様にLiMnPO4(正極活物質H1)作製した。また正極活物質H2として、実施例1と同様にLiMn0.5Fe0.5PO4の作製を試みたが、粉末X線回折の結果は2種類のリン酸化合物の混合物であった。さらにまた正極活物質H3として、焼成温度を500℃とした以外は実施例1と同様に組成式LiMn0.9Fe0.1PO4である正極活物質を作製した。また正極活物質H4として、実施例1と同じ原料を用いて、その原料をボールミルで混合した前駆体を用い実施例1と同じ熱処理により組成式LiMn0.9Fe0.1PO4である正極活物質を作製した。正極活物質H1,正極活物質H3,正極活物質H4について実施例1と同様に格子定数を求めた。
【0043】
表1に比較例1の正極活物質H1,正極活物質H3,正極活物質H4の組成、及び格子定数を示す。正極活物質H1の格子定数は本発明の正極活物質の範囲にあるが、Mn以外の2価のカチオンを含まないものである。また、正極活物質H3,正極活物質H4はその組成はMn以外の2価のカチオンとしてFeを含むものであるが、その格子定数は本発明の正極活物質の範囲外にあった。
【0044】
(実施例2)
本発明のコイン型リチウムイオン二次電池(電池1ないし電池6)を以下のとおり作製した。
【0045】
まず正極を作製した。正極活物質として実施例1で作製した正極活物質1ないし正極活物質6を用いた。正極活物質80重量%に、導電剤として3重量%の平均粒径10μmの鱗片状黒鉛と10重量%のアセチレンブラックと、あらかじめ結着剤として7重量%のPVDFをNMPに溶解した溶液とを加えてさらに混合し正極合剤スラリーを作製した。このスラリーを厚さ20μmのアルミニウム箔(正極集電体)に実質的に均一かつ均等に塗布した後80℃の温度で乾燥した。このとき、正極の塗工量が正極活物質の違いによらず一定となるよう塗布量を調整した。その後径15mmに打ち抜いたものをプレス機により圧縮成形し、正極を作製した。
【0046】
次に負極を作製した。負極活物質として、表面を非晶質炭素で被覆した黒鉛(負極活物質1)を用いた。負極活物質1のラマン分光による1300〜1400cm-1の範囲にあるピークと1580〜1620cm-1の範囲にあるピークの強度比Rは0.94であった。負極活物質91重量%に導電剤として5重量%のアセチレンブラックと、あらかじめ4重量%のPVDFをNMPに溶解した溶液を加えて混合し負極合剤スラリーを作製した。このスラリーを正極と同様の手順で厚さ15μmの圧延銅箔(負極集電体)に実質的に均一かつ均等に塗布した後80℃の温度で乾燥した。その後径16mmに打ち抜いたものをプレス機により圧縮成形し、負極を作製した。
【0047】
作製した正極と負極を用いて図1に示すコイン型リチウムイオン二次電池を作製した。正極11と負極12とを厚さ25μmの微多孔性ポリプロピレン製セパレータ13を挟み、負極端子を兼ねるSUS製の電池缶14に挿入した。電池缶内に電解液を注入した後に、正極端子が取り付けられた密閉ふた部15をパッキン16を介して電池缶14にかしめて密閉してコイン型電池とした。非水電解液はEC,DMC,DECの体積比1:1:1の混合溶媒に1モル/リットルのLiPF6を溶解させたものを用いた。
【0048】
(比較例2)
比較例2として、比較例1の正極活物質H1,正極活物質H3,正極活物質H4を用い、それ以外は実施例2と同様にコイン型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0049】
(電池の出力の測定)
作製した実施例2及び比較例2のリチウムイオン二次電池の出力を以下のように測定した。
【0050】
作製したリチウムイオン二次電池について、20℃で充電と放電を3回繰り返し、3回目の放電容量を電池の定格容量と定めた。充電条件は、0.33C相当の電流で上限電圧3.9Vで5時間の定電流定電圧充電後、0.33C相当の電流で下限電圧2.5Vの定電流放電とした。
【0051】
つぎに電池の出力を測定した。0.33C相当の電流で上限電圧3.9Vで4時間の定電流定電圧充電後、出力測定を開始した。定格容量を1Cとした際、放電電流を1Cで10秒間放電し、放電前の開回路電圧(V0)と放電10秒目の電圧(V10)を測定し、両者の差(V0−V10)である電圧降下(ΔV)を求めた。この後、放電した電気量に相当する充電を行い、順次放電電流を5C,10Cと変化させ同様に電圧降下(ΔV)を求めた。放電電流値に対する電圧降下(ΔV)を外挿し、10秒間で放電終止電圧2.5Vに到達すると仮定した場合の最大電流値(IMAX)を求め、IMAXに2.5Vを乗じたものをそのリチウムイオン二次電池の出力とした。
【0052】
表2に実施例2の各電池(電池1ないし電池6)及び比較例2の各電池(電池H1,電池H3及び電池H4)について、用いた正極活物質と電池出力の結果を示す。実施例1の正極活物質を用いた実施例2のリチウムイオン二次電池は、比較例1の正極活物質を用いた比較例2のリチウム二次電池に比べ、電池出力が高い効果が得られた。
【0053】
【表2】

【0054】
(実施例3)
本発明のコイン型リチウムイオン二次電池(電池A2ないし電池A5)を作製した。正極活物質に、実施例1における正極活物質3を用いた。また、負極活物質には、ラマン分光におけるR値の異なる非晶質炭素被覆黒鉛(負極活物質2ないし負極活物質5)を選択した。それ以外は実施例1と同様に、各々の負極活物質毎にコイン型リチウムイオン二次電池を作成した。
【0055】
表3に実施例3の各電池(電池A2ないし電池A5)及び実施例2の電池3について、用いた負極活物質と電池出力の結果を示す。実施例3のリチウムイオン二次電池は、実施例1における正極活物質3を用いており、比較例1の正極活物質を用いた比較例2のリチウム二次電池に比べ、電池出力が高い効果が得られた。また、ラマン分光スペクトルで測定されるR値(ID/IG)が0.4以上1.5以下である負極活物質を用いた、電池3,電池A3及び電池A4は、電池A2及び電池A5に比べより高い電池出力が得られる効果があった。
【0056】
【表3】

【符号の説明】
【0057】
11…正極、12…負極、13…セパレータ、14…電池缶、15…ふた、16…パッキン、17…負極集電体、18…負極合剤、19…正極合剤、20…正極集電体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を有する正極と、負極と、電解液とを有するリチウムイオン二次電池であって、前記正極活物質が一般式LiMn1-xxPO4(M:Mn以外の2価のカチオン、0.01≦X≦0.4)である空間群Pmnbの対称性を有する斜方晶のリン酸化合物を有し、前記2価のカチオンMが、Co,Fe,Ni,Cuの1種以上であり、かつ前記リン酸化合物のa軸,b軸及びc軸の格子定数がそれぞれ1.060nm≦a≦1.120nm,0.620nm≦b≦0.66nm,0.486nm≦c≦0.515nmであることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項2】
負極に、ラマン分光スペクトルで測定される1300〜1400cm-1の範囲にあるピーク強度(ID)と1580〜1620cm-1の範囲にあるピーク強度(IG)の強度比であるR値(ID/IG)が0.4以上1.5以下である炭素材料を有することを特徴とする請求項1記載のリチウムイオン二次電池。

【図1】
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【公開番号】特開2011−23360(P2011−23360A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−202618(P2010−202618)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【分割の表示】特願2005−100480(P2005−100480)の分割
【原出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】