説明

リチウムイオン二次電池

【課題】高分子電解質を有し、容量を良好に引き出し得るリチウム二次電池を提供する。
【解決手段】−(R−A−で表されるユニットを含有するカチオン伝導体と、電解質塩と、沸点が150℃以上の非プロトン性有機溶媒を10〜60質量%含有する高分子電解質を用いる。[前記、Rは重合可能な不飽和結合を有する化合物が重合した有機基であり、Aは下記一般式(2)で表される官能基であり、mはAの個数を表し、1以上の整数である。]


[前記一般式(2)中、SはRと結合する有機基部分、TはSと単結合を介して結合する有機基部分、Zはカチオンに対してイオン結合し得る官能基または配位能を有する官能基部分であり、TとZとは一体となって環構造を形成していてもよく、Mk+はk価のカチオンであり、nはZの個数を表し、1以上の整数である。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容量を良好に引き出し得るリチウムイオン二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
非水電解質電池の一種であるリチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が高いという特徴から、携帯電話やノート型パーソナルコンピューターなどの携帯機器の電源として広く用いられている。また、環境問題への配慮から、繰り返し充電できる二次電池の重要性が増大している。
【0003】
リチウムイオン二次電池は電解液として可燃性の有機電解液を使用しているため、電池のエネルギー密度向上に伴い、過充電、過放電などの濫用時の安全性確保が困難になりつつある。そこで、可燃性の有機電解液を固体のリチウムイオン伝導性高分子に置き換えたリチウムポリマー電池が開発されている。
【0004】
現在までに検討されているリチウムイオン伝導性高分子のリチウムイオン伝導メカニズムは、高分子の分子鎖の運動と協同的に起こることが知られている。イオン伝導度は分子鎖の運動性に支配されており、セグメント運動に必要な活性化エネルギーの大きい分子鎖の運動により支配されることになる。そのため高温でのイオン伝導度は比較的高いものが多いが、低温になるに従いイオン伝導度が大きく減少する。
【0005】
このような状況の下、イオン伝導メカニズムである分子鎖の運動の活性化エネルギーを低減させるため、ポリマー主鎖に対してイオン伝導性を有する官能基を含む側鎖を導入したイオン伝導体が開発されている(例えば、特許文献1、2)。
【0006】
また、有機溶媒に電解質塩を溶解した有機電解液と異なり、イオン伝導体を用いて構成される高分子電解質では、一般に、正極あるいは負極の活物質との良好な接触を維持しにくく、特に室温あるいはそれ以下の低温では、イオン伝導性高分子の熱収縮により、活物質との間で良好なイオン伝導性が保たれなくなる場合がある。
【0007】
このため、カップリング剤を介して電極活物質とイオン伝導体の高分子とを結合させることにより、電極と高分子電解質との密着性を高めることも提案されている(例えば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−6273号公報
【特許文献2】特開2006−12652号公報
【特許文献3】特開2007−305453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、前記のようなイオン伝導性を有する官能基を含む側鎖を導入したイオン伝導体を高分子電解質に用いた場合、例えば、高温でのイオン伝導度については良好に向上し得るものの、室温あるいはそれ以下の温度では、電池が本来有している容量を良好に引き出し得ない場合のあることが、本発明者らの検討により明らかとなった。
【0010】
また、一般に、高分子電解質の多くは、0.5V以下の電位になると還元分解するものが多く、負極活物質の選択によっては、電池が本来有している容量を良好に引き出し得ない場合のあることが、本発明者らの検討により明らかとなった。
【0011】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、その第一の目的は、室温あるいはそれ以下の温度まで良好なイオン伝導度を維持できる高分子電解質を用いることにより、低温でも容量を良好に引き出し得るリチウムイオン二次電池を提供することにある。
【0012】
また、本発明の第二の目的は、電極と高分子電解質との密着性を高め、かつ、負極と高分子電解質との反応を抑制することにより、低温でも容量を良好に引き出し得るリチウムイオン二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記第一の目的を達成し得た本発明のリチウムイオン二次電池は、正極、負極および高分子電解質を有するリチウムイオン二次電池であって、前記高分子電解質が、下記一般式(1)
【0014】
【化1】

【0015】
[前記一般式(1)中、Rは重合可能な不飽和結合を有する化合物が重合した有機基であり、Aは下記一般式(2)で表される官能基であり、mはAの個数を表し、1以上の整数である。]
【0016】
【化2】

【0017】
[前記一般式(2)中、SはRと結合する有機基部分、TはSと単結合を介して結合する有機基部分、Zはカチオンに対してイオン結合し得る官能基または配位能を有する官能基部分であり、TとZとは一体となって環構造を形成していてもよく、Mk+はk価のカチオンであり、nはZの個数を表し、1以上の整数である。]
で表されるユニットを含有するカチオン伝導体と、電解質塩と、沸点が150℃以上の非プロトン性有機溶媒とを含有し、前記非プロトン性有機溶媒の含有量が、前記高分子電解質中で10〜60質量%であることを特徴とする。
【0018】
また、前記第二の目的を達成し得た本発明のリチウムイオン二次電池は、正極、負極および高分子電解質を有するリチウムイオン二次電池であって、前記負極の活物質としてチタン酸リチウムを含有し、前記正極の表面が撥水化処理されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、高分子電解質を有し、室温あるいはそれ以下の温度でも容量を良好に引き出し得るリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の第1の実施態様のリチウムイオン二次電池における高分子電解質は、前記一般式(1)で表されるユニットを含有するカチオン伝導体を含み、さらに、電解質塩と、沸点が150℃以上の非プロトン性有機溶媒とを含有し、前記非プロトン性有機溶媒の含有量が、前記高分子電解質中で10〜60質量%であることを特徴とする。
【0021】
前記カチオン伝導体を構成する前記一般式(1)で表されるユニットにおいて、Rは、重合可能な不飽和結合を有する化合物が重合した有機基である。このような有機基Rを有する前記一般式(1)で表されるユニットは、より具体的には、例えば、下記一般式(3)で表されるものが挙げられる。
【0022】
【化3】

【0023】
前記一般式(3)中、R、R、RおよびRのうち、少なくとも1つは、前記一般式(2)で表される官能基Aを含む基で、官能基A自体であってもよく、官能基Aとカチオン伝導体の主鎖を構成するC[炭素。具体的には前記一般式(3)中のC。]との間に介在する構造部分と、官能基Aとを含む基であってもよい。
【0024】
、R、RおよびRの少なくとも1つが、官能基Aとカチオン伝導体の主鎖を構成するCとの間に介在する構造部分と、官能基Aとを含む基の場合、前記構造部分としては、ベンゼン環、メチレン、エチレンなどのアルキレン(好ましくは炭素数1〜10のアルキレン)などが挙げられる。
【0025】
そして、R、R、RおよびRのうち、官能基A以外のものは、例えば、水素、炭素数が1〜10の脂肪族炭化水素基(アルキル基など)、炭素数が6〜10の芳香族炭化水素基などであり、これらの脂肪族炭化水素基および芳香族炭化水素基は、その一部の水素がハロゲン置換されていてもよい。
【0026】
、R、RおよびRのうち、1つだけが官能基Aを含む基であってもよく、2つが官能基Aを含む基であってもよく、3つが官能基Aを含む基であってもよく、全てが官能基Aを含む基であってもよい。また、R、R、RおよびRのうちの複数が官能基Aを含む基でない場合、それらは、同じ基であってもよく、互いに異なる基であってもよい。
【0027】
前記一般式(2)で表される官能基Aにおいて、Sとしてアミド結合、チオアミド結合およびエステル結合などが例示される。Sは、アミド結合やチオアミド結合のNが前記一般式(1)で表されるユニットにおけるRと結合し、アミド結合やチオアミド結合のCが前記一般式(2)で表される官能基AにおけるTと結合していてもよく、また、アミド結合やチオアミド結合のCが前記一般式(1)で表されるユニットにおけるRと結合し、アミド結合やチオアミド結合のNが前記一般式(2)で表される官能基AにおけるTと結合していてもよい。また、Sがエステル結合である場合のOおよびCについても同様である。
【0028】
前記一般式(2)で表される官能基Aにおいて、有機基部分T(以下、単に「有機基T」と省略する)は、カチオンに対してイオン結合し得る官能基または配位能を有する官能基部分であるZ(以下、単に「官能基Z」と省略する)の1個以上と結合して、一つの基または環構造を形成するものである。
【0029】
有機基Tと官能基Zで構成される基としては、例えば、官能基Zが酸素アニオン(O)である場合、ヒドロキシフェニル基のアニオン、ジヒドロキシフェニル基などのアニオンなどのフェノラートアニオンなどが挙げられる。また、これらの基における官能基Zの酸素を硫黄で置き換えたチオフェニル基のアニオン、ジチオフェニル基のアニオンなどでもよい。
【0030】
更に、官能基Zがアルコキシ基(−OR:Rはアルキル)である場合の有機基Tと官能基Zで構成される基としては、メトキシフェニル基、ジメトキシフェニル基などのアルコキシフェニル基が挙げられる。なお、アルコキシフェニル基の場合、官能基Zは、メトキシ基の他、例えば、エトキシ基なども挙げられるが、アルコキシ基に係るアルキルRが大きくなると、ユニットSと有機基Tとの間の単結合の回転(詳しくは後述する)を阻害したり、カチオン伝導体の溶解度に影響を与えて加工性を低下させることがある。よって、アルコキシフェニル基の場合、官能基Zはメトキシ基であることがより好ましい。
【0031】
また、有機基Tと官能基Zで構成される基は、官能基Zが、アルコキシ基の酸素を硫黄で置き換えたアルキルチオ基であるアルキルチオフェニル基であってもよい。この場合、前記のアルコキシフェニル基と同じ理由から、官能基Zはメチルチオ基であることがより好ましい。
【0032】
また、有機基Tと官能基Zで構成される基は、有機基Tがベンゼン環で、官能基Zが、エステル[−O−C(=O)−R、−C(=O)O−R、:R、Rはアルキル]、アミノ基(−NR:R、Rはアルキル)、カーボネート[−O−C(=O)−OR10:R10はアルキル]であってもよい。
【0033】
更に、有機基Tと官能基Zとは、例えば、ピリミジン残基などのように、一体となって環構造を形成してもよい。
【0034】
前記一般式(2)で表される官能基Aにおいて、有機基TはユニットSと単結合している必要がある。これは、官能基Zと、ユニットSに係る、例えば、アミド結合、チオアミド結合またはエステル結合とが水素結合してカチオンの配位能に影響を与え、カチオンの配位能の高低差を発現させることから、カチオンの移動が促進されるためである。すなわち、カチオンの配位能に高低差が発現することで、カチオンの配位能が低い官能基から配位能の高い官能基へのカチオンの移動が促進される。本発明に係るカチオン伝導体では、このようなメカニズム、すなわち、活性化エネルギーの低い単結合の回転運動をイオン伝導に用いることに加えて、ユニットSによるカチオンの移動促進作用を利用することによって、例えば、高分子のセグメント運動が抑制される低い温度においても、高いイオン伝導を確保している。
【0035】
前記一般式(2)で表される官能基Aにおいて、カチオンMk+としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属のイオン;マグネシウムなどのアルカリ土類金属のイオン;水素イオン;などが挙げられる。これらのなかでも、リチウムイオンが特に好ましい。
【0036】
本発明に係るカチオン伝導体は、前記一般式(1)で表されるユニットのみを有する単独重合体、または前記一般式(1)で表されるユニットのうちの2種以上のユニットを有する共重合体であってもよく、また、前記一般式(1)で表されるユニットのうちの少なくとも1種と、他の単量体由来のユニットの少なくとも1種とを有する共重合体であってもよい。
【0037】
本発明に係るカチオン伝導体が、前記一般式(1)で表されるユニットのうちの少なくとも1種と、他の単量体由来のユニットの少なくとも1種とを有する共重合体である場合の、前記一般式(1)で表されるユニット以外のユニットを形成するための単量体としては、重合可能な不飽和結合を有するものが挙げられる。より具体的には、エチレン、プロピレンなどのエチレン性モノマーなどが例示できる。
【0038】
本発明に係るカチオン伝導体が、前記一般式(1)で表されるユニットのうちの少なくとも1種と、他の単量体由来のユニットの少なくとも1種とを有する共重合体の場合、全ユニット中の前記一般式(1)で表されるユニットの比率は、例えば、求められるイオン伝導性や、前記一般式(1)で表されるユニット中の官能基Aの個数に応じて変動し得るが、例えば、前記一般式(1)で表されるユニット中の官能基Aの個数が1個の場合、全ユニット100mol%中、前記一般式(1)で表されるユニットが、50mol%以上であることが好ましい。
【0039】
本発明に係るカチオン伝導体の分子量については特に制限はなく、前記カチオン伝導体は、低分子量化合物であってもよく、高分子量化合物であってもよい。
【0040】
本発明に係るカチオン伝導体は、重合可能な不飽和結合を有する化合物を重合して得られるもの、すなわち付加重合により得られるものである。よって、本発明に係るカチオン伝導体は、不飽和結合が開裂することで前記一般式(1)で表されるユニットを形成するための化合物(単量体)や、必要に応じてその他の単量体を用い、例えば、これらの単量体を有機溶媒に溶解した溶液を用いて付加重合を行う公知の溶液重合法などにより、合成することができる。
【0041】
なお、カチオンMk+を導入してカチオン伝導体を得るには、例えば、カチオン伝導体を構成するためのポリマーを形成し得る単量体(カチオンMk+を含有しない単量体)とカチオンMk+の供給源とを有機溶媒に溶解した溶液を用いて重合した後に、前記有機溶媒を除去する方法や、カチオンMk+を含有しない単量体を有機溶媒に溶解した溶液を用いてポリマーを重合し、この重合溶液にカチオンMk+の供給源を添加した後に有機溶媒を除去したり、重合後に重合溶液から取り出したポリマーを溶媒に溶解して溶液とし、この溶液にカチオンMk+の供給源を添加してから前記溶媒を除去したりする方法が採用できる。
【0042】
なお、カチオン伝導体に係るカチオンMk+の供給源としては、例えば、リチウム塩を用いることができる。このようなリチウム塩としては、LiN(CFSO、LiN(SOなどの鎖状イミド塩もしくは環状イミド塩;LiClO;LiPF;LiBF;LiBOB;LiAsF;などが挙げられ、これらのうちの1種類もしくは2種類以上を選択して用いることができる。これらのなかでもLiN(CFSOが好ましい。リチウムイオンの添加量についてはイオン伝導に関わる有機基Zが1個に対してモル比で1当量以上が好ましい。
【0043】
本発明の電池に係る高分子電解質は、前記カチオン伝導体と、電解質塩と、沸点が150℃以上の非プロトン性有機溶媒とを必須成分とし、これら構成要素のみで構成することもできるが、前記構成要素以外に、例えば、不織布や微多孔膜、粒子を含有させることもできる。本発明の電池においては、正極と負極との間には、前記高分子電解質のみを介在させればよく、これが電解質と同時に正極と負極とを隔離するセパレータの役割も担う。高分子電解質が不織布や微多孔膜、粒子を含有している場合には、正極と負極との間に介在する高分子電解質の層の機械的強度が向上するため、正極と負極とをより確実に隔離でき、より信頼性の高い電池とすることができる。
【0044】
高分子電解質中に含有させ得る不織布や微多孔膜の材質としては、例えば、セルロース、セルロース変成体(カルボキシメチルセルロースなど)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)ポリエステル[ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)など]、ポリアクリロニトリル(PAN)、アラミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリビニルアルコール(PVA)などの樹脂などが挙げられる。不織布や微多孔膜は、これらの樹脂の1種のみで構成されていてもよく、2種以上の樹脂で構成されていてもよい。また、不織布や微多孔膜は、これらの樹脂の他に、必要に応じて、公知の各種添加剤(酸化防止剤など)を含有していても構わない。
【0045】
なお、前記不織布を構成する繊維の繊維径は、高分子電解質の層の厚み以下であればよいが、例えば、0.01〜5μmであることが好ましい。不織布を構成する繊維の径が大きすぎると、繊維同士の絡み合いが不足して、不織布の強度、ひいては、この不織布を含有する高分子電解質の層の強度を高める効果が小さくなる。また、不織布を構成する繊維の径が小さすぎると、繊維間の空隙が小さくなりすぎて、イオン透過性が低下する傾向にあり、電池の負荷特性を低下させてしまうことがある。
【0046】
また、高分子電解質中に含有させ得る粒子としては、例えば、ガラス粒子、アルミナ粒子、シリカ粒子などの電気絶縁性の無機粒子が挙げられる。高分子電解質中に含有させる粒子は、これらのうちの1種のみであってもよく、2種以上であってもよい。
【0047】
なお、高分子電解質中には、前記の不織布や微多孔膜、粒子のいずれも含有させることもできるが、高分子電解質の層の形成がより容易であることから、粒子を含有させることがより好ましい。
【0048】
高分子電解質中に含有させる不織布や微多孔膜、粒子の割合は、高分子電解質が含有する全成分(前記カチオン伝導体、およびこれらの不織布や微多孔膜、粒子など)の体積(空孔部分を除く体積)100体積%中、10体積%以上であることが好ましく、30体積%以上であることがより好ましく、また、90体積%以下であることが好ましく、70体積%以下であることがより好ましい。
【0049】
本発明に係る高分子電解質には、10〜60質量%の含有量で、沸点が150℃以上の非プロトン性有機溶媒を含有させればよい。高分子電解質が前記カチオン伝導体を有することにより、リチウムイオン二次電池の安全性を向上させることができ、一方、高分子電解質が前記高沸点の有機溶媒を含有することにより、リチウムイオンなどのイオン伝導性がより向上し、これを用いたリチウムイオン二次電池の電池特性を更に高めることが可能となる。
【0050】
本発明に係る高分子電解質に含有させる前記有機溶媒の含有量は、その効果をより良好に確保する観点から、20質量%以上とすることが好ましく、一方、前記カチオン伝導体による安全性向上の効果をより高めるためには、前記有機溶媒の含有量を50質量%以下とすることが好ましい。
【0051】
高分子電解質に含有させる沸点が150℃以上の非プロトン性有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、エチレングリコールサルファイト、スルホラン、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、N−メチルピロリドンなどの溶媒を単独または数種類混合した混合溶媒を用いることができる。
【0052】
高分子電解質に前記有機溶媒を含有させるにあたっては、カチオン伝導体を構成する化合物の重合時に前記有機溶媒を用い、カチオン伝導体の形成後に、使用した溶媒の一部を残存させる方法で、所定の含有量で有機溶媒を含有させてもよく、また、合成された重合体に、別途、前記有機溶媒を含有させてもよい。また、前記有機溶媒には、あらかじめリチウム塩などの電解質塩を溶解させておけばよい。
【0053】
より具体的には、カチオン伝導体を構成するためのポリマーを形成し得る単量体(カチオンMk+を含有しない単量体)とカチオンMk+の供給源(電解質塩)とを、沸点が150℃以上の非プロトン性有機溶媒と、沸点が150℃未満の低沸点の非プロトン性有機溶媒との混合溶媒に溶解し、前記単量体を重合させた後に、前記低沸点の有機溶媒を除去する方法や、カチオンMk+を含有しない単量体を有機溶媒に溶解した溶液を用いて単量体を重合させ、形成されたポリマーを沸点が150℃以上の非プロトン性有機溶媒と、沸点が150℃未満の低沸点の非プロトン性有機溶媒との混合溶媒に溶解あるいは分散させ、カチオンMk+の供給源(電解質塩)を添加してから前記低沸点の溶媒を除去したりする方法が採用できる。
【0054】
前記沸点が150℃未満の低沸点の非プロトン性有機溶媒としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、プロピオン酸メチル、
アセトニトリル、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2−メチル−テトラヒドロフラン、ジエチルエーテルなどの1種あるいはその混合溶媒を用いることができる。
【0055】
また、前記高分子電解質の形成は、正極または負極の表面で行ってもよく、正極上または負極上に前記高分子電解質膜を形成するのであってもよい。
【0056】
本発明のリチウムイオン二次電池は、例えば、正極と負極との間に、前記高分子固体電解質(高分子固体電解質の層)を介在させて構成した積層電極体や、更にこれを渦巻状に巻回した巻回電極体を、外装体内に収容し、前記外装体を封止して形成される。
【0057】
本発明の電池に係る正極は、例えば、正極活物質およびバインダ、更には必要に応じて導電助剤などを含有する正極合剤層を、集電体の片面または両面に有する構造のものが使用される。
【0058】
正極活物質には、例えば、LiMO(0<x≦1.1、M:Co、Ni、またはMnを含む金属元素)で表わされる層状構造のリチウム含有遷移金属酸化物(LiCoO、LiNi0.6Co0.2Mn0.2、LiNi1/3Co1/3Mn1/3など)、LiMnやその元素の一部を他元素で置換したスピネル構造のリチウムマンガン酸化物、
LiFePOや、その元素の一部を他元素で置換した下記一般式(4)
LiFe1−xPO (4)
[前記一般式(4)中、MはCo、NiまたはMnであり、0≦x≦0.3であり、0.1≦x≦0.3がより好ましい]
で表わされる鉄含有オリビン型リン酸塩などを用いることができる。
【0059】
なお、前記一般式(1)で表されるユニットを含有するカチオン伝導体は、前記一般式(2)で表される官能基Aの構造によっては、酸化側の耐電圧が4V程度と低くなる場合があるが、そのような場合は、カチオン伝導体の酸化分解を防ぐために、作動電圧が低い前記鉄含有オリビン型リン酸塩を正極活物質として用いるのがより好ましく、全正極活物質中の前記鉄含有オリビン型リン酸塩の割合を、例えば50質量%以上とすればよい。
【0060】
一方、前記一般式(2)で表される官能基Aにおいて、ユニットSがエステル結合である場合は、酸化側の耐電圧がより高くなり、下記一般式(5)
LiMnNiCo (5)
[前記一般式(5)中、DはZr、Mg、Al、TiまたはSnであり、0<a≦1.1、0.1≦b≦0.7、0.1≦c≦0.7、0.1≦d≦0.7および0≦e≦0.03]
で表わされるリチウム含有複合酸化物など、種々の正極活物質に対して好適に用いることができる。
【0061】
正極のバインダには、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、テトラフルオロエチレンなどを用いることができる。
【0062】
また、正極の導電助剤は、正極合剤層の導電性向上などの目的で必要に応じて添加すればよい。導電助剤の具体例としては、例えば、カーボンブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、繊維状炭素、黒鉛などの炭素粉末やニッケル粉末などの金属粉末を利用することができる。なお、前記鉄含有オリビン型リン酸塩は導電性に乏しいため、この鉄含有オリビン型リン酸塩の一次粒子を、前記の導電助剤でコートして用いることがより好ましい。
【0063】
正極は、例えば、前記正極活物質やバインダ、更には必要に応じて導電助剤などを、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などの溶剤に分散させて調製した正極合剤層形成用組成物(スラリー、ペーストなど)を、集電体の表面に塗布し、乾燥した後に、必要に応じてプレス処理を施す工程を経て作製することができる。
【0064】
正極の集電体としては、アルミニウムなどの金属の箔、パンチングメタル、網、エキスパンドメタルなどを用い得るが、通常、厚みが10〜30μmのアルミニウム箔が好適に用いられる。
【0065】
正極側のリード部は、通常、正極作製時に、集電体の一部に正極合剤層を形成せずに集電体の露出部を残し、そこをリード部とすることによって設けられる。ただし、リード部は必ずしも当初から集電体と一体化されたものであることは要求されず、集電体にアルミニウム製の箔などを後から接続することによって設けてもよい。
【0066】
正極合剤層の組成としては、例えば、正極活物質が90〜94質量%であることが好ましく、バインダが3〜10質量%であることが好ましく、導電助剤が3〜10質量%であることが好ましい。また、正極合剤層の厚みは、集電体の片面あたり、20〜100μmであることが好ましい。
【0067】
本発明のリチウムイオン二次電池に係る負極は、負極は、従来から知られているリチウムイオン二次電池に用いられているリチウムイオンを吸蔵放出可能な材料を負極活物質とする負極であれば、特に制限はない。
【0068】
負極活物質には、黒鉛などの炭素材料;Si、Snなどの元素、前記元素を含む合金、前記元素の酸化物;リチウム金属やリチウム合金(リチウムとアルミニウムとの合金など);チタン酸リチウム;などが挙げられる。
【0069】
ただし、黒鉛などの炭素材料を負極活物質とする負極の場合、電池の充放電を繰り返すにあたり、負極(負極活物質)の表面にSEI(Solid Electrolyte Interface)皮膜の形成が必要となるため、本発明のリチウムイオン二次電池においては、このような皮膜を必要としない負極活物質、具体的には、Si、Snなどの元素、前記元素を含む合金、前記元素の酸化物;リチウム金属やリチウム合金;チタン酸リチウム;などを使用することがより好ましく、作動電位が1.55V(vs.Li/Li)と高いチタン酸リチウムが、高分子電解質を含有する本発明の電池においては、特に好ましい。
【0070】
チタン酸リチウムとしては、一般式LiTiで表され、aとbとがそれぞれ、0.8≦a≦1.4、1.6≦b≦2.2の化学量論数を持つチタン酸リチウムが好ましく、特にa=1.33、b=1.67の化学量論数を持つチタン酸リチウムが好ましい。前記一般式LiTiで表されるチタン酸リチウムは、例えば、酸化チタンとリチウム化合物とを760〜1100℃で熱処理することによって得ることができる。前記酸化チタンとしては、アナターゼ型、ルチル型のいずれも使用可能であり、リチウム化合物としては、例えば、水酸化リチウム、炭酸リチウム、酸化リチウムなどが用いられる。
【0071】
負極には、これらの負極活物質に導電助剤(カーボンブラックなどの炭素材料など)やバインダなどを適宜添加した負極合剤を、集電体を芯材として成形体に仕上げたものが用いられる他、前記の各種合金やリチウム金属の箔を単独、もしくは集電体上に形成したものを用いてもよい。負極合剤層を有する負極の場合、例えば、先に説明した正極の作製方法と同じ方法で作製することができる。
【0072】
負極にバインダを使用する場合、バインダには、例えば、セルロースエーテル化合物やゴム系バインダなどを使用することができる、これらに限定されるものではない。セルロースエーテル化合物の具体例としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、それらのリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、アンモニウム塩などが挙げられる。ゴム系バインダの具体例としては、例えば、スチレン・ブタジエン共重合体ゴム(SBR)などのスチレン・共役ジエン共重合体、ニトリル・ブタジエン共重合体ゴム(NBR)などのニトリル・共役ジエン共重合体ゴム、ポリオルガノシロキサンなどのシリコーンゴム、アクリル酸アルキルエステルの重合体、アクリル酸アルキルエステルとエチレン性不飽和カルボン酸および/またはその他のエチレン性不飽和単量体との共重合により得られるアクリルゴム、ビニリデンフルオライド共重合体ゴムなどのフッ素ゴムなどが挙げられる。
【0073】
なお、例えば、前記のチタン酸リチウムを負極活物質として含有する負極合剤層を、集電体の片面または両面に有する負極の場合、負極合剤層中のチタン酸リチウムの量を70〜90質量%とし、バインダの量を3〜10質量%とすることが好ましく、また、導電助剤を使用する場合には、負極合剤層中の導電助剤の量を3〜10質量%とすることが好ましい。また、チタン酸リチウムを負極活物質として含有する負極合剤層の場合、集電体の片面あたりの厚みを、20〜100μmとすることが好ましい。
【0074】
負極に集電体を用いる場合には、集電体としては、銅製やニッケル製の箔、パンチングメタル、網、エキスパンドメタルなどを用い得るが、通常、銅箔が用いられる。この負極集電体は、高エネルギー密度の電池を得るために負極全体の厚みを薄くする場合、厚みの上限は40μmであることが好ましく、また、下限は5μmであることが望ましい。
【0075】
負極側のリード部も、正極側のリード部と同様に、通常、負極作製時に、集電体の一部に負極合剤層(負極活物質を有する層)を形成せずに集電体の露出部を残し、そこをリード部とすることによって設けられる。ただし、この負極側のリード部は必ずしも当初から集電体と一体化されたものであることは要求されず、集電体に銅製の箔などを後から接続することによって設けてもよい。
【0076】
なお、本発明のリチウムイオン二次電池において、充放電サイクル特性をより高めるためには、正極活物質の容量Pと負極活物質の容量Nとの比:P/Nは、0.97〜1.1とするのが望ましい。
【0077】
また、前記正極および前記負極の少なくとも一方は、前記高分子電解質への濡れ性を向上させ、優れたイオン伝導性を確保するために、その活物質の表面あるいはその合剤層の表面の撥水化処理を行うことが望ましい。
【0078】
前記撥水化処理としては、シランカップリング剤、アルミニウムカップリング剤またはチタニウムカップリング剤などのカップリング反応による表面処理が好ましく用いられる。
【0079】
具体的には、カップリング処理剤を含む溶液に電極の活物質あるいは合剤層を浸漬し、加熱により前記処理剤を反応させてもよく、また、電極の合剤層形成用組成物に前記処理剤を添加し、集電体の表面に塗布し、乾燥する際の加熱により前記処理剤を反応させ、活物質の表面処理を行うのであってもよい。あるいは、電極の作製後に、合剤層の表面にカップリング処理剤を含む溶液を塗布あるいはスプレーコートなどの方法により付着させ、加熱により前記処理剤を反応させ、合剤層表面の処理を行うのであってもよい。
【0080】
前記カップリング処理剤としては、アルキル基、アミノ基、ビニル基、エポキシ基、メタクリロキシ基、ポリスルフィド基、クロロプロピル基、メルカプト基およびアクリロキシ基より選ばれる少なくとも1種の有機官能基を有するものが好ましく用いられる。より具体的には、N−2−(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート、(2−n−ブトキシカルボニルベンゾイルオキシ)トリブトキシチタン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどを例示できる。
【0081】
なお、正極および負極の活物質の表面の撥水化処理、あるいは正極および負極の合剤層の表面の撥水化による高分子電解質への濡れ性を向上、およびそれに伴うイオン伝導性の向上は、前記一般式(1)で表されるユニットを含有するカチオン伝導体を含む高分子電解質だけでなく、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシドなどのポリエーテル系の高分子電解質、ポリフッ化ビニリデン、2官能以上のアクリレート系ポリマーなどの高分子電解質など、一般的な高分子電解質に対しても認められる効果である。
【0082】
本発明のリチウムイオン二次電池の形態としては、スチール缶やアルミニウム缶などを外装缶として使用した筒形(角筒形や円筒形など)などが挙げられる。また、金属を蒸着したラミネートフィルムを外装体としたソフトパッケージ電池とすることもできる。
【0083】
本発明のリチウムイオン二次電池は、従来から知られているリチウムイオン二次電池が用いられている各種用途と同じ用途に適用することができる。
【実施例】
【0084】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は、本発明を制限するものではない。
【0085】
実施例1
<負極の作製>
22mm角で厚みが10μmの銅箔にニッケル製リードを溶接した。次いで、銅箔のリードが溶接されていない側の面に、22mm角で厚みが150μmのリチウム箔を圧着して負極を得た。
【0086】
<正極の作製>
正極活物質であるLiNi0.6Co0.2Mn0.2:85質量部と、導電助剤であるアセチレンブラック:10質量部と、バインダであるPVDF:5質量部とを、NMPを溶剤として均一になるように混合し、正極合剤層形成用ペーストを調製した。そのペーストを厚みが15μmのアルミニウム箔製で、アルミニウム箔からなるタブを有する集電体の表面に塗布し、乾燥して正極合剤層を形成した。その後、これをタブ付きの20mm角の四角形に切り抜いてからタブ表面の正極合剤層を剥離し、残りの正極合剤層部分を、正極合剤層の密度が1.8g/cmになるまで油圧プレスで加圧成形して、正極を得た。
【0087】
<高分子電解質層の形成>
下記式(6)で表される単量体:1mmolと、電解質塩LiN(CFSO:2mmolとを、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを体積比1:2で混合した混合溶媒に溶解した後、ここに重合開始剤であるアゾビス(イソブチロニトリル):0.01mmolを添加して単量体溶液を調製した。厚みが36μmのポリフェニレンサルファイド(PPS)製粘着テープを12mm角で切り抜いてスペーサーを作製し、前記スペーサーを前記正極の片面に貼り付けた。そして、正極の片面に貼り付けたスペーサー内に前記単量体溶液を流し込み、100℃で15時間重合を行った後、減圧下、100℃で15時間乾燥して溶媒の一部を除去し、厚みが50μmで12mm角の高分子電解質層を、正極の片面に形成した。
【0088】
【化4】

【0089】
なお、前記式(6)で表される単量体は、ユニットSがエステル結合で、そのOが有機基Tと結合しており、有機基Tがベンゼン環、官能基ZがO、カチオンMk+がLiである。
【0090】
高分子電解質の層を形成した前記正極と、前記負極とを積層して電極体とし、これをアルミニウムラミネート外装体内に収容した後に外装体を封止して、リチウムイオン二次電池を得た。
【0091】
<高分子電解質層の高沸点溶媒の含有量分析>
厚みが36μmのポリフェニレンサルファイド(PPS)製粘着テープを12mm角で切り抜いて作製したスペーサーをポリテトラフルオロエチレン(PTFE)板の片面に貼り付け、前記単量体溶液を前記スペーサー内に流し込み、100℃で15時間重合を行った後、減圧下、100℃で15時間乾燥して溶媒の一部を除去し、高沸点溶媒の含有量分析用の高分子電解質層を、形成した。得られた高分子電解質層をPTFE板から剥がし、脱水トルエンに溶解させ、ガスクロマトグラフィー分析により沸点が150℃以上の非プロトン性有機溶媒(エチレンカーボネート)の定量を行い、高分子電解質層中での前記溶媒の含有量を求めた。
【0092】
<高分子電解質の耐酸化性の評価>
前記高分子電解質の耐酸化性の評価用に、スペーサーを貼り付けた正極表面に代えて、スペーサーを貼り付けた白金板を用いた以外は、前記と同様にして高分子電解質の層を形成した。前記白金板と、対極としてリチウム金属とをPE製セパレータを介して対向させて、ラミネートフィルム袋中に設置し、サイクリックボルタンメトリーを用いて酸化電流が流れ始めた電圧(酸化電位)を測定することにより高分子固体電解質の耐酸化性を評価した。
【0093】
実施例2
高分子電解質の層の形成時に、単量体として、下記式(7)で表される単量体:1mmolを用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池、および耐酸化性評価用の高分子電解質の層を有する白金板を作製した。
【0094】
【化5】

【0095】
なお、前記式(7)で表される単量体は、ユニットSがエステル結合で、そのOが有機基Tと結合しており、有機基Tがベンゼン環、官能基ZがO、カチオンMk+がLiである。
【0096】
実施例3
高分子電解質の層の形成時に、単量体として、下記式(8)で表される単量体:1mmolを用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池、および耐酸化性評価用の高分子電解質の層を有する白金板を作製した。
【0097】
【化6】

【0098】
なお、前記式(8)で表される単量体は、ユニットSがエステル結合で、そのOが有機基Tと結合しており、有機基Tと官能基Zとが一体となってピリミジン残基を形成しており、カチオンMk+がLiである。
【0099】
実施例4
負極活物質であるチタン酸リチウム(Li1.33Ti1.67):85質量部と、導電助剤であるアセチレンブラック:7質量部と、バインダであるPVDF:8質量部とを、NMPを溶剤として均一になるように混合し、負極合剤層形成用ペーストを調製した。そのペーストを厚みが15μmの銅箔製で、ニッケル箔からなるタブを有する集電体の表面に塗布し、乾燥して負極合剤層を形成した。その後、これをタブ付きの22mm角の四角形に切り抜いてからタブ表面の負極合剤層を剥離し、残りの負極合剤層部分を、負極合剤層の密度が1.6g/cmになるまで油圧プレスで加圧成形して、負極を得た。
【0100】
そして、この負極を用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0101】
実施例5
負極活物質を、チタン酸リチウム(Li1.33Ti1.67)とSi粒子との混合物(Si粒子の含有量が1質量%)に変更した以外は、実施例4と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0102】
実施例6
高分子電解質の層の形成時に、単量体溶液に平均粒子径が0.3μmのアルミナ粒子を、高分子電解質の層の構成成分の全体積中1体積%となる量で添加した以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0103】
実施例7
正極の片面に貼り付けたスペーサー内に単量体溶液を流し込む前に、正極上に市販の不織布(Freudenberg社製FS2223)を配置して、内部に不織布を有する高分子電解質の層を正極の片面に形成した以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0104】
実施例8
<負極の作製>
負極活物質であるチタン酸リチウム(Li1.33Ti1.67):65質量部と、導電助剤であるアセチレンブラック:6質量部と、バインダであるPVDF:6質量部と、前記式(7)で表される単量体17質量部とを、NMPを溶剤として均一になるように混合し、さらに重合開始剤であるアゾビス(イソブチロニトリル)を前記単量体に対して1mol%添加して、負極合剤層形成用ペーストを調製した。そのペーストを厚みが15μmの銅箔製で、ニッケル箔からなるタブを有する集電体の表面に塗布し、乾燥して負極合剤層を形成した。その後、これをタブ付きの22mm角の四角形に切り抜いてからタブ表面の負極合剤層を剥離し、残りの負極合剤層部分を、負極合剤層の密度が1.2g/cmになるまで油圧プレスで加圧成形し、さらに120℃で15時間真空乾燥することによりNMPを除去して負極を得た。
【0105】
<正極の作製>
正極活物質であるLiNi0.6Co0.2Mn0.2:78質量部と、導電助剤であるアセチレンブラック:2.5質量部と、バインダであるPVDF:2.5質量部と、前記式(7)で表される単量体17質量部とを、NMPを溶剤として均一になるように混合し、さらに重合開始剤であるアゾビス(イソブチロニトリル)を前記単量体に対して1mol%添加して、正極合剤層形成用ペーストを調製した。そのペーストを厚みが15μmのアルミニウム箔製で、アルミニウム箔からなるタブを有する集電体の表面に塗布し、乾燥して正極合剤層を形成した。その後、これをタブ付きの20mm角の四角形に切り抜いてからタブ表面の正極合剤層を剥離し、残りの正極合剤層部分を、正極合剤層の密度が1.8g/cmになるまで油圧プレスで加圧成形し、さらに120℃で15時間真空乾燥することによりNMPを除去して正極を得た。
【0106】
<高分子電解質層の形成>
前記負極上に、実施例2で形成したのと同じ高分子電解質層を、13mm角の大きさで15μmの厚みで形成した。また、前記正極上にも、実施例2で形成したのと同じ高分子電解質層を、12mm角の大きさで15μmの厚みで形成した。
【0107】
高分子電解質の層を形成した前記正極と、高分子電解質の層を形成した前記負極とを積層して電極体とし、これをアルミニウムラミネート外装体内に収容した後に外装体を封止して、リチウムイオン二次電池を得た。
【0108】
実施例9
正極活物質をLiFePOに変更し、負極を実施例1で作製した負極に変更し、高分子電解質の層の形成時に、単量体として、下記式(9)で表される単量体:1mmolを用いた以外は、実施例8と同様にしてリチウムイオン二次電池、および耐酸化性評価用の高分子電解質の層を有する白金板を作製した。
【0109】
【化7】

【0110】
なお、前記式(9)で表される単量体は、ユニットSがアミド結合で、そのNが有機基Tと結合しており、有機基Tがベンゼン環、官能基ZがO、カチオンMk+がLiである。
【0111】
実施例10
高分子電解質の層の形成時に、混合溶媒として、プロピレンカーボネートとジエチルカーボネートとを体積比1:2で混合した混合溶媒を用いた以外は、実施例8と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0112】
実施例11
負極活物質を、チタン酸リチウム(Li1.33Ti1.67)とSi粒子との混合物(Si粒子の含有量が1質量%)に変更した以外は、実施例8と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0113】
実施例12
高分子電解質の層の形成時に、単量体溶液に平均粒子径が0.3μmのアルミナ粒子を、高分子電解質の層の構成成分の全体積中1体積%となる量で添加した以外は、実施例8と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0114】
実施例13
<正極の作製>
正極活物質であるLiNi0.6Co0.2Mn0.2:85質量部と、導電助剤であるアセチレンブラック:10質量部と、バインダであるPVDF:5質量部と、有機官能基としてアミノ基を有するシランカップリング剤であるN−2−(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン:0.072質量部とを、NMPを溶剤として均一になるように混合し、正極合剤層形成用ペーストを調製した。そのペーストを厚みが15μmのアルミニウム箔製で、アルミニウム箔からなるタブを有する集電体の表面に塗布し、乾燥して正極合剤層を形成した。その後、これをタブ付きの20mm角の四角形に切り抜いてからタブ表面の正極合剤層を剥離し、残りの正極合剤層部分を、正極合剤層の密度が1.8g/cmになるまで油圧プレスで加圧成形した。さらに、120℃で15時間真空乾燥することにより、NMPを除去し、また正極活物質表面でシランカップリング剤を反応させて正極を得た。
【0115】
なお、カップリング処理剤の添加量は、以下の式により求めた。
正極活物質1質量部あたりのカップリング処理剤の添加量(質量部)
=A÷(6.02×1023×13×10−20÷B)
A:正極活物質の比表面積(m/g)
B:カップリング処理剤の分子量
【0116】
<高分子電解質層の形成>
前記式(9)で表される単量体:1mmolと、電解質塩LiN(CFSO:2mmolとを、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを体積比1:2で混合した混合溶媒に溶解した後、ここに重合開始剤であるアゾビス(イソブチロニトリル):0.01mmolを添加して単量体溶液を調製した。厚みが36μmのポリフェニレンサルファイド(PPS)製粘着テープを12mm角で切り抜いてスペーサーを作製し、前記スペーサーを前記正極の片面に貼り付けた。そして、正極の片面に貼り付けたスペーサー内に前記単量体溶液を流し込み、100℃で15時間重合を行った後、減圧下、100℃で15時間乾燥して溶媒の一部を除去し、厚みが50μmで12mm角の高分子電解質層を、正極の片面に形成した。
【0117】
高分子電解質の層を形成した前記正極と、実施例4で作製したのと同じ負極とを積層して電極体とし、これをアルミニウムラミネート外装体内に収容した後に外装体を封止して、リチウムイオン二次電池を得た。
【0118】
実施例14
高分子電解質層の形成に、ポリエチレンオキシド:0.03mmolと、電解質塩LiN(CFSO:2mmolとをアセトニトリルに溶解したポリマー溶液を調製し、これを用いて実施例13と同じ正極の片面に高分子電解質層を形成した。以下、実施例13と同様にしてリチウムイオン二次電池を得た。
【0119】
比較例1
ポリエチレンオキシド:30gと電解質塩Li(CFSO:8gとを、エチレンカーボネートとアセトニトリルとを体積比1:2で混合した混合溶媒に溶解して調製した溶液を、実施例1で用いたものと同じスペーサーを貼り付けた正極のスペーサー内に流し入れ、減圧下100℃で溶解して溶媒を除去して、厚みが50μmで12mm角の高分子電解質の層を、正極の片面に形成した。
【0120】
そして、この正極を用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0121】
また、前記高分子固体電解質の耐酸化性の評価用に、スペーサーを貼り付けた正極表面に代えて、スペーサーを貼り付けた白金板を用いた以外は、前記と同様にして高分子電解質の層を形成した。
【0122】
比較例2
高分子固体電解質の形成に際し、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを体積比1:8で混合した混合溶媒を用いた以外は実施例8と同様にして、リチウムイオン二次電池を作製した
【0123】
比較例3
正極合剤層形成用ペーストにシランカップリング剤を含有させなかった以外は、実施例14と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0124】
<充放電特性の評価>
実施例1〜14および比較例1〜3のリチウムイオン二次電池について、以下の充放電試験を行った。
【0125】
(1)実施例1〜3、実施例6〜7および比較例1
まず、70℃雰囲気下で、0.1Cの電流値で4.3Vまで定電流充電を行った後、4.3Vで定電圧充電を行った。定電流充電と定電圧充電との総充電時間は8時間とした。次に、充電後の各電池を、70℃雰囲気下で、0.1Cの電流値で3Vまで定電流放電した。これらにより求められた各電池の70℃における充電容量および放電容量の、理論容量に対する比率を算出した。
【0126】
次に、充放電を行う雰囲気を20℃に変更した以外は、70℃雰囲気下の場合と同じ条件で充放電を行って、各電池の20℃における充電容量および放電容量を測定し、これらの理論容量に対する比率を算出した。
【0127】
(2)実施例4〜5、実施例8、実施例10〜14および比較例2〜3
まず、70℃雰囲気下で、0.1Cの電流値で3.2Vまで定電流充電を行った後、3.2Vで定電圧充電を行った。定電流充電と定電圧充電との総充電時間は8時間とした。次に、充電後の各電池を、70℃雰囲気下で、0.1Cの電流値で1.4Vまで定電流放電した。これらにより求められた各電池の70℃における充電容量および放電容量の、理論容量に対する比率を算出した。
【0128】
次に、充放電を行う雰囲気を20℃に変更した以外は、70℃雰囲気下の場合と同じ条件で充放電を行って、各電池の20℃における充電容量および放電容量を測定し、これらの理論容量に対する比率を算出した。
【0129】
(3)実施例9
まず、70℃雰囲気下で、0.1Cの電流値で4Vまで定電流充電を行った後、4Vで定電圧充電を行った。定電流充電と定電圧充電との総充電時間は8時間とした。次に、充電後の各電池を、70℃雰囲気下で、0.1Cの電流値で2Vまで定電流放電した。これらにより求められた各電池の70℃における充電容量および放電容量の、理論容量に対する比率を算出した。
【0130】
次に、充放電を行う雰囲気を20℃に変更した以外は、70℃雰囲気下の場合と同じ条件で充放電を行って、各電池の20℃における充電容量および放電容量を測定し、これらの理論容量に対する比率を算出した。
【0131】
<測定結果>
実施例1〜3、実施例9〜10および比較例1〜2のリチウムイオン二次電池に係る高分子電解質層における、沸点が150℃以上の非プロトン性有機溶媒(高沸点溶媒)の含有量と電解質の酸化電位を表1に示す。また、実施例1〜14および比較例1〜3のリチウムイオン二次電池前記の充放電試験の結果を表2に示す。なお、表1には記載していないが、実施例6および7の高分子電解質層における高沸点溶媒の含有量は、実施例1と同じ値であり、実施例12の高分子電解質層における高沸点溶媒の含有量は、実施例2と同じ値であった。
【0132】
【表1】

【0133】
【表2】

【0134】
特定構造のカチオン伝導体を有し、沸点が150℃以上の非プロトン性有機溶媒を10〜60質量の割合で含有する高分子電解質を有する実施例1〜13のリチウムイオン二次電池は、70℃のみならず、20℃といった比較的低温の環境下においても、充電容量および放電容量の理論容量に対する比率が比較的高く、容量を良好に引き出すことができている。
【0135】
一方、前記特定構造のカチオン伝導体以外のポリマーで構成された高分子電解質を有する比較例1のリチウムイオン二次電池、ならびに、高分子電解質に含有される高沸点溶媒の割合が本発明の範囲外となる比較例2のリチウムイオン二次電池は、20℃の環境下では充分に容量を引き出すことができない。
【0136】
また、正極活物質の表面の撥水化処理を行った実施例14のリチウムイオン二次電池は、高分子電解質に対する濡れ性が向上したことにより、前記処理を行わなかった比較例3のリチウムイオン二次電池に比べ、70℃のみならず、20℃といった比較的低温の環境下においても、充電容量および放電容量の理論容量に対する比率を向上させることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極および高分子電解質を有するリチウムイオン二次電池であって、
前記高分子電解質は、下記一般式(1)
【化1】

[前記一般式(1)中、Rは重合可能な不飽和結合を有する化合物が重合した有機基であり、Aは下記一般式(2)で表される官能基であり、mはAの個数を表し、1以上の整数である。]
【化2】

[前記一般式(2)中、SはRと結合する有機基部分、TはSと単結合を介して結合する有機基部分、Zはカチオンに対してイオン結合し得る官能基または配位能を有する官能基部分であり、TとZとは一体となって環構造を形成していてもよく、Mk+はk価のカチオンであり、nはZの個数を表し、1以上の整数である。]
で表されるユニットを含有するカチオン伝導体と、電解質塩と、沸点が150℃以上の非プロトン性有機溶媒とを含有し、
前記非プロトン性有機溶媒の含有量が、前記高分子電解質中で10〜60質量%であることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記一般式(2)で表される官能基におけるSがアミド結合である請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記一般式(2)で表される官能基におけるSがエステル結合である請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記正極の活物質として、下記一般式(4)
LiFe1−xPO (4)
[前記一般式(4)中、MはCo、NiまたはMnであり、0.1≦x≦0.3]
で表わされる鉄含有オリビン型リン酸塩を含有する請求項1〜3のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
前記正極の活物質として、下記一般式(5)
LiMnNiCo (5)
[前記一般式(5)中、DはZr、Mg、Al、TiまたはSnであり、0<a≦1.1、0.1≦b≦0.7、0.1≦c≦0.7、0.1≦d≦0.7および0≦e≦0.03]
で表わされるリチウム含有複合酸化物を含有する請求項1〜3のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
前記負極の活物質として、チタン酸リチウムを含有する請求項1〜5のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項7】
前記負極の活物質として、Si、Snまたはその合金を含有する請求項1〜6のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項8】
前記負極の活物質がリチウム金属である請求項1〜5のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項9】
前記高分子電解質が、電気絶縁性の無機粒子を含有する請求項1〜8のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項10】
前記高分子電解質が、不織布または樹脂製の微多孔膜を含む請求項1〜9のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項11】
前記正極の表面が撥水化処理されている請求項1〜10のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項12】
前記撥水化処理が、シランカップリング剤、アルミニウムカップリング剤またはチタニウムカップリング剤により行われている請求項11に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項13】
前記カップリング剤が、アルキル基、アミノ基、ビニル基、エポキシ基、メタクリロキシ基、ポリスルフィド基、クロロプロピル基、メルカプト基およびアクリロキシ基より選ばれる少なくとも1種の有機官能基を有する請求項12に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項14】
正極、負極および高分子電解質を有するリチウムイオン二次電池であって、前記負極の活物質としてチタン酸リチウムを含有し、前記正極の表面が撥水化処理されていることを特徴とするリチウムイオン二次電池。

【公開番号】特開2013−97993(P2013−97993A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−239411(P2011−239411)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】