説明

リチウムイオン二次電池

【課題】優れた初期放電容量を有するリチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】リチウムイオン二次電池は、リチウムを吸蔵及び放出できる、マンガンを主たる構成遷移金属元素とする正極活物質を含む正極活物質層を集電体上に有する正極と、炭素又はケイ素を主たる構成元素とする負極活物質を含む負極活物質層を集電体上に有する負極と、非水電解質と、セパレータとを備える。リチウムイオン二次電池は、負極活物質層とセパレータとの間に、負極活物質より貴な電位で酸化還元する物質と、カルボキシル基を有する高分子化合物とを含む保護層を有する。リチウムイオン二次電池は、負極活物質層に対する保護層の割合が質量比で0.03以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池に関する。更に詳細には、本発明は、優れた初期放電容量を有するリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大気汚染や地球温暖化に対処するため、二酸化炭素排出量の低減が切に望まれている。自動車業界では、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)の導入による二酸化炭素排出量の低減に期待が集まっており、これらの実用化の鍵となるモータ駆動用二次電池の開発が盛んに行われている。
【0003】
モータ駆動用二次電池としては、高い理論エネルギを有するリチウムイオン二次電池が注目を集めており、現在急速に開発が進められている。リチウムイオン二次電池は、一般に、正極集電体上に正極活物質等を含むスラリを塗布して形成した正極と、負極集電体上に負極活物質等を含むスラリを塗布して形成した負極と、これらの間に位置する電解質とを有し、電池ケースに収納される構成を備えている。
【0004】
リチウムイオン二次電池の容量特性、出力特性などの向上のためには、各活物質の選定が極めて重要である。
【0005】
従来、負荷特性の良好なリチウム二次電池を提供することを目的として、正極活物質として、LiNiOとLiMnOとの固溶体を用いることが提案されている(特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−55211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
また、本発明者が、更に検討を重ねたところ、上記特許文献1に記載の固溶体はLiMnOを母構造とするものであるが、固溶体からマンガン(Mn)が溶出するなどして初期放電容量が低下するという新たな解決すべき課題を見出した。
【0008】
本発明は、このような新たな課題を解決するためになされたものである。そして、本発明の目的とするところは、優れた初期放電容量を有するリチウムイオン二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた。その結果、リチウムを吸蔵及び放出できる、マンガンを主たる構成遷移金属元素とする正極活物質を含む正極活物質層を集電体上に有する正極と、炭素又はケイ素を主たる構成元素とする負極活物質を含む負極活物質層を集電体上に有する負極と、非水電解質と、セパレータとを備え、該負極活物質層と該セパレータとの間に、所定の保護層を有する構成とすることにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明のリチウムイオン二次電池は、リチウムを吸蔵及び放出できる、マンガンを主たる構成遷移金属元素とする正極活物質を含む正極活物質層を集電体上に有する正極と、炭素又はケイ素を主たる構成元素とする負極活物質を含む負極活物質層を集電体上に有する負極と、非水電解質と、セパレータとを備える。
そして、本発明のリチウムイオン二次電池は、上記負極活物質層と上記セパレータとの間に、上記負極活物質より貴な電位で酸化還元する物質と、カルボキシル基を有する高分子化合物とを含む保護層を有する。
また、本発明のリチウムイオン二次電池においては、上記負極活物質層に対する上記保護層の割合が質量比で0.03以上である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、リチウムを吸蔵及び放出できる、マンガンを主たる構成遷移金属元素とする正極活物質を含む正極活物質層を集電体上に有する正極と、炭素又はケイ素を主たる構成元素とする負極活物質を含む負極活物質層を集電体上に有する負極と、非水電解質と、セパレータとを備え、負極活物質層とセパレータとの間に、負極活物質より貴な電位で酸化還元する物質と、カルボキシル基を有する高分子化合物とを含む保護層を有し、負極活物質層に対する保護層の割合が質量比で0.03以上である構成とした。そのため、優れた初期放電容量を有するリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の一例の概略を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の実施形態で引用する図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0014】
図1に示すように、本実施形態のリチウムイオン二次電池1は、正極タブ21及び負極タブ22が取り付けられた電池要素10が外装体30の内部に封入された構成を有している。そして、本実施形態においては、正極タブ21及び負極タブ22が、外装体30の内部から外部に向かって、反対方向に導出されている。なお、図示しないが、正極タブ及び負極タブが、外装体の内部から外部に向かって、同一方向に導出されていてもよい。また、このような正極タブ及び負極タブは、例えば超音波溶接や抵抗溶接などにより後述する正極集電体及び負極集電体に取り付けることができる。
【0015】
[正極タブ及び負極タブ]
正極タブ21及び負極タブ22は、例えば、アルミニウム(Al)や銅(Cu)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金などの材料により構成されている。しかしながら、これらに限定されるものではなく、リチウムイオン二次電池用のタブとして用いられている従来公知の材料を用いることができる。
【0016】
なお、正極タブ及び負極タブは、同一材質のものを用いてもよく、異なる材質のものを用いてもよい。また、本実施形態のように、別途準備したタブを後述する正極集電体及び負極集電体に接続してもよいし、後述する各正極集電体及び各負極集電体をそれぞれ延長することによってタブを形成してもよい。図示しないが、外装体から取り出された部分の正極タブ及び負極タブは、周辺機器や配線などに接触して漏電したりして製品(例えば、自動車部品、特に電子機器等)に影響を与えないように、耐熱絶縁性の熱収縮チューブなどにより被覆することが好ましい。
【0017】
また、電池外部に電流を取り出す目的で、集電板を用いてもよい。集電板は集電体やリードに電気的に接続され、電池外装材であるラミネートシートの外部に取り出される。集電板を構成する材料は、特に限定されるものではなく、リチウムイオン二次電池用の集電板として従来用いられている公知の高導電性材料を用いることができる。集電板の構成材料としては、例えば、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金等の金属材料が好ましく、より好ましくは軽量、耐食性、高導電性の観点からアルミニウム(Al)、銅(Cu)などが好ましい。なお、正極集電板と負極集電板とでは、同一の材質が用いられてもよいし、異なる材質が用いられてもよい。
【0018】
[外装体]
外装体30は、例えば、小型化、軽量化の観点から、フィルム状の外装材で形成されたものであることが好ましいが、これに限定されるものではなく、リチウムイオン二次電池用の外装体に用いられている従来公知の材料を用いることができる。すなわち、金属缶ケースを適用することもできる。
【0019】
なお、高出力化や冷却性能に優れ、電気自動車、ハイブリッド電気自動車の大型機器用電池に好適に利用することができるという観点から、例えば、熱伝導性に優れた高分子−金属複合ラミネートシートを挙げることができる。より具体的には、ポリプロピレン、アルミニウム、ナイロンをこの順に積層して成る3層構造のラミネートフィルム等の外装材で形成された外装体を適用することができる。
【0020】
[電池要素]
図1に示すように、電池要素10は、正極集電体11Aの両方の主面上に正極活物質層11Bが形成された正極11と、セパレータ14に含まれた図示しない非水電解質によって形成された非水電解質層13と、負極集電体12Aの両方の主面上に負極活物質層12Bが形成された負極12とが複数積層した構成を有している。また、この電池要素10は、負極活物質層12Bとセパレータ14との間に、保護層15を有している。なお、本実施形態においては、保護層15が負極活物質層の表面全体にわたって形成されているが、表面の一部にのみ形成されている場合(図示せず。)や、例えば負極活物質層に含まれる粒状の負極活物質自体の表面に保護層が形成されている場合(図示せず。)も本発明の範囲に含まれる。
【0021】
このとき、一の正極11の正極集電体11Aの片方の主面上に形成された正極活物質層11Bと該一の正極11に隣接する負極12の負極集電体12Aの片方の主面上に形成された負極活物質層12Bとがセパレータ14に含まれた図示しない非水電解質によって形成された非水電解質層13及び保護層15を介して向き合う。このようにして、正極11、非水電解質層13、保護層15及び負極12が、この順に複数積層されている。
【0022】
これにより、隣接する正極活物質層11B、セパレータ14に含まれた図示しない非水電解質によって形成された非水電解質層13、保護層15及び負極活物質層12Bは、1つの単電池層16を構成する。従って、本実施形態のリチウムイオン二次電池1は、単電池層16が複数積層されることにより、電気的に並列接続された構成を有するものとなる。なお、電池要素10の最外層に位置する負極集電体12aには、片面のみに、負極活物質層12B及び保護層15が形成されている。
【0023】
更に、この電池要素10においては、負極活物質層12Bの乾燥質量に対する保護層15の乾燥質量の割合が質量比で0.03以上であり、好ましくは0.03〜0.20、より好ましくは0.05〜0.15である。負極活物質層の乾燥質量に対する保護層の乾燥質量の割合が質量比で0.03未満の場合には、優れた初期放電容量を有するものとならない。また、負極活物質層の乾燥質量に対する保護層の乾燥質量の割合が質量比で0.03以上であれば、優れた初期放電容量を有するものとなるが、0.20以下とすると、高いエネルギー密度の保ちながら、優れた初期放電容量を有するものとなる。
【0024】
また、単電池層の外周には、隣接する正極集電体や負極集電体の間を絶縁するための絶縁層(図示せず)が設けられていてもよい。このような絶縁層は、電解質層などに含まれる電解質を保持し、単電池層の外周に、電解質の液漏れを防止する材料により形成されることが好ましい。具体的には、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリウレタン(PUR)、ポリアミド系樹脂(PA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリスチレン(PS)などの汎用プラスチックや熱可塑オレフィンゴムなどを使用することができる。また、シリコーンゴムを使用することもできる。
【0025】
[正極集電体及び負極集電体]
正極集電体11A及び負極集電体12Aは、導電性材料から構成される。集電体の大きさは、電池の使用用途に応じて決定することができる。例えば、高エネルギー密度が要求される大型の電池に用いられるのであれば、面積の大きな集電体が用いられる。集電体の厚さについても特に制限はない。集電体の厚さは、通常は1〜100μm程度である。集電体の形状についても特に制限されない。図1に示す電池要素10では、集電箔のほか、網目形状(エキスパンドグリッド等)等を用いることができる。なお、負極活物質をスパッタ法等により薄膜合金を負極集電体12A上に直接形成する場合には、集電箔を用いるのが望ましい。
【0026】
集電体を構成する材料に特に制限はない。例えば、金属や、導電性高分子材料又は非導電性高分子材料に導電性フィラーが添加された樹脂を採用することができる。
【0027】
具体的には、金属としては、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、ステンレス(SUS)、チタン(Ti)、銅(Cu)などが挙げられる。これらのほか、ニッケル(Ni)とアルミニウム(Al)とのクラッド材、銅(Cu)とアルミニウム(Al)とのクラッド材、又はこれらの金属の組み合わせのめっき材などを用いることが好ましい。また、金属表面にアルミニウムが被覆されてなる箔であってもよい。中でも、電子伝導性や電池作動電位、集電体へのスパッタリングによる負極活物質の密着性等の観点からは、アルミニウム、ステンレス、銅、ニッケルが好ましい。
【0028】
また、導電性高分子材料としては、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアクリロニトリル、ポリオキサジアゾールなどが挙げられる。このような導電性高分子材料は、導電性フィラーを添加しなくても十分な導電性を有するため、製造工程の容易化又は集電体の軽量化の点において有利である。
【0029】
非導電性高分子材料としては、例えば、ポリエチレン(PE;高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)など)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリアミド(PA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリスチレン(PS)などが挙げられる。このような非導電性高分子材料は、優れた耐電位性又は耐溶媒性を有する。
【0030】
上記の導電性高分子材料又は非導電性高分子材料には、必要に応じて導電性フィラーを添加することができる。特に、集電体の基材となる樹脂が非導電性高分子のみからなる場合は、樹脂に導電性を付与するために必然的に導電性フィラーが必須となる。導電性フィラーは、導電性を有する物質であれば特に制限なく用いることができる。例えば、導電性、耐電位性又はリチウムイオン遮断性に優れた材料として、金属、導電性カーボンなどが挙げられる。金属としては、特に制限はないが、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、白金(Pt)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、アンチモン(Sb)及びカリウム(K)からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属若しくはこれらの金属を含む合金又は金属酸化物を含むことが好ましい。また、導電性カーボンとしては、特に制限はない。好ましくは、アセチレンブラック、バルカン、ブラックパール、カーボンナノファイバー、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノバルーン及びフラーレンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むものである。導電性フィラーの添加量は、集電体に十分な導電性を付与できる量であれば特に制限はなく、一般的には、5〜35質量%程度である。
しかしながら、これらに限定されるものではなく、リチウムイオン二次電池用の集電体として用いられている従来公知の材料を用いることができる。
【0031】
[正極活物質層]
正極活物質層11Bは、リチウムを吸蔵及び放出することが可能なマンガンを主たる構成遷移金属元素とする正極活物質を少なくとも含んでいることを要し、必要に応じてバインダや導電助剤を含んでいてもよい。なお、「マンガンを主たる構成遷移金属元素とする」とは、構成遷移金属元素におけるマンガンの割合がモル比で50mol%以上であることをいう。また、正極活物質が、リチウムを吸蔵及び放出することが可能なマンガンを主たる構成遷移金属元素とする正極活物質のみからなる場合が本発明の範囲に含まれることは言うまでもない。
【0032】
リチウムを吸蔵及び放出することが可能なマンガンを主たる構成遷移金属元素とする正極活物質としては、例えば容量、出力特性の観点からリチウムとマンガンとを含む複合酸化物や、リチウムとマンガンとを含むリン酸化合物、リチウムとマンガンとを含む硫酸化合物、リチウムとマンガンと含む固溶体が挙げられる。より高い容量、出力特性を得る観点からは、特にリチウムマンガン複合酸化物が好ましい。
【0033】
リチウムとマンガンとを含む複合酸化物の具体例としては、リチウムニッケルマンガン複合酸化物(LiNi0.5Mn1.5)、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物(Li(NiMnCo)O、Li(LiNiMnCo)O)、スピネル型構造を有するリチウムマンガン複合酸化物(LiMn)などが挙げられる。また、リチウムとマンガンとを含むリン酸化合物の具体例としては、リチウム鉄マンガンリン酸化合物(LiFeMnPO)などが挙げられる。これらは、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
また、上述の複合酸化物において、構造を安定化させる等の目的から、例えば、マンガンの一部を他の元素で置換したものなどを好適例として挙げることもできる。リチウムとマンガンと含む固溶体である正極活物質の具体的な好適例としては、一般式(1)で表されるものを挙げることができる。
【0035】
Li2−0.5xMn1−x1.5x…(1)
(式(1)中、Liはリチウム、Mnはマンガン、MはNiαCoβMnγδ(Niはニッケル、Coはコバルト、Mnはマンガン、Mはアルミニウム(Al)、鉄(Fe)、銅(Cu)、マグネシウム(Mg)及びチタン(Ti)からなる群より選ばれる少なくとも1種を示し、α、β、γ及びδは、0<α≦0.5、0≦β≦0.33、0<γ≦0.5、0≦δ≦0.1、α+β+γ+δ=1の関係を満足する。)を示し、xは、0.1≦x≦0.5の関係を満足する。)
【0036】
なお、一般に、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)及びマンガン(Mn)は、材料の純度向上及び電子伝導性向上という観点、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、銅(Cu)、マグネシウム(Mg)及びチタン(Ti)は、結晶構造の安定性向上という観点から、容量及び出力特性に寄与することが知られている。
【0037】
また、バインダとしては、特に限定されるものではないが、例えば、以下の材料が挙げられる。ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、セルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル(PVC)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体及びその水素添加物、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体及びその水素添加物などの熱可塑性高分子、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF−HFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−HFP−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF−PFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−PFP−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−PFMVE−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−クロロトリフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−CTFE系フッ素ゴム)等のビニリデンフルオライド系フッ素ゴム、エポキシ樹脂等が挙げられる。中でも、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリイミド(PI)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリプロピレン(PP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリアミド(PA)であることがより好ましい。これらの好適なバインダは、耐熱性に優れ、さらに電位窓が非常に広く正極電位、負極電位の双方に安定であり正極(及び負極)活物質層に使用が可能である。
【0038】
しかしながら、これらに限定されるものではなく、リチウムイオン二次電池用のバインダとして従来用いられている公知の材料を用いることができる。これらのバインダは、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
正極活物質層に含まれるバインダ量は、正極活物質を結着することができる量であれば特に限定されるものではないが、好ましくは正極活物質層に対して、0.5〜15質量%であり、より好ましくは1〜10質量%である。
【0040】
導電助剤とは、正極活物質層の導電性を向上させるために配合されるものである。導電助剤としては、例えば、アセチレンブラック等のカーボンブラック、グラファイト、気相成長炭素繊維などの炭素材料を挙げることができる。正極活物質層が導電助剤を含むと、正極活物質層の内部における電子ネットワークが効果的に形成され、電池の出力特性の向上に寄与し得る。
【0041】
しかしながら、これらに限定されるものではなく、リチウムイオン二次電池用の導電助剤として用いられている従来公知の材料を用いることができる。これらの導電助剤は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
また、上記導電助剤とバインダの機能を併せ持つ導電性結着剤をこれら導電助剤とバインダに代えて用いてもよいし、又はこれら導電助剤とバインダの一方若しくは双方と併用してもよい。導電性結着剤としては、例えば、既に市販のTAB−2(宝泉株式会社製)を用いることができる。
【0043】
[負極活物質層]
負極活物質層12Bは、炭素又はケイ素を主たる構成元素とする負極活物質を少なくとも含んでいることを要し、必要に応じて、バインダや導電助剤を含んでいてもよい。なお、バインダや導電助剤は上記説明したものを用いることができる。
【0044】
炭素又はケイ素を主たる構成元素とする負極活物質としては、例えば、高結晶性カーボンであるグラファイト(天然グラファイト、人造グラファイト等)、低結晶性カーボン(ソフトカーボン、ハードカーボン)、カーボンブラック(ケッチェンブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ランプブラック、オイルファーネスブラック、サーマルブラック等)、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、カーボンフィブリルなどの炭素材料;ケイ素の単体、合金、酸化物(一酸化ケイ素(SiO)、SiO(0<x<2)、炭化物(SiC)などを挙げることができる。なお、「炭素又はケイ素を主たる構成元素とする」とは、構成元素における炭素又はケイ素の割合が質量比で50質量%以上であることをいう。これらの負極活物質は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0045】
また、各活物質層(集電体片面の活物質層)の厚さについても特に限定されるものではなく、電池についての従来公知の知見を適宜参照することができる。一例を挙げると、各活物質層の厚さは、電池の使用目的(出力重視、エネルギー重視など)、イオン伝導性を考慮し、通常1〜500μm程度、好ましくは2〜100μmである。
【0046】
更に、活物質それぞれ固有の効果を発現する上で、最適な粒径が異なる場合には、それぞれの固有の効果を発現する上で最適な粒径同士を混合して用いればよく、全ての活物質の粒径を均一化させる必要はない。
【0047】
例えば、負極活物質として粒子形態の合金を用いる場合、合金の平均粒子径は、既存の負極活物質層に含まれる負極活物質の平均粒子径と同程度であればよく、特に制限されない。高出力化の観点からは、好ましくは1〜20μmの範囲であればよい。なお、本明細中において、「粒子径」とは、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用いて観察される活物質粒子(観察面)の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離を意味する。「平均粒子径」の値としては、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数〜数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。他の構成成分の粒子径や平均粒子径も同様に定義することができる。
【0048】
ただし、このような範囲に何ら制限されるものではなく、本実施形態の作用効果を有効に発現できるものであれば、この範囲を外れていてもよいことは言うまでもない。
【0049】
[非水電解質層]
非水電解質層13としては、例えば、後述するセパレータ14に非水電解質を含ませて層構造を形成したものを挙げることができる。非水電解質としては、非水電解液、高分子ゲル電解質、固体高分子電解質などを挙げることができる。
【0050】
非水電解液としては、例えば、通常リチウムイオン二次電池で用いられるものであることが好ましく、具体的には、有機溶媒に支持塩(リチウム塩)が溶解した形態を有する。
【0051】
リチウム塩としては、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF)、過塩素酸リチウム(LiClO)、六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF)、六フッ化タンタル酸リチウム(LiTaF)、四塩化アルミニウム酸リチウム(LiAlCl)、リチウムデカクロロデカホウ素酸(Li10Cl10)等の無機酸陰イオン塩、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCFSO)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(Li(CFSON)、リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド(Li(CSON)等の有機酸陰イオン塩の中から選ばれる、少なくとも1種類のリチウム塩等を挙げることができる。
【0052】
また、有機溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)等の環状カーボネート類;ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)等の鎖状カーボネート類;テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジブトキシエタン等のエーテル類;γ−ブチロラクトン等のラクトン類;アセトニトリル等のニトリル類;プロピオン酸メチル等のエステル類;ジメチルホルムアミド等のアミド類;酢酸メチル、蟻酸メチルの中から選ばれる少なくともから1種類又は2種以上を混合した、非プロトン性溶媒等の有機溶媒を用いたものなどが使用できる。
【0053】
高分子ゲル電解質としては、高分子ゲル電解質を構成するポリマーと電解液を従来公知の比率で含有したものを挙げることができる。例えば、イオン伝導度などの観点から、数質量%〜98質量%程度とするのが望ましい。高分子ゲル電解質は、イオン導伝性を有する固体高分子電解質に、通常リチウムイオン二次電池で用いられる上記電解液を含有させたものである。しかしながら、これに限定されるものではなく、リチウムイオン導伝性を持たない高分子の骨格中に、同様の電解液を保持させたものも含まれる。高分子ゲル電解質に用いられるリチウムイオン導伝性を持たない高分子としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)などが使用できる。ただし、これらに限られるわけではない。なお、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)などは、どちらかと言うとイオン伝導性がほとんどない部類に入るものであるため、上記イオン伝導性を有する高分子とすることもできるが、ここでは高分子ゲル電解質に用いられるリチウムイオン導伝性を持たない高分子として例示したものである。
【0054】
固体高分子電解質は、例えばポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)などに上記リチウム塩が溶解して成る構成を有し、有機溶媒を含まないものを挙げることができる。したがって、非水電解質層が固体高分子電解質から構成される場合には電池からの液漏れの心配がなく、電池の信頼性が向上させることができる。
【0055】
非水電解質層の厚みは、内部抵抗を低減させるという観点からは薄い方が好ましい。電解質層の厚みは、例えば、詳しくは後述するセパレータの厚みにより調整することができ、通常1〜100μmであり、好ましくは5〜50μmである。なお、高分子ゲル電解質や固体高分子電解質のマトリックスポリマーは、架橋構造を形成することによって、優れた機械的強度を発現させることができる。架橋構造を形成させるには、適当な重合開始剤を用いて、高分子電解質形成用の重合性ポリマー(例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)やポリプロピレンオキシド(PPO))に対して熱重合、紫外線重合、放射線重合、電子線重合等の重合処理を施せばよい。
【0056】
[セパレータ]
セパレータ14としては、上述した非水電解質を含み非水電解質層を形成することができるものであれば、特に限定されるものではない。例えば、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)等のポリオレフィンや絶縁性セラミックスなどの無機物からなる微多孔膜や多孔質の平板、更には不織布を挙げることができる。
【0057】
[保護層]
保護層15としては、上述した負極活物質層との所定の関係を満足し、更に、上述した負極活物質より貴な電位で酸化還元する物質と、カルボキシル基を有する高分子化合物とを少なくとも含んでいることを要する。ただし、上述した他のバインダを含ませてもよい。
【0058】
負極活物質より貴な電位で酸化還元する物質としては、適用する負極活物質に対して相対的に貴な電位で酸化還元し得れば特に限定されるものではない。好適例として、チタン酸リチウム(LiTi12)を挙げることができる。
【0059】
また、カルボキシル基を有する高分子化合物としては、上述した物質を結着する機能を少なくとも有していれば特に限定されるものではない。好適例としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)やポリアクリル酸(PAA)を挙げることができる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0060】
保護層に含まれるカルボキシル基を有する高分子化合物の量は、例えば一般的なバインダ量と同程度であることが好ましく、具体的には、保護層に対して、0.5〜15質量%であり、より好ましくは1〜10質量%である。
【0061】
次に、上述した本実施形態のリチウムイオン二次電池の製造方法の一例について説明する。
まず、正極を作製する。例えば粒状の上述した一般式(1)で表される正極活物質を用いる場合には、正極活物質と必要に応じてアセチレンブラックなどの導電助剤、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのバインダ、及びN−メチルピロリドンなどの粘度調整溶剤とを混合し、正極スラリを作製する。
次いで、この正極スラリを正極集電体に塗布し、乾燥させ、圧縮成型して正極活物質層を形成する。
【0062】
また、負極を作製する。例えば粒状のグラファイトなどの負極活物質を用いる場合には、負極活物質と必要に応じてアセチレンブラックなどの導電助剤、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのバインダ、及びN−メチルピロリドンなどの粘度調整溶剤とを混合し、負極スラリを作製する。この後、この負極スラリを負極集電体に塗布し、乾燥させ、圧縮成型して負極活物質層を形成する。
【0063】
更に、負極活物質上に、保護層を設ける。例えば、負極活物質より貴な電位で酸化還元する粒状の物質としてのチタン酸リチウム(LiTi12)と、カルボキシル基を有する高分子化合物としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)、及び蒸留水などの粘度調整溶剤とを混合し、保護層スラリを作製する。この後、この保護層スラリを負極活物質層に塗布し、乾燥させ、圧縮成型して保護層を形成する。
【0064】
次いで、正極に正極タブを取り付けるとともに、負極に負極タブを取り付けた後、正極、ポリオレフィンなどのセパレータ、及び保護層を設けた負極を積層する。更に、積層したものを高分子−金属複合ラミネートシートで挟み、一辺を除く外周縁部を熱融着して袋状の外装体とする。
【0065】
しかる後、六フッ化リン酸リチウムなどのリチウム塩と、エチレンカーボネート(EC)などの有機溶媒を含む非水電解質を準備し、外装体の開口部から内部に注入して、外装体の開口部を熱融着し封入する。これにより、ラミネート型のリチウムイオン二次電池が完成する。
【実施例】
【0066】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0067】
(実施例1)
<正極の作製>
正極活物質としてLi1.85Ni0.18Co0.10Mn0.87(式(1)において、α=0.40、β=0.22、γ=0.38、δ=0、x=0.3である。)90質量部と、導電助剤としてのアセチレンブラック5質量部と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン5質量部とを混合し、N−メチルピロリドンに分散させて正極スラリを得た。次いで、得られた正極スラリを、アルミニウム箔より成る正極集電体の両面にそれぞれの正極活物質層の厚さが30μmとなるように均一に塗布し、乾燥させて、正極を得た。
【0068】
<負極の作製>
負極活物質としてのグラファイト粉末90質量部と、導電助剤としてのアセチレンブラック5質量部と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン5質量部とを混合し、N−メチルピロリドンに分散させて負極スラリを得た。次いで、得られた負極スラリを、銅箔より成る負極集電体の両面にそれぞれの負極活物質層の厚さが30μmとなるように均一に塗布し、真空中24時間乾燥させて、負極を得た。
【0069】
<保護層の形成>
負極活物質より貴な電位で酸化還元する物質としてのチタン酸リチウム(LiTi12)97質量部と、カルボキシル基を有する高分子化合物としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)3質量部とを混合し、更に固形分10質量%となるように蒸留水に分散させて保護層スラリを得た。次いで、得られた保護層スラリを負極の負極活物質層に対する保護層の割合が質量比で0.03となるように滴下した後、80℃で乾燥させた。更に、面圧100MPにてプレスし、真空中、80℃で乾燥させて、保護層を設けた負極を得た。
【0070】
<電池の作製>
上記作製した正極と、保護層を設けた負極とを対向させ、この間に、セパレータ(材質:ポリオレフィン、厚み:20μm)を配置した。
次いで、この負極、セパレータ、正極の積層体をコインセル(CR2032、材質:ステンレス鋼(SUS316))の底部側に配置した。
更に、正極と負極の間の絶縁性を保つためのガスケットを装着し、下記電解液をシリンジを用いて注入し、スプリング及びスペーサーを積層し、コインセルの上部側を重ね合わせ、かしめることにより密閉して、本例のリチウムイオン二次電池を得た。
なお、電解液としては、エチレンカーボネート(EC)及びジエチルカーボネート(DEC)を、EC:DEC=1:2(体積比)の割合で混合した有機溶媒に、支持塩としての六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を濃度が1mol/Lとなるように溶解させたものを用いた。
【0071】
(実施例2)
保護層の形成に当たり、保護層スラリを負極の負極活物質層に対する保護層の割合が質量比で0.05となるように滴下したこと以外は、実施例1と同様の操作を繰り返して、本例のリチウムイオン二次電池を得た。
【0072】
(実施例3)
保護層の形成に当たり、保護層スラリを負極の負極活物質層に対する保護層の割合が質量比で0.13となるように滴下したこと以外は、実施例1と同様の操作を繰り返して、本例のリチウムイオン二次電池を得た。
【0073】
(実施例4)
保護層の形成に当たり、保護層スラリを負極の負極活物質層に対する保護層の割合が質量比で0.20となるように滴下したこと以外は、実施例1と同様の操作を繰り返して、本例のリチウムイオン二次電池を得た。
【0074】
(実施例5)
保護層の形成に当たり、負極活物質より貴な電位で酸化還元する物質としてのチタン酸リチウム(LiTi12)97質量部と、バインダとしてのスチレンブタジエンゴム(SBR)1.5質量部と、カルボキシル基を有する高分子化合物としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)1.5質量部とを混合し、更に固形分10質量%となるように蒸留水に分散させて保護層スラリを得、次いで、得られた保護層スラリを負極の負極活物質層に対する保護層の割合が質量比で0.13となるように滴下した後、80℃で乾燥させ、更に、面圧100MPにてプレスし、真空中、80℃で乾燥させて、保護層を設けた負極を得たこと以外は、実施例1と同様の操作を繰り返して、本例のリチウムイオン二次電池を得た。
【0075】
(実施例6)
保護層の形成に当たり、負極活物質より貴な電位で酸化還元する物質としてのチタン酸リチウム(LiTi12)97質量部と、カルボキシル基を有する高分子化合物としてのポリアクリル酸(PAA)3質量部とを混合し、更に固形分10質量%となるようにN−メチルピロリドンに分散させて保護層スラリを得、次いで、得られた保護層スラリを負極の負極活物質層に対する保護層の割合が質量比で0.13となるように滴下した後、80℃で乾燥させ、更に、面圧100MPにてプレスし、真空中、80℃で乾燥させて、保護層を設けた負極を得たこと以外は、実施例1と同様の操作を繰り返して、本例のリチウムイオン二次電池を得た。
【0076】
(比較例1)
保護層を設けた負極に代えて実施例1で得た保護層を形成する前の負極を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を繰り返して、本例のリチウムイオン二次電池を得た。
【0077】
(比較例2)
保護層の形成に当たり、負極活物質より貴な電位で酸化還元する物質としてのチタン酸リチウム(LiTi12)に代えて用いた負極活物質より貴な電位で酸化還元する物質でない酸化チタン(TiO)97質量部と、カルボキシル基を有する高分子化合物としてのポリアクリル酸(PAA)に代えて用いたポリフッ化ビニリデン(PVDF)3質量部とを混合し、更に固形分10質量%となるようにN−メチルピロリドンに分散させて保護層スラリを得、次いで、得られた保護層スラリを負極の負極活物質層に対する保護層の割合が質量比で0.13となるように滴下した後、80℃で乾燥させ、更に、面圧100MPにてプレスし、真空中、80℃で乾燥させて、保護層を設けた負極を得たこと以外は、実施例1と同様の操作を繰り返して、本例のリチウムイオン二次電池を得た。
【0078】
(比較例4)
保護層の形成に当たり、負極活物質より貴な電位で酸化還元する物質としてのチタン酸リチウム(LiTi12)97質量部と、カルボキシル基を有する高分子化合物としてのポリアクリル酸(PAA)に代えて用いたポリフッ化ビニリデン(PVDF)3質量部とを混合し、更に固形分10質量%となるようにN−メチルピロリドンに分散させて保護層スラリを得、次いで、得られた保護層スラリを負極の負極活物質層に対する保護層の割合が質量比で0.13となるように滴下した後、80℃で乾燥させ、更に、面圧100MPにてプレスし、真空中、80℃で乾燥させて、保護層を設けた負極を得たこと以外は、実施例1と同様の操作を繰り返して、本例のリチウムイオン二次電池を得た。
【0079】
(比較例4)
保護層の形成に当たり、負極活物質より貴な電位で酸化還元する物質としてのチタン酸リチウム(LiTi12)に代えて用いた負極活物質より貴な電位で酸化還元する物質でない酸化チタン(TiO)97質量部と、カルボキシル基を有する高分子化合物としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)3質量部とを混合し、更に固形分10質量%となるようにN−メチルピロリドンに分散させて保護層スラリを得、次いで、得られた保護層スラリを負極の負極活物質層に対する保護層の割合が質量比で0.13となるように滴下した後、80℃で乾燥させ、更に、面圧100MPにてプレスし、真空中、80℃で乾燥させて、保護層を設けた負極を得たこと以外は、実施例1と同様の操作を繰り返して、本例のリチウムイオン二次電池を得た。
【0080】
(比較例5)
保護層の形成に当たり、保護層スラリを負極の負極活物質層に対する保護層の割合が質量比で0.01となるように滴下したこと以外は、実施例1と同様の操作を繰り返して、本例のリチウムイオン二次電池を得た。
【0081】
[性能評価]
上記各例のリチウムイオン二次電池について充放電サイクル試験を行い、初期放電容量を測定した。具体的には、30℃の雰囲気下、定電流方式(CC電流:0.1C)で4.6Vまで充電し、10分間休止させた後、定電流方式(CC電流:0.1C)で2Vまで放電した。得られた結果と各例の仕様の一部を表1及び表2に示す。
【0082】
【表1】

【0083】
【表2】

【0084】
表1より、本発明の範囲に属する実施例1〜実施例4は、本発明外の比較例1〜比較例5と比較して、優れた初期放電容量を有することが分かる。また、現時点においては、実施例3が最も優れた初期放電容量を有することが分かる。
【0085】
例えば、最も優れた初期放電容量を有する実施例3と同じように、保護層質量/負極活物質層質量に対する保護層質量の比を0.13としても、負極活物質より貴な電位で酸化還元する物質及びカルボキシル基を有する高分子化合物のいずれか一方又は双方を有していない比較例2〜比較例4は、初期放電容量が各実施例に及ばないばかりか、保護層を有しない比較例1より劣っていることが分かる。なお、TiOは、負極活物質より貴な電位で酸化還元する物質ではない。
【0086】
また、例えば、比較例5のように、保護層質量/負極活物質層質量に対する保護層質量の比が0.03未満の0.01である場合には、各実施例と同じように、負極活物質より貴な電位で酸化還元する物質及びカルボキシル基を有する高分子化合物の双方を有していても、初期放電容量が各実施例に及ばないばかりか、保護層を有しない比較例1より劣っていることが分かる。
【0087】
すなわち、集電体上にリチウムを吸蔵及び放出でき、マンガンを主たる構成遷移金属元素とする正極活物質を含む正極活物質層を有する正極と、集電体上に炭素又はケイ素を主たる構成元素とする負極活物質を含む負極活物質層を有する負極と、非水電解質と、セパレータとを備えたリチウムイオン二次電池において、負極活物質層とセパレータとの間に、負極活物質より貴な電位で酸化還元する物質と、カルボキシル基を有する高分子化合物とを含む保護層を有し、負極活物質層に対する保護層の割合が質量比で0.03以上である構成とすることにより、優れた初期放電容量を有するものとなることが分かる。
【0088】
本発明者は、現時点において、このような効果が得られる原因を以下のようなメカニズムによるものと推測している。但し、以下のメカニズムはあくまでも推測に基づくものである。従って、以下のメカニズム以外のメカニズムにより上述のような効果が得られていたとしても、本発明の範囲に含まれることは言うまでもない。
【0089】
つまり、負極活物質層とセパレータとの間に、負極活物質よりも貴な電位で酸化還元する物質を含有する保護層があると、正極から溶出するマンガンイオンの酸化還元電位はリチウムイオンよりも貴であるため、負極活物質に到達するために、保護層に含まれる負極活物質よりも貴な電位で酸化還元する物質に捕捉されうる。このとき、保護層には、その捕捉を補助すると考えられるカルボキシル基を有する高分子化合物を含むことを要する。更に、保護層の量が少ない場合には所期の効果が得られないため、負極活物質層に対する保護層の割合が質量比で0.03以上であることを要すると考えられる。
【0090】
また、このようなリチウムイオン二次電池において、負極活物質層に対する保護層の割合が質量比で0.03〜0.2である構成とすることにより、高いエネルギー密度の保ちながら、優れた初期放電容量を有するものとなることが分かる。更に、負極活物質層に対する保護層の割合が質量比で0.05〜0.15である構成とすることにより、高いエネルギー密度の保ちながら、より優れた初期放電容量を有するものとなることが分かる。
【0091】
表2より、本発明の範囲に属する実施例3、実施例5、実施例6は、本発明外の比較例2〜比較例4と比較して、優れた初期放電容量を有することが分かる。
【0092】
例えば、負極活物質より貴な電位で酸化還元する物質としてチタン酸リチウム(LiTi12)を用いると優れた初期放電容量を有するリチウムイオン二次電池となることが分かる。また、カルボキシル基を有する高分子化合物としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)やポリアクリル酸(PAA)、その中でも、カルボキシメチルセルロース(CMC)を用いると優れた初期放電容量を有するリチウムイオン二次電池となることが分かる。
【0093】
また、カルボキシル基を有する高分子化合物は、実施例5のように少なくとも一部に含まれていれば良く、スチレンブタジエンゴム(SBR)のような他のバインダと併用しても優れた初期放電容量を有するリチウムイオン二次電池となることが分かる。
【0094】
表1及び表2より、上述した一般式(1)で表される正極活物質の一例であるLi1.85Ni0.18Co0.10Mn0.87を用いたとしても、優れた初期放電容量を有するリチウムイオン二次電池となることが分かる。
【0095】
以上、本発明を若干の実施形態及び実施例によって説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
【0096】
すなわち、上記実施形態及び実施例においては、リチウムイオン二次電池として、ラミネート型電池やボタン型電池を例に挙げて説明したが、円筒形や角形等の缶型電池など従来公知の形態・構造についても適用することができる。
【0097】
また、例えば、本発明は、上述した積層型(扁平型)電池だけでなく、巻回型(円筒型) 電池など従来公知の形態・構造についても適用することができる。
【0098】
更に、例えば、本発明は、リチウムイオン二次電池内の電気的な接続形態(電極構造)で見た場合、上述した通常(内部並列接続タイプ)電池だけでなく、双極型(内部直列接続タイプ)電池など従来公知の形態・構造についても適用することができる。
【0099】
なお、双極型電池における電池要素は、一般的に、集電体の一方の表面に負極活物質層が形成され、他方の表面に正極活物質層が形成された双極型電極と、電解質層とを複数積層した構成を有している。
【符号の説明】
【0100】
1 リチウムイオン二次電池
10 電池要素
11 正極
11A 正極集電体
11B 正極活物質層
12 負極
12A 負極集電体
12B 負極活物質層
13 非水電解質層
14 セパレータ
15 保護層
16 単電池層
21 正極タブ
22 負極タブ
30 外装体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムを吸蔵及び放出できる、マンガンを主たる構成遷移金属元素とする正極活物質を含む正極活物質層を集電体上に有する正極と、
炭素又はケイ素を主たる構成元素とする負極活物質を含む負極活物質層を集電体上に有する負極と、
非水電解質と、
セパレータと、を備え、
上記負極活物質層と上記セパレータとの間に、上記負極活物質より貴な電位で酸化還元する物質と、カルボキシル基を有する高分子化合物とを含む保護層を有し、
上記負極活物質層に対する上記保護層の割合が質量比で0.03以上である
ことを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項2】
上記負極活物質層に対する上記保護層の割合が質量比で0.03〜0.20であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
上記リチウムを吸蔵及び放出できる、マンガンを主たる構成遷移金属元素とする正極活物質が、一般式(1)
Li2−0.5xMn1−x1.5x…(1)
(式(1)中、Liはリチウム、Mnはマンガン、MはNiαCoβMnγδ(Niはニッケル、Coはコバルト、Mnはマンガン、Mはアルミニウム(Al)、鉄(Fe)、銅(Cu)、マグネシウム(Mg)及びチタン(Ti)からなる群より選ばれる少なくとも1種を示し、α、β、γ及びδは、0<α≦0.5、0≦β≦0.33、0<γ≦0.5、0≦δ≦0.1、α+β+γ+δ=1の関係を満足する。)を示し、xは、0.1≦x≦0.5の関係を満足する。)で表される正極活物質であることを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
上記負極活物質より貴な電位で酸化還元する物質が、チタン酸リチウムであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
上記カルボキシル基を有する高分子化合物が、カルボキシメチルセルロース及びポリアクリル酸の少なくとも一方であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つの項に記載のリチウムイオン二次電池。

【図1】
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【公開番号】特開2013−114882(P2013−114882A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259689(P2011−259689)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、次世代自動車用高性能蓄電システム技術開発事業/要素技術開発/高容量電池の研究開発委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】