説明

リチウムイオン二次電池

【課題】電極におけるLiの析出がより確実に防止されるリチウムイオン二次電池を提供すること。
【解決手段】リチウムコバルト複合酸化物等を主成分とする正極活物質を正極合材及び/又は炭素系材料の活物質を含む負極合材内に、LiVO、LiTiO、LiTi12、LiTiO、LiNbO、及び/又はLiTaO等のリチウムイオンを伝導する固体電解質を分散させる。これにより、電極におけるLiの析出が防止され、高いサイクル特性を備えたリチウムイオン二次電池が得られる。特に、低温におけるサイクル特性が極めて良好である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池特性、特にサイクル特性の向上を図ったリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、近年、電気機器等の電源として使用されており、さらに、電気自動車(EV、HEV等)の電源としても使用されつつある。このようなリチウムイオン二次電池は、更なる特性向上、例えばエネルギー密度の向上(高容量化)、出力密度の向上(高出力化)やサイクル特性の向上(サイクル寿命の向上)、高い安全性等が望まれている。
【0003】
例えば、特許文献1には、リチウム複合酸化物からなる正極と黒鉛質負極からなるリチウムイオン二次電池において、非水電解液を溶媒として、環状カーボネートおよび鎖状カーボネートの混合溶媒に第3級カルボン酸エステルを0.5〜35質量%含有させたものを用い、電解質塩としてフッ素原子を有するリチウム塩を使用したものが知られている。
【0004】
しかし、リチウムイオン二次電池においては、放電時及び充電時においてその高い作動電圧のために溶媒(電解液)が分解し電極にLiが析出して、容量低下や安全上の懸念が生じることが知られている。そこで、このようなLiの析出を抑制して長寿命化や安全性の向上を図る技術について研究がなされている。
【0005】
特許文献2には、電極集電体、該電極集電体に形成された正極活物質層(リチウムマンガン系正極活物質を含む)を備え、ホスフェート系化合物を含む保護膜が正極活物質層に設けられた正極と、負極と、リチウム塩、非水溶媒、及び充放電の際に負極に固体電解質界面膜を形成する添加剤を含む電解質と、を含むリチウムイオン二次電池が開示されている。特許文献2に記載のリチウムイオン二次電池によれば、正極及び負極上で電解液が分離しても、正極の保護膜や負極固体電解質界面膜によりLiが電極に析出してしまうことを防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−9230号公報
【特許文献2】特開2011−103290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献2に記載のリチウムイオン二次電池においては、電極表面部分における電解液の電気分解によるLiの表面析出は防止されるものの、電極内部におけるLi濃度分布のばらつきを原因とするLi析出を防止することは困難である。すなわち、例えば、リチウム複合酸化物を主成分とする正極活物質はリチウムイオンの伝導率が低いことが知られており、電極内に存在するリチウムイオンは分散しづらく、その濃度分布に偏りが生じやすい。従って、この電極内部のリチウムイオン濃度分布の偏りにより、電極の特定箇所に生じるLi析出は、電極に保護膜を設けることでは防ぐことが難しい。
【0008】
本発明の目的は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、電極におけるLiの析出がより確実に防止されるリチウムイオン二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明のリチウムイオン二次電池は、正極合材及び/又は負極合材内にリチウムイオンを伝導する固体電解質が分散されたことを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、正極合材及び/又は負極合材におけるLiの析出が防止される。このようにLiの析出が防止される理由については、完全には解明できていないが、本発明者らは以下のように考察している。ただし、この考察から導かれる作用は本願発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0011】
正極合材及び/又は負極合材内に分散された固体電解質は、Liイオンを伝導することから、電極内においてLiイオンが拡散し特定の箇所に偏在することが防止される。従って、このようなLiイオンの偏在に起因する特定箇所におけるLiイオンの析出が防止されるものと考えられる。なお、固体電解質は、例えば、正極合材及び/又は負極合材の原料に添加されてともに混合されることで、該正極及び/又は負極内に分散される。
【0012】
本発明において、固体電解質は酸化物系Liイオン伝導性固体電解質であることが好ましい。特にLiVO、LiTiO、LiTi12、LiTiO、LiNbO、及び/又はLiTaOを主成分とすることが好適である。これら固体電解質は、リチウムイオンの導電性が高いことが知られている。
【0013】
更に、固体電解質を正極合材に分散させる場合、該正極合材への添加量は、正極全体に対して0.5質量%より大きく15質量%以下、特に、2質量%〜10質量%であることが好適である。一方、固体電解質を負極合材に分散させる場合、該負極合材への添加量は、負極全体に対して0.05質量%より大きく15質量%以下、特に、1質量%〜5質量
%であることが好適である。
【0014】
固体電解質の正極への添加量が0.5質量%以下、又は固体電解質の負極への添加量が0.05質量%以下であると、上記Liイオンの拡散効果が十分ではなく、結果としてサイクル特性の改善の幅が小さい。一方、固体電解質の正極又は負極への添加量が15質量%を超えると、Liイオンの拡散効果は向上するものの、該固体電解質の絶縁性によって電極内における電子伝導性が低下し、電池特性に悪影響を与えることが考えられる。
【0015】
更に、正極合材の活物質が、例えばリチウムコバルト複合酸化物、すなわちLiCoM1M21−x−y(M1、M2がCo以外の元素番号11以上の金属元素であって、例えば、Fe、Ni、Mn、Cu、Zn、Al、Sn、B、Ga、Cr、V、Ti、Mg、Ca、Sr、Zrからなる群より選ばれる一種以上の元素で、0<x≦1、0≦y≦1)で表される成分を主成分とすることが好ましい。特に好ましい正極活物質の化学量論組成は、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3である。また、正極合材の活物質は、リン酸バナジウムリチウムを主成分としても良い。負極合材の活物質は、炭素材料、特にグラファイトにより構成されることが好ましい。
【0016】
また、固体電解質の正極合材及び/又は負極合材には、それらの原料混合時において上記固体電解質の粉末をともに混合し該固体電解質を電極内で略一様に分散させることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、電極におけるLiの析出が防止され、高いサイクル特性を備えたリチウムイオン二次電池が得られる。特に、低温におけるサイクル特性が極めて良好である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のリチウムイオン二次電池の実施形態の一例を説明する図である。
【図2】本発明のリチウムイオン二次電池の実施形態の一例を説明する図である。
【図3】LiCoNiMnOを活物質として含む正極への固体電解質の添加量とリチウムイオン二次電池の容量維持率の関係を示している。
【図4】負極への固体電解質の添加量とリチウムイオン二次電池の容量維持率の関係を示している。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、本実施の形態にかかるリチウムイオン二次電池においては、本発明にかかる作用効果を阻害しない限り、本発明の本質部分以外を種々の公知技術を適宜適用して実施することが可能である。
【0020】
本実施の形態にかかるリチウムイオン二次電池は、リチウムコバルト複合酸化物、すなわちLiCoM1M21−x−y(M1、M2がCo以外の元素番号11以上の金属元素であって、例えば、Fe、Ni、Mn、Cu、Zn、Al、Sn、B、Ga、Cr、V、Ti、Mg、Ca、Sr、Zrからなる群より選ばれる一種以上の元素で、0<x≦1、0≦y≦1)で表される成分、特にLiCoxNiyMn1-x−y(ただし、x、y、zは、x+y+z=1を満たす0から1の数)を主成分とする正極活物質を含む正極合材層を備えた正極と、リチウムイオンを可逆的に脱挿入可能な炭素材料の負極活物質を含む負極活物質層を有する負極と、を備える。また正極活物質はリチウムコバルト複合酸化物と他の活物質との混合物であってもよい。他の活物質としては、遷移金属酸化物の他、オリビン型のリチウムリン酸化合物やナシコン型のリチウムリン酸化合物等を用いることができる。特にナシコン型のリン酸バナジウムリチウムが好ましく、具体的にはLi(POが好ましい。なお、上述の説明ではリチウムコバルト複合酸化物を主成分とする旨説明したが、これに限定されず、他の活物質が主成分であってもよい。
【0021】
特に、本実施の形態では、正極活物質及び/又は負極活物質において、LiVO、LiTiO、LiTi12、LiTiO、LiNbO、及び/又はLiTaOを主成分とする固体電解質が分散されている。
【0022】
以下、本実施の形態にかかるリチウムイオン二次電池を構成する正極や負極等の詳細な構成を説明する。
【0023】
[正極]
本実施の形態にかかる正極は、上述のように、固体電解質が分散されてなる正極活物質、及び導電助剤や結着剤等の他の成分も含んでいる。例えば、LiCoxNiyMn1-x−yは、公知の方法で製造することが可能である。その一例を挙げる。先ず、ニッケルコバルトマンガン塩水溶液と、アルカリ金属水酸化物水溶液と、アンモニウムイオン源と、をそれぞれ連続的または断続的に供給して反応させる。そして、この反応によりニッケルコバルトマンガン複合水酸化物が折出して得られる一次粒子が凝集して二次粒子を形成したニッケルコバルトマンガン複合水酸化物凝集粒子を合成する。その後、上記複合水酸化物に酸化剤を作用せしめて得られるニッケルコバルトマンガン複合オキシ水酸化物凝集粒子をリチウム塩と混合し焼成することにより、リチウムコバルトニッケルマンガン複合酸化物(LiCoxNiyMn1-x−y)を合成することができる。
【0024】
LiCoxNiyMn1-x−y粒子の粒度には特に制限は無く、所望の粒度のものを使用することができる。粒度はLiCoxNiyMn1-x−yの安定性や密度に影響するため、LiCoxNiyMn1-x−yの2次粒子の粒度分布におけるD50が0.5〜25μm程度であることが好ましい。
【0025】
また、例えば、Li32(PO43は、どのような方法で製造されても良く、特に制限されない。例えば、LiOH、LiOH・H2O等のリチウム源、V25、V23等のバナジウム源、及びNH42PO4、(NH42HPO4等のリン酸源等を混合し、反応、焼成する等により製造できる。Li32(PO43は、通常、焼成物を粉砕等した粒子状の形態で得られる。
【0026】
また、Li32(PO43は、それ自体では電子伝導性が低いため、その表面に導電性カーボン被膜加工を行う必要がある。これによりLi32(PO43の電子伝導性を向上することができる。導電性カーボンの被膜量はC原子換算で0.1〜20質量%であることが好ましい。
【0027】
導電性カーボン被膜加工は、公知の方法で行うことができる。例えば、カーボン被膜材料として、クエン酸、アスコルビン酸、ポリエチレングリコール、ショ糖、メタノール、プロペン、カーボンブラック、ケッチェンブラック等を用い、上述のLi3V2(PO4)3製造の反応時や焼成時に混合すること等によって表面に導電性カーボン被膜を形成させることができる。
【0028】
Li32(PO43粒子の粒度には特に制限は無く、所望の粒度のものを使用することができる。粒度はLi32(PO43の安定性や密度に影響するため、Li32(PO43の2次粒子の粒度分布におけるD50 が0.5〜25μmであることが好ましい。上記D50 が0.5μm未満の場合は、電解液との接触面積が増加することからLi32(PO43の安定性が低下する場合があり、25μmを超える場合は密度低下のため出力が低下する場合がある。上記の範囲であれば、より安定性が高く高出力のリチウムイオン二次電池とすることができる。Li32(PO43の2次粒子の粒度分布におけるD50は1〜10μmであることが更に好ましく、3〜5μmであることが特に好ましい。なお、この2次粒子の粒度分布におけるD50は、レーザー回折(光散乱法)方式による粒度分布測定装置を用いて測定した値とする。
【0029】
得られた正極活物質に対して固体電解質、結着剤、及び導電助剤を含む混合物を溶媒に分散させた正極スラリーを、正極集電体上に塗布、乾燥を含む工程により正極合材層を形成する。乾燥工程後にプレス加圧等を行っても良い。これにより正極合材層が均一且つ強固に集電体に圧着される。
【0030】
特に、上記固体電解質は、LiVO、LiTiO、LiTi12、LiTiO、LiNbO、及び/又はLiTaO等を主成分とする粉末の形態で添加・分散することができる。この粉末の添加は、固体電解質の含有率が製造された正極全体に対して0.5質量%より大きく15質量%以下、特に、2質量%〜10質量%となるように行われることが好ましい。
【0031】
なお、製造された正極合材層の厚みは10〜200μm、好ましくは20〜100μm程度である。
【0032】
正極合材層の形成に用いる結着剤としては、例えばポリフッ化ビニリデン等の含フッ素系樹脂、アクリル系バインダ、SBR等のゴム系バインダ、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、カルボキシメチルセルロース等が使用できる。結着剤は、本実施の形態にかかるリチウムイオン二次電池に用いられる非水電解液に対して化学的、電気化学的に安定な含フッ素系樹脂、熱可塑性樹脂が好ましく、特に含フッ素系樹脂が好ましい。
【0033】
含フッ素系樹脂としてはポリフッ化ビニリデンの他、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン−3フッ化エチレン共重合体、エチレン−4フッ化エチレン共重合体及びプロピレン−4フッ化エチレン共重合体等が挙げられる。結着剤の配合量は、例えば上記正極活物質に対して0.5〜20質量%である。
【0034】
正極合材層の形成に用いる導電助剤としては、例えばケッチェンブラック等の導電性カーボン、銅、鉄、銀、ニッケル、パラジウム、金、白金、インジウム及びタングステン等の金属、酸化インジウム及び酸化スズ等の導電性金属酸化物等が使用できる。導電材の配合量は、例えば上記正極活物質に対して1〜30質量%である。
【0035】
正極合材層の形成に用いる溶媒としては、水、イソプロピルアルコール、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド等が使用できる。使用される溶媒の量は、例えば正極活物質層に対して40〜60質量%である。
【0036】
正極集電体は正極合材層と接する面が導電性を示す導電性基体であれば良く、例えば、金属、導電性金属酸化物、導電性カーボン等の導電性材料で形成された導電性基体や、非導電性の基体本体を上記の導電性材料で被覆したものが使用できる。導電性材料としては、銅、金、アルミニウムもしくはそれらの合金又は導電性カーボンが好ましい。正極集電体は、上記材料のエキスパンドメタル、パンチングメタル、箔、網、発泡体等を用いることができる。多孔質体の場合の貫通孔の形状や個数等は特に制限はなく、リチウムイオンの移動を阻害しない範囲で適宜設定できる。
【0037】
また、正極合材層の目付けは5〜20mg/cmに構成されている。なお、ここでいう目付けとは正極集電体の一方の面側の正極合材層の目付けを意味する。正極合材層を正極集電体の両面に形成する場合には、一方の面および他方の面の正極合材層がそれぞれ上記範囲に含まれるよう形成される。
【0038】
また、正極合材層の空孔率は35%〜65%とされることで、優れたサイクル特性を得ることができる。正極合材層の空孔率が35%未満ではサイクル劣化が生じる。正極合材層の空孔率が65%を超えても、優れたサイクル特性は維持できるが、容量や出力が低下する恐れがあるため好ましくない。正極合材層の空孔率は40%〜60%であることがさらに好ましい。
【0039】
[負極]
本実施の形態において負極の製造においては、負極活物質及び結着剤に加えてバナジウム化合物含有添加剤を添加して混合物を得る。そして、この混合物を溶媒に分散させて負極スラリーを得て、この負極スラリーを負極集電体上に塗布、乾燥等することにより負極合材層を形成する。なお、結着剤、溶媒及び集電体は上述の正極の場合と同様なものが使用できる。
【0040】
負極活物質としては、例えば、リチウム系金属材料、金属とリチウム金属との金属間化合物材料、リチウム化合物、又はリチウムインターカレーション炭素材料が挙げられるが、リチウムイオンを可逆的にドープ可能なリチウムインターカレーション炭素材料が好ましい。
【0041】
リチウムインターカレーション炭素材料としては、例えば、グラファイト、難黒鉛化炭素材料等の炭素系材料、ポリアセン物質等が挙げられる。ポリアセン系物質は、例えばポリアセン系骨格を有する不溶且つ不融性のPAS等である。
【0042】
本実施の形態では特に、LiVO、LiTiO、LiTi12、LiTiO、LiNbO、及び/又はLiTaOを主成分とする固体電解質の粉末が炭素材料で構成される負極活物質内に分散するように添加することができる。この粉末の添加は、固体電解質の含有率が製造された負極全体に対して0.05質量%より多く15質量%以下、特に、0.1質量%〜5質量%となるように行われることが好ましい。
【0043】
なお、負極合材層の厚みは一般に10〜200μm、好ましくは20〜100μmである。負極合材層の目付けは、正極合材層の目付けに合わせて適宜設計される。通常、リチウムイオン二次電池では、正負極の容量バランスやエネルギー密度の観点から正極と負極の容量(mAh)がおおよそ同じになるように設計される。よって、負極合材層の目付けは、負極活物質の種類や正極の容量等に基づいて設定される。
【0044】
[非水電解液]
本発明における非水電解液は、特に制限はなく、公知の材料を使用できる。例えば、高電圧でも電気分解を起こさないという点、リチウムイオンが安定に存在できるという点から、一般的なリチウム塩を電解質とし、これを有機溶媒に溶解した電解液を使用できる。
【0045】
電解質としては、例えば、CFSOLi、CSOLi、(CFSONLi、(CFSOCLi、LiBF、LiPF、LiClO等又はこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0046】
有機溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ビニルカーボネート、トリフルオロメチルプロピレンカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、γ−ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4-メチル−1,3−ジオキソラン、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、プロピオトリル等又はこれらの2種以上の混合溶媒が挙げられる。非水電解液中の電解質濃度は0.1〜5.0mol/Lであり、好ましくは0.5〜3.0mol/Lである。非水電解液は液状でも良く、可塑剤やポリマー等を混合し、固体電解質又はポリマーゲル電解質としたものでも良い。
【0047】
[セパレータ]
本発明で使用するセパレータは、特に制限はなく、公知のセパレータを使用できる。例えば、電解液、正極活物質、負極活物質に対して耐久性があり、連通気孔を有する電子伝導性の無い多孔質体等を好ましく使用できる。このような多孔質体として例えば、織布、不織布、合成樹脂性微多孔膜、ガラス繊維などが挙げられる。合成樹脂性の微多孔膜が好ましく用いられ、特にポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン製微多孔膜が、厚さ、膜強度、膜抵抗の面で好ましい。
【0048】
[リチウムイオン二次電池]
本実施の形態にかかるリチウムイオン二次電池としては、上述の正極活物質を含む正極、負極活物質を含む負極、セパレータ、及び非水電解液を備えている。
【0049】
以下に本発明の実施形態の一例として、リチウムイオン二次電池の例を、図面を参照しながら説明する。
【0050】
図1は、本発明に係るリチウムイオン二次電池の実施形態の一例を示す概略断面図である。図示のように、リチウムイオン二次電池20は、正極21と、負極22とがセパレータ23を介して対向配置されて構成されている。
【0051】
正極21は、本発明の正極活物質を含む正極合材層21aと、正極集電体21bとから構成されている。正極合材層21aは、正極集電体21bのセパレータ23側の面に形成されている。負極22は、負極合材層22aと、負極集電体22bとから構成されている。負極合材層22aは、負極集電体22bのセパレータ23側の面に形成されている。これら正極21、負極22、セパレータ23は、図示しない外装容器に封入されており、外装容器内には非水電解液が充填されている。外装材としては例えば電池缶やラミネートフィルム等が挙げられる。また、正極集電体21bと負極集電体22bとには、必要に応じて、それぞれ外部端子接続用の図示しないリードが接続されている。
【0052】
次に、図2は、本発明に係るリチウムイオン二次電池の実施形態の別の一例を示す概略断面図である。図示のように、リチウムイオン二次電池30は、正極31と負極32とが、セパレータ33を介して交互に複数積層された電極ユニット34を備えている。正極31は、正極合材層31aが、正極集電体31bの両面に設けられて構成されている。負極32は、負極合材層32aが負極集電体32bの両面に設けられて構成されている(ただし、最上部および最下部の負極32については、負極合材層32aは片面のみ)。
【0053】
また、正極集電体31bは図示しないが突出部分を有しており、複数の正極集電体31bの各突出部分はそれぞれ重ね合わされ、その重ね合わされた部分にリード36が溶接されている。負極集電体32bも同様に突出部分を有しており、複数の負極集電体32bの各突出部分が重ね合わされた部分にリード37が溶接されている。リチウムイオン二次電池30は、図示しないラミネートフィルム等の外装容器内に電極ユニット34と非水電解液が封入されて構成されている。リード36,37は外部機器との接続のため、外装容器の外部に露出される。
【0054】
なお、リチウムイオン二次電池30は、外装容器内に、正極、負極、又は正負極双方にリチウムイオンをプレドープする為のリチウム極を備えていてもよい。その場合には、リチウムイオンが移動し易くするため、正極集電体31bや負極集電体32bに電極ユニット34の積層方向に貫通する貫通孔が設けられる。
【0055】
また、リチウムイオン二次電池30は、最上部および最下部に負極を配置させたが、これに限定されず、最上部および最下部に正極を配置させる構成でもよい。
【実施例】
【0056】
以下、本発明を実施例により説明する。
【0057】
(実施例1)
(1)正極の作製
以下の正極合材層用材料:
活物質(LiCo1/3Ni1/3Mn1/3) ; 88質量部
固体電解質(LiVO); ; 2質量部(添加量Aと表す)
導電助剤(カーボンブラック) ; 5質量部
結着剤(PVdF) ; 5質量部
溶媒(N−メチル2−ピロリドン(NMP)) ;100質量部
を混合し、正極スラリーを得た。正極スラリーをアルミニウム箔(厚み30μm)の正極集電体に塗布、乾燥し、正極合材層を正極集電体上に形成した。正極合材層の目付けは(片面当たり)16.5mg/cmであった。10×10mmの未塗工部分をリード接続用のタブとして残しつつ、塗工部分(正極合材層形成部分)を50×50mmに裁断した。また、水銀ポロシメータを用いて測定したところ、正極合材層の空孔率は40%であった。
【0058】
(2)負極の作製
以下の負極合材層用材料:
活物質(グラファイト) ; 95質量部
結着剤(PVdF) ; 5質量部
溶媒(NMP) ; 150質量部
を混合し、負極スラリーを得た。負極スラリーを銅箔(厚み10μm)の負極集電体に塗布、乾燥し、負極合材層を負極集電体上に形成した。負極合材層の目付けは(片面当たり)7mg/cmであった。10×10mmの未塗工部分をリード接続用のタブとして残しつつ、塗工部分(負極合材層形成部分)を52×52mmに裁断した。
【0059】
(3)電池の作製
上述のように作製した正極9枚と、負極10枚とを用いて、図2の実施形態で示したようなリチウムイオン二次電池を作製した。具体的には、正極及び負極をセパレータを介して積層し、積層体の周囲をテープで固定した。各正極集電体のタブを重ねてアルミニウム金属リードを溶接した。同様に各負極集電体のタブを重ねてニッケル金属リードを溶接した。これらをアルミラミネート外装材に封入し、正極リードと負極リードを外装材外側に出して、電解液封入口を残して密閉融着した。電解液封入口より電解液を注液し、真空含浸にて電極内部に電解液を浸透させた後、ラミネートを真空封止した。
【0060】
(4)充放電試験
上述のように作製した電池の正極リードと負極リードとを、充放電試験装置(アスカ電子社製)の対応する端子に接続し、最大電圧4.2V、電流レート2Cで45分に亘って定電流定電圧充電し、充電完了後、電流レート1Cにて2.5Vまで定電流放電させた。
【0061】
これを500サイクル繰り返した。この試験は、室温25℃の環境下で行った初回放電時に測定した容量からエネルギー密度(Wh/kg)を算出し、サイクル後の容量からサイクル容量維持率(500サイクル時放電容量/初回放電容量×100)(以下、25℃サイクル容量維持率Cと記載)を算出した。容量維持率は89.3%であった。また、作成された他の電池に対して−10℃の温度環境下において、同様の方法でサイクル容量維持率(以下、−10℃サイクル容量維持率Cと記載)の試験を行った。−10℃サイクル容量維持率Cは78.1%であった。
【0062】
(実施例2)
正極合材層における正極活物質量を85質量部とし、固体電解質の添加量Aを5質量部とした以外は、全て実施例1と同一条件にして電池を作製し評価を行った。25℃サイクル容量維持率Cは89.6%であった。また、−10℃サイクル容量維持率Cは78.1%であった。
【0063】
(実施例3)
正極合材層における正極活物質量を80質量部とし、固体電解質の添加量Aを10質量部とした以外は、全て実施例1と同一条件にして電池を作製し評価を行った。25℃サイクル容量維持率Cは86.2%であった。また、−10℃サイクル容量維持率Cは77.3%であった。
【0064】
(実施例4)
正極合材層における正極活物質量を75質量部とし、固体電解質の添加量Aを15質量部とした以外は、全て実施例1と同一条件にして電池を作製し評価を行った。25℃サイクル容量維持率Cは85.7%であった。また、−10℃サイクル容量維持率Cは72.1%であった。
【0065】
(実施例5)
正極合材層における正極活物質量を89質量部とし、固体電解質の添加量Aを1質量部とした以外は、全て実施例1と同一条件にして電池を作製し評価を行った。25℃サイクル容量維持率Cは85.3%であった。また、−10℃サイクル容量維持率Cは71.1%であった。
【0066】
(実施例6)
正極合材層における正極活物質量を89.5質量部とし、固体電解質の添加量Aを0.5質量部とした以外は、全て実施例1と同一条件にして電池を作製し評価を行った。25℃サイクル容量維持率Cは84.4%であった。また、−10℃サイクル容量維持率Cは68.1%であった。
【0067】
以下、本実施例7〜12は、実施例1〜6において行った固体電解質への正極への添加に代えて、固体電解質を負極に添加したものである。
【0068】
(実施例7)
(1)正極の作製
以下の正極合材層用材料:
活物質(LiCo1/3Ni1/3Mn1/3) ; 90質量部
導電助剤(カーボンブラック) ; 5質量部
結着剤(PVdF) ; 5質量部
溶媒(N−メチル2−ピロリドン(NMP)) ;100質量部
を混合し、正極スラリーを得た。正極スラリーをアルミニウム箔(厚み30μm)の正極集電体に塗布、乾燥し、正極合材層を正極集電体上に形成した。正極合材層の目付けは(片面当たり)16.5mg/cmであった。10×10mmの未塗工部分をリード接続用のタブとして残しつつ、塗工部分(正極合材層形成部分)を50×50mmに裁断した。また、水銀ポロシメータを用いて測定したところ、正極合材層の空孔率は40%であった。
【0069】
(2)負極の作製
以下の負極合材層用材料:
活物質(グラファイト) ; 94質量部
固体電解質(LiVO) ; 1質量部(添加量Aと表す)
結着剤(PVdF) ; 5質量部
溶媒(NMP) ; 150質量部
を混合し、負極スラリーを得た。負極スラリーを銅箔(厚み10μm)の負極集電体に塗布、乾燥し、負極合材層を負極集電体上に形成した。負極合材層の目付けは(片面当たり)7mg/cmであった。10×10mmの未塗工部分をリード接続用のタブとして残しつつ、塗工部分(負極合材層形成部分)を52×52mmに裁断した。
【0070】
(3)電池の作製
実施例1と同様の方法により電池を作成した。
【0071】
(4)充放電試験
実施例1と同様の方法により試験を行い、25℃サイクル容量維持率C及び−10℃サイクル容量維持率Cを求めた。25℃サイクル容量維持率Cは、88.1%であり、−10℃サイクル容量維持率Cは88.1%であった。
【0072】
(実施例8)
負極合材層における負極活物質量を90質量部とし、固体電解質の添加量Aを5質量部とした以外は、全て実施例6と同一条件にして電池を作製し評価を行った。25℃サイクル容量維持率Cは92.1%であった。また、−10℃サイクル容量維持率Cは83.1%であった。
【0073】
(実施例9)
負極合材層における負極活物質量を85質量部とし、固体電解質の添加量Aを10質量部とした以外は、全て実施例6と同一条件にして電池を作製し評価を行った。25℃サイクル容量維持率Cは92.4%であった。また、−10℃サイクル容量維持率Cは78.3%であった。
【0074】
(実施例10)
負極合材層における負極活物質量を80質量部とし、固体電解質の添加量Aを15質量部とした以外は、全て実施例6と同一条件にして電池を作製し評価を行った。25℃サイクル容量維持率Cは87.3%であった。また、−10℃サイクル容量維持率Cは73.1%であった。
【0075】
(実施例11)
負極合材層における負極活物質量を94.9質量部とし、固体電解質の添加量Aを0.1質量部とした以外は、全て実施例6と同一条件にして電池を作製し評価を行った。25℃サイクル容量維持率Cは86.1%であった。また、−10℃サイクル容量維持率Cは70.1%であった。
【0076】
(実施例12)
負極合材層における負極活物質量を94.95質量部とし、固体電解質の添加量Aを0.05質量部とした以外は、全て実施例6と同一条件にして電池を作製し評価を行った。25℃サイクル容量維持率Cは84.4%であった。また、−10℃サイクル容量維持率Cは68.7%であった。
【0077】
(実施例13)
正極合材層における正極活物質量として、LiCo0.8Ni0.2を60質量部、Li(POを28質量部とし、固体電解質の添加量Aを2質量部とした以外は、全て実施例1と同一条件にして電池を作製し評価を行った。なお、Li(POは、カーボンをC原子換算で1.4質量%被覆したものを用いた。25℃サイクル容量維持率Cは91.2%であった。また、−10℃サイクル容量維持率Cは78.8%であった。
【0078】
(比較例1)
正極合材層における正極活物質量を90質量部とし、固体電解質を添加しない点以外は、実施例1と同様の工程を行って電池を作製し評価を行った。25℃サイクル容量維持率Cは84.2%であった。また、−10℃サイクル容量維持率Cは68.1%であった。
【0079】
(比較例2)
正極合材層における正極活物質量として、LiCo0.8Ni0.2を60質量部、Li(POを30質量部とし、固体電解質を添加しない点以外は、実施例1と同様の工程を行って電池を作製し評価を行った。25℃サイクル容量維持率Cは86.3%であった。また、−10℃サイクル容量維持率Cは71.5%であった。
【0080】
表1において、LiCoNiMnOを活物質として含む実施例1〜6(正極合材に固体電解質を添加した実施例)と比較例1の対比結果を示している。
【0081】
【表1】

【0082】
表1によれば、電極に固体電解質を添加しない場合(比較例1)には、サイクル後の容量維持率が固体電解質を添加したものと比べ低く、特に‐10℃サイクル容量維持率Cはかなり低い値を示している。
【0083】
そして、固体電解質の正極への添加量Aを0.5質量部のみ添加した場合(実施例6)、すなわち、微量の添加であっても比較例1と比べれば25℃サイクル容量維持率Cが若干高い値を示している。これにより、固体電解質の正極への添加が、サイクル特性の向上に寄与していることは明確である。なお、この微量の添加では、10℃サイクル容量維持率Cの値の変化はみられず、低温時におけるサイクル特性の改善の傾向はみられない。
【0084】
一方、添加量Aが1質量部以上である実施例1〜5の場合においては、25℃サイクル容量維持率C及び‐10℃サイクル容量維持率Cは、ともに、電極に固体電解質を添加していない比較例1の場合に比べて大きく増加している。特に‐10℃サイクル容量維持率Cに関しては、比較例1と比較して、最低でも3%程度高い値を示している。すなわち、サイクル特性(特に低温時のサイクル特性)が大きく改善したことがわかった。
【0085】
図3には、LiCoNiMnOを活物質として含む正極への固体電解質の添加量Aとリチウムイオン二次電池の容量維持率C及びCの関係を、25℃の環境下におけるサイクル後と−10℃の環境下におけるサイクル後に分けて示している。図を参照すれば明らかなように、容量維持率C及び容量維持率Cはともに、正極への固体電解質の添加量Aが5質量部以下の領域においては、該添加量Aの増加に伴い増加している。そして、正極への固体電解質の添加量Aが5質量部より大きい領域においては、容量維持率C及び容量維持率Cは該添加量Aの増加に伴いゆるやかに減少する傾向にある。
【0086】
特に、添加量Aが0質量部から0.5質量部の間の領域においては、25℃サイクルの容量維持率Cは若干増加しているものの、‐10℃サイクルの容量維持率Cの値の変動はほとんど見られない。
【0087】
以上の事実を勘案すると、固体電解質の正極への添加量Aを、0.5質量部より大きくすることが、特に低温時のサイクル特性を向上させる上で好ましいことがわかった。一方、固体電解質の正極への添加量Aが、5質量部より大きいとした場合には、容量維持率C及び容量維持率Cはゆるやかな減少傾向にある。特に、添加量Aが10質量部より大きい場合には、‐10℃サイクルの容量維持率Cの値の減少度が大きくなっている。
【0088】
本発明者らは、この理由を以下のように推測する。すなわち、上記固体電解質LiVOは、高いLiイオンの導電性を示すが、一方で電子伝導性は極めて低い、すなわち絶縁体であることが知られている。従って、Liイオンを正極内で拡散させてLi析出を防止するという観点からは、この固体電解質の正極への添加量を多量とするほど効果を得られるが、反面、この多量添加により正極の導電性が低くなって電池特性が阻害され、逆に容量維持率が低下した可能性があると考えられる。
【0089】
そして、添加量Aが15質量部の場合(実施例4)には、容量維持率Cは添加量Aが10質量部の場合(実施例3)と比較して5%以上低くなっている。そして、上述のように固体電解質の添加量が増加することで電極の電子伝導性が低下することを考慮すると、添加量Aが15質量部より大きくなることで、より顕著な容量維持率Cの低下が予想されることから、添加量Aは15質量部以下であることが好ましい。従って、添加量Aは、0.5質量部より大きく15質量部以下とすることが好ましい。特に、表1及び図3を参照すれば、添加量Aが、2質量部以上10質量部以下の場合において、極めて好ましいサイクル特性を示すことが明確に理解される。
【0090】
また、表2において、正極活物質としてLiCo0.8Ni0.2Alを含む正極を用いた実施例13と比較例2の対比結果を示す。
【0091】
【表2】

【0092】
表2によれば固体電解質を正極添加した実施例13は固体電解質を添加していない比較例2と比べて、25℃サイクルの容量維持率Cと‐10℃サイクルの容量維持率Cが大きく向上していることがわかった。
【0093】
次に、表3において、実施例7〜12(負極合材に固体電解質を添加した実施例)と比較例1の対比結果を示している。
【0094】

【表3】

【0095】
また、図4には、負極への固体電解質の添加量Aとリチウムイオン二次電池の容量維持率C及びCの関係を、25℃サイクル容量維持率Cと−10℃サイクル容量維持率Cに分けて示している。
【0096】
なお、当図においては、添加量Aが0質量部、0.05質量部、及び1質量部と推移する間のサイクル特性の変化が明瞭となるように、添加量Aが0質量部〜1質量部となる領域においては他の領域(1質量部以上の領域)に対してグラフのスケールを変更している。
【0097】
表3及び図4によれば、固体電解質の負極への添加量Aを0.05質量部添加した場合(実施例12)、すなわち、極めて微量の添加であっても固体電解質を添加しない場合(比較例1)と比べれば、25℃サイクル容量維持率Cが若干向上するとともに、‐10℃サイクル容量維持率Cの値も向上している。従って、固体電解質の負極への添加が、サイクル特性の向上に寄与していることは明確である。
【0098】
そして、添加量Aが0.1質量部(実施例11)〜1質量部(実施例7)の領域においては、添加量Aを増加させることによる25℃サイクル容量維持率C及び‐10℃サイクル容量維持率Cの向上が顕著であることが理解される。特に‐10℃サイクル容量維持率Cの増加が極めて顕著である。
【0099】
また、添加量Aが1質量部(実施例7)〜5質量部(実施例8)の領域においても、添加量Aを増加させることによる25℃サイクル容量維持率C及び‐10℃サイクル容量維持率Cの向上の傾向がみられる。
【0100】
一方で、添加量Aを5質量部以上とすると、25℃サイクル容量維持率Cはまだゆるやかに増加の傾向を示すものの、‐10℃サイクル容量維持率C添加量を増やすごとに減少している。
【0101】
そして、添加量Aが15質量部の場合(実施例10)には、25℃サイクル容量維持率C及び‐10℃サイクル容量維持率Cは共に、固体電解質を添加しない場合に比べれば良好であるものの、添加量Aが10質量部の場合(実施例9)と比較して5%以上低くなっている。
【0102】
また、添加量Aが15質量部以上とすると、上述の固体電解質の添加による電極の電子伝導性低下の効果が大きくなると考えられ、25℃サイクル容量維持率C及び‐10℃サイクル容量維持率Cのより顕著な低下が予想されることから、添加量Aは15質量部以下であることが好ましい。
【0103】
以上により、添加量Aは、0.05質量部より大きく15質量部以下とすることが好ましく、特に、1〜5質量部の場合において、極めて好ましいサイクル特性を示すことが明確に理解される。
【0104】
なお、本発明は上記の実施の形態の構成及び実施例に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々変形が可能である。
【0105】
例えば、本実施の形態では、正極の正極活物質として、リチウムコバルトニッケルマンガン複合酸化物(組成:LiCo1/3Ni1/3Mn1/3)を主成分とするものについて説明したが、これに限られず、他の組成をとるリチウムコバルトニッケルマンガン複合酸化物であっても良いし、より一般的にはリチウムコバルトニッケルマンガン複合酸化物に限られず、他のリチウム複合酸化物を主成分とするものであっても良い。
【0106】
更には、リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能なリチウム含有化合物であって、リン酸塩、窒化物、アルコキシド材料、フェノキシド材料、ポリピロール材料、アントラセン材料、ポリアニリン材料、チオエーテル材料、チオフェン材料、チオール材料、スルフラン材料、プルスルフラン材料、チオラート材料、ジチアゾール材料、ジスルフィド材料、ポリチオフェン材料等の有機化合物、硫化物(有機硫黄、無機硫黄を含む)、金属錯体、導電性高分子、金属等を用いることもできる。
【0107】
また、負極の活物質を構成する材料はグラファイトとしたが、他の難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、ポリアセン系有機半導体等のリチウムインターカレーション炭素材料、シリコンやスズ等の金属材料、シリコン合金やスズ合金等の合金材料、又は酸化シリコン、酸化スズ、及び酸化チタン等の酸化物材料を用いても良い。
【0108】
更に、電極に添加される固体電解質は、上記LiVOに限られず、他のリチウムイオンを伝導する他の固体電解質、特に酸化物固体電解質であって、LiTiO、LiNbO、及び/又はLiTaOを主成分とする固体電解質であっても良い。更には、酸化物固体電解質ではなく、他の高分子固体電解質、無機固体電解質、及び硫化物固体電解質を用いても良い。このように他の種類の固体電解質を用いても、それがリチウムイオンを伝導する性質を備えるものであれば、上記LiVOを用いた場合と同様にサイクル特性の良好化が得られるものと考えられる。
【0109】
また、本実施の形態では、固体電解質は、正極又は負極に分散させたが、正極及び負極の双方に分散させるようにしても良い。上記実施例の結果を考慮すれば、このように正極及び負極の双方に固体電解質を添加することで、より一層サイクル特性の向上が見込まれるものと考えられる。
【0110】
また、本実施例等においては、上記固体電解質の正極合材への添加量Aが、正極合材全体に対して0.5質量%より大きく15質量%以下であり、上記固体電解質の負極合材への分散量が、負極合材全体に対して0.05質量%より大きく0.1質量%〜15質量%以下であることが好ましいと記載したが、これは、低温時のサイクル特性の向上が顕著になっていることを根拠として定めたものであり、特に固体電解質を少量でも正極や負極に添加することで、少なくとも25℃時のサイクル特性が向上するという作用効果が示されていることから、固体電解質を上記数値の下限以下の量添加した場合も本願発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0111】
20、30 リチウムイオン二次電池
21、31 正極
21a、31a 正極合材層
21b、31b 正極集電体
22、32 負極
22a、32a 負極合材層
22b、32b 負極集電体
23、33 セパレータ
34 電極ユニット
36、37 リード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極合材及び/又は負極合材内にリチウムイオンを伝導する固体電解質が分散されたことを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項2】
上記固体電解質が、酸化物系Liイオン伝導性固体電解質である請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
上記酸化物系Liイオン伝導性固体電解質が、
LiVO、LiTiO、LiTi12、LiTiO、LiNbO、及び/又はLiTaOを主成分とする請求項2に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
上記固体電解質の正極合材への分散量が、正極合材全体に対して0.5質量%より大きく15質量%以下である請求項1〜3の何れか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
上記固体電解質の負極合材への分散量が、負極合材全体に対して0.05質量%より大きく15質量%以下である請求項1〜3の何れか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
前記正極合材の活物質が、リチウムコバルト複合酸化物を主成分とする請求項1〜5の何れか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項7】
前記正極合材の活物質が、リン酸バナジウムリチウムを含むことを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項8】
前記負極合材の活物質が、インターカレーション炭素材料により構成される請求項1〜7の何れか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項9】
正極合材及び/又は負極合材内にリチウムイオンを伝導する固体電解質を分散させる工程を含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項10】
前記正極合材及び/又は負極合材への分散が、
該正極合材及び/又は負極合材の原料に前記固体電解質の粉末を混合することにより行われることを特徴とする請求項9に記載のリチウムイオン二次電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−89519(P2013−89519A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230299(P2011−230299)
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【出願人】(000230593)日本化学工業株式会社 (296)
【Fターム(参考)】