説明

リチウムイオン二次電池

【課題】バナジウムの溶出による電池特性の低下が防止されるリチウムイオン二次電池を提供すること。
【解決手段】バナジウム系化合物を含有する正極活物質を含む正極活物質層を有する正極と、リチウムイオンを可逆的に脱挿入可能な負極活物質を含む負極活物質層を有する負極と、を備え、負極活物質層に、バナジウム系化合物を分散させたリチウムイオン二次電池を提供する。これにより、正極活物質に含有されるバナジウム系化合物に対応するバナジウム系化合物を、負極活物質層に分散させることで、上記正極におけるバナジウムの溶出が生じることにより電池特性の低下が防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池に関し、特に、正極活物質としてバナジウム系化合物を含むリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、近年、電気機器や通信機器等の電源として使用されており、さらに、電気自動車(EV、HEV等)の電源としても使用されている。そして、リチウムイオン二次電池は、その更なる特性向上、例えばエネルギー密度の向上(高容量化)、出力密度の向上(高出力化)やサイクル特性の向上(サイクル寿命の向上)、高い安全性が望まれている。
【0003】
近年では、高出力で高容量のリチウムイオン二次電池を得るための正極活物質として、バナジウム酸化物、リチウムバナジウム酸化物等のバナジウム系正極活物質が注目を集めている。このバナジウム系正極活物質として、例えばナシコン型のリン酸バナジウムリチウム、特にLi32(PO43をはじめとするバナジウム含有リン酸塩酸化物が注目を集めている。
【0004】
Li32(PO43は、作動電圧がLi/Li基準に対して3.8Vであり、各プラトー電位に応じて、130〜195mAh/gの大きな容量を示す。更に、オリビン鉄材料でも採用された正極活物質表面への導電性カーボン被膜形成技術により、電子伝導性が向上され、高出力化が実現されている。
【0005】
しかし、上記バナジウム系正極活物質は、高温環境下や充放電サイクルの後において、電解液の分解によって発生するフッ化水素由来の水素イオンによってバナジウムが正極から溶出することが知られており、これが該正極活物質を含む蓄電デバイスの特性を劣化させる原因となっている。このような、バナジウムの溶出を防止するために、特許文献1には、正極活物質材料であるLi32(PO43粒子を空気中で酸化処理して、粒子表面に3価を超えるバナジウム化合物を形成することにより、高温環境下におけるバナジウムの溶出を抑制する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2009−231206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、特許文献1の方法では、バナジウムの溶出をある程度軽減することはできるが、完全に防止することはできない。また、他にもバナジウム溶出の対策は知られているが、いずれも正極活物質を他の材料で被覆することによりバナジウムの溶出を防ごうとする手法をとるものである。しかし、溶出を防止するために被覆層を厚くすればするほど、正極自体の抵抗が増加し導電率が低下する。また、この被覆層により正極活物質における正味のLi32(PO43の含有量が低下することから、活物質の密度が減少することとなり、サイクル特性やレート特性が低下するなどして十分な電池特性が得られなくなるという問題があった。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、バナジウムの溶出による電池特性の低下を防止することのできるリチウムイオン二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために請求項1に記載のリチウムイオン二次電池は、バナジウム系化合物を主成分とする正極活物質を含む正極活物質層を有する正極と、リチウムイオンを可逆的に脱挿入可能な負極活物質を含む負極活物質層を有する負極と、を備え、前記負極活物質層に、バナジウム系化合物を分散させたことを特徴とする。
【0010】
このように、バナジウム系化合物を、負極活物質層に分散させることで、上記正極におけるバナジウムの溶出が生じたとしてもサイクル特性やレート特性の低下が生じないことが本発明者らにより見出された。なお、負極活物質層に分散させるバナジウム系化合物は、正極活物質層に含有されるバナジウム化合物と同一種類のものあっても、異なる種類のものであっても良い。
【0011】
このようにバナジウムの溶出が発生しているにもかかわらず、電池特性の低下が生じていない理由については、完全には解明できていないが、本発明者らは以下のように考察している。ただし、この考察から導かれる作用は本願発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0012】
先ず、正極においてバナジウムの溶出が生じることにより、電池特性が低下するメカニズムについて説明する。リチウムイオン二次電池は、充放電を繰り返すことで上述のように正極活物質からバナジウムが溶出することが知られている。正極活物質から溶出したバナジウムは、バナジウム化合物として負極表面上に不均一に析出する。負極上に析出したバナジウム化合物は、Li/Li基準に対して約3Vの電位を有する。これに対して負極活物質は、Li/Li基準に対して約0.1V程度の電位しか持たないため、この析出したバナジウム化合物と負極活物質との間で局所的に電位差が生じることとなる。従って、負極活物質層内においては、負極表面上において電位の高いバナジウム化合物に向けてリチウムイオンが引き寄せられて移動するので、バナジウム化合物付近においてリチウムイオン濃度が高くなる。リチウムイオン濃度が高くなった部分は電位がより一層低下し、0V付近でリチウムが析出する。更には、電解液中のリチウムイオンも電位の高い負極表面上のバナジウム化合物へ引き寄せられて、リチウムイオンの集中によりリチウムの析出が生じる。一方、負極表面上のバナジウム化合物は負極活物質へのリチウムイオンの脱挿入を阻害する抵抗層となる。このバナジウム化合物には、正極活物質から溶出したバナジウムがさらに蓄積されて成長するという悪循環が繰り返される。
【0013】
このような不具合に対して本発明によれば、負極活物質層にバナジウム化合物を分散させることにより、バナジウム化合物と負極活物質層とにより電位差が生じる部分を負極活物質層内において予め分散させておくことができる。これにより、負極活物質層内のリチウムイオン濃度が負極表面に局所的に集中することを抑制することができる。また、電解液中のリチウムイオンも負極活物質内全体に分散されるので、正極活物質から溶出したバナジウムが負極表面上に局所的に集中することも防止することができる。従って、負極活物質におけるリチウムイオンの析出を抑制することができるとともに、抵抗層としてのバナジウム化合物の成長も抑制することができる。これにより、サイクル特性やレート特性の改善が実現されたものと考えられる。
【0014】
なお、上記バナジウム系化合物は、バナジウム酸化物又はバナジウムリン酸塩化合物であり、特に、バナジウム酸化物としてV、V、Liから選ばれるか、バナジウムリン酸塩化合物としてLiVPO、Li(POから選ばれることが好ましい。
【0015】
また、バナジウム系化合物の分散は、負極活物質層に対して0.5〜10質量%の添加量で行われることが好ましい。なお、バナジウム系化合物の添加量が、負極活物質層に対して0.5質量%を下回ると、バナジウム系化合物が負極活物質層全体に分散されずに、リチウムイオンの局所的な集中を抑制する効果がほとんど得られないものと考えられる。一方、バナジウム系化合物の添加量が10質量%を上回ると、負極活物質成分濃度が低下して負極としての機能が十分に発揮されず電池の機能が損なわれる可能性があると考えられる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、正極活物質に含有されるバナジウム系化合物に対応するバナジウム系化合物を、負極活物質層に分散させることで、上記正極におけるバナジウムの溶出が生じることによりサイクル特性やレート特性の低下が防止される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施の形態にかかるリチウムイオン二次電池の実施形態の一例を示す概略断面図である。
【図2】本実施の形態にかかるリチウムイオン二次電池の実施形態の一例を示す概略断面図である。
【図3】放電レートCとサイクル前のレート放電容量保持量の関係を示す。
【図4】放電レートCとサイクル後のレート放電容量保持量の関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。本実施の形態にかかるリチウムイオン二次電池は、バナジウム系化合物としてLi32(PO43を主成分とする正極活物質を含む正極合材層を備えた正極と、リチウムイオンを可逆的に脱挿入可能な負極活物質を含む負極活物質層を有する負極と、を備える。
【0019】
[正極]
本発明における正極は、上述のLi32(PO43を主成分とする正極活物質を含んでいる。他の成分としては種々のものが用いられるが、具体的には、例えば以下のように正極を作製することができる。
【0020】
先ず、Li32(PO43について、LiOH、LiOH・H2O等のリチウム源、V25、V23等のバナジウム源、及びNH42PO4、(NH42HPO4等のリン酸源等を混合し、反応、焼成する等により製造できる。Li32(PO43は、通常、焼成物を粉砕等した粒子状の形態で得られる。
【0021】
また、Li32(PO43は、それ自体では電子伝導性が低いため、その表面に導電性カーボン被膜加工が行われた粒子であることが好ましい。これによりLi32(PO43の電子伝導性を向上することができる。
【0022】
導電性カーボン被膜加工は、公知の方法で行うことができる。例えば、カーボン被膜材料として、クエン酸、アスコルビン酸、ポリエチレングリコール、ショ糖、メタノール、プロペン、カーボンブラック、ケッチェンブラック等を用い、上述のLi32(PO43製造の反応時や焼成時に混合すること等によって表面に導電性カーボン被膜を形成させることができる。
【0023】
Li32(PO43粒子の粒度には特に制限は無く、所望の粒度のものを使用することができる。粒度はLi32(PO43の安定性や密度に影響するため、Li32(PO43の2次粒子の粒度分布におけるD50が0.5〜25μm程度であることが好ましい。
【0024】
得られたLi32(PO43を主成分とする正極活物質に対して結着剤、及び導電助剤を含む混合物を溶媒に分散させた正極スラリーを、正極集電体上に塗布、乾燥を含む工程により正極合材層を形成する。乾燥工程後にプレス加圧等を行っても良い。これにより正極合材層が均一且つ強固に集電体に圧着される。正極合材層の厚みは10〜200μm、好ましくは20〜100μmである。
【0025】
正極合材層の形成に用いる結着剤としては、例えばポリフッ化ビニリデン等の含フッ素系樹脂、アクリル系バインダ、SBR等のゴム系バインダ、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、カルボキシメチルセルロース等が使用できる。結着剤は、本実施の形態にかかるリチウムイオン二次電池に用いられる非水電解液に対して化学的、電気化学的に安定な含フッ素系樹脂、熱可塑性樹脂が好ましく、特に含フッ素系樹脂が好ましい。
【0026】
含フッ素系樹脂としてはポリフッ化ビニリデンの他、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン−3フッ化エチレン共重合体、エチレン−4フッ化エチレン共重合体及びプロピレン−4フッ化エチレン共重合体等が挙げられる。結着剤の配合量は、例えば上記正極活物質に対して0.5〜20質量%である。
【0027】
正極合材層の形成に用いる導電助剤としては、例えばケッチェンブラック等の導電性カーボン、銅、鉄、銀、ニッケル、パラジウム、金、白金、インジウム及びタングステン等の金属、酸化インジウム及び酸化スズ等の導電性金属酸化物等が使用できる。導電材の配合量は、例えば上記正極活物質に対して1〜30質量%である。
【0028】
正極合材層の形成に用いる溶媒としては、水、イソプロピルアルコール、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド等が使用できる。使用される溶媒の量は、例えば正極活物質層に対して40〜60質量%である。
【0029】
正極集電体は正極合材層と接する面が導電性を示す導電性基体であれば良く、例えば、金属、導電性金属酸化物、導電性カーボン等の導電性材料で形成された導電性基体や、非導電性の基体本体を上記の導電性材料で被覆したものが使用できる。導電性材料としては、銅、金、アルミニウムもしくはそれらの合金又は導電性カーボンが好ましい。正極集電体は、上記材料のエキスパンドメタル、パンチングメタル、箔、網、発泡体等を用いることができる。多孔質体の場合の貫通孔の形状や個数等は特に制限はなく、リチウムイオンの移動を阻害しない範囲で適宜設定できる。
【0030】
また、正極合材層の目付けは5〜20mg/cmに構成されている。なお、ここでいう目付けとは正極集電体の一方の面側の正極合材層の目付けを意味する。正極合材層を正極集電体の両面に形成する場合には、一方の面および他方の面の正極合材層がそれぞれ上記範囲に含まれるよう形成される。
【0031】
また、正極合材層の空孔率は35%〜65%とされることで、優れたサイクル特性を得ることができる。正極合材層の空孔率が35%未満ではサイクル劣化が生じる。正極合材層の空孔率が65%を超えても、優れたサイクル特性は維持できるが、容量や出力が低下する恐れがあるため好ましくない。正極合材層の空孔率は40%〜60%であることがさらに好ましい。
【0032】
[負極]
本実施の形態において負極の製造においては、負極活物質及び結着剤に加えてバナジウム化合物含有添加剤を添加して混合物を得る。そして、この混合物を溶媒に分散させて負極スラリーを得て、この負極スラリーを負極集電体上に塗布、乾燥等することにより負極合材層を形成する。なお、結着剤、溶媒及び集電体は上述の正極の場合と同様なものが使用できる。
【0033】
負極活物質としては、例えば、リチウム系金属材料、金属とリチウム金属との金属間化合物材料、リチウム化合物、又はリチウムインターカレーション炭素材料が挙げられる。
【0034】
リチウム系金属材料は、例えば金属リチウムやリチウム合金(例えば、Li−Al合金)である。金属とリチウム金属との金属間化合物材料は、例えば、スズ、ケイ素等を含む金属間化合物である。リチウム化合物は、例えば窒化リチウムである。
【0035】
また、リチウムインターカレーション炭素材料としては、例えば、グラファイト、難黒鉛化炭素材料等の炭素系材料、ポリアセン物質等が挙げられる。ポリアセン系物質は、例えばポリアセン系骨格を有する不溶且つ不融性のPAS等である。なお、これらのリチウムインターカレーション炭素材料は、いずれもリチウムイオンを可逆的にドープ可能な物質である。負極合材層の厚みは一般に10〜200μm、好ましくは20〜100μmである。
【0036】
そして、負極活物質層に添加されるバナジウム化合物含有添加剤として、例えば、V、V、Li等のバナジウム酸化物や、LiVPO、Li(PO等のバナジウムリン酸塩化合物である。特に、V、Li、Li(PO、又はVが好ましい。また、バナジウム化合物含有添加剤の添加量は、負極活物質層に対して0.5〜10質量%であることが好ましい。この添加量範囲においては、負極活物質におけるリチウムイオンの局所的な集中を抑制する効果を確実に得ることができ、結果として電池のサイクル特性やレート特性の低下が確実に防止され得る。
【0037】
更に、負極合材層の目付けは、正極合材層の目付けに合わせて適宜設計される。通常、リチウムイオン二次電池では、正負極の容量バランスやエネルギー密度の観点から正極と負極の容量(mAh)がおおよそ同じになるように設計される。よって、負極合材層の目付けは、負極活物質の種類や正極の容量等に基づいて設定される。
【0038】
[非水電解液]
本発明における非水電解液は、特に制限はなく、公知の材料を使用できる。例えば、高電圧でも電気分解を起こさないという点、リチウムイオンが安定に存在できるという点から、一般的なリチウム塩を電解質とし、これを有機溶媒に溶解した電解液を使用できる。
【0039】
電解質としては、例えば、CFSOLi、CSOLi、(CFSONLi、(CFSOCLi、LiBF、LiPF、LiClO等又はこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0040】
有機溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ビニルカーボネート、トリフルオロメチルプロピレンカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、γ−ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4-メチル−1,3−ジオキソラン、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、プロピオトリル等又はこれらの2種以上の混合溶媒が挙げられる。非水電解液中の電解質濃度は0.1〜5.0mol/Lであり、好ましくは0.5〜3.0mol/Lである。非水電解液は液状でも良く、可塑剤やポリマー等を混合し、固体電解質又はポリマーゲル電解質としたものでも良い。
【0041】
[セパレータ]
本発明で使用するセパレータは、特に制限はなく、公知のセパレータを使用できる。例えば、電解液、正極活物質、負極活物質に対して耐久性があり、連通気孔を有する電子伝導性の無い多孔質体等を好ましく使用できる。このような多孔質体として例えば、織布、不織布、合成樹脂性微多孔膜、ガラス繊維などが挙げられる。合成樹脂性の微多孔膜が好ましく用いられ、特にポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン製微多孔膜が、厚さ、膜強度、膜抵抗の面で好ましい。
【0042】
[リチウムイオン二次電池]
本実施の形態にかかるリチウムイオン二次電池としては、上述の正極活物質を含む正極、負極活物質を含む負極、セパレータ、及び非水電解液を備えている。
【0043】
以下に本発明の蓄電デバイスの実施形態の一例として、リチウムイオン二次電池の例を、図面を参照しながら説明する。
【0044】
図1は、本発明に係るリチウムイオン二次電池の実施形態の一例を示す概略断面図である。図示のように、リチウムイオン二次電池20は、正極21と、負極22とがセパレータ23を介して対向配置されて構成されている。
【0045】
正極21は、本発明の正極活物質を含む正極合材層21aと、正極集電体21bとから構成されている。正極合材層21aは、正極集電体21bのセパレータ23側の面に形成されている。負極22は、負極合材層22aと、負極集電体22bとから構成されている。負極合材層22aは、負極集電体22bのセパレータ23側の面に形成されている。これら正極21、負極22、セパレータ23は、図示しない外装容器に封入されており、外装容器内には非水電解液が充填されている。外装材としては例えば電池缶やラミネートフィルム等が挙げられる。また、正極集電体21bと負極集電体22bとには、必要に応じて、それぞれ外部端子接続用の図示しないリードが接続されている。
【0046】
次に、図2は、本発明に係るリチウムイオン二次電池の実施形態の別の一例を示す概略断面図である。図示のように、リチウムイオン二次電池30は、正極31と負極32とが、セパレータ33を介して交互に複数積層された電極ユニット34を備えている。正極31は、正極合材層31aが、正極集電体31bの両面に設けられて構成されている。負極32は、負極合材層32aが負極集電体32bの両面に設けられて構成されている(ただし、最上部および最下部の負極32については、負極合材層32aは片面のみ)。また、正極集電体31bは図示しないが突出部分を有しており、複数の正極集電体31bの各突出部分はそれぞれ重ね合わされ、その重ね合わされた部分にリード36が溶接されている。負極集電体32bも同様に突出部分を有しており、複数の負極集電体32bの各突出部分が重ね合わされた部分にリード37が溶接されている。リチウムイオン二次電池30は、図示しないラミネートフィルム等の外装容器内に電極ユニット34と非水電解液が封入されて構成されている。リード36,37は外部機器との接続のため、外装容器の外部に露出される。
【0047】
なお、リチウムイオン二次電池30は、外装容器内に、正極、負極、又は正負極双方にリチウムイオンをプレドープする為のリチウム極を備えていてもよい。その場合には、リチウムイオンが移動し易くするため、正極集電体31bや負極集電体32bに電極ユニット34の積層方向に貫通する貫通孔が設けられる。
【0048】
また、リチウムイオン二次電池30は、最上部および最下部に負極を配置させたが、これに限定されず、最上部および最下部に正極を配置させる構成でもよい。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例により説明する。
【0050】
(実施例1)
(1)正極の作製
以下の正極合材層用材料:
活物質(Li32(PO43) ; 90質量部
導電助剤(カーボンブラック) ; 5質量部
結着剤(PVdF) ; 5質量部
溶媒(N−メチル2−ピロリドン(NMP)) ;100質量部
を混合し、正極スラリーを得た。正極スラリーをアルミニウム箔(厚み30μm)の正極集電体に塗布、乾燥し、正極合材層を正極集電体上に形成した。正極合材層の目付けは(片面当たり)22mg/cmであった。10×10mmの未塗工部分をリード接続用のタブとして残しつつ、塗工部分(正極合材層形成部分)を50×50mmに裁断した。また、水銀ポロシメータを用いて測定したところ、正極合材層の空孔率は40%であった。
【0051】
(2)負極の作製
以下の負極合材層用材料:
活物質(グラファイト) ; 94質量部
バナジウム含有添加剤A(V) ; 1質量部
結着剤(PVdF) ; 5質量部
溶媒(NMP) ;150質量部
を混合し、負極スラリーを得た。負極スラリーを銅箔(厚み10μm)の負極集電体に塗布、乾燥し、負極合材層を負極集電体上に形成した。負極合材層の目付けは(片面当たり)7mg/cmであった。10×10mmの未塗工部分をリード接続用のタブとして残しつつ、塗工部分(負極合材層形成部分)を52×52mmに裁断した。
【0052】
(3)電池の作製
上述のように作製した正極9枚と、負極10枚とを用いて、図2の実施形態で示したようなリチウムイオン二次電池を作製した。具体的には、正極及び負極をセパレータを介して積層し、積層体の周囲をテープで固定した。各正極集電体のタブを重ねてアルミニウム金属リードを溶接した。同様に各負極集電体のタブを重ねてニッケル金属リードを溶接した。これらをアルミラミネート外装材に封入し、正極リードと負極リードを外装材外側に出して、電解液封入口を残して密閉融着した。電解液封入口より電解液を注液し、真空含浸にて電極内部に電解液を浸透させた後、ラミネートを真空封止した。
【0053】
(4)充放電試験
上述のように作製した電池の正極リードと負極リードとを、充放電試験装置(アスカ電子社製)の対応する端子に接続し、最大電圧4.2V、電流レート2Cで45分に亘って定電流定電圧充電し、充電完了後、電流レート1Cにて2.5Vまで定電流放電させた。
【0054】
これを1000サイクル繰り返した。初回放電時に測定した容量からエネルギー密度(Wh/kg)を算出し、サイクル後の容量からサイクル容量維持率(1000サイクル時放電容量/初回放電容量×100)を算出した。容量維持率は71%であった。
【0055】
(5)放電レート特性試験
作成された充放電の一度も行われていない電池(電池1と記す)を100%充電し(SOC100)、25℃、0.1Cにて、放電容量1(0.1C)(mAh/g)を測定した。一方で、(4)において充放電を1000サイクル繰り返した電池(電池2と記す)も同様に、100%充電し(SOC100)、25℃、0.1Cにて、放電容量2(0.1C)(mAh/g)を測定した。放電容量1(0.1C)は、37.1(mAh/g)であった。また、放電容量2(0.1C)は、33.7(mAh/g)であった。
【0056】
更に、電池1及び電池2をそれぞれ、0.2C、0.5C、1.0C、2C、3C、4C、5C、6C、及び7Cに加速した場合の放電容量1(αC)(mAh/g)及び放電容量2(αC)(mAh/g)を測定した。なお、αは、0.5、1、2、3、4、5、6、及び7の何れかの数を意味する。その結果は、後述の表2及び表3において示す。
【0057】
そして、0.2C、0.5C、1.0C、2C、3C、4C、5C、6C、及び7C放電における容量の値を0.1C放電の値に対して百分率で表した値をレート放電容量保持率として、これを算出した。すなわち、(電池1のレート放電容量保持率1)(αC)=(放電容量1(αC))/(放電容量1(0.1C))、及び(電池2のレート放電容量保持率2)(αC)=(放電容量2(αC))/(放電容量2(0.1C))と定義される。その結果は、後述の表2〜5において示すが、特に、7C放電におけるサイクル前の(レート放電容量保持率1)(7C)は、83%であり、7C放電におけるサイクル後の(レート放電容量保持率2)(7C)は、81%であった。
【0058】
(実施例2)
負極合材層用材料におけるバナジウム含有添加剤BとしてLiVOPOを1質量部に添加した以外は全て実施例1と同一条件にして電池を作製し評価を行った。容量維持率は72%であった。また、放電レート特性試験による結果は、実施例1と略同様の結果を示した。
【0059】
(実施例3)
負極合材層用材料におけるバナジウム含有添加剤CとしてLi(POを1質量部に添加した以外は全て実施例1と同一条件にして電池を作製し評価を行った。容量維持率は71%であった。また、放電レート特性試験による結果は、実施例1と略同様の結果を示した。
【0060】
(実施例4)
負極合材層用材料におけるバナジウム含有添加剤DとしてVを1質量部に添加した以外は全て実施例1と同一条件にして電池を作製し評価を行った。容量維持率は73%であった。また、放電レート特性試験による結果は、実施例1と略同様の結果を示した。
【0061】
(実施例5)
負極合材層用材料における負極活物質を94.5質量部として、バナジウム含有添加剤AとしてVを0.5質量部に添加した以外は全て実施例1と同一条件にして電池を作製し評価を行った。容量維持率は62%であった。また、放電レート特性試験による結果において、サイクル後のレート放電容量維持率が、実施例1における測定結果と比較して若干低下した。特に、7C放電におけるサイクル後の(レート放電容量保持率2)(7C)は、78%であった。
【0062】
(実施例6)
負極合材層用材料における負極活物質を85質量部として、バナジウム含有添加剤AとしてVを10質量部に添加した以外は全て実施例1と同一条件にして電池を作製し評価を行った。容量維持率は78%であった。また、放電レート特性試験による結果において、サイクル後のレート放電容量維持率が、実施例1における測定結果と比較して若干上昇した。特に、7C放電におけるサイクル後の(レート放電容量保持率2)(7C)は、83%であった。
【0063】
(比較例1)
負極合材層用材料における負極活物質を95質量部として、バナジウム含有添加剤を添加していない点以外は全て実施例1と同一条件にして電池を作製し評価を行った。容量維持率は55%であった。また、放電レート特性試験による結果において、サイクル後のレート放電容量維持率は、実施例1における測定結果と比較して大幅に低下した。特に、7C放電におけるサイクル後の(レート放電容量保持率2)(7C)は、76%であった。
【0064】
(比較例2)
負極合材層用材料における負極活物質を94.8質量部として、バナジウム含有添加剤AとしてVを0.2質量部に添加した以外は全て実施例1と同一条件にして電池を作製し評価を行った。容量維持率は54%であった。また、放電レート特性試験による結果は、比較例1と略同様の結果を示した。
【0065】
表1において、各実施例1〜5及び比較例1、2の各種電極材料等の条件、容量維持率、及び7C放電におけるサイクル後の(レート放電容量保持率2)(7C)の測定結果を示す。
【0066】
【表1】

【0067】
表1を参照すると、負極活物質層に何れのバナジウム含有添加物A〜Dも添加していない比較例1のリチウムイオン二次電池の場合、1000サイクル後の容量維持率は、55%と比較的低い数値を示していた。これは、上述のように正極に生じるバナジウムの溶出の影響により、負極に局所的な電位差が生じていることによるものであると考えられる。
一方で、実施例1から実施例4では、1000サイクル後の容量維持率が70%以上を示している。この数値は上記比較例1のリチウムイオン二次電池と比較して極めて高い。実施例1〜4にかかるリチウムイオン二次電池と比較例1にかかるリチウムイオン二次電池との差は、負極活物質層にバナジウム含有添加剤A〜Dの何れかが添加されているどうかという点のみであり、従って、負極活物質層にバナジウム含有添加剤A〜Dの何れかを添加することが、高いサイクル維持率の実現に寄与しているものと考えられる。
【0068】
一方、比較例2では、負極活物質層に添加剤Aを、負極活物質層100質量部に対して0.2質量部添加している。しかし、この比較例2のリチウムイオン二次電池における1000サイクル後の容量維持率は、54%と低い数値を示している。このように低いサイクル維持率をとる理由としては、バナジウム含有添加剤Aの添加量が少なすぎることにより、バナジウム化合物が負極活物質層の全域に分散せず、むしろバナジウム化合物が負極活物質層内において局所的に存在する部分が生成され、結局、負極活物質層において電位差が局所的に生じやすくなる恐れがあるからであると考えられる。従って、バナジウム含有添加剤Aは、バナジウム化合物が負極活物資層のほぼ全域に分散する程度の量が最低限添加される必要がある。
【0069】
そして、本実施例5においては、負極活物質層にバナジウム含有添加剤Aを、負極活物質層100質量部に対して0.5質量部添加している。この実施例5のリチウムイオン二次電池は、1000サイクル後の容量維持率として62%を示している。このように、実施例5のリチウムイオン二次電池は、少なくともバナジウム含有添加剤を添加していない比較例1のリチウムイオン二次電池の容量維持率を大きく上回っているので、バナジウム化合物が負極活物質層全域に分散することによる局所的な電位差の生成が防止される効果を得ていることが理解され、また、その容量維持率も実用に足る値であることがわかる。従って、各実施例にかかる正極及び負極の材料を用いた場合にあっては、上記バナジウム含有添加剤の添加量は、負極活物質層に対して0.5質量%以上とされることが好ましいことが理解される。
【0070】
更には、実施例6において、負極活物質層にバナジウム含有添加剤Aを、負極活物質層100質量部に対して10質量部添加しており、この実施例5のリチウムイオン二次電池は、1000サイクル後の容量維持率として78%を示している。この容量維持率の数値自体は、各実施例の数値の中で最も高い値ではある。しかし一方で、バナジウム含有添加剤Aの添加量自体は、例えば実施例1におけるバナジウム含有添加剤Aの添加量の10倍であるものの、容量維持率の差は数%にとどまっている。これにより、バナジウム含有添加剤Aの添加量をこれ以上増加させたとしても、容量維持率の劇的な増加が見込まれるものではないと予想される。また、一方で、バナジウム含有添加剤Aの添加量を10倍以上とすることにより、負極活物質層全体の電位が上昇して正極との電位差が少なくなり、電池容量の低下に繋がることも考えられる。従って、各実施例にかかる正極及び負極の材料を用いた場合にあっては、上記バナジウム含有添加剤の添加量は、負極活物質層に対して10質量%以下とされることが好ましいことが理解される。
【0071】
次に、実施例1〜4、6と比較例1及び2における放電レート特性試験の結果を表2〜表5に示す。
【0072】

【0073】

【0074】

【0075】

【0076】
先ず、表2に示されている数値を参照すれば理解されるように、サイクル前のレート放電容量(すなわち、放電容量1(αC))は、各比較例と各実施例との間でそれほど大きな差はみられなかった。放電レートが5.0Cを越えたあたりにおける放電容量1(5C)、放電容量1(6C)、及び放電容量1(7C)の間の変化は、各実施例及び比較例ともに類似している。これは、表4に示したサイクル前のレート放電容量保持率1(αC)を参照して、この値が各実施例及び比較例の間で大きな差が無い点から明確に理解される。
【0077】
一方で、表3に示されている数値を参照すれば理解されるように、1000サイクル後のレート放電容量(すなわち、放電容量2(αC))は、各比較例と各実施例との間で差がみられる。特に、放電レートが5.0Cを越えた場合の放電容量1(5C)、放電容量1(6C)、及び放電容量1(7C)の間の減少は、各実施例と比較して比較例の方が明確に大きくなっている。更に、表5に示したサイクル後のレート放電容量保持率2(αC)を参照すると、この値は各実施例における減少の度合いと比較して比較例における減少の度合いの方がより大きいことが明確に理解される。
【0078】
図3及び図4には、上述の各放電レート(C)と、サイクル前のレート放電容量及びサイクル後のレート放電容量の関係を示している。図を参照すれば、明確に読み取れるが、サイクル前のレート放電容量は、各実施例及び比較例の間で大きな差が無く近似した曲線を描くのに対して、サイクル後のレート放電容量は、各実施例及び比較例の間で差があり、特に、放電レートが5C以上の領域において大きな差が生じていることがわかる。
【0079】
従って、サイクル後の放電容量保持率においても、負極活物質層にバナジウム系化合物を分散させることでより良好な結果が得られることがわかった。特に、このことは、バナジウム系化合物の負極活物質層への添加量の比較的少ない実施例5が、そのサイクル後のレート放電容量保持率2(7C)において78%という比較的低い値を示している(表1参照)。一方で、バナジウム系化合物の負極活物質層への添加量の比較的多い実施例6が、そのサイクル後のレート放電容量保持率2(7C)において83.0%という比較的高い値を示している点からも明らかである。
【0080】
また、本実施例及び比較例では、1000サイクル後のレート放電容量保持率2において、各実施例は各比較例に対して良好な結果が得られていることを示したが、サイクル前のレート放電容量保持率1の値については、実施例と比較例の間で大きさ差はみられなかったことを合わせて考えると、サイクル数が増えれば増えるほど実施例と比較例との間でレート放電容量保持率の差が大きくなるものと推測される。従って、1000以上の充放電サイクルの後のレート放電容量保持率においては、各実施例の電池は各比較例の電池よりも極めて優れているものと考えられる。
【0081】
なお、本発明は上記の実施の形態の構成及び実施例に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々変形が可能である。例えば、本実施の形態では、負極活物質層に添加するバナジウム系化合物として、V、V、LiVPO、及びLi(POを挙げているが、これに限られるものではなく、例えば、Li等を基本組成とするバナジウム酸化物、或いは負極活物質層に分散可能な性質を有するものであれば他の種々のバナジウム系化合物を用いても良い。また、複数種類のバナジウム系化合物を添加するようにしても良い。
【0082】
また、正極活物質の主成分も上述したLi32(PO43に限られず、LiPO等の他のバナジウムリン酸塩化合物やV、V、及びLi等を基本組成とするバナジウム酸化物を用いても良い。
【0083】
更に、上記負極活物質層に添加するバナジウム系化合物、及び正極活物質の主成分となるバナジウム系化合物は、そのバナジウム組成の一部が他の遷移金属等に置換された構造、例えばLi(Mは金属等)のような構造をとるものであっても良い。
【0084】
また、本実施例等においては、バナジウム系化合物が、負極活物質層に対して0.5〜10質量%の添加量であることが好ましいと記載したが、これは、負極活物質層のほぼ全域にバナジウム化合物を分散させるという作用を得るために定められた数値範囲であり、従って、正極活物質や負極活物質の材料の種類やその配合比が変更されるなどの理由で、上記作用を得るための好ましい添加量の条件が異なる場合にはそれに応じて添加量を変更することが可能である。
【符号の説明】
【0085】
20、30 リチウムイオン二次電池
21、31 正極
21a、31a 正極合材層
21b、31b 正極集電体
22、32 負極
22a、32a 負極合材層
22b、32b 負極集電体
23、33 セパレータ
34 電極ユニット
36、37 リード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バナジウム系化合物を主成分とする正極活物質を含む正極活物質層を有する正極と、
リチウムイオンを可逆的に脱挿入可能な負極活物質を含む負極活物質層を有する負極と、を備え、
前記負極活物質層に、バナジウム系化合物を分散させたことを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記負極活物質層に分散させるバナジウム系化合物は、バナジウム酸化物及び/又はバナジウムリン酸塩化合物であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記バナジウム酸化物が、V、V、Liから選択されることを特徴とする請求項2に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記バナジウムリン酸塩化合物が、LiVPO、Li(POから選択されることを特徴とする請求項2に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
前記バナジウム系化合物が、
前記負極活物質層に対して0.5〜10質量%の添加量で行われる請求項1〜4の何れか1項に記載のリチウムイオン二次電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−73705(P2013−73705A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210216(P2011−210216)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】